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特許拒絶査定不服審判

2015-015030

コラーゲン/アパタイト配向性材料、及びコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法

審判番号
2015-015030
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2010-211598外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2015年08月10日
審決日
2017年07月19日
公報発行日
2017年11月24日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (A61L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2010-211598「コラーゲン/アパタイト配向性材料、及びコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年4月5日出願公開、特開2012-65742〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は、平成22年9月22日の出願であって、平成27年4月17日付けで拒絶査定がされ、同年8月10日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、平成29年2月28日付けで拒絶の理由が通知され、同年4月21日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願発明は、平成29年4月21日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1及び3に係る発明は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 コラーゲン溶液をノズルを介して燐酸緩衝生理食塩水(PBS)が入った容器に押し出しながら、前記ノズルをスライドさせて、前記コラーゲン溶液に一定方向の溶液の流れを与えることによって、ストリング形状のコラーゲンゲル長軸方向へ前記配向性を付与し、制御された配向性を有するコラーゲンを準備し、得られた前記コラーゲンに対して、アパタイト成分となるリン酸の供給下、骨芽細胞又は間葉系幹細胞を播種することにより、前記コラーゲンの表面において、又は前記コラーゲンの内部に前記骨芽細胞等が入り込んだ場合には前記コラーゲンの内部において、前記骨芽細胞又は前記間葉系幹細胞を配向性を持たせて成長させて、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した方位へアパタイトc軸が配向した配向性を有するアパタイトを、前記コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定させることを特徴とするコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法。 【請求項3】 コラーゲン溶液をノズルを介して燐酸緩衝生理食塩水(PBS)が入った容器に押し出しながら、前記ノズルをスライドさせて、前記コラーゲン溶液に一定方向の溶液の流れを与えることによって、ストリング形状のコラーゲンゲル長軸方向へ前記配向性を付与し、制御された配向性を有するコラーゲンを準備し、カルシウムイオンを含み、実質的にリン酸イオンを含まない溶液と、リン酸イオンを含み、実質的にカルシウムイオンを含まない水溶液とに、前記コラーゲンを交互に浸漬することにより、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した方位へアパタイトc軸が配向した配向性を有するアパタイトを、前記コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定させることを特徴とするコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法。」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」といい、請求項3に係る発明を「本願発明3」といい、これらの発明をまとめて「本願発明」という。) 第3 引用例の記載 1 平成29年2月28日付けの当審による拒絶理由通知において引用した本願の出願日前に頒布された、運動療法と物理療法,2008,Vol.19,No.3,pp.166-171.(以下、「引用例1」という。)は、「磁場を用いた骨再生の検討」という表題の学術論文であるところ、この引用例1には以下の事項が記載されている。 (1) はじめに 「生体骨はコラーゲンが一軸配向し、そのうえにアパタイトが面配向した構造をしている。この構造により生体骨は高い機械的強度と骨特有のしなやかさを実現している。すなわち、生体骨と同等の機械的強度をもつ骨組織を生成するためには、この構造を実現する必要がある。」(167ページ左欄22~28行) (2) 実験方法 「2. 骨芽細胞培養方法 骨芽細胞として、新生児マウスC57BL/6頭蓋冠由来骨芽細胞(MC3T3-E1)を用いた。コラーゲン溶液は、日本ハム社製のType-I型ブタ皮膚製コラーゲン溶液(3mg/ml、pH3.0)を用いた。培養液はGIBCO製α-MEM粉末を脱イオン水に溶解し、ウシ胎児血清(FBS)が10%となるように調整したものを用いた。 2.0mlのコラーゲン溶液(0.5%)に1.5M NaCl溶液を0.2ml、培養液を2.0ml加え、よく攪拌し、16mmシャーレに500μlずつ分注した。この作業はコラーゲンのゲル化が進行しないようにするために氷水で冷却しながら行った。次に、コラーゲンのゲル化が進行しないようにシャーレをすみやかに永久磁石磁気回路内の中心部に静置し、22℃で24時間磁場曝露を行い、コラーゲンを配向させた。その後、インキュベータ、温度37℃、CO2濃度5%に1.5時間静置してコラーゲンをゲル化させ、1.6×106cells/mlの細胞浮遊培養液を500μl添加した。これらをインキュベータで42日培養した。培養液の交換は3日ごとに行った。インキュベータは、37℃、CO2濃度5%の環境に保持し実験した。」(168ページ左欄3行~右欄11行) (3) 実験結果および考察 「2. 細胞培養のSEM観察 骨芽細胞は培養時間とともに、成長し分化する。図3に骨芽細胞培養17日後のSEM写真を示す。写真から小型の球状の物体が観察される。この物体は細胞分化によって生成する基質小胞で、大きさは直径約0.1μmである。この結果から、骨芽細胞の分化は培養17日前後から発生していることがわかる。この小胞は培養時間とともに成長する。細胞培養32日後のSEM写真を図4に示す。写真から、小胞は約15μmに成長していることがわかる。図5に骨芽細胞培養38日後のSEM写真を示す。小胞は分解し、小胞内部の物質が小胞外部に出ていることがわかる。この現象は石灰化と考えられる。この結果から、骨芽細胞の石灰化は培養後32日前後で発生していることがわかる。さらに培養時間と増加すると、下地のコラーゲンは、小胞の分解により発生した物質で覆われる。石灰化によって生成した物質をEDXで分析した結果を図6に示す。生成した物質の主成分はCa、Pであることがわかった。さらに、X線回折をし、物質の同定を行った。その結果を図7に示す。この結果から、発生した物質は水酸アパタイトであることがわかった。 以上の結果から、磁気配向したコラーゲン上に骨芽細胞を播種し、培養した結果、培養時間とともに、細胞は成長し、培養17日前後から細胞の分化が始まり、小胞が観察される。培養32日前後から小胞の分解が始まる。分解によって発生する物質は骨の主成分である水酸アパタイトであることがわかった。さらに、得られた試料を電子線回折した結果、水酸アパタイトは単結晶であることがわかった。本実験で骨芽細胞を44日培養した結果3~4mmの試料を得た。以上の結果から、コラーゲンを配向させ、骨芽細胞を培養することで、自然に近い骨を、生体外での生成の可能性が示された。今後実用化を視野に入れ、試料の大型化を図ってゆく予定である。」(169ページ右欄6行~171ページ右欄2行) 2 平成29年2月28日付けの当審による拒絶理由通知において引用した本願の出願日前に頒布された、竹内太郎 他,配向化有機質基板上での金属元素含有アパタイトの析出挙動,日本金属学会講演概要,2009年9月15日,Vol.145,p.494.(以下、「引用例2」という。)は、「配向化有機質基板上での金属元素含有アパタイトの析出挙動」という表題の日本金属学会2009年秋季大会での講演要旨であるところ、この引用例2には以下の事項が記載されている。 (1) 緒言 「骨は部位に応じて配向したコラーゲン線維をテンプレートとし、生体アパタイトが沈着した自己組織化複合体である。その結果、アパタイトのc軸はコラーゲン線維の進展方向とほぼ平行に配向する。さらに生体アパタイトは、ヒドロキシアパタイトCa10(PO4)6(OH)2を基本組成とするものの、種々の微量元素の置換により、置換元素がアパタイトの結晶成長をはじめとする結晶学的特徴に深く関っていることが期待される。しかしながら、有機質基板の配向性や微量元素置換による結晶学的特徴の変化が、アパタイト配向化に及ぼす影響についての系統的な理解はなされていない。本研究では、in vitroでの交互浸漬法にて、無配向もしくは配向化有機質基板上でのアパタイト析出挙動を調べた。」 (2) 実験方法 「無配向基板としてアガロースゲルを、配向化基板として骨由来のコラーゲン線維を用いた。骨コラーゲン基板は、一軸もしくは二次元的に配向性を有する骨組織を、0.5M EDTAによって脱灰することで得られた。EDTAによる脱灰は、コラーゲン構造を破壊することなく、生体アパタイトのみの除去が可能であった。こうした基板を、Ca2+もしくはCa2+に加えて~30mol%のMg2+、Sr2+を含む水溶液、PO43-を含む水溶液にArガスフロー下で交互に浸漬し、基板上にアパタイトを核形成・成長させた。得られた試料に対して、微小領域X線回折法により、アパタイトの配向性や結晶子サイズ、格子定数といった結晶学的パラメータを解析するとともに、SEMによる結晶形態観察やFT-IRによる分子構造解析を行った。」 (3) 結果 「交互浸漬により、有機物基板には白色の析出物が生成し、X線回折ピークからアパタイトであることが同定された。元素置換の影響は、結晶子サイズの変化、置換イオン径に対応した格子定数の変化として現れた。さらに、生成したアパタイトの配向性は、基板の配向性の有無に強く影響を受け、コラーゲン配向方向に沿ってアパタイトのc軸が優先配向する傾向が認められた。」 3 平成29年2月28日付けの当審による拒絶理由通知において引用した本願の出願日前に頒布された国際公開第2010/101639号(以下、「引用例5」という。)には以下の事項が記載されている。(引用例5は英語で記載されているので、訳文で示す。) (1) BACKGROUND OF THE INVENTION(発明の背景) 「配向したコラーゲンゲルを作製する1つの方法は、高強度の磁界を利用して、線維形成中にコラーゲン線維の配向を誘導することである。この方法は、ゲルの寸法に応じて0.5~5テスラの強力な磁界を必要とするため、商業生産には実用的でない。・・・本発明は、配向されたコラーゲンゲルを作製するための新しい技術を提供する。」(1ページ23行~2ページ11行) (2) SUMMARY OF THE INVENTION(発明の概要) ア 「本発明は、コラーゲン線維の集合に影響を与えるために、流体力学を利用して流れによって配向したコラーゲンゲルを作製する技術を提供する。コラーゲンの高濃度モノマー溶液は、線維形成を誘導すべく基材上に高pH緩衝液下で供給されたときに、せん断流及び延伸流を受ける。作製されるゲルは、線維形成時に、流れによる誘導によって分子コラーゲンが配向される。前記堆積すなわち線維形成誘導は、前記高濃度のコラーゲンに対して磁場を加えることなく行われる。」(2ページ14~21行) イ 「一実施形態では、配向したコラーゲンゲルの作製方法が提供される。線維形成を誘導すべく、少なくともpH5または少なくともpH7の緩衝液下及び生理的温度下で、堆積装置によってコラーゲンを基材上に堆積させる。」(3ページ8~11行) ウ 「前記堆積装置はある堆積速度(例えば、少なくとも100mm/s)で移動して堆積させると共に、前記コラーゲンは前記堆積装置からある供給速度(例えば、少なくとも0.3mL/min)で供給される。堆積速度及び供給速度は、両者ともゼロより大きく、かつ、移動方向が互いに反対方向である。このことは、前記コラーゲンに対して堆積中にせん断力及び延伸力を加えるために重要である。」(3ページ17~22行) (3) BRIEF DESCRIPTION OF THE DRAWINGS(図面の簡単な説明) 「図2は、本発明の一実施形態による、高pH環境下でのロボット堆積の概要を示す。移動方向が互いに反対である流体速度及び注射器先端速度で、流体が基材上に押し出される。」(4ページ14~17行) (4) DETAILED DESCRIPTION(詳細な説明) ア MATERIALS(材料) 「ラットの尾由来のI型コラーゲン(・・・)を・・・購入した。その後、10mg/mLの前記溶液を、約20mg/mlの最終濃度に達するまで・・・透析した。 ・・・ コラーゲン分子の線維形成の誘導に用いた緩衝液は、10倍のリン酸緩衝生理食塩水すなわちPBS(・・・)であった。前記緩衝液は、0.1MでpH7.2である。」(8ページ2~15行) イ Deposition Under High pH(高pH下での堆積) 「この実験では、酸可溶化状態のコラーゲン溶液を高pH環境に流すことにより堆積させた。前記コラーゲンモノマーを注射針から押し出す強力な流体力学的流動によって配向させた。前記注射針から流体を排出すると同時に前記注射器を反対方向に移動させることによって、コラーゲン分子のさらなる配向が実現される(図2)。」(10ページ22行~11ページ3行) (5) APPENDIX(付録) ア CONTROLLED ROBOTIC DEPOSITION(制御されたロボット堆積) 「3軸ロボットアーム(・・・)及びシリンジポンプ(・・・)を備えた特注の堆積システムを使用してコラーゲン膜を形成した。前記装置は、ロボットアームが基材表面の経路をたどるようにプログラムすることによって、コラーゲン溶液を様々な基材上に描くことが可能となる。ロボットのアームは、溶液を供給する外部のシリンジポンプに接続された使い捨て式の注射針を支持する。注射針の先端は湾曲しており、排出された流体は基材の表面に対して平行に放出される(図13)。流体とロボットが互いに反対方向に移動することによって、注射器から排出された流体に延伸流が形成される。前記延伸流は、圧力駆動流と相まって、堆積中に、コラーゲン分子を配向させるための著しいせん断力を提供する。」(20ページ21行~21ページ8行) (6) CLAIMS(特許請求の範囲) ア 請求項1 「配向したコラーゲンゲルを作製する方法であって、線維形成を誘導すべく、堆積装置によってある濃度のコラーゲンを基材上に堆積させる堆積ステップを含み、ここで、前記堆積装置はある堆積速度で移動して堆積させると共に、前記コラーゲンは前記堆積装置からある供給速度で供給され、前記堆積速度及び供給速度は、両者ともゼロより大きく、かつ、移動方向が互いに反対方向であり、前記堆積ステップによって線維形成中にコラーゲンに対してせん断力及び延伸力の両者を加えるようにし、前記堆積ステップが少なくともpH5の緩衝液下で行われることを特徴とする方法。」(25ページ3~12行) イ 請求項6 「請求項1に記載の方法であって、前記堆積ステップが、少なくともpH7の緩衝液下で行われることを特徴とする方法。」(26ページ6~7行) 4 平成29年2月28日付けの当審による拒絶理由通知において引用した本願の出願日前に頒布された特開2003-190271号公報(以下、「引用例8」という。)には以下の事項が記載されている。 「元々脊椎動物の骨は無機物のハイドロキシアパタイト(HAp)と有機物のコラーゲンからなる複合体である。これらは、生体骨中でHApがそのc軸方向にコラーゲン繊維に沿って配向した特有のナノコンポジット構造を形成(自己組織化)し、この構造が骨に特有の機械的性質を与えている。すなわち、単にHApとコラーゲンを組み合わせただけでは、生体骨同様の構造や特性を得ることはできない。」(段落【0003】) 5 平成29年2月28日付けの当審による拒絶理由通知において引用した本願の出願日前に頒布された国際公開第2004/103422号(以下、「引用例9」という。)には以下の事項が記載されている。 「(1)リン酸カルシウム系セラミックス/コラーゲン複合体の製造 ・・・この複合体の好ましい例は、アパタイトのC軸がコラーゲン繊維に沿って配向した自己組織化した構造(生体骨と類似の構造)を有するアパタイト/コラーゲン複合体である。」(段落[0037]) 6 平成29年2月28日付けの当審による拒絶理由通知において引用した本願の出願日前に頒布された特開2007-50084号公報(以下、「引用例10」という。)には以下の事項が記載されている。 「脊椎動物の骨は、リン酸カルシウムの一種である水酸アパタイトと、タンパク質であるコラーゲンとからなる複合体である。これらは、生体骨中で水酸アパタイトが、そのc軸方向にコラーゲン繊維に沿って配向した特有の構造を形成し、この構造が骨に特有の機械的性質を与えていることが知られている。」(段落【0003】) 7 平成29年2月28日付けの当審による拒絶理由通知において引用した本願の出願日前に頒布された国際公開第2009/136553号(以下、「引用例11」という。)には以下の事項が記載されている。 「[2] 製造方法 ・・・アパタイト/コラーゲン複合体は、ハイドロキシアパタイトとコラーゲンが自己組織化的に配向し、生体骨に類似の複合体を形成しているのが好ましい。本明細書中『自己組織化』とは、コラーゲン繊維に沿って、アパタイト構造を有する水酸化リン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト)が生体骨特有の配向をしていること、すなわちハイドロキシアパタイトのC軸がコラーゲン繊維に沿うように配向していることを意味する。」(段落[0017]) 第4 当審の判断 1 本願発明1について (1) 引用例1に記載された発明 引用例1には、コラーゲン溶液を永久磁石磁気回路の中心部に静置し、24時間磁場曝露を行ってコラーゲンを配向させ、その後、コラーゲンをゲル化させ、次に、骨芽細胞の細胞浮遊培養液(培養液は、GIBCO製α-MEM粉末を脱イオン水に溶解し、ウシ胎児血清(FBS)が10%となるように調整したもの)を添加して42日間培養(培養液は3日ごとに交換)したところ、コラーゲンは小胞の分解により発生した物質で覆われたこと、及び、この物質は、骨の主成分である水酸アパタイトの単結晶であったことが記載されている(前記第3の1(2)及び(3))。そして、引用例1には、「はじめに」の項において、「生体骨はコラーゲンが一軸配向し、そのうえにアパタイトが面配向した構造をしている。この構造により生体骨は高い機械的強度と骨特有のしなやかさを実現している。すなわち、生体骨と同等の機械的強度をもつ骨組織を生成するためには、この構造を実現する必要がある。」と記載されている(前記第3の1(1))ところ、「実験結果および考察」の項で、「以上の結果から、コラーゲンを配向させ、骨芽細胞を培養することで、自然に近い骨を、生体外での生成の可能性が示された。」と記載されている(前記第3の1(3))ことから、引用例1に記載された方法により得られた骨は、自然に近い骨、すなわち、コラーゲンが一軸配向し、そのうえにアパタイトが面配向した構造に近い状態であるものと認められる。ここで、生体骨では、コラーゲン線維の方向に沿うように水酸アパタイトのc軸が配向していることは当業者に周知の事項(例えば、前記第3の2(1)及び4ないし7参照)であることから、引用例1の記載に接した当業者であれば、引用例1に記載された方法により製造された骨は、コラーゲン線維の方向に沿うように水酸アパタイトのc軸が配向しているものと認識するものである。また、引用例1に記載されたα-MEMやウシ胎児血清を含む培養液がリン酸塩又はリン酸イオンを含有することも周知の事項である。 そうしてみると、引用例1には、「コラーゲン溶液に磁場曝露を行って配向性を有するコラーゲンを準備し、得られた前記コラーゲンに対して、骨芽細胞を播種し、リン酸の供給下で培養することにより、コラーゲンの配向方向に沿うように水酸アパタイトのc軸が配向した配向性を有する水酸アパタイトを、前記コラーゲンの表面に生成・固定させるコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法」についての発明(以下、この発明を「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 (2) 本願発明1と引用発明1の対比 本願発明1と引用発明1を対比すると、両者は、「制御された配向性を有するコラーゲンを準備し、得られた前記コラーゲンに対して、リン酸の供給下、骨芽細胞を播種することにより、前記コラーゲンの表面において、前記骨芽細胞を配向性を持たせて成長させて、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した方位へアパタイトc軸が配向した配向性を有するアパタイトを、前記コラーゲンの表面に生成・固定させるコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法。」である点において一致し、配向性を有するコラーゲンを得る方法が、本願発明1では、コラーゲン溶液をノズルを介して燐酸緩衝生理食塩水(PBS)が入った容器に押し出しながら、前記ノズルをスライドさせて、前記コラーゲン溶液に一定方向の溶液の流れを与えることによって、ストリング形状のコラーゲンゲル長軸方向へ配向性が付与されたコラーゲンを得る方法であるのに対し、引用発明1では、コラーゲン溶液に磁場曝露を行って配向性が付与されたコラーゲンを得る方法である点において相違する。 (3) 相違点に対する判断 引用例5には、コラーゲン溶液の入った注射器から、注射針を介してリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に押し出すことによりコラーゲン溶液を排出すると同時に、前記注射器を反対方向に移動させ、線維形成中のコラーゲンに対してせん断力及び延伸力の両者を加えるようにし、コラーゲン溶液に一定方向の溶液の流れを与えることにより、コラーゲンをその流れの方向に配向させる方法が記載されている(前記第3の3(2)ないし(6))。そして、引用例5には、「発明の背景」の項に、「配向したコラーゲンゲルを作製する1つの方法は、高強度の磁界を利用して、線維形成中にコラーゲン線維の配向を誘導することである。この方法は、・・・強力な磁界を必要とするため、商業生産には実用的でない。・・・本発明は、配向されたコラーゲンゲルを作製するための新しい技術を提供する。」と記載されている(前記第3の3(1))ように、引用例5に記載のコラーゲン溶液に一定方向の溶液の流れを与えることによりコラーゲンを配向させる方法は、実用的ではない磁界を利用してコラーゲンを配向する方法の代替手段である。 そうしてみると、これらの引用例1及び5に接した当業者であれば、配向性を有するコラーゲンを得る方法として、引用発明1におけるコラーゲン溶液に磁場曝露を行う方法に代えて、引用例5に示されたコラーゲン溶液に一定方向の溶液の流れを与えて製造する方法を採用することに、格別の創意を要するものとは認められない。 そして、本願発明1が引用発明1と比較して当業者が予測することができない顕著な効果を有するものとも認められない。 したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用例1及び5並びに周知技術に基づいて当業者が容易に想到可能な発明である。 2 本願発明3について (1) 引用例2に記載された発明 前記第3の2(2)及び(3)より、引用例2には、「生体骨を脱灰することによって一軸又は二次元的に配向性を有するコラーゲン線維を準備し、カルシウムイオン(Ca2+)を含む水溶液と、リン酸イオン(PO43-)を含む水溶液とに、前記コラーゲン線維を交互に浸漬することにより、前記コラーゲンの配向方向に沿ってそのc軸が優先配向する傾向を有するアパタイトを、前記コラーゲンの表面に生成・固定させるコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法」についての発明(以下、この発明を「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 (2) 本願発明3と引用発明2の対比 本願発明3と、引用発明2を対比すると、両者は、「制御された配向性を有するコラーゲンを準備し、得られた前記コラーゲンに対して、カルシウムイオンを含み、実質的にリン酸イオンを含まない溶液と、リン酸イオンを含み、実質的にカルシウムイオンを含まない水溶液とに、前記コラーゲンを交互に浸漬することにより、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した方位へアパタイトc軸が配向した配向性を有するアパタイトを、前記コラーゲンの表面に生成・固定させるコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法。」である点において一致し、配向性を有するコラーゲンを得る方法が、本願発明3では、コラーゲン溶液をノズルを介して燐酸緩衝生理食塩水(PBS)が入った容器に押し出しながら、前記ノズルをスライドさせて、前記コラーゲン溶液に一定方向の溶液の流れを与えることによって、ストリング形状のコラーゲンゲル長軸方向へ配向性が付与されたコラーゲンを得る方法であるのに対し、引用発明2では、生体骨を脱灰することによって得る方法である点において相違する。 (3) 相違点に対する判断 引用例2は、「緒言」の項に、「有機質基板の配向性・・・の変化が、アパタイト配向化に及ぼす影響についての系統的な理解はなされていない。本研究では、・・・無配向もしくは配向化有機質基板上でのアパタイト析出挙動を調べた。」と記載されており(前記第3の3(1))、また、「実験方法」の項に、「無配向基板としてアガロースゲルを、配向化基板として骨由来のコラーゲン線維を用いた。」と記載されている(前記第3の3(2))ように、引用例2は、有機質基板の配向性の有無とアパタイト析出の挙動についての研究の発表であるところ、前記1(3)のとおり、引用例5には、コラーゲン溶液の入った注射器から、注射針を介してリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に押し出すことのよりコラーゲン溶液を排出すると同時に、前記注射器を反対方向に移動させ、線維形成中のコラーゲンに対してせん断力及び延伸力の両者を加えるようにし、コラーゲン溶液に一定方向の溶液の流れを与えることにより、コラーゲンをその流れの方向に配向させる方法が記載されており(前記第3の3(2)ないし(6))、コラーゲン溶液に一定方向の溶液の流れを与えることにより配向したコラーゲンを得るという技術は、本願の出願時において公知の技術であった。 そうしてみると、これらの引用例2及び5に接した当業者にとって、引用例2に記載された配向性を有する有機質基板(コラーゲン線維)を得る方法として、引用発明2における生体骨を脱灰することにより得たコラーゲン線維を使用する方法に代えて、引用例5に示されたコラーゲン溶液に一定方向の溶液の流れを与えて得られたものを使用する方法を採用することは、格別の創意を要する事項とは認められない。 そして、本願発明3が引用発明2と比較して当業者が予測することができない顕著な効果を有するものとも認められない。 したがって、本願の請求項3に係る発明は、引用例2及び5並びに周知技術に基づいて当業者が容易に想到可能な発明である。 3 審判請求人の主張について 請求人は、引用例5に記載のコラーゲン材料の製造方法では、材料内における自由な配向性の方向を実現できないのに対し、本願発明では、最終製品である配向性材料のニーズに応じて、出発材料である配向性コラーゲンの形状、配向性の方向を制御して、準備すれば、形状、配向性の方向を自由に制御しつつミリメーター以上の大きなサイズのコラーゲン/アパタイト配向性材料を製造することが可能であるという有利な効果を奏する旨を主張する。 しかし、引用例5には、3軸ロボットアームを備えた堆積システムを使用し、当該ロボットアームが基材表面の経路をたどるようにプログラムすることによって、コラーゲン溶液を様々な基材上に描くことが可能であると記載されている(前記第3の3(5))ように、引用例5に記載の方法でも、可動方向に制限のない3軸ロボットアームを使用することにより、様々な形状の配向性コラーゲンを準備することが可能であるものと認められる。したがって、引用例5についての請求人の主張は失当であり、これを採用することはできない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明1は、引用例1及び5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本願発明3は、引用例2及び5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることから、いずれの発明も特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2015-015030

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    共通の条文: 特許法29条2項
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    共通の条文: 特許法29条2項
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    共通の条文: 特許法29条2項
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