特許拒絶査定不服審判
2016-001303
磁気溶解方法及び装置
- 審判番号
- 2016-001303
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-529754外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年01月29日
- 審決日
- 2016年12月20日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アコーニ バイオシステムズ インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】阿部 正博
- 【請求人】バイオ-ラッド ラボラトリーズ インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】阿部 正博
- 分類
- P18 .121-Z (C12M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-529754「磁気溶解方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年3月24日国際公開、WO2011/034621、平成25年2月14日国内公表、特表2013-505018〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本願は,平成22年9月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年9月21日 米国)を国際出願日とする特願2012-529754号であって,手続の経緯は次のとおりである。
平成24年 5月17日 翻訳文提出
平成26年12月25日付け 拒絶理由通知書
平成27年 4月25日 意見書・手続補正書
平成27年 9月16日付け 拒絶査定
平成28年 1月29日 審判請求書
2 本願発明
本願の請求項1~17に係る発明は,平成27年4月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項8に係る発明は,次のとおり記載されている。
「【請求項8】
磁気撹拌素子と複数のビーズを内側に配置した容器であって、該容器の内側で磁気撹拌素子を回転させることができるような寸法に形成され、表面上に配置された前記容器、及び円筒形磁石の中心を通り該表面に対して平行な軸の周囲で回転する該円筒形磁石であって、該磁気撹拌素子を該容器内に配置された細胞の崩壊を生じるために十分な力で該複数のビースと衝突させる前記円筒形磁石、を含む細胞溶解装置。」
ただし,上記の「該複数のビースと衝突させる」との記載については,請求項8の文脈から見ると,明らかに「ビース」は「ビーズ」の誤記であると認められる。また,当該記載が誤記であることは,本願明細書の他所の記載を参酌しても明らかである。
したがって,本願の請求項8に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりであると認める。
「【請求項8】
磁気撹拌素子と複数のビーズを内側に配置した容器であって、該容器の内側で磁気撹拌素子を回転させることができるような寸法に形成され、表面上に配置された前記容器、及び円筒形磁石の中心を通り該表面に対して平行な軸の周囲で回転する該円筒形磁石であって、該磁気撹拌素子を該容器内に配置された細胞の崩壊を生じるために十分な力で該複数のビーズと衝突させる前記円筒形磁石、を含む細胞溶解装置。」
3 引用刊行物
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された国際公開第2009/092662号(以下,「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。なお,独語から日本語への翻訳は当審が行った。
(1-a)「細胞を溶解するための装置であって,容器(1)を備え,容器(1)の中に配置されたビーズまたは粒体(4),及び/または,容器(1)からの液体の排出または容器(1)への液体の供給を行うための配管(7)を備え,さらに,容器の中に配置され,細胞を崩壊するための,好ましくは磁気撹拌装置(3,8,9)である撹拌装置を備える装置。」(第24頁第8行~第13行,請求項10)
(1-b)「驚くべきことに,磁気撹拌装置の磁気撹拌棒による機械的崩壊は,従来技術によって知られている振動装置による機械的崩壊と同等に効果的であることが明らかとなった。振動の動作を模倣するために,磁気撹拌装置の回転方向についての多数回の変更が必要であるかどうかを調査したが,予想に反して,磁気撹拌装置の回転方向の変化が効率性に与える影響はわずかであった。したがって,効率的な溶解を可能とするために,磁気撹拌装置の回転は一方向のみを提供すれば十分である。」(第5頁第9行~第17行)
(1-c)「ある実施形態において,磁気撹拌装置は磁気撹拌棒を含む。本発明の有利な実施形態においては,撹拌棒の長さは容器の底面に水平に横たわることができないように選択される。こうすることによって,待機状態においては,原則として,撹拌棒は一端が容器の底に静置され,もう一端は容器の壁に隣接する。ここで,容器の底は,容器の底,フィルターまたはフリットであってもよい。このように,実施形態によっては,撹拌棒の長さは,容器の底の直径,または,使用目的に応じて容器の底に水平に配置されるフリットの直径よりも長い。概して,この実施形態によって溶解効率が大きく改善することが判明した。・・・(途中省略)・・・
しかしながら,液体の容量がとても少ない場合には,本方法の効率性に関して顕著な制約を受けることなく,磁気撹拌装置の磁気撹拌棒を水平に横たえるように挿入することも十分であろう。」(第5頁第28行~第6頁第18行)
(1-d)「典型的に,好ましくはガラスからなる粒体またはビーズの直径は,約600μmである。」(第6頁第28~29行)
(1-e)「第1図は,生体材料の自動処理のための装置の構造を模式的に示している。以降において溶解容器と称する容器から,液体やその他の材料の望ましくない漏出を回避するため,円錐形の容器1は,蓋2によって封止されている。容器1(底面の直径0.7cm,頂部の直径2.0cm,内部の高さ2.5cm,容量約3.2ml)の内部には,細胞の崩壊の間の撹拌に用いられる撹拌棒3が存在する。さらに,容器1は,ポリプロピレンからなるフリット5の上に静置されたガラスビーズ4を含む。フリットの直径は7mmである。フリット5は,1.5mmの厚さを有し,50~100μmの直径を有する貫通孔を備えている。撹拌棒3は,フリット5の直径よりも長いために,容器の底を形成するフリットの上に水平に配置させることができない。容器1は,フリット下方の漏斗形状の窪みを有する基板6の上に配置される。漏斗形状の窪みの底端部は配管7に貫通している。磁石8は,基板6及び容器1の下方に,電気モーターの軸上に,水平方向に調整されて配置されている。電子モーターの回転方向は,極性反転スイッチ10によって変更可能である。」(第8頁第7行~第25行)
(1-f)「
」(第1図)
ここで,引用例1には,ビーズを複数とすることについて文言上の記載はないものの,上記記載事項(1-e)に記載される容器の寸法と,上記記載事項(1-d)に記載されるビーズの直径600μmとの比率を考えると,細胞の溶解が十分に行われるためには,複数のビーズが必要であると考えられる。それに加えて,上記記載事項(1-f)にも示されるように,第1図には,ビーズが複数存在するように記載されている。このような事情を勘案すると,引用例1において,複数のビーズが用いられていることが明らかである。
また,上記記載事項(1-a),(1-e)及び(1-f)に示される「細胞を溶解するための装置」の構造からすると,磁気撹拌棒とビーズが容器の内部に混入されているため,磁気撹拌棒が運動すれば同一の容器内に存在するビーズと衝突することは明らかであり,かつ,ビーズを用いることなく,磁気撹拌棒の運動させるだけでは,細胞の崩壊を生じるための十分な力が得られないことは技術常識であることから,磁気撹拌棒とビーズとの衝突に起因して細胞の崩壊が生じていることも明らかである。そして,上記記載事項(1-b)に示されるように,磁気撹拌棒の運動によって細胞の崩壊が生じているということは,磁石の回転によって磁気撹拌棒を複数のビーズと衝突させるために十分な力を与えていることに他ならない。
さらに,上記記載事項(1-e)の「磁石は・・・水平方向に調整されて配置されている」との記載,及び,上記記載事項(1-f)に示される図面中の特に「磁石8」の部分を参酌すると,引用発明において,磁石の回転軸は,基板の表面に対してほぼ垂直方向であると認められる。
したがって,上記記載事項(1-a)~(1-f)を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「磁気撹拌棒と複数のビーズを内側に配置した容器であって、基板上に配置された前記容器、及び基板の表面に対して垂直な軸の周囲で回転する磁石であって、該磁気撹拌棒を該容器内に配置された細胞の崩壊を生じるために十分な力で該複数のビーズと衝突させる前記磁石、を含む細胞溶解装置。」(以下,「引用発明」という。)
(2)引用例2
原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用された米国特許第6176609号明細書(以下,「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。なお,英語から日本語への翻訳は当審が行った。
(2-a)「本発明は,二次元に配列された各容器の内容物を混合する方法を提供するものであって,各容器は内容物の混合に用いられる際に垂直軸を有し,当該方法は次の段階を含む。
(a)当該容器内に磁気撹拌素子を配置する。そして
(b)容器が内容物の混合に用いられる際に,永久磁石を非垂直の回転軸の周りに回転させる。つまり,各容器の垂直軸の周り以外の少なくともひとつの方向に磁気撹拌素子を回転させるために,磁石の当該回転が各容器内の非水平の面内で360°の磁力線の回転が行われるように配置する。
これによって,当該磁気撹拌素子を含む各容器の内容物は,磁気撹拌素子の回転によって混合される。」(第2欄第28行~第45行)
(2-b)「第3図のa,b,c及びdは,回転撹拌ディスク(13)が,水平軸の周りを回転する垂直配向された駆動磁石(84)の存在下において,同一の方向に継続的に移動及び回転する様子を示している。駆動磁石(84)の回転に伴い,ディスク(14及び15)は,反対方向に継続的な回転動作を生じる駆動磁石の間の磁場に対して自らの磁極が整合するように回転する。」(第7欄第21行~第28行)
(2-c)「
」(第3図)
(3)引用例3
周知技術の存在を明示するために当審において新たに引用する国際公開第2005/099854号(以下,「引用例3」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。
(3-a)「図2は、磁場発生部の正面図を示している。図示するように、円筒形の永久磁石12が、矢印方向(時計方向)に回転していくと、静磁場Aに形成される磁束Cの密度が変化していく。永久磁石12は回転軸を中心にN極とS極が点対称に位置しているため、静磁場Aに形成される磁束Cの密度は、1回転を1周期として変化する。」(段落【0025】)
(3-b)「
」(第2図)
4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「磁気撹拌棒」は,本願発明の「磁気撹拌素子」に相当する。
また,引用発明において,容器が「基板上に配置された」と記載されているところ,つまり,引用発明の容器は基板の表面上に配置されていることから,本願発明の「表面上に配置された」に相当する。
したがって,本願発明と引用発明とは,
「磁気撹拌素子と複数のビーズを内側に配置した容器であって、表面上に配置された前記容器、及び回転する磁石であって、該磁気撹拌素子を該容器内に配置された細胞の崩壊を生じるために十分な力で該複数のビーズと衝突させる前記磁石、を含む細胞溶解装置。」
である点で一致し,以下の点で一応相違する。
相違点1:本願発明においては,容器の寸法について,「容器の内側で磁気撹拌素子を回転させることができるような寸法に形成され」ている一方,引用発明においては,そのような特定がなされていない点。
相違点2:本願発明においては,磁石が「該表面に対して平行な軸の周囲」で回転しているのに対し,引用発明においては,磁石が「該表面に対して垂直な軸の周囲」で回転しており,また,本願発明において,磁石が回転する軸は「磁石の中心」を通るのに対して,引用発明には,そのような特定がなされていない点。
相違点3:本願発明においては,「円筒形磁石」が用いられているのに対して,引用発明においては,磁石の形状について特定がなされていない点。
5 当審の判断
(1)相違点1について
引用例1の記載事項(1-c)には,撹拌棒の長さを容器の底の直径よりも長くすることによって容器の底に水平に横たわらないようにすることで溶解効率を改善したことが記載されている。しかしながら,このように磁気撹拌棒が傾斜して配置されている状態においても水平方向のベクトルが少なからず存在しているところ,引用例1の記載事項(1-b)によれば,磁気撹拌装置を回転させており,また,記載事項(1-f)には,磁石のN極とS極が回転する方向も示されていることから,磁石のN極とS極を回転することによって,その上方の容器内に配置された磁気撹拌棒も,そのN極とS極が磁場変動作用によって,磁石の回転と同じ方向に回転すると考えられる。
つまり,引用発明においても,本願発明と同様に容器の内側で磁気撹拌棒が回転するように容器の寸法が設定されている。
また,引用例1の記載事項(1-c)によれば,液体の容量が少ない場合においては,磁気撹拌棒が水平方向に横たわって配置されることが記載されているところ,この場合には,容器の底辺の直径が磁気撹拌棒の長さよりも長くなるように形成されていると認められる。そして,このような場合においては,撹拌棒はほぼ水平方向のベクトルのみであるように配置されていることから,駆動する磁石の回転による磁場変動に追従するように,磁気撹拌棒が水平面上で回転すると考えられる。
したがって,相違点1においては,引用発明と本願発明とが実質的に相違するものではない。
(2)相違点2及び相違点3について
引用例2には,上記記載事項(2-a)及び(2-b)に示されるように,駆動磁石の回転軸を水平方向とすることが記載されており,これによって磁気撹拌素子を非水平面で回転するようにしている。
ここで,引用例1,2に接した当業者であれば,引用発明においては,回転する磁気撹拌棒,ビーズ,細胞との間に衝突が生じれば,その物理的作用によって細胞の崩壊が可能であることは十分に理解できる。つまり,細胞の崩壊を目的する観点からすると,磁気撹拌棒を回転させるために磁石が回転する回転軸は適宜変更可能なものであって,これを変更することで本質的な影響を受けないことも当業者が理解できることである。このような当業者の理解の下,引用発明において,磁石の回転軸の方向を垂直方向から,引用例2に示されるような水平方向へと変更することは,当業者にとって困難を要することではない。
そして,引用例3の記載事項(3-a)及び(3-b)に示されるとおり,回転によって磁場変動を与える磁石として,円筒形のものは,本願優先日前において周知であったから,円筒形磁石を用いることも当業者であれば適宜なし得たことである。
また,磁石の中心を回転軸とすることは,本願優先日前において周知の事項であって,仮に磁石の中心を回転軸としない場合には,重心の偏りが生じるために安定的な回転運動が損なわれる可能性が生じるということは当業者であれば容易に想定できることであるから,磁石の中心を回転軸とすることに特段の困難性を認めることはできない。実際,引用例2の第3図に記載される磁石も,その中心を回転軸として回転していると認められる。
相違点2及び相違点3に関する本願発明の効果について検討する。
まず,磁石の形状や磁石の回転軸の違いが,磁気撹拌棒とビーズとの衝突等の物理的作用に実質的な影響を与えるとは認められない。
また,本願発明においては磁石の回転軸の方向が特定されているものの,そもそも,磁石のN極とS極の位置が特定されている訳ではないから,磁石の回転によってどのような磁場変動が生じ,それによって,磁気撹拌素子がどのように回転するのかが何ら特定されていないこととなる。本願発明は,本願明細書の段落【0003】に示されるように,細胞溶解の効率性を課題としているものであるが,直接的に細胞溶解の効率性に影響を与えるのは,駆動するための磁石ではなく,磁気撹拌素子であるから,磁気撹拌素子の動作に対する関連性が明確に特定されていない以上,この点における効果を参酌することができない。
つまり,磁気撹拌装置における磁石の役割は,磁場変動を生じさせることによって磁気撹拌素子を回転させるものであるところ,細胞溶解の効率性という本願発明の課題を解決する上で,磁石の回転軸の方向や形状が,結果として磁気撹拌素子の回転動作に対して影響を与えるとは認められず,本願明細書を参酌しても,実際に磁石の回転軸や形状を変化させたことによる細胞溶解の効率性等の効果が確認されている訳でもないから,これらの点における顕著な効果を認めることはできない。
したがって,相違点2及び相違点3については,当業者が容易に想到できたものである。
(3)まとめ
上記(1)~(2)の検討結果を踏まえると,本願発明は,引用例1及び2に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
6 審判請求人の主張
審判請求人は,平成28年1月29日の審判請求書中において,引用例1及び2(原査定の拒絶理由の引用文献1及び4)について次の主張を行っている。
(1)「(e)以上のことから明らかなように、本願発明、及び引用文献1及び引用文献2に記載された発明は、細胞(微生物)の溶解技術に関するものである。これに対して、引用文献4に記載の発明は、容器内の内容物を混合する目的で磁気撹拌素子を使用する技術であって、該技術は、既に引用文献1において、磁気撹拌素子の従来の使用方法として挙げられている技術に相当する。
従って、引用文献4に記載の発明の解決すべき課題及び構成上の特徴等は、本願発明、及び引用文献1及び引用文献2に記載された発明のそれらとは異なるものである。
よって、引用文献4において、容器の近傍に置かれた駆動用の永久磁石を容器の表面に対して平行な軸の周囲で回転させる技術が記載されているとしても、かかる技術を、磁気撹拌素子等の使用目的及び作用・効果が全く異なる引用文献1又は引用文献2に記載の発明と結合させた場合に、果たして、磁気撹拌素子又は磁気的粉砕手段を撹拌させる磁石が容器が位置する表面に対して垂直な軸の周囲で回転させている場合と同様な細胞の溶解効果が得られるであるか否かについて、合理的な成功の期待は持ちえないものと思量する。」
(2)「(f)即ち、上記のように、引用文献4に記載の発明に於いては、容器内の内容物を混合する目的で磁気撹拌素子にひっくり返り動作(tumble)を生起させるためには、磁気撹拌素子の長さは各容器の直径よりわずかに短いことが要件である。しかしながら、引用文献1又は引用文献2に記載の発明に於いて、このように磁気撹拌素子等の長さを各容器の直径よりわずかに短いものとした場合には、磁気撹拌素子にひっくり返り動作(tumble)の間、ビーズ(又は、小型の非磁気的粉砕手段)が該磁気撹拌素子と容器表面との間に拘束されるために、ビーズ等の振動等の運動が著しく制約され、その結果、細胞等の溶解効率が低下するであろうことが当業者であれば容易に想到し得る。
実際に、既に述べたように、引用文献1に記載の発明に於いては、細胞を効率的に溶解するためには、ロッド形状を有する磁気撹拌素子(3)は、その一方の端が容器の底に接した際に、他方の端が容器の壁に接するような長さ(図1を参照)を有すること、即ち、該磁気撹拌素子は各容器の直径より十分に長いことが好ましいとされている。因みに、引用文献1に相当する米国特許出願公開第2011/0189759号明細書の段落番号0020には、容器の試料量が非常に少ない場合には、磁気撹拌素子は容器の底に水平に載置出来る程度の短いものでも十分である旨、記載されているが、このような場合には、該磁気撹拌素子は容器の底に接しながら回転運動を行うのであって、引用文献4に記載されたようなひっくり返り動作(tumble)は起こらない。」
しかしながら,審判請求人の主張(1)については,上記「5(2)相違点2及び相違点3について」で検討したとおりであり,磁石の回転軸が変化した場合においても,回転する磁気撹拌素子,ビーズ,細胞との間の衝突による物理的作用が生ずるのであれば,細胞の崩壊が可能であることは当業者が想定できたことである。また,引用例2(原査定の拒絶理由の引用文献4)において細胞溶解を目的とすることが記載されていなかったとしても,磁気撹拌素子を回転させる手段について,磁気撹拌装置に関する先行技術文献である引用例2を参酌することに何ら困難を要することではない。
特に,審判請求人の主張(1)においては,磁石の回転軸の変化による「合理的な成功の期待は持ちえない」との主張がなされているものの,磁気撹拌素子とビーズとの衝突という物理的作用については,生物学的または化学的な作用とは異なり,当業者が同様の作用が発揮できることを合理的に推認できるものであるから,この点における審判請求人の主張には十分な根拠がない。
審判請求人の主張(2)については,そもそも,本願発明においては「該容器の内側で磁気撹拌素子を回転させることができるような寸法に形成され」との特定がなされているだけであって,磁気撹拌素子の長さと容器の直径との関係を具体的に規定したものではなく,本願発明の記載に基づく主張ではないため,採用することはできない。
また,本願明細書の記載内容を参酌しても,本願明細書の段落【0028】において,「磁石301は軸Aの周囲に回転し、チャンバー303内の磁気撹拌素子305を軸Bの周囲に同一方向に回転させる」と記載されているものの,軸Aが水平方向の場合には,軸Bがどの方向に回転することを「同一方向」と意味するのか不明であるし,磁石の回転軸を水平方向とすることについては,段落【0027】に「1個以上のチャンバーが位置する表面に対して平行な軸の周囲に磁石を回転させる」と記載され,第3図の上下の2箇所に磁石の回転軸Aとその回転方向が記載されているものの,そもそも,磁石及び磁気撹拌素子のN極とS極の位置が特定されていないために,磁気撹拌素子がどのように回転するのか本願明細書に示されていないことから,本願明細書中に審判請求人の主張(2)の根拠を見出すことはできない。
したがって,審判請求人の主張(1),(2)のいずれも採用することはできない。
7 むすび
以上のとおりであるから,本願請求項8に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないので,他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2016-001303