特許無効審判
2024-800004
15-ケト-プロスタグランジン類を含む薬物誘発性便秘処置用組成物
- 審判番号
- 2024-800004
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2012-700142
- 登録番号
- 4332353
- 請求日
- 2024年01月12日
- 審決日
- 2025年06月04日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】東和薬品 株式会社
- 【請求人代理人】牧野 知彦
- 【請求人代理人】平井 佑希
- 【参加人】ヴィアトリス製薬合同会社
- 【参加人代理人】山内 真之
- 【参加人代理人】石井 昭仁
- 【参加人代理人】谷川原 淑恵
- 【参加人代理人】篠崎 慎一郎
- 【参加人代理人】坪倉 道明
- 【参加人代理人】安藤 健司
- 【参加人代理人】城山 康文
- 【参加人代理人】出野 智之
- 【被請求人】スキャンポ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
- 【被請求人代理人】松谷 道子
- 【被請求人代理人】田村 啓
- 【被請求人代理人】落合 康
- 【被請求人代理人】玄番 佐奈恵
- 【被請求人代理人】坂田 啓司
- 【被請求人代理人】林 康次郎
- 【被請求人代理人】白江 雄介
- 審判長/審判官
- 審判長 原田 隆興
- 審判官 齋藤 恵
- 審判官 長井 啓子
- 分類
- P115 .7 -Y (A61K) / P115 .71 -Y (A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第125条の2第1項第1号、特許法第67条第4項、特許法第67条第2項、特許法第125条の2第1項第3号、特許法第67条の3第1項第3号、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第4332353号「15-ケト-プロスタグランジン類を含む薬物誘発性便秘処置用組成物」の存続期間延長登録特願2012-700142無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第4332353号「15-ケト-プロスタグランジン類を含む薬物誘発性便秘処置用組成物」は、平成14年4月26日を国際出願日とする特願2002-586947号として出願され、平成21年6月26日にその特許権(以下、「本件特許権」という。)の設定登録がなされた。その後、平成24年9月26日に、本件特許権について存続期間の延長登録の出願(特許権存続期間延長登録出願2012-700142号。以下、「本件延長登録出願」という。)がなされ、平成25年12月4日に本件特許権の存続期間の延長登録がなされた(以下、「本件延長登録」という。)
その後の主な手続の経緯は、以下のとおりである。
令和6年 1月12日 審判請求書及び甲第1~8号証の提出(請求
人)
令和6年 6月24日 審判事件答弁書及び乙第1~14号証の提出
同年 7月 2日 参加申請書の提出(ヴィアトリス製薬合同会
社)
同年10月23日付け 参加許否の決定(ヴィアトリス製薬合同会社
の参加を許可する旨。)
同年11月18日 上申書(被請求人)
同年11月29日 上申書及び丙第1~3号証の提出(ヴィアト
リス製薬合同会社(参加人))
令和7年 1月 8日付け 審理事項通知(請求人、被請求人、及び参加
人宛て)
同年 2月18日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
口頭審理陳述要領書、乙第15~19号証、
営業秘密に関する申出書及び手続補正書(対
象は、令和6年6月24日提出の証拠説明
書)の提出(被請求人)
口頭審理陳述要領書及び丙第2-2号証の提
出(参加人)
同年 2月28日 手続補正書(対象は、令和7年2月18日提
出の営業秘密に関する申出書)(被請求人)
同年 3月11日 口頭審理
審理終結(口頭審理調書参照)
第2 本件特許権に係る発明及び本件延長登録
1 本件特許権に係る発明
本件特許権については、別件特許無効審判(無効2023-800077号)が請求され、令和7年4月22日に「特許第4332353号の特許請求の範囲を、令和6年5月17日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、4、5、6、7、8について、訂正することを認める。特許第4332353号の請求項1、4~8に係る発明についての本件審判の請求は成り立たない。特許第4332353号の請求項2及び3についての本件審判の請求を却下する。」との審決がなされた。
訂正前(特許権設定登録時)と訂正後の請求項1は、次のとおりである。なお、請求項1は唯一の独立請求項であり、その他の請求項はすべて請求項1に従属している。また、下線は訂正事項である。
訂正前(特許権設定登録時)
「【請求項1】 一般式(II):
【化1】
[図:0001425663000001.jpg]
[式中、Lはオキソ、Mはヒドロキシ;
Aは、-COOHまたはその塩、エステルもしくはアミド;
Bは、-CH2-CH2-;
X1およびX2は、水素、低級アルキルまたはハロゲンであって、X1およびX2の少なくとも一方はハロゲンである;
R1は、非置換の二価の飽和または不飽和の炭素数1~14の直鎖または分枝鎖を有する脂肪族炭化水素(ただし、側鎖は炭素数1~3のものである);
R2は、単結合または低級アルキレン;そして、
R3は、低級アルキル]
で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-ハロゲン-プロスタグランジンE化合物を有効成分として含む、オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘処置用組成物。」
訂正後
「【請求項1】 一般式(II):
【化1】
[図:0001425663000002.jpg]
[式中、Lはオキソ、Mはヒドロキシ;
Aは、-COOHまたはその塩、エステルもしくはアミド;
Bは、-CH2-CH2-;
X1およびX2は、水素、低級アルキルまたはハロゲンであって、X1およびX2の少なくとも一方はハロゲンである;
R1は、非置換の二価の飽和または不飽和の炭素数1~14の直鎖または分枝鎖を有する脂肪族炭化水素(ただし、側鎖は炭素数1~3のものである);
R2は、単結合または低級アルキレン;そして、
R3は、低級アルキル]
で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-ハロゲン-プロスタグランジンE化合物を有効成分として含み、
13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-ハロゲン-プロスタグランジンE化合物が、13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-ジフルオロ-プロスタグランジンE1であり、
溶媒である脂肪酸のトリグリセライドとともに、ソフトカプセルにしてなる、
オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘処置用組成物。」
このとおり、訂正により、請求項1において、有効成分が「13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-ジフルオロ-プロスタグランジンE1」という具体的な化合物に限定されるとともに、剤型が「溶媒である脂肪酸のトリグリセライドとともに、ソフトカプセルにしてなる」というものに限定された。訂正後の請求項1に係る発明における「13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-ジフルオロ-プロスタグランジンE1」は、ルビプロストンである。
これに関して、被請求人は、令和6年11月18日に上申書を提出し、本件特許権の別件特許無効審判事件(無効2023-800077号)において令和6年5月17日付け訂正請求書で特許請求の範囲の訂正を求めたことを当該訂正請求書の写しを添えて上申するとともに、訂正が認められた場合でも本件延長登録が有効である旨の主張の機会を求め、令和7年2月18日提出の口頭審理陳述要領書で、訂正が認められた場合であっても請求人が主張する無効理由が成り立たないこと、また、訂正請求がされたことを理由に、請求人が別の事実に基づく無効理由を主張した場合には、反論の機会を求める旨を主張した。
しかしながら、本件延長登録無効審判事件の審理経過において、請求人が本件特許の訂正について言及することは一度もなかった。そして、請求人が主張する無効理由は、後述のとおり、いずれも本件特許に係る発明の「薬物誘発性便秘処置用」という用途に関するものであって、訂正に係る有効成分及び剤型に関する無効理由は含まれていない。
このような本件延長登録無効審判事件における審理経緯に加えて、本件特許権の別件特許無効審判事件(無効2023-800077号)の審決について上記訂正の可否を含めた審決取消訴訟が提起される可能性が高い等の事情にも鑑み、当審は、訂正前(特許権設定登録時)の特許明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて判断することとする。以下、訂正前(特許権設定登録時)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を「本件特許発明」という。
2 本件延長登録
本件延長登録に係る延長の期間及び特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容は、次のとおりのものである。
(1)延長の期間
3年2日
(2)特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容
ア 特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分
薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認
イ 処分を特定する番号
22400AMX00733000
ウ 処分の対象となったもの
販売名: アミティーザカプセル24μg
有効成分: ルビプロストン
エ 処分の対象となったものについて特定された用途
慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)
(以下、当該処分を「本件処分」ともいい、当該処分の対象となったものを「本件医薬品」という。)
第3 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、
「特許第4332353号の特許権存続期間延長登録出願2012-700142号に基づく特許権の存続期間の延長登録を無効とする
審判費用は被請求人の負担とする」
との審決を求め、以下の(1)の無効理由を主張し、証拠方法として以下の(2)に記載の書証を提出した。
(1)無効理由の概要
ア 無効理由1
本件延長登録は、本件特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められない場合の出願に対してされたものであるから、特許法第125条の2第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
無効理由1は、以下のとおりの無効理由1-1及び無効理由1-2に二分される。
無効理由1-1:用途発明の技術的範囲の観点から
無効理由1-2:技術的範囲に属さないこと
イ 無効理由2
本件延長登録により延長された期間が、本件特許発明の実施をすることができなかった期間を超えているから、本件延長登録は、特許法第125条の2第1項第3号に該当し、無効とすべきものである。
(2)証拠方法
甲第1号証の1:特許登録原簿謄本(特許第4332353号)
甲第1号証の2:特許公報(特許第4332353号)
甲第2号証:国際公開第01/27099号
甲第3号証:CTD「アミティーザカプセル24μgに関する資料」(株式会社スキャンポファーマ)の1.4~1.10及び1.12
甲第4号証:添付文書 アミティーザ(R)カプセル24μg *2012年11月改訂(第2版)*2018年11月改訂 2012年6月作成(当審注:丸囲みのRを「(R)」として示す。以下同じ)
甲第5号証:医薬品インタビューフォーム アミティーザ(R)カプセル12μg アミティーザ(R)カプセル24μg 2022年12月改訂(第12版)
甲第6号証:添付文書 アミティーザ(R)カプセル12μg アミティーザ(R)カプセル24μg *2022年12月改訂(第2版) 2022年7月改訂(第1版)
甲第7号証:審査基準(第IX部 特許権の存続期間の延長)
甲第8号証:判定(判定2023-600002)
(以下、それぞれ「甲1」等という。)
2 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人は、
「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」
との審決を求め、請求人の主張する上記無効理由は理由がない旨主張し、証拠方法として以下の書証を提出した。
乙第1号証:「薬事法等の一部を改正する法律の概要(平成25年法律第84号)」(平成26年12月9日 厚生労働省掲載)
乙第2号証:「日本の薬事行政」(2011年3月 日本製薬工業協会)
乙第3号証:「医療用医薬品の使用上の注意記載要領について」(平成九年四月二五日)(薬発第六〇七号)(各都道府県知事あて厚生省薬務局長通知)
乙第4号証:CTD「アミティーザカプセル24μgに関する資料」(株式会社スキャンポファーマ)の1.4~1.10及び1.12
乙第5号証:「審議結果報告書」(平成24年6月6日 医薬食品局審査管理課)
乙第6号証:添付文書 アミティーザ(R)カプセル12μg アミティーザ(R)カプセル24μg **2021年11月改訂(第14版)*2018年11月改訂
乙第7号証:添付文書 アミティーザ(R)カプセル24μg 2012年6月作成(第1版)
乙第8号証:知財高判平成26.9.25 平成25年(行ケ)第10327号判決
乙第9号証:最二小判平11.10.22 平成10年(行ヒ)第43号判決
乙第9号証の1:最高裁判例集(https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52250)
乙第10号証:特許庁編「工業所有権法逐条解説[第16版]」(2001年8月20日 社団法人発明協会発行)第202~205頁
乙第11号証:知財高判平成21.5.29 平成20年(行ケ)第10458号判決
乙第12号証:知財高判平成21.5.27 平成20年(行ケ)第10476号判決
乙第13号証:無効2023-800077号 令和6年5月17日付け訂正請求書
乙第14号証:川崎医学会誌、第44巻(第2号) 第115~120頁(2018)
乙第15号証:平成24年6月29日「医薬品製造販売承認書」(承認番号22400AMX00733000 アミティーザカプセル24μg)
乙第16号証:平成22年9月24日「医薬品製造販売承認申請書」(アミティーザカプセル24μg)
乙第17号証:「薬事法の一部を改正する法律について」
(https://www.mhlw.gp.kp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000045726.html)
乙第18号証:国立国会図書館が2014年12月9日時点で保存したhttps://www.mhlw.gp.kp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000045726.htmlをURLとするウェブページ(https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8841734/www.mhlw.go.jp/stf/ seisakunitsuite/bunya/0000045726.html)
乙第19号証:「薬事法等制度改正についてのとりまとめ」(平成24年1月24日 厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会)
(以下、それぞれ「乙1」等という。)
3 参加人の主張及び証拠方法
参加人は、審判請求書記載の無効理由はいずれも成り立たない旨主張し、証拠方法として以下の書証を提出した。
丙第1号証:意見書(2024年5月13日 中島淳)
丙第2号証:日比紀文ら編集「便秘の薬物療法」(2007年10月20日 株式会社協和企画発行)第3~4頁
丙第2の2号証:日比紀文ら編集「便秘の薬物療法」(2007年10月20日 株式会社協和企画発行)表紙、第iv~v頁、奥付
丙第3号証:意見書(2024年7月4日 福土審)
(以下、それぞれ「丙1」等という。)
第4 証拠の記載事項
1 甲1の2(特許公報(特許第4332353号))
(1)甲1の2記載事項1
「【0004】 便秘の原因となる薬物としては、ガン疼痛の制御に用いられる麻薬(オピオイド系麻薬、例えばモルヒネ、コデイン等)、抗コリン作用薬(パーキンソン病治療剤、三環系および四環系の抗うつ剤、失禁治療剤等)および制酸剤(アルミニウム製剤等)などを始めとして、骨量増加剤(カルシウム製剤等)、利尿剤、鉄剤、カルシウム拮抗剤、ベンゾジアゼピン系化合物、フェノチアジン系化合物(クロルプロマジンなど)、H2-遮断剤、ピル、トコフェロール類などが知られている。」(第2頁【0004】)
2 甲3、乙4(CTD「アミティーザカプセル24μgに関する資料」(株式会社スキャンポファーマ)の1.4~1.10及び1.12)
(1)甲3記載事項1
「目次
・・・
1.5.3.3 外国における臨床試験
1.5.3.4 国内における臨床試験
・・・
1.5.3.5 臨床データパッケージ」(「1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯」の第1頁第12~23行)
(2)甲3記載事項2
「便秘の鑑別診断
便秘の鑑別診断としては、発症経過から急性、慢性に大別し、さらに原因や病態によって図1.5-1のように種類分けされることが多い。便秘が急性発症し、早急な対応を要する場合もあるが、便秘の多くは慢性に経過することにより、慢性便秘における治療の重要性がより高いことが指摘されている。
[図:0001425663000003.jpg]
」(「1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯」の第2頁第21~25行及び図1.5-1)
(3)甲3記載事項3
「以上より、慢性の機能性便秘症である「慢性特発性便秘症」に対する有効性、安全性が確認されたと判断し、承認申請を行うこととした。但し、効能・効果(案)の標榜に関しては、本邦で未だ「慢性特発性便秘症」の用語が診断名として十分に浸透していないことから、臨床試験で有効性、安全性が検証できていない『器質的疾患による便秘』と『薬剤性及び症候性の便秘』に関しては、【効能・効果】から除外、あるいは<効能・効果に関連する使用上の注意>で注意喚起する方針とした。効能・効果(案)は、「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」を設定した。器質的疾患による便秘については、本薬の作用メカニズムの観点から使用することは安全性上問題であり、【効能・効果】から除外を明記し、さらに臨床試験の除外基準でもあった「腫瘍、ヘルニア等による腸閉塞が確認されている又は疑われる患者」については、本剤投与により腸閉塞を悪化させるおそれがあることから、[禁忌]とした。「薬剤性及び症候性の便秘」については、有効性、安全性に対する懸念はないと考えられるが、臨床試験による検証がなされていないことから、この旨を、<効能・効果に関連する使用上の注意>に記載することとした。」(「1.8 添付文書(案)」の第7頁第1~12行)
(4)甲3記載事項4
「使用上の注意(案)
<効能・効果に関連する使用上の注意>
薬剤性及び症候性の便秘に対する使用経験はなく、有効性及び安全性は確立されていない。
設定根拠
臨床試験による有効性・安全性の検証が行われていないことより、使用すべきでない対象として示した。」(「1.8 添付文書(案)」の第11頁の表)
3 乙2(「日本の薬事行政」(2011年3月 日本製薬工業協会))
(1)乙2記載事項1
「ICHで合意された医薬品承認申請資料のガイドライン(CTD=コモン・テクニカル・ドキュメント)を受けて、新たな承認申請資料の作成要領(2001年6月21日付医薬審発第899号)が示され、2003年7月1日以降申請する新医薬品からCTDによる申請が義務化された。」(第30頁左欄第20~26行)
(2)乙2記載事項2
「1.医療用医薬品添付資料
医薬品の製造販売業者が医薬関係者に医薬品情報を提供・伝達する媒体・手段の中で最も基本的なものが医薬品の添付文書である。この添付文書は薬事法の規定に基づき医薬品の適用を受ける患者の安全を確保し、適正使用を図るために医師、歯科医師及び薬剤師に対して必要な情報を提供する目的で医薬品の製造販売業者が作成することが義務づけられている公的文書である。」(第123頁左欄第15~25行)
(3)乙2記載事項3
「1.3 使用上の注意
「使用上の注意」は、行政通知の記載要領に基づき、当該医薬品企業の自主的あるいは厚生労働省の指導により作成され、医薬品の市販後の使用成績調査や国内外の症例報告、文献報告において得られた情報を収集・評価し、必要に応じ逐次、最新の内容に改訂される。また、再審査や再評価の結果を踏まえ、必要に応じて改訂される。」(第126頁左欄第21~29行)
(4)乙2記載事項4
「2.2 医薬品インタビューフォーム(IF)
IFは添付文書を補完する情報媒体であり、本来は薬剤師が当該医薬品の詳細な情報を製薬企業の医薬情報担当者(MR)(以下、MR)等とのインタビューにより収集する際の質問事項を定めたものであったが、薬剤師及びMR等の業務量を削減するために、質問に対する回答(詳細情報)をあらかじめ印刷し、当該医薬品について説明、討議する資料として医療関係者に提供されるものである。」(第129頁右欄第16~26行)
4 乙5(「審議結果報告書」(平成24年6月6日 医薬食品局審査管理課))
(1)乙5記載事項1
「審査結果
平成24年5月15日
[販売名] アミティーザカプセル24μg
[一般名] ルビプロストン
[申請者名] 株式会社スキャンポファーマ
[申請年月日] 平成22年9月24日
[審査結果]
提出された資料から、本薬の慢性的な便秘症状を有する患者に対する有効性は示され、認められたベネフィットを踏まえると、安全性は許容可能と判断する。
以上、医薬品医療機器総合機構における審査の結果、本品目については、以下の効能・効果及び用法・用量で承認して差し支えないと判断した。
[効能・効果] 慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)
[用法・用量] 通常、成人にはルビプロストンとして1回24μgを1日2回、朝食後及び夕食後に経口投与する。なお、症状により適宜減量する。」(第2頁第1~14行)
5 乙14(川崎医学会誌、第44巻(第2号) 第115~120頁(2018))
(1)乙14記載事項1
「<原著論文> 化学療法施行中のオピオイド使用による便秘に対するルビプロストンの有用性」」(第115頁第1~3行)
(2)乙14記載事項2
「がん性疼痛の85~95%は鎮痛薬を適切に使用することで制御可能とされる。鎮痛薬としては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびオピオイドを使用するのが一般的である。オピオイドは中等度から高度の疼痛の軽減に推奨され3、4)、その適正な使用はがん治療を継続的に行っていくために重要である。オピオイド誘発性の悪心・嘔吐は時間経過とともに軽減しやすいが、便秘は継続することが多くquality of life(QOL)やactivities of daily living(ADL)を低下させる。便秘は予防的・治療的な緩下薬投与にもかかわらず難治性の場合が有り、がん患者にとって不利益となっている。オピオイド誘発性便秘(opioid-induced constipation:OIC)の頻度は60~90%であり、抗がん薬の有害事象としても便秘は生じるため、進行がん患者の化学療法中にオピオイドを使用する際には便秘がより難治となることを経験する。
・・・ルビプロストンは小腸上皮細胞の管腔側に存在する2型クロライドチャネルを活性化してクロライドイオンを小腸内に輸送し腸管内に浸透圧変化を誘導し、水分泌を促進することで軟便化して腸管内の便輸送を促進する薬剤である10、11)。OICに対するルビプロストンの有効性は確立されているが8)、化学療法施行中に特化したその有用性は明らかではない。我々は、化学療法を施行中にオピオイドを使用した患者において、ルビプロストンを評価したので報告する。」(第115頁左欄第6行~第116頁左欄第3~22行)
(3)乙14記載事項3
「8)Camilleri M: Opioid-induced constipation: challenges and therapeutic opportunities. Am J Gastroenterol 106: 835-842,2011
」(第118頁左欄第29~31行)
6 乙15(平成24年6月29日「医薬品製造販売承認書」(承認番号22400AMX00733000 アミティーザカプセル24μg))
(1)乙15記載事項1
「承認番号 22400AMX00733000
医薬品製造販売承認書
氏名又は名称 株式会社スキャンポファーマ
平成22年9月24日付けで申請のあった医薬品の製造販売を薬事法(昭和35年法律第145号)第14条第1項の規定により、申請の通り承認する。
・・・
平成24年6月29日
厚生労働大臣 小宮山 洋子」(第1頁第1~15行)
(2)乙15記載事項2
「別紙
アミティーザカプセル24μg
<株式会社スキャンポファーマ>
承認番号 22400AMX00733000」(第2頁第1~4行)
7 乙16(平成22年9月24日「医薬品製造販売承認申請書」(アミティーザカプセル24μg))
(1)乙16記載事項1
「医薬品製造販売承認申請書
販売名 アミティーザカプセル24μg
・・・
上記により、医薬品の製造販売の承認を申請します。
平成22年9月24日
・・・
氏名 株式会社スキャンポファーマ
・・・」(表紙頁)
(2)乙16記載事項2
「【販売名】 :アミティーザカプセル24μg」(第1頁【販売名】の欄)
(3)乙16記載事項3
「成分 配合目的
000(有効成分)・・・
成分名
ルビプロストン」(第1~2頁「成分及び分量又は本質」の表)
(4)乙16記載事項4
「【効能又は効果】
慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」(医薬品製造販売承認申請書の13頁【効能又は効果】の欄)
8 乙19(「薬事法等制度改正についてのとりまとめ」(平成24年1月24日 厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会))
(1)乙19記載事項1
「はじめに
・・・
○ この「とりまとめ」は、平成23年3月から本検討部会において計10回にわたり議論してきた事項をとりまとめたものである。特に、法律改正を必要とする事項については、関係機関等との調整を速やかに行い、今後、厚生労働省において具体的な法制化の作業を進めて行くことを強く期待する。」(第1頁第22~25行)
(2)乙19記載事項2
「(3)添付文書の位置づけ等の見直し
○ 添付文書は、医薬品を適正に使用するための情報を医療現場に伝達する手段として最も基本的なものであり、・・・
○ 本検討部会においては、添付文書の内容に対する国の責任をより明確にするという観点から、
(1) 添付文書を承認制度の対象とする場合
(2) 企業に添付文書の届出義務を課して国等が監督する場合
について議論された。」(第6頁第17~26行)(当審注:「(1)」、「(2)」は、丸囲いの1、2である。)
(3)乙19記載事項3
「・添付文書の内容のうち特に「使用上の注意」については、承認制度の対象となっている「効能又は効果」や「用法及び用量」と異なり、十分なデータがない場合であっても危険性が否定できないという理由で一定の記載を行う場合があり、より柔軟な性質をもっていることから同じ承認制度の対象とすることは馴染まないのではないか」(第7頁第13~17行)
(4)乙19記載事項4
「・現場の医師は「使用上の注意」以外の使用方法では使用しない等の萎縮が起こるなど、医師の裁量を狭め、患者の医薬品アクセスを狭めるおそれがあるのではないか」(第7頁第21~23行)
9 丙1(意見書(2024年5月13日 中島淳))
(1)丙1記載事項1
「「オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘」はアミティーザの【効能・効果】から除かれる器質性疾患による便秘ではありませんから、アミティーザは、その承認の当時から、その【効能・効果】、すなわち適応症に、オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘を含んでいました。
臨床現場としましても、「薬剤性及び症候性の便秘に対する使用経験はなく、有効性及び安全性は確立されていない」との使用上の注意の記載はあるものの、「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」という適応症である以上、「薬剤性及び症候性の便秘」についても、当然に適応症の範囲内と理解していました。」(第2頁第8~16行)
(2)丙1記載事項2
「添付文書の記載変更に関わらず、アミティーザは、当初から薬剤性便秘を含む慢性便秘症を適応症としていたものであることから、使用上の注意の記載変更、及び臨床試験結果の追記は、その適応症の範囲を変更するものとは考えることはありませんでした。
実際に、承認当初から薬剤性便秘(および症候性便秘)に対して、例えば、消化器の疾患でオピオイドを投与している患者に対して、アミティーザを処方していましたし、他科の患者で薬剤性便秘を解消する処方の相談を求められたときにはアミティーザの処方を勧め、実際に処方されていました。処方の結果得られる効果が、薬剤性便秘以外の慢性便秘症に対して処方した場合と異なるものであったという記憶はありません。
また、アミティーザが承認当初から処方されていた薬物誘発性便秘の中には、がん治療であればオピオイド化合物、精神科であれば抗コリン薬というように、オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘が含まれていたと考えるのが自然です。
以上より、アミティーザは、承認当初から、その記載上の注意に関わらず、オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘に投与できるものと理解されていましたし、実際にこれらに処方されていたものと考えられます。」(第2頁第21行~第3頁第3行)
10 丙3(意見書(2024年7月4日 福土審))
(1)丙3記載事項1
「慢性便秘症は、機能性、症候性、薬剤性及び器質性という分類がなされているところ、米国における添付文書の記載ぶりからも、日本におけるアミティーザの【効能・効果】欄の記載からも、アミティーザの適応症は、器質性の便秘を除く慢性便秘症をカバーする趣旨であることが明らかでした。したがいまして、アミティーザは、(オピオイド化合物または抗コリン作用薬による)薬剤性の便秘も適応症に含む形で承認処分がなされたものと理解しておりました。
また、上記の理解に基づき、臨床の観点でも、実際に(オピオイド化合物または抗コリン作用薬による)薬剤性の便秘に対しても処方していました。
私は、医師として心療内科の患者を多く診察してきたことから、診察対象にはオピオイド化合物よりは抗コリン作用薬による薬剤性便秘の患者が多かったところですが、「薬剤性及び症候性の便秘に対する使用経験はなく、有効性及び安全性は確立されていない」との使用上の注意の記載はあるものの、オピオイド化合物または抗コリン作用薬を服用している患者に対して、アミティーザが処方され、その処方によって便秘が改善する症例を見て来ました。」(第2頁第15~31行)
(2)丙3記載事項2
「なお、アミティーザの承認後、オピオイドを使用中の便秘患者を対象とした海外第III相試験に関する記載が添付文書に追加されるとともに、上記「使用上の注意」は、「症候性の慢性便秘症患者を対象に本剤の有効性及び安全性を評価する臨床試験は実施していない。」と修正されています。
しかし、添付文書の記載変更に関わらず、アミティーザは、当初から薬剤性便秘を含む慢性便秘症を適応症としていたものと理解しておりましたので、使用上の注意の記載変更や臨床試験結果の追記があっても、アミティーザの適応症の範囲が変更されたとは考えておりません。
実際に、上記「使用上の注意」の変更前後で、薬剤性便秘に対するアミティーザの使用方針・投与方針が変化したということはありません。その前後でも一貫して、オピオイド化合物または抗コリン作用薬によると考えられる慢性便秘に対してアミティーザを処方しています。」(第2頁第32行~第3頁第10行)
第5 当審の判断
1 無効理由1について
(1)請求人の主張の具体的内容
ア 無効理由1-1(用途発明の技術的範囲の観点から)
ベバシズマブ知財高裁大合議判決が示した、「その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」との事実が存在するための前提の1つは、「『政令で定める処分』によって禁止が解除された当該行為が『その特許発明の実施』に該当する行為に含まれること」であるところ、「当該行為」が「その特許発明の実施」に該当するためには、当該行為によって製造販売等される製品が本件特許発明の技術的範囲に含まれることが必要である。
ここで、本件特許発明は、「オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘」の処置に用いるという用途発明であって、一般に、用途発明においては、特定された用途に使用する物であることを明記したラベル等を付して譲渡等をする場合に技術的範囲に属するという、いわゆるラベル論が通説である。ラベル論は、特許庁の判定(甲8)や近時の東京地方裁判所の判断でも採用されている。
一方、本件医薬品は、「効能又は効果」を「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」とするものであるが、本件特許発明で特定された用途である薬物誘発性便秘の処置に使用するものであることを明記したラベル等を付して譲渡等されたり、そのような用途を宣伝等しているものではないから、本件特許発明の技術的範囲に属さない。
また、本件医薬品は、臨床試験による有効性・安全性の検証が行われておらず、使用すべきでない対象として、「効能又は効果に関連する注意」に「薬剤性及び症候性の慢性便秘症患者を対象に本剤の有効性及び安全性を評価する臨床試験は実施していない。」と明記して譲渡等されているのだから、その譲渡等を「オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘処置用組成物」の譲渡等ということはできない。
以上のとおり、本件医薬品の製造販売の行為は本件特許発明の実施行為に該当しないから、本件特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められず、本件延長登録は、特許法第125条の2第1項第1号に該当する。
イ 無効理由1-2(技術的範囲に属さないこと)
薬機法では、医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保等のために必要な措置を講ずることにより保健衛生の向上を図るという目的のため、医薬品等の製造販売について厚生労働大臣の承認を要求しているところ、本件医薬品の承認に当たっては、CTD(甲3)の110枚目に記載されたとおり、慢性便秘のうち器質的疾患による便秘と薬剤性及び症候性の便秘に関しては臨床試験で有効性、安全性が検証できていない。そして、CTD(甲3)の114枚目には、本件医薬品を使用すべきでない対象として、<効能・効果に関連する使用上の注意>に「薬剤性及び症候性の便秘に対する使用経験はなく、有効性及び安全性は確立されていない。」と記載されている。
このような本件処分の内容に照らせば、本件医薬品の「効能又は効果」は、形式的には「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」と記載されているとしても、実質としては有効性及び安全性が確立された慢性の機能性便秘症であって、薬剤性便秘(薬物誘発性便秘)は含まないと解すべきである。
したがって、本件医薬品は薬剤性便秘(薬物誘発性便秘)を効能又は効果とする医薬品ではなく、本件医薬品の製造販売行為は薬物誘発性便秘を用途とした用途発明である本件特許発明の実施行為に当たらないから、本件延長登録は、特許法第125条の2第1項第1号に該当する。
(2)当審の判断
ア 本件医薬品の製造販売行為は本件特許発明の実施行為に該当するか
本件特許発明は、上記第2の1の訂正前(特許権設定登録時)の請求項1に記載されたとおりのものであって、「一般式(II)・・・(省略)・・・で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ―ハロゲン-プロスタグランジンE化合物を有効成分として含む」という成分に関する発明特定事項と、「オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘処置用」という用途ないしは効能・効果に関する発明特定事項とにより特定される「組成物」である。
これに対して、本件延長登録において、特許法第67条第4項の政令で定める処分は、上記第2の2(2)のとおりの薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認、すなわち医薬品の製造販売承認であって、本件医薬品の「医薬品製造販売承認書」には、「平成22年9月24日付けで申請のあった医薬品の製造販売を薬事法(昭和35年法律第145号)の第14条第1項の規定により、申請のとおり承認する。」(乙15記載事項1)と記載されている。よって、特許法第67条第4項の政令で定める処分の対象となったものである本件医薬品は、その「医薬品製造販売承認書」が引用する平成22年9月24日付け「医薬品製造販売承認申請書」に記載されたとおりのものであり、有効成分を「ルビプロストン」、効能又は効果を「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」(乙16記載事項3、4)とする医薬品である。
そして、本件医薬品の有効成分である「ルビプロストン」は、「一般式(II)・・・(省略)・・・で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-ハロゲン-プロスタグランジンE化合物」に該当する(この点について、両当事者に争いはない。)から、本件医薬品は、本件特許発明の「一般式(II)・・・(省略)・・・で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-ハロゲン-プロスタグランジンE化合物を有効成分として含む」「組成物」(医薬品が組成物であることは自明である。)という発明特定事項を備えている。
次に、本件医薬品の効能又は効果である「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」と本件特許発明の発明特定事項である「オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘処置用」との関係を検討すると、便秘症は、本件医薬品のCTDにも記載されている(甲3記載事項2)とおり、次のように鑑別される。
[図:0001425663000004.jpg]
上記鑑別によれば、慢性便秘には、機能性便秘、IBS便秘型、症候性便秘、薬剤性便秘及び器質性便秘が含まれるところ、器質性便秘とは器質的疾患(瘢痕性(クローン病)・術後・腫瘍性狭窄など)による便秘のことであるから、本件医薬品の効能又は効果である「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」とは、機能性便秘、IBS便秘型、症候性便秘及び薬剤性便秘のことであると認められる。そして、薬剤性便秘と薬物誘発性便秘は同義であり、便秘を誘発する薬物としてオピオイド化合物や抗コリン作用薬は一般的に知られていたから(甲1の2記載事項1、丙1記載事項2、丙3記載事項1、乙14記載事項2)、本件医薬品は、本件特許発明の発明特定事項である「オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘処置用」を備えているといえる。
このことは、本件医薬品の製造販売承認申請時に提出された資料であるCTD(乙2記載事項1)に「『薬剤性及び症候性の便秘』については、有効性、安全性に対する懸念はないと考えられる」(甲3記載事項3)と記載されていること、「化学療法施行中のオピオイド使用による便秘に対するルビプロストンの有用性」と題する学術論文において、本件医薬品の製造販売承認日(2012年6月29日)よりも前の2011年の論文を引用して「OIC(当審注:オピオイド誘発性便秘)に対するルビプロストンの有効性は確立されている」(乙14記載事項1~3)と記載されていること、臨床現場において、本件医薬品が承認当初から薬剤性便秘も適応症の範囲内であると理解され、実際にオピオイド化合物や抗コリン作用薬による薬剤性便秘症の患者に処方されていたこと(丙1記載事項1及び2、丙3記載事項1及び2)とも矛盾しない。
以上のとおり、本件医薬品は本件特許発明の発明特定事項の全てを兼ね備えているから、本件医薬品の製造販売行為は本件特許発明の実施行為に該当する。
イ 無効理由1-1(用途発明の技術的範囲の観点から)について
請求人は、要するに、本件処分によって禁止が解除された行為(本件医薬品の製造販売等の実施行為)が本件特許発明の実施行為に該当するためには、本件医薬品が本件特許発明の技術的範囲に含まれることが必要であり、本件特許発明は用途発明であるから、その技術的範囲はラベル論により判断すべき旨主張するが、次のとおり、採用することはできない。
ベバシズマブ知財高裁大合議判決(平成25年(行ケ)第10195~8号)は、「医薬品、医薬品の成分を対象とする特許については、薬事法14条1項又は9項に基づく承認を受けることによって禁止が解除される『特許発明の実施』の範囲は上記審査事項のうち『名称』、『副作用やその他の品質』や『有効性及び安全性に関する事項』を除いた事項(成分、分量、用法、用量、効能、効果)によって特定される医薬品の製造販売等の行為であると解するのが相当である。」と判示する。上記アの判断は、これに従い、成分、分量、用法、用量、効能、効果のうち、本件特許発明の発明特定事項に照らして、成分と効能、効果に着目して判断したものである。
これに対して、「ラベル論」は、請求人が提示した特許庁の判定などのとおり、特許権の効力が及ぶ特許発明の技術的範囲を画定するために用いられる手法にすぎず、ベバシズマブ知財高裁大合議判決が判示した上記判断手法とは異なるものであって、政令で定める処分によって禁止が解除された行為が特許発明の実施行為に該当するか否かの判断において採用すべき根拠は見いだせない。
したがって、「ラベル論」は、政令で定める処分によって禁止が解除された行為が、特許発明の実施行為に該当するか否か(特許発明の実施に特許法第67条第4項の政令で定める処分を受けることが必要であったか否か)の判断で採用すべきものとは認められない。
「ラベル論」を採用しない以上、本件医薬品が「効能又は効果に関連する注意」に「薬剤性及び症候性の慢性便秘症患者を対象に本剤の有効性及び安全性を評価する臨床試験は実施していない。」と明記されて譲渡等されていることも、上記アの判断を左右するものではない。
したがって、請求人が主張する無効理由1-1は理由がない。
ウ 無効理由1-2(技術的範囲に属さないこと)について
請求人は、本件処分の内容をCTD(甲3)に基づいて認定するが、誤りである。上記アのとおり、本件処分の内容は、本件医薬品の「医薬品製造販売承認書」で引用された「医薬品製造販売承認申請書」の記載に基づいて認定すべきである。
もっとも、CTD(コモン・テクニカル・ドキュメント)は、医薬品製造販売承認の申請時に提出される書類であるので、念のため、CTD(甲3)のうち、請求人が指摘する箇所について検討すると、請求人が指摘する1箇所め(110枚目、頁番号7)は、添付文書(案)の効能・効果(案)の設定根拠に関する記載部分であり(甲3記載事項3)、2箇所め(114枚目、頁番号11)は、添付文書(案)の使用上の注意(案)に関する部分である(甲3記載事項4)。
医薬品の添付文書は、「薬事法の規定に基づき医薬品の適用を受ける患者の安全を確保し、適正使用を図るために医師、歯科医師及び薬剤師に対して必要な情報を提供する目的で医薬品の製造販売業者が作成することが義務づけられている公的文書」(乙2記載事項2)であり、同文書における「使用上の注意」は、「行政通知の記載要領に基づき、当該医薬品企業の自主的あるいは厚生労働省の指導により作成され、医薬品の市販後の使用成績調査や国内外の症例報告、文献報告において得られた情報を収集・評価し、必要に応じ逐次、最新の内容に改訂される」(乙2記載事項3)ものであるから、処分内容とは別の位置付けがされていることが明らかである。
また、本件処分(平成24年6月29日)の数ヶ月前の厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会による薬事法等の制度改正についての検討で、「添付文書を承認制度の対象とする場合」について議論され、その問題点が挙げられたこと(乙19記載事項2)は、本件処分当時、添付文書の内容が承認制度の対象となっていないことを示す。当該議論における、「添付文書の内容のうち特に『使用上の注意』については、承認制度の対象となっている『効能又は効果』や『用法及び用量』と異なり、・・・より柔軟な性質を持っていることから同じ承認制度の対象とすることは馴染まないのではないか」(乙19記載事項3)との意見からは、「効能又は効果」や「用法及び用量」は承認制度の対象であるが、添付文書の内容は承認制度の対象でないことが検討メンバーが共有する前提であることが見て取れ、「現場の医師は『使用上の注意』以外の使用方法では使用しない等の萎縮が起こるなど、医師の裁量を狭め、患者の医薬品アクセスを狭めるおそれがあるのではないか」(乙19記載事項4)との意見からは、臨床現場では「使用上の注意」に拘束されることなく医師の裁量で使用されていたことが見て取れる。
このとおり、添付文書の記載事項は医薬品の効能・効果等の処分内容を規定するものとはいえないのだから、CTDにおける添付文書の案やその設定根拠に関する記載事項が本件処分の内容を規定するものでないことはいうまでもない。
したがって、請求人が主張する無効理由1-2は理由がない。
(3)小括
以上のとおりであるから、請求人が主張する無効理由1は理由がない。
2 無効理由2について
(1)請求人の主張の具体的内容
本件医薬品については、本件処分時点で、薬剤性及び症候性の便秘に関して臨床試験による有効性及び安全性の検証が行われていない。
したがって、本件医薬品との関係において、本件特許発明の実施をすることができなかった期間は0日であるから、本件延長登録は、特許法第125条の2第1項第3号に該当する。
(2)当審の判断
請求人の主張する無効理由2は、特許発明の実施をすることができなかった期間は臨床試験を実施した期間のみが対象であり、その期間が0日であることを前提とするものである。しかしながら、特許発明の実施をすることができなかった期間は、臨床試験を開始した日又は特許権の設定登録の日のうちいずれか遅い方の日から、承認が申請者に到達した日、すなわち申請者が現実にこれを了知し又は了知し得べき状態におかれた日の前日までの期間(最二小判平成11年10月22日(平成10年(行ヒ)43号、44号))であって、臨床試験の期間のみならず、承認申請の日から承認が申請者に到達した日の前日までの期間も含まれるのだから、請求人の主張は前提において誤っており、請求人の主張によって、本件延長登録が無効理由2に該当するとはいえない。
さらにいえば、薬事法第14条第3項は、「第1項の承認を受けようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、申請書に臨床試験の試験成績に関する資料その他の資料を添付して申請しなければならない。」と定め、医薬品の製造販売承認申請にあたって臨床試験の試験成績に関する資料の提出を求めている。そして、医薬品に関する特許発明について、特許法第67条の3第1項第3号の「特許発明の実施をすることができなかった期間」には、製造販売承認(処分)を受けるのに必要不可欠で、製造販売承認(処分)を受けることに密接に関係した臨床試験を行った期間が含まれると認められる。
本件医薬品については、各種臨床試験が実施され、製造販売承認申請にあたって当該各種臨床試験の試験成績に関する資料が提出された事実が認められる(例えば、甲3記載事項1)。そして、「審議結果報告書」の「審査結果」に「提出された資料から、本薬の慢性的な便秘症状を有する患者に対する有効性は示され、認められたベネフィットを踏まえると、安全性は許容可能と判断する。」(乙5記載事項1)と記載されていることから、慢性的な便秘症状を有する患者に対する有効性を示す臨床試験の試験成績に関する資料を主たる材料として、「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」という効能・効果で製造販売が承認されたと認められる。
このような事情に照らせば、少なくとも、本件医薬品について行われた、慢性的な便秘症状を有する患者に対する有効性を示す臨床試験は、本件処分を受けるのに必要不可欠で、本件処分を受けることに密接に関係した臨床試験であるというべきである。そして、当該臨床試験が行われた期間は、本件特許発明の実施をすることができなかった期間であるといえる。
これに対し、本件医薬品について行われた、慢性的な便秘症状を有する患者に対する有効性を示す臨床試験を行った期間は、本件特許発明の実施をすることができなかった期間には該当しないことを前提に、本件特許発明の実施をすることができなかった期間は0日である旨をいう請求人の主張は採用することができない。
このことは、本件処分時点で、薬剤性及び症候性の便秘に関して臨床試験による有効性及び安全性の検証が行われていないことにより左右されるものではない。
したがって、請求人が主張する無効理由2は理由がない。
第6 むすび
上記第5のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件延長登録を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり、審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-800004