特許拒絶査定不服審判
2016-009794
強化ラジアルタイヤ
- 審判番号
- 2016-009794
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-541056
- 請求日
- 2016年06月30日
- 審決日
- 2017年06月26日
- 公報発行日
- 2017年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ブリヂストン アメリカズ タイヤ オペレイションズ エルエルシー
- 【請求人代理人】杉村 憲司
- 審判長/審判官
- 審判長 和田 雄二
- 審判官 氏原 康宏
- 審判官 出口 昌哉
- 分類
- P18 .121-Z (B60C) / P18 .575-Z (B60C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第4項、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-541056号「強化ラジアルタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月16日国際公開、WO2013/070325、平成26年12月25日国内公表、特表2014-534929号〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2012年9月21日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2011年11月10日 (US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年7月7日に手続補正書及び上申書が提出され、平成27年7月7日付けで拒絶理由が通知され、同年10月13日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年3月4日付けで拒絶査定がされ、同年6月30日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、同年9月6日付けで審査官により作成された前置報告書に対し、同年11月15日に上申書が提出されたものである。
第2 平成28年6月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年6月30日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
平成28年6月30日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであって、請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(補正前の請求項1)
「【請求項1】
タイヤであって、
トレッド部と、
前記トレッド部に配置されるベルトと、
第1のビードコア及び第1のビードフィラーを含む、第1のビード部と、
前記第1のビード部から軸方向に間隔を置いて配置され、第2のビードコア及び第2のビードフィラーを含む、第2のビード部と、
前記第1のビード部と前記トレッド部との間において径方向に配置される第1のサイドウォール部と、
前記第2のビード部と前記トレッド部との間において径方向に配置される第2のサイドウォール部と、
カーカスプライであって、
前記第1のビード部から前記第2のビード部まで前記タイヤの周囲に周方向に延在する主部と、
前記第1のビード部の周りに延在し、前記トレッド部で終端する第1の折り返し部と、
前記第2のビード部の周りに延在し、前記トレッド部で終端する第2の折り返し部と
を含むカーカスプライと、
前記第1のビードフィラーの内側にのみ配置されるように、前記第1のビード部と前記カーカスプライの前記主部との間において軸方向に配置される第1の補強材であって、前記第1の補強材は、前記第1のビードフィラーの上端部の下方に配置される下端部を有し、前記第1の補強材は、前記第1のビードフィラーの上端部の上方に配置される上端部をさらに有する、第1の補強材と、
前記第2のビードフィラーの内側にのみ配置されるように、前記第2のビード部と前記カーカスプライの前記主部との間において軸方向に配置される第2の補強材であって、前記第2の補強材は、前記第2のビードフィラーの上端部の下方に配置される下端部を有し、前記第2の補強材は、前記第2のビードフィラーの上端部の上方に配置される上端部をさらに有する、第2の補強材と、
前記カーカスプライの前記第1の折り返し部と前記第1のサイドウォール部との間において軸方向に配置される第1の極めて薄肉のビードフィラー(「HTBF」)と、
前記カーカスプライの前記第2の折り返し部と前記第2のサイドウォール部との間において軸方向に配置される第2のHTBFとを備え、
前記第1のHTBFは、略一様な厚さを有し、
前記第1のHTBFは、前記第1のビードフィラーの上端部の下方に配置される下端部を有し、前記第1のHTBFは、前記第1のビードフィラーの上端部の上方に配置される上端部をさらに有し、
前記第1の補強材の前記上端部は、前記第1のHTBFの前記上端部の上方に配置され、
前記第2のHTBFは、略一様な厚さを有し、
前記第2のHTBFは、前記第2のビードフィラーの上端部の下方に配置される下端部を有し、前記第2のHTBFは、前記第2のビードフィラーの上端部の上方に配置される上端部をさらに有し、
前記第2の補強材の前記上端部は、前記第2のHTBFの前記上端部の上方に配置された、タイヤ。」
(補正後の請求項1)
「【請求項1】
タイヤであって、
トレッド部と、
前記トレッド部に配置されるベルトと、
第1のビードコア及び第1のビードフィラーを含む、第1のビード部と、
前記第1のビード部から軸方向に間隔を置いて配置され、第2のビードコア及び第2のビードフィラーを含む、第2のビード部と、
前記第1のビード部と前記トレッド部との間において径方向に配置される第1のサイドウォール部と、
前記第2のビード部と前記トレッド部との間において径方向に配置される第2のサイドウォール部と、
カーカスプライであって、
前記第1のビード部から前記第2のビード部まで前記タイヤの周囲に周方向に延在する主部と、
前記第1のビード部の周りに延在し、前記トレッド部で終端する第1の折り返し部と、
前記第2のビード部の周りに延在し、前記トレッド部で終端する第2の折り返し部とを含むカーカスプライと、
前記第1のビードフィラーの内側にのみ配置されるように、前記第1のビード部と前記カーカスプライの前記主部との間において軸方向に配置される第1の補強材であって、前記第1の補強材は、前記第1のビードフィラーの上端部の下方に配置される下端部を有し、前記第1の補強材は、前記第1のビードフィラーの上端部の上方に配置される上端部をさらに有する、第1の補強材と、
前記第2のビードフィラーの内側にのみ配置されるように、前記第2のビード部と前記カーカスプライの前記主部との間において軸方向に配置される第2の補強材であって、前記第2の補強材は、前記第2のビードフィラーの上端部の下方に配置される下端部を有し、前記第2の補強材は、前記第2のビードフィラーの上端部の上方に配置される上端部をさらに有する、第2の補強材と、
前記カーカスプライの前記第1の折り返し部と前記第1のサイドウォール部との間において軸方向に配置される第1の極めて薄肉のビードフィラー(「HTBF」)と、
前記カーカスプライの前記第2の折り返し部と前記第2のサイドウォール部との間において軸方向に配置される第2のHTBFとを備え、
前記第1のHTBFは、略一様な厚さを有し、
前記第1のHTBFは、前記第1のビードフィラーの上端部の下方に配置される下端部を有し、前記第1のHTBFは、前記第1のビードフィラーの上端部の上方に配置される上端部をさらに有し、
前記第1の補強材の前記上端部は、前記第1のHTBFの前記上端部の上方に配置され、
前記第1の補強材の前記下端部は、前記第1のHTBFの前記下端部の下方に配置され、
前記第2のHTBFは、略一様な厚さを有し、
前記第2のHTBFは、前記第2のビードフィラーの上端部の下方に配置される下端部を有し、前記第2のHTBFは、前記第2のビードフィラーの上端部の上方に配置される上端部をさらに有し、
前記第2の補強材の前記上端部は、前記第2のHTBFの前記上端部の上方に配置され、
前記第2の補強材の前記下端部は、前記第2のHTBFの前記下端部の下方に配置された、タイヤ。」
2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無、シフト補正の有無、及び補正の目的の適否について
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1の補強材」、「第1のHTBF」、「第2の補強材」及び「第2のHTBF」について、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0032】及び図2等の記載を根拠に、「前記第1の補強材の前記下端部は、前記第1のHTBFの前記下端部の下方に配置され」及び「前記第2の補強材の前記下端部は、前記第2のHTBFの前記下端部の下方に配置され」ることを限定するものであるから、かかる補正は、発明特定事項を限定するものであって新規事項を追加するものではない。
また、上記補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び同第4項の規定に適合するものであり、また、その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。
(2)独立特許要件
ア 刊行物の記載事項等
(ア)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示された特開2010-163009号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
(1a)「【請求項1】
少なくともビードコア及びビードフィラーを含む一対のビード部と、前記一対のビード部同士をトロイダル状に結ぶカーカスとを備えるタイヤであって、
前記ビードフィラーに沿って設けられるサイド補強層を備え、
前記サイド補強層は、トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、
前記カーカスのトレッド幅方向外側に設けられ、前記ビードフィラーと同じ材質のゴムにより構成されるタイヤ。
【請求項2】
前記サイド補強層は、トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、少なくとも前記ビードフィラーのタイヤ径方向外側から、ベルト層のタイヤ径方向内側の間に設けられる請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、
前記ビードフィラーに沿って、タイヤ径方向外側に延在する繊維補強層を備え、
前記繊維補強層は、前記ビードフィラーよりもトレッド幅方向内側に設けられ、
タイヤ径方向に沿った前記繊維補強層の高さは、リムベースラインからタイヤ最大幅までの高さに対して、45%以下の高さに形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ベルト層は、2層の交錯ベルト層を備え、
トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、前記カーカスは、前記ビードコアでトレッド幅方向外側に折り返され、
トレッド幅方向外側に折り返された前記カーカスは、タイヤ径方向外側に延在し、
トレッド幅方向外側に折り返された前記カーカスのタイヤ径方向外側の端部は、前記交錯ベルト層のタイヤ径方向内側に位置し、前記交錯ベルト層に覆われる請求項1乃至3の何れか一項に記載のタイヤ。」
(1b)「【0001】
本発明は、少なくともビードコア及びビードフィラーを含む一対のビード部と、一対のビード部同士をトロイダル状に結ぶカーカスとを備えるタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に装着されるタイヤでは、操縦安定性を向上するため、タイヤの剛性を高める様々な方法が用いられている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の方法、つまり、サイドウォール部に補強コード層を用いることで乗り心地性を低下させることなく、車両の操縦安定性を向上する方法には、次のような問題があった。すなわち、車両の高速安定性能や、旋回性能等、いわゆるスポーツ走行性能の向上に伴い、タイヤに対する更なる操縦安定性能が要求されている。
【0008】
つまり、上述したタイヤでは、タイヤの剛性が低く、操縦安定性能について、更なる改善が要求されている。
【0009】
そこで、本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、乗り心地性を低下させることなく、車両の操縦安定性をさらに向上できるタイヤの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明は、次のような特徴を有している。まず、本発明の第1の特徴は、少なくともビードコア(ビードコア10a)及びビードフィラー(ビードフィラー10b)を含む一対のビード部(ビード部10)と、一対のビード部同士をトロイダル状に結ぶカーカス(カーカス12)とを備えるタイヤ(空気入りタイヤ1)であって、ビードフィラーに沿って設けられるサイド補強層(サイド補強層8)を備え、サイド補強層は、トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、カーカスのトレッド幅方向外側に設けられ、ビードフィラーと同じ材質のゴムにより構成されるタイヤ。
【0011】
このようなタイヤによれば、サイド補強層は、ビードフィラーに沿って、カーカスのトレッド幅方向外側に設けられるため、縦バネが高くなることを抑制しつつ、前後バネを向上できる。つまり、サイド補強層は、縦バネが高くなることを抑制することで、タイヤの乗り心地性を低下させることを抑制できる。また、サイド補強層は、前後バネを向上することで、ビード部の剛性を高められる。
【0012】
更に、サイド補強層は、ビードフィラーと同じ材質のゴムにより構成されるため、補強コードをタイヤ周方向に沿って巻いた補強コード層に比べて、硬くて薄い形状に形成されるため、効果的に前後バネを向上できる。
【0013】
従って、タイヤは、乗り心地性を低下させることなく、車両の操縦安定性を向上できる。
【0014】
本発明の第2の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、サイド補強層は、トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、少なくともビードフィラーのタイヤ径方向外側から、ベルト層のタイヤ径方向内側の間に設けられることを要旨とする。
【0015】
本発明の第3の特徴は、本発明の第1又は第2の特徴に係り、トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、ビードフィラーに沿って、タイヤ径方向外側に延在する繊維補強層(繊維補強層18)を備え、繊維補強層は、ビードフィラーよりもトレッド幅方向内側に設けられ、タイヤ径方向に沿った繊維補強層の高さ(繊維補強層H18)は、リムベースラインからタイヤ最大幅までの高さ(セクションハイトSH)に対して、45%以下の高さに形成されることを要旨とする。
・・・
【0017】
本発明の第5の特徴は、本発明の第2の特徴に係り、サイド補強層は、トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、ビードフィラーのタイヤ径方向内側の端部から、ベルト層のタイヤ径方向内側の端部の間に設けられることを要旨とする。」
(1c)「【0025】
(1.1)ビード部
図1に示すように、空気入りタイヤ1は、少なくともビードコア10a及びビードフィラー10bを含む1対のビード部10を有している。具体的には、ビード部10を構成するビードコア10aには、スチールコードなどが用いられる。
【0026】
トレッド幅方向W及びタイヤ径方向に沿った断面において、ビードフィラー10bのトレッド幅方向Wに沿った厚みは、タイヤ径方向内側に向かうに連れて、薄くなる。
【0027】
タイヤ径方向に沿ったビードフィラー10bの高さは、リムベースラインからタイヤ最大幅までの高さであるセクションハイトSHに対して、45%以下の高さに形成される。」
(1d)「【0046】
タイヤ径方向に沿ったサイド補強層8の高さであるサイド補強層H8は、タイヤ径方向に沿ったビードフィラー10bの高さに比べて、高く形成される。」
(1e)「【0068】
本実施形態ではサイド補強層8は、トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、少なくともビードフィラー10bのタイヤ径方向外側から、ベルト層のタイヤ径方向内側の間に設けられるため、空気入りタイヤ1において、車両旋回時に最も負荷が掛かる部分の剛性を向上できる。従って、空気入りタイヤ1は、車両の操縦安定性を更に向上できる。
【0069】
本実施形態では繊維補強層18は、ビードフィラー10bに沿って、ビードフィラー10bよりもトレッド幅方向内側に設けられるため、空気入りタイヤ1は、ビードフィラー10bのタイヤ径方向外側をサイド補強層8、タイヤ径方向内側を繊維補強層18によって補強し、空気入りタイヤ1の剛性を向上し、車両の操縦安定性を更に向上できる。
・・・
【0071】
タイヤ径方向に沿った繊維補強層18の高さである繊維補強層H18は、リムベースラインからタイヤ最大幅までの高さであるセクションハイトSHに対して、45%以下の高さに形成されるため、縦バネが高くなることを抑制しつつ、前後バネを向上できる。
【0072】
つまり、リムベースラインからタイヤ最大幅までの高さに対して、45%以下の高さに形成された繊維補強層18は、縦バネが高くなることを抑制しつつ、前後バネを向上することで、空気入りタイヤ1の乗り心地性を低下させることを抑制しつつ、ビード部10の剛性を向上し、車両の操縦安定性を更に向上できる。」
(イ)刊行物1に記載された発明
上記摘示(1a)によれば、刊行物1には、
「少なくともビードコア及びビードフィラーを含む一対のビード部と、前記一対のビード部同士をトロイダル状に結ぶカーカスとを備えるタイヤであって、
前記ビードフィラーに沿って設けられるサイド補強層を備え、
前記サイド補強層は、トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、
前記カーカスのトレッド幅方向外側に設けられ、前記ビードフィラーと同じ材質のゴムにより構成され、
前記サイド補強層は、トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、少なくとも前記ビードフィラーのタイヤ径方向外側から、ベルト層のタイヤ径方向内側の間に設けられ、
トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、
前記ビードフィラーに沿って、タイヤ径方向外側に延在する繊維補強層を備え、
前記繊維補強層は、前記ビードフィラーよりもトレッド幅方向内側に設けられ、
タイヤ径方向に沿った前記繊維補強層の高さは、リムベースラインからタイヤ最大幅までの高さに対して、45%以下の高さに形成され、
前記ベルト層は、2層の交錯ベルト層を備え、
トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、前記カーカスは、前記ビードコアでトレッド幅方向外側に折り返され、
トレッド幅方向外側に折り返された前記カーカスは、タイヤ径方向外側に延在し、
トレッド幅方向外側に折り返された前記カーカスのタイヤ径方向外側の端部は、前記交錯ベルト層のタイヤ径方向内側に位置し、前記交錯ベルト層に覆われる、タイヤ。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
イ 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「タイヤ」は、本願補正発明の「タイヤ」に相当する。
(イ)引用発明の「タイヤ」は、「トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面」を有するものであり、その断面構造に照らしてトレッド部を具備することは技術的に明らかであるから、かかる「トレッド部」は、本願補正発明の「トレッド部」に相当するものといえる。
(ウ)引用発明の「2層の交錯ベルト層を備え」る「ベルト層」は、上記(イ)をも踏まえると、本願補正発明の「トレッド部に配置されるベルト」に相当するものといえる。
(エ)引用発明の「ビードコア」、「ビードフィラー」及び「ビード部」は、本願補正発明の「ビードコア」、「ビードフィラー」及び「ビード部」に、それぞれ相当する。
したがって、引用発明の「少なくともビードコア及びビードフィラーを含む一対のビード部」は、本願補正発明の「第1のビードコア及び第1のビードフィラーを含む、第1のビード部」及び「前記第1のビード部から軸方向に間隔を置いて配置され、第2のビードコア及び第2のビードフィラーを含む、第2のビード部」に相当するものといえる。
(オ)引用発明の「タイヤ」は、「トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面」を有するものであり、その断面構造に照らしてトレッド部とビート部との間においてタイヤ径方向に配置されるサイドウォール部を具備することは技術的に明らかであるから、かかる「サイドウォール部」は、上記(イ)及び(エ)をも踏まえると、本願補正発明の「前記第1のビード部と前記トレッド部との間において径方向に配置される第1のサイドウォール部」及び「前記第2のビード部と前記トレッド部との間において径方向に配置される第2のサイドウォール部」に相当するものといえる。
(カ)引用発明の「カーカス」は、本願補正発明の「カーカスプライ」に相当する。
そして、引用発明の「カーカス」は、「一対のビード部同士をトロイダル状に結ぶ」ものであって、「前記ビードコアでトレッド幅方向外側に折り返され、トレッド幅方向外側に折り返された前記カーカスは、タイヤ径方向外側に延在し、トレッド幅方向外側に折り返された前記カーカスのタイヤ径方向外側の端部は、前記交錯ベルト層のタイヤ径方向内側に位置」するというものであるから、かかる「カーカス」の構成は、本願補正発明の「前記第1のビード部から前記第2のビード部まで前記タイヤの周囲に周方向に延在する主部と、前記第1のビード部の周りに延在し、前記トレッド部で終端する第1の折り返し部と、前記第2のビード部の周りに延在し、前記トレッド部で終端する第2の折り返し部とを含む」という構成に相当するものといえる。
(キ)引用発明の「繊維補強層」は、「前記ビードフィラーに沿って、タイヤ径方向外側に延在する」ものであって、「前記ビードフィラーよりもトレッド幅方向内側に設けられ」るものであるから、上記(エ)及び(カ)をも踏まえると、本願補正発明の「前記第1のビードフィラーの内側にのみ配置されるように、前記第1のビード部と前記カーカスプライの前記主部との間において軸方向に配置される第1の補強材」及び「前記第2のビードフィラーの内側にのみ配置されるように、前記第2のビード部と前記カーカスプライの前記主部との間において軸方向に配置される第2の補強材」に相当するものといえる。
(キ)引用発明の「サイド補強層」は、「トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、前記カーカスのトレッド幅方向外側に設けられ」るものであって、「トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、少なくとも前記ビードフィラーのタイヤ径方向外側から、ベルト層のタイヤ径方向内側の間に設けられ」るものであるから、上記(エ)ないし(カ)をも踏まえると、本願補正発明の「前記カーカスプライの前記第1の折り返し部と前記第1のサイドウォール部との間において軸方向に配置される第1の極めて薄肉のビードフィラー(「HTBF」)」及び「前記カーカスプライの前記第2の折り返し部と前記第2のサイドウォール部との間において軸方向に配置される第2のHTBF」とは、「前記カーカスプライの前記第1の折り返し部と前記第1のサイドウォール部との間において軸方向に配置される第1の部材」及び「前記カーカスプライの前記第2の折り返し部と前記第2のサイドウォール部との間において軸方向に配置される第2の部材」の限度で共通するものといえる。
以上によれば、本願補正発明と引用発明とは、
「タイヤであって、
トレッド部と、
前記トレッド部に配置されるベルトと、
第1のビードコア及び第1のビードフィラーを含む、第1のビード部と、
前記第1のビード部から軸方向に間隔を置いて配置され、第2のビードコア及び第2のビードフィラーを含む、第2のビード部と、
前記第1のビード部と前記トレッド部との間において径方向に配置される第1のサイドウォール部と、
前記第2のビード部と前記トレッド部との間において径方向に配置される第2のサイドウォール部と、
カーカスプライであって、
前記第1のビード部から前記第2のビード部まで前記タイヤの周囲に周方向に延在する主部と、
前記第1のビード部の周りに延在し、前記トレッド部で終端する第1の折り返し部と、
前記第2のビード部の周りに延在し、前記トレッド部で終端する第2の折り返し部とを含むカーカスプライと、
前記第1のビードフィラーの内側にのみ配置されるように、前記第1のビード部と前記カーカスプライの前記主部との間において軸方向に配置される第1の補強材と、
前記第2のビードフィラーの内側にのみ配置されるように、前記第2のビード部と前記カーカスプライの前記主部との間において軸方向に配置される第2の補強材と、
前記カーカスプライの前記第1の折り返し部と前記第1のサイドウォール部との間において軸方向に配置される第1の部材と、
前記カーカスプライの前記第2の折り返し部と前記第2のサイドウォール部との間において軸方向に配置される第2の部材とを備えた、タイヤ。」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
「第1の部材」及び「第2の部材」について、本願補正発明は、「第1の極めて薄肉のビードフィラー(「HTBF」)」及び「第2のHTBF」として特定され、共に「略一様な厚さを有」するものとされているのに対し、引用発明は、「サイド補強層」として特定されているが、その厚みの態様は明らかでない点。
<相違点2>
本願補正発明は「前記第1の補強材は、前記第1のビードフィラーの上端部の下方に配置される下端部を有し、前記第1の補強材は、前記第1のビードフィラーの上端部の上方に配置される上端部をさらに有」し、「前記第1のHTBFは、前記第1のビードフィラーの上端部の下方に配置される下端部を有し、前記第1のHTBFは、前記第1のビードフィラーの上端部の上方に配置される上端部をさらに有し」、「前記第1の補強材の前記上端部は、前記第1のHTBFの前記上端部の上方に配置され、前記第1の補強材の前記下端部は、前記第1のHTBFの前記下端部の下方に配置され」、「前記第2の補強材は、前記第2のビードフィラーの上端部の下方に配置される下端部を有し、前記第2の補強材は、前記第2のビードフィラーの上端部の上方に配置される上端部をさらに有」し、「前記第2のHTBFは、前記第2のビードフィラーの上端部の下方に配置される下端部を有し、前記第2のHTBFは、前記第2のビードフィラーの上端部の上方に配置される上端部をさらに有し」、「前記第2の補強材の前記上端部は、前記第2のHTBFの前記上端部の上方に配置され、前記第2の補強材の前記下端部は、前記第2のHTBFの前記下端部の下方に配置され」るものであるのに対し、
引用発明は、「前記繊維補強層は、前記ビードフィラーよりもトレッド幅方向内側に設けられ、タイヤ径方向に沿った前記繊維補強層の高さは、リムベースラインからタイヤ最大幅までの高さに対して、45%以下の高さに形成され」、「前記サイド補強層は、トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、少なくとも前記ビードフィラーのタイヤ径方向外側から、ベルト層のタイヤ径方向内側の間に設けられ」るものである点。
ウ 判断
(ア)相違点1について
a 本願明細書の「図2を引き続き参照すると、タイヤ100は、カーカスプライ145の折り返し部155とサイドウォール120との間において軸方向に配置される極めて薄肉のビードフィラー(「HTBF」)170をさらに含む。一実施形態では、HTBF170は、ビードフィラー135(審決注:図番の「135」は「140」の誤記と認める。)と実質的に同じ材料で構成される。代替的な実施形態では、HTBFは、異なるゴム、またはその他のエラストマー材料で構成されてもよい。」(段落【0029】、下線は当審で付した。以下同様。)との記載によれば、本願補正発明の「極めて薄肉のビードフィラー(「HTBF」)」は、ビードフィラーと実質的に同じ材料、異なるゴム、あるいはその他のエラストマー材料で構成されるものとされている。
また、本願明細書には、上記「極めて薄肉のビードフィラー(「HTBF」)」の厚みについての具体的な数値範囲は記載されておらず、「極めて薄肉」を特定するに足る比較の基準も示されていないため、「極めて薄肉」とされる厚みの程度は必ずしも明らかではないが、かかる技術分野の技術常識に照らせば、少なくとも、「薄肉」と評価し得る程度には薄く形成されたものと一応解釈することができるので、以下、そのように解して検討する。
b 刊行物1には、引用発明の「サイド補強層」について、「サイド補強層は、ビードフィラーと同じ材質のゴムにより構成されるため、補強コードをタイヤ周方向に沿って巻いた補強コード層に比べて、硬くて薄い形状に形成されるため、効果的に前後バネを向上できる。」(摘示(1b)段落【0012】)と記載されている。
そうすると、引用発明の「サイド補強層」は、「ビードフィラーと同じ材質のゴム」により構成することが想定されているのであるから、ビードフィラーと実質的に同じ材料で構成し得る本願補正発明の「極めて薄肉のビードフィラー(「HTBF」)」とは、ビードフィラーと同じ材質のゴムが使用される点で共通するものといえる。
また、引用発明の「サイド補強層」は、上記のとおり薄い形状に形成されるものとされているから、「薄肉」と解釈することもでき、その厚さは、図3にも示されているとおり「略一様」なものとして構成することが想定されるものである。
c してみると、引用発明の「サイド補強層」は、「極めて薄肉のビードフィラー(「HTBF」)」であって、「略一様な厚さを有」するものと解釈することもできるし、引用発明の「サイド補強層」を「極めて薄肉のビードフィラー(「HTBF」)」であって「略一様な厚さを有」するものとすることは、当業者が容易に想到し得るものということもできる。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点とはいえないか、あるいは実質的に相違するとしても当業者が容易に想到し得るものといえる。
(イ)相違点2について
a 上記相違点2に係る本願補正発明の構成は、
(i)「前記第1の補強材は、前記第1のビードフィラーの上端部の下方に配置される下端部を有し、前記第1の補強材は、前記第1のビードフィラーの上端部の上方に配置される上端部をさらに有」し(以下「構成(i)」という。)、
(ii)「前記第1のHTBFは、前記第1のビードフィラーの上端部の下方に配置される下端部を有し、前記第1のHTBFは、前記第1のビードフィラーの上端部の上方に配置される上端部をさらに有し」(以下「構成(ii)」という。)、
(iii)「前記第1の補強材の前記上端部は、前記第1のHTBFの前記上端部の上方に配置され、前記第1の補強材の前記下端部は、前記第1のHTBFの前記下端部の下方に配置され」る(以下「構成(iii)という。」)、というものであるので(「第2の補強材」、「第2のビードフィラー」及び「第2のHTBF」の配設態様も、上記(i)~(iii)の配設態様と同様である。)、かかる構成(i)~(iii)について検討する。
(a)構成(i)について
引用発明の「繊維補強層」は、「前記ビードフィラーよりもトレッド幅方向内側に設けられ、タイヤ径方向に沿った前記繊維補強層の高さは、リムベースラインからタイヤ最大幅までの高さに対して、45%以下の高さに形成され」るものとして特定されるものであるから、上記「繊維補強層」の上端部の位置は、リムベースラインからタイヤ最大幅までの高さに対して、45%以下の高さの範囲内で適宜設定され得るものといえ、また、上記「繊維補強層」の下端部の位置は、特に特定の位置に配置されるものとして規定されるものではない。
また、刊行物1には、「タイヤ径方向に沿ったビードフィラー10bの高さは、リムベースラインからタイヤ最大幅までの高さであるセクションハイトSHに対して、45%以下の高さに形成される。」(摘示(1c)【0027】)と記載されているから、引用発明の「ビードフィラー」の上端部の位置も、その実施の態様として、上記「繊維補強層」の上端部の位置と同様に、リムベースラインからタイヤ最大幅までの高さに対して、45%以下の高さの範囲内で適宜設定され得るものといえる。
そして、上記「繊維補強層」と「ビードフィラー」の上下端部の相互の高さの位置関係については、特に特定の位置関係に配置すべきものとして規定されるものではなく、また、図3には、繊維補強層18の上端部をビードフィラー10bの上端部より上方に配置するとともに、繊維補強層18の下端部をビードフィラー10bの上端部より下方に配置する実施の形態も示されているから、かかる実施の形態をも参考とすれば、引用発明において、「繊維補強層」と「ビードフィラー」を上記構成(i)と同様な配置に設定することは、想定の範囲ということもでき、当業者にとって格別困難なことではない。
(b)構成(ii)について
引用発明の「サイド補強層」は、「トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、少なくとも前記ビードフィラーのタイヤ径方向外側から、ベルト層のタイヤ径方向内側の間に設けられ」るものとして特定されるものであるから、サイド補強層の上端部及び下端部の位置は、少なくともビードフィラーのタイヤ径方向外側から、ベルト層のタイヤ径方向内側の間に設定されることが明らかである。
ここで、刊行物1には、「タイヤ径方向に沿ったサイド補強層8の高さであるサイド補強層H8は、タイヤ径方向に沿ったビードフィラー10bの高さに比べて、高く形成される。」(摘示(1d))と記載されているから、引用発明において、「サイド補強層」の上端部をビードフィラーの上端部の上方に配置することは想定されている。
さらに、「サイド補強層」の下端部は、「少なくとも前記ビードフィラーのタイヤ径方向外側から」配置し得るものであるから、その下端部をビードフィラーの上端部より下方に位置させることも想定されており、そのような配置は、図3にも示されている。
したがって、引用発明において、「サイド補強層」と「ビードフィラー」を上記構成(ii)と同様な配置に設定することは、想定の範囲ということができ、当業者にとって格別困難なことではない。
(c)構成(iii)について
引用発明の「繊維補強層」は、上記(a)で述べたとおり、その上端部の位置は、リムベースラインからタイヤ最大幅までの高さに対して、45%以下の高さの範囲内で適宜設定され得るものといえ、その下端部の位置は、特に特定の位置に配置されるものとして規定されるものではない。
また、引用発明の「サイド補強層」は、上記(b)で述べたとおり、その上端部及び下端部の位置は、少なくともビードフィラーのタイヤ径方向外側から、ベルト層のタイヤ径方向内側の間に設定されることが明らかである。
そして、刊行物1には、摘示(1e)のとおり、サイド補強層8は、少なくともビードフィラー10bのタイヤ径方向外側から、ベルト層のタイヤ径方向内側の間に設けられるため、車両旋回時に最も負荷が掛かる部分の剛性を向上できること(段落【0068】)、繊維補強層18は、ビードフィラー10bに沿って、ビードフィラー10bよりもトレッド幅方向内側に設けられるため、ビードフィラー10bのタイヤ径方向外側をサイド補強層8、タイヤ径方向内側を繊維補強層18によって補強し、車両の操縦安定性を更に向上できること(段落【0069】)、繊維補強層18の高さである繊維補強層H18は、リムベースラインからタイヤ最大幅までの高さであるセクションハイトSHに対して、45%以下の高さに形成されるため、縦バネが高くなることを抑制しつつ、前後バネを向上でき(段落【0071】)、空気入りタイヤ1の乗り心地性を低下させることを抑制しつつ、ビード部10の剛性を向上し、車両の操縦安定性を更に向上できること(段落【0072】)が記載されているから、引用発明の「サイド補強層」は「タイヤ径方向外側」を補強するものとして、また、引用発明の「繊維補強層」は「タイヤ径方向内側」を補強するものとして位置付けられ、それぞれ要求される各課題を解決する機能物として配置されることが明らかであるから、それら「繊維補強層」と「サイド補強層」の上下端部の位置はそれぞれ独立的に設定可能ということができ、また、上記「繊維補強層」と「サイド補強層」の上下端部の相互の高さの位置関係を、特に特定の位置関係に配置すべきものと解すべき特段の事情も見当たらない。
そうすると、引用発明において、「繊維補強層」の上下端部と「サイド補強層」の上下端部の相互の位置関係は適宜設定可能なものといえるから、「繊維補強層」の上端部を「サイド補強層」の上端部の上方に配置するとともに、「繊維補強層」の下端部を「サイド補強層」の下端部の下方に配置することは、当業者が引用発明を具現化するに際し、タイヤに要求される「乗り心地性」や「車両の操縦安定性」等を考慮して、適宜設定する設計事項にすぎないものというべきである。
したがって、引用発明において、「繊維補強層」と「サイド補強層」を上記構成(iii)と同様に配設することは当業者が適宜設定する設計事項にすぎないものといえる。
b 請求人の主張
(a)請求人は、平成28年6月30日付けの審判請求書で、「繊維補強材18の上端部はサイド補強材8の上端部よりも下方に配置され、かつ、繊維補強材18の下端部は補強材8の下端部とタイヤ径方向において同程度の位置に配置されております。従って、繊維補強材18の上端部がサイド補強材8の上端部の上方に配置されるものでもなく、繊維補強材18の下端部が補強材8の下端部の下方に配置されているものでもありません。」(3.(3)(3-1))、と主張する。
しかし、引用発明は、「繊維補強層」及び「サイド補強層」の配設態様として、「前記繊維補強層は、前記ビードフィラーよりもトレッド幅方向内側に設けられ、タイヤ径方向に沿った前記繊維補強層の高さは、リムベースラインからタイヤ最大幅までの高さに対して、45%以下の高さに形成され」及び「前記サイド補強層は、トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、少なくとも前記ビードフィラーのタイヤ径方向外側から、ベルト層のタイヤ径方向内側の間に設けられ」るものであるとして特定されるものである。
そして、上記a(c)で述べたとおり、引用発明の「繊維補強層」は、その上端部の位置は、リムベースラインからタイヤ最大幅までの高さに対して、45%以下の高さの範囲内で適宜設定され得るものといえ、その下端部の位置は、特に特定の位置に配置されるものとして規定されるものではなく、また、引用発明の「サイド補強層」は、その上端部及び下端部の位置は、少なくともビードフィラーのタイヤ径方向外側から、ベルト層のタイヤ径方向内側の間に設定されることが明らかである。
したがって、引用発明は、請求人が主張するような「繊維補強材18の上端部はサイド補強材8の上端部よりも下方に配置され、かつ、繊維補強材18の下端部は補強材8の下端部とタイヤ径方向において同程度の位置に配置され」るものとして規定されるものではなく、それらの高さ関係は適宜設定可能なものといえるから、請求人の上記主張は採用できない。
(b)また、請求人は、「発明者らは、従来技術の研究を重ね、以下の(あ)~(え)の課題があることを発見し(本願の明細書段落[0038]参照)、この解決手段として、既知のタイヤの要素の追加、除去及び変化により、本願発明1、5及び8に係る上記発明特定事項で特定される補強材及びHTBFの配置に想到し、本願発明を完成させたものであります。
(あ)ねじり剛性を高めること、
(い)乗り心地を良くし、操作性を改良すること、
(う)80Hz付近の低周波数領域の騒音レベルを抑制すること及び
(え)小さい質量、高い剛性及び小さい転がり抵抗を可能にすること。
・・・
しかしながら、引用文献1には、上記(あ)ねじり剛性を高めること及び(う)所定の低周波数領域の騒音レベルを抑制することについては、何ら記載されておりません。また、上記(あ)(う)を解決する補強材及びHTBFの上端部及び下端部の高さ関係についても何ら開示も示唆もありません。」(3.(3)(3-2))、とも主張する。
本願明細書の記載によれば、本願補正発明は、「特定のカーカスプライ、補強材、およびフィラーの構成を有するタイヤに関する」(段落【0001】)ものであって、その背景技術は、「カーカスプライを有するラジアルタイヤが当技術分野で知られている。トレッド、カーカスプライ、ベルト、ビード、フィラー、および補強要素などの既知のタイヤの要素は、複数のタイヤの特性に影響を及ぼす。こうした要素の追加、除去、または変化は、様々な条件(例えば、雨、乾燥、雪上、氷上)でのタイヤの性能、タイヤによって生じるノイズ、タイヤの寿命、および車両の効率に影響を及ぼし得る。」(段落【0002】)というものである。
そして、本願明細書には、本願補正発明に係る具体的な課題についての直接的な記載はないが、「【課題を解決するための手段】」について、「第1の補強材は、第1のビード部とカーカスプライの主部との間において軸方向に配置される。第2の補強材は、第2のビード部とカーカスプライの主部との間において軸方向に配置される。第1の極めて薄肉のビードフィラー(「HTBF」)は、カーカスプライの第1の折り返し部と第1のサイドウォール部との間において軸方向に配置される。第2のHTBFは、カーカスプライの第2の折り返し部と第2のサイドウォール部との間において軸方向に配置される。」(段落【0003】)と記載され、「【発明を実施するための形態】」について、「開示されたカーカスプライ構成、補強材、およびHTBFの組み合わせは、タイヤのねじり剛性を高める。本構成はまた、申し分のない車両の乗り心地および操作を提供しながら、車両騒音レベルを、特に、80Hz付近の低周波数領域において抑制する。本構成はまた、車両性能に必要な剛性を維持しながら、より小さい質量および転がり抵抗を可能にする。」(段落【0037】)と記載されているから、本願補正発明は、タイヤの構成要素として、少なくとも、「第1の極めて薄肉のビードフィラー(「HTBF」)」、「第2のHTBF」、「第1の補強材」及び「第2の補強材」を採用することで、請求人が主張する上記(あ)~(え)の課題を解決したものと一応理解することができる。
他方、引用発明は、摘示(1b)のとおり、従来のタイヤが有する「タイヤの剛性が低く、操縦安定性能について、更なる改善が要求されている」という問題に鑑み(段落【0008】)、「乗り心地性を低下させることなく、車両の操縦安定性をさらに向上できるタイヤの提供」を解決課題とするものであり(段落【0009】)、かかる課題を解決するために、タイヤの構成要素として、「サイド補強層」及び「繊維補強層」を採用したものと理解することができる(段落【0010】~段落【0017】)。そして、その作用・効果は、「サイド補強層8は、トレッド幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面において、少なくともビードフィラー10bのタイヤ径方向外側から、ベルト層のタイヤ径方向内側の間に設けられるため、空気入りタイヤ1において、車両旋回時に最も負荷が掛かる部分の剛性を向上できる。従って、空気入りタイヤ1は、車両の操縦安定性を更に向上できる」(摘示(1e)段落【0068】)及び「リムベースラインからタイヤ最大幅までの高さに対して、45%以下の高さに形成された繊維補強層18は、縦バネが高くなることを抑制しつつ、前後バネを向上することで、空気入りタイヤ1の乗り心地性を低下させることを抑制しつつ、ビード部10の剛性を向上し、車両の操縦安定性を更に向上できる」(摘示(1e)段落【0072】)というものであるから、引用発明は、車両旋回時等の車両性能に必要な剛性を維持する、という課題も解決し得ることが明らかである。
したがって、引用発明における解決すべき課題は、本願補正発明における、上記(い)の乗り心地性及び操作性、さらには上記(え)の剛性に係る技術課題と共通することが明らかである。
また、タイヤのねじり剛性を高めること、低周波数領域における車両騒音レベルを抑制すること、軽量化を図り、転がり抵抗の悪化を防止することは、タイヤ構成上のごく基本的な技術課題であって、かかる課題がサイドウォール部の剛性と関係することは、当業者の技術常識であるから(必要ならば、特開平8-207516号公報:【0001】【0004】、特開2002-103924号公報:【0001】【0008】【0010】、特開平7-81308号公報:【0001】【0004】【0006】、特開2009-298314号公報:【0002】【0003】、特開平9-300911号公報:【0004】、など参照)、引用発明は、本願補正発明における、上記(あ)のねじり剛性、上記(う)の低周波数領域の車両騒音レベル、さらには上記(え)の質量及び転がり抵抗に係る基本的な技術課題をも内在したものということができる。
したがって、引用発明においても、「繊維補強層」及び「サイド補強層」の採用によって、タイヤのサイドウォール部の剛性が調整可能であるから、上記(あ)~(え)の課題を解決し得ることは、技術的に明らかである。 ここで、請求人は、刊行物1には、本願補正発明に係る発明特定事項で特定される補強材及びHTBFの配置、すなわち、上記(あ)(う)を解決する補強材及びHTBFの上端部及び下端部の高さ関係についても何ら開示も示唆もない旨主張するが、そもそも、本願明細書には、本願補正発明の構成(i)~(iii)の採用によって、上記(あ)~(え)の課題が解決できたとする合理的な説明は一切なされていない。
本願明細書の段落【0027】には、「第1の補強材」及び「第2の補強材」の上端部の高さH2の配置位置について、
(H2-1)一実施形態として、「断面高さH0の18%から70%までの間」に配置すること、
(H2-2)代替的な実施形態として、「断面高さH0の25%から60%までの間」に配置すること、
(H2-3)図示の実施形態として、「ビードフィラー部140の上端部の上方」に配置すること、及び、
(H2-4)代替的な実施形態(図示せず)として、「ビードフィラー部の上端部の下方」に配置すること、が記載されているが、上記(H2-3)の構成の代替例として上記(H2-4)の構成が位置付けられていることからして、上記(あ)~(え)の課題解決手段として、上記構成(i)を採用することに格別の意義を見いだすことができない。
また、本願明細書の段落【0031】には、「第1の極めて薄肉のビードフィラー(「HTBF」)」及び「第2のHTBF」の上端部の高さH4の配置位置について、
(H4-1)一実施形態として、「断面高さH0の30%から70%までの間」に配置すること、
(H4-2)代替的な実施形態として、「断面高さH0の37%から65%までの間」に配置すること、
(H4-3)図示の実施形態として、「ビードフィラー部140の上端部の上方、ただし補強材165の上端部の下方」に配置すること、
(H4-4)代替的な実施形態(図示せず)として、「ビードフィラー部の上端部の下方」に配置すること、
(H4-5)別の代替的な実施形態(図示せず)として、「ビードフィラー部の上端部および補強材の上端部の両方の上方」に配置すること、が記載され、
本願明細書の段落【0032】には、「第1の極めて薄肉のビードフィラー(「HTBF」)」及び「第2のHTBF」の下端部の高さH5の配置位置について、
(H5-1)一実施形態として、「断面高さH0の10%から30%までの間」に配置すること、
(H5-2)代替的な実施形態として、「断面高さH0の14%から25%までの間」に配置すること、
(H5-3)図示の実施形態として、「ビードフィラー部140の上端部の下方、ただしビードコア130の上方かつ補強材165の下端部の上方」に配置すること、
(H5-4)代替的な実施形態(図示せず)として、「補強材の下端部、またはその下方」に配置すること、
(H5-5)その他の代替的な実施形態(図示せず)として、「ビードコア、またはその下方」に配置すること、が記載されているが、上記(H4-3)の構成の代替例として上記(H4-4)及び(H4-5)の構成が位置付けられていること、さらには、上記(5-3)の構成の代替例として上記(H5-4)及び(H5-5)の構成が位置付けられていることからして、上記(あ)~(え)の課題解決手段として、上記構成(ii)(iii)を採用することに格別の意義を見いだすことができない。
そして、上記aで述べたとおり、上記相違点2に係る本願補正発明の構成(i)~(iii)は、引用発明において想定の範囲ということもでき、当業者が適宜設定する設計事項にすぎないものといえる。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。
c 以上のとおりであるから、上記相違点2に係る本願補正発明の構成は、引用発明、刊行物1に記載された技術事項及び技術常識に基いて当業者が容易に想到し得るものといえる。
そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明、刊行物1に記載された技術事項及び技術常識から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものとはいえない。
エ まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物1に記載された技術事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成27年10月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1」の「(補正前の請求項1)」に記載されたとおりのものである。
第4 引用刊行物とその記載事項等
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、その記載事項及び引用発明は、上記「第2 2(2)ア」に記載したとおりである。
第5 当審の判断
本願発明は、本願補正発明から、上記「第2 2(1)」で述べたとおりの限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2(2)」で述べたとおり、引用発明、刊行物1に記載された技術事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明、刊行物1に記載された技術事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物1に記載された技術事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-009794