特許無効審判
2009-800163
- 審判番号
- 2009-800163
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願平11-4475
- 登録番号
- 特許第3605821号(P3605821)
- 請求日
- 2009年07月24日
- 審決日
- 2011年08月18日
- 公報発行日
- 2018年02月23日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】水ing株式会社
- 【請求人代理人】鈴木 修
- 【請求人代理人】末吉 剛
- 【請求人代理人】松山 美奈子
- 【請求人代理人】小磯 貴子
- 【被請求人】栗田工業株式会社
- 【被請求人代理人】渡邊 薫
- 【被請求人代理人】井上 美和子
- 【被請求人代理人】梅田 慎介
- 【被請求人代理人】松田 政広
- 【被請求人代理人】内山 充
- 審判長/審判官
- 審判長 松本 貢
- 審判官 中澤 登
- 審判官 木村 孔一
- 分類
- P1113.16 -ZA (C02F) / P1113.121-ZA (C02F) / P1113.537-ZA (C02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法123条1項2号特許法169条2項民事訴訟法61条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条の2、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第134条第2項、特許法第134条の2第5項、特許法第126条第1項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第3605821号「脱水ケーキの脱臭方法」の特許無効審判事件についてされた平成22年11月10日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の決定(平成22年(行ケ)第10392号 平成23年3月22日決定言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。
結論
訂正を認める。
特許第3605821号の請求項1-3に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
1.手続きの経緯
本件特許第3605821号は、平成11年1月11日に出願され、平成16年10月15日にその特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、平成21年7月24日付けで請求人「水ing株式会社」(下記弁駁書提出時に「荏原エンジニアリングサービス株式会社」より名義が変更された)より、その請求項1~4に係る発明について特許無効審判の請求がなされ、これに対して、同年10月26日に被請求人「栗田工業株式会社」より答弁書が提出された。
その後、平成22年11月10日付けで「特許第3605821号の請求項1~4に係る発明についての特許を無効とする」との審決(以下、「第1次審決」という。)がなされた。
これに対して、同年12月17日付けで被請求人より審決取消訴訟(平成22年(行ケ)第10392号)が提起された。
その後、被請求人は訂正審判(訂正2011-390020号)を請求し、平成23年3月22日付けで、知的財産高等裁判所において、事件を審判官に差し戻すために、第1次審決を取り消すとの決定がなされた。
差戻し後の特許無効審判において、被請求人より同年4月15日付けで訂正請求がなされ、請求人より同年5月25日に弁駁書が提出された。
また、訂正審判(訂正2011-390020号)は取り下げられたものとみなされる。
なお、上申書提出等を含めた経緯の詳細は以下のとおり。
無効審判請求書 平成21年 7月24日
審判事件答弁書 平成21年10月26日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成22年 4月27日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成22年 4月27日
口頭審理(特許庁第1審判廷) 平成22年 4月27日
上申書(請求人) 平成22年 5月18日
上申書(請求人) 平成22年 5月25日
上申書(被請求人) 平成22年 6月 3日
上申書(請求人) 平成22年 6月10日
上申書(被請求人) 平成22年 6月17日
第1次審決 平成22年11月10日
審決取消請求訴状 平成22年12月17日
(平成22年(行ケ)第10392号)
訂正審判請求書 平成23年 2月28日
審決取消差戻し決定 平成23年 3月22日
手続中止通知書 平成23年 3月22日
訂正請求書 平成23年 4月15日
弁駁書 平成23年 5月25日
2.訂正請求について
2-1.訂正の内容
平成23年4月15日付けの訂正(以下、「本件訂正」という。)請求は、本件特許第3605821号の明細書(以下、「特許明細書」という。)を、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的として、訂正請求書に添付した明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおり訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。
2-2.訂正事項
(1)訂正事項1
特許明細書の特許請求の範囲に係る記載である次の
「 【請求項1】
脱水ケーキからの硫化水素およびメチルメルカプタンに由来する臭気の発生を、過酸化水素を添加しないで抑制する方法において、下水処理場の汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリーに、亜硝酸塩を添加して15分以上経過した後に、脱水処理することを特徴とする脱水ケーキの脱臭方法。」
を、
「 【請求項1】
過酸化水素を添加しないで、脱水ケーキからの臭気を抑制する方法であって、
前記臭気は、硫化水素及びメチルメルカプタンであり、
下水処理場の汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリーに対して、該混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する15分以上前に、亜硝酸塩を汚泥スラリー当たり25~500mg/リットルとなるように水溶液で添加し均一混合しておくことにより、脱水ケーキからの前記臭気を持続的に抑制することを特徴とする脱水ケーキの脱臭方法。」
と訂正する。
(2)訂正事項2
特許明細書の特許請求の範囲に係る記載である次の
「 【請求項2】
亜硝酸塩の混合生汚泥スラリーへの添加後、脱水までの経過時間が3時間以上である請求項1記載の脱水ケーキの脱臭方法。
を、
「 【請求項2】
前記混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する3時間以上前に亜硝酸塩を添加した後に脱水処理を行うことを特徴とする請求項1記載の脱水ケーキの脱臭方法。」
と訂正する。
(3)訂正事項3
特許明細書の特許請求の範囲に係る記載である次の
「 【請求項3】
亜硝酸塩の添加量が混合生汚泥スラリーに対して25~1000mg/リットルであることを特徴とする請求項1または2記載の脱水ケーキの脱臭方法。」
を、
「 【請求項3】
脱水ケーキからの前記臭気を脱水処理後24時間において、硫化水素及びメチルメルカプタンの濃度を0.25ppm未満に抑制することを特徴とする請求項1又は2に記載の脱水ケーキの脱臭方法。」
と訂正する。
(4)訂正事項4
特許明細書の特許請求の範囲に係る記載である次の
「 【請求項4】
亜硝酸塩の混合生汚泥スラリーへの添加後の汚泥スラリー上の空気中の硫化水素及びメルカプタンの濃度がそれぞれ105ppm以下および10ppm以下である請求項1、2または3記載の脱水ケーキの脱臭方法。」
を、削除する。
(5)訂正事項5
明細書の【0004】【課題を解決するための手段】(特許公報【0004】【課題を解決するための手段】)に係る記載である次の
「すなわち、本発明は、
(1)脱水ケーキからの硫化水素およびメチルメルカプタンに由来する臭気の発生を、過酸化水素を添加しないで抑制する方法において、下水処理場の汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリーに、亜硝酸塩を添加して15分以上経過した後に、脱水処理することを特徴とする脱水ケーキの脱臭方法、
(2)前記混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する3時間以上前に亜硝酸塩を添加した後に脱水処理を行うことを特徴とする第1項記載の脱水ケーキの脱臭方法。
(3)亜硝酸塩の添加量が混合生汚泥スラリーに対して25~1000mg/リットルであることを特徴とする第1項または第2項記載の脱水ケーキの脱臭方法、及び、
(4)亜硝酸塩の混合生汚泥スラリーへの添加後の汚泥スラリー上の空気中の硫化水素及びメルカプタンの濃度がそれぞれ105ppm以下および10ppm以下である第1項、第2項または第3項記載の脱水ケーキの脱臭方法、を提供するものである。」
を、
「すなわち、本発明は、
(1)過酸化水素を添加しないで、脱水ケーキからの臭気を抑制する方法であって、前記臭気は、硫化水素及びメチルメルカプタンであり、
下水処理場の汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリーに対して、該混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する15分以上前に、亜硝酸塩を汚泥スラリー当たり25~500mg/リットルとなるように水溶液で添加し均一混合しておくことにより、脱水ケーキからの前記臭気を持続的に抑制することを特徴とする脱水ケーキの脱臭方法。
(2)前記混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する3時間以上前に亜硝酸塩を添加した後に脱水処理を行うことを特徴とする第1項記載の脱水ケーキの脱臭方法。
(3)脱水ケーキからの前記臭気を脱水処理後24時間において、硫化水素及びメチルメルカプタンの濃度を0.25ppm未満に抑制することを特徴とする第1又は2項記載の脱水ケーキの脱臭方法、を提供するものである。」
と訂正する。
2-3.訂正の可否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
A.「過酸化水素を添加しないで、脱水ケーキからの臭気を抑制する方法であって、前記臭気は、硫化水素及びメチルメルカプタンであり、」について
本訂正は、訂正前の「脱水ケーキからの硫化水素およびメチルメルカプタンに由来する臭気の発生を、過酸化水素を添加しないで抑制する方法において、」を、表現を変えて、より明りょうにするものである。
B.「下水処理場の汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリーに対して、該混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する15分以上前に、亜硝酸塩を汚泥スラリー(当たり25~500mg/リットルとなるように水溶液で)添加し」について(括弧内は次の「C.」で検討する。)
本訂正は、訂正前の「下水処理場の汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリーに、亜硝酸塩を添加して15分以上経過した後に、脱水処理する」を、亜硝酸塩の添加タイミングをより明りょうにするものである。
すなわち、訂正前は「混合生汚泥スラリー」に「亜硝酸塩を添加して15分以上経過した後に、脱水処理」していたのであるが、訂正後は「混合生汚泥スラリー」に「亜硝酸塩」を「脱水機に到達する15分以上前に」添加することにしたものであり、「15分以上」という遡上時間の起算点が、訂正前は「脱水」時であったものが、訂正後は「脱水機に到達」した時に変更されたものであるところ、通常は、汚泥が脱水機に到達した後直ちに脱水が開始され、脱水機に汚泥を長時間放置することはないから、訂正後の「脱水機に到達」した時と訂正前の「脱水」時とは実質的に同時刻ということができる。
また、訂正後の、「混合生汚泥スラリー」に「亜硝酸塩」を「脱水機に到達する15分以上前に」添加することは、特許明細書の【0006】に「亜硝酸塩・・・は、汚泥スラリーに対しても脱臭効果を奏し、その効果は添加後15分以上を経過すると顕著になる。したがって、貯留槽、脱水機などの汚泥処理装置の臭気が問題となる場合には、汚泥スラリーが脱臭を要する装置に到達する15分以上前に、亜硝酸塩・・・を添加することにより、脱水ケーキのみならず、これらの装置の周辺の脱臭をも行うことができる。」と記載されていることからも裏付けられる。
C.「亜硝酸塩を汚泥スラリー当たり25~500mg/リットルとなるように水溶液で添加し均一混合しておくことにより、」について
本訂正は、i)訂正前の「混合生汚泥スラリー」への「亜硝酸塩」の「添加」方法を、「水溶液で添加し均一混合」することに限定的に特定し、ii)訂正前の請求項3の「亜硝酸塩の添加量が混合生汚泥スラリーに対して25~1000mg/リットルであること」を付加し添加量を限定的に特定するものである。
すなわち、i)については、特許明細書【0007】に「本発明方法において、亜硝酸塩・・・の添加方法に特に制限はなく、これらの塩を水溶液として添加することができ、あるいは、粉末状態で添加することもできる。」と記載され、同【0010】に「混合生汚泥400mlを容量500mlのビーカーに入れ、1.0重量%亜硝酸ナトリウム水溶液12.0gを添加し、薬さじで20回撹拌して均一に混合し」、同【0011】に「混合生汚泥400mlを容量500mlのビーカーに入れ、1.0重量%亜硝酸ナトリウム水溶液4.0gを添加し、薬さじで20回撹拌して均一に混合し、」と記載されており、これらの記載から、訂正後の「亜硝酸塩」を「混合生汚泥スラリー」へ「水溶液で添加し均一混合」することは、特許明細書に記載されていたものであり、訂正前の「亜硝酸塩」の「混合生汚泥スラリー」への添加方法を限定的に特定するものということができる。
また、ii)については、特許明細書【0007】の「本発明方法において、汚泥スラリーに添加する亜硝酸塩・・・の量に特に制限はないが、汚泥スラリー1リットル当たり25~1,000mgであることが好ましく、100~500mgであることがより好ましい」との記載、さらに特許明細書【0013】【表1】の全ての実施例(実施例1~実施例5)の亜硝酸塩の添加量が500mg/リットル以下であることから、訂正後の「亜硝酸塩」の添加量を「汚泥スラリー当たり25~500mg/リットル」とすることは、特許明細書に記載されていたものであり、訂正前の「亜硝酸塩」の「混合生汚泥スラリー」への添加量を限定的に特定するものということができる。
D.「脱水ケーキからの前記臭気を持続的に抑制することを特徴とする脱水ケーキの脱臭方法」について
本訂正は、訂正前の「脱水処理することを特徴とする脱水ケーキの脱臭方法」を、特許明細書【0004】、【0008】の記載に基づき、より明りょうにするものである。
すなわち、特許明細書【0004】には「亜硝酸塩・・・を汚泥スラリーに添加し、長時間経過したのち脱水することにより、効果的かつ持続的な脱臭を行い得ることを見いだした。」と記載され、同【0008】には「本発明方法によれば、汚泥スラリーに亜硝酸塩・・・を添加して、硫酸還元菌や一般の微生物の活動を抑え、新たな悪臭成分の発生を抑制し、さらに、脱水後も脱水ケーキ中における微生物の活動を抑制し、脱水ケーキからの臭気の発生を防止することができる。」と記載されていることから、訂正後の「脱水ケーキからの前記臭気を持続的に抑制すること」は、訂正前の「脱水処理することを特徴とする脱水ケーキの脱臭方法」で特定されていなかった脱臭の状態を限定的に特定するものということができる。
E.訂正事項1の結論
よって、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的としてなされたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
本訂正は、訂正前の「亜硝酸塩の混合生汚泥スラリーへの添加後、脱水までの経過時間が3時間以上」を、亜硝酸塩の添加タイミングをより明りょうにするものである。
すなわち、上記「(1)訂正事項1について」「B.」で検討したように、訂正後の「脱水機に到達」した時と訂正前の「脱水」時とは実質的に同時刻ということができるから、訂正後の「前記混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する3時間以上前に亜硝酸塩を添加した後に脱水処理を行うこと」は、訂正前の「亜硝酸塩の混合生汚泥スラリーへの添加後、脱水までの経過時間が3時間以上」での亜硝酸塩の添加タイミングをより明りょうにするものということができる。
(3)訂正事項3について
本訂正は、
訂正前の「 【請求項3】亜硝酸塩の添加量が混合生汚泥スラリーに対して25~1000mg/リットルであることを特徴とする請求項1または2記載の脱水ケーキの脱臭方法。」を、
訂正後の「 【請求項3】脱水ケーキからの前記臭気を脱水処理後24時間において、硫化水素及びメチルメルカプタンの濃度を0.25ppm未満に抑制することを特徴とする請求項1又は2に記載の脱水ケーキの脱臭方法。」と訂正するものである。
これは「亜硝酸塩の添加量」で規定されていた特定事項が、「臭気」の「濃度」で規定された特定事項に訂正されているものであり、これについて以下に検討する。
訂正前の請求項3の汚泥スラリーへの亜硝酸塩の添加量「25~1000mg/リットル」は、特許明細書【0007】の「本発明方法において、汚泥スラリーに添加する亜硝酸塩、亜硫酸塩又は亜硫酸水素塩の量に特に制限はないが、汚泥スラリー1リットル当たり25~1,000mgであることが好ましく、100~500mgであることがより好ましい。」との記載、及び、特許明細書【0013】【表1】の実験例の記載を根拠とするものである。
一方、訂正後の請求項3の「臭気」の「濃度」が「脱水処理後24時間」で「0.25ppm未満」であることは、上記特許明細書【0013】【表1】の全ての実施例(実施例1~実施例5)の亜硝酸塩の添加量が100,300,500mg/リットルであり、それらの全ての場合に、亜硝酸塩添加から24時間経過後の「脱水ケーキ」からの臭気が「nd」すなわち検出下限濃度である「0.25ppm」未満(特許明細書【0009】の「検出下限濃度は、硫化水素、メチルメルカプタンともに0.25ppmである。」を参照。)であることを根拠とするものである。
すると、訂正前の請求項3と訂正後の請求項3とは、それらの数値限定の根拠となるデータが、共に特許明細書【0013】【表1】を根拠とするものであり、亜硝酸塩の添加量と臭気の濃度との間には相関があり、亜硝酸塩の添加量は臭気の濃度で置き換えることができるということができる。
すなわち、訂正前の請求項3の「25~1000mg/リットル」は、亜硝酸塩の添加による臭気の濃度を亜硝酸塩の添加量で表現していたものであって、訂正後の請求項3は、これをより明確化するために、臭気の濃度を「100~500mg/リットル」までの実施例のデータに限定的に特定し、「脱水処理後24時間」の「臭気」の「濃度」で記載したものということができるので、本訂正は、訂正前の請求項3の表現を変えてより限定的に特定したものであるということができる。
(4)訂正事項4について
本訂正は、訂正前の請求項4を削除するもので、請求項の削除に当たる。
(5)訂正事項5について
本訂正は、訂正事項1~4による特許請求の範囲の訂正と、発明の詳細な説明中の記載とを整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的としてなされたものといえる。
2-4.訂正の可否についての結論
以上から、上記の訂正事項1~5に係る本件訂正は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明の何れかに該当し、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものでもないから、これらの訂正事項に係る訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第1項第1,2号の規定に適合するので、これを認める。
3.本件発明
上記のとおり本件訂正が認められるので、訂正前は請求項1~4に係る発明が本件無効審判請求の対象だったが、訂正後においては、訂正後の請求項1~3に係る発明が本件無効審判請求の対象となる。
訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下、それぞれ「本件訂正発明1」~「本件訂正発明3」といい、全体を表すときは「本件訂正発明」という。)
「 【請求項1】
過酸化水素を添加しないで、脱水ケーキからの臭気を抑制する方法であって、
前記臭気は、硫化水素及びメチルメルカプタンであり、
下水処理場の汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリーに対して、該混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する15分以上前に、亜硝酸塩を汚泥スラリー当たり25~500mg/リットルとなるように水溶液で添加し均一混合しておくことにより、脱水ケーキからの前記臭気を持続的に抑制することを特徴とする脱水ケーキの脱臭方法。」
【請求項2】
前記混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する3時間以上前に亜硝酸塩を添加した後に脱水処理を行うことを特徴とする請求項1記載の脱水ケーキの脱臭方法。
【請求項3】
脱水ケーキからの前記臭気を脱水処理後24時間において、硫化水素及びメチルメルカプタンの濃度を0.25ppm未満に抑制することを特徴とする請求項1又は2に記載の脱水ケーキの脱臭方法。」
4.請求人の主張の概要
請求人は、「特許第3605821号の特許請求の範囲請求項1、請求項2、請求項3及び請求項4に係る発明について特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、証拠方法として後述の甲第1~37号証、参考資料1~11を提出し、審判請求書、口頭審理陳述要領書、口頭審理、上申書(平成22年5月18日付け)、上申書(平成22年 5月25日付け)、上申書(平成22年6月10日付け)、弁駁書(平成23年5月25日付け)における主張を整理すると、概ね以下の「4-1.」~「4-4.」のとおり主張している。
なお、上記「2.訂正請求について」で述べたとおり、訂正請求により訂正前の請求項4が削除され、訂正前の請求項1~3が、訂正後の請求項1~3(以下、「訂正請求項1」~「訂正請求項3」という。)とされたので、以下の「4-1.」~「4-4.」において、主張される無効理由に対応する上記の訂正請求項を記載する。
また、甲第1~13号証は審判請求書に添付されて提出され、甲第14~33号証は口頭陳述要領書に添付されて提出されたが、そのうちの甲第24~33号証は、インターネットを通じて収集された証拠資料であり、その公知性が明らかでないため、口頭審理において参考資料1~10となり(口頭審理調書)、その後新たな甲第24~30号証が上申書(平成22年5月18日付け)に添付されて提出され、さらに参考資料11が上申書(平成22年6月10日付け)に添付され、さらに甲第31~37号証が弁駁書(平成23年5月25日付け)に添付されて提出されたものである。
4-1.無効理由1
訂正請求項1及び訂正請求項3の記載に関して、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでなく、この発明に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。
4-2.無効理由2
訂正請求項1、訂正請求項2の記載に関して、特許を受けようとする発明が明確でなく、これらの発明に係る特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。
4-3.無効理由3
本件訂正発明1~本件訂正発明3は甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条の2の規定に該当し、特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
なお、請求人の口頭審理陳述要領書29頁20行~30頁2行の特許明細書の特許請求の範囲の請求項4に係る発明(この発明は訂正請求により削除された)は特許法第29条の2の規定に該当する旨の主張は、口頭審理において取り下げられた(口頭審理調書)。
4-4.無効理由4
本件訂正発明1~本件訂正発明3は、甲第4号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証~甲第12号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
5.被請求人の主張の概要
被請求人は、請求人の上記主張に対して、「本件審判事件について、請求の理由なし、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、証拠方法として後述の乙第1~18号証、インターネットを通じて収集された参考資料第a~i号を提出し、答弁書、口頭審理陳述要領書、口頭審理、上申書(平成22年6月3日付け)、上申書(平成22年6月17日付け)、訂正請求書(平成23年4月15日付け)における主張を整理すると、概ね以下の「5-1.」~「5-4.」のとおり主張している。
5-1.無効理由1について
訂正請求項1及び訂正請求項3の記載に関して、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、この発明に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
5-2.無効理由2について
訂正請求項1、訂正請求項2の記載に関して、特許を受けようとする発明が明確であり、これらの発明に係る特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。
5-3.無効理由3について
本件訂正発明1-本件訂正発明3は甲第1号証に記載された発明ではなく、特許法第29条の2の規定に該当するものではない。
5-4.無効理由4について
本件訂正発明1~本件訂正発明3は、甲第4号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証~甲第12号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6.証拠(甲乙各号証)の記載
6-1.甲各号証の記載
(1)甲第1号証:特開2000-185290号公報(特願平11-292269号明細書及び図面として提示されたものである。)
摘示事項(甲1-キ)~(甲1-コ)は、甲第1号証の優先権主張の基礎出願である乙第3号証(特願平10-292172号出願時明細書及び図面)には記載がない。
(甲1-ア)「つぎに本発明の方法を具体的に説明する。本発明の媒体は、家庭からの一般廃水または工場等の廃水、また洗浄装置等に含まれる洗浄水等が含まれる。さらに汚泥として下水、し尿または工場廃水を処理する際に発生する生汚泥、余剰汚泥、消化汚泥、凝集汚泥等やそれらの混合物が含まれる。」(【0007】)
(甲1-イ)「・・・薬剤を添加する場所としては、下水、廃水や汚泥と混合できる場所であれば何れの場所でも良く、ビルの廃水ピット、下水ポンプ場のピットやし渣除去槽、下水処理場の汚泥濃縮槽、汚泥混合槽、汚泥貯留槽や凝集剤混合槽、また下水、廃水や汚泥の移送配管中に直接投入しても良い。」(【0016】)
(甲1-ウ)「実施例1 汚泥貯留槽から採取した下水汚泥200mlに、100%過酸化水素として100mg/Lとなる量の過酸化水素と、亜硝酸ナトリウム15mg(亜硝酸イオンとして50mg/Lとなる量)を添加混合し、処理5分後と24時間放置しておいた後、ヘッドスペース法により硫化水素、全メルカプタン類を測定した結果を表1に示す。」(【0018】)
当審注:「50mg/L」は乙第3号証においては「49mg/L」である。
(甲1-エ)「比較例2 過酸化水素を添加せずに亜硝酸イオンが100mg/Lとなる量に亜硝酸ナトリウムを30mg添加した以外は実施例1と同様な処理を行った。結果を表1に示す。」(【0020】)
(甲1-オ)「比較例4 薬剤を何も添加しなかった以外は実施例1と同様な処理を行なった。結果を表1に示した。」(【0022】)
(甲1-カ)「下水汚泥の消臭処理における硫化水素濃度(単位:ppm)」と題される「【表1】」(【0023】)には、以下のデータが記載されている。
(甲1-キ)「図1は、本発明を汚泥処理設備の脱水機およびホッパーの消臭へ適用した場合の装置の構成を示す図である。汚泥貯留槽(101)に貯留された汚泥は、送泥ポンプ(102)により凝集剤混合槽(104)に移送される。ここでは、汚泥は凝集剤と混合され、脱水機(105)にて脱水される。脱水汚泥ケーキはベルトコンベアで汚泥ケーキホッパー(106)に貯留され、汚泥搬出まで保管される。この工程中で、脱水機内では硫化水素やメルカプタン類の硫黄系臭気が発生する。また、脱水汚泥ケーキの貯留時にも硫化水素やメルカプタン類等の硫黄系臭気が発生する。」(【0039】)
(甲1-ク)「過酸化水素は、薬注ポンプ(107)を使用し、薬剤配管(108)と介し、汚泥配管(103)へ汚泥に対して100%過酸化水素換算で100mg/Lとなるように添加した。また、亜硝酸ナトリウムは、薬注ポンプ(109)を使用し、薬剤配管(110)を介し、凝集剤混和槽に滴下した。亜硝酸ナトリウムは40%水溶液を使用し、汚泥に対して亜硝酸イオンとして100mg/Lとなるよう滴下した。送泥ポンプ(102)は、毎日9時から15時まで起動するが、薬剤ポンプ(107、109)の起動は、送泥ポンプ(102)の起動に連動させた。」(【0040】)
(甲1-ケ)「過酸化水素と亜硝酸塩で処理することにより、脱水機、脱水ケーキホッパー内の臭気は大きく低減できた」(【0041】)
(甲1-コ)「本発明を下水汚泥処理に適用した構成図」と題された【図1】(6頁)には、「汚泥貯留槽101」、「送泥ポンプ102」、「汚泥配管103」、「凝集剤混合層104」、「脱水機105」、「汚泥ケーキホッパー106」の順で汚泥が配送処理されることがみてとれる。
(2)甲第2号証:特公平1-60319号公報
(甲2-ア)「1 微生物の生息環境に亜硝酸イオンを存在させることを特徴とする微生物に基づく硫化水素の発生を防止する方法。」(特許請求の範囲 請求項1)
(甲2-イ)「微生物、特に硫酸還元菌は嫌気的条件下で硫黄化合物を還元して硫化水素を発生する。」(1欄10~11行)
(甲2-ウ)「従来、硫酸還元菌による硫化水素の発生を防止する方法としては殺菌剤や酸化剤を添加したり、加熱殺菌したり、pH調整を行なう方法などが知られている。しかし、殺菌剤は一般に高価であり、安価な塩素は毒性および腐食作用を有し好ましくない。また、空気の吹込みやH2O2の添加も有効な手段であるが、硫酸還元菌の増殖の程度によつては適用できないことがある。さらに、加熱殺菌やpH調整は環境によつては適用し難いことがある。」(1欄13~22行)
(甲2-エ)「本発明は、微生物の生息環境に亜硝酸イオンを存在させることを特徴とする微生物に基づく硫化水素の発生を防止する方法である。微生物の生息環境としては、例えば活性汚泥や活性炭による廃水処理装置、油タンクの底水、メタン発酵槽、汚濁河川、田畑、水溶性潤滑油等を挙げることができる。」(2欄5~11行)
(甲2-オ)「本発明は、このような微生物の生息環境に亜硝酸イオンを存在せしめることによつて硫化水素の発生を防止させるものである。ここで亜硝酸イオン供給源としては既知の物質を任意に使用することができ、例えば亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウムなどがある。」(2欄12~17行)
(甲2-カ)「実施例・・・活性炭による廃水処理装置中の水0.5mlを加えて培養し、硫酸還元菌を分離した。次いで、分離した硫酸還元菌を寒天を加えていないスターキー培地で液体培養した。この硫酸還元菌を含む培養液を希釈して680個/0.5mlに調整した。
この液を種菌として、亜硝酸ナトリウムを加えたスターキーの寒天培地20mlに0.5ml接種し、30℃で96時間培養し、硫酸還元菌の生育を調べた。培地上のコロニー数を第1表に示す。なお、無添加区のコロニー数は665個であつた。
」(3欄4行~4欄末行)
(3)甲第3号証:特開平9-262600号公報
(甲3-ア)「【従来の技術】従来、下水処理場においては、一般に、図6に示すように、スクリーン1でゴミ等を捕集したのち、最初沈澱槽2で固形物,汚泥を沈澱,分離させた後、曝気槽3にて下水中に空気を吹き込んで曝気させることにより下水汚泥中の微生物を活性化させて汚泥中の有機物を分解し、その後、最終沈澱槽4で汚泥を沈澱分離させたのち系外に放水するようになっている。一方、前記最初沈澱槽2と最終沈澱槽4とに沈澱した汚泥は、濃縮槽5で濃縮され、この濃縮汚泥は貯留槽6を経て脱水機7でケーキ化されたのち、たとえば、焼却処理されている。ところで、前記濃縮汚泥は最初沈澱槽2および最終沈澱槽4における沈降汚泥を合わせたものであり、特に、有機物(例えば蛋白質)を主体とする最初沈澱槽2からの沈降汚泥を含んでいるため、嫌気状態で長時間滞留していると濃縮汚泥中に含まれる有機物が嫌気分解され硫化水素,メチルメルカプタン等が生成されるので悪臭が強く脱水作業場の作業環境が悪くなる。そのため、金属系あるいは酸化系の消臭剤を前記貯留槽6から脱水機(脱水工程)7へ行く途中で濃縮汚泥中に添加して悪臭対策を行なっているのが現状である。」(【0002】)
(甲3-イ)「従来の下水汚泥処理方法を示す工程図」と題された【図6】(5頁)には(甲3-ア)の記載事項がみてとれる。
(4)甲第4号証:特開平7-68295号公報
(甲4-ア)「【請求項1】二酸化塩素および塩化亜鉛を併用して汚水濃縮汚泥を処理し、該汚水濃縮汚泥を脱臭することを特徴とする脱臭方法。」(【特許請求の範囲】)
(甲4-イ)「また、薬剤処理後の汚水濃縮汚泥において、フラスコ中のメチルメルカプタン濃度およびフラスコ中の硫化水素濃度をND(メチルメルカプタンおよび硫化水素のそれぞれが検出されないことを示し、メチルメルカプタン濃度および硫化水素濃度のそれぞれが1ppm未満であることを意味する。以下同様)と示す場合がある・・・」(【0019】)
(甲4-ウ)「・・・二酸化塩素および塩化亜鉛の両者を併用して処理することにより、少なくとも汚水濃縮汚泥中のメチルメルカプタンに起因する悪臭および硫化水素に起因する悪臭の脱臭において相乗的に作用し、かつ脱臭作用を長時間にわたって持続できることが判る。」(【0029】)
(甲4-エ)「実施例4 T浄化センターの汚泥貯溜タンク(11)における汚水濃縮汚泥への二酸化塩素と塩化亜鉛との混合水溶液添加によるメチルメルカプタンに起因する悪臭の脱臭に対する相乗作用ならびにメチルメルカプタンおよび硫化水素に起因する悪臭の脱臭作用の持続。図1のフローシートで示されたT浄化センターの汚泥貯溜タンク(11)内の汚水濃縮汚泥30m3のそれぞれに、二酸化塩素水溶液、塩化亜鉛水溶液または二酸化塩素と塩化亜鉛とを含有する混合水溶液をそれぞれ添加して、前二者では、汚水濃縮汚泥1m3当りの二酸化塩素または塩化亜鉛の添加量を、それぞれ60gまたは80gとした。また、後者では、汚水濃縮汚泥1m3当りの二酸化塩素および塩化亜鉛の添加量を25gおよび33gとした。
前記の各水溶液の添加前ならびに添加直後、0.5時間後、1時間後、1.5時間後、2時間後、2.5時間後、3時間後、3.5時間後、4時間後、4.5時間後および5時間後に、該汚泥貯溜タンク(11)からそれぞれの汚水濃縮汚泥を採取し、これを氷冷下で保存しつつ実験室に持ち帰って、各汚水濃縮汚泥について、実施例1と同様にしてフラスコ中のメチルメルカプタン濃度およびフラスコ中の硫化水素濃度をそれぞれ測定した。結果を、それぞれ、図2乃至図4に示す。」(【0033】、【0034】)
(甲4-オ)「この結果は、図2に示されるように、汚水濃縮汚泥1m3当り二酸化塩素60gを単独で添加した場合には、二酸化塩素添加直後では、フラスコ中のメチルメルカプタン濃度およびフラスコ中の硫化水素濃度は実質的に検出されなくなるが、二酸化塩素添加1時間後からフラスコ中のメチルメルカプタン濃度およびフラスコ中の硫化水素濃度はいずれも急激に上昇したことを示している。また、図3に示されるように、汚水濃縮汚泥1m3当り塩化亜鉛80gを単独で添加した場合には、塩化亜鉛を添加したにも拘らず、フラスコ中のメチルメルカプタン濃度は塩化亜鉛添加前と変わらず、時間が経過しても低下しなかったことを示している。他方、フラスコ中の硫化水素濃度は、塩化亜鉛添加直後から緩慢に低下し、塩化亜鉛添加1時間後で最低となったことを示している。
さらに、図4に示されるように、汚水濃縮汚泥1m3当り二酸化塩素25gおよび塩化亜鉛33gの両者を添加した場合には、二酸化塩素および塩化亜鉛のそれぞれを単独に添加したいずれの場合に比して、それらの添加量が少ないにも拘らず、その添加直後に、フラスコ中のメチルメルカプタン濃度およびフラスコ中の硫化水素濃度はいずれもNDとされ、以後、時間の経過に伴って、フラスコ中のメチルメルカプタン濃度およびフラスコ中の硫化水素濃度が共に極めて緩慢に上昇するに過ぎなかったことを示している。」(【0035】~【0036】)
(甲4-カ)【図1】(10頁)には、「最初沈殿池4」からの「生汚泥」と、「最終沈殿池7」からの「返送汚泥」の一部である「余剰汚泥」とが混合されて「屎渣分離機9」を介して「汚泥濃縮タンク10」へ流入し、「汚泥濃縮タンク10」から「汚泥貯留タンク11」へ「濃縮汚泥」が流入し、「汚泥貯留タンク11」から「汚泥脱水機12」へ「供給汚泥」が供給されて「脱水ケーキ」として「汚泥脱水機12」から搬出されることがみてとれる。
(甲4-キ)【図2】(11頁)には、「T浄化センター汚泥貯溜タンクの汚水濃縮汚泥への二酸化塩素単独添加(二酸化塩素60g/汚水濃縮汚泥m3)による脱臭作用とその持続性」と題されたグラフにおいて、
硫化水素の濃度変化については、二酸化塩素の添加前に約600ppmであったものが、二酸化塩素の添加直後に検出されない状態となり、その後添加から3時間を経るまで時間と共に増加し、添加から3時間を経過した以降では約400ppmで飽和していることがみてとれる。
メチルメルカプタンの濃度変化については、二酸化塩素の添加前に約35ppmであったものが、二酸化塩素の添加直後に検出されない状態となり、その後添加から2時間を経るまで時間と共に増加し、添加から2時間を経過した以降では約20ppmで飽和していることがみてとれる。
(甲4-ク)【図3】(11頁)には、「T浄化センター汚泥貯溜タンクの汚水濃縮汚泥への塩化亜鉛単独添加(塩化亜鉛80g/汚水濃縮汚泥m3)による脱臭作用とその持続性」と題されたグラフにおいて、
硫化水素の濃度変化については、塩化亜鉛の添加前に約650ppmであったものが、塩化亜鉛の添加後1時間後に約50ppmとなって、その後飽和していることがみてとれる。
メチルメルカプタンの濃度変化については、塩化亜鉛の添加前に約40ppmであったものが、塩化亜鉛の添加後も約40ppmを維持し変化していないことがみてとれる。
(甲4-ケ)【図4】(12頁)には、「T浄化センター汚泥貯溜タンクの汚水濃縮汚泥への塩化亜鉛-二酸化塩素混合物添加(塩化亜鉛33g-二酸化塩素25g/汚水濃縮汚泥m3)による脱臭作用とその持続性」と題されたグラフにおいて、
硫化水素の濃度変化については、塩化亜鉛-二酸化塩素混合物添加の添加前に約300ppmであったものが、添加直後に検出されない状態となり、その後になだらかに時間と共に増加し約30ppmとなって以後飽和していることがみてとれる。
メチルメルカプタンの濃度変化については、塩化亜鉛-二酸化塩素混合物添加の添加前に約35ppmであったものが、添加直後に検出されない状態となり、その後になだらかに時間と共に増加し約10ppmとなって以後飽和していることがみてとれる。
(5)甲第5号証:「下水汚泥の処理工程における臭気と消・脱臭剤の効果について[2]下水処理工程の臭気と市販の消・脱臭剤」、西田耕之助 他、産業と環境、1998.2(平成10年2月1日発行)80~86頁
(甲5-ア)「下水汚泥の濃縮槽や脱水工程で発生する臭気は、硫化水素、メルカプタン類・・・などの硫黄系臭気物質が主体で、時には発生臭気中の硫化水素濃度が数百ppmから致死濃度を超える1,000ppmにも達することがある。」(80頁1段13行~2段5行)
(甲5-イ)「下水やし尿の処理施設の周辺における悪臭苦情の原因としては・・・脱水ケーキの貯蔵と搬出・・・が主なものである。これらのなかでも・・・汚泥の搬出において発生する臭気は大量で、多種の高濃度の臭気物質を含み、かつ、それらの大気中への放散が非定常である。」(81頁4段末行~82頁1段20行)
(甲5-ウ)「一般に、汚泥の消・脱臭凝集剤や脱臭剤と呼ばれて、大量に使用される。これらの多くは・・・汚泥や汚水中の硫化水素、メチルメルカプタン・・・などの臭気物質との化学反応、化学結合による臭気の除去と説明されることが多い。しかし、汚泥中にはこれらの臭気物質よりも化学反応性の大きい物質が多量に存在する中で、臭気物質のみがこれらの添加物と選択的に反応することはなく、添加薬剤による汚泥、汚水相の内部環境の変化、すなわち汚泥・汚水中の細菌類の活動抑制による臭気物質発生の低下が支配的であると考えられる。」(82頁2段9~27行)
(甲5-エ)「一般に、汚泥処理系において使われる消・脱臭剤には・・・亜鉛・・・を含むものが多く、脱水汚泥のコンポスト化など肥料化での植物障害ならびに汚泥ケーキの焼却処分での排煙中の有害物質生成や灰残存物(重金属類)の問題も軽視できない。とくに汚泥中の大量の塩素、塩素化物による燃焼時の有機塩素化合物(ダイオキシン類)の熱的生成は今後の大きな課題である。」(82頁3段21行~4段1行)
(甲5-オ)「下水終末処理場における臭気の発生場所を下水の処理工程と共に示すと・・・生汚泥と余剰汚泥の濃縮槽(重力、加圧浮上)・・・汚泥の脱水処理(真空・加圧フィルター、遠心分離、薬剤固化)、脱水ケーキの処分(貯留、搬出、焼却、溶融、コンポスト化、埋め立て、肥料化)の汚泥処理系の各工程が臭気の発生源となっている。・・・とくに、汚泥の濃縮、消化、脱水および脱水ケーキの取り扱い工程において発生・発散する臭気は、これらの作業工程の密閉化が困難であることから、処理場内外に大きな影響を与えている。」(83頁4段29行~84頁2段15行)
(甲5-カ)「凝集・脱水助剤として過酸化水素(H2O2)・・・が添加される。
これらの下水汚泥の凝集・脱水助剤は、本来の有機物酸化と脱水性改善の効果と共に汚泥の臭気の発生にたいする抑制効果をもつことから、「下水汚泥の脱臭剤や消臭剤」と云う商品名で市販され・・・しかしながら、実際には、これらの添加の薬剤による臭気低減効果の持続性が非常に短く、薬剤の添加で、一時、汚泥から発散する硫化水素濃度(量)が減少するものの数時間後では添加前を上回る発生となる。」(85頁4段10~32行)
(6)甲第6号証:食品微生物制御の化学、松田敏生 著、株式会社幸書房、1998年2月25日、168~173頁
(甲6-ア)「5.2 亜硝酸塩の抗菌作用の概要
亜硝酸塩の抗菌作用について・・・全ての種類の細菌の発育を阻止するわけではないが、その作用はpH6.0以下で非常に強くなり、0.02%でAchromobacter、Flavobacterium、Pseudomonas、Micrococcus、EscherichiaおよびAerobacterの発育が阻害されることを示した。」(170頁下から3行~171頁5行)
(甲6-イ)「亜硝酸の抗菌作用がpHに影響され・・・亜硝酸の抗菌作用が、特定の細菌、例えばStaphylococcus aureus、Streptococcus salivarius、Str.mitis、Str.pyogenes、Bacillus megaterinm、Proteus vulgarisなどに対して、嫌気的培養では好気的培養に比べて著しく高められる(低い濃度で発育を阻止する)ことが、表IV-61のように示されている。」(171頁6行~11行)
(甲6-ウ)「亜硝酸の微生物に対する発育阻止濃度(pH6.6~6.7)」と題する「表IV-61」(171頁)には、各種の微生物に対して亜硝酸を添加したときの発育阻止濃度[ppm]が嫌気的条件と好気的条件とで次のように記載されている。
(甲6-エ)「Gibsonらは、Brain Heart Infusion Broth中に、pH5.6、6.2、6.8、食塩0~10%、亜硝酸ナトリウム 0~400ppm、温度10~35℃の条件の下、Salmonella(12株の混合物)と腸管病原性大腸菌(10株混合物)をそれぞれ接種し、10週間培養した時の発育の阻止を比較している。サルモネラも大腸菌も共に、亜硝酸ナトリウムはあまり阻止効果がないが、大腸菌の場合を示すと表IV-62のようである。」(171頁18行~172頁5行)
(甲6-オ)「亜硝酸ナトリウム、食塩、pH、温度の組み合わせと大腸菌発育阻止」と題する「表IV-62」(172頁)には、(甲6-オ)に摘示された条件での亜硝酸ナトリウムを添加(添加量0、50、100、200、400μg/mL)したときの大腸菌の発育阻止の状態が記載されており、以下に、その内の「食塩0の場合」のみを記す。
ただし、表中で「1」は「1週間以内に発育」、「2」は「1週間以内に発育」、「-」は「10週間発育せず」を意味する。
(甲6-カ)「亜硝酸塩は・・・ボツリヌス菌などのClostridium属の細菌には、非常に強い阻止作用を示し、またStaphylococcus aureus では、亜硝酸ナトリウムを嫌気的条件にすると、強い抗菌作用を示すことが報告されている。」(172頁6~9行)
(7)甲第7号証:食品衛生学、豊川行平 外5名 編、株式会社朝倉書店、昭和38年9月25日発行、12~23頁、48~51頁
(甲7-ア)「(2)水生細菌
河川・湖水・池水等の地表水は本来の水生細菌による淡水系ミクロフローラをもっているがつねに土壌細菌・糞便細菌・下水細菌の流入をうけている・・・水生細菌を構成しているフローラはPseudomonas、・・・などの・・・淡水菌種・・・および海水菌種(sea-water species)、Proteus、Serratia、Aerobacter、Escherichia等の下水および糞便細菌、・・・が主要なもので、これに・・・Clostridium、Streptococcus、腸内病原菌等が参加する。」(13頁20行~14頁12行)
(甲7-イ)「(3)下水細菌
下水細菌という固有の細菌はないが、有機物を豊富に含んだ下水中には糞便細菌・水生細菌・土壌細菌の濃厚混合汚染を受けかつ下水中で増殖が行なわれるので、特有のミクロフローラが形成される。その特徴とするところは、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属しているゼラチンを溶解する作用の強いCloaca属と呼ぶ狭義の下水細菌がEscherichia coliやProteusとともに豊富にいることである。そのほかClostridium、Bacillusなどの耐熱性芽胞菌、Pseudomonas、Vibrio、Micrococcusなどの水生菌も多く、ミクロフローラは一種の混成密集部隊をなしている。」(14頁13行~20行)
(甲7-ウ)「(3)含硫化合物の代謝
ここで含硫化合物の分解について少し触れてみたい。含硫化合物の分解は多く特殊な臭気の発生を伴うので、食品の腐敗による悪臭の問題とも関連して興味深い。天然に広く分布している化合物としてはシステインおよびその代謝中間物、メチオニンおよびその関連化合物、タウリンが主で、そのほかに・・・等がある。」(49頁1行~6行)
(甲7-エ)「またメチオニンデメルカプトデアミナーゼ(またはデチオメチラーゼ)によりメチルメルカプタン(CH3SH)を生じ、この酵素はPseudomonas、Cl.sporogenesおよび土壌細菌に多く見出される。」(49頁下から2行~50頁1行)
(8)甲第8号証:「光合成細菌で環境保全」自然と科学技術シリーズ、小林達治著、農山漁村文化協会、1993年11月25日発行、48~55頁
(甲8-ア)「悪臭発生のしくみ
養豚・養鶏場を初めとする飼育場、また厨芥や下水からは悪臭が発生する。・・・微生物はタンパク質分解酵素作用によりタンパク質を分解するが、そのとき、アンモニアや炭酸ガスのほか、インドール、スカトール、硫化水素、揮発性アミン、メルカプタン、脂肪酸等を生ずる。これらが悪臭の根源となる。」(48頁8行~13行)
(甲8-イ)「付図2 悪臭物質(硫化水素、メルカプタン)の発生のしくみ」(50頁)として次の反応式が記載されている。
(甲8-ウ)「付図2に悪臭の強い硫化水素やメルカプタンの発生機構を示す。
(1)の反応は酵素(Cysteine desulphydrase)をもつプロテウス・モルギニー(Proteus morgenii)、大腸菌ストレプトコッカス(Streptococcus)によって進行する。
(2)の反応は酵素(Methioninase)をもつ大腸菌やクラストリジウム・スポロジナス(Clastridium sporogenes)により進行する。」(51頁1~6行)
*当審注1
「プロテウス・モルギニー(Proteus morgenii)」は「プロテウス・モルガニー(Proteus morganii)」のことである。
さらに現在(本審決起案時)の正式名称は「Morganella morganii」であるが、以下で記載する場合には「プロテウス・モルガニー(Proteus morganii)」を用いる。
*当審注2
「大腸菌ストレプトコッカス(Streptococcus)」とあるが、「Streptococcus」は腸内細菌に含まれる乳酸菌に含まれ、同じく腸内細菌に含まれる大腸菌には含まれないので、以下で記載する場合には、単に「Streptococcus」とする。
*当審注3
「クラストリジウム・スポロジナス(Clastridium sporogenes)」は「クロストリジウム・スポロジナス(Clostridium sporogenes)」のことである。
以下で記載する場合には「クロストリジウム・スポロジナス(Clostridium sporogenes)」を用いる。
(9)甲第9号証:酵素ハンドブック、丸尾文治・田宮信雄 監修、朝倉書店、1982年12月1日、718頁、719頁、721頁、722頁
(甲9-ア)メチオニンからメチルメルカプタンを生成する酵素について次の記載がある。(722頁)
「4.4.1.11 L-Methionine γ-lyase
[系統名]L-Methionine methanethiol-lyase(deaminating)
[別 名]L-Methioninase
[反 応]
[測 定](1)生成する2-オキソ酪酸を3-メチル-2-ベンゾチアゾロンヒドラゾンで測定 (2)メタンチオール、NH4+の定量による測定も可能
[所在と精製]Pseudomonas属、Clostridium属などの細菌に存在。P.ovalis(=P.putida)、P.putida、Clostridium sporogenesから均一に生成されたP.ovalis酵素は-20℃で3ヶ月以上安定。」
(10)甲第10号証:「下水汚泥処理処分に関する試験研究成果集(III)」試験部技術資料56-003、日本下水道事業団試験研修本部試験部、昭和56年8月、122~128頁
(甲10-ア)「(1)下水成分の成分分析
本年度の対象処理場は、家庭下水の流入が主体である処理場として住宅団地(2ヶ所)と工場排水の流入が10%前後と比較的少ない都市域の処理場とした。」(122頁2~5行)
(甲10-イ)「B処理場の処理区域内には、工場が点在しているためか重金属の含有量が高い。」(122頁24~25行)
(甲10-ウ)「試料のA・B・Cは処理場別 数字は1:余剰汚泥2:濃縮(混合)汚泥」(123頁 (注))
(甲10-エ)「可溶性アミノ酸分析結果一覧表」と題された「表-4」(126頁)には、「A-2」、「B-2」、「C-2」において、「メチオニン」が、それぞれ「0.09mg/g-DS」「0.49%」、「0.05mg/g-DS」「0.45%」、「0.03mg/g-DS」「0.47%」の量で検出されたことが記載されている。
(11)甲第11号証:新版 実務者のための下水道、松井大悟 著、理工図書株式会社、平成4年9月25日発行、198~199頁
(甲11-ア)「7.5.9 汚泥貯留タンク
汚泥消化タンクから引き抜いた汚泥を、脱水機に安定して供給するとともに、引抜き汚泥の均質化をはかるため、汚泥貯留タンクを設ける。汚泥貯留タンクの容量は、脱水設備の種類、運転の態様によって決定される。近年、週休2日制の一般化、年休の増加あるいは処理場の労働環境の改善といった社会的情勢の変化がある。これらを勘案し、脱水機の運転時間を昼間8時間とすると、汚泥貯留タンクの容量は、18時間を標準とするのが望ましい。」(198頁1~7行)
(12)甲第12号証:設計指針 機械設備編、日本下水道事業団編著、財団法人下水道業務管理センター発行、平成10年4月改訂、7.2-1~7.2-3頁、7.4-9頁、7.4-12頁、9.3-1~9.3-4頁
(甲12-ア)「3.1 臭気条件
臭気条件は、次の事項を考慮して決定する。
1.原臭ガス(脱臭装置入口)の悪臭物質、臭気強度は、種々の条件により異なるので、実測定により決定することを原則とする。しかし、新設時等で臭気の実測定が困難な場合は、下表によることができる。」(9.3-1頁 2~6行)
(甲12-イ)「原臭濃度」と題された「表9-1」(9.3-1頁)には次のことが記載されている。
「
出典 : 日本下水道事業団技術開発部報告書91-006「下水道施設における生物脱臭技術の開発に関する調査」によるデータ累積度数85%値」
(甲12-ウ)「施設別 臭気データ」と題された「表9-2」(9.3-2頁)には、臭気が「低濃度」の「設備」として「沈砂池」と「最初沈殿池」が、臭気が「高濃度」の「設備」として「汚泥濃縮タンク」、「汚泥貯留タンク」、「汚泥脱水設備」が記載され、さらに、次のことが記載されている。
ただし、沈砂池、最初沈殿池、汚泥濃縮タンク、汚泥貯留タンク、汚泥脱水設備の「項目」はデータ累積度数「85%値」である。
「
出典 : 日本下水道事業団技術開発部報告書91-006「下水道施設における生物脱臭技術の開発に関する調査」によるデータ累積度数85%値
ただし、高濃度の臭気濃度設定値(*)については同報告書では70,000であるが、物質濃度より換算した場合、約100,000であるため、ここでは100,000とした。」
(13)甲第13号証:甲第1号証効果確認実験成績報告書、荏原エンジニアリングサービス株式会社薬品事業本部袖ヶ浦薬品事業所BC薬品技術部 木村 仁、2009年1月30日
(甲13-ア)「試料汚泥を用いて、同時に以下(1)及び(2)の消臭試験を実施した。
(1)汚泥スラリーの消臭実験
実験1-1:
試料汚泥200mlを容量500mLのビーカーに入れ、100%過酸化水素として100mg/Lとなる量の過酸化水素と、亜硝酸ナトリウム100mg/L、300mg/L、及び500mg/L(それぞれ亜硝酸イオンとして67mg/Lとなる量、200mg/Lとなる量、333mg/Lとなる量)を添加混合し、スパチュラで20回攪拌して均一に混合し、ポリエチレンフィルムを用いてビーカーを密封した。30℃恒温槽内に保管し、15分後、30分後、5時間後、24時間後、48時間後、72時間後にヘッドスペース法により、硫化水素・メルカプタン類濃度を、ガステック製検知管を用いて測定した。
実験1-2:
過酸化水素を添加せずに、亜硝酸ナトリウム100mg/L、300mg/L、及び500mg/L(それぞれ亜硝酸イオンとして67mg/Lとなる量、200mg/Lとなる量、333mg/Lとなる量)を添加した以外は実験1-1と同様な処理を行った。
実験1-3
薬品を全く添加しない以外は実験1-1と同様な処理を行った。
(2)脱水ケーキの消臭実験
実験2-1
試料汚泥200mLを容量500mLのビーカーに入れ、実験1-1及び実験1-2と同様に薬剤を添加し、薬さじで20回撹拌して均一に混合し、ポリエチレンフィルムを用いてビーカーを密封した。
15分放置後、カチオン系凝集剤0.2重量%水溶液28mLを加え、ハンドミキサ(2cm×2cm×2枚羽根)にて500rpmで20秒間撹拌したのち、凝集汚泥を円錐形ろ過器(ろ過部40meshふるい)に入れ、重力ろ過を行った。ろ過後の汚泥をナイロンろ布を用いて圧搾機で脱水して脱水ケーキを得た。
フッ素樹脂性ガスサンプリングバックに脱水ケーキを全量入れ、無臭空気1000mLを充填して密封し、30℃の恒温槽内に保存し、24時間後、48時間後、72時間後の容器内ガスの硫化水素・メルカプタン類をガステック製検知管を用いて測定した。
実験2-2
過酸化水素および亜硝酸ナトリウムを添加しない以外は、実験2-1と同様な処理を行った。」(冒頭に「1.試験方法」と記載される頁の下から8行~末行)
(甲13-イ)上記実験1-1~1-3、2-1~2-2の実験結果について、図2、図3の記載から、次のことがみてとれる。
i)「汚泥スラリーに対する消臭効果」を示す「図2」から、「亜硝酸ソーダに過酸化水素を添加した場合には添加直後に硫化水素及びメルカプタン類の双方に対する消臭効果が現れるが、過酸化水素を添加しなかった場合にはやや遅れて消臭効果が現れ、過酸化水素及び亜硝酸ナトリウムを添加しなかったブランクでは添加後の時間が経過するにつれて硫化水素及びメルカプタン類の濃度が高くなるのに対して、過酸化水素及び亜硝酸ナトリウムを添加した場合及び亜硝酸ナトリウムだけを添加した場合にはいずれも硫化水素及びメルカプタン類の濃度が高くならなかった。」
ii)「脱水ケーキに対する消臭効果」を示す「図3」から、「過酸化水素及び亜硝酸ナトリウムを添加しなかったブランクでは添加後の時間が経過するにつれて硫化水素及びメルカプタン類の濃度が高くなるのに対して、過酸化水素及び亜硝酸ナトリウムを添加した場合及び亜硝酸ナトリウムだけを添加した場合にはいずれも硫化水素及びメルカプタン類の濃度が高くならなかった。」
(14)甲第14号証:平成15年8月11日付け意見書
(甲14-ア)「一般に、活性汚泥による廃水処理装置においては、本願図1に示されるように、廃水処理装置の最終沈殿池3から分離される汚泥は、一部は廃水処理装置の曝気槽2に返送され、残りの余剰汚泥は汚泥濃縮槽4に送られて濃縮されます。汚泥濃縮槽4で濃縮された濃縮汚泥は、汚泥貯留槽5を経て、脱水機6で脱水して脱水ケーキと脱離水に分けて、脱水ケーキは廃棄所に搬出されます。さて、本願発明は汚泥濃縮槽4で濃縮された濃縮汚泥に亜硝酸塩を添加しています。そして、濃縮前の汚泥スラリーには、若干の硫酸イオンは存在していますが、濃縮工程で大部分の硫酸イオンは濃縮分離水として流出し、さらに、少量残った硫酸イオンは、硫酸還元菌により還元されるために、濃縮後の汚泥スラリーには、硫酸イオンの存在は、分析検出限界値の10mg/L未満となります。
この史実は当業者間では周知ですが、文献の記載としては、なかなか見つかりません。本願出願人出願後の文献ですが、別添の既存処理場のりん対策に関する共同研究(参考資料)の文献にもその事実は示されています。
この報告書に添付された表では、重力濃縮汚泥では、硫酸イオンの濃度が10mg/L未満であることが示されています。」(3頁29-43行)
(15)甲第15号証:「東京都の下水道」、東京都下水道局、平成13年10月発行、目次、1~7頁(東京都立図書館受入印有り逐次刊行物)
(甲15-ア)「汚泥処理の過程としくみ」と題された図(3頁)には、「濃縮槽」、「消化槽」、「脱水機」、「焼却炉」がこの順で並び汚泥が移動することが見てとれる。
(甲15-イ)「●濃縮槽
泥水に近い汚泥(生汚泥)を、濃縮槽で重力沈殿させて、うわ水と濃縮汚泥に分けます。汚泥の体積は1/4程度になります。
●消化槽
約40℃の温度で20日間程あたためると、汚泥はメタンガス・脱離液・消化汚泥に分離します。メタンガスは、処理場内の燃料として使います。(消化槽のない処理場もあります。)
●脱水機
消化汚泥は、洗浄槽で水洗いしたあと、脱水機で脱水します。(消化槽を通さないで脱水する場合もあります。)体積は生汚泥の1/25程度になります。
●焼却炉
汚泥を焼却して灰にします。体積は生汚泥の1/400程度になります。」(3頁「●汚泥処理の過程としくみ」と題された図の下の箇所)
(甲15-ウ)「●処理場別下水及び汚泥処理の実績」を示す表(6頁)には、次のことが記載されている。
「芝浦処理場」/「南プラへ圧送(森ヶ崎(セ)を経由、汚泥の一部は森ヶ崎(セ)にて処理)」
「三河島処理場」/「砂町(セ)へ圧送」
「中川処理場」/「葛西(処)へ圧送(小菅(処)を経由)」
「有明処理場」/「砂町(セ)へ圧送」
「小菅処理場」/「葛西(処)へ圧送
ただし、「南プラ」は「南部スラッジプラント」の、「森ヶ崎(セ)」は「森ヶ崎水処理センター」の、「砂町(セ)」は「砂町水処理センター」の、「葛西(処)」は「葛西処理場」の、それぞれの略称である。
(16)甲第16号証:「東京23区の下水道 -まちづくり未来につなぐ下水道-」、東京都下水道局、平成9年8月発行、もくじ、1~15頁(東京都立図書館受入印有り逐次刊行物)
(甲16-ア)「汚泥処理の過程」と題された図(4頁)には、「濃縮槽」、「消化槽」、「脱水機」、「焼却炉」がこの順で並び汚泥が移動することが見てとれる。
(甲16-イ)「●濃縮槽
泥水に近い汚泥(生汚泥)を、濃縮槽で重力沈殿させて、うわ水と濃縮汚泥に分けます。汚泥の体積は1/2~1/4になります。
●消化槽
約40℃の温度で20日間程あたためると、汚泥はメタンガス・脱離液・消化汚泥に分離します。メタンガスは、処理場内の燃料として使います。(消化槽のない処理場もあります。)
●脱水機
消化汚泥は、洗浄槽で水洗いしたあと、脱水機で脱水します。(消化槽を通さないで脱水する場合もあります。)体積は生汚泥の1/20程度になります。
●焼却炉
汚泥を焼却して灰にします。体積は、生汚泥の1/100程度になります。」(4頁「汚泥処理の過程」と題された図の下の箇所)
(甲16-ウ)「・・・発生した汚泥の約半分は機械脱水した後、海上運搬により南部スラッジプラント又はミキシングプラントへ搬出します。残りは南部スラッジプラントへ圧送します。」(「芝浦水処理センター(6頁上段)」)
(甲16-エ)「・・・発生した汚泥は全量を砂町水処理センターへ圧送しています。」(「三河島処理場(6頁下段)」)
(甲16-オ)「・・・処理水は、東京湾へ放流し、発生した汚泥は、三河島処理場と有明処理場から送られてくる汚泥とあわせ脱水した後、全量を焼却しています。また、平成9年4月から東部スラッジプラントの運転が開始されました。」(「砂町水処理センター(8頁下段)」)
(甲16-カ)「・・・平成8年度に汚泥処理施設を廃止し、発生した汚泥は、葛西処理場へ圧送しています。」(「小菅処理場(9頁上段)」)
(甲16-キ)「・・・処理水は、東京湾に放流し、発生した汚泥は、中川処理場と小菅処理場から送られてくる汚泥とあわせ脱水した後、全量焼却しています。
●施設の概要 運転開始 北施設 昭和56年9月 南施設 平成4年4月」(「葛西処理場(9頁中段)」)
(甲16-ク)「森ヶ崎水処理センターは、運河をはさんで東西二つの施設と城南島の南部スラッジプラントからなっています。・・・
●施設の概要 南部スラッジプランド 運転開始 昭和58年10月」(「森ヶ崎水処理センター(11頁上段)」)
(甲16-ケ)「・・・平成7年9月に一部運転を開始し、平成8年7月には水処理運転を開始しました・・・発生した汚泥は、全量砂町水処理センターへ圧送しています。」(「有明処理場(11頁中段)」)
(17)甲第17号証:「臭気と脱臭方法に関する調査報告書-第6次中間報告-」、建設省土木研究所下水道研究室、昭和60年3月、序文、目次、1~45頁
(甲17-ア)「濃縮槽での汚泥の投入、引抜きは断続的に定時に行われるため、濃縮槽越流水、消化槽脱離液の沈砂池への返送も断続的となる。なお、脱水機の運転は9時30分~11時30分、13時~15時であり、脱水ろ液及びろ布洗浄水が沈砂池に返送されるのもこの時間帯となる。」(9頁下から8-5行)
(甲17-イ)「T下水処理場における調査」(9頁下から14行「3.5 T下水処理場における調査」)において、「図-3.5 水質分析結果(流量を荷重した平均値)」(19頁)には、「汚水、汚泥の分析結果を・・図示したものを図-3.5に示す」(15頁1行)として、「SO42- 90mg/L」が「濃縮槽」へ流入し、「SO42- 29mg/L」である沈殿汚泥が「濃縮槽」から流出することが視認される。
(甲17-ウ)「K下水処理場における調査」(26頁下から15行「3.6 K下水処理場における調査」)において、「図-3.13 各採水箇所での平均濃度」(38頁)には、「・・・流量を荷重した1日の平均濃度を図示したものを図-3.13に示す」(33頁20-21行)として、「SO42- 58mg/L」が「汚泥濃縮槽」へ流入し、「SO42- 91mg/L」である沈殿汚泥が「濃縮槽」から流出することが視認される。
(18)甲第18号証:特開平10-29000号公報
(甲18-ア)「実施例2:汚泥濃縮槽への添加による硫化水素発生の抑制効果
実施例1と同様の個別的下水処理施設において、汚泥濃縮槽に投入する直前の沈殿汚泥1リットルを採取し、ポリ硫酸第2鉄を500mg/lになるように添加した。続いて、重力濃縮により汚泥固形分の濃度が5倍になるように濃縮し、濃縮汚泥200mlを得た。得られた濃縮汚泥100mlと、同じ個別的下水処理施設内の汚泥消化槽から採取した汚泥100mlとを混合し、試料(a)を得た。これとは別に、以下の操作を実施することにより、比較例としての試料(b)、及び対照例としての試料(c)を得た。すなわち、同じ個別的下水処理施設において汚泥濃縮槽に投入する直前の沈殿汚泥1リットルを採取し、重力濃縮により汚泥固形分の濃度が5倍になるように濃縮し、得られた濃縮汚泥にポリ硫酸第2鉄を2500mg/lになるように添加した。得られた混合物100mlと、個別的下水処理施設内の汚泥消化槽から採取した汚泥100mlとを混合し、試料(b)を得た。また、同じ個別的下水処理施設において汚泥濃縮槽に投入する直前の沈殿汚泥1リットルを採取し、重力濃縮により汚泥固形分の濃度が5倍になるように濃縮し、得れらた濃縮汚泥100mlと、個別的下水処理施設内の汚泥消化槽から採取した汚泥100mlとを混合し、試料(c)を得た。得られた試料(a)、(b)、及び(c)200mlを、別々に、500mlの三角フラスコに入れ、35℃の恒温槽で24時間消化した。消化前及び消化後の汚泥組成、消化中に発生する硫化水素濃度、並びに消化率を表2に示す。」(【0039】)
(甲18-イ)【表2】(【0040】)には「消化前汚泥組成」の「試料(c)」の「SO42-」の濃度が「16mg/L」と記載されている。
(19)甲第19号証:薬品添加による濃縮槽の硫化物の制御、片岡春雄、吉本国春、下水道協会誌、Vol.32、No.382、1995/3(平成7年3月)、42~48頁、120頁
(甲19-ア)「調査対象とした濃縮槽の投入汚泥、濃縮汚泥および分離液の性状」と題された「表-2」(44頁)には「濃縮汚泥」の「SO42-」の濃度が「5.0mg/L」と記載されている。
(20)甲第20号証:下水試験方法 上巻 -1997年版-、福井経一、社団法人日本下水道協会、206~211頁、奥付、平成9年9月12日 第2刷
(21)甲第21号証:下水管路内沈殿物の分解における硫酸塩還元細菌の役割、古賀みな子、森 忠洋、水環境学会誌2月号、vol.15、No.2(1992)、121~125頁(47~51頁)
(22)甲第22号証:本件拒絶査定不服審判(不服2004-9241)審判請求書請求理由補充の手続補正書
(23)甲第23号証:本件出願時明細書
甲第23号証は「口頭審理陳述要領書(請求人)」の「7.証拠方法」の記載で「特願平11-004475号(本件)の出願時明細書」として同要領書に添付されたものであるが、実際に添付されていたのは特願2003-290525号(無効2009-800164)の平成19年2月6日付け意見書に添付された特願平11-004475号(本件)の出願時(平成11年1月11日)明細書であり、上申書(平成22年5月18日付け)41頁「口頭陳述要領書の補正」で上記意見書部分が削除されて、甲第23号証は、特願平11-004475号(本件)の出願時(平成11年1月11日)明細書であることが確認された。
(24)甲第24号証:特開2000-95628号公報
この公報は本件特許出願前に頒布されたものではない。
(25)甲第25号証:特開平9-227317号公報
(甲25-ア)「[塩素系殺菌剤]塩素系殺菌剤としては、この分野で使用されている塩素系殺菌剤は何れも使用可能であり、例えば塩素化イソシアヌル酸、次亜塩素酸塩、さらし粉、安定化二酸化塩素、または1-ブロム-3クロロ-5,5-ジメチルヒダントインを挙げることができるが、勿論これに限定されない。」(【0041】)
(26)甲第26号証:特開平10-30091号公報
(甲26-ア)「二酸化塩素(ClO2)は、下記の式で表される反応により、非常に酸化力の強い、すなわち殺菌性の強い原子状の酸素を発生する。ClO2 → ClO + O用途・・・」(【0010】)
(甲26-イ)「希釈された二酸化塩素は・・・微生物及び微小動物に対する殺菌・殺虫作用はきわめて強く、二酸化塩素5mg/Lの濃度の水溶液に懸濁した直接接触では、バチルス、大腸菌、ビブリオ等を100万分の1以下に減少させる殺菌力を有するとともに・・・殺虫作用を有している。・・・」(【0011】)
(27)甲第27号証:水道とトリハロメタン、丹保憲仁 編著、技報堂出版株式会社、1984年9月15日発行、204~215頁
(甲27-ア)「ClO2は強力で有効な漂白剤および水処理剤として広く利用されている。」(208頁15行)
(甲27-イ)「ClO2 の細菌、ウイルス、胞子等に対する殺滅力の強さについてはきわめて多くの報告がある。総括していえば、ClO2 は塩素処理に十分代替できる効力をもち、ウイルス、胞子に対してすぐれた効果を発揮する。殺菌作用についても、クロラミン形成に伴う効力の低下、pHによる効力の大きな変動がないことは同様である。」(209頁4~8行)
(28)甲第28号証:特開平10-85785号公報
(甲28-ア)「【従来の技術】従来、下水管路や下水処理場、総合排水処理工程、活性炭塔を利用した排水処理工程などにおいては、排水中から、しばしば硫化水素が発生する。硫化水素は毒性が強く、かつ悪臭を有し、環境汚染をもたらす上、金属を腐食する。この硫化水素の発生は、排水中などに生息している硫酸還元菌の作用によるものである。この硫酸還元菌は硫酸塩還元細菌とも呼ばれ、嫌気性のグラム陰性菌の一種であって、嫌気的条件下で硫酸塩を還元して硫化水素を発生する。」(1欄22~30行)
(甲28-イ)「従来、硫酸還元菌による硫化水素の発生を防止する方法としては、例えば殺菌剤を添加する方法、酸化剤を添加又は空気を吹込む方法、加熱殺菌する方法、pH調整を行う方法などが知られている。しかしながら、殺菌剤を添加する方法においては、殺菌剤は一般に高価であり、また塩素は安価であるが、毒性を有し、かつ金属の腐食をもたらすため、好ましくない。過酸化水素などの酸化剤を添加する方法や空気を吹込む方法は有効な手段であるが、硫酸還元菌の増殖の程度によっては適用できないことがある。」(2欄9~19行)
(甲28-ウ)「硫酸還元菌による硫化水素の発生を防止する方法として、硝酸塩を添加し、共生する脱窒菌が活動できる環境にすることにより、硫酸還元菌の活動を抑制する方法が提案されている。脱窒菌は脱窒細菌とも呼ばれ、嫌気的条件下で、硝酸イオンや亜硝酸イオンを還元し、ガス状窒素にして放出する細菌である。この脱窒菌による脱窒の経路は次のように考えられている[「生物化学辞典第2版」1991年、東京化学同人発行]。
【化2】
硝酸イオンはまず亜硝酸イオンに還元されたのち、酸化窒素、亜酸化窒素を経由して、ガス状窒素に還元される。この脱窒菌の脱窒活性は、酸素、pH、温度などの環境要因に左右され、最適水温は37~39℃程度、最適pHは7.0~7.5程度である。しかしながら、硫化水素の発生を防止するために硝酸塩を添加した場合、硝酸イオンが被処理水中に残留している間は、脱窒菌が活動できる環境となり、硫酸還元菌の活動を抑制できるが、脱窒により硝酸イオンがなくなると硫酸還元菌の活動により硫化水素が発生する。この際、被処理水の環境要因が脱窒菌の脱窒活性の発現に適していれば、脱窒による硝酸イオンの消費が速く、硫化水素の発生を防止する効果が持続せず、硝酸塩の添加量を多くする必要があるという問題が生じる。また、上記の硝酸塩の添加の代わりに、被処理水中に亜硝酸イオンを存在させる方法が提案されている(特公平1-60319号公報 (当審注:甲第2号証である)。しかしながら、この方法も、原理は上記硝酸塩の場合と同様であり、同じような問題を有している。」(2欄20行~3欄10行)
(29)甲第29号証:生化学辞典(第2版)、今堀和友、山川民夫監修、(株)東京化学同人、1992年(平成4年)12月1日
(甲29-ア)「脱窒細菌[denitrifying bacteria] 脱窒菌ともいう。硝酸や亜硝酸を還元してガス状窒素にして放出する細菌。脱窒細菌は、嫌気的条件で最終電子受容体として酸素の代わりに硝酸を用いるいわゆる硝酸呼吸または異化的硝酸還元を行うもので、Pseudomonas denitrificans、Paracoccus denitrificans、Alcaligenes faecalisなどの細菌に多く見られる。脱窒の経路は、
のように考えられている。・・・」(794頁「脱窒細菌」の項)
(甲29-イ)「脱窒素作用[denitrification] 脱窒ともいう。硝酸や亜硝酸が脱窒細菌により還元されて、窒素ガスなどのガス状窒素となり放出されること。脱窒細菌は、嫌気的条件下で硝酸などを酸素の代わりに最終電子受容体として用いるもので、硝酸呼吸または異化的硝酸還元の一種である。脱窒の経路については脱窒細菌の項参照。・・・」(794頁「脱窒素作用」の項)
(甲29-ウ)「亜硝酸塩[nitrite] M1NO2あるいはM1ONOで表され、窒素の酸化数は+IIIである。一般に水に溶けやすいが、銀塩は難溶である。亜硝酸塩の水溶液はアルカリ性を呈する。また、亜硝酸塩は酸化剤としても還元剤としても作用する。亜硝酸レダクターゼとして亜硝酸塩をヒドロキシアミンあるいは一酸化窒素まで還元する2種の酵素が、また、アンモニアを亜硝酸まで好気的に酸化しうる土壌細菌、海洋細菌などの亜硝酸細菌の存在が知られている。」(13頁「亜硝酸塩」の項)
(30)甲第30号証:「防菌防黴ハンドブック」、日本防菌防黴学会編、技報堂出版株式会社、1986年5月25日、6頁、7頁、188頁、189頁、1122~1141頁
(甲30-ア)「亜硝酸塩の抗細菌作用」と題された「表2.59」(189頁)には、各種の微生物に対して亜硝酸塩を添加したときの最小発育阻止濃度[ppm]が嫌気的条件と好気的条件に分けて次のように記載されている。
(31)甲第31号証:化学工学便覧 改訂五版、丸善、昭和63年3月8日、889~890頁
(32)甲第32号証:化学大辞典1 縮刷版、共立出版、1993年6月1日、78頁、80頁
(33)甲第33号証:化学大辞典5 縮刷版、共立出版、1993年6月1日、946頁
(34)甲第34号証:注解 消防関係法規集 2007年新版(19.6.1現在)、近代消防社、平成19年6月15日、51頁、69頁、197頁、198頁、801頁、802頁、806頁、952~954頁
この刊行物は本件特許出願前に頒布されたものではない。
(35)甲第35号証:現行法規総覧、衆議院法制局及び参議院法制局編集、第一法規、第八編 警察・消防(2)第二章 消防 消防法、4712~4713頁、4720~4721頁
この刊行物は本件特許出願前に頒布されたものか明らかでない。
(36)甲第36号証:平成11年度版 下水道統計 行政編 (平成11年4月1日~平成12年3月31日) 第56号の1、社団法人日本下水道協会、平成13年3月30日、1102~1103頁
この刊行物は本件特許出願前に頒布されたものではない。
(37)甲第37号証:特開昭56-038196号公報
(38)参考資料 1:地域ではぐくむ水環境 三河島水再生センター、東京都下水道局HP、H22年4月5日印刷、1/5~5/5頁、1/1頁
<URL:http://www.gesui.metro.tokyo.jp/odekake/syorijyo/03_02.htm>
(39)参考資料 2:下水がきれいになるまで(その<3>)(当審注.○囲い数字は<>で表記した。以下同様である。)、秦野市HP、H22年4月3日印刷、1/3~3/3頁
<URL:http://navi.city.hadano.kanagawa.jp/gesuidoubu/odeis.htm >
(40)参考資料 3:大野市の下水処理場、大野市役所HP、処理工程の説明、H22年4月3日印刷、9/10頁、1/1頁
<URL:http://www.city.omachi.nagano.jp/ctg/00017129/00017129.html>
(41)参考資料 4:下水道終末処理場のしくみ、伊達市HP、伊達終末処理場【標準活性汚泥法】、H22年4月3日印刷、1/3~3/3頁
<URL:http://www.city.date.hokkaido.jp/suidou/gesuido/n96bin000000bvje.html>
(42)参考資料 5:笠岡終末処理場、笠岡市HP、H22年4月3日印刷、1/3~3/3頁
<URL:http://www.city.kasaoka.okayama.jp/001b/000o.html>
(43)参考資料 6:下水道のしくみ、愛知県HP、H22年4月3日印刷、1/4~4/4頁
<URL:http://www.pref.aichi.jp/0000020229.html>
(44)参考資料 7:下水処理と汚泥処理の方法、浜松市HP、H22年4月3日印刷、1/3~3/3頁
<URL:http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/lifeindex/life/gesui/siset/joukanosikumi.html>
(45)参考資料 8:北見市の下水処理場 端野処理区、北見市HP、H22年4月3日印刷、1/4~4/4頁、1/1頁
<URL:http://www.city.kitami.lg.jp/kitkigyo/150-8/150-8.htm>
(参8-ア)「端野処理区の下水道は、特定環境保全公共下水道として平成4年に着手し、平成7年に供用を開始しました。」(1/4頁)
(参8-イ)「オキシデーションディッチ
オキシデーションデイッチ法は、活性汚泥法のひとつで、当施設ではスクリーンで下水中の大きなゴミや土砂類を除いた後、ポンプでオキシデーションデイッチへ流入させて活性汚泥(好気性微生物を多量に含んだ泥)と混合し、エアレーション(機械ばっ気)しています。微生物は溶けた酸素で呼吸し、下水中の有機物を吸収分解しながら増殖し沈みやすくなります。
最終沈殿池室
最終沈殿池で活性汚泥を静置させておくと、微生物を多量に含んだ活性汚泥は沈み、上澄液はきれいになります。沈殿した活性汚泥は再び反応タンクに戻し、余った活性汚泥(余剰汚泥)は濃縮タンクへ送ります。
・・・
汚泥脱水機室
濃縮された余剰汚泥は汚泥貯留槽に溜めた後、遠心脱水機により水分を下げて場外へ搬出します。」(1/4頁)
(46)参考資料 9:汚泥処理施設、千葉市HP、H22年4月8日印刷、1/2~2/2頁、1/1頁
<URL:http://www.city.chiba.jp/kensetsu/gesuidoukanri/nambujoka/odeisyorisetubi.html>
(47)参考資料10:硫化水素問題解決 硫化水素対策 硫化水素除去作業、川崎化成工業株式会社HP、H22年4月3日印刷、1/3~2/3頁
<URL:http://www.kk-chem.com/j/html/sc/2 4.html>
(48)参考資料11:消臭剤仕様書、(財)福島県下水道公社県中浄化センター、資料の頒布日不明、「1 品名」~「4 購入予定数量」が記載された頁(以下、「1頁」という。)、「5 納入場所」~「8 品質保証、事故等の対応」が記載された頁(以下、「2頁」という。)、「別図」、「別紙」
(当審注.例えば、参考資料11には「1 品名 消臭剤(添加用)溶融炉停止時」、「4 購入予定数量 (1)年間購入予定数量 16,900リットル」とあり、参考資料gには「1 品名 消臭剤(添加用)」、「4 購入予定数量 (1)年間購入予定数量 20,000リットル」とあり、それぞれ対応する箇所で記載内容が相違することから、参考資料11と参考資料gとは資料名は同じであるものの別々の資料であると認める。
当審注2.参考資料11は証拠の入手先(インターネット等)が不明で、仮にインターネットで入手されたものとしても頒布日も不明である。)
6-2.乙各号証の記載
(1)乙第1号証:臭気の嗅覚測定法 三点比較式臭袋法測定マニュアル、岩崎好陽、社団法人 臭気対策研究協会、1997年5月30日第1版第1刷発行、1999年4月1日第1版第2刷発行、目次、16~19頁
(2)乙第2号証:技術開発部報告書91-006 下水道施設における生物脱臭技術の開発に関する調査 -平成3年度調査-、平成4年3月、建設省都市局下水道部 日本下水道事業団、目次、1~6頁
(3)乙第2の2号証:乙第2号証の「図3-1」~「図3-9」、「表3-2」~「表3-9」(第7~18頁)
(4)乙第3号証:特願平10-292172号出願時明細書(甲第1号証の優先権主張の基礎出願)
乙第3号証を優先権主張の基礎出願とする甲第1号証(特開2000-185290号公報(特願平11-292269号明細書として提示されたもの))の摘示事項(甲1-ア)~(甲1-カ)と同じ内容が記載されている。これらの摘示事項(甲1-ア)~(甲1-カ)の内容の記載をそれぞれ摘示事項(乙3-ア)~(乙3-カ)という。(「5-1.甲各号証の記載(1)甲第1号証」を参照)
(5)乙第4号証:下水道施設設計指針と解説-1984年版-、社団法人日本下水道協会、建設省都市局下水道部監修、430~431頁
(乙4-ア)「§254 汚泥貯留タンク
汚泥貯留タンクは、その機能に応じた容量とし、必要に応じて付帯設備を設ける。
【解説】
汚泥貯留タンクは、最初沈殿池、重力式汚泥濃縮タンクなどのように、汚泥が断続的に引き抜かれ、この汚泥を後続の処理過程に連続的に投入する必要があるなどの各施設間に貯留又は中継する場合、汚泥輸送等のように前後の運転時間を調整するために一定容量の汚泥を貯留する必要がある場合等に設置する。
又、汚泥脱水設備を昼間だけ運転したり、小規模施設等で発生した汚泥をためておいて一時的に輸送したりする場合のように、比較的長時間貯留する必要があっても設置するものもある。」(430頁下から2行~431頁7行)
(6)乙第5号証:既存処理場のりん対策に関する共同研究 平成13年度研究調査報告書、東京都下水道サービス株式会社 栗田工業株式会社 巴工業株式会社、平成14年3月31日
(乙5-ア)11頁より後に添付された分析データには、各下水処理場における汚泥の処理状態毎に「SO42-(mg/L)」と「pH」の計測値が次のように記載されている。
○「砂町水処理センター/東部スラッジプラント汚泥・分離水等分析 H14.3.5(火)」(砂汚泥分析(2))
・「D 同重力濃縮」の場合 「SO42-(mg/L)」は「10>」、「pH」は「5.49」
・「G 同重力濃縮」の場合 「SO42-(mg/L)」は「10>」、「pH」は「5.98」
○「森ヶ崎/南部スラッジプラント汚泥・分離水等分析 H13.10.30」(森ヶ崎分析)
・「H 重力濃縮汚泥」の場合「SO42-(mg/L)」は「10>」、「pH」は「5.03」
○「森ヶ崎/南部スラッジプラント汚泥・分離水等分析 H14.2.5」(森ヶ崎分析(2))
・「O 重力濃縮汚泥」の場合「SO42-(mg/L)」のデータ無し、「pH」は「5.83」
○「小菅/葛西汚泥・分離水等分析 H13.11.6」(葛西汚泥分析)
・「G 重力濃縮汚泥」の場合「SO42-(mg/L)」は「6(mg/L)」、「pH」は「5.55」
○「小菅/葛西汚泥・分離水等分析 H14.2.19」(葛西汚泥分析(2))
・「G 重力濃縮汚泥」の場合「SO42-(mg/L)」は「10>」、「pH」は「5.09」
(7)乙第6号証:「汚泥および脱水ケーキに対する亜硝酸塩の消臭メカニズムの考察」、栗田工業株式会社 ケミカル事業本部第一部門 技術サービス二部 技術サービス一課 麦林裕弘、平成22年4月13日(被請求人作成の資料)、1~21頁
(乙6-ア)「4.2 汚泥に対する消臭効果
1)既存臭気に対する酸化分解(汚泥貯留槽など汚泥添加時の効果)
【酸化作用】(推定)
2NO2-+汚泥(微生物)+H2S →S+2H2O+2OH-+N2↑
2NO2-+汚泥(微生物)+H2S →S+2H2O+2NO
2NO2-+汚泥(微生物)+CH3SH→S+HCOOH+2H2O+OH-+N2↑
<<補足>>
・汚泥中の硫化水素(H2S)やメチルメルカプタン(CH3SH)を酸化
・ただし酸素供与微生物による反応(脱窒反応)が必要と推察され、
反応まで時間を要すると考えられる。
・上記反応の過程ではNOを生成もしくは経由すると考えられる。
・脱窒反応:NO3→NO2→N2(有機物を電子供与体とする)
----------------------------------
・亜硝酸イオンと硫化物イオン同士では酸化反応が起こらないことから、汚泥添加時に微生物反応を経由する必要があると推察
・汚泥によっても反応時間が極端に異なる(例えば生汚泥だけでは、混合生汚泥より効果発現まで時間を要する)ことから、汚泥中の微生物環境に影響を受けると推察される
・そのため添加してから効果発現するまで、滞留時間を設けることが非常に重要なファクターとなる
・亜硝酸イオンを汚泥に添加すると一酸化窒素を検出するため、酸化分解の過程で副生成物としてNOが発生すると考えられる」(6頁)
(8)乙第7号証:下水処理場におけるコンクリートの劣化に関する調査研究、土木学会論文集、第403号/VI-10、1989年3月、中本 至・谷戸善彦、111-120頁
(乙7-ア)「B処理場は、生活排水のみが流入している。」(112頁右欄1行)
(乙7-イ)「処理水の性状 採取した下水の分析結果を表-5に示す。流入下水の無機成分に顕著な差が現れているのは、SO42-・・・である。A処理場、C処理場では温泉水の混入の影響で、これらのイオン濃度が1桁高い値になっているのに対し、B処理場では通常の都市下水を処理する終末処理場の平均的な値となっている。」(114頁左欄8~14行)
(乙7-ウ)「下水処理場に流入する下水の水質調査結果」(114頁左欄下段)と題された「表-5」には、「B下水処理場」の「最初沈殿池入口」における「SO42-」は「42mg/l」であることが記載されている。
(乙7-エ)「硫化水素発生のもととなる流入下水中のSO42-量は、図-2の分析結果に示すように、C処理場>A処理場>B処理場の順で多い。」(114頁14~16行)
(乙7-オ)「各処理工程における汚泥性状の変化(2)(SO42-)」(115頁 左欄上段)と題された「図-2」には、「B処理場」の「濃縮槽内汚泥」「貯留槽内汚泥」の「SO42- mg/l」が略ゼロ程度であることが記載されている。
(9)乙第8号証:「食品の殺菌-その科学と技術-」、高野光男、横山理雄、株式会社幸書房発行、1998年6月25日初版第1刷発行、2003年10月25日初版第3刷発行一部改訂、目次、280~283頁
(乙8-ア)「1)各種原料に生育する微生物
スライス用ソーセージは、主原料として豚肉が使われ、副原料としてはデンプン、大豆タンパクなどが使用される。
と殺後、0~2℃の冷蔵庫に2日間保管した原料豚肉の細菌数は、ロースハムの原料部位であるシモロースの生菌数で1g当り4.0×106と多く、乳酸菌は5.0×103、大腸菌群数は5.9×104であった。この原料豚肉は乳酸菌や大腸菌群が多いが、これらは、スモーク、クッキング工程において完全に死滅し、耐熱性有胞子細菌のBacillusなどのみが生き残る可能性がある。
また、凍結された豚原料肉を使用したハム・ソーセージの原料および製品の細菌数を表11.19に示した。豚原料肉凍結品では、生菌数3.2×105、乳酸菌数7.4×102、大腸菌群数3.1×102であったものが、解凍後、処理後の細菌数は徐々にではあるが増大する傾向にあり、塩漬直後は、生菌数5.2×106、乳酸菌数8.0×104、大腸菌数1.8×104となった。塩漬24時間後の豚肉でロースハムを作った場合、スモークとクッキング工程を経ることによって、生菌数1.2×103、乳酸菌数5.2×102と減少し、大腸菌群数は10以下と激減した。」(282頁2~22行)
(乙8-イ)「ハム・ソーセージの原料および製品の細菌数(1g中)」と題された「表11.19」(282頁)には次の記載がある。
(乙8-ウ)「3)ハム製造工程での微生物
(1)塩漬(curing)
塩漬には、肉塊をピックル液の中に漬け込む湿塩漬法と肉塊に塩漬剤をすり込む乾塩漬法とがある。また、最近では、漬け込み時間を短縮する目的で、肉塊にピックル液を注射する方法が採られている。
塩漬剤には、食塩、硝酸塩、亜硝酸塩、ショ糖、ブドウ糖などが用いられ、その他アスコルビン酸、乳酸、リン酸塩なども加えられている。塩漬は普通、低温(2~5℃)で7~10日間行われ、その間の微生物の働きによって、肉色素の固定、風味の向上、保存性の向上などが行われる。
調整した塩漬液の微生物叢としてMicrococcus、Vibrio、Streptococcus、Achromobacter、Spirillum、Alcaligenesなど49種が検出されており、これらの菌叢が塩漬の進行に伴って変化し、熟成に伴いLactobacillus、Leuconostoc、Streptococcusなどの乳酸菌群が主体になることが報告されている。
生鮮肉本来の色は、ミオグロビン(Mb)とヘモグロビン(Hb)であり、硝酸塩が存在しない場合には、加熱によりMb中のヘムが酸化されてヘマチンになり、生鮮肉は褐色を呈する。硝酸塩が存在する場合、微生物の働きにより硝酸塩は亜硝酸になり、亜硝酸塩は微生物の産生する乳酸と反応して亜硝酸(NO2)を遊離する。この亜硝酸は酸化窒素(NO)になり、Mbと結合して鮮赤色のNO-Mb(ニトロ」(283頁下から17行~末行)
*当審注:「鮮赤色のNO-Mb(ニトロ」は、「鮮赤色のNO-Mb(ニトロソミオグロビン」のことである。
(10)乙第9号証:下水汚泥の処理・処分-トータルシステムの確立をめざして-、岡田和男編著、環境公害新聞社、昭和58年6月15日、目次、45~58頁
(乙9-ア)「各種汚泥の比重は、表3.7に示すように、固形物濃度や汚泥有機分比によって変化するが、約1.002~1.04程度である。」(52頁下から5~4行)
(乙9-イ)「下水中には、ふん便からの腸内細菌や土壌等の自然界に由来した細菌が存在している。・・・これらの細菌は固形質に付着しやすい性質があるため、最初沈殿池ではSSと共に沈殿し、生汚泥や混合汚泥に濃縮される。」(56頁下から7行~末行)
(乙9-ウ)「活性汚泥混合液中の細菌数は107から108個/ml、余剰汚泥中の細菌数は108~109個/ml程度である。」(57頁下から8~7行)
(11)乙第10号証:食品微生物制御の化学、松田敏生、株式会社幸書房発行、1998年2月25日、168~189頁(甲第6号証と同一文献だが甲第6号証は168~173頁を引用している)
(乙10-ア)「5.6 亜硝酸ナトリウムのClostridium以外の微生物に対する作用
(1)Salmonellaに対する作用
先に抗菌作用の概要で述べたように、亜硝酸ナトリウムはSalmonellaに対しては作用は弱い。Tompkinは多くの実験報告を引用して、亜硝酸ナトリウムの作用を紹介している。・・・
しかし、Leistnerらが幾つかのSalmonellaの混合物を接種し、8℃で22日間保存する実験を行った結果では、添加した亜硝酸ナトリウムのレベル(0,50,75および100μg/g)と接種した菌量(100あるいは100,000)によってその作用は変化し、この傾向は腸管病原性大腸菌、Enterobacterの混合物、KlebsiellaあるいはHafhiaでも同じであった(1973)。そして乳酸発酵ソーセージで、亜硝酸ナトリウムレベルを0,65,98,130μg/gに変化させ、Salmonella菌の接種量も100と100,000に変化させると、3日後に菌接種量が低く、亜硝酸ナトリウム130μg/gの添加品でSalmonella菌の死滅が起こったという。」(183頁16行~184頁4行)
(12)乙第11号証 :The effect of pH,water activity,sodium nitrite and storage temperature on the growth of enteropathogenic Escherichia coli and salmonellae in a laboratory medium、Angela M.Gibson and T.A.Roberts,International Journal of Food Microbiology、3(1986)p183~p194、Elsevier
(乙11-ア)「Material and Methods Bacterial strains The following strains were used:Enteropathogenic E.coli,0114.H49;0148.H28;0127.H4;0124.H-;026.H?;0119.H4;0128.H12;027.H7;0125.H6;0111.H27;all supplied by B.Rowe・・・.」(184頁下から4行~185頁1行)
(当審訳:材料と方法 細菌株 腸管病原性大腸菌である次の細菌株を使用した;0114.H49;0148.H28;0127.H4;0124.H-;026.H?;0119.H4;0128.H12;027.H7;0125.H6;0111.H27;全ての菌はB.Roweによって提供された。)
(乙11-イ)「Media Brain Heart Infusion(BHI)Broth(Difco)was prepared according to the manufacturer’s instructions with the addition of the calculated concentration of NaCl(0,1,2,4,6,8,10%、w/v)and adjusted to pH5.6,6.2 or 6.8±0.1 .」(185頁8~11行)
(当審訳:培養基 BHI培地(Difco社)を取扱説明書に従って準備し、加えて、NaClを添加してその濃度を計算して0,1,2,4,6,8,10%、w/vとなるようにして、また、pHを5.6,6.2 or 6.8±0.1に調整した。)
(乙11-ウ)「Experimental plan All combinations of the following conditions were tested with three replicates per treatment combiation:
pH 5.6,6.2,6.8
NaCl(%,w/v,on water) 0,1,2,4,6,8,10
NaNO2(μg/mL) 0,50,100,200,400
Incubation temperature(℃)10,15,17.5,20,25,30,35
Stored 10weeks」(186頁3~10行)
(当審訳:実験計画 以下の条件の全ての組み合わせを、一つの組み合わせについて3回ずつ実験した。
pH 5.6,6.2,6.8
NaCl(%,w/v,水に対して)0,1,2,4,6,8,10
NaNO2 (μg/mL) 0,50,100,200,400
培養温度(℃) 10,15,17.5,20,25,30,35
培養期間 10週間」)
(乙11-エ)「TABLE II The effect of sodium chloride,sodium nitrite and incubation temperature on the growth of 10 mixed strains of E.coli
104 cells/bottle in Brain Heart Infusion broth at pH5.6,pH6.2,pH6.8」(189頁5~7行)
a The numbers in the table refer to the time (in weeks)at which growth (visible turbidity)was first observed.
b -=No visible growth after 10weeks incubation
(当審訳:表II 食塩、亜硝酸ナトリウム、培養温度のE.coliの10種混合104cells/bottle BHI培地でのpH5.6,pH6.2,pH6.8の場合の影響
a 表中の数値は、成長(視認できる濁り)がはじめて観察されるまでの時間(週数)
b 10週間の培養を経ても成長は視認されなかった )
(13)乙第12号証:特開平10-202273号公報
(14)乙第13号証:特開平9-70504号公報
(15)乙第14号証:特開平8-33899号公報
(16)乙第15号証:特開平10-314757号公報
(17)乙第16号証:特開平10-15575号公報
(18)乙第17号証:特開平10-216409号公報
(19)乙第18号証:特開2001-340895号公報
この公報は本件特許出願前に頒布されたものではない。
(20)参考資料 a :兵庫県/下水道のしくみ・下水処理場、更新日2006年9月1日、H22年5月26日印刷、page 1 of 2~page 2 of 2
<URL:http://web.pref.hyogo.jp/wd18/wd18_000000044.html>
(21)参考資料 b :兵庫県/下水道について学ぶ、更新日2006年9月11日、H22年5月27日印刷、page 1 of 2~page 2 of 2、「ひょうごの下水道 2009(平成21年)度版」と題された図、当該図の一部拡大図
<URL:http://web.pref.hyogo.jp/wd18/wd18_000000053.html>
(22)参考資料 c :旭市浄化センターについて、H22年5月27日印刷、page 1 of 5~page 5 of 5
<URL:http://www.city.asahi.lg.jp/benrichou/c007 03 009.html>
(23)参考資料 d :泉大津市-汐見下水処理場、H22年5月27日印刷、page 1 of 2~page 2 of 2
<URL:http://www.city.izumiotsu.osaka.jp/gesuiseibi/siomi.html>
(参d-ア)「汐見下水処理場は・・・昭和54年4月より全体計画を終了し、現在に至ります。」(page 1 of 2 1~4行)
(参d-イ)「処理フロー」と題された図(page 1 of 2)には、「最初沈でん池」からの汚泥、「最終沈でん池」からの「最初沈でん池」を介する返送汚泥が、「汚泥調整タンク」へ搬送され、「汚泥調整タンク」からの汚泥が「広域汚泥処理場」へ搬送されることがみてとれる。
(参d-ウ)「最初沈殿池 この池では、比較的沈でんしやすい泥を池の底に沈めます。
最終沈でん池 この池では、沈でんしやすいかたまりになった微生物と水を分離させます。そして、うわずみ水は、塩素混和池に送ります。
汚泥調整タンク 広域汚泥処理場へ汚泥を送るための調整タンクです。」(page 1 of 2~page 2 of 2)
(24)参考資料e:「加瀬水処理センター」、資料の頒布日不明、表紙(以下、「1頁」という。)、「加瀬水処理センター全景」の写真の掲載された頁(以下、「2頁」という。)、「加瀬ふれあいの広場」の写真の掲載された頁(以下、「3頁」という。)、「あらまし」の掲載された頁(以下、「4頁」という。)、「スクリーン」の写真の掲載された頁(以下、「5頁」という。)、「反応タンク」の写真の掲載された頁(以下、「6頁」という。)、「施設概要」の掲載された頁(以下、「7頁」という。)、「加瀬処理区域図」の掲載された頁(以下、「8頁」という。)
<URL:http://www.city.kawasaki.jp/80/80keiei/home/gesui panhu/kase.pdf>
(参e-ア)「◆あらまし 加瀬水処理センターは・・・平成10年度からは全施設が稼働しました。」(4頁1~7行)
(参e-イ)「下水処理系統図 南系」と題された図(5頁)には、「生汚泥」「余剰汚泥」を含む4経路からの汚泥が「汚泥貯留タンク」へ搬送され、さらに「汚泥貯留タンク」から「入江崎総合スラッジセンター」へ搬送されることがみてとれる。
(25)参考資料 f :「垂井町 施設ガイド 垂井町浄化センター」、H22年5月27日印刷、page 1 of 4~page 3 of 4、page 1 of 1、「垂井町浄化センター「下水道のしくみ」の「汚泥貯留槽」および「造粒調質装置」の説明」と題された頁、page 4 of 4
<URL:http://www.ginet.or.jp/tarui/sisetu/s02-1.html>
(26)参考資料 g :消臭剤仕様書、(財)福島県下水道公社 県北浄化センター」、資料の頒布日不明、「1 品名」~「4 購入予定数量」が記載された頁(以下、「1頁」という。)、「5 納入場所」~「8 品質保証、事故等の対応」が記載された頁、「別図」、「別紙」
<URL:http://www.fspc.or.jp/nyusatsu/koukoku/buppin/03/02shote.pdf>
(当審注.例えば、参考資料11には「1 品名 消臭剤(添加用)溶融炉停止時」、「4 購入予定数量 (1)年間購入予定数量 16,900リットル」とあり、参考資料gには「1 品名 消臭剤(添加用)」、「4 購入予定数量 (1)年間購入予定数量 20,000リットル」とあり、それぞれ対応する箇所で記載内容が相違することから、参考資料11と参考資料gとは資料名は同じであるものの別々の資料であると認める。
(27)参考資料 h :神戸市鈴蘭台処理場 維持管理業務包括的委託 要求水準書 神戸市建設局、資料の頒布日、表紙、目次、1-9頁、鈴蘭台処理場平面図、鈴蘭台処理場の施設での流入汚水のフローチャート、以下「鈴蘭台処理場」の各施設設備についての目録等22枚添付
<URL:http://www.city.kobe.lg.jp/life/town/waterworks/sewage/img/suijyun-s.pdf >
(28)参考資料 i :水がきれいになるまで/高崎市、H22年5月27日印刷、page 1 of 3 ~page 3 of 3
<URL:http://www.city.takasaki.gunma.jp/soshiki/gs-shisetsu/flow/flow.htm>
7.当審の判断
7-1.無効理由1(特許法第36条第6項第1号)について
7-1-1.訂正請求項1について
請求人は、本件無効審判請求書(18~19頁)において概ね次のように主張しているものと認められる。
訂正請求項1の「亜硝酸塩」について本件明細書中には「亜硝酸ナトリウム」の実験例のみで他の亜硝酸塩について効果があるかについて記載がなく、例えば甲第6号証172頁6~9行には「亜硝酸は特定の微生物にはほとんど抗菌作用がないか、あるいは非常に弱い活性しか示さないが、ボツリヌス菌などのClostridium属の細菌には、非常に強い阻止作用を示し、またStaphylococcus aureus では、亜硝酸ナトリウムを嫌気的条件にすると、強い抗菌作用を示すことが報告されている」と記載されるように、亜硝酸塩の微生物の活動抑制作用に特異性があるから、「亜硝酸ナトリウム」を「亜硝酸塩」に拡張できるか定かでなく、この点で訂正請求項1の記載は特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
そこで、訂正請求項1の「亜硝酸塩」を添加することについて、訂正明細書をみてみると、訂正明細書の【0005】に「亜硝酸塩に特に制限はなく、例えば、亜硝酸アンモニウム、亜硝酸ナトリウム、・・・などを挙げることができる。これらの亜硝酸塩は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中で、亜硝酸ナトリウム及び亜硝酸カリウムは、脱水ケーキの二次使用を行う場合にも利用先での悪影響がなく、特に好適に用いることができる。」と記載され、【第1表】(【0013】)には「亜硝酸ナトリウム」を用いた実施例が記載されており、「亜硝酸ナトリウム」以外の「亜硝酸塩」の実施例について記載されていない。
しかしながら、抗菌作用及び脱臭作用として、亜硝酸塩の亜硝酸根、すなわち亜硝酸イオンが有効であることは、甲第2号証の摘示事項(甲2-ア)、(甲2-エ)、(甲2-オ)に、亜硝酸イオンを添加することで微生物に基づく硫化水素の発生を防止できる旨が記載されていることをみても明らかであるから、亜硝酸ナトリウム以外の亜硝酸塩でも亜硝酸ナトリウムと同様の効果を奏することが推認される。
そして、請求人が主張する甲第6号証の上記記載は、すべての微生物に対して亜硝酸塩の抗菌作用があるとはいえないにしても、当該記載中の「特定の微生物」が何であるのか不明なので、その「特定の微生物」が硫化水素やメチルメルカプタンの発生に関与している細菌であるともいえないことから、特定の細菌に対して抗菌効果がある亜硝酸塩の作用について、甲第6号証の上記記載が、上記した抗菌作用及び脱臭作用として亜硝酸イオンが有効であることを否定する根拠にならないことは明らかであるので、この主張は採用できない。
以上のことから、訂正請求項1の記載に関して、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。
7-1-2.訂正請求項3について
請求人は、本件無効審判請求書(19~20頁)において概ね次のように主張しているものと認められる。
訂正前請求項3には「亜硝酸塩の添加量が混合生汚泥スラリーに対して25~1000mg/リットルである」とあるが、本件明細書中には100、300、500mg/リットルの例が記載されているのみであり、100mg/リットル未満、500mg/リットル超の添加量に対するデータはないから、下限値25mg/リットル、上限値1000mg/リットルの技術的意味と当該特定の詳細な説明の記載における根拠が明らかでないので、訂正前請求項3の記載は特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
そして、上記「2.訂正請求について」で述べられたように、上記訂正請求項3は、訂正前請求項3を減縮して記載表現を変えたものにすぎないと当審は判断したため、訂正前請求項3と同様に、訂正請求項3の記載は特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない、と請求人は主張しているものと解される。
そこで、訂正請求項3の「脱水ケーキからの前記臭気を脱水処理後24時間において、硫化水素及びメチルメルカプタンの濃度を0.25ppm未満に抑制すること」という臭気濃度の技術的意義について検討すると、
訂正前請求項3の汚泥スラリーへの亜硝酸塩の添加量「25~1000mg/リットル」は、特許明細書【0007】の「本発明方法において、汚泥スラリーに添加する亜硝酸塩、亜硫酸塩又は亜硫酸水素塩の量に特に制限はないが、汚泥スラリー1リットル当たり25~1,000mgであることが好ましく、100~500mgであることがより好ましい。」との記載、及び、特許明細書【0013】【表1】の実験例の記載を根拠とするものである。
一方、訂正請求項3の「臭気」の「濃度」が「脱水処理後24時間」で「0.25ppm未満」であることは、上記特許明細書【0013】【表1】の全ての実施例(実施例1~実施例5)の亜硝酸塩の添加量が100,300,500mg/リットルであり、それらの全ての場合に、亜硝酸塩添加から24時間経過後の「脱水ケーキ」からの臭気が「nd」すなわち検出下限濃度である「0.25ppm」未満(特許明細書【0009】の「検出下限濃度は、硫化水素、メチルメルカプタンともに0.25ppmである。」を参照。)であることを根拠とするものである。
したがって、訂正前請求項3と訂正請求項3とは、それらの数値限定の根拠となるデータが、共に特許明細書【0013】【表1】を根拠とするものであり、訂正請求項3は、訂正前請求項3での「25~1000mg/リットル」まで上下限を、「100~500mg/リットル」までの実施例のデータに限定的に特定し、亜硝酸塩の「添加量」で記載していたものを、「脱水処理後24時間」の「臭気」の「濃度」で記載したものということができるので、訂正請求項3に記載された数値限定は、全て、特許明細書【0013】【表1】の実験例の記載を根拠とするから、訂正請求項3の記載は特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。
7-2.無効理由2(特許法第36条第6項第2号)について
請求人は、本件無効審判請求書(20~22頁)において概ね次のように主張しているものと認められる。
亜硝酸塩を汚泥貯留槽や脱水機などの密閉系に添加することは特公平1-60319号公報(甲第2号証)において検討され、また、例えば、甲第11号証の摘示事項(甲11-ア)に「脱水機の運転時間を昼間8時間とすると、汚泥貯留タンクの容量は、18時間を標準とする」と記載されるように、一般的な下水処理場において、濃縮された汚泥は汚泥貯留槽にて1晩程度貯留された後に脱水処理されることは技術常識であり、汚泥貯留槽に脱臭薬剤を添加すれば、添加から15分以上経過してから脱水されるものであることは当然といえるので、訂正請求項1,2の「汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリー」に「脱水機に到達する15分以上前」に「亜硝酸塩」を「添加」するという特定事項の意味は、従来技術の密閉系における亜硝酸塩の汚泥スラリーへの添加と何ら変わりないことになり、技術的意義が明らかでなく、訂正請求項1,2に記載される発明は明確でない。
そこで、上記特定事項の技術的意義について検討すると、訂正請求項1,2の「汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリー」に「該混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する15分以上前」に「亜硝酸塩」を「添加」することにより、どのような効果があるかみてみると、特許明細書【表1】(【0013】)の「実施例1」(NaNO2300mg/リットル添加、脱水までの放置時間0.25時間即ち15分)の硫化水素濃度10ppm、メチルメルカプタン濃度5ppmと、「比較例A」(NaNO2300mg/リットル添加、脱水までの放置時間0時間)の硫化水素濃度100ppm、メチルメルカプタン濃度15ppmとを比較すれば、脱水までに15分放置した「実施例1」の硫化水素とメチルメルカプタンの濃度が、脱水までに時間をおかない「比較例A」のそれらと比較して低くなっていることが見てとれることから、上記特定事項により脱水ケーキが脱臭されているということができ、この特定事項の技術的意義は明らかであって、訂正請求項1,2に記載された発明は明確でないとはいえない。
7-3.無効理由3(特許法第29条の2)について
7-3-1.本件訂正発明1について
7-3-1-1.甲第1号証の特許出願の優先権主張について
甲第1号証は、上記したとおり、特願平11-292269号明細書として提示されたものであり、特願平10-292172号を優先権主張の基礎とする特願平11-292269号の公開公報であるが、同公開公報は特願平10-292172号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「出願時明細書」という。乙第3号証に相当する。)に追加された部分(甲第1号証の摘示事項(甲1-キ)~(甲1-コ))を含んでいるので、特許法第29条の2の規定における先の出願の出願時明細書に記載された発明である「甲第1号証に記載された発明」は、上記摘示事項(甲1-キ)~(甲1-コ)を除いた甲第1号証の摘示事項(甲1-ア)~(甲1-カ)または乙第3号証の摘示事項(乙3-ア)~(乙3-カ)に基づいて認定されるべきものである。
なお、この点に関し、両当事者間で特段争いはない。
7-3-1-2.甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の【0024】には、「・・・亜硝酸ナトリウムを添加することにより、硫化水素、全メルカプタン類除去の持続性を付与することができた・・・」とあり、同号証の摘示事項(甲1-ア)に「亜硝酸ナトリウム」を添加して脱臭する対象が「汚泥として下水、し尿または工場廃水を処理する際に発生する生汚泥、余剰汚泥、消化汚泥、凝集汚泥等やそれらの混合物」であることが記載されていることから、同号証には亜硝酸ナトリウムを下水汚泥に添加して硫化水素とメルカプタン類を持続的に脱臭することが記載されているということができる。
亜硝酸ナトリウムの効果についてさらにみると、甲第1号証には、(甲1-ウ)に「実施例1 汚泥貯留槽から採取した下水汚泥200mlに、100%過酸化水素として100mg/Lとなる量の過酸化水素と、亜硝酸ナトリウム15mg(亜硝酸イオンとして50mg/Lとなる量)を添加混合し、処理5分後と24時間放置しておいた後、ヘッドスペース法により硫化水素、全メルカプタン類を測定した結果を表1に示す。」と記載され、(甲1-エ)に「比較例2 過酸化水素を添加せずに亜硝酸イオンが100mg/Lとなる量に亜硝酸ナトリウムを30mg添加した以外は実施例1と同様な処理を行った。」と記載され、(甲1-オ)に「比較例4 薬剤を何も添加しなかった以外は実施例1と同様な処理を行なった。」と記載され、そして、「比較例2」と「比較例4」の実験結果として、【表1】の一部を示す(甲1-カ)には、以下のとおり記載されている。
上記実験結果を解釈するに、亜硝酸ナトリウムを添加した比較例2と、無添加の比較例4とを比較すると、硫化水素も全メルカプタン類も、無添加の比較例4の場合には時間の経過と共にそれらの濃度がほぼ増加し、添加した比較例2の場合には時間の経過と共にそれらの濃度が減少しており、特に亜硝酸ナトリウムの添加混合から24時間を経過すると、硫化水素と全メルカプタン類の濃度が減少していることが明らかであり、これは、亜硝酸ナトリウムの添加により、硫化水素及びメチルメルカプタンの分解除去による脱臭効果が奏されることを意味するものといえる。
さらに、(甲1-エ)に「比較例2 過酸化水素を添加せずに亜硝酸イオンが100mg/Lとなる量に亜硝酸ナトリウムを30mg添加」したとあることから、「亜硝酸塩」の下水汚泥当たりの添加量は「100mg/リットル」である。
また、摘示事項(甲1-イ)に「・・薬剤を添加する場所としては、下水、廃水や汚泥と混合できる場所であれば何れの場所でも良く、ビルの廃水ピット、下水ポンプ場のピットやし渣除去槽、下水処理場の汚泥濃縮槽、汚泥混合槽、汚泥貯留槽や凝集剤混合槽、また下水、廃水や汚泥の移送配管中に直接投入しても良い」と記載されていることから、実際の処理に当たっては「薬剤」である「亜硝酸ナトリウム」は「汚泥貯留槽」へ添加されるということができる。
以上のことから、甲第1号証には、比較例2に着目して整理すると、
「汚泥貯留槽の下水汚泥に過酸化水素を添加せず下水汚泥当たり100mg/リットルとなるように亜硝酸ナトリウムを添加混合してから24時間以上経過させて硫化水素、メルカプタン類を分解除去する脱臭方法。」の発明(以下、「甲第1発明」という。)
が記載されているということができる。
7-3-1-3.対比検討
i)甲第1発明の「下水汚泥」は下水処理場の汚泥貯留槽のものであり、本件訂正発明1の「下水処理場の汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリー」とは、下水処理場の「汚泥スラリー」であることで共通し、また、甲第1発明の「亜硝酸ナトリウム」は亜硝酸塩であることは自明である。
ii)また、固体と液体との反応を考えるとき、固体が固体のままの状態では固体の表面のみが反応し、固体内部は液体と直接接触していないから反応に寄与しないため接触効率が良くなく均一な混合が難しいのに対し、固体を溶媒に溶かし、溶液の状態で液体と反応させれば接触効率が向上し反応性が良くなり、均一に混合できることは広く知られている技術常識であり、甲第1発明であっても、「亜硝酸ナトリウム」が易水溶性物質であるから、「下水汚泥」によく混ざるようにするために「亜硝酸ナトリウムを添加混合」する際に、「亜硝酸ナトリウム」を水溶液の状態で「下水汚泥」に添加して均一に混合することは当然になされているものといえる。
すると、甲第1発明の「汚泥貯留槽の下水汚泥に過酸化水素を添加せず亜硝酸ナトリウムを添加混合」して「硫化水素、メルカプタン類を分解除去する脱臭方法」は、本件訂正発明1の「過酸化水素を添加しないで臭気を抑制する方法」であって、当該「臭気」である「硫化水素及びメチルメルカプタン」を「亜硝酸塩を下水汚泥」に「水溶液で添加して均一混合」することによって「持続的に抑制する」ことに相当するということができる。
iii)甲第1発明では「亜硝酸塩」の添加量は「100mg/リットル」であるので、これは本件訂正発明1の「汚泥スラリー当たり25~500mg/リットル」添加することと「100mg/リットル」添加することで共通する。
iv)また、水分を多量に含む「下水汚泥」はスラリ-状態であるから、「汚泥スラリー」ということができる。
v)以上から、本件訂正発明1と甲第1発明とは、
「過酸化水素を添加しないで、臭気を抑制する方法であって、前記臭気は、硫化水素及びメチルメルカプタンであり、下水処理場の汚泥スラリーに対して、亜硝酸ナトリウムを汚泥スラリー当たり100mg/リットルとなるように水溶液で添加して均一混合しておくことによって、臭気を持続的に抑制する脱臭方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)本件訂正発明1では、汚泥「濃縮」工程後の「混合生汚泥スラリー」に亜硝酸塩を添加するのに対して、甲第1発明では、下水処理場の汚泥貯留槽から採取した「下水汚泥」に亜硝酸塩を添加する点
(相違点2)本件訂正発明1では、「汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリーに対して、該混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する15分以上前」に亜硝酸塩を汚泥スラリーに添加するのに対して、甲第1発明では、亜硝酸塩を添加してから「24時間以上経過」させる点
(相違点3)本件訂正発明1は「脱水ケーキの脱臭方法」であるのに対し、甲第1発明は「脱水ケーキ」を特定しない「脱臭方法」である点。
7-3-1-4.相違点の検討
そこで、上記相違点1~3について、甲第1号証に実質的に記載されているに等しいといえるかについて検討する。
(1)相違点1について
はじめに、本件訂正発明1の「汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリー」についてみるに、訂正明細書の【図1】を参酌するに、同図に示されるのは一般的な「下水処理の一態様の工程系統図」(【図面の簡単な説明】)であり、「汚泥濃縮槽4」へ「初沈生汚泥」と「余剰汚泥」とが集められて「混合」され、「汚泥濃縮槽4」で重力濃縮されて後に「汚泥貯留槽5」に移送されることがみてとれる。
そして、「初沈生汚泥」と「余剰汚泥」はこれから処理される処理途上の汚泥すなわち「生汚泥」であり、「混合」された「生汚泥」は「汚泥濃縮槽4」で重力で濃縮されてその体積が減少された後に「汚泥貯留槽5」に移送されるものだから、「汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリー」とは、「汚泥濃縮工程」によって重力濃縮された「濃縮汚泥スラリー」と同義であるということができる。
これに対して、甲第1号証の「比較例2」、「比較例4」では、「下水汚泥」を「汚泥貯留槽から採取した」ものであるが、この「汚泥貯留槽」は甲第1号証の摘示事項(甲1-イ)に「・・薬剤を添加する場所としては、下水、廃水や汚泥と混合できる場所であれば何れの場所でも良く、ビルの廃水ピット、下水ポンプ場のピットやし渣除去槽、下水処理場の汚泥濃縮槽、汚泥混合槽、汚泥貯留槽や凝集剤混合槽、また下水、廃水や汚泥の移送配管中に直接投入しても良い」と記載されている内の「汚泥貯留槽」であって、上記(甲1-イ)の記載が、一般的な下水処理場の処理順(例えば摘示事項(甲3-ア)(甲3-イ)(甲4-カ)を参照)で記載されていると解釈できるなら、上記の「下水処理場の汚泥濃縮槽、汚泥混合槽、汚泥貯留槽」は、下水処理場の処理順に記載されているとみてよい可能性があり、そうであれば「汚泥貯留槽」はその直前で濃縮され混合された汚泥が貯留されていることになり、「汚泥貯留槽」の「下水汚泥」は「汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリー」であるということができることになる。
このことは例えば参考資料8についてみると、施設の稼働開始時期は平成7年((参8-ア)を参照)で、「濃縮タンク」で濃縮された「余剰汚泥」は「汚泥貯留槽に溜めた後、遠心脱水機により水分を下げて場外へ搬出」される((参8-イ)を参照)ので、これは本件出願前より「濃縮タンク」「貯留槽」「脱水機」の順で汚泥が処理されていたことを示すものといえる。
(なお、請求人が、「汚泥貯留槽」はその直前で濃縮され混合された汚泥が貯留されていることを立証するために提示した参考資料1~7,9~11には、少なくとも施設の稼働開始時期の分かる記載がない、あるいは、当該記載があっても本件出願日前でないため、これらを参照することはできない。)
しかしながら、例えば乙第1号証の摘示事項(乙1-ア)には「汚泥貯留タンクは、最初沈殿池、重力式汚泥濃縮タンクなどのように、汚泥が断続的に引き抜かれ、この汚泥を後続の処理過程に連続的に投入する必要があるなどの各施設間に貯留又は中継する場合、汚泥輸送等のように前後の運転時間を調整するために一定容量の汚泥を貯留する必要がある場合等に設置する。又、汚泥脱水設備を昼間だけ運転したり、小規模施設等で発生した汚泥をためておいて一時的に輸送したりする場合のように、比較的長時間貯留する必要があっても設置するものもある」と記載され、例えば「最初沈殿池」からの汚泥を後続の処理過程に投入するため、あるいは、「重力式汚泥濃縮タンク」からの汚泥を後続の処理過程に投入するため等の「各施設間に貯留又は中継する場合、汚泥輸送等のように前後の運転時間を調整するために一定容量の汚泥を貯留する」場合に「汚泥貯留タンク」は用いられるものであり、「汚泥貯留槽」という場合に、その前の段階として必ずしも「汚泥濃縮槽」、「汚泥混合槽」をおかず、貯留される汚泥が濃縮工程後の汚泥でない場合も普通にあることが理解される。
また、このことは、例えば参考資料dについての摘示事項(参d-ア)~(参d-ウ)から理解されるように、昭和54年4月より稼働していた施設において、「最初沈でん池」からの汚泥、「最終沈でん池」からの「最初沈でん池」を介する返送汚泥が、「汚泥調整タンク」へ搬送されることが示され、また、参考資料eについての摘示事項(参e-ア)、(参e-イ)から理解されるように、平成10年度から稼働していた施設において、「生汚泥」「余剰汚泥」を含む4経路からの汚泥が「汚泥貯留タンク」へ搬送されることが示され、これらから、「汚泥貯留槽」の前に「汚泥濃縮槽」、「汚泥混合槽」をおかず、「汚泥貯留槽」に貯留される汚泥が濃縮工程後の汚泥でない場合も普通にあると推認されることからも裏付けられる。
(なお、参考資料a~c、f~iについては、少なくとも施設の稼働開始時期の分かる記載がないか、当該記載があっても本件出願日前でないため、これらを参照することはできない。)
さらに、甲第1号証の摘示事項(甲1-ア)には「本発明の媒体は、家庭からの一般廃水または工場等の廃水、また洗浄装置等に含まれる洗浄水等が含まれる。さらに汚泥として下水、し尿または工場廃水を処理する際に発生する生汚泥、余剰汚泥、消化汚泥、凝集汚泥等やそれらの混合物が含まれる」と記載されるところ、甲第1号証の比較例を基にして認定された発明である甲第1発明でも脱臭効果を見るべき汚泥は同様の「生汚泥、余剰汚泥、消化汚泥、凝集汚泥等」のいずれでもよいとみることが自然である。
すると、甲第1号証の「比較例2」で、「下水汚泥」を採取した「汚泥貯留槽」は、「汚泥濃縮槽」の後の濃縮済みの汚泥が貯留された「汚泥貯留槽」でもあり得るし、「貯留又は中継」のための「汚泥濃縮槽」の後でない「汚泥貯留槽」でもあり得るため、どちらかに確定することができない。
よって、甲第1号証の「比較例2」で「汚泥貯留槽」から採取された「下水汚泥」は、汚泥濃縮工程後の「濃縮汚泥スラリー」に限られるものとはいえないから、甲第1発明は下水処理場の「汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリー」に亜硝酸塩を添加するものとまではいえない。
(2)相違点2について
汚泥が脱水機前で数時間貯留されること(例えば甲第11、17号証の摘示事項(甲11-ア)、(甲17-ア)参照)は周知技術であり、下水汚泥の処理において脱水処理を行うこと(例えば甲第3号証の摘示事項(甲3-ア)(甲3-イ)(甲4-カ)参照)も周知技術であるとしても、下水処理場であっても必ずしもその施設で汚泥の脱水までなされるものではないことも、また、例えば甲第16、28号証について以下に示すように周知技術であり、上記「7-3-1-1.」で述べたように、脱水に関する摘示事項(甲1-キ)~(甲1-コ)を除く甲第1号証から把握される甲第1発明が、脱水機を有し、汚泥の脱水まで必ず予定しているとまではいえない。
すると、本件訂正発明1の「混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する15分以上前」に「亜硝酸塩」を添加するということは、脱水機の存在を前提とし、脱水機に到達する時刻を基点として、それより15分以上前に亜硝酸塩を添加するということであり、脱水機が必ず存在するとまではいえない甲第1発明において、それが亜硝酸塩を添加してから「24時間以上経過」させるものであっても、基点となる時刻を定義できない以上、甲第1発明は「汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリーに対して、該混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する15分以上前」に亜硝酸塩を汚泥スラリーに添加するものとまではいえない。
○甲第16,28号証の記載について
ア)甲第16号証の摘示事項(甲16-エ)には「三河島処理場」において「発生した汚泥は全量を砂町水処理センターへ圧送しています」と記載され、同(甲16-オ)には「砂町水処理センター」において「処理水は、東京湾へ放流し、発生した汚泥は、三河島処理場と有明処理場から送られてくる汚泥とあわせ脱水した後、全量を焼却しています」と記載されており、「三河島処理場」と「有明処理場」では「汚泥」を脱水せずに「砂町水処理センター」へ圧送してそこで脱水処理しており、「三河島処理場」と「有明処理場」には脱水機設備がなく、「砂町水処理センター」には脱水機設備があることが理解される。
イ)甲第28号証の摘示事項(甲28-ウ)には、「仁別浄化センター」での下水処理能力について、「最終汚泥性状」を、「全体計画」では「脱水ケーキ」にするが、「既設(5年度末)」では「濃縮汚泥」であり、八橋下水道終末処理場に搬入して処理していることが記載され、同(甲28-エ)には、「高松浄化センター」での下水処理能力について、「最終汚泥性状」が「既設(5年度末)」では「濃縮汚泥」であり、「濃縮」までは「高松浄化センター」で処理し、「濃縮」後の「消化→洗浄→脱水→乾燥→農地等」は他の処理場で処分することが記載されており、これらから、「仁別浄化センター」では、計画では「脱水ケーキ」にするために脱水が予定されているが、「既設(5年度末)」では、「濃縮汚泥」まで処理して脱水はしておらず、「高松浄化センター」でも「濃縮汚泥」まで処理して脱水はしていないことが理解される。
ウ)したがって、これらのことから、下水処理場であっても、「濃縮汚泥」までは処理するが、「脱水」まで行う処理場と行わない処理場があるため、下水処理場であっても必ずしも「脱水」まで行うものではないということは周知技術ということができる。
(3)相違点3について
「脱水ケーキ」を消臭する必要のあることは、例えば甲第5号証の摘示事項(甲5-オ)に「脱水ケーキの取り扱い工程において発生・発散する臭気は、これらの作業工程の密閉化が困難であることから、処理場内外に大きな影響を与えている」と記載されるように周知の事実である。
しかし、甲第1発明はそもそも脱水に関する事項を包含せず、また、甲第1号証の摘示事項(甲1-ア)に「つぎに本発明の方法を具体的に説明する。本発明の媒体は、家庭からの一般廃水または工場等の廃水、また洗浄装置等に含まれる洗浄水等が含まれる。さらに汚泥として下水、し尿または工場廃水を処理する際に発生する生汚泥、余剰汚泥、消化汚泥、凝集汚泥等やそれらの混合物が含まれる」と記載されるところ、上記「(1)相違点1について」で述べたように、甲第1発明でもその脱臭の対象は「生汚泥、余剰汚泥、消化汚泥、凝集汚泥等やそれらの混合物」であるというべきであるから、甲第1発明における脱臭の対象として「脱水ケーキ」を包含するものとは認められない。
したがって、甲第1発明は「脱水ケーキの脱臭方法」とまでいうことはできない。
7-3-1-5.甲第13号証に関する請求人の主張について
甲第13号証の上記摘示事項(甲13-ア)(甲13-イ)に基づいて、甲第1号証には本件訂正発明の「過酸化水素を添加しないで、脱水ケーキからの臭気を抑制する方法であって、前記臭気は、硫化水素及びメチルメルカプタンであ」るものが開示されていると請求人は主張(審判請求書27~28頁)する。
しかしながら、上記「(3)相違点3について」で述べたように、甲第1発明はそもそも脱水に関する事項を包含せず、さらに、その脱臭の対象として「脱水ケーキ」を包含するものではない。
したがって、脱水ケーキに対する亜硝酸塩の脱臭効果はそもそも甲第1発明に包含されず、さらに、上記(甲13-ア)の実験条件は本件特許明細書【0009】~【0012】に記載される本件発明のそれと同様であり、甲第13号証に開示される脱水ケーキに対する亜硝酸塩の消臭効果は、本件発明の効果そのものだから、甲第13号証に開示の内容は実質的に本件発明の追試実験であって、甲第1発明が、汚泥スラリーを脱水処理した脱水ケーキからの硫化水素及びメルカプタン類の発生が亜硝酸塩によって抑制されることを包含しているとすることはできず、上記請求人の主張は採用できない。
7-3-1-6.まとめ
したがって、本件訂正発明1は、甲第1発明と同一であるとはいえないので、特許法第29条の2の規定に該当するものではない。
7-3-2.本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、訂正請求項1を引用し、本件訂正発明1の「脱水機に到達する15分以上前に」の「15分以上」を「3時間以上」とさらに特定するものであり、本件訂正発明1に対する上記と同じ理由によって、甲第1発明と同一であるとはいえないので、特許法第29条の2の規定に該当するものではない。
7-3-3.本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、訂正請求項1又は2を引用し、「脱水ケーキからの前記臭気を脱水処理後24時間において、硫化水素及びメチルメルカプタンの濃度を0.25ppm未満に抑制する」ことをさらに特定するもので、本件訂正発明1に対する上記と同じ理由によって、甲第1発明と同一であるとはいえないので、特許法第29条の2の規定に該当するものではない。
7-4.無効理由4(特許法第29条第2項)について
7-4-1.本件訂正発明1について
7-4-1-1.甲第4号証に記載の発明
甲第4号証には、摘示事項(甲4-ア)に摘示されるように「二酸化塩素および塩化亜鉛を併用して汚水濃縮汚泥を処理し、該汚水濃縮汚泥を脱臭することを特徴とする脱臭方法」の発明が記載されている。
そして、摘示事項(甲4-イ)、(甲4-エ)~(甲4-ケ)によれば、「実施例4」として、「T浄化センターの汚泥貯溜タンク(11)における汚水濃縮汚泥へ二酸化塩素と塩化亜鉛との混合水溶液を添加」すること、「メチルメルカプタンおよび硫化水素に起因する悪臭の脱臭作用が持続」されること、「汚水濃縮汚泥に二酸化塩素および塩化亜鉛の両者を添加した場合には、その添加直後に、フラスコ中のメチルメルカプタン濃度およびフラスコ中の硫化水素濃度はいずれもNDとされ、以後、時間の経過に伴って、フラスコ中のメチルメルカプタン濃度およびフラスコ中の硫化水素濃度が共に極めて緩慢に上昇するに過ぎなかった」ことが記載されており、「二酸化塩素と塩化亜鉛」の添加により、「汚水濃縮汚泥」上の空気中の硫化水素とメチルメルカプタンの濃度が減少することが示されている。
また、同(甲4-ウ)には「二酸化塩素および塩化亜鉛の両者を併用して処理することにより、少なくとも汚水濃縮汚泥中のメチルメルカプタンに起因する悪臭および硫化水素に起因する悪臭の脱臭において相乗的に作用し、かつ脱臭作用を長時間にわたって持続できる」と記載されている。
さらに、同(甲4-カ)、【図1】によれば、「汚泥濃縮タンク10」から「汚泥貯留タンク11」へ「濃縮汚泥」が流入し、「汚泥貯留タンク11」から「汚泥脱水機12」へ「供給汚泥」が供給されて「脱水ケーキ」として「汚泥脱水機12」から搬出されることがみてとれる。このことから、甲第4号証に記載の「脱臭方法」の発明においては、「T浄化センターの汚泥貯溜タンク(11)における汚水濃縮汚泥」に「二酸化塩素および塩化亜鉛」が添加されて後に脱水されて「脱水ケーキ」とされ得ることが理解される。
以上の記載を本件訂正発明1の記載ぶりに則して整理すると、甲第4号証には、
「T浄化センターで発生する濃縮汚泥からの臭気を抑制する方法であって、前記臭気は、硫化水素とメチルメルカプタンであり、汚泥貯留タンクの濃縮汚泥に対して、二酸化塩素および塩化亜鉛を添加して、濃縮汚泥からの臭気を持続的に抑制する脱臭方法。」の発明(以下、「甲第4号証発明」という。)が記載されているものと認められる。
7-4-1-2.対比
以下に本件訂正発明1と上記の甲第4号証発明とを対比する。
i)甲第4号証の第1図の「T浄化センターフローシート」に示されるのは下水処理場としてよく知られた施設群であり、「T浄化センター」は「下水処理場」に他ならない。
ii)また、甲第4号証発明の「濃縮汚泥」については、摘示事項(甲4-カ)によれば、「汚泥貯留タンク11」は「汚泥濃縮タンク10」から「濃縮汚泥」が流入する箇所であり、「最初沈殿池4」からの「生汚泥」と、「最終沈殿池7」からの「返送汚泥」の一部である「余剰汚泥」とが混合されて「屎渣分離機9」を介して「汚泥濃縮タンク10」へ流入し、当該「汚泥濃縮タンク10」では濃縮工程が行われ、水分を多量に含む汚泥はスラリー状であるから、当該「濃縮汚泥」は「汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリー」と言い得る。
iii)脱臭のために、甲第4号証発明では「二酸化塩素および塩化亜鉛」を添加し、本件訂正発明1では「亜硝酸塩」を添加するから、両者は「脱臭薬剤」を添加する点で共通する。
iv)甲第4号証発明での「二酸化塩素および塩化亜鉛」の添加について、甲第4号証【0007】には「これらの臭気物質を除去する脱臭物質の使用に際しては、この脱臭物質と汚水濃縮汚泥との接触をよくするために、脱臭物質は比較的希薄な水溶液で使用されている」と記載され、同【0014】には「また、後者の処理方法の場合においては、それぞれ水溶液を使用する。二酸化塩素水溶液の二酸化塩素濃度は、通常、5%および15%(W/V)、好ましくは15%(W/V)とされ、塩化亜鉛水溶液の塩化亜鉛濃度は、通常、41.6%および20%(W/V)、好ましくは20%(W/V)とされる」と記載されており、甲第4号証には「二酸化塩素および塩化亜鉛」を水溶液として添加することが記載されているということができる。
また、「試験法:500ml容三角フラスコのそれぞれに汚水濃縮汚泥200mlを入れて、これに種々の混合比の二酸化塩素と塩化亜鉛とを含有する水溶液10mlを添加し・・・ゴム栓で個々のフラスコを密栓した。この密栓フラスコを室温で緩やかに30秒間振盪して」(【0018】)と記載されるように、水溶液として添加された「二酸化塩素および塩化亜鉛」と汚水濃縮汚泥との接触効率を向上し反応性を良くするために、「二酸化塩素および塩化亜鉛」と汚水濃縮汚泥とがはいったフラスコを「振盪」しており、これは均一に混合することといえる。
すると、本件訂正発明1と甲第4号証発明とは、「汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリー」に対して「脱臭薬剤」の水溶液を添加して均一混合することで共通する。
v)甲第4号証発明は、甲第4号証の摘示事項(甲4-カ)から「汚泥脱水機12」という「脱水機」を有し、「二酸化塩素および塩化亜鉛」を添加した後で「脱水」するものである。
一方、本件訂正発明1は「脱水機」を有し、「脱水器に到達する15分以上前」に「亜硝酸塩」を添加するから、本件訂正発明1と甲第4号証発明は、脱水する前に「脱臭薬剤」を添加するものである点で共通する。
vi)そうすると、以上から、本件訂正発明1と甲第4号証発明とは、
「臭気を抑制する方法であって、前記臭気は、硫化水素とメチルメルカプタンであり、下水処理場の汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリーに対して、脱水する前に、脱臭薬剤を水溶液で添加して均一混合しておくことによって、臭気を持続的に抑制する脱臭方法」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点A>本件訂正発明1は「脱臭薬剤」が「亜硝酸塩」であるのに対して、甲第4号証発明は「脱臭薬剤」が「二酸化塩素および塩化亜鉛」である点
<相違点B>本件訂正発明1は「過酸化水素を添加しない」のに対して、甲第4号証発明は「過酸化水素を添加しない」旨の特定を有しない点
<相違点C>本件訂正発明1は汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリーに「該混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する15分以上前」に「亜硝酸塩」を添加するのに対して、甲第4号証発明は「汚泥貯留タンク」の汚泥濃縮工程後の「混合生汚泥スラリー」に脱水前に「二酸化塩素および塩化亜鉛」を添加するものである点
<相違点D>本件訂正発明1は「亜硝酸塩」を「汚泥スラリー当たり25~500mg/リットル」添加するものであるのに対して、甲第4号証発明は「二酸化塩素および塩化亜鉛」の添加に際してそのような特定を有しない点
<相違点E>本件訂正発明1は、「脱水ケーキからの臭気を抑制する方法」であって「脱水ケーキからの前記臭気を持続的に抑制する脱水ケーキの脱臭方法」であるのに対して、甲第4号証発明は「濃縮汚泥からの臭気を抑制する方法」であって、「濃縮汚泥からの臭気を持続的に抑制する脱臭方法」である点
7-4-1-3.相違点Aについて
(一)甲第2号証には、摘示事項(甲2-ア)に「微生物の生息環境に亜硝酸イオンを存在させ・・・微生物に基づく硫化水素の発生を防止する方法。」が記載され、また、同(甲2-オ)には「本発明は、このような微生物の生息環境に亜硝酸イオンを存在せしめることによつて硫化水素の発生を防止させるものである。ここで亜硝酸イオン供給源としては既知の物質を任意に使用することができ、例えば亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウムなどがある。」と記載され、同(甲2-イ)に「微生物、特に硫酸還元菌は嫌気的条件下で硫黄化合物を還元して硫化水素を発生する」と記載され、同(甲2-カ)に「廃水処理装置中の水から硫酸還元菌を分離して培養し、これに亜硝酸ナトリウム(第1表では「NO2-」で表記)を添加したところ、無添加ではコロニー数が665個であるのに対し、50ppmの添加でコロニー数をゼロに出来る」ことが記載されている。
これらの記載から、亜硝酸ナトリウムが硫酸還元菌の生育を阻止して、硫化水素の発生を防止する効果を奏することが理解できる。また、亜硝酸イオン供給源として挙げられた「亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム」は、亜硝酸塩であることは明白である。
そして、上記摘示事項(甲2-ア)記載の「微生物の生息環境」として同(甲2-エ)には、「・・微生物の生息環境としては、例えば活性汚泥や活性炭による廃水処理装置、油タンクの底水、メタン発酵槽、汚濁河川、田畑、水溶性潤滑油等を挙げることができる」とあり、活性汚泥や活性炭を用いる廃水処理装置やメタン発酵槽は典型的な下水処理施設といえ、また、下水中の物質は「汚泥スラリー」の状態で存在することも技術常識である。
以上のことに照らせば、甲第2号証には、「下水の汚泥スラリー中に亜硝酸塩を添加して、硫酸還元菌に対する抗菌作用により硫酸還元菌の生育を阻止して、硫酸還元菌が下水の汚泥スラリー中の硫酸イオンを還元して硫化水素を発生させることを防止する」という技術事項が記載されているといえる。 さらに、下水等の処理に添加される脱臭剤等は、「脱臭に塩化亜鉛のような亜鉛塩などの金属化合物を使用する場合には・・・金属塩の大量使用は環境汚染の原因となる」(甲第4号証【0006】)ものであり、また、「一般に、汚泥処理系において使われる消・脱臭剤には・・亜鉛・・を含むものが多く、脱水汚泥のコンポスト化など肥料化での植物障害ならびに汚泥ケーキの焼却処分での排煙中の有害物質生成や灰残存物(重金属類)の問題も軽視できない。とくに汚泥中の大量の塩素、塩素化物による燃焼時の有機塩素化合物(ダイオキシン類)の熱的生成は今後の大きな課題である」(甲第5号証の摘示事項(甲5-エ)参照)ことが知られており、下水等の処理に添加される脱臭剤等として、二酸化塩素は焼却処理に際し有害なダイオキシンなどの有機塩素化合物を発生し、塩化亜鉛も重金属を含むから、それらの使用はなるべく避けるべきであることは周知の課題である。
すると、甲第2号証の上記の技術事項に接した当業者は、上記のように塩素系薬剤は有害であり、重金属の使用も避けるべきことが周知の課題であることに照らせば、硫化水素の濃度を低下させて脱臭させる観点から、甲第4号証発明の二酸化塩素および塩化亜鉛を併用して添加することに代えて「亜硝酸塩」の適用を検討するものといえる。
しかしながら、甲第4号証発明が上記したとおり硫化水素の他にメチルメルカプタンの濃度をも低下させる方法であるのに対し、甲第2号証には「亜硝酸塩」がメチルメルカプタンに起因する悪臭をも脱臭できることについて記載がないことから、これを直ちに適用できるか明らかであるとはいえない。 そこで、亜硝酸塩がメチルメルカプタンに起因する悪臭を防止できるか否か、以下に検討する。
(二)甲第6号証の摘示事項(甲6-ア)には「亜硝酸塩の抗菌作用について・・・全ての種類の細菌の発育を阻止するわけではないが、その作用はpH6.0以下で非常に強くなり、0.02%で・・・Pseudomonas・・・Escherichia・・・の発育が阻害されることを示した」と記載され、同(甲6-カ)には「亜硝酸塩は・・・Clostridium属の細菌には、非常に強い阻止作用を示し」と記載されている。そして、特記のない限り「Esherichia」といえば代表的な大腸菌である「Esherichia coli」を指すことは技術常識である(例えば特開平07-236479号公報【0027】「大腸菌(Esherichia coli K-12株)」、特開平07-135992号公報【0002】「大腸菌(Esherichia coli)」を参照)ことから、上記「Escherichia」は「Esherichia coli」を指すといえるので、亜硝酸塩は、「Pseudomonas属」と「Escherichia coli」に対してはpH6.0以下で非常に強く抗菌作用を示し、Clostridium属に対しても強い阻止作用を示すことが甲第6号証に開示されているといえる。
そして、メチルメルカプタンの発生経路について、甲第8号証の摘示事項(甲8-ア)によれば「微生物はタンパク質分解酵素作用によりタンパク質を分解するが、そのとき、・・硫化水素・・メルカプタン・・等を生ずる」ものといえる。この「タンパク質を分解する」とは、同(甲8-イ)に記載されるように、タンパク質を構成する含硫アミノ酸である「システイン」「メチオニン」が微生物に分解されることを意味し、その際に硫化水素、メチルメルカプタンが発生することをいうものである。
そこでメチオニンからメチルメルカプタンを生成させる微生物(以下、「細菌」ということがある。)についてみると、甲第8号証の同(甲8-イ)の(2)式には、メチオニンからメチルメルカプタンを発生させる反応式が示され、同(甲8-ウ)には「(2)」式の「反応は酵素(Methioninase)をもつ大腸菌やクロストリジウム・スポロジナス(Clostridium sporogenes)により進行する。」と記載されている。この「大腸菌」は上記のように「Esherichia coli」を指すといえ、また、甲第9号証の同(甲9-ア)には、(甲8-イ)の(2)式と同義の反応式が示され、当該反応によってメチオニンからメチルメルカプタンを発生させるのは酵素「L-Methioninase」を有する「Pseudomonas属」、「Clostridium属」であることが記載されている。なお、因みに言えば、このことについては、例えば特開平1-159099号公報(2頁左下欄~右下欄)に、「Clostridium sporogenes等の腐敗菌」によって、(甲8-イ)の(2)式と同義の反応式の反応に基づいて、「メチオニン」からメチルメルカプタンが生成されることが記載されていることからもうなずける。
さらに、甲第7号証の摘示事項(甲7-エ)には「Pseudomonas」「Cl.sporogenes」が「メチオニンデメルカプトデアミナーゼ(またはデチオメチラーゼ)」なる酵素を有し、「メチルメルカプタン(CH3SH)」を生じさせることが記載されている。
以上のことによれば、メチオニンからメチルメルカプタンを発生させる上記「大腸菌」:「Esherichia coli」、「Pseudomonas属」、「Clostridium属」の細菌に対してpH等の一定条件下で亜硝酸塩は抗菌効果を有することが知られているといえる。
このことは亜硝酸塩がメチルメルカプタンの発生を防止できることを意味する。
(三)ここで、メチオニンからメチルメルカプタンを発生させる上記細菌とメチオニン自体は下水の汚泥スラリー中に存在するのかについて検討しておくと、
甲第7号証の摘示事項(甲7-イ)には「(3)下水細菌という固有の細菌はないが、有機物を豊富に含んだ下水中には糞便細菌・水生細菌・土壌細菌の濃厚混合汚染を受けかつ下水中で増殖が行われるので、特有のミクロフローラが形成される。その特徴とするところは、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属しているゼラチンを溶解する作用の強いCloaca属と呼ぶ狭義の下水細菌がEscherichia coliやProteusとともに豊富にいることである。そのほかClostridium、Bacillusなどの耐熱性芽胞菌、Pseudomonas、Vibrio、Micrococcusなどの水生菌も多く、ミクロフローラは一種の混成密集部隊をなしている」と記載され、さらに乙第9号証の摘示事項(乙9-イ)には「下水中には、ふん便からの腸内細菌や土壌等の自然界に由来した細菌が存在している。・・・これらの細菌は固形質に付着しやすい性質があるため、最初沈殿池ではSSと共に沈殿し、生汚泥や混合汚泥に濃縮される。」とあって、下水中に様々な細菌が濃縮されることが明らかであり、これらのことから、「Escherichia coli」「Clostridium属」「Pseudomonas属」が下水中に豊富に存在することが記載されており、下水の汚泥スラリー中にもそれらが豊富に存在することが示されているといえる。
また、甲第7号証の摘示事項(甲7-ウ)には「含硫化合物の分解は多く特殊な臭気の発生を伴うので、食品の腐敗による悪臭の問題とも関連して興味深い。天然に広く分布している化合物としてはシステインおよびその代謝中間物、メチオニンおよびその関連化合物、タウリンが主で、そのほかに・・・等がある。」と記載され、「システイン」「メチオニン」は「天然に広く分布している」含硫「化合物」であることが示されている。
そして、例えば、甲第10号証の摘示事項(甲10-ア)~(甲10-エ)に、「家庭下水の流入が主体である処理場として住宅団地(2ヶ所)」の処理場の「濃縮(混合)汚泥」のデータである「A-2」「C-2」と、「工場排水の流入が10%前後と比較的少ない都市域の処理場」の「濃縮(混合)汚泥」のデータである「B-2」とについて、それぞれメチオニンが検出されていることが記載されているように、下水中に、屎尿糞便等を由来とするタンパク質の分解物としてのアミノ酸でもあるメチオニン、システインが存在することは普通のことであり、当然に下水の汚泥スラリー中にもそれらが豊富に存在するといえるものである。したがって、メチオニンからメチルメルカプタンを発生させる上記細菌とメチオニンは下水の汚泥スラリー中に存在するものといえる。
(四)また一方、亜硝酸塩についてさらに検討を加えると、甲第29号証の摘示事項(甲29-ウ)には、亜硝酸塩について「・・・亜硝酸塩は酸化剤としても還元剤としても作用する。亜硝酸レダクターゼとして亜硝酸塩をヒドロキシアミンあるいは一酸化窒素まで還元する2種の酵素が・・・知られている」と記載され、同(甲29-ア)、(甲29-イ)及び甲第28号証の摘示事項(甲28-イ)には、亜硝酸塩添加後の亜硝酸イオンが脱窒細菌の出す亜硝酸レダクターゼ等の酵素によって還元されてゆく経路が次のように記載されている。
また、甲第28,29号証と同様の周知例である特開平10-202273号公報の【0002】~【0005】にも上記と同様の以下の記載があることをつけ加える。
「【従来の技術】窒素は水域の環境汚染である富栄養化の原因のひとつであり、水中では有機能窒素、アンモニア、亜硝酸、硝酸等の形態で存在している。有機能窒素、アンモニアは水域の自浄作用によって硝酸、亜硝酸へと変換されていく。その後、硝酸、亜硝酸は分子状窒素へ変換される。多くの生物が硝酸、亜硝酸から分子状窒素への変換能を有しており、この変換反応は脱窒と呼ばれている。この反応は、硝酸(NO3-)→亜硝酸(NO2-)→酸化窒素(NO)→亜酸化窒素(N2O)→窒素(N2)と進む。各過程を化学式で以下の通りに表すことができ、電子供与体を必要とすることがわかる。
NO3-+2H++2e-→NO2-+H2O
NO2-+2H+ +e- →NO+H2O
2NO+2H+ +2e- →N2 +H2O
これら素過程は全体として、下記のように表される。
2NO3-+10H(H+ +e- )→N2 +4H2O+2OH- 脱窒細菌には脱窒の全ての反応を行えるものと一部の反応を行えるものが存在し、グラム陽性から陰性細菌まで多様な種が含まれている。
また、自然界中に存在する10-15%の細菌は脱窒能を有しており、それら脱窒細菌を集積した廃水処理システムが多くの処理場で稼動している。その場合、余剰汚泥や有機物を含む流入水を電子供与体として添加している。電子供与体としての有機物が不足する場合にはメタノール、グルコース、水素などを添加することもある。」
すなわち、亜硝酸塩添加後の亜硝酸イオンが亜硝酸イオン(NO2-)、酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(N2O)を経由して、ガス状窒素(N2)にしだいに還元されていくことは周知の事実であるといえる。
そして、酸化と還元は対で生ずることは技術常識であって、下水汚泥中に添加された亜硝酸塩から生じる亜硝酸イオンの還元過程において、例えば亜硝酸イオン(NO2-)が酸化窒素(NO)に還元される際に、硫化水素(H2S)、メチルメルカプタン(CH3SH)は酸化作用を受けて別の物質になり脱臭されるであろうことは当然に予測されることと言える。
また、このことは、被請求人が乙第6号証の摘示事項(乙6-ア)で次のように亜硝酸イオンの作用を推定し、硫化水素(H2S)、メチルメルカプタン(CH3SH)の脱臭を考えていることに合致する。
「【酸化作用】(推定)
2NO2-+汚泥(微生物)+H2S →S+2H2O+2OH-+N2↑
2NO2-+汚泥(微生物)+H2S →S+2H2O+2NO
2NO2-+汚泥(微生物)+CH3SH→S+HCOOH+2H2O+OH-+N2↑」
すなわち、亜硝酸塩は、既に発生している硫化水素、メチルメルカプタンを化学的に脱臭できるといえる。
(五)上記(二)~(四)に照らせば、硫酸イオン、メチオニン及びそれらから硫化水素とメチルメルカプタンを発生させる細菌が存在する下水の汚泥スラリー中で、硫酸イオンに硫酸還元菌が作用して硫化水素を、メチオニンにPseudomonas属とEscherichia coli及びClostridium属(特にClostridium sporogenes)が作用してメチルメルカプタンを、それぞれ発生させるメカニズムに対して、亜硝酸塩がそれぞれの細菌に抗菌作用を及ぼすことで硫化水素とメチルメルカプタンの発生を抑制すること、また一方で、亜硝酸塩は既に発生している硫化水素、メチルメルカプタンを化学的に脱臭することも本件特許出願前より知られているといえる。
そして、上記(一)で述べたように、塩素系薬剤は有害であり、重金属の使用も避けるべきことが周知の課題であるところ、亜硝酸塩は塩素を含まず重金属を含まないことは明らかであり、また、甲第2号証にも「従来、硫酸還元菌による硫化水素の発生を防止する方法としては殺菌剤や酸化剤を添加したり、加熱殺菌したり、pH調整を行なう方法などが知られている。しかし、殺菌剤は一般に高価であり、安価な塩素は毒性および腐食作用を有し好ましくない」(甲2-ウ)と記載されるように、甲第4号証発明の「二酸化塩素」などの殺菌剤の適用の危惧が指摘されていることから、こうした殺菌剤に代えて「亜硝酸塩」を用いることに確たる阻害要因もないというべきである。
以上のことから、甲第4号証発明の「硫化水素とメチルメルカプタンの濃度を低下」させる「脱臭方法」において「二酸化塩素および塩化亜鉛を併用して添加」することに代えて「亜硝酸塩」を適用することは当業者であれば容易に想到し得るものといえる。
(六)被請求人は、答弁書、口頭陳述要領書及び上申書において、相違点Aに関し、次の点を主張している。
(a)乙第5号証(摘示事項(乙5-ア)参照)、甲第19号証(摘示事項(甲19-ア)参照)、乙第7号証(摘示事項(乙7-ア)~(乙7-オ)参照)それぞれに示される硫酸イオンの測定値や、本件特許審査段階での意見書である甲第14号証(摘示事項(甲14-ア)参照)に主張するように、濃縮後の汚泥中には硫酸イオンはわずかしか存在しないところ、請求人は甲第17号証(摘示事項(甲17-ア)~(甲17-ウ)参照)と甲第18号証(摘示事項(甲18-ア)(甲18-イ)参照)に示される測定値を根拠に濃縮後の汚泥中に多くの硫酸イオンが存在する旨主張するが、それらは濃縮後の汚泥中の硫酸イオンの測定値としては測定条件等に欠陥のあるものであり、甲第4号証発明で「二酸化塩素と塩化亜鉛」を併用添加する箇所である「汚泥貯留タンク11」は、「汚泥濃縮タンク10」で濃縮される段階で硫酸還元菌が十分に活動し既に硫酸イオンを消費し尽くされた汚泥が供給される箇所であるから、当該「汚泥貯留タンク11」に硫酸イオンは存在せず、当該「汚泥貯留タンク11」へ亜硝酸塩を添加しても硫化水素発生防止に何らの効果も有さない。(上申書(平成22年6月3日付け)33~37頁)
(b)甲第4号証の「二酸化塩素および塩化亜鉛」と甲第2号証の「亜硝酸塩」の脱臭作用は作用機序も剤数も相違するから、前者の薬剤に代えて後者の薬剤を代替適用することはできない。(上申書(平成22年6月3日付け)3~15頁)
(c)亜硝酸塩は、一般的にどこにでも存在する大腸菌に効かない限り、メチルメルカプタンの発生を抑制する効果はない。亜硝酸塩は大腸菌に効果がないことは、甲乙各号証の例えば次の(i)~(iv)の記載、論証により明らかである。(上申書(平成22年6月3日付け)16~18頁、上申書(平成22年6月17日)9~11頁)
(i)「亜硝酸塩はサルモネラ、大腸菌などの腸内細菌に対して、室温あるいは30℃に近い過酷な環境では、ほとんど無効であるばかりか、Salmonella Typhimuriumによって、亜硝酸は窒素源としてアンモニア同様に資化されることが報告されている」(甲第6号証171頁15~18行、上申書(平成22年6月3日付け)17頁)
(ii)甲第6号証の表IV-62では、大腸菌(10株混合物)は25~35℃でpH6.2とpH5.6の場合に亜硝酸ナトリウムを添加しても「1週間以内に発育」している(甲第6号証172頁 表IV-62、上申書(平成22年6月3日付け)17頁)
(iii)乙第11号証のTABLE II(甲第6号証の表IV-62の元の表)では、pH6.8の場合に亜硝酸ナトリウムを添加しても「1週間以内に発育」している。(乙第11号証189頁TABLE II、上申書(平成22年6月3日付け)18頁)
(iv)下水汚泥にはpH7程度の場合が普通に存在するところ、表IV-62とTABLE IIでpHの最も大きなpH6.8の場合にも、亜硝酸塩の添加量として最大の400μg/mL添加の場合であっても、15℃以上では「1週間以内に発育」している。また、表IV-62とTABLE IIのいずれのpHの場合にも、亜硝酸塩の添加量として最大の400μg/mL添加の場合であっても、25℃以上の場合には「1週間以内に発育」しており、これは、下水汚泥からの臭気が深刻な問題となる夏季において亜硝酸塩が大腸菌に対して抗菌作用が発現しないことを示している。
すなわち、亜硝酸塩は、pHが大きい又は温度が高い場合には大腸菌に対して抗菌作用が発現しないものであり、pHが大きい又は温度が高い場合があり得る下水汚泥において、抗菌効果は期待できない。(上申書(平成22年6月3日付け)18頁、上申書(平成22年6月17日)9~11頁)
(d)食品に関する技術分野と下水汚泥に関する技術分野とでは、菌の生育環境に大きな差異があり、食品に関する技術分野についての甲第6号証、甲第7号証の技術手段を、下水汚泥に関する技術分野の技術手段として類推適用することはできない。
すなわち、甲第4号証には汚水汚泥に関する技術手段が記載されており、同技術手段においては、例えば以下の(i)~(iii)に示すように、抗菌作用を受けるべき微生物の量と種類が、甲第6、7号証の食品微生物の分野に関する技術手段と比べてきわめて多く、また、蛋白質、脂肪、その他の有機物や無機物あるいは分析不能の未知物質等種々雑多に存在するから、両者間で菌の生育環境が大きく相違するので、甲第6、7号証の食品微生物の分野に関する技術手段を甲第4号証の汚水汚泥に関する技術手段に類推適用することはできない。(上申書(平成22年6月3日付け)19~22頁、上申書(平成22年6月17日付け)12~13頁)
(i)乙第8号証282頁の表11.19の記載で、例えば「ロースハム製品(二次包装なし)」は「生菌数1.2×103、乳酸菌数5.2×102、大腸菌群数10>」(上申書(平成22年6月3日付け)20頁)なので、亜硝酸ナトリウムが腐敗防止を期待されるのは多くとも103個/gぐらいにすぎない。
これに対して、「活性汚泥混合液中の細菌数は107~108個/mL、余剰汚泥中の細菌数は108~109個/ml」(乙第9号証57頁、上申書(平成22年6月3日付け)20頁)もあって、「ロースハム製品(二次包装なし)」という食品の技術分野と下水汚泥の技術分野とでは菌数だけで105~106倍すなわち十万倍から百万倍も相違することになり、亜硝酸塩を添加する微生物環境があまりに相違するため、食品の技術分野での技術手段を下水汚泥の技術分野に適用しても、下水汚泥において食品の技術分野で奏した効果が発現するかどうか疑わしく、食品の技術分野での技術手段を下水汚泥の技術分野に適用することは考えがたい。(上申書(平成22年6月3日付け)20~21頁)
(ii)甲第6号証の172頁の表IV-62、乙第11号証の189頁のTABLE IIの実験は、大腸菌の細菌数が「104cells/bottle」であるものに対して亜硝酸ナトリウムの添加が行われたもので、上記したように下水汚泥の分野とは菌数が大きく相違する実験であり、当該実験結果をもとに、亜硝酸ナトリウムを下水汚泥へ適用しても同様の結果が得られるという蓋然性は見いだせない。(上申書(平成22年6月3日付け)21頁)
(iii)乙第10号証の摘示事項(乙10-ア)の摘示から、「腸管病原性大腸菌」は「Salmonella」と同様の傾向を示し、「乳酸発酵ソーセージ」での「Salmonella菌」に対する「亜硝酸ナトリウム」の添加実験で、菌接種量が低く、亜硝酸ナトリウムの添加量が最も大きいもので最初にSalmonella菌の死滅が起きたと解される。
すなわち、「腸管病原性大腸菌」でも、接種菌量が大きくなると亜硝酸ナトリウムの抗菌効果は低下すると言えるから、菌量のきわめて多い下水汚泥中での亜硝酸ナトリウムの抗菌効果は発現しないと考えられる。(上申書(平成22年6月3日付け)21~22頁、上申書(平成22年6月17日付け)12~13頁)
以下に、上記(六)(a)~(d)の被請求人の主張について、順次検討する。
(a)について
甲第2号証の摘示事項(甲2-イ)や甲第28号証の摘示事項(甲28-ア)に記載されるように、硫酸還元菌は硫酸イオンがあればこれを還元して硫化水素を発生するものであり、確かに硫酸イオンが少なければ硫酸還元菌によって発生する硫化水素の量も少ないと考えられるが、それは硫酸イオンの多寡という相対的な問題にすぎず、硫酸イオンがあれば硫酸還元菌によって硫化水素が発生する以上、それを防止するための亜硝酸塩添加の技術的意義は失われるものではないから、被請求人の主張には理由がない。
また、仮に、甲第4号証発明で「二酸化塩素と塩化亜鉛」を併用添加する「汚泥濃縮タンク10」の後の「汚泥貯留タンク11」で硫酸還元菌が活動し硫酸イオンが消費されて少なくなったとしても、以下のとおり、硫酸還元菌でない微生物によって硫化水素が発生する可能性があり、その場合に、亜硝酸塩が、硫酸還元菌でない微生物により硫酸イオンではない含硫黄有機物が分解されて硫化水素が発生するのを抑制出来るか否かについて検討する。
すなわち、まず、上記「(三)」で述べたように、下水の汚泥スラリー中には含硫アミノ酸であるシステインが豊富に存在する。
システインから硫化水素を発生させることのできる硫酸還元菌でない細菌について、甲第8号証の摘示事項(甲8-イ)の(1)式には、システインから硫化水素を発生させる反応式が示され、同(甲8-ウ)には「(1)」式の「反応は酵素(Cysteine desulphydrase)をもつプロテウス・モルガニー(Proteus morganii)、Streptococcusによって進行する。」と記載されている。
なお、「Proteus vulgaris、Saccharomyces cerevisie等の腐敗菌」によって、上記(甲8-イ)の(1)式と同義の反応式の反応に基づいて、システインから硫化水素が生成されることは、例えば特開平1-159099号公報の2頁左下欄にも開示されている。
以上のことから、Streptococcus属、Proteus vulgarisはシステインから硫化水素を生成するものといえる。
そして、システインから硫化水素を生成するStreptococcus属、Proteus vulgarisに対して亜硝酸塩は抗菌効果を有するかについては、甲第6号証の上記摘示事項(甲6-イ)には「亜硝酸の抗菌作用がpHに影響され・・亜硝酸の抗菌作用が、特定の細菌、例えば・・・Streptococcus salivarius、Str.mitis、Str.pyogenes、・・・Proteus vulgarisなどに対して、嫌気的培養では好気的培養に比べて著しく高められる(低い濃度で発育を阻止する)ことが、表IV-61のように示されている。」と記載され(「Str.」は「Streptococcus」の、「P.」は「Proteus」のそれぞれ短縮形である)、同(甲6-ウ)には、「亜硝酸の微生物に対する発育阻止濃度(pH6.6~6.7)」に関して、同(甲6-イ)で記載されるものについて次のように記載されている。また、甲第30号証の摘示事項(甲30-ア)にも同様に記載されている。
上記のことから、亜硝酸塩は、Streptococcus属とProteus vulgarisに対しては嫌気的条件下でpH6.6~6.7で抗菌作用が著しく高められることがわかる。
ところで、Streptococcus属とProteus vulgarisは下水の汚泥スラリー中に存在するかについては、甲第7号証の摘示事項(甲7-イ)には「下水細菌という固有の細菌はないが、有機物を豊富に含んだ下水中には糞便細菌・水生細菌・土壌細菌の濃厚混合汚染を受けかつ下水中で増殖が行われるので、特有のミクロフローラが形成される。その特徴とするところは、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属しているゼラチンを溶解する作用の強いCloaca属と呼ぶ狭義の下水細菌がEscherichia coliやProteusとともに豊富にいる」と記載され、「Proteus属」が下水中に存在することが示されている。
また、同(甲7-ア)に「水生細菌を構成しているフローラはPseudomonas・・などの・・淡水菌種・・および海水菌種(sea-water species)、Proteus、Serratia、Aerobacter、Escherichia等の下水および糞便細菌、・・が主要なもので、これに・・Clostridium、Streptococcus、腸内病原菌等が参加する」とあるように、「Streptococcus属」が、「下水および糞便細菌」や上記(三)の検討から下水中に存在するとされる「Pseudomonas属」「Clostridium属」と共に水生細菌として存在するから、「Streptococcus属」が甲第8号証の摘示事項(甲8-ウ)の当審注2で記したように腸内細菌であり、屎尿糞便中に存在することを考えると、「Streptococcus属」は屎尿糞便等の混在する下水中にも下水及び糞便細菌等と共に存在すると言い得る。
そして、乙第9号証の摘示事項(乙9-イ)には「下水中には、ふん便からの腸内細菌や土壌等の自然界に由来した細菌が存在している。・・・これらの細菌は固形質に付着しやすい性質があるため、最初沈殿池ではSSと共に沈殿し、生汚泥や混合汚泥に濃縮される。」とあって、下水中に様々な細菌が濃縮されることが明らかであり、これらのことから、Streptococcus属、Proteus vulgarisも下水中に存在することが示されており、下水の汚泥スラリー中にもそれらが豊富に存在することが示されているといえる。
したがって、下水の汚泥スラリー中に存在し硫化水素を発生させるStreptococcus属とProteus vulgarisに対して一定条件下で亜硝酸塩は抗菌効果を有するといえるから、亜硝酸塩は、硫酸還元菌でない微生物により含硫黄有機物が分解されて硫化水素が発生するのを抑制出来るという効果を有するものといえる。
(b)について
甲第4号証発明の「二酸化塩素および塩化亜鉛」の作用機序と剤数について検討する。
甲第25号証の摘示事項(甲25-ア)に「[塩素系殺菌剤]塩素系殺菌剤としては、この分野で使用されている塩素系殺菌剤は・・・安定化二酸化塩素・・・を挙げることができる」とあり、(甲26-ア)に「二酸化塩素(ClO2)は、下記の式で表される反応により、非常に酸化力の強い、すなわち殺菌性の強い原子状の酸素を発生する。ClO2 → ClO + O用途」とあり、(甲26-イ)に「希釈された二酸化塩素は・・・微生物及び微小動物に対する殺菌・殺虫作用はきわめて強く・・・殺菌力を有する」とあり、(甲27-ア)に「ClO2は強力で有効な漂白剤および水処理剤として広く利用されている」とあり、(甲27-イ)に「ClO2 の細菌、ウイルス、胞子等に対する殺滅力の強さについてはきわめて多くの報告がある。総括していえば、ClO2 は塩素処理に十分代替できる効力をもち」とあり、また、被請求人も上申書(平成22年6月3日付け)9頁下から4~3行で「二酸化塩素に殺菌作用があるのは事実である」と述べていることから、二酸化塩素は抗菌作用を有するといえるものである。
さらに、上記(甲26-ア)にあるように、二酸化塩素の抗菌作用は、非常に酸化力の強い、すなわち殺菌性の強い原子状の酸素に原因するものであることから、原子状の酸素の強力な酸化力は、既に発生しているメルカプタン、硫化水素自体にも化学的に作用してこれらを分解できるものであることも自明と言い得る。なお、このことは例えば特開平10-24095号公報(【0003】)、特公昭61-4544号公報(2欄12行~3欄24行)の同様の記載からも強く裏付けられるものであることを付記しておく。
すなわち、二酸化塩素は化学的にも抗菌的にも作用し得る薬剤と言い得る。
一方、塩化亜鉛については、甲第5号証についての摘示事項(甲5-ウ)に「・・・一般に、汚泥の消・脱臭凝集剤や脱臭剤と呼ばれて、大量に使用される。これらの多くは・・・亜鉛を含む・・・汚泥や汚水中の硫化水素、メチルメルカプタン・・・などの臭気物質との化学反応、化学結合による臭気の除去と説明されることが多い。しかし、汚泥中にはこれらの臭気物質よりも化学反応性の大きい物質が多量に存在する中で、臭気物質のみがこれらの添加物と選択的に反応することはなく、添加薬剤による汚泥、汚水相の内部環境の変化、すなわち汚泥・汚水中の細菌類の活動抑制による臭気物質発生の低下が支配的であると考えられる」とあり、脱臭のために化学剤として添加した「亜鉛」を含む薬剤も、抗菌剤として作用していることがあり得るものである。さらに付け加えておくと、例えば、特開平10-128395号公報(【0002】【0003】)や国際公開WO96/10917号(16頁8~14行)の記載から、塩化亜鉛は抗菌的に作用し得るものということが確認できる。
もっとも、単独で添加される場合には、「・・・塩化亜鉛は単独でも硫化水素とは容易に反応して速やかに硫化亜鉛に変化せしめられて不動態化される・・・」(甲第4号証【0022】)とあるので、硫化水素と化学的に反応して硫化亜鉛として不動態化するという作用機序もあり得るから、塩化亜鉛についても、化学的にも抗菌的にも作用し得る薬剤と言い得る。
そして、上記「7-4-1-1.甲第4号証に記載の発明」で検討したように、甲第4号証発明においては、二酸化塩素および塩化亜鉛を併用して添加することで、硫化水素とメチルメルカプタンの濃度が低下して維持されるという両剤併用の相乗効果を有するものであるところ、当該相乗効果が両薬剤のどのような作用機序によって奏されるものかは判然としない。
しかし、上記甲第5号証の記載について検討したように、脱臭のために化学剤として添加した薬剤も、抗菌剤として作用していることがあり得るものであり、また、少なくとも二酸化塩素については、上記で見たように、その抗菌作用が原子状の酸素に起因する非常に強い酸化力を原因とするものであることから、上記両剤併用の作用機序がいかなるものであったとしても当該抗菌作用が上記作用機序に影響しないものとは考えがたく、また、塩化亜鉛についても、全ての亜鉛イオンが硫化水素と不働態を形成するものかは定かでなく、抗菌的に作用するものが皆無であるとの確証もないから、元々抗菌的に作用し得る薬剤であることは上記のとおりであるから、その一部は上記作用機序に抗菌的に作用するものと推認される。
したがって、甲第4号証発明における二酸化塩素および塩化亜鉛は、それらの併用添加によって、硫化水素とメチルメルカプタンの脱臭に化学的にも抗菌的にも作用し得るものといえ、同号証の【0016】の記載は既に発生している硫化水素とメチルメルカプタンに対して二酸化塩素および塩化亜鉛が化学的に作用することを記載したものといえる。
すると、上記で検討したように、亜硝酸塩も、硫化水素とメチルメルカプタンの脱臭に化学的にも抗菌的にも作用し得るものであるから、「二酸化塩素と塩化亜鉛」と亜硝酸塩とは、下水の汚泥スラリーの処理に添加された場合に共に硫化水素とメチルメルカプタンの脱臭に化学的にも抗菌的にも作用し得るものであり、二酸化塩素及び塩化亜鉛という二剤を要するものを、亜硝酸塩という一剤にすることは、取扱いの容易性からも当然に指向されることであるから、被請求人の主張には理由がない。
(c)について
被請求人は、甲第6号証の表IV-62(甲第6号証の摘示事項(甲6-オ)参照)及び乙第11号証のTABLE II(乙第11号証の摘示事項(乙11-エ)参照)の記載から、亜硝酸塩はpHが大きい又は温度が高い場合には大腸菌に対して十分な抗菌作用が発現しないから、特に脱臭の必要性の高い夏季の高温期と、普通に存在するpH7以上の汚泥に対して亜硝酸ナトリウムの抗菌効果を期待できない旨を主張する。
しかし、表IV-62においてpH5.6で亜硝酸塩添加量400μg/mLの場合に、温度20℃以下の場合には「10週間以上発育せず」となっており、同じく亜硝酸塩添加量200μg/mLの場合に、温度15℃以下の場合には「10週間以上発育せず」となっており、甲第6号証の摘示事項(甲6-ア)の記載に符合するように、「Esherichia」に対して亜硝酸塩の作用はpH6.0以下で強くなり、0.02%(200ppm)で発育が阻止されるものといえる。
さらに、季節により25℃以下の場合の条件も多く存在し、また、汚泥のpHも種々の条件によって例えば次のように様々なpH(7未満)を採り得るものである。
・「濃縮汚泥」の「pH 6.1」(甲第17号証 18頁、25頁の図3.8)
・「濃縮汚泥」の「pH 6.4」(甲第17号証 36頁、38頁の図3.13)
・「濃縮汚泥」の「pH 6.0」(甲第19号証 44頁の表2)
また、乙第5号証の摘示事項からは次のようなpHも採り得ることがわかる。
なお、乙第5号証は、本件特許の出願前公知のものではないが、甲第16号証(摘示事項(甲16-ウ)~(甲16-ケ)参照)、甲第15号証(摘示事項(甲15-ア)~(甲15-ウ)参照)の記載によると、乙第5号証に記載される各水処理場の運転が本件特許の出願前からなされているとみることができるので、この乙第5号証には、当該の各水処理場における汚泥濃縮工程後に検出される硫酸イオン等の数値が示されているものとしてこれを参照した。(甲第15号証も本件特許の出願前公知のものではないが、各水処理場の運転について甲第16号証と同内容なので、その限りでこれを参照した。)
○砂町水処理センター/東部スラッジプラント汚泥・分離水等分析 H14.3.5(火)
・「D 同重力濃縮」の場合「pH」は「5.49」
・「G 同重力濃縮」の場合 「pH」は「5.98」
○森ヶ崎/南部スラッジプラント汚泥・分離水等分析 H13.10.30
・「H 重力濃縮汚泥」の場合「pH」は「5.03」
○森ヶ崎/南部スラッジプラント汚泥・分離水等分析 H14.2.5
・「O 重力濃縮汚泥」の場合「pH」は「5.83」
○小菅/葛西汚泥・分離水等分析 H13.11.6
・「G 重力濃縮汚泥」の場合「pH」は「5.55」
○小菅/葛西汚泥・分離水等分析 H14.2.19
・「G 重力濃縮汚泥」の場合「pH」は「5.09」
すなわち、亜硝酸塩は、pHが比較的小さい又は温度が比較的低い場合には大腸菌に対して抗菌作用が発現するのであって、pHが比較的小さい又は温度が比較的低い場合が下水汚泥において普通にある以上、少なくともその場合に、亜硝酸塩を下水汚泥へ適用すれば大腸菌に対する抗菌作用が発現するといえる。
さらに、本件第1発明において亜硝酸塩の添加対象である「汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリー」の温度、pH共にその範囲を規定するものではないから、通常の下水汚泥としてあり得る温度やpHの条件下で亜硝酸塩は大腸菌に対する抗菌作用が発現するのだから、それは本件発明に包含されるものといえる。
以上から、被請求人の主張には理由がない。
(d)について
被請求人は、上記i)~iii)に基づいて、甲第6、7号証の食品微生物の分野に関する技術手段を甲第4号証の汚水汚泥に関する技術手段に類推適用することはできない旨を主張する。
しかしながら、まず、甲第7号証についてみると、これは確かにその表題を「食品衛生学」とするものであるが、食品を汚染する微生物の由来の一つとして下水中の細菌についても詳細に記述するものであるから、これを検討することが適当でないとは言えない。
次に、甲第6号証について検討すると、被請求人が主張する乙第8号証での「ロースハム製品(二次包装なし)」での菌数と下水汚泥でのそれとは隔たりがあるとしても、甲第6号証で摘示した箇所は亜硝酸塩の抗菌作用について従来からの報告に基づく記載であり、これが必ずしも食品製品において云々しているものとは見ることができない上に、微生物の量、種類、生育環境によって適用できないとする根拠も見いだせない。
なお、被請求人の主張する乙第10号証の記載を見ても、大腸菌やSalmonella菌では菌数が100,000で130μg/gの亜硝酸塩の添加量でそれらの菌が死滅するものであり、そのことをもってただちに菌量がとても大きい場合に亜硝酸塩の抗菌作用が低下するとまではいえない。
そして、下水汚泥中と同じ細菌について他の技術分野で有効な抗菌性薬剤が判明していれば、下水汚泥に対しても当該薬剤の使用を試みることは当業者の当然に指向されるところであり、その際に、下水汚泥の技術分野と他の技術分野とでは、対処すべき細菌数やその周囲環境の相違することはむしろ当然であって、細菌数やその周囲環境、目的とする抗菌状況の程度等に対応して薬剤の投与条件等を調整して抗菌効果の最大となるようそれらを最適範囲に調整することは当業者であれば当然の対応と言うべきである。
以上から、甲第6号証の食品微生物の分野に関する技術手段である抗菌手段としての亜硝酸塩の添加を、甲第4号証の下水汚泥に関する技術手段に適用することに格別の困難性は見いだせない。
以上から被請求人の主張には理由がない。
なお、乙第8号証は同号証に関する摘示事項(「5-2.乙各号証の記載(9)」)の冒頭に示すように「1998年6月25日初版第1刷発行、2003年10月25日初版第3刷発行一部改訂」であって、「一部改訂」箇所が不明なためその公知性が明らかではないが、引用箇所である282~283頁の記載内容は主としてハム製造工程での細菌に関する記述であり、1998年6月25日~2003年10月25日の期間でハム製造工程の技術の変化について当審で調査したが特段の技術の変化は認められなかったので、乙第8号証の上記引用箇所の記載は1998年6月25日初版第1刷発行時点でのものと認められ、また、乙第8号証の非公知性について当事者間に争いはないので、乙第8号証を公知文献として扱う。
(七)以上をまとめると、甲第4号証発明の「二酸化塩素と塩化亜鉛」と、甲第2号証に記載された技術手段における亜硝酸塩は、共に、硫化水素、メチルメルカプタンを抗菌的にも化学的にも脱臭できるものであり、脱臭剤から重金属汚染やダイオキシン発生の原因となる物質を除去することの必要性は周知の課題であることから、甲第2号証、甲第4号証、甲第5~10号証、甲第12号証および上記周知技術に基づいて、甲第4号証発明の「二酸化塩素および塩化亜鉛」に代えて甲第2号証に記載の技術手段における「亜硝酸塩」で代替することに格別の困難性は見いだせない。
そして、甲第4号証の摘示事項(甲4-カ)から、「汚泥濃縮タンク10」から「汚泥貯留タンク11」へ「濃縮汚泥」が流入することが視認され、同(甲4-エ)には「実施例4 T浄化センターの汚泥貯溜タンク(11)における汚水濃縮汚泥への二酸化塩素と塩化亜鉛との混合水溶液添加」とあることから、甲第4号証発明では、二酸化塩素と塩化亜鉛の添加場所は濃縮された汚泥の貯留される「汚泥貯溜タンク(11)」であるから、二酸化塩素と塩化亜鉛に代えて添加される亜硝酸塩も「汚泥貯溜タンク」に添加されるといえる。
7-4-1-4.相違点Bについて
甲第2号証の摘示事項(甲2-ウ)には「従来、硫酸還元菌による硫化水素の発生を防止する方法としては殺菌剤や酸化剤を添加したり、加熱殺菌したり、pH調整を行なう方法などが知られている。しかし、殺菌剤は一般に高価であり、安価な塩素は毒性および腐食作用を有し好ましくない。また、空気の吹込みやH2O2の添加も有効な手段であるが、硫酸還元菌の増殖の程度によつては適用できないことがある」と記載され、甲第28号証の摘示事項(甲28-イ)にも同様に「従来、硫酸還元菌による硫化水素の発生を防止する方法としては、例えば殺菌剤を添加する方法、酸化剤を添加又は空気を吹込む方法、加熱殺菌する方法、pH調整を行う方法などが知られている。しかしながら、殺菌剤を添加する方法においては、殺菌剤は一般に高価であり、また塩素は安価であるが、毒性を有し、かつ金属の腐食をもたらすため、好ましくない。過酸化水素などの酸化剤を添加する方法や空気を吹込む方法は有効な手段であるが、硫酸還元菌の増殖の程度によっては適用できないことがある。」と記載され、さらに、甲第5号証の摘示事項(甲5-カ)には「・・・過酸化水素(H2O2)・・・が添加される。これらの下水汚泥の凝集・脱水助剤は、本来の有機物酸化と脱水性改善の効果と共に汚泥の臭気の発生にたいする抑制効果をもつことから、「下水汚泥の脱臭剤や消臭剤」と云う商品名で市販され・・・しかしながら、実際には、これらの添加の薬剤による臭気低減効果の持続性が非常に短く、薬剤の添加で、一時、汚泥から発散する硫化水素濃度(量)が減少するものの数時間後では添加前を上回る発生となる」と記載されるように、下水汚泥への過酸化水素の添加は、下水汚泥中の菌の状況に左右され、また添加しても効果の持続時間が短いため、有効な手段でなかったことは周知のことといえるし、他の薬剤と併用した場合に必ずしも所期の効果を奏し得るかは定かではなく、そもそも甲第2号証に記載の技術手段において過酸化水素を添加しないのだから、過酸化水素の使用について特定されない甲第4号証発明において、過酸化水素を添加しないことを選択することに格別の困難性は見いだせない。
7-4-1-5.相違点Cについて
(一)上記相違点Aの検討から、甲第4号証発明の脱臭薬剤である「二酸化塩素および塩化亜鉛」に代えて甲第2号証に記載の技術手段における「亜硝酸塩」を適用することに格別の困難性は見いだせない。
そして、上記「7-4-1-3.相違点Aについて」の「(四)」で述べたように、亜硝酸塩添加後の亜硝酸イオンが亜硝酸イオン(NO2-)、酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(N2O)を経由して、ガス状窒素(N2)にしだいに還元されていく過程は周知の事実であり、当該還元過程で周囲には酸化作用が及ぼされて硫化水素(H2S)、メチルメルカプタン(CH3SH)は別の物質になり消臭されるであろうと推認される。
また、このときの酸化作用は、上記「7-4-1-3.相違点Aについて」の「(六)(b)について」で検討したように、「二酸化塩素と塩化亜鉛」の場合には、少なくとも二酸化塩素の抗菌作用が原子状の酸素に起因する非常に強い酸化力であることを考えると、「二酸化塩素および塩化亜鉛」の添加による脱臭効果は即効性であるのに対して、亜硝酸塩の添加による場合には、脱臭効果は、脱窒反応(甲第28、29号証)における亜硝酸塩の酸化還元反応に伴う酸化力によるものであり、脱窒反応自体が以下に記すように反応速度が遅く、亜硝酸塩の酸化還元反応に基づく酸化力も「二酸化塩素および塩化亜鉛」の酸化力に比べれば十分弱い酸化力と考えられるため、脱臭効果を奏するのにより時間を要するものと推定され、また、作用機序こそ明らかではないが、亜硝酸塩は抗菌作用を有し、それは菌の細胞膜を変質させるかあるいは細胞膜を透過して作用する等が考えられ、いずれにしても亜硝酸塩が添加されて抗菌作用の発現するまでにある程度の時間を要するものと考えるのが自然である。
すなわち、亜硝酸塩は所期の効果が発現するまでに添加からある程度の時間を要することが推認される。
そこで、その時間がどのくらい掛かるかを検討するに、被請求人は「15分の数値は、15分以下においても本特許発明の効果があるものを、はずしている可能性は十分あり得る。その意味で臨界値ではない可能性があるが、本特許の効果の結果を根拠に設定したものである。そして、本特許の発明の効果自体に、臨界的数値を決められないので、接触時間の下限値は、実用状態を総合的に観察して、主観的に決定する以外に、方法はない。本特許の接触時間は、実施例の結果及び脱水ケーキ製造の実態から決定したものである」(上申書(平成22年6月3日付け)25頁)と述べており、これは本件第1発明の「亜硝酸塩を添加して15分以上経過した後に、脱水処理する」の「15分」という下限値が、実験した範囲での下限値であって、より短い時間になる可能性を認めており、「15分」という下限値自体には特段の技術的な臨界性はないことを示すものといえる。
ここで、甲第4号証発明は、甲第4号証の記載中に明示こそないが、例えば【図1】を見ると「汚泥濃縮タンク10」で濃縮された後の「濃縮汚泥」を「汚泥貯留タンク11」に貯留し、貯留された「濃縮汚泥」をその後の「汚泥脱水機12」で脱水するものであるといえる。このことは、甲第3号証の摘示事項(甲3-ア)(甲3-イ)に、甲第4号証発明と同様の「濃縮槽5」「貯留槽6」「脱水機7」の順で実施される処理工程において、汚泥は、「濃縮槽5で濃縮され、この濃縮汚泥は貯留槽6を経て脱水機7でケーキ化され」るものであることからも明らかである。
さらに、上記「7-4-1-3.相違点Aについて」の「(七)」の末尾で述べ、甲第4号証【0033】に明示されるように、甲第4号証発明での「二酸化塩素および塩化亜鉛」の添加場所は「汚泥貯留タンク11」だから、甲第2号証の「亜硝酸塩」を、甲第4号証発明の「二酸化塩素および塩化亜鉛」に代えて添加する場所は、甲第4号証発明の「汚泥貯留タンク11」である。
そして、甲第11号証の摘示事項(甲11-ア)には「・・・汚泥を、脱水機に安定して供給するとともに、引抜き汚泥の均質化をはかるため、汚泥貯留タンクを設ける。汚泥貯留タンクの容量は、脱水設備の種類、運転の態様によって決定される。近年、週休2日制の一般化、年休の増加あるいは処理場の労働環境の改善といった社会的情勢の変化がある。これらを勘案し、脱水機の運転時間を昼間8時間とすると、汚泥貯留タンクの容量は、18時間を標準とするのが望ましい」と記載され、甲第17号証の摘示事項(甲17-ア)には「濃縮槽での汚泥の投入、引抜きは断続的に定時に行われるため、濃縮槽越流水、消化槽脱離液の沈砂池への返送も断続的となる。なお、脱水機の運転は9時30分~11時30分、13時~15時であり」と記載されるように、汚泥処理施設における脱水機の運転は断続的であるので、脱水機に供給される前に、汚泥は、数時間の間、脱水機前の装置で貯留されることは周知技術ということができ、甲第4号証発明においても、「汚泥濃縮タンク10」で濃縮された後に「汚泥貯留タンク11」で貯留される「濃縮汚泥」が「汚泥脱水機12」で脱水されるまでに、脱水設備の種類、運転の態様等の種々の条件に応じて、脱水機前の装置である「汚泥貯留タンク11」で数時間の間貯留されるものということができる。
そうであれば、亜硝酸塩は下水汚泥に添加されてから効果が発現するまである程度の時間を要し、実際の汚泥処理施設では貯留された汚泥が脱水されるまでに数時間を要するのが通常であるから、甲第4号証発明でも、亜硝酸塩が添加された後に脱水されるまでの間に通常数時間を要し、脱水されるまでの間に十分に亜硝酸塩の効果が発現するものと推認される。
また、亜硝酸塩が下水汚泥に添加されてから効果が発現するまでの時間の下限値を15分とすることは上記のように技術的臨界性に乏しく、添加から脱水するまでに亜硝酸塩の効果が発現するまでの時間をとることが出来ればよいのだから、当該時間は、亜硝酸塩の添加量、汚泥の性状、脱水の態様等の種々の条件に応じて適宜決定され得るものということができる。
したがって、甲第4号証発明の脱臭薬剤である「二酸化塩素および塩化亜鉛」に代えて甲第2号証に記載の技術手段における「亜硝酸塩」を適用することに伴って、汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリーに「該混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する15分以上前」に「亜硝酸塩」を添加して脱水処理することに格別の困難性は見いだせない。
○脱窒反応は反応速度が遅いものであることを示す文献の例示
(例1)特開平5-261392号公報「嫌気槽では脱窒菌の作用によって硝酸性窒素(NO3-N)を還元して窒素ガスにする脱窒反応が行われ」(【0002】)、「硝酸性窒素を窒素ガスにする脱窒速度・・・が小さく」(【0003】)
(例2)特開平7-313991号公報「嫌気槽では脱窒菌の作用によって硝酸性窒素(NO3-N)を還元して窒素ガスにする脱窒反応が行われ」(【0002】)、「硝酸性窒素を窒素ガスにする脱窒速度・・・が小さく」(【0003】)
(例3)特開平9-225496号公報「・・・硝化菌、脱窒菌という特殊な微生物を利用した生物学的処理方法」(【0002】)、「現在、排水処理分野で採用されているのは(3)の生物学的的処理方法が殆どである。この方法は常温、常圧で運転できることが大きな特徴であるが、反面、反応速度が小さく・・・」(【0003】)
(二)被請求人は、相違点Cについて、本件第1発明の「亜硝酸塩を添加して15分以上経過した後に、脱水処理する」という特定事項が各証拠から示唆されるものではないことを概ね以下の(i)~(iii)の点を指摘して主張している。
(i)甲第11号証の貯留時間18時間の記載は、脱水機直前の貯留槽に関する記載でなく、甲第4号証に示された特定の「汚泥貯留タンク11」に脱臭剤を添加した場合の貯留滞留時間を示唆するものではない。また、甲第15~16号証及び参考資料1~10の記載も、甲第4号証の「汚泥貯留タンク11」の滞留時間を直接示すことにはならない。(上申書(平成22年6月3日付け)22頁)
(ii)甲第4号証において、脱臭剤添加後の悪臭成分の除去程度を測定しているが、この測定は、独立したバッチ式の濃縮汚泥の実験であって、脱臭剤を添加し時間経過した後の濃縮汚泥スラリーの硫化水素及びメチルメルカプタン濃度を測定している実験であって、実際の流動状態の実験ではない。従って、甲第4号証の実施例では、脱水処理前の15分以上前又は3時間以上前の脱臭剤の添加は実現されていない。
すなわち、甲第4号証には、脱水処理前の15分以上前又は3時間以上前の脱臭剤添加の蓋然性はあるが、甲第4号証に脱水処理前の15分以上前又は3時間以上前の脱臭剤添加の構成が記載されていない以上、実質的に開示されていたことにならない。(上申書(平成22年6月3日付け)22~23頁)
(iii)本特許は、脱水ケーキの脱臭を、固形脱水ケーキでなく、分離前の液状の濃縮汚泥スラリーに脱臭剤を添加して行う点に特徴がある。そして、本願発明の作用効果は、液体中での亜硝酸塩と濃縮汚泥との接触時間を長くすればするほど、脱水ケーキの消臭効果が長持ちすることが、実施例1と2の対比及び実施例4と5の対比で証明されている。つまり、本願発明は、液相中で、亜硝酸塩と濃縮汚泥との接触時間を長くすることによって、脱水ケーキの脱臭を達成する発明である。
そして、その接触時間の下限値は、発明の効果程度によって、決定されるべきものである。本特許の場合は、製造した脱水ケーキを、運搬処理等で取り扱う処理時間が、それぞれ脱水ケーキの貯留状況によって異なる。その処理時間に対応して、脱水ケーキに要求される消臭時間が変化する。この消臭時間に対応して、本特許では、亜硝酸塩の適切な添加量、スラリー中での接触時間を変化させる。
要求消臭時間が同一の場合は、添加量を少なくすると、スラリー中の接触時間を長くすることでおおむね対応できる。
このように、スラリー中での適切な接触時間は、脱水ケーキの製造状態から決まる脱水ケーキの要求消臭時間、亜硝酸塩の添加量によって、変動する。従って、すべての実用状況を総括して、有効と思われる範囲を特定したのが、接触時間15分であり、特に、長時間までの脱水ケーキの消臭要求に対応できるのが、接触時間3時間である。3時間の限定は、実施例で、長時間の消臭効果が確認されている実施例2及び実施例5に基づく、3時間以上の限定である。そして、15分以上の限定は、実施例1、3及び4で、脱水ケーキの消臭効果が確認されていることによる限定である。
15分の数値は、15分以下においても本特許発明の効果があるものを、はずしている可能性は十分あり得る。その意味で臨界値ではない可能性があるが、本特許の効果の結果を根拠に設定したものである。そして、本特許の発明の効果自体に、臨界的数値を決められないので、接触時間の下限値は、実用状態を総合的に観察して、主観的に決定する以外に、方法はない。本特許の接触時間は、実施例の結果及び脱水ケーキ製造の実態から決定したものである(上申書(平成22年6月3日付け)24~25頁)。
以下に、上記(二)(i)~(iii)の被請求人の主張について、順次検討する。
(i)について
第一に、前述の「7-4-1-5.相違点Cについて」で甲第11、17号証を引用して述べたように、汚泥は数時間の間、脱水機前の装置で貯留されることは周知技術ということができる。
第二に、甲第15号証は非公知文献であり、甲第16号証の摘示事項(甲16-ア)(甲16-イ)に記載されるように「脱水機」直前の装置は「消化槽」であり、参考資料1~7、9~11については、施設の稼働開始時期の分かる記載がない、或いは、当該記載があっても本件出願日前でない、又は、「汚泥貯留タンク」が明示されていないものであるが、参考資料8については施設の稼働開始時期は平成7年((参8-ア)を参照)で、「濃縮タンク」で濃縮された「余剰汚泥」は「汚泥貯留槽に溜めた後、遠心脱水機により水分を下げて場外へ搬出」される((参8-イ)を参照)ので、これは本件出願前より「濃縮タンク」「貯留槽」「脱水機」の順で汚泥が処理されていたことを示すものといえる。
また、そもそも甲第4号証発明、甲第3号証に記載される技術手段が「濃縮タンク」「貯留槽」「脱水機」の順で汚泥が処理されることを示すものである((甲3-ア)(甲3-イ)(甲4-カ)を参照)からそのような順序で汚泥が処理されることは周知技術ということができる。
第三に、第一の検討で、汚泥が処理される施設においては、汚泥は脱水前に通常数時間は貯留されることは周知技術であり、第二の検討で当該施設で「濃縮タンク」「貯留槽」「脱水機」の順で汚泥が処理されることも周知技術だから、「濃縮タンク」「貯留槽」「脱水機」の順で汚泥が処理される場合に、汚泥の貯留を「貯留槽」よりも前の段階に戻って行うことは考えがたく、「濃縮タンク」「貯留槽」「脱水機」の順で汚泥が処理される場合に「貯留槽」で汚泥は脱水前に数時間は貯留されることは通常のことということができる。 そうであれば、甲第4号証発明においても、「汚泥濃縮タンク10」から「汚泥貯留タンク11」へ「濃縮汚泥」が流入し、「汚泥貯留タンク11」から「汚泥脱水機12」へ「供給汚泥」が供給されて「脱水ケーキ」として「汚泥脱水機12」から搬出される((甲4-カ)を参照)のだから、「汚泥貯留タンク11」で汚泥は脱水前に数時間は貯留されるのが通常の当該施設の運転状態ということができる。
(ii)について
甲第4号証には実際の流動状態の実験は記載されていないが、実験対象は実際の「汚水濃縮汚泥」(甲第4号証【0018】実施例1)であり、実際の流動状態で適用されれば所期の効果が発現するであろうことは十分に予測できることである。
そして、上記(i)で検討したように、甲第4号証発明では「汚泥貯留タンク11」で汚泥は脱水前に数時間は貯留されるのが通常の当該施設の運転状態であり、脱臭剤の添加場所は甲第4号証【0033】に明示されるように「汚泥貯留タンク11」であるから、該「貯留タンク11」へ脱臭剤が添加されれば、通常は、脱水前に「15分以上又は3時間以上」の間、汚泥は該「汚泥貯留タンク11」で貯留されることになるといえる。
(iii)について
上記「7-4-1-5.相違点Cについて」の「(一)」で述べたように、亜硝酸塩の抗菌作用は、作用機序こそ明らかではないが、菌の細胞膜を変質させるかあるいは細胞膜を透過して作用する等が考えられ、亜硝酸塩が添加されて抗菌作用の発現するまでにある程度の時間を要し、時間を掛けるほどより多くの菌に抗菌作用が働くから、脱臭作用も時間と共に増加するものと推認される。
他方で、甲第4号証発明では、「貯留タンク11」へ脱臭剤が添加されれば、脱水前に長時間にわたって汚泥は該「貯留タンク11」で貯留されることになるものである。
そして、上記相違点Aの検討から、甲第4号証発明の脱臭薬剤である「二酸化塩素および塩化亜鉛」に代えて甲第2号証に記載の技術手段における「亜硝酸塩」を適用することに格別の困難性は見いだせないことから、甲第4号証発明で、「貯留タンク11」へ「亜硝酸塩」が添加されれば、脱水前に長時間にわたって汚泥は該「貯留タンク11」で貯留されることになるので、その間に亜硝酸塩による脱臭効果が発現することは十分に予測され、所望の脱臭効果の発現に要する時間をどの程度にするかは、当業者が通常に成し得る範囲の実験等によって適宜定め得るものというべきだから、当該時間を「15分以上又は3時間以上」と定めることに格別の困難性は見いだせず、そのように脱臭された汚泥を脱水すれば、脱水後の脱水ケーキでも脱臭状態であろうことが推認される。
被請求人は、当該時間の下限値は実験によって定めたものだから、当該数値に技術的な臨界性がある旨を主張しているように推定されるが、当該実験を基礎づける知見である亜硝酸塩の効果の発現までに時間がかかるということが知られており、どの程度の時間を添加からおけばよいかという下限を調べるだけである以上、そのような実験が、当業者に可能な域を超えて過度な実験を要求するほどのものであるとは考えがたく、そのような当該時間の下限値の設定は、当業者が容易に推考し得る範囲のことというべきである。
以上から、被請求人の相違点Cに関する主張には理由がない。
7-4-1-6.相違点Dについて
本件訂正発明1の相違点Dに係る特定事項は、「亜硝酸塩」を「汚泥スラリー当り25~500mg/リットル」添加することであり、この特定事項について検討するに、
i)甲第6号証の摘示事項(甲6-ア)には「5.2 亜硝酸塩の抗菌作用の概要
亜硝酸塩の抗菌作用について・・・全ての種類の細菌の発育を阻止するわけではないが、その作用はpH6.0以下で非常に強くなり、0.02%で・・・Pseudomonas、・・・Escherichia・・・の発育が阻害される」と記載され、下水汚泥中のメチオニンからメチルメルカプタンを生成するPseudomonas属、Esherichia属に対して、亜硝酸塩がpH6.0以下で200ppmの添加で発育阻止能を発現させることが示されているといえる。
ii)そこで、本件訂正発明1の亜硝酸塩の添加量「25~500mg/リットル」の単位「mg/リットル」の「ppm」への換算を考える。
乙第9号証の摘示事項(乙9-ア)には「各種汚泥の比重は、表3.7に示すように、固形物濃度や汚泥有機分比によって変化するが、約1.002~1.04程度である」と記載され、汚泥の比重は1.002~1.04だから略1.0とみることができるので、汚泥1[リットル」=汚泥1000[cm3]は1000gだから、
25~500[mg/リットル]=25~500×10-6
=25~500[ppm]となる。
これは上記の200ppmを包含する。
むろんこの値は他の菌の活動抑制まで考慮したものではないが、Pseudomonas属、Esherichia属に対してはpH6.0以下でその活動を抑制出来る値ではあるし、本件訂正発明1は特段のpHの特定もないから、当業者であれば、少なくともPseudomonas属、Esherichia属に対して有効量である亜硝酸塩200ppmの添加を試みることに格別の困難性は見いだせない。
7-4-1-7.相違点Eについて
(一)本件訂正発明1の「脱水ケーキからの臭気を抑制する方法」であって「脱水ケーキからの前記臭気を持続的に抑制する脱水ケーキの脱臭方法」であること、すなわち「脱水ケーキからの臭気を持続的に抑制する脱水ケーキの脱臭方法」の技術的意義について検討する。
まず、請求人は、訂正請求書12頁で、「脱水ケーキからの前記臭気を持続的に抑制する」とは、脱水により水溶性の亜硝酸塩が脱離水に大量に移行しても脱水ケーキの脱臭効果が持続するということである旨を主張するから、これは、脱水ケーキ中に水溶性の亜硝酸塩があまり残っていなくても脱水ケーキの脱臭効果は続くことであると理解される。
そこで、「脱水」の効果に着目すると、この「脱水ケーキからの臭気を持続的に抑制する」ことについては次の二つの解釈ができると考えられる。
(A)亜硝酸塩が添加されて長時間たった汚泥に対し、脱水を施すことによって、脱水ケーキ中に水溶性の亜硝酸塩があまり残っていなくても、何らかの物理的化学的変化が亜硝酸塩におこるために、その結果として脱臭効果が強まるために脱水ケーキの脱臭効果が持続する。
(B)亜硝酸塩が添加されて長時間たった汚泥は十分に脱臭されており、当該汚泥を脱水して水溶性の亜硝酸塩が脱離水に大量に移行しても、元々脱臭されているから、脱水ケーキとなってからも脱臭効果が持続する。
次に、これらの解釈について検討するために訂正明細書の記載を検討する。
訂正明細書には、「脱水ケーキからの臭気を持続的に抑制する」ことについて、「汚泥脱水設備や脱水ケーキを脱臭するための薬剤は、従来は脱臭対象とする場所の直前の位置又は脱臭対象箇所に添加されることが多かったのに対して、亜硝酸塩・・・を汚泥スラリーに添加し、長時間経過したのち脱水することにより、効果的かつ持続的な脱臭を行い得ることを見いだした」(【0004】)と記載され、また、「本発明方法によれば、汚泥スラリーに亜硝酸塩・・・を添加して、硫酸還元菌や一般の微生物の活動を抑え、新たな悪臭成分の発生を抑制し、さらに、脱水後も脱水ケーキ中における微生物の活動を抑制し、脱水ケーキからの臭気の発生を防止することができる」(【0008】)と記載されており、これらの記載からは、脱水が亜硝酸塩に変化をもたらす旨の記載も示唆も見いだせない。
さらに、実施例のデータを見てみると、訂正明細書の【表1】(【0013】)には、亜硝酸塩を、添加量500mg/l(実施例4)、300g/ml(実施例1)、100mg/l(実施例3)で汚泥スラリーに添加し、添加から脱水までの放置時間0.25時間のときの当該汚泥スラリーの脱水ケーキの悪臭成分の濃度が、それぞれ、72時間後まで「nd」(「not detected」のこと。【0009】には「検出下限濃度は、硫化水素、メチルメルカプタンともに0.25ppmである。」と記載されており、検出下限濃度未満の濃度であることを意味する。)、24時間後まで「nd」、24時間後まで「nd」ただしそれ以後のデータなしとなっており、また、亜硝酸塩を、添加量500mg/l(実施例5)、300g/ml(実施例2)で汚泥スラリーに添加し、添加から脱水までの放置時間3時間のときの当該汚泥スラリーの脱水ケーキの悪臭成分の濃度が、それぞれ、72時間後まで「nd」、48時間後まで「nd」となっていることから、脱水ケーキの脱臭の持続は亜硝酸塩の添加量に依存することが理解される。
また、同【表1】には、亜硝酸塩を、添加量300g/mlで汚泥スラリーに添加し、添加から脱水までの放置時間0.25時間(実施例1)、3時間(実施例2)のときの当該汚泥スラリーの脱水ケーキの悪臭成分の濃度が、それぞれ、24時間後まで「nd」、48時間後まで「nd」となっており、また、亜硝酸塩を、添加量500g/mlで汚泥スラリーに添加し、添加から脱水までの放置時間0.25時間(実施例4)、3時間(実施例5)のときの当該汚泥スラリーの脱水ケーキの悪臭成分の濃度が、それぞれ、48時間後まで「nd」、72時間後まで「nd」となっていることから、脱水ケーキの脱臭の持続は亜硝酸塩の添加から脱水までの放置時間に依存することが理解される。
これらから、脱水ケーキの脱臭の持続は、汚泥への亜硝酸塩の添加量と、汚泥への亜硝酸塩の添加からの脱水までの放置時間に依存するものであるということができ、汚泥への亜硝酸塩の添加も、添加からの放置も、脱水前に行われることだから、脱水自体が、脱水ケーキの脱臭の持続という効果に影響することは窺えない。
すると、「脱水ケーキからの臭気を持続的に抑制する」ことの技術的意義は、上記(A)に記載するように脱水によって亜硝酸塩に何らかの変化が生ずることによって「臭気を持続的に抑制する」ものではなく、上記(B)に記載のように、「脱水ケーキからの臭気を持続的に抑制する」とは、汚泥に亜硝酸塩が一定量以上添加されてから脱水までに十分な時間が経過していれば、その後に脱水して水溶性の亜硝酸塩が脱離水に大量に移行しても、汚泥の段階で元々脱臭されているから、脱水ケーキも当然に脱臭されており、脱臭効果は持続するものであることを意味するに過ぎないものということができる。
すると、甲第5号証の摘示事項(甲5-イ)に「下水やし尿の処理施設の周辺における悪臭苦情の原因としては・・・脱水ケーキの貯蔵と搬出・・・が主なものである。これらのなかでも・・・汚泥の搬出において発生する臭気は大量で、多種の高濃度の臭気物質を含み、かつそれらの大気中への放散が非定常である。」とあり、また、上記摘示事項(甲5-カ)に「下水終末処理場における臭気の発生場所を下水の処理工程と共に示すと・・・生汚泥と余剰汚泥の濃縮槽(重力、加圧浮上)・・・汚泥の脱水処理(真空・加圧フィルター、遠心分離、薬剤固化)、脱水ケーキの処分(貯留、搬出、焼却、溶融、コンポスト化、埋め立て、肥料化)の汚泥処理系の各工程が臭気の発生源となっている。・・・とくに、汚泥の濃縮、消化、脱水および脱水ケーキの取り扱い工程において発生・発散する臭気は、これらの作業工程の密閉化が困難であることから、処理場内外に大きな影響を与えている」と記載されていることから、密閉化が困難な「脱水ケーキ」は、その搬出のために臭気対策が必要であったことが明らかである。
そして、上記「7-4-1-5.相違点Cについて」で検討したように、亜硝酸塩の作用機序について振り返ると、その添加から効果の発現するのに十分な時間が経過すれば、汚泥から、硫化水素、メチルメルカプタンが脱臭され、抗菌効果も発現しているはずだから、そのような汚泥は十分に脱臭されているはずで、当該汚泥を脱水すれば、脱水後の脱水ケーキでも十分に脱臭されているものと推認される。
さらに、脱水ケーキといえど、「脱水ケーキ(通常の含水率:75%前後)」(甲第5号証82頁2段2~3行)とあるように、その主成分は水であることから、脱水ケーキ中に易水溶性の亜硝酸塩は少なからず残存するものと推認され、当該残存する少なからぬ亜硝酸塩によっても脱水ケーキの脱臭効果は当然に残存して持続するということができる。
すると、脱水ケーキの臭気対策は周知のことであり、甲第4号証発明であっても汚泥の脱水を前提(甲第4号証の摘示事項(甲4-カ)を参照)とし、甲第11号証に記載されるように、脱水まで通常は長時間をおくものであるから、亜硝酸塩が添加されれば、その効果は汚泥において十分に発現して汚泥が脱臭され、当該汚泥を脱水すれば脱水後の脱水ケーキでも十分に脱臭され、かつ、脱水ケーキ中に残存する亜硝酸塩の作用により脱臭効果は続くものということができる。
したがって、甲第4号証発明の「濃縮汚泥からの臭気を抑制する方法」であって「濃縮汚泥からの臭気を持続的に抑制する脱臭方法」を、「脱水ケーキからの臭気を抑制する方法」であって「脱水ケーキからの前記臭気を持続的に抑制する脱水ケーキの脱臭方法」とすることに格別の困難性は見いだせない。
(二)相違点Eについて、被請求人は概ね以下のように主張する。
脱水ケーキ対策は一般に、汚泥に添加して脱水しても脱水ケーキ側に残留しやすい金属塩や不水溶性の有機殺菌剤が有利であり、甲第4号証で上げられた塩化亜鉛や、請求人の上申書で触れられた難水溶性のジンクピリチオンが有効であること(請求人上申書(平成22年5月18日付け)14頁)が良く知られている。また脱水後のケーキに添加するのであれば、易水溶性の殺菌剤であっても高濃度存在させることができるため、より脱水ケーキの消臭効果に寄与することが期待できる。
脱水ケーキ貯留時の消臭には腐敗抑制による新たな臭気の生成抑制効果が必要である。それに対して易水溶性の薬剤である亜硝酸ナトリウムは、汚泥に添加して脱水した場合、ろ液側に移行する割合が多く、脱水ケーキに残留するのは含水中に含まれる一部となる。また亜硝酸ナトリウムを汚泥に添加してから脱水するまでに滞留時間を設けた場合、酸化剤である亜硝酸ナトリウムは、酸化効果や微生物による資化によって徐々に濃度が低下するため、脱水ケーキ中の含水中に含まれる亜硝酸ナトリウムは、脱水する直前に添加した方が、より高濃度になりやすい。
単に微生物の成育抑制効果を有する剤として見た場合、高濃度脱水ケーキに残存する脱水前添加の方が腐敗防止には有利とも考えられるが、特許明細書で示したように、亜硝酸ナトリウム添加後の滞留時間を設けて脱水した方が、より高い脱水ケーキの消臭効果が得られている。
推定ではあるが、被請求人はこの現象について、脱水ケーキとなるまでに汚泥中で一酸化窒素の影響を含む酸化反応を進行させることが、消臭効果にとって重要であると推察しており、この点で十分な滞留時間を設けることの意味がある。すなわち、亜硝酸イオンとして汚泥中に存在させるよりも、亜硝酸イオンの作用(酸化作用および一酸化窒素を含む分解生成物による殺菌作用)の影響下に脱水前の汚泥(汚泥中の腐敗に関与する微生物)をさらすことが必要と考えられる。
すなわち、脱水するまでにある程度の亜硝酸塩の酸化反応と一酸化窒素の反応を進行させる時間をおいてから脱水することで、脱水ケーキの消臭ができるのであるが、甲第4号証には脱水ケーキ脱臭のために脱水15分以上前に亜硝酸塩を添加することは開示がない。(上申書(平成22年6月22日付け)27、31~33,45頁)
上記被請求人の主張は、脱水ケーキの脱臭を十分に行うためには、一般の脱臭剤を用いるなら脱水ケーキに直接に高濃度添加を要するところ、亜硝酸塩であれば、汚泥の段階で添加して脱水までに15分以上の時間をおけば、推定される作用機序により、脱水の段階で易水溶性の亜硝酸塩が大量に脱離水に移行し脱水ケーキ中の残存量がわずかになっても脱水ケーキの脱臭を十分に行えるものであり、そのような点は甲第4号証に開示されない旨のものと解される。
確かに甲第4号証には被請求人の主張するところまでの開示は見いだせない。
しかしながら、亜硝酸塩の作用機序は、そのすべてとはいえないまでも、上記「7-4-1-3.相違点Aについて」や「7-4-1-5.相違点Cについて」などで検討したように、亜硝酸塩添加後の亜硝酸イオンが亜硝酸イオン(NO2-)、酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(N2O)を経由して、ガス状窒素(N2)にしだいに還元されていくことに伴う酸化力(二酸化塩素のそれほどは強くはない)と、菌の細胞膜を変質させるかあるいは細胞膜を透過して作用する等と考えられる抗菌作用とでなるものだから、亜硝酸塩が添加されて効果の発現するまでにある程度の時間を要するものと考えられる。なお、被請求人は、抗菌作用の原因を主として一酸化窒素(NO)の殺菌作用に求めているように推認されるが、そうであったとしても、亜硝酸塩添加によって一酸化窒素(NO)が発生するであろうことは上記のように知られている周知の事実である。
また、上記「7-4-1-5.相違点Cについて」で検討したように甲第4号証発明では「汚泥貯留タンク11」に脱臭剤が添加されると脱水までに数時間程度貯留されるものである。
そうであれば、上記相違点Aの検討から甲第4号証発明の脱臭薬剤である「二酸化塩素および塩化亜鉛」に代えて甲第2号証に記載の技術手段における「亜硝酸塩」を適用した際には、甲第4号証発明において「汚泥貯留タンク11」に亜硝酸塩を添加すれば数時間貯留され、その間に効果が発現して、硫化水素、メチルメルカプタンを脱臭し、抗菌効果も発現し汚泥が脱臭された後に、当該汚泥を脱水すれば、脱水後の脱水ケーキでも脱臭状態であろうことが推認され、しかも、脱水ケーキといえどその主成分は水であることから、脱水ケーキ中に水溶性の亜硝酸塩は少なからず残存するものと推認され、当該残存する少なからぬ亜硝酸塩によっても脱水ケーキの脱臭効果は当然に残存して「持続」するということができるから、甲第4号証発明の濃縮汚泥からの臭気を持続的に抑制する脱臭方法を、脱水ケーキからの臭気を持続的に抑制する脱水ケーキの脱臭方法の発明とすることに格別の困難性は見いだせない。
7-4-1-8.本件訂正発明1についての結言
以上のことから、本件訂正発明1は、甲第4号証に記載された発明、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証~甲第12号証に記載された発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、この発明に係る特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
7-4-2.本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1における「混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する15分以上前」に「亜硝酸塩」を「混合生汚泥スラリー」へ添加することを、「混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する3時間以上前」に「亜硝酸塩」を「混合生汚泥スラリー」へ添加することにさらに特定するものである。
そして、「混合生汚泥スラリーが脱水機に到達する3時間以上前」に「亜硝酸塩」を「混合生汚泥スラリー」へ添加することについては、上記「7-4-1-5.相違点Cについて」で検討したように、亜硝酸塩は下水汚泥に添加されてから効果が発現するまである程度の時間を要することから、当該時間をどの程度とするかは亜硝酸塩の添加量、汚泥の性状、脱水の態様等の種々の条件に応じて適宜定め得るということができ、それを「3時間以上」とすることに格別の困難性は見いだせない。
したがって、本件訂正発明2は、上記理由及び本件訂正発明1について述べた理由により、甲第4号証に記載された発明、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証~甲第12号証に記載された発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、この発明に係る特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し無効とすべきものである。
7-4-3.本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明1又は本件訂正発明2において、「脱水ケーキからの前記臭気を脱水処理後24時間において、硫化水素及びメチルメルカプタンの濃度を0.25ppm未満に抑制する」ことを特定するものである。
i)この特定事項について検討するに、本件訂正発明3の「臭気」の「濃度」が「脱水処理後24時間」で「0.25ppm未満」であることは、訂正明細書【0013】【表1】の実施例(実施例1~実施例5)の亜硝酸塩の添加量が100,300,500mg/リットルであり、それらの全ての場合に、亜硝酸塩添加から24時間経過後の「脱水ケーキ」からの臭気が「nd」すなわち検出下限濃度である「0.25ppm」未満(特許明細書【0009】の「検出下限濃度は、硫化水素、メチルメルカプタンともに0.25ppmである。」を参照。)であることに相当し、例えば亜硝酸塩を200mg/リットル添加した場合でも、添加から24時間経過後の「脱水ケーキ」からの臭気が「nd」すなわち検出下限濃度である「0.25ppm」未満である蓋然性はきわめて高い。
ii)脱水前に脱臭薬剤を汚泥に添加し、脱水ケーキとした後の当該薬剤の脱水ケーキでの脱臭効果を調べるのに、添加後相当時間経過した時点での脱水ケーキの臭気を調べることは、例えば特開平5-253599号公報の【表1】(【0013】)、【表2】(【0016】)に「19Hr後」、「24Hr後」、「48Hr後」とあり、特開平4-126597号公報の第1表(4頁)、第2表(5頁)に「65時間後」、「72時間後」とあるように、当該時間を経過した時点での臭気濃度の測定は普通のことであり、甲第4号証発明に甲第2号証の亜硝酸塩を添加した場合でも、上記「7-4-1-7.相違点Eについて」で見たように、亜硝酸塩が添加されて一定時間経過後に、汚泥において十分に脱臭されることから脱水ケーキでも十分に脱臭され、かつ、脱水ケーキ中に残存する亜硝酸塩の作用により脱臭効果は続くと推認されるから、その持続する脱臭効果を調べることは当然に指向され、そのための臭気の計測時点が、上記のように脱臭薬剤である亜硝酸塩の添加から「24時間後」とすることは設計的に決定され得る。
iii)ここで、前述の「7-4-1-6.相違点Dについて」で述べたように、甲第6号証には、下水汚泥中のメチオニンからメチルメルカプタンを生成するPseudomonas属、Esherichia属に対して、亜硝酸塩がpH6.0以下で200ppmの添加で発育阻止能を発現させることが示されているといえる。
iv)そこで、この亜硝酸塩の添加量「200ppm」の単位「ppm」の「mg/リットル」への換算を考えると、前述の「7-4-1-6.相違点Dについて」で述べたように、200[ppm]=200×10-6=200[mg/リットル]である。
v)むろんこの値は他の菌の活動抑制まで考慮したものではないが、Pseudomonas属、Esherichia属に対してはpH6.0以下でその活動を抑制出来る値ではあるし、本件訂正発明3は特段のpHの特定もないから、当業者であれば、少なくともPseudomonas属、Esherichia属に対して有効量である亜硝酸塩200ppmの添加を試みることのできるものであり、そうであれば、亜硝酸塩による脱水ケーキの持続する脱臭効果を調べるために、硫化水素とメチルメルカプタンを発生させる菌の活動を抑制できる添加量である200[mg/リットル]を添加して、24時間後の臭気を計測することは当業者の容易に推考し得るところであり、その結果として硫化水素とメチルメルカプタンの臭気が「nd」すなわち検出下限濃度である「0.25ppm」未満である蓋然性はきわめて高い。
vi)したがって、本件訂正発明3は、上記理由及び本件第1発明又は本件第2発明について述べた理由により、甲第4号証に記載された発明、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証~甲第12号証に記載された発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、この発明に係る特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
8.訂正請求書における被請求人の主張について
被請求人は訂正請求書において下水汚泥処理水系に亜硝酸塩を適用することに関し、阻害事由を縷々主張している。これらは上述のとおり採用できないものであるが、念のため次のa)、b)の主張についてのみ検討する。
a)亜硝酸塩は富栄養化成分の窒素源だからその使用は忌避される(「阻害事由(1)(2)」、訂正請求書21~25頁)、
b)亜硝酸塩の脱臭作用は「遅効性」とはいえない(訂正請求書29~30頁)
a)については、
亜硝酸塩を使用すれば富栄養源としての窒素源となり得る可能性があるが、(一)下水処理場での処理において直接的な形では亜硝酸塩は場外に排出されないこと、(二)排出される亜硝酸塩の量が、脱臭剤として使用する程度であれば窒素源として問題を引き起こす程度の量にはならないこと、(三)亜硝酸塩の脱臭効果の発生には脱窒反応による分解が影響しており、最終的に亜硝酸塩が窒素ガスとして空気中へ拡散されること 等により、亜硝酸塩を使用しても、富栄養源としての窒素源として問題となる程の量が河川水、湖水、井戸水等の水系へ流出するようなことは考えがたい。
また、汚泥濃縮工程以前の段階では汚泥固形分の濃度が低いため、脱窒反応により発生する窒素ガスのために固形分が浮遊しやすいが、汚泥濃縮工程よりも下流では汚泥固形分の濃度が高くなっており、固形分が浮遊しにくいことは技術常識といえる。
そして、甲4号証発明での薬剤添加は、同号証の【図1】及び摘示事項(甲4-エ)の「図1のフローシートで示されたT浄化センターの汚泥貯溜タンク(11)内の汚水濃縮汚泥・・・に、・・・二酸化塩素と塩化亜鉛とを含有する混合水溶液を・・・添加し」との記載から、被処理物である汚泥の処理工程順序において「沈殿池4,7」、「汚泥濃縮タンク10」の後の「汚泥貯留タンク11」で行われるから、甲4号証発明で亜硝酸塩を使用する際に、脱窒反応で窒素ガスが発生しても、汚泥の固形分が浮上し凝集してスカムが発生することは起こりにくい。
したがって、亜硝酸塩を使用すれば富栄養源としての窒素源となるから当業者はその使用を考えることはないという被請求人の主張は失当である。
b)については、
例えば以下の文献に記載されるように、二酸化塩素と過酸化水素とは共に強い酸化力を有することが知られており、さらに(甲23-ア)には、二酸化塩素の酸化力は原子状の酸素に起因するものであることが記載され、過酸化水素の酸化力は上記した文献によれば「活性酸素」に起因するものであることが記載され、両者の酸化力が略同様の原因により発生するものであることを考慮すれば、二酸化塩素と過酸化水素との酸化力は共に強力であり、大きな差異があるものとは云えず、脱臭作用についても同様と云える。
一方、亜硝酸塩の作用機序は、上記「7-4-1-5.相違点Cについて (一)」で述べたように、脱窒反応に伴って亜硝酸イオンの酸化還元反応が生じ、それによって生ずる酸化力と何らかの抗菌作用であると推測されるところ、特に酸化力は上記のような原子状の酸素等の強力な酸化力と比較すれば弱いことは明らかであり、また、抗菌作用は菌の細胞膜を変質させるか或いはそれを透過して作用するため効果の発現に時間を要することは明らかだから、脱臭作用も相応に遅効性であることは、高い蓋然性をもって推測されるところと云うことができる。
被請求人の前述の主張は、共に強力な酸化力を有し、わずかな酸化力の差異しかない二酸化塩素と過酸化水素の、酸化力の大小関係と脱臭作用の即効性遅効性の関係が必ずしも対応しないという事実を、二酸化塩素または過酸化水素に比べれば十分に弱い酸化力しか有しない亜硝酸塩にも当てはめて、その脱臭作用は二酸化塩素または過酸化水素より遅効性であるとは限らないとするものであり、これは二酸化塩素と過酸化水素の酸化力にはわずかな差しかなく、二酸化塩素または過酸化水素と亜硝酸塩の酸化力には大きな差があるという酸化力の大小の程度差を全く無視するもので、これを採用することはできない。
○二酸化塩素と過酸化水素の強い酸化力について
「二酸化塩素」について
・特開平10-24095号公報
「・・・安定化二酸化塩素(ClO2)が注目されている。安定化二酸化塩素は、塩素の2.6倍もの強い酸化力を有し、殺菌、消臭、防腐などの諸作用を発揮することが知られている・・・」(【0003】)
・特公昭61-4544号公報
「・・・安定化二酸化塩素は・・・これによって殺菌、脱臭或いは漂白作用が行われ・・・Cl2の約2.5倍の効力を有する強力な酸化剤として作用することになる・・・」(2欄8行~3欄24行)
なお、同様なことが甲第26,27号証にも記載されている。
「過酸化水素」について
・特開平10-195340号公報
「・・・過酸化水素等の反応性が高く且酸化力の強い活性酸素により・・・臭気や悪臭に対しては・・・活性酸素を創出させてやることにより効果的に分解消去しえる・・・」(【0004】)
・特開平10-192626号公報
「臭気等が・・・過酸化水素等反応性が高く酸化力の強い活性酸素で分解される・・・」(【0004】)
9.結論
以上から、本件訂正発明1~本件訂正発明3は、甲第4号証に記載された発明、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証~甲第12号証に記載された発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2009-800163