特許無効審判
2023-800007
ワクチン組成物
- 審判番号
- 2023-800007
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2018-501325
- 登録番号
- 6896700
- 請求日
- 2023年01月27日
- 審決日
- 2024年08月27日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】武田薬品工業 株式会社
- 【請求人代理人】阿部 隆徳
- 【請求人代理人】落合 馨
- 【請求人代理人】松井 仁志
- 【請求人代理人】浦井 久蔵
- 【被請求人】バハラ バイオテック インターナショナル リミテッド
- 【被請求人代理人】弁理士法人鷲田国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 冨永 みどり
- 審判官 岡山 太一郎
- 審判官 松波 由美子
- 分類
- P1123.121-Z (A61K) / P1123.161-Z (A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第29条の2、特許法第36条、特許法第17条の2第3項、特許法第169条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6896700号発明「ワクチン組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第6896700号の請求項1ないし3および9ないし12に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨
1.請求の趣旨
請求人は、「特許第6896700号の特許請求の範囲の請求項1ないし3および9ないし12に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求めている。
2.答弁の趣旨
被請求人は、本件無効審判請求に対する答弁書を提出せず、また、審決の予告に対しても応答しなかった。
第2 手続の経緯
1.本件特許の出願から設定登録までの経緯
特許第6896700号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3及び9~12に係る発明についての出願は、2016年(平成28年)7月15日(パリ条約による優先権主張:外国庁受理2015年(平成27年)7月16日(IN)インド)を国際出願日とする出願であって、令和元年7月12日の審査請求と同日に提出された手続補正書により特許請求の範囲が補正され、その後、令和3年6月11日にその特許権の設定登録がなされたものである。
2.別件異議申立の経緯
令和3年12月6日に、本件特許の請求項1~3及び5に係る発明に対して、特許異議申立人:金田綾香により特許異議の申立がされ(異議2021-701149号)、令和4年9月12日に「特許第6896700号の請求項1~3、5に係る特許を維持する。」ことを結論とする決定がされ、この決定は確定した。
3.本件無効審判の手続の経緯
武田薬品工業株式会社(以下「請求人」という。)は、令和5年1月27日に本件特許の請求項1~3及び9~12に対して特許無効審判を請求した。以後の主な手続きの経緯は以下のとおりである。
令和5年1月27日 :無効審判請求書の提出
同年3月6日受付:手続補正書の提出
証拠方法及び令和5年1月26日付け証拠説明書1の補正
同年4月3日 :請求書副本の送達通知(答弁指令)
本答弁指令に対して、被請求人から答弁書は提出されなかった。
同年9月19日 :書面審理通知
同年9月27日 :請求人に対する審尋
同年10月16日受付:請求人よる回答書の提出
令和6年2月13日付け:審決の予告
なお、審決の予告で指定した期間内に、被請求人からの応答はなかった。
第3 本件発明
本件特許の請求項1~3及び9~12に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件発明1」などという。また、これらを総称して「本件発明」ということもある。)は、それぞれ本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3及び9~12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~3及び9~12の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
ジカウイルス感染に対するワクチン組成物であって、0.125μg~100μgの量で投与される、不活化全ビリオン(ウイルス)抗原、及び精製された組換えジカウイルス抗原から選択されるジカウイルス抗原と、薬学的に許容される緩衝剤と、アルミニウム0.1mg~1.5mgの量で投与される水酸化アルミニウムとを含み、前記精製された組換えジカウイルス抗原が、配列番号3及び配列番号4に開示される構造タンパク質配列を有する、前記ワクチン組成物。
【請求項2】
緩衝剤が、緩衝剤の1つとして、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸クエン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス)含有緩衝剤、コハク酸緩衝剤、及びグリシン又はヒスチジンを含有する緩衝剤から選択される、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項3】
リン酸緩衝液が、リン酸イオン濃度5mM~200mM、pH6.50~9の任意のpHであり、任意選択で塩化ナトリウムを50~200mMの濃度で含有するリン酸ナトリウム緩衝液である、請求項2に記載のワクチン組成物。
【請求項9】
ジカウイルスワクチンを製剤化するための不活化全ビリオン(ウイルス)ジカウイルス抗原の調製のための方法であって、
ジカウイルスをVero細胞において増殖及び順応させること、前記ジカウイルスを化学的不活化剤で不活性化させること、前記ウイルス抗原の精製及び濃縮を行って前記不活化全ビリオン(ウイルス)ジカウイルス抗原を得ること、を含み、
前記ジカウイルスの不活性化が、ベータプロピオラクトン、ホルマリン、又はその組み合わせにより、乳糖、ショ糖、トレハロース、マルトース、マンノース、イソ-マルトース、ラフィノース、スタキオース、ラクトビオース、ソルビトール、マンニトール、ラクトビオン酸、デキストラン、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-グルタミン酸、L-アスパラギン酸、及びヒト血清アルブミン又はそれらの組合せ、から選択される安定化剤の存在下で実行され、
バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される、前記方法。
【請求項10】
ジカウイルスの不活化が、前記ウイルスの精製の前又は後に実行される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ジカウイルスが、次の:
a.ホルマリン:ウイルスが、1:500~1:4000v/vの範囲の任意の濃度、8℃~37℃、好ましくは25±3℃、少なくとも1~7日間でのホルマリン処置;
b.ホルマリン:ウイルスが、1:500~1:4000v/vの範囲の任意の濃度、2℃~8℃、少なくとも10~30日間でのホルマリン処置;
c.ベータプロピオラクトン(以下BPL):ウイルスが、1:500~1:4000v/vの範囲の任意の濃度、少なくとも24~48時間で温度8℃~30℃、好ましくは25±3℃で48時間でのベータプロピオラクトン;
d.ベータプロピオラクトン:ウイルスが1:500~1:4000v/vの範囲の任意の濃度、2℃~8℃、少なくとも3~7日間でのベータプロピオラクトン;
e.前述のいずれかの条件でのBPLとホルマリンとの組合せ、好ましくは1:3000(BPL:ウイルス、v/v)での24時間のBPL不活化、及びそれに続く1:3000(ホルマリン:ウイルス、v/v)で24~48時間、15℃~30℃、好ましくは25±3℃でのホルマリン不活化;
から選択される方法のいずれか1つによって不活化される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
安定化剤が、
a.2%ソルビトール及び1% L-グリシン;
b.1%ソルビトール及び0.5% L-グリシン;
c.1%マンニトール及び0.5% L-グリシン;
d.1%マンニトール及び0.5% L-グルタミン酸;並びに
e.1%ソルビトール及び0.5% L-グリシン、1%ヒト血清アルブミン
から選択される、請求項9~11のいずれかに記載の方法。」
第4 請求人の主張
請求人は、「特許第6896700号の特許請求の範囲の請求項1ないし3および9ないし12に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証~甲第65号証の14(以下、「甲第1号証」~「甲第65号証の14」をそれぞれ「甲1」ないし「甲65の14」ということがある)を書証として提出し、以下に要約されるとおり、本件特許が無効とされるべき理由として無効理由1~4を主張している。
1.無効理由1(進歩性)
(1)請求項1~3について
本件発明1~3は、甲1に記載された発明、甲2の1に記載された発明、甲2の1ないし甲2の4を参照して知ることができた「IXIARO」に係る発明、ならびに本件出願日当時の技術常識および周知技術に基づき、当業者が容易に想到し得るものである。そして、本件発明1~3には予測できない顕著な効果があるとはいえないから、本件発明1~3は進歩性欠如(特許法29条2項)の無効理由を有する(同123条1項2号)。
(2)請求項9~12について
本件発明9~12は、甲1に記載された発明、甲2に記載された発明、甲3に記載された発明、甲4に記載された発明、甲5に記載された発明ならびに本件出願日当時の技術常識および周知技術に基づき、当業者が容易に想到し得るものである。そして、本件発明9~12には予測できない顕著な効果があるとはいえないから、本件発明9~12は進歩性欠如(特許法29条2項)の無効理由を有する(同123条1項2号)。
2.無効理由2(拡大先願)
本件発明9~11と、国際特許出願PCT/EP2016/082664(国際公開は、甲6の2)と、その優先権基礎出願EP16176025(甲6の1)に共通して記載された発明は同一であるから、本件発明9~11は、拡大先願違反(特許法29条の2、184条の13、26条、パリ条約4条B)の無効理由を有する(同123条1項2号)。
3.無効理由3(明確性)
(1)請求項9~12
請求項9に記載の「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」は、2通りの解釈が可能であるから明確とはいえず、請求項9及び同請求項を引用する請求項10~12は、明確性要件(特許法36条6項2号)違反の無効理由を有する(同123条1項4号)。
(2)請求項11、12
請求項11に記載の「少なくとも1~7日間」、「少なくとも10~30日間」、「少なくとも24~48時間」、「少なくとも3~7日間」は、2通りの解釈が可能であるから明確とはいえず、請求項11及び同請求項を引用する請求項12は、明確性要件(特許法36条6項2号)違反の無効理由を有する(同123条1項4号)。
4.無効理由4(新規事項の追加)
審査請求時に請求項を補正した際、本件発明の請求項9に記載される「ウイルス抗原の精製及び濃縮」及び「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」との発明特定事項は、願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内でなく、請求項9及び同請求項を引用する請求項10~12は、新規事項追加(特許法17条の2第3項)の無効理由を有する(同123条1項1号)。
5.証拠方法
・甲第1号証:“Vaccine protection against Zika virus from Brazil”, NATURE, (2016年6月28日), Vol. 536, pp. 474-478
・甲第2号証の1:“The Vero cell-derived, inactivated, SA14-14-2 strain-based vaccine (Ixiaro) for prevention of Japanese encephalitis”, Expert Review of Vaccines, (2015年), 14(9), pp. 1167-1179
・甲第2号証の2の1:AFFIDAVIT OF NATHANIEL E FRANK-WHITE
・甲第2号証の2の2:EXHIBIT A, Internet Archive社, (2015年),(URL: https://web.archive.org/web/20150330183613/http://www.ema.europa.eu/ema/index.jsp?curl=pages/medicines/human/medicines/000963/human_med_000862.jsp&mid=WC0b01ac058001d124, https://web.archive.org/web/20150330183613/http:/www.ema.europa.eu/ema/index.jsp?curl=pages/medicines/human/medicines/000963/human_med_000862.jsp&mid=WC0b01ac058001d124#product-info)
・甲第2号証の2の3:EXHIBIT B, Internet Archive社, (2014年), (URL: https://web.archive.org/web/20150331085942/http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/EPAR_-_Product_Information/human/000963/WC500037287.pdf)
・甲第2号証の3:「IXIARO」の審査報告書, 欧州医薬品庁(EMA), (2009年)
・甲第2号証の4:“A purified inactivated Japanese encephalitis virus vaccine made in vero cells”, Vaccine, (2001年), 19, pp. 4557-4565
・甲第2号証の4の2:“A purified inactivated Japanese encephalitis virus vaccine made in vero cells”(URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264410X01002080?via%3Dihub)
・甲第3号証:“Long-term stability of Vero cell-derived inactivated Japanese encephalitis vaccine prepared using serum-free medium”, Vaccine, (2008年), 26, pp. 3680-3689
・甲第4号証:国際公開第2015/059714号
・甲第5号証:国際公開第99/11762号
・甲第6号証の1:欧州特許出願第16176025号(出願日:2016年6月23日)
・甲第6号証の2:国際公開第2017/109225号
・甲第6号証の3:特表2019-504030号
・甲第7号証:3652/CHE/2015(出願日:2015年7月16日)
・甲第8号証:“Aluminum Hydroxide Adjuvant”, Handbook of Pharmaceutical Excipients Fifth Edition, (2006年), pp. 36-37
・甲第9号証:“CERTIFICATE OF ANALYSIS ALHYDROGEL(R)2% - Ph. Eur.”, (2014年)
・甲第10号証:“CERTIFICATE OF ANALYSIS ALHYDROGEL(R)2% - Ph. Eur.”, (2012年)
・甲第11号証:「化学大辞典」, (1989年), 320~321頁、502~505頁、1422~1423頁、2258~2259頁および奥付部分
・甲第12号証:「緩衝溶液」, 分析化学, 第5巻, (1956年), 第9号525~531頁および奥付部分
・甲第13号証:“Culture Conditions and Types of Growth Media for Mammalian Cells”, Biomedical Tissue Culture, (2012年), pp. 3-18
・甲第13号証の2:Biomedical Tissue Culture(URL:https://www.intechopen.com/books/2699)
・甲第14号証:「細胞培養技術」, (1990年), 21~42頁および奥付部分
・甲第15号証:“Chapter 2 Inactivated Viral Vaccines”, Vaccine Analysis: Strategies, Principles, and Control, (2015年), pp. 45, 49
・甲第16号証:“Vaccines for preventing tick-borne encephalitis (Review)”, Cochrane Database of Systematic Reviews 2009, Issue 1. Art. No.: CD000977.
・甲第16号証の2:“Vaccines for preventing tick-borne encephalitis”(URL: https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD000977.pub2/full)
・甲第17号証:「FSME-IMMUN」の製品情報, (2010年)
・甲第18号証:国際公開第2012/160199号
・甲第19号証:国際公開第2008/026225号
・甲第20号証:国際公開第2012/172574号
・甲第21号証:“Current Zika Product Pipeline”, (2016年3月3日), pp. 1-16
・甲第22号証:“U.S. Launches ‘Full-court Press’for a Zika Vaccine”, (2016年1月21日),(URL: https://time.com/4188973/zika-virus-vaccine-nih/)
・甲第23号証:“The race for a Zika vaccine is on”, Science, (2016年2月5日), Vol. 351, Issue 6273, pp. 543-544
・甲第24号証:“WHO reveals its shopping list for weapons against Zika”, The Lancet, (2016年2月16日), Vol. 387p. 733
・甲第25号証:“Zika Virus: Diagnosis, Therapeutics, and Vaccine”, ACS Infectious Diseases, (2016年3月3日), 2, pp. 170-172
・甲第26号証:“Safety and Immunogenicity of a Dengue Virus Serotype-1 Purified-Inactivated Vaccine: Results of a Phase 1 Clinical Trial”, The American Journal of Tropical Medicine and Hygiene, (2015年), Vol. 93, No. 3, pp. 454-460
・甲第27号証:“Inactivated yellow fever 17D vaccine: Development and nonclinical safety, immunogenicity and protective activity”, Vaccine, (2010年), 28, pp. 3827-3840
・甲第28号証:「5. フラビウイルス」, ウイルス, (2011年), 第61 巻, 第2号, pp.221-238および奥付部分
・甲第29号証:“Chapter 54 Alphaviruses (Togaviridae) and Flaviviruses (Flaviviridae)”, Medical Microbiology. 4th edition, (1996年)
・甲第30号証:「ワクチンの事典」, (2004年), 24~25頁および奥付部分
・甲第31号証:“Vaccine additives and manufacturing residuals in the United States: licensed vaccines”, Vaccines sixth edition, (2013年), pp. 71-79
・甲第31号証の2:“Vaccine additives and manufacturing residuals in the United States: licensed vaccines”, Vaccines sixth edition, (2013年), pp. 71-79
・甲第32号証:“EFFECT OF BUFFERS AND STABILIZERS ON VACCINE STABILITY AND EFFICACY”, Development of Vaccines: From Discovery to Clinical Testing, (2011年), pp. 399-414
・甲第32号証の2:Development of Vaccines: From Discovery to Clinical Testing(URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/book/10.1002/9781118023648)
・甲第32号証の3:“EFFECT OF BUFFERS AND STABILIZERS ON VACCINE STABILITY AND EFFICACY”, Development of Vaccines: From Discovery to Clinical Testing, (2011年), pp. 399-414
・甲第33号証:「今だから知りたいワクチンの科学―効果とリスクを正しく判断するために」, (2021年), 42~43頁および奥付部分
・甲第34号証:「しっかりわかるワクチンと免疫の基礎知識」, (2021年), 40~41頁および奥付部分
・甲第35号証:“Pharmaceutical Biotechnology Second Edition”, (2002年), pp.74-76
・甲第36号証:「基礎から学ぶ製剤化のサイエンス増補版」, (2011年), 194~207頁および奥付部分
・甲第37号証:「標準薬剤学―医療の担い手としての薬剤師をめざして―(改訂第3版)」, (2012年), 203~211頁および奥付部分
・甲第37号証の2:「標準薬剤学―医療の担い手としての薬剤師をめざして―(改訂第3版)」, (2012年), 203~210頁および奥付部分
・甲第38号証:「第1章 タンパク質の性質を知る 2 タンパク質の性質は?」実験医学別冊 目的別で選べる タンパク質発現プロトコール, (2010年), 16~25頁および奥付部分
・甲第39号証:「審判実務者研究会報告書2020」, (2021年), 表紙および82-89頁
・甲第40号証:“Development of a membrane adsorber based capture step for the purification of yellow fever virus”, Vaccine, (2014年), 32, pp. 2789-2793
・甲第41号証:“Influenza Vaccine Manufacturing: Effect of Inactivation, Splitting and Site of Manufacturing. Comparison of Influenza Vaccine Production Processes”, PLoS ONE, (2016年3月9日), Vol.11, No.3, pp. 1-19
・甲第42号証:“Forced Degradation Studies to Identify Critical Process Parameters for the Purification of Infectious Measles Virus”, Viruses, (2019年), Vol.11, No.8, pp. 1-16
・甲第43号証:"Virus Inactivation in the 1990s - and into the 21st Century Part 4, Culture Media, Biotechnology Products, and Vaccines", BioPharm International, (2003年), Vol. 16, Issue 1, pp. 50-57
・甲第43号証の2:Virus Inactivation in the 1990s - and into the 21st Century Part 4, Culture Media, Biotechnology Products, and Vaccines(URL: https://www.biopharminternational.com/view/virus-inactivation-1990s-and-21st-century-part-4-culture-media-biotechnology-products-and-vaccines)
・甲第44号証:“Lessons from the Salk Polio Vaccine: Methods for and Risks of Rapid Translation”, Clin Trans Sci, (2010年), Vol. 3, Issue 4, pp. 182-185
・甲第44号証の2:“Lessons from the Salk Polio Vaccine: Methods for and Risks of Rapid Translation”,(URL: https://ascpt.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1752-8062.2010.00205.x)
・甲第45号証:“Formaldehyde Treatment and Safety Testing of Experimental Poliomyelitis Vaccines”, American Journal of Public Health, (1954年), Vol. 44, No. 5, pp. 563-570
・甲第46号証:“Inactivated virus vaccines from chemistry to prophylaxis: merits, risks and challenges”, Vaccines, (2012年), Vol. 11, No. 6, pp. 695-719
・甲第46号証の2:“Inactivated virus vaccines from chemistry to prophylaxis: merits, risks and challenges”, Vaccines, (2012年), Vol. 11, No. 6, pp. 695-719
・甲第47号証:“Poliovirus vaccine-inactivated”, Vaccines sixth edition, (2013年), pp. 573-575
・甲第48号証:“Flaviviridae”, Intervirology, (1985年), 24, pp. 183-192
・甲第49号証:“Replication of Flaviviruses”, The Togaviridae and Flaviviridae, (1986年), pp. 327-374
・甲第50号証:「ワクチン―基礎から臨床まで―」, (2018年), 23~30頁および奥付部分
・甲第51号証:米国特許出願公開第2010/0310656号明細書
・甲第52号証:“Structure of Dengue Virus: Implications for Flavivirus Organization, Maturation, and Fusion”, Cell, (2002年), Vol. 108, pp. 717-725
・甲第53号証:“Shake, rattle, and roll: Impact of the dynamics of flavivirus particles on their interactions with the host”, Virology, (2015年), Vol. 479-480, pp. 508-517
・甲第54号証:手続補正書(令和元年7月12日提出)
・甲第55号証:国際出願翻訳文提出書(平成30年3月5日提出)
・甲第56号証の1:Elsner教授の意見書
・甲第56号証の2:Curriculum vitae(Elsner教授の職務経歴書)
・甲第56号証の3の1:Aquatic Chemistry 3rd Edition, (1995年), pp.92-105
・甲第56号証の3の2:Aquatic Chemistry 3rd EditionのProduct Flyer(URL: https://www.wiley.com/en-us/exportProduct/pdf/9780471511854)
・甲第56号証の4:Water Chemistry, (2011年), pp.116-133
・甲第56号証の5:Aquatic Chemistry ConceptsFirst edition, (1991年), pp.6-9, 46-51
・甲第56号証の6:Aquatic Chemistry For Water and Wastewater Treatment Applications, (2019年), pp.1-25
・甲第57号証の1:Smal博士の意見書
・甲第57号証の2:“A purified inactivated Japanese encephalitis virus vaccine made in vero cells”, Vaccine, (2001年), 19, pp. 4557-4565
・甲第57号証の2の2:“A purified inactivated Japanese encephalitis virus vaccine made in vero cells”(URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264410X01002080?via%3Dihub)
・甲第57号証の3:“Culture Conditions and Types of Growth Media for Mammalian Cells”, Biomedical Tissue Culture, (2012年), pp. 3-18
・甲第57号証の3の2:Biomedical Tissue Culture(URL: https://www.intechopen.com/books/2699)
・甲第57号証の4:欧州特許出願第16176025号(出願日:2016年6月23日)
・甲第57号証の5:国際公開第2015/059714号
・甲第57号証の6:“Long-term stability of Vero cell-derived inactivated Japanese encephalitis vaccine prepared using serum-free medium”, Vaccine, (2008年), 26, pp. 3680-3689
・甲第57号証の7:国際公開第99/11762号
・甲第57号証の8:“Flaviviridae”, Intervirology, (1985年), 24, pp. 183-192
・甲第57号証の9:“Replication of Flaviviruses”, The Togaviridae and Flaviviridae, (1986年), pp. 327-374
・甲第57号証の10:“Lessons from the Salk Polio Vaccine: Methods for and Risks of Rapid Translation”, Clin Trans Sci, (2010年), Vol. 3, Issue 4, pp. 182-185
・甲第57号証の10の2:“Lessons from the Salk Polio Vaccine: Methods for and Risks of Rapid Translation”,(URL: https://ascpt.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1752-8062.2010.00205.x)
・甲第57号証の11:リエージュ大学の分析報告書
・甲第57号証の12:Curriculum vitae(Smal博士の職務経歴書)
・甲第58号証の1:石川博士の意見書
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・甲第64号証の1:石川博士の意見書
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・甲第64号証の6:国際公開第2003/088946号
・甲第65号証の1:Smal博士の意見書
・甲第65号証の2:“Long-term stability of Vero cell-derived inactivated Japanese encephalitis vaccine prepared using serum-free medium”, Vaccine, (2008年), 26, pp. 3680-3689
・甲第65号証の3:国際公開第2015/059714号
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・甲第65号証の5の2:“DESIGN OF EXPERIMENT BASED JAPANESE ENCEPHALITIS VIRUS FORMALDEHYDEINACTIVATION OPTIMISATION FOR A VERO CELL DERIVED VACCINE”(URL: https://dc.engconfintl.org/vaccine_iii/31/)
・甲第65号証の5の3:ECI Digital Archives(URL: https://dc.engconfintl.org/)
・甲第65号証の6:欧州特許出願公開2233151号明細書
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・甲第65号証の8:“A Hydrogen Peroxide-Inactivated Virus Vaccine Elicits Humoral and Cellular Immunity and Protects against Lethal West Nile Virus Infection in Aged Mice”, Journal of Virology, (2012年), Vol. 87, No. 4, pp. 1926-1936
・甲第65号証の9:国際公開第2012/172574号
・甲第65号証の10:“Next Generation Inactivated Polio Vaccine Manufacturing to Support Post Polio-Eradication Biosafety Goals”, PLOS ONE, (2013年), Vol. 8, Issue 12, e83374
・甲第65号証の11:“Vaccine protection against Zika virus from Brazil”, NATURE, (2016年6月28日), Vol. 536, pp. 474-478
・甲第65号証の12:“Current Zika Product Pipeline”, (2016年3月3日), pp. 1-16
・甲第65号証の13:国際公開第2003/088946号
・甲第65号証の14:Curriculum vitae(Smal博士の職務経歴書)
第5 被請求人の主張
被請求人は、本件無効審判請求に対する答弁書を提出せず、審決の予告に対しても応答しなかった。
第6 当合議体の判断
1.甲号証の記載事項
請求人が提出した甲号証のうち、無効理由の判断に必要なものについて、以下、記載事項を摘記する。なお、下線は当審合議体が付したものであり、外国語で記載された甲号証については、当審合議体による日本語訳文で摘記する。また、文中に挿入されている参照文献番号は、特に必要のない場合には省略することがあり、「・・・」は、記載の省略を意味する。
(1)甲1
・甲1-ア
「ジカウイルス(ZIKV)は、ブラジル及びアメリカ大陸で流行しているフラビウイルスである。
・・・ここでは、プラスミドDNAワクチンまたは
精製された不活化ウイルスワクチンを用いた単回の免疫化が、感受性マウスにおいてブラジル北東部で発生したZIKV株の攻撃に対して完全な防御を提供することを示す。」(474頁左欄1行~11行)
・甲1-イ
「黄熱病ウイルス、日本脳炎ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルスおよびデングウイルスを含む他のフラビウイルスに対するワクチンは既に開発されたが、ジカウイルスに対するワクチンは現在のところ存在しない。」(474頁左欄下から14行~12行)
・甲1-ウ
「これらの観察結果を、歴史的にみて他のフラビウイルスに対し臨床効果をもたらしてきたワクチンプラットフォームに拡張するために、プエルトリコPRVABC59株に由来するジカウイルスの精製された不活化ウイルス(PIV)ワクチンの免疫原性と防御効果を精査した。」(475頁右欄下から4行~476頁左欄1行)
・甲1-エ
「
[図:0001421106000001.jpg]
図4:PIVワクチンの免疫原性と防御効果
Balb/cマウス(各群n=5)は、アルムを含むPIVワクチン1μgまたはアルム単独を、筋肉内注射(i.m.) または皮下注射(s.c.)による単回の免疫化を受けた。4週目に105個のZIKA-BRのウイルス粒子(102PFU)を静脈内投与した。
a、体液性免疫応答は、ワクチン接種後3週目にEnv-特異的ELISAにより評価した。
b、防御効果の相関関係。
c、ZIKV-BRチャレンジ後の血清ウイルス量を示す。
赤 棒グラフは中央値。P値はt検定。」(477頁図4)
・甲1-オ
「マウスにおけるこれらのワクチンの試験結果を、ヒトにおける潜在的な臨床効果として直接外挿することは困難である。
それにもかかわらず、本研究で観察された強固な防御、およびその防御能と相関する明確な免疫学的指標は、ヒトでのジカウイルスワクチン開発への道を示唆している。」(477頁左欄6行~10行)
・甲1-カ
「われわれのデータは、感受性マウスにおいて、DNAワクチンと
精製された不活化ウイルスワクチンの両方で、ジカウイルス(ZIKV)の攻撃に対する完全な防御が確実かつ強固に達成されたことを示している。
これらのワクチンプラットフォームは、以前から、西ナイルウイルス24,25、デングウイルス26,27、ダニ媒介性脳炎ウイルス28,29、日本脳炎ウイルス30などの他のフラビウイルスワクチンの開発において比較可能な用量で使用されており、特に妊婦向けに、弱毒性かつ複製フラビウイルスワクチンよりも安全であるとの利点を提供するだろう。」(477頁右欄7行~15行)
・甲1-キ
「動物。6~8週齢のBalb/c、SJLおよびC57BL/6の雌のマウスは、Jackson Laboratories(Bar Harbour)から購入した。マウスに、アジュバントを含まない生理食塩水に含まれる50μg DNAワクチンを筋肉内注射(i.m.)で投与するか、
または100μgのアルム(Alhydrogel; Brenntag Biosector、デンマーク)のアジュバントとともに1μgのPIVワクチンを筋肉内注射(i.m.)または皮下注射(s.c.)で100μl投与して、4週目にZIKA-BRまたはZIKA-PRの105個のウイルス粒子(102個のプラーク形成単位(PFU))を静脈内注射(i.v.)で投与した。」(オンラインコンテンツ1頁目の「動物」の項)
※合議体注:上記甲1-キ及び下記甲1-クは、オンライン版にのみ記載されたものであり、該当頁に本文からの通しで頁番号が付されていないところ、上記のように記載箇所を特定している。
・甲1-ク
「PIVワクチン。 ジカウイルス(ZIKV)の精製された不活化ウイルス(PIV、ZPIVともいう)のワクチンは、米国メリーランド州シルバースプリングのウォルターリード陸軍研究所のパイロットバイオ製造施設で調製した。PIVワクチンは、米国コロラド州フォートコリンズの米国疾病予防管理センターから入手したプエルトリコのPRVABC59分離株に基づいている。継代およびワクチン調製に使用されたVero細胞は、ペンシルバニア州スウィフトウォーターのソーク研究所で製造された認定細胞株に由来する。接種後、5日目と7日目にウイルスを回収し、遠心分離と深層ろ過器(0.45~0.2μm)で清澄化し、ベンゾナーゼで処理した。ウイルスの採取物を限外ろ過器で濃縮した後、Captocoreクロマトグラフィー樹脂を用いて精製した。そして、精製されたZIKVは22℃、7日間でホルマリン(0.05%)を用いて不活化した。不活化後、透析によりホルマリンを除去し、抗原濃度を調整した。最終的なPIVワクチンは、不活化されたことを示すために、Vero細胞での継代およびそれに続くプラークアッセイにより感染力を評価した。」(オンラインコンテンツ1頁、目の「PIVワクチン」の項)
(2)甲2の1
・甲2の1-ア
「日本脳炎予防のための、Vero細胞由来の不活化SA14-14-2株に基づくワクチン(Ixiaro)」(表題)
・甲2の1-イ
「日本脳炎ウイルスワクチン(JE-VC)は、英国スコットランドのリビングストンにおいて、ヴァルネヴァ社(リヨン、フランス)によって製造されている。そのワクチンウイルス(SA14-14-2)は、アフリカミドリザルの腎臓細胞に由来する細胞株であるVero細胞で増殖する。増殖後、複数のウイルス採取物がプールされ、濃縮され、精製される。精製されたウイルスはホルムアルデヒドで不活化され、アジュバントとして水酸化アルミニウムが添加される。最終調製物は、リン酸緩衝生理食塩水(0.5ml)中に、精製された不活化ウイルスタンパク質(約6μg)と水酸化アルミニウムのアジュバント(約250μg)を含有する[42]。製造工程の結果、ワクチンに他の物質も微量含まれている: 硫酸プロタミン(≦1 μg/ml)、宿主細胞タンパク質(≦300 ng/6 μgタンパク質)、ウシ血清アルブミン(≦100 ng/ml)、宿主細胞DNA(≦200 pg/ml)、ホルムアルデヒド(≦200 ppm)およびメタ重亜硫酸ナトリウム(≦200 ppm)。
最終製品は、成人および3歳以上の小児用の標準用量である0.5 mLのワクチン懸濁液(6μgのタンパク質含量)を含むプレフィルドシリンジで供給される[42, 43]。」(1169頁左欄下から16行~右欄2行)
・甲2の1-ウ
「日本脳炎ウイルスワクチン(JE-VC)は現在、欧州、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、香港、シンガポールおよびイスラエルで承認されている。これらの地域の多くでは、入手できる唯一の日本脳炎のウイルスワクチンである。このワクチンは、欧州および米国では、ヴァルネヴァ社(リヨン、フランス)によりIxiaroという販売名で上市および販売されている。」(1169頁右欄13行~17行)
(3)甲2の2の3
・甲2の2の3-ア
「1.医薬品の名称
IXIARO 注射用懸濁液
日本脳炎ワクチン(不活化、吸着)
2.定性的および定量的組成
IXIAROの1用量(0.5ml)は以下を含む
日本脳炎ウイルス株SA14-14-2(不活化) 1,2 6μg3
ED50 460ng以下の活性に対応
1Vero細胞で産生
2水酸化アルミニウム水和物(約0.25ミリグラムのAl3+)に吸着
3タンパク質含有量合計
公知の効果を示す賦形剤:
本剤は1用量あたり1mmol未満のカリウムと、1用量あたり1mmol未満のナトリウムを含む。
リン酸緩衝生理食塩水0.0067M(リン酸)は以下の生理食塩水の組成物を含む。
塩化ナトリウム - 9mg/mL
リン酸二水素カリウム - 0.144 mg/mL
リン酸水素二ナトリウム - 0.795 mg/mL」(ANNEX Iの2頁)
(4)甲2の3
・甲2の3-ア
「有効成分
IXIAROの有効成分は、Vero細胞で増殖した、精製された不活化全日本脳炎ウイルスを含む滅菌溶液である。アジュバントを含まない有効成分バルク溶液は無色透明で、pHは7.5である。」(5頁下から11行~8行)
・甲2の3-イ
「医薬製品
このワクチンは、1回分ずつ充填済みの注射用懸濁液として提供される。
各用量0.5ml(抽出可能量は≧0.57mlに設定)には、≦460 ng ED50の効力に相当する6μgのJEV標的総タンパク質濃度が含む。最終的な用量の組成は以下の表に示されたとおりである
1回用量当たりのIXIAROの成分
[図:0001421106000002.jpg]
(*)総タンパク質濃度は、有効成分の総タンパク質濃度と最終バルクワクチンのバッチ式から導出される。すなわち、0.95×有効成分の総タンパク質濃度である。
(**)約0.25mgのAl3+に対応
(***)PBS 0.0067 M(PO4)
(****)抽出可能な容積
ワクチンには保存剤や抗生物質は含まれていない。表に記載されている成分の他に、各ワクチンの用量には、微量の残留ベロ細胞タンパク質、スクロース、ホルムアルデヒド、硫酸プロタミン、メタ重亜硫酸ナトリウムが含まれている。」(9頁下から5行~10頁3行)
(5)甲2の4
・甲2の4-ア
「本研究の目標は、Vero細胞(Cercopithicus aethiops)で、承認された既存のワクチンよりも安全かつ効果的で、おそらくより経済的な第2世代の日本脳炎ワクチンを調製することであった。Vero細胞を使用した前例としては、デング2型ウイルスに対する実験的な精製された不活化ワクチン(PIV)[22]に加え、ポリオ [19] と狂犬病 [20,21] に対するワクチン調製のための使用がある。本報告書に記載されている精製された日本脳炎不活化ウイルスワクチン(JE-PIV)は、精製された不活化デング2型ウイルスワクチンを製造するために元々開発された方法を用いて調製された[22]。」(4558頁右欄6行~16行)
・甲2の4-イ
「2.2. ウイルスおよびワクチン
弱毒化日本脳炎ワクチンSA14-14-2は、以前に、認定初代イヌ腎臓(PDK)細胞で8回継代された[18]。次に、PDK細胞継代ウイルスを認定Vero細胞で5回継代し、不活化ワクチンを製造するための産生シードとして使用した。日本のBIKENで製造され、米国でJE Vaxとして供給されている、米国食品医薬品局が承認した不活化日本脳炎ウイルスワクチンを、Aventis-Pasteurから購入した。」(4559頁左欄1行~9行)
・甲2の4-ウ
「2.4. ウイルス産生
490cm2ローラーボトル内の集密な単層のVero細胞を、2mMカルシウムと1mM塩化マグネシウムを含むダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で3回洗浄した後、日本脳炎ウイルス(JEV)SA14-14-2、PDK-8、Vero-5を感染させた。感染は、EMEM、2.2g炭酸水素ナトリウム/L、2%FBS、2 mM L-グルタミン、およびS/Nを含む5mlの維持培地(MM)に含まれる接種物を用いて約0.01pfu/cellの多重度で実施した。感染後、培養物をローラー装置(1rpm)に移し、35℃で1時間インキュベートしてウイルスを吸着させた。吸着後、培養物を再び100mlのダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で3回洗浄し、100mlの無血清維持培地(MM)を与えて、35℃の回転装置(1rpm)に置いた。接種後3、5、7、および9日目に完全な培養培地の採取物が作られ、そのたびに培養物に100mlの無血清培地を補充した。」(4559頁左欄17行~35行)
・甲2の4-エ
「2.5. ウイルス精製
ウイルス採取物からのプールされた培地は、遠心分離(1000×g、10分、4℃)によって清澄化した。細胞ペレットを廃棄し、上清を0.45μmのニトロセルロースフィルターユニットでろ過した。得られたろ液(約12L)を、分画分子量(MWCO)100000のタンジェンシャルフロー限外ろ過ユニット(Filtron、Omega 100Kスクリーンチャネル)に注入した。それを20~30 psi、クロスフロー速度400ml/分およびフィッティング速度約100ml/分の真空ポンプによって供給される圧力で約350mlに濃縮した。次に、ウイルス濃縮物を硫酸プロタミンで処理し、最終濃度が2mg/mlになるようにした。ウイルスとプロタミンの混合物を湿った氷上で4℃、2時間インキュベートした。プロタミン沈殿物をTY30ローターで17000rpm、4℃、5分でペレット化し、ウイルスを含む上清を清潔な滅菌容器に移し、4℃で一時保存した。ウイルスは、以下のとおりに作製した不連続ショ糖勾配で精製した。遠心分離管(Beckman UltraclearTM、1.5×3.5インチ)を10%H2O2で室温、30分添加して消毒し、H2O2を分離し、管を滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄した。ショ糖勾配は、60、55、50、45、40、35、および30(各2ml)および15%(1ml)w/wショ糖をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に段階的に添加することによって作製した。その勾配を20°Cで2~5時間拡散させた後、25mlのウイルス濃縮物を各勾配に注意深く重層し、勾配をBeckmanSW28ローターで17000rpm、4℃、18時間遠心分離した。軽質鉱油を管の上部に導く容積式自動分取装置を使用して、管の底から1mlの画分を分取した。以前の記載[22]のとおり、その画分は、ガチョウ赤血球の凝集(HA)により日本脳炎ウイルスについて分析された。HA活性がピーク(>1:3200)の画分とそれよりも最大8倍低い活性(>1:400)の画分を、500 mlの滅菌フラスコ(Nalgene)にプールした。ウイルスプールをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、pH 7.4で約8倍に希釈し、0.22 umの低タンパク質結合GV型フィルター(Millipore)でろ過した後、一時的に4°Cで保存した。」(4559頁左欄下から14行~右欄28行)
・甲2の4-オ
「2.6. ホルマリン不活化
ホルマリン(37%ホルムアルデヒド、Sigma、ミズーリ州セントルイス)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1:40に希釈した(最終pH 7.2~7.4、必要に応じて0.1 N NaOHで調整)。溶液を0.22umのニトロセルロースフィルターユニットでろ過した。1:40ホルマリン溶液を、希釈してろ過した50倍量のウイルスプールに滴下して、1:2000の最終ホルマリン希釈(0.05%、約5mMの濃度)を得た。ウイルスの不活化は、恒温循環水浴中、22°Cで実施した。残留生ウイルスアッセイおよび抗原アッセイ用にそれぞれ1mlのサンプルをウイルスプールから毎日採取した。サンプル中のホルマリンは、100倍量のワクチンに3.75%(w/v)のメタ重亜硫酸ナトリウムを添加することにより、亜硫酸水素ナトリウムとして除去した。ホルマリン添加から48時間後、ウイルスプールを再び0.22μmの低タンパク質結合(GVタイプ)フィルターユニットでろ過し、清潔で無菌の容器に移し、合計240時間不活化を実施した。不活化後、バルクワクチン中の残留ホルマリンを上記の亜硫酸水素ナトリウムとして除去した。除去後のバルクワクチンを滅菌透析チューブ(Sepcor 7、25mm、Spectrum)に入れ、約50倍量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、pH7.4に対して4°Cで透析し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)は2回交換した。透析後、ワクチンを再度0.22ミクロンの低タンパク質結合(GVタイプ)フィルターユニットでろ過し、清潔で無菌の500ml容器(Nalgene)に4°Cで保存した。これはワクチンバルクロット0475と名付けられた。」(4559頁右欄29行~4560頁左欄4行)
・甲2の4-カ
「2.7. 最終ワクチン製剤化と瓶詰め
透析したバルクワクチン300mlを清潔で無菌の500mlボトル(Nalgene)に無菌的に移した。15mlの水酸化アルミニウム(Rehydragel2% 水酸化アルミニウム、Reheis)をワクチン300 mlに添加した。溶液を手動で回転した後、90rpmに設定したオービタルシェーカーに室温で1時間25分置いた。チメロサール溶液は、1gのチメロサール粉末を100mlの滅菌済みリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に加えることにより調製した。チメロサールが溶解した後、溶液を0.22μmのニトロセルロースフィルターユニット(Nalgene)でろ過した。合計3.15mlの1%チメロサール溶液をワクチンに加え、それをシェーカー上でさらに10分間混合した。次に、バイアルあたり4mlの製剤化ワクチンを、無菌的に5mlの滅菌ガラス血清チューブバイアル(Wheaton)に分注した。充填したバイアルに栓をし、圧着し、4°Cで保管した。このワクチンはロット0574とした。」(4560頁左欄5行~23行)
・甲2の4-キ
「表5 JE-PIVロット0574の最終容器の仕様およびGLP試験結果
[図:0001421106000003.jpg]
」(4563頁の表5)
(6)甲3
・甲3-ア
「アブストラクト
無血清培地を使用してVero細胞由来の日本脳炎ワクチンを製造する方法を確立し、不活化プロセス中および4℃と28℃での保存中にさまざまな安定化剤を使用して安定性を試験した。
以前に報告された血清含有培地での細胞培養の結果と同様に、Vero細胞は無血清培地で培養してよく増殖し、ウイルス収量は約109PFU/mlまで首尾よく増加した。ウイルス溶液のエタノール沈殿とショ糖密度超遠心分離を通じたホルマリン不活化と精製に続いて、ワクチンは、現在使用されているマウス脳由来ワクチンと同様の品質とより高い免疫原性を有した。いくつかの安定化剤の試験は、ウイルス不活化プロセス中に0.5%グリシンを添加すると、長期間にわたり免疫原性が容易に維持されることを示した。さらに、精製後にワクチン安定化剤として0.5%グリシンと1.0%ソルビトールを添加すると、保存温度(4℃または28℃)によらずに免疫原性が1年間維持された。」(3680頁)
・甲3-イ
「本研究では、50Lの培養槽でヒトまたは動物由来の成分を含まない培地を使用してVero細胞由来の日本脳炎ワクチンを製造し、その物理化学的および免疫学的性質に関してマウス脳由来の日本脳炎ワクチンと比較した。さらに、不活化中と保存期間中に安定化剤を含むワクチンと含まないワクチンを4℃または28℃で1年間保存して、それらの中和力価を比較することで、Vero細胞由来ワクチンの安定性を高める条件を検討した。」(3681頁左欄20行~27行)
・甲3-ウ
「2.2. ウイルスバンク
現在のマウス脳由来日本脳炎(JE)ワクチンの製造に使用されている日本脳炎ウイルス(JEV)の北京-1(Beijing-1)株を、VP-SFMを使用してVero細胞に順応させた。マスターウイルスバンク(MVB)とワーキングウイルスバンク(WVB)は、それぞれ継代レベル2と4で調製した。MVBとWVBを各バイアル(Micro tubes、Assist Co.,Ltd.、日本)に分注し、-80℃で保存した。これらのバンクについて、preM-E領域をカバーするcDNAのダイレクトDNAシーケンス分析によるウイルスの同一性、Vero細胞での滴定、マイコプラズマ、真菌、細菌およびその他の外来物質の不在などの管理テストが、日本における生ワクチンの生物学的製剤の要件[17]およびFDAのガイダンス草案[18]に従って行われた。」(3681頁左欄下から9行~右欄4行)
・甲3-エ
「2.3. Vero細胞の大規模培養と日本脳炎ウイルスの産生
Vero細胞は、4mMのl-グルタミンを添加したVP-SFMを用いて、製造元の指示に従って調製した3g/l Cytodex-1(GE Healthcare Bio-Sciences、USA)を含む、ブタトリプシンの非動物の代わりとしてのTrypLE SELECT(Invitrogen)とともに、50Lの培養槽(ABLE社、日本)のマイクロキャリア上で培養した。WCBの1つのバイアルを解凍し、VP-SFMを使用して培養フラスコ(80cm2)で培養した。細胞をTripLE SELECT処理により完全なコンフルエントの段階で採取し、VP-SFMに再懸濁し、1000×gで遠心分離し、新鮮な培養液に再懸濁し、より大きな培養フラスコ(175cm2またはCellSTACK、Corningのダブルトレイ)に接種した。細胞を4つのセルファクトリー(Nalgene Nunc Thermo Scientific、米国)に展開して、収集した細胞(5×109)を3g/lのマイクロキャリアとVP-SFMを含む50Lの培養槽に播種した(図1)。細胞をマイクロキャリアの表面に6.5時間付着させ、30分ごとに3分間18rpmで断続的に攪拌し、細胞培養を開始した。細胞培養開始から2日間は、25LのVP-SFMを7rpmで攪拌して、高い細胞密度を維持し、細胞のマイクロキャリアへの付着を促した。細胞播種の2日後、25LのVP-SFMを添加し、攪拌を10rpmに増やした。培養中、pHと残留グルコースおよびグルタミン濃度を1日2回モニターした。培養上清中のグルコース、乳酸塩、グルタミン、およびグルタミン酸塩は、Bio Flow VER 5.0(Oji Scientific Ins.、日本)を使用してオフラインで測定した。グルコースまたはグルタミンの濃度が低い場合、培地の半分を新しいVP-SFMと交換した(図2)。培地に7.5%の炭酸水素ナトリウムまたはCO2ガスを加えることにより、pHを7.2に管理した。
日本脳炎ウイルスを産生させるため、細胞数が1×106細胞/mlを超えたとき、通常は播種から6日後、感染多重度(MOI)0.01でワーキングウイルスバンク(WVB)を接種した。回転を停止してマイクロキャリアを沈降させ、約45Lの培地を除去し、マイクロキャリアを10Lのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)および5LのM-199培地で2回洗浄した。 M-199を廃棄した後、M-199で希釈した10Lの日本脳炎ウイルス溶液を加えて細胞に感染させ、培養槽を、1.5時間の間、15分ごとに3分間、15rpmで断続的に攪拌した。過剰なウイルス溶液を捨てた後、新しいM-199を培養槽に加え、pHを7.2に維持しながら37℃で3日間細胞をインキュベートした。日本脳炎ウイルスの力価は、Toriniwa & Komiya[19]に記載のとおり、Vero細胞におけるプラーク形成単位(PFU)で決定した。」(3681頁右欄5行~3682頁左欄8行)
・甲3-オ
「2.4. ウイルスの精製と安定性試験
ウイルスの精製は、Toriniwa & Komiya[10]を修正しつつ、それに従って行った。培養上清を1.2-0.22μmフィルターを使用してろ過し、細胞と細胞破片を除去した。そして、サイズ排除限界が100kDaの膜(Biomax-100、Millipore Co.、米国)を使用して、ろ液を元の容量の約1/50に濃縮した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)による希釈および濃縮を数回繰り返して、低分子量の不純物を除去した。0.22μmフィルターでろ過した後、40%エタノールを最終濃度15%になるように添加し、ウイルス溶液を4℃で8~16時間インキュベートした。ウイルス溶液を32,950×g、4℃で70分間、遠心分離し、沈殿物をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁した。0.22μmフィルターを使用してろ過した後、各最終濃縮物に安定化剤とホルマリンを添加し(表1A)、ウイルス溶液を4℃で3月間、不活化した。
不活化期間における安定化剤の組合せを比較するために、ウイルス溶液を4℃で保存し、9月間で3月ごとに中和試験を実施した。
不活化後、ウイルス溶液を0.22μmフィルターでろ過し、ゾーン超遠心分離(Hitachi Koki Co.,Ltd.、日本)を使用して、100,000×g、4℃で15時間、35%および50%のショ糖密度超遠心分離を行った。超遠心分離後、セクション2.5で説明するように、E-ELISAで収集したウイルス抗原を含む画分をプールし、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に対して透析し、0.22μmフィルターを通してろ過し、ワクチン用の透析液に安定化剤を添加した(表1B)。最終製品の品質は、日本の生物学的製剤基準[17]に従って試験した。ワクチンは使用するまで4℃または28℃で保存し、各ワクチンの安定性を1年間で3月ごとに中和試験により評価した。対照として、凍結乾燥マウス脳由来日本脳炎ワクチン(国立感染症研究所からのロット番号105)を用意した。」(3682頁左欄9行~右欄5行)
・甲3-カ
「表1A
不活化期間に使用された安定化剤の組合せ(%)
[図:0001421106000004.jpg]
」(3682頁左欄の表1A)
・甲3-キ
「3.4. 不活化プロセスにおける安定化剤
ウイルスは、濃縮およびエタノール沈殿によって精製し、0.05%ホルマリンを用いて、安定化剤を含め、または含めずに、4℃で3月間不活化した(表1A)。0.5%グリシン、1.8%ソルビトール、5%乳糖、および0.4%L-グルタミンの組合せを用いて評価した安定化剤のうち、0.5%グリシンがウイルスの不活化に最適で、高い中和力価を維持した(表1Aおよび図3)。」(3684頁左欄下から7行~1行)
・甲3-ク
「
[図:0001421106000005.jpg]
図3.不活化プロセスにおける各安定化剤の組合せによる安定化効果
安定性は、9月間、3月ごとの中和試験によって比較した。安定化剤の組み合わせは、グリシン(〇)、グリシンおよびソルビトール(▲)、ソルビトール、乳糖およびL-グルタミン(■)、グリシン、ソルビトール、乳糖およびL-グルタミン(□)、安定化剤なし(×)とした。」(3684頁右欄の図3)
・甲3-ケ
「表3 最終製品の仕様および品質試験の結果
[図:0001421106000006.jpg]
」(3685頁の表3)
(7)甲4
・甲4-ア
「発明の分野
本発明は、ウイルスワクチン組成物の分野に関する。特に、本発明は、日本脳炎ワクチン組成物、および日本脳炎感染症に対するワクチン組成物を製造するプロセスまたは方法に関する。本発明は、ウイルスバルクの産生および精製プロセスならびに当該日本脳炎ウイルスバルクの不活化技術に関する。」(1頁3行~8行)
・甲4-イ
「ウイルス生産の後、特に日本脳炎ワクチン抗原に適用可能な不活化および安定化を同時に行う。日本脳炎ワクチンの安定化は、一般にワクチンバイアルまたはバルクを2~8℃の所定の温度範囲に維持して、長期間安定化させることを必要とする。これにはワクチンを輸送し保管するための追加のインフラ設備が必要であり、それによりワクチンにかかる費用が増加する。日本脳炎ワクチンにおける最も実際的な制限を克服するには別の安定化技術が求められる。本発明に開示される方法によるウイルスバルクから得られるワクチンは、上記の特別な冷蔵設備を必要とせず、周囲温度の条件すなわち室温(25°C)で安定である。本発明により得られる安定性は、冷蔵温度(2℃~8℃)で保存された日本脳炎ワクチンでの安定性に匹敵する。ウイルスバルクおよびワクチンの効力および免疫原性も、患者に十分な免疫を与えられる程度に保持されている。」(2頁4行~17行)
・甲4-ウ
「発明の目的
本発明の1つの目的は、日本脳炎ウイルスのインドコラール株を原因とする日本脳炎感染症を予防および治療することができる安定な不活化ワクチン組成物を提供することである。」(2頁19行~22行)
・甲4-エ
「本発明の別の目的は、精製された日本脳炎ウイルスバルクの不活化および安定化を同時に行う方法を提供することである。」(3頁4行~5行)
・甲4-オ
「さらに、本発明は、不活化プロセスとウイルスバルクの保存の双方において、精製された日本脳炎ウイルス(JEV)のバルクを安定化させることを目的としている。安定化剤の組成は0.5~1%w/vの範囲である。ウイルス抗原に添加される化学的安定化剤はD-ソルビトールとグリシンである。適切な安定化剤を含むウイルス抗原は、pHを7.0から約7.4に維持するのに十分な、生理学的に許容されるリン酸緩衝生理食塩水中に保存された。」(5頁20行~24行)
・甲4-カ
「実施例1:細胞培養および日本脳炎ウイルスのコラール株のVero細胞への順応
・・・
したがって、本発明は、上記の実施例で述べた特定の処分可能なバイオリアクターにおける、単離された、インド亜大陸に特有な、コラール株という日本脳炎ウイルスの新規な株のVero細胞への順応を開示する。それにより、日本脳炎ウイルス感染症の患者において防御免疫応答を誘発するのに十分な高い効力を有する高収量の日本脳炎バルクを得ることができる。本発明で提示される実施例は、Vero細胞における日本脳炎ウイルスの新規コラール株の独特の順応方法、および最初の細胞株から得られた多数の採取物を開示している。多数のウイルス採取の詳細を示す実験は以下に述べる実験で列挙され、処分可能なバイオリアクター(DB)で次のとおり表にまとめ(表1.2)、DB-100(実験I-II)およびDB-500でさらにスケールアップされる。
・・・
(実験III-IV)は以下の表のとおりである。
[図:0001421106000007.jpg]
表1.2:処分可能なバイオリアクター(DB)からDB-100およびDB-500へのスケールアップおよび多数のウイルス採取の値。ウイルス採取データはいずれもプラーク形成単位で言及している。
[図:0001421106000008.jpg]
表1.3:表1.2の実験に用いられた処分可能なバイオリアクターの操作パラメータ」(5頁26行~12頁6行)
・甲4-キ
「実施例3:アガロースベースのマトリックスを用いた日本脳炎ウイルスの精製および日本脳炎ウイルスの不活化
・・・
カラムによる精製は、採取物全体をCapto Coreマトリックスに通すことで達成される。700 kDa未満の分子量を持つタンパク質、および採取物に存在する他の遺伝物質は、Capto Coreマトリックスに結合する。ウイルスはCapto Coreマトリックスに結合しないため、通過画分は生日本脳炎ウイルスを含めて回収される。続いて、300kDaのポリエーテルスルホン膜カセットを通して濃縮される。透過分は廃棄され、保持分はこの段階では生日本脳炎ウイルスを含む。その後、保持分に存在する濃縮された生日本脳炎ウイルスは、1:1500v/v~1:2500v/v(すなわち、2500容量の生日本脳炎ウイルス(JE)を、1容量のホルマリンで処理すること)の比率の不活化剤であるホルマリンまたはベータプロピオラクトン(BPL)と、不活化プロセスの間のみ添加される0.1~1%のソルビトールと0.1~1%のグリシンを含む安定化剤の混合物による、22℃、7日間の処置を通して、化学的に不活化される。0.5%w/vのグリシンおよび1%w/vのソルビトールという特定の濃度の安定化剤が、不活化剤であるホルマリンまたはベータプロピオラクトン(BPL)とともに生きた日本脳炎ウイルスに添加される。上記のとおり不活化剤であるホルマリンまたはベータプロピオラクトン(BPL)を添加するため、7日間の不活化させるインキュベーションの間だけ、ウイルスの分解を防ぐために安定化剤が添加される。不活化後、日本脳炎バルクは、リン酸緩衝生理食塩水を少なくとも5~6回繰り返し交換することにより透析ろ過および濃縮して、ホルマリンを除去する。ベータプロピオラクトン(BPL)による不活化の場合、透析ろ過は必要ない。ベータプロピオラクトン(BPL)は、バルクを37℃で3時間インキュベートすることにより除去される。透析ろ過された日本脳炎バルクは、0.22μPVDF(ポリフッ化ビニリデン)ろ過膜により滅菌ろ過される。不活化された日本脳炎ウイルスバルクは、さらに5℃±3℃で少なくとも24月から36月間保管する。」(18頁第10行~19頁第10行)
・甲4-ク
「本発明に開示された方法の1つによる日本脳炎バルクのコラール株の精製および不活化ステップは、以下のとおりに要約できる:
(a) ウイルス採取物を0.45μ膜により清澄化し、ウイルス採取物から細胞破片を除去する;
(b) サイズ排除およびCapto Core-700マトリックスを用いたアフィニティークロマトグラフィーを組み合わせたカラム精製。このマトリックスは、機能的活性リガンドであるオクチルアミン基を含む高度に架橋されたアガロースマトリックスからなり、それにより精製されたウイルスを含む通過画分を回収する;
(c) ステップ(b)の通過画分を、300kDaポリエーテルスルホン(PESU)膜カセットを用いて濃縮および透析ろ過し、精製された濃縮ウイルスバルクを得る;
(d) ステップ(c)の精製された濃縮ウイルスバルクを、0.45μ PVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜を用いてろ過し、プロセス中の汚染物質を除去する;
(e) ステップ(d)の精製ウイルスの安定化と不活化を同時に行う。その際、1:1500v/v~1:2500v/v(すなわち、2500容量の生日本脳炎ウイルスを1容量のホルマリンで処理)の比率のホルマリンと安定化剤を使用する。安定化剤はグリシンとソルビトールからなり22°C、7日間で処理する。または、1:1500v/v~1:2500v/v(すなわち、2500容量の生日本脳炎ウイルスを1容量のホルマリンで処理)の比率のベータプロピオラクトンと安定化剤を使用する。安定化剤はグリシンとソルビトールからなり5°C±3℃、7日間で処理する;
(f) ステップ(e)の精製された不活化ウイルスバルクについて、
ホルマリンで不活化した場合のみ、リン酸緩衝生理食塩水に対して300kDa PESU膜カセットを少なくとも5-6回使用して透析ろ過および緩衝剤の交換を行い、ホルマリンを除去する;
(g) ステップ(f)の精製された不活化ウイルスバルクを、0.22μ PVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜によりろ過して、最終の、5°C±3°Cで少なくとも24月から36月間安定な、いかなる汚染物質も含まない、日本脳炎ワクチン製剤に適した、不活化日本脳炎ウイルスバルクを得る。」(19頁10行~20頁7行)
(8)甲5
・甲5-ア
「本発明は、Vero細胞上での継代によりVero細胞に順応した弱毒化日本脳炎ウイルス、および当該弱毒化ウイルスを含む日本脳炎ワクチンに関する。」(1頁10行~12行)
・甲5-イ
「したがって、本発明の目的は、標準的な細胞基質で産生される安全で効果的な日本脳炎ワクチンを提供して、多くの国での受容性を高めることである。本発明の更なる目的は、高度に精製された安定なワクチンを調製し、また、少量の抗原量で高い免疫原性を有するワクチン製剤にするための効果的なプロセスを提供することである。」(5頁16行~20行)
・甲5-ウ
「実施例1
SA14-14-2(PDK)ウイルスのVero細胞への順応
イヌ腎臓細胞培養における第8継代の日本脳炎SA14-14-2(PDK)、SA14-14-2ウイルスを使用して、Vero細胞培養での連続継代を開始した。Vero細胞単層に、細胞あたり0.1pfuの感染多重度(moi)で日本脳炎ウイルスSA14-14-2(PDK)を接種した。感染した細胞培養物は、10%ウシ胎児血清を添加したEMEM(イーグル最小必須培地)からなる5mlの栄養培地を含む25cm2培養フラスコにおいて、空気中約5%CO2の雰囲気、約35℃以下の温度で増殖させた。温度は一般的に約32℃~約35℃であり、約35℃が好ましい。
・・・
約105pfu/ml~107pfu/ml以上のウイルス収量の大幅な増加およびインキュベーション時間の短縮により、候補となる日本脳炎ワクチンの調製に用いる出発物質としてVero細胞での日本脳炎ウイルス第4継代を選択した。Vero細胞での日本脳炎ウイルス第4継代には、CJ50003(Vero、PS4)とラベル付けした。略語のPSは、指定された細胞でのウイルスの継代数を意味する。」(13頁3行~28行)
・甲5-エ
「実施例3
ウイルスの増殖および精製
産生シードは、Vero細胞[CJ50003(Vero,PS5)]で第5継代のウイルスとして調製され、冷凍庫に保管された。Vero細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS、Gibco)を含むイーグル最小必須培地(EMEM、Gibco)で増殖させた。Vero細胞単層のローラーボトル培養物に、細胞あたり0.01~0.1pfuの感染多重度(moi)で産生シードのウイルスを感染させた。ウイルス吸着の2時間後、培養物をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、血清を含まないEMEMを与えて、35℃でインキュベートした。
・・・
プールした採取物を8,000rpmで15分間遠心分離し、上清を0.45μmフィルターでろ過した。ウイルス培養上清は、限外ろ過(Ultrasette, Filtron, 100k)またはPEG沈殿によって濃縮した。PEGにより沈殿させたウイルスを遠心分離で回収し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)またはSTE(10 mM Tris pH 7.2, 1 mM EDTA, 150 mM NaCl)緩衝剤で懸濁した。限外ろ過後の保持液を250 mlに濃縮し、カセットを100 mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。0.5~2 mg/mlのプロタミン硫酸塩を添加した後、ウイルス濃縮物を氷中で2時間冷却し、10,000rpmで5分間遠心分離して上清を得た。濃縮したウイルスはショ糖勾配遠心分離により精製した。
・・・
精製したウイルスを2倍量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈し、最終的に0.01%となるようTween80を加えて、0.22μmフィルターでろ過した。」(17頁21行~18頁24行)
・甲5-オ
「実施例4
ウイルスの不活化
精製されたウイルスは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)での透析後に弱毒生ワクチン調製のために直接使用されるか、あるいは不活化ワクチン調製のためにホルムアルデヒドで不活化されるかのいずれかである。0.018%ホルムアルデヒドによる不活化は、22℃または4℃で行われた。
・・・
これらの条件下でのホルムアルデヒドによる不活化は、22℃で少なくとも7日間または4℃で60日間実施され、安全性のマージンが与えられた。不活化後、サンプル中の遊離ホルムアルデヒドは、0.038%のメタ重亜硫酸ナトリウムを添加して、除去した。透析はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)と同時に実施し、その後0.22μmフィルターでろ過した。」(19頁28行~20頁18行)
(9)甲6の1
・甲6の1-ア
「実施例1:ヒト及び動物のワクチンとして適用するのに好適なジカ原薬の製造方法
材料および方法
ジカウイルスワクチン(ZikaV)調製のため、日本脳炎ウイルス(JEV)プロセスプラットフォーム(Srivastava et al.、Vaccine 19(2001)4557-4565; US 6,309,650B1)を基礎として使用した。ZikaVの特性に適応し、純度を向上させるために、一定のプロセスについてわずかに変更した手順を適用した。プロセスステップの簡単な概要を以下に示す(図8a+bも参照)。
・・・
上流:
・ローラーボトルベースベロ細胞増殖(25x850cm2 CellBind処理)
・5%CO2、35℃、MEM+2mMのL-グルタミン+10%FBS
・0.01のMOIでジカVリサーチマスターシードバンク(rMSB)を用いて感染
・血清なしでウイルス産生
・5%CO2、35℃、MEM+2mMのL-グルタミン
・複数回採取(2、3、5および7日目)し、再フィードする
・ハーベストの無菌濾過および2~8℃で次の処理まで貯蔵
下流:
・ハーベストのプールおよび限外濾過による濃縮(100kDa)
・必要に応じて(-80℃)で貯蔵するために、濃縮ハーベストの安定化(トリス/10%ショ糖)
・硫酸プロタミン(2mg/mL)によるhcDNAの除去
・ショ糖勾配精製(最適化3層勾配液)
・ホルムアルデヒド不活化(0.02%、22℃、10日間)、メタ重亜硫酸Naによる中和
・DS抗原標的含量に希釈および水酸化アルミニウムと共に処方(0.5mg Al/mL)」(70頁第13行~71頁第8行)
・甲6の1-イ
「ジカウイルス株H/PF/2013は元々51歳の女性から分離された(配列番号13)。サンプルはEuropean Virus Archive EVAgから入手した。この試料を基に、細胞基質としてのVero細胞上でリサーチマスターシードバンク(rMSB)を調製した。」(71頁第27行~第29行)
・甲6の1-ウ
「Vero細胞におけるウイルス増殖
Vero細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むイーグル最小必須培地(EMEM)で増殖した。単層のVero細胞のローラーボトル培養物に、細胞あたり0.01プラーク形成単位(pfu)の感染多重度(moi)でジカウイルス株H/PF/2013を感染させた。ウイルス吸着の2時間後、培養物をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、ウシ胎児血清(FBS)を含まないEMEMを与え、+35℃、5% CO2でインキュベートした。感染したVero細胞培養物を、ウイルス力価が所望のレベルに達するまでインキュベートした。」(71頁第31行~72頁第6行)
・甲6の1-エ
「培養培地を2、3、5、7日目に採取して、その採取日からプールし、その後標準的な遠心分離機で遠心分離した。次に、上清をろ過した。ウイルス培養上清を、TFF限外ろ過を用いて濃縮し、それにより、細胞培養培地成分を除去し、バッチ容量を減らした。」(72頁第7行~第10行)
・甲6の1-オ
「下流におけるジカウイルスの精製
特に明記しない限り、精製工程は室温(18~22℃)で実施した。
ウイルス精製では、最初に、ろ過され、結合した採取物を、100kDaカットオフTFF限外ろ過モジュールを用いて濃縮した。それにより、細胞培養培地成分を除去し、バッチ容量を減らした。濃縮後、プールされたろ過採取物は、Trisおよびショ糖双方の成分原液を使用して、最終濃度25 mM Tris pH7.5および10%ショ糖(w/w)に調整した(PS処理前の様々な採取物のSEC_HPLCについては図9を参照)。これにより、必要に応じて、濃縮採取物を<-65°Cで凍結できた。
宿主細胞のDNAとタンパク質の低減、および濃縮物中の非感染性ウイルス凝集体の低減は、プロタミン硫酸塩(2mg/mL)で沈殿させた後、最終仕上げ段階としてのショ糖密度遠心分離(2-8℃)により達成した
(PS処理後の様々な採取物のSEC_HPLCの図10を参照)。精製プロセスは、2作業日以内に完了するように設計し、1日目の終わりにSGC(ショ糖勾配クロマトグラフィー)を開始し、2日目に分画とSDS-PAGE分析を行った。ZikaVを含む純粋な画分を特定するためにSDS-PAGE(銀染色)での分析中、ショ糖勾配画分を2~8℃で保存した(図12を参照)。関連する画分をプールした後に希釈し、ホルマリンで不活化した。ショ糖勾配遠心分離の関連する画分をプールした後にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1:3に希釈し、ホルマリン(0.02%v/v、200ppm)で不活化した。画分をSDS-PAGEで分析した。」(73頁第6行~第24行)
※当審合議体の注
上記下線部の「ホルマリン(0.02%v/v、200ppm)で不活化した。」との記載は、下記(カ)における詳細な記載を踏まえると、「ホルムアルデヒド(0.02%v/v、200ppm)」の誤記と認められる。
・甲6の1-カ
「精製したウイルス溶液は、温度が22℃に管理されたインキュベーターにおいて、0.02%ホルムアルデヒドを用いたインキュベーションにより10日間にわたって不活化した。ホルムアルデヒドはピロ亜硫酸ナトリウムの添加により10日目に除去した。
ショ糖勾配プール(サンプリング後約17mL)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でさらに3倍に希釈し、PETG容器で最終容量を51mLにした。プレホルムアルデヒドプールの最終容量の1/50に相当する1%ホルムアルデヒド(10.000ppm)溶液を、有効濃度が200ppmになるようプールに追加した。ホルムアルデヒド処理溶液をマグネチックスターラーで10分間混合した。サンプリング後、ホルムアルデヒド処理したウイルス溶液を22℃±2℃の冷却インキュベーター内に置いた。ホルムアルデヒド添加後5日目に、ホルムアルデヒド処理したウイルス溶液を0.2μmフィルターでろ過し、再度22℃±2℃のインキュベーターに置いた。10日目に、10日目不活化最終サンプルを除去した後、(最終ホルムアルデヒド処理ウイルス溶液重量の)1%容量の200mMメタ重亜硫酸ナトリウム溶液(最終濃度2mM)をホルムアルデヒドで処理されたウイルス溶液を含むPETG容器に無菌的に移した。」(76頁10行~24行)
・甲6の1-キ
「B)ジカウイルスの不活化のサンプルは約10%のショ糖(約30-35%のショ糖を含むSGP(精製ショ糖勾配)プールを3倍に希釈した)を含んでいた。ショ糖は、ホルマリンによる処理の間、ジカウイルス粒子を安定化させる効果を有していたと考えられる。」(82頁14行~16行)
(10)甲6の2
・甲6の2-ア
「実施例1:ヒト及び動物のワクチンとして適用するのに好適なジカ原薬の製造方法
材料および方法
ジカウイルスワクチン(ZikaV)調製のため、日本脳炎ウイルス(JEV)プロセスプラットフォーム(Srivastava et al.、Vaccine 19(2001)4557-4565; US 6,309,650B1)を基礎として使用した。ZikaVの特性に適応し、純度を向上させるために、一定のプロセスについてわずかに変更した手順を適用した。プロセスステップの簡単な概要を以下に示す(図9AおよびBも参照)。
・・・
上流:
・ローラーボトルベースベロ細胞増殖(25x850cm2 CellBind処理)
・5%CO2、35℃、MEM+2mMのL-グルタミン+10%FBS
・0.01のMOIでジカVリサーチマスターシードバンク(rMSB)を用いて感染
・血清なしでウイルス産生
・5%CO2、35℃、MEM+2mMのL-グルタミン
・複数回採取(2、3、5および7日目)し、再フィードする
・ハーベストの無菌濾過および2~8℃で次の処理まで貯蔵
下流:
・ハーベストのプールおよび限外濾過による濃縮(100kDa)
・必要に応じて(-80℃)で貯蔵するために、濃縮ハーベストの安定化(トリス/10%ショ糖)
・硫酸プロタミン(2mg/mL)によるhcDNAの除去
・ショ糖勾配精製(最適化3層勾配液)
・ホルムアルデヒド不活化(0.02%、22℃、10日間)、メタ重亜硫酸Naによる中和
・DS抗原標的含量に希釈および水酸化アルミニウムと共に処方(0.5mg Al/mL)」(75頁20行~76頁14行)
・甲6の2-イ
「ジカウイルス株H/PF/2013は元々、フランス領ポリネシア出身の51歳の女性から分離された(アクセッション番号KJ776791.1、また本明細書の配列番号13)。サンプルはEuropean Virus Archive(EVAg; Ref-SKU; 001v-EVA1545)から入手した。この試料を基に、細胞基質としてのVero細胞上でリサーチマスターシードバンク(rMSB)を調製し、ゲノム配列をシークエンシングにより確認した。」(76頁16行~20行)
・甲6の2-ウ
「Vero細胞におけるウイルス増殖
Vero細胞は、10% ウシ胎児血清(FBS)を含むイーグル最小必須培地(EMEM)で増殖した。単層のVero細胞のローラーボトル培養物に、細胞あたり0.01プラーク形成単位(pfu)の感染多重度(moi)でジカウイルス株H/PF/2013を感染させた。ウイルス吸着の2時間後、培養物をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、ウシ胎児血清(FBS)を含まないEMEMを与え、+35℃、5% CO2でインキュベートした。感染したVero細胞培養物を、ウイルス力価が所望のレベルに達するまでインキュベートした。」(77頁10行~16行)
・甲6の2-エ
「培養培地を2、3、5,7日目に採取して、その採取日からプールし、その後標準的な遠心分離機で遠心分離した。次に、上清をろ過した。ウイルス培養上清を、TFF限外ろ過を用いて濃縮し、それにより、細胞培養培地成分を除去し、バッチ容量を減らした。」(77頁18行~21行)
・甲6の2-オ
「下流におけるジカウイルスの精製
特に明記しない限り、精製工程は室温(18~22℃)で実施した。
ウイルス精製では、最初に、ろ過され、結合した採取物を、100kDaカットオフTFF限外ろ過モジュールを用いて濃縮した。それにより、細胞培養培地成分を除去し、バッチ容量を減らした。濃縮後、プールされたろ過採取物は、Trisおよびショ糖双方の成分原液を使用して、最終濃度25 mM Tris pH 7.5および10%ショ糖(w/w)に調整した(PS処理前の様々な採取物のSEC_HPLCについては図11を参照)。これにより、必要に応じて、濃縮採取物を<-65°Cで凍結できた。
宿主細胞のDNAとタンパク質の低減、および濃縮物中の非感染性ウイルス凝集体の低減は、プロタミン硫酸塩(2mg/mL)で沈殿させた後、最終仕上げ段階としてのショ糖密度遠心分離(2-8℃)により達成した(PS処理後の様々な採取物のSEC_HPLCの図20を参照)。精製プロセスは、2作業日以内に完了するように設計し、1日目の終わりにSGC(ショ糖勾配クロマトグラフィー)を開始し、2日目に分画とSDS-PAGE分析を行った。Zika Vを含む純粋な画分を特定するためにSDS-PAGE(銀染色)での分析中、ショ糖勾配画分を2~8℃で保存した(図21を参照)。関連する画分をプールした後に希釈し、ホルマリンで不活化した。ショ糖勾配遠心分離の関連する画分をプールした後にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1:3に希釈し、ホルマリン(0.02%v/v、200ppm)で不活化した。画分をSDS-PAGEで分析した。」(78頁11行~29行)
上記下線部の「ホルマリン(0.02%v/v、200ppm)で不活化した。」との記載は、下記(カ)における詳細な記載を踏まえると、「ホルムアルデヒド(0.02%v/v、200ppm)」の誤記と認められる。
・甲6の2-カ
「精製したウイルス溶液は、温度が22℃に管理されたインキュベーターにおいて、0.02% ホルムアルデヒドを用いたインキュベーションにより10日間にわたって不活化した。ホルムアルデヒドはピロ亜硫酸ナトリウムの添加により10日目に除去した。
ショ糖勾配プール(サンプリング後約17mL)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でさらに3倍に希釈し、PETG容器で最終容量を51mLにした。プレホルムアルデヒドプールの最終容量の1/50に相当する1%ホルムアルデヒド(10.000ppm)溶液を、有効濃度が200ppmになるようプールに追加した。ホルムアルデヒド処理溶液をマグネチックスターラーで10分間混合した。サンプリング後、ホルムアルデヒド処理したウイルス溶液を22℃±2℃の冷却インキュベーター内に置いた。ホルムアルデヒド添加後5日目に、ホルムアルデヒド処理したウイルス溶液を0.2μmフィルターでろ過し、再度22℃±2℃のインキュベーターに置いた。10日目に、10日目不活化最終サンプルを除去した後、(最終ホルムアルデヒド処理ウイルス溶液重量の)1%容量の200mMメタ重亜硫酸ナトリウム溶液(最終濃度2mM)をホルムアルデヒドで処理されたウイルス溶液を含むPETG容器に無菌的に移した。」(81頁10行~24行)
・甲6の2-キ
「B)ジカウイルスの不活化のサンプルは約10%のショ糖(約30-35%のショ糖を含むSGP(精製ショ糖勾配)プールを3倍に希釈した)を含んでいた。ショ糖は、ホルマリンによる処理の間、ジカウイルス粒子を安定化させる効果を有していたと考えられる。」(8214行~16行)
(11)甲7
・甲7-ア
「本発明は、チクングニアウイルス(CHIKV)、ジカウイルス(ZV)、デングウイルス(DENV)1-4血清型及び日本脳炎ウイルス(JEV)が原因となる疾患に対する宿主における保護を付与するための免疫原性組成物を開示するものである。ジカウイルス、チクングニアウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルスから選択される1又は2以上の抗原を含む混合ワクチンが開示されている。」(6頁1行~6行)
・甲7-イ
「ウイルスは、熱、ガンマ線照射、紫外線照射又は化学的手段によって不活化された。化学的不活化剤は、これらに限定されないが、以下のリストから選択された:ホルマリン、β-プロピオラクトン、グルタルアルデヒド、・・・。ジカウイルスは、β-プロピオラクトン又はホルマリンによって不活化された。ホルマリンは、ウイルスに対して1:1000から1:4000の割合で使用した。β-プロピオラクトンは、ウイルスに対して1:1000から1:4000の濃度で使用された。温度及び不活化の期間は最適化された。・・・。全ての不活化は、4±2℃から25±2℃の範囲の温度で実施された。全ての不活化の場合において、糖/糖アルコール/アミノ酸のリストから選択される安定化剤の存在下で不活化が行われた場合、免疫原性の多くの損失なしに完全な不活化が観察された。ソルビトールは、アミノ酸の存在下又は非存在下で0.2から5%の範囲、好ましくは2%で使用すると特に効果的であった。2以上の不活性化剤の組み合わせて用いた場合にも同様の効果が得られた。」(6頁下から3行~7頁17行)
・甲7-ウ
「前述のウイルスは全てVero細胞で培養し増殖させた。ウイルス及びジカウイルス並びにテングウイルスの組み替え構造タンパク質の精製は、不活性化の前又は後に、物理的及び化学的方法の組み合わせにより達成された。物理的方法には、これらに限定されないが、以下の技術が含まれる:超遠心分離、密度勾配遠心分離、限外ろ過、透析ろ過及び適切な分子カットオフサイズを有する半透過膜を用いた濃縮。化学的手段による精製は、・・・のような化学又は物理化学反応による吸着/脱着などの方法を採用する。」(7頁19行~31行)
・甲7-エ
「ジカウイルス、テングウイルス及び日本脳炎ウイルスの抗原組成物は、免疫化のために薬学的に許容されるキャリア中に製剤化された。アジュバントの使用は、製剤中に必要となる抗原の量を低減した。更に、アジュバントワクチン製剤において、適切なアジュバントは、これらに限定されないが、以下のものを含むリストから選択される:水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム又は非晶質硫酸アルミニウムリン酸塩などのアルム、・・・。」(7頁32行~8頁22行)
・甲7-オ
「本製剤で用いられる緩衝剤は、リン酸塩又は他の薬学的に許容される緩衝剤である。」(8頁30行~31行)
・甲7-カ
「ワクチンの効力試験として、ジカ不活性化全ビリオン(ウイルス)抗原及びバキュロウイルス-昆虫細胞から発現・精製した組替えpRMEタンパク質を含むワクチン製剤をマウスでワクチン製剤として試験した。以下の抗原、ジカウイルス抗原、テングウイルス血清型抗原、チクングニアウイルス抗原、日本脳炎ウイルス抗原、のうち2つ以上を含むワクチン製剤について試験を行い、マウスに非経口的に注射することで免疫原性があることが確認された。得られた血清は、インビトロ中和試験で評価され、組み合わせワクチン中の各抗原に対する抗体価をELISA法で決定した。本発明に記載されるワクチン製剤を接種した動物において、チクングニアウイルス、日本脳炎ウイルス、ジカウイルス及びテングウイルスの各抗原に対して、セロコンバージョン及び良好な抗体価が観察された。細胞性免疫は、インビトロでの抗原刺激脾臓細胞培養物におけるTh1サイトカインの測定によって推定されるだろう。」(9頁16行~26行)
(12)甲8
・甲8-ア
「水酸化アルミニウムアジュバント」(表題)
・甲8-イ
「2.同義語
アルヒドロゲル(Alhydrogel);水酸化アルミニウムアジュバント;オキシ水酸化アルミニウム;低結晶性ベーマイト;偽ベーマイト;レヒドラゲル」(36頁左欄の「2.同義語」の項)
・甲8-ウ
「16 規制状況
GRASに登録。ヨーロッパ及び米国では、ヒト用および動物用非経口ワクチンへの使用が認められている。ヒト用ワクチンの使用限度は0.85mg アルミニウム/用量(FDA)及び1.25mgアルミニウム/用量(WHO)である。動物用ワクチンへの使用限度は設定されていない。EPA TSCAインベントリに報告されている。」(37頁左欄の「16.規制状況」の項)
(13)甲11
・甲11-ア
「塩化ナトリウム[sodium chloride] NaCl, 式量 58.44」(320頁右欄の「塩化ナトリウム」の項)
・甲11-イ
「緩衝液[buffer] 緩衝作用をもつ液体をいう。単に緩衝液といった場合には、一般に水素イオン緩衝液(pH緩衝液)を示す。これは酸とその塩、あるいは塩基とその塩の混合液であり、溶液のpHを一定に保つために用いる(→金属イオン緩衝液、配位子緩衝液)。緩衝液を調整するには、目的のpH領域を緩衝する試薬を選ばなければならない。酸のpKa値を中心として前後0.5pH単位のpH範囲で十分な緩衝能があるので、酸のpKa値から容易に目的の緩衝液を選ぶことができる。緩衝液の調製に用いられる酸・塩基試薬とそのpKa値を表に列挙する(Kaは水溶液中での酸解離定数で、その値は原則として、25℃、イオン強度0mol・dm-3の値である。塩基についてはその共役酸の解離定数で与えてある。括弧内のローマ数字I、II及びIIIはそれぞれ第一、第二、第三解離を示す。)
[図:0001421106000009.jpg]
」(503頁右欄~504頁左欄の「緩衝液」の項)
・甲11-ウ
「ホルマリン[formalin] ホルムアルデヒドの37%水溶液をホルマリンという(局方)。」(2259頁右欄の「ホルマリン」の項)
(14)甲13
・甲13-ア
「哺乳動物細胞の増殖培地の培養条件と型」(表題)
・甲13-イ
「1.4 pH
多くの細胞における適切なpHは7.2-7.4であり、それ以外では有害な影響が生じる。培養培地は幾らかの緩衝能を有する。pHを変化させる主な原因物質は細胞の代謝プロセスで生じる二酸化炭素である。気密な環境では、二酸化炭素は過酸化水素と結合し炭酸を生成し、それゆえ培地のpHの値を低下させる。合成培地では、その問題を解決するために炭酸水素ナトリウム-二酸化炭素緩衝システムが採用される。緩衝システムにおいては、[H+](水素イオン濃度)の増大により「H+(水素イオン)+塩 → 弱酸」の反応速度が増加して、幾らかのH+(水素イオン)が反応経路から除かれる。それは恒常的な平衡に基づく。
NaHCO3 + H2O ←→ Na++HO-+H2O+CO2」(4頁下から16行~8行)
・甲13-ウ
「a.MEM
MEMはイーグル最小必須培地とも呼ばれ、Harry Eagleによって開発された細胞培養培地であって組織培養で細胞を維持するために使用できる。12種の非必須アミノ酸、グルタミン、8種のビタミンと幾らかの塩基性無機塩を含む。
b.DMEM
ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、ダルベッコ/フォークト改変イーグル最小必須培地)というMEMのバリエーションは、元の処方の約4倍のビタミンとアミノ酸および2~4倍のグルコースを含む。また、鉄分とフェノールレッドを含む。さらに、DMEMは、高グルコースタイプ(4500g/Lグルコース)と低グルコースタイプ(1000g/Lグルコース)に分かれる。高グルコースのDMEMは1箇所に維持して増殖するのに有用なので、増殖速度が速く、付着が困難な一部の腫瘍細胞に適する。」(8頁1行~12行)
・甲13-エ
「無機塩
[図:0001421106000010.jpg]
・・・
表2.いくつかの培地の基本成分(mg/L)」(9頁~12頁)
・甲13-オ
「5.1 平衡塩類溶液(BSS)
平衡塩類溶液は、インビトロで、細胞が構造的、生理学的に完全な状態を維持するための環境をもたらす。溶液には、通常、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、塩素が含まれる。平衡塩類溶液は組織や細胞の洗浄に用いられ、通常、組織や細胞を扱うための試薬と組み合わせられる。それらは、生理学的pHと浸透圧を維持する一方で、細胞に水分と無機塩を供給する。以下の表には、数種の通常のBSSの処方を挙げる。
[図:0001421106000011.jpg]
表4.数種の通常のBSSの処方」(15頁)
・甲13-カ
「5.3.pH調整培地
5.3.1.炭酸水素ナトリウム溶液
炭酸水素ナトリウムは、培養環境を生理学的pH7.2~7.4に維持するために通常用いられる緩衝システムの一部として用いられる。培地の炭酸水素ナトリウム濃度は培地上の環境における二酸化炭素レベルに一致させなければならない。1.5~2.2 g/Lの炭酸水素ナトリウムを含む培地では5%の二酸化炭素を使用し、3.7 g/Lの炭酸水素ナトリウムを含む培地では10%の二酸化炭素を使用する。」(16頁下から16行~10行)
(15)甲14
・甲14-ア
「3.2.2 基本培地の構成
一般に基本培地は、平衡塩類溶液(balanced salt solution, BSS)と低分子の栄養物質から構成されている。平衡塩類溶液とは、元来、組織や細胞を生理的状態に保つために考案されたもので、Na+、K+、Ca2+、Cl-、P5+、HCO3-などのイオンとグルコースとで構成されているのが普通である。培地には、5%CO2存在下で平衡状態になるアール液と大気下で平衡状態になるように炭酸水素ナトリウムの量を低くしたハンクス液がよく用いられる(表3.1)。
動物細胞は比較的広いpH範囲(6.6~7.8)で生存できるが、その最適pHは通常7.2~7.4の範囲にある。細胞は培養中に乳酸などの酸性物質を産生するため、培地のpHはしだいに酸性に傾く。それを防ぐために培地には緩衝系が必要である。培地の緩衝系としては細胞毒性がないことが前提となるためリン酸緩衝系が適している。しかし、一般に培地には比較的高いCaイオン系が含まれているため、リン酸カルシウムの沈殿を生じやすく、十分量を添加することができない。一方、細胞は炭酸水素イオンを必要とするため、炭酸水素ナトリウムとCO2との系(炭酸水素緩衝系)が用いられることが多い。通常は平衡塩類溶液の緩衝系がそのまま用いられる。しかし、大気中のCO2の濃度が低いため炭酸水素イオンはCO2となり容易に気相に失われ培地のpHは塩基性に傾きやすく、そのため、特別な気相(5%CO2)の培養器(CO2インキュベーター)中で培養するか、培養用フラスコを用いて、培養器自体を密閉して、細胞の代謝過程で産生されるCO2が容器中に保存され、再溶解によって培地のpHを維持する方法が用いられる。」(22頁10行~23頁6行)
・甲14-イ
「表3.1 代表的な平衡塩類溶液の組成
[図:0001421106000012.jpg]
」(23頁)
・甲14-ウ
「表3.3 代表的基本培地の組成
[図:0001421106000013.jpg]
」(27頁~28頁)
※当審合議体注:上記は表3.3の内、主要無機塩に関する部分のみの抜粋である。
(16)甲17
・甲17-ア
「FSME-IMMUN
不活化ダニ媒介性脳炎ウイルスワクチン、アジュバントを含む
2.4μg(目標値)/0.5mL
筋肉内注射用の無菌懸濁液
ダニ媒介性脳炎の予防ワクチン」(1頁)
・甲17-イ
「FSME-IMMUNは1用量あたり以下を含有する:
ダニ媒介性脳炎ウイルス1,2(ノイデルフル株)2.4μg
1水酸化アルミニウム水和物(0.35mg Al3+)に吸着」(3頁)
・甲17-ウ
「組成
1用量(0.5mg)あたりの注射懸濁液は以下を含有する:
[図:0001421106000014.jpg]
製造プロセスからの残留物には、ショ糖、ホルムアルデヒド、プロタミン硫酸塩、ネオマイシン、ゲンタマイシンが含まれる。」(13頁)
(17)甲18
・甲18-ア
「イントロダクション
[011] 本開示は、免疫原性組成物の製剤化に関する。特に、
本開示は、精製不活化デングウイルスの1つ以上の株を含むバルクワクチン調製物および免疫原性組成物などの組成物の製剤化に関するものである。本明細書に開示される製剤は、精製不活化デングウイルスを含む免疫原性組成物の回収率および安定性を高め、その製造、保存および流通を促進する。」(2頁13行~19行)
・甲18-イ
「[020]
組成物(バルク調製物および免疫原性組成物)はまた、1つまたは複数の緩衝剤を含む。デングウイルスは、酸性条件下で免疫原性を失うので、緩衝剤は、中性付近またはそれを上回るpHを維持するように選択される。1つまたは複数の緩衝剤は、典型的には、組成物のpHを6.4以上のpH、好ましくは6.8を上回るpH、最も好ましくは7.0を上回るpH、例えば、7.4程度のpHを維持するように選択される。緩衝剤は、一定の成分(例えば、一定のアジュバント)を追加することにより緩衝剤の量または選択を調整する必要があり得ることを考慮し、製剤化された免疫原性組成物のその他の成分の存在下で所望のpHを維持するように選択される。一実施形態では、緩衝剤は、リン酸ナトリウムおよびリン酸カリウムのうちの1つまたは両方を含む。別の実施形態では、緩衝剤は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(以下、「トリス」という)を含む。」(5頁3行~13行)
・甲18-ウ
「[060]
デングウイルスは酸性pHに敏感であり、酸性pHでは重要な免疫エピトープが失われ、精製不活化ウイルス抗原が免疫反応を誘発する能力が低下し得る。したがって、緩衝剤は、pHを中性もしくは中性付近、またはわずかに塩基性のpHに維持するように選択される。いくつかの製剤における最終pHを改善するために、緩衝剤は、被験者に投与される最終組成物における所望のpHよりも高い初期製剤(例えば、酸性pHのアジュバントなどの一定の成分を添加する前)におけるpHを促進するように選択される。したがって、pHをpH6.4以上に維持するために、緩衝剤(または緩衝剤の組み合わせ)が選択される。より好ましくは、緩衝剤は、pHをpH6.8以上に維持するように選択され、最も好ましくは、緩衝剤は、pHを中性以上、例えば、生理学的pH7.4またはその付近、いくつかの例ではpH7.5以上、例えばpH8.0以上、またはpH8.5以上に維持するように選択される。」(17頁下から12行~1行)
・甲18-エ
「[061] 適切な緩衝剤には、炭酸、リン酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸および酒石酸緩衝剤、ならびに、より複雑な有機緩衝剤が含まれる。
ある実施例では、緩衝剤は、リン酸ナトリウムおよび/またはリン酸カリウムを含むリン酸緩衝剤を含む。典型的には、そのような緩衝剤、またはシステムは、所望のpHを達成するために選択された配分のリン酸ナトリウムおよびリン酸カリウムの両方を含む。他の実施例では、緩衝剤は、所望のpHを達成するように、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、または「トリス」を含む。所望のpHを達成するように緩衝剤を配合する方法は、当業者にはよく知られており、所望のpHに基づいて過度の実験を行うことなく適切な組成を決定することが可能である。」(18頁1行~10行)
・甲18-オ
「[077]表1に製剤化組成物の例を示す。
[図:0001421106000015.jpg]
」(21頁下から6行~22頁7行)
・甲18-カ
「[078]
1つの好ましい実施形態において、緩衝剤は、5mMトリス、50mM塩化ナトリウム、任意に界面活性剤(例えばポロクサマー188)および糖(例えばショ糖)を含んで成る。それにもかかわらず、本明細書で提供される緩衝剤の例は、特定の成分によって、または実施例として提供される特定の組み合わせによって、制限することを意図していないことが理解されるであろう。」(22頁8行~12行)
(18)甲20
・甲20-ア
「発明の分野
本発明は、チクングニアウイルスが原因のあらゆる感染症に対する予防および治療のための安定化免疫原性組成物に関する。本発明は、特に、ヒトのチクングニア感染症の予防、治療および診断のためのチクングニアウイルス(以下、CHIKVという。)株の組成物およびそのウイルスのサブユニット抗原の使用に関する。」(1頁2行~8行)
・甲20-イ
「実施例2 CHIKVの精製及び不活化
・・・
チクングニアウイルスは、ホルマリン:ウイルスが最大1:3000の比率のホルマリンにより2℃~8℃、最大7日間で、および1:1000~1:2500(ベータプロピオラクトン:ウイルス)の比率のベータプロピオラクトンにより2℃~8℃、最大7日間で、効果的に不活化された。いずれの場合も、+20~25℃の周辺温度で実施すると、不活性化時間が24~48時間に短縮された。ホルマリンとベータプロピオラクトンは透析で除去された。不活化中に、グリシン、マンニトール、ソルビトール、糖や糖を組み合わせたものなどの添加物を使用すると、ワクチン製剤の安定性が向上した。使用する糖は、0.5~5%までの様々な濃度のショ糖、乳糖、トレハロース、マルトースから選択できる。」(15頁7行~23行)
(19)甲21
・甲21-ア
「ジカウイルス疾患に対するワクチンの開発
ジカウイルス(ZIKV)はフラビウイルス科に属し、抗原複合体スポンドウェニに属する。・・・ジカウイルス(ZIKV)ワクチンは、ヒトフラビウイルスワクチン(黄熱病、ダニ媒介性脳炎、日本脳炎、デング熱)の開発で首尾よく用いられた技術と同一の技術で開発できることが想定されている。」(5頁1行~7行)
(20)甲22
・甲22-ア
「国立衛生研究所(NIH)の一員であるファウチ氏は、「ジカ熱は、米国内はもとより世界的に見ても、比較的取るに足らないウイルスであった。」「しかし、われわれは以前から、非常によく似たウイルスについて集中的に研究しており、かなり成功している。」と述べた。」(1頁13行~16行)
・甲22-イ
「国立衛生研究所(NIH)は以前から、チクングニアウイルス、デングウイルス、西ナイルウイルスなど、ジカウイルスと類似する蚊媒介性ウイルスのワクチン開発に注力してきました。「似たような『ウイルス』に対して診断薬やワクチン、あるいは介入治療を開発する場合、ジカウイルスのようなウイルスについて欲する最終目標の達成を促進するため、開発してきた技術を転用することができる。」とファウチ博士は述べる」(2頁6行~12行)
(21)甲29
・甲29-ア
「第54章 アルファウイルス(トガウイルス科)およびフラビウイルス(フラビウイルス科)」(表題)
・甲29-イ
「アルファウイルスは、トガウイルス科の2つの属の一つである。もう一つの属(ルビウイルス)には、唯一の種である風疹ウイルス(第55章)がある。かつてトガウイルス科に分類されていたフラビウイルスは、現在、フラビウイルス科の3つの属の一つを構成する。・・・ヒトの病気の原因となる全てのアルファウイルスとフラビウイルスは節足動物媒介ウイルス(アルボウイルス)である。以前の抗原関係に基づく分類スキームでは、アルファウイルスとフラビウイルスはそれぞれアルボウイルスA群、アルボウイルスB群と呼ばれていた。」(4頁3行~9行)
・甲29-ウ
「アルファウイルス
・・・
構造
ウイルス粒子(ビリオン)は直径60~70nmの球形で、脂質・タンパク質エンベロープで覆われた二十面体ヌクレオカプシドを備える。・・・ウイルス粒子RNAはプラスセンスであって、細胞内ではmRNAとして機能し、RNAだけでも感染することが実験的に示されている。単一キャプシドタンパク質(Cタンパク質)の分子量は約30,000ダルトンである。アルファウイルスエンベロープは宿主細胞の原形質膜に由来する脂質二重層で構成され、分子量48,000~52,000ダルトンの2つのウイルス糖タンパク質(E1及びE2)を含む。・・・アルファウイルスのエンベロープ内の唯一のタンパク質はウイルス糖タンパク質であり、それぞれがC末端またはその近くで脂質に固定される。ウイルス粒子表面では、E1とE2が密接についになっており、規則正しい配列で「スパイク」として表示される三量体を形成する。
分類および抗原型
・・・抗キャプシド抗体は感染力を中和せず、血球凝集を阻害しない。E2糖タンパク質は中和抗体を誘発し、その主要な標的であると考えられている。ただし、一部の中和抗体はE1と反応する。同様に、血球凝集阻害抗体はE2またはE1のいずれかと反応する可能性がある。血球凝集阻害抗体はアルファウイルス間で広範囲に交差反応することがある。
疫学
・・・
チングニアウイルスは、ヒヒや他の霊長類、森林種の蚊を含むアフリカの森林圏に存在する。また、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)によってヒト-蚊-ヒトのサイクルで感染しうる。」(5頁12行~7頁14行)
・甲29-エ
「フラビウイルス
・・・
構造
フラビウイルスのウイルス粒子(ビリオン)は直径50nmの球形であり、脂質エンベロープに覆われた核タンパク質キャプシドで構成される。RNAは40S(約10.9キロベース)のプラスセンス単鎖であり、・・・。ウイルス粒子には、約13,000ダルトンの単一キャプシドタンパク質(C)がある。エンベロープは、脂質二重層、51,000~59,000ダルトンの単一エンベロープタンパク質(E)、約8,500ダルトンの小さな非グリコシル化タンパク質(M)で構成される。ほとんどのフラビウイルスでグリコシル化されているエンベロープタンパク質(E)のみが、ウイルス表面に明確に現れる。
分類および抗原型
・・・全てのフラビウイルスは、キャプシド(C)およびエンベロープ(E)タンパク質上の共通又は類似の抗原決定基を共有することによって抗原的に関連している。単一エンベロープ糖タンパク質(E)はウイルス性血球凝集素である。エンベロープタンパク質(E)に対する抗体は、ウイルスの中和と血球凝集抑制に関与する。」(8頁22行~10頁29行)
(22)甲30
・甲30-ア
「5 ワクチンの製造と品質保証」(表題)
・甲30-イ
「5)最終バルクの構成 最終バルクの構成原液に安定剤、保存剤、免疫増強剤(アジュバント)などが加えられ、規定の抗原量が含まれるように緩衝液(buffer solution)で希釈され、浸透圧や水素イオン濃度(pH)が調整されたものが最終バルクとなる。
6)小分および凍結乾燥 最終バルクはバイアルやアンプル、シリンジなどの容器に充填され、ゴム栓などで密閉され、小分製品となる。」(25頁下から13行~8行)
(23)甲32
・甲32-ア
「15.2.1 緩衝剤の効果
タンパク質の立体構造の安定性に及ぼす緩衝剤の効果については包括的なレビューが入手できる([32]およびその引用文献)。タンパク質抗原の立体構造の安定性は、抗原提示(15.2.2を参照)及び、その結果として効果的かつ強固な免疫反応の誘発と、密接に関連している。したがって、緩衝剤がタンパク質抗原の三次構造および四次構造に大きな影響を及ぼすことは、緩衝剤がワクチンにおける重要な添加剤であることを示している。
抗原の立体構造の安定性に及ぼす緩衝剤の影響の多くは、(ワクチンの皮下または筋肉内注射後の)生体内においても持続する。なぜなら、緩衝剤は静脈内投与とは異なり急速には希釈されないためである。」(403頁1行~11行)
(24)甲35
・甲35-ア
「バイオテクノロジー製品の注射製剤に用いられる添加剤
・・・表4.1は、現在市販されている製剤に用いられている成分を列挙している。以下のセクションでは、このリストについて詳しく説明する。
・・・
[図:0001421106000016.jpg]
表4.1.バイオテクノロジー製品の注射製剤に用いられている成分。
上記全ての・が特定の1つのタンパク質製剤に常に用いられているわけではない。」(74頁)
・甲35-イ
「緩衝剤の成分
タンパク質の溶解度や物理的・化学的安定性はpHに依存するため、緩衝剤の選択は製剤プロセスにおいて重要な要素である。バイオテクノロジーの製剤でよく見かける緩衝剤にはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩がある。
」(75頁右欄下から22行~17行)
(25)甲36
・甲36-ア
「2 注射剤用添加剤
・・・
d 緩衝剤 buffers
安全性などから注射剤のpHを酸性やアルカリ性に調整したものもあるが、通常は血液に近いpH(約7)に調整する。pHを調整する目的で添加されるのが緩衝剤またはpH調節剤である。塩酸、硫酸、リン酸、水酸化ナトリウムなどが使用される。
・・・
e 等張化剤 isotonic agents
注射剤を血清の浸透圧(生理食塩液は286mOsm)に合わせる目的で添加する。塩化ナトリウム、グリセリン、ブドウ糖などが使用される。」(199頁1行~200頁7行)
(26)甲37
・甲37-ア
「b.注射剤に使用される添加剤
注射剤には、溶剤のほかに緩衝剤、安定剤、保存剤、等張化剤、無痛化剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤などの添加剤が、薬物の安定性確保や保存時の製剤の品質確保などのいろいろな目的のために配合されている。・・・
1)緩衝剤
注射剤のpHは、生体に対する安全性と薬物の特性に基づいて決められる。通称、安全性の面から血液・体液のpH(7.4程度)とかけ離れたpHを用いるのは避けるべきであるが、特定のpHで薬物が不安定な場合や溶解性が低い場合には、必要に応じて酸性およびアルカリ性に調整される。こうした注射剤のpHを維持するために使用されるものが緩衝剤で、クエン酸塩、酢酸塩、リン酸塩などが用いられる。・・・
・・・
4)等張化剤
注射剤、点眼剤の浸透圧が体液や涙液と異なる場合、刺激や疼痛などが起こることから、浸透圧を同じにする(等張化)目的で水性溶剤に等張化剤は用いられ、塩化ナトリウムなどの無機塩類、ブドウ糖や、その他の糖類などが配合されている。
・・・
5)無痛化剤
皮下や筋肉内に投与される注射剤において、pHや浸透圧が血液や体液と大きく異なる場合や薬物そのものが疼痛作用をもっている場合に、投与時の疼痛を緩和する目的で使用される。前者の場合、緩衝剤や等張化剤が用いられ、後者の場合、リドカイン塩酸塩、プロカイン塩酸塩などの局所麻酔作用を有するものや、クロロブタノールなどが用いられる。」(206頁8行~208頁8行)
(27)甲40
・甲40-ア
「3.結果及び考察
3.1 広いpH範囲におけるウイルスの安定性
本研究の最終目的は、弱毒化した黄熱病ウイルス株から不活化ワクチンを開発することであるが、不活化工程の前に滴定によりウイルスの安定性をモニタリングし、ウイルスの安定性にとって好ましい操作条件を選択することで、ウイルスの構造、ひいてはその免疫原性に影響を与える可能性を低減できると考えられた。
図1Aは、5±3℃および25±5℃で1時間インキュベートした後の、pH4.5~9.0の範囲における、ウイルス力価に基づく安定なウイルスの割合を示したものである。ウイルスは、pH6.5以下では不安定であったが、中性・アルカリ性領域では低温(5±3℃)でむしろ安定であり、pH9.0でのみ力価の減少が観察された。しかし25℃では既にpH8.0で力価の減少が観測された。これらの結果は、フラビウイルスはpH8.4~8.8で最適に安定で、酸性pHに敏感であるとする文献情報を裏付けるものである。」(2791頁左欄5行~21行)
・甲40-イ
「3.2 Qメンブレンへのウイルス吸着のためのpHの選択
Qメンブレンへのウイルス吸着は、安定なpH領域(7.5-9.0)において、ウイルス力価及びELISA法により評価した(図1B)。このアルカリ性領域では、pHの上昇とともに吸着したウイルスの割合が増加した。しかし、ウイルスの安定性から、吸着工程ではpH8.5が選ばれた。」(2791頁8行~13行)
(28)甲46
・甲46-ア
「このレビューの目的は、開発したワクチンの有効性を予測するための効率的な品質管理システムの利点を研究者に認識させることである。
ワクチン用にウイルスを不活化する場合、2つの大きな目標を達成する必要がある。第一に、安全性を確保するために感染性ウイルスを完全に不活化すること、第二に、高品質な抗原を得るために、防御免疫の誘導に重要なウイルスのエピトープを不活化後も維持することである。したがって、不活化ワクチンをin vivoで試験する前に、ウイルス凝集体の形成、タンパク質の架橋、タンパク質の変性や分解など、ウイルスの不活化プロセスに関連するいくつかの問題に対処する必要がある。」(695頁1行~8行)
・甲46-イ
「表1:不活化ワクチンの開発のための不活化方法の概要
[図:0001421106000017.jpg]
」(696頁表1)
・甲46-ウ
「変性手順
pH
pHの増減は、タンパク質の変性をもたらし、タンパク質に影響を及ぼす。これは、タンパク質が異なる立体構造をとることを意味する。低い(酸性)または高い(アルカリ性)pHは、タンパク質の二次元構造を変性させてウイルスを不活化し、宿主細胞への付着とその中での複製に関与するウイルスタンパク質の立体構造を変化させ得る。・・・
pHは、ゲノムレベルにも影響を及ぼす(図6)。RNAの水酸基と核ヌクレオチド間結合のリン中心が近接しているため、強酸性または強塩基性条件下でエステル転移反応が促進される。塩基触媒反応は、酸素が隣接するリン中心を攻撃する求核付加機構を介して進行し、結果としてリン酸ジエステル結合が切断される(図6)。
現在までのところ、不活化ワクチンに用いるウイルスの不活化に、極端なpH条件を使用したことは報告されていない。・・・
極端なpH条件下でウイルスを不活化する場合、ウイルスの構造を維持することが問題となる。・・・
結論として、極端なpHはウイルスを不活化することができるが、この不活化方法を用いた不活化ワクチンが、チャレンジに対する防御においていかなる効果を有するか未知数である。また、pHにより不活化したワクチンは、ウイルスの構造が破壊されるため、免疫反応に乏しい可能性がある。」(705右欄下から8行~707右欄28行)
・甲46-エ
「ウイルスの不活化とウイルスの構造の維持が、KVワクチン(不活化ワクチン)を開発する際に留意すべき問題となりうる。
第一に、不活化プロセスにおいてウイルス凝集体を形成し、不活化を免れる可能性があることに注意すべきである。・・・
第二に、KVワクチンの開発においては、ウイルスの構造を維持することが非常に重要である。架橋剤や変性処理などのウイルスタンパク質に作用する不活化処理は、中和抗体の誘導に不可欠なウイルス中和エピトープを修飾する可能性がある。したがって、KVワクチンでは、ウイルスタンパク質に影響を与えない方法でウイルスを不活化するのがよい。放射線やアルキル化剤などの主にゲノムに作用する不活化処理は、ウイルス中和エピトープを維持できる可能性が最も高く、望ましい。とはいえ、不活化後にタンパク質の分解が生じないか常にチェックする必要がある。」(712頁右欄9行~31行)
(29)甲48
・甲48-ア
「1 分類学
1 フラビウイルス科
2 フラビウイルス属
・・・
1.3 他のグループとの関係:トガウイルスといくつかの点で類似
2 ウイルス粒子(ビリオン)
・・・
2 物理化学的性質
・・・
2.2.4 感染力の安定性
2.2.4.1 pH:pH7-9で安定」(186頁左欄下から18行~187頁16行)
(30)甲49
・甲49-ア
「B.物理化学的性質と化学的組成
フラビウイルスの浮遊密度は、塩化セシウムで1.22-1.24g/cm3であり、ショ糖で1.18-1.20g/cm3である。ウイルス粒子のショ糖での沈降係数は、175-218Sと報告されている。ウイルス粒子の感染力は、pH7-9で最も安定である。」(329頁下から9行~5行)
(31)甲57の11
・甲57の11-ア
「等張リン酸緩衝生理食塩水(PBS)またはEMEM培養培地のいずれかで希釈した硫酸プロタミン溶液のpH管理に関する分析報告」(タイトル)
・甲57の11-イ
「試験の目的
・・・等張リン酸緩衝生理食塩水(PBS)またはEMEM培養培地(FBSを含まない)のいずれかで希釈した硫酸プロタミン溶液(2mg/mL)のpHを4℃で分析した」(2頁1行~5行)
・甲57の11-ウ
「
[図:0001421106000018.jpg]
」(4頁図1)
・甲57の11-エ
「結論
得られたデータは、EMEM培地またはPBS溶媒のいずれについても硫酸プロタミン(中性よりも若干酸性(pH約6.8))の添加後に重大なpH変化が生じるとの証拠を与えるものではない。」(5頁1行~4行)
(32)甲58の12
・甲58の12-ア
「フラビウイルスエンベロープタンパク質Eは、エンドソームでの膜融合に必要と考えられる弱酸性pHで不可逆的な構造変化を起こす。・・・」(695頁アブストラクト)
・甲58の12-イ
「二量体から三量体への変化とpH感受性立体構造エピトープの消失は、同じpHの閾値で起こる。ダニ媒介性脳炎ウイルスを弱酸性pHでインキュベートすると、不可逆的な構造変化が起こることが以前に示されており・・・。これらの結果は、双方の変化が同じpH閾値で起こることを示しており、pH6.5以下で起こる同じ構造変化が、立体構造エピトープの消失とオリゴマー構造の再編成の両方に関与している可能性が示唆された。」(697頁右欄下から25行~698頁左欄4行)
(33)甲59
・甲59-ア
「本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、マウス脳法で製造される不活化日本脳炎ワクチンの問題点を解決する事を目的とする。より詳しくは、細胞培養法で得られた日本脳炎ウイルスに対し、複数の不活化処理を組み合わせて行なう工程を含む、室温付近においても長期間安定に保存でき、有効かつ安全な液状不活化日本脳炎ワクチンの製造方法を提供することにある。また、当該製造方法によって製造された日本脳炎ワクチン、若しくは当該安定な日本脳炎ワクチンと他の種類の抗原ワクチンを混合した混合ワクチンを提供することも目的とする。また、それらの使用方法を提供することも目的とする。」([0006])
・甲59-イ
「上記課題を解決するために、本発明者らは細胞培養法で得られる日本脳炎ウイルスの不活化処理方法を検討した。また、複数のワクチンを混合し、製造された混合ワクチンの保存安定性の検討を行った。
まず、日本脳炎ウイルスの不活化処理条件を検討した。その結果、アミノ酸などの存在下で不活化処理を行うことにより、室温付近で安定に長期間(例えば2年(24ヶ月)以上)保存できる液状不活化日本脳炎ワクチンを製造出来ることを見いだした。・・・」([0007])
・甲59-ウ
「日本脳炎ワクチンの不活化に際してアミノ酸またはアミン類、アミド類、有機酸を共存させることが保存安定性を改善させる効果をもたらすことは本発明者らが見いだした新規で有用な知見である。
本発明の不活化処理の際に使用するアミノ酸の種類は入手可能なアミノ酸なら何れでも良く、中でもタンパク質構成アミノ酸が好ましい。また、塩基性アミノ酸がより好ましい。しばしば、水溶性アミノ酸が好ましいが、バリンなど非水溶性アミノ酸が効果的な場合もある。天然型(L-型)、非天然型(D-型)何れも使用可能である。より好ましいアミノ酸としては、アスパラギン酸、γ―アミノ酪酸、アラニン、β-アラニン、アルギニン、グリシン、グルタミン酸、イソロイシン、ロイシン、リジン、セリン、スレオニン、バリン、これらを含むペプチド、およびアミノ酸オリゴマー、等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。」([0017]~[0018])
・甲59-エ
「上記の安定な日本脳炎ワクチンの製造方法は、他のフラビウイルスに属するウイルスの全粒子ワクチンの製造にも適用できる。他のフラビウイルスにはデングウイルス、黄熱病ウイルス、ダニ媒介脳炎ウイルス(TBE)、ウェストナイルウイルス、セントルイスウイルス、などが含まれる。その他、全粒子インフルエンザワクチンの製造にも用いられる。」([0030])
・甲59-オ
「〔実施例1〕 不活化時のアミノ酸添加がワクチンの保存安定性に与える効果
アミノ酸の存在下でホルマリンによりウイルスを不活化処理して得られた改良日本脳炎ウイルスワクチンを保存し、保存安定性を調べた。実施方法は以下の通りである。
・・・
その後、0.05%(v/v)ホルマリン存在下、4℃、3ヶ月間 放置することにより不活化した。この際、ウイルス浮遊液に0.5%アミノ酸または他の試験物質を、各々一種類または数種類添加した(表1)。
不活化処理後に、蔗糖密度勾配遠心法により不純物ならびにホルマリンと添加物質を除去し、PBS 中でウイルス濃度を調整した。その後、0.7mLずつバイアルに分注して日本脳炎ワクチンを作成した。
各バイアルを4℃の冷所に保存した。保存開始から9ヶ月後まで3ヶ月ごとにバイアルを開封し、同一条件で作成した試料のバイアル5本分を合わせて1検体とした。5検体を使用し、日本生物製剤基準に従い力価測定法により、各保存期間後の残存力価を測定した。表1において、各保存期間の残存力価を中和抗体価で示す。
【表1】
[図:0001421106000019.jpg]
表1の保存6ヶ月後と9ヶ月後の結果において、ホルマリンによる日本脳炎ウイルスの不活化処理の際に、グリシン、グルタミンなどのアミノ酸を添加した場合(試験番号1-4)、およびアミノ酸と共に糖アルコールを添加して(試験番号2-4)作成した場合の日本脳炎ワクチン製品が、無添加条件下で不活化した従来法の製品(試験番号5)と比較して残存力価が高いことが明らかとなった。すなわち、長期間保存した場合でも、上記添加物を添加した上で不活化処理を行った場合には、無添加の場合と比較して保存安定性が増すことが明らかとなった。アミノ酸および糖アルコールの両方とも無添加で不活化処理した従来法の製品(対照)では力価の低下が著しかった。」([0035]~[0037])
(34)甲60
・甲60-ア
「本ポスターでは、日本脳炎ウイルスの不活化プロセスを研究するための、実験計画法に基づく方法論の使用について探求する。現在の製造条件は、不活化時間と抗原回収率の点で最適ではない。ホルムアルデヒドを用いた日本脳炎ウイルスの不活化におけるいくつかの重要な変数:温度、pH、ホルムアルデヒド濃度および安定化剤(グリセロール、ソルビトール、リジン、グリシン、ポリエチレングリコール)の存在を研究用文献から特定した。」(1頁左欄17行~25行)
・甲60-イ
「結果
・ホルムアルデヒドの濃度が、抗原の回復に最も大きな影響を与えることが分かった。影響の大きさの順でいうと、図2に示されているとおり、pHとホルムアルデヒドの濃度との相互作用、グリシンの濃度、pH、ソルビトールの濃度の順に続く。
・より高濃度のホルムアルデヒドを単独で使用すると、ワクチンの品質が損なわれ、1用量あたりにより多くのウイルス総量が必要となる。また、グリシンおよびそれよりは低い程度であるがソルビトールが、ワクチンの品質を向上させる可能性があることも示唆されている。
・これらの安定化剤が、ホルムアルデヒドが抗原に生じさせる損傷から多少は保護している可能性がある。グリシンは、ホルムアルデヒドの存在下で分子間結合や分子内結合を通常形成する可能性のあるペプチド部位と結合する、と以前から論じられている(Metz et al. 2003)。」(1頁左欄「Results」1行~右欄4行)
(35)甲62
・甲62-ア
「ポリオ根絶後のバイオセーフティ目標を支援する次世代不活化ポリオワクチン製造」(表題)
・甲62-イ
「不活化。精製したウイルスを、グリシン(最終濃度5g/L)を含む濃縮したM199を用いて安定化した。不活化は次の標準的な方法、すなわち、0.025% ホルムアルデヒドにより13日間、37℃でインキュベーションする方法で行った。」(3頁右欄下から15行~12行)
2.無効理由1(進歩性)について
請求人は、本件発明1~3及び9~12が優先権主張の効果を享受し得ないことを前提として、進歩性に係る無効理由を主張しているところ、最初に、本件発明1~3及び9~12が、優先権主張の効果を享受し得るか否かについて検討する。
(1)優先権主張の効果について
ア.請求人の主張
請求人は、本件特許の優先権主張の効果について、特許・実用新案審査基準「第V部 第1章 パリ条約による優先権」の記載や、知財高判平成18年11月30日(平17(行ケ)10737号)等の裁判例を提示した上で、「優先権主張を伴う日本出願で追加された構成を含む発明については、優先権主張の効果を享受できない」ことや、「裁判例上、優先権基礎出願明細書に記載された発明がそれ自体として実施可能でなければ、優先権主張適格が否定されると解されている」旨を指摘し、本件特許が優先権主張の効果を享受できない旨主張している。
イ.判断
パリ条約4条H項には「優先権は、発明の構成部分で当該優先権の主張に係るものが最初の出願において請求の範囲内のものとして記載されていないことを理由としては、否認することができない。ただし、最初の出願に係る出願書類の全体により当該構成部分が明らかにされている場合に限る。」との規定がされており、パリ条約による優先権の主張の効果が認められるためには、「発明の構成部分」が第一国出願に係る出願書類の全体により明らかにされていなければならないと解するのが相当である。そして、この要件を満たすためには、日本出願の出願書類の全体の記載を考慮して把握される請求項に係る発明が、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものである必要があると解されるから、日本出願の明細書等が第一国出願について補正されたものと仮定した場合において、その補正がされたことにより、日本出願の請求項に係る発明が「第一国出願の出願書類全体に記載した事項」との関係において、新規事項の追加されたものとなる場合には、パリ条約による優先権の主張の効果が認められない。
また、第一国出願の出願書類の全体の記載に基づいて当業者が実施をすることができなかった発明が、実施の形態の追加等により実施をすることができるものとなった場合には、日本出願の請求項に係る発明が、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項との関係において、新規事項の追加されたものとなるところ、この場合には、パリ条約による優先権の主張の効果は認められない。
以下、本件発明1~3と本件発明9~12について、それぞれ検討する。
(ア)本件発明1について
本件発明1は、「ジカウイルス感染に対するワクチン組成物」であって、「0.125μg~100μgの量で投与される、不活化全ビリオン(ウイルス)抗原、及び精製された組換えジカウイルス抗原から選択されるジカウイルス抗原と、薬学的に許容される緩衝剤と、アルミニウム0.1mg~1.5mgの量で投与される水酸化アルミニウムとを含み、前記精製された組換えジカウイルス抗原が、配列番号3及び配列番号4に開示される構造タンパク質配列を有する」ことを発明特定事項として含むものである。
これに対して、本件特許が優先権主張の基礎とする3652/CHE/2015(以下「本件基礎出願」という。甲7)には、上記1.(11)で摘記したとおり、「ジカウイルス、チクングニアウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルスから選択される1又は2以上の抗原を含む混合ワクチン」が記載されており(上記1.(11)甲7-ア)、「アジュバントワクチン製剤において、適切なアジュバントは、これらに限定されないが、以下のものを含むリストから選択される:水酸化アルミニウム、・・・などのアルム」との記載や(同甲7-エ)、「本製剤で用いられる緩衝剤は、リン酸塩又は他の薬学的に許容される緩衝剤である。」との記載(同甲7-オ)、「ワクチンの効力試験として、ジカ不活性化全ビリオン(ウイルス)抗原及び・・・を含むワクチン製剤をマウスでワクチン製剤として試験した。以下の抗原、ジカウイルス抗原・・・のうち2つ以上を含むワクチン製剤について試験を行い、マウスに非経口的に注射することで免疫原性があることが確認された。得られた血清は、インビトロ中和試験で評価され、組み合わせワクチン中の各抗原に対する抗体価をELISA法で決定した。本発明に記載されるワクチン製剤を接種した動物において、チクングニアウイルス、日本脳炎ウイルス、ジカウイルス及びテングウイルスの各抗原に対して、セロコンバージョン及び良好な抗体価が観察された。」との記載がされている(同甲7-カ)。
しかしながら、本件基礎出願には、混合ワクチンを念頭におき、「ジカ不活性化全ビリオン(ウイルス)抗原」に加え、他のウイルス抗原を組み合わせたワクチン製剤について試験した結果について、良好な抗体価が観察されたことが定性的に示されるにとどまり、請求項1において特定される、ジカウイルス抗原が「0.125μg~100μgの量で投与される」こと、「精製された組換えジカウイルス抗原が、配列番号3及び配列番号4で開示される構造タンパク質配列を有する」こと、水酸化アルミニウムが「アルミニウム0.1mg~1.5mgの量で投与される」ことについて記載も示唆もされておらず、また、これらは当業者にとって自明な事項でもない。
そうすると、本件特許の請求項1における、ジカウイルス抗原が「0.125μg~100μgの量で投与される」、「精製された組換えジカウイルス抗原が、配列番号3及び配列番号4で開示される構造タンパク質配列を有する」、及び、水酸化アルミニウムが「アルミニウム0.1mg~1.5mgの量で投与される」との特定により、本願発明1は「第一国出願の出願書類全体に記載した事項」との関係において、新規事項の追加されたものとなる。
加えて、本件基礎出願には、上述のとおり、ジカウイルス抗原を含むワクチン製剤について試験を行った旨の記載はされているものの、ジカウイルスの不活化全ビリオン抗原の調製に用いたジカウイルス株や、当該ワクチン製剤がどのように調製されたものであるかについては具体的に記載されておらず、また、中和抗体価の測定方法について記載はあるものの、その測定結果である中和抗体価の具体的なデータについて記載されていない。
そうすると、ワクチン製剤の開発に係る技術分野において、抗原の調製方法や、その用量、アジュバントの選択、及びその他の抗原などの成分によって、中和抗体の誘導をもたらすことができるか否かは、実際に製造してみないと分からないということが技術常識であるところ、本件特許の優先日における当業者にとって、本件基礎出願の記載からは、本件発明1に係るジカウイルス感染に対するワクチン組成物、すなわち、ジカウイルス感染に対して十分な中和抗体を産生するためのワクチン組成物を現実に製造することができるとはいえず、そのようなワクチン組成物が実際に存在するものであることを確認できるとは認められない。
一方、本件特許の明細書には、実施例において、ジカウイルス株MR766を用いてジカウイルス抗原を含むワクチン製剤を調製する方法や、動物モデルでのワクチン製剤の効力の検査方法及びその結果である中和抗体価のデータ等が具体的に記載されており、当業者が本件発明1について実施できる程度に記載されていると認められる。
そうしてみると、本件発明1は、第一国出願の出願書類の全体の記載に基づいて当業者が実施をすることができなかった発明が、実施の形態の追加により実施をすることができるものとなったといえる。
上記のとおりであるから、本件発明1は、「第一国出願の出願書類全体に記載した事項」との関係において、新規事項の追加されたものであり、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものとはいえないことから、パリ条約による優先権の主張の効果が認められない。
(イ)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用する「ワクチン組成物」に関するものであり、本件発明3は、「リン酸緩衝液が、リン酸イオン濃度5mM~200mM、pH6.50~9の任意のpHであり、任意選択で塩化ナトリウムを50~200mMの濃度で含有するリン酸ナトリウム緩衝液である」ことを発明特定事項として含むものである。
これに対して、本件基礎出願に記載されている事項については、上記(ア)で示したとおりであり、加えて、本件基礎出願には、請求項3において特定されるリン酸緩衝液におけるリン酸イオン濃度やpHの数値範囲について記載も示唆もされておらず、これらは当業者にとって自明な事項でもない。
そうしてみると、上記(ア)で本件発明1について検討したとおりであるから、同様に、本件発明2及び3は、「第一国出願の出願書類全体に記載した事項」との関係において、新規事項の追加されたものであり、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものとはいえないことから、パリ条約による優先権の主張の効果が認められない。
(ウ)本件発明9について
本件発明9は、「ジカウイルスワクチンを製剤化するための不活化全ビリオン(ウイルス)ジカウイルス抗原の調製のための方法」であって、「ジカウイルスをVero細胞において増殖及び順応させること、前記ジカウイルスを化学的不活化剤で不活性化させること、前記ウイルス抗原の精製及び濃縮を行って前記不活化全ビリオン(ウイルス)ジカウイルス抗原を得ること、を含み、前記ジカウイルスの不活性化が、ベータプロピオラクトン、ホルマリン、又はその組み合わせにより、乳糖、ショ糖、トレハロース、マルトース、マンノース、イソ-マルトース、ラフィノース、スタキオース、ラクトビオース、ソルビトール、マンニトール、ラクトビオン酸、デキストラン、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-グルタミン酸、L-アスパラギン酸、及びヒト血清アルブミン又はそれらの組合せ、から選択される安定化剤の存在下で実行され、バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」ことを発明特定事項として含むものである。
これに対し、本件基礎出願には、上記1.(11)で摘記したとおり、ジカウイルス抗原の調製方法について、ウイルスをVero細胞で培養し、増殖させたこと、ジカウイルスを糖/糖アルコール/アミノ酸から選択された安定化剤の存在下でホルマリンやBPLで不活化したこと、当該不活化において、ソルビトールは、アミノ酸存在下又は非存在下で0.2から5%の範囲、好ましくは2%で使用すると特に効果的であったこと、ウイルスの精製は物理的及び化学的方法の組み合わせによって達成されたことについて記載がされている(上記1.(11)甲7-イ、ウ)。
しかしながら、請求項9において特定される「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」ことについては記載も示唆もされておらず、このことは当業者にとって自明な事項でもない。
加えて、本件基礎出願には、上述のとおり、ジカウイルス抗原の調製方法についての記載はされているものの、ジカウイルスの不活化全ビリオン抗原の調製に用いたジカウイルス株や、当該ウイルス抗原がどのように調製されたのかを具体的に開示する実施例が記載されていない。
そうすると、本件特許の優先日における当業者にとって、本件基礎出願の記載からは、本件発明9に係るジカウイルス抗原の調製方法を実施することができるとはいえない。
一方、本件特許の明細書には、実施例において、ジカウイルス株MR766を用いてジカウイルス抗原を含むワクチン製剤を調製する方法が具体的に記載されており、当業者が本件発明9について実施できる程度に記載されていると認められる。
そうしてみると、本件特許は、第一国出願の出願書類の全体の記載に基づいて当業者が実施をすることができなかった発明が、実施の形態の追加により実施をすることができるものとなったといえる。
上記のとおりであるから、本件発明9は、「第一国出願の出願書類全体に記載した事項」との関係において、新規事項の追加されたものであり、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものとはいえないことから、パリ条約による優先権の主張の効果が認められない。
(エ)本件発明10~12について
本件発明10~12は、請求項9を直接又は間接的に引用する「ジカウイルスワクチンを製剤化するための不活化全ビリオン(ウイルス)ジカウイルス抗原の調製のための方法」に関するものであり、本件発明11は、請求項11のa.~e.に記載されるジカウイルスの不活化における不活化剤の濃度、処置温度及び処置時間を発明特定事項として含むものであり、本件発明12は、請求項12のa.~e.に記載されるジカウイルスの不活化における安定化剤の具体的な組み合わせとその濃度を発明特定事項として含むものである。
これに対して、本件基礎出願に記載されている事項については、上記(ウ)で示したとおりであり、加えて、本件基礎出願には、請求項11において特定されるウイルスを不活化処置する際の具体的な処置時間や、請求項12において特定される安定化剤の具体的な組み合わせとそれらの用量については記載も示唆もされておらず、これらは当業者にとって自明な事項でもない。
そうしてみると、上記(ウ)で本件発明9について検討したとおりであるから、同様に、本件発明10~12は、「第一国出願の出願書類全体に記載した事項」との関係において、新規事項の追加されたものであり、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものとはいえないことから、パリ条約による優先権の主張の効果が認められない。
(オ)小括
したがって、本件発明1~3及び9~12は、本件基礎出願に基づく優先権主張の効果を享受することはできず、本件発明1~3及び9~12の特許要件の判断の基準日は、本件特許の国際出願日(2016年(平成28年)7月15日。以下「本件基準日」という。)となる。
(2)甲1に記載された発明
本件基準日よりも前である2016年6月28日にオンラインで公開された甲1には、ジカウイルスの精製された不活化ウイルス(PIV)ワクチンが記載されており(上記1.(1)甲1-ア、オ、ク)、ジカウイルスをVero細胞で継代すること、Vero細胞にジカウイルスを接種後、5日目と7日目にウイルスを回収し、濃縮及び精製した後に22℃、7日間でホルマリン(0.05%)を用いて不活化して、精製された不活化ウイルス(PIV)を得たことや(同甲1-ク)、当該精製された不活化ウイルス(PIV)ワクチン1μgを、100μgのアルム(Alhydrogel)のアジュバントとともに、ワクチン組成物として筋肉内注射又は皮下注射によりマウスに投与したこと、当該精製された不活化ウイルス(PIV)ワクチンが免疫原性を有し、ジカウイルスによる攻撃に対する完全な防御が確実かつ強固に達成されたことが記載されている(同甲1-エ、カ、キ)。
上記記載事項を踏まえると、甲1には、以下に示す組成物の発明及び方法の発明が記載されていると認められる(以下、これら発明をそれぞれ「甲1組成物発明」、「甲1方法発明」という。)
<甲1組成物発明>
「Vero細胞にジカウイルスを接種後、5日目と7日目にウイルスを回収し、濃縮及び精製した後、ホルマリンで不活化して得られた不活性化ウイルス(PIV)ワクチン1μgと、100μgのアルム(Alhydrogel)を含む、ジカウイルス感染に対するワクチン組成物。」
<甲1方法発明>
「ジカウイルスをVero細胞で継代すること、Vero細胞にジカウイルスを接種後、5日目と7日目にウイルスを回収し、濃縮及び精製すること、精製されたジカウイルスを22℃、7日間でホルマリン(0.05%)を用いて不活化すること、を含む、ジカウイルスの精製された不活化ウイルス(PIV)ワクチンの調製方法」
(3)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲1組成物発明とを対比すると、甲1組成物発明の「不活性化ウイルス(PIV)ワクチン」は、Vero細胞にジカウイルスを接種後、5日目と7日目にウイルスを回収し、濃縮及び精製した後にホルマリンで不活化して得られるものであり(上記1.(1)甲1-ク)、ジカウイルスの全ビリオンを抗原として含むことが技術常識に照らし明らかであるから、本件発明1の「不活化全ビリオン(ウイルス)抗原」及び「ジカウイルス抗原」に相当することから、甲1組成物発明の「不活化ウイルス(PIV)ワクチン」「を含む」と、本願発明1の「不活化全ビリオン(ウイルス)抗原、及び精製された組換えジカウイルス抗原から選択されるジカウイルス抗原」「を含み」、「前記精製された組換えジカウイルス抗原が、配列番号3及び4に開示される構造タンパク質配列を有する」は、「不活化全ビリオン(ウイルス)抗原から選択されるジカウイルス抗原」「を含む」点で、共通する。
また、甲8に記載されているように、“アルム(Alhydrogel)”は、アジュバントの水酸化アルミニウムと同義であるといえることから、(同(12)甲8-ア、イ)、甲1組成物発明の「アルム(Alhydrogel)」は、本件発明1の「水酸化アルミニウム」に相当する。
そして、本件特許の明細書の実施例5には、様々なアジュバントを含むジカワクチン製剤が記載され、これらジカワクチン製剤の中和抗体力価を示す本件特許の図4には、ワクチン製剤について「アルム0.25mg」「アルム0.5mg」と記載される一方、実施例5の【0129】には「l)水酸化アルミニウムとして提供される用量あたりアルミニウム0.25mg及び0.5mg」との記載がされており、甲2の3や甲17には、水酸化アルミニウムの使用量がアルミニウム(Al3+)の量で規定されたワクチン製剤が記載され(同(4)甲2の3-ア、イ、同(16)甲17-イ)、甲8には、ヒト用ワクチンにおけるアジュバントの水酸化アルミニウム(alhydrogel)の使用限度が、用量あたりのアルミニウム量で規制されていることが記載されている(同(12)甲8-ウ)。
これらを踏まえると、アジュバントにおいて、質量で表される水酸化アルミニウムの使用量については、用量あたりのアルミニウム量を意味することが通常であるといえるから、甲1組成物発明の「100μgのアルム(Alhydrogel)」とは、「アルミニウムの量が100μgである水酸化アルミニウム」を意味すると認められる。
また、甲1組成物発明において、「ジカウイルスの精製された不活性化ウイルス(PIV)ワクチン1μgと、100μgのアルム(Alhydrogel)を含む」ことは、上記の点も踏まえると、「1μgの量で投与される不活化全ビリオン(ウイルス)抗原と、アルミニウム100μg(0.1mg)の量で投与される水酸化アルミニウムを含む」ことに相当する。
そうしてみると、本件発明1と甲1組成物発明は、
「ジカウイルス感染に対するワクチン組成物であって、1μgの量で投与される不活化全ビリオン(ウイルス)抗原から選択されるジカウイルス抗原と、アルミニウム0.1mgの量で投与される水酸化アルミニウムとを含む、前記ワクチン組成物。」
である点で一致し(以下「一致点1」という。)、次の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、「薬学的に許容される緩衝剤」を含むことが特定されているのに対し、甲1組成物発明は、そのような特定がされていない点。
イ.相違点についての判断
本件基準日においては、以下の技術常識及び周知技術が存在していたと認められる。
a.甲1、甲6の1、甲21及び甲22に記載されているように、フラビウイルスの一種であるジカウイルスのワクチン開発において、先行して開発された他のフラビウイルス(日本脳炎ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、デングウイルス、西ナイルウイルス、黄熱病ウイルス)ワクチンの製剤化技術を転用・参照することは技術常識であるといえる(上記1.(1)甲1-ウ、カ、同(9)甲6の1-ア、同(19)甲21-ア、同(20)甲22-ア、イ)。
b.甲2の1、甲2の2の3、甲2の3及び甲17には、不活化日本脳炎ウイルスワクチン(IXIARO)や不活化ダニ媒介性脳炎ウイルスワクチン(FSME-IMMUN)といった上市された不活化フラビウイルスワクチン組成物において、いずれもリン酸緩衝剤が含まれることが記載されており(同(2)甲2の1-ア、イ、ウ、同(3)甲2の2の3-ア、同(4)甲2の3-ア、イ、同(16)甲17-ア、ウ)、また、甲2の4、甲3~5、甲18に記載される不活化日本脳炎ウイルスワクチンや不活化テングウイルスワクチンといったその他の不活化フラビウイルスワクチンにおいてもリン酸緩衝剤、リン酸クエン酸緩衝剤、トリス含有緩衝剤等の緩衝剤が含まれていることが記載されている(同(5)甲2の4-オ、カ、同(6)甲3-オ、同(7)甲4-キ、ク、同(8)甲5-エ、オ、同(17)甲18-ア、イ、ウ、エ、オ、カ)。そして、これらリン酸緩衝剤、リン酸クエン酸緩衝剤、トリス含有緩衝剤等が薬学的に許容される緩衝剤であることは明らかであるところ、不活化フラビウイルスワクチン組成物において、薬学的に許容される緩衝剤を含むことは、周知技術と認められる。
c.甲32に記載されているように、抗原提示や、その結果としての免疫反応の誘発に密接に関連するタンパク質抗原の立体構造の安定性に、緩衝剤が大きな影響を及ぼすため、緩衝剤がワクチンにおける重要な添加剤であること(同(23)甲32-ア)、また、甲30に記載されているように、ワクチンの製造において、規定の抗原量が含まれるように緩衝液(buffer solution)で希釈され、浸透圧や水素イオン濃度(pH)が調整されたものが最終バルクとなることは(同(22)甲30-ア、イ)、技術常識及び周知技術である。
d.甲35に記載されているように、バイオテクノロジー製品の注射製剤において、タンパク質の溶解度や物理的・化学的安定性はpHに依存するため、緩衝剤の選択は製剤プロセスにおいて重要な要素であり、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩といった緩衝剤が汎用されること(同(24)甲35-ア、イ)、また、甲36及び37に記載されているように、注射剤においては、安全性や投与時の疼痛を緩和する目的で、通常は血液・体液に近いpH(7.4程度)に調整するためにリン酸塩等の緩衝剤が用いられることは、技術常識及び周知技術である(同(25)甲36-ア、同(26)甲37-ア)。
そして、甲1組成物発明の目的は、ヒトに適用可能な不活化ジカウイルスワクチンを提供することであり(同(1)甲1-イ、オ、カ)、甲1組成物発明は注射剤として用いられるものであるところ(同甲1-エ、キ)、上記a.~d.に示した技術常識及び周知技術を踏まえると、ヒトに適用可能な不活化ジカウイルスワクチンの提供にあたり、先行して開発された他の不活化フラビウイルスワクチン組成物の組成を参照して、甲1組成物発明において、甲2の1、甲2の2の3、甲2の3に記載される「IXIARO」や、他の不活化フラビウイルスワクチン組成物において用いられる薬学的に許容される緩衝剤を採用することや、不活化ウイルス抗原の安定性や、投与時の安全性を考慮して、ワクチン製剤や注射剤に用いられる薬学的に許容される緩衝剤を適用することは、当業者が容易になし得ることである。
ウ.本件発明1の効果について
本件特許の明細書では、実施例5において、緩衝剤として10mMリン酸緩衝液を含む本件特許のワクチン組成物が具体的に記載されているものの、本件特許の明細書全体をみても、当該緩衝剤を含むワクチン組成物が、当業者の予測を超える顕著な効果を奏することについて記載されているとは認められず、本件発明1により、甲1組成物発明及び本件基準日当時の技術常識からみて、当業者が予測困難な格別顕著な効果を奏するとも認められない。
エ.小括
上記のとおりであるから、本件発明1は、甲1組成物発明並びに甲1、甲2の1、甲2の2の3、甲2の3の記載及び本件基準日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、進歩性を有しない。
(4)本件発明2について
ア.対比
本件発明2と甲1組成物発明とを対比すると、両者は、上記(3)ア.で示した一致点1で一致し、上記(3)ア.で示した相違点1に加えて、次の点でも相違する。
<相違点2>
本件発明2は「緩衝剤が、緩衝剤の1つとして、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸クエン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス)含有緩衝剤、コハク酸緩衝剤、及びグリシン又はヒスチジンを含有する緩衝剤から選択される」ことが特定されているのに対し、甲1組成物発明は、そのような特定がされていない点。
イ.相違点についての判断
上記(3)で、本件発明1について検討したとおり、甲1組成物発明において「薬学的に許容される緩衝剤」を採用することは、甲1組成物発明並びに甲1、甲2の1、甲2の2の3、甲2の3の記載及び本件基準日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たことである。
そして、甲2の1、甲2の2の3、甲2の3には、上市された不活化日本脳炎ウイルスワクチン(IXIARO)組成物において、リン酸緩衝剤が含まれることが記載されており(上記1.同(2)甲2の1-ア、イ、ウ、同(3)甲2の2の3-ア、同(4)甲2の3-ア、イ)、また、甲35~37に記載されているように、注射製剤に、緩衝剤としてリン酸緩衝剤やクエン酸緩衝剤が用いられることは周知技術であるといえる(同(24)甲35-ア、イ、同(25)甲36-ア、同(26)甲37-ア)。
そうすると、甲1組成物発明に「薬学的に許容される緩衝剤」を採用するにあたり、上市された他のフラビウイルスワクチンで用いられるリン酸緩衝剤や、注射剤に汎用されるリン酸緩衝剤やクエン酸緩衝剤といった緩衝剤を採用することは、当業者が適宜行うことであるといえる。
そして、相違点2の構成を備えることにより、本件発明2が、当業者が予測困難な格別顕著な効果を奏するとも認められない。
ウ.小括
上記のとおりであるから、本件発明2は、甲1組成物発明並びに甲1、甲2の1、甲2の2の3、甲2の3の記載及び本件基準日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、進歩性を有しない。
(5)本件発明3について
ア.対比
本件発明3と甲1組成物発明とを対比すると、両者は、上記(3)ア.で示した一致点1で一致し、上記(3)ア.で示した相違点1並びに上記(4)ア.で示した相違点2に加えて、次の点でも相違する。
<相違点3>
本件発明3は、「リン酸緩衝液が、リン酸イオン濃度5mM~200mM、pH6.50~9の任意のpHであり、任意選択で塩化ナトリウムを50~200mMの濃度で含有するリン酸ナトリウム緩衝液である」ことが特定されているのに対し、甲1組成物発明は、そのような特定がされていない点。
イ.相違点についての判断
上記(3)及び(4)で、本件発明1及び2について検討したとおり、甲1組成物発明において、リン酸緩衝剤又はクエン酸緩衝剤といった薬学的に許容される緩衝剤を採用することは、甲1組成物発明並びに甲1、甲2の1、甲2の2の3、甲2の3の記載及び本件基準日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たことである。
そして、甲2の2の3には、上市された不活化日本脳炎ウイルスワクチン(IXIARO)組成物において、0.144 mg/mLのリン酸二水素カリウム、0.795 mg/mLのリン酸水素二ナトリウム、9mg/mlの塩化ナトリウムを含み、リン酸イオン濃度が6.7mMであるリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が含まれることが記載されており、塩化ナトリウムのモル質量(58.44g/mol)を基にモル濃度を計算すると、当該塩化ナトリウムの含有量は154mMに相当する(上記1.(3)甲2の2の3-ア、同(13)甲11-ア)。
ここで、リン酸二水素カリウムとリン酸水素二ナトリウムを含むリン酸緩衝整理食塩水(PBS)が、pHを生理学的pH(pH7.2~7.4程度)に維持するものであることは、技術常識であるといえ(上記1.(5)甲2の4-オ、カ、キ、(13)甲11-イ、(14)甲13-オ)、上記甲2の2の3に記載された上市された不活化日本脳炎ウイルスワクチン(IXIARO)組成物においても、生理学的pHと同程度のpHを備える蓋然性が高いといえる。
そうしてみると、上記(3)イ.a.で示したとおり、フラビウイルスの一種であるジカウイルスのワクチン開発において、先行して開発された他のフラビウイルス(日本脳炎ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、デングウイルス、西ナイルウイルス、黄熱病ウイルス)ワクチンの製剤化技術を転用・参照することは技術常識であるところ、甲1組成物発明にリン酸緩衝剤を採用するにあたり、甲2の2の3に記載される上市された不活化日本脳炎ウイルスワクチン(IXIARO)組成物の組成を参考にして、甲2の2の3に記載されるようなリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を採用すること、その際にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に含まれるリン酸緩衝剤や塩化ナトリウムの含有量を適宜最適化することは、当業者が容易になし得ることである。
そして、相違点3の構成を備えることにより、本件発明3が、当業者が予測困難な格別顕著な効果を奏するとも認められない。
ウ.小括
上記のとおりであるから、本件発明3は、甲1組成物発明並びに甲1、甲2の1、甲2の2の3、甲2の3の記載及び本件基準日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、進歩性を有しない。
(6)本件発明9について
上記(2)で示したとおり、甲1には、以下の発明が記載されている(再掲)。
<甲1方法発明>
「ジカウイルスをVero細胞で継代すること、Vero細胞にジカウイルスを接種後、5日目と7日目にウイルスを回収し、濃縮及び精製すること、精製されたジカウイルスを22℃、7日間でホルマリン(0.05%)を用いて不活化すること、を含む、ジカウイルスの精製された不活化ウイルス(PIV)ワクチンの調製方法」
ア.対比
本件発明9と甲1方法発明とを対比すると、甲1方法発明の「ホルマリン」は、本件発明9の「化学的不活化剤」に相当する。
また、上記(3)ア.で指摘したとおり、甲1方法発明の「ジカウイルスの精製された不活化ウイルス(PIV)ワクチン」は、Vero細胞にジカウイルスを接種後、5日目と7日目にウイルスを回収し、濃縮及び精製した後にホルマリンで不活化して得られるものであり(上記1.(1)甲1-ク)、ジカウイルスの全ビリオンを抗原として含むことが技術常識に照らし明らかであるから、本件発明9の「不活化全ビリオン(ウイルス)ジカウイルス抗原」に相当する。
加えて、本件特許の明細書の【0024】の「本発明の別の実施形態ではジカウイルスは、高力価を得るためにVero細胞での反復する連続継代によって順応された。」との記載や、実施例1の「ジカウイルスをVero細胞中で日常的に培養した。ジカウイルスMR766株(ATCC VR-84)をVero細胞での直接接種によってVero細胞に順応させた。」(【0121】)との記載を踏まえると、ジカウイルスをVero細胞に接種して継代培養することで順応が行われると認められるところ、甲1方法発明の「ジカウイルスをVero細胞で継代すること、Vero細胞にジカウイルスを接種後、5日目と7日目にウイルスを回収」することは、本件発明9の「ジカウイルスをVero細胞において増殖及び順応させること」に相当するといえる。
そうしてみると、本件発明9と甲1方法発明は、
「ジカウイルスワクチンを製剤化するための不活化全ビリオン(ウイルス)ジカウイルス抗原の調製のための方法であって、ジカウイルスをVero細胞において増殖及び順応させること、前記ジカウイルスを化学的不活化剤で不活性化させること、前記ウイルス抗原の精製及び濃縮を行って前記不活化全ビリオン(ウイルス)ジカウイルス抗原を得ること、を含み、前記ジカウイルスの不活性化が、ホルマリンにより実行される、前記方法。」
である点で一致し(以下「一致点2」という)、次の点で相違する。
<相違点4>
本件発明9は、「ジカウイルスの不活性化が、乳糖、ショ糖、トレハロース、マルトース、マンノース、イソ-マルトース、ラフィノース、スタキオース、ラクトビオース、ソルビトール、マンニトール、ラクトビオン酸、デキストラン、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-グルタミン酸、L-アスパラギン酸、及びヒト血清アルブミン又はそれらの組合せ、から選択される安定化剤の存在下で実行され」ることが特定されているのに対し、甲1方法発明は、そのような特定がされていない点。
<相違点5>
本件発明9は、「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」ことが特定されているのに対し、甲1方法発明は、そのような特定がされていない点。
イ.相違点についての判断
(ア)相違点4について
甲46に記載されているように、ワクチン用にウイルスを不活化する場合、安全性を確保するために感染性ウイルスを完全に不活化することに加えて、高品質な抗原を得るために、防御免疫の誘導に重要なウイルスのエピトープを不活化後も維持することが必要であることは、本件基準日当時の技術常識といえる(上記1.(28)甲46-ア、エ)。
そして、甲3、4、59及び60には、グリシンやソルビトール等の安定化剤の存在下で、ホルマリン処理により日本脳炎ウイルスの不活化が行われることが記載されており、甲3には、当該不活化の際に安定化剤であるグリシン、ソルビトール、乳糖およびL-グルタミンの組み合わせを用いることで、これら安定化剤がない場合に比して高い中和力価が維持されることが記載され(上記1.(6)甲3-ア、イ、オ、カ、キ、ク)、甲4には、ウイルスの分解を防ぐために、当該不活化の際に安定化剤としてグリシン及びソルビトールを添加することが記載されている(同(7)甲4-イ、ウ、エ、オ、キ、ク)。また、甲59には、当該不活化時にグリシン及びソルビトール等を添加すると、無添加時に比べてワクチンの残存力価が高く、保存安定性が増すことや、当該安定な日本脳炎ウイルスの製造方法は、他のフラビウイルスに属するウイルスの全粒子ワクチンの製造にも適用できることが記載され(同(33)甲59-ア、イ、ウ、エ、オ)、甲60には、グリシン及びソルビトールが、ワクチンの品質を向上させる可能性があることが記載されている(同(34)甲60-ア、イ)。
また、甲20には、チクングニアウイルスをホルマリン処理により不活化する際に、グリシン、マンニトール、ソルビトール、糖や糖を組み合わせたものなどの添加物を使用すると、ワクチン製剤の安定性が向上したことが記載されており(同(18)甲20-ア、イ)、ここで、チクングニアウイルスはアルファウイルス属であって、ジカウイルスが属するフラビウイルス属ではないものの、アルファウイルス属とフラビウイルス属は、エンベロープを有する一本鎖プラス鎖RNAウイルスであって、エンベロープ上に存在するエンベロープタンパク質が、中和抗体の標的となる点で共通することは、技術常識であるといえる(同(21)甲29-ア、イ、ウ、エ)。
更に、甲62には、ホルムアルデヒドを用いたポリオウイルスの不活化において、グリシンを添加してウイルスを安定化したことが記載されている(同(35)甲62-ア、イ)。
以上を踏まえると、ジカウイルスと同じフラビウイルス属に属する日本脳炎ウイルスや、当該フラビウイルス属と構造や中和抗体の抗原タンパク質の点で共通するアルファウイルス属に属するチクングニアウイルスを含む、様々なウイルスにおいて、ホルマリン処理による不活化の際に、グリシンやソルビトールといった安定化剤を添加することで、ワクチンの安定性の向上や、中和力価の維持を図ることは、周知技術であったと認められる。
加えて、甲46には、ウイルスの不活化にあたっては、ウイルス凝集体の形成、タンパク質の架橋、タンパク質の変性や分解などの問題に対処する必要があることが記載され、ホルムアルデヒド等の架橋剤による不活化処理は、中和抗体の誘導に不可欠なウイルス中和エピトープを修飾する可能性があることが記載されており(同(28)甲46-ア、イ、エ)、甲60には、グリシンやソルビトールが、ホルムアルデヒドが抗原に生じさせる損傷から多少は保護している可能性があり、グリシンがホルムアルデヒドの存在下で分子間結合や分子内結合を通常形成する可能性のあるペプチド部位と結合することが公知である旨記載されている(同(34)甲60-ア、イ)。これらホルムアルデヒド並びにグリシン及びソルビトールの作用機序を踏まえると、グリシンやソルビトールは、ホルマリンのウイルスに対する作用を調節することで、ウイルス抗原の損傷を抑制し、ワクチンの安定化作用を奏するものといえ、当該安定化作用は、ホルマリンや安定化剤の性質により主にもたらされるものであって、ウイルスの種類によらず発揮される蓋然性が高いことは、当業者に明らかであったといえる。
なお、本件発明9には「L-グリシン」との記載がされるが、グリシンは不斉炭素を有さず鏡像異性体が存在しないことから、当該「L-グリシン」と甲3、4、59及び60に記載の「グリシン」は、相違するものではない。
そうしてみると、上記(3)イ.a.で示したとおり、フラビウイルスの一種であるジカウイルスのワクチン開発において、先行して開発された日本脳炎ウイルス等の他のフラビウイルスワクチンの製剤化技術を転用・参照することは技術常識であり、高い中和力価を維持し、保存安定性に優れた高品質な抗原を得ることは、ワクチン分野の当業者がワクチンの製造にあたって通常希求する課題であるところ、甲1方法発明における不活化工程を、グリシンやソルビトールといった安定化剤の存在下で行うことは、甲1方法発明並びに甲3、4、59及び60の記載及び本件基準日当時の技術常識に基づき、当業者が容易になし得ることである。
(イ)相違点5について
後述の4.(1)で示すとおりであるから、本件発明9における「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」との特定事項は、「バイオプロセス全体を通じて6.8~9のpHに維持されること」を意味すると解釈して、以下、検討を行う。
・甲2の4について
甲2の4には、日本脳炎ウイルスをVero細胞で継代したものを、不活化ワクチンを製造するための産生シードとして使用し、これをVero細胞に感染及び吸着させて培養することでウイルスを産生した後に、当該培養培地を遠心分離、限外ろ過、硫酸プロタミン処理及び不連続ショ糖勾配することでウイルスを精製して、得られたウイルスプールをホルマリン処理してウイルスを不活化して、不活化ウイルスのバルクワクチンを得る方法が記載されている(同(5)甲2の4-ア、イ、ウ、エ、オ)。
そして、甲2の4には、上記Vero細胞へのウイルスの感染及び吸着が、EMEM及び2.2g炭酸ナトリウム/lを含む維持培地(MM)を用いて行われること、ウイルス吸着後、DPBS(ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水)で洗浄し、上記維持培地(MM)を用いた培養によりウイルスを産生したことが記載されており(同(5)甲2の4-イ、ウ)、緩衝剤である炭酸水素ナトリウムを含有する培養培地(MM)やDPBSが、生理学的pH(pH7.2~7.4)を維持するものであることは技術常識である(要すれば、同(14)甲13-イ、エ、オ、カ、同(15)甲14-ア、イ、ウ参照)。また、甲2の4には、ウイルスをVero細胞において継代する際のpH等の培養条件について明示されていないものの、動物細胞を培養する際に生理学的pHが通常採用されることは技術常識であり(要すれば、同(14)甲13-ア、イ、カ、同(15)甲14-ア参照)、甲2の4には前述のVero細胞を用いた培養によるウイルス産生工程と異なるpH条件が採用されると解すべき特段の記載もないところ、当該継代の際にも、生理学的pH(pH7.2~7.4程度)で行われている蓋然性が高いと解するのが相当である。よって、甲2の4には、ウイルスのVero細胞での継代からウイルスの産生までの工程が、生理学的pHで行われたことが実質的に記載されているといえる。
また、甲2の4には、上記ウイルスの精製工程中の遠心分離及び限外ろ過について、上述のとおり炭酸水素ナトリウムにより生理学的pHに緩衝されたウイルスの培養液を、遠心分離により清澄化した後、限外ろ過により濃縮することが記載されており(同(5)甲2の4-エ)、この間、pHを変動させ得る酸性または塩基性の試薬は添加されておらず、緩衝された条件に変更はないから、生理学的pHは維持されている蓋然性が高い。そして、甲2の4には、上記精製工程中の硫酸プロタミン処理について、前記ウイルス濃縮物を最終濃度が2mg/mlの硫酸プロタミンで処理することが記載されており(同(5)甲2の4-エ)、硫酸プロタミンをEMEMに添加しても緩衝されてpHは変動しないことから、生理学的pHは維持されていると認められる(同(31)甲57の11-ア、イ、ウ、エ)。更に、甲2の4には、上記精製工程中の不連続ショ糖勾配について、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)中に段階的な複数の濃度で作製されたショ糖勾配を用いて精製し、得られたウイルスプールについて、pH7.4のリン酸緩衝整理食塩水(PBS)で約8倍に希釈してろ過したことが記載されており(同(5)甲2の4-エ)、ここで、PBSはpHを生理学的pH付近に調整するものであることは技術常識であり(要すれば、同(14)甲13-イ、オ、カ、同(15)甲14-ア、イ参照)、その他pHを変化させる試薬は添加されていないため、緩衝された条件下で生理学的pH付近のpHは維持されているといえる。そうすると、甲2の4には、上記ウイルスの精製工程が生理学的pHで行われたことが実質的に記載されているといえる。
加えて、甲2の4には、上記ホルマリン処理によるウイルスの不活化工程について、上記PBSで希釈してろ過したウイルスプールに、PBS中に希釈したホルマリン溶液(最終pHが7.2~7.4)を滴下して、不活化が22℃で10日間行われ、その後、残留ホルマリンは亜硫酸水素ナトリウムの添加により除去し、その後、不活化ウイルス液はpH7.4のPBSに対して透析されたことが記載されており(同(5)甲2の4-オ)、緩衝された条件は維持されているから、ウイルスの不活化工程を通じて生理学的pH7.2-7.4付近のpHが維持されていることが実質的に記載されている。
上記のとおりであるから、甲2の4には、日本脳炎ウイルスのVero細胞での継代から当該ウイルスのホルマリンによる不活化により不活化抗原を得るまでの工程全てを、生理学的pH(7.2~7.4程度)下で完了したことが実質的に記載されているといえる。
・甲3について
甲3には、日本脳炎ウイルスをVero細胞に順応させて、マスターウイルスバンク(MVB)及びワーキングウイルスバンク(WVB)を得た後、これをVero細胞に感染させて培養してウイルスを産生したこと、その後、培養上清をろ過してウイルスを濃縮・精製し、ホルマリンによりウイルスを不活化して、不活化ウイルスを得る方法が記載されている(同(6)甲3-ウ、エ、オ)。
そして、甲3には、上記ウイルスのVero細胞への順応、感染及び培養によるウイルスの産生について、pH7.2で管理された条件で培養されたVero細胞に、ワーキングウイルスバンク(WVB)を接種した後、これをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)及びM-199培地で洗浄し、その後M-199培地で希釈したウイルス溶液を加えて感染させ、M-199培地を用いてpH7.2に維持しながらインキュベートしたことが記載されており(同(6)甲3-ウ、エ)、PBSや緩衝剤である炭酸水素ナトリウムを含有するM-199が、生理学的pH(pH7.2~7.4)を維持するものであることは技術常識である(要すれば、同(14)甲13-イ、エ、オ、カ、同(15)甲14-ア、イ、ウ参照)。また、甲3には、ウイルスをVero細胞において継代する際のpH等の培養条件について明示されていないものの、上記で甲2の4について検討したとおり、当該継代の際にも、生理学的pH(pH7.2~7.4程度)で行われている蓋然性が高いと解するのが相当である。よって、甲3には、ウイルスのVero細胞への順応、感染及び培養によるウイルスの産生までの工程が、生理学的pHで行われたことが実質的に記載されているといえる。
また、甲3には、上記ウイルスの濃縮及び精製工程について、培養上清をろ過して濃縮した後、PBSでの希釈とろ過を繰り返すことが記載されており(同(6)甲3-オ)、培養上清やPBSが生理学的pHを維持するものであることは上記のとおりであるところ、当該工程においても緩衝された条件は維持されているといえる。
更に、甲3には、上記ウイルスの不活化の工程について、PBSで希釈された最終濃縮物に、ホルマリン0.05%とグリシン0.5%やソルビトール1.8%等の安定化剤を添加してウイルスの不活化が行われることが記載されており(同(6)甲3-オ)、これらホルマリン及び安定化剤は十分少量であり、不活化の間も、PBSにより緩衝された条件が維持されていることから、当該不活化工程についても生理学的pHのpHが維持されていると認められる。
上記のとおりであるから、甲3には、日本脳炎ウイルスのVero細胞への順応から当該ウイルスのホルマリンによる不活化により不活化抗原を得るまでの工程全てを、生理学的pH(7.2~7.4程度)下で完了したことが実質的に記載されているといえる。
・甲4について
甲4には、日本脳炎ウイルスをVero細胞において順応及び増殖して日本脳炎バルクを得た後に、ろ過やカラム精製によりウイルスを濃縮・精製し、これをホルマリン処理して不活化し、不活化バルクをPBSで透析ろ過及び濃縮して、不活化ウイルスバルクを得る方法が記載されている(同(7)甲4-ア、カ、キ、ク)。
そして、甲4には、ウイルスのVero細胞への順応及び増殖が、緩衝剤である炭酸水素ナトリウムを含むEMEM及びDMEM(要すれば、同(14)甲13-イ、ウ、エ、カ、同(15)甲14-ア、ウ参照)を用いてバイオリアクター中で行われ、その際にpHが7.2-7.6の範囲に維持されることが記載されている(同(7)甲4-カ)。
また、甲4には、上記ウイルスの濃縮・精製について、ウイルスの培養液を0.45μ膜により清澄化した後、サイズ排除及びアフィニティークロマトグラフィーを組み合わせたカラム精製を行い、その通過画分を、PESU膜カセットを用いて濃縮及び透析ろ過することで濃縮ウイルスバルクを得ること、PVDF膜を用いたろ過により、プロセス中の汚染物質を除去することが記載されており(同(7)甲4-キ、ク)、これら濃縮・精製プロセスを通じて、pHを変化させる試薬は添加されていないところ、緩衝された条件が維持され、生理学的pHが維持されている蓋然性が高い。
更に、甲4には、ウイルスの不活化工程について、上記緩衝された条件下で精製したウイルスに、1:1500v/v~1:2500v/vの比率(2500用量の生日本脳炎ウイルスを1用量のホルマリンで処理)となるホルマリンと、0.5%w/vのグリシン及び1%w/vのソルビトールからなる安定化剤とを添加し、7日間、22℃でウイルスを不活化したことや、不活化後にPBSを用いた透析ろ過によりホルマリンを除去することが記載されており(同(7)甲4-キ、ク)、これら不活化プロセスを通じて添加されたホルマリン及び安定化剤は十分少量であり、緩衝された条件は維持されているといえる。
上記のとおりであるから、甲4には、日本脳炎ウイルスのVero細胞への順応から当該ウイルスのホルマリンによる不活化により不活化抗原を得るまでの工程全てを、生理学的pH(7.2~7.4程度)下で完了したことが実質的に記載されているといえる。
・甲5について
甲5には、日本脳炎ウイルスをVero細胞に順応させて得た産生シードを、Vero細胞に感染させてウイルスを増殖し、採取物を遠心分離・ろ過した後に、ウイルス培養上清を限外ろ過又はPEG沈殿によって濃縮し、プロタミン硫酸塩の添加後に遠心分離により得たその上清を、ショ糖勾配遠心分離により精製し、精製されたウイルスをホルムアルデヒドで不活化して不活化ワクチンを調製する方法が記載されている(同(8)甲5-ア、イ、ウ、エ、オ)。
そして、甲5には、ウイルスのVero細胞への順応が、Vero細胞培養での連続継代により行われること、当該継代が10%ウシ胎児血清を添加したEMEM培地を用いて行われることが記載されており(同(8)甲5-ウ)、また、ウイルスのVero細胞への感染・増殖について、10%ウシ胎児血清を含むEMEM培地中で増殖させたVero細胞に、産生シードのウイルスを感染させて吸着させた後、PBSで洗浄し、その後血清を含まないEMEM中でインキュベートしてウイルスを増殖して産生したことが記載されている(同(8)甲5-エ)。ここで、PBSや緩衝剤である炭酸水素ナトリウムを含有するEMEMが、生理学的pH(pH7.2~7.4)を維持するものであることは技術常識であるところ(要すれば、同(14)甲13-イ、エ、オ、カ、同(15)甲14-ア、イ、ウ参照)、甲5には、ウイルスのVero細胞への順応からウイルスの増殖による産生までの工程が、生理学的pHで行われたことが実質的に記載されているといえる。
また、甲5には、上記ウイルスの濃縮及び精製工程について、増殖したウイルスの採取物は、遠心分離し、上清をフィルターでろ過すること、ウイルス培養上清は、限外ろ過又はPEG沈殿により濃縮され、PEG沈殿により沈殿させたウイルスは遠心分離により回収され、PBS又はpH7.2のSTE緩衝剤で懸濁されることが記載され(同(8)甲5-エ)、これらの採取、遠心分離、ろ過、濃縮のプロセスは緩衝された条件を変更しないまま行われているので、生理学的pH付近のpHが維持されているといえる。また、その後のプロタミン硫酸塩による処理については、EMEMやPBSのような緩衝液にプロタミン硫酸塩を添加しても緩衝されてpHは変動するものではなく(同(31)甲57の11-ア、イ、ウ、エ)、また、ショ糖勾配遠心分離については、pHを変化させる試薬を添加するものではないところ、これらプロタミン硫酸塩による処理及びショ糖勾配遠心分離の工程においても、生理学的pHは維持されている蓋然性が高い。そして、甲5には、上記精製したウイルスについて、2倍量のPBSで希釈して、フィルターでろ過することが記載されているところ、当該PBSにより希釈されたものが生理学的pHを維持することは当業者に明らかであるといえる。
加えて、甲5には、ホルムアルデヒドによるウイルスの不活化工程について、上記精製されたウイルスを、0.018%ホルムアルデヒドを用いて不活化することが記載されており(同(8)甲5-オ)、当該不活化工程において添加されたホルムアルデヒドは十分少量であり、緩衝された条件は維持されているといえる。
上記のとおりであるから、甲5には、日本脳炎ウイルスのVero細胞への順応から当該ウイルスのホルマリンによる不活化により不活化抗原を得るまでの工程全てを、生理学的pH(7.2~7.4程度)下で完了したことが実質的に記載されているといえる。
・本件基準日の技術常識及び周知技術
a.甲13及び甲14に記載されているように、動物細胞を培養する際の最適なpHは生理学的pH(7.2~7.4程度)であり、それ以外では有害な影響が生じるため、炭酸水素ナトリウムなどの緩衝剤を用いて培養環境を生理学的pHに維持することは技術常識及び周知技術である(要すれば、上記1.(14)甲13-イ、カ、同(15)甲14-ア参照)。
b.また、ワクチン用にウイルスを不活化する場合、第一に、安全性を確保するために感染性ウイルスを完全に不活化すること、第二に、高品質な抗原を得るために、防御免疫の誘導に重要なウイルスのエピトープを不活化後も維持することが必要となることは技術常識である(同(28)甲46-ア)。そして、低い(酸性)または高い(アルカリ性)pHは、タンパク質の二次元構造を変性させてウイルスを不活化する一方で、ウイルスの構造が破壊されるため、免疫反応に乏しい可能性があることも周知の事項であるといえる(同(28)甲46-ウ)。
この点、甲48及び甲49に記載されているように、フラビウイルスの感染力は、pH7~9の範囲で安定であることが知られており(同(29)甲48-ア、同(30)甲49-ア)、甲18には、フラビウイルスであるデングウイルスは酸性pHに敏感であり、酸性pHでは重要な免疫エピトープが失われ、精製不活化ウイルス抗原が免疫反応を誘発する能力が低下し得ることが記載され(同(17)甲18-イ、ウ)、甲40には、フラビウイルスである黄熱病ウイルスは、pH6.5以下で不安定であったが、中性・アルカリ性領域では低温(5±3℃)でむしろ安定であり、pH9.0でのみ力価の減少が観察され、25℃ではpH8.0で力価の減少が観察されること、ウイルスの安定性から吸着による精製工程においてはpH8.5が選ばれたことが記載されている(同(27)甲40-ア、イ)。加えて、甲58の12には、フラビウイルスであるダニ媒介性脳炎ウイルスでが、弱酸性pHでインキュベーションすると不可逆的な構造変化が起こること、pH6.5以下で起こる構造変化により、エンベロープタンパク質が二量体から三量体へと変化するとともに、立体構造エピトープが消失することが記載されている(同(32)甲58の12-ア、イ)。
これらを踏まえると、フラビウイルスについて、免疫原性を維持した不活化ワクチンを得るためには、その製造工程においてpHをpH7~9程度に維持する必要があることは、技術常識であったといえる。
そうしてみると、上記(3)イ.で示したとおり、フラビウイルスの一種であるジカウイルスのワクチン開発において、先行して開発された日本脳炎ウイルス等の他のフラビウイルスワクチンの製剤化技術を転用・参照することは技術常識であり、免疫原性の高い高品質な抗原を得ることは、ワクチン分野の当業者がワクチンの製造にあたって通常希求する課題であるところ、甲1方法発明において、Vero細胞を培養して行う工程を生理学的pHにおいて行い、培養物からジカウイルスを回収して不活化するまでの工程をフラビウイルスの免疫原性が安定となるpH7~9の範囲で行うこと、即ち、ジカウイルスのVero細胞での継代からホルマリンを用いた不活化までの全工程をpH7~9の範囲で完了することは、甲1方法発明、甲2の4、甲3-5の記載及び本件基準日当時の技術常識に基づき、当業者が容易になし得たものである。
(ウ)本件発明9の効果について
本件特許の明細書には、不活化の際に安定化剤を添加することについて、実施例3において、「最も有効な安定化剤は、0.5%~2%、好ましくは0.5%のL-グリシンとの組合せでの0.5%~2%、好ましくは1.0%のソルビトールであった。組合せでのマンニトール及びL-グリシンは、マンニトール及びL-グリシンの単独よりも不活化の際にウイルス試料を安定化することに有効であった。」との定性的な記載がされ、また、「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」ことについては、【0104】には「最も好ましい実施形態ではリン酸が緩衝剤使用され、リン酸緩衝剤は、・・・任意のpH6.50を超えてpH9まで、好ましくはpH6.8~pH7.8のリン酸ナトリウム緩衝液であり、上流及び下流工程のために使用される。」との記載がされているに留まる。
これに対して、上記(ア)及び(イ)で示したとおり、様々なウイルスにおいて、ホルマリン処理による不活化の際に、グリシンやソルビトールといった安定化剤を添加することで、ワクチンの安定性の向上や、中和力価の維持を図ることは、周知技術であったと認められ、また、細胞培養を生理学的pHで行うこと、フラビウイルスの不活化ワクチンの製造工程において免疫原性の維持を目的としてpHをpH7~9程度に維持することは技術常識であったと認められるところ、甲1方法発明及び本件基準日当時の技術常識からみて、本件発明9が、当業者が予測困難な格別顕著な効果を奏するとは認められない。
ウ.小括
上記のとおりであるから、本件発明9は、甲1方法発明並びに甲2の4、甲3、甲4,甲5の記載及び本件基準日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、進歩性を有しない。
(7)本件発明10について
ア.対比・判断
本件発明10は、本件発明9の発明特定事項について、「ジカウイルスの不活化が、前記ウイルスの精製の前又は後に実行される」ことを更に特定するものである。
しかしながら、本件発明10と甲1方法発明とを対比するに、当該特定により新たに相違点が生じるとは認められないところ、上記(6)で本件発明9について検討したとおりであるから、本件発明10は、甲1方法発明並びに甲2の4、甲3、甲4,甲5の記載及び本件基準日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、進歩性を有しない。
(8)本件発明11について
ア.対比・判断
本件発明11は、本件発明9又は10の発明特定事項について、「ジカウイルスが、次の:a.ホルマリン:ウイルスが、1:500~1:4000v/vの範囲の任意の濃度、8℃~37℃、好ましくは25±3℃、少なくとも1~7日間でのホルマリン処置;・・・から選択される方法のいずれか1つによって不活化される」ことを更に特定するものである。
そして、甲1方法発明の「ホルマリン(0.05%)」は、ホルマリン:ウイルスが、0.05%:100%=1:2000(v/v)の濃度であることを意味することから、甲1方法発明には、ジカウイルスの不活化方法として「精製されたジカウイルスを22℃、7日間でホルマリン(ホルマリン:ウイルスが、1:2000(v/v)の濃度)を用いて不活化すること」が実質的に記載されているといえる。
そうすると、本件発明11と甲1方法発明とを対比するに、上記請求項11における特定により新たに相違点が生じるとは認められないところ、上記(6)及び(7)で本件発明9及び10について検討したとおりであるから、本件発明11は、甲1方法物発明並びに甲2の4、甲3、甲4,甲5の記載及び本件基準日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、進歩性を有しない。
(9)本件発明12について
ア.対比
本件発明12と甲1方法発明とを対比すると、両者は、上記(6)ア.で示した一致点2で一致し、上記(6)ア.で示した相違点4及び5に加えて、次の点でも相違する。
<相違点6>
本件発明12は「安定化剤が、
a.2%ソルビトール及び1% L-グリシン;
b.1%ソルビトール及び0.5% L-グリシン;
c.1%マンニトール及び0.5% L-グリシン;
d.1%マンニトール及び0.5% L-グルタミン酸;並びに
e.1%ソルビトール及び0.5% L-グリシン、1%ヒト血清アルブミン
から選択される」ことが特定されているのに対し、甲1方法発明は、そのような特定がされていない点。
イ.相違点についての判断
ホルマリンによるウイルスの不活化の際に添加される安定化剤として、甲3には、0.05%グリシン及び1.8%ソルビトールが用いられることが記載され(上記1.(6)甲3-カ)、甲4には、0.1~1%のソルビトールと0.1~1%のグリシンを含む安定化剤の混合物が用いられること、具体的には、0.5%w/vのグリシンおよび1%w/vのソルビトールという特定の濃度の安定化剤が用いられることが記載され(同(7)甲4-キ)、甲59には、0.5%グリシン及び1.8%ソルビトールが用いられることが記載されている。
また、本件発明12には「L-グリシン」との記載がされるが、グリシンは不斉炭素を有さず鏡像異性体が存在しないことから、当該「L-グリシン」と甲3、4及び59に記載の「グリシン」は、相違するものではない。
そうすると、上記(3)イ.a.で示したとおり、フラビウイルスの一種であるジカウイルスのワクチン開発において、先行して開発された日本脳炎ウイルス等の他のフラビウイルスワクチンの製剤化技術を転用・参照することは技術常識であるところ、甲3、4及び59に基づき、甲1方法発明において、安定化剤を採用するにあたり、グリシン及びソルビトールを上記の用量で用いることや、その近辺で用量を最適化して、相違点6に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得ることである。
そして、相違点6の構成を備えることにより、本件発明12が、当業者が予測困難な格別顕著な効果を奏するとも認められない。
3.無効理由2(拡大先願)について
上記2.(1)イ.で述べたとおり、本件発明9~11は、本件基礎出願に基づく優先権主張の効果を享受することはできず、本件発明9~11の特許要件の判断の基準日は、本件特許の国際出願日(2016年(平成28年)7月15日。以下「本件基準日」という。)となる。
(1)先願明細書等に記載された発明
本件特許の出願日より前に、その優先日を有する国際特許出願PCT/EP2016/082664は、国際公開(WO2017/109225(甲6の2))がされるとともに、日本国特許庁に対して翻訳文が提出されており、そのパリ条約に基づく優先権主張の基礎出願(欧州特許出願EP16176025(甲6の1))及び国際出願日における明細書等(甲6の2)には、上記1.(9)及び(10)で摘記した事項が記載されている。
そして、特許法29条の2の適用にあたっての「他の特許出願」が、パリ条約による優先権の主張を伴う出願である場合は、(i)第一国出願の出願書類全体及び(ii)我が国への出願の当初明細書等に、共通して記載されている発明に関し、第一国出願日に我が国へ出願されたものとして扱われる(参考:特許・実用新案審査基準「第III部第3章 拡大先願 6.1.2」)。
上記1.(9)及び(10)において摘記した事項を踏まえると、甲6の1及び甲6の2には、以下の事項が共通して記載されているといえる。
「ジカウイルスのリサーチマスターシードバンク(rMSB)をVero細胞上で調製すること(上記1.(9)甲6の1-イ及び上記1.(10)甲6の2-イ)、当該ジカウイルスリサーチマスターシードバンクを、ウシ胎児血清(FBS)を含むイーグル最小必須培地(EMEM)で増殖したVero細胞に感染させ、培養物をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄した後に、EMEMを含む感染Vero細胞培養物をインキュベートしてウイルスを増殖すること(同(9)甲6の1-ウ、同(10)甲6の2-ウ)、培養培地を採取して、ウイルス培養上清をTEF限外ろ過により濃縮した後、当該濃縮採取物を最終濃度25mM Tris pH7.5および10%ショ糖(w/w)に調整し、プロタミン硫酸塩を用いた沈殿及びショ糖密度遠心分離により、濃縮物中の宿主細胞のDNAとタンパク質や非感染性ウイルス凝集体を低減してウイルスを精製すること(同(9)甲6の1-エ、オ、(10)同甲6の2-エ、オ)、ショ糖勾配遠心分離の関連する画分をプールした後に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3倍に希釈し、ショ糖の存在下で0.02%(v/v)ホルムアルデヒドを用いてインキュベートしてジカウイルスを不活化(22℃、10日間)すること(同甲6の1-ア、カ、キ、同甲6の2-ア、カ、キ)を含む、不活化ジカウイルスの調製方法。」
そうすると、本件特許の先願発明として甲6の2に記載された発明は以下のとおりと認められる(以下、当該発明を「先願発明6」ということがある。)。
<先願発明6>
「ジカウイルスのリサーチマスターシードバンク(rMSB)をVero細胞上で調製すること、当該rMSBをウシ胎児血清(FBS)を含むイーグル最小必須培地(EMEM)で増殖したVero細胞に感染させた後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄後、感染Vero細胞培養物をイーグル最小必須培地(EMEM)中でインキュベートしてウイルスを増殖すること、培養培地を採取し、濃縮した後にウイルスを精製すること、ショ糖の存在下で0.02%(v/v)のホルムアルデヒドを用いてインキュベートしてジカウイルスを不活化(22℃、10日間)することを含む、不活化ジカウイルスの調製方法。」
(2)本件発明9について
ア.対比
先願発明6の「ジカウイルスのリサーチマスターシードバンク(rMSB)をVero細胞上で調製すること、当該rMSBをウシ胎児血清(FBS)を含むイーグル最小必須培地(EMEM)で増殖したVero細胞に感染させた後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄後、感染Vero細胞培養物をイーグル最小必須培地(EMEM)中でインキュベートしてウイルスを増殖すること、」は、本件発明9の「ジカウイルスをVero細胞において増殖及び順応させること」に相当し、先願発明6の「ホルムアルデヒド」は、本件発明9の「ホルマリン」及び「化学的不活化剤」に相当する。
また、先願発明6の「不活化ジカウイルス」は、Vero細胞で増殖させたジカウイルスを濃縮・精製した後にホルマリンで不活化して得られるものであり、ジカウイルスの全ビリオンを抗原として含むことが技術常識に照らし明らかであるから、本件発明9の「不活化全ビリオン(ウイルス)ジカウイルス抗原」に相当する。
そうすると、本件発明9と先願発明6を対比すると、両者は、
「ジカウイルスワクチンを製剤化するための不活化全ビリオン(ウイルス)ジカウイルス抗原の調製のための方法であって、
ジカウイルスをVero細胞において増殖及び順応させること、前記ジカウイルスを化学的不活化剤で不活性化させること、前記ウイルス抗原の精製及び濃縮を行って前記不活化全ビリオン(ウイルス)ジカウイルス抗原を得ること、を含み、
前記ジカウイルスの不活性化が、ホルマリンにより、ショ糖の存在下で実行される、前記方法。」
である点で一致し、次の点で一応相違する。
<一応の相違点7>
本件発明9は「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」ことが特定されているのに対し、先願発明6は、そのような特定がなされていない点。
イ.判断
後述の4.(1)で示すとおりであるから、本件発明9における「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」との特定事項は、「バイオプロセス全体を通じて6.8~9のpHに維持されること」を意味すると解釈して、以下、検討を行う。
上記一応の相違点7について検討するに、甲6の1及び甲6の2には、ジカウイルスのVero細胞における増殖が、ジカウイルスリサーチマスターシードバンクを、ウシ胎児血清(FBS)を含むイーグル最小必須培地(EMEM)で増殖したVero細胞に感染させた後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄後、イーグル最小必須培地(EMEM)中でのインキュベートにより行われることが記載されており、PBSやEMEM(緩衝剤である炭酸水素ナトリウムを2.2mg/L含有する)が、生理学的pH(pH7.2~7.4)を維持するものであることは技術常識である(要すれば、上記1.(14)甲13-イ、エ、オ、カ、同(15)甲14-ア、イ、ウ参照)。ここで、甲6の1及び甲6の2には、ジカウイルスをVero細胞おいて順応させる際のpH等の培養条件について明示されていないものの、動物細胞を培養する際に生理学的pHが通常採用されることは技術常識であり(要すれば、同(14)甲13-イ、カ、同(15)甲14-ア参照)、甲6の1及び甲6の2には前述のVero細胞を用いたウイルスの増殖工程と異なるpH条件が採用されると解すべき特段の記載もないところ、当該順応の際にも、生理学的pHで行われている蓋然性が高いと解するのが相当である。
また、ジカウイルスの濃縮工程については、前記緩衝された培養培地を採取し、遠心分離、上清のろ過、及び、限外ろ過により行われることが記載されており、これらのステップは緩衝された条件を変化させるものではないところ、当該濃縮工程についてもpHは7.2~7.4程度に維持されている蓋然性が高いといえる。
さらに、ジカウイルスの精製プロセスが濃縮採取物をTrisを用いてpH7.5に調整した上で行われることや、ジカウイルスの不活化が、精製により得られたウイルス含有画分をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3倍に希釈して実施されることが記載されているところ、これら精製及び不活化プロセスのpHはpH7.2~7.5の範囲に維持されていると考えられる。
そうしてみると、甲6の1及び甲6の2に記載された不活化全ビリオン(ウイルス)ジカウイルス抗原の調製のための方法については、ジカウイルスのVero細胞における増殖・順応から不活化までのいずれの工程もpHが6.8~9の範囲で行うものであると認められることから、「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」ことについても実質的に記載されているといえる。
したがって、上記一応の相違点7は、甲6の1及び甲6の2に記載されているに等しいか、そうでなくとも周知・慣用技術の付加による具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)にすぎず、実質的な相違点とはいえない。
ウ.小括
上記のとおりであるから、本件発明9は、先願発明6と実質的に同一であり、本件発明9についての特許は、同法29条の2の規定に違反してされたものである。
(3)本件発明10について
ア.対比・判断
本件発明10は、請求項9に係る発明の発明特定事項について、「ジカウイルスの不活化が、前記ウイルスの精製の前又は後に実行される」ことを更に特定するものである。
しかしながら、本件発明10と先願発明6とを対比するに、当該特定により新たに相違点が生じるとは認められないところ、上記(2)で本件発明9について検討したとおりであるから、本件発明10は、先願発明6と実質的に同一であり、本件発明10についての特許は、同法29条の2の規定に違反してされたものである。
(4)本件発明11について
ア.対比
本件発明11は、本件発明9又は10の発明特定事項について、「ジカウイルスが、次の:a.ホルマリン:ウイルスが、1:500~1:4000v/vの範囲の任意の濃度、8℃~37℃、好ましくは25±3℃、少なくとも1~7日間でのホルマリン処置;・・・から選択される方法のいずれか1つによって不活化される」ことを更に特定するものである。
ここで、ホルマリンは37%ホルムアルデヒド水溶液であるから(要すれば、上記1.(13)甲11-ウ参照)、先願発明6の「0.02%(v/v)ホルムアルデヒド」をホルマリンに換算すると、「0.0541%(v/v)ホルマリン」に相当し、これはホルマリン:ウイルスが、0.0541%:100%≒1:1850(v/v)の濃度であることを意味し、先願発明6には、ジカウイルスの不活化方法として、「ショ糖の存在下で、ホルマリン:ウイルスが1:1850(v/v)の濃度のホルマリンを用いてインキュベートしてジカウイルスを不活化(22℃、10日間)すること」が実質的に記載されているといえる。
そうすると、本件発明11と先願発明6とを対比すると、次の点で一応相違する。
<一応の相違点8>
本件発明11は、請求項11に記載の不活化方法として「a.」で特定される方法が選択される場合、ジカウイルスの不活化の期間が「少なくとも1~7日間」であるのに対し、先願発明6は、当該不活化の期間が「10日間」である点。
イ.判断
上記一応の相違点について検討するに、本件発明11における「少なくとも1~7日間」との特定は、下記4.(2)のとおり、1~7日間のいずれかを下限値とすることを意味すると解されるから、上記不活化の期間についての一応の相違点8は、実質的な相違点とは認められない。
ウ.小括
上記のとおりであるから、本件発明11は、先願発明6と実質的に同一であり、本件発明11についての特許は、同法29条の2の規定に違反してされたものである。
4.無効理由3(明確性)について
(1)請求項9~12
ア.請求人の主張
請求人は、請求項9に記載された「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」とは、その文言上、バイオプロセス全体を通じて6.8~9のpHにすることと(解釈1)、バイオプロセスが完了した時点で6.8~9のpHであること(解釈2)の2通りの解釈が可能であり、上記の文言についての定義や説明は本件特許の明細書や図面に見当たらないから、請求項9及び同請求項を引用する請求項10~12は明確でない旨主張する(審判請求書213、264、268及び274頁)。
イ.判断
請求項9に記載された「バイオプロセス全体が」との文言は、バイオプロセスの全体に着目するものであるから、「バイオプロセスの全体を通じて」と解するのがむしろ自然であり、この点、本件特許の明細書【0052】には「緩衝剤は、ウイルス培養から精製された不活化ウイルスバルクの調製までのバイオプロセス全体を通じて液体組成物中でpH6.5を超える、好ましくはpH7.0を超えるpHを維持する。」と記載され、【0104】には「本開示の実施形態は、バイオプロセス全体を通じた薬学的に許容される緩衝剤の選択であり」と記載されているように、発明の詳細な説明にも上記解釈と整合するように記載がされ、技術常識を踏まえても同様に解釈されることから、請求項9に記載される「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」は、バイオプロセス全体を通じて6.8~9のpHに維持されることを指すことは明らかである。
よって、請求項9における「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」との記載により、請求項9及び同請求項を引用する請求項10~12が不明確とは認められない。
(2)請求項11、12
ア.請求人の主張
請求人は、請求項11における「少なくとも1~7日間」、「少なくとも10~30日間」、「少なくとも24~48時間」、「少なくとも3~7日間」との記載は、「少なくとも」という文言がそれに続く期間にどのように関連するのか明確ではなく、「少なくとも」という文言が付されたことで、それに続く期間の上限が意味を持たなくなったという解釈(解釈A)や、「少なくとも」という文言が付されても、それに続く期間に何らの影響も生じさせないという解釈(解釈B)があり得ることから、請求項11及び同請求項を引用する請求項12は明確でない旨主張する(審判請求書268頁及び274頁)。
イ.判断
本件特許の明細書【0098】及び【0099】には、以下の記載がされている。
「【0098】・・・したがってジカウイルスの効果的なホルマリン不活化は、1:1000v/vホルマリン:ウイルス~1:4000v/vホルマリン:ウイルスまでの範囲のホルマリンの任意の濃度で温度範囲2℃~37℃の範囲から任意の温度を選ぶことによって、及び24時間から10日間を超えて曝露時間を変更することによって、曝露の前述の濃度、時間及び温度で達成され得る。
【0099】・・・したがってジカウイルスの効果的なBPL不活化は、1:1000v/v BPL:ウイルス~1:4000v/v BPL:ウイルスまでの範囲から任意のBPLの濃度を選ぶことによって、2~37℃の範囲から温度を選ぶことによって及び24時間から10日間を超えて曝露時間を変更することによって、曝露の任意の前述の濃度、時間及び温度で達成され得る。」
そして、「少なくとも」との文言が数値に付された場合、当該数値が下限値であると通常解され、上記【0098】及び【0099】における下線部には、温度範囲は、下限値(2℃)及び上限値(37℃)で定められた温度範囲から選択される一方、暴露時間については、24時間から10日間を下限値として、これらを超えて暴露時間が変更される旨記載されていることを踏まえると、請求項11における例えば「少なくとも1~7日間」との表現は、1~7日間のいずれかを下限値とすることを意味することは明らかである。
よって、請求項11における「少なくとも1~7日間」、「少なくとも10~30日間」、「少なくとも24~48時間」、「少なくとも3~7日間」との記載により、請求項11及び同請求項を引用する請求項12が不明確とは認められない。
(3)小括
上記(1)及び(2)で述べたとおりであるから、無効理由3(明確性)は理由がない。
5.無効理由4(新規事項の追加)について
請求人は、審査請求時に請求項を補正した際、本件発明の請求項9に記載される「ウイルス抗原の精製及び濃縮」及び「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」との発明特定事項を追加したことについて、新規事項の追加に該当する旨主張しているため、以下、それぞれの発明特定事項について検討する。
(1)「ウイルス抗原の精製及び濃縮」について
ア. 請求人の主張
請求人は、請求項9には、「ウイルス抗原の精製及び濃縮」と記載されており、ジカウイルス抗原を精製及び濃縮するための方法は特に限定されていないところ、出願時の明細書をみると、ジカウイルス抗原を精製及び濃縮するための方法として挙げられているのは、【0046】に記載された4つのみであるから、請求項9において、「ウイルス抗原の精製及び濃縮」とのみ記載し、上記の4つに限定しなかったことは、出願時の明細書に記載された事項を上位概念化するものであって、当該「ウイルス抗原の精製及び濃縮」は不活化ジカウイルス抗原の調製方法の不可欠な1プロセスをなし、本件発明9の課題の解決に関係があるといえることから、新規事項の追加に当たる旨主張する(審判請求書260頁6行~261頁9行)。
イ.判断
請求項9に記載される「ウイルス抗原の精製及び濃縮」について、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲、明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文(以下、翻訳文等という。)の【0094】には、「精製は・・・物理的及び化学的方法の両方の組合せによって達成される。物理的方法は、これだけに限らないが次の技術:超遠心分離、・・・及び好適な分子カットオフサイズを有する半透膜を使用する濃縮のいずれかを含む。化学的手段を通じた精製は・・・」(下線は当審合議体で付した。)と記載されており、翻訳文等の【0046】に記載されるようなa~dの方法は、例示的に挙げられたものであって、翻訳文等には物理的及び化学的な他の精製及び濃縮方法が採用し得ることが記載されているといえる。また、本件発明9~12において、翻訳文等の【0046】に記載されるa~d以外の精製及び濃縮方法を用いることができないというための根拠となる技術常識があるとも認めらない。
したがって、請求項9において、特に方法が限定されない「ウイルス抗原の精製及び濃縮」を行うことを含む、不活化全ビリオン(ウイルス)ジカウイルス抗原の調製のための方法とすることが、翻訳文等のすべての記載を総合することによって導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
(2)「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」について
ア.請求人の主張
請求人は、請求項9には、「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」と記載されており、当該pHを維持する方法は特に限定されていないところ、出願時の明細書の【0052】、【0104】、特許請求の範囲の請求項20の記載によれば、バイオプロセス全体を通じて一定のpHを維持しているものは、液体組成物中の「リン酸緩衝剤」であるから、請求項9の上記発明特定事項において、バイオプロセス全体を通じ一定のpHを維持しているものは「緩衝剤」ではなく「バイオプロセス」であると記載したこと、一定のpHをもたらす方法を「緩衝剤」の使用に限定しなかったこと、特に「6.8~9のpH」をもたらす方法を「リン酸緩衝剤」の使用に限定しなかったことは、「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」ことが不活化ジカウイルス抗原の調整方法における不可欠な条件であり、本件発明9の課題の解決の関係があることも踏まえると、出願時の明細書に記載された事項を上位概念化するものであり、新規事項の追加に当たる旨主張する(261頁10行~262頁末行)。
イ.判断
請求項9には「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」(下線部は当審合議体で付した。)と記載されているところ、バイオプロセス全体は、pHを一定に維持される対象であって、手段ではないから、「請求項9の上記発明特定事項において、バイオプロセス全体を通じ一定のpHを維持しているものは「緩衝剤」ではなく「バイオプロセス」であると記載した」との請求人の主張は認められない。
また、請求項9に記載される「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」について、翻訳文等の【0052】には「緩衝剤は、ウイルス培養から精製された不活化ウイルスバルクの調製までのバイオプロセス全体を通じて液体組成物中でpH6.5を超える、好ましくはpH7.0を超えるpHを維持する。」と記載され、【0104】には「本開示の実施形態は、バイオプロセス全体を通じた薬学的に許容される緩衝剤の選択であり、・・・最も好ましい実施形態ではリン酸が緩衝剤使用され、・・・任意のpH6.50を超えてpH9まで、好ましくはpH6.8~pH7.8のリン酸ナトリウム緩衝液であり、上流及び下流工程のために使用される。」と記載されていることからみて、翻訳文等には、バイオプロセス全体を通じて液体組成物中でpHを維持することが記載されているといえる。
そして、請求人の主張するように、翻訳文等において一定のpHをもたらす方法として具体的に記載されているのは、緩衝剤であるものの、緩衝剤によるpHの維持は、本件発明の属するバイオ分野における汎用技術であり、翻訳文等の記載や技術常識を踏まえると、本件発明9において一定のpHをもたらす方法として緩衝剤以外の手段を採用することができないというための根拠や、一定のpHをもたらす方法として緩衝剤を用いることが、本件発明の課題を解決するために不可欠であるというための根拠が存在するとも認められない。
したがって、請求項9において、「バイオプロセス全体が、6.8~9のpHで完了される」不活化全ビリオン(ウイルス)ジカウイルス抗原の調製のための方法とすることが、翻訳文等のすべての記載を総合することによって導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
(3)小括
上記(1)及び(2)で述べたとおりであるから、無効理由4(新規事項の追加)は理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、無効理由1(進歩性)及び無効理由2(拡大先願)は理由があり、本件発明1~3及び9~12についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、また、本件発明9~11についての特許は、同法29条の2の規定に違反してされたものであるから、本件特許1~3及び9~12についての特許は、同法123条1項2号に該当し無効とするべきものである。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-800007