特許拒絶査定不服審判
2016-006619
植物細胞における遺伝子およびタンパク質の野生型発現を変更する組成物を同定する方法
- 審判番号
- 2016-006619
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-512238外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年05月06日
- 審決日
- 2017年01月24日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ローム アンド ハース カンパニー
- 【請求人代理人】小林 浩
- 【請求人代理人】大森 規雄
- 【請求人代理人】藤田 尚
- 【請求人代理人】鈴木 康仁
- 【請求人】ダウ アグロサイエンシィズ エルエルシー
- 【請求人代理人】小林 浩
- 【請求人代理人】大森 規雄
- 【請求人代理人】藤田 尚
- 【請求人代理人】鈴木 康仁
- 分類
- P18 .121-Z (C12Q) / P18 .575-Z (C12Q)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-512238「植物細胞における遺伝子およびタンパク質の野生型発現を変更する組成物を同定する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月 1日国際公開、WO2011/150194、平成25年 8月 8日国内公表、特表2013-531484〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成23年(2011年)5月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年5月28日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、主な経緯は次のとおりである。
平成27年 5月22日付け 拒絶理由通知書
平成27年 8月26日 手続補正書・意見書
平成27年12月25日付け 拒絶査定
平成28年 5月 6日 審判請求書・手続補正書
第2 平成28年5月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年5月6日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
上記補正により、補正前の平成27年8月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1,8,10~11,13~15が補正され、そのうち請求項1は、補正前の
「【請求項1】
植物細胞の野生型遺伝子発現を相乗的または拮抗的に変更する化合物の組合せを同定するための方法であって、
(a)同じ植物からの植物細胞または組織と、
(i) 第1の試験化合物;
(ii) 追加の試験化合物;または
(iii) 前記第1の試験化合物と前記追加の試験化合物との組合せ
のうちの1つとを少なくとも2時間接触させる工程であって、前記第1の化合物または追加の試験化合物の少なくとも1つが、前記植物に曝露されたときにその植物の遺伝子発現プロフィールに未知の効果(impact)を有する、工程と、
(b)
(i) 前記(a)(i)と接触させた植物細胞または組織からの第1の発現プロフィール、
(ii) 前記(a)(ii)と接触させた、同じ植物細胞または組織からの追加の発現プロフィール、および
(iii) 前記(a)(iii)と接触させた、同じ植物細胞または組織からの組み合わせた化合物の発現プロフィール
を生成する工程であって、
各々の発現プロフィールは、前記植物細胞または組織の少なくとも20個の遺伝子または遺伝子産物の発現レベルまたはパターンを含み、前記発現プロフィールがマイクロアレイを用いて生成されたものである、工程と、
(c)前記第1の発現プロフィール(b)(i)と、前記追加の発現プロフィール(b)(ii)と、前記組み合わせた化合物の発現プロフィール(b)(iii)とを比較する工程と、
(d)組み合わせた化合物のプロフィール(b)(iii)の発現のレベルの変化が、第1のプロフィール(b)(i)および追加のプロフィール(b)(ii)の相加変更よりも大きい場合に、相乗的または拮抗的な変更を同定する工程と
を含む方法。」から、補正後の
「【請求項1】
植物細胞における野生型遺伝子発現を相乗的または拮抗的に変更する化合物の組合せを同定するための方法であって、
(a)同じ植物からの植物細胞または組織と、
(i) 第1の試験化合物;
(ii) 追加の試験化合物;または
(iii) 前記第1の試験化合物と前記追加の試験化合物との組合せ
のうちの1つとを少なくとも2時間接触させる工程であって、前記第1の化合物または追加の試験化合物の少なくとも1つが、前記植物に曝露されたときにその植物の遺伝子発現プロフィールに未知の効果(impact)を有する、工程と、
(b)
(i) 前記(a)(i)と接触させた植物細胞または組織からの第1の発現プロフィール、
(ii) 前記(a)(ii)と接触させた、同じ植物細胞または組織からの追加の発現プロフィール、および
(iii) 前記(a)(iii)と接触させた、同じ植物細胞または組織からの組み合わせた化合物の発現プロフィール
を生成する工程であって、
各々の発現プロフィールは、前記植物細胞または組織の少なくとも20個の遺伝子または遺伝子産物の発現レベルまたはパターンを含み、前記発現プロフィールがマイクロアレイを用いて生成されたものである、工程と、
(c)前記第1の発現プロフィール(b)(i)と、前記追加の発現プロフィール(b)(ii)と、前記組み合わせた化合物の発現プロフィール(b)(iii)とを比較する工程と、
(d)組み合わせた化合物のプロフィール(b)(iii)の発現のレベルの変化が、第1のプロフィール(b)(i)および追加のプロフィール(b)(ii)の相加変更よりも大きい場合に、相乗的または拮抗的な変更を同定する工程と
を含む方法であって、
前記相乗的または拮抗的に変更された前記1つ以上の遺伝子が、前記組み合わせた化合物によって生じた前記植物細胞の物理的状態を示すものであり、前記物理的状態が、エチレン感受性の増加、エチレン感受性の減少、熟成の増大、ストレス、熱、集団密度または塩分に対する抵抗性の増加、ストレス、熱、集団密度または塩分に対する抵抗性の減少、病原体抵抗性の増加、病原体抵抗性の減少、開花の増加、窒素効率の増加、除草抵抗性の増加、光合成作用の増加、および収量の増加から選択される、方法。」へと補正された。
ここで、補正後の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「前記相乗的または拮抗的に変更された前記1つ以上の遺伝子が、前記組み合わせた化合物によって生じた前記植物細胞の物理的状態を示すものであり、前記物理的状態が、エチレン感受性の増加、エチレン感受性の減少、熟成の増大、ストレス、熱、集団密度または塩分に対する抵抗性の増加、ストレス、熱、集団密度または塩分に対する抵抗性の減少、病原体抵抗性の増加、病原体抵抗性の減少、開花の増加、窒素効率の増加、除草抵抗性の増加、光合成作用の増加、および収量の増加から選択される」とする補正は、補正前の請求項1に係る発明における、発現が相乗的または拮抗的に変更する遺伝子の機能を限定するものである。また、補正前の当該請求項に記載された発明と補正後の当該請求項に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、請求項1についての上記補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当することから、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明1」という)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。
2.特許法第29条第2項について
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された、本願優先日前の2007年に頒布された文献であるBMC Genomics,2007,Vol.8, No.431(以下、「引用例1」という)には、次の事項が記載されている。
なお、翻訳は当審によるものであり、下線は当審が付与したものである。以下、同様である。
また、引用例1は電子媒体による公開のみで頁の概念が存在しない。このため、引用例1のPDFファイルを紙で打ち出した先頭頁を1頁とし、計15頁からなる学術論文として、以下、引用箇所を摘記することとする。
(1-a)「ダイズの葉における発現プロファイリングは、ER及び浸透圧ストレス経路の統合を明らかにする」(タイトル)
(1-b)「5,760のダイズcDNAの増幅された断片を含むマイクロアレイスライドを用いて、我々は、その発現が浸透圧及びERストレスによって影響される遺伝子を同定する広汎な調査を行った。加えて、我々は、両方のストレス媒介性シグナリング経路の統合を反映する、発現パターンにおけるいくつかの重複を明らかにすることを期待した。3週齢のダイズ植物が、ERストレス誘導剤であるL-アゼチジン-2-カルボン酸(AZC)又はツニカマイシン、もしくは浸透圧ストレス誘導剤であるポリエチレングリコール(PEG,複製植物において約60-70%の水の損失を引き起こす)のいずれかで処理された。」(3頁左欄18~28行目)
(1-c)「
図1
マイクロアレイ分析によって決定された、TUN(10μg/ml,24時間)、PEG(分子量:8000 10%,16時間)及びAZC(50mM,16時間)処理に対する特異的及び共有された応答の分布を示すベン図。差次的発現の決定は、材料と方法において示している。厚い囲みは上方制御を示し、薄い囲みは下方制御を示す。」(図1)
(1-d)「表1:ERストレス及び浸透圧ストレスの転写応答の重複
」(表1)
(1-e)「共-上方制御応答におけるER及び浸透圧ストレスの相互作用を直接的に調べるために、我々は、AZC及びPEGの組合せの処理が、発現における相加的な増加を促進するか否かを解析した(図5A及び5B)。我々が調べた9の共-誘導遺伝子のうちの5つ(アスタリスク)が、両方の刺激によって相加的な様式よりも大きく誘導された。このように、ERストレス及び浸透圧ストレスシグナリング応答は、遺伝子活性化レベルにおいて相乗的で、また収斂する様式で統合する。この非相加的応答において、我々は、PEG処理が未知の遺伝子の誘導におけるAZCの効果を劇的に減少させたことで、エピスタシスによる経路の統合をも観察した(図5A)。」(8頁右欄5~17行目)
(1-f)「A
B
図5
PEG及びAZCの組合せの処理による遺伝子発現の相乗的誘導。遺伝子発現の-倍変数の値は、リアルタイムRT-PCRによって決定された、3回の生物学的反復の平均±標準偏差である。植物は、AZCで16時間、PEGで10時間、あるいは、AZCのみで6時間、続いてAZCとPEGの組合せで10時間処理された。AZC6時間+(AZC+PEG)10時間の値は、16時間の水コントロール処理に対するものである(±標準偏差,n=3の生物学的反復)。非相加的応答はアスタリスク(相乗作用)及び矢じり(エピスタシス)で示す。」(図5)
(1-g)「リアルタイムRT-PCRデータ解析
定量RT-PCRアッセイのために、cDNA及びプライマーの配列が、追加ファイル7にリストされている。カルネキシンのERストレス応答遺伝子及び種子の成熟タンパク質PM30の渇水誘導遺伝子の発現の分析が、それぞれのストレス処理のためのポジティブコントロールとして用いられた。」(12頁右欄13~19行目)
(1-h)「表S7-定量PCRによる解析された遺伝子とダイズBiPアイソフォームのためのプライマー
」(追加ファイル7、クローンの名称とアクセッション番号)
ここで、上記記載事項(1-b)~(1-d)より、引用例1には、ERストレス誘導剤であるAZC及びTUN、並びに浸透圧ストレス誘導剤であるPEGの3つの化合物それぞれ単独で処理した際の転写応答について、マイクロアレイを用いた遺伝子発現プロフィールを生成したことが記載されているといえる。
また、上記記載事項(1-e)~(1-h)より、引用例1には、上記の3つそれぞれ単独の処理の全てによって誘導された9個の遺伝子(上記記載事項(1-d)の枠囲み、上記記載事項(1-h)の枠囲みも参照)について、AZC単独、PEG単独及びAZCとPEGの組合せの少なくとも2時間以上の処理による遺伝子発現プロフィールをRT-PCRで生成したことが記載されているといえ、特に図5A及び5Bのアスタリスクで示されるように、AZCとPEGの組合せの処理によって、AZC単独又はPEG単独の処理よりも遺伝子発現が相乗的に誘導されていることから、AZCとPEGの組合せは、野生型遺伝子発現を相乗的に変更するものといえる。そして、特に図5Aの矢じりで示されるように、未知の遺伝子(unknown)の誘導においては、PEG処理がAZCの効果を劇的に減少させていることから、AZCとPEGの組合せは、野生型遺伝子発現を拮抗的に変更するものともいえる。
さらに、引用例1には、AZC、TUN及びPEGの3つの化合物のうち、野生型遺伝子発現を相乗的または拮抗的に変更する化合物として、AZCとPEGの組合せを同定したことが記載されているといえ、AZCやPEGにより発現の変化した遺伝子は、当該化合物によって生じたダイズ植物のストレス応答を示すものであるといえる。
そうすると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。
「ダイズ植物における野生型遺伝子発現を相乗的または拮抗的に変更する化合物の組合せを同定するための方法であって、
ダイズ植物と、
AZC;
PEG;または
AZCとPEGとの組合せ
とを少なくとも2時間接触させる工程と、
AZCと接触させたダイズ植物からの第1の遺伝子発現プロフィール、
PEGと接触させた、同じ植物からの追加の遺伝子発現プロフィール、および
AZCとPEGとの組合せと接触させた、同じ植物からの組み合わせた化合物の遺伝子発現プロフィール
を生成する工程であって、
各々の発現プロフィールは、前記ダイズ植物の9個の遺伝子または遺伝子産物の発現レベルまたはパターンを含み、前記発現プロフィールがRT-PCRを用いて生成されたものである、工程と、
前記第1の遺伝子発現プロフィールと、前記追加の遺伝子発現プロフィールと、前記組み合わせた化合物の遺伝子発現プロフィールとを比較する工程と、
組み合わせた化合物のプロフィールの遺伝子発現のレベルの変化が、第1のプロフィールおよび追加のプロフィールの相加変更よりも大きい場合に、相乗的または拮抗的な変更を同定する工程と
を含む方法であって、
前記相乗的または拮抗的に変更された遺伝子が、前記組み合わせた化合物によって生じた前記ダイズ植物のストレス応答を示すものである、方法。」
(2)対比
本件補正発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「AZC」及び「PEG」はそれぞれ、本件補正発明1における「第1の試験化合物」及び「追加の試験化合物」に相当する。
また、引用発明の「前記相乗的または拮抗的に変更された遺伝子が、前記組み合わせた化合物によって生じた前記ダイズ植物のストレス応答を示すものである」については、ストレス応答はダイズ植物の物理的状態を示すものであり、ストレスに対する抵抗性の増加又は減少を示すことは明らかであるから、本件補正発明1における「前記相乗的または拮抗的に変更された前記1つ以上の遺伝子が、前記組み合わせた化合物によって生じた前記植物細胞の物理的状態を示すものであり、前記物理的状態が、ストレスに対する抵抗性の増加、およびストレスに対する抵抗性の減少から選択される」に相当する。
そして、引用発明の「ダイズ植物」は、本件補正発明1における「植物細胞」または「植物細胞または組織」を含んでいることは自明であるから、両者は
「植物細胞における野生型遺伝子発現を相乗的または拮抗的に変更する化合物の組合せを同定するための方法であって、
(a)同じ植物からの植物細胞または組織と、
(i) 第1の試験化合物;
(ii) 追加の試験化合物;または
(iii) 前記第1の試験化合物と前記追加の試験化合物との組合せ
のうちの1つとを少なくとも2時間接触させる工程と、
(b)
(i) 前記(a)(i)と接触させた植物細胞または組織からの第1の発現プロフィール、
(ii) 前記(a)(ii)と接触させた、同じ植物細胞または組織からの追加の発現プロフィール、および
(iii) 前記(a)(iii)と接触させた、同じ植物細胞または組織からの組み合わせた化合物の発現プロフィール
を生成する工程と、
(c)前記第1の発現プロフィール(b)(i)と、前記追加の発現プロフィール(b)(ii)と、前記組み合わせた化合物の発現プロフィール(b)(iii)とを比較する工程と、
(d)組み合わせた化合物のプロフィール(b)(iii)の発現のレベルの変化が、第1のプロフィール(b)(i)および追加のプロフィール(b)(ii)の相加変更よりも大きい場合に、相乗的または拮抗的な変更を同定する工程と
を含む方法であって、
前記相乗的または拮抗的に変更された前記1つ以上の遺伝子が、前記組み合わせた化合物によって生じた前記植物細胞の物理的状態を示すものであり、前記物理的状態が、ストレスに対する抵抗性の増加、およびストレスに対する抵抗性の減少から選択される、方法。」
である点で一致し、以下の2点で相違する。
相違点1:
本件補正発明1は、(a)の工程において、第1の化合物または追加の試験化合物の少なくとも1つが、植物に曝露されたときにその植物の遺伝子発現プロフィールに未知の効果(impact)を有することが特定されているのに対して、引用発明はかかる特定を有しない点。
相違点2:
本件補正発明1は、(b)の工程において、各々の発現プロフィールが植物細胞または組織の少なくとも20個の遺伝子または遺伝子産物の発現レベルまたはパターンを含み、前記発現プロフィールがマイクロアレイを用いて生成されたものであることが特定されているのに対して、引用発明は、各々の発現プロフィールがダイズ植物の9個の遺伝子または遺伝子産物の発現レベルまたはパターンを含み、前記発現プロフィールがRT-PCRを用いて生成されたものである点。
(3)当審の判断
上記相違点1~2について検討する。
相違点1について:
本件補正発明1における「未知の効果」は、化合物が植物に曝露されたときのその植物の遺伝子発現プロフィールの効果であって、当該効果は、単にその化合物に関する特定の遺伝子発現プロフィールを初めて生成した(それまで未知であった)ことを意味するに過ぎないものである。
そして、同じ化合物を同じ植物に曝露するときでさえ、その曝露や発現解析の条件が異なれば、得られる遺伝子発現プロフィールが同一とならないことは当該技術分野の技術常識であるから、引用発明においても、ダイズ植物と、AZCまたはPEGとを接触させ、そこから生成される特定の遺伝子発現プロフィールがそれぞれ、それまで(生成するまで)未知であることは明らかであり、AZCまたはPEGが、植物に曝露されたときにその植物の遺伝子発現プロフィールに未知の効果(impact)を有するものと認められる。
よって、上記相違点1は実質的な相違点ではない。
相違点2について:
上記記載事項(1-b)~(1-d)には、化合物を処理した際の転写応答について、マイクロアレイを用いた遺伝子発現プロフィールを生成したことが記載されているように、多数の遺伝子が網羅的に搭載されたマイクロアレイを用いて遺伝子発現プロフィールを生成する技術は、本願優先日前当業者によって広く行われていたものと認められる。
そうすると、引用発明における、AZC処理、PEG処理及びAZCとPEGの組合せ処理についてそれぞれ、RT-PCRに代えて、少なくとも20個の遺伝子または遺伝子産物の発現レベルまたはパターンを含む遺伝子発現プロフィールを、マイクロアレイを用いて生成することは、当業者であれば容易に想到し得るものである。
そして、本件補正発明1において奏される効果についても、特定の化合物の組合せが野生型遺伝子発現を相乗的または拮抗的に変更するという引用例1の記載から当業者の予想し得る程度のものであって、格別顕著な効果を奏するものともいえない。
(4)審判請求人の主張
平成28年5月6日付け審判請求書において、審判請求人は、特に、
ア.本願発明の方法によれば、例えば、ERストレス誘導化合物から開始するのではなくむしろ、未知の効果の化合物を試験して、この機能を有する組合せを見出すことを可能にするものであり、引用文献1~9のいずれもこのような本願発明の方法を教示も示唆もしていない点、また、
イ.本願発明においては、化合物の組合せにより影響される成長特性は、相乗的または拮抗的に調節される遺伝子から収集される点
を主張している。
しかしながら、上記アについては、「(3)当審の判断」の相違点1において述べたとおり、「未知の効果」は、対象となる化合物の遺伝子発現プロフィールに対する効果であって、植物が示す物理的状態や機能に対する効果ではない。
また、上記イについても、化合物の組合せにより影響される成長特性が相乗的または拮抗的に調節される遺伝子から収集されるという工程を、本件補正発明1のどの発明特定事項からも導き出すことができない。
よって、上記主張は、本件補正発明1で規定される事項に基づいていないので、いずれも採用することができない。
(5)小括
以上のとおり、本件補正発明1は引用例1に記載された発明から当業者が容易になし得るものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
よって、平成28年5月6日付けの手続補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明
平成28年5月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という)は、平成27年8月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
植物細胞の野生型遺伝子発現を相乗的または拮抗的に変更する化合物の組合せを同定するための方法であって、
(a)同じ植物からの植物細胞または組織と、
(i) 第1の試験化合物;
(ii) 追加の試験化合物;または
(iii) 前記第1の試験化合物と前記追加の試験化合物との組合せ
のうちの1つとを少なくとも2時間接触させる工程であって、前記第1の化合物または追加の試験化合物の少なくとも1つが、前記植物に曝露されたときにその植物の遺伝子発現プロフィールに未知の効果(impact)を有する、工程と、
(b)
(i) 前記(a)(i)と接触させた植物細胞または組織からの第1の発現プロフィール、
(ii) 前記(a)(ii)と接触させた、同じ植物細胞または組織からの追加の発現プロフィール、および
(iii) 前記(a)(iii)と接触させた、同じ植物細胞または組織からの組み合わせた化合物の発現プロフィール
を生成する工程であって、
各々の発現プロフィールは、前記植物細胞または組織の少なくとも20個の遺伝子または遺伝子産物の発現レベルまたはパターンを含み、前記発現プロフィールがマイクロアレイを用いて生成されたものである、工程と、
(c)前記第1の発現プロフィール(b)(i)と、前記追加の発現プロフィール(b)(ii)と、前記組み合わせた化合物の発現プロフィール(b)(iii)とを比較する工程と、
(d)組み合わせた化合物のプロフィール(b)(iii)の発現のレベルの変化が、第1のプロフィール(b)(i)および追加のプロフィール(b)(ii)の相加変更よりも大きい場合に、相乗的または拮抗的な変更を同定する工程と
を含む方法。」
1.特許法第29条第2項について
本願発明1は、本件補正発明1における発現が相乗的または拮抗的に変更する遺伝子の機能に関する限定事項が解除されたものである。
そうすると、発現が相乗的または拮抗的に変更する遺伝子の機能が限定された本願発明1の構成要件をすべて含む本件補正発明1が、「第2 2.特許法第29条第2項について」に記載したとおり、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も同様の理由により、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 結び
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-006619