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特許無効審判

2013-800184

極めて高い機械的特性値をもつ成形部品を被覆圧延鋼板、特に被覆熱間圧延鋼板の帯材から型打ちによって製造する方法

審判番号
2013-800184
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願2001-109121
登録番号
特許第3663145号(P3663145)
請求日
2013年09月27日
審決日
2014年12月10日
公報発行日
2017年05月26日
結論
訂正認容・請求不成立
当事者
  • 【請求人】JFEスチール 株式会社
  • 【請求人代理人】松本 悟
  • 【請求人代理人】奥井 正樹
  • 【被請求人】アルセロールミタル・フランス
  • 【被請求人代理人】特許業務法人川口國際特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 石川 好文
  • 審判官 長屋 陽二郎
  • 審判官 刈間 宏信
分類
P1113.537-YAA(B21J) / P1113.538-YAA(B21J) / P1113.55 -YAA(B21J) / P1113.113-YAA(B21J) / P1113.121-YAA(B21J) / P1113.161-YAA(B21J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法169条2項民事訴訟法61条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第134条の2第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第134条の2第9項、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第169条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

上記当事者間の特許第3663145号発明「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品を被覆圧延鋼板、特に被覆熱間圧延鋼板の帯材から型打ちによって製造する方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

【理 由】 第1.手続の経緯 特許第3663145号(以下、「本件特許」という。)についての手続の経緯は、概ね次のとおりである。 平成13年 4月 6日 本件特許に係る出願(優先権主張2000年4月7日 フランス共和国) 平成16年 1月28日 拒絶理由通知(甲第10号証) 平成16年 7月29日 手続補正書(甲第11号証)及び意見書(甲第12号証) 平成16年10月18日 拒絶理由通知(甲第13号証) 平成17年 1月24日 手続補正書(甲第14号証)及び意見書(甲第15号証) 平成17年 3月10日 特許査定 平成17年 4月 1日 設定登録(特許第3663145号) 平成22年11月 9日 第1次無効審判請求(無効2010-800208号) 平成23年 4月19日 第1次審決(「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」) 平成25年 9月27日 本件無効審判請求書(以下、「審判請求書」という。)提出 平成25年10月24日 [請求人]手続補正書提出 平成26年 1月28日 審判事件答弁書(以下、「答弁書」という。)及び訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)提出 平成26年 3月 7日 [被請求人]手続補正書提出 平成26年 4月11日 審判事件弁駁書(以下、「弁駁書」という。)提出 平成26年 5月 7日 [請求人]手続補正書提出 平成26年 6月 2日 審理事項通知 平成26年 7月15日 [請求人]口頭審理陳述要領書(以下、「請求人要領書(1)」という。)提出 平成26年 8月19日 [被請求人]口頭審理陳述要領書(以下、「被請求人要領書(1)」という。)提出 平成26年 8月29日 審理事項(2)通知 平成26年 9月 5日 [請求人]口頭審理陳述要領書(その2)(以下、「請求人要領書(2)」という。)提出 平成26年 9月 9日 [請求人]口頭審理陳述要領書(その3)(以下、「請求人要領書(3)」という。)提出 平成26年 9月 9日 [被請求人]口頭審理陳述要領書(2)(以下、「被請求人要領書(2)」という。)提出 平成26年 9月 9日 口頭審理 平成26年 9月24日 [請求人]上申書(以下、「請求人上申書」という。)提出 平成26年10月22日 [被請求人]上申書(1)及び上申書(2)(以下、「被請求人上申書(1)」及び「被請求人上申書(2)」という。)提出 平成26年11月21日 補正拒否の決定及び審理集結通知 第2.訂正の適否 1.訂正の内容 平成26年3月7日付け手続補正書により補正された、平成26年1月28日付けの訂正請求は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、請求項1から8までからなる一群の請求項ごとに訂正(以下、「本件訂正」という。)することを求めるものであるところ、本件訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線は、訂正箇所を明確にするために当審で付した。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1において、「鋼板」との記載を「熱処理用鋼板」と訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1において、「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る」との記載を「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保する」と訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1において、「亜鉛-鉄ベース化合物」との記載を「亜鉛-鉄ベース合金化合物」と訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項1において、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物」との記載を「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」と訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項1において、「700℃~1200℃」との記載を「800℃~1200℃」と訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項1において、「高温を作用させる」との記載を「高温を2~10分間作用させる」と訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項1において、「型打ちされた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度でさらに冷却する段階と」との記載を追加する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項4において、「700℃~1200℃の高温」との記載を「800℃~1200℃の高温」と訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項4及び請求項8において、「鋼板」との記載を「熱処理用鋼板」と訂正する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項4において、「請求項2に記載の方法」との記載を「請求項1に記載の方法」と訂正する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項7において、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物」との記載を「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」と訂正する。 (13)訂正事項13 特許請求の範囲の請求項8において、「残部が鉄と不可避不純物である」との記載を追加する。 (14)訂正事項14 特許請求の範囲の請求項8において、「請求項1から7のいずれか一項」との記載を「請求項1及び3から7のいずれか一項」と訂正する。 2.訂正の目的の適否 (1)訂正事項1 訂正事項1は、「鋼板」との記載を、技術的に限定した「熱処理用鋼板」に訂正するものであるから、当該訂正の目的は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮に該当する。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る」との記載を、より明確な「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保する」と訂正するものであるから、当該訂正の目的は、特許法第134条の2第1項ただし書き第3号の明瞭でない記載の釈明に該当する。 (3)訂正事項3 訂正事項3は、「亜鉛-鉄ベース化合物」との記載を、より明確な「亜鉛-鉄ベース合金化合物」と訂正するものであるから、当該訂正の目的は、特許法第134条の2第1項ただし書き第3号の明瞭でない記載の釈明に該当する。 (4)訂正事項4 訂正事項4は、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物」との記載を、より明確な「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」と訂正するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第3号の明瞭でない記載の釈明に該当する。 (5)訂正事項5 訂正事項5は、「700℃~1200℃」との記載を、数値範囲を限定した「800℃~1200℃」と訂正するものであるから、当該訂正の目的は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮に該当する。 (6)訂正事項6 訂正事項6は、「高温を作用させる」との記載を、加熱時間を限定した「高温を2~10分間作用させる」と訂正するものであるから、当該訂正の目的は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮に該当する。 (7)訂正事項7 訂正事項7は、「型打ちされた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度でさらに冷却する段階と」との記載を追加して、技術的に限定するものであるから、当該訂正の目的は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮に該当する。 (8)訂正事項8 訂正事項8は、請求項2を削除するものであるから、当該訂正の目的は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮に該当する。 (9)訂正事項9 訂正事項9は、「700℃~1200℃の高温」との記載を、数値範囲を限定した「800℃~1200℃」と訂正するものであるから、当該訂正の目的は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮に該当する。 (10)訂正事項10 訂正事項10は、「鋼板」との記載を、技術的に限定した「熱処理用鋼板」に訂正するものであるから、当該訂正の目的は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮に該当する。 (11)訂正事項11 訂正事項11は、「請求項2に記載の方法」との記載を、訂正事項8との整合を図るために「請求項1に記載の方法」と訂正するものであるから、当該訂正の目的は、特許法第134条の2第1項ただし書き第3号の明瞭でない記載の釈明に該当する。 (12)訂正事項12 訂正事項12は、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物」との記載を、より明確な「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」と訂正するものであるから、当該訂正の目的は、特許法第134条の2第1項ただし書き第3号の明瞭でない記載の釈明に該当する。 (13)訂正事項13 訂正事項13は、「残部が鉄と不可避不純物である」との記載を追加して、鋼板の組成をより明確にするものであるから、当該訂正の目的は、特許法第134条の2第1項ただし書き第3号の明瞭でない記載の釈明に該当する。 (14)訂正事項14 訂正事項14は、「請求項1から7のいずれか一項」との記載を、訂正事項8との整合を図るために「請求項1及び3から7のいずれか一項」と訂正するものであるから、当該訂正の目的は、特許法第134条の2第1項ただし書き第3号の明瞭でない記載の釈明に該当する。 (15)訂正の目的の適否のむすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書きの規定に適合する。 3.新たな技術的事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正が、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項でいう「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。 以下、訂正事項ごとに、新たな技術的事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否を検討する。 (1)訂正事項1から7まで 訂正事項1から7までは、いずれも請求項1に係る発明を訂正するものであるところ、訂正事項1については、願書に添付した明細書の段落【0014】に「本発明の方法では、・・・熱処理用または熱成形用の鋼板から・・・熱成形部品を製造する」と記載されており、また、訂正後の「熱処理用鋼板」は、技術的にみて、訂正前の「鋼板」に含まれるものであって、新たな技術的事項ではない。 訂正事項2については、「し得る」を「する」と表現を変えたのみであり、新たな技術的事項を含むものではない。 訂正事項3及び4については、願書に添付した明細書の段落【0005】の「鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る金属間合金化合物で表面を被覆する」という記載や、段落【0007】の「金属間合金が亜鉛-鉄ベース化合物または亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物である」という記載からみて、「亜鉛-鉄ベース化合物」や、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物」が「金属間合金化合物」であること、すなわち「亜鉛-鉄ベース合金化合物」や「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」であることは明らかであり、訂正後の「亜鉛-鉄ベース合金化合物」や「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」は、新たな技術的事項を含むものではない。 訂正事項5については、願書に添付した図面の図1に「800-1200℃の温度で2分-10分」と記載されており、また、訂正後の「800℃~1200℃」という数値範囲は、訂正前の「700℃~1200℃」という数値範囲に包含されているから、新たな技術的事項ではない。 訂正事項6については、願書に添付した図面の図1に「800-1200℃の温度で2分-10分」と記載されているし、訂正前の「高温を作用させる」ことは、当然に何らかの加熱時間が存在することを意味するから、訂正前の請求項1に係る方法は、何らかの加熱時間を包含していたということができ、訂正後の「2~10分間」は、新たな技術的事項ではない。 訂正事項7については、願書に添付した明細書の段落【0007】に「主として型打ちによって得られた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度で冷却することによって焼入れする」と記載されているし、訂正前の請求項1を引用する請求項5に「型打ちされた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度で冷却することによって焼入れすることを特徴とする請求項1に記載の方法。」と記載されているから、訂正事項7の冷却速度は、訂正前の請求項1に係る方法に包含されており、新たな技術的事項ではない。 以上から、訂正事項1から7までは、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。 また、訂正事項1から7までが、実質上特許請求の範囲を拡張するものでなく、変更するものでもないことは明らかであって、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項8、11及び14 訂正事項8、11及び14が、新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかであるし、実質上特許請求の範囲を拡張するものでなく、変更するものでもないことは明らかであるから、いずれも、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び6項の規定に適合する。 (3)訂正事項9、10及び12 訂正事項9は、訂正事項5と同様の訂正をするものであり、訂正事項10は、訂正事項1と同様の訂正をするものであり、訂正事項12は、訂正事項4と同様の訂正をするものであるから、上記(1)と同様の理由により、いずれも、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び6項の規定に適合する。 (4)訂正事項13 願書に添付した明細書の段落【0028】に「1つの実施態様では、以下の重量組成をもつ鋼から熱間圧延鋼板の帯材を製造する:炭素:0.15%-0.25% マンガン:0.8%-1.5% ケイ素:0.1%-0.35% クロム:0.01%-0.2% チタン:0.1%以下 アルミニウム:0.1%以下 リン:0.05%以下 イオウ:0.03%以下 ホウ素:0.0005%-0.01%」との記載があり、また、鋼が鉄及び不可避不純物を含有することは技術常識であるから、訂正事項13は、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。 また、訂正事項13が、実質上特許請求の範囲を拡張するものでなく、変更するものでもないことは明らかであって、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 (5)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否のむすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び6項の規定に適合する。 4.新規事項に関する請求人の主張 請求人は、弁駁書第2ページ第5行から第8ページ第8行までにおいて、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載した「亜鉛または亜鉛ベース合金で被覆された」熱処理用鋼板ブランクに「800℃~1200℃の高温を2~10分間作用させる」ことにより、「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物を熱処理により熱処理用鋼板ブランクの表面に生じさせる」ことは、願書に添付した明細書及び図面には記載されていないから、新規事項に該当する旨を主張している。 しかし、上記3.(1)で説示したように、訂正事項1から7までによる訂正によっては、新たな技術的事項は何ら導入されていない。 したがって、請求人の上記の主張は採用することができない。 5.訂正の適否のむすび 本件訂正は、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的とし、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 よって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、並びに同条第5項において準用する同法第126条第3項及び4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。 第3.本件特許発明 上記第2.のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の特許請求の範囲に記載された発明(以下、「本件特許発明」といい、各請求項に係る発明を「特許発明1」などという。)は、本件訂正請求書に添付した訂正明細書(以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1から8までに記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 熱処理用鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する、亜鉛または亜鉛ベース合金で被覆された圧延熱処理用鋼板の帯材を型打ちすることによって成形された部品を製造する方法であって、 熱処理用鋼板を裁断して熱処理用鋼板ブランクを得る段階と、 熱処理用鋼板ブランクを熱間型打ちして部品を得る段階と、 型打ち前に、腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保する、亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物を熱処理により熱処理用鋼板ブランクの表面に生じさせる段階と、ここで該熱処理は熱処理用鋼板ブランクに800℃~1200℃の高温を2~10分間作用させるものであり、 型打ちされた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度でさらに冷却する段階と、 型打ち処理に必要であった熱処理用鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階と、 を含んで成る方法。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 被膜を形成する亜鉛または亜鉛ベース合金が5μm-30μmの範囲の厚みであることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項4】 炉中で熱処理用鋼板ブランクに800℃~1200℃の高温を作用させ、且つ炉中雰囲気が管理されていないことを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項5】 型打ちされた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度で冷却することによって焼入れすることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項6】 作用させる高温が900℃を上回り、かつ1200℃以下であることを特徴とする請求項4に記載の方法。 【請求項7】 亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物がケイ素を含有することを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項8】 請求項1及び3から7のいずれか一項に記載の方法に用いられる被覆された熱処理用鋼板であって、前記熱処理用鋼板の被覆される前の熱処理用鋼板が0.15-0.25重量%の炭素、0.8-1.5重量%のマンガン、0.1-0.35重量%のケイ素、0.01-0.2重量%のクロム、0.1重量%以下のチタン、0.1重量%以下のアルミニウム、0.05重量%以下のリン、0.03重量%以下のイオウ及び0.0005-0.01重量%のホウ素を含み、残部が鉄と不可避不純物であることを特徴とする熱処理用鋼板。」 第4.無効理由、無効理由に対する答弁及び証拠方法 1.請求人主張の無効理由 請求人は、審判請求書において、本件特許の特許発明1及び3から8までについての特許を無効とする、との審決を求め、以下の無効理由1から6までを主張している。 (1)無効理由1(明確性及びサポート要件) 特許発明1及び3から8までに係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。 (2)無効理由2(新規事項違反) 特許発明1及び3から8までに係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。 (3)無効理由3(実施可能要件) 特許発明1及び3から8までに係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。 (4)無効理由4(新規性) 特許発明8に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 (5)無効理由5(進歩性) 特許発明1及び3から8までに係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 (6)無効理由6(拡大先願) 特許発明1、3、4及び8に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 2.無効理由に対する被請求人の答弁 被請求人は、答弁書において、本件無効審判の請求は成り立たない、との審決を求めている。 3.証拠方法 (1)請求人 請求人は、証拠方法として、審判請求書において以下の甲第1号証から甲第20号証(以下、各甲号証を指摘する場合は、「甲1」などという。)までを提出し、弁駁書において以下の甲21から甲26までを提出し、請求人要領書(1)において以下の甲27を提出し、請求人要領書(3)において以下の甲27の2から甲31までを提出した。なお、請求人要領書(3)の「甲第27号証」は、口頭審理において「甲第27号証の2」と訂正された(第1回口頭審理調書 「請求人 2」参照。)。また、以下の甲号証は、いずれも写しであるので、「写し」との表記を省略する。 甲1:特許第3663145号公報(本件特許公報) 甲2:「第100回講演大会 講演要旨集」(社団法人 表面技術協会、平成11年9月17日発行、第260ページから第262ページまで) 甲3:特開平3-249162号公報 甲4:「表面設計基礎講座(第IV講) 溶融めっき」(色材,68〔5〕,301-309(1995)、第301ページから第309ページまで) 甲5:特願2004-221430号の出願(本件特許に係る出願の分割出願)における平成18年5月22日付け意見書 甲6:本件特許に対応する欧州特許の欧州特許庁における異議申立ての決定及びその翻訳文 甲7:本件特許に係る出願における早期審査に関する事情説明書 甲8:知財高裁平成24年(行ケ)第10151号判決 甲9:特開2001-353548号公報(本件特許に係る出願の公開公報) 甲10:本件特許に係る出願における平成16年1月28日付け拒絶理由通知書 甲11:本件特許に係る出願における平成16年7月29日付け手続補正書 甲12:本件特許に係る出願における平成16年7月29日付け意見書 甲13:本件特許に係る出願における平成16年10月18日付け拒絶理由通知書 甲14:本件特許に係る出願における平成17年1月24日付け手続補正書 甲15:本件特許に係る出願における平成17年1月24日付け意見書 甲16:「マテリアル工学シリーズ2 材料組織学」(高木節雄 外1名著、株式会社朝倉書店、2000年2月20日初版第1刷、2008年3月20日初版第8刷発行、第63ページから第65ページまで、第142ページから第143ページまで) 甲17:「鉄と鋼 日本鉄鋼協会第108回講演大会 講演概要集(II)」(No.13 VOL.70 SEP.1984 第60ページ) 甲18:特開2000-38640号公報 甲19:「塑性加工(改訂版)」(鈴木弘 編、株式会社裳華房、昭和59年2月20日改訂第26版発行、第14ページ) 甲20:特開2000-234153号公報(特願平11-240408号の願書に最初に添付した明細書) 甲21:特許庁の「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正」(新規事項)についての審査基準 甲22:「化学大辞典2縮刷版」(化学大辞典編集委員会 編、共立出版株式会社、1963年8月25日縮刷版第1刷、2003年10月1日縮刷版第38刷発行、第355ページ) 甲23:「広辞苑」第五版第648ページ 甲24:「化学大辞典2縮刷版」(化学大辞典編集委員会 編、共立出版株式会社、1963年8月25日縮刷版第1刷、2003年10月1日縮刷版第38刷発行、第915及び916ページ) 甲25:英国特許第1490535号明細書 甲26:「若い技術者のための機械・金属材料-増補版-」(矢島悦次郎 外2名著、丸善株式会社、昭和54年11月30日初版第1刷、昭和55年9月20日初版第2刷発行、第140ページ) 甲27:「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第18版〕」(特許庁 編、社団法人発明協会、第368ページから第372ページまで) 甲27の2:「鉄と鋼」(Vol.79(1993)No.11、第57ページから第61ページまで) 甲28:欧州特許第1143029号明細書 甲29:「化学辞典」(大木道則 外3名編、株式会社東京化学同人、1994年10月1日第1版第1刷、2003年4月1日第1版第7刷発行、表紙の裏のページ、第892ページ) 甲30:「化学大辞典6縮刷版」(化学大辞典編集委員会 編、共立出版株式会社、昭和38年12月15日縮刷版第1刷、昭和43年1月10日縮刷版第4刷発行、第87ページ) 甲31:「化学大辞典2縮刷版」(化学大辞典編集委員会 編、共立出版株式会社、昭和38年8月25日縮刷版第1刷、昭和42年9月10日縮刷版第4刷発行、第355ページ、第915ページ及び第916ページ) (2)被請求人 請求人は、証拠方法として、答弁書において以下の乙第1号証から乙第13号証(以下、各乙号証を指摘する場合は、「乙1」などという。)までを提出し、被請求人要領書(1)において以下の乙14から乙23までを提出し、被請求人要領書(2)において以下の乙24から乙29までを提出し、被請求人上申書(1)において以下の乙30から乙33までを提出し、被請求人上申書(2)において乙19、乙22、乙23、乙25及び乙26の抄訳文を提出した。なお、以下の乙号証は、乙18及び乙20を除き、いずれも写しであるので、「写し」との表記を省略する。 乙1:「Thoughness and residual stresses in galvanizing coatings」(JOURNAL OF MATERIALS SCIENCE LETTERS 12 (1993) 第1340ページから1343ページまで及びその抄訳文) 乙2:「Fine structure at the diffusion welded interface of Fe3Al/Q235 dissimilar materials」(Bull.Mater.Sci.,vol.24,No.6,December 2001, 第639ページから642ページまで及びその抄訳文) 乙3:欧州特許出願公開第1439240号明細書及びその抄訳文 乙4:特開2010-90464号公報 乙5:インタープレス版科学技術35万語大辞典(藤岡啓介 外1名編、株式会社アイピーシー、1990年11月7日初版第1刷発行、第182ページ) 乙6:広辞苑第四版(新村出 編、株式会社岩波書店、1991年第4版第1刷発行、第640ページ) 乙7:本件特許に対応する欧州特許出願1143029A1号に関する鑑定書(クロード・ルルー作成)及びその翻訳文 乙8:マグローヒル科学技術用語大辞典第3版第544ページ 乙9:国際公開第2008/102012号及びその抄訳文 乙10:「Corrosion resistance of zinc based and aluminized coatings on press-hardened steels for Automotive」(3rd International Conference on Hot Sheet Metal Forming of High-Performance Steel, June 2011, Kassel及びその抄訳文) 乙11:「CATALOGUE2000」(USINOR Auto GROUPE USINOR、第63ページ、第95ページから第98ページまで及びその抄訳文) 乙12:22MnB5鋼についてのTRC曲線(ドミニクカプラン作成(第1回口頭審理 被請求人2」参照。)) 乙13:「Phenomenological Thermo-Physical Approach on Process Monitoring in Hot Stamping of Coated Boron Steel」(The 4th International Conference on Hot Sheet Metal Forming of High Performance Steel. Lulea, June 9-12,2013 第239ページから第248ページまで及びその抄訳文) 乙14:「The BOOK OF STEEL」(INTERCEPT LTD、1996、第996ページから第1008ページまで及びその抄訳文) 乙15:特開平8-325790号公報 乙16:「亜鉛めっき鋼板の高潤滑性皮膜」(落合忠昭 外5名著、新日鉄技報第378号(2003)、第43ページから第45ページまで) 乙17:クロード・ルルー氏の職務経歴書(Professional curcus)及びその抄訳文(被請求人作成(第1回口頭審理調書「被請求人2」参照。)) 乙18:クロード・ルルー氏の宣言書(原本)及びその抄訳文 乙19:ArcelorMittal Automotive Worldwideの製品検索ページ及びその抄訳文(被請求人上申書(2)添付) 乙20:PRODUCTS AND SERVICES September 1996のカタログ(原本)及びその抄訳文 乙21:「鋼のおはなし」(大和久重雄 書、1984年2月3日第1版第1刷、2012年4月20日第1版第35刷発行、第136ページ) 乙22:「The BOOK OF STEEL」(INTERCEPT LTD、1996、第142ページから第146ページまで及びその抄訳文(被請求人上申書(2)添付)) 乙23:「Development of Pre-coated Boron Steel for Applications on PSA Peugeot Citro▲e▼n and RENAULT Bodies in White」(なお、「▲e▼は、「e」にフランス語の分音記号(トレマ)が記載された文字を表す。) 乙24:「電気Zn-Ni合金めっき層の腐食割れ挙動」(鉄と鋼 第77年(1991)第7号、第304ページから第310ページまで及びその抄訳文(被請求人上申書(2)添付)) 乙25:「A NOTE ON THE ZINC-RICH ALLOYS OF THE SYSTEM ZINC-IRON-NICKEL」(JOURNAL OF THE INSTITUTE OF METALS、1957-58 Vol.86 第269ページから第271ページまで及びその抄訳文(被請求人上申書(2)添付)) 乙26:「Thermodynamic Description of Dross Formation when Galvanizing Silicon Steels in Zinc-Nickel Baths」(Journal of Phase Equilibria Vol.15 No.5 1994、第479ページから第482ページまで及びその抄訳文(被請求人上申書(2)添付)) 乙27:特開平9-202952号公報 乙28:特開平9-111424号公報 乙29:特開平11-36058号公報 乙30:特開平6-25887号公報 乙31:特開平11-199956号公報 乙32:「新明解国語辞典第三版」(見坊豪紀 外4名編、株式会社三省堂、1984年3月20日第27刷発行、第232ページ) 乙33:知財高裁平成20年(行ケ)第10096号判決 第5.当事者の主張 1.無効理由1(明確性及びサポート要件)について 1-1.特許発明1及び3の「亜鉛ベース合金」についての記載不備 [請求人] (1)「亜鉛ベース合金」についての記載不備(その1) ア.「亜鉛ベース合金」にアルミニウムが含有されていることが記載されていないから、どのようにして「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」が生じるのか明らかでなく、「亜鉛ベース合金」は明確でない(請求書第18ページ第17行から第20ページ第5行まで)。 イ.熱処理後の「亜鉛ベース合金化合物」は、「亜鉛-鉄合金」を含むと解されるが、「亜鉛-鉄合金」は潤滑機能を有さないものであるから、その内容が不明である(弁駁書第11ページ第6行から同ページ下から第4行まで、及び請求人要領書(1)第4ページ第7から11行まで)。 (2)「亜鉛ベース合金」についての記載不備(その2) ア.「亜鉛ベース合金」という記載では、どのような成分の合金が含まれるのか全く明らかでなく、「亜鉛ベース合金」から「亜鉛-鉄ベース合金化合物」を生じさせることは、発明の詳細な説明に記載されていない(請求書第20ページ第6行から第21ページ第3行まで)。 イ.被請求人は、亜鉛はアルミニウムなどの融点と比較してはるかに低い融点を有すると主張するが、亜鉛-鉄合金めっきなどの合金めっきでは、アルミニウムに比べはるかに低い融点とはいえないから、被請求人の当該主張は、被覆が純亜鉛めっきしか範疇にないからとしか考えられない(弁駁書第8ページ下から第10行から最終行まで、及び請求人要領書(1)第2ページ第5行から第3ページ第7行まで)。 ウ.被請求人は、本件特許の出願の審査過程において、「亜鉛ベース合金」は「亜鉛アルミニウム被覆」に対応するように限定した旨の主張(甲15)をして特許を受けており、本件無効審判において、「亜鉛ベース合金」の合金成分に、アルミニウム以外に、鉄、ニッケル、クロム、アルミニウムとマグネシウム等の合金成分を含むと主張することは、禁反言の法理に照らして許されない(弁駁書第10ページ第7行から第11ページ第5行まで、及び請求人要領書(1)第3ページ下から第2行から第4ページ第6行まで)。 エ.上記(1)イ.と同じ(請求人要領書(1)第4ページ第7から11行まで)。 (3)「亜鉛ベース合金」についての記載不備(その3) ア.「亜鉛ベース合金」は、様々な亜鉛合金を含むものであるが、発明の詳細な説明には、「亜鉛-アルミニウム合金」からなる「亜鉛ベース合金」しか記載されていないから、発明の詳細な説明にサポートされていない(請求書第21ページ第4行から第22ページ第2行まで)。 イ.被請求人は、「亜鉛ベース合金」がアルミニウム以外の合金成分を含む例として、乙3、乙9及び乙10を提出しているが、いずれも本件特許の出願後に公開されたもので、本件特許の出願時の技術常識を立証するものとはいえない(弁駁書第9ページ第1行から第10ページ第6行まで、及び請求人要領書(1)第3ページ第8行から同ページ下から第3行まで)。 ウ.上記(2)ウ.と同じ(請求人要領書(1)第3ページ下から第2行から第4ページ第6行まで)。 エ.被請求人が主張する乙14からは、鉄やニッケルの含有量が1-50%というように広範囲な「亜鉛-鉄合金」を被覆した被覆鋼板、「亜鉛-ニッケル合金」を被覆した被覆鋼板が技術常識であったとはいえない。本件特許発明の被覆鋼板は、電気めっきを想定していないから、「亜鉛ベース合金」の解釈を、亜鉛-ニッケルめっきのような電気めっきにまで広げることは不可能である。乙14からは、アルミニウム以外の合金成分について、どのような合金成分が、どの程度含まれることが技術常識であるのか明確ではない(請求人要領書(2)第2ページ第6行から第4ページ下から第4行まで)。 (4)「亜鉛ベース合金」についての記載不備(その4) ア.実施例2に記載された「50-55%のアルミニウムと45-50%の亜鉛」とからなる被膜は、アルミニウムベース合金であり、亜鉛ベース合金とはいえないから、「亜鉛ベース合金」の実施例はない(請求書第22ページ第3行から第23ページ第3行まで)。 イ.被請求人は、亜鉛50%及びアルミニウム50%の被覆の場合は「亜鉛ベース合金」に包含される旨、主張しているが、当該主張は都合のよいところを取り出した恣意的なものであり、亜鉛ベース合金の実施例とならないことは明らかである(弁駁書第12ページ第11行から第14ページ第9行まで、及び請求人要領書(1)第4ページ下から第9行から第7行まで)。 (5)「合金」という用語について 「合金」は、「固溶体、金属間化合物、あるいは金属相の混合物として2種以上の元素を含む金属生成物」(乙第8号証参照。)を意味するが、本件特許における「合金」は、金属間化合物を除く「固溶体、あるいは金属相の混合物として2種以上の元素を含む金属生成物」のみを意味する(請求人要領書(3)第4ページ第11行から第7ページ第16行まで)。 [被請求人] (1)「亜鉛ベース合金」についての記載不備(その1) ア.「亜鉛ベース」とは亜鉛が最も重要な金属で最も多量に存在する金属であると解されるべきである。熱処理により生じる合金化合物が「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」である場合には、加熱前の被覆である亜鉛ベース合金中に亜鉛以外の他の合金成分としてアルミニウムを含むことを当業者は当然に理解する(答弁書第13ページ下から第7行から第15ページ第11行まで)。 イ.潤滑機能の確保とは、特段の問題を生ずることなく、プレス成形を行うことができる機能である。亜鉛-鉄合金が被覆された熱処理用鋼板の熱処理により、鋼板の鉄が亜鉛-鉄合金中にさらに移動することができ、全体として鉄の比率がより多い亜鉛-鉄ベース合金化合物が形成されることが理解できる。亜鉛-鉄合金被膜と、熱処理により得られる亜鉛-鉄ベース合金化合物との間には何ら矛盾する点は存在しない(被請求人要領書(1)第9ページ第14行から第11ページ第14行まで)。 (2)「亜鉛ベース合金」についての記載不備(その2) ア.「亜鉛ベース合金」は亜鉛が最も重要な金属として最も多量に存在する合金であると解され、亜鉛と合金を形成できる成分であればいずれの金属をも含有できることは明らかである。また、「亜鉛ベース合金」には「亜鉛-鉄合金」も含まれるから、「亜鉛-鉄合金」被膜があらかじめ形成されている場合には、熱処理により「亜鉛-鉄ベース合金化合物」が形成されることは明らかである(答弁書第15ページ第12行から第16ページ下から第5行まで) イ.「亜鉛-鉄めっき」の最外層はζ相であり(甲2)、ζ相の融点はアルミニウムの融点よりはるかに低い。本件発明における鋼板ブランクの被覆層の融点に関する問題点は、純亜鉛めっきだけでなく、他の亜鉛ベース合金にも共通するものである(被請求人要領書(1)第6ページ下から第6行から第7ページ下から第8行まで)。 ウ.被請求人は、「亜鉛ベース合金」が「亜鉛アルミニウム被覆」に対応するように限定した旨の主張は全くしていない。「亜鉛ベース合金」が、合金成分として、アルミニウム、鉄、ニッケルなどを含むものであることは、本件特許の優先権主張日当時の技術常識(乙14)である(被請求人要領書(1)第8ページ下から第14行から第9ページ第13行まで)。 (3)「亜鉛ベース合金」についての記載不備(その3) ア.当業者は、本件特許明細書及び乙3、乙9及び乙10等を参酌することにより、「亜鉛ベース合金」における亜鉛以外の種々の他の合金成分を容易に理解できる(答弁書第16ページ下から第4行ないし第17ページ下から第7行)。 イ.本件特許の優先日前に発行された乙14には、亜鉛-アルミニウム合金の被膜、亜鉛-鉄合金の被膜、亜鉛-ニッケル合金の被膜などが記載されており、係る記載に基づけば、亜鉛ベース合金の合金成分として、アルミニウム、鉄、ニッケルなどが含まれることが技術常識であった(被請求人要領書(1)第6ページ下から第7行から第8ページ第19行まで)。 (4)「亜鉛ベース合金」についての記載不備(その4) ア.亜鉛50%及びアルミニウム50%の被覆の場合は、亜鉛の含有量が最も多く、その含有量も50%であるので、「亜鉛ベース合金」に包含される(答弁書第17ページ下から第6行から第19ページ第2行まで)。 イ.実施例2において、亜鉛50%及びアルミニウム50%の被覆の場合は、亜鉛の含有量が最も多く、その含有量は50%であるから、亜鉛が最も重要な金属で最も多量に存在する金属である「亜鉛ベース合金」に包含される(被請求人要領書(1)第11ページ下から第5行から第12ページ下から第5行まで)。 (5)「合金」という用語について ア.本件特許における「合金」は、「固溶体、金属間化合物、あるいは金属相の混合物として2種以上の元素を含む金属生成物」を意味する(被請求人要領書(2)第2ページ第16から19行まで)。 イ.本件特許における「合金」は、「金属間化合物」を含むものである。本件明細書では、合金から金属間化合物を除く旨の記載をしていないし、金属間化合物の被膜を熱処理することにより、別の形の金属間化合物を形成することができる(被請求人上申書(1)第11ページ第20行から第12ページ下から第11行まで)。 1-2.特許発明1の「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物」、特許発明7の「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」についての記載不備 [請求人] ア.「亜鉛-鉄ベース合金化合物」、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」という記載は不明確である。発明の詳細な説明には、亜鉛-鉄ベース合金化合物として具体的に記載されているのは、「Fe-Zn合金」又は「亜鉛マトリックス中の球状化Zn-Fe合金」のみ(本件明細書の段落(以下、単に「段落」という。)【0030】、【0031】)であり、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」については、「亜鉛とアルミニウムと鉄とが合金化」した「亜鉛-アルミニウム-鉄被膜」(段落【0038】)が記載されているだけであるから、「亜鉛-鉄ベース合金化合物」は、「亜鉛-鉄合金化合物」と記載すべきものであり、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」は、「亜鉛-鉄-アルミニウム合金化合物」と記載すべきものである。また、マーカッシュ形式の記載にしたがえば、亜鉛にアルミニウム以外の他の合金成分が含まれた場合には、「亜鉛-鉄-X合金化合物」となるはずであるが、そのような合金化合物は発明の詳細な説明にサポートされていない(請求書第23ページ第4行から第24ページ第7行まで)。 イ.被請求人は、本件特許に係る出願の審査過程において亜鉛-鉄ベース合金化合物又は亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物は、Fe-Zn合金と、亜鉛-アルミニウム-鉄合金に対応するようにきわめて特定のものに限定した旨の主張(甲15)をして特許を受けておきながら、本件無効審判において、「亜鉛-鉄ベース合金化合物」には、亜鉛及び鉄が少なくとも50%含有されるのであれば、亜鉛及び鉄以外の他の成分として、いずれの金属を50%以下含有することができると主張することは、禁反言の法理に照らし、許されない。「亜鉛-鉄ベース合金化合物」は、「亜鉛-鉄合金化合物」と限定して解釈するべきであり、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」は、「亜鉛-鉄-アルミニウム合金化合物」と限定して解釈するべきである(弁駁書第14ページ第10行から第15ページ下から第7行まで、請求人要領書(1)第4ページ下から第5行から第2行まで、及び請求人要領書(2)第6ページ下から第2行から第9ページ第2行まで)。 ウ.「合金化合物」は「金属間合金化合物」の意味であり、「ベース」は、被請求人が主張するような「合金」ではなく、「合金化合物」が「亜鉛-鉄」、「亜鉛-鉄-アルミニウム」をベースとすると解すべきものである。「化合物」は、「原則として定比例の法則に従う。すなわち各元素の結合割合は一つの化合物については常に一定であって、混合物とは区別される。」(甲22)から、合金固溶体と「合金化合物」が区別されるのは明らかである。また、金属間合金化合物、すなわち金属間化合物は、通常任意の金属間あるいは組成でできるものではない(乙24)から、「亜鉛-鉄ベース合金化合物」は、被請求人の主張するような「他の成分として、いずれの金属を50%以下含有することができる」ものではなく、組成が特定された「亜鉛-鉄合金化合物」であると解される。また、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」も、組成が特定された「亜鉛-鉄-アルミニウム合金化合物」と解される(弁駁書第15ページ下から第6行から第18ページ第13行まで、及び請求人要領書(1)第4ページ下から第5行から第2行まで)。 エ.被請求人は「亜鉛ベース合金」から「亜鉛-鉄ベース合金化合物」が生じる旨、主張しているが、「亜鉛」からも「亜鉛-鉄ベース合金化合物」が生じるから、両者の関係が明確でない。また、被請求人は、「亜鉛-鉄ベース合金化合物」は、亜鉛及び鉄が少なくとも50%含有される旨、主張しているが、鉄の量が多い場合、亜鉛がきわめて少なくなるところ、被請求人は「亜鉛ベース合金」が亜鉛が最も多量である旨、主張しており、亜鉛が最も多量に存在する「亜鉛ベース合金」から、亜鉛がきわめて少なくなる「亜鉛-鉄ベース合金化合物」が生じるのは矛盾する。「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」について、亜鉛の含有量は、他の合金成分より少なくなる場合があるから、亜鉛が最も多量に存在する「亜鉛ベース合金」から、亜鉛が他の合金成分より少ない「亜鉛-鉄ベース合金化合物」が生じることはあり得ない(弁駁書第18ページ第14行から第19ページ第15行まで、及び請求人要領書(1)第4ページ下から第5行から第2行まで)。 オ.被請求人は、「亜鉛-ニッケル合金」から、熱処理により、金属間化合物である「亜鉛-ニッケル-鉄合金化合物」が形成される旨、主張しているが、そのような合金化合物は明細書に記載されていないし、技術常識でもない(請求人要領書(2)第4ページ下から第3行から第6ページ下から第6行まで)。 カ.「Zn(亜鉛)またはAl/Zn(亜鉛-アルミニウム合金)で被覆された熱処理用鋼板」以外の特許発明1の「亜鉛または亜鉛ベース合金で被覆された圧延熱処理用鋼板」は、発明の詳細な説明に記載されていないから、特許発明1は、本件特許発明の課題が解決できると当業者が認識できるとはいえない(請求人要領書(2)第9ページ第5行から第12ページ第10行まで)。 キ.本件特許における「合金化合物」は、いわゆる金属間化合物のみを意味する(請求人要領書(3)第2ページ第9行から第4ページ第10行まで)。 ク.乙24には、「金属間化合物」について何ら言及がない。 乙25には、Zn-Niめっき鋼板を800~1200℃に加熱したときにT結晶(Fe6Ni5Zn89)が形成されることは示されていない。 乙26には、めっき層の一部がΓ2相(Fe6Ni5Zn89)に変態したことが示されていない。 乙27には、Zn-Fe-Al-Ni4元系合金が金属間化合物であることが示されていない。 乙28には、800℃付近で「亜鉛-鉄-アルミニウム-ニッケル」の金属間化合物が形成される示唆があるかもしれないが、この合金化合物の相は、「硬度はあまり高くないが、脆弱な相であるために鋼板が加工されると一番先にダメージを受けて内部で凝集破壊を起こし、めっき密着性に対してやはり悪影響を及ぼす」ものであるから、本件発明の課題を解決しない。 そもそも、金属間化合物は、それぞれ固有の融点を有しており、加熱温度によって生成したり、消滅したりするものであり、例えば鉄-亜鉛ベース合金化合物であれば、Fe3Zn10の融点は782℃、FeZn7の融点は665℃、FeZn13の融点は530℃であり、それぞれの融点以上の温度域においては、金属間化合物は溶融することにより消滅するが、乙25や乙26のFe6Ni5Zn89の融点が示されておらず、800℃から1200℃の温度域でZn-Ni-Feの3元系金属間化合物が存在することは何ら示されていない(請求人上申書第2ページ第8行から第5ページ第13行まで)。 ケ.乙24から乙26までのいずれにも、亜鉛とニッケルの合金で鋼板を被覆して、800~1200℃で熱処理することにより、亜鉛、ニッケル及び鉄との間で金属間化合物(合金化合物)が形成されることについては記載がないから、ニッケル等の他の金属原子が含まれる「亜鉛-鉄ベース合金化合物」の存在が技術常識であったという事実はないし、ニッケル等の他の金属原子が含まれる「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」の存在が技術常識であったという事実もないから、「亜鉛-鉄ベース合金化合物」、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」は、出願時の技術常識に照らしサポート要件に適合しない(請求人上申書第5ページ下から第8行から第11ページ第3行まで)。 [被請求人] ア.「亜鉛-鉄ベース合金化合物」は、亜鉛及び鉄が最も重要な金属で最も多量に存在する合金であると解されるべきである。「亜鉛-鉄ベース合金化合物」の場合、亜鉛及び鉄が少なくとも50%含有されるのであれば、他の成分としていずれの金属をも50%以下含有することができる。当業者は、技術常識を参酌すること等により、「亜鉛ベース合金」から「亜鉛-鉄ベース合金化合物」又は「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」が生じることを当然に理解できる。「亜鉛-鉄ベース合金化合物」又は「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」には、他の合金成分が含まれても良いことは明らかであり、他の合金成分をXと規定する必要はない(答弁書第20ページ第14行から第21ページ第16行まで)。 イ.被請求人は、亜鉛-鉄ベース合金化合物又は亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物が、Fe-Zn合金と、亜鉛-アルミニウム-鉄合金に対応するようにきわめて特定のものに限定した旨の主張をしていない(被請求人要領書(1)第12ページ下から第4行から第14ページ第8行まで)。 ウ.「亜鉛-鉄ベース合金化合物」は、亜鉛及び鉄を主たる成分とする合金化合物であり、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」は、亜鉛、鉄、アルミニウムを主たる成分とする合金化合物である。亜鉛とニッケルとは何ら問題なく合金を形成できる(被請求人要領書(1)第14ページ第9行から第15ページ第16行まで)。 エ.「亜鉛ベース合金」中の他の元素は、熱処理前に50%以下で存在するものであり、熱処理により、「亜鉛ベース合金」の中へ熱処理鋼板の鉄が移動することで、「亜鉛-鉄ベース合金」での亜鉛+鉄の量は、他の合金元素の量よりも必ず多くなる(被請求人要領書(1)第15ページ第17行から第16ページ第19行まで)。 エ.本件特許の「合金化合物」は、いわゆる金属間化合物を意味する。ただし、被膜中にかかる合金化合物を形成しない、その他の金属成分等が含まれていてもよい(被請求人要領書(2)第2ページ第6から15行まで)。 オ.熱処理後の3つの性質(腐食に対する保護、脱炭に対する保護及び潤滑機能の確保)を奏する量で亜鉛-鉄金属間化合物が形成され、ニッケル自体は金属間化合物を形成せずに共存する場合、具体的には、Zn-Fe金属間会合物とニッケルとが固溶体のような状態で存在する場合も、本件特許発明の範囲に包含される(被請求人上申書(1)第10ページ下から第5行から第11ページ第18行まで)。 1-3.特許発明1の「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保する」合金化合物についての記載不備 [請求人] ア.熱間型打ち前に、熱処理により生じた合金化合物は、a.腐食に対する保護、b.鋼の脱炭に対する保護、c.潤滑機能を確保することの3つの特性を有する必要があるところ、発明の詳細な説明には、熱間型打ち前に、合金化合物が当該3つの特性を有することは記載されていない。実施例には、熱間型打ち後の腐食防止効果の記載(段落【0032】から【0035】まで、及び【0038】)があるから、熱間型打ち前に、合金化合物がa.の機能を果たすことは分かるとしても、b.及びc.の機能を果たすかどうか明らかでない(請求書第24ページ第8行から第25ページ下から第12行まで)。 イ.被請求人は、腐食防止、脱炭などの機能に加えて、成形処理中に潤滑剤の機能が得られることを実際に確認している旨、主張しているが、鋼の脱炭に対する保護や、成形処理中の潤滑機能などの評価が全くなされておらず、どのような方法で確認されたか不明である。腐食の保護が確認されたのはZn被覆鋼又はZn-Al被覆鋼だけであり、亜鉛及び鉄以外の他の成分としていずれの金属をも50%以下含有できるような亜鉛-鉄ベース合金化合物を形成したものが、同様の耐腐食性を有することは全く明らかでない。段落【0030】には「カーボンデポジットがない」との記載があるが、当該記載は、Fe-Zn合金についての知見であり、亜鉛-鉄-アルミニウム合金化合物に拡張し得るか明らかではないし、亜鉛及び鉄以外の他の成分としていずれの金属をも50%以下含有できるような亜鉛-鉄ベース合金化合物に拡張し得るとは到底いえない。高温での被覆の潤滑機能は、本件特許の出願後に明らかとなったものであり、出願時の技術常識から予測し得るとはいえないから、「潤滑機能を確保すること」は発明の詳細な説明にサポートされていない(弁駁書第19ページ下から第13から第22ページ第4行、及び請求人要領書(1)第5ページ第1行から第4行まで)。 ウ.上記1-1.(1)イ.と同じ(請求人要領書(1)第4ページ第7から11行まで)。 [被請求人] 「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保する」ことは、段落【0029】、【0030】、【0038】に記載されている。 腐食防止に関しては、段落【0033】に記載されており、段落【0034】に「熱処理後のZn被覆鋼」及び「熱処理後のZn-Al被覆鋼」が耐腐食性を有することが確認されており、加熱処理により亜鉛-鉄ベース合金化合物又は亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物がすでに形成されているので、「熱処理後のZn被覆鋼」及び「熱処理後のZn-Al被覆鋼」の耐腐食性が焼入れの前後では実質的に変わらないことは、当業者が容易に理解される事項である。 脱炭防止に関しては、亜鉛ベース合金が被覆された熱処理用鋼板を加熱処理することにより、その表面では、亜鉛-鉄ベース合金化合物及びフェライトが形成され、炭素が存在しなくなることから、表面からの脱炭を防止できることが容易に理解される。脱炭防止の効果は、例えばグロー放電発光分析装置を用いて熱処理用鋼板の表面の炭素量を測定することにより、理解できる。 潤滑機能に関しては、そもそも潤滑性の確保とは、特段の問題を生ずることなくプレス成形を行うことができる機能である。段落【0016】には、「熱処理のとき・・・に被膜は帯材の鋼と合金化した層を形成し、この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度をもつようになる」と記載され、段落【0024】には「熱間形成された金属間合金が高温で潤滑機能を有することも知見された」と記載されており、これらの記載は、本件発明を実施した際に、熱間のプレス成形時に亜鉛と金型とが凝着せずにプレス成形できたことが観察されたことを意味するのであって、型打ち前に潤滑機能を確保することができたことを示している。 亜鉛ベース合金が、他の合金成分としてアルミニウム以外の合金成分を含む場合であっても、亜鉛が主成分であれば、同様の加熱処理を行えば、亜鉛の場合と類似した腐食防止、脱炭防止、潤滑機能を奏することは、当業者であれば十分に理解できる(答弁書第22ページ第3行から第24ページ第2行、及び被請求人要領書(1)第16ページ下から第15行から第19ページ下から第14行まで)。 1-4.特許発明8の「鋼板」についての記載不備 [請求人] ア.特許発明8は、特許発明1及び3から7に従属する鋼板を規定したものであるが、具体的成分を記載した実施例は1例も存在しない。また、訂正前の特許発明8はオープンクレームであり、クレームに記載のある成分以外の成分の添加も可能である。鋼板の発明においては、サポート要件を満たすためには、成分及び組成範囲の特定が必要である。発明の詳細な説明には、鋼板の特定の合金成分について範囲のみ示されているだけで、特許発明8を具体化した鋼組成、その製造条件についての記載は全くなく、特許発明8の鋼板を使用して「極めて高い機械的特性をもつ成形部品」を製造することができるかどうか全く不明である。また、所望の特性を得るために、特許発明8に特定された成分以外にどのような成分を添加することができるかも不明である(請求書第25ページ下から第11行から第26ページ第14行まで)。 イ.特許発明8の「鋼板」についての記載不備に関する無効理由は、訂正が認められても解消しない(請求人要領書(1)第7ページ第5行から同ページ下から第7行まで)。 [被請求人] 特許発明8は、「残部が鉄と不可避不純物である」ことを特定する訂正を行って、被覆される前の鋼板の組成を明確にした。そもそも本件特許発明で使用する熱処理用鋼板それ自体は、従来より広く使用されている通常の熱処理用鋼板であり、特許発明8に規定の組成はかかる熱処理用鋼板の組成を規定したものである。乙11のUsibor 1500鋼板は、特許発明8に規定の組成の範囲内であり、かかる組成が従来より広く使用されている通常の熱処理用鋼板の組成を規定していることは容易に理解される。 また、「極めて高い機械的特性」とは、高い破壊強度を意味し、具体的には1500MPaを超える破壊強度であるところ、乙11のUsibor 1500鋼板は、900℃で5分間の熱処理及び焼入れすることにより、1600MPaの破壊強度が得られているから、特許発明8の熱処理用鋼板を使用することで、「極めて高い機械的特性」を有する成形部品が得られることは明らかである(答弁書第24ページ下から第9行から第27ページ下から第3行まで)。 1-5.「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品」についての記載不備 [請求人] 被請求人は、「極めて高い機械的特性値」について、段落【0020】の記載を根拠としているが、当該記載は、冷間型打ち後、熱処理する図2についての説明であるから、本件特許発明とは無関係である。被請求人は乙11を提示しているが、乙11が本件特許の出願時に公知であったかどうか明らかでない。特許発明1は鋼の組成が特定されていないから、焼入れ条件だけで、極めて高い機械的特性値をもつ成形部品が得られるとはいえない。 当該主張は、弁駁書において新たに主張する理由であるが、特許法第134条の2第1項の訂正の請求により、無効審判請求の理由を補正する必要が生じたことによるものであり、審理を不等に遅延させるおそれがないことが明らかであるから、許可されるべきである(弁駁書第22ページ第5行から第23ページ下から第5行まで、及び請求人要領書(1)第5ページ第6行から第7ページ第3行まで)。 [被請求人] ア.本件発明では、図2だけでなく、図1においてもRm>1500MPaと記載されており、「極めて高い機械的特性値をもつ」成形部品が得られていることが記載されている。Usibor 1500などの情報は、2000年初頭頃から当業者に頒布されていた。熱処理用鋼板は、所定量の炭素を含有し、加熱処理及び冷却処理を行うことによって、炭素の含有量に応じた高い機械的強度を有する成形部品が得られること等は本件の優先日前の技術常識である(被請求人要領書(1)第19ページ第15行から第21ページ第20行まで)。 イ.請求人の主張は、訂正によって新たに生じた請求の理由の補正ではなく、単なる新たな無効理由の主張であるから認められるべきではない(被請求人要領書(1)第43ページ第18行から第45ページ第6行まで) 2.無効理由2(新規事項違反)について [請求人] (1)請求項1の補正についての新規事項違反 ア.出願当初の請求項1の「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品を製造する方法」という記載は、平成16年7月29日付けの補正(甲11)により、「成形された部品を製造する方法」となったが、「極めて高い機械的特性値」をもたない成形部品をも含むことになり、当該補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたとはいえない(請求書第26ページ下から第9行から第35ページ第1行まで)。 イ.被請求人は、訂正後の請求項1に記載された発明を実施して得られる成形品は、結果として1500MPa程度の破壊強度を有し、「極めて高い機械的特性値をもつ」ことになるから、「極めて高い機械的特性値をもつ」との記載を削除しても実質的には発明の範囲は何ら拡大するものではない旨、主張しているが、1500MPaの破壊強度は、組成の特定された鋼板を用いることで得られるものであるところ、請求項1には、焼入れ条件の特定があるだけで、組成の特定がないから、請求項1の方法により得られる成形品は、「極めて高い機械的特性値をもつ」成形品以外の成形品を含むことになり、実質的に発明の範囲を拡大したことになる(弁駁書第24ページ第1行から最終行まで、及び請求人要領書第7ページ下から第5行から第2行まで)。 (2)請求項7の補正についての新規事項違反 出願当初の請求項7の「・・・圧延鋼板、特に熱間圧延鋼板の帯材の使用。」という発明は、平成16年7月29日付けの補正(甲11)により削除され、新たに、請求項10(本件訂正後の請求項8)として「・・・鋼板。」という発明を追加した。出願当初の請求項7の「使用」は、熱間圧延鋼板の帯材の使用方法であると解される。また、発明の詳細な説明には、亜鉛が被覆される前の鋼板自体が特徴を有することや、亜鉛が被覆された鋼板自体が特徴を有することについて記載がない。出願当初の請求項7に記載された発明は、熱間圧延鋼板の帯材の使用方法に特徴を有するものであるから、出願当初の請求項7を削除して、請求項10(本件訂正後の請求項8)として「・・・鋼板。」を追加することは、出願当初の明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてされたとはいえない(請求書第35ページ第2行から第36ページ下から第5行まで)。 [被請求人] (1)請求項1の補正についての新規事項違反 ア.「極めて高い機械的特性値」は、破壊強度を意味する。成形された部品が「極めて高い機械的特性値」をもつことは、本件発明の目的とする事項の1つであり、訂正後の請求項1に記載された発明を実施して得られる成形品が結果として「極めて高い機械的特性値」をもつことになる(答弁書第27ページ下から第2行から第30ページ第11行まで)。 イ.高い機械的強度は、熱処理用鋼板の加熱処理及び冷却処理の結果として得られるもので、所定の炭素量を含有した熱処理用鋼板に対して本件特許で規定した所定の熱処理を行えば、自ずと高い機械的強度が得られるから、「極めて高い機械的特性値」の記載を削除したことは、発明の範囲を拡張したことにはならない(被請求人要領書(1)第21ページ下から第15行から第22ページ第14行まで)。 (2)出願当初の請求項7の補正についての新規事項違反 訂正後の請求項8に係る発明は、本件明細書段落【0028】から【0038】までに記載されているから、出願当初の請求項7を削除して、請求項10(本件訂正後の請求項8)を追加した補正は、当初明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてされたものである(答弁書第30ページ第12行から第32ページ下から第7行まで)。 3.無効理由3(実施可能要件)について (1)実施例についての記載不備 [請求人] 特許発明1は、成形部品を被覆圧延鋼板から熱間型打ちによって製造する方法に関するものであるが、段落【0028】以下に記載の実施例をみても具体的な鋼板の成分、製造条件を記載したものは全くない。また、実施例には、特許発明1に特定された「熱処理用鋼板を裁断して熱処理用鋼板ブランクを得る段階」、「型打ち前に、合金化合物を熱処理により熱処理用鋼板ブランクの表面に生じさせる段階」、「型打ち処理に必要であった熱処理用鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階」を経て部品を得たものであるのか全く記載がなく不明である(請求書第36ページ下から第3行から第37ページ第6行まで)。 [被請求人] 本件発明で使用する熱処理用鋼板自体は、従来より広く使用されている通常の熱処理用鋼板であるから、当業者は、明細書中に鋼板についての特段の具体的な記載がなくとも、技術常識として知られ、従来から用いられていた成分の熱処理用鋼板を適用することにより、本件特許発明を容易に実施できる。乙11のUsibor 1500鋼板の組成は、段落【0028】に記載の熱処理用鋼板の組成中に含まれるものであり、当該鋼板を900℃で5分間の熱処理及び焼入れすることにより、1600MPaの破壊強度が得られることが知られていた。「熱処理用鋼板を裁断して熱処理用鋼板ブランクを得る段階」、「型打ち前に、合金化合物を熱処理により熱処理用鋼板ブランクの表面に生じさせる段階」、「型打ち処理に必要であった熱処理用鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階」は慣用手段であることは、請求人自身も認めている(請求書第54ページ第10行から第18行まで)。加えて、段落【0029】の記載や図1を参酌することで、これらの段階が行われることを容易に理解できる(答弁書第32ページ下から第5行から第35ページ第6行まで)。 (2)「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品」を製造するという課題を解決する手段についての記載不備 [請求人] ア.本件特許発明の解決課題は、「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品」を製造することであるが、鋼の組成、熱処理時間、冷却速度、冷却終了時間等の条件の特定がないから、課題を解決できるのか不明である(請求書第37ページ第9行から第22行まで)。 イ.「極めて高い機械的特性値をもつ」ことが、図1に示すような、破壊強度500MPaの鋼板を熱処理して1500Mpaを得ることであるとしても、特許発明1の条件や図1の条件だけでは、破壊強度の上昇が達成されるとはいえない。また、500MPaの鋼板を熱処理して1500Mpaを得るための条件は自明でない(請求書第37ページ第23行から第38ページ第5行まで)。 ウ.「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品」を製造するために、いかなる組成の鋼を、何℃で何分間の熱処理をし、いかなる冷却速度で冷却し、何℃で冷却を終了すればよいのか不明であり、過度の試行錯誤を繰り返さなければならない(請求書第38ページ第6行から最終行まで)。 エ.段落【0028】の記載では、鋼の組成が特定されていないから、実施例であるとはいえない。また、マンガン、クロム、チタン、ホウ素の含有量は、焼入れ性に影響するが、これらの含有量が特定されていないから、焼入れ後にどの程度の破壊強度が得られるのか不明である。実施例には、950℃でFe-Zn合金が得られる旨の記載があるが、「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品」が得られることの記載はない。亜鉛系めっき鋼板の合金化挙動に対してP、Siの元素が影響を及ぼすことが知られている(甲17)が、発明の詳細な説明には鋼板中の元素についての具体的説明がない(請求書第39ページ第1行から第40ページ第12行まで)。 オ.上記のア.からエ.までのほかに、「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品」については、「・・・表面合金層に変態し、600HV/100gを上回る高い硬度をもつ」(段落【0021】)との記載があるだけで、表面合金層の形成にとって重要な鋼の組成の記載がないから、600HV/100gを上回る高い硬度を達成するために、過度の試行錯誤を繰り返さなければならない(請求書第40ページ第13行から第41ページ第1行まで)。 カ.「亜鉛ベース合金」がアルミニウム以外の合金成分を含む場合、どの程度の合金成分を含む「亜鉛ベース合金」を、どのような組成の鋼板に被覆し、どのような熱処理条件を採用すれば、どのような合金化合物が生じるのか、発明の詳細な説明には全く記載されていない。本件明細書の記載からは、鉄、ニッケル、クロム、さらには、アルミニウムとマグネシウム等を含む亜鉛ベース合金から、熱処理により「亜鉛-鉄ベース合金化合物」が形成されることを、当業者が容易に理解できるとはいえない(弁駁書第25ページ第2行から第26ページ第12行まで、及び請求人要領書(1)第8ページ第1行から第10ページ第8行まで)。 キ.請求項1には、熱処理用鋼板が所定量の炭素を含有することが記載されていない。段落【0028】の組成範囲は、乙11の組成範囲を外れる鋼板(甲20の表1、甲25の表1)も含むところ、乙11の組成範囲を外れる鋼板を使用して、1500MPaを超える破壊強度を有する成形部品が得られるかどうか明らかでない。被請求人は、TRC曲線により臨界冷却速度を特定できる旨、主張しているが、TRC曲線は鋼板成分の影響を受けるものであり、TRC曲線を容易に作成できるものではなく、臨界冷却速度を決定するのも多大の労力を要する。また、乙11は公知日が不明であるし、乙12は作成者が不明であるから証拠として採用されるべきものでない(弁駁書第26ページ第13行から第28ページ第2行まで、及び請求人要領書(1)第10ページ第9行から第15行まで)。 ク.乙14を参照しても、アルミニウム以外の合金成分を含む「亜鉛ベース合金」を熱処理した場合に、どのような「亜鉛-鉄ベース合金化合物」が生じるのは全く明らかでないし、乙11を参照しても、極めて高い機械的強度をもつ熱間成形部品が得るために、当業者は過度の試行錯誤を繰り返さなければならない(請求人要領書(2)第12ページ下から第11行から第19ページ下から第3行まで)。 [被請求人] ア.本件特許発明の解決課題は、単に「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品」を製造するものではなく、亜鉛又は亜鉛ベース合金で被覆された熱処理用鋼板を用いて、通常用いられる熱処理条件で熱処理を行い、腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保すると共に、極めて高い機械的強度を有する鋼板を同時に一体成形することにある。 熱処理用鋼板は、熱処理により鋼板の破壊強度を高めるために、ある程度の量の炭素を含有していることは広く知られている。熱処理の温度範囲、温度適用時間は、特許発明1に特定されている。冷却速度は、TRC曲線等により容易に特定できる。鋼の組成、熱処理時間及び冷却速度等の条件は、当業者が本件明細書の記載、乙11及び乙12等の技術文献を含む技術常識を参照することにより容易に決定できるのは明らかである(答弁書第37ページ第4行から第39ページ第16行まで)。 イ.目的とする破壊強度を達成する条件について、たとえ本件明細書に特段の詳細な製造条件等が記載されていなくても、技術常識を用いて補うことにより、当業者は本件特許発明を容易に実施できる。一般に、熱処理によるオーステナイト化の後、臨界焼入れ速度を上回る速度で冷却することにより、マルテンサイト変態して高い破壊強度を得ることができることは広く知られている。乙11には、Usibor 1500鋼板が450MPaのRm(破壊強度)を有し、900℃で5分の熱処理及び焼入れにより1600MPaの破壊強度を得ることが記載されている。当業者は、乙11の技術文献を含む技術常識を参酌することにより、本件特許発明を容易に実施できる(答弁書第39ページ第17行から第40ページ第15行まで)。 ウ.本件特許発明は、通常の条件で焼入れすることにより、腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保すると共に、極めて高い機械的強度を有する鋼板が同時に一体成形できる。焼入れ条件についても、本件明細書に特段の詳細な製造条件等が記載されていなくても、技術常識を用いて補うことにより、当業者は本件特許発明を容易に実施できる。臨界冷却速度もTRC図(乙12)を参酌して容易に規定できる(答弁書第40ページ第16行から第41ページ第4行まで)。 エ.本件特許発明は、従来の熱処理用鋼板の熱処理に常用される700℃を超える温度によって熱処理する点を除いては、亜鉛系の合金化挙動に関して、亜鉛めっき浴の濃度及びめっき温度条件等は従来の条件と同様である。例えば甲3を参照することで亜鉛系の被膜を形成するめっき浴温度、めっき浴組成を当業者は容易に理解できる。リンは有害な不純物であり、実施例1においても0.05重量%以下に規定されている。ケイ素は実施例1において0.1-0.35重量%に規定されている(答弁書第41ページ第5行から第42ページ下から第3行まで)。 オ.600HV/100gの表面硬度は、本件特許発明の製造方法によって得られる成形された部品が、その結果として有する機械的性質の一つであり、自ずから得られる性質である(答弁書第42ページ下から第2行から第43ページ第6行まで)。 カ.亜鉛ベースの合金成分としてアルミニウムはもちろん、鉄やニッケルなども含まれることは本件特許の優先日前の技術常識である(乙14)から、「亜鉛ベース合金」の記載は明確である。アルミニウム以外の他の合金を含有する亜鉛ベース合金であっても、亜鉛が主成分である点で、アルミニウムを含有する亜鉛ベース合金と共通する。本件明細書において、アルミニウムを含有する亜鉛ベース合金において被膜が形成できたことが記載されているから、他の合金を含有する亜鉛ベース合金であっても、アルミニウムを含有する亜鉛ベース合金と同様に、被膜を形成できることは、当業者が容易に理解できる(被請求人要領書(1)第22ページ第15行から第23ページ下から第12行まで)。 キ.本件特許発明で使用する熱処理用鋼板は、従来より広く使用されている通常の熱処理用鋼板である。本件明細書中に、熱処理用鋼板の組成、製造条件、物性等についての具体的な記載がない部分があったとしても、これら従来より広く知られた鋼板を適宜選択することにより本件特許発明を容易に実施できる。乙11のUsibor 1500鋼板は450MPaのRm(破壊強度)を有し、段落【0020】の「約500MPaの破壊強度Rmを有する基本の鋼」に相当し得る従来の熱処理用鋼板の例である。また、請求人のいう甲20の鋼板は、本件特許発明で規定する熱処理鋼板には該当しない。また、甲25の鋼板であれば、本件特許発明で規定する加熱処理及び冷却処理によって、高い機械的強度を得られるであろうことは当業者には明らかである。冷却速度は、技術常識(乙25、乙22、乙23)を参酌して、TRC曲線により容易に特定できる(被請求人要領書(1)第23ページ下から第11行から第26ページ下から第6行まで)。 (3)熱間型打ち前の鋼板の製造条件、特性についての記載不備 [請求人] 熱間型打ち前の鋼板の製造条件、延性及び強度特性などの特性が示されていない。どのような組成を有し、どの様な製造工程を経た鋼板の強度が500MPaとなるのか、また、どのような機械的特性値を有すれば、熱間型打ち可能かなど全く不明である(請求書第41ページ第2行から第17行まで)。 [被請求人] 本件特許発明で使用する熱処理用鋼板は、従来より広く使用されている通常の熱処理用鋼板である。本件明細書中に、熱処理用鋼板の組成、製造条件、物性等についての具体的な記載がない部分があったとしても、これら従来より広く知られた鋼板を適宜選択することにより本件特許発明を容易に実施できる。乙11のUsibor 1500鋼板は450MPaのRm(破壊強度)を有し、段落【0020】の「約500MPaの破壊強度Rmを有する基本の鋼」に相当し得る従来の熱処理用鋼板の例である。当業者は、明細書及び乙11等の技術文献を含む技術常識を参酌すれば、過度の試行錯誤を必要とせずに、熱間型打ち可能な鋼板を得ることができる(答弁書第44ページ第7行から同ページ下から第5行まで)。 (4)「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物」を形成するための条件についての記載不備 [請求人] ア.甲18の記載からみて、鉄-アルミニウム合金を形成するためには、アルミニウムベースの被覆材を有する鋼板の温度を5℃/秒以上の速度で上昇させることが必要であると思われる。亜鉛ベースの被覆材を有する鋼板についても、これを合金化するためには昇温速度が問題になると思われるが、亜鉛被膜及び亜鉛アルミニウム被膜を有する鋼板の熱間成形中の昇温速度については全く記載されていない。また、亜鉛アルミニウム被膜については具体的な熱処理条件の記載はなく、当該被膜を何℃で何分間保持すれば、亜鉛-アルミニウム-鉄被膜が形成されるのか不明である。また、被膜にケイ素が含有される場合(段落【0036】)、ケイ素が何%含有され、何℃で何分間保持すれば、亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物中に、どのような状態でケイ素が含有されるのか実施例に全く記載がない。当業者は、「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物」を形成するために、熱間成形中に、どの程度の温度で昇温すればよいのか、何℃で何分間保持すればよいのか、過度の試行錯誤を繰り返さなければならない(請求書第41ページ下から第10行から第43ページ第3行まで)。 イ.上記(2)[請求人]カ.と同じ(請求人要領書(1)第8ページ第1行から第10ページ第8行まで)。 [被請求人] ア.本件特許発明は、熱処理条件を「800℃~1200℃」で「2~10分間」と規定したから、熱処理条件は明確である。また、亜鉛被膜及び亜鉛ベース合金被膜自体は従来公知の技術であり、本件特許発明で使用する熱処理用鋼板は、従来より広く使用されている通常の熱処理用鋼板であり、さらに、熱処理条件も熱処理用鋼板に用いられる通常の熱処理条件であるので、熱間成形中の昇温速度も通常の昇温速度が適用できる。本件特許発明は、熱処理条件が明確に規定されているので、かかる熱処理を行い、さらに焼入れを行うことにより、亜鉛-鉄ベース合金化合物又は亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物を形成できることを容易に理解できる(答弁書第44ページ下から第4行から第46ページ第12行まで)。 (5)「腐食に対する保護」、「鋼の脱炭に対する保護」及び「潤滑機能」の確保についての記載不備 [請求人] 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の点が明確かつ十分に記載されていなければならない。すなわち、「亜鉛又は亜鉛ベース合金」並びに「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物」と「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保する」こととの関係が、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていなければならない。発明の詳細な説明には、アルミニウム以外の合金成分を含有する「亜鉛ベース合金」で被覆された鋼板ブランクを熱処理して亜鉛-鉄ベース合金化合物を形成したものが、耐腐食性を有することは全く明らかではない。熱処理後に得られた部品について、「切断面にカーボンデポジットがない」ことが確認されている(段落【0030】)が、Zn被覆を有する鋼板ブランクを熱処理して形成したFe-Zn合金(亜鉛-鉄合金化合物)が、「鋼の脱炭に対する保護」を確保したものであるかどうか明らかでなく、段落【0030】の知見をFe-Zn合金(亜鉛-鉄合金化合物)以外に拡張し得るとはいえない。また、「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物」について、熱間型打ち時の「潤滑機能」の確保が確認されているとはいえない。「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保する」ために、いかなる「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物」を形成すればよいのか、試行錯誤を繰り返さなければならない。 また、当該主張は、弁駁書で新たに主張する理由ではない。審判請求書では、「腐食に対する保護」、「鋼の脱炭に対する保護」及び「潤滑機能」の確保についての記載不備について、特許法第36条第4項第1号違反として指摘していないが、特許法第36条第6項第1号違反として指摘(上記1.1-3.[請求人])している(弁駁書第28ページ第3行から第29ページ下から第5行まで、請求人要領書(1)第11ページ下から第4行から最終行まで、及び請求人要領書(1)第12ページ第6行から第13ページ最終行まで)。 [被請求人] ア.上記1.1-3.[被請求人]と同じ(被請求人要領書(1)第26ページ下から第5行から第29ページ最終行まで)。 イ.無効理由の根拠となる条文を追加又は変更することは無効審判請求の要旨を変更するものであり、請求人の主張は認められるべきではない(被請求人要領書(1)第48ページ第11行から第49ページ第20行まで) 4.無効理由4(新規性)について [請求人] 特許発明8は、甲18に記載された発明である(請求書第43ページ下から第5行から第48ページ第8行まで、及び弁駁書第29ページ最終行から第32ページ第3行まで)。 [被請求人] 特許発明8が甲18に記載された発明とは相違しており、新規性を有することは明らかである(答弁書第46ページ第13行から第48ページ最終行まで、及び被請求人要領書(1)第30ページ第1行から第32ページ第17行まで)。 5.無効理由5(進歩性)について [請求人] 特許発明1及び3から8までは、甲18に記載された発明、甲2から甲4までに示す周知技術、及び甲19に示す慣用手段に基づいて当業者が容易に発明できたものである(請求書第48ページ第9行から第56ページ下から第11行まで、弁駁書第32ページ第4行から第35ページ最終行まで、請求人要領書(1)第16ページ第1行から第19ページ第5行まで、請求人要領書(2)第22ページ第2行から第32ページ第13行まで、及び請求人上申書第11ページ第4行から第12ページ第4行まで)。 [被請求人] 特許発明1及び3から8までは、甲18に記載された発明、甲2から甲4までに示す周知技術、及び甲19に示す慣用手段に基づいて当業者が容易に発明できたものではなく、進歩性を有することは明らかである(答弁書第49ページ第1行から第57ページ下から第3行まで、被請求人要領書(1)第32ページ第18行から第39ページ第3行まで、及び被請求人要領書(1)第52ページ第3行から第54ページ第10行まで、被請求人上申書(1)第17ページ第17行から第18ページ第20行まで)。 6.無効理由6(拡大先願)について [請求人] ア.本件訂正前の請求項1、3、4及び8に係る発明は、甲20に記載された発明と同一である(請求書第56ページ下から第10行から第65ページ第7行まで)。 イ.仮に訂正が認められた場合、無効理由6は解消する(請求人要領書(1)第12ページ第1行から第4行まで)。 [被請求人] 特許発明1、3、4及び8は、甲20に記載された発明と相違することは明らかである(答弁書第57ページ下から第2行から第60ページ第15行まで)。 第6.無効理由1(明確性及びサポート要件)についての当審の判断 1.本件明細書及び図面の記載 本件明細書及び図面には、次の記載がある。なお、下線は、理解を容易にするために当審で付した。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する金属または金属合金で被覆された圧延鋼板、特に熱間圧延鋼板の帯材を型打ちすることによって極めて高い機械的特性値をもつ成形部品を製造する方法に関する。 【0002】 【従来の技術】高温下の成形または熱処理を要する鋼板に対しては、熱処理に対する被膜の耐性を考慮して被覆処理が行われていない。鋼の熱処理は一般に700℃を十分に上回る比較的高い温度で行われる。実際これまでは、金属表面に付着させた亜鉛被膜は、亜鉛の融点を上回る温度に加熱されると、溶融し流動して熱間成形用ツールの働きを妨害し、更に、急冷中に被膜が劣化すると考えられてきた。 【0003】従って、被膜形成の処理は完成部品に対して行われており、このためには、該部品の表面及び中空部分の十分な清浄化が不可欠であった。このような清浄化には酸または塩基を使用する必要がある。このような酸または塩基は再利用及び保管に関する経済的な負担が大きく、また、作業員及び環境に対して危険である。更に、鋼の脱炭及び酸化を完全に防止するために、熱処理を管理雰囲気下で行う必要がある。加えて、熱間成形の場合に生じるカーボンデポジット(煤、calamine)がその研磨能力によって成形用ツールを損傷するので、得られる部品の品質、即ち寸法及び審美性の面で部品の品質を低下させたり、あるいは、ツールの頻繁な修理が必要になるのでコストが上がったりする。最後に、得られた部品の耐食性を強化するために、該部品の後処理が必要であるが、このような後処理は経費も高く作業も難しい。特に中空部分のある部品ではこのような後処理は不可能である。極めて高い機械的特性値をもつ鋼の後被覆はまた、電気亜鉛メッキ法では水素による脆化の危険、予め成形された部品の浸漬亜鉛メッキ法では鋼の機械的特性の変化、などの欠点がある。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、特に熱間圧延後に被覆され、熱間成形または冷間成形及び熱処理による順次処理が必要な0.2mm-約4mmの厚みをもつ圧延鋼板と、これらの被覆圧延鋼板から熱間成形部品を製造する方法をユーザーに提供することである。本発明方法では、熱間成形及び/または熱処理の前、処理中または処理後のいずれの時期でも鋼板を構成する鋼の脱炭、鋼板の表面の酸化を全く生じることなく高温処理が可能である。 【0005】 【課題を解決するための手段】本発明の目的は、鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する金属または金属合金で被覆した圧延鋼板、特に熱間圧延鋼板の帯材を型打ちすることによって極めて高い機械的特性値をもつ成形部品を製造する方法であって、 -鋼板を裁断して鋼板ブランク(生地板)を得る段階と、 -鋼板ブランクの型打ちによって部品を成形する段階と、 -型打ち前または型打ち後に、腐食に対する保護、鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る金属間合金化合物で表面を被覆する段階と、 -型打ち処理に必要であった鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階と、から成る方法を提供することである。 【0006】 【発明の実施の形態】本発明の好ましい実施態様においては、方法が、 -鋼板を裁断して鋼板ブランクを得る段階と、 -部品を熱間成形するために被覆鋼板ブランクに高温を作用させる段階と、 -腐食に対する保護、鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る金属間合金化合物で表面を被覆する段階と、 -鋼板ブランクを型打ちによって成形する段階と、 -鋼の硬度及び被膜の表面硬度などの機械的特性を強化するために形成部品を冷却する段階と、 -型打ち処理に必要であった鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階と、から成る。 【0007】本発明の別の特徴は: -被膜を形成する金属または金属合金が5μm-30μmの範囲の厚みの亜鉛または亜鉛ベース合金から成る; -金属間合金が亜鉛-鉄ベース化合物または亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物である; -成形前及び/または熱処理前の被覆鋼板に700℃を上回る高温を作用させる; -主として型打ちによって得られた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度で冷却することによって焼入れする;などである。 【0008】本発明はまた、型打ち、特に熱間型打ちによる部品の成形によって高い機械的硬度、高い表面硬度などの特性及び極めて優れた耐摩耗性をもつ部品を得るための、鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する金属または金属合金で被覆された圧延鋼板、特に熱間圧延鋼板の帯材の使用に関する。 【0009】以下の記載及び添付の図面から本発明がより十分に理解されよう。 【0010】図1は、本発明方法の1つの実施態様を示す概略工程図である。 【0011】図2は、本発明方法の別の実施態様を示す概略工程図である。 【0012】図3a及び3bは、本発明方法によって形成された亜鉛被膜をもつ部品の一部分のそれぞれ熱処理前及び熱処理後の断面を表す写真である。 【0013】図4a及び4bは、本発明方法によって形成された亜鉛アルミニウム被膜をもつ部品の一部分のそれぞれ熱処理前及び熱処理後の断面を表す写真である。 【0014】図1の概略図に示す本発明の方法では、特に熱間圧延し亜鉛または亜鉛ベースの合金で被覆した熱処理用または熱成形用の鋼板から、型打ちプレスのようなツールによって熱成形部品を製造する。 【0015】亜鉛または亜鉛合金の被膜は、ロール化された基本の鋼板を腐食から保護するように選択されている。 【0016】従来の定説と違って、熱処理のときまたは熱間成形を行うために温度を上昇させたときに、被膜は帯材の鋼と合金化した層を形成し、この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度をもつようになる。形成された化合物は、腐食、摩滅、損耗及び疲労に対して高い耐性を有している。被膜は鋼の成形加工性を変化させないので、得られた鋼に対して極めて多様な冷間成形及び熱間成形を行うことが可能である。 【0017】更に、亜鉛または亜鉛合金を使用するので、鋼ブランクまたは鋼部品に打抜き部分があるときの切断面が亜鉛メッキによって保護される。 【0018】熱間圧延後、被膜を形成する前に、帯材を酸洗い及び冷間圧延してもよい。鋼板を冷間圧延する場合には、被膜を形成する前に鋼板を焼鈍処理してもよい。 【0019】圧延鋼板を例えば亜鉛または亜鉛-アルミニウム合金によって被覆し得る。 【0020】図2の概略図では、部品を得るために鋼板を冷間型打ちする。得られた部品を次に熱処理して、部品に高い機械的特性値を与える。例えば、約500MPaの破壊強度Rmを有する基本の鋼の熱処理によって、1,500MPaを上回る破壊強度Rmを有する部品が得られる。 【0021】部品を成形するためまたは熱処理するために、炉で鋼板に好ましくは700℃-1200℃の範囲の高温を作用させる。被膜によって酸化に対する障壁が形成されるので炉の雰囲気は管理不要である。亜鉛ベースの被膜は温度上昇に伴って処理温度に依存する種々の相を含む表面合金層に変態し、600HV/100gを上回る高い硬度をもつようになる。 【0022】優れた成形性及び優れた耐食性を有する厚み0.2mm-4mmの鋼板を本発明方法に使用し得る。 【0023】被覆処理される鋼板は、高温処理中、成形中、熱処理中及び最終成形部品の使用中に優れた耐食性を維持している。 【0024】被膜の存在は、熱処理中または熱間成形中の基本の鋼の腐食防止に加えて、鋼の脱炭防止の効果がある。これは、例えば型打ちプレス内で熱間成形するときに明らかな利点を与える。即ち、形成された金属間合金はカーボンデポジットの形成を阻止し、カーボンデポジットによるツールの損耗を防止し、その結果として、ツールの平均使用寿命を延長させる。熱間形成された金属間合金が高温で潤滑機能を有することも知見された。更に、金属間合金が脱炭防止効果を有するので、管理されない雰囲気の炉で900℃を上回る高温を使用することが可能であり、このような高温加熱時間が数分間に及んでもよい。 【0025】得られた部品を炉から取り出した後で酸洗いする必要がない。即ち、最終部品の酸洗い浴が不要なので経済的に有利である。 【0026】被膜が高温処理によって得られた特性を有するので、成形部品の耐疲労性、耐損耗性、耐摩耗性及び耐食性が強化されている。亜鉛は鋼に対するメッキ作用を有するので、部品の切断面でも同様の特性強化が得られる。更に、被膜は高温処理の前後いずれの時期でも溶接可能である。 【0027】鋼板を構成する鋼は焼入れ硬化されるので、成形後に得られる部品は高い機械的特性値を有し得る。また、被膜は高温で金属間合金に変態し潤滑性及び耐摩擦性を有するので、成形性、特に熱間型打ちの分野での成形性が改善される。 【0028】 【実施例】実施例1:鋼に設けた亜鉛被膜 1つの実施態様では、以下の重量組成をもつ鋼から熱間圧延鋼板の帯材を製造する: 炭素:0.15%-0.25% マンガン:0.8%-1.5% ケイ素:0.1%-0.35% クロム:0.01%-0.2% チタン:0.1%以下 アルミニウム:0.1%以下 リン:0.05%以下 イオウ:0.03%以下 ホウ素:0.0005%-0.01% 【0029】厚み1mmの冷間圧延鋼板から、厚み約10μmの亜鉛被膜が両面に連続的にメッキされた部品を製造する。成形前の鋼板を950℃でオーステナイト化し、ツール内で焼入れする。被膜は低温及び高温の腐食防止及び脱炭防止などの本来の機能に加えて、成形処理中に潤滑剤の機能を果たす。合金被膜は焼入れ処理中にツールからの排熱を妨害することがなく、この排熱をむしろ促進する。全処理工程にわたって部品が基本の被膜によって確実に保護されているので、成形及び焼入れの後、部品の酸洗いまたは保護はもはや不要である。 【0030】成形後に、従って熱処理後に得られた部品は、無光沢な灰色の表面状態を有しており、流れ跡や気泡がなく、剥離や亀裂がなく、切断面にカーボンデポジットがない。走査型電子顕微鏡で観察すると、表面及び断面の被膜が均質な構造及び組織を維持しており、950℃で5分以内にFe-Zn合金が形成されていることが判明する。 【0031】それぞれ熱処理の前及び後の厚み5-10μmの被膜の断面のZnの拡散界面を表す図3a及び3bの比較から明らかなように、被膜は亜鉛マトリックス中の球状化Zn-Fe合金によって形成された層であり、層は10-15μmの厚みを有している。 【0032】DIN 50017規格に従う湿度及び温度で行った腐食試験では、本発明の被膜が30サイクル後に優れた腐食防止効果を示し、部品の表面がその無光沢状態を維持していることが示された。 【0033】以下の表1は、被膜のない対照鋼板、亜鉛被膜をメッキしたが熱処理しない対照鋼板、本発明の2つの実施態様で得られた鋼板のそれぞれについて、500-1000時間の塩水噴霧による腐食試験後の減量を表す。 【0034】 【表1】 【0035】表から明らかなように、熱処理した被膜は塩水噴霧に対して十分に耐性である。更に、亜鉛と鉄とから成る被膜の表面は従来のトリカチオンリン酸化型の表面処理浴でリン酸化し得る。リン酸化及び電気塗装(peinture cataphorese)後に行った腐食試験は優れた結果を示す。亜鉛鉄合金層は更に、カソード保護型の亜鉛メッキによって切断面を保護する。 【0036】実施例2:鋼に設けた亜鉛アルミニウム被膜 約1mmの鋼板に10μmの被膜を形成する。この被膜は50-55%のアルミニウムと45-50%の亜鉛とから成り、任意に少量のケイ素を含有する。 【0037】熱間成形後のこの被膜の断面の状態を図4a及び4bに示す。 【0038】熱間成形中に、亜鉛とアルミニウムと鉄とが合金化して密着性の均質な亜鉛-アルミニウム-鉄被膜が形成される。腐食試験では、この合金層が極めて優れた腐食防止効果を有していることが示される。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明方法の1つの実施態様を示す概略工程図である。 【図2】本発明方法の別の実施態様を示す概略工程図である。 【図3】3a及び3bは、本発明方法によって形成した亜鉛被膜をもつ部品の一部分のそれぞれ熱処理前及び熱処理後の断面を表す写真である。 【図4】4a及び4bは、本発明方法によって形成した亜鉛アルミニウム被膜をもつ部品の一部分のそれぞれ熱処理前及び熱処理後の断面を表す写真である。」 図1 2.甲号証及び乙号証の記載 (1)甲2の記載 第260ページ下から第2行から第261ページ第1行まで 「GAは溶融亜鉛めっき後に高温に加熱してZnとFeとを相互拡散させてめっき中の平均Fe濃度を10mass%程度としたもので鋼板側からΓ相(Fe3Zn10)、δ1相(FeZn7)、ζ相(FeZn13)の各金属間化合物で構成されるめっきである。」 (2)甲3の記載 ア.第1ページ右欄第5行から第13行まで 「合金化溶融亜鉛めっき鋼板の一般的な製造方法としては、冷間圧延された鋼板を連続溶融亜鉛めっきライン(以下、CGLと称す)で再結晶温度以上に加熱して焼鈍し、次いで460℃程度に加熱された亜鉛浴中に浸漬することにより亜鉛めっきを行い、亜鉛の付着量を制御した後550℃乃至650℃まで再加熱して合金化熱処理を施す方法が知られている」 イ.第2ページ左上欄第7行から第11行まで 「即ち、前記の合金化熱処理を受けると、鋼板と亜鉛層との間には合金化反応が進行し、ζ相(FeZn13)、δ1相(FeZn7)、Γ1相(Fe5Zn21)或いはΓ相(Fe3Zn10)と呼ばれるFe-Zn系合金層が順次形成される」 (4)甲12の記載 第1ページ下から第4行から最終行まで 「本補正は、「金属合金」との区別を明確にするため、「金属間合金化合物」と、「金属間合金化合物」と同義である「金属間合金」とを「合金化合物」に用語統一したものであり、本願明細書段落【0005】、同段落【0006】及び同段落【0027】の記載を根拠とするものである。」 (5)甲15の記載 第3ページ第18行から第28行まで 「審査官殿は、「金属または金属合金」に関して、「実施例に記載されているのは、亜鉛被膜が設けられた鋼板と、亜鉛アルミニウム被覆が設けられた鋼板のみであるから、請求項1は実施例によって充分サポートされていない」とご指摘であり、また、「合金化合物」に関しても、「実施例に記載されているのは、Fe-Zn合金と、亜鉛-アルミニウム-鉄合金のみであるから、請求項1は実施例によって充分サポートされていない」とご指摘である。 かかる審査官殿のご指摘に鑑み、上記の通り、請求項1において、「金属または金属合金」とあったのを、請求項3に規定されていた「亜鉛または亜鉛ベース合金」に限定する旨の補正を行うと共に、「合金化合物」とあったのを、本補正前の請求項4に規定されていた「亜鉛-鉄ベース化合物または亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物」に特定する旨の補正を行った(I.1及びI.2ご参照)。」 (6)甲18の記載 段落【0014】 「・・・被覆が存在することによって部品の熱処理時にベース金属の脱炭および酸化を完全に防止できる・・・」 (7)甲24の記載 「きんぞくかんかごうぶつ 金属間化合物」の項目 「2種またはそれ以上の金属元素が簡単な整数比で結合し,成分の金属元素とは違った新しい性質を有する化合物をいう.・・・金属間化合物は,通常任意の金属間あるいは組成でできるものではなく,周期表上の同族間ではつくられず・・・」 (8)乙5の記載 「base」の項目 「・・・基礎づける[きそづける]・・・基礎とする[きそとする]・・・基礎(土台)となる[きそとなる]・・・基部[きぶ]・・・」 (9)乙8の記載 「合金 alloy」の項目 「固溶体,金属間化合物,あるいは金属相の混合物として2種以上の元素を含む金属生成物.」 (10)乙14の記載 ア.第1002ページの表I 溶融めっきとして、「Zn-5%Al Steel」との記載がある。 イ.第1002ページの表II 電気めっきとして、「Zn-10-13%Ni/Steel」、「Zn-15%Fe/Steel」との記載がある。 (11)乙15の記載 段落【0007】 「その電気亜鉛系めっき熱延鋼板としては、例えば亜鉛を主成分とするアルミよるものがあり、めっき組成としては純Znの他、・・・ZnとAl・・・などZnを主成分として、・・・Ni・・・等の1種ないし2種以上の合金元素及び不純物元素を含み、・・・させたものがあり」 (12)乙25の記載 第271ページ左欄第25行 「Fe6Ni5Zn89」 (13)乙26の記載 第481ページ左欄第3行 「Γ2-Fe6Ni5Zn89」 (14)乙28の記載 段落【0012】 「Fe-Zn-Al-Ni(-Cr-Mo)系の金属間化合物」 3.特許法第36条第6項第2号の判断 無効理由1は、特許発明1及び3から8までに係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるというものであるところ、まず、特許法第36条第6項第2号について検討する。 特許法第36条第6項第2号は、特許を受けようとする発明が明確に把握できるように記載しなければならない旨を規定したものであるところ、発明が明確に把握できるかどうかの判断は、発明の範囲が明確であるかどうか、すなわち、ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されているかどうかで判断されるべきである。また、発明を特定するための事項の意味内容や技術的意味の解釈にあたっては、請求項の記載のみでなく、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をも考慮すべきである。 (1)特許発明1及び3の「亜鉛ベース合金」について ア.本件特許発明は、上記第3.に記載したとおりであるところ、その請求項1及び3に「亜鉛ベース合金」との用語が記載されている。請求人は、当該用語が明確でない旨を主張しているので、その明確性を判断する。 イ.本件明細書、及び特許請求の範囲には、「合金」のほかに、関連する用語として「合金層」、「合金被膜」、「合金化」、「合金化合物」、「金属間合金化合物」、「金属間合金」という用語が記載されているので、まず、これらの用語を解釈する。 それぞれの用語を全て列挙すると、以下のとおりである。 「合金」の記載 イ-1 「亜鉛または亜鉛ベース合金で被覆された圧延円津処理用鋼板」(【請求項1】) イ-2 「亜鉛または亜鉛ベース合金が5μm-30μmの範囲の厚みであること」(【請求項3】) イ-3 「金属または金属合金で被覆された圧延鋼板」(段落【0001】) イ-4 「金属または金属合金で被覆した圧延鋼板」(段落【0005】) イ-5 「被膜を形成する金属または金属合金が5μm-30μmの範囲の厚みの亜鉛または亜鉛ベース合金から成る」(段落【0007】) イ-6 「金属または金属合金で被覆された圧延鋼板」(段落【0008】) イ-7 「熱間圧延し亜鉛または亜鉛ベースの合金で被覆した熱処理用または熱成形用の鋼板」(段落【0014】) イ-8 「亜鉛または亜鉛合金の被膜は、ロール化された基本の鋼板を腐食から保護する」(段落【0015】) イ-9 「亜鉛または亜鉛合金を使用するので」(段落【0017】) イ-10 「圧延鋼板を例えば亜鉛または亜鉛-アルミニウム合金によって被覆し得る」(段落【0019】) イ-11 「Fe-Zn合金」(段落【0030】及び【0031】) 「合金化」の記載 イ-12 「被膜は帯材の鋼と合金化した層を形成し」(段落【0016】) イ-13 「熱間成形中に、亜鉛とアルミニウムと鉄とが合金化して」(段落【0038】) 「合金層」又は「合金被膜」の記載 イ-14 「亜鉛ベースの被膜は温度上昇に伴って処理温度に依存する種々の相を含む表面合金層に変態し」(段落【0021】) イ-15 「合金被膜は焼入れ処理中にツールからの排熱を妨害することがなく」(段落【0029】) イ-16 「亜鉛鉄合金層は更に、カソード保護型の亜鉛メッキによって切断面を保護する」(段落【0035】) イ-17 「腐食試験では、この合金層が極めて優れた腐食防止効果を有していることが示される」(段落【0038】) イ-18 「Zn-FeまたはZn-Al-Fe合金層で被覆された最終部品」(図1) 「合金化合物」の記載 イ-19 「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群」(【請求項1】) イ-20 「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」(【請求項7】) 「金属間合金化合物」の記載 イ-21 「鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る金属間合金化合物で表面を被覆する段階」(段落【0005】及び【0006】) 「金属間合金」の記載 イ-22 「金属間合金が亜鉛-鉄ベース化合物または亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物である」(段落【0007】) イ-23 「形成された金属間合金はカーボンデポジットの形成を阻止し」(段落【0024】) イ-24 「熱間形成された金属間合金が高温で潤滑機能を有することも知見された」(段落【0024】) イ-25 「金属間合金が脱炭防止効果を有するので」(段落【0024】) ウ.段落【0015】から【0016】までの記載を参照すると、「合金」の被膜が、熱処理や熱間成形の温度上昇で、鋼と「合金化」して「化合物」を形成することを理解できるから、温度上昇の前後で「合金」と「化合物」を分けることができ、また、「合金化」とは、「合金」が温度上昇により鋼と「化合物」を形成することであると理解できる。 そして、「化合物」として、上記イ-19及びイ-20に列挙する「合金化合物」が存在するところ、本件特許発明の請求項1の記載からみて、「合金化合物」は、熱処理、すなわち温度上昇により生じたものであるから、「合金化合物」という用語と、「化合物」という用語は、温度上昇により生じたものとして、同じ状態を表現する用語であるといえる。 同様に、イ-14からイ-18までに列挙する「合金層」や「合金被膜」も、温度上昇により生じたものであるから、「合金化合物」と同じ状態を表現する用語であると解するべきである。 また、「合金化合物」は、本件特許発明の請求項1の記載からみて、腐食に対する保護、鋼の脱炭に対する保護、潤滑機能の確保を行う性質のものであるといえるところ、イ-21に列挙する「金属間合金化合物」や、イ-22からイ-25までに列挙する「金属間合金」も同様の性質のものであるから、これらの用語も、「合金化合物」と同じ状態を表現する用語であると解するべきである。 これに対して、上記イ-1からイ-10までに列挙した「合金」は、いずれも温度上昇の前の状態のものとして共通した状態を表現する用語であるところ、イ-11に列挙する「Fe-Zn合金」だけは、温度上昇により生じたものであるから、「合金化合物」として解さざるを得ない。 エ.以上をまとめると、上記イ-1からイ-10までに列挙した「合金」は、いずれも温度上昇の前の状態のものとして共通した状態を表現する用語であり、イ-11、及びイ-14からイ-25に列挙する用語は、いずれも「合金化合物」と同じ状態を、異なる表現として表したものである。 オ.次に、本件明細書の「合金化合物」という用語を解釈すると、異なる表現として「金属間合金化合物」という用語があるように、本件明細書の「合金化合物」は、金属間での化合物という意味であるところ、そのような化合物は、甲24に示す「2種またはそれ以上の金属元素が簡単な整数比で結合し,成分の金属元素とは違った新しい性質を有する化合物」、すなわち「金属間化合物」にほかならない。なお、本件明細書の「合金化合物」が「金属間化合物」と同じ意味であることについて、両当事者間に争いはない(第5.1-2.[請求人]キ.及び[被請求人]エ.)。 カ.次に、本件明細書の「合金」という用語を解釈すると、一般に「合金」は、「固溶体,金属間化合物,あるいは金属相の混合物として2種以上の元素を含む金属生成物」(乙8)であるから、金属間化合物を含む意味と解されるが、本件明細書における「合金」は、一般の解釈とは異なり、「合金化合物」(金属間化合物)が含まれないと解するのが相当である。 その理由を詳述すると、上記ウ.に説示するように、「合金化合物」は、「合金」の被膜が、熱処理や熱間成形の温度上昇で形成されるものであるから、技術的に異なる意味と解するべきであるし、甲12に示すように、本件特許に係る出願の審査において、被請求人が「合金」と「合金化合物」とが区別される旨、主張しており、本件明細書における「合金」が、一般の解釈のように金属間化合物、すなわち「合金化合物」を含むとすると、金属間化合物に関しては、「合金」と「合金化合物」とを区別することができず、甲12における被請求人の意見と矛盾することになるから、本件明細書における「合金」には、一般の解釈とは異なり、「合金化合物」が含まれないと解することができる。 キ.次に「ベース」(base)は、「基礎づける」「基礎とする」「基礎(土台)となる」「基部」(いずれも乙5)を意味するといえる。 ク.これらの用語の解釈を総合すると、特許発明1及び3でいう「亜鉛ベース合金」は、亜鉛を基礎とした固溶体、あるいは金属相の混合物として亜鉛以外の元素を含む金属生成物を意味するものといえるところ、固溶体や金属相の混合物としての金属生成物では、元素の割合を重量%で示すことが一般的であるから、亜鉛を基礎とした固溶体、あるいは金属相の混合物としての金属生成物は、亜鉛が少なくとも50重量%含まれている固溶体、あるいは金属相の混合物としての金属生成物を意味すると解するべきである。 ケ.そうすると、ある具体的な物が「亜鉛ベース合金」に入るか否かは、その物が、固溶体、あるいは金属相の混合物としての金属生成物であって、亜鉛が少なくとも50重量%含まれているか否かを検証することにより、理解できることになるから、特許発明1及び3における「亜鉛ベース合金」は明確である。 (2)特許発明1の「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物」、特許発明7の「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」について ア.本件特許発明の請求項1に「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物」との用語が記載されており、本件特許発明の請求項7に「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」との用語が記載されているところ、請求人は、これらの用語が明確でない旨を主張しているので、その明確性を判断する。 イ.まず本件明細書の「合金化合物」は、上記(1)オ.に説示するように、一般に「金属間化合物」として知られる用語と同じ意味、すなわち「2種またはそれ以上の金属元素が簡単な整数比で結合し,成分の金属元素とは違った新しい性質を有する化合物」(甲24)であり、例えば、亜鉛と鉄の金属間化合物は、Fe3Zn10、FeZn7、FeZn13(いずれも甲2)といった整数比で結合することが知られている。 ウ.「ベース」の解釈については、上記(1)キ.で説示したとおりである。 エ.これらの用語の解釈を総合すると、特許発明1でいう「亜鉛-鉄ベース合金化合物」は、亜鉛及び鉄を基礎として、それらの金属元素が簡単な整数比で結合した化合物、すなわち、亜鉛及び鉄の元素が少なくとも50重量%以上含まれており、金属元素が簡単な整数比で結合した化合物を意味すると解するべきである。また、同様に、特許発明1及び7でいう「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」は、亜鉛、鉄及びアルミニウムの元素が少なくとも50重量%以上含まれており、金属元素が簡単な整数比で結合した化合物を意味すると解するべきである。 オ.そうすると、特許発明1の「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物」は、亜鉛及び鉄の元素が少なくとも50重量%以上含まれており、金属元素が簡単な整数比で結合した化合物、並びに亜鉛、鉄及びアルミニウムの元素が少なくとも50重量%以上含まれており、金属元素が簡単な整数比で結合した化合物の、どちらかの化合物を意味するものであり、ある具体的な物が当該化合物に入るか否かは、その物が、金属元素が簡単な整数比で結合した化合物であって、亜鉛及び鉄の元素が少なくとも50重量%以上含まれているか否か、あるいは、亜鉛、鉄及びアルミニウムの元素が少なくとも50重量%以上含まれているか否かを検証することにより、理解できることになるから、特許発明1における「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物」は明確である。 また、同様に、特許発明7の「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」は、亜鉛、鉄及びアルミニウムの元素が少なくとも50重量%以上含まれており、さらにケイ素が含まれており、金属元素が簡単な整数比で結合した化合物を意味するものであり、ある具体的な物が当該化合物に入るか否かは、その物が、金属元素が簡単な整数比で結合した化合物であって、亜鉛、鉄及びアルミニウムの元素が少なくとも50重量%以上含まれており、さらにケイ素が含まれているか否かを検証することにより、理解できることになるから、特許発明7における「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」は明確である。 (3)特許発明1の「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保する」合金化合物について ア.「腐食に対する保護」という発明特定事項の明確性について検討すると、段落【0034】の表1に示されるように、対照鋼の500時間後の減量が450g/m2であるのに対して、対照Zn被覆鋼では80g/m2であり、熱処理後のZn被覆鋼では32g/m2であり、熱処理後のZn-Al被覆鋼では22g/m2となっている。当該表1を参照すれば、「腐食に対する保護」は、被覆がない場合の鋼の腐食による減量(例えば450g/m2)よりも、腐食による減量を少なくすることを意味することは明らかであるから、当該用語は明確である。 イ.次に、「鋼の脱炭に対する保護」という発明特定事項の明確性について検討すると、「脱炭」は、鋼材の表面における炭素の欠乏をいうもので、鋼材表面が酸化されるなどして生じる現象であるから、鋼材の表面が被覆されていれば、脱炭に対しての保護がなされることは明らかである。また、鋼材の表面を被覆することで、脱炭を防止することは、本件特許の優先日前に公知である(例えば、甲18の段落【0014】参照。)。そうすると、「鋼の脱炭に対する保護」は、被膜が存在することにより、被膜が存在しない場合よりも、鋼材表面の酸化や、鋼材の表面における炭素の欠乏が防止されることを意味することは明らかであるから、当該用語は明確である。 ウ.次に、「潤滑機能を確保する」という発明特定事項の明確性について検討すると、潤滑機能は、段落【0029】に「被膜は・・・成形処理中に潤滑剤の機能を果たす」と記載されていることから、成形処理における機能であることが理解できるところ、従来の被膜は、段落【0002】に「実際これまでは、金属表面に付着させた亜鉛被膜は、亜鉛の融点を上回る温度に加熱されると、溶融し流動して熱間成形用ツールの働きを妨害し」と記載されているように、溶融して成形処理のツールの働きを妨害するものであったことを考慮すると、「潤滑機能を確保する」は、熱間成形や熱処理の熱で被覆が溶融せずに、ツールの働きを妨害しないことを意味すると解することができる。したがって、当該用語は明確である。 エ.以上のとおり、特許発明1における「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保する」という発明特定事項は明確である。 (4)特許発明8の「鋼板」について 請求人は、特許発明8に鋼板の成分が特定されているところ、それ以外にどのような成分を添加することができるかも不明である旨を主張している。 しかし、特許発明8には「残部が鉄と不可避不純物であること」が特定されているから、特許発明8における鋼板は明確である。 (5)「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品」について 特許発明1及び3から8までは、「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品」という発明特定事項を備えていないから、当該事項が特許法第36条第6項第2号に適合しないという理由は成り立たない。 (6)請求人の主張について ア.上記第5.1-1.[請求人](1)の主張 特許法第36条第6項第2号についての請求人の主張は、概ね、亜鉛以外の元素(例えば、鉄やアルミニウム)が本件特許発明に特定されていないことに起因するものである(上記第5.1-1.[請求人](1)ア.及びイ.)ところ、ある具体的な物が「亜鉛ベース合金」に入るか否かを理解できる以上、亜鉛以外の元素が特定されていないからといって、「亜鉛ベース合金」との記載が、特許法第36条第6項第2号に適合しないとまではいえない。 イ.上記第5.1-1.[請求人](2)の主張 特許法第36条第6項第2号についての請求人の主張は、「亜鉛ベース合金」を「純亜鉛めっき」や「亜鉛アルミニウム被膜」に限定して解釈すべきというもの(上記第5.1-1.[請求人](2)イ.及びウ.)に尽きるところ、そもそも当該主張は、特許法第36条第6項第2号の不備をいうものではないし、甲15を参照しても、被請求人は「亜鉛ベース合金」として「純亜鉛めっき」や「亜鉛アルミニウム被膜」に限定する旨の主張をしていないうえに、本件明細書にも、「亜鉛ベース合金」として「純亜鉛めっき」や「亜鉛アルミニウム被膜」に限定する旨の記載がないから、請求人の主張は採用できない。 ウ.上記第5.1-2.[請求人]の主張 特許法第36条第6項第2号についての請求人の主張は、概ね、「亜鉛-鉄ベース合金化合物」や「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」を構成する元素のうち、亜鉛、鉄、アルミニウム以外の元素が、特許発明1や特許発明7に特定されていないことに起因するものである(上記第5.1-2.[請求人]ウ.及びエ.)ところ、ある具体的な物が特許発明1や特許発明7でいう合金化合物に入るか否かを理解できる以上、亜鉛、鉄、アルミニウム以外の元素が特定されていないからといって、特許法第36条第6項第2号に適合しないとまではいえない。 また、請求人は、「亜鉛-鉄ベース合金化合物」を「亜鉛-鉄合金化合物」と限定して解釈し、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」を「亜鉛-鉄-アルミニウム合金化合物」と限定して解釈するべき旨の主張(上記第5.1-2.[請求人]イ.)をしているが、そもそも当該主張は、特許法第36条第6項第2号の不備をいうものではないし、甲15を参照しても、被請求人は特許発明1及び7について、そのように限定する旨の主張をしていないうえに、本件明細書にも、そのように限定する旨の記載がないから、請求人の主張は採用できない。 (7)特許法第36条第6項第2号の判断のむすび 以上のとおり、請求人の主張する無効理由1のうち、特許法第36条第6項第2号についての理由はいずれも成り立たない。 4.特許法第36条第6項第1号の判断 無効理由1のうち、特許法第36条第6項第1号について検討する。 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」という要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (1)本件明細書における従来技術及び本件特許発明の解決課題 上記1.の摘記事項のうち、特に段落【0001】から【0004】までを総合すると、本件明細書における従来技術及び本件特許発明の解決課題について、概ね次のように理解できる。 ア.従来、熱間成形または熱処理を要する鋼板においては、熱処理の前には鋼板の被覆処理が行われていなかった。その理由は、熱処理が、一般に700℃を上回る高い温度で行われ、鋼板の亜鉛被膜において、加熱温度が亜鉛の融点を上回るため、亜鉛が溶融し流動して熱間成形用ツールの働きを妨害し、更に、急冷中に被膜が劣化すると考えられてきたためである。 イ.被膜形成の処理は、熱間成形や熱処理後の完成部品に対して行われており、このためには、該部品の表面及び中空部分の十分な清浄化が不可欠であるところ、当該清浄化には酸または塩基を使用する必要があるため、経済的な負担や、作業員及び環境への危険があった。また、鋼の脱炭及び酸化を完全に防止するために、熱処理を管理雰囲気下で行う必要があった。加えて、熱間成形の際に生じるカーボンデポジットが成形用ツールを損傷し、部品の品質を低下させたり、ツールの頻繁な修理が必要になるため高コストであった。最後に、得られた部品の耐食性を高めるために、該部品の後処理が必要であるが、当該後処理は経費も高く作業も難しく、極めて高い機械的特性値をもつ鋼の後被覆において、電気亜鉛メッキ法では水素による脆化の危険があり、浸漬亜鉛メッキ法では鋼の機械的特性の変化などの欠点があった。 ウ.本件特許発明は、これらの従来の技術における欠点に対して、熱間成形や熱処理の前に鋼板に被覆を形成することで、熱処理における鋼板の脱炭や酸化を防止し、熱間成形の際の成形用ツールの損傷や、ツールの働きを妨害することなく、耐食性を高めた極めて高い機械的特性値をもつ鋼板を製造する方法を提供することを解決課題とするものである。 (2)発明の詳細な説明に記載されている事項 ア.発明の詳細な説明には、亜鉛又は亜鉛合金で被膜した鋼板を熱処理又は熱間成形のために温度を上昇させたときに、従来の定説とは異なり、被膜が鋼板の鋼と合金化した層を形成し、この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度をもつようになる(段落【0016】)という新たな知見が記載されている。また、被膜が鋼板の鋼と合金化すること、具体的には被膜が高温で金属間合金に変態すること(段落【0027】)が示されており、当業者であれば、被膜と鋼板の鋼とが合金化合物(金属間化合物)に変態して強く結合することにより、熱処理又は熱間成形のための温度上昇においても、被膜の溶融が生じないこと、すなわち被膜と鋼板との分離が生じないことを理解できる。 イ.さらに発明の詳細な説明には、実施例として、厚み1mmの冷間圧延鋼板を、厚み約10μmの亜鉛被膜をメッキして部品を製造し、成形前の鋼板を950℃でオーステナイト化し、ツール内で焼入れする(段落【0029】)ことが記載されており、上記ア.に示す知見によれば、成形前の鋼板を950℃でオーステナイト化する過程において、メッキされた亜鉛と鋼板の鋼とが合金化合物に変態する現象が起こり、亜鉛-鉄合金化合物が形成されて、亜鉛と鋼板とが強く結合することで950℃の温度においても亜鉛の被膜の溶融が生じないことを理解できる。 ウ.上記イ.に示す実施例を説明する段落【0029】には、鋼板から部品を製造する旨、記載されており、鋼板を部品化することの示唆があるところ、発明の詳細な説明における「鋼板を裁断して鋼板ブランクを得る段階」(段落【0006】)という記載を参照すると、当業者であれば、上記イ.に示す実施例においても、鋼板を部品化するにあたり、鋼板を裁断して鋼板ブランクを得る段階を有していると理解できる。 エ.また、段落【0029】には、ツール内で焼入れすることが記載されており、発明の詳細な説明における「型打ちによって得られた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度で冷却することによって焼入れする」(段落【0007】)という記載を参照すると、当業者であれば、上記イ.に示す実施例においても、型打ちされた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度でさらに冷却する段階を有していると理解できる。 オ.また、段落【0029】には、「型打ち処理に必要であった熱処理用鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階」が明記されていないが、発明の詳細な説明における「型打ち処理に必要であった鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階」(段落【0007】)という記載を参照すると、上記イ.に示す実施例においても、当該除去する段階を有していると理解できる。 カ.また、段落【0029】には、「成形前の鋼板を950℃でオーステナイト化」するとの記載があるところ、図1を参照すると、「800-1200℃の炉で2分-10分」との記載を参照すると、上記イ.に示す実施例においても、「800-1200℃の炉で2分-10分」加熱することが可能であると理解できる。 キ.そして、上記イ.に示す実施例によって、上記(1)ウ.に示す本件特許発明の解決課題を解決できるかどうか検討すると、メッキの亜鉛と鋼板の鋼とが金属間化合物に変態して、亜鉛と鋼板とが強く結合し、950℃の温度においても亜鉛の被膜の溶融が生じないこと、すなわち亜鉛の被覆が熱間型打ちの際にも存在することから、上記3.(3)イ.で説示したように、「鋼の脱炭に対する保護」が生じることを理解できるし、上記3.(3)ウ.で説示したように、「潤滑機能を確保する」ことを理解でき、本件特許発明の解決課題における「熱処理における鋼板の脱炭や酸化を防止」することや「熱間成形の際の成形用ツールの損傷や、ツールの働きを妨害する」ことを解決しているといえる。 また、上記イ.に示す実施例の合金化合物の被覆は、熱処理や熱間型打ち、焼入れにおいても溶融が生じないから、上記3.(3)ア.で説示したように、「腐食に対する保護」が生じることを理解でき、本件特許発明の解決課題における「耐食性を高め」ることを解決しているといえる。 さらに、上記イ.に示す実施例の鋼板は、焼入れされているから、当業者であれば、当然に高い機械的強度が得られることを理解でき、本件特許発明の解決課題における「極めて高い機械的特性値をもつ鋼板を製造する」ことを解決しているといえる。 以上のとおりであるから、上記イ.に示す実施例は、上記(1)ウ.に示す本件特許発明の解決課題を解決できることは明らかである。 ク.さらに、上記イ.に示す実施例は、合金化合物を形成する前の被覆として、亜鉛メッキが示されているが、発明の詳細な説明には、それ以外に「亜鉛ベース合金」(段落【0007】)、「亜鉛アルミニウム被膜」(段落【0013】)、「亜鉛ベースの合金で被膜」(段落【0014】)、「亜鉛合金の被膜」(【0015】)、「亜鉛合金」(段落【0017】)、「亜鉛ベースの被膜」(段落【0021】)、「この被膜は50-55%のアルミニウムと45-50%の亜鉛とから成り」(段落【0038】)との記載があり、図1には「Al/Znで被覆」との記載があるから、当業者であれば、合金化合物を形成する前の被覆として、亜鉛及び亜鉛ベース合金が存在することを理解できる。 また、上記イ.に示す実施例は、被覆の金属と鋼板の鋼とで形成する合金化合物について、亜鉛-鉄合金化合物を認識できるところ、発明の詳細な説明には、それ以外に「亜鉛-鉄ベース化合物または亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物」(段落【0007】)、「亜鉛とアルミニウムと鉄とが合金化して」(段落【0038】)との記載があり、図1には「Zn-FeまたはZn-Al-Fe合金層」との記載があるから、被覆の金属と鋼板の鋼とで形成する金属間化合物について、「亜鉛-鉄ベース合金化合物または亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」が存在することを理解できる。 ケ.ところで、発明の詳細な説明には、「亜鉛ベース合金」に相当する具体的な記載は、亜鉛とアルミニウムとからなり、亜鉛が50重量%のもの(段落【0038】)のみしか記載されておらず、また、「亜鉛-鉄ベース合金化合物」に相当する具体的な記載は、亜鉛-鉄合金化合物(図1)のみしか記載されておらず、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」に相当する具体的な記載は、亜鉛-鉄-アルミニウム合金化合物(段落【0038】及び図1)のみしか記載されていない。 コ.そこで、本件特許に係る出願の優先日当時の技術常識に照らすと、「亜鉛ベース合金」に相当する物として亜鉛-ニッケルメッキ(乙14の「Zn-10-13%Ni/Steel」)や、亜鉛-鉄メッキ(乙14の「Zn-15%Fe/Steel」)、亜鉛-5%アルミニウムメッキ(乙14の「Zn-5%Al Steel」)、亜鉛とアルミニウムなど亜鉛を主成分として、ニッケルの合金元素を含むメッキ(乙15の段落【0007】)が存在することが明らかであるし、「亜鉛-鉄ベース合金化合物」に相当する物として、亜鉛-鉄合金化合物(甲2及び甲3)、鉄-ニッケル-亜鉛合金化合物(乙25及び乙26)が存在することが明らかであるし、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」に相当する物として、鉄-亜鉛-アルミニウム-ニッケル合金化合物(乙28)が存在することが明らかである。 サ.そして、これらの亜鉛-ニッケルメッキ、亜鉛-鉄メッキ、亜鉛とアルミニウムなど亜鉛を主成分として、ニッケルの合金元素を含むメッキから、亜鉛-鉄合金化合物や鉄-ニッケル-亜鉛合金化合物、鉄-亜鉛-アルミニウム-ニッケル合金化合物が形成されるか否か、また、それらが本件特許発明の解決課題を解決するかどうかを検討すると、亜鉛-鉄合金化合物が実在し、550℃から650℃で合金化合物が形成される(甲3)から、上記ア.に説示する新たな知見に照らせば、鋼板を熱処理又は熱間成形する際に、亜鉛-鉄メッキの亜鉛及び鉄と、鋼板の鋼とが、亜鉛-鉄合金化合物を形成するといわざるを得ない。そしてそのように合金化合物が形成されれば、被覆と鋼板とが強く結合されることになるから、上記キ.に説示した亜鉛の被覆と同様に、本件特許発明の解決課題を解決することになるといえる。 同様に、鉄-ニッケル-亜鉛合金化合物が実在する以上、鋼板を熱処理又は熱間成形する際に、亜鉛-ニッケルメッキの亜鉛及びニッケルと、鋼板の鋼とが、鉄-ニッケル-亜鉛合金化合物を形成するといえるし、鉄-亜鉛-アルミニウム-ニッケル合金化合物が存在する以上、亜鉛とアルミニウムなど亜鉛を主成分として、ニッケルの合金元素を含むメッキにおける亜鉛、アルミニウム及びニッケルと、鋼板の鋼とが、鉄-亜鉛-アルミニウム-ニッケル合金化合物を形成するということができ、いずれの合金化合物も、本件特許発明の解決課題を解決することになるといえる。 (3)特許発明1についての判断 上記(2)ア.からク.までに示す発明の詳細な説明に記載されている事項を総合すると、特許発明1が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるし、特許発明1における「亜鉛ベース合金」に相当する合金の具体的な名称や、「亜鉛-鉄ベース合金化合物」に相当する化合物の具体的な名称、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」に相当する化合物の具体的な名称を、それぞれ列挙して特定していないとしても、上記(2)ケ.からサ.までに示すように、当業者が本件特許に係る出願の優先日当時の技術常識に照らし、本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものである。 (4)特許発明3についての判断 発明の詳細な説明の「金属合金が5μm-30μmの範囲の厚み」(段落【0007】)という記載を参照すると、被覆の厚みを5μm-30μmの範囲とすることを理解できるから、上記(3)と同様に、特許発明3が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるし、特許発明3における「亜鉛ベース合金」に相当する具体的な合金の記載や、「亜鉛-鉄ベース合金化合物」に相当する具体的な化合物の記載、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」に相当する具体的な化合物の記載が十分でないとしても、上記(2)ケ.からサ.までに説示するように、当業者が本件特許に係る出願の優先日当時の技術常識に照らし、本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、特許発明3は、発明の詳細な説明に記載したものである。 (5)特許発明7についての判断 発明の詳細な説明の「この被膜は50-55%のアルミニウムと45-50%の亜鉛とから成り、任意に少量のケイ素を含有する」(段落【0036】)という記載を参照すると、被覆の金属と鋼板の鋼とで形成する金属間化合物について、ケイ素を含む「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」が存在することを理解でき、上記(3)と同様に、特許発明7が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、特許発明7は、発明の詳細な説明に記載したものである。 (6)特許発明8についての判断 発明の詳細な説明の「1つの実施態様では、以下の重量組成をもつ鋼から熱間圧延鋼板の帯材を製造する:炭素:0.15%-0.25% マンガン:0.8%-1.5% ケイ素:0.1%-0.35% クロム:0.01%-0.2% チタン:0.1%以下 アルミニウム:0.1%以下 リン:0.05%以下 イオウ:0.03%以下 ホウ素:0.0005%-0.01%」(段落【0028】)という記載を参照し、さらに、鋼が鉄、及び不可避不純物を含有することは技術常識であることを考慮すると、鋼板の組成として、「0.15-0.25重量%の炭素、0.8-1.5重量%のマンガン、0.1-0.35重量%のケイ素、0.01-0.2重量%のクロム、0.1重量%以下のチタン、0.1重量%以下のアルミニウム、0.05重量%以下のリン、0.03重量%以下のイオウ及び0.0005-0.01重量%のホウ素を含み、残部が鉄と不可避不純物」であることを理解でき、上記(3)と同様に、特許発明8が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、特許発明8は、発明の詳細な説明に記載したものである。 (7)請求人の主張について ア.上記第5.1-1.[請求人](1)から(5)までの主張 特許法第36条第6項第1号についての請求人の主張は、概ね、「亜鉛ベース合金」に相当する合金の具体的な記載が、発明の詳細な説明に記載されていないというものであるところ、上記(2)ケ.からサ.までに説示するように、本件特許に係る出願の優先日当時の技術常識に照らすと、特許発明1は、本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、請求人の当該主張は採用できない。 イ.上記第5.1-2.[請求人]の主張 請求人の主張は、概ね、「亜鉛-鉄ベース合金化合物」や「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」に相当する合金化合物の具体的な記載が、発明の詳細な説明に記載されていないというものであるところ、上記(2)ケ.からサ.までに説示するように、本件特許に係る出願の優先日当時の技術常識に照らすと、特許発明1及び7は、本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、請求人の当該主張は採用できない。 また、請求人は、合金化合物の融点に関して主張(上記第5.1-2.[請求人]ク.)しているところ、当該主張は、実質的に審判請求書の要旨を変更するものであり、平成26年11月21日付けの補正拒否の決定により、当該主張に係る補正を許可しない旨、決定されたので、本件無効審判においては、審理の対象としない。 ウ.上記第5.1-3.[請求人]の主張 請求人の主張は、腐食に対する保護、鋼の脱炭に対する保護、潤滑機能を確保することの3つの特性が発明の詳細な説明に記載されていないというものであるところ、本件特許に係る出願の優先日当時の技術常識に照らすと、特許発明1は、本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、請求人の当該主張は採用できない。 エ.上記第5.1-4.[請求人]の主張 請求人の主張は、特許発明8を具体化した鋼組成、その製造条件についての記載が、発明の詳細な説明に全くないというものであるところ、本件特許に係る出願の優先日当時の技術常識に照らすと、特許発明8は、本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、請求人の当該主張は採用できない。 オ.上記第5.1-5.[請求人]の主張 特許発明1及び3から8までには、「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品」という特定はないから、請求人の主張は失当であり、採用できない。 (8)特許法第36条第6項第1号の判断のむすび 以上のとおり、請求人の主張する無効理由1のうち、特許法第36条第6項第1号についての理由はいずれも成り立たない。 5.無効理由1についてのむすび 特許発明1及び3から8までについての特許は、特許法第36条第6項第1号及び2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえないから、無効理由1によっては、無効とすることができない。 第7.無効理由2(新規事項違反)についての当審の判断 無効理由2は、平成16年7月29日付けの手続補正(以下、「甲11補正」ということがある。)により、請求項1及び7が補正されたところ、甲11補正が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、特許発明1及び3から8までに係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるというものである。 以下、甲11補正による請求項1の補正と請求項7の補正を、順次検討する。 1.甲号証の記載 (1)甲9の記載 甲9(本件特許に係る出願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項並びに図面の内容を掲載する公開公報)の第1欄の【特許請求の範囲】には、以下の記載がある。 「【請求項1】 鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する金属または金属合金で被覆された圧延鋼板、特に熱間圧延鋼板の帯材を型打ちすることによって極めて高い機械的特性値をもつ成形部品を製造する方法であって、鋼板を裁断して鋼板ブランクを得る段階と、鋼板ブランクの型打ちによって部品を成形する段階と、型打ち前または型打ち後に、腐食に対する保護、鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る金属間合金化合物で表面を被覆する段階と、型打ち処理に必要であった鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階と、を含んで成る方法。 【請求項2】 (省略) 【請求項3】 (省略) 【請求項4】 (省略) 【請求項5】 (省略) 【請求項6】 特に型打ちによって得られた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度で冷却することによって焼入れすることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項7】 型打ち、特に熱間型打ちによる部品の成形によって高い機械的硬度、高い表面硬度などの特性及び極めて優れた耐摩耗性をもつ部品を得るための、鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する金属または金属合金で被覆された圧延鋼板、特に熱間圧延鋼板の帯材の使用。」 (2)甲11の記載 甲11(本件特許に係る出願における平成16年7月29日付け手続補正書)の第1ページ下から第9行から第2ページ下から4行までには、以下の記載がある。 「 【請求項1】 鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する金属または金属合金で被覆された圧延鋼板の帯材を型打ちすることによって成形された部品を製造する方法であって、 鋼板を裁断して鋼板ブランクを得る段階と、 鋼板ブランクを熱間型打ちして部品を得る段階と、 型打ち前に、腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る合金化合物を熱処理により鋼板ブランクの表面に生じさせる段階と、 型打ち処理に必要であった鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階と、 を含んで成る方法。 【請求項2】 (省略) 【請求項3】 (省略) 【請求項4】 (省略) 【請求項5】 (省略) 【請求項6】 型打ちされた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度で冷却することによって焼入れすることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項7】 作用させる高温が900℃を上回ることを特徴とする請求項2に記載の方法。 【請求項8】 請求項1から7のいずれか一項に記載の方法によって得られた部品であって、1500MPaを上回る破壊強度を有することを特徴とする部品。 【請求項9】 請求項1から7のいずれか一項に記載の方法によって得られた部品であって、600HV/100gを上回る表面硬度を有することを特徴とする部品。 【請求項10】 請求項1から7のいずれか一項に記載の方法に用いられる被覆された鋼板であって、前記鋼板が0.15-0.25重量%の炭素、0.8-1.5重量%のマンガン、0.1-0.35重量%のケイ素、0.01-0.2重量%のクロム、0.1重量%以下のチタン、0.1重量%以下のアルミニウム、0.05重量%以下のリン、0.03重量%以下のイオウ及び0.0005-0.01重量%のホウ素を含むことを特徴とする鋼板。」 (3)甲14の記載 甲14(本件特許に係る出願における平成17年1月24日付け手続補正書)の第1ページ下から第10行から第2ページ最終行までには、以下の記載がある。 「 【請求項1】 鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する、亜鉛または亜鉛ベース合金で被覆された圧延鋼板の帯材を型打ちすることによって成形された部品を製造する方法であって、 鋼板を裁断して鋼板ブランクを得る段階と、 鋼板ブランクを熱間型打ちして部品を得る段階と、 型打ち前に、腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る、亜鉛-鉄ベース化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物からなる群から選択される合金化合物を熱処理により鋼板ブランクの表面に生じさせる段階と、 型打ち処理に必要であった鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階と、 を含んで成る方法。 【請求項2】 (省略) 【請求項3】 (省略) 【請求項4】 (省略) 【請求項5】 型打ちされた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度で冷却することによって焼入れすることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項6】 作用させる高温が900℃を上回り、かつ1200℃以下であることを特徴とする請求項4に記載の方法。 【請求項7】 亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物がケイ素を含有することを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項8】 請求項1から7のいずれか一項に記載の方法に用いられる被覆された鋼板であって、前記鋼板の被覆される前の鋼板が0.15-0.25重量%の炭素、0.8-1.5重量%のマンガン、0.1-0.35重量%のケイ素、0.01-0.2重量%のクロム、0.1重量%以下のチタン、0.1重量%以下のアルミニウム、0.05重量%以下のリン、0.03重量%以下のイオウ及び0.0005-0.01重量%のホウ素を含むことを特徴とする鋼板。」 2.甲11補正による請求項1の補正 甲11補正による請求項1の補正は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載が、甲9の【請求項1】に記載のとおりであったものを、甲11の【請求項1】に記載のとおりに補正するものである。 (1)請求項1の補正についての請求人の主張 請求人は、「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品」という記載を「成形された部品」と補正することは、「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品」以外の「成形された部品」を製造する方法を含むことになり、甲11補正が、願書に最初に添付した明細書特許請求の範囲又は図面に記載した事項(以下、当初明細書等に記載した事項」という。)の範囲内においてされたとはいえない旨を主張している(第5.2.(1))。 (2)判断 補正が、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、特許法第17条の2第3項でいう「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。 甲11補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、願書に最初に添付した明細書及び図面は、何ら補正されていないから、甲11補正が、明細書及び図面については、新たな技術的事項を導入しないものであることは、明らかである。 そして、特許発明1は、甲11補正後の請求項1が、平成17年1月24日付けで再度補正(上記第1.及び甲14)され、さらに本件訂正が認められたことにより、上記第3.の【請求項1】に記載したとおりのものとなったところ、上記第6.4.(1)から(3)までに説示するように、特許発明1は、明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるから、特許発明1には、新たな技術的事項が導入されていないといえる。 したがって、甲11補正による請求項1の補正は、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、当該補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものということができる。 3.甲11補正による請求項7の補正 甲11補正による請求項7の補正は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項7の記載が、甲9の【請求項7】のとおりであったものを、甲11のとおりに削除し、新たに請求項7から10までを付加するものである。 (1)請求項7の補正についての請求人の主張 甲11補正により請求項7の「・・・圧延鋼板、特に熱間圧延鋼板の帯材の使用。」という発明が削除され、新たに、請求項10として「・・・鋼板。」という発明が追加されたが、請求項7の「使用」は、熱間圧延鋼板の帯材の使用方法であると解され、また、発明の詳細な説明には、亜鉛が被覆される前の鋼板自体が特徴を有することや、亜鉛が被覆された鋼板自体が特徴を有することについて記載がない。請求項7に記載された発明は、熱間圧延鋼板の帯材の使用方法に特徴を有するものであるから、請求項7を削除して、請求項10として「・・・鋼板。」を追加することは、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたとはいえないというものである(第5.2.(2))。 (2)判断 上記2.(2)に説示するように、甲11補正が、明細書及び図面については、新たな技術的事項を導入しないものであることは、明らかであるし、甲11補正により請求項7を削除することで、新たな技術的事項が何ら導入されていないことは、明らかである。 また、特許発明8は、甲11補正後の請求項10が、平成17年1月24日付けで再度補正(上記第1.及び甲14)されて請求項8となり、さらに本件訂正が認容されたことにより、上記第3.の【請求項8】に記載したとおりのものとなったところ、上記第6.4.(1)から(6)までに説示するように、特許発明8は、明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるから、特許発明8には、新たな技術的事項が導入されていないといえる。 したがって、甲11補正による請求項7の補正は、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、当該補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものということができる。 4.無効理由2についてのむすび 以上のとおり、平成16年7月29日付けの手続補正が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないということはできず、特許発明1及び3から8までに係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるということはできないから、無効理由2によっては、無効とすることができない。 第8.無効理由3(実施可能要件)についての当審の判断 特許発明1及び3から8までに係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるというものであり、以下、請求人の主張する具体的理由に沿って、順次検討する。 1.甲号証及び乙号証の記載 (1)甲2の記載 甲2の記載は、上記第6.2.(1)に摘示するとおりである。 (2)甲3の記載 甲3の記載は、上記第6.2.(2)に摘示するとおりである。 (3)甲18の記載 甲18には、以下の記載がある ア.「【0012】本発明の一つの実施例では、アルミニウム比率が約90%のアルミニウム合金浴中で焼入れする鋼板の被覆で、被覆層は鋼表面と接触する第1合金層を構成する。この層は鋼板の表面と直接接触しており、鉄と強い合金を作る。この第1層の上には約90%のアルミニウムを含む第2被覆層を形成する。この第2被覆層は浴の組成に応じて珪素および少量の鉄を含む。 【0013】部品製造時に鋼板を成形する際に第1合金層に亀裂が生じることがある。本発明では、部品を成形後、被覆材はの温度を5℃/秒以上、場合によっては600℃/秒以上の速度で上昇させる。この温度上昇によってアルミニウムが急速に再融合し、部品の成形操作で生じた亀裂が塞がれる。本発明の他の利点は被覆材中の鉄の拡散が高温で開始し、従って、被覆材と鋼板の鋼との間に良好な凝集力が得られる点にある。本発明の他の態様では、熱処理を大きく変形させた部分に局部的に行う。」 イ.「【0017】合金元素Mn、Cr、Bによって、熱処理時の部品の変形を制限しながら絞り工具での焼入れまたはあまり激しくない焼入れの流体の使用を可能とする焼入れ性が得られる。さらに、本発明の組成物は溶接性の観点から最適化される。鋼板の鋼はカルシウムで行う硫黄の溶滴化処理をすることができ、鋼板の耐疲労性を向上させる。鋼は構造物および貫入防止の部品の製造に特に適している。提案された被覆材は例えば、被覆材を含まない熱処理用の鋼製鋼板等の表面を製造する各種操作を避けることができる。熱処理のパラメータの変調は、所定の組成物を用いて、目標となる厚さに応じて熱間鋼板および冷間鋼板で各種レベルの抵抗を達成することができる。熱処理時に、例えばアルミニウムをベースとする被覆材は鉄合金に変態し、熱処理に依存する各種の相を含み、600HV100gを超えうる高い硬度を有する。」 (3)乙14の記載 乙14の記載は、上記第6.2.(10)に摘示するとおりである。 (4)乙15の記載 乙15の記載は、上記第6.2.(11)に摘示するとおりである。 (5)乙26の記載 乙26の記載は、上記第6.2.(13)に摘示するとおりである。 (6)乙28の記載 乙28の記載は、上記第6.2.(14)に摘示するとおりである。 2.実施例について (1)請求人の主張 本件明細書の実施例についての請求人の主張は、上記第2.3.(1)[請求人]に摘示するとおりである。 (2)判断 ア.本件特許発明は、上記第6.4.(1)ウ.に説示するように、熱間成形や熱処理の前に鋼板に被覆を形成することで、熱処理における鋼板の脱炭や酸化を防止し、熱間成形の際の成形用ツールの損傷や、ツールの働きを妨害することなく、耐食性を高めた極めて高い機械的特性値をもつ鋼板を製造する方法を提供することを解決課題とするものであるところ、本件特許発明の前提となる従来技術について、段落【0002】に「極めて高い機械的特性値をもつ鋼の後被覆はまた、・・・などの欠点がある」と記載されているように、「極めて高い機械的特性値をもつ鋼」それ自体は従来技術にすぎず、本件特許発明は、そのような従来技術である鋼を前提として、当該鋼に被覆を形成し、鋼の熱間成形や熱処理において当該被覆と鋼との間で合金化合物を形成させることに特徴を有するものと解するのが相当である。 イ.したがって、鋼の具体的組成や、製造方法も従来技術に含まれることは明らかであるし、本件明細書の段落【0028】には、鋼板の成分のうち、炭素、マンガン、ケイ素、クロム、チタン、アルミニウム、リン、イオウ、及びホウ素について具体的な数値範囲が記載されており、鋼が鉄、及び不可避不純物を含有することは技術常識であるから、鋼板の成分が記載されていないとはいえない。 ウ.また、上記第6.4.(2)イ.に説示するように、当業者であれば、実施例において、成形前の鋼板を950℃でオーステナイト化する過程において、メッキされた亜鉛と鋼板の鋼とが合金化合物に変態する現象が起こり、亜鉛-鉄合金化合物が形成されて、亜鉛と鋼板とが強く結合することで950℃の温度においても亜鉛の被膜の溶融が生じないことを理解できるし、上記第6.4.(2)ウ.及びオ.に説示するように、鋼板を裁断して鋼板ブランクを得る段階や、型打ち処理に必要であった鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階を有していると理解できる。 エ.以上から、本件明細書の実施例についての請求人の主張は、理由がない。 3.「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品」を製造するという課題を解決する手段について (1)請求人の主張 本件特許明細書の「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品」を製造するという課題を解決する手段についての請求人の主張は、上記第2.3.(2)[請求人]に摘示するとおりである。 (2)判断 ア.上記2.(2)ア.及びイ.に説示するように、「極めて高い機械的特性値をもつ鋼」それ自体は従来技術にすぎず、当然に、そのような鋼の具体的組成や、製造方法も従来技術に含まれることは明らかであるから、本件明細書において、従来技術である鋼の具体的組成が個々に記載されておらず、また、製造方法について逐一記載されていないとしても、本件特許発明を実施できない理由にはならない。 イ.したがって、本件明細書の「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品」を製造するという課題を解決する手段についての請求人の主張は、理由がない。 4.熱間型打ち前の鋼板の製造条件、特性について (1)請求人の主張 本件明細書の熱間型打ち前の鋼板の製造条件、特性についての請求人の主張は、上記第2.3.(3)[請求人]に摘示するとおりである。 (2)判断 ア.上記2.(2)ア.及びイ.に説示するように、「極めて高い機械的特性値をもつ鋼」それ自体は従来技術にすぎず、当然に、そのような鋼の具体的組成や、製造方法も従来技術に含まれることは明らかであるから、本件明細書において、従来技術である鋼の熱間型打ち前の製造条件や、特性について個々に記載されていないとしても、本件特許発明を実施できない理由にはならない。 イ.したがって、本件明細書の熱間型打ち前の鋼板の製造条件、特性についての請求人の主張は、理由がない。 5.「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物」を形成するための条件について (1)請求人の主張 本件明細書の「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物」を形成するための条件についての請求人の主張は、上記第2.3.(4)[請求人]に摘示するとおりである。 (2)判断 ア.上記第6.4.(2)コ.に説示するように、本件特許に係る出願の優先日当時の技術常識に照らすと、「亜鉛ベース合金」に相当する物として亜鉛-ニッケルメッキ(乙14の「Zn-10-13%Ni/Steel」)や、亜鉛-鉄メッキ(乙14の「Zn-15%Fe/Steel」)、亜鉛-5%アルミニウムメッキ(乙14の「Zn-5%Al Steel」)、亜鉛とアルミニウムなど亜鉛を主成分として、ニッケルの合金元素を含むメッキ(乙15の段落【0007】)が存在することが明らかであるし、「亜鉛-鉄ベース合金化合物」に相当する物として、亜鉛-鉄合金化合物(甲2及び甲3)、鉄-ニッケル-亜鉛合金化合物(乙26)が存在することが明らかであるし、「亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物」に相当する物として、鉄-亜鉛-アルミニウム-ニッケル合金化合物(乙28)が存在することが明らかであり、上記第6.4.(2)サ.に説示するように、鉄-ニッケル-亜鉛合金化合物が実在する以上、鋼板を熱処理又は熱間成形する際に、亜鉛-ニッケルメッキにおける亜鉛及びニッケルと、鋼板における鋼とが、鉄-ニッケル-亜鉛合金化合物を形成するといえるし、鉄-亜鉛-アルミニウム-ニッケル合金化合物が存在する以上、亜鉛とアルミニウムなど亜鉛を主成分として、ニッケルの合金元素を含むメッキにおける亜鉛、アルミニウム及びニッケルと、鋼板における鋼とが鉄-亜鉛-アルミニウム-ニッケル合金化合物を形成するということができ、当業者であれば、本件特許に係る出願の優先日当時の技術常識に照らして、亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物を実施できるといえる。 イ.請求人は、甲18の段落【0013】の「本発明では、部品を成形後、被覆材はの温度を5℃/秒以上、場合によっては600℃/秒以上の速度で上昇させる。この温度上昇によってアルミニウムが急速に再融合し、部品の成形操作で生じた亀裂が塞がれる」との記載を根拠として、鉄-アルミニウム合金を形成するためには、鋼板の温度を5℃/秒以上の速度で上昇させることが必要であり、亜鉛ベースの被覆材を有する鋼板についても、これを合金化するためには昇温速度が問題になるはずであるが、導体昇温速度については全く記載されていないことの不備を主張している。 しかし、甲18において、鋼板の温度を5℃/秒以上の速度で上昇させているのは、成形により生じた被覆の亀裂を塞ぐためであるから、請求人の主張は前提において誤っており、理由がない。 ウ.また、請求人は、亜鉛アルミニウム被膜については具体的な熱処理条件の記載はなく、当該被膜を何℃で何分間保持すれば、亜鉛-アルミニウム-鉄被膜が形成されるのか不明であり、被膜にケイ素が含有される場合、ケイ素が何%含有され、何℃で何分間保持すれば、亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物中に、どのような状態でケイ素が含有されるのか実施例に全く記載がないことの不備を主張している。 しかし、亜鉛-鉄-アルミニウム合金化合物が実在する以上、当該合金化合物を形成するための具体的な熱処理条件等は、当業者が適宜に決定すればよい事項にすぎず、その熱処理条件を決定するための試行錯誤が、過度のものとはいえない。 また、ケイ素が何%含有させるかは、当業者が任意に決定すればよい事項にすぎず、その含有量を決定するための試行錯誤が、過度のものとはいえない。 以上から、熱処理条件やケイ素の含有量についての不備の主張は、理由がない。 エ.また、請求人は、「亜鉛又は亜鉛ベース合金」並びに「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物」と「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保する」こととの関係が、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨を主張している。 しかし、上記第6.4.(2)サ.に説示するように、当業者であれば、「亜鉛又は亜鉛ベース合金」並びに「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物」により「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保する」ことを理解できるから、請求人の当該主張は、理由がない。 6.無効理由3についてのむすび 以上のとおり、特許発明1及び3から8までは、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないということはできず、特許発明1及び3から8までに係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできないから、無効理由3によっては、無効とすることができない。 第9.無効理由5(進歩性)についての当審の判断 事案に鑑み、無効理由4よりも先に、無効理由5について検討する。 無効理由5は、特許発明1及び3から8までは、甲18に記載された発明(以下、「甲18発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するというものである。 1.甲号証及び乙号証の記載 (1)甲18の記載及び甲18発明 甲18には、以下の事項及び発明が記載されている。 なお、無効理由1から4までの判断において摘記したものについても、改めて摘記する。また、摘記事項における下線は、理解を容易にするために当審で付した。 ア.「【請求項1】 下記重量組成を有する熱間圧延後に冷間圧延が可能な、熱処理後に極めて高い機械強度を有し、アルミニウム被覆材が高い耐食性を保証する被覆鋼板: 0.15%<炭素<0.5% 0.5%<マンガン<3% 0.1%<珪素<0.5% 0.01%<クロム<1% チタン<0.2% アルミニウム<0.1% リン<0.1% 硫黄<0.05% 0.0005%<ホウ素<0.08% 残部は鉄と製造に起因する不純物。 ・・・ 【請求項4】 被覆用金属浴が重量組成%で9~10%の珪素、2~35%の鉄を含み、残部がアルミニウムである請求項1に記載の被覆鋼板。」 イ.「【0009】本発明では一連の熱間圧延(場合によっては冷間圧延)によって得られた鋼板を、必要に応じて再度冷間圧延して所望最終厚さにした後、アルミニウムをベースとする被覆材、例えば8~11%の珪素、2~4%の鉄を含むアルミニウム浴中でアニール被覆(revetue au trempe)する。得られた鋼板は熱処理後に高い機械強度を有し、高い耐食性と良好な塗装性および接着性を有する。 【0010】被覆材は冷間および熱間での腐食からベース鋼板を保護する役目をする。本発明鋼板の出荷状態での機械強度は種々の成形、特に深絞りが可能なものである。熱間成形加工時または成形後に行う熱処理によって高い機械特性を得ることができ、機械強度は1500MPa以上、降伏応力は1200MPa以上になる。最終的な機械特性は鋼の炭素含有率および熱処理に依存する。最終製品の熱処理時または熱間成形加工時に、被覆材は摩損、磨耗、疲労、衝撃および腐食に対する極めて高い抵抗性と、良好な耐食性、塗装性および接着性を有する層を形成する。」 ウ.「【0012】本発明の一つの実施例では、アルミニウム比率が約90%のアルミニウム合金浴中で焼入れする鋼板の被覆で、被覆層は鋼表面と接触する第1合金層を構成する。この層は鋼板の表面と直接接触しており、鉄と強い合金を作る。この第1層の上には約90%のアルミニウムを含む第2被覆層を形成する。この第2被覆層は浴の組成に応じて珪素および少量の鉄を含む。 【0013】部品製造時に鋼板を成形する際に第1合金層に亀裂が生じることがある。本発明では、部品を成形後、被覆材はの温度を5℃/秒以上、場合によっては600℃/秒以上の速度で上昇させる。この温度上昇によってアルミニウムが急速に再融合し、部品の成形操作で生じた亀裂が塞がれる。本発明の他の利点は被覆材中の鉄の拡散が高温で開始し、従って、被覆材と鋼板の鋼との間に良好な凝集力が得られる点にある。本発明の他の態様では、熱処理を大きく変形させた部分に局部的に行う。 【0014】本発明鋼板は出荷時に厚さが0.25mm~15mmであり、リール状態またはシート状態であり、良好な成形性、耐食性、塗装性および接着性とを有している。この被覆鋼板は出荷時、成形中、熱処理中および最終製品の使用中に高い耐食性を示す。熱処理後には高い機械強度が得られ、この強度は1500MPa以上になることもある。被覆が存在することによって部品の熱処理時にベース金属の脱炭および酸化を完全に防止できる。これは熱間成形加工の場合に明らかな利点である。さらに、被覆処理した部品の加熱に脱炭防止用に雰囲気制御したオーブンを必要としない。 【0015】この鋼板の金属の熱処理はオーブン中でオーステナイト変態開始点の温度Ac1、例えば750℃から1200℃の間の温度に加熱して行う。加熱時間は希望温度と部品の鋼板の厚さに依存する。鋼板組成は熱処理時に粒子が増加するのを制限するように最適化する。目標とする組織が完全なマルテンサイトの場合は、維持温度はオーステナイト形成の終了温度Ac3、例えば840℃以上にしなければならない。温度維持後は目標とする最終組織に合わせて冷却しなければならない。下記実施例の組成を有する完全なマルテンサイト組織の鋼の場合には、鋼板厚さが約1mmで、900℃で5分間オーステナイト化するために冷却速度を27℃/秒の焼入れ臨界速度以上にしなければならない。」 エ.「【0017】・・・熱処理のパラメータの変調は、所定の組成物を用いて、目標となる厚さに応じて熱間鋼板および冷間鋼板で各種レベルの抵抗を達成することができる。熱処理時に、例えばアルミニウムをベースとする被覆材は鉄合金に変態し、熱処理に依存する各種の相を含み、600HV100gを超えうる高い硬度を有する。 【0018】 【実施例】以下、本発明の実施例を示す。0.21%の炭素と、0.14%のマンガンと、0.020%のリンと、0.0038%の硫黄と、0.25%の珪素と、0.040%のアルミニウムと、0.009%の銅と、0.020%のニッケルと、0.18%のクロムと、0.0040%の窒素と、0.032%のチタンと、0.003%のホウ素と、0.0050%のカルシウムとを含む本発明鋼板を厚さが約20μmのアルミニウムベースの層で被覆する。下記の表は各種熱処理後での本発明鋼板の最大強度の例を示している。 【0019】 熱処理      Rm(MPa) 850℃/5分    1695 900℃/5分    1675 950℃/5分    1665」 オ.甲18発明 上記イ.に摘示する段落【0010】には、「熱間成形加工時または成形後に行う熱処理」という記載があり、上記エ.に摘示する段落【0019】の「熱処理」、「850℃/5分」、「900℃/5分」、及び「950℃/5分」という記載を参照すると、甲18において、熱間成形加工時の熱処理を850℃から950℃までの間の温度で5分間加熱して行うことが示されているということができる。 また、甲18の鋼板は、熱処理されているから、熱処理用鋼板ということができることは明らかである。 また、上記ウ.に摘示する段落【0015】の「マルテンサイト組織の鋼の場合には、鋼板厚さが約1mmで、900℃で5分間オーステナイト化するために冷却速度を27℃/秒の焼入れ臨界速度以上にしなければならない」という記載からみて、マルテンサイト組織の鋼を得るために、冷却速度を焼入れ臨界速度以上にすることが記載されているということができる。 以上の技術的事項や、上記ア.からエ.までに摘示する事項、及び技術常識を総合して、甲18の記載事項を特許発明1の記載に沿って整理すると、甲18には次の発明(以下、「甲18発明」という。)が記載されていると認める。 「冷間および熱間での腐食からベース鋼板を保護する、アルミニウムをベースとする被覆材で被覆された、一連の熱間圧延によって得られた熱処理用鋼板を熱間成形加工することによって成形された部品を製造する方法であって、 熱処理用鋼板を熱間成形加工して部品を得る段階と、 熱間成形加工時に、被覆材は摩損、磨耗、疲労、衝撃および腐食に対する極めて高い抵抗性と、良好な耐食性、塗装性および接着性を有する層を形成し、被覆が存在することによって部品の熱処理時にベース金属の脱炭および酸化を完全に防止でき、熱処理によりアルミニウムをベースとする被覆材を鉄合金に変態させる段階と、ここで該熱処理は部品に850℃~950℃の高温を5分間作用させるものであり、 マルテンサイト組織の鋼を得るために冷却速度を焼入れ臨界速度以上にする段階と、 を含んで成る方法。」 (2)甲2の記載 第260ページ下から第9行から第261ページ第1行まで 「3.1 合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA) ・・・電気めっきに比べて溶融めっきは厚めっきが低コストで得られ、中でもGAはプレス成形性、スポット溶接性、塗装耐食性などのバランスが優れることから、ボディ用防錆鋼板として広く使用されるに至った。 GAは溶融亜鉛めっき後に高温に加熱してZnとFeとを相互拡散させてめっき中の平均Fe濃度を10mass%程度としたもので、鋼板側からΓ相(Fe3Zn10)、δ1相(FeZn7)、ζ相(FeZn13)の各金属間化合物で構成されるめっきである。」 (3)甲3の記載 ア.第1ページ右欄第2から17行まで 「合金化溶融亜鉛めっき鋼板は亜鉛めっき鋼板の持つ優れた耐食性と共に、塗装性、塗料密着性及び溶接性等を兼ね備えることから、自動車や家電製品等に広く利用されている。・・・次いで460℃程度に加熱された亜鉛浴中に浸漬することにより亜鉛めっきを行い、亜鉛の付着量を制御した後550℃乃至650℃まで再加熱して合金化熱処理を施す方法が知られている。 このような合金化溶融亜鉛めっき鋼板の殆どは、成形加工を受けて目的の用途に供されるが、プレス成形に際しては、他の薄板と同様、摺動特性が要求される。・・・」 イ.第2ページ頁左上欄第7から11行まで 「即ち、前記の合金化熱処理を受けると、鋼板と亜鉛層との間には合金化反応が進行し、ζ相(FeZn13)、δ1相(FeZn7)、Γ1相(Fe5Zn21)或いはΓ相(Fe3Zn10)と呼ばれるFe-Zn系合金層が順次形成される。」 ウ.第2ページ右下欄下から第5行から第3ページ左上欄第1行まで 「Fe-Zn合金皮膜は、前述したように、一般にζ相、δ1相、Γ1相若しくはΓ相から構成されるが、δ1相単独若しくはδ1相と厚さ1μm以下のΓ1相から成り立っていると、皮膜表面には軟質で摩擦係数の大きなζ相が存在しないので、摺動特性を低下させることが無い。・・・」 (4)甲4の記載 ア.第305ページ左欄下から第3行から第306ページ左欄第1行まで 「3.5.3 合金化処理製品(合金化溶融亜鉛めっき鋼板) 合金化溶融亜鉛めっき鋼板はめっき浴から引き上げられたストリップを図-616)に示すようにめっき浴直上に設けた加熱炉(合金化炉)内を通過させることによって,めっき層全体をZn-Fe合金とした製品である。写真-2にその典型的な表面形態と断面組織を示すが,微細な凹凸を有する表面形態であるため塗膜密着性がよく,塗装下地鋼板としての耐食性にも優れている。また,表面がZn-Fe合金であるので冷延鋼板に近い溶接性が得られる。これらの総合的な特性は,Zn-Fe合金層中のFe含有率が9~11mass%すなわち表-2のδ1相に相当する範囲が最もよいので,この組成になるように合金化処理条件などが設定される。・・・」 イ.第306ページ右欄第10から16行まで 「5.1 溶融亜鉛めっき鋼板 亜鉛めっき鋼板が耐食性材料として用いられるのは,亜鉛の犠牲防食作用により鉄が保護されること,大気中での腐食により亜鉛めっきの表面に生成した塩基性炭酸亜鉛がその後のめっき層の腐食を遅らせる作用を有し,環境に応じて図-7のように長期間の耐久性を示すためである23)。・・・」 ウ.第307ページ左欄第3から9行まで 「5.2 合金化溶融亜鉛めっき鋼板 合金化溶融亜鉛めっき鋼板は前述したように塗膜密着性,塗装下地鋼板としての耐食性や溶接性に優れている。さらに,合金化処理技術や製鋼技術の進歩によって合金化溶融亜鉛めっき鋼板でも冷延鋼板なみの加工特性が得られるようになり,自動車車体用防錆鋼板をはじめとして家電製品や建材として広く適用されている。・・・」 エ.第307ページ左欄第15から20行まで 「5.3 溶融アルミニウムめっき鋼板 溶融アルミニウムめっき鋼板は700℃程度まで優れた耐熱性を有する。これは,加熱時にアルミニウムめっき層と鋼素地との相互拡散により生成するAl-Fe合金層が熱的に安定で,良好な耐酸化性を有することによる。」 オ.第307ページ右欄第2行から第308ページ左欄第11行まで 「5.4 溶融亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板 溶融亜鉛めっき鋼板の耐食性,耐候性向上を目的として開発されたのが亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板であり,その成分により55mass%Alと5mass%Alに大別される。 5.4.1 55%Al-1.6%Si-Zn合金めっき鋼板 ガルバリウムの商品名で知られるこの合金めっき鋼板は,亜鉛の犠牲防食作用とアルミニウムの不働態化作用による優れた耐食性と,白い金属光沢のあるスパングル模様が特徴である。この合金めっき鋼板は図-9に示したように,大気腐食環境下において,同じめっき厚さの亜鉛めっき鋼板の2~6倍の耐食性があり,塗装後耐食性も良好である。・・・ 5.4.2 5%Al-Zn合金めっき鋼板29) 約5mass%のAlを含む合金めっき鋼板は,ILZROによりガルファン29)と名付けられている。この合金めっき鋼板の大気環境下での耐食性は,図-10に示すように暴露年数とともに腐食速度が小さくなり,その腐食量は放物線則に近い傾向を示す30)。そして,暴露7年後では溶融亜鉛めっき鋼板の約半分の腐食量となっている。・・・」 (5)甲19の記載 ア.第14ページ 図1・4 図1・4のフェンダーの製造工程から、「冷間圧延コイル」を「せん断」した「ブランク」を「深絞り・張出し」した後、余剰部分を「トリミング・矯正」して、「フェンダー」を製造することを看取できる。 (6)乙4の記載 段落【0013】 「熱間プレス成形時には鋼板はA3変態点以上(約900℃以上)の加熱を受ける。この場合、Znの融点は418℃、沸点は907℃であることから、亜鉛系めっき鋼板の場合は、鋼板上のZnめっきが蒸発することが予想され、その結果、鋼板素地が酸化されることになる。」 3.特許発明1と甲18発明との対比 特許発明1と甲18発明とを対比すると、甲18発明において「冷間および熱間での腐食からベース鋼板を保護する」ことが、特許発明1において「熱処理用鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する」ことに相当することは明らかであって、以下同様に、「一連の熱間圧延によって得られた熱処理用鋼板」が「圧延熱処理用鋼板の帯材」に相当し、「熱間成形加工することによって成形された部品を製造する」ことが「型打ちすることによって成形された部品を製造する」ことに相当し、「被覆材は摩損、磨耗、疲労、衝撃および腐食に対する極めて高い抵抗性と、良好な耐食性、塗装性および接着性を有する」こと及び「被覆が存在することによって部品の熱処理時にベース金属の脱炭および酸化を完全に防止でき」ることが「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保」することに相当し、「マルテンサイト組織の鋼を得るために冷却速度を焼入れ臨界速度以上にする」ことは、「型打ちされた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度でさらに冷却する」ことに相当する。 また、甲18発明において「熱処理用鋼板を熱間成形加工して部品を得る」ことは、「熱処理用鋼板を熱間型打ちして部品を得る」ことという点で、特許発明1において「熱処理用鋼板ブランクを熱間型打ちして部品を得る」ことと共通する。 さらに、甲18発明の「アルミニウムをベースとする被覆材」は、上記1.(1)ア.に摘示する請求項4に記載されているように、重量組成%で9~10%の珪素、2~35%の鉄を含み、残部がアルミニウムである金属浴により形成されるものであり、被覆材の具体的組成は不明ではあるが、亜鉛が含まれていないことは、明らかである。したがって、当該「アルミニウムをベースとする被覆材」を、特許発明1の「亜鉛」や「亜鉛ベース合金」と同視することはできず、当該「アルミニウムをベースとする被覆材」は「合金で被覆された」ことという点で、特許発明1の「亜鉛または亜鉛ベース合金で被覆された」ことと共通する。 また、甲18発明において「熱処理によりアルミニウムをベースとする被覆材を鉄合金に変態させる」ことは、「合金化合物を熱処理により熱処理用鋼板の表面に生じさせる」という点で、特許発明1において「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物を熱処理により熱処理用鋼板ブランクの表面に生じさせる」ことと共通する。 また、甲18発明において「熱処理は部品に850℃~950℃の高温を5分間作用させる」ことは、「熱処理は熱処理用鋼板に850℃~950℃の高温を5分間作用させる」ことという点で、特許発明1において「熱処理は熱処理用鋼板ブランクに800℃~1200℃の高温を2~10分間作用させる」ことと共通する。 以上から、特許発明1と甲18発明とは、以下の点で一致及び相違する。 <一致点A> 両発明は、 「熱処理用鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する、合金で被覆された圧延熱処理用鋼板の帯材を型打ちすることによって成形された部品を製造する方法であって、 熱処理用鋼板を熱間型打ちして部品を得る段階と、 腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保する、合金化合物を熱処理により熱処理用鋼板の表面に生じさせる段階と、ここで該熱処理は熱処理用鋼板に850℃~950℃の高温を5分間作用させるものであり、 型打ちされた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度でさらに冷却する段階と、 を含んで成る方法。」である点。 <相違点1> 特許発明1の「合金」は、「亜鉛または亜鉛ベース合金」であり、「型打ち前に」「潤滑機能を確保する」「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物」を生じさせているのに対して、甲18発明の「合金」は、「アルミニウムをベースとする被覆材」であって、「熱間成形加工時に」「アルミニウムをベースとする被覆材を鉄合金に変態させる」ものである点。 <相違点2> 特許発明1は、「熱処理用鋼板を裁断して熱処理用鋼板ブランクを得る段階」、及び「型打ち処理に必要であった熱処理用鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階」を含んでいるのに対して、甲18発明は、そのような段階を含んでいるかどうか不明な点。 <相違点3> 特許発明1は、「熱処理は熱処理用鋼板ブランクに800℃~1200℃の高温を2~10分間作用させる」ものであるのに対して、甲18発明は、「熱処理は部品に850℃~950℃の高温を5分間作用させる」ものである点。 4.相違点の判断 (1)相違点1について ア.相違点1を検討するため、甲2から甲4までを参照すると、亜鉛めっきの鋼板から亜鉛-鉄金属間化合物、すなわち亜鉛-鉄ベース合金化合物が形成されることが示されている。 イ.しかし、甲2から甲4までのいずれの証拠を参照しても、合金化合物を、甲18発明におけるような850℃~950℃の高温に至る過程において形成させることについて、記載も示唆もないから、甲18発明における「アルミニウムをベースとする被覆材」に代えて甲2から甲4までに示す亜鉛めっきを採用し、「アルミニウムをベースとする被覆材を鉄合金に変態させる」ことに代えて亜鉛-鉄ベース合金化合物を形成させようと試みるための動機に欠けるといわざるを得ない。 ウ.さらにいえば、本件特許に係る出願の優先日当時、鋼板の熱処理が行われる温度では、亜鉛の被覆は溶融されると考えられていた(上記第6.4.(1)ア.)ところ、この考えは、本件特許の設定登録後になされた特許出願の公開公報である乙4に、「熱間プレス成形時には鋼板はA3変態点以上(約900℃以上)の加熱を受ける。この場合、Znの融点は418℃、沸点は907℃であることから、亜鉛系めっき鋼板の場合は、鋼板上のZnめっきが蒸発することが予想され、その結果、鋼板素地が酸化されることになる」と記載されていることからみて、本件特許に係る出願が公開され、さらに登録された後においても、当業者に強く信じられていたと断じざるを得ない。そうすると、本件特許に係る出願の優先日前に、甲18発明における「アルミニウムをベースとする被覆材」に代えて甲2から甲4までに示す亜鉛めっきを採用し、甲18発明におけるような850℃~950℃の高温にまで加熱しようなどと、当業者が試みるはずがないことを強く推認できる。 ウ.以上から、相違点1に係る構成は、甲2から甲4までの記載に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 (2)相違点の判断のむすび 以上のとおりであるから、相違点2及び3について検討するまでもなく、特許発明1は、甲18発明及び甲2から甲4までの記載に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 5.無効理由5についてのむすび 特許発明1は、甲18発明及び甲2から甲4までの記載に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえないところ、特許発明3から8までは、特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を含むものであるから、特許発明1と同様に、甲18発明及び甲2から甲4までの記載に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 したがって、特許発明1及び3から8までに係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないから、無効理由5によっては、無効とすることができない。 第10.無効理由4(新規性)についての当審の判断 無効理由4について検討する。 無効理由4は、特許発明8は、甲18に記載された発明であり、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるというものである。 特許発明8は、上記第3.の【請求項8】に記載したとおりであり、特許発明1の発明特定事項を全て含んでいる。 また、甲18発明は上記第9.1.オ.に記載したとおりであり、特許発明1と甲18発明との対比は上記第9.3.記載のとおりであり、両発明には、相違点1から3までが存在するから、特許発明8と甲18発明との間にも、少なくとも相違点1から3までが存在することは明らかである。 そして、相違点1については、上記第9.4.に説示するとおり、甲2から甲4までの記載に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえないのであるから、特許発明8が甲18に記載された発明であるとはいえないことは明白である。 以上のとおり、特許発明8は、甲18に記載された発明であるとはいえないから、特許発明8に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるということはできず、無効理由4によっては、無効とすることができない。 第11.無効理由6(拡大先願)についての当審の判断 無効理由6は、特許発明1、3、4及び8は、甲20発明と同一であり、特許法第29条の2の規定に違反するというものである。 なお、請求人は、本件訂正が認められた場合、無効理由6は解消する旨、主張している(上記第5.6.[請求人]イ.)。 1.甲20号証の記載及び甲20発明 本件特許に係る出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された、甲20には、以下の事項及び発明が記載されている。なお、下線は、理解を容易にするために当審で付した。 (1)「【請求項1】 重量%で、 C :0.01~0.20%、 Si:0.01~3.0%、 Mn:0.01~3.0%、 P :0.002 ~0.2%、 S :0.001~0.020%、 Al:0.005~2.0 %、 N :0.0002~0.01%、 Mo:0.01~1.5%、 を含有し、更に重量%で、 Cr:0.01~1.5%、 Nb:0.005~0.10%、 Ti:0.005~0.10%、 V :0.005~0.10%、 B :0.0003~0.005%、 の1種または2種以上を含有せしめ、その範囲が、 25<28×√Si+60×√P+75×√Mo+35×√Cr+38×√Nb+30×√Ti+42×√V+42 0×√B≦140・・・式(A) を満足し、かつ残部が鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする熱処理硬化能に優れた薄鋼板。」 (2)「【請求項4】 請求項1、請求項2、又は請求項3に記載の薄鋼板を用いて、少なくとも強度が必要な部位に2%以上の塑性歪みが加わるプレス成形を200℃~850℃の温度で行うことを特徴とする高強度プレス成形体の製造方法。」 (3)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、自動車の構造用部品などのように、構造上の強度、特に変形時の耐力および強度が必要とされる箇所に適用されるに好適な、プレス等による加工成形中に所定温度域で強度上昇熱処理がなされる成形体の素材として好適である熱処理硬化能に優れた薄鋼板およびその薄鋼板からなる高強度プレス成形体の製造方法に関するものである。本発明でいう熱処理硬化能とは温間成形中の強度上昇能を意味する。」 (4)「【0011】本発明の温間成形とは、成形を行う際に、変形を受けている鋼板の温度が室温より高く、例えば本発明では、鋼板が200℃~850℃の温度域に保持された状態で成形加工(例えばプレス加工)を行うことを言う。成形前に、鋼板を加熱しても、成形中の鋼板温度が、200℃~850℃であれば、本発明の対象の温間成形に該当する。また金型を用いて鋼板を加熱しても、2%以上の塑性歪みが加わるプレス成形が施される前に鋼板温度が200℃~850℃になれば本発明の対象の温間成形に該当する。」 (5)「【0028】本発明の薄鋼板は、熱延鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、各種表面処理鋼板の何れでも構わず、発明の効果を享受出来るが、該薄鋼板の少なくとも片面に1mg/m2以上の亜鉛を含む層を付与すると、温間成形(例えば温間プレス)中の酸化や脱炭が防止され、 本発明の効果を最も有効に享受出来る。 少なくとも片面に1mg/m2以上の亜鉛を含む層とは、電気めっき法、溶融めっき法、塗布法、蒸着法などいずれの方法で付与しても構わず、その方法は限定されるものではない。 また、1mg/m2以上の亜鉛を含む層中には亜鉛以外の元素を含んでいても何ら差し支えない。 【0029】・・・本発明鋼の製造方法は適宜選択すれば良く、上記成分に調整された溶鋼を連続鋳造法にて鋳片又は鋼片となすか造塊法にて鋼片となし、高温のまま加熱することなく熱間圧延を施すか、又は加熱後に熱間圧延を施す。熱間圧延後、脱スケール処理を施して熱延鋼板となすか、あるいは、そのまま溶融亜鉛めっきを行い溶融亜鉛めっき鋼板となす。溶融亜鉛めっき鋼板は、加熱合金化処理を施して合金化溶融亜鉛めっき鋼板となしてもよい。 【0030】あるいは、熱間圧延後、脱スケール処理を施し、冷間圧延して冷延鋼板とする。その後焼鈍して冷延鋼板となすか、あるいは焼鈍・溶融亜鉛めっきを行い溶融亜鉛めっき鋼板となす。溶融亜鉛めっき鋼板は、加熱合金化処理を施して合金化溶融亜鉛めっき鋼板となしてもよい。・・・ 【0031】高強度熱延鋼板、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板となした後、加工性の向上や、加工後の外観のために調質圧延を施した鋼板(ダル仕上げ鋼板、ブライト仕上げ鋼板、表面に特定形状のパターンを転写された鋼板等)、表面に防錆油、潤滑油などの油膜層を有する鋼板など、通常に薄鋼板として用いられる表面の処理を施したいずれの鋼板においても、本発明の成分範囲又は転位密度を有する薄鋼板であれば本発明の効果を十分に享受することができる。ついで、本発明の薄鋼板を用いて温間での加工成形、例えば絞り加工などのプレス加工を行う。・・・ 【0032】加熱方法は、鋼板を事前に予熱しておき、直ちにプレス加工を行う方法が製造上最も安定である。 他の方法としては、金型にヒーターを埋め込み金型全体を保持する方法もある。温間成形の好ましい温度範囲(プレス時の温度)について検討した。プレス成形品の縦壁部( 図4 のA)のビッカース硬度(Hv)を温間温度を100~900℃まで50℃毎に設定してプレス成形しその後に測定した。 これを図3に示す。 強度上昇(Hv上昇)が認められる最低温度は200℃である。更に強度上昇から好ましくは250℃以上である。従来のBH鋼板の焼付温度は、温間成形の温度範囲より低温側である。本発明者等は、BH鋼板が固溶Cだけを用いるメカニズムであるのに対し、本発明は、温間成形時の強度上昇であり、MoやCr等の遷移金属との相互作用も加わるため、強度上昇のための温度域が、焼付硬化に比べ高温側に移るものと考えている。また、適用温度については、Ar3変態点である850℃以下で可能であるが、実ラインでのプレスをこの温度まで上昇させると金型に熱歪が発生して成型品の精度が低下する場合があったり、また、温度保持のための電源も大きくなり設備投資が膨らみ、消費電力が膨大となり経済的ではなくなる場合があるので、600℃以下とすることが好ましく、更には500℃以下とすることが好ましい。ただし、電源が大きくならない小物の部品についてはこの限りではない。」 (6)「【0034】また、熱延鋼板の一部は更に、70%の圧下率で冷間圧延を行った後、830℃の温度で60秒の再結晶焼鈍を行い冷延鋼板となした。また、一部は電気亜鉛めっきを施し鋼板の表層に亜鉛層を付与した。得られた熱延鋼板、冷延鋼板をJIS5号引張試験片に加工し、機械的特性値(熱処理なし)の評価を行った。」 (7)甲20発明 上記(4)の「本発明の温間成形とは、・・・例えば本発明では、鋼板が200℃~850℃の温度域に保持された状態で成形加工・・・を行うことを言う」という記載からみて、甲20でいう温間成形の温度範囲が200℃~850℃であることは明らかである。 また、上記(5)の「亜鉛を含む層を付与すると、温間成形(例えば温間プレス)中の酸化や脱炭が防止され」という記載からみて、温間プレス中の酸化や脱炭が亜鉛を含む層により防止されること、及び当該亜鉛を含む層を温間プレスの前に生じさせていることは明らかである。また、鋼の酸化や脱炭が防止されているから、甲20には、鋼板の表面及び内部の鋼が確実に保護されることが示されているといえる。 以上の記載事項を総合して、甲20の記載事項を特許発明1の記載に沿って整理すると、甲20には次の発明(以下、「甲20発明」という。)が記載されていると認める。 「鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板などの、薄鋼板の少なくとも片面に1mg/m2以上の亜鉛を含む層を付与した熱延鋼板あるいは冷延鋼板を温間成形することによってプレス成形品を製造する方法であって、 鋼板を温間プレスしてプレス成形品を得る段階と、 温間プレス前に、温間プレス中の酸化や脱炭を防止する亜鉛を含む層を鋼板の表面に生じさせる段階と、ここで該温間成形は鋼板に200℃~850℃の高温を作用させるものであること、を含んで成る方法。」 2.特許発明1と甲20発明との対比 甲20発明の「溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板などの、薄鋼板の少なくとも片面に1mg/m2以上の亜鉛を含む層を付与した熱延鋼板あるいは冷延鋼板」は、「亜鉛または亜鉛合金で被覆された圧延鋼板」という点で、特許発明1の「亜鉛または亜鉛ベース合金で被覆された圧延熱処理用鋼板の帯材」と共通する。 また、甲20発明の「プレス成形品を製造する方法」は、特許発明1の「型打ちすることによって成形された部品を製造する方法」に相当する。 また、甲20発明の「温間成形」は、200℃から850℃までの温度範囲で成形するものであるから、温度範囲が800℃から850℃までに限れば、特許発明の「熱間成形」に相当するから、甲20発明の「鋼板を温間プレスしてプレス成形品を得る段階」は、「鋼板を熱間型打ちして部品を得る段階」という点で、特許発明1の「鋼板ブランクを熱間型打ちして部品を得る段階」と共通する。 また、甲20発明の「温間プレス前に、温間プレス中の酸化や脱炭を防止する亜鉛を含む層を鋼板の表面に生じさせる段階」は、「型打ち前に、腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保する、亜鉛を含む層を鋼板の表面に生じさせる段階」という点で、特許発明1の「型打ち前に、腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保する、亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物を熱処理により熱処理用鋼板ブランクの表面に生じさせる段階」と共通する。 以上から、特許発明1と甲20発明とは、以下の点で一致及び相違する。 <一致点B> 両発明は、 「鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する、亜鉛または亜鉛合金で被覆された圧延鋼板の帯材を型打ちすることによって成形された部品を製造する方法であって、 鋼板ブランクを熱間型打ちして部品を得る段階と、 型打ち前に、腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保する、亜鉛を含む層を鋼板の表面に生じさせる段階と、ここで温度範囲が800℃~850℃の高温を作用させるものである方法。」である点。 <相違点4> 「鋼板」が、特許発明1では「熱処理用鋼板」であり、特許発明1の方法は、「熱処理は熱処理用鋼板ブランクに800℃~1200℃の高温を2~10分間作用させるもの」であり、「型打ちされた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度でさらに冷却する段階」を含んでいるのに対して、「鋼板」が、甲20発明では熱処理用鋼板であるかどうか不明であり、甲20発明の方法は、「温間成形は鋼板に200℃~850℃の高温を作用させるもの」であり、どのような冷却段階を含んでいるのか不明な点。 <相違点5> 「亜鉛合金」が、特許発明1では「亜鉛ベース合金」であり、特許発明1の方法は、「型打ち前に、腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保する、亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物を熱処理により熱処理用鋼板ブランクの表面に生じさせる段階」を含んでいるのに対して、「亜鉛合金」が、甲20発明ではどのような亜鉛合金か不明であり、甲20発明の方法は、「温間プレス前に、温間プレス中の酸化や脱炭を防止する亜鉛を含む層を鋼板の表面に生じさせる段階」を含んでいる点。 <相違点6> 特許発明1の方法は、「熱処理用鋼板を裁断して熱処理用鋼板ブランクを得る段階」や「型打ち処理に必要であった熱処理用鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階」を含んでいるのに対して、甲20発明の方法は、そのような方法を含んでいるのか不明な点。 3.相違点の判断 (1)相違点4について ア.上1.(4)に示すように、甲20には、「温間成形」の温度として、200℃~850℃が記載されているところ、上記1.(5)に示す段落【0032】の「適用温度については、Ar3変態点である850℃以下で可能である」という記載を参照すると、当該850℃は、Ar3変態点として認識されている。Ar3変態点とは、体心立方格子であった鋼の結晶構造が、面心立法格子に変態する温度をいうから、甲20の「温間成形」は、鋼の結晶構造が体心立方格子のまま変態しない温度範囲での成形を意図していると考えざるを得ない。 これに対して、特許発明1における「熱処理」は、加熱後に「臨界焼入れ速度を上回る速度でさらに冷却する」こと、すなわち、いわゆる焼入れを前提とするものであるから、当然にAr3変態点以上に加熱をするものであると解するのが相当である。 したがって、甲20発明の「鋼板」は、「熱処理用鋼板」とはいえないし、甲20発明の方法は、「臨界焼入れ速度を上回る速度でさらに冷却する段階」を含んでいない。 (2)相違点5について 特許発明1における「亜鉛ベース合金」は、上記第6.3.(1)ク.に説示するように、固溶体、あるいは金属相の混合物としての金属生成物であって、亜鉛が少なくとも50重量%含まれているものと解されるところ、甲20には、「亜鉛合金」について、亜鉛が少なくとも50重量%含まれているかどうか、記載も示唆もない。 また、特許発明1における「亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物」は、上記第6.3.(2)オ.に説示するように、金属元素が簡単な整数比で結合した化合物であって、亜鉛及び鉄の元素が少なくとも50重量%以上含まれているか、あるいは、鉛、鉄及びアルミニウムの元素が少なくとも50重量%以上含まれているものと解されるところ、甲20には、亜鉛を含む層がそのような化合物であることの記載も示唆もない。また、熱処理の温度を利用して化合物を生じさせることの記載も示唆もない。 したがって、甲20発明の亜鉛合金は、「亜鉛ベース合金」ではないし、甲20発明の方法は、「型打ち前に、腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保する、亜鉛-鉄ベース合金化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース合金化合物からなる群から選択される合金化合物を熱処理により熱処理用鋼板ブランクの表面に生じさせる段階」を含んでいない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、相違点6について検討するまでもなく、甲20発明は、特許発明1と同一であるとはいえない。 5.無効理由6についてのむすび 特許発明1は、甲20発明と同一であるとはいえないところ、特許発明3、4及び8は、特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を含むものであるから、特許発明1と同様に、甲20発明と同一であるとはいえない。 したがって、特許発明1、3、4及び8に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるということはできず、無効理由6によっては、無効とすることはできない。 第12.本件審決のむすび 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、特許発明1及び3から8までに係る特許を無効とすることができない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。

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2013-800184

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