特許無効審判
2025-800008
検体採取スワブ
- 審判番号
- 2025-800008
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2021-104480
- 登録番号
- 7157939
- 請求日
- 2025年02月07日
- 審決日
- 2025年12月25日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】平和メディク 株式会社
- 【請求人代理人】田中 信介
- 【被請求人】株式会社西浦化学
- 【被請求人代理人】和気 光
- 【被請求人代理人】寺本 諭史
- 【被請求人】テイボー株式会社
- 【被請求人代理人】和気 光
- 【被請求人代理人】寺本 諭史
- 審判長/審判官
- 審判長 南 宏輔
- 審判官 伊藤 幸仙
- 審判官 萩田 裕介
- 分類
- P1113.121-Y (A61B) / P1113.161-Y (A61B) / P1113.536-Y (A61B) / P1113.537-Y (A61B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条の2、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第41条第3項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第7157939号発明「検体採取スワブ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨
1 請求の趣旨
特許第7157939号の特許請求の範囲の請求項1、請求項2、及び請求項3に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。
2 答弁の趣旨
本件特許無効審判の請求は成り立たない、
審判費用は請求人の負担とする、
との審決を求める。
第2 手続の経緯
特許出願 令和3年 6月23日(特願2021-104480号)
設定登録 令和4年10月13日
特許掲載公報発行 令和4年10月21日(特許第7157939号公報)
無効審判請求書(以下「審判請求書」という。)
令和7年 2月 7日
審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)
令和7年 5月 1日(提出日)
審理事項通知書 令和7年 8月 4日付け
口頭審理陳述要領書(請求人)(以下「陳述要領書1」という。)
令和7年 9月24日(提出日)
口頭審理陳述要領書(被請求人)(以下「陳述要領書2」という。)
令和7年10月 7日(提出日)
口頭審理 令和7年10月21日
審理終結通知書 令和7年12月 8日付け
審理再開申立書(請求人)令和7年12月16日(提出日)
審判長は、請求人の審理再開申立書を検討したが、審理再開の必要は認めなかった。
第3 本件特許発明
本件特許第7157939号の請求項1~3に係る発明(以下それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明3」という。)は、特許明細書及び図面の記載から見てその特許請求の範囲の請求項1~3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
軸体と、該軸体の一端に設けられ検体を採取するための検体採取部(ただし、ループ形状を除く)とを備える検体採取スワブであって、
前記検体採取部には、基材の表面に形成された接着剤層を介して繊維が静電植毛されており、前記繊維の繊度が3.5dtex~4.4dtexであり、
前記繊維の長さが0.80mm~1.5mmであり、前記繊維のアスペクト比が35~50であることを特徴とする検体採取スワブ。
【請求項2】
前記繊維がポリアミド繊維であることを特徴とする請求項1記載の検体採取スワブ。
【請求項3】
前記接着剤層は、表面電気抵抗値が2MΩ/cm2以下の接着剤より形成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の検体採取スワブ。」
第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、証拠方法として後記の書証をもって、以下に要約した第1~第4の理由(以下「無効理由1」~「無効理由4」という。)により、本件特許発明1~3についての特許は無効とすべきであると主張している。
(1)無効理由1(特許法第29条第2項違反)
本件特許発明1~3は、甲第1号証、及び甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証の1、甲第3号証の2、及び甲第4号証に記載された周知技術と、に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明1~3についての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(2)無効理由2(特許法第29条の2違反)
本件特許発明1~3は、甲第5号証の2等に記載された発明に甲第3号証の1、甲第3号証の2、及び甲第4号証に記載された周知技術を付加したものであって、甲第5号証の2等に記載された発明と実質同一であるから、特許法第29条の2の規定及び同法第41条第3項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明1~3についての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(3)無効理由3(特許法第36条第4項第1号違反)
本件特許の明細書等の記載は、出願時の技術常識等に基づいて、本件特許発明1と当該発明の課題との実質的な関係と、本件特許発明3と当該発明の課題との実質的な関係と、を当業者であっても理解できず、発明の課題の解決手段を理解できないものであるため、本件特許発明1及び本件特許発明3の技術上の意義が不明であり、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、本件特許発明1~3についての特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(4)無効理由4(特許法第36条第6項第1号違反)
本件特許発明1は、本件特許の明細書等に記載したものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、本件特許発明1~3についての特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
2 証拠方法(書証)
甲第1号証 :特表2007-523663号公報(公表日平成19年8月23日)
甲第2号証 :特開2011-234666号公報(公開日平成23年11月24日)
甲第3号証の1:宮本武明、本宮達也著、「新繊維材料入門」、日刊工業新聞社、1992年9月30日初版1刷発行、第4,5,8,51頁
甲第3号証の2:特開2006-321846号公報(公開日平成18年11月30日)
甲第4号証 :特開平10-309760号公報(公開日平成10年11月24日)
甲第5号証の1:特願2021-4872号の出願時(令和3年1月15日)に提出された特許願、明細書、特許請求の範囲及び図面のProof
甲第5号証の2:特開2022-109892号公報(公開日令和4年7月28日)
第5 被請求人の主張
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件無効審判事件において、請求人の主張する無効理由1~4について、以下に要約するように、本件特許発明1~3についての特許には請求人の主張する無効の理由はないと主張している。
(1)無効理由1に対して
本件特許発明1は、甲第1号証~甲第3号証からでは、当業者であっても容易に想到し得ないものであり、十分な進歩性を有する。また、本件特許発明1を更に限定する、本件特許発明2と本件特許発明3も、これらの文献に記載された発明からでは、当業者であっても容易に想到し得ないものである。よって、本件特許発明1~3は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(2)無効理由2に対して
甲第5号証の1と甲第5号証の2とから把握される、本件特許の出願前に出願され、本件特許の出願後に公開された発明と請求人が認定する甲5発明については、その認定に誤りがあるし、かつ特に性能のばらつきを抑制するという課題を解決するような、本件特許発明1の構成要件に係る、繊維の繊度、繊維の長さ、繊維のアスペクト比などのすべてを同時に備える実質的に同一の構成の発明であるとは到底いえない。以上のとおり、本件特許発明1及び本件特許発明1を更に限定する、本件特許発明2及び3は、甲5発明と実質的に同一な発明ではない。よって、本件発明1~3は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。
(3)無効理由3に対して
「物の発明」である検体採取スワブに係る本件特許発明1及び3について、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に、物の構成として明確に説明されており、当該発明の各構成要件は、当該分野において特殊な物性やパラメータではなく、過度の試行錯誤なども必要とせずに、その物を作れるように記載されており、その物を使用できるように記載されていることは明らかであり、本件特許の明細書等の記載は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。以上のとおり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件特許発明1及び3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。よって、本件特許は特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものではない。
(4)無効理由4に対して
本件特許の発明の本質的な目的は「性能のばらつきが抑制された」ということであり、本件特許の明細書の段落【0053】の【表1】に記載された実施例1が、本件特許の発明の本質的な目的を達成している。そして、本件特許の明細書の段落【0025】、【0026】において、繊維の材質として、該【表1】の実施例1~3で使用されている、ポリアミド、ポリトリメチレンテレフタレート以外のものを適宜使用できることも明示されている。以上より、本件特許発明1は本件特許の明細書等に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではない。
第6 甲第1号証~甲第5号証の2
1 甲第1号証
甲第1号証(以下「甲1」という。)には、以下の記載がある。(下線は当審で付与した。以下同様)
(1)「【請求項1】
生物学的検体を吸収する親水性の繊維(17)で覆われたチップ(16)で終了するロッド(14)より成るタイプの、生物学的検体の採取用スワブ(20)であって、前記繊維(17)が、フロッキングにより被着した層の形状で、前記チップ(16)を覆うことを特徴とする、スワブ。」
(2)「【0016】
フロッキング技術は、繊維を配列して被着する静電場において実施されるタイプであることが好ましく、配列はスワブのロッドのチップ表面に垂直であり、チップ表面は、例えば浸漬や噴霧によって接着剤が予めコートされている。
【0017】
フロッキング層を形成する繊維は、静電場に掛け、方向付けて被着し、接着剤で保持されて、チップ表面に固定される。
【0018】
接着剤は水性基剤が好ましく、一度乾燥させて、繊維をスワブにしっかりと固定し、耐磨耗性とする。
【0019】
次に、フロッキングしたスワブは、熱源または無線周波にあてて乾燥させる。
【0020】
スワブ軸のチップは、繊維の層で覆われ、層は好ましくは均一の厚さであり、厚さ0.6~3mmである。繊度、即ち、単一の繊維、線状の(linear)100メートル当りのグラム重量は、好ましくは1.7~3.3Dtexである。特に、細かい起毛にするために、長さ0.6mm、1.7Dtexの繊維をフロッキングで適用することができ、長い起毛にするために、長さ3mm以下及び3.3Dtex以下の繊維を適用することができ、上記で定義した中間の値では、フロッキングした層の厚さ及び細かさの中間の特性に対応するものが得られる。
【0021】
このような値の幅広い選択の中で、本発明の目的に従って考慮する手段は、繊維の秩序だった配置を維持することであり、配置は実質的に互いに平行でロッドの表面に垂直であって、起毛が長すぎる場合に起こりうる繊維の重なり合いは避ける。実際、このように、それぞれの繊維に相当する毛細管は、実質的に同量の検体を吸収及び放出するため、損なわれておらず、機能している。
【0022】
本発明によれば、フロッキングした層を形成するために被着される繊維の量は、100
μlの検体を吸収できるように、繊維のタイプ、及び、予め選択された層の特徴である厚さ及び細かさに基づいて決定する。
【0023】
本発明の目的に従って、繊維は、毛細管現象によって親水性であるという条件で、広範な材料、例えば、レーヨン、ポリエステル、ポリアミド、炭素繊維またはアルギネート(alginate)等の合成または人工材料、綿及び絹等の天然材料、またはそれらの混紡より選択される。」
(3)「【0027】
例3
実施例1及び2と同様に、長さ2mm、繊度2.5Dtexのポリエステル繊維を使用する。
一般的に続けると、本発明のスワブは、拭き取り(swabbing)によって、特にスワブからテストプレートへの採取検体の放出が不完全であることに起因する偽陰性のリスクをほとんど完全になくすことによって、約90%の吸収検体を放出することができると判断され、このように、公知技術のスワブと比較して、分析感度が著しく上昇する。
【0028】
加えて、本発明によれば、公知技術のようにロッドを覆う固まりではなくて、ロッドのチップの周りに、非常に薄いものであってもあらゆる厚さの繊維層を形成できることから、スワブに要求される丸みのある形状、すなわち、端縁がない形状は、もはや繊維自体の量で形成される必要はなく、ロッドのチップで形成される。従って、チップは、前述の実施例で実際に実施され、添付の図面に示されるように、好ましくは丸みのある形状に成形することができる。
【0029】
特に、可能な最大厚のスワブが求められる特定の場合、例えば、尿道または眼科では、公知のスワブより、優位点がさらに明確である。実際に、形状の利点として丸みのある形のチップを有するスワブを提供することができる。チップの周りには繊維の薄い層がフロッキングによって被着されるので、充分量の分析用検体を片手で採取することができ、一方で尿道に挿入するスワブの部分の全体の大きさが最小になるので、結果として、採取操作中の患者の不快症状が軽減される。」
(4)「【図1】
[図:0001433041000001.jpg]
」
(5)「【図2】
[図:0001433041000002.jpg]
」
以上の記載から、甲1には、以下に記載した発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。(当審注:括弧内は引用箇所を示したもの。以下同様。)
「生物学的検体を吸収する親水性の繊維(17)で覆われたチップ(16)で終了するロッド(14)よりなるタイプの、生物学的検体の採取用スワブ(20)であって、(【請求項1】)
前記繊維(17)が、フロッキングにより被着した層の形状で、前記チップ(16)を覆い、(【請求項1】)
フロッキング層を形成する繊維は、静電場に掛け、方向付けて被着し、接着剤で保持されて、チップ表面に固定されており、(【0017】)
接着剤は水性基材が好ましく、チップ表面に予めコートされるものであり(【0016】【0018】)
スワブ軸のチップは、繊維の層で覆われ、層は好ましくは均一の厚さであり、厚さ0.6~3mmであり、繊度は、好ましくは1.7~3.3Dtexであり、(【0020】)
繊維は、親水性であるという条件で、例えばポリアミドなどである、(【0023】)
生物学的検体の採取用スワブ(20)。」
(当審注:括弧内は引用箇所を示したもの。以下同様。)
2 甲第2号証
甲第2号証(以下「甲2」という。)には、以下の記載がある。
(1)「【0001】
本発明は、植毛された綿棒に関し、より詳しくは、生物学的検体の採取用、患部への薬剤塗布用、身体もしくは機器の清掃用(例えば耳かき)、化粧料(例えばマスカラ)塗布用などとして好適な綿棒に関する。」
(2)「【0010】
本発明によれば、軸の一端または両端に弾力性に富む綿塊部を設け、この綿塊部の表面に繊維をブラシ状に植毛した植毛層を設けているので、弾力性があり、しかも表面がビロードのような肌触りのよい綿棒が得られるという効果がある。
また、前記植毛層は、繊維がブラシ状にほぼ垂直に植毛されているので、検体などの液体の捕捉性および放出性に優れているという効果がある。
従って、本発明の綿棒は、生物学的検体の採取用、患部への薬剤塗布用、身体、機器等の清掃用、マスカラ等の化粧料塗布用などの用途に好適である。」
(3)「【0017】
使用する短繊維としては、例えば、レーヨン、ポリエステル、ポリアミド、炭素繊維、綿、絹などが挙げられ、これらの短繊維は単独で使用するほか、2種以上を混合して使用することもできる。また、短繊維は所望の色に染色することができる。
短繊維の繊維長は0.3~3mm程度であるのがよく、また繊維の太さは0.1~5.6dtex程度であるのがよい。なお、繊維が細く、繊維長が長い場合は、風合いのよい植毛層が得られるので、例えば耳かきなどの用途に使用するのに適している。短繊維の種類、繊維長および太さは、使用する用途に応じて適宜選択すればよい。」
以上の記載から、甲2には、以下の技術(以下「甲2開示技術」という。)が開示されていると認める。
「生物学的検体の採取用の植毛された綿棒において、(【0001】)
軸の一端または両端に弾力性に富む綿塊部を設け、この綿塊部の表面に繊維をブラシ状に植毛した植毛層を設け、(【0010】)
当該繊維は例えば、レーヨン、ポリエステル、ポリアミド、炭素繊維、綿、絹などが挙げられ、短繊維の繊維長は0.3~3mm程度であるのがよく、また繊維の太さは0.1~5.6dtex程度であるのがよく、(【0017】)
弾力性があり、しかも表面がビロードのような肌触りのよい、検体などの液体の捕捉性および放出性に優れている(【0010】)
綿棒とする技術。」
3 甲第3号証の1
甲第3号証の1(以下「甲3-1」という。)には、以下の記載がある。
(1)「
[図:0001433041000003.jpg]
[図:0001433041000004.jpg]
」
(2)「
[図:0001433041000005.jpg]
」
(3)「
[図:0001433041000006.jpg]
」
4 甲第3号証の2
甲第3号証の2(以下「甲3-2」という。)には、以下の記載がある。
(1)「【0002】
ポリエステルは、その機械的、物理的、化学的性能が優れているため、繊維、フィルム、その他の成形物に広く利用されている。
中でも、ポリトリメチレンテレフタレート繊維は、近年、従来のポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル繊維にはなかったソフトな風合い、優れた弾性回復性、易染性といった特性から注目されている。
このポリトリメチレンテレフタレートは、耐熱性が低く、重合温度は、通常のポリエチレンテレフタレートが280℃~300℃であるのに対し、250℃~270℃と低温である。このような低温での重合触媒としては、アンチモンは活性が低く適さない。そこで、一般的には活性温度領域が比較的低温であるチタン触媒を重合触媒として使用する。しかしながら、このチタン触媒を含有すると黄色味の強くL*a*b*表色系におけるカラーb*値が高いポリマーとなり、繊維などの加工品へと加工した際に着色性が強く商品としての見た目も悪くなるという問題を有している。このような問題を解決するために、整色剤としてコバルト金属を含む化合物を添加する方法が提案されている(例えば特許文献1参照。)。この方法を用いれば、確かにカラーb*値が低めのポリマーを重合することができるが、溶融成形のための再溶融時に熱分解が起こりカラーb*値が増大するため、根本的な改善には至っておらず、色相改善のためには不十分である。」
5 甲第4号証
甲第4号証(以下「甲4」という。)には、以下の記載がある。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば電子写真式の複写機、プリンター、ファクシミリ等の静電現像方式を利用する電子写真装置に用いられる現像、帯電、及び転写ローラ用ファーブラシローラの製造方法に関する。」
(2)「【0017】次に、本発明のファーブラシローラ2の製造方法について説明する。まず、前記芯体5表面に接着剤を塗布して接着剤層6を形成する。こののち、前記接着剤層6に現像ブラシ8を構成する前述の導電繊維を所望の長さにカットしたブラシ繊維7を植毛するために、図3に示すように、高電圧を印加することによりブラシ繊維7が静電誘導で帯電し、クーロン力により飛翔し、目的物の接着剤層6表面に投錨されることにより植毛され、ファーブラシローラ2を構成するのである。」
(3)「【0023】前記芯体5は、鉄、アルミ、ステンレス、黄銅等の金属から構成する他、前記接着剤層6を導電性の接着剤にて構成した場合、静電植毛時にアースが取れる構造とするためにメッキ処理等の導電性処理を施したプラスチックや紙等でもよい。また、芯体5の表面をガラスビーズやアルミ粉等を高速で衝突させて表面を粗すブラスト処理を行うことにより、接着剤との接着性を向上させることができる。また、芯体5を中空円筒状にし、両端にフランジを取り付けた構造にすることによって、軽量化を図り、製造コスト及び回転のためのランニングコストを下げることができる。」
6 甲第5号証の1
甲第5号証の1(以下「甲5-1」という。)には、以下の記載がある。
(1)「【0001】
本発明は、生物学上の検体検査における被検査物である検体を採取するための検体採取用スワブ、および検体採取用スワブの製造方法に関する。」
(2)「【0015】
図1(A)に示すように、検体採取用スワブ1は、熱可塑性樹脂(本実施形態では、ポリアミド樹脂である。)を棒状に成形した軸部10と、所定の繊維(本実施形態では、ポリアミド繊維である。)で形成されており、検体を採取するための1つの検体採取部20と、を備えている。軸部10は、検体の採取時に人間の鼻孔から鼻腔に向けて挿入し易いように、延伸方向の略中央から検体採取部20までが、延伸方向の略中央から検体採取部20が形成されていない一端まで(検体採取の作業者が把持するための把持部)に比べて細くなるように成形されている。検体採取部20は、軸部10の一方の端部15(図1(B)を参照。)に形成されており、所定の繊維が端部15の表面の全面を覆うように当該表面に対して略垂直に接着されている。」
(3)「【0018】
また、ここで、検体採取用スワブ1における所定の繊維について説明する。所定の繊維としては、親水性を有する繊維であって、例えば、ポリアミド、レーヨン、ポリエステル、炭素繊維、アルギネート、綿、絹等や、これらの混紡で構成される繊維を使用することができる。また、所定の繊維の長さについては、0.5mm~3.0mmであればよく、特に、本実施形態の検体採取用スワブ1においては、0.6mm~1.0mmが好ましい。さらに、所定の繊維の繊度については、1.7Dtex~5.0Dtexであればよく、特に、本実施形態の検体採取用スワブ1においては、3.3Dtex~4.4Dtexが好ましい。」
(4)「【0019】
<検体採取用スワブ1の製造方法>
図2-1、および図2-2を参照して、次に、本実施形態の検体採取用スワブ1の製造方法について説明する。図2-1は、検体採取用スワブ1の製造方法を説明するフローチャートである。図2-2は、検体採取用スワブ1の製造装置100の概略構成を示す図である。なお、以下で説明する本実施形態の検体採取用スワブ1の製造方法において、所定の接着剤としては、315nm~400nmの波長の紫外線で硬化し、粘度(25℃)が1500mPa・s~3500mPa・sのウレタンアクリレート樹脂を使用し、所定の繊維としては、4.0Dtexで、1.0mm長のポリアミド繊維を使用するものとする。」
(5)「【0020】
図2-1に示すように、検体採取用スワブ1の製造方法では、軸部10の検体採取部20が形成される端部15に所定の接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、帯電させた状態の1.0mm長の複数の所定の繊維が軸部10に付着するように複数の所定の繊維を供給する繊維供給工程と、軸部10の接着剤が塗布された端部15に対して紫外線を照射することによって接着剤を硬化させる接着剤硬化工程と、軸部10に対して空気を吹付けることによって接着されていない不要な繊維を除去する不要繊維除去工程と、が実行される。」
(6)「【0024】
繊維供給装置130は、搬送装置105で搬送されている軸部10に対して繊維加工装置120で加工された所定の繊維を供給するためのものであり、帯電している約1.0mm長の複数の所定の繊維を軸部10の接着剤が塗布された端部15に付着させる繊維供給工程を実行する装置である。繊維供給装置130は、繊維加工装置120で加工された約1.0mm長の複数の所定の繊維を霧雲状に対流させるための空間である空間部(図示しない)と、約1.0mm長の複数の所定の繊維が霧雲状で対流するように空間部に空気を供給するエアー供給器(図示しない)と、を備えている。ここで、繊維供給装置130における繊維供給工程について、具体的に説明する。搬送装置105で繊維供給装置130に搬送された軸部10は、約1.0mm長の複数の所定の繊維が霧雲状に対流している空間部を通過する。このとき、複数の所定の繊維が通過する軸部10に付着することとなり、特に、約1.0mm長の複数の所定の繊維は、各々が静電気で帯電しているため、軸部10の表面に対して略垂直をなすように付着する。つまり、繊維供給装置130での繊維供給工程によって、約1.0mm長の複数の所定の繊維が、軸部10の接着剤が塗布された端部15に、端部15の表面に対して略垂直をなすように全面に亘って付着することとなる。」
(7)「【0028】
このような検体採取用スワブ1であれば、検体採取用スワブ1の検体採取部20は所定の繊維のみが均一な厚さの層をなすように接着された構成となるため、検体採取部20における検体等の吸着およびリリースの効率が所望の値および略一定の値となるような検体採取用スワブ1にすることができる。特に、このような検体採取用スワブ1は、従来の検体採取用スワブのように海島型バイコンポーネント繊維が接着された後に海材料の繊維のみを溶解させるといった不要な繊維を含む2種類の繊維を利用して製造するような構成でないため、不要な繊維が固着することがなく、不要な繊維の残存量に応じて検体等の吸着およびリリースの効率が変化したり一定とならなかったりするような虞もない。さらに、このような検体採取用スワブ1は、従来の検体採取用スワブのように海島型バイコンポーネント繊維のうちの不要な海材料の繊維のみを溶解させるような工程も必要でないため、従来の製造方法に比べて容易に製造できるものである。さらに、このような検体採取用スワブ1は、紫外線硬化樹脂における紫外線での硬化(所謂、ラジカル反応による硬化)によって複数の所定の繊維が固着されているため、例えば、紫外線硬化樹脂以外の熱硬化樹脂等の接着剤を使用した場合に比べて熱硬化工程等におけるアウトガスといった不要物質の発生を軽減することができ、不要物質の発生に基づいて検体等の吸着およびリリースの効率が変化したり歩留まりが悪くなったりする虞もない。」
(8)「【図1】
[図:0001433041000007.jpg]
」
7 甲第5号証の2
甲第5号証の2(以下「甲5-2」という。)には、以下の記載がある。
(1)「【0001】
本発明は、生物学上の検体検査における被検査物である検体を採取するための検体採取用スワブ、および検体採取用スワブの製造方法に関する。」
(2)「【0007】
本発明を適用させた適用例1としての検体採取用スワブ(検体採取用スワブ1,200)は、棒状の軸部(軸部10,210)と、前記軸部の少なくとも一方の端部(端部15,215)に形成されており、検体を採取するために前記検体を付着させる検体採取部(検体採取部20,220)と、を備え、前記検体採取部は、前記軸部の前記端部の表面に対して、繊度が3.4Dtex~6.7Dtexの複数の繊維のみが均一な厚さの層を形成するように接着剤によって接着されていることを要旨とする。」
(3)「【0009】
本発明を適用させた適用例2としての検体採取用スワブの製造方法は、棒状の軸部(軸部10)の少なくとも一方の端部(端部15)に、検体を採取するために前記検体を付着させる繊維を有する検体採取部(検体採取部20)が形成された検体採取用スワブ(検体採取用スワブ1)を製造する製造方法であって、回転する前記軸部の前記端部に対して、接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、回転する前記軸部の前記端部に対して、帯電させた3.4Dtex~6.7Dtexの複数の前記繊維を供給することによって、前記接着剤塗布工程で前記端部の表面の前記接着剤が塗布された部分において、前記検体採取部を形成する前記繊維の端部を付着させる繊維供給工程と、前記接着剤を硬化させて、前記繊維供給工程で前記軸部の端部に付着した前記繊維を固着させる接着剤硬化工程と、を実行することを要旨とする。」
(4)「【0014】
図1(A)に示すように、検体採取用スワブ1は、熱可塑性樹脂(本実施形態では、ポリアミド樹脂である。)を棒状に成形した軸部10と、所定の繊維(本実施形態では、ポリアミド繊維である。)で形成されており、検体を採取するための1つの検体採取部20と、を備えている。軸部10は、検体の採取時に人間の鼻孔から鼻腔に向けて挿入し易いように、延伸方向の略中央から検体採取部20までが、延伸方向の略中央から検体採取部20が形成されていない一端まで(検体採取の作業者が把持するための把持部)に比べて細くなるように成形されている。検体採取部20は、軸部10の一方の端部15(図1(B)を参照。)に形成されており、所定の繊維が端部15の表面の全面を覆うように当該表面に対して略垂直に接着されている。」
(5)「【0017】
また、ここで、検体採取用スワブ1における所定の繊維について説明する。所定の繊維としては、親水性を有する繊維であって、例えば、ポリアミド、レーヨン、ポリエステル、炭素繊維、アルギネート、綿、絹等や、これらの混紡で構成される繊維を使用することができる。また、所定の繊維の長さについては、0.5mm~3.0mmであればよく、特に、本実施形態の検体採取用スワブ1においては、0.6mm~1.0mmが好ましい。さらに、所定の繊維の繊度については、1.7Dtex~6.7Dtexであればよく、本実施形態の検体採取用スワブ1においては、3.4Dtex~6.7Dtexが好ましく、特に、3.4Dtex~4.4Dtexが好ましい。」
(6)「【0018】
<検体採取用スワブ1の製造方法>
図2-1、および図2-2を参照して、次に、本実施形態の検体採取用スワブ1の製造方法について説明する。図2-1は、検体採取用スワブ1の製造方法を説明するフローチャートである。図2-2は、検体採取用スワブ1の製造装置100の概略構成を示す図である。なお、以下で説明する本実施形態の検体採取用スワブ1の製造方法において、所定の接着剤としては、315nm~400nmの波長の紫外線で硬化し、粘度(25℃)が1500mPa・s~3500mPa・sのウレタンアクリレート樹脂を使用し、所定の繊維としては、4.4Dtexで、1.0mm長のポリアミド繊維を使用するものとする。」
(7)「【0019】
図2-1に示すように、検体採取用スワブ1の製造方法では、軸部10の検体採取部20が形成される端部15に所定の接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、帯電させた状態の1.0mm長の複数の所定の繊維が軸部10に付着するように複数の所定の繊維を供給する繊維供給工程と、軸部10の接着剤が塗布された端部15に対して紫外線を照射することによって接着剤を硬化させる接着剤硬化工程と、軸部10に対して空気を吹付けることによって接着されていない不要な繊維を除去する不要繊維除去工程と、が実行される。」
(8)「【0023】
繊維供給装置130は、搬送装置105で搬送されている軸部10に対して繊維加工装置120で加工された所定の繊維を供給するためのものであり、帯電している約1.0mm長の複数の所定の繊維を軸部10の接着剤が塗布された端部15に付着させる繊維供給工程を実行する装置である。繊維供給装置130は、繊維加工装置120で加工された約1.0mm長の複数の所定の繊維を霧雲状に対流させるための空間である空間部(図示しない)と、約1.0mm長の複数の所定の繊維が霧雲状で対流するように空間部に空気を供給するエアー供給器(図示しない)と、を備えている。ここで、繊維供給装置130における繊維供給工程について、具体的に説明する。搬送装置105で繊維供給装置130に搬送された軸部10は、約1.0mm長の複数の所定の繊維が霧雲状に対流している空間部を通過する。このとき、複数の所定の繊維が通過する軸部10に付着することとなり、特に、約1.0mm長の複数の所定の繊維は、各々が静電気で帯電しているため、軸部10の表面に対して略垂直をなすように付着する。つまり、繊維供給装置130での繊維供給工程によって、約1.0mm長の複数の所定の繊維が、軸部10の接着剤が塗布された端部15に、端部15の表面に対して略垂直をなすように全面に亘って付着することとなる。」
(9)「【0026】
<種々の検体採取用スワブにおける採取・移植可能な検体量の比較>
図3を参照して、次に、3種類の検体採取用スワブである被検スワブの各々における採取・移植可能な検体の量に関する試験の結果を説明する。図3は、3種類の被検スワブの各々における採取・移植可能な検体の量に関する試験の結果を説明するための表である。ここで、3種類の被検スワブとは、従来の検体採取用スワブである従来スワブと、本実施例の一例の検体採取用スワブである実施スワブ1と、本実施例の一例の検体採取用スワブである実施スワブ2と、である。具体的に、従来スワブは、検体採取部が3.3Dtexで1.0mm長のポリアミド繊維で構成されているものであり、実施スワブ1は、検体採取部が3.4Dtexで1.0mm長のポリアミド繊維で構成されているものであり、実施スワブ2は、検体採取部が4.4Dtexで1.0mm長のポリアミド繊維で構成されている検体採取用スワブ1に相当するものである。なお、実施スワブ1および実施スワブ2は、上述の<検体採取用スワブ1の製造方法>にて説明した方法と同じ方法で製造されたものである。また、当該試験における検体としては、Haemophilus influenzae ATCC10211を対象菌種として使用した。」
(10)「【0034】
このような検体採取用スワブ1であれば、検体採取用スワブ1の検体採取部20は繊度が3.4Dtex~6.7Dtexの所定の繊維のみが均一な厚さの層をなすように接着された構成となるため、検体採取部20における検体等の吸着およびリリースの効率が所望の値および略一定の値であって、従来(繊度が3.3Dtexの繊維で検体採取部が形成されているもの)よりも良い値となるような検体採取用スワブ1にすることができる。特に、繊度が3.4Dtex以上であれば、従来よりも移植菌量(%)の数値が大きく、延いては、繊度が大きければ大きいほど移植菌量(%)の数値が大きくなり、つまりは、従来よりも検体採取部20における検体等の吸着およびリリースの効率が従来よりも良い値となる。また、このような検体採取用スワブ1は、従来の検体採取用スワブのように海島型バイコンポーネント繊維が接着された後に海材料の繊維のみを溶解させるといった不要な繊維を含む2種類の繊維を利用して製造するような構成でないため、不要な繊維が固着することがなく、不要な繊維の残存量に応じて検体等の吸着およびリリースの効率が変化したり一定とならなかったりするような虞もない。さらに、このような検体採取用スワブ1は、従来の検体採取用スワブのように海島型バイコンポーネント繊維のうちの不要な海材料の繊維のみを溶解させるような工程も必要でないため、従来の製造方法に比べて容易に製造できるものである。なお、一般的に、繊度が大きければ大きいほどコシの強い繊維となるため、6.7Dtexを超える繊維のみで形成された検体採取部の場合、人体の鼻腔内等に接触させて検体を採取するときに、検体採取部の繊維の先端が押し付けられることによって、人体側に対して裂傷等を発生させてしまうとともに、検体を採取される側での不快感が大きくなってしまう虞がある。そのため、検体採取用スワブ1では、検体採取部20の繊維の繊度は3.4Dtex~6.7Dtexのものが好ましいものとしている。」
(11)「【0044】
図4(B)に示すように、検体採取部220においては、上述の実施形態の検体採取用スワブ1と同様に、1.7Dtex~6.7Dtex(例えば、3.4Dtex~6.7Dtexが好ましく、特に、3.4Dtex~4.4Dtexが好ましい。)で約1.0mm長の所定の繊維が軸部210の端部215の表面に対して略垂直をなすように、所定の接着剤にて接着されている。つまり、検体採取部220においては、軸部210の端部215の全面に亘って所定の繊維による厚さ約1.0mmの繊維層が形成されていることとなる。しかしながら、上述の実施形態の検体採取用スワブ1とは異なり、検体採取部220を形成する端部215においては、軸方向と垂直をなす方向の最大直径が軸部210の把持部における軸方向と垂直をなす方向の直径と略同じとなっているものの、クビレ部が形成されている。したがって、検体採取用スワブ200の検体採取部220は、上述の検体採取用スワブ1の検体採取部20とは異なり、クビレ部が形成された、所謂、瓢箪型の形状となっている。なお、図4(B)においては、説明の便宜上、検体採取部220の繊維層における所定の繊維が軸部210の端部の表面に対して略垂直をなすように接着されている状態を所定の線影で示している。」
(12)「【図1】
[図:0001433041000008.jpg]
」
第7 当審の判断
1 本件特許発明1の構成要件分けについて
本件特許発明1を以下のように構成A~Eに分ける。
「A 軸体と、該軸体の一端に設けられ検体を採取するための検体採取部(ただし、ループ形状を除く)とを備える検体採取スワブであって、
B 前記検体採取部には、基材の表面に形成された接着剤層を介して繊維が静電植毛されており、
C 前記繊維の繊度が3.5dtex~4.4dtexであり、
D 前記繊維の長さが0.80mm~1.5mmであり、
E 前記繊維のアスペクト比が35~50であること
を特徴とする検体採取スワブ。」
2 無効理由1(特許法第29条第2項違反)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「ロッド(14)」は、本件特許発明1の「軸体」に相当する。
(イ)甲1発明の「生物学的検体を吸収する親水性の繊維(17)で覆われたチップ(16)」は、ロッド(14)の一端を終了する位置にあるものであり、繊維の層で覆われ、層は好ましくは均一の厚さであることから、本件特許発明1の「軸体の一端に設けられ検体を採取するための検体採取部(ただし、ループ形状を除く)」に相当する。
(ウ)甲1発明の「生物学的検体の採取用スワブ(20)」は、本件特許発明1の「検体採取スワブ」に相当する。
(エ)甲1発明の「チップ表面に予めコートされ」た「接着剤」は、本件特許発明1の「基材の表面に形成された接着剤層」に相当する。
(オ)甲1発明は、「繊維(17)が、フロッキングにより被着した層の形状で、前記チップ(16)を覆い」、「フロッキング層を形成する繊維は、静電場に掛け、方向付けて被着し、接着剤で保持されて、チップ表面に固定されており」、「接着剤は水性基材が好ましく、チップ表面に予めコートされるものであり」、「スワブ軸のチップは、繊維の層で覆われ、層は好ましくは均一の厚さであ」ることから、甲1発明と本件特許発明1とは、「検体採取部には、基材の表面に形成された接着剤層を介して繊維が静電植毛されて」いる点で共通する。
(カ)以上のことから、本件特許発明1と甲1発明とは、
「A 軸体と、該軸体の一端に設けられ検体を採取するための検体採取部(ただし、ループ形状を除く)とを備える検体採取スワブであって、
B 前記検体採取部には、基材の表面に形成された接着剤層を介して繊維が静電植毛されている、
検体採取スワブ。」
の点で一致し、以下の3点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は、構成C「前記繊維の繊度が3.5dtex~4.4dtexであり、」を備えるのに対し、甲1発明は「1.7~3.3Dtex」(【0020】)である点。
<相違点2>
本件特許発明1は、構成D「前記繊維の長さが0.80mm~1.5mmであり、」を備えるのに対し、甲1発明は「0.6~3mm」(【0020】)である点。
<相違点3>
本件特許発明1は、構成E「前記繊維のアスペクト比が35~50であること」を備えるのに対し、甲1発明は繊維のアスペクト比に関して開示も示唆もない点。
イ 判断
(ア)相違点1について
a 甲2開示技術は、検体などの液体の捕捉性および放出性に優れている綿棒は、繊維の太さとして0.1~5.6dtex程度であるのがよいことを示している。
b ここで、甲1発明の「生物学的検体の採取用スワブ(20)」において、繊維の繊度を甲2開示技術をもとに「1.7~3.3Dtex」から「0.1~5.6dtex程度」とすることは、当業者が容易になし得ると仮定した場合について、検討する。
c 前記「b」と仮定した場合において、0.1~5.6dtex程度という繊維の繊度の範囲から、3.5dtex~4.4dtexの範囲を選択することは、当該数値範囲が甲2~甲4には記載も示唆もされておらず、そのような範囲とする動機付けがない、また、繊維の繊度を3.5dtex~4.4dtexとすることについて、繊度を所定値以上とすることで繊維の分散性や立毛性を確保しやすくなり、ひいてはスワブ間の性能のばらつきの抑制につながり、一方、繊度を所定値以下とすることで検体の採取時に被採取者に不快感を与えることを抑制できる(本件特許明細書【0027】)という技術的意義があることから、当業者が適宜なし得る単なる数値範囲の最適化ということもできない。
d 請求人は、審判請求書第17頁及び陳述要領書1第2~4頁において、前記「b」の場合において、繊維の繊度を3.5dtex~4.4dtexの範囲とすることは、本件特許発明1と甲1発明と甲2記載事項の「繊維の繊度」に関して発明の目的が略同じであること、甲1及び甲2には「目的等に応じて繊維の繊度(太さ)を適宜選択することができる」ことが示唆されていること、及び本件特許の明細書等には「繊維の繊度が4.4dtex以下である」という繊維の繊度の上限値に関する根拠について、何ら説明されていないこと、などから、発明の目的を達成するために単に採用した数値範囲にすぎず、当業者が適宜なし得ることである旨主張する。
e しかしながら、前記「d」の主張の根拠となる甲2の【0017】の記載は「短繊維の種類、繊維長および太さは、使用する用途に応じて適宜選択すればよい。」(前記「第6 2(3)」参照。)というものであり、甲2に記載されている用途としては、検体採取用(【0022】)のみならず、薬剤塗布用(【0023】)、身体清掃用(【0024】)、機械清掃用(【0024】)、化粧料塗布具(【0025】)などさまざまな用途が示されていることから、甲2開示技術が「繊維の太さとして0.1~5.6dtex程度であるのがよい」ことを示していたとしても、その数値範囲の中で3.5dtex~4.4dtexの数値範囲が特に検体採取用に適しているとする記載やそれを示唆する記載はなく、当該数値範囲を採用する動機付けがないし、上記のとおり、発明の目的を達成するために単に採用した数値範囲ともいえない。
f そして、繊維の繊度を3.5dtex~4.4dtexとすることにより、繊維の分散性や立毛性を確保しやすくなり、ひいてはスワブ間の性能のばらつきの抑制につながり、かつ検体の採取時に被採取者に不快感を与えることを抑制できることは、本件特許明細書の【0027】に記載されており、当該数値範囲の特定により、スワブ間の性能のばらつきの抑制という効果が得られるものである。さらに、本件特許明細書の【0010】、【0027】、及び【0053】にも繊維の繊度が4.4dtexの場合が好ましいことの例示も示されている。
g 以上のことから、前記「d」の請求人の主張は採用することができず、甲1発明に甲2開示技術を適用したとしても、上記相違点1に係る発明特定事項を備えるようにすることは、当業者ならば容易になし得たことであるとはいえない。
(イ)相違点2について
a 本件特許発明の繊維の長さについて、本件特許明細書の【0028】には「繊維の長さは、特に限定されず、・・・、より好ましくは0.80mm~1.5mmであり、・・・。繊維の長さは、比較的長い方(例えば、0.80mm以上)が吸着性能に優れ好ましいが、性能のばらつきをより最小限にするためにはアスペクト比が重要な要素になる。」と記載されており、甲1発明における繊維の長さの「0.6~3mm」という数値範囲の中で、充分量の採取ができるよう、その数値範囲内に属する「0.80mm~1.5mm」という長さを採用することは、当業者が適宜なし得ることであると認められる。
(ウ)相違点3について
a 「繊維のアスペクト比」については、本件特許明細書の段落【0010】に
「繊維のアスペクト比(繊維の長さ/繊維の太さ)」、「繊度4.4dtex、繊維の長さ1.0mm(アスペクト比45)~1.1mm(同49.5)」と記載されている。
b また、「繊度」については、本件特許明細書の段落【0009】に「なお、繊維の繊度[単位:dtex]は、単繊維の10000m当たりのグラム重量であり、例えば、JIS L 1013:2010 「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.3.1 正量繊度」に規定の方法に従って測定される総繊度を単繊維数で除することなどにより算出される。」と記載されている。
c 前記甲3-1の記載より、単位texは太さを表す単位であり、dtexの単位についての甲3-1の記載は、前記「(イ)」の記載と整合するものであると認められる。
d そして、前記甲3-1の記載より、繊維の太さ(μm)は、繊維の繊度(dtex)と繊維の種類に対応した物性値である繊維の密度(比重)ρとから、以下の式で算出できることが分かる。
繊維の太さ(μm)
=11.89×[{(繊維の繊度:単位dtex)/1.111}÷(繊維の比重ρ)]1/2
e そして、本件特許発明1の構成Eで定義する「繊維のアスペクト比」は、上記「a」のとおり「(繊維の長さ:単位mm)÷(繊維の太さ:単位mm)」であるから、以下の式により計算される値である。
繊維のアスペクト比
(繊維の長さ:単位mm)×1000
= --------------------------------------------------------------
11.89×[{(繊維の繊度:単位dtex)/1.111}÷(繊維の比重ρ)]1/2
f そうすると、構成Eは、検体採取部の繊維の長さ、繊維の繊度、及び繊維の比重、すなわち繊維の種類の3つの要素から計算される当該繊維のアスペクト比が35~50であることを特定した構成であると認められる。
g ここで、甲2開示技術は、「生物学的検体の採取用の植毛された綿棒において、軸の一端または両端に弾力性に富む綿塊部を設け、この綿塊部の表面に繊維をブラシ状に植毛した植毛層を設け、当該繊維は例えば、レーヨン、ポリエステル、ポリアミド、炭素繊維、綿、絹などが挙げられ、短繊維の繊維長は0.3~3mm程度であるのがよく、また繊維の太さは0.1~5.6dtex程度であるのがよ」い「綿棒とする技術」であるが、直接的に繊維のアスペクト比を特定する技術ではない。
h また、甲3-1は、ポリアミドにナイロンが含まれることを開示し、甲3-2は、ポリエステル繊維にポリトリメチレンテレフタレート繊維が含まれることを開示し、甲4は、静電植毛技術を開示している(前記「第6 3~5」参照。)が、これらも繊維のアスペクト比を特定する技術ではない。
i そして、検体採取スワブの検体採取部の繊維のアスペクト比を35~50に特定する技術は、本件特許の出願前において周知の技術とも認められない。
j 以上のことから、本件特許発明1における構成Eについては、甲第1号証~甲第4号証のいずれにも開示がなく、かつ本件特許の出願前において周知の技術とも認められない、そして、採取性能を確保しながらばらつきを抑制するという効果を得られるものであることから、引用発明及び甲2開示技術から当業者ならば容易に想到し得たものであるとはいえない。
k 相違点1及び相違点2についての判断は上記のとおりであるが、仮に、甲1発明に甲2開示技術を適用することが当業者が容易になし得ることであり、その上で甲1発明における繊維の繊度及び繊維の長さとして、それぞれ3.5dtex~4.4dtex(相違点1)及び0.80mm~1.5mm(相違点2)の範囲を採用することが、いずれも当業者が適宜設定し得たものであるとした場合に、これにより構成Eで特定される数値範囲が満たされるものであるかについても検討する。
この場合において、甲1発明の繊維の種類が「例えばポリアミドである」という記載で例示されたポリアミド(比重ρ=1.14)であるものについて、前記「e」で説示した「繊維のアスペクト比」を計算する式により計算すると、以下のとおりとなる。
(a)繊維の長さ0.80mmで繊維の繊度3.5dtexの場合
アスペクト比は、40.4
(b)繊維の長さ 1.5mmで繊維の繊度3.5dtexの場合
アスペクト比は、75.8
(c)繊維の長さ0.80mmで繊維の繊度4.4dtexの場合
アスペクト比は、36.0
(d)繊維の長さ 1.5mmで繊維の繊度4.4dtexの場合
アスペクト比は、67.6
(上記計算結果は、陳述要領書1第15頁<表2>の結果と一致している。)
l 前記「k」より、繊維をポリアミドとし、繊維の繊度を3.5dtex~4.4dtex、繊維の長さを0.80mm~1.5mmとした場合においても、繊維のアスペクト比は、36.0~75.8の範囲となり、一義的に35~50の範囲になるものではない。したがって、仮に、甲1発明に甲2開示技術を適用することが当業者が容易になし得ることであり、その上で甲1発明における繊維の繊度及び繊維の長さとして、それぞれ3.5dtex~4.4dtex(相違点1)及び0.80mm~1.5mm(相違点2)の範囲を採用することが、いずれも当業者が適宜設定し得たものであるとした場合、これにより構成Eで特定される数値範囲が満たされるものともいえない。
そして、構成Eは、構成C及び構成Dで特定された繊維の繊度及び繊維の長さの範囲内においてさらに繊維のアスペクト比が35~50となるよう、繊維の繊度、繊維の長さ、繊維の種類を特定する構成であり、そのような、繊維の繊度、繊維の長さ、繊維の種類を特定する技術については、甲第1号証~甲第4号証のいずれにも開示がなく、かつ本件特許の出願前において周知の技術とも認められないことは、上記のとおりである。
m 請求人は、審判請求書第17~19頁及び陳述要領書1第5~7頁において、構成Eのアスペクト比は、繊維の繊度に関する構成Cと繊維の長さに関する構成Dとから甲3周知技術(前記「イ(ウ)b~e」参照。)を利用して算出された数値(前記「イ(ウ)k」参照。)であり、「C」及び「D」と同義の数値であるといえ、格別の作用効果を奏するような特徴であるとはいえない旨主張する。
しかしながら、前記「イ(ウ)e、f、k及びl」で説示したとおり、繊維のアスペクト比自体は、繊維の繊度、繊維の長さ及び繊維の種類を特定することにより一義的に決まる値であるが、本件特許発明1の構成Eである、繊維のアスペクト比を35~50とすることは、構成C(繊維の繊度)と構成D(繊維の長さ)で特定される各値から一義的に決定される値ではなく、このようなアスペクト比とすることにより、採取性能を確保しながらばらつきを抑制するという効果が得られるものであることは上記のとおりであるから、上記請求人の主張は採用することはできない。
n また、請求人は、審判請求書第17~19頁及び陳述要領書1第5~7頁において、「構成Cと構成Dの数値範囲の特定は、単に採用したにすぎない数値範囲である。そして、繊維のアスペクト比はそれら採用した数値範囲から一義的に決まるものであって、繊維の繊度や長さに関わらず所望の数値にできるものではないため、構成Eのようなアスペクト比の数値範囲は、本件特許の明細書等の記載に反するとともに、出願時の技術常識に反した技術的思想に基づく技術的意義のないものであり、技術的根拠なく単に採用した数値範囲である」旨主張する。
しかしながら、前記「イ(ウ)k及びl」で説示したとおり、本件特許発明1の構成Eである、繊維のアスペクト比を35~50とすることは、構成C(繊維の繊度)と構成D(繊維の長さ)で特定される各値から一義的に決定される値ではない。よって、上記請求人の主張は採用することはできない。
ウ 本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、繊維の繊度、繊維の長さ、繊維のアスペクト比の数値範囲をそれぞれ特定する構成C~構成Eを備えることにより、「繊維の分散性や立毛性を確保しやすくなり、ひいてはスワブ間の性能のばらつきの抑制」(本件特許明細書【0027】参照。)をし、「検体の採取時に被採取者に不快感を与えることを抑制」(本件特許明細書【0027】参照。)し、「風合いと性能を低下」させず(本件特許明細書【0029】参照。)、「繊維の分散性」と「均一な立毛性」を確保して「性能のばらつき」を抑える(本件特許明細書【0029】参照。)という、甲第1号証から甲第4号証に記載された発明の効果とは異質な効果を奏するものであり、特定された数値範囲はその臨界的意義の有無に関わらず各甲号証及び周知技術から当業者が予測しうる程度の効果であるとは認められない。
エ 小括
以上のことから、本件特許発明1は、甲第1号証から甲第4号証に記載された発明及び周知技術から、当業者が容易に導き出しうる発明であるとはいえない。
(2)本件特許発明2及び3について
本件特許発明1を特定する請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件特許発明2及び3についても、前記「(1)」で説示したのと同様の理由により、甲第1号証から甲第4号証に記載された発明及び周知技術から、当業者が容易に導き出しうる発明であるとはいえない。
(3)無効理由1についてのまとめ
以上のことから、本件特許発明1~3は、甲第1号証から甲第4号証に記載された発明及び周知技術から、当業者が容易に導き出しうる発明であるとはいえない。したがって、本件特許発明1~3については、請求人が主張する無効理由1によって無効とすることはできない。
3 無効理由2(特許法第29条の2違反)について
(1)本件特許発明1~3に対する先願発明について
甲5の1に係る特許出願である特願2021-4872号は、令和3年1月15日に出願されたものであり、その後令和4年1月14日に当該特許出願を基礎とした優先権の主張を伴う特許出願(特願2022-4060号)がなされ、出願公開がされた(甲5の2は当該出願公開公報)。
本件特許発明1~3に係る特許出願である特願2021-104480号は令和3年6月23日に出願されたものである。 そして、特許法第29条の2本文の規定の適用については、特許法第41条第3項の規定により、特願2022-4060号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「出願当初明細書等」という。)に記載された発明のうち、特願2021-4872号の出願当初明細書等に記載された発明は、特願2022-4060号について出願公開がされた時に特願2021-4872号について出願公開がされたものとみなす。
(2)特願2022-4060号の出願当初明細書等に記載された発明のうち、特願2021-4872号の出願当初明細書等に記載された発明について
ア 先願発明5について
特願2022-4060号の出願当初明細書等に記載された発明のうち、特願2021-4872号の出願当初明細書等に記載された発明(特願2022-4060号について出願公開がされた時に特願2021-4872号について出願公開がされたものとみなす発明)を以後「先願発明5」ということとする。
イ 繊維の繊度の数値範囲を特定する技術事項について
(ア)甲第5号証の2には、「繊維の繊度が3.4Dtex~4.4Dtexであること」が記載されている(段落【0017】【0034】【0044】参照。)と認められるが、甲第5号証の1には、繊維の繊度が「1.7Dtex~5.0Dtexであればよく」と「特に、・・・3.3Dtex~4.4Dtexが好ましい」(段落【0018】参照。)としか記載されていない。
(イ)また、甲第5号証の2には、3.3Dtexが「従来」のスワブの構成であり、3.4Dtex以上であれば従来よりも好ましい旨の記載(段落【0034】参照。)があることから、3.4Dtex~4.4Dtexという数値範囲を特定する技術事項は、特願2022-4060号において新たに導入された技術的事項である。
(ウ)したがって、「繊維の繊度が3.4Dtex~4.4Dtexである」という、繊維の繊度を特定の数値範囲とする技術的事項は、先願発明5の発明特定事項として認められない。
(エ)さらに、甲第5号証の2には、繊維の繊度については、「1.7Dtex~6.7Dtex」(段落【0017】【0044】参照。)や「3.4Dtex~6.7Dtex」(段落【0007】【0009】【0017】【0034】【0038】【0044】参照。)という繊維の繊度の数値範囲についての記載があるが、甲第5号証の1には、繊維の繊度が「1.7Dtex~5.0Dtexであればよく」と「特に、・・・3.3Dtex~4.4Dtexが好ましい」(段落【0018】)としか記載されていないことから、前記「(ア)~(ウ)」で説示したものと同様の理由により、繊維の繊度が「1.7Dtex~6.7Dtex」であるという数値範囲を特定する技術事項、繊維の繊度が「3.4Dtex~6.7Dtex」であるという数値範囲を特定する技術事項、繊維の繊度が「1.7Dtex~5.0Dtex」であるという数値範囲を特定する技術事項、及び繊維の繊度が「3.3Dtex~4.4Dtex」であるという数値範囲を特定する技術事項は、先願発明5の発明特定事項として認められない。
ウ 繊維の繊度が4.4Dtexであるという技術事項について
(ア)甲第5号証の2の段落【0017】【0044】には、繊維の繊度の好ましい範囲として「3.4Dtex~4.4Dtex」が記載され、同段落【0018】【0026】には、一実施形態として「4.4Dtexで、1.0mm長のポリアミド繊維」が記載され、同段落【0035】には、「検体採取部20は、繊度が4.4Dtexの複数の繊維で形成することができる」と記載されている。
(イ)一方、甲第5号証の1の段落【0018】には、繊維の繊度の好ましい範囲として「3.3Dtex~4.4Dtex」が記載されているが、当該記載における「4.4Dtex」は、繊維の繊度の範囲の上限を意味するものであって、繊維の繊度の値を4.4Dtexとすることを意味するものではなく、甲5号証の1に、繊維の繊度が4.4Dtexである発明が記載されていると認定することはできない。また、甲第5号証の1には、他にも、検体採取用スワブの繊維の繊度を4.4Dtexとする旨の記載は見受けられない。
(ウ)したがって、「繊維の繊度が4.4Dtexである」という、繊維の繊度を特定の値とする技術的事項は、先願発明5の発明特定事項として認められない。
エ 前記「ア~ウ」及び前記「第6 6」に示した甲第5の1の記載及び前記「第6 7」に示した甲第5の2の記載より、先願発明5は、以下の発明であると認められる。
「生物学上の検体検査における被検査物である検体を採取するための検体採取用スワブであって、(甲5の2【0001】、甲5の1【0001】)
検体採取用スワブ1は、熱可塑性樹脂を棒状に成形した軸部10と、所定の繊維で形成されており、検体を採取するための1つの検体採取部20と、を備え、(甲5の2【0014】甲5の1【0015】)
検体採取部20は、軸部10の一方の端部15に形成されており、所定の繊維が端部15の表面の全面を覆うように当該表面に対して略垂直に接着されており、(甲5の2【0014】甲5の1【0015】)
所定の繊維としては、親水性を有する繊維であって、例えば、ポリアミド、レーヨン、ポリエステル、炭素繊維、アルギネート、綿、絹等や、これらの混紡で構成される繊維を使用することができ、所定の繊維の長さについては、0.5mm~3.0mmであればよく、特に、本実施形態の検体採取用スワブ1においては、0.6mm~1.0mmが好ましく、(甲5の2【0017】甲5の1【0018】)
検体採取用スワブ1の製造においては、軸部10の検体採取部20が形成される端部15に所定の接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、帯電させた状態の複数の所定の繊維が軸部10に付着するように複数の所定の繊維を供給する繊維供給工程と、を実行し(甲5の2【0019】甲5の1【0020】)
所定の接着剤としては、315nm~400nmの波長の紫外線で硬化し、粘度(25℃)が1500mPa・s~3500mPa・sのウレタンアクリレート樹脂を使用し、(甲5の2【0018】甲5の1【0019】)
繊維供給装置130における繊維供給工程については、搬送装置105で繊維供給装置130に搬送された軸部10が、複数の所定の繊維が霧雲状に対流している空間部を通過し、このとき、複数の所定の繊維が通過する軸部10に付着することとなり、特に、複数の所定の繊維は、各々が静電気で帯電しているため、軸部10の表面に対して略垂直をなすように付着し、つまり、繊維供給装置130での繊維供給工程によって、複数の所定の繊維が、軸部10の接着剤が塗布された端部15に、端部15の表面に対して略垂直をなすように全面に亘って付着することとなり、(甲5の2【0023】甲5の1【0024】)
検体採取用スワブ1の検体採取部20は所定の繊維のみが均一な厚さの層をなすように接着された構成となるため、検体採取部20における検体等の吸着およびリリースの効率が所望の値および略一定の値となるような検体採取用スワブ1にすることができる、(甲5の2【0034】甲5の1【0028】)
検体採取用スワブ。」
(3)本件特許発明1が先願発明5と同一であるかについての検討
ア 対比
本件特許発明1と先願発明5とを対比する。
(ア)先願発明5の「熱可塑性樹脂を棒状に成形した軸部10」は、本件特許発明1の「軸体」に相当する。
(イ)先願発明5の「軸部10の一方の端部15に形成され」、「所定の繊維で形成されており、検体を採取するための1つの検体採取部20」は、本件特許発明1の「軸体の一部に設けられ検体を採取するための検体採取部」に相当する。
(ウ)先願発明5の「検体採取部20」は、「軸部10の検体採取部20が形成される端部15に所定の接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、帯電させた状態の複数の所定の繊維が軸部10に付着するように複数の所定の繊維を供給する繊維供給工程と、を実行」して「所定の繊維が端部15の表面の全面を覆うように当該表面に対して略垂直に接着されてお」るものであるから、本件特許発明1の「検体採取部」と、「ループ形状を除く」点で一致する。
(エ)先願発明5は「軸部10の検体採取部20が形成される端部15に所定の接着剤を塗布する接着剤塗布工程」により、「軸部10の接着剤が塗布された端部15」を生成していることから、先願発明5の「端部15」及び「端部15」に「塗布された」「接着剤」は、それぞれ本件特許発明1の「基材」及び「基材の表面に形成された接着剤層」に相当する。
(オ)先願発明5の「所定の繊維」は、本件特許発明1の「繊維」に相当する。
(カ)先願発明5は、「帯電させた状態の複数の所定の繊維が軸部10に付着するように複数の所定の繊維を供給する繊維供給工程」により、「複数の所定の繊維が、軸部10の接着剤が塗布された端部15に、端部15の表面に対して略垂直をなすように全面に亘って付着することとな」っていることから、先願発明5の「検体採取部20」は、本件特許発明1の「検体採取部」と、「基材の表面に形成された接着剤層を介して繊維が静電植毛されて」いる点で一致する。
(キ)以上のことから、本件特許発明1と先願発明5とは、
「A 軸体と、該軸体の一端に設けられ検体を採取するための検体採取部(ただし、ループ形状を除く)とを備える検体採取スワブであって、
B 前記検体採取部には、基材の表面に形成された接着剤層を介して繊維が静電植毛されている、
検体採取スワブ。」
の点で一致し、以下の点(相違点4)で相違する。
<相違点4>
検体採取部に静電植毛されている繊維が、本件特許発明1は、「前記繊維の繊度が3.5dtex~4.4dtexであり(構成C)、前記繊維の長さが0.80mm~1.5mmであり(構成D)、前記繊維のアスペクト比が35~50である(構成E)」のに対し、先願発明5は「所定の繊維としては、親水性を有する繊維であって、例えば、ポリアミド、レーヨン、ポリエステル、炭素繊維、アルギネート、綿、絹等や、これらの混紡で構成される繊維を使用することができ、所定の繊維の長さについては、0.5mm~3.0mmであればよく、特に、本実施形態の検体採取用スワブ1においては、0.6mm~1.0mmが好まし」いもの、である点。
イ 判断
(ア)前記相違点4のうち、繊維の繊度については、前記「(2)イ及びウ」で示したとおり、先願発明5において、繊維の繊度を特定することができるとはいえない。そして、そのような繊維の繊度が特定されていない先願発明5において、繊維の繊度を「3.5dtex~4.4dtex」とすることまで、課題解決のための具体化手段における微差であるとは認められない。
(イ)次に、前記相違点4のうち、「繊維のアスペクト比が30~50である(構成E)」という技術事項については、前記「2(1)イ(ウ)e及びf」で説示したとおり、繊維のアスペクト比は、構成C(繊維の繊度)と構成D(繊維の長さ)と繊維の比重すなわち繊維の種類の3つの要素から計算される値であり、それら3つの要素の組み合わせを特定してアスペクト比を35~50になるようにして、「検体の採取性能と放出性能に優れるとともに、性能のばらつきを抑制する」(本件特許明細書の段落【0008】及び【0013】参照。)ことは、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるとは認められない。
(ウ)そうすると、「繊維の繊度が3.5dtex~4.4dtexであり(構成C)」、「繊維のアスペクト比が30~50である(構成E)」という技術事項を含む相違点4も、課題解決のための具体化手段における微差であるとは認められない。
(エ)したがって、本件特許発明1は、先願発明5と同一であるとはいえないし、かつ先願発明5と実質同一であるともいえない。
ウ 請求人の主張について
(ア)審判請求書における甲5発明に基づく主張について
a 請求人は、審判請求書第15及び16頁において、特許法第29条の2に規定されている「当該特許出願の日前の他の特許出願であって当該特許出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明」に当たる以下の甲5発明が、甲5の1記載事項及び甲5の2記載事項から導き出される旨主張する。
≪甲5発明≫
『甲5a.軸部10と、ループ形状ではない形状であって、軸部10の一端に設けられ検体を採取するための検体採取部20とを備える検体採取用スワブ1であること。
甲5b.検体採取部には、軸部の表面に塗布された接着剤を介して静電気で帯電された繊維が植毛されていること。
甲5c.繊維の繊度が3.4Dtex~4.4Dtexであること。
甲5d.繊維の長さが0.6mm~1.0mmであること。
甲5f.繊維がポリアミド繊維であること。』
b 上記甲5発明の認定について検討する。甲5cについては、前記「(2)イ」で説示したとおり、先願発明5の発明特定事項としては認められない。
c したがって、甲5cを発明特定事項として備えた、請求人が主張する甲5発明は、「当該特許出願の日前の他の特許出願であって当該特許出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明」であるとはいえず、甲5発明をもとに特許法第29条の2違反を主張する請求人の主張は採用することはできない。
(イ)陳述要領書1における甲5’発明に基づく主張について
a 請求人は、陳述要領書1第8~10頁において、特許法第29条の2に規定されている「当該特許出願の日前の他の特許出願であって当該特許出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明」に当たる以下の甲5’発明が、甲5の1記載事項及び甲5の2記載事項から導き出される旨主張する。
≪甲5’発明≫
『甲5a.軸部10と、ループ形状ではない形状であって、軸部10の一端に設けられ検体を採取するための検体採取部20とを備える検体採取用スワブ1であること。
甲5b.検体採取部には、軸部の表面に塗布された接着剤を介して静電気で帯電された繊維が植毛されていること。
甲5’c.繊維の繊度が4.4Dtexであること。
甲5d.繊維の長さが0.6mm~1.0mmであること。
甲5f.繊維がポリアミド繊維(比重ρ=1.14)であること。』
b 上記甲5’発明の認定について検討する。甲5’cについては、前記「(2)ウ」で説示したとおり、先願発明5の発明特定事項としては認められない。
c したがって、甲5’cを発明特定事項として備えた、請求人が主張する甲5’発明は、「当該特許出願の日前の他の特許出願であって当該特許出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明」であるとはいえず、甲5’発明をもとに特許法第29条の2違反を主張する請求人の主張は採用することはできない。
(ウ)陳述要領書1における甲5’発明+甲3周知技術または甲5発明+甲3周知技術に基づく主張について
a 請求人は、陳述要領書1第10~11頁において、特許法第29条の2に規定されている「当該特許出願の日前の他の特許出願であって当該特許出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明」と実質同一な発明に該当する以下の甲5’発明+甲3周知技術または甲5発明+甲3周知技術が、甲5の1記載事項及び甲5の2記載事項と、甲3周知技術から導き出される旨主張する。
≪甲5’発明+甲3周知技術≫
『甲5a.軸部10と、ループ形状ではない形状であって、軸部10の一端に設けられ検体を採取するための検体採取部20とを備える検体採取用スワブ1であること。
甲5b.検体採取部には、軸部の表面に塗布された接着剤を介して静電気で帯電された繊維が植毛されていること。
甲5’c.繊維の繊度が4.4Dtexであること。
甲5d.繊維の長さが0.6mm~1.0mmであること。
甲3’周知e.繊維のアスペクト比が27.0~45.0であること。
甲5f.繊維がポリアミド繊維であること。』
≪甲5発明+甲3周知技術≫
『甲5a.軸部10と、ループ形状ではない形状であって、軸部10の一端に設けられ検体を採取するための検体採取部20とを備える検体採取用スワブ1であること。
甲5b.検体採取部には、軸部の表面に塗布された接着剤を介して静電気で帯電された繊維が植毛されていること。
甲5c.繊維の繊度が3.4Dtex~4.4Dtexであること。
甲5d.繊維の長さが0.6mm~1.0mmであること。
甲3周知e.繊維のアスペクト比が27.0~51.3であること。
甲5f.繊維がポリアミド繊維であること。』となる。
b 上記甲5’発明+甲3周知技術または甲5発明+甲3周知技術の認定について検討する。甲5’c及び甲5cについては、前記「(2)イ及びウ」で説示したとおり、先願発明5の発明特定事項としては認められない。また、甲3’周知e.及び甲3周知e.についても、前記「2(1)イ(ウ)e及びf」で説示したとおり、繊維のアスペクト比は、繊維の繊度と繊維の長さと繊維の比重すなわち繊維の種類の3つの要素から計算される値であり、繊維の繊度が特定されなければアスペクト比は同様に特定されないものであるから、甲5’c及び甲5cが先願発明5の発明特定事項として認められないことに連動して、甲3’周知e.及び甲3周知e.もまた先願発明5の発明特定事項として認められない。
c したがって、請求人が主張する甲5’発明+甲3周知技術または甲5発明+甲3周知技術は、「当該特許出願の日前の他の特許出願であって当該特許出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明」と実質同一な発明であるとはいえず、請求人の主張は採用することはできない。
(エ)陳述要領書1における構成(α)~(γ)を備える検体採取用スワブに基づく主張について
a 請求人は、陳述要領書1第11頁において、
「なお、例えば、上記の「甲5’発明+甲3周知技術」のうち、下記のような構成(α)~(γ)を備える検体採取用スワブは、本件答弁書の第16頁において、被請求人が主張する「性能のばらつきを抑制するという課題を解決するような、本件特許発明1の構成要件に係る、繊維の繊度、繊維の長さ、繊維のアスペクト比などのすべてを同時に備える実施的に同一の構成の発明である」といえる。
(α)繊維の繊度が4.4Dtexであること。
(β)繊維の長さが1.0mmであること。
(γ)繊維のアスペクト比が45.0であること。」
旨主張する。
b 上記主張について検討する。構成(α)については、前記「(2)ウ」で説示したとおり、先願発明5の発明特定事項としては認められない。また、構成(γ)についても、前記「2(1)イ(ウ)e及びf」で説示したとおり、繊維のアスペクト比は、繊維の繊度と構成D繊維の長さと繊維の比重すなわち繊維の種類の3つの要素から計算される値であり、繊維の繊度が特定されなければアスペクト比は同様に特定されないものであるから、構成(α)が先願発明5の発明特定事項として認められないことに連動して、構成(γ)もまた先願発明5の発明特定事項として認められない。
c したがって、請求人が主張する「構成(α)~(γ)を備える検体採取用スワブ」は、「当該特許出願の日前の他の特許出願であって当該特許出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明」と実質同一な発明であるとはいえず、請求人の主張は採用することはできない。
(オ)以上のことから、無効理由2に対する請求人の上記主張は、いずれも採用することはできない。
エ 小括
以上のことから、本件特許発明1は、本件特許発明1は、先願発明5と同一ではないし、かつ先願発明5と実質同一でもない。
(4)本件特許発明2及び3について
本件特許発明1を特定する請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件特許発明2及び3についても、前記「(3)」で説示したのと同様の理由により、先願発明5と同一ではないし、かつ先願発明5と実質同一でもない。
(5)無効理由2についてのまとめ
以上のことから、本件特許発明1~3は、先願発明5と同一ではないし、かつ先願発明5と実質同一でもない。したがって、本件特許発明1~3については、請求人が主張する無効理由2によって無効とすることはできない。
4 無効理由3(特許法第36条第4項第1号違反)について
(1)本件特許発明1及び3についての実施可能要件についての判断
ア 本件特許発明1及び3を実施した実施例1~3については、本件特許の明細書【0046】及び【0047】に製造方法が記載されている。
イ そして、検体採取部に植毛する繊維の種類、繊維の繊度及び繊維の長さは、特殊な物性やパラメータではないから、当業者が適宜設定可能であることは明らかであり、繊維の種類、繊維の繊度及び繊維の長さから決まるアスペクト比についても、当業者が適宜設定可能であるといえる。
ウ そうすると、検体採取スワブを製造する際に、繊維の種類を選択し、当該選択した繊維の比重に応じて、繊維の緯度、繊維の長さを、「前記繊維の繊度が3.5dtex~4.4dtex」、「前記繊維の長さが0.80mm~1.5mm」、「前記繊維のアスペクト比が35~50」を満たす値とすることは、当業者が当然に実施できるといえるから、本件特許発明1及び3に係る発明の範囲について、本件特許の明細書等の記載が、当該発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。
(2)請求人の審判請求書第6、及び22~26頁の記載における主張について
ア 請求人は、無効理由3についての審判請求書第6、及び22~26頁において、「本件特許の明細書の記載は、出願時の技術常識等に基づいて、本件特許発明1と当該発明の課題との実質的な関係を当業者であっても理解できず、発明の課題の解決手段を理解できないものであるため、本件特許発明1の技術的意義が不明」である旨主張しているとも認められるので、当該主張について検討する。
イ 本件特許発明1~3と本件特許発明の課題を解決できることとの因果関係は、本件特許明細書【0007】、【0010】、及び【0013】の記載から、繊維の繊度、長さ及びアスペクト比の最適化により、採取性能及び放出性能のばらつきを抑えることであって、同明細書【0053】の【表1】でも、効果を奏する実施態様の記載(実施例1~3)があるから、当業者において理解できるものであると認められる。そして、同【表1】の比較例1~8、参考例、及び実施例4において、吸着量、リリース量、リリース率の平均値、s値、CV(%)の一部値が実施例1~3の値よりも良好な値を示すものがあったとしても、本件特許発明1~3と本件特許発明の課題を解決できることとの因果関係が理解できないとまではいえない。また本件特許発明3と、本件特許発明の課題を解決できることとの因果関係は、本件特許の明細書【0039】の記載から、静電植毛時の立毛性の向上が、採取性能及び放出性能のばらつきを抑えることにつながることであると当業者において理解できると認められる。
ウ 以上のことから、上記請求人の主張は採用することはできない。
(3)請求人の陳述要領書1第12~14頁における主張について
ア 請求人は、陳述要領書1第12~14頁において、本件特許に係る特許出願における令和4年7月29日付の意見書で被請求人が主張する「繊維の繊度、長さ、及びアスペクト比は、それぞれが独立したパラメータであって、所定の範囲内であれば、それぞれを自由な数値で組み合わせることができる」といった技術的思想は、誤りであるという主張について、一応検討する。
イ 前記「ア」の主張において、被請求人が意見書にて主張したとされる根拠の記載は、陳述要領書1第6頁にも記載されている以下のとおりである。
「このように、繊維の繊度、長さ、アスペクト比をそれぞれ所定の範囲内で組み合わせることで、良好な採取性能と放出性能を維持しながら、特に、採取性能や放出性能のばらつきを抑制できます。」(以下「根拠記載」という。)
しかし、上記根拠記載は、「繊維の繊度、長さ、アスペクト比をそれぞれ所定の範囲内で組み合わせる」ことは記載されているが、前記「ア」で請求人が示した「繊維の繊度、長さ、及びアスペクト比は、それぞれが独立したパラメータであって、所定の範囲内であれば、それぞれを自由な数値で組み合わせることができる」という記載ではなく、そのような意味と解すべき示唆もない。そうすると、請求人の主張はその前提において必ずしも正確であるといえないことから採用することはできない。そして、繊維のアスペクト比は、繊維の繊度と繊維の長さと繊維の比重すなわち繊維の種類の3つの要素から計算される値であることから、「繊維の繊度、長さ、アスペクト比をそれぞれ所定の範囲内で組み合わせること」ができることは、前記「2(1)イ(ウ)e及びf」で説示したとおりである。
ウ 以上のことから、上記請求人の主張は採用することはできない。
(4)請求人の陳述要領書1第16頁における主張について
ア 請求人は、陳述要領書1第16頁において、「本件特許発明1は、例えば、ガラス繊維といった所定の種類の繊維については、実現させることが不可能であるため、この観点で、本件特許の明細書等の記載は、特許法第36条第4項第1号の実施可能要件も満たさないものともいえる。」と主張する。
イ 上記主張について検討する。
(ア)本件特許発明1は、繊維の種類を特定する発明特定事項は備えておらず、構成C(繊維の繊度)と構成D(繊維の長さ)と構成E(繊維のアスペクト比)を特定する発明特定事項を備えた発明である。
(イ)繊維の種類について、本件特許の明細書には、段落【0025】及び【0026】にさまざまな繊維の種類の例示(ガラス繊維を含む)が記載されている。
(ウ)しかしながら、これら明細書の記載で示唆されるさまざまな繊維の種類を用いた検体採取用スワブのうち、本件特許発明1は、構成C(繊維の繊度)と構成D(繊維の長さ)と構成E(繊維のアスペクト比)を特定する発明特定事項を備えた発明であり、ガラス繊維を用いた検体採取スワブが本件特許発明1に必ず含まれるものではない。
(エ)そして、前記「(2)」に説示したように本件特許発明1を実施した実施例1~3については、本件特許の明細書【0046】及び【0047】に製造方法が記載されている。
(オ)以上のことから、本件特許の明細書は、本件特許発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると認められる。
(カ)ゆえに、上記請求人の主張は採用することはできない。
(5)無効理由3についてのまとめ
以上のことから、本件特許の明細書等の記載は、本件特許発明1及び3を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると認められる。したがって、本件特許発明1及び3については、請求人が主張する無効理由3によって無効とすることはできない。
5 無効理由4(特許法第36条第6項第1号違反)について
(1)本件特許発明1についてのサポート要件についての判断
ア 本件特許発明1の目的は、本件特許明細書の段落【0008】及び【0013】に記載されているとおり、「検体の採取性能と放出性能に優れるとともに、性能のばらつきが抑制された検体採取スワブを提供すること」であると認められる。よって、本件特許の発明が解決しようとする課題は「検体採取スワブ」において「検体の採取性能と放出性能に優れるとともに、性能のばらつき」を「抑制」することであると認められる。
イ そして、本件特許明細書の段落【0056】の【表1】に記載された実施例1(パイル材質:PTT(ポリトリメチレンテレフタレート))においても、吸着量とリリース量の性能を比較例1とほぼ同程度とするとともに、吸着量及びリリース量のs値及びCV(%)が比較例1よりも低いことから性能のばらつきを抑制していることが示されていることから、本件特許の明細書【0056】の【表1】に記載された実施例2及び3(パイル材質:PA(ポリアミド))に限らず、他のパイル材質でも構成B~Eを備える(実施例1)ことにより、前記本件特許の発明が解決しようとする課題を解決できることが本件特許明細書等に示されていると認められる。
ウ また、検体採取スワブにおいて、検体の採取及び放出には、繊維自体にしみこませるのではなく、繊維間の間隔及びその間隔が生み出す空間に検体を保持することにより行われること、が本件特許の出願時の技術常識であり、検体採取スワブに用いる、植毛方法、繊維の繊度、繊維の長さ、アスペクト比は、繊維間の間隔及びその間隔が生み出す空間を決定するパラメータとなり得ることは、当業者において自明であることから、本件特許明細書の段落【0055】~【0061】に開示された、アスペクト比と性能のばらつきに直結する繊維の分散性との関係性に関する明細書の記載からは、繊維の種類によって上記の一般的関係性が損なわれる蓋然性が高いとはいえず、さらに、同明細書の段落【0053】の【表1】にパイル材質がPTTとPAの2種類の実施形態が記載されていることから、繊維(パイル材質)を特定しない本件特許発明1の構成B~Eにより、「検体の採取性能と放出性能に優れるとともに、性能のばらつきが抑制された検体採取スワブを提供する」という課題を解決できることは、本件特許明細書等から当業者が認識できるものであると認められる。
(2)請求人の無効理由4についての主張について
ア 請求人は、陳述要領書1第14~16頁において、無効理由4として以下の主張をしている。
(ア)本件特許発明1の構成C~Eの数値範囲の特定は、本件特許発明1の範囲すなわち全ての繊維に係るものとして拡大することができない。したがって、本件特許発明1は本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
(イ)上記の表1~表4のうち「ガラス繊維」に関する表4では、本件特許発明1の構成「C」と構成「D」とを満たす場合で、構成「E」を満たすアスペクト比のものは存在しないことが判明した。つまり、本件特許発明1は、本件特許の明細書等に記載された繊維のうち、少なくとも「ガラス繊維」は含まれないものである、といえる。したがって、本件特許発明1は、本件特許の明細書等における発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
(ウ)比重ρの値が最も小さいポリプロピレン繊維において、アスペクト比で本件特許発明1の構成「E」を満たさない「繊維の長さが1.3~1.5mm」のものは、どのような繊維であっても本件特許発明1の構成「E」の数値範囲を満たすことがない、といえる。したがって、本件特許発明1における「繊維の長さが1.3~1.5mm」のものは、構成「E」を満たすものではないため、本件特許発明1は、本件特許の明細書等における発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
イ 上記請求人の主張について検討する。
(ア)本件特許発明1は、繊維の種類については、請求項1の直接の記載により特定してはいない。しかしながら、前記「2(1)イ(ウ)e及びf」で説示したとおり、繊維のアスペクト比は、構成C(繊維の繊度)と構成D(繊維の長さ)と繊維の比重すなわち繊維の種類との3つの構成要素を選択することにより、確定される値である。そして、本件特許発明1は、それら3つの構成要素の組み合わせを特定してアスペクト比を35~50になるようにした発明である。よって、本件特許発明1は、繊維の種類については構成Cと構成Dを定めた場合に構成Eを満たす繊維の比重を持つ繊維を特定していると認められる。よって、本件特許発明1は、すべての繊維に係るものとして拡大したものではない。
(イ)また、ガラス繊維や、ポリプロピレン繊維を用いた場合に、構成Cと構成Dと構成Eとを同時に満たす検体採取スワブが存在しないとしても、それは本件特許発明1に含まれない検体採取スワブであるから、その事実自体が、本件特許発明1に係る特許法第36条第6項第1号違反であるかどうかの判断に影響を与えるものではない。
(ウ)以上のことから、上記請求人の主張は採用することはできない。
(3)無効理由4についてのまとめ
以上のことから、本件特許発明1は本件特許の明細書等に記載された発明であると認められる。したがって、本件特許発明1については、請求人が主張する無効理由4によって無効とすることはできない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、無効理由1~4はいずれも理由がないものであり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1~3に係る発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-800008