特許無効審判
2015-800074
アンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤
- 審判番号
- 2015-800074
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願平6-124838
- 登録番号
- 特許第3057471号(P3057471)
- 請求日
- 2015年03月26日
- 審決日
- 2017年05月17日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】マイラン製薬 株式会社
- 【請求人代理人】石井 良夫
- 【請求人代理人】後藤 さなえ
- 【請求人代理人】大門 良仁
- 【被請求人】武田薬品工業 株式会社
- 【被請求人代理人】大野 聖二
- 【被請求人代理人】松任谷 優子
- 【被請求人代理人】梅田 慎介
- 審判長/審判官
- 審判長 村上 騎見高
- 審判官 穴吹 智子
- 審判官 前田 佳与子
- 分類
- P1123.113-ZDB(A61K) / P1123.121-ZDB(A61K) / P1123.536-ZDB(A61K) / P1123.537-ZDB(A61K) / P1123.854-ZDB(A61K) / P1123.855-ZDB(A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第135条、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項、特許法第36条第5項第1号、特許法第134条の2第1項、特許法第123条第1項第2号、特許法第134条の2第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第126条第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第3057471号発明「アンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
平成27年 7月10日付け訂正請求において、特許第3057471号の特許請求の範囲の請求項2~16、18、20~24、26、27、29~31について、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、削除の訂正をすることを認める。
特許第3057471号の請求項2~16,18,20~23,26,27,31に係る発明についての審判請求を却下する。
特許第3057471号の請求項1、17、19、32に係る発明についての特許を無効とする。
特許第3057471号の請求項25に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
審判費用は、その28分の24を請求人の負担とし、28分の4を被請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第3057471号の特許請求の範囲の請求項1~32に係る発明についての出願(以下,「本件特許出願」という。)は,平成6年 6月 7日に特願平6-124838号として出願され,平成12年 4月21日に特許権の設定登録がなされた。
これに対して,請求人 マイラン製薬株式会社は,平成27年 3月26付け審判請求書によって,上記請求項1~23、25~27、31及び32に係る発明の特許を無効にすることについて,本件特許無効審判を請求した。
以後の手続の経緯は次のとおりである。
平成27年4月 7日 上申書(請求人)
同年 4月28日 手続補正書(請求人)
同年 7月10日付け 答弁書(被請求人)
同年 同月同日 訂正請求書
平成28年1月12日付け 審理事項通知書
同年 3月10日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 3月10日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 3月23日 上申書(被請求人)
同年 3月24日 第1回口頭審理
同年 3月25日 上申書(請求人)
同年 3月28日 上申書(被請求人)
同年 4月 7日 上申書(請求人)
同年 4月22日 上申書(被請求人)
同年 4月26日 上申書(被請求人)
同年 7月11日付け 審決予告
平成29年2月 6日付け 審決予告
第2 訂正請求
1.請求の趣旨
上記訂正請求書には,同訂正請求書による訂正請求(以下,「本件訂正請求」という。)は,「特許第3057471号の明細書及び特許請求の範囲を,本件請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲の通り,一群の請求項ごと又は請求項ごとに訂正することを求める。」ことを請求の趣旨とすることが記載されている。
しかし,上記訂正明細書は登録時の特許明細書の記載と同じであるから,本件訂正請求は,特許請求の範囲を本件請求書に添付した特許請求の範囲の通り,一群の請求項ごと又は請求項ごとに訂正することを求めることを請求の趣旨とするものと認める。
そして,以下,特許第3057471号の明細書及び特許請求の範囲をあわせて「本件特許明細書」という。
2.訂正の内容、及び適否に対する判断
訂正請求書の「6.請求の理由」の項には,以下(1)~(4)の一群の請求項ごと又は請求項ごとに訂正請求の理由が記載されている。
(1)請求項1及び請求項19からなる一群の請求項
(2)請求項2~16,18,20~24,26,27,29~31の各請求項
(3)請求項17
(4)請求項32
上記(1)~(4)の請求項に係る訂正請求について,以下,検討する。
(1)請求項1及び請求項19からなる一群の請求項について
この訂正は、訂正請求書の「6.請求の理由」の項目(1)ウ(ウ)訂正事項3に記載されるとおり、特許請求の範囲の請求項1において、「アンジオテンシンII介在性諸疾患」を「高血圧症」と訂正することを含むものである。
ところで、本件特許明細書には、「アンジオテンシンII介在性諸疾患とは、高血圧症、・・・などである。」(段落0023)と記載があるように、高血圧症は、アンジオテンシンII介在性諸疾患に内包される一疾患として記載されているのであるから、本件特許明細書に記載されている高血圧症の予防または治療剤に係る発明は、アンジオテンシンII介在性諸疾患としての高血圧症であると認める。
しかし、訂正後の高血圧症は、アンジオテンシンIIについてなんら規定するものではないから、あらゆる高血圧症を内包するものである。
高血圧症とは、一般に、収縮期、拡張期血圧が一定の値以上のものをいい、その原因についてみると、本態性高血圧症、神経性高血圧、腎外性昇圧物質、もしくは水及び電解質代謝異常など、アンジオテンシンII介在性に限られるものでないことは、当業者の技術常識である。
そうすると、訂正後の「高血圧症」は、アンジオテンシンII介在性高血圧症のみならず、あらゆる原因に基づく高血圧症を包含するものといえるから、この訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない訂正事項を含むものである。また,上記訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書第2号から第4号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
さらに,上記訂正は,実質的に特許請求の範囲の拡張・変更する訂正事項を含むものであって、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合しない。
よって、請求項1及び請求項19からなる一群の請求項についての訂正請求は、適法でないので認めることはできない。
(2)請求項2~16,18,20~24,26,27,29~31の各請求項について
この訂正は、訂正請求書の「6.請求の理由」の項目(2)イ 訂正の理由 に記載されるとおり、請求項の削除を求めるものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって,上記訂正は,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項,及び第6項の規定に適合するものである。
(3)請求項17について
この訂正は、訂正請求書の「6.請求の理由」の項目(3)ウ(イ)訂正事項2に記載されるとおり、特許請求の範囲の請求項17において、「予防および治療剤」を「高血圧症の予防および治療剤」と訂正することを含むものである。
訂正前の請求項17は、請求項1を引用していたから、上記「予防および治療剤」は、「請求項1記載の予防および治療剤」であり、これを請求項1を引用せずに書き下すと、「アンジオテンシンII介在性諸疾患の予防および治療剤」となる。
そして、訂正後の「高血圧症」は、アンジオテンシンII介在性高血圧症のみならず、あらゆる原因に基づく高血圧症を包含するものといえることは、前記(1)においてすでに検討したとおりであるから、請求項17についての訂正請求は、前記(1)において検討したのと同様の理由により適法でないので認めることはできない。
(4)請求項32について
この訂正は、訂正請求書の「6.請求の理由」の項目(3)ウ(イ)訂正事項2に記載されるとおり、特許請求の範囲の請求項32において、「アンジオテンシンII介在性諸疾患」を「高血圧症」と訂正することを含むものである。
そして、訂正後の「高血圧症」は、アンジオテンシンII介在性高血圧症のみならず、あらゆる原因に基づく高血圧症を包含するものといえることは、前記(1)においてすでに検討したとおりであるから、請求項32についての訂正請求は、前記(1)において検討したのと同様の理由により適法でないので認めることはできない。
第3 本件特許発明
上述のとおり,平成27年7月10日付けの訂正請求のうち,請求項2~16,18,20~24,26,27,29~31を削除する訂正請求は適法になされたものであるからこれを認める。
一方、請求項1及び請求項19からなる一群の請求項,請求項17,及び請求項32についてする訂正請求は適法になされたものであるとはいえないから認めることはできない。
よって,本件特許に係る発明は,以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】一般式(I)
【化1】
(式中、R1は水素または置換されていてもよい炭化水素残基を示し、R2はエステル化されていてもよいカルボキシル基を示し、R3は陰イオンを形成しうる基またはそれに変じ得る基を示し、Xはフェニレン基とフェニル基が直接または原子鎖2以下のスペーサーを介して結合していることを示し、nは1または2を示し、環AはR2で表される基以外にさらに置換基を有していてもよいベンゼン環を示し、Yは結合手,-O-,-S(O)m-(式中、m は0,1または2を示す)または-N(R4)-(式中、R4は水素または置換されていてもよいアルキル基を示す)を示す)で表されるアンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物またはその塩と利尿作用を有する化合物またはカルシウム拮抗作用を有する化合物とを組み合わせてなるアンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤。
【請求項2】削除
【請求項3】削除
【請求項4】削除
【請求項5】削除
【請求項6】削除
【請求項7】削除
【請求項8】削除
【請求項9】削除
【請求項10】削除
【請求項11】削除
【請求項12】削除
【請求項13】削除
【請求項14】削除
【請求項15】削除
【請求項16】削除
【請求項17】利尿作用を有する化合物がアミロリド、クロロチアジド、ベンズチアジド、チクリナファン、アセタゾラミド、アミノフィリン、シクロチアジド、トリクロルメチアジド、シクロペンチアジド、ヒドロクロロチアジド、メチクロチアジド、ベンチルヒドロクロロチアジド、ペンフルチアジド、エチアジド、ヒドロフルメチアジド、ポリチアジド、クロフェナミド、クロルタリドン、シクロチアジド、ベンドロフルメチアジド、メチクラン、トリパミド、メトラゾン、インダパミド、キネタゾン、フロセミド、ブメタニド、メフルシド、アゾセミド、エタクリン酸、エタクリン酸ナトリウム、ピレタニド、スピロノラクトン、カンレノ酸カリウムおよびトリアムテレンからなる群から選択される請求項1記載の予防または治療剤。
【請求項18】削除
【請求項19】カルシウム拮抗作用を有する化合物が塩酸ジルチアゼム、塩酸テロジリン、塩酸ニカルジピン、塩酸バルニジピン、塩酸フルナリジン、塩酸ベラパミル、塩酸マニジピン、シンナリジン、ニソルジピン、ニトレンジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、フェロジピン、ニルジピン、ニモジピン、ペニジピンおよびベニジピンからなる群から選択される請求項1記載の予防または治療剤。
【請求項20】削除
【請求項21】削除
【請求項22】削除
【請求項23】削除
【請求項24】削除
【請求項25】(±)-1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル2-エトキシ-1-〔〔2′-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル〕メチル〕-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボキシラートまたはその塩とヒドロクロロチアジドとを組み合わせてなる高血圧症の予防または治療剤。
【請求項26】削除
【請求項27】削除
【請求項28】(±)-1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル2-エトキシ-1-〔〔2′-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル〕メチル〕-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボキシラートまたはその塩と塩酸マニジピンとを組み合わせてなる高血圧症の予防または治療剤。
【請求項29】削除
【請求項30】削除
【請求項31】削除
【請求項32】利尿作用を有する化合物またはカルシウム拮抗作用を有する化合物と併用することを特徴とするアンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤の製造のための一般式(I)
【化4】
(式中、R1は水素または置換されていてもよい炭化水素残基を示し、R2はエステル化されていてもよいカルボキシル基を示し、R3は陰イオンを形成しうる基またはそれに変じ得る基を示し、Xはフェニレン基とフェニル基が直接または原子鎖2以下のスペーサーを介して結合していることを示し、nは1または2を示し、環AはR2で表される基以外にさらに置換基を有していてもよいベンゼン環を示し、Yは結合手,-O-,-S(O)m-(式中、m は0,1または2を示す)または-N(R4)-(式中、R4は水素または置換されていてもよいアルキル基を示す)を示す)で表されるアンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物またはその塩の使用。」
なお、以下にあっては,特許登録時の特許請求の範囲に記載された請求項1,17,19,25,28,32に係る発明を,各々「本件特許発明1」,「本件特許発明17」,「本件特許発明19」,「本件特許発明25」,「本件特許発明28」「本件特許発明32」,あるいは総称して,単に「本件特許発明」という。
第4 当事者の主張,及び,提出した証拠方法
1.請求人の主張する無効理由,及び,提出した証拠方法
請求人は,「特許第3057471号の特許請求の範囲の請求項1~23、25~27、31及び32に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め,以下の(1)~(5)の無効理由により無効とされるべきであると主張し,証拠方法として,甲第1~18号証を提出している。
無効理由1
本件請求項1~5,7~9,14,17~23,26,31及び32に係る特許発明は,甲第1号証に記載された発明である。
したがって,同特許発明は,特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものであり,同特許は,特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
無効理由2
(A)本件請求項1~5,7~9,14,17~23,26,31及び32に係る特許発明は,甲第1号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(B)本件請求項6,11~13及び25に係る特許発明は,甲第1号証,甲第2号証に記載された発明,及び甲第3号証及び甲第5~10号証に記載された技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(C)本件請求項10,16及び27に係る特許発明は,甲第1号証,甲第3号証に記載された発明,及び甲第8号証に記載された技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(D)本件請求項15に係る特許発明は,甲第1号証,甲第2号証に記載された発明,及び甲第3号証に記載された技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,同特許発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,同特許は,特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
無効理由3
本件請求項31に係る特許発明は,産業上利用できる発明ではない。
したがって,同特許は,特許法第29条第1項柱書きの規定に違反してなされたものであり,同特許は,特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
無効理由4
発明の詳細な説明は,当業者が容易に本件請求項1~23,26,27,31及び32に係る特許発明の実施をすることができる程度に,その発明の構成,効果を記載していない。
したがって,同特許は,発明の詳細な説明の記載が,平成6年法律第116号改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって,同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。
無効理由5
本件請求項1~23,26,27,31及び32に係る特許発明は,発明の詳細な説明に記載されていない。
したがって,同特許は,特許請求の範囲の記載が,平成6年法律第116号改正前の特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって,同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。
なお,口頭審理陳述要領書(請求人)に記載されるとおり,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物またはその塩とカルシウム拮抗作用を有する化合物とを組み合わせてなるアンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤に係る発明は,無効理由1,2,4,5の対象とされていない。
(証拠方法)
甲第1号証:特開平3-27362号公報
甲第2号証:特開平4-364171号公報
甲第3号証:特開平5-132467号公報
甲第4号証:本件特許に関する平成12年2月21日付け意見書
甲第5号証:Progress in Medicine,Vol.4(supple.),155-166(1984)
甲第6号証:薬理と治療,第19巻,第3号,第151~160頁,1991年
甲第7号証:臨床医薬,第5巻,第5号,第1011~1035頁,1989年
甲第8号証:国際公開第92/10097号パンフレット及びその訳文(特表平6-503834号公報)
甲第9号証:クリニカ,第18巻,第9号,第450~453頁,1991年
甲第10号証:Therapeutic Research,VOL.51,No.20,93-123(1989)
甲第11号証:欧州特許庁異議事件番号T1750/07-3.3.02に対する技術審判部の審決書及びその訳文
甲第12号証:Life Science,Vol.51,No.20,PL183-187(1992)及びその訳文
(以上,審判請求書に添付,うち,甲第11号証及び甲第12号証の訳文は平成28年4月28日付け手続補正書にて追完)
甲第13号証:PLOS ONE,Vol.8,No.2,e57152,1-10(2013)及びその訳文 http://ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3578816/pdf/pone.0057152.pdf
甲第14号証:泌尿紀要,第35巻,第737~747頁,1989年
(以上,口頭審理陳述要領書に添付,うち,訳文は平成28年3月25日付け上申書に添付)
甲第15号証:販売名「エカード登録商標配合錠LD」及び「エカード登録商標配合錠HD」に関する医薬品インタビューフォーム
甲第16号証:特開2001-206808号公報
甲第17号証:特表2002-504928号公報
甲第18号証:特開2011-93842号公報
(以上,平成28年4月7日付け上申書に添付)
2. 被請求人の主張,及び,提出した証拠方法
被請求人が提出した答弁書によれば,被請求人は,「訂正の請求を認める。本件無効審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め,証拠方法として,乙第1~11号証を提出している。
(証拠方法)
乙第1号証:別冊 医学の歩み 最新・高血圧診療Update-JSH2009のより深い理解のために 21-24頁(2010年7月15日)
乙第2号証:AJH-May,2003,Vol.16,No.5,PART2,P-248及びその抄訳
乙第3号証:AJH-April,1999,Vol.12,No.4,PART2,D063及びその抄訳
乙第4号証:American Journal of Hypertension,1992,Vol.56,No.12,Part2,p247S-251S及びその抄訳
乙第5号証:Archives of International Medicine,1996,Vol.156,FEB 12,p278-285及びその抄訳
乙第6号証:2001年11月1日で承認されたエプラサルタン(TEVETEN)・ヒドロクロロチアジド(HCT)配合剤のAPPROVAL PACKAGEのPharmacology Review(s)及びその抄訳
乙第7号証:降圧利尿剤「ダイクロトライド錠25mg」の添付文書
(以上,答弁書に添付)
乙第8号証:Journal of Hypertension,April 1993,Vol.11,Supplement 3,S59-S61及びその抄訳
乙第9号証:European Journal of Pharmacology,213(1992),137-139及びその抄訳
乙第10号証:British Medical Journal,1976,1,933-936及びその抄訳
(以上,平成28年3月23日付け上申書に添付,うち,抄訳は平成3月28日付け上申書に添付)
乙第11号証::Journal of Human Hypertension,2004,18,655-661及びその抄訳
(以上,平成28年4月22日付け上申書に添付,うち,抄訳は平成4月26日付け上申書に添付)
以下,書証は,その証拠番号により,甲第1号証を「甲1」,乙第1号証を「乙1」などともいう。
第5 甲第1~18号証の記載事項
甲各号証には,各々,以下の事項が記載されている。
なお,甲第5,8,10~13号証は外国語で記載された書面,もしくは刊行物の写しであり,以下においては,その記載内容を翻訳で示す。
「甲第1号証」
1a 「1、式
(R1は(a)-CO2R4
(b)-SO2R5
(c)-NHSO2CF3
・・・・・
(s)
・・・・・
(y)・・・・・
(・・・・・)である。
R2a及びR2bは独立してH、・・・・
R3aは(a)H、
・・・・・
(e)・・・・・
R3bは(a)H、
・・・・・
(f)・・・・・
・・・・・
Eは単結合、・・・・・-O-・・・
R6は(a)上で定義したアリールであり、・・・・・
(b)直鎖又は分枝鎖C1~C6-アルキル、C1~C5アルケニル、又はC1~C5アルキニルであり、・・・・・
R7a及びR7bは独立して
(a)H、
・・・・・
(e)・・・・・
R8a及びR8bは独立して
(a)H、
・・・・・
(n)-CO2H、
(o)-CO2-C1~C4アルキル、
・・・・・
(oo)・・・・・
・・・・・
R11はH、・・・
・・・・・
Xは存在しないか又は
(a)炭素-炭素単結合、
(b)-CO-、
(c)-O-、
(d)-S-、
(e)-N(R13)-
(f)-CON(R15)-
・・・・・
(h)-OCH2-、
・・・・・
(j)-SCH2-、
・・・・・
(p)-CH=CH-、
・・・・・
(z)・・・・・
rは1又は2である。)
を有する化合物及びその医薬的に使用し得る塩。
2、医薬的に使用し得る担体及び請求項1記載の化合物の医薬的に有効な量を包含している高血圧症の治療に有用な医薬組成物。
3、アミロリド、アテノロール、ベンドロフルメチアジド、クロロタリドン、クロロチアジド、クロニジン、クリプテナミンアセテート及びクリプテナミンタンネート、デセルピジン、ジアゾキシド、グアネチデンスルフェート、ヒドララジンヒドロクロリド、ヒドロクロロチアジド、メトラゾン、メトプロロールターテート、メチクロチアジド、メチルドパ、メチルドペートヒドロクロリド、ミノキシジル、パージリンヒドロクロリド、ポリチアジド、プラゾシン、プロプラノロール、ラウオルフィアセルペンチナ、レシンナミン、レセルピン、ナトリウムニトロプルシド、スピロノラクトン、チモロールマレエート、トリクロルメチアジド、トリメトファンカムシレート、ベンズチアジド、キネタゾン、チクリナファン、トリアムテレン、アセタゾールアミド、アミノフィリン、シクロチアジド、エタクリン酸、フロセミド、メレトキシリンプロカイン、ナトリウムエタクリネート、カプトプリル、デラプリルヒドロクロリド、エナラプリル、エナラプリラート、ホシノプリルナトリウム、リシノプリル、ペントプリル、キナプリルヒドロクロリド、ラマプリル、テプロチド、ゾフェノプリルカルシウム、ジフルシナール、ジルチアゼム、フェロジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン並びにその混合物及び組合わせ
からなる群から選択される抗高血圧剤、利尿剤又はアンギオテンシン変換酵素阻害剤又はカルシウムチャネル遮断剤を包含する請求項2記載の組成物。」(請求項1~3)
1b 「本発明は上昇血圧及び鬱血性心不全の治療においてアンギオテンシンIIアンタゴニストとして有用な新規な置換ベンズイミダゾール化合物及びその誘導体に関する。従って本発明の置換ベンズイミダゾール化合物は抗高血圧剤として有用である。」(p6左上欄2~6行)
1c 「アンギオテンシンII(AII)は強力な動脈血管収縮物質であり、これは細胞膜に存在する特定のレセプターと相互作用することによりその作用を発揮する。本発明で記載される化合物はレセプターに於てAIIの競合的アンタゴニストとして作用する。AIIアンタゴニストを同定しその効能を試験管内で求めるために次の2種のリガンド-レセプター結合検定を確立した。」(p24右上欄3~10行)
1d 「上述した方法を用いて本発明の代表的な化合物を評価し、全てが少なくともIC50<50μMの活性を示すことを見い出し、よって有効AIIアンタゴニストとして本発明の化合物の有用性が証明及び確認された。」(p25右上欄6~10行)
1e 「従って本発明の化合物は高血圧症の治療に有用である。また急性及び慢性の鬱血性心不全の処置、続発性高アルドステロン症、原発性及び続発性肺高アルドステロン症、原発性及び続発性肺高血圧症、腎不全例えば糖尿病性腎臓病症、糸球体腎炎、強皮症等、腎血管高血圧症、左心室機能障害、糖尿病性網膜症の治療及び偏頭痛又はレイノー病のような血管障害の処置にも有用である。」(p25右上欄11~18行)
1f 「本発明の化合物はまた他の抗高血圧剤及び/又は利尿剤及び/又はアンギオテンシン変換酵素阻害剤及び/又はカルシウムチャネル遮断剤と併用して投与することができる。例えば本発明の化合物はアミロリド、アテノロール、ベンドロフルメチアジド、クロロタリドン、クロロチアシド、クロニジン、クリプテナミンアセテート及びクリプテナミンタンネート、デセルピジン、ジアゾキシド、グアネチデンスルフェート、ヒドララジンヒドロクロリド、ヒドロクロロチアジド、メトラゾン、メトプロロールターテート、メチクロチアジド、メチルドパ、メチルドペートヒドロクロリド、ミノキシジル、パージリンヒドロクロリド、ポリチアジド、プラゾシン、プロプラノロール、ラウオルフィア セルペンチナ、レシンナミン、レセルピン、ナトリウムニトロプルシッド、スピロノラクトン、チモロールマレエート、トリクロロメチアジド、トリメトファンカムシレート、ベンズチアジド、キネタゾン、チクリナファン、トリアムテレン、アセタゾールアミド、アミノフィリン、シクロチアジド、エタクリン酸、フロセミド、メトレキシリンプロカイン、ナトリウムエタクリネート、カプトプリル、デラプリルヒドロクロリド、エナラプリル、エナラプリラート、ホシノプリルナトリウム、リシノプリル、ペントプリル、キナプリルヒドロクロリド、ラマプリル、テプロチド、ゾフェノプリルカルシウム、ジフルシナール、ジルチアゼム、フェロジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン等の化合物並びにその混合物及び組合わせと併用して投与することができる。
典型的には、これらの併用剤についての個々の日用量は、それらが単独で投与されるときの最小推奨臨床投薬量の約1/5から最大推奨投与量までの範囲とすることができる。
これらの併用剤を例示すると、1日当り2.5~250mgで臨床上有効な本発明のアンギオテンシンIIアンタゴニストの1種は、1日当りの投与量が示されている次の化合物と混合して1日当り0.5~250mgのレベルで有効であることができる。ヒドロクロロチアジド(15~200mg)、クロロチアジド(125~2000mg)、エタクリン酸(15~200mg)、アミロリド(5~20mg)、フロセミド(5~80mg)、プロプラノロール(20~480mg)、チモロールマレエート(5~60mg)、メチルドパ(65~2000mg)、フェロジピン(5~60mg)、ニフェジピン(5~60mg)及びニトレンジピン(5~60mg)。更にヒドロクロロチアジド(15~200mg)とアミロリド(5~20mg)と本発明のアンギオテンシンIIアンタゴニスト(3~200mg)、又はヒドロクロロチアジド(15~200mg)とチモロールマレエート(5~60mg)と本発明のアンギオテンシンIIアンタゴニスト(0.5~250mg)、又はヒドロクロロチアジド(15~200mg)とニフェジピン(5~60mg)と本発明のアンギオテンシンIIアンタゴニスト(0.5~250mg)の3種の薬剤の組合わせは高血圧症患者の血圧を制御するために有効な組合わせである。勿論これらの投与量は日用量を分割するために必要に応じて単位基準で調節することができ、上に述べたように投与量は病気の種類及び重篤度、患者の体重、特別の食餌及び他の要因により異なるであろう。」(p25右下欄4行~p26左下欄7行)
1g 「実施例20
本発明の化合物を含む代表的な医薬組成物
・・・・・
C.混合錠剤
典型的な混合錠剤は、例えばヒドロクロロチアジドのような利尿剤を含み2-ブチル-1-(2′-(テトラゾール-5-イル)ビフェン-4-イル)メチルベンズイミダゾール(7.5mg)、ヒドロクロロチアジド(50mg)、ゲル化前デンプンUSP(82mg)、微晶性セルロース(82mg)とステアリン酸マグネシウム(1mg)からなる。」(p36右下欄11行~p37右上欄2行)
「甲第2号証」
2a 「【課題を解決するための手段】本発明者らは、レニン-アンギオテンシン系の調節に働き、高血圧症、心臓病(心肥大、心不全、心筋梗塞など)、脳卒中などの循環器系疾患治療剤として臨床上有用な薬剤となるためには、その化合物がアンギオテンシンIIレセプター拮抗作用を有しかつ経口投与で強力で持続的なアンギオテンシンII拮抗作用および降圧作用を有していることが必要であるとの考えのもとで鋭意研究を重ねてきた。その結果、新規2-置換ベンズイミダゾール誘導体(I)が強いアンギオテンシンIIレセプター拮抗作用を有すると共に、経口投与で持続的で強力なAII拮抗作用および降圧作用を有することを見い出し、さらに研究を進め本発明を完成した。」(段落0006)
2b 「すなわち本発明は、式
【化4】
[式中、環Aは式R’で表わされる基以外にさらに置換基を有していてもよいベンゼン環を示し、R1は水素または置換されていてもよい炭化水素残基を示し、R2は陰イオンを形成しうる基またはそれに変じうる基を示し、Xはフェニレン基とフェニル基が直接または原子鎖2以下のスペーサーを介して結合していることを示し、R’はエステル化またはアミド化されていてもよいカルボキシルまたは陰イオンを形成しうる基またはそれに変じうる基を示し、Yは-O-,-S(O)m-(式中、mは0,1または2を示す)または-N(R4)-(式中、R4は水素または置換されていてもよいアルキル基を示す)を示し、nは1または2の整数を示す]で表わされる化合物およびその塩である。」(段落0007)
2c 「R′としてのエステル化又はアミド化されていてもよいカルボキシルとしては,例えば式-CO-D’[式中、D’は水酸基,・・・または置換されていてもよいアルコキシ・・・式-OCH(R7)OCOR8(式中R7は水素,炭素数1-6の直鎖もしくは分枝状の低級アルキル基・・・を示し、R8は・・・シクロヘキシルオキシ・・・)・・・]で表される基などが挙げられる。・・・置換基R’の例としては、-COOH及びその塩、-COOMe、-COOEt、-COOtBu、-COOPr、ピバロイロキシメトキシカルボニル、1-(シクロヘキシルオキシカルボニロキシ)エトキシカルボニル)・・・が挙げられる。」(段落0010)
2d 「化合物(I)及びその塩は、低毒性でアンギオテンシンIIによる血管収縮および血圧上昇作用を強力に抑制し、動物とりわけ哺乳動物(例えば、ヒト,イヌ,ウサギ,ラットなど)に対して血圧降下作用を示し、高血圧症の治療剤としてのみならず、心臓病(心肥大,心不全,心筋梗塞など),脳卒中、腎疾患などの循環器系疾患治療剤として有用である。・・・」(段落0020)
2e 表2(段落0116)に、
・エチル 2-エトキシ-1-[[2′-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル]メチル]ベンズイミダゾール-7-カルボキシラート(実施例1)、
・2-エトキシ-1-[[2′-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル]メチル]ベンズイミダゾール-7-カルボン酸(実施例2)
・ピバロイルオキシメチル 2-エトキシ-1-[[2′-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル]メチル]ベンズイミダゾール-7-カルボキシラート(実施例16)、
・1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル 2-エトキシ-1-[[2′-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル]メチル]ベンズイミダゾール-7-カルボキシラート(実施例17)などのアンギオテンシンII拮抗作用を有する化合物の10-6M,10-7Mにおけるウシ副腎皮質膜分画アンギオテンシン受容体へのアンギオテンシンII結合阻害効果,及び3mg/kgラット経口投与によるアンギオテンシンII昇圧反応に対する抑制効果が記載されている。
「甲第3号証」
3a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 式
【化1】
[式中、R1およびR2は、同一または異なって、各々独立して水素または
・CO2N=C(NH2)2、
・CONHNHCONH2、
・CONHNHCSNH2、
・C(OC2H5)=NCO2CH3、
・COCH2CO2C2H5、
・N(OH)-CONHCOOC2H5、
・C(OC2H5)=NH
から選ばれる基、または
【化2】
から選ばれる窒素複素環であって、ただし、置換基R1またはR2のうち少なくとも一方は水素以外であり、
R3は、水素、非置換または1個もしくはそれ以上のハロゲン原子により置換されているC1-C6アルキル、C2-C6アルケニル、C3-C7シクロアルキル、フェニル、アルキルがC1-C3であるフェニルアルキル、またはアルケニルがC2-C3であるフェニルアルケニルであって、前記フェニル基は、非置換またはハロゲン原子、C1-C4アルキル、C1-C4ハロゲノアルキル、C1-C4ポリハロゲノアルキル、ヒドロキシルまたはC1-C4アルコキシによりモノ置換またはポリ置換されており、
R4およびR5は、各々独立してC1-C6アルキル、C3-C7シクロアルキル、フェニル、またはアルキルがC1-C3であるフェニルアルキルであって、前記アルキル、フェニルまたはフェニルアルキル基は、非置換、または1個もしくはそれ以上のハロゲン原子またはC1-C4ペルフルオロアルキル、ヒドロキシルおよびC1-C4アルコキシから選ばれた基により置換されているか、またはR4およびR5は、互いに結合して、式(CH2)nで示される基または式(CH2)pY-(CH2)q(式中、Yは、酸素原子または硫黄原子または炭素原子であり、C1-C4アルキル基、フェニルまたはアルキルがC1-C3であるフェニルアルキルにより置換されている)で示される基、または基N-R6(式中、R6は、水素、C1-C4アルキル、アルキルがC1-C3であるフェニルアルキル、C1-C4アルキルカルボニル、C1-C4ハロゲノアルキルカルボニル、C1-C4ポリハロゲノアルキルカルボニル、ベンゾイル、α-アミノアシルまたはN-保護基である)であるか、またはR4およびR5は、それらが結合している炭素原子と一緒になってインダンまたはアダマンタンを形成し、
p+q=m、
nは2ないし11の整数であり、
mは2ないし5の整数であり、
Xは酸素原子または硫黄原子であり、
zおよびtは同時にゼロであるか、または一方はゼロで他方は1である]で示される化合物およびその塩類。
・・・・・
【請求項6】 請求項1または請求項2記載の化合物が利尿剤と共に存在する医薬組成物。」(請求項1~6)
3b 「本発明化合物は、式
H-Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe-OH
のペプチドホルモンである、アンギオテンシンIIの作用を打ち消す。アンギオテンシンIIは、強力な昇圧剤およびレニン-アンギオテンシン系の生物活性産物である。レニンは、血しょうのアンギオテンシノゲンに作用して、アンギオテンシンIを生成し、これがアンギオテンシンI変換酵素の作用によりアンギオテンシンIIに変換される。本発明化合物は、アンギオテンシンIIときっ抗する非ペプチド化合物である。レセプターに対するアンギオテンシンIIの作用を阻止することにより、本発明化合物は、特にホルモン-レセプター相互作用により誘発された血圧の上昇を妨げる。それらはまた、中枢神経系に対する他の生理学的作用を有する。すなわち、本発明化合物は、心臓血管病、例えば高血圧および心不全の処置、並びに中枢神経系の病気の処置および緑内障および糖尿病性網膜症の処置に有用である。」(段落0002)
3c 「上記式(I)の生成物または医薬的に許容し得る塩類の一つに加えて、本発明組成物は、他の有効成分、例えば精神安定剤または上記障害または疾患の処置に有用であり得る他の薬剤を含み得る。すなわち、本発明は、一成分が本発明化合物であり、他の成分(複数もあり得る)がベータ遮断性化合物、カルシウムきっ抗物質、利尿剤、非ステロイド系抗炎症剤または精神安定剤であり得る幾つかの有効成分を組み合わせた形で含む医薬組成物に関するものである。 」(段落0021)
3d 「・・・・・慣用的に、後記化合物では、下式で示されている通りビフェニルにおいて水素原子に番号を付す。
【化16】
後記実施例では、zおよびtはゼロである。
実施例1および2
2-n-ブチル-1-[(2’-(5-オキソ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル)メチル]-4-スピロシクロペンタン-2-イミダゾリン-5-オン
(I:R2=H、R1=
【化17】
R3=n-C4H9、CR4R5=シクロペンタン、X=O)および・・・・・」(段落0023,0024)
「甲第4号証」
4a 高血圧自然発症ラット(SHR)を1群4匹,4群に分けて,各群に,化合物I((±)-1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル2-エトキシ-1-〔〔2′-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル〕メチル〕-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボキシラート),あるいはヒドロクロロチアジド(HCT)を単独で、または両薬物を併用して、1日1回経口投与し、投与6日後に、投与開始から5時間、絶食下で採取した尿中カリウム排泄量を測定し、その結果について、
「HCTの尿中カリウム排泄量増加作用は、化合物1との併用により、著しく減弱し、化合物1とHCTとの併用時には、HCT単独投与時と比較すると、尿中カリウム排泄量の有意な減少が認められた。」(p9 1~3行)との記載があり、また、表1に測定結果が記載されている。
【表1】
「甲第5号証」
5a 「一般に,降圧剤を併用する場合には,作用機序の異なる降圧剤を組み合わせて用いることを原則とする。・・・」(p155 はじめに,の項 1,2行)
5b 「生体内では,血圧を一定に維持する機構が働いている。血圧は心拍出量と血管収縮の積で決まる。心拍出量を規定する重要な因子が体内ナトリウム量であり,血管収縮を調節する重要な因子がレニン・アンジオテンシン系であると考えることができる。生体内では血圧を一定に保つために,体内ナトリウム量とレニン・アンジオテンシン系は,いわばシーソーの関係にある(図4)。つまり,体内ナトリウム量の減少が起こればRA系は亢進し,血圧低下を防ぐ。逆に体内ナトリウム量の増加が起こればRA系は抑制され,血圧上昇を妨げ血圧を一定に維持(ホメオスターシス)しようとするフィードバックメカニズムが働いている。」(p158 下から4行~p1594行)
5c 「利尿剤抵抗性のNon-Salt-Sensitive高血圧患者に利尿剤を投与しても降圧効果が見られないことは既に述べた。・・・そこで,カプトプリルの少量を併用投与すると,血管抵抗の低下により速やかな血圧の低下が起こる。さらに,後負荷もとれ,心拍出量は正常化する。利尿剤抵抗性のNon-Salt-Sensitive高血圧患者において,カプトプリルの併用投与により速やかな血圧低下と血行動態上の異常を改善することができた。・・・したがって,カプトプリルと利尿剤の併用療法は降圧に対して相乗効果があるばかりでなく,互いの使用量を減らして副作用の発現を最小限にとどめ,さらに血行動態面からも正常化することから,合理的な治療法である。」(p160 下から6行~p161最下行)
「甲第6号証」
6a 「・・・なかでもbenazeprilとthiazideとの併用投与による降圧効果は著明であったが,これはthiazideによる体内Na+量の減少が血圧調節のレニン・アンジオテンシン系依存度を増し,アンジオテンシン変換酵素阻害薬の降圧薬の降圧効果が相乗的に増強されたためと考えられる。」(p159右欄27~33行)
「甲第7号証」
7a 「ACE阻害薬は利尿薬との併用により明らかな相乗効果が得られることが知られており,cilazaprilは動物実験においてサイアザイド系降圧利尿薬と併用することによる降圧効果の増強が確認されている。」(p1013左欄下から5行~最下行)
7b 「本邦においてはサイアザイド系降圧利尿薬が選ばれることが多かったが,・・・最近になり長期投与に伴って生じる代謝面の変化,すなわち低カリウム血症・・・等が懸念されるようになってきた。
レニン・アンジオテンシン系は体内Na・水バランスと密接な関係にあり,サイアザイド系降圧利尿薬の使用により体液量を減少させるとレニン・アンジオテンシン系が賦活化されてくる。したがってサイアザイド系降圧利尿薬とレニン・アンジオテンシン系を抑制するACE阻害薬の併用投与は合理的な高血圧症の治療方法と考えられている。」(p1026左欄最下行から右欄17行)
「甲第8号証」
8a 「1.利尿剤と、医薬上許容される担体と、式(I)-(IX):
〔式中、
R1は、アダマンチル、フェニル、ビフェニルまたはナフチルであって、各アリール基は未置換であるかまたはC1、Br、F、I、C1-C6アルキル、ニトロ、A-CO2R7、テトラゾール-5-イル、C1-C6アルコキシ、ヒドロキシ、SC1-C6アルキル、SO2NHR7、NHSO2R7、SO3H、CONR7R7、CN、SO2C1-C6アルキル、NHSO2R7、PO(OR7)2、NR7R7、NR7COH、NR7COC1-C6アルキル、NR7CON(R7)2、NR7COW、W、SO2Wから選択される1~3個の置換基によって置換されており;
mは0~4であり;
R2はC2-C10アルキル、C3-C10アルケニル、C3-C10アルキニル、C3-C6シクロアルキル、または未置換であるかまたはC1-C6アルキル、ニトロ、C1、Br、F、I、ヒドロキシ、C1-C6アルコキシ、NR7R7、CO2R7、CN、CONR7R7、W、テトラゾール-5-イル、NR7COC1-C6アルキル、NR7OW、SC1-C6アルキル、SO2WまたはSO2C1-C6アルキルから選択される1~3個の置換基によって置換されている(CH2)0-8フェニルであり;
Xは単結合、S、NR7またはOであり;
R3は水素、C1、Br、F、I、CHO、ヒドロキシメチル、COOR7、CONR7R7、NO2、W、CN、NR7R7またはフェニルであり;
R4およびR5は、独立して、水素、C1-C6アルキル、チエニル-Y-、フリル-Y-、ピラゾリル-Y-、イミダゾリル-Y-、ピロリル-Y-、トリアゾリル-Y-、オキサゾリル-Y-、イソオキサゾリル-Y-、チアゾリル-Y-、ピリジル-Y-またはテトラゾリル-Y-であり(ただし、R4およびR5が共に水素およびC1-C6アルキルから選択されないことを除く)、各複素環式環は未置換であるかまたはC1-C6アルキル、C1-C6アルコキシ、C1、Br、F、I、NR7R7、CO2R7、SO2NHR7、SO3HまたはCONR7R7、OH、NO2、W、SO2W、SC1-C6アルキル、SO2C1-C6アルキル、NR7OH、NR7COWまたはNR7COC1-C6アルキルによって置換されており;
Yは単結合、O、S、または直鎖あるいは分枝鎖状であるかまたは所望によりフェニルあるいはベンジルで置換されていてもよいC1-C6アルキルであり、ここで各アリール基は未置換であるかまたはハロ、NO2、CF3、C1-C6アルキル、C1-C6アルコキシ、CNまたはCO2R7で置換されており;
R6は-Z-COOR8または-Z-CONR7R7であり;
Zは単結合、ビニル、-CH2-O-CH2-、所望によりC1-C6アルキル、1または2個のベンジル基、チエニルメチルまたはフリルメチルで置換されていてもよいメチレン、または-C(O)NHCHR9-(ここで、R9はH、C1-C6アルキル、フェニル、ベンジル、チエニルメチルまたはフリルメチルである)であり;
WはCnF2n+1、CnF2n+1(ここで、nは1~3である)であり;
Aは-(CH2)m-、-CH=CH-、-O(CH2)n-または-S(CH2)n-であり;
R7は、各々独立して、水素、C1-C6アルキルまたは(CH2)mフェニル(ここで、mは0~4である)であり;および
R8は水素、C1-C6アルキルまたは2-ジ(C1-C6アルキル)アミノ-2-オキソエチルを意味する]で示される化合物またはその医薬上許容される塩;
・・・・・
[式中、
R1は-C(O)NH-CH(Y)-(CH2)n-アリール、-C(O)NH-CH(Y)-(CH2)n-ヘテロアリール、または未置換であるかまたはCl、Br、F、I、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、OH、CN、NO2、CO2R4、テトラゾール-5-イル、CONR4R4、SO3H、CmF2m+1、SC1-6アルキルまたはSO2C1-6アルキルから選択される1~3個の置換基により置換されているフェニルであり;
R2は水素、C2-10アルキル、C3-10アルケニル、C3-6シクロアルキル、CmF2m+1、または未置換であるかまたはC1-6アルキル、C1-6アルコキシ、Cl、Br、F、I、OH、NO2、CmF2m+1、CO2R4またはNR4R4から選択される1~3個の置換基によって置換されている(CH2)0-8フェニルであって;
R3は、R1が所望により置換されていてもよいフェニル基である場合、-(CH2)n-Y、-CH=CY-(CH2)n-アリール、-CH=CY-(CH2)n-ヘテロアリール、-(CH2)n-C(O)-NH-CH(Y)-(CH2)n-アリール、-(CH2)n-C(O)-NH-CH(Y)-(CH2)n-ヘテロアリール、-(CH2)m-NH-CH(Y)-(CH2)n-アリールまたは-(CH2)m-NH-CH(Y)-(CH2)n-ヘテロアリールであるか、またはR1が-C(O)NH-CH(Y)-(CH2)n-アリールまたは-C(O)NH-CH(Y)-(CH2)n-ヘテロアリールである場合、Hであり;
YはCO2R4またはテトラゾール-5-イルであり;
XはCl、Br、F、I、CmF2m+1、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、OH、O-フェニル、CO2Rr、テトラゾール-5-イル、CNまたは未置換であるかまたはCl、Br、F、I、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、OH、CmF2m+1、CN、CO2R4、NO2またはNR4R4により置換されている(CH2)0-4フェニルであり;
アリールはフェニル、ビフェニルまたはナフチルであり、ここで各アリール基は未置換であるかまたはC1-6アルキル、C1-6アルコキシ、Cl、Br、F、I、OH、NO2、CF3、CO2R4またはNR4R4により置換されており;
ヘテロアリールは2-または3-チエニル、2-または3-フラニル、2-、3-または4-ピリジル、ピリミジル、イミダゾリル、チアゾリル、トリアゾリルまたはテトラゾリルであり、ここで各ヘテロアリール基は未置換であるかまたはC1-6アルキル、C1-6アルコキシ、Cl、Br、F、I、OH、NO2、CF3、CO2R4またはNR4R4により置換されており;
mは、各々独立して1~3であり;
nは、各々独立して0~2であり;および
R4は、各々独立して水素またはC1-6アルキルを意味する]で示される化合物またはその医薬上許容される塩から選択されるアンジオテンシンII受容体拮抗剤とからなることを特徴とする医薬組成物。
・・・・・
36.利尿剤と、請求項1に記載の式(I)-(IX)の化合物から選択されるアンジオテンシンII受容体拮抗剤を段階的にまたは物理的に組み合わせて投与することからなる高血圧症の治療方法。
・・・・・」(請求項1,36(公表公報 請求項1,36))
8b 「本明細書に記載の化合物は、ホルモンAIIの作用を抑制し、遮断しかつ拮抗し、したがって該化合物はアンジオテンシン誘発の高血圧症、うっ血性心不全、腎不全およびAIIの作用に起因する他の障害の制御および緩和に有用である。AII受容体遮断化合物を哺乳動物に投与した場合、AIIによる高血圧は降下し、AIIの媒介に基づく他の徴候は最小となって制御される。これらの化合物はさらに利尿活性を示すことが予想される。」(p2 28行~p3 2行(公表公報p7右下欄10~15行))
8c 「式(I)の範囲内に包含される好ましい化合物は:・・・・・本発明の最も好ましい化合物は、(E)-3-[2-n-ブチル-1-{(4-カルボキシフェニル)メチル}-1H-イミダゾリル-5-イル]-2-(2-チエニル)メチル-2-プロペン酸・メタンスルホナートである。」(p5 15行~p6 2行(公表公報p8左下欄4~23行))
8d 「式(IX)の範囲内に包含される好ましい化合物は:
5-ブロモ-2-n-ブチル-1-(2-クロロフェニル)メチル-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボン酸、2-n-ブチル-1-(2-クロロフェニル)メチル-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボン、および2-n-ブチル-1-(4-カルボキシフェニル)メチル-5-クロロ-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボン酸;またはその医薬上許容される塩である。」(p18 23~31行(公表公報p12右上欄1~7行))
8e 「最も好ましくは、本発明の単位投与形の組成物は、(E)-3-[2-n-ブチル-1-{(4-カルボキシフェニル)メチル-1H-イミダゾール-5-イル]-2-(2-チエニル)メチル-2-プロペン酸またはその医薬上許容される塩と、利尿剤、カルシウムチャネル遮断剤、β-アドレノセプター遮断剤、レニン抑制剤またはアンジオテンシン転換酵素抑制剤とからなる。また、非毒性の塩の形態にて用いることができる。」(p19 20~27行(公表公報p12右上欄下から4行~左下欄2行))
8f 「特許請求の医薬組成物の抗高血圧活性を、自発的高血圧症の実験ラットを用いて測定する。このin vivo試験の詳細な記載は、ロエスラー・ジェイ・エム(Roesler,J.M.)らによる、ジャーナル・オブ・ファーマコロジー・アンド・イクスペリメンタル・セラピューニクス(J.Pharmacol.Exp.Ther.)236:1-7(1986)にある。この試験系におけるヒドロクロロチアジド(HCTZ)投与の前後での(E)-3-[2-n-ブチル-1-{(4-カルボキシフェニル)メチル}-1H-イミダゾール-5-イル]-2-(2-チエニル)メチル]-2-プロペン酸(化合物A)の降圧効果を下記の表1に示す。これらの結果は、利尿剤がAII受容体拮抗剤の降圧効能を強化することを示唆している。すなわち、これらの2種類の薬剤を組み合わせた療法が、高血圧患者の間で療法に対する応答割合を増加させると思われる。
表1
有利には、医薬担体と、利尿剤、カルシウムチャネル遮断剤、β-アドレノセプター遮断剤、レニン抑制剤またはアンジオテンシン転換酵素抑制剤から選択される第2の治療薬とからなる調製物中に、式(I)-(IX)のアンジオテンシンII遮断化合物が、高血圧症の治療を必要とする対象で該症状を治療しうる量にて存在する。該調製物は、投与単位中、約0.01~200mg、好ましくは1~100mgの量にてアンジオテンシンII遮断化合物を含有する。」(p22 25行~p24 1行(公表公報p13左上欄下から6行~右上欄下から2行))
「甲第9号証」
9a 「サイアザイド薬の副作用としては,薬剤の作用機序に基づくこの系統の薬剤に特有のものと,その薬剤自体によるものとに分けられる。前者はサイアザイド薬を使用すれば,すべてのものに程度の差はあるが観察されるものであり,図1の機序に基づくものである。近年・・・・・サイアザイド薬使用に伴って生じる低K血症,耐糖能異常・・・といった副作用が問題となっている。」(p10右欄最下行~p11左欄下から2行)
9b 図1には,サイアザイド薬の副作用発症機序とのタイトルの下,Na利尿が低Na血症,血漿レニン活性の上昇,アルドステロンの増加,低K血症,さらに高血糖をもたらすことが記載されている。(p11 図1)
「甲第10号証」
10a 「心不全に際して,・・・約75%の患者ではrenin-angiotensin-aldosterone系は心拍出量の低下による血圧の下降を防ぐため活性が上昇している。したがって,angiotensin-converting enzyme(ACE)抑制剤はこのような心不全の患者で特に血圧を下げる効果があるものと思われる。ACE抑制剤のcaptoprilとenalaprilは二重盲検法による臨床試験の結果,軽度から重症の心不全の治療薬として有効なことが立証された。これらの薬物の効果によるangiotensinIIとaldosterone濃度の低下は長期にわたって持続することが報告されている。」(p82左欄10~24行)
10b「ACE抑制剤の特徴は血中のK+濃度を上昇し,Na+濃度を減少する点である。K濃度の変化はジギタリスの効果を左右するので,ジギタリスを併用する場合にはK+濃度を正常値の範囲内に保つ必要がある。・・・DIgoxinと利尿剤のみの対象群に比べて,digoxinと利尿剤のほかにenalaprilを投与した群では,長期生存率が明らかに改善された(図28)。」(p82右欄10~20行)
「甲第11号証」
11a 「他方、引用文献21(注:甲8に相当)に記載された、アンジオテンシンII拮受容体拮抗効果に対する”強化”とは、相加効果を超えたもの以外の何ものをも意味しておらず、したがって、本件特許にいう相乗効果を示しているものである。そのような効果は。その発現機序がどうであれ、引用文献21の表1に記載された情報によって示されている。」(決定理由の項、5.2.2 14~21行)
11b 「引用文献2(注:甲2に相当)及び28(注:甲12に相当)に記載のとおり、カンデサルタン シレキセチル(注:(±)-1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル2-エトキシ-1-〔〔2′-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル〕メチル〕-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボキシラートに相当)は周知のアンジオテンシンII受容体拮抗剤であって、非常に強い毒性を示し、とりわけ高血圧症の治療において臨床的に有用であり、かつ同じく周知のロサルタンよりも約10倍以上も活性が高いものである。
引用文献2及び28に接した状況において、化合物A(注:(E)-3-[2-n-ブチル-1-{(4-カルボキシフェニル)メチル}-1H-イミダゾール-5-イル]-2-(2-チエニル)メチル]-2-プロペン酸に相当)の代わりに当該周知のアンジオテンシンII受容体拮抗剤であるカンデサルタン シレキセチルをヒドロクロロチアジドと併用し、高血圧治療のための更なる複合医薬を得ることは自明であった。」(決定理由の項、4.7,4.8)
「甲第12号証」
12a 「TCV-116,すなわち(±)-1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル2-エトキシ-1-〔〔2′-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル〕メチル〕-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボキシラートは新規に合成されたベンズイミダゾール誘導体であり・・・・・」(p183 下から8、7行)
12b 「TCV-116をSHR(注:高血圧自然発症ラット)に対し1mg/kg/日の用量で経口投与した際の血圧降下作用の程度が,ロサルタンを10mg/kg/日の用量で投与した際のものと同じであることを示す。」(p186 第2段落1,2行)
「甲第13号証」
13a 「計算上の相加効果は、分数積法:fu(1,2)=fu(1)Xfu(2)により評価下。当該式は、2薬剤の併用治療の効果を、それらが相互作用せずまたは協力しないとの推測に基づいて、当該降下を予測定することを可能にする。もしも観察された生存細胞の割合が計算された積を下回った場合、TRAIL(注:TNTαアポトーシス誘導リガンド)への感受性を認めた。」(p2左欄 クリスタルバイオレット生存試験の項、8~14行)
「甲第14号証」
14a 「IFNと制癌剤との併用効果の評価:薬剤の併用効果の評価は、・・・・・IFNおよび制癌剤を単独に用いた場合のそれぞれのコロニー形成率[A]及び[B]から求められる相加効果の期待値[A]×[B]/100と、両者を併用した場合のコロニー形成率の実測値[A+B]とを比較し、次のような判定基準に従い判定した。
a.相乗的(synergistic)効果:[A+B]が[A]×[B]より小さい場合。
b.相加的(additive)効果:[A+B]が[A]×[B]に等しい場合。
c.亜相加的(subadditive)効果:[A+B]が[A]×[B]より大さい場合。しかも[A+B]が[A]おび、[B]より大さい場合
d.干渉的(interference)効果:[A+B]が[A]×[B]より大さい場合。しかもA+B]が[A]と[B]の中間値となっている場合
e.拮抗的(antagonistic)効果:[A+B]が[A]×[B]より大さい場合。しかもA+B]が[A],[B]の両者より大きい場合とした。」(p739左欄下から10行~右欄11行)
「甲第15号証」
15a 「(1)カンデサルタン シレキセチルをベースにした利尿薬(ヒドロクロロチアジド)との配合剤である。
(2)カンデサルタン シレキセチル/ヒドロクロロチアジド8mg/6.25mgはカンデサルタン シレキセチル8mgよりも、「より早期から」「強力な」降圧作用が得られた。
(3)ヒドロクロロチアジドの承認最小容量である25mg/被よりも、さらに少ない1/4用量(6.25mg/日)の併用療法を可能にした薬剤である。」(p1 I 2.製品の治療学的・製剤的特性)
15b 本態性高血圧症患者を対象に、1日1回カンデサルタン シレキセチル/ヒドロクロロチアジドとして8mg/6.25mg、4mg/6.25mg、8mg/0mg、0mg/6.25mgを8週間投与した二重盲検試験結果が表に記載されている。表は以下のとおりである。
(p9 V 3.3-2 1.二重盲検比較(8週間投与)試験
15c 「高血圧自然発症ラット(SHR)を用い、カンデサルタン シレキセチルとヒドロクロロチアジドの併用による降圧効果を検討した。カンデサルタン シレキセチル1mg/kgとヒドロクロロチアジド10mg/kgは相乗的な降圧効果の増強が認められた・・・」(p21 VI 2.2-2 3.併用に因る降圧効果の検討(ラット))
「甲第16号証」
16a 「【発明の属する技術分野】本発明は、2-(4-フルオロフェニル)-1-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-3-トリメチルシリル-2-プロパノール及びイミノクタジン系殺菌剤等を有効成分として含有する相乗的に強化された殺菌作用を示す農園芸用殺菌組成物に関する。」(段落0001)
16b 「なお、相乗効果は、下記に示すコルビー(Colby)の式により判定した。
【数1】E=(X+Y)-X×Y÷100
Xは一方の有効成分の効果を、Yは他方の有効成分の効果を、Eは二種の有効成分の組み合わせに期待される作用(コルビーの計算値)を、完全に有効を100、完全に無効な場合を0として、示したものである。
実際に測定される効果が、上記のコルビーの式で計算される効果Eよりも大きい場合は、二種の有効成分の組み合わせの作用は相乗的であると判定される。」(段落0095~0097)
「甲第17号証」
17a 「実施例1
銅イオン誘導LDL酸化に対するビタミンEと結晶リコピンの組み合わせでの相乗効果について検討した。表1に詳細を示す。相乗効果を計算するのに用いたコルビー式の個々の成分は以下の通りである。
A + B - (AB/100) = 期待対照値
式中、A = ビタミンE単独でのパーセント対照値
B = リコピン単独でのパーセント対照値
相乗効果 = IF/IE
式中、IF = 実際のパーセント対照値
E = 期待パーセント対照値
IF/IE比が明らかに1より大きければ相乗効果が証明される。」(p14 下から2行~p15 10行)
「甲第18号証」
18a 「ラフマ抽出物とギャバを組み合わせた組成物の予測される相加効果はコルビー(Colby)の式(R.S.Colby,Weeds,15,20-22,1967)を用いて計算した結果、
70%+65%-70%×65%=90%
即ち、ラフマ抽出物とギャバの相加効果は唾液中のCgA抑制率が90%程度である。
コルビー(Colby)の式を用いて計算された相加効果と、観察された効果と比較し、観察された効果(唾液中のCgA抑制率98%)がコルビーの式を用いて予測された効果(唾液中のCgA抑制率90%)より高く、つまり、より強い抗ストレス効果があることを示している。
従って、ラフマ抽出物とギャバの併用効果は単なるラフマ抽出物とギャバの相加作用ではなく、予想できない相乗作用であると意外な効果を表した。」(段落0028~0030)
第6 無効理由1について
無効理由1は,本件請求項1~5,7~9,14,17~23,26,31及び32に係る特許発明は,甲第1号証に記載された発明である。したがって,同特許発明は,特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができない,というものである。
しかし,請求項2~16,18,20~24,26,27,29~31を削除することを求める訂正を含む,平成27年7月10日付け訂正請求は前記第2に記載されたとおり認容され,その結果,本件特許発明は,前記第3に記載のとおりとなった。
上記訂正が認容された結果,本件特許には,もはや上記無効理由1の請求対象である請求項2~5,7~9,14,18,20~23,26,31は存在しないのであるから,同請求項に係る特許に対して無効審判を請求できる余地はない。
よって,請求項2~5,7~9,14,18,20~24,26,31に係る特許についてする本件無効理由1の無効審判の請求は,不適法な請求であり,その補正をすることができないものであるから,特許法第135条の規定により却下すべきものである。
以下,請求項1,17,19,及び32に係る特許に関する上記無効理由を検討する。
1.甲1の記載事項
甲1には,第5「甲第1号証」において指摘した事項が記載されている。
2.甲1に記載された発明
甲1には,式(I)で表される置換ベンズイミダゾール類化合物及びその医薬的に使用し得る塩
式
(定義は1a参照)
がアンギオテンシンIIアンタゴニストとして有用な化合物であること(1a,1b),その代表的な化合物が,アンギオテンシンIIアンタゴニスト阻害濃度(IC50)<50μMの活性を有すること(1d),さらに,該活性に基づいて,高血圧症などの治療などの医薬用途に適用しうること(1e)が記載されている。
これら記載から,甲1には,「式(I)で表される置換ベンズイミダゾール類化合物及びその医薬的に使用し得る塩
式
(定義は1a参照)
であるアンギオテンシンIIアンタゴニストを有効成分とする,アンギオテンシンIIアンタゴニスト活性がその治療に有効な医薬組成物。」の発明(以下,「引用発明1」という)が記載されていると認める。
3.引用発明1との対比・判断
(1)本件特許発明1について
一方,本件特許発明1は,「一般式(I)で表されるアンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物またはその塩
一般式
(定義は請求項1参照)
と利尿作用を有する化合物またはカルシウム拮抗作用を有する化合物とを組み合わせてなるアンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤。」に係る発明である。
ここで,R2のエステル化されていてもよいカルボキシル基は-COOH,-COOEt,ピバロイルオキシメトキシカルボニル,1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エトキシカルボニルなど,R3の陰イオンを形成しうる基またはそれに変じ得る基は,テトラゾリル基など,R1の置換されていてもよい炭化水素残基は炭素数1~8程度の低級アルキル基、炭素数2~8程度のアルケニル基、炭素数2~8程度のアルキニル基、炭素数3~6程度のシクロアルキル基、アリール基など,そして,
が
,原子鎖2以下のスペーサーとしては,-O-,-S-,-NH-,-CO-NH-,-OCH2-,-SCH2-,-CH=CH-を含むものであることは,本件特許明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載から明らかである(請求項5,15,16,23,段落0006;請求項7~9,13,14,段落0012;請求項2~4,段落0006;段落0014;段落0013)。
甲1記載の式(I)化合物と,本件特許発明1の一般式(I)化合物とを対比すると,両者はともに,ベンズイミダゾール骨格を有する化合物であって,前者の式(I)中の,種々の置換基のうち,2位置換基として-E-R6(Eが単結合,-O-,R6が任意にハロなどから選択される1又は2個の置換基で置換されるC1~C6-アルキル)を,4~7位置換基としてR8a,R8b((n)-CO2H,(o)-CO2-C1~C4-アルキル)を,rとして(1又は2)を,Xとして(存在しないか又は(a)炭素-炭素単結合、(b)-CO-、(c)-O-、(d)-S-、(e)-N(R13)-、(f)-CON(R15)-、(h)-OCH2-、(j)-SCH2-、(p)-CH=CH-)を,R1として((a)CO2R4(R4=H),(b)-NHSO2CF3,(s)テトラゾリル(R11=H)基)を,R2a,R2b,R3a,R3b,R7a,R7bとして(いずれもH)を選択した場合は,各々,後者の一般式(I)中の,2位置換基-Y-R1(Yが結合手,-O-,R1が炭化水素残基),7位置換基R2がエステル化されていてもよいカルボキシル基,n(1又は2),X(直接結合又は原子鎖2以下のスペーサー),R3(陰イオンを形成し得る基,またはそれに変じうる基)に対応する。
しかし,甲1には,本件特許発明1の一般式(I)で表される化合物の構造上の最も大きな特徴であるとされている7位置換基R2に対応する,式(I)中の置換基R8a,R8bとして,上記した(n)-CO2H,(o)-CO2-C1~C4-アルキルのほか,(a)~(oo)と数多くの基が列挙されている。そして,R8a,R8bが(n)-CO2H,(o)-CO2-C1~C4-アルキルである場合の置換ベンズイミダゾール類化合物及びその医薬的に使用し得る塩は具体的に記載されていないし,該化合物についてアンギオテンシンIIアンタゴニスト阻害濃度の測定値などの記載もない。
次に,両化合物の性質について検討すると,甲1記載の化合物はアンギオテンシンIIアンタゴニストであり(1c,1d,1e),一方,本件特許発明1の一般式(I)化合物もアンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物であって,両化合物はともに,アンジオテンシンIIに拮抗的に作用する物質である。本件特許発明1の,アンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤に,アンジオテンシンII関連疾患であって,アンジオテンシンIIに拮抗的に作用することによって予防または治療される医薬が包含されることは,一般式(I)化合物の性質から当業者に自明であるから,甲1に明示の記載はなくとも,引用発明1の医薬組成物は,本件特許発明1の アンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤に相当するといえる。
甲1には,また,甲1記載の式(I)の化合物を他の抗高血圧剤及び/又は利尿剤及び/又はカルシウムチャンネル遮断剤と併用して投与すること,それら併用しうる薬剤として,ヒドロクロロチアジド,メトラゾン,エタクリンサン,フロセミドなどの利尿剤,ジルチアゼム,フェロジピン,ニカルジピンなどのカルシウムチャネル遮断剤が例示されている(1a,1f)。そして,上記甲1記載の式(I)の化合物と利尿剤とを併用した薬剤について,甲1には,利尿剤であるヒドロクロロチアジドと2-ブチル-1-(2′-(テトラゾール-5-イル)ビフェン-4-イル)メチルベンズイミダゾールとを含む混合錠剤の処方例が記載されている(1g)。
しかし,上記2-ブチル-1-(2′-(テトラゾール-5-イル)ビフェン-4-イル)メチルベンズイミダゾールは,本件特許発明1の一般式(I)の化合物とは異なり,7位非置換の化合物である。また,利尿剤との併用剤について,アンジオテンシンII介在性諸疾患,たとえばアンジオテンシンIIが関連する高血圧に対する作用効果を確認したなどの試験例の記載はない。
そうすると,本件特許明細書中,一般式(I)で表される本件特許発明の予防または治療剤に用いる化合物の構造上の最も大きな特徴の一つとされている(段落0005),ベンズイミダゾール骨格の7位にエステル化されていてもよいカルボキシル基を持つ化合物に対応する,甲1記載の式(I)中の置換基R8a,R8bが(n)-CO2H,(o)-CO2-C1~C4-アルキルである置換ベンズイミダゾール類化合物及びその医薬的に使用し得る塩については,甲1に記載されていると認めることはできないし,ましてや該化合物と利尿作用を有する化合物またはカルシウム拮抗作用を有する化合物を組み合わせてなる,アンギオテンシンIIアンタゴニストを有効成分とする,アンジオテンシンIIアンタゴニスト活性がその治療に有効な医薬組成物に係る発明が実質的に記載されていると認めることはできない。
したがって,引用発明の化合物の性質と本件特許発明1の化合物の性質との異同について検討するまでもなく,本件特許発明1は甲1に記載された発明であると認めることはできない。
(2)本件特許発明17,19,及び32について
本件特許発明17,19,及び32は,本件特許発明1を引用し,式(I)化合物の点,または,組み合わせる利尿剤,カルシウム拮抗剤の点で,本件特許発明1をさらに特定するものである。そして,さらなる特定は,前記(1)において既に指摘した基の範囲内でなされたものである。
また,本件特許発明32は,本件特許発明1と同じ疾患の予防又は治療剤の製造のための同発明と同じ化合物の使用に係る発明である。
したがって,本件発明17,19,及び32は,上記本件特許発明1の項において検討したのと同様の理由により,甲第1号証記載の発明ではない。
第7 無効理由2(A)について
無効理由2(A)は,本件請求項1~5,7~9,14,17~23,26,31及び32に係る特許発明は,甲第1号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって,同特許発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである,というものである。
しかし,請求項2~16,18,20~24,26,27,29~31を削除することを求める訂正を含む,平成27年7月10日付け訂正請求は前記第2に記載されたとおり認容され,その結果,本件特許発明は,前記第3に記載のとおりとなった。
上記訂正が認容された結果,本件特許には,もはや上記無効理由2(A)の請求対象である請求項2~5,7~9,14,18,20~23,26,31は存在しないのであるから,同請求項に係る特許に対して無効審判を請求できる余地はない。
よって,請求項2~5,7~9,14,18,20~24,26,31についてする本件無効理由2(A)の無効審判の請求は,不適法な請求であり,その補正をすることができないものであるから,特許法第135条の規定により却下すべきものである。
以下,請求項1,17,19,及び32に係る特許に関する上記無効理由を検討する。
1.甲1の記載事項
甲1には,第5「甲第1号証」において指摘した事項が記載されている。
2.甲1に記載された発明
甲1には,第6 2記載のとおり,「式(I)で表される置換ベンズイミダゾール類化合物及びその医薬的に使用し得る塩
式
(定義は1a参照)
であるアンギオテンシンIIアンタゴニストを有効成分とする,アンジオテンシンIIアンタゴニスト活性がその治療に有効な医薬組成物。」の発明(以下,「引用発明1」という)が記載されていると認める。
3.引用発明1との対比・判断
(1)本件特許発明1について
ア.対比
甲1記載の化合物はアンギオテンシンIIアンタゴニストであり(1c,1d,1e),一方,本件特許発明1の一般式(I)化合物もアンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物であって,両化合物はともに,アンジオテンシンIIに拮抗的に作用する物質である。本件特許発明1の,アンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤に,アンジオテンシンII関連疾患であって,アンジオテンシンIIに拮抗的に作用することによって予防または治療される医薬が包含されることは,一般式(I)化合物の性質から当業者に自明であるから,甲1に明示の記載はなくとも,引用発明1の医薬組成物は,本件特許発明1の アンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤に相当するといえる。
また,甲1記載の式(I)の化合物は,上記2に記載のとおりである。
そこで,第6 3において指摘したことを踏まえて,本件特許発明1と引用発明1とを対比すると,両者は,その2位に置換基を有し,さらに,1位に置換フェニル-X-フェニル-CH2-基を有し,イミダゾール環に縮合したベンゼン環上に置換基が置換した,アンジオテンシンII拮抗作用を有する,ベンズイミダゾール化合物またはその塩を含むアンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤,である点で一致し,以下の点で相違する。
相違点
1.本件特許発明1の一般式(I)のベンゼン環上の置換基R2が,エステル化されていてもよいカルボキシル基であり,7位に置換しており,
さらに,1位に
が,
2位に-Y-R1
が置換しているのに対し,引用発明1の式(I)のベンゼン環上の置換基は,(a)~(oo)から成る群から選択される置換基であり(1a),その置換位置も4~7位のいずれであるか特定されておらず,
さらに,1位に-(CH2)r-フェニル(R3a)(R3b)-X-フェニル(2’-R1)(R2a)(R2b)が,
2位に-E-R6
が置換している点
2.本件特許発明1が上記アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物またはその塩と利尿作用を有する化合物またはカルシウム拮抗作用を有する化合物とを組み合わせてなる剤であるのに対して,引用発明1は,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物またはその塩と利尿作用を有する化合物またはカルシウム拮抗作用を有する化合物とを組み合わせることについて実質的に記載がない点
イ.相違点1についての判断
第6 3において指摘したとおり,甲1には,式(I)中の符号R8a,R8bが((n)-CO2H,(o)-CO2-C1~C4-アルキル)である置換ベンズイミダゾール類化合物及びその医薬的に使用し得る塩は具体的には記載されていないし,該化合物についてアンギオテンシンIIアンタゴニスト阻害濃度の測定値などの記載はない。
しかし,該置換基は,甲1記載の式(I)の化合物の符号として記載されており,該置換基を有する化合物もまたアンギオテンシンIIアンタゴニスト阻害作用を有することが期待される化合物と記載されている。
また,その他の置換基についても,少なくとも,本件特許発明1記載の一般式(I)で表される化合物の2位置換基が-Y-R1(Yが結合手,-O-,R1がC1-6アルキル,C2-5アルケニル,C2-5アルキニル,アリール)に,1位置換基が
(R3が1H-テトラゾール-5-イル基,カルボキシル基、トリフルオロメタンスルホン酸アミド基)に,相当する基を取り得ることが甲1に記載されている。
そうすると,甲1の記載に従い,上記置換基を有する化合物を実際に製造し,その作用効果を確認する程度のことは当業者が容易になしうることである。
ウ.相違点2についての判断
第6 3において指摘したとおり,甲1には,式(I)の化合物を他の抗高血圧剤及び/又は利尿剤及び/又はカルシウムチャンネル遮断剤と併用して投与すること,それら併用しうる薬剤として,ヒドロクロロチアジド,メトラゾン,エタクリンサン,フロセミドなどの利尿剤が例示されている(1f)。そして,上記甲1記載の式(I)の化合物と利尿剤とを併用した薬剤について,甲1には,利尿剤であるヒドロクロロチアジドと2-ブチル-1-(2′-(テトラゾール-5-イル)ビフェン-4-イル)メチルベンズイミダゾールとを含む混合錠剤の処方例が記載されている(1g)。たしかに,上記2-ブチル-1-(2′-(テトラゾール-5-イル)ビフェン-4-イル)メチルベンズイミダゾールは,甲1の式(I)中の符号R8a,R8bが((n)-CO2H,(o)-CO2-C1~C4-アルキル)である本件特許発明1の一般式(I)の化合物とは異なる化合物であるが,同じく甲1記載の式(I)で表されるアンジオテンシンIIアンタゴニストに包含される化合物であるから,2-ブチル-1-(2′-(テトラゾール-5-イル)ビフェン-4-イル)メチルベンズイミダゾールに代えて,甲1の式(I)の,置換基として列挙されている基を有する,上記以外の化合物との併用を当業者は容易に想到し得たものと認める。
そして,上記併用剤の効果についてみても,本件特許明細書には,(±)-1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル2-エトキシ-1-〔〔2′-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル〕メチル〕-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボキシラート,もしくは2-エトキシ-1-〔〔2′-(4,5-ジヒドロ-5-オキソ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル〕メチル〕-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボン酸とヒドロクロロチアジドとの併用による降圧作用が記載されているものの,その作用効果は,甲1の式(I)の化合物とヒドロクロロチアジドとの併用による降圧作用と比較されたわけではないから,アンジオテンシンII介在性疾患,たとえばアンジオテンシンIIが関連する高血圧に対する作用効果の点で,本件特許発明が,甲1の式(I)の化合物と利尿剤との併用に比べて一層優れた効果を奏するものとも認められない。
よって,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物またはその塩と利尿作用を有する化合物とを組合わせてなるアンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤が,予測し得ない顕著な効果を奏することが,本件特許明細書に記載されているか,もしくは,記載されているに等しいものと認めることはできない。
甲1には、さらに,アンギオテンシンIIアンタゴニストと利尿剤とを併用した場合、「併用剤についての個々の日用量は、それらが単独で投与されるときの最小推奨投与量の約1/5から最大推奨投与量までの範囲とすることができる」(p26左上欄16~19行)と記載されているのであるから,薬剤を組み合わせた場合に,それぞれの薬物の投与量を低下させることが可能であること,また,投与量を減じた結果,単独でみられる薬物の副作用の発現が抑制されることは,期待されうるところであり,副作用の軽減を図ることができるとの本件特許明細書記載の効果も当業者の予測の範囲内であるといえる。
エ.まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は,甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)本件特許発明17について
本件特許発明17は,本件特許発明1の利尿作用を有する化合物について、その下位概念である薬剤,たとえばヒドロクロロチアジドなどに限定するものである。
甲1には,アンギオテンシンIIアンタゴニストと併用する利尿剤として,ヒドロクロロチアジドなどが記載されている(1f)。
よって,本件特許発明1の利尿作用を有する化合物として,甲1記載の利尿剤を用いることは当業者であれば容易に想到し得るものと認める。
そして,上記併用剤の効果についてみても,本件特許明細書には,上記(1)において指摘したとおりの記載があるにとどまり,本件特許発明17の全てにわたり,単一薬物投与時には見られなかった格別に顕著な効果が奏されることが本件特許明細書に記載されているか,もしくは,記載されているに等しいものと認めることはできない。
以上のとおり,本件特許発明17は,甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件特許発明19について
本件特許発明19は,本件特許発明1のカルシウム拮抗作用を有する化合物について、その下位概念である薬剤,たとえば塩酸ジルチアゼム,ニトレンジピンなどに限定するものである。
しかし,本件特許発明19は,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物またはその塩と利尿作用を有する化合物との組合わせを排除していない。
そして,利尿作用を有する化合物と組合わせてなる発明については,上記(1)と同様に判断される。
以上のとおり,本件特許発明19は,甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)本件特許発明32について
第6 3(2)に記載のとおり,本件特許発明32は,本件特許発明1と同じ疾患の予防又は治療剤の製造のための同発明と同じ化合物の使用に係る発明である。
よって,本件特許発明32については,上記(1)と同様に判断される。
第8 無効理由2(B)について
無効理由2(B)は,請求項6,11~13及び25に係る特許発明は,甲第1号証,甲第2号証に記載された発明,及び甲第3号証及び甲第5~10号証に記載された技術常識に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって,同特許発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
しかし,請求項2~16,18,20~24,26,27,29~31を削除することを求める訂正を含む,平成27年7月10日付け訂正請求は前記第2に記載されたとおり認容され,その結果,本件特許発明は,前記第3に記載のとおりとなった。
上記訂正が認容された結果,本件特許には,もはや上記無効理由2(B)の請求対象である請求項6,11~13は存在しないのであるから,同請求項に係る特許に対して無効審判を請求できる余地はない。
よって,請求項6,11~13に係る特許についてする本件無効理由2(B)の無効審判の請求は,不適法な請求であり,その補正をすることができないものであるから,特許法第135条の規定により却下すべきものである。
以下,請求項25に係る特許に関する上記無効理由を検討する。
1.甲1の記載事項
甲1には,第5「甲第1号証」において指摘した事項が記載されている。
2.甲1に記載された発明
甲1には,第6 2において検討のとおり,「式(I)で表される置換ベンズイミダゾール類化合物及びその医薬的に使用し得る塩
式
(定義は1a参照)
であるアンギオテンシンIIアンタゴニストを有効成分とする,アンギオテンシンIIアンタゴニスト活性がその治療に有効な医薬組成物。」の発明(以下,「引用発明1」という)が記載されていると認める。
3.引用発明1との対比・判断
(1)本件特許発明25について
本件特許発明25は,(±)-1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル2-エトキシ-1-〔〔2′-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル〕メチル〕-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボキシラートまたはその塩とヒドロクロロチアジドとを組み合わせてなる高血圧症の予防または治療剤に係る発明である。
ア.対比
本件特許発明25記載の化合物である,(±)-1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル2-エトキシ-1-〔〔2′-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル〕メチル〕-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボキシラートまたはその塩は,本件特許発明1の一般式(I)中の符号R1が置換されていてもよい炭化水素基について,その下位概念であるエチルに,R2がエステル化されていてもよいカルボキシル基について,その下位概念である,シクロヘキシルオキシカルボニルオキシで置換されている低級アルコキシカルボニルに,R3が陰イオンを形成しうる基またはそれに変じうる基について,その下位概念であるテトラゾリルに,Yをその一の選択肢である-O-に,nを1,Xを直接結合していることを示すと限定した化合物に相当するものである。
そして,本件特許明細書には,一般式(I)で表される化合物は,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物であること,また,該化合物またはその塩と利尿作用を有する化合物又はカルシウム拮抗作用を有する化合物とを組合わせてなる剤がアンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤であり,たとえば高血圧症の予防または治療剤であることが記載されており(請求項1,22,段落0023など),上記のとおり,一般式(I)の一態様である本件特許発明25記載の化合物もまた,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物であるから,アンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤であるといえる。
そうすると,本件特許発明25の高血圧症には,少なくとも,アンジオテンシンII介在性のものが当然に含まれているといえる。
他方,引用発明1が,本件特許発明1のアンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤に相当するといえることは,第6 3(1)においてすでに検討したとおりであるから,本件特許発明25,引用発明1は,ともに,疾患の予防または治療剤である。
また,甲1記載の式(I)の化合物は,上記2に記載のとおりである。
そうすると,両者は,その2位に置換基を有し,さらに,1位に置換フェニル-X-フェニル-CH2-基を有し,イミダゾール環に縮合したベンゼン環上に置換基が置換した,ベンズイミダゾール骨格を有する化合物を有効成分とする,疾患の予防または治療剤,である点で一致し,以下の点で相違する。
相違点
1.本件特許発明25記載の化合物が,その7位にシクロヘキシルオキシカルボニルオキシで置換されているエトキシカルボニルを,2位にエトキシを,1位に2’-(1H-5-テトラゾールー5-イル)ビフェニル-CH2-基を,Xが直接結合であるベンズイミダゾール類化合物に相当するのに対し,引用発明1の化合物は,ベンゼン環上の置換基(引用発明1の式(I)中の符号R8a,R8b)は,(a)~(oo)から成る群から選択される置換基であり(1a),シクロヘキシルオキシカルボニルオキシで置換されているエトキシカルボニルとは異なるとともに,その置換位置も4~7位のいずれであるか特定されていないし,また,1位の置換フェニル-X-フェニル-CH2-基の置換基(同式(I)の符号R1)は,(a)~(y)であり,2位の置換基(同式(I)の符号E-R6)については,Eが単結合,-O-などのいずれであるか,また,R6がC1~6アルキルなどのいずれであるか特定されておらず,Xが(a)~(z)であるとされている点
2.本件特許発明25が,高血圧症の予防または治療剤であるのに対して,引用発明1は,アンジオテンシンIIアンタゴニストを有効成分とする,アンジオテンシンIIアンタゴニスト活性がその治療に有効な医薬組成物であって,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物またはその塩と利尿作用を有する化合物またはカルシウム拮抗作用を有する化合物とを組み合わせることについて記載がない点
イ.相違点1についての判断
甲1には,符号R8a,R8bについて,上記のとおり,(a)~(oo)からなる種々の基が列挙されていて(1a),そのうち,他に比べて優れた効果を奏しうる基が存在することや,それが如何なる基であるかなどについて何らの記載もなされていない。また,甲1には,その7位に,式(I)中の符号R8a,R8bが((n)-CO2H,(o)-CO2-C1~C4-アルキル)である置換ベンズイミダゾール類化合物及びその医薬的に使用し得る塩は具体的に記載はなく、ましてや,本件特許発明25記載の化合物は記載されていないし,該化合物のアンギオテンシンIIアンタゴニスト阻害濃度の測定値などの性質に関する記載もない。
本件特許明細書には,代表的な化合物を評価したこと,その全てが少なくとも全特異的結合3H-アンギオテンシンIIの50%置換を得るAIIアンタゴニスト候補の阻害濃度(IC50)<50μMの活性を示したことが記載されているが(1d),上記したとおり,具体的な製造例の記載もない化合物が,上記の代表的な化合物であると認識されていたとか,該化合物に特に注目するといったことは,甲1に接した当業者といえども通常考え難い。
一方,甲2には,ベンズイミダゾール骨格の7位置換基R’がエステル化またはアミド化されていてもよいカルボキシル基を示す化合物,及び該化合物が強力なアンギオテンシンII拮抗作用および血圧降下作用を有し、高血圧症、心臓病(心肥大、心不全、心筋梗塞など)、脳卒中、腎炎などの循環器系疾患治療剤として有用であることが記載されている(2b)。そして,R’が,式-COOCH(R7)OCOR8(式中R7は水素,炭素数1-6の直鎖もしくは分枝状の低級アルキル基を示し、R8はシクロヘキシルオキシ)を示す]である場合の化合物が含まれており,たとえば,カルボキシル基,エトキシカルボキシル基,ピバロイルオキシメチルオキシカルボニル基,1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチルオキシカルボニル基である場合の化合物について,実際に,アンギオテンシン受容体へのアンギオテンシンII結合阻害効果,及びアンギオテンシンII昇圧反応に対する抑制効果が記載されている(2c,2e)。
しかし,甲2をみても,甲2記載の化合物間で,その効果上,差異があるとの記載はない。また,アンジオテンシンII昇圧反応に対する抑制反応における試験データから,7位置換基が1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチルオキシカルボニル基である場合の化合物,とりわけ,本件特許発明25記載の化合物である実施例17記載の化合物が,特に優れた効果を奏するものであるとも読み取れず,結局,アンギオテンシンII拮抗作用,昇圧抑制作用において特段優れた効果を奏することが確認されていないことに照らすと(表2),これら甲2の記載からは,ベンズイミダゾール骨格を有する化合物の7位置換基として,甲2に記載されている,-COOCH(R7)OCOR8(式中R7は水素,炭素数1-6の直鎖もしくは分枝状の低級アルキル基を示し、R8はシクロヘキシルオキシを示す),たとえば,1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチルオキシカルボニル基は,甲1に記載されている-CO2-C1~C4-アルキルと同程度のアンジオテンシン拮抗作用に基づく効果をもたらす基であると理解するものと認められる。
そうすると,たとえ,甲2に本件特許発明25記載の化合物が記載されているとはいえ,甲1に式(I)中の符号R8a,R8bとして多数列挙されている置換基の中から,7位置換基として,特段着目されているとは認められない置換基-CO2-C1~C4-アルキルを選択して,さらに,上記のとおり該置換基と同等の作用を有すると予想される甲2記載の,1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチルオキシカルボニル基に代えるとする動機付けは見いだせない。
よって,甲1に記載されている式(I)の化合物に代えて,甲2に記載されている,ベンズイミダゾール骨格の7位に,-COOCH(R7)OCOR8(式中R7は水素,炭素数1-6の直鎖もしくは分枝状の低級アルキル基を示し,R8はシクロヘキシルオキシを示す),すなわち,シクロヘキシルオキシカルボニルオキシで置換された低級アルコキシカルボニル,たとえば,1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチルオキシカルボニルを有する化合物,とりわけ,甲2の実施例17の化合物を,引用発明1のアンジオテンシン拮抗作用を有する化合物またはその塩として用いてみることを当業者が容易に想到し得たと認めることはできない。
そして,甲3,甲5~甲10は,いずれも,レニン・アンジオテンシン系薬剤と利尿剤との併用に関連して,構成の想到容易性や効果の予測可能性を裏付けるために提出された証拠であって,上記した7位置換ベンズイミダゾール類化合物に関する記載はみあたらない。
以上のとおり,相違点1について,甲1及び甲2記載の発明,並びに甲3,甲5~10の記載から把握される技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得たと認めることはできない。
ロ.相違点2についての判断
アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物と利尿作用を有する化合物とを組合わせることや,それら化合物の組合わせにより,単独投与と比べて,アンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療において著明な効果を奏することが,甲3,甲5~10の記載を参酌しても,本件特許出願時における当業者の技術常識であったとも,予測可能であったとも認められないことは,下記第12(2)ウにおいて検討しているとおりである。そして,甲3,甲5~10はいずれも本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物であるし,また,本件特許出願の優先日において,上記した本件特許特許出願時の当業者の技術常識とは異なる技術常識が存在していたといえるような証拠は見当たらず,該優先日における技術常識も上記と同様であったものと認められる。
これに対して,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物である(±)-1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル 2-エトキシ-1-〔〔2’-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル〕メチル〕ベンズイミダゾール-7-カルボキシラート(化合物1)の降圧作用が利尿作用を有する化合物であるヒドロクロロチアジドとの併用投与により増強されることは,本件特許明細書に記載されており,本件特許発明25は,予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
ところで,本件特許発明25は,高血圧症についてアンジオテンシンII介在性高血圧症に限定されていないから,あらゆる原因によって誘発される高血圧症の予防または治療剤に係る発明を包含するものである。
しかし,請求人が提出したいずれの甲号証にも,アンジオテンシンIIの関与しない,ベンズイミダゾール骨格を有する化合物を有効成分とする高血圧症の予防または治療剤に係る発明は記載されておらず,アンジオテンシンIIが関与しない高血圧症の予防または治療剤に係る発明について,甲各号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。
なお,甲12には,ロサルタンを利尿作用を有する化合物と組合わせて使用することは記載されておらず,甲12の記載事項を参酌しても,ロサルタンやロサルタンより優れた効果を奏するその他の化合物が,利尿剤と併用されるレニン・アンジオテンシン系薬剤であることが本件特許出願の優先日における技術常識であったということはできない。
以上のとおり,相違点2は当業者が容易に想到し得ないものである。
したがって,仮に,甲1記載の化合物に代えて本件特許発明25記載の化合物を甲1記載の化合物に代えるとする動機付けがあるとしても,本件特許発明25は,甲1及び甲2記載の発明,並びに甲3,甲5~10の記載から把握される技術常識に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
また,請求人が提出したその他の甲号証をみても,甲11は,本件特許の対応する特許についての他庁における審理見解であって,別事件である本件判断に何ら影響を与えない。甲12によれば,本件特許発明25記載の化合物が,SHRに対する血圧降下作用において,ロサルタンの約10分の1の用量で同等の効果を達成しうることを理解することができる。しかし,ロサルタンは甲1,甲2に記載されたいずれの化合物にもあたらないから,本件特許発明25記載の化合物が,ロサルタンより血圧降下作用において優れた効果を奏するからといって,そのことをもって直ちに,甲1記載の化合物を本件特許発明25記載の化合物に代えるとする動機付けがあるとはいえない。
さらに,甲15は,降圧作用の相乗効果は,単独投与時と併用時の効果の和を超えるか否かによって評価されるものではないとの請求人の主張を立証するために,また,甲13,甲14,甲16~18はいずれも,血圧降下作用の評価方法に関し,いわゆる分数積法でなされるとの請求人の主張を立証するために提出された証拠である。しかし,本件特許発明25については,上記検討のとおり,効果について検討するまでもなく,進歩性を否定することはできないのであるから,上記請求人の主張が事実が否かによって上記判断は変わらない。
第9 無効理由2(C)について
無効理由2(C)は,本件請求項10,16及び27に係る特許発明は,甲第1号証,甲第3号証に記載された発明,及び甲第8号証に記載された技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって,同特許発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
しかし,請求項2~16,18,20~24,26,27,29~31を削除することを求める訂正を含む,平成27年7月10日付け訂正請求は前記第2に記載されたとおり認容され,その結果,本件特許発明は,前記第3に記載のとおりとなった。
上記訂正が認容された結果,本件特許には,もはや上記無効理由2(C)の請求対象である請求項10,16及び27は存在しないのであるから,該発明に対して無効審判を請求できる余地はない。
よって,請求項10,16及び27に係る特許についてする本件無効理由2(C)の無効審判の請求は,不適法な請求であり,その補正をすることができないものであるから,特許法第135条の規定により却下すべきものである。
第10 無効理由2(D)について
無効理由2(D)は,本件請求項15に係る特許発明は,甲第1号証,甲第2号証に記載された発明,及び甲第3号証に記載された技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって,同特許発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
しかし,請求項2~16,18,20~24,26,27,29~31を削除することを求める訂正を含む,平成27年7月10日付け訂正請求は前記第2に記載されたとおり認容され,その結果,本件特許発明は,前記第3に記載のとおりとなった。
上記訂正が認容された結果,本件特許には,もはや上記無効理由2(D)の請求対象である請求項15は存在しないのであるから,該発明に対して無効審判を請求できる余地はない。
よって,請求項15に係る特許についてする本件無効理由2(D)の無効審判の請求は,不適法な請求であり,その補正をすることができないものであるから,特許法第135条の規定により却下すべきものである。
第11 無効理由3について
無効理由3は,本件請求項31に係る特許発明は,産業上利用できる発明ではない。したがって,同特許発明は,特許法第29条第1項柱書きの規定に違反してなされた,というものである。
しかし,請求項2~16,18,20~24,26,27,29~31を削除することを求める訂正を含む,平成27年7月10日付け訂正請求は前記第2に記載されたとおり認容され,その結果,本件特許発明は,前記第3に記載のとおりとなった。
上記訂正が認容された結果,本件特許には,もはや上記無効理由3の請求対象である請求項31は存在しないのであるから,該発明に対して無効審判を請求できる余地はない。
よって,請求項31に係る特許ついてする本件無効理由3の無効審判の請求は,不適法な請求であり,その補正をすることができないものであるから,特許法第135条の規定により却下すべきものである。
第12 無効理由4について
(1)請求人が主張する理由
無効理由4は,第4に記載のとおり,発明の詳細な説明は,当業者が容易に本件請求項1~23,26,27,31及び32に係る特許発明の実施をすることができる程度に,その発明の構成,効果を記載していない。したがって,本件特許は,発明の詳細な説明の記載が,平成6年法律第116号改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた,というものである。
より具体的には,以下のとおりである。
本件明細書の発明の詳細な説明において具体的な効果が開示されているアンジオテンシンII拮抗剤と利尿剤との組合せは,(±)-1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル 2-エトキシ-1-〔〔2’-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル〕メチル〕ベンズイミダゾール-7-カルボキシラート(化合物1),もしくは2-エトキシ-1-[[2’-(2,5-ジヒドロ-5-オキソ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル]メチル]-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボン酸とヒドロクロロチアジドとの組み合わせだけである。
そして,上記以外の組み合わせにおいても,上記具体的組み合わせと同様な効果が得られることにつき,本件明細書の発明の詳細な説明に特段の説明はなされていないし,また,アンジオテンシンII拮抗剤と利尿剤とが、互いに各々の薬理効果を相乗的に増強するとの技術常識に照らして上記効果が達成されることを当業者が認識できるとも認められない。
よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,請求項1~23、26、27、31、32に係る発明の構成によって,本件明細書記載の本件特許発明の効果を達成することができると当業者が認識できる程度の記載がなされていると認めることはできない,というものである。
しかし,請求項2~16,18,20~24,26,27,29~31を削除することを求める訂正を含む,平成27年7月10日付け訂正請求は前記第2に記載されたとおり認容され,その結果,本件特許発明は,前記第3に記載のとおりとなった。
上記訂正が認容された結果,本件特許には,もはや上記無効理由4の請求対象である請求項2~16,18,20~23,26,27,31は存在しないのであるから,該発明に対して無効審判を請求できる余地はない。
よって,請求項2~16,18,20~23,26,27,31に係る特許についてする本件無効理由4の無効審判の請求は,不適法な請求であり,その補正をすることができないものであるから,特許法第135条の規定により却下すべきものである。
以下,請求項1,17,19,及び32に係る特許に関する上記無効理由を検討する。
(2)判断
ア.法規定
特許法第36条第4項は,「発明の詳細な説明には、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない。」と規定しており,明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基いて、当業者が発明を実施しようとした場合,どのように実施するかが理解できないときには,当業者が容易に実施しうる程度に、発明の目的,構成,効果が記載されているとはいえない。
イ.本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
本件特許発明は,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物またはその塩と利尿作用を有する化合物またはカルシウム拮抗作用を有する化合物とを組み合わせてなるアンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤およびその使用方法に関する(段落0001)。
利尿薬は,利尿作用による緩除な降圧効果を有するために降圧薬として古くから臨床応用されているが,長期使用による副作用として低カリウム血症などが問題となっている。また,カルシウム拮抗薬は,高血圧症,心臓病,脳卒中,腎炎,動脈硬化症などの循環器系疾患治療薬として使用されているが,急激な血管拡張作用に起因すると考えられる頻脈などの副作用が存在することが知られている(段落0002)。
そこで,本件特許発明は,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物またはその塩と利尿作用を有する化合物またはカルシウム拮抗作用を有する化合物とを組み合わせることによって,格別に顕著な効果を発揮させ,副作用の軽減を図り,また単一薬物投与時に見られる欠点を補おうとするものであり(段落0003),アンジオテンシンII拮抗作用を有するベンズイミダゾール誘導体と利尿作用を有する化合物またはカルシウム拮抗作用を有する化合物との併用効果について鋭意研究した結果,それぞれの単一薬物投与時には見られなかった格別に顕著な効果を見いだしたというものである(段落0004)。
ウ.当審の判断
前記イで指摘した本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件特許発明は,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物またはその塩と利尿作用を有する化合物とを組み合わせることによって,顕著な効果,たとえば降圧作用を発揮させるとともに,副作用の軽減を図ることを目的とし,また,効果とするものである。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,高血圧自然発症ラット(SHR)における,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物である(±)-1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル 2-エトキシ-1-〔〔2’-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル〕メチル〕ベンズイミダゾール-7-カルボキシラート(化合物1),もしくは2-エトキシ-1-[[2’-(2,5-ジヒドロ-5-オキソ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル]メチル]-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボン酸(化合物2)の降圧作用は,利尿作用を有する化合物であるヒドロクロロチアジドとの併用投与により,増強されたことが記載されているから(段落0028 表1,段落0029 表3),該組み合わせについて,顕著な効果が発揮されることを当業者は理解し確認することができる。
一方,利尿剤には,いくつかの種類のものが本件特許出願時に知られており,その中には,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているように,低K血症などの副作用をもたらすものが存在する(9a,9b)。本件出願の手続において提出された書類である甲4に記載の参考資料1(試験例)には,高血圧自然発症ラットにおける利尿剤との併用による尿中カリウム排泄量に関する試験結果が記載されており(4a),該試験結果によれば,(±)-1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル 2-エトキシ-1-〔〔2’-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル〕メチル〕ベンズイミダゾール-7-カルボキシラート(化合物1)とヒドロクロロチアジドとの併用投与時の尿中カリウム排泄量の測定値が,単独成分投与時の合計値より小さな値であったことが記載されており,該組み合わせについて,副作用が軽減されることを当業者は理解し確認することができる。該試験結果は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないが,本件特許明細書の発明の詳細な説明に,低カリウム血症が利尿剤の副作用であること,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物と利尿剤とを組み合わせることによって副作用の軽減を図るとの記載が存在していることに照らせば,該明細書の発明の詳細な説明に記載された事項について,その範囲において具体的に効果を確認したものにすぎないから,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているに等しい事項としてこれを参酌しうるものと認める。
しかし,上記以外の組み合わせについて,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,効果増強や副作用低減について記載はない。
ところで,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件特許発明に係る予防または治療剤に用いる化合物について,「その構造上の最も大きな特徴は,R2がエステル化されていてもよいカルボキシル基を,R3が陰イオンを形成しうる基またはそれに変じ得る基を併有することにある。このような構造を有することによって,極めて強いアンジオテンシンII拮抗作用が発揮される」(段落0005)と記載されており,また,上記した高血圧自然発症ラットにおける利尿剤との併用による尿中カリウム排泄量に関する試験結果から,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物またはその塩と利尿作用を有する化合物またはカルシウム拮抗作用を有する化合物とからなる薬物は,それぞれの単独の薬物による作用を増強し,それぞれの薬物の投与量を低下させることが可能であり,その結果,それぞれ単独でみられる薬物の副作用の発現を抑えることが大いに期待されることが記載されている(段落0031,0043)。これら記載によれば,本件特許発明について,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物と利尿作用を有する化合物との組み合わせと降圧作用などの効果増強,及び効果増強と低K血症などの副作用低減との因果関係について一応の説明がなされている。
しかし,本件特許発明に係る一般式(I)で表される化合物には,上記した,効果増強が確認された2つの化合物に比べて,はるかに多くの化合物が含まれるものであり,それら化合物全てにおいて,具体的に効果増強が確認された化合物と同様に効果増強を達成しうか否かは本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは不明である。ましてや,低K血症などの副作用低減については,わずかに1例しか確認されていないからなおさら不明である。
そして,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物と利尿作用を有する化合物とを組み合わせることにより,アンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療において,単独投与に比べて著明な効果を奏することが,本件特許出願時における当業者の技術常識であったとも,予測可能であったとも認められないことは以下のとおりである。
アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物と利尿作用を有する化合物との併用に関する記載が,たとえば,甲1,甲3,及び甲8にみられる。
しかし,甲1には,混合錠剤の製剤例が記載されるに留まり(1g),併用による効果については具体的な記載はない。また,甲3には,甲3記載の式(I)の生成物が利尿剤などのいくつかの有効成分を組み合わせた形で含む医薬組成物としうることについての記載はあるが(3a,3c),配合例や,該配合例の作用効果に関する具体的記載はない。甲8には,利尿剤とアンギオテンシンII受容体拮抗剤を組み合わせて投与することについての記載がある(8a)。しかし,実際に,自発的高血圧症の実験ラットを用いたin vivo試験において,ヒドロクロロチアジド(HCTZ)投与の前後における降圧効果が測定されているのは,(E)-3-[2-n-ブチル-1-{(4-カルボキシフェニル)メチル-1H-イミダゾール-5-イル]-2-(2-チエニル)メチル-2-プロペン酸を用いた場合についてであり(8f),該化合物は,本件特許発明において,極めて強いアンジオテンシンII拮抗作用が発揮される構造上の最も大きな特徴の一つとされている(段落0005),R2がエステル化されていてもよいカルボキシル基を有さず,本件特許発明とはその構造上の特徴が大きく異なる化合物であり,べンズイミダゾール骨格を有する化合物を用いた場合も同様の効果がもたらされると直ちにいえるものではない。
さらに,甲5~甲7には,利尿剤を用いた併用療法が降圧作用における相乗効果や著明な効果を奏することが記載されている。特に,甲6には,アンジオテンシン変換酵素阻害剤であるベナパジルと利尿剤であるチアジドとの併用効果が著明であったことについて,チアジドによる体内ナトリウム+量の減少がレニン・アンジオテンシン系依存度を増し,アンジオテンシン変換酵素阻害剤の降圧効果が相乗的に増強されたためと思われると,レニン・アンジオテンシン系と利尿剤とを関連づける記載がある。しかし,利尿剤と併用される化合物はアンジオテンシン変換酵素阻害剤であって,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物についてはなんらの記載もない。
また,甲9には,サイアザイド系利尿薬に観察される低K血症などの副作用が,遠位尿細管におけるNa・水再吸収を抑制するという薬剤の作用機序に基づくものであること(9a),低Na血症が血漿レニン活性を上昇させ,つづいてアルドステロンを増加させたことにより低K血症が発生することが記載されている(9b)。甲10には,angiotensin-converting enzyme(ACE)抑制剤は,慢性心不全に際してみられる,収縮力,心拍力量の低下を補うために起こる代償性変化である,renin-angiotensin-aldosterone系の上昇がみられる患者に対して特に血圧降下効果があること(10a),ACE抑制剤がK+濃度を上昇する特徴があり,ジギタリスとの併用に適していることが(10b)記載されている。いずれも心不全の患者において,ACE抑制剤の使用が期待されることを記載するものであり,両甲号証にはアンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物についてはなんらの記載もない。
ところで,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物は,アンジオテンシンIIレセプターに作用するものであるのに対し(1c、2a),アンジオテンシン変換酵素阻害剤はアンジオテンシンIIを生成するアンジオテンシン変換酵素に作用するものであり(甲2 段落0002),両化合物は,ともにレニン・アンジオテンシン系に作用する化合物ではあるが,その作用点は異なる。また,被請求人が提出した乙8には,血管収縮、拡張作用に関して,アンジオテンシン変換酵素阻害剤であるエナラプリルがブラジキニンに対する作用を有するのに対し,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物であるロサルタンには該作用の影響がなく,両化合物のこれら薬理学的相違の点で治療上同等ではないことを示す旨が記載されている(乙8 要約)。
これら記載によれば,アンジオテンシン変換酵素阻害剤,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物はどちらも降圧剤として使用されるものとはいえ,その作用点や作用機序は異なるから,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物がレニン・アンジオテンシン系に作用する化合物であるからといって,利尿剤とアンジオテンシン変換酵素阻害剤とを併用するとの技術的知見があれば,ただちに,利尿剤とアンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物とを併用するとの記載があるに等しいとはいえず,アンジオテンシン変換酵素阻害剤との併用の場合と同等の作用効果が期待されるものとして,アンジオテンシン変換酵素阻害剤とアンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物とが置き換え可能であることを当業者が理解もしくは認識し得たものとは認められない。
以上のとおり,そもそも,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物と利尿作用を有する化合物とを組み合わせて高血圧症などのアンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤を提供すること自体が本件特許出願時における当業者の技術常識であったと認めることはできないのであるから,特定のアンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物と利尿作用を有する化合物とを組合わせて増強された作用効果を奏することができたからといって,それとは異なる化合物の組合わせについて,そのすべてにわたり,具体的に効果が確認された化合物の組合わせと同様に増強された作用効果を奏すると推認しうるものではない。
そして,組み合わせる利尿剤についても,いくつかのタイプのものが本件特許出願前に知られており,中には,カリウム保持性利尿剤というものも存在している(甲9 p12左欄 (4)カリウム保持性利尿薬、の項(注 上記(4)は○内に1の数字が記された記号である。))。このカリウム保持性利尿剤には,スピロノラクトンやトリアムテレンが包含される。これらは,本件特許明細書の段落0022に利尿作用を有する化合物として列挙されていることから,本件特許発明における利尿作用を有する化合物に相当する。しかし,このタイプの利尿剤は,その名称からも理解されるように,Kの排泄を増加させない特徴を有する利尿剤であり,そもそも低K血症という副作用が存在しない。そして,該利尿剤を用いた場合の本件特許発明の目的,たとえば低減される副作用とは何か,いかにして,副作用の低減という作用効果を奏するかについて,本件特許明細書にはなんらの記載も示唆もなされておらず,その特許発明を実施しようとした場合,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の実施についての教示と本件特許出願時の技術常識とを参酌しても、どのように実施するかを当業者は理解することはできない。
以上のとおりであるから,本件特許明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易に実施しうる程度に,発明の目的,効果が記載されていると認めることができるのは,効果増強,及び低K血症などの副作用低減が具体的に確認されている,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物である(±)-1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル 2-エトキシ-1-〔〔2’-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル〕メチル〕ベンズイミダゾール-7-カルボキシラート(化合物1)と,利尿作用を有する化合物であるヒドロクロロチアジドとの組み合わせてなるアンジオテンシンII介在性疾患の予防または治療剤に係る発明,すなわち本件特許発明25のみであって,上記以外のアンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物や利尿作用を有する化合物を用いる場合をも包含する本件特許発明1,17,19,及び32については,その特許発明の範囲全体にわたって,当業者が容易に実施しうる程度に,発明の目的,構成,効果が記載されていると認めることはできない。
エ.まとめ
以上のとおり,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,本件特許発明1,17,19,及び32の発明の目的,構成及び効果が記載されているとは認められない。
したがって,本件特許は,発明の詳細な説明の記載が,平成6年法律第116号改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第13 無効理由5について
(1)請求人が主張する理由
無効理由5は,第4に記載のとおり,本件請求項1~23,26,27,31及び32に係る特許発明は,発明の詳細な説明に記載されていない。したがって,本件特許は,特許請求の範囲の記載が,平成6年法律第116号改正前の特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた,というものである。
より具体的には,以下のとおりである。
本件明細書の発明の詳細な説明において具体的な効果が開示されているアンジオテンシンII拮抗剤と利尿剤との組合せは,(±)-1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル 2-エトキシ-1-〔〔2’-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル〕メチル〕ベンズイミダゾール-7-カルボキシラート(化合物1),もしくは2-エトキシ-1-[[2’-(2,5-ジヒドロ-5-オキソ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル]メチル]-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボン酸とヒドロクロロチアジドとの組み合わせだけである。
そして,上記以外の組み合わせにまでその効果を拡張ないし一般化できることにつき,本件明細書に特段の説明はなされていないし,また,アンジオテンシンII拮抗剤と利尿剤とが、互いに各々の薬理効果を相乗的に増強するとの技術常識が本件特許発明についても適用されると認めることもできない。
よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載によっては,上記請求項1~23,26,27,31,32記載の範囲まで本件特許発明を拡張ないし一般化することができない,というものである。
しかし,請求項2~16,18,20~24,26,27,29~31を削除することを求める訂正を含む,平成27年7月10日付け訂正請求は前記第2に記載されたとおり認容され,その結果,本件特許発明は,前記第3に記載のとおりとなった。
上記訂正が認容された結果,本件特許には,もはや上記無効理由5の請求対象である請求項2~16,18,20~23,26,27,31は存在しないのであるから,該発明に対して無効審判を請求すべき余地はない。
よって,請求項2~16,18,20~23,26,27,31に係る特許についてする本件無効理由5の無効審判の請求は,不適法な請求であり,その補正をすることができないものであるから,特許法第135条の規定により却下すべきものである。
以下,請求項1,17,19,及び32に係る特許に関する上記無効理由を検討する。
(2)判断
ア.法規定
特許法第36条第5項第1号は,特許請求の範囲について,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を要件として規定している。
特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保証し,もって発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。そして,特許請求の範囲が,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」との要件(以下、「サポート要件」という)に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくても,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か検討して判断すべきものである。
イ.本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
無効理由5については,口頭審理陳述要領書(請求人)記載のとおり,カルシウム拮抗作用を有する化合物との組み合わせについては請求対象とされておらず,その請求対象は,利尿作用を有する化合物がヒドロクロロチアジド以外の化合物である場合の組み合わせのみである。
そこで,本件特許発明に係るアンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物またはその塩とヒドロクロロチアジド以外の利尿作用を有する化合物とを組み合わせてなる剤が,アンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤として,発明の詳細な説明に記載された発明であって,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明にその記載や示唆がなくとも出願時の技術常識に照らし,当該発明の課題を解決できることを当業者が認識できる範囲のものであるか否かについて検討する。
本件明細書の発明の詳細な説明において,本件特許発明の目的,効果に関しては,前記第12(2)イにおいて指摘した記載がある。
ウ.当審の判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からみて,本件特許発明の課題は,一般式(I)で表されるアンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物またはその塩と利尿作用を有する化合物とを組み合わせてなるアンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤を提供することであり,そのようにして提供された剤が,単一薬剤投与時には見られなかった,顕著な効果,たとえば降圧作用が発揮されるとともに,副作用の軽減が図られるものであることと認められる。
しかし,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるのは,前記第12(2)ウに記載したとおり,アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物である(±)-1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル 2-エトキシ-1-〔〔2’-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル〕メチル〕ベンズイミダゾール-7-カルボキシラート(化合物1)と,利尿作用を有する化合物であるヒドロクロロチアジドとの組み合わせてなるアンジオテンシンII介在性疾患の予防または治療剤に係る発明,すなわち本件特許発明25に限られる。そして,本件特許出願時に,ベンゾイミダゾール類化合物と利尿剤とを併用することにおり,アンジオテンシンII介在性疾患の予防または治療効果増強や副作用低減が達成されるとの技術常識が存在していたと認められないこともまた,前記第12(2)ウにおいて検討したとおりである。
以上のとおり,本件特許出願時の技術常識に照らしても,上記請求項に係る発明の範囲全体にまで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないしは一般化できるとはいえないから,本件特許発明1,17,19,及び32は,該特許発明の課題を解決できることを当業者が認識できるものとして,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるということはできない。
エ.まとめ
本件特許発明1,17,19及び32は,発明の詳細な説明に記載されていると認めることはできない。
したがって,本件特許は,特許請求の範囲の記載が,平成6年法律第116号改正前の特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第14 むすび
以上のとおりであるから,
請求項2~16,18,20~23,26,27,31に係る発明についてする無効審判の請求は,不適法な請求であり,その補正をすることができないものであるから,特許法第135条の規定により却下すべきものである。
本件特許発明1,17,19,及び32は,無効理由2(A)によって無効にすべきものである。
本件特許発明25は,無効理由2(B)によって無効にすべきものとはいえないし,また他に同特許を無効とするべき理由を発見しない。
本件特許発明1,17,19,及び32は無効理由4,5によって無効にすべきものである。
審判費用は,その28分の24を請求人の負担とし、28の4を被請求人の負担とする。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2015-800074