特許拒絶査定不服審判
2025-009310
カレントミラー回路及び増幅回路
- 審判番号
- 2025-009310
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2023-134554
- 請求日
- 2025年06月16日
- 審決日
- 2026年02月10日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社フジクラ
- 【請求人代理人】及川 周
- 【請求人代理人】清水 雄一郎
- 【請求人代理人】片岡 央
- 【請求人代理人】丹野 拓人
- 審判長/審判官
- 審判長 土居 仁士
- 審判官 丸山 高政
- 審判官 鈴木 圭一郎
- 分類
- P18 .121-Z (H03F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2023-134554「カレントミラー回路及び増幅回路」拒絶査定不服審判事件〔令和7年3月7日出願公開、特開2025-29754〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和5年8月22日の出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。
令和 6年 1月16日付け 拒絶理由通知書
3月25日 意見書・手続補正書
6月 6日付け 拒絶理由通知書
8月13日 意見書
10月29日付け 拒絶理由通知書
令和 7年 1月27日 意見書
4月 8日付け 拒絶査定
6月16日 審判請求書
以下では、令和7年4月8日付け拒絶査定を「原査定」という。
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和6年3月25日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載により特定されるとおりのものと認定する。
後の参照の便宜のため、請求項1の記載に記号A~Fを付して以下のように分説し、「発明特定事項A」のようにして参照する。
【請求項1】
A 第1入力端に第1インピーダンスを有する第1回路が接続されるとともに第1出力端に基準電流源が接続され、第1制御端に前記第1出力端が接続された第1トランジスタと、
B 第2制御端が前記第1制御端に接続されるとともに第2入力端に第2インピーダンスを有する第2回路が接続され、第2出力端から前記基準電流源の基準電流に応じた出力電流を出力する第2トランジスタとを備え、
C 前記第1回路及び前記第2回路のいずれか一方又は両方は、前記出力電流が周囲温度に対して所定の変化傾向を持つように前記第1インピーダンス及び前記第2インピーダンスのいずれか一方又は両方の温度特性が設定され、
D 前記第1インピーダンスは、前記出力電流が前記周囲温度の上昇に対し増加傾向を持つように温度上昇に対して増加するように設定され、
E 前記第2インピーダンスは、前記温度上昇に対して低下するように設定される
F ことを特徴とするカレントミラー回路。
第3 原査定の概要
原査定の概要は、以下のとおりである。
1.(進歩性)この出願の請求項1~4に係る発明は、以下の文献1に記載された発明並びに文献2及び4に示される周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
この出願の請求項5に係る発明は、以下の文献1に記載された発明並びに文献2~4に示される周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
文献1.特開2010-165177号公報
文献2.特開2005-124022号公報
文献3.特開2007-336224号公報
文献4.特開昭59-212026号公報
第4 引用文献1の記載内容
原査定の拒絶の理由で引用された特開2010-165177号公報(以下「引用文献1」という。)の記載及び該記載から認定される発明(以下「引用発明」という。)は、以下のとおりである。
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の記載がある。なお、下線は強調のために当審で付した。
(1)「【0019】
以上のような半導体装置によれば、抵抗素子の温度係数がそれぞれ異なるようにすることで、入力電流の温度特性と出力電流の温度特性に違いにより、正か負のいずれか一方しか持たない半導体プロセスにおいても正負任意の傾きを持つ温度特性の出力電流設定が可能となる。」
(2)「【0022】
電流源11は、一方の端子を電源10と接続し、他方の端子をNchMOSトランジスタM1のゲートとドレインとに接続する。第一の温度係数を持つ抵抗素子RA1は、NchMOSトランジスタM1のソースとGND間に接続される。NchMOSトランジスタM2は、ゲートをNchMOSトランジスタM1のゲートと共通に接続し、ソースとGND間に第一の温度係数を持つ抵抗素子RA2および第二の温度係数を持つ抵抗素子RB2とを直列接続し、ドレインからドレイン電流を出力端子12へ出力する。
【0023】
NchMOSトランジスタM1、M2は、カレントミラーを構成する。抵抗素子RA1の温度係数と、抵抗素子RA2および抵抗素子RB2を合成した抵抗の温度係数とが異なるため、NchMOSトランジスタM1のソース電位とNchMOSトランジスタM2のソース電位との差が温度によって異なる。このため、NchMOSトランジスタM1のゲート・ソース間電圧Vgs1とNchMOSトランジスタM2のゲート・ソース間電圧Vgs2の差も温度によって異なってくる。したがって、電流源11からNchMOSトランジスタM1に流れ込む電流の温度特性と、NchMOSトランジスタM2のドレインから出力される電流の温度特性とは、異なる特性を示す。この場合、出力電流の温度特性の傾きは、RA2の抵抗値とRB2の抵抗値の割合によって正負任意に設定可能である。」
(3)「【0026】
従って、NchMOSトランジスタM1、M2のディメンジョンを同じにすると共に、下記の(1)式で示すように抵抗値を設定した場合、NchMOSトランジスタM1、M2に流れる電流は、ほぼ同じとなる。
RA1抵抗値≒RA2抵抗値+RB2抵抗値 ・・・・(1)」
(4)「【0029】
上記の(2)、(3)、(4)式より、次式が得られる。
出力電流≒(電流源11の電流*(R1a*(1+dta*(T-25))))/(R2a*(1+dta*(T-25))+R2b*(1+dtb*(T-25))) ・・・・(5)
但し、R1a:RA1の25℃での抵抗値
R2a:RA2の25℃での抵抗値
R2b:RB2の25℃での抵抗値
dta:RA1、RA2の持つ抵抗の温度係数
dtb:RB2の持つ抵抗の温度係数」
(5)「【0031】
逆に、(5)式において、出力電流の温度特性の違いが一番大きくなるのは、RA2=0Ω、RB2=RA1の時である。この場合、下記の(7)式のようになる。
出力電流≒(電流源11の電流*(R1a*(1+dta*(T-25))))/(R2b*(1+dtb*(T-25)))≒電流源11の電流*((1+dta*(T-25))/(1+dtb*(T-25))) ・・・・(7)
【0032】
(7)式より、RA1およびRA2の抵抗の温度係数dtaとRB2の抵抗の温度係数dtbとの間に差がある場合、dta>dtbでは、温度が高くなるほど出力電流が大きくなり正の傾きをもった温度特性となる。逆に、dta<dtbでは、温度が高くなるほど出力電流が小さくなり負の傾きをもった温度特性となる。
【0033】
図2は、定電流回路の各抵抗素子の値を下記のように設定した場合の出力電流の温度特性を示す図である。
条件1:RA1=100KΩ(0.1[%/K])、RB2=100KΩ(0.4[%/K])
条件2:RA1=100KΩ(0.1[%/K])、RA2=50KΩ(0.1[%/K])、RB2=50KΩ(0.4[%/K])
条件3:RA1=100KΩ(0.4[%/K])、RB2=100KΩ(0.1[%/K])
条件4:RA1=100KΩ(0.4[%/K])、RA2=50KΩ(0.4[%/K])、RB2=50KΩ(0.1[%/K])」
(6)図1
[図:0001434007000001.jpg]
(7)図2
[図:0001434007000002.jpg]
図2によれば、条件3における出力電流(◆でプロットされたグラフ)は、温度の上昇に対して増加していると解される。
2 引用発明の認定
前記1の記載によれば、引用文献1には、以下に示す引用発明が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、引用発明を記号a~iで分説し、「構成a」のようにして参照する。
〈引用発明〉
a1 電流源11は、一方の端子を電源10と接続し、他方の端子をNchMOSトランジスタM1のゲートとドレインとに接続し、(【0022】)
a2 第一の温度係数を持つ抵抗素子RA1は、NchMOSトランジスタM1のソースとGND間に接続され、(【0022】)
a3 NchMOSトランジスタM2は、ゲートをNchMOSトランジスタM1のゲートと共通に接続し、(【0022】)
a4 NchMOSトランジスタM2のソースとGND間に第一の温度係数を持つ抵抗素子RA2および第二の温度係数を持つ抵抗素子RB2とを直列接続し、(【0022】)
a5 NchMOSトランジスタM2のドレインからドレイン電流を出力端子12へ出力し、(【0022】)
b NchMOSトランジスタM1、M2は、カレントミラーを構成し、(【0023】)
c RA1抵抗値≒RA2抵抗値+RB2抵抗値となるように抵抗値を設定した場合、NchMOSトランジスタM1、M2に流れる電流は、ほぼ同じとなり、(【0026】)
d1 R1aはRA1の25℃での抵抗値であり、(【0029】)
d2 R2aはRA2の25℃での抵抗値であり、(【0029】)
d3 R2bはRB2の25℃での抵抗値であり、(【0029】)
d4 dtaはRA1、RA2の持つ抵抗の温度係数であり、(【0029】)
d5 dtbはRB2の持つ抵抗の温度係数であり、(【0029】)
e RA2=0Ω、RB2=RA1の場合、出力電流≒電流源11の電流*((1+dta*(T-25))/(1+dtb*(T-25)))のようになり、(【0031】)
f dta>dtbでは、温度が高くなるほど出力電流が大きくなり正の傾きをもった温度特性となり、逆に、dta<dtbでは、温度が高くなるほど出力電流が小さくなり負の傾きをもった温度特性となり、(【0032】)
g 定電流回路の各抵抗素子の値を、条件3:RA1=100KΩ(0.4[%/K])、RB2=100KΩ(0.1[%/K])のように設定し、(【0033】)
h 条件3における出力電流は、温度の上昇に対して増加している、(図2)
i カレントミラー。(【0023】)
第5 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 発明特定事項Aについて
発明特定事項Aは「第1入力端に第1インピーダンスを有する第1回路が接続されるとともに第1出力端に基準電流源が接続され、第1制御端に前記第1出力端が接続された第1トランジスタと、」というものである。
(1)引用発明の「NchMOSトランジスタM1」(構成a1)は、本願発明の「第1トランジスタ」に相当し、引用発明のNchMOSトランジスタM1の「ゲート」及び「ドレイン」(構成a1)は、それぞれ、本願発明の「第1制御端」及び「第1出力端」に相当する。
引用発明の「電流源11」は、「他方の端子をNchMOSトランジスタM1のゲートとドレインとに接続」する(構成a1)から、ゲートとドレインとは短絡接続されていると解される。よって、引用発明の「NchMOSトランジスタM1」は、「ゲート」と「ドレイン」が接続されているから、本願発明の「第1制御端に前記第1出力端が接続された第1トランジスタ」に相当する。
(2)引用発明では「NchMOSトランジスタM1、M2は、カレントミラーを構成」する(構成b)から、「NchMOSトランジスタM1のゲートとドレインとに接続」された「電流源11」(構成a1)は、カレントミラーにおける基準電流源であると解される。よって、引用発明の「電流源11」は、本願発明の「基準電流源」に相当する。
引用発明の「電流源11」は、「他方の端子をNchMOSトランジスタM1のゲートとドレインとに接続」する(構成a1)から、引用発明の「NchMOSトランジスタM1」は、本願発明の「第1出力端に基準電流源が接続され」た「第1トランジスタ」に相当する。
(3)引用発明の「第一の温度係数を持つ抵抗素子RA1」(構成a2)は、単一の抵抗素子RA1からなる回路であり、その25℃での抵抗値R1a(構成d1)及び抵抗の温度係数dta(構成d4)から得られる任意の温度での抵抗値は、当該回路のインピーダンスに他ならない。
よって、引用発明の「抵抗素子RA1」は、本願発明の「第1回路」に相当し、引用発明の「抵抗値R1a」及び「温度係数dta」から得られる任意の温度での抵抗値は、本願発明の「第1インピーダンス」に相当する。
(4)引用発明の「NchMOSトランジスタM1のソース」(構成a2)は、本願発明の「第1入力端」に相当する。
引用発明の「抵抗素子RA1」は、「NchMOSトランジスタM1のソースとGND間に接続され」る(構成a2)から、「NchMOSトランジスタM1のソース」に「抵抗素子RA1」が接続されていると解される。
よって、引用発明の「NchMOSトランジスタM1」は、本願発明の「第1入力端に第1インピーダンスを有する第1回路が接続される」「第1トランジスタ」に相当する。
(5)前記(1)~(4)によれば、本願発明と引用発明とは、「第1入力端に第1インピーダンスを有する第1回路が接続されるとともに第1出力端に基準電流源が接続され、第1制御端に前記第1出力端が接続された第1トランジスタ」を備える点で一致する。
2 発明特定事項Bについて
発明特定事項Bは「第2制御端が前記第1制御端に接続されるとともに第2入力端に第2インピーダンスを有する第2回路が接続され、第2出力端から前記基準電流源の基準電流に応じた出力電流を出力する第2トランジスタとを備え、」というものである。
(1)引用発明の「NchMOSトランジスタM2」(構成a3)は、本願発明の「第2トランジスタ」に相当し、引用発明の「NchMOSトランジスタM2のドレイン」(構成a5)は、本願発明の「第2出力端」に相当する。
(2)引用発明では「NchMOSトランジスタM2のドレインからドレイン電流を出力端子12へ出力」する(構成a5)から、「ドレイン電流」は、出力電流であり、本願発明の「出力電流」に相当する。
引用発明では「RA1抵抗値≒RA2抵抗値+RB2抵抗値となるように抵抗値を設定した場合、NchMOSトランジスタM1、M2に流れる電流は、ほぼ同じとなり」(構成c)、「NchMOSトランジスタM1のゲートとドレイン」には「電流源11」が接続される(構成a1)から、NchMOSトランジスタM1及びM2のドレイン電流は、どちらも電流源M1が流す電流となると解される。
そうすると、引用発明の「NchMOSトランジスタM2のドレインから」出力される「ドレイン電流」(構成a5)は、「電流源11」が流す電流に応じたものとなる。よって、引用発明の「NchMOSトランジスタM2」は、本願発明の「第2出力端から前記基準電流源の基準電流に応じた出力電流を出力する第2トランジスタ」に相当する。
(3)引用発明の「第一の温度係数を持つ抵抗素子RA2および第二の温度係数を持つ抵抗素子RB2とを直列接続」したもの(構成a4)は、回路に他ならず、本願発明の「第2回路」に相当する。
「RA2=0Ω、RB2=RA1の場合」(構成e)、前記回路は、25℃における抵抗値R2b(構成d3)及び温度係数dtb(構成d5)から得られる任意の温度での抵抗値(インピーダンス)を有すると解され、引用発明の「抵抗値R2b」及び「温度係数dtb」から得られる任意の温度での抵抗値は、本願発明の「第2インピーダンス」に相当する。
よって、引用発明の「抵抗素子RA2」と「抵抗素子RB2とを直列接続」した回路は、本願発明の「第2インピーダンスを有する第2回路」に相当する。
(4)引用発明の「NchMOSトランジスタM2のソース」(構成a4)は、本願発明の「第2入力端」に相当する。
引用発明では、「NchMOSトランジスタM2のソースとGND間に第一の温度係数を持つ抵抗素子RA2および第二の温度係数を持つ抵抗素子RB2とを直列接続」する(構成a4)から、「NchMOSトランジスタM2のソース」に「抵抗素子RA2」と「抵抗素子RB2とを直列接続」した回路が接続されていると解される。
よって、引用発明の「NchMOSトランジスタM2」は、本願発明の「第2入力端に第2インピーダンスを有する第2回路が接続され」た「第2トランジスタ」に相当する。
(5)引用発明のNchMOSトランジスタM2の「ゲート」(構成a3)は、本願発明の「第2制御端」に相当する。
引用発明では「NchMOSトランジスタM2は、ゲートをNchMOSトランジスタM1のゲートと共通に接続」する(構成a3)から、NchMOSトランジスタM2の「ゲート」が「NchMOSトランジスタM1のゲート」に接続していると解され、引用発明の「NchMOSトランジスタM2」は、本願発明の「第2制御端が前記第1制御端に接続される」「第2トランジスタ」に相当する。
(6)前記(1)~(5)によれば、本願発明と引用発明とは、「第2制御端が前記第1制御端に接続されるとともに第2入力端に第2インピーダンスを有する第2回路が接続され、第2出力端から前記基準電流源の基準電流に応じた出力電流を出力する第2トランジスタとを備え」る点で一致する。
3 発明特定事項Cについて
発明特定事項Cは「前記第1回路及び前記第2回路のいずれか一方又は両方は、前記出力電流が周囲温度に対して所定の変化傾向を持つように前記第1インピーダンス及び前記第2インピーダンスのいずれか一方又は両方の温度特性が設定され、」というものである。
(1)前記1(3)によれば、引用発明の「抵抗値R1a」及び「温度係数dta」から得られる任意の温度での抵抗値は、本願発明の「第1回路」の「第1インピーダンス」に相当し、前記2(3)によれば、引用発明の「抵抗値R2b」及び「温度係数dtb」から得られる任意の温度での抵抗値は、本願発明の「第2回路」の「第2インピーダンス」に相当する。
(2)引用発明では、「RA1=100KΩ(0.4[%/K])」である(構成g)から、「温度係数dta」は0.4であると解され、抵抗素子RA1の温度特性は、周囲温度の上昇に対して増加するように設定されていると解される。
(3)引用発明では「RB2=100KΩ(0.1[%/K])」である(構成g)から、「温度係数dtb」は0.1であると解され、抵抗素子RA2と抵抗素子RB2とを直接接続した回路の温度特性は、周囲温度の上昇に対して増加するように設定されていると解される。
(4)前記(1)~(3)によれば、本願発明と引用発明とは、「前記第1回路及び前記第2回路のいずれか一方又は両方は、前記出力電流が周囲温度に対して所定の変化傾向を持つように前記第1インピーダンス及び前記第2インピーダンスのいずれか一方又は両方の温度特性が設定され」る点で一致する。
4 発明特定事項Dについて
発明特定事項Dは「前記第1インピーダンスは、前記出力電流が前記周囲温度の上昇に対し増加傾向を持つように温度上昇に対して増加するように設定され、」というものである。
前記1(3)によれば、引用発明の「抵抗値R1a」及び「温度係数dta」から得られる任意の温度での抵抗値は、本願発明の「第1インピーダンス」に相当する。
前記3(2)によれば、抵抗素子RA1のインピーダンスの温度係数dtaは0.4であり、出力電流が周囲温度の上昇に対し増加傾向を持つように設定されていると解される。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「前記第1インピーダンスは、前記出力電流が前記周囲温度の上昇に対し増加傾向を持つように温度上昇に対して増加するように設定され」る点で一致する。
5 発明特定事項Eについて
発明特定事項Eは「前記第2インピーダンスは、前記温度上昇に対して低下するように設定される」というものである。
前記2(3)によれば、引用発明の「抵抗値R2b」及び「温度係数dtb」から得られる任意の温度での抵抗値は、本願発明の「第2インピーダンス」に相当する。
前記3(3)によれば、抵抗素子RA2と抵抗素子RB2とを直列接続した回路のインピーダンスの温度係数dtbは0.1であり、出力電流が周囲温度の上昇に対し増加傾向を持つように設定されていると解される。
そうすると、本願発明では、「前記第2インピーダンスは、前記温度上昇に対して低下するように設定される」のに対し、引用発明では、温度係数dtbは0.1に設定され、温度上昇に対して増加するように設定されている点で相違する。
6 発明特定事項Fについて
発明特定事項Fは「ことを特徴とするカレントミラー回路。」というものである。
引用発明では「NchMOSトランジスタM1、M2は、カレントミラーを構成し」(構成b)、当該カレントミラーは回路であると解されるから、本願発明と引用発明とは、「カレントミラー回路」である点で一致する。
7 一致点及び相違点
前記1~6によれば、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
〈一致点〉
「第1入力端に第1インピーダンスを有する第1回路が接続されるとともに第1出力端に基準電流源が接続され、第1制御端に前記第1出力端が接続された第1トランジスタと、
第2制御端が前記第1制御端に接続されるとともに第2入力端に第2インピーダンスを有する第2回路が接続され、第2出力端から前記基準電流源の基準電流に応じた出力電流を出力する第2トランジスタとを備え、
前記第1回路及び前記第2回路のいずれか一方又は両方は、前記出力電流が周囲温度に対して所定の変化傾向を持つように前記第1インピーダンス及び前記第2インピーダンスのいずれか一方又は両方の温度特性が設定され、
前記第1インピーダンスは、前記出力電流が前記周囲温度の上昇に対し増加傾向を持つように温度上昇に対して増加するように設定されることを特徴とするカレントミラー回路。」である点。
〈相違点〉
本願発明では、「前記第2インピーダンスは、前記温度上昇に対して低下するように設定される」のに対し、引用発明では、温度係数dtbは0.1に設定され、温度上昇に対して増加するように設定されている点。(発明特定事項E)
第6 進歩性の有無の判断
以下では、本願発明の引用発明に対する進歩性の有無を判断する。
1 相違点についての判断
相違点に係る構成の容易想到性を判断するにあたり、原査定の拒絶の理由で引用された特開2005-124022号公報(以下「引用文献2」という。)の記載を参照する。
(1) 引用文献2の記載
引用文献2には、以下の記載がある。
ア 「【0038】
図4は本実施形態における温度センサの構成を示す回路図であり、図2の回路から常温用温度センサ112に関係する部分(結合回路140を除く)を抜き出して示したものである。なお、低温用温度センサ111及び高温用温度センサ113に関しても、構成、動作、及びノイズ抑制効果は常温用温度センサ112と同じであり、ここでは代表して常温用温度センサ112によって説明を行う。
【0039】
この図4に示す構成の温度センサ112では、カレントミラーを用いた電流減算回路によって、周囲温度に対して線形に変化する電流が生成され、その電流生成過程において、定電流源IS1で生じたノイズが相殺されて抑圧される効果を有する。また、温度係数の異なる2つの電圧-電流変換用抵抗R2、R5により、周囲温度に対して線形に変化する2つの電流を生成するだけでなく、同様に電源(Vcc)側にも温度係数の異なる2つの抵抗R3、R4を設け、周囲温度に対応して線形に変化する2つの電流間の差を拡大することで、検出感度が向上する効果を有する。
【0040】
なお、図2及び図4において、抵抗の表記として2種類の表記(すなわち、白抜きの長方形の表記と、斜線が施された長方形の表記)を行い、異なる種類の抵抗(温度係数が異なる抵抗)であることを明確に示している。
【0041】
図5は本実施形態の温度センサにおいて用いる抵抗の温度特性を示す図である。図4において、白抜きの長方形の表記の抵抗R1、R2、R4は、図5(a)に示すような、抵抗値Rが、周囲温度Taに対して単調減少または比較的緩やかに単調増加する抵抗(負または小さな正の温度係数を持つ抵抗)である。
【0042】
一方、図4において、斜線が施された長方形の表記の抵抗R3、R5は、図5(b)に示すような、抵抗値Rが、周囲温度Taに対して急激に単調増加する抵抗(大きな正の温度係数を持つ抵抗)である。このような温度特性の差は、例えば、拡散抵抗のシート抵抗値を変化させることで実現することができる。」
イ 図4
[図:0001434007000003.jpg]
(2)相違点に係る構成の容易想到性
引用文献1及び2に触れた当業者が、相違点に係る構成を容易に想到し得たかについて、以下、検討する。
ア 引用文献2に記載された技術(以下「文献2技術」という。)は、「カレントミラーを用いた電流減算回路によって、周囲温度に対して線形に変化する電流が生成され」るもの(【0039】)であり、引用発明も「カレントミラー」(構成i)を用いて「温度の上昇に対して増加」する「出力電流」を生成する(構成h)ものである。加えて、引用発明は、温度係数が0.4の抵抗素子RA1と、温度係数が0.1の抵抗素子RB2との2種類の抵抗を用いるものであり(構成g)、文献2技術も「白抜きの長方形の表記と、斜線が施された長方形の表記」(【0040】)の2種類の抵抗を用いるものである。そうすると、両者は技術分野、作用及び機能において共通している。
イ そして、文献2技術は、周囲温度に対して線形に変化する電流を生成するために、「白抜きの長方形の表記の抵抗」として「負または小さな正の温度係数を持つ抵抗」(【0041】)を使用しており、「斜線が施された長方形の表記の抵抗」として「大きな正の温度係数を持つ抵抗」(【0042】)を使用している。すなわち、文献2技術では、「負または小さな正の温度係数を持つ抵抗」を同一の種類の抵抗として扱い、それとは別種の抵抗として「大きな正の温度係数を持つ抵抗」を想定している。
ウ 抵抗の種類に関して、引用発明は、「dta>dtbでは、温度が高くなるほど出力電流が大きくなり正の傾きをもった温度特性となり、逆に、dta<dtbでは、温度が高くなるほど出力電流が小さくなり負の傾きをもった温度特性とな」る(構成f)とされている。これは、2つの温度特性であるdtaとdtbとを、大きな値のものと、小さな値のものに種類を分けることに他ならない。
この観点からは、引用発明における「RA1=100KΩ(0.4[%/K])、RB2=100KΩ(0.1[%/K])」(構成g)は、大きな値の例示としてdtaが0.4のものを挙げ、小さな値の例示として、dtbが0.1のものを挙げていると解される。
エ 前記イ及びウによれば、引用発明と文献2技術とは、抵抗を、大きな値の温度特性を持つものと、小さな値の温度特性を持つものに分けて用いる点でも一致している。そうすると、引用文献1及び2に触れた当業者は、引用発明における小さな値の温度係数であるdtbとして、正の値のみではない、文献2技術に記載されたような「負または小さな正の温度係数」を採用することに動機付けられる。
そして、引用発明のdta>dtbという関係は、dtbが負の値であることを排除していない。加えて、dtbが負の値でも出力電流が正の傾きを持った温度特定となることは、「出力電流≒電流源11の電流*((1+dta*(T-25))/(1+dtb*(T-25)))」(構成e)の関係式から明らかである。(なお、「1+dtb*(T-25)」の値が0以下になると、抵抗素子RB2の抵抗値(=R2b*(1+dtb*(T-25)))が0以下の値になるため、あり得ない。よって、dtbの値は、「1+dtb*(T-25)」の値が正となる範囲、すなわち、dtb*(T-25)>-1の範囲であることは明らかである。)
よって、引用発明のdtbを、文献2技術の「負または小さな正の温度係数」の種類の入る「負」「の温度係数」(【0041】)とすることにより、相違点に係る構成とすることは、引用文献1及び引用文献2に触れた当業者が容易に想到し得たことであると認められる。
2 効果について
本願の明細書には、次の記載がある。
「【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、出力電流が温度変化に応じて変動するカレントミラー回路及び当該カレントミラー回路を用いた増幅回路を提供することが可能である。」
上記記載によれば、本願発明の効果は、出力電流が温度変化に応じて変動するカレントミラー回路を提供することにあると認められる。
そして、引用発明も、出力電流が温度変化に応じて変動するカレントミラー回路であるから、本願発明と同等の効果を奏するものであり、本願発明の効果は、格別のものとは認められない。
3 請求人の主張について
請求人は、審判請求書にて、引用文献1及び2に係る主張として、以下の主張1~3を主張する。また、令和7年1月27日の意見書においても、主張2と同旨の主張をする。
〈主張1〉
本願発明は、出力電流が温度変化に応じて変動するカレントミラー回路及び当該カレントミラー回路を用いた増幅回路の提供を目的とする。
これに対して、引用発明は、出力する定電流の温度特性の傾きを広範囲に設定することを目的とする。
また、文献2技術は、広い温度範囲の全てに渡って低ノイズ性を確保することが可能な関数発生回路の提供を目的とする。
すなわち、本願発明は、発明の目的が引用発明及び文献2技術とは明確に異なる。
したがって、本願発明の進歩性を否定するに際して、引用発明及び文献2技術の組み合わせの容易性は是認されるべきではない。
発明の目的の観点において、引用発明及び文献2技術は本願発明を動機付けるものではない。
(審判請求書【本願発明が特許されるべき理由】「3.本願発明と引用発明との対比」「(1)発明の目的」)
〈主張2〉
本願発明は、周囲温度に対して逆の変化傾向(正及び負の変化傾向)を有する第1インピーダンス及び第2インピーダンスを用いるが、引用発明は周囲温度に対して同一の変化傾向を有する抵抗RA1、RA2(温度係数dta)と抵抗RB2(温度係数dtb)とを用いる。引用発明は、異なる温度係数dtaと温度係数dtbと組み合わせる点で本願発明に類似するが、温度係数dta及び温度係数dtbは周囲温度に対して同一変化傾向(正の変化傾向)を有するものであり、周囲温度に対して逆の変化傾向(正及び負の変化傾向)を有する第1インピーダンス及び第2インピーダンスを用いる本願発明とは明確に異なる。
また、文献2技術は、周囲温度に対して同一の変化傾向を有する温度係数(正の温度特性)を有する5つの抵抗R1~R5を用いる。文献2技術は、温度係数が異なる複数の抵抗を組み合わせる点で本願発明に類似するが、引用発明と同様に各抵抗の温度係数が周囲温度に対して同一の変化傾向を有するものであり、周囲温度に対して逆の変化傾向(正及び負の変化傾向)を有する第1インピーダンス及び第2インピーダンスを用いる本願発明とは明確に異なる。
したがって、引用発明及び文献2技術の構成は、本願発明の構成とは明確に異なっており、すなわち、引用発明及び文献2技術は、周囲温度に対して逆の変化傾向(正及び負の変化傾向)を有する第1インピーダンス及び第2インピーダンスを用いるという本願発明の技術思想とは明確に異なるものであり、本願発明を動機付けるものではない。
(審判請求書【本願発明が特許されるべき理由】「3.本願発明と引用発明との対比」「(2)発明の構成」)
〈主張3〉
本願発明は、出力電流が温度変化に応じて変動するカレントミラー回路を提供することができる。
これに対して、引用発明は、入力電流の温度特性と出力電流の温度特性に違いにより、正か負のいずれか一方しか持たない半導体プロセスにおいても正負任意の傾きを持つ温度特性の出力電流設定が可能である。
また、文献2技術は、各温度領域毎に温度センサのノイズを最も効果的に抑制でき、以って関数発生回路の出力電圧に関し、広い温度範囲の全てに渡って低ノイズ性を確保することが可能である。
本願発明と引用発明及び文献2技術とは、発明の効果が明確に異なる。
したがって、本願発明の効果は、引用発明及び文献2技術の組み合わせによって得られるものではない。
(審判請求書【本願発明が特許されるべき理由】「3.本願発明と引用発明との対比」「(3)発明の効果」)
(1)主張1についての判断
引用発明と文献2技術との組み合わせの可否は、引用発明及び文献2技術の目的(課題)が本願発明の目的(課題)と異なるか否かに左右されない。
また、引用発明と文献2技術との組み合わせの可否は、両者の課題の共通性だけではなく、技術分野の関連性、作用・機能の共通性、引用発明の内容中の示唆等を総合的に勘案して判断されるものであり、両者の課題が共通しないことのみをもって引用発明と文献2技術とを組み合わせることができないと判断されるものでもない。
そうすると、前記1(2)に記載したとおりであり、請求人の主張1は採用できない。
(2)主張2についての判断
請求人の主張2は、文献2技術が負の温度特性を有する抵抗を用いていないことを前提としているが、前記1(2)イで触れたように、文献2技術は「白抜きの長方形の表記の抵抗」として「負」「の温度係数を持つ抵抗」(【0041】)が想定されているため、請求人の主張2は、前提において失当であり、採用できない。
(3)主張3についての判断
引用文献1には、「以上のような半導体装置によれば、抵抗素子の温度係数がそれぞれ異なるようにすることで、…(略)…正か負のいずれか一方しか持たない半導体プロセスにおいても正負任意の傾きを持つ温度特性の出力電流設定が可能となる。」(【0019】)との記載があるが、「正か負のいずれか一方しか持たない半導体プロセス」について言及しているのは【0019】のみであり、【0019】の記載は、「正か負のいずれか一方しか持たない半導体プロセスにおいても」(下線は強調のために当審で付した。)とあるように、正か負のいずれか一方しか持たない半導体プロセス以外をも想定したものである。そして、引用文献1の他の記載を参酌しても、引用文献1の全体の記載が、正か負のいずれか一方しか持たない半導体プロセスのみを前提としたものとは認められない。
また、引用文献2には、「本発明によれば、広い温度範囲の全てに渡って低ノイズ性を確保することが可能な関数発生回路を提供できる効果が得られる。」(【0021】)との記載があるが、引用発明と組み合わせる対象は、引用文献2に記載された関数発生回路ではなく、該関数発生回路の一部分を構成する「常温用温度センサ112」(【0038】)の「カレントミラー」(【0039】)であるべきことは、引用発明と文献2技術とで共通する技術分野がカレントミラーであることに鑑みて当然であって、文献2技術の効果として前記関数発生回路の効果を認定するのは不適切である。
以上によれば、請求人の主張3における引用発明及び文献2技術の効果は、適切に認定されたものとはいえず、これを前提とする主張3は採用できない。
4 進歩性についての小括
以上のとおりであるから、本願発明は、当業者が引用発明及び文献2技術に基づいて容易に発明をすることができたものと認められる。
第7 むすび
前記第6のとおり、本願発明は、当業者が引用発明及び文献2技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-009310