特許拒絶査定不服審判
2015-010611
弱塩基性薬および有機酸を含む薬物送達系
- 審判番号
- 2015-010611
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-113203外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年06月04日
- 審決日
- 2016年11月02日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アデア ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】稲葉 良幸
- 【請求人代理人】大貫 敏史
- 【請求人代理人】江口 昭彦
- 【請求人代理人】内藤 和彦
- 分類
- P18 .113-Z (A61K) / P18 .575-Z (A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-113203「弱塩基性薬および有機酸を含む薬物送達系」拒絶査定不服審判事件〔平成25年9月26日出願公開、特開2013-189455〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成19年1月29日に国際出願された特許出願である特願2008-552613号(パリ条約による優先権主張 2006年1月27日 (US)アメリカ合衆国)の一部を平成25年5月29日に新たな特許出願としたものであって、平成27年2月2日付けで拒絶査定がなされたのに対して、平成27年6月4日に拒絶査定不服の審判請求がなされ、それと同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 平成27年6月4日提出の手続補正についての補正の却下の決定
<補正の却下の決定の結論>
平成27年6月4日提出の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
<理由>
1 補正の内容
本件補正は特許請求の範囲を補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前の
「少なくとも1つの弱塩基性薬物の、徐放性(SR)ビーズの1つ以上の集団、および/または時限パルス型放出(TPR)ビーズの1つ以上の集団を含む医薬多粒子剤形であって、
前記弱塩基性薬物が、5~14の範囲内のpKaおよびpH6.8で200μg/mL以下の溶解度を有する薬学的に許容可能な窒素(N)含有薬物または薬学的に許容可能なその塩、および
溶解剤としての少なくとも1つの薬学的に許容可能な有機酸を含み、
前記SRビーズが、内側バリアコーティングでコーティングされた有機酸含有コア粒子を含み、前記内側バリアコーティング上には前記弱塩基性薬物が積層されており、さらにSR膜がコーティングされており、
前記TPRビーズが、内側バリアコーティングでコーティングされた有機酸含有コア粒子を含み、前記内側バリアコーティング上には前記弱塩基性薬物が積層されており、さらに遅延時間膜がコーティングされており、
前記弱塩基性薬物および前記有機酸は、前記剤形中で相互に接触することがなく、前記有機酸および前記弱塩基性薬物は比較可能な放出プロファイルを示す、医薬多粒子剤形。」を、
「少なくとも1つの弱塩基性薬物の、徐放性(SR)ビーズの1つ以上の集団、および/または時限パルス型放出(TPR)ビーズの1つ以上の集団を含む医薬多粒子剤形であって、
前記弱塩基性薬物が、5~14の範囲内のpKaおよびpH6.8で200μg/mL以下の溶解度を有する薬学的に許容可能な窒素(N)含有薬物または薬学的に許容可能なその塩、および
溶解剤としての少なくとも1つの薬学的に許容可能な有機酸を含み、
前記SRビーズが、内側バリアコーティングでコーティングされた有機酸含有コア粒子を含み、前記内側バリアコーティング上には前記弱塩基性薬物が積層されており、さらにSR膜がコーティングされており、
前記TPRビーズが、内側バリアコーティングでコーティングされた有機酸含有コア粒子を含み、前記内側バリアコーティング上には前記弱塩基性薬物が積層されており、さらに、腸溶性ポリマーとの組み合わせで不水溶性ポリマーを含む遅延時間膜がコーティングされており、
前記弱塩基性薬物および前記有機酸は、前記剤形中で相互に接触することがなく、前記有機酸および前記弱塩基性薬物は比較可能な放出プロファイルを示す、医薬多粒子剤形。」とする補正(以下、「補正事項1」という。)を含むものである。
2 補正の目的
補正事項1は、TPRビーズにおける遅延時間膜に関し、「腸溶性ポリマーとの組み合わせで不水溶性ポリマーを含む」ものとする限定を発明特定事項として追加することを含むものである。
これは、本件出願当初の請求項3における「前記TPRビーズが、前記SRビーズ上に塗布された、腸溶性ポリマーとの組み合わせで不水溶性ポリマーを含む外側遅延時間コーティングを含み、…」との記載に基づきなされたものといえる。
このため、補正事項1は新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。また、遅延時間膜の成分を限定するものであり、補正の前後で産業上の利用分野および解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項1は特許法第17条の2第3項及び第5項に規定する要件を満たしている。
3 独立特許要件
補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号の場合に該当するから、同条第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合しているか否かを検討する。
(1)補正事項1による本願請求項に係る発明
補正事項1による本願請求項1に記載される発明(以下、「補正発明」という。)は次のとおりである。
「少なくとも1つの弱塩基性薬物の、徐放性(SR)ビーズの1つ以上の集団、および/または時限パルス型放出(TPR)ビーズの1つ以上の集団を含む医薬多粒子剤形であって、
前記弱塩基性薬物が、5~14の範囲内のpKaおよびpH6.8で200μg/mL以下の溶解度を有する薬学的に許容可能な窒素(N)含有薬物または薬学的に許容可能なその塩、および
溶解剤としての少なくとも1つの薬学的に許容可能な有機酸を含み、
前記SRビーズが、内側バリアコーティングでコーティングされた有機酸含有コア粒子を含み、前記内側バリアコーティング上には前記弱塩基性薬物が積層されており、さらにSR膜がコーティングされており、
前記TPRビーズが、内側バリアコーティングでコーティングされた有機酸含有コア粒子を含み、前記内側バリアコーティング上には前記弱塩基性薬物が積層されており、さらに、腸溶性ポリマーとの組み合わせで不水溶性ポリマーを含む遅延時間膜がコーティングされており、
前記弱塩基性薬物および前記有機酸は、前記剤形中で相互に接触することがなく、前記有機酸および前記弱塩基性薬物は比較可能な放出プロファイルを示す、医薬多粒子剤形。」
(2)引用刊行物の記載事項
本願の出願(優先日)前に頒布された刊行物であることが明らかな刊行物A(原査定の引用文献1)には、次の事項が記載されている。
刊行物A:特表平6-507903号公報
ア 「1. 1)複数層コアと、2)複数層周辺部とからなる成分を含めてなる制御された放出の薬剤ビーズであって、
上記のコアは、少なくとも(A)適当なヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルカルボン酸を有する内部と、(B)該内部を覆う持続的酸放出被膜とを含有し、
上記の周辺部は、少なくとも(A)少なくとも(i)薬剤化合物および(ii)表面活性剤の混合物を有する内部と、(B)その上の持続的薬剤放出被膜とを含有し、
上記のビーズが適当な水性媒体中で、一般的にpHに依存しない薬剤化合物の制御された放出に有効である量の上記の成分を有している場合の薬剤ビーズ。
…
7. 上記の薬剤化合物が弱塩基である、請求項1のビーズ。
8. 上記の薬剤化合物がベンゾチアゼビン化合物である、請求項1のビーズ。
9. 上記のベンゾチアゼビン化合物がクレンチアゼムである、請求項8のビーズ。
…
12. 適当なヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルカルボン酸を含有する内部コアをつくり、複数層コアを提供するために、これを持続的酸放出被膜で覆い、上記のコアの上に、少なくとも一つの薬剤化合物と一つの表面活性剤との混合物からなる内側周辺部をつくり、これを持続的薬剤放出被膜で覆うことを含めてなる、制御放出用薬剤ビーズの製法。」(請求の範囲)
イ 「本発明の制御放出用の薬学ビーズは、複数層コアと複数層周辺部を含めてなる。コアまたはコア成分は、少なくとも(A)ヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルカルボン酸をもった内部と、その上の(B)持続的酸放出被膜とを含んでいる。
本明細書で使用される用語のヒドロカルビルは、水素と炭素原子からなることを意味し、カルボン酸またはエステルまたは塩類について使用される時は、酸素原子を包含する。適当なヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルカルボン酸類は、一般に固体であり、表面活性剤と連係して、薬剤化合物の共溶解度を高める。これらの酸類はカルボキシ基でのみ置換されその他の部分は炭化水素である有機化合物類である。置換ヒドロカルビルカルボン酸類は有機、特に全部飽和された有機置換基をもったヒドロカルビルカルボン酸類である。適当なヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルカルボン酸は、好ましくはアルキルまたは置換アルキルカルボン酸である。アルキルカルボン酸は、カルボキシ基を除いてすべて飽和されたヒドロカルビルカルボン酸である。置換アルキルカルボン酸は、酸基を除いてすべて飽和されている置換ヒドロカルビルカルボン酸である。酸に複数のカルボキシ官能基が存在するのが有利である。
アルキルカルボン酸としての適当なヒドロカルビルカルボン酸類の例は、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、リンゴ酸、酒石酸、およびクエン酸を包含する。コハク酸が好ましいヒドロカルビルカルボン酸である。」(4頁右上欄10行-左下欄11行)
ウ 「持続的酸放出被膜は、ビーズのコア内部から被膜を通って酸成分の持続的放出を可能とするような被膜である。この被膜は、本発明の完成ビーズのコア内部の酸成分が、その周辺部の内側成分へ放出されるのを可能としている。この被膜によって、持続的薬剤放出被膜を通る薬剤化合物の放出よりも遅い、実質的に線形の速度で、ビーズ内部の酸成分がビーズ周辺部内側部分へ放出出来るようにするのが好ましい。これにより、化合物の全部または実質的に全部が周囲の水性媒体へ放出されてしまうまで、ビーズ周辺部の内側部分に酸が確実に存在できるようにされる。
持続的酸放出被膜は重合体であり得、少量の水溶性および/または水透過性重合体と組み合わせた、一般的に水透過性でない水に不溶性の重合体を含有しうる。その代わりに、持続的酸放出被膜は、やや水透過性で水に不溶性の重合体を単独で、または少量の水溶性および/または水透過性の重合体と組み合わせて含有できる。
水不溶性重合体は、水不溶性セルロース系誘導体類、例えばエチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート(低、中または高分子量)、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、およびセルローストリアセテートを包含しうる。エチルセルロース、特に44-55%のエトキシ含有量をもったエチルセルロースが好ましいセルロース誘導体である。アルコール溶液の形のエチルセルロースを使用するのが好ましい。」(4頁左下欄12行-右下欄14行)
エ 「特に興味があるのはジルチアゼムとクレンチアゼムである。クレンチアゼムは8-クロロジルチアゼムとしても知られ、(+)-シス-(2S,3S)-3-(アセトキシ)-8-クロロ-5-[2-(ジメチルアミノ)エチル]-2,3-ジヒドロ-2-(4-メトキシフェニル)-1,5-ベンゾチアゼピン-4(5H)オンマレエートとして化学的に記述される。
本発明の制御放出用薬学ビーズは、pHに著しく依存した溶解度をもつ薬剤化合物類、特に弱塩基であり、及び/又は人間の消化管内で出会う高めのpH値では難溶性ないし不溶性である化合物類と一緒に使用するのに、とりわけ良好に適合している。例をあげると、ノスカピン、パパベリン、コデイン、テオフィリン、クレンチアゼム、およびヒドロクロロチアジドのような薬剤化合物類は、弱塩基、及び/または水にあまり溶けないか、または事実上不溶性であり、本発明による処方と投与に特によく適合している。」(5頁右下欄19行-6頁左上欄10行)
オ 「持続的薬剤放出被膜は、ビーズからの薬剤化合物の持続的かつ制御された放出を可能とする被膜である。
持続的薬剤放出被膜は重合体であり得、やや水透過性の水不溶性重合体類と、少量の水溶性および/または水透過性重合体類と組み合わせた、一般に水不透過性の水不溶性重合体類とを包含しうる。」(6頁左下欄17-22行)
(3)刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには、「(A)適当なヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルカルボン酸を有する内部と、(B)該内部を覆う持続的酸放出被膜」とを含有する「複数層コア」を、「(A)少なくとも(i)薬剤化合物および(ii)表面活性剤の混合物を有する内部」と、「(B)その上の持続的薬剤放出被膜」とを含有する「複数層周辺部」で覆う「薬剤ビーズ」、そして、該「薬剤ビーズ」は、「適当な水性媒体中で、一般的にpHに依存しない薬剤化合物の制御された放出に有効である量の上記の成分を有している」こと、「薬剤化合物」は、「弱塩基」であること、並びに「クレンチアゼム」であることが記載されている(上記(2)ア)。
これらの点からみて、上記(2)ア-オの摘記事項から、刊行物Aには、
「弱塩基性薬剤化合物を含む制御放出用薬剤ビーズであって、
前記弱塩基性薬剤化合物がクレンチアゼム、および
適当なヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルカルボン酸を含み、
前記ビーズが、持続的酸放出被膜でコーティングされた、適当なヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルカルボン酸含有コア粒子を含み、持続的酸放出被膜上には前記弱塩基性薬剤化合物が積層されており、さらに持続的薬剤放出被膜がコーティングされている、
制御放出用薬剤ビーズ。」
に係る発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されている。
(4)対比
補正発明と刊行物発明とを対比する。
「薬剤ビーズ」は、「薬剤化合物の制御された放出」(上記(2)ア)をなすものであるから、「薬剤ビーズ」は補正発明でいう徐放性を有し、「徐放性ビーズ」といえる。また、「薬剤ビーズ」は、刊行物Aの請求項12の製法からみて、1つ以上の集団を含む医薬多粒子剤形と認められる。
「ヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルカルボン酸」は、「コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、リンゴ酸、酒石酸、およびクエン酸を包含する。コハク酸が好ましいヒドロカルビルカルボン酸である。」(上記(2)イ)との記載に鑑みると、補正発明でいう「薬学的に許容可能な有機酸」であり、「適当なヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルカルボン酸類は、一般に固体であり、表面活性剤と連係して、薬剤化合物の共溶解度を高める。」(上記(2)イ)との記載に鑑みると、溶解剤として働くものと認められる。
「適当なヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルカルボン酸を有する内部」を覆う「持続的酸放出被膜」は、「この被膜によって、持続的薬剤放出被膜を通る薬剤化合物の放出よりも遅い、実質的に線形の速度で、ビーズ内部の酸成分がビーズ周辺部内側部分へ放出出来るようにするのが好ましい。」(上記(2)ウ)との記載に鑑みると、酸成分のコアをコーティングする、補正発明でいう「内側バリアコーティング」に相当し、この「持続的酸放出被膜」により、「薬剤化合物」と「ヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルカルボン酸」は、薬剤ビーズ中で相互に接触することがないものと認められる。
そして、この「持続的酸放出被膜」を覆う「(i)薬剤化合物および(ii)表面活性剤の混合物を有する内部」をさらに覆う「その上の持続的薬剤放出被膜」は、「持続的薬剤放出被膜は、ビーズからの薬剤化合物の持続的かつ制御された放出を可能とする被膜である。」(上記(2)オ)との記載に鑑みると、徐放性(SR)膜と認められる。
「クレンチアゼム」は、「(+)-シス-(2S,3S)-3-(アセトキシ)-8-クロロ-5-[2-(ジメチルアミノ)エチル]-2,3-ジヒドロ-2-(4-メトキシフェニル)-1,5-ベンゾチアゼピン-4(5H)オンマレエート」(上記(2)エ)(注:ここでは、マレイン酸塩として記載されている。)、すなわち、窒素含有薬物または薬学的に許容可能なその塩である。また、「クレンチアゼム」は、「弱塩基、及び/または水にあまり溶けないか、または事実上不溶性」(上記(2)エ)であることに鑑みると、補正発明でいう「弱塩基性薬物」であり、「5~14の範囲内のpKaおよびpH6.8で200μg/mL以下の溶解度」を満たすものと認められる。
これらの点を踏まえると、補正発明と刊行物発明とは、
「少なくとも1つの弱塩基性薬物の、徐放性(SR)ビーズの1つ以上の集団を含む医薬多粒子剤形であって、
前記弱塩基性薬物が、5~14の範囲内のpKaおよびpH6.8で200μg/mL以下の溶解度を有する薬学的に許容可能な窒素(N)含有薬物または薬学的に許容可能なその塩、および
溶解剤としての少なくとも1つの薬学的に許容可能な有機酸を含み、
前記SRビーズが、内側バリアコーティングでコーティングされた有機酸含有コア粒子を含み、前記内側バリアコーティング上には前記弱塩基性薬物が積層されており、さらにSR膜がコーティングされており、
前記弱塩基性薬物および前記有機酸は、前記剤形中で相互に接触することがない、医薬多粒子剤形。」
の点で一致し、次の点で一応相違するものといえる。
<一応の相違点>
・補正発明は「前記有機酸および前記弱塩基性薬物は比較可能な放出プロファイルを示す」のに対し、刊行物発明はこれを特定していない点。
なお、補正発明は、「時限パルス型放出(TPR)ビーズの1つ以上の集団」についても規定されているが、「少なくとも1つの弱塩基性薬物の、徐放性(SR)ビーズの1つ以上の集団、および/または時限パルス型放出(TPR)ビーズの1つ以上の集団を含む医薬多粒子剤形」(下線は当審で追加。)と規定されていることからみて、「徐放性(SR)ビーズ」のみを含む医薬多粒子剤形も本件の補正発明の要旨として認定できる。すなわち、補正発明の「時限パルス型放出(TPR)ビーズ」に関する規定は、相違点とはならない。
(5)判断
一応の相違点について検討する。
まず、上記補正発明の「比較可能な放出プロファイルを示す」との文言における「比較可能な」とは、日本語として理解し難いが、本願出願時の外国語明細書(国際公開第2007/090091号)において「比較可能な」と訳されたと解される「comparable」(上記外国語明細書[0002])との文言は、日本語では「匹敵する」、「同等な」と解するのが相当である。
刊行物Aには、以下の記載がある。
「…上記のビーズが適当な水性媒体中で、一般的にpHに依存しない薬剤化合物の制御された放出に有効である量の上記の成分を有している」(上記(2)ア)
「持続的酸放出被膜は、ビーズのコア内部から被膜を通って酸成分の持続的放出を可能とするような被膜である。この被膜は、本発明の完成ビーズのコア内部の酸成分が、その周辺部の内側成分へ放出されるのを可能としている。この被膜によって、持続的薬剤放出被膜を通る薬剤化合物の放出よりも遅い、実質的に線形の速度で、ビーズ内部の酸成分がビーズ周辺部内側部分へ放出出来るようにするのが好ましい。これにより、化合物の全部または実質的に全部が周囲の水性媒体へ放出されてしまうまで、ビーズ周辺部の内側部分に酸が確実に存在できるようにされる。」(上記(2)ウ)
これらの記載から、刊行物発明の薬剤ビーズは、薬剤化合物の制御放出を企図しており、酸成分は、この薬剤化合物の実質的に全部が放出されてしまうまで確実に存在するよう、放出できるようにしたものといえ、そうすると、刊行物発明において、この酸成分と薬剤化合物とは、同等の放出プロファイルを有するようにされたものといえる。すなわち、これは、補正発明でいう「有機酸および…弱塩基性薬物は比較可能な放出プロファイルを示す」との特徴に相当するものと認められる。
このため、一応の相違点に関し、補正発明と刊行物発明とは実質的に相違しない。
4 むすび
以上のことから、補正発明は、刊行物発明と相違する点が存在せず、刊行物Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しているものと認められるので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
第3 本願発明
上記第2で結論したとおり平成27年6月4日付けの手続補正は却下されたので、本願に係る発明は平成26年11月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-40にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「少なくとも1つの弱塩基性薬物の、徐放性(SR)ビーズの1つ以上の集団、および/または時限パルス型放出(TPR)ビーズの1つ以上の集団を含む医薬多粒子剤形であって、
前記弱塩基性薬物が、5~14の範囲内のpKaおよびpH6.8で200μg/mL以下の溶解度を有する薬学的に許容可能な窒素(N)含有薬物または薬学的に許容可能なその塩、および
溶解剤としての少なくとも1つの薬学的に許容可能な有機酸を含み、
前記SRビーズが、内側バリアコーティングでコーティングされた有機酸含有コア粒子を含み、前記内側バリアコーティング上には前記弱塩基性薬物が積層されており、さらにSR膜がコーティングされており、
前記TPRビーズが、内側バリアコーティングでコーティングされた有機酸含有コア粒子を含み、前記内側バリアコーティング上には前記弱塩基性薬物が積層されており、さらに遅延時間膜がコーティングされており、
前記弱塩基性薬物および前記有機酸は、前記剤形中で相互に接触することがなく、前記有機酸および前記弱塩基性薬物は比較可能な放出プロファイルを示す、医薬多粒子剤形。」
第4 当審の判断
1 引用文献及びその記載事項
原査定において引用され、本願の出願(優先日)前に頒布された刊行物であることが明らかな下記引用文献1は、上記第2の3(2)における刊行物Aと同じ文献であり、したがって、該引用文献1には同箇所に摘示したア-オの事項が記載されている。
引用文献1:特表平6-507903号公報
2 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、上記第2の3(3)において認定した刊行物発明が記載されている。
3 対比・判断
本願発明と刊行物発明とを対比する。
上記第2の3(4)に示した点を踏まえると、両者の間に相違点は存在しない。
4 まとめ
そうすると、本願発明は、刊行物発明と相違する点が存在せず、したがって引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本願については、他の請求項について検討するまでもなく上記理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2015-010611