特許異議申立
2023-701028
中継芯、筆先ユニット及び液体塗布具
- 審判番号
- 2023-701028
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-560040
- 登録番号
- 7300466
- 請求日
- 2023年09月26日
- 審決日
- 2024年11月29日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】テイボー株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人英知国際特許商標事務所
- 【異議申立人】篠山 明男
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(B05C) / P1651.121-YAA(B05C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7300466号発明「中継芯、筆先ユニット及び液体塗布具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7300466号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第7300466号の請求項1及び5ないし7に係る特許を維持する。
特許第7300466号の請求項2ないし4に係る特許に対する特許異議申立を却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7300466号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2019年(令和1年)12月6日(優先権主張 平成30年12月6日)を国際出願日とする出願であって、令和5年6月21日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和5年9月26日に特許異議申立人 篠山 明男(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし7)がされ、令和6年4月26日付けで取消理由が通知され、同年7月8日に特許権者 テイボー株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求がなされるとともに意見書の提出がされ、同年8月19日に特許権者より訂正請求書に対する手続補正書(上記補正書により補正された訂正請求書による訂正請求を、以下、「本件訂正請求」という。)が提出され、同年同月22日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年9月18日に特許異議申立人より意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の趣旨
本件訂正請求における訂正の趣旨は、「特許第7300466号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「粒子を含有する液体を、筆先に供給する中継芯であって、該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、
前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、
前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分と、前記粒子が通過可能な形状を有する部分とを備えた形状であり、
前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置される、中継芯。」
と記載されているのを、
「粒子を含有する液体を、筆先に供給する中継芯であって、該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、
前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、
前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分と、前記粒子が通過可能な形状を有する部分とを備えた形状であり、
前記流路の横断面の最大流路幅は、前記粒子の投影断面の幅より大きく、400μm以上610μm以下であり、
前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置され、
前記中継芯の中央部の横断面において、横断面の中心に中心核を備える、中継芯。」
に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項5ないし7についても同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1」に訂正する。
請求項5の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項6及び7についても同様に訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1又は5」に訂正する。
請求項6の記載を引用して特定する請求項7についても同様に訂正する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~5のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1又は5」に訂正する。
(8) 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし7について、請求項2ないし7は請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるので、訂正前の請求項1ないし7に対応する訂正後の請求項1ないし7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、「前記流路の横断面の最大流路幅は、前記粒子の投影断面の幅より大きく、400μm以上610μm以下であり、」と流路の横断面の最大流路幅を特定するとともに、「中継芯の中央部の横断面において、横断面の中心に中心核を備える」ことを特定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件特許の明細書の【0015】ないし【0017】、【0021】ないし【0024】、【0030】、【0032】、訂正前の請求項2及び3の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項5ないし7についても同様である。
(2) 訂正事項2ないし4について
訂正事項2ないし4に係る請求項2ないし4の訂正は、いずれも、当該請求項を削除するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2ないし4に係る請求項2ないし4の訂正は、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(3) 訂正事項5ないし7について
訂正事項5ないし7に係る請求項5ないし7の訂正は、いずれも、請求項2ないし4が削除されたことに伴い、引用先の請求項から請求項2ないし4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5ないし7に係る請求項5ないし7の訂正は、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
4 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和6年7月8日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
粒子を含有する液体を、筆先に供給する中継芯であって、該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、
前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、
前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分と、前記粒子が通過可能な形状を有する部分とを備えた形状であり、
前記流路の横断面の最大流路幅は、前記粒子の投影断面の幅より大きく、400μm以上610μm以下であり、
前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置され、
前記中継芯の中央部の横断面において、横断面の中心に中心核を備える、中継芯。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
合成樹脂を主成分とする材料を用いた、請求項1に記載の中継芯。
【請求項6】
請求項1又は5に記載の中継芯と、
前記中継芯から供給される液体を用いて筆記するために設けられる筆先と、
中継空間形成部材と、
前記筆先の後端部分、前記中継芯、前記中継空間形成部材を覆うように設けられる軸筒と、
を備え、
前記中継芯の先端部分は、前記筆先の後端部分の内側に設けられ、
前記中継芯の中央部分は、前記中継空間形成部材に取り囲まれるように設けられ、
前記中継芯の後端部分は、液体収容部側に延在する、筆先ユニット。
【請求項7】
請求項1又は5に記載の中継芯、又は、請求項6に記載の筆先ユニットを用いた液体塗布具。」
第4 特許異議申立理由の要旨
特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
1 申立理由1-1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1及び4ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由1-2(甲第5号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1、4、6及び7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 申立理由2-2(甲第4号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
5 申立理由2-3(甲第5号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
また、特許異議申立人は、令和6年9月18日提出の意見書において、参考資料1を提出するとともに次の申立理由を主張している。
6 申立理由2-4(甲第6号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1及び5ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
7 証拠方法
・甲第1号証:特開2002-362086号公報
・甲第2号証:特開2017-56605号公報
・甲第3号証:色材、昭和58年7月20日、第56巻、第7号、p.484-491
・甲第4号証:特開平11-180089号公報
・甲第5号証:特開平7-251588号公報
・甲第6号証:特開平4-238099号公報
・甲第7号証:特開2003-11566号公報
・甲第8号証:特開平4-10993号公報
・甲第9号証:特開2010-269133号公報
・甲第10号証:特開2018-134737号公報
・甲第11号証:J.Jpn.Soc.Colour Mater.,83[7],308-316(2010)
・甲第12号証:特開2012-56100号公報
・甲第13号証:特開2018-86163号公報
・参考資料1:特開2016-78325号公報
証拠の記載については、おおむね特許異議申立書及び意見書の記載にしたがった。
第5 令和6年4月26日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨
請求項1ないし7に係る特許に対して、当審が令和6年4月26日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。なお、取消理由には、申立理由1-1、申立理由1-2及び申立理由2-1のうち請求項1、2及び4ないし7に係る部分、申立理由2-2のうち請求項1、2及び4ないし7に係る部分、申立理由2-3のうち請求項1、2及び4ないし7に係る部分、申立理由2-4が包含される。
1 取消理由1-1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1、2及び4ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 取消理由1-2(甲第4号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1、2及び4ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 取消理由1-3(甲第5号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1、2及び4ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 取消理由1-4(甲第6号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第6号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
5 取消理由1-5(甲第9号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1、2及び4ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第9号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
6 取消理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
7 取消理由2-2(甲第4号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
8 取消理由2-3(甲第5号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
9 取消理由2-4(甲第6号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第6号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
10 取消理由2-5(甲第9号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第9号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 当審の判断
令和6年4月26日付けで特許権者に通知した取消理由通知で採用しなかった申立理由は、申立理由2-1のうち請求項3に係る部分、申立理由2-2のうち請求項3に係る部分、申立理由2-3のうち請求項3に係る部分であるが、上記第2のとおり、訂正前の請求項3は削除されるとともにその実質的な特定事項は訂正後の請求項1に組み込まれたから、以下、申立理由2-1のうち請求項3に係る部分、申立理由2-2のうち請求項3に係る部分、申立理由2-3のうち請求項3に係る部分も各取消理由に含めて検討を進める。
1 取消理由1-1及び取消理由2-1(甲第1号証を主たる根拠とする新規性・進歩性)について
(1) 甲第1号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「インキ導入管及びこれを内蔵した筆記具」に関し、次の記載がある。
「【請求項1】 密閉された筆記具のインキタンクから筆記用チップにインキを誘導するためのインキ導入管であって、
該インキ導入管は、内壁周面から中心に向かって複数の突条を毛細管作用が強く働くように突設し、かつ、軸方向に延長して形成してなり、また、前記複数の突条の自由端で取り囲まれた中心部空間は、毛細管作用が働き難い程の断面積をもって前記インキ導入管の全長にわたって形成されていることを特徴とするインキ導入管。
【請求項2】 複数の突条は前記インキ導入管の中心部空間に近付いても、複数の突条間では、毛細管作用が略同じになるように、突条の中心部方向への長さを長短合わせて形成したことを特徴とする請求項1記載のインキ導入管。
【請求項3】 複数の突条間の幅を約10~100μ程度とし、中心部空間の横断距離を約100~1000μとしたことを特徴とする請求項1または請求項2記載のインキ導入管。
【請求項4】 筆記具軸部内にインキタンクを設け、該インキタンクと筆記具軸部先端に位置する筆記用チップとをインキ導入管で連絡し、
前記インキ導入管は軸方向に延びる、その内周面に沿って設けられた毛細管作用の強い部分と、中央部に毛細管作用の弱い円柱空間とを備え、
該インキ導入管と筆記用チップとが接続されている周辺を毛細管作用を有する中芯で囲ったことを特徴とする筆記具。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】筆記具の殆どは、長期間に渉って筆記できるようにインキを貯留するためのタンクを備えている。これらの中にはインキタンクのインキを筆記先端(ペン先,ボールポイント,プラスチックチップ等)に十分なだけ供給するためのインキ導入管等を備えたものがある。本発明は、インキタンクのインキを筆記先端に誘導するインキ導入管及びこれを内蔵した筆記具に関するものである。」
「【0006】本発明は、以上の知見に基づいてなされたもので、空気がインキタンクへ導入され易く、インキの流れも筆記に適した良好なものになるインキ導入管及びこれを内蔵した筆記具を提供することを目的とする。」
「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するために、請求項1の発明は、密閉された筆記具のインキタンクから筆記用チップにインキを誘導するためのインキ導入管であって、該インキ導入管は、内壁周面から中心に向かって複数の突条を毛細管作用が強く働くように突設し、かつ、軸方向に延長して形成してなり、また、前記複数の突条の自由端で取り囲まれた中心部空間は、毛細管作用が働き難い程の断面積をもって前記インキ導入管の全長にわたって形成されていることを特徴とするものである。」
「【0011】本発明は上記構成のインキ導入管としたので、少し粘性の高いインキであっても円滑に外部空気と交換してインキをインキタンクから円滑に筆記用チップに供給できる。また、本発明のインキ導入管を組み込んだ筆記具も円滑な筆記が望まれる。」
「【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図3に示す筆記用ペン1は、インキタンク13を有する有底筒状のハウジング9と、ハウジング9の先端に取り付けた筆記用チップ15と、インキタンク13とチップ15との間に配置されたインキ導入管16とから概略構成されている。
【0013】詳細には、ハウジング9の内壁には、中子12の大径部10が密に嵌合し、ハウジング底部にインキタンク13を形成させている。中子12は、大径部10の後端に小径部11を有し,小径部11はインキタンク13内に貫通する小径孔を備えている。中子12の大径部10には中芯(中綿)14の後部を挿入し、中芯14の前部の外周面はハウジング9の内壁には接触せずにそこに形成された空気層9aに囲まれた状態に配置されている。中芯14の前面には円形凹部14aが形成されている。チップ15は多孔質のフェルト部材等で構成され、その先端はハウジング9の先端から外部に突出し、その後端は中芯14の円形凹部14aに嵌め込まれている。
【0014】インキ導入管16の後端は、中子12の小径部11の小径孔に支持されてインキタンク13内に突出し、インキ導入管16の先端部は円筒状の中芯14の中心を貫通して円形凹部14a内に突出してチップ15の後端に係合している。中子14の小径部11の内側では空気溜まり11aが形成されている。
【0015】チップ15とインキ導入管16の結合部を中芯14で囲うことにより、チップ後端に必要以上のインクが供給されたとき、チップ15に浸入できないで溢れたインキは,中芯14に吸収、貯留される。すなわち、中芯14を構成する毛細管部の毛細管作用によって、中芯14の前部側から順に後部にかけてインクが溜まるようになっている。なお、中子12の小径部11の空気溜まり11aは中芯(中綿)14の毛細管作用を支援する。インキ導入管16は。インキタンク13とチップ15間に配置され,インキをインキタンク13からチップ15の後端部に供給するものであり、インキの供給に当たっては、チップ側から入った空気を上方に通過させ、インキの流下を促す役割を果たす。
【0016】インキ導入管の構成について、図1に基づいて説明する。インキ導入管16は合成樹脂で形成されており、その内周壁には中心部に向かう複数の突条17が突設され、かつ、軸方向に延長されている。また、インキ導入管16の複数の突条17は、3種類の高さ(高い、中間、低い)を有するが、いずれも中心部までは達しない高さであって、各突条の自由端は大きな玉ぶち状に形成されている。インキ導入管16の内壁近くに毛細管作用が有効に働くように、一番高い突条17aは内壁に等間隔に配置され、高い突条17aの間に中間突条17bを突設させ、高い突条17aと中間突条17bとの間に低い突条17cを突設けている。そして、各突条17の両側面に長手方向に沿って凹凸模様を施している。
【0017】図1に示すように、インキ導入管16の内周壁に突設した各突条17の間隔は略均一であって、その側壁の間隔は約10~100μ程度に形成されている。また、図1に示す中心Oに向かう中間突条17bは、小黒点間の線分a:bを略3:2にして形成し、長い突条17aは、小黒点間の線分c:dを略2:3にして形成する。
【0018】インキ導入管16における長い突条17aと中間突条17bとの各自由端で取り囲む内側の中心部空間18は、外部の空気を上方すなわちインキタンクに向かって送る役目を果たす。インキ導入管16の後端部は、インクを使い切るまでは常時インキタンクの中でインキに取り囲まれ、満たされているので、想像するに、インキは下降するに従って毛細管力の強い周壁に寄って行くので、インキ導入管16の中心部空間18の下方部は上昇する空気で満たされており、途中から泡状となってインキタンク13の中に入り、インキと交換すると思われる。図1における、インキ導入管16の内周壁の内側における、中心部空間18と、突条17との占める割合を半径上で見ると、長い突条17aでは、2(中心部空間18)対3(突条17)であり、中間突条17bでは、3(中心部空間18)対2(突条17)であった。中心部空間18を横断距離で平均して約500μの大きさに形成される。中心部空間の横断距離は例えば、長い突起17a間で100μ、中間突起17b間で1000μという割合である。なお、望ましい範囲は約300~500μである。
【0019】以上のように、空気の上昇通路を中心部空間18によって確保し、インキの流路を突条17間の毛細管作用によって確保したので、空気がインキの流下に干渉せずスムーズに筆記ができる。また、筆記スピードが早い場合、インキは毛細管作用の強い内周壁の近傍を多く流れ、空気泡が多くなってきても中心部空間18によって空気の上昇が確保されるので、インキの流出がよく、インキ垂れの虞も無く、良好な筆記ができる。
【0020】また、突条17は円筒の内側面に連続して形成したものであり、インキに馴染み、インキが十分に突条間に浸透するように形成されている。
【0021】したがって、インキ導入管16に接続した内蔵した筆記用ペン(筆記具)1は、前述したように、筆記時に、チップから侵入した空気が中心部空間内を移動し、突条17間のインキがチップ15側に回りこみ、空気の侵入と突条17間に浸透するインキのバランスが保たれ、インキ垂れも解消され、筆記し易いという効果がある。
【0022】
【発明の効果】本発明は以上述べた通りであり、請求項1に記載の発明では、インキ導入管に、その内周壁に複数の突条を設けたことにより毛細管作用を有する溝を形成し、また中心部に中心部空間を形成したことにより、インキが毛細管作用によりインキ導入管内に停留し、インキ垂れを起こさず、筆記のときに、チップから侵入した空気が中心部空間内を移動し、インキの流下を妨げず、良好にインキを送ることができる。また、スピードを上げて筆記した場合にも空気の移動は円滑でありインキの流下を妨げないので、筆跡のインキラインがかすれることはない。請求項2に記載の発明では、複数の突起を長短合わせて形成したので、毛細管作用を営む箇所が中心部に向かって多くなり、インキの停留量を多くするので、インキの供給が良くなる。
【0023】請求項3に記載の発明では、実施のベストモードであり、複数の突起間は十分毛細管作用を営むことができ、中心部空間は侵入する空気をスムーズに移動可能な大きさにし、かつインキとの交換を円滑にできるので、十分なインキ供給のもとに筆記ができ、また、インキ垂れ、インキ漏れを防ぐことがで切る。
【0024】請求項4に記載の発明では、筆記具の使用時には、インキタンクに貯留されているインキはその内周面に沿って設けられた毛細管作用の強い部分によって筆記用チップに移動し、引圧になったインキタンクにはチップからインキ導入管の中心部空間に空気となって侵入する。したがって、空気がインキの流下を妨げることはなく、かすれることも無く良好に筆記を続けることができる。また、筆記具を横に寝かせた場合、インキが流動してチップ側に移動しても中芯によってインキが吸収されインキ垂れを防ぐことができる。」
「
[図:0001420297000001.jpg]
」
イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載、特に請求項1の記載を中心に整理すると、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。
「密閉された筆記具のインキタンクから筆記用チップにインキを誘導するためのインキ導入管であって、
該インキ導入管は、内壁周面から中心に向かって複数の突条を毛細管作用が強く働くように突設し、かつ、軸方向に延長して形成してなり、また、前記複数の突条の自由端で取り囲まれた中心部空間は、毛細管作用が働き難い程の断面積をもって前記インキ導入管の全長にわたって形成されていることを特徴とするインキ導入管。」(以下、「甲1発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「インキ」、「筆記用チップ」及び「インキ導入管」は、それぞれ、本件特許発明1の「液体」、「筆先」及び「中継芯」に相当し、甲1発明の「筆記用チップにインキを導入する」は、本件特許発明1の「液体を、筆先に供給する」に相当する。
また、甲1発明のインキ導入管は、図3や技術常識から見て、インキ導入管の縦断面は、略直線状であるから、本件特許発明1の「前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり」との特定事項を満たす。
さらに、甲1発明のインキ導入管は、「内壁周面から中心に向かって複数の突条を毛細管作用が強く働くように突設し、かつ、軸方向に延長して形成してなり、また、前記複数の突条の自由端で取り囲まれた中心部空間は、毛細管作用が働き難い程の断面積をもって前記インキ導入管の全長にわたって形成されている」ものであるから、本件特許発明1の「前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分と、前記粒子が通過可能な形状を有する部分とを備えた形状であり」、「前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置され」との特定事項のうち、「前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分を備えた形状であり、前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置される」との限りにおいて一致する。
してみると、本件特許発明1と甲1発明との間の一致点及び一応の相違点は次のとおりである。
(一致点)
「液体を、筆先に供給する中継芯であって、該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、
前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、
前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分を備えた形状であり、
前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置される、中継芯。」
(相違点)
・相違点1-1
中継芯に関し、本件特許発明1は「粒子を含有する液体」を筆先に供給するものであって、その流路の横断面は「粒子が通過可能な形状を有する部分とを備えた形状」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
・相違点1-2
中継芯の流路の横断面の最大流路幅に関し、本件特許発明1は「前記粒子の投影断面の幅より大きく、400μm以上610μm以下であり、」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
・相違点1-3
中継芯に関し、本件特許発明1は「中央部の横断面において、横断面の中心に中心核を備える、」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点1-3について検討する。
甲1発明の「インキ導入管」は、中央部の横断面の中心に中心核を有しないものであるから、相違点1-3は実質的な相違点である。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明ではない。
また、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明において、中央部の横断面の中心に中心核を設ける動機がない。
したがって、甲1発明において、相違点1-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件特許発明5ないし7について
本件特許発明5ないし7は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明1は甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明5ないし7もまた、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 取消理由1-1及び取消理由2-1についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、取消理由1-1及び取消理由2-1の理由では、本件特許発明1及び5ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由1-2及び取消理由2-2(甲第4号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1) 甲第4号証の記載事項等
ア 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、「筆記具」に関し、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 液状のインキを内部に入れた有底筒状のインキ筒と、
このインキ筒の上端部外側にネジを切り、このネジにペン先部を内包するホルダー下端部の内側のネジをネジ嵌合する筆記具であって、
ホルダー内下端部に弁機構を設け、該弁機構の上方にペン芯ホルダーを配置し、このペン芯ホルダーには中継芯を嵌着し、その上方に内部に誘導管を有するペン芯を嵌着してなる筆記具において、
弁機構の弁棒の上端には、円筒状外形を有し内部に中心軸のない放射状の溝を有するポリアセタール樹脂からなる中継芯を配設し、ペン芯ホルダーに嵌着される部分及びインキを導入する部分は中継芯の中心部の空間部と外気が連通する構造とし、その他の部分では中心部と外気が連通していない部分が2箇所以上ある様に構成し、このペン芯ホルダーに嵌着した中継芯の下端が弁機構の弁棒に当接する様に組立てたホルダーをインキ筒上端にネジ嵌合してなる筆記具であり、上端のペン芯を筆記面に押圧することにより、弁を開とし、インキを中継芯の中心部に導入し、中継芯の誘導管を通じ、ペン芯中心の流動溝を通って筆記する様に構成してなる筆記具。
【請求項2】 中継芯の断面構造が、中心軸芯が存在してそこからの放射状の伝達溝からなるものでなく、円筒の内部に円筒壁から中心へ向けた複数個の円筒方向に長く伸び、断面で見て樹氷状突起を有し、中心は空間部であり、中心部と外気が連通する構造の部分は円周部が部分的に存在するか、又はなく殆んど複数個の樹氷状突起のみであり、中心部と外気が連通していない構造の部分は円周部が存在するものである請求項1記載の筆記具。
【請求項3】 ポリアセタール樹脂からなる中継芯の中心部の空間部と、内部に誘導管を有するペン芯の中心部の空間部が接触してなり、その間にインキ溜りの空間を有しない請求項1記載の筆記具。
【請求項4】 ポリアセタール樹脂からなる中継芯の中心部と外気が連通している部分がペン芯ホルダーに嵌着される際、中継芯の中心部と外気が流通している部分の弾発によりペン芯ホルダーに保持されてなる請求項1記載の筆記具。
【請求項5】 ポリアセタール樹脂からなる中継芯の中心部と外気が連通していない部分の外径寸法が、2mm以上、4mm以下である請求項1記載の筆記具。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、本体内に液状のインキを設け、内部に弁機構を有し、ペン先を筆記時に摺動させることで、弁先端部を押圧し、弁を開放し、インキをペン先部に誘導する構造をもつ筆記具に関する。」
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、本体内に液状のインキを設けて、弁機構とこの弁を押圧して摺動するペン先の構造を有する筆記具に関し、インキを短時間でペン先の先端まで供給できるようにすることで、過剰なペン芯の押圧を防ぎ、弁機構からのインキの過剰な流出によるボタ落ちやペン先の汚れ、ペン先先端部の折れや曲がり等の損傷、ペン先先端部のインキ流出口を塞いだりする危険性を回避し、十分かつスムースなインキ流出が得られる筆記具を提供するものである。」
「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、前記の問題を解決するため鋭意検討した結果、液状のインキを内部に入れた有底筒状のインキ筒と、このインキ筒の上端部外側にネジを切り、このネジにペン先部を内包するホルダー下端部の内側のネジをネジ嵌合する筆記具であって、該ホルダー内下端部に弁機構を設け、該弁機構の上方にペン芯ホルダーを配置し、このペン芯ホルダーには中継芯を嵌着し、その上方に内部に誘導管を有するペン芯を嵌着してなる筆記具において、弁機構の弁棒の上端には、円筒状外形を有し内部に中心軸のない放射状の溝を有するポリアセタール樹脂からなる中継芯を配設し、ペン芯ホルダーに嵌着される部分及びインキを導入する部分は中継芯の中心部の空間部と外気が連通する構造とし、その他の部分では中心部と外気が連通していない部分が2箇所以上ある様に構成し、このペン芯ホルダーに嵌着した中継芯の下端が弁機構の弁棒に当接する様に組立てたホルダーをインキ筒上端にネジ嵌合してなる筆記具であり、上端のペン芯を筆記面に押圧することにより、弁を開とし、インキを中継芯の中心部に導入し、中継芯の誘導管を通じ、ペン芯中心の流動溝を通って筆記する様に構成してなる筆記具である。
【0008】前記中継芯の断面構造が、中心軸が存在してそこからの放射状の伝達溝からなるものでなく、円筒の内部に円周壁から中心へ向けた複数個の円筒方向に長く伸び、断面で見て樹氷状突起を有し、中心は空間部であり、中心部と外気が連通する構造の部分は円周部が部分的に存在するか又はなく殆んど複数個の樹氷状突起のみであり、中心部と外気が連通していない構造の部分は円周部が存在するものである前項記載の筆記具である。
【0009】ポリアセタール樹脂からなる中継芯の中心部の空間部と、内部に誘導管を有するペン芯の中心部の空間部が接触してなり、その間にインキ溜りの空間を有しない前項記載の筆記具である。
【0010】ポリアセタール樹脂からなる中継芯の中心部と外気が連通している部分が、ペン芯ホルダーに嵌着される際、中継芯の中心部と外気が流通している部分の弾発によりペン芯ホルダーに保持されてなる前項記載の筆記具である。
【0011】ポリアセタール樹脂からなる中継芯の中心部と外気が連通していない部分の外径寸法が、2mm以上、4mm以下である前項記載の筆記具である。」
「【0012】
【作用】本発明のペン芯へのインキ伝達を説明すると、ペン芯ホルダーの細開口端にはカシめ又は接着固定されたペン芯が露呈しており、その後方にはペン芯ホルダーに中継芯の弾発により圧入嵌合固定されている中継芯が設けられ、更に後方には弁機構が設けられている。本体内部にあるインキをペン芯へ伝達するには、ペン先を紙面などに押しつける(ペン芯プッシュする)と、中継芯後方の弁機構を開放し、インキを導き出す。導き出されたインキは、中継芯の中心部と外気が連通している部分から中継芯内部に移動し、伝達溝を伝わってペン芯ホルダー内へ移動し、中継芯先端部よりペン芯へインキがスムースに伝達流出する。
【0013】前記ポリアセタール樹脂からなる中継芯の中心部と外気が連通していない部分の外径寸法は2mm以上4mm以下であることが望ましい。2mm以下であると、中心部と外気が連通している部分を形成しているフィラメントが細いため、ペン芯プッシュする際に必要な強度にならず、ペン芯プッシュ時に中継芯自体の変形や曲がりで弁を十分開放出来なくなるため、本発明のインキがスムースに伝達流出するという目的が達せられない。又4mm以上となるとホルダーの中継芯をホールドする部分の外径寸法が大きくなり、細書きという商品イメージを得ることが出来なくなる。
【0014】ポリアセタール樹脂からなる中継芯の中心部と外気が連通している部分が、ペン芯ホルダーに嵌着される部分の他に1箇所以上あると同時に、中心部と外気が連通していない部分が、ペン芯ホルダーに嵌着される部分ではないところに2箇所以上あることが望ましい。中継芯の中心部と外気が連通している部分が、ペン芯ホルダーに嵌着される部分の他に1箇所以上必要な理由は、この部分から中継芯内部にインキが補充されるためであり、中心部と外気が連通していない部分が、ペン芯ホルダーに嵌着される部分でないところに2箇所以上必要な理由は、ペン芯強度向上とペン芯バラケ防止の観点から必要である。
【0015】ポリアセタール樹脂からなる中継芯の中心部と外気が連通している部分が、ペン芯ホルダーに嵌着される際、中継芯の中心部と外気が連通している部分の弾発によりペン芯ホルダーに保持されることは、中継芯のペン芯ホルダーよりの脱落防止と、中継芯の先端に行くに従って流路が徐々に縮小される様に形成されるため、インキを中継芯中心部に導く効果も同時に得られる。又単に圧入によりペン先の組み立てが可能で強度も得られるため、製造方法も簡単で、低コストで作ることが可能である。」
「【0016】
【実施例】次に、実施例により本発明の内容を更に詳細に説明する。
1.細ペン先の製造
ポリアセタール樹脂を溶融連続押出成形して、外径1.2mmの内部にインキ流通溝の長尺成形体を得、500mm長さに切断した後センターレス研削機にて外径1.0mmに研削する。それを所望の長さに切断した後、筆記先端部を丸く研磨して細ペン先を得た。
2.ペン芯ホルダーの製造
金属部材を切削加工して得られる。今回用いたものは、棒状の真鍮を所望の形状に切削加工し、得られたものにニッケルメッキを施して得た。どんな材料を使用しても良いが、加工性、耐腐食性等のインキに対する相性、製造コストなどを加味して選択することは、言うまでもない。
【0017】3.中継芯の製造
ポリアセタール樹脂を溶融連続押出成形して、外径3.1mmの内部に内径2.6mmのインキ流通溝を持つ長尺成形体を得、500mm長さに切断した後センターレス研削機にて外径2.9mmに研削する。それを所望の長さに切断した後、ペン芯ホルダーに嵌着される部分を外径2.5mmに研削し、更にインクを導入する部分を外径2.5mmに、後端部をホルダーに装填し易い様にC面に研削し、中継芯を得た。
4.ペン先の組立
1で得られたペン先を2で得られたペン芯ホルダーの細開口端に挿入した後カシめて固定し、その後3で得られた中継芯をペン芯ホルダーの太開口端より挿入して、1で得られたペン先後端と接触するまで圧入して図1のペン先体を得る。
【0018】図1のペン芯ホルダーに中継芯を挿入したペン先体を、下端部の内壁にネジ加工を施したホルダー内に嵌合する。得られた本発明の筆記具用ペン先体を液状のインキを内部に充填した有底筒状のインク筒の開口端の内壁面側に弁機構を設けて、前記ホルダーを弁機構を覆う様にインク筒本体の開口端の外壁面側とホルダーの内壁面側をネジ嵌合させて筆記具を組立てる。
【0019】本発明の筆記具のペン芯を(2回/秒)プッシュして、ペン先先端部までインキが到達する時間を10本測定し、その平均値を計算した。比較例として、同じ種類のペンを用い、前記筆記具用ペン先の中継芯をポリエステルの繊維束芯に変更した筆記具を用いて、同様の実験をした。その結果は、比較例が10本の平均値として、40秒程度を要したのに対し、本実施例のペン先では、5秒という明らかに有意差のある結果を得た。」
「【0020】
【発明の効果】本発明のペン先を使用すれば、従来のペン先よりもインキの伝達時間が早いため、ペン芯のプッシュ回数が少ないので、過剰なペン芯の押圧を防ぎ、弁機構からのインキの過剰流出によるボタ落ちやペン先の汚れ、ペン先先端部の折れや曲がり等の損傷、ペン先先端部のインキ流出口を塞いだりする危険性を回避し、十分かつスムースなインキ流出が得られる。又インキが筆記により消費されても、極めて短時間にペン芯にインキが供給でき、押圧と摩耗によりペン先先端部のインキ流出口を塞いだりする危険性から回避できるので、結果としてペン先寿命をも向上できる。」
「
[図:0001420297000002.jpg]
」
イ 甲第4号証に記載された発明
上記アの記載、特に実施例の記載を中心に整理すると、甲第4号証には次の発明が記載されていると認める。
「ポリアセタール樹脂を溶融連続押出成形して、内部にインキ流通溝を持つ長尺成形体を得、所望の長さに切断し得られる筆記具用ペン先の中継芯。」(以下「甲4発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「インキ」は、本件特許発明1の「液体」に相当する。
また、甲4発明の「中継芯」は、「筆記具用ペン先」に接続して用いられるものであるから、本件特許発明1の「液体を、筆先に供給する中継芯」にも相当する。
さらに、甲4発明の「中継芯」は、溶融連続押出成形にて得られるものであって、甲第4号証の【0008】記載の構造、図1ないし図6の各図面から見て、本件特許発明1の「該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分と、前記粒子が通過可能な形状を有する部分とを備えた形状であり」、「前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置され」との特定事項のうち、「該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分とを備えた形状であり、前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置される、」との限りにおいて満たすものであることは明らかである。
してみると、本件特許発明1と甲4発明との間の一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「液体を、筆先に供給する中継芯であって、該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、
前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、
前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分を備えた形状であり、
前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置される、中継芯。」
(相違点)
・相違点4-1
中継芯に関し、本件特許発明1は「粒子を含有する液体」を筆先に供給するものであって、その流路の横断面は「粒子が通過可能な形状を有する部分とを備えた形状」と特定されるのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。
・相違点4-2
中継芯の流路の横断面の最大流路幅に関し、本件特許発明1は「前記粒子の投影断面の幅より大きく、400μm以上610μm以下であり、」と特定するのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。
・相違点4-3
中継芯に関し、本件特許発明1は「中央部の横断面において、横断面の中心に中心核を備える、」と特定するのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点4-3について検討する。
甲4発明の「中継芯」は、中央部の横断面の中心に中心核を有しないものであるから、相違点4-3は実質的な相違点である。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲4発明ではない。
また、甲第4号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲4発明において、中央部の横断面の中心に中心核を設ける動機がない。
したがって、甲4発明において、相違点4-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件特許発明5ないし7について
本件特許発明5ないし7は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明1は甲4発明ではなく、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明5ないし7もまた、甲4発明ではなく、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 取消理由1-2及び取消理由2-2についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、取消理由1-2及び取消理由2-2の理由では、本件特許発明1及び5ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
3 取消理由1-3及び取消理由2-3(甲第5号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1) 甲第5号証の記載事項等
ア 甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、「筆記具」に関し、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 軸筒後部にインクを直に貯溜するタンクを有し、かつ軸筒前方にインク保溜体を装着したインク直接貯溜方式の筆記具のインクタンクからペン先へインクを導出させる部材において、ペン先の後部に接続された繊維束からなる中芯と、更にその後部に接続されたインクタンクに連なり中心にインク流路を設けた誘導芯の中芯との接続部の近傍にインク流路が露出する部分を設けた事を特徴とするインク直接貯溜方式の筆記具。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はインクを中綿等に吸蔵させないで直接貯溜するインクタンクを有し、又インクタンク内の空気が温度上昇等によって膨張した場合にインクタンクから押し出されるインクをペン先や空気孔からボタ落ちさせないために一時的に保溜するインク保溜体を付設した筆記具のインク導出の誘導芯の改良に関する。」
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記、従来の直接貯溜方式の筆記具に於て、衝撃等が筆記具に加わった場合、誘導芯の流路内のインクが端部より出て、流路内に気泡が入る。このような状態で誘導芯のインクタンク側の端部をインクに接触させ中芯に再度インクを供給しようとした場合、誘導芯の毛管力によりインクは誘導芯の流路に入り流路内の気泡はインクに押され中芯との接続部まで移動するが中芯の繊維束に残ったインクの幕が障害となって気泡が流路の外に排除されず誘導芯と中芯の接続部に留まり気泡が障害となってインクが誘導芯から中芯に十分に渡る事が出来ず筆記に不具合を生じていた。」
「【0004】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために案出された本発明の筆記具の誘導芯は、中芯との接続部近傍に中側の流路が露出する溝を形成し誘導芯の流路内の気泡を外に排出し易くし中芯へのインク供給を円滑にする事により上記問題点を解消するものである。」
「【0005】
【実施例】図1は本発明の一実施例を示したもので、以下図面に基づき詳説する。筆記具本体はその軸筒1の後部をインク室2となし前方には外周面に多数の周溝3とその周溝3を連通させる縦溝4を有するインク保溜体5が装着され、そのインク保溜体5の中心部に軸方向に貫通する縦孔6には誘導芯7が貫装され、更に誘導芯7の先は中芯8に当接又は刺さり、中芯8はその先のペン先に接続されインクは誘導芯7を通り中芯に渡りインク室よりペン先に供給されるようになっている。
【0006】ここで誘導芯7は樹脂の押し出し成形により図3に示した如く断面が略放射状の毛管を形成し流路9と成した棒状部材で両端を円錐状にし、後端はインクを吸い易く、前端は中芯8に刺さり易くし中芯8との接続を確実にしインクの中芯8への渡りを安定させており、その前端の円錐部の極近傍の後部に中の流路9が一部又は全周露出するように露出溝10が形成してある。」
「【0007】
【作用】以上の如く構成された筆記具に於て、筆記具本体に軸方向に衝撃が加わると誘導芯7の流路9内のインクが後端より流出し、その分空気が気泡となって誘導芯7の流路9内に入ってくる。このような状態で再度誘導芯7の後端からインクが入っていった場合流路9内の気泡はインクにより押され前に移動するが、誘導芯7の前端の露出溝10がないと誘導芯7の円錐前端面と中芯8の接触面まで移動するが、中芯8の繊維の間のインクに阻害され気泡は中芯8の外に出られないため気泡はその接触部に留まりインクの誘導芯7から中芯8への渡りが円滑にいかなくなりペン先へのインク供給が減少し筆記に際しかすれや描線切れを起こす。
【0008】ところが本発明の構造では誘導芯7と中芯8の接続部の近傍に誘導芯7の流路9が露出溝10により露出しているため、後方から押されてきた気泡はその露出部より排出され気泡が誘導棒と中芯の接続部に引っかかる事が無くなる。このためインクは中芯8へ円滑に供給され筆記に際してかすれや描線切れを起こすような事は無くなる。」
「【0009】
【発明の効果】本発明の構成及び作用は以上の通りであり、衝撃等が筆記具に加わり誘導芯の流路内に気泡が入っても誘導芯の中芯との接続部近傍に流路が露出する溝が形成されているので誘導芯の流路内の気泡はインクに押され外に排出されるので、誘導芯と中芯の接続部に気泡が留まる事はなり中芯へのインク供給を円滑にする事ができ常に良好な品質を維持する事が可能となる。」
「
[図:0001420297000003.jpg]
」
イ 甲第5号証に記載された発明
上記アの記載、特に請求項1の記載を中心に整理すると、甲第5号証には次の発明が記載されているものと認める。
「軸筒後部にインクを直に貯溜するタンクを有し、かつ軸筒前方にインク保溜体を装着したインク直接貯溜方式の筆記具のインクタンクからペン先へインクを導出させる部材において、後部に接続されたインクタンクに連なり中心にインク流路を設けた誘導芯。」(以下、「甲5発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「インク」、「誘導芯」は、それぞれ、本件特許発明1の「液体」、「中継芯」に相当する。
また、甲5発明の「誘導芯」は、ペン先へインクを導出させる部材として用いられるものであるから、本件特許発明1の「液体を、筆先に供給する中継芯」にも相当する。
さらに、甲5発明の「誘導芯」は、甲第5号証の【0005】、【0007】の記載及び各図面から見て、本件特許発明1の「該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分と、前記粒子が通過可能な形状を有する部分とを備えた形状であり」、「前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置され」との特定事項のうち、「該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分とを備えた形状であり、前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置される、」との限りにおいて満たすものであることは明らかである。
してみると、本件特許発明1と甲5発明との間の一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「液体を、筆先に供給する中継芯であって、該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、
前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、
前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分を備えた形状であり、
前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置される、中継芯。」
(相違点)
・相違点5-1
中継芯に関し、本件特許発明1は「粒子を含有する液体」を筆先に供給するものであって、その流路の横断面は「粒子が通過可能な形状を有する部分とを備えた形状」と特定されるのに対し、甲5発明にはそのような特定がない点。
・相違点5-2
中継芯の流路の横断面の最大流路幅に関し、本件特許発明1は「前記粒子の投影断面の幅より大きく、400μm以上610μm以下であり、」と特定するのに対し、甲5発明にはそのような特定がない点。
・相違点5-3
中継芯に関し、本件特許発明1は「中央部の横断面において、横断面の中心に中心核を備える、」と特定するのに対し、甲5発明にはそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点5-3について検討する。
甲5発明の「誘導芯」は、中央部の横断面の中心に中心核を有しないものであるから、相違点5-3は実質的な相違点である。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲5発明ではない。
また、甲第5号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲5発明において、中央部の横断面の中心に中心核を設ける動機がない。
したがって、甲5発明において、相違点5-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件特許発明5ないし7について
本件特許発明5ないし7は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明1は甲5発明ではなく、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明5ないし7もまた、甲5発明ではなく、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 取消理由1-3及び取消理由2-3についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、取消理由1-3及び取消理由2-3の理由では、本件特許発明1及び5ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
4 取消理由1-4及び取消理由2-4(甲第6号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1) 甲第6号証に記載された発明
甲第6号証には、「図1ないし図3に示される横断面を有する、溶融押出加工により成形されて、液体を毛細管誘導可能な液体誘導通路を軸線方向に有する液体供給体」の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認める。
なお、甲第6号証の図1ないし図3は次のとおりである。
「
[図:0001420297000004.jpg]
」
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲6発明とを対比する。
甲6発明の「液体供給体」は、本件特許発明1の「中継芯」に相当する。
また、甲6発明はペン先等に液体を供給するために用いられるものであるから、甲6発明の「液体供給体」は、本件特許発明1の「液体を、筆先に供給する中継芯」にも相当する。
さらに、甲6発明の「液体供給体」は、溶融押出加工にて得られるものであって、甲第6号証の【0014】の記載、図1ないし図3の各図面から見て、本件特許発明1の「該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分と、前記粒子が通過可能な形状を有する部分とを備えた形状であり」、「前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置され」との特定事項のうち、「該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分とを備えた形状であり、前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置される、」との限りにおいて満たすものであることは明らかである。
また、甲第6号証の図1ないし図3の各図面から見て、液体供給体の中心部の横断面において、横断面の中心に中心核を有することも明らかである。
してみると、本件特許発明1と甲6発明との間の一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「液体を、筆先に供給する中継芯であって、該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、
前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、
前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分を備えた形状であり、
前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置され、
前記中継芯の中央部の横断面において、横断面の中心に中心核を備える、中継芯。」
(相違点)
・相違点6-1
中継芯に関し、本件特許発明1は「粒子を含有する液体」を筆先に供給するものであって、その流路の横断面は「粒子が通過可能な形状を有する部分とを備えた形状」と特定されるのに対し、甲6発明にはそのような特定がない点。
・相違点6-2
中継芯の流路の横断面の最大流路幅に関し、本件特許発明1は「前記粒子の投影断面の幅より大きく、400μm以上610μm以下であり、」と特定するのに対し、甲6発明にはそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点6-2について検討する。
甲第6号証の全ての記載を見ても、甲6発明の液体供給体における流路の横断面の最大流路幅は明らかではないし、他の全ての証拠の記載を見ても、、甲6発明の液体供給体における流路の横断面の最大流路幅が明らかになるものでもない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲6発明ではない。
また、甲第6号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲6発明において、流路の横断面の最大幅に関し、「前記粒子の投影断面の幅より大きく、400μm以上610μm以下」とする動機がない。
したがって、甲6発明において、相違点6-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
なお、この点に関し、特許異議申立人は令和6年9月18日に提出された意見書において、甲6発明の「液体供給体」の径が3.0mmや2.9mmであるとすれば、最大流路幅は566μm程度や550μm程度となるから、相違点6-2に係る本件特許発明の特定事項を満たすものとなる旨主張(上記意見書p.9)する。
しかしながら、甲6発明の「液体供給体」の径は何ら明らかではない(そもそも甲6発明においては、用途として「筆ペン使用のペン先、液体の誘導経路に折曲部などがある場合の液体誘導芯などに有用である」(【0022】)と記載されるにすぎず、具体的な外形は何ら記載されていない。)。
また、他の文献を引用しつつ、甲6発明において、流路の横断面の最大流路幅として「400μm以上610μm以下」を採用する動機付けがある旨主張する(上記意見書p.11)が、そもそも甲6発明が「粒子を含有する液体」を用いるものであるのか否かも不明である以上、甲6発明において、流路の横断面の最大流路幅を調整する動機があるものということはできない。
したがって、特許異議申立人の上記主張はいずれも採用できない。
イ 本件特許発明5ないし7について
本件特許発明5ないし7は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明1は甲6発明ではなく、甲6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明5ないし7もまた、甲6発明ではなく、甲6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 取消理由1-4及び取消理由2-4についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、取消理由1-4及び取消理由2-4の理由では、本件特許発明1及び5ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
5 取消理由1-5及び取消理由2-5(甲第9号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1) 甲第9号証に記載された発明
甲第9号証の請求項1の記載を中心に整理すると、甲第9号証には、次の発明が記載されていると認める。
「液体塗布具の液体貯蔵部から液体塗布用チップに液体を供給するための液体供給体であって、
環状の外郭部と、該外郭部から内方へ突出するとともに周方向に間隔を置いて並ぶ複数の突条部とを、軸方向に連続させることで、
前記複数の突条部の自由端で囲まれた空間を、前記液体塗布用チップを挿入するための液体塗布用チップ挿入部とするとともに、周方向に隣り合う突条部間を、前記液体塗布用チップへ液体を供給するための液体供給部とし、
前記複数の突条部は、前記液体塗布用チップ挿入部に近付くほど、隣り合う突条部間の幅を狭くしていることを特徴とする液体供給体。」(以下、「甲9発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲9発明とを対比する。
甲9発明の「液体供給体」は、本件特許発明1の「中継芯」に相当する。
また、甲9発明の「液体供給体」は、液体塗布具の液体貯蔵部から液体塗布用チップに液体を供給するためのものであるから、本件特許発明1の「液体を、筆先に供給する中継芯」にも相当する。
さらに、甲9発明の「液体供給体」は、甲第9号証の「ラメやパール等の顔料成分が含まれる場合であっても、液体の流路が軸線方向に沿って真っ直ぐに形成されていることから、液体塗布用チップに一定量の液体を連続して供給することが可能である」(【0009】)の記載、図2及び図5ないし図8の液体供給体の横断面形状からみて、本件特許発明1の「該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分と、前記粒子が通過可能な形状を有する部分とを備えた形状であり」、「前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置され」との特定事項を満たすことも明らかである。
してみると、本件特許発明1と甲9発明との間の一致点及び一応の相違点は次のとおりである。
(一致点)
「液体を、筆先に供給する中継芯であって、該中継芯は軸線方向に沿って延在する流路を有し、
前記流路の縦断面は、前記中継芯の後端部分から先端部分まで略直線状であり、
前記流路の横断面は、毛細管力で前記液体を保持可能な形状を有する部分と、前記粒子が通過可能な形状を有する部分とを備えた形状であり、
前記中継芯の中央部分の横断面において、前記流路すべてが前記中継芯の外郭部に取り囲まれ、該外郭部の内側に配置される、中継芯。」
(相違点)
・相違点9-1
中継芯の流路の横断面の最大流路幅に関し、本件特許発明1は「前記粒子の投影断面の幅より大きく、400μm以上610μm以下であり、」と特定するのに対し、甲9発明にはそのような特定がない点。
・相違点9-2
中継芯に関し、本件特許発明1は「中央部の横断面において、横断面の中心に中心核を備える、」と特定するのに対し、甲9発明にはそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点9-2について検討する。
甲9発明の「液体供給体」は、図2及び図5ないし図8の液体供給体の横断面形状からみて、中央部の横断面の中心に中心核を有しないものであるから、相違点9-2は実質的な相違点である。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲9発明ではない。
また、甲第9号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲9発明において、中央部の横断面の中心に中心核を設ける動機がない。
したがって、甲1発明において、相違点9-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲9発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件特許発明5ないし7について
本件特許発明5ないし7は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明1は甲9発明ではなく、甲9発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明5ないし7もまた、甲9発明ではなく、甲9発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 取消理由1-5及び取消理由2-5についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、取消理由1-5及び取消理由2-5の理由では、本件特許発明1及び5ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1及び5ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1及び5ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項2ないし4は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項2ないし4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701028