特許拒絶査定不服審判
2022-004298
紫外光照射装置及び紫外光照射装置の使用方法
- 審判番号
- 2022-004298
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-170693外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年03月23日
- 審決日
- 2024年02月27日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ウシオ電機株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (A61L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-170693「紫外光照射装置及び紫外光照射装置の使用方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 4月20日出願公開、特開2022- 62580〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年10月8日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 8月17日付け:拒絶理由通知書
同年10月15日 :意見書及び手続補正書の提出
同年12月21日付け:拒絶査定(謄本発送は、12月24日)
令和4年 3月23日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年3月23日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年3月23日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「微生物を不活化させるための紫外光照射装置であって、
主たる発光波長が190nm~235nmである紫外光を放射する光源と、
前記光源を収容する筐体と、
前記光源より放射された前記紫外光を前記筐体の外へ取り出す取出し部と、
190nm~230nmの波長帯域に属する、前記主たる発光波長の紫外光を透過し、240nm~300nmの波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタと、
前記紫外光を拡散させる拡散部材と、を備え、
前記光学フィルタは、前記光源と前記拡散部材との間に位置し、
前記拡散部材は可視光に対して拡散効果を有し、
前記取出し部が有人空間を向くよう配置されることを特徴とする紫外光照射装置。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年10月15日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「主たる発光波長が190nm~235nmである紫外光を放射する光源と、
前記光源を収容する筐体と、
前記光源より放射された前記紫外光を前記筐体の外へ取り出す取出し部と、
190nm~230nmの波長帯域に属する、前記主たる発光波長の紫外光を透過し、240nm~300nmの波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタと、
前記紫外光を拡散させる拡散部材と、を備え、
前記光学フィルタは、前記光源と前記拡散部材との間に位置し、
前記拡散部材は可視光に対して拡散効果を有することを特徴とする、微生物を不活化させるための紫外光照射装置。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「紫外光照射装置」を限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2019-115525号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
放出光の波長が190nm~237nmの波長域に存在する光源と、
前記光源に電力を供給する電力供給部と、
前記電力供給部を制御する制御部と、
光学フィルタとを備えてなり、
前記光源からの放出光を前記光学フィルタを介して照射することにより、処理対象微生物を不活化処理する微生物の不活化処理装置であって、
前記光学フィルタは、前記光源からの放出光が入射角0°で入射したとき、190nm以上230nm以下にある紫外線の少なくとも一部、および230nm超237nm以下にある紫外線の少なくとも一部を透過させると共に、190nm以上237nm以下の波長域以外の紫外線の透過を阻止するものであることを特徴とする微生物の不活化処理装置。」
(イ)「【0007】
しかしながら、このような殺菌装置においては、実用上、以下のような問題があることが判明した。
上記の殺菌装置においては、光源から放出される光のうち190~230nmの波長域の光を透過し、かつ当該波長域以外の波長の光をカットするために、光学フィルタとして、SiO2/Al2O3またはSiO2/MgF2による誘電体多層膜を有する干渉フィルタが用いられている。
このような干渉フィルタにおいては、カットオフ/カットオン波長において急峻なカーブを有する分光透過特性が得られる。その一方で、干渉フィルタは、入射角によって光の透過率が異なるという入射角依存性を有する。
【0008】
具体的に説明すると、干渉フィルタは、光の入射角が大きくなるに従って、光の透過率のピーク波長や透過帯の長波長側端の波長が、短波長側にシフトするという光学特性を有する。
そのため、光源から放出される光を干渉フィルタを介して照射すると、光源から放出される光のうち、干渉フィルタに大きい入射角で入射した光が、当該干渉フィルタによって遮断若しくは大きく減衰するため、光源から放出される光を高い効率で利用することが困難となる。
また、干渉フィルタにおいて入射角の大きい光が遮断または減衰されることから、当該干渉フィルタから出射される光の拡散角が小さいため、殺菌対象部位において大きい有効照射面積を得ることが困難である。
【0009】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、身体上または身体内(特に、創傷、手術部術野)に存在する処理対象微生物に対して、身体の細胞への危害を回避または抑制しながら不活化処理を行うことができ、しかも、光源からの放出光を高い効率で利用することができると共に、大きい有効照射面積が得られる微生物の不活化処理装置および不活化処理方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、処理対象細胞の活性化を高い効率で確実に実行することができる細胞活性化処理装置および細胞活性化処理方法を提供することにある。」
(ウ)「【0024】
[微生物の不活化処理装置]
図1は、本発明の微生物の不活化処理装置の一例における構成を示す説明図である。
この微生物の不活化処理装置(以下、単に「不活化処理装置」ともいう。)は、外形が直方体状の筐体10を有する。この筐体10の一面(図1において下面)には、紫外線を透過する、例えば合成石英ガラスよりなる矩形の板状の紫外線透過窓部11が設けられている。
【0025】
筐体10内には、光源として、棒状のエキシマランプ20が紫外線透過窓部11に対向するよう配置されている。筐体10内におけるエキシマランプ20の背後には、エキシマランプ20からの光を紫外線透過窓部11に向かって反射する樋状の反射ミラー15が、当該エキシマランプ20を取り囲むよう配置されている。
また、大気中の酸素は波長200nm以下の光を吸収するため、エキシマランプ20からの光の強度が減衰することを防止することを目的として、必要に応じて、筐体10の内部は、窒素(N2)ガスなどの不活性ガスでパージされる。
【0026】
エキシマランプ20には、当該エキシマランプ20に電力を供給する電力供給部30が接続されている。この電力供給部30には、当該電力供給部30を制御する制御部35が接続されている。
【0027】
筐体10の外部において、紫外線透過窓部11に対向する位置には、矩形の板状の光学フィルタ40が配置されている。この光学フィルタ40は、固定部材41によって、筐体10に固定されている。
【0028】
エキシマランプ20としては、放出光の中心波長が190~230nmであるものを用いることができる。
このようなエキシマランプ20の具体例としては、放出光の中心波長が222nmであるKrClエキシマランプ、放出光の中心波長が207nmであるKrBrエキシマランプが挙げられる。」
(エ)「【0035】
光学フィルタ40は、光源からの放出光が入射角0°で入射したとき、190nm以上230nm以下にある紫外線の少なくとも一部、および230nm超237nm以下にある紫外線を透過させると共に、190nm以上237nm以下の波長域以外の紫外線の透過を阻止するものである。ここで、「紫外線の透過を阻止する」とは、光源から放出される紫外線のうち、190nm以上230nm以下の波長領域におけるピーク波長の強度に対して、光学フィルタ透過後の紫外線の強度が1/1000以下になることを意味する。
【0036】
このような光学フィルタ40としては、SiO2膜およびAl2O3膜による誘電体多層膜を有するもの、またはHfO2膜およびSiO2膜による誘電体多層膜を有するものを用いることが好ましい。
【0037】
図3は、本発明に用いられる光学フィルタの一例における光透過率の分光分布を、KrClエキシマランプの分光スペクトルと共に示す図である。
図3において、曲線aは、光学フィルタに入射角0°で光が入射したときの光透過率の分光分布曲線、曲線bは、光学フィルタに入射角25°で光が入射したときの光透過率の分光分布曲線、曲線cは、光学フィルタに入射角30°で光が入射したときの光透過率の分光分布曲線、曲線dは、光学フィルタに入射角40°で光が入射したときの光透過率の分光分布曲線、曲線Lは、KrClエキシマランプの分光スペクトルである。
【0038】
この例の光学フィルタ40は、合成石英ガラスよりなる基板の両面にSiO2層およびAl2O3層が交互に積層されてなる誘電体多層膜が形成されて構成されている。誘電体多層膜におけるSiO2層およびAl2O3層の層数は230層であり、総厚みは10μmを越えている。
【0039】
この光学フィルタ40においては、図3に示すように、波長222nm(KrClエキシマランプの放出光のピーク波長)の紫外線の透過率が、入射角が0°のときには約75%であるが、入射角が25°のときには50%以上、入射角が30°のときであっても40%以上であり、入射角が40°のときには数%である。
また、この光学フィルタ40においては、入射角が0°のときに、波長231nmの紫外線の透過率が約68.5%、波長235nmの紫外線の透過率が約4%である。」
(オ)「【0056】
上記の不活化処理装置においては、電力供給部30からエキシマランプ20に電力が供給されることにより、エキシマランプ20が点灯する。そして、エキシマランプ20から放出された光は、紫外線透過窓部11を介して筐体10の外部に放射され、更に、光学フィルタ40を介して処理対象部位Pに照射される。これにより、身体上または身体内の処理対象部位Pに存在するバクテリアなどの処理対象微生物に対する不活化処理が行われる。」
(カ)「【図1】
[図:0001409515000001.jpg]
」
(キ)「【図3】
[図:0001409515000002.jpg]
」
イ 引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平11-386号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、紫外線殺菌ユニットに関し、更に詳しくは、薄型で、ロッカー、下駄箱、トイレ、冷蔵庫等に使用することができ、面積が広く、均一な殺菌効果を発揮し得る紫外線殺菌ユニットに関する。」
(イ)「【0011】更に、本発明の紫外線殺菌ユニットは、導光体から出射される紫外線を更に均一化するための拡散手段を設けてもよい。この拡散手段は、導光体の光散乱手段を設けた裏側の面とは反対側の表側の面に設けられる。拡散手段として好ましいものはプラスチックシートに拡散処理を施したものであり、好ましいプラスチックシートの材質は、ポリエステル、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリプロピレンポリフッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルペンテン等である。拡散手段は、導光体の光散乱手段を設けた面の反対側の面に密着するように貼り付ける。或いは、導光体の表面に予め拡散処理をしたものを用いてもよい。」
(ウ)「【0015】以上の構成を有する本実施例の紫外線殺菌ユニット1では、紫外線光源5から出射する紫外線は直接又はリフレクタ6によって反射された後、導光体3内に入射する。導光体3内に入射した紫外線は全反射しながら進行し、光散乱溝9によって散乱され、導光体3の表側の面8から出射する。導光体3の面8から出た紫外線は、更に拡散板11で均一化され、殺菌対象物に照射される。」
(エ)「【図2】
[図:0001409515000003.jpg]
」
ウ 引用文献4
原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2018-191840号公報(以下、「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
(ア)「【0001】
この発明は、流体中のバクテリアやウイルスを紫外線で殺菌する紫外線照射装置に関するものである。」
(イ)「【0030】
(紫外線出射部)
図4乃至図6、及び図10に示すように、紫外線出射部25は、ボックス28内の基板30に複数の紫外線LED16が取り付けられ、これら紫外線LED16から出射された紫外線が拡散板31を透過する際に均一に拡散して被照射体組立体23に照射されるようになっている。このような紫外線出射部25は、紫外線を被照射体組立体23の各流路3及び各流れ調整室5に均一に照射することができ、複数の流路3及び流れ調整室5内の流体に対する殺菌効果にばらつきが生じにくい。」
(ウ)「【図10】
」
[図:0001409515000004.jpg]
エ 引用文献7
原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2002-42519号公報(以下、「引用文献7」という。)には、次の記載がある。
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来の方法では光源が透けて見えるため見栄えが良くなかった。また、一重の透光性カバー内に光源を内蔵し、光の点滅によりゆらぎを回路的に演出するものはあるが、炎の形状で点灯または明滅するなど、ろうそくの炎のイメージを十分に再現することが困難であり、演出効果として炎を間近で見ることのある用途での使用には適していなかった。
・・・
【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するためにこの発明の請求項1記載の照明装置は、電気的に点灯する光源と、この光源を内蔵し略ろうそくの炎形に形成された透光性カバーとを備えた照明装置において、前記透光性カバーは、前記光源を覆い高拡散性透光部材からなる第一のカバーと、この第一のカバーを覆い拡散性透明部材からなる第二のカバーとから構成した。
【0006】このように、透光性カバーは、光源を覆い高拡散性透光部材からなる第一のカバーと、この第一のカバーを覆い拡散性透明部材からなる第二のカバーとから構成したので、第一のカバーにより光源が透けて見えることを防止でき、第一および第二のカバーで炎の二重炎を演出する。このため、間近で見るのことのある用途でもろうそくのイメージをもつ安全で消えない照明装置を提供でき、レストランなど雰囲気を重視する空間での演出に使用できる。」
オ 引用文献8
原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平6-73296号公報(以下、「引用文献8」という。)には、次の記載がある。
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、最近では光拡散性材料の商品価値をさらに高める要求が強く、照明カバーや各種ディスプレイに用いた場合、光拡散面の明るさの不均一性がなく、光源のイメージが透けて見えないことが非常に重要となってきている。ところで、光源のイメージを消失させるためには光の拡散性を向上させればよいことが従来の検討により知られている。すなわち、光の拡散性を高めると光源のイメージが消失する方向を示し、光の拡散性の尺度となる輝度分布比率の値も大きくなる。しかし、光源のイメージを消失させる程度に材料の光拡散性を高めると光透過性が急激に低下し、光源の明るさが極端に損なわれてしまうのが現状であった。従って、実際の商品として使用された状態で光源のイメージがなく、かつ光透過性が従来特性と同等程度、すなわち全光線透過率が60%以上である光拡散性材料の開発が技術的なポイントとなっている。」
(3)引用文献1に記載された発明
引用文献1の段落【0025】、図1には、筐体10と、紫外線透過窓部11と、筐体10内に配置される棒状のエキシマランプ20からなる光源と、光学フィルタ40とを有する微生物の不活化処理装置が記載されており、同段落【0056】には、エキシマランプ20から放出された光は、紫外線透過部11を介して筐体10の外部に放射され、更に、光学フィルタ40を介して処理対象部位に照射され、身体上又は身体内の処理対象部位に存在する処理対象微生物に対する不活化処理が行われること、同段落【0028】には、エキシマランプ20の具体例として、放出光の中心波長が222nmであるKrClエキシマランプ、放出光の中心波長が207nmであるKrBrエキシマランプが用いられること、同段落【0035】には、光学フィルタ40は、光源からの放出光が入射角0°で入射したとき、190nm以上230nm以下にある紫外線の少なくとも一部、および230nm超237nm以下にある紫外線を透過させると共に、190nm以上237nm以下の波長域以外の紫外線の透過を阻止するものであること、同段落【0036】には、光学フィルタ40として、SiO2膜およびAl2O3膜による誘電体多層膜を有するもの、またはHfO2膜およびSiO2膜による誘電体多層膜を有するものが用いられることが記載されている(摘記(1)ア(ウ)~(カ)を参照)。
そうすると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「放出光の中心波長が222nmであるKrClエキシマランプ又は放出光の中心波長が207nmであるKrBrエキシマランプからなる棒状のエキシマランプ20からなる光源と、光源が配置される筐体10と、エキシマランプ20から放出された光を外部に透過する紫外線透過部11と、190nm以上230nm以下にある紫外線の少なくとも一部、および230nm超237nm以下にある紫外線を透過させると共に、190nm以上237nm以下の波長域以外の紫外線の透過を阻止する誘電体多層膜を有する光学フィルタ40とを備えた、光学フィルタ40を介してエキシマランプから放出した紫外光で身体上又は身体内の処理対象部位に存在する微生物を処理する不活化処理装置。」
(4)対比・判断
ア 本件補正発明と引用発明との対比・判断
(ア)本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「エキシマランプから放出した光で身体上又は身体内の処理対象部位に存在する微生物を処理する不活化処理装置」、「放出光の中心波長が222nmであるKrClエキシマランプ又は放出光の中心波長が207nmであるKrBrエキシマランプからなる棒状のエキシマランプ20からなる光源」、「光源が配置される筐体10」、「エキシマランプ20から放出された光を外部に透過する紫外線透過部11」、「190nm以上230nm以下にある紫外線の少なくとも一部、および230nm超237nm以下にある紫外線を透過させると共に、190nm以上237nm以下の波長域以外の紫外線の透過を阻止する誘電体多層膜を有する光学フィルタ40」はそれぞれ、本件補正発明の「微生物を不活化させるための紫外光照射装置」、「主たる発光波長が190nm~235nmである紫外光を放射する光源」、「光源を収容する筐体」、「光源より放射された前記紫外光を前記筐体の外へ取り出す取出し部」、「190nm~230nmの波長帯域に属する、前記主たる発光波長の紫外光を透過し、240nm~300nmの波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタ」に相当する。
(イ)以上より、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
本件補正発明と引用発明とは、
「微生物を不活化させるための紫外光照射装置であって、
主たる発光波長が190nm~235nmである紫外光を放射する光源と、
前記光源を収容する筐体と、
前記光源より放射された前記紫外光を前記筐体の外へ取り出す取出し部と、
190nm~230nmの波長帯域に属する、前記主たる発光波長の紫外光を透過し、240nm~300nmの波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタと、を備える紫外光照射装置。」
の点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
本件補正発明は、「紫外光を拡散させる拡散部材を備え、光学フィルタは、光源と拡散部材との間に位置し、拡散部材は可視光に対して拡散効果を有」するのに対し、引用発明は、そのような拡散部材を有しない点。
(相違点2)
本件補正発明は、紫外光の「取出し部が有人空間を向くよう配置される」のに対し、引用発明は、「エキシマランプから放出した紫外光で身体上又は身体内の処理対象部位に存在する微生物を処理」できるように、紫外線透過部11(取出し部)が配置される点。
(ウ)判断
(相違点1について)
引用文献3の段落【0011】には、紫外線殺菌ユニットにおいて、導光体から出射される紫外線を更に均一化するための拡散手段を設けてもよいこと、拡散手段として好ましいものとしてプラスチックシートに拡散処理を施したものが用いられることが記載され、同段落【0015】、図2には、実施例として、紫外線光源5を有する紫外線殺菌ユニットにおいて、導光体3の面8から出た紫外線は、更に拡散板11で均一化され、殺菌対象物に照射されることが記載されている(摘記(2)イ(ア)~(エ)を参照)。
また、引用文献4の段落【0001】、【0030】、図10には、複数の紫外線LED16が取り付けられた紫外線出射部25を有するバクテリアやウイルスを紫外線で殺菌する紫外線照射装置において、紫外線LED16から出射された紫外線が拡散板31を透過する際に均一に拡散して被照射体組立体23に照射されるようになっていること、このような紫外線出射部25は、紫外線を被照射体組立体23の各流路3及び各流れ調整室5に均一に照射することができ、複数の流路3及び流れ調整室5内の流体に対する殺菌効果にばらつきを生じにくくできることが記載されている(摘記(2)ウ(ア)~(ウ)を参照)。
そして、引用発明も、光源から出射された紫外線を処理対象部位に照射して殺菌を行うものであるから、出射された紫外線を更に均一化して殺菌対象物に照射するという課題や紫外線を均一に拡散して照射して殺菌効果にばらつきを生じにくくするという課題を有していることは当業者にとって明らかである。
また、引用発明は、紫外線の光源には、棒状のエキシマランプが用いられ、誘電体多層膜を有する光学フィルタを介して、処理対象部位に紫外線を照射するものであるところ、引用文献1の段落【0007】~【0008】には、誘電体多層膜は、入射角の大きい光が遮断または減衰されてしまうこと、同段落【0039】、図3には、引用発明で用いられる誘電体多層膜も、入射角の大きい光が減衰されるものであることが記載されているから(摘記(2)(イ)、(エ)、(キ)を参照)、光学フィルタ40を介して照射される紫外線の照度は、棒状のエキシマランプから入射角0°で照射する場合に比べて、入射角が大きくなるにつれて減衰を生じるものであるから、その照射量の変化を少なくするために拡散部材を光学フィルタの外側に設けようとする動機付けがあるといえる。
さらに、紫外線を拡散する拡散部材は、紫外線の直進を妨害するものであって、光の波長がどうであれ光の直進を妨害することができるといえるから、紫外線の波長域の光だけを拡散するものでなく、可視光の波長域の光に対する拡散機能を通常有していると認められる。
してみると、引用発明において、射出された紫外線を更に均一化して殺菌対象物に照射したり、紫外線を均一に拡散して照射して殺菌効果にばらつきを生じにくくするために、透過光の照度のばらつきが生じる光学フィルムの外側に、紫外線及び可視光を拡散させる拡散部材を設けることは当業者にとって格別困難なこととは認められない。
そして、本件補正発明の効果について検討すると、本願明細書の【0035】~【0036】には、拡散部材で出射光の配向角を拡大させることにより、広い範囲に亘って紫外光を照射できること、出射光のムラの抑制により、不活化効果の小さい領域が減少するとともに、局所的に強い光を受ける領域が減少し、より高い安全姓を確保できるという本願発明の効果が記載されている。
また、本願明細書の【0043】には、拡散部材が、紫外光のみならず、可視光に対して拡散効果を有することにより、紫外光照射装置の内部のエキシマランプを視認できなくするか、鮮明に見えなくすることを可能にできるという本願発明の効果が記載されている。
しかしながら、拡散部材により、光源から出射された紫外光を均一化する効果や、殺菌効果のばらつきを生じにくくするという効果、すなわち、出射光のムラの抑制により、不活化効果の小さい領域が減少するという効果は、引用文献3の段落【0011】、引用文献4の段落【0030】に記載された効果である。
また、局所的に強い光を受ける領域が減少し、より高い安全性を確保できるという効果については、紫外光を均一化してムラが抑制されることに付随して達成されるものであるから、従来技術に対して予測し得ない顕著な効果とは認められない。
さらに、拡散部材で出射光の配向角を拡大させるという効果については、引用文献4の段落【0033】、図10には、紫外線LEDからの射出光を拡散部材で拡散させて均一化することが記載されているところ、これは、点光源である紫外線LEDの光を面光源のように広げて均一化していることに他ならないから、拡散部材で出射光の配光角を拡大させる効果は、引用文献4に記載された効果といえる。
さらに、上でも述べたとおり、紫外光を拡散する拡散部材は、多かれ少なかれ、可視光も拡散するものであるから、そのような拡散部材を設けることによって、光源が視認しにくくなるという効果も同時に得られるものであるから、この効果は紫外線の拡散部材自体が有している効果であり、引用文献3及び4に記載された技術の範囲内の効果である。加えて、引用文献7の段落【0003】、【0005】~【0006】、引用文献8の段落【0006】に記載されたように(摘記(2)エ、オを参照)、拡散部材を設けることにより光源が見えにくくなる効果は、従来から知られた効果でもある。
よって、本件補正発明が、引用文献1、3~4の記載及び周知の技術事項から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものであるとは認められない。
(相違点2について)
引用発明は、「エキシマランプから放出した紫外光で身体上又は身体内の処理対象部位に存在する微生物を処理」できるように、紫外線透過部11(取出し部)を配置するものであるところ、「身体」は、人の一部であるから、「身体」の周囲の空間を含む「身体」が存在する空間は、「有人空間」であるといえる。
そして、紫外光は、エキシマランプから所定の距離を隔てて、すなわち、身体の周囲の空間である「有人空間」を介して、身体に照射されると解されるから、紫外光の取出し部である引用発明の紫外線透過部11は、紫外線照射時には、有人空間を向くように配置されると認められる。
そうすると、相違点2は実質的な相違点とはいえない。
イ 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、「引用文献1には、入射角の大きい光が光学フィルタを透過できることで、光源からの放射光を高い効率で利用することができると共に、殺菌対象部位に対して有効照射面積を確保することが記載されております。しかし、同引用文献には、光学フィルタ通過後の出射光に対し、さらに出射光の配光角を拡大させる必要性について記載していません。なぜなら、殺菌対象部位に対して有効照射面積を確保しつつ、さらに、光を拡散させる必要がないためです。逆に光を拡散させてしまうと、紫外光が拡散されることで有効照射範囲内の最大照度は抑制されることとなり、殺菌対象部位に対して紫外光を効率的に利用することを阻害する場合も考えられます・・・上述のとおり、引用文献1には光学フィルタよりも照射対象側に拡散部材を設けることについて何ら記載がなく、引用文献2~4に記載の拡散部材を、光学フィルタよりも照射対象側に設けることが、当業者が容易に想到し得るとのご判断は、後知恵による誤認を含むものです。」と主張する。
しかしながら、上記ア(ウ)で検討したとおり、引用発明は、光源から出射された紫外線を処理対象部位に照射して殺菌を行うものであり、引用文献3及び4に記載された、光源から出射された紫外線を更に均一化して殺菌対象物に照射するという課題や紫外線を均一に拡散して照射して殺菌効果にばらつきを生じにくくするという課題を有していることは当業者にとって明らかであり、誘電多層膜を有する光学フィルタを介して射出された紫外線の照度は、棒状のエキシマランプから入射角0°で照射する場合に比べて、入射角が大きくなるにつれて減衰を生じ、エキシマランプから直に射出された紫外線よりも、照度にばらつきを生じてしまうものであるから、当業者が、引用発明において、光学フィルタ通過後の射出光に対して、ばらつきを抑制するために拡散部材を設ける動機はあるといえる。
また、引用文献1の段落【0009】には、確かに、「本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は・・・光源からの放出光を高い効率で利用することができる・・・微生物の不活化処理装置および不活化処理方法を提供することにある。」と記載されているところ、「光源からの放出光を高い効率で利用する」とは、同段落【0008】に記載された「干渉フィルタによって遮断若しくは大きく減衰するため、光源から放出される光を高い効率で利用することが困難である。」という課題に対応して、「従来は遮断若しくは大きく減衰することで利用できなかった光を利用できるようにする」という範囲で、「光源からの放出光を高い効率で利用する」ことを意味していると解され、装置全体として最大照度を低下させないように「光源からの放射光を高い効率で利用する」ことを意味していないと解される。そうすると、仮に、拡散部材が最大照度を低下させる可能性がある部材だったとしても、光源からの紫外光を均一化するといった目的で、引用発明に、拡散部材を設けることに阻害要因はない。
さらに、審判請求人は、審判請求書において、拡散部材が可視光に対して拡散効果を有するものとすることは当業者が容易に想到し得ない旨主張する。
しかしながら、上記ア(ウ)で検討したとおり、引用文献3及び4に記載された紫外線を拡散する拡散部材は、紫外線の直進を妨害するものであって、光の波長がどうであれ光の直進を妨害することができるといえるから、紫外光だけでなく、可視光の波長域の光に対する拡散機能を通常有していると認められる。
(4)まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明並びに引用文献3~4に記載された技術及び引用文献7~8に記載された周知技術に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和4年3月23日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年10月15日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1~6に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において、頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1、3~4に記載された発明及び引用文献7~8に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
記
引用文献1:特開2019-115525号公報
引用文献3:特開平11-386号公報
引用文献4:特開2018-191840号公報
引用文献7:特開2002-42519号公報
(拒絶査定時に新たに引用された周知技術を示す文献)
引用文献8:特開平6-73296号公報
(拒絶査定時に新たに引用された周知技術を示す文献)
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、3~4、7~8の記載事項は、上記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2で検討した本件補正発明の「紫外光照射装置」に対して、「取出し部が有人空間を向くよう配置される」ことを特定しないものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比した場合、上記第2[理由]2(4)ア(イ)の相違点1の点でのみ相違するところ、相違点1についての判断は、上記第2[理由]2(4)ア(ウ)判断で記載したとおりである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに引用文献3~4に記載された技術及び引用文献7~8に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-004298