特許拒絶査定不服審判
2016-001663
フラット面用表面保護フィルムの巻回体、およびその製造方法
- 審判番号
- 2016-001663
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2011-214136外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年02月04日
- 審決日
- 2017年07月31日
- 公報発行日
- 2017年11月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】積水化学工業株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人三枝国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-WZ (C09J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2011-214136「フラット面用表面保護フィルムの巻回体、およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月22日出願公開、特開2013- 72062〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本願は、平成23年9月29日の出願であって、平成27年10月26日付けで拒絶査定がなされ、平成28年2月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされたところ、これに対し、当審より、平成29年2月3日付けで拒絶理由が通知され、平成29年4月10日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
2 本願発明
本願請求項1ないし6に係る発明は、平成29年4月10日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「(A)飽和脂肪酸ビスアミドから主としてなる厚さ9~100nmの離型層、
(B)基材層となるポリオレフィン系樹脂層、
(C)スチレン系エラストマー100重量部および粘着付与剤23~42重量部を含有する粘着層
をこの順で有するフラット面用表面保護フィルムの巻回体の製造方法であって、
ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して飽和脂肪酸ビスアミドを1.5~4重量部含有する成形原料A、およびスチレン系エラストマー100重量部および粘着付与剤23~42重量部を含有する成形原料Bを共押出する工程を含む、フラット面用表面保護フィルムの巻回体の製造方法。」(以下、「本願発明」という。)
3 平成29年2月3日付けの当審拒絶理由の理由1の概要
上記拒絶理由の理由1は、要するに、本願発明は、本願出願日前に頒布された下記引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用例1:特開2010-241152号公報
4 引用例1の記載事項
上記拒絶理由の理由1で引用した引用例1には、以下の事項が記載されている。
(摘示1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和脂肪酸ビスアミドおよびポリオレフィン系樹脂を含有する成形原料A、およびスチレン系エラストマーを含有する成形原料B
を共押出することによって製造される、
(A)飽和脂肪酸ビスアミドから主としてなる、厚さが1~100nmである離型層、
(B)基材層としてのポリオレフィン系樹脂層、および
(C)粘着剤層としてのスチレン系エラストマー層
が積層されたプリズムシート用表面保護フィルム。
【請求項2】・・・(略)・・・
【請求項7】
(A)飽和脂肪酸ビスアミドから主としてなる厚さ1~100nmの離型層、
(B)基材層となるポリオレフィン系樹脂層、
(C)粘着剤層となるスチレン系エラストマー層がこの順で積層されたプリズムシート用表面保護フィルムの製造方法であって、
ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して飽和脂肪酸ビスアミドを1~4重量部含有する成形原料A、およびスチレン系エラストマーを含有する成形原料Bを共押出する、プリズムシート用表面保護フィルムの製造方法。
【請求項8】・・・(略)・・・」
(摘示2)「【0002】
プリズムシートは、レンズ面となる複数の三角柱状のプリズムを片面に有しており、液晶ディスプレイの輝度を向上させることができる。プリズムに損傷を与えないために、プリズムシートの表面に形成されているプリズムに表面保護フィルムを貼り付けて保護している。
・・・(略)・・・
【0004】
一方、表面保護フィルムは巻物として取り扱われる。ゴム系粘着剤は、一般的に、巻物から繰り出すときに必要な力(展開力)が大きく、巻物として長期間保管すると展開力が次第に上昇するといった問題もあった。
【0005】
展開力の大きな表面保護フィルムは、表面保護フィルムが引っ張られた状態で巻物から繰り出されるので、プリズムシートに表面保護フィルムを貼り付けたときに表面保護フィルムがプリズムシートとの接着面から浮きあがる箇所(いわゆる、「浮き」とよばれる箇所)が発生するといった問題点があった。このため、展開力が小さい(いわゆる、「軽展開」と呼ばれる)表面保護フィルムが求められていた。
【0006】
表面保護フィルムに離型層を設けると、展開力を小さくできるが、基材層から離型剤が剥がれて粘着剤層に転写されると、表面保護フィルムの粘着力が低下するという問題があった。プリズムシートのレンズ面に表面保護フィルムを適用する場合、レンズ面の凹凸と表面保護フィルムの粘着剤層との接触面積が小さいので、粘着剤層に転写された離型剤が粘着剤層とレンズ面の凹凸との接触面積を減少させ、表面保護フィルムの粘着力が大きく低下する。特許文献1には、離型層が粘着剤層に転写しにくい表面保護フィルムが提案されている。」
(摘示3)「【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、巻物からの展開力が小さく、かつ粘着剤層に離型層が付着しても粘着力が低下しにくいプリズムシート用表面保護フィルムを提供することができる。
【0013】
さらに、本発明によれば、非常に薄い離型層が形成されたプリズムシート用表面保護フィルムを製造する製造方法を提供することができる。」
(摘示4)「【0017】
離型層の厚さは、1~100nmである。
厚さの下限は、好ましくは5nm、より好ましく7nm、更に好ましくは9nmである。一方、厚さの上限は、好ましくは80nm、より好ましく60nm、更に好ましくは40nmである。」
(摘示5)「【0018】
本発明のプリズムシート用表面保護フィルムを巻物の形態にしたときに、上記離型層が粘着剤層と接触し、粘着剤層の表面に転写しても、離型層の厚さが100nm以下に制御されているため、プリズムシート表面のプリズムの稜線が離型層を突き破り、なおかつプリズムの粘着剤への食い込み深さが0.3μm以上であれば、浮きなどの発生が無く、実用上問題無い粘着力を確保することが出来る。
【0019】
離型層の厚さが100nm以下であることにより、プリズムシートへの貼り付け時に、プリズムシートの三角柱状のプリズムの稜線によって、表面保護フィルムを巻物から巻き戻したときに粘着剤層に付着(すなわち、転写)した離型層が突き破られ、プリズムシートと粘着剤層とが接触する。これによって、実用上十分な粘着力が得られる。
【0020】
一方、離型層の厚さが1nm以上であることにより、巻物からの展開力を十分に小さくできる。」
(摘示6)「【0033】
本発明の粘着剤層は、通常、粘着付与剤を含有する。
【0034】
粘着付与剤としては、例えば、脂肪族系共重合体、芳香族系共重合体、脂肪族・芳香族系共重合体や脂環式系共重合体等の石油系樹脂、クマロン-インデン系樹脂、テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、重合ロジン等のロジン系樹脂、(アルキル)フェノール系樹脂、キシレン系樹脂又はこれらの水素添加物などの、一般に粘着剤に使用されるものを特に制限なく使用することができる。粘着付与剤の軟化点が、90~140℃のものを用いることがより好ましい。これらの粘着付与剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、剥離性及び耐候性などを高めるために、水素添加された樹脂を粘着付与剤として用いることがより好ましい。また、オレフィン樹脂との混合物として市販されている粘着付与剤を用いてもよい。
【0035】
粘着付与剤は、共役ジエン化合物単位又は水素添加された共役ジエン化合物単位を有する重合体ブロックBに対して相溶することが好ましい。
【0036】
粘着付与剤は、表面保護フィルムを被着体から剥離する際に糊残りを防止できる量で使用する。例えば、粘着付与剤の配合割合は、スチレン系エラストマー100重量部に対し、5~50重量が好ましく、より好ましくは20~40重量部である。配合割合は、粘着付与剤の種類によって異なり、例えば、軟化点が90~140℃である粘着付与剤の場合、スチレン系エラストマー100重量部に対し、15~40重量が好ましく、より好ましくは20~30重量部である。粘着付与剤の量がこの範囲内であれば、表面保護フィルムをプリズムシートに長時間貼り付けておいても粘着力が低下しにくく、プリズムシートと貼り合わせた表面保護フィルムが浮きあがりにくい。」
(摘示7)「【0046】
成型原料Aが含有する飽和脂肪酸ビスアミドの量を調整することにより、基材層の表面に形成される離形層の厚さを調整することができる。成型原料Aが含有する飽和脂肪酸ビスアミドの量の下限は、ブリードアウトによって離型層を形成させるために、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、好ましくは、1重量部、より好ましくは1.5重量部である。一方、成型原料Aが含有する飽和脂肪酸ビスアミドの量の上限は、適当な厚さの離型層の形成によってプリズムシートとの十分な粘着力を得る観点、および剥離した離型層が成形ロールに付着する事を抑制する観点から、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、好ましくは4重量部、より好ましくは2~3重量部である。」
(摘示8)「【0054】
<表面保護フィルム>
上述のように、本発明のプリズムシート用表面保護フィルムは、通常、巻き取られて、巻物として保管される。この際、離型層は、巻きつけた粘着剤層の粘着面に接触する。この巻物を展開してプリズムシートと貼り付けるとき、離型層の一部は粘着面の表面に転写される。通常、離型層の転写により、表面保護フィルムの粘着力は大幅に低下するが、本発明の表面保護フィルムにおいては、プリズムシートのプリズムの稜線が転写した離型層を突き破る。これにより、離型層が転写されていたとしても粘着剤層の粘着力が発揮される。」
(摘示9)
「【0088】
(実施例8)
成形原料Aとして、ポリプロピレン「Y900GV(プライムポリマー社製)」100重量部と飽和脂肪酸ビスアミドであるエチレンビスステアリン酸アミド「アルフローH50F(日油社製)」3重量部からなる混合物と、成形原料Bとして、スチレン系エラストマー「ダイナロン1320P(JSR社製)」100重量部、粘着付与剤としての粘着付与剤「アルコンP100(荒川化学社製)」15重量部、および酸化防止剤としての「イルガノックス1010(チバスペシャルティケミカルズ社製)」1重量部からなる混合物を、下記の条件で、Tダイ法により共押出し、表面保護フィルムを作成した。表面保護フィルムは、厚さが40μm、基材層の厚さが34μm、粘着剤層の厚さが6μmであった。
また、表面保護フィルムの離型層の厚さは49nmであった。
<条件>
押し出し温度:200℃
キャストロール温度:25℃
【0089】
(実施例9)
粘着付与剤「アルコンP100(荒川化学社製)」の量を20重量部にしたこと以外は実施例8と同様の方法で表面保護フィルムを得た。
また、表面保護フィルムの離型層の厚さは50nmであった。
【0090】
(実施例10)
粘着付与剤「アルコンP100(荒川化学社製)」の量を25重量部にしたこと以外は実施例8と同様の方法で表面保護フィルムを得た。
また、表面保護フィルムの離型層の厚さは48nmであった。
【0091】
(実施例11)
粘着付与剤「アルコンP100(荒川化学社製)」の量を30重量部にしたこと以外は実施例8と同様の方法で表面保護フィルムを得た。
また、表面保護フィルムの離型層の厚さは53nmであった。
【0092】
(実施例12)
粘着付与剤「アルコンP100(荒川化学社製)」の量を35重量部にしたこと以外は実施例8と同様の方法で表面保護フィルムを得た。
また、表面保護フィルムの離型層の厚さは55nmであった。
【0093】
(実施例13)
粘着付与剤「アルコンP100(荒川化学社製)」の量を40重量部にしたこと以外は実施例8と同様の方法で表面保護フィルムを得た。
また、表面保護フィルムの離型層の厚さは48nmであった。
【0094】
(実施例14)
粘着付与剤「アルコンP100(荒川化学社製)」の量を45重量部にしたこと以外は
実施例8と同様の方法で表面保護フィルムを得た。
また、表面保護フィルムの離型層の厚さは52nmであった。
・・・(略)・・・
【0096】
(評価)
得られた実施例8~14及び比較例8~9の表面保護フィルムについて、以下の項目を評価した。
それらの結果を表2に示す。
・・・(略)・・・
【0098】
(2)初期粘着力
表面保護フィルムを作成してから3日間以内に、プリズムシートのレンズ面を覆うように貼り付けた。プリズムシートとしては、厚さが130μmのアクリル樹脂からなり、プリズムのピッチ50μm、高さ25μmであるものを用意した。貼り付け条件は、室温23℃及び相対湿度50%の環境下、2kgの圧着ゴムローラーを用いて、300mm/分の速度で貼り付け、その状態で30分間放置した後、JIS Z0237に準拠し、25mm幅における180度剥離強度を300mm/分の速度で測定した。この際の剥離方向はプリズムの稜線方向とした。このようにして測定された剥離強度を初期接着力とした。
【0099】
(3)23℃貼付経時粘着力
表面保護フィルムの貼り付け後、23℃環境下で1週間放置した以外は初期粘着力と同様の方法で測定した粘着力を23℃貼付経時粘着力とした。
[結果]
【表2】
」
(摘示10)
「【0101】
(実施例15)
成形原料Aとして、ポリプロピレン「Y900GV(プライムポリマー社製)」100重量部と飽和脂肪酸ビスアミドであるエチレンビスステアリン酸アミド「アルフローH50F(日油社製)」3重量部からなる混合物と、成形原料Bとして、スチレン系エラストマー「ダイナロン1320P(JSR社製)」100重量部、粘着付与剤としての粘着付与剤「アルコンP100(荒川化学社製)」20重量部、および酸化防止剤としての「イルガノックス1010(チバスペシャルティケミカルズ社製)」1重量部からなる混合物厚を、下記の条件で、Tダイ法により共押出し、表面保護フィルムを作成した。表面保護フィルムは、厚さが40μm、基材層の厚さが34μm、粘着剤層の厚さが6μmであった。
また、表面保護フィルムの離型層の厚さは50nmであった。
【0102】
<条件>
押し出し温度:200℃
キャストロール温度:25℃
【0103】
(比較例10)
飽和脂肪酸ビスアミドを使用しなかったこと以外は実施例15と同様の方法で表面保護フィルムの巻物を得た。
【0104】
(評価)
上記のようにして得られた各表面保護フィルムについて、以下の項目を評価した。それらの結果を表3に示す。
【0105】
(1)展開力
実施例及び比較例の各表面保護フィルムの50mm幅の巻物をJIS Z0237に準拠し、20m/分の巻戻し速度で高速巻戻し力を測定し、展開力とした。
【0106】
展開力が2N/50mm以下の場合を優(◎)、2N/50mmを超え、3.5N/50mm以下である場合を良(○)、展開力が3.5N/50mmを超える場合を不良(×)と評価した。
【0107】
(2)粘着力(常温)
表面保護フィルムの巻物を作成後23℃の恒温層で1週間養生させた物を、プリズムシートのレンズ面及びアクリル板に貼り付けた。貼り付け条件は、室温23℃及び相対湿度50%の環境下、2kgの圧着ゴムローラーを用いて、300mm/分の速度で貼り付けた後、23℃環境下で1日間放置した物をJIS Z0237に準拠し、25mm幅における180度剥離強度を300mm/分の速度で測定した。このようにして測定された粘着力をそれぞれ、レンズ面粘着力(常温)、フラット面粘着力(常温)とした。
【0108】
(3)粘着力(40℃)
表面保護フィルムの巻物の養生条件が40℃にしたこと以外は粘着力(常温)と同様の方法で測定した粘着力をそれぞれ、レンズ面粘着力(40℃)、フラット面粘着力(40℃)とした。
【0109】
(4)温度安定性
レンズ面、フラット面それぞれの粘着力(40℃)を粘着力(常温)で割った値を粘着力の低下比率とした。低下比率が70%以上の場合を安定性良(○)、70%未満の場合を安定性不良(×)と評価した。
【0110】
[結果]
【表3】
」
5 当審の判断
(1)引用例1に記載の発明
ア 上記(摘示1)の【請求項7】には、「(A)飽和脂肪酸ビスアミドから主としてなる厚さ1~100nmの離型層、
(B)基材層となるポリオレフィン系樹脂層、
(C)粘着剤層となるスチレン系エラストマー層がこの順で積層されたプリズムシート用表面保護フィルムの製造方法であって、
ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して飽和脂肪酸ビスアミドを1~4重量部含有する成形原料A、およびスチレン系エラストマーを含有する成形原料Bを共押出する、プリズムシート用表面保護フィルムの製造方法。」が記載されている。
イ 上記(摘示4)の記載によれば、上記「離型層」の厚さの下限は、更に好ましくは「9nm」であるとされている。
ウ 上記(摘示6)の段落【0036】の記載によれば、上記「成形原料B」は、スチレン系エラストマー100重量部および、(より好ましくは)粘着付与剤20~40重量部を含有するものであるといえるし、上記「成形原料B」から製造される上記「(C)粘着剤層となるスチレン系エラストマー層」も、上記「成形原料B」と同様にスチレン系エラストマー100重量部および、(より好ましくは)粘着付与剤20~40重量部を含有するものであるといえる。
エ 上記(摘示7)の記載によれば、成型原料Aが含有する飽和脂肪酸ビスアミドの量の下限は、より好ましくは「1.5重量部」であるとされている。
オ 上記(摘示2)の段落【0004】の記載によれば、上記「表面保護フィルム」は、巻物として取り扱われるものであるから、引用例1には、上記「表面保護フィルム」の「巻物」としての発明も記載されているといえる。
上記アないしオを踏まえると、引用例1には、
「(A)飽和脂肪酸ビスアミドから主としてなる厚さ9~100nmの離型層、
(B)基材層となるポリオレフィン系樹脂層、
(C)粘着剤層となるスチレン系エラストマー100重量部および粘着付与剤20~40重量部を含有する粘着剤層がこの順で積層されたプリズムシート用表面保護フィルムの巻物の製造方法であって、
ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して飽和脂肪酸ビスアミドを1.5~4重量部含有する成形原料A、およびスチレン系エラストマー100重量部および粘着付与剤20~40重量部を含有する成形原料Bを共押出する、プリズムシート用表面保護フィルムの巻物の製造方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
(2)対比・判断
ア 本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「粘着剤層」及び「巻物」は、それぞれ、本願発明の「粘着層」及び「巻回体」に相当する。
イ 成形原料A、および成形原料Bを共押出する引用発明の「プリズムシート用表面保護フィルムの巻物の製造方法」が、成形原料A、および成形原料Bを共押出する「工程」を含むものであることは、当業者にとり明らかであるといえる。
ウ 引用発明の「成形原料B」及び「粘着剤層」のスチレン系エラストマー100重量部に対する粘着付与剤の含有量(20~40重量部)は、本願発明の粘着付与剤の含有量(23~42重量部)と、23~40重量部の範囲で一致すると共に、引用発明の離型層の厚さ、及びポリオレフィン系樹脂に対する飽和脂肪酸ビスアミドの含有量は、本願発明の離型層の厚さ、及びポリオレフィン系樹脂に対する飽和脂肪酸ビスアミドの含有量とその範囲が一致している。
エ 引用発明の「プリズムシート用表面保護フィルム」は、本願発明の「フラット面用表面保護フィルム」と、共に「表面保護フィルム」であるという点で共通している。
上記アないしエを踏まえると、本願発明と引用発明は、
「(A)飽和脂肪酸ビスアミドから主としてなる厚さ9~100nmの離型層、
(B)基材層となるポリオレフィン系樹脂層、
(C)スチレン系エラストマー100重量部および粘着付与剤23~40重量部を含有する粘着層
をこの順で有する表面保護フィルムの巻回体の製造方法であって、
ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して飽和脂肪酸ビスアミドを1.5~4重量部含有する成形原料A、およびスチレン系エラストマー100重量部および粘着付与剤23~40重量部を含有する成形原料Bを共押出する工程を含む、表面保護フィルムの巻回体の製造方法。」という点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点)
「表面保護フィルム」に関し、本願発明は、「フラット面保護用」であるのに対し、引用発明は、「プリズムシート用」である点。
上記(相違点)について、以下、検討する。
上記(摘示2)の段落【0004】には、表面保護フィルムは巻物として取り扱われるところ、ゴム系粘着剤は、一般的に、巻物から繰り出すときに必要な力(展開力)が大きく、巻物として長期間保管すると展開力が次第に上昇するといった問題があることが記載され、同段落【0006】には、展開力を小さくするため、表面保護フィルムに離型層を設けると、展開力を小さくすることはできるが、他方、基材層から離型剤が剥がれて粘着剤層に転写されると、表面保護フィルムの粘着力が低下するという問題があることが記載されている。さらに同段落には、プリズムシートの場合には、プリズムシートのレンズ面には凹凸があり、レンズ面と表面保護フィルムの粘着剤層との接触面積が小さく、表面保護フィルムの粘着力が大きく低下することが記載されている。
そして、引用発明は、この問題の解決を図るものであるが、これらの記載に接した当業者であれば、基材層から離型剤が剥がれて粘着剤層に転写されると、凹凸のない表面(フラット面)に表面保護フィルムを貼り付ける場合に比べ、レンズ面の表面に凹凸が存在するため、粘着剤層との接触面積が小さくなるプリズムシートに表面保護フィルムにを貼り付ける場合の粘着力の低下が大きくなることを理解することができるといえる。
そうすると、当業者であれば、表面保護フィルムが、基材層から離型剤が剥がれて粘着剤層に転写された場合に、粘着力の低下が大きいプリズムシートに対して、良好な粘着力を発揮するのであれば、粘着剤層に転写された離型層の影響が、プリズムシートに比べて小さい凹凸のない表面(フラット面)に対しても、良好な粘着力を発揮することができると理解するのが普通であるといえる。
さらに、引用例1には、上記(摘示10)の段落【0107】~【0110】、【表3】には、引用発明の「表面保護フィルム」の具体例である同(摘示10)の段落【0101】の(実施例15)の「表面保護フィルム」を、フラット面の例示であるアクリル板に貼り付けることが記載されている。
そして、この(実施例15)の「表面保護フィルム」のアクリル板に対する「フラット面粘着力」は、同(摘示10)の段落【0107】、【表3】に示される結果によれば、「5.8」(N/25mm)(巻物を作成後常温の条件である23℃の恒温槽で1週間養生)であり、本願明細書の段落【0114】【表1】の実施例1~6の「外周付近」及び「巻芯付近」の初期粘着力(4.0~5.2(N/25mm))と比べても、「表面保護フィルム」として十分な粘着力を有することが示されている。
ここで、同(摘示10)の段落【0101】の記載によれば、上記(実施例15)の「表面保護フィルム」は、粘着剤層が、スチレン系エラストマー100重量部に対して粘着付与剤を20重量部含むものであり、本願発明の粘着付与剤の含有量(23~42重量部)より少ないものであるが、上記(摘示9)の【表2】に示される、実施例8~14における、粘着剤層の粘着付与剤配合部数が、15重量部から45重量部に増加するのに対応して、「表面保護フィルム」の粘着力を示す「初期粘着力」及び「23℃貼付経時粘着力」が増加する傾向を見て、当業者であれば、「表面保護フィルム」の粘着剤層の粘着付与剤の配合部数が20重量部の場合だけでなく、より高い場合についても、「表面保護フィルム」は「フラット面」に対して良好な粘着力を発揮することを認識することができるといえる。
そうすると、引用発明の「表面保護フィルム」を、「フラット面保護用」とすることは、当業者ならば容易に想到し得るといえる。
本願発明の効果は、本願明細書の段落【0012】の記載によれば、巻回体のどの部分から繰り出した表面保護フィルムであっても、フラット面への粘着力が一定の範囲内にあることであるといえるところ、この効果は、同段落【0045】の「粘着付与剤の量が23重量部未満である場合は、粘着層の粘着力が低いので、表面保護フィルムの巻回体中での位置によって、後記で説明する粘着層の粘着面への離型層の一部の転写が生じる場合と生じない場合とが発生する。」との記載によれば、粘着層の粘着付与剤の含有量に起因するものといえる。
これに対し、引用発明は、粘着層の粘着付与剤の含有量(20~40重量部)のほとんどの範囲(23~40重量部)で、本願発明の範囲に重複するものであるから、引用発明においても、本願発明の上記の効果は、当然奏されているものというべきで、格別なものとすることはできない。
よって、本願発明は、引用発明及び引用例1に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
(3)平成29年4月10日に提出された意見書における請求人の主張について
同意見書で、請求人は、上記(摘示10)の段落【0110】【表3】で、表面保護フィルムの巻物を作成後、常温の条件である23℃で1週間養生させた表面保護フィルムのフラット面に対する粘着力に対して、40℃で養生させた表面保護フィルムのフラット面に対する粘着力が低下していることに関し、『しかしながら、表面保護フィルムは、通常、使用時まで、液晶パネルを大量生産する製造工場の倉庫等の広大な場所に放置されます。
ここで、このような広大な場所の温度を、23℃等の適切な温度条件にすることには膨大な費用がかかります。
一方、液晶パネルは、価格競争により、利幅の小さい製品になっており、当然ながらそれに使用される保護フィルムの保管コストに費用をかけることは、実際のところ、不可能であり、競争力を低下させます。
従って、表面保護フィルムを多大な空調コストをかけずに保管(又は放置)することを可能にする本発明の効果は、多大な効果であります。ここで、フィルムロールの一部が高温条件での保管で適切な性能を失った場合、その部分は廃棄するか、あるいは、試行錯誤してフィルム貼り付け装置の運転条件をマニュアル操作する必要が生じ、これは、実際の産業的使用のコスト競争上、大きなデメリットになります。
ここで、プリズム面であれば、プリズムがシートに食い込むことから、このような温度によるフィルムの変化があっても粘着の問題は生じ難いのに対し、このような構造・機能を有さないフラット面に対して、苛酷な条件(例えば、空調の無い夏場の倉庫)に保管したフィルムロールの任意の場所のフィルムを適切に粘着させられることは、引用文献1の記載からは、到底、予想し得ない、驚くべき効果であります。』と主張している。
上記の主張によれば、本願発明の表面保護フィルムでは、例えば、40℃等の苛酷な条件に保管したフィルムロールの任意の場所のフィルムでも、(粘着力が低下せず)適切に粘着させられるという効果があることを主張していると解されるが、本願明細書の段落【0107】に「(2)初期粘着力(外周付近、巻芯付近)
作成後23℃の恒温層で1週間養生させた表面保護フィルムの巻回体の外周付近および巻芯付近の表面保護フィルムをそれぞれ幅25mm、長さ150mmの大きさに切り取り、次の貼付条件で、アクリル板のフラット面(表面粗さRa:0.10nm以下)に貼り付けた。」と記載されているように、本願発明の被着面(アクリル板のフラット面)に対する粘着力は、作成後23℃の恒温層で1週間養生させた表面保護フィルムの巻回体でしか評価しておらず、例えば、40℃で保管した場合に、被着面に対する粘着力が低下しないといったことは、本願明細書の記載からは読み取ることができない。
そうすると、同意見書での主張は、本願明細書の記載に基づくものではないから、採用することができない。
また、仮に、本願発明に上述の効果があったとしても、上記(摘示9)の【表2】に示される、実施例8~14における、粘着剤層の粘着付与剤配合部数が、15重量部から45重量部に増加するのに対応して、「表面保護フィルム」の粘着力を示す「初期粘着力」及び「23℃貼付経時粘着力」が増加する傾向を見て、当業者であれば、「表面保護フィルム」の粘着剤層の粘着付与剤の配合部数をより高めれば、40℃で保管した場合の被着面に対する粘着力を十分なものとすることができ、粘着力の低下が問題とならないであろうことは、容易に予測できるといえる。
そうすると、本願発明に上述の効果があるとしても、その効果を格別のものとすることはできない。
6.むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-001663