特許異議申立
2024-701043
熱交換器の製造方法
- 審判番号
- 2024-701043
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-146196
- 登録番号
- 7492181
- 請求日
- 2024年10月23日
- 審決日
- 2025年09月09日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ダイキン工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人前田特許事務所
- 【異議申立人】伊藤 裕美
- 審判長/審判官
- 審判長 鈴木 貴雄
- 審判官 大山 健
- 審判官 刈間 宏信
- 分類
- P1651.121-YAA(B21D) / P1651.536-YAA(B21D) / P1651.537-YAA(B21D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第120条の5第4項、特許法第29条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7492181号発明「熱交換器の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7492181号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2、6〕、3、4、5について訂正することを認める。
特許第7492181号の請求項3~5に係る特許を維持する。
特許第7492181号の請求項1~2及び6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許掲載公報の発行までの経緯
特許第7492181号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和5年9月8日(優先権主張 令和4年9月16日(以下、この日付を「本件優先日」という。))の出願であって、令和6年5月21日にその特許権の設定登録がされ、同月29日に特許掲載公報が発行された。
2 特許異議の申立て以降の経緯
本件特許についての特許異議の申立て以降の主な経緯は、次のとおりである。
(1)令和6年10月23日
特許異議申立人 伊藤裕美(以下「申立人」という。)による、本件特許の請求項1~6に係る特許に対する特許異議の申立て
(2)令和7年2月26日付け
取消理由通知書による取消理由(以下「本件取消理由」という。)の通知
(3)令和7年3月19~21日
特許権者 ダイキン工業株式会社(以下「特許権者」という。)と審判官との電話及び電子メールでの応対
(4)令和7年4月16日
特許権者と審判合議体との面接審理
(5)令和7年4月28日
特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
(6)令和7年5月21日付け
手続補正指令書による手続補正指令
(7)令和7年5月28日
特許権者による手続補正書の提出
(以下、当該手続補正書により補正された訂正請求書に係る訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)
(8)令和7年7月16日
申立人による意見書の提出
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正請求の趣旨及び内容について
本件訂正請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める、というものである。
そして、本件訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所を示すために当審で付したものである。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「上記第1部分(71)における上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが0.023μm以下であり、
上記第2部分(72)における上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが0.013μm以下である
請求項2に記載の熱交換器の製造方法。」
と記載されているのを、
「板状のフィン(20)と、円管状の伝熱管(30)とを備えた熱交換器(10)の製造方法であって、
上記フィン(20)に形成された貫通孔(21)に上記伝熱管(30)を挿し通す挿管工程と、
上記伝熱管(30)に上記フィン(20)を固定するために、上記挿管工程において上記フィン(20)に挿し通された上記伝熱管(30)の外径を拡大させる拡管工程とを備え、
上記拡管工程では、上記伝熱管(30)の外径を拡大させるために、超硬合金からなるプラグ本体(62)と、該プラグ本体(62)の表面を覆うダイヤモンド膜(64)とを備えた拡管プラグ(60)が、上記伝熱管(30)に押し込まれ、
上記伝熱管(30)の材質は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であり、
上記伝熱管(30)は、内側面に複数の溝が形成された内面溝付管であり、
上記拡管工程において用いられる上記拡管プラグ(60)は、該拡管プラグ(60)の上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが0.023μm以下であり、
上記拡管工程の実行前における上記伝熱管(30)の内径が、拡管前内径であり、
上記拡管プラグ(60)は、
基端(60b)及び先端(60a)を有すると共に、
上記基端(60b)と上記先端(60a)の中間に位置して外径が最も大きい第1部分(71)と、
上記先端(60a)から上記第1部分(71)にわたる部分であって上記先端(60a)から上記第1部分(71)に向かって外径が次第に拡大する拡径部(76)と、
上記拡径部(76)のうち外径が上記拡管前内径と等しい部分である第2部分(72)とを含み、
上記第2部分(72)における上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが、上記第1部分(71)における上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaよりも小さく、
上記第1部分(71)における上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが0.023μm以下であり、
上記第2部分(72)における上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが0.013μm以下である
熱交換器の製造方法。」
に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「上記拡管工程よりも前に行われる工程であって、上記伝熱管(30)の内面に潤滑油を塗布する塗布工程を備え、
上記塗布工程において一本の上記伝熱管(30)の内側面に塗布される上記潤滑油の量が、上記伝熱管(30)の長さ1mあたり0.5gよりも少ない
請求項1又は2に記載の熱交換器の製造方法。」
と記載されているのを、
「板状のフィン(20)と、円管状の伝熱管(30)とを備えた熱交換器(10)の製造方法であって、
上記フィン(20)に形成された貫通孔(21)に上記伝熱管(30)を挿し通す挿管工程と、
上記伝熱管(30)に上記フィン(20)を固定するために、上記挿管工程において上記フィン(20)に挿し通された上記伝熱管(30)の外径を拡大させる拡管工程とを備え、
上記拡管工程では、上記伝熱管(30)の外径を拡大させるために、超硬合金からなるプラグ本体(62)と、該プラグ本体(62)の表面を覆うダイヤモンド膜(64)とを備えた拡管プラグ(60)が、上記伝熱管(30)に押し込まれ 、
上記伝熱管(30)の材質は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であり、
上記伝熱管(30)は、内側面に複数の溝が形成された内面溝付管であり、
上記拡管工程において用いられる上記拡管プラグ(60)は、該拡管プラグ(60)の上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが0.013μm以下であり、
上記拡管工程よりも前に行われる工程であって、上記伝熱管(30)の内面に潤滑油を塗布する塗布工程を備え、
上記塗布工程において一本の上記伝熱管(30)の内側面に塗布される上記潤滑油の量が、上記伝熱管(30)の長さ1mあたり0.5gよりも少ない
熱交換器の製造方法。」
に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「上記伝熱管(30)の内側面に潤滑油が塗布されていない状態で上記拡管工程を行う
請求項1又は2に記載の熱交換器の製造方法。」
と記載されているのを、
「板状のフィン(20)と、円管状の伝熱管(30)とを備えた熱交換器(10)の製造方法であって、
上記フィン(20)に形成された貫通孔(21)に上記伝熱管(30)を挿し通す挿管工程と、
上記伝熱管(30)に上記フィン(20)を固定するために、上記挿管工程において上記フィン(20)に挿し通された上記伝熱管(30)の外径を拡大させる拡管工程とを備え、
上記拡管工程では、上記伝熱管(30)の外径を拡大させるために、超硬合金からなるプラグ本体(62)と、該プラグ本体(62)の表面を覆うダイヤモンド膜(64)とを備えた拡管プラグ(60)が、上記伝熱管(30)に押し込まれ 、
上記伝熱管(30)の材質は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であり、
上記伝熱管(30)は、内側面に複数の溝が形成された内面溝付管であり、
上記拡管工程において用いられる上記拡管プラグ(60)は、該拡管プラグ(60)の上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが0.013μm以下であり、
上記伝熱管(30)の内側面に潤滑油が塗布されていない状態で上記拡管工程を行う
熱交換器の製造方法。」
に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~6について、請求項2~6がそれぞれ請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、全ての請求項1~6を対象としているので、請求項1~6に係る訂正事項1~6に関して、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。
4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1~2及び6について
ア 訂正の目的について
訂正事項1~2及び6は、本件訂正前の請求項1~2及び6をそれぞれ削除するものであるから、その訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1~2及び6は、請求項1~2及び6をそれぞれ削除するものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内において訂正するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更する訂正でないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5~6項に適合する。
(2)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3が請求項2を引用し、請求項2が請求項1を引用するように記載されていたものを、請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項へ改めて、請求項1及び2の記載を引用しないようにするものであるから、その訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」に該当する。
イ 新規事項の有無について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項1~3に記載されているから、訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項3は、上記アのとおり、請求項1及び2を引用しないように、請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項へ改めて、請求項3を記載するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
(3)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、本件訂正前の請求項4が請求項1又は2を引用するように記載されていたもののうち、請求項1の記載のみを引用するものに対して、請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項へ改めて、請求項1の記載を引用しないようにし、さらに、請求項1の「Raが0.023μm以下」という事項を「Raが0.013μm以下」という事項に限定するものであるから、その訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び同項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
イ 新規事項の有無について
訂正事項4のうち、「Raが0.013μm以下」という数値範囲の記載を除く記載は、本件訂正前の請求項1に記載されている。
また、訂正事項4で限定する「Raが0.013μm以下」という数値範囲が、訂正前の請求項1の「Raが0.023μm以下」という数値範囲に含まれていることは明らかであるし、本件明細書等の【0072】の表1に、「供試体1」の「第1部分(最大径)の表面粗さRa(μm)」及び「第2部分(当たり始め)の表面粗さRa(μm)」について、「0.013μm以下」という数値範囲に含まれる、0.012μm及び0.009μmという数値が記載されている。
そして、数値範囲の上限値(境界値)である「0.013μm」という数値は、訂正前の請求項3に「上記第2部分(72)における上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが0.013μm以下である」と記載されている上に、本件明細書等の【0072】の表1に、「供試体2」の「第2部分(当たり始め)の表面粗さRa(μm)」として、「0.013μm」とすることが開示されている。
当該「供試体2」から、「第1部分(最大径)の表面粗さRa(μm)」及び「第2部分(当たり始め)の表面粗さRa(μm)」を含む拡管プラグ(60)のダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが、当該0.013μm以下の表面粗さであれば、潤滑油の量を削減してもアルミニウムの凝着を抑制できるといえるから、これらを考慮すると、訂正事項4は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項4は、上記アのとおり、請求項1を引用しないように、請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項へ改めて、請求項4を記載し、さらに、訂正前の請求項1のRaに係る数値範囲を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
(4)訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、本件訂正前の請求項5が請求項1又は2を引用するように記載されていたもののうち、請求項1の記載のみを引用するものに対して、請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項へ改めて、請求項1の記載を引用しないようにし、さらに、請求項1の「Raが0.023μm以下」という事項を「Raが0.013μm以下」という事項に限定するものであるから、その訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び同項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
イ 新規事項の有無について
訂正事項5のうち、「Raが0.013μm以下」という数値範囲の記載を除く記載は、本件訂正前の請求項1に記載されており、また、訂正事項5で限定する「Raが0.013μm以下」という数値範囲が、訂正前の請求項1の「Raが0.023μm以下」という数値範囲に含まれていることは明らかである。
そして、数値範囲の上限値である「0.013μm」という数値が、本件明細書等に記載されていることは、上記(3)イのとおりであるから、これらを考慮すると、訂正事項5は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項5は、上記アのとおり、請求項1を引用しないように、請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項へ改めて、請求項5を記載し、さらに、訂正前の請求項1のRaに係る数値範囲を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項5は、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
5 別の訂正単位とする求め
権利者は、訂正後の請求項3~5について、当該請求項の訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とすることを求めている。
6 小括
上記4(1)~(4)のとおり、本件訂正は、訂正の要件をすべて満たすものであるから、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~2、6〕、3、4、5について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認容されたから、本件特許の請求項3~5に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明3」などという。なお、請求項1~2及び6は削除された。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された、以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
板状のフィン(20)と、円管状の伝熱管(30)とを備えた熱交換器(10)の製造方法であって、
上記フィン(20)に形成された貫通孔(21)に上記伝熱管(30)を挿し通す挿管工程と、
上記伝熱管(30)に上記フィン(20)を固定するために、上記挿管工程において上記フィン(20)に挿し通された上記伝熱管(30)の外径を拡大させる拡管工程とを備え、
上記拡管工程では、上記伝熱管(30)の外径を拡大させるために、超硬合金からなるプラグ本体(62)と、該プラグ本体(62)の表面を覆うダイヤモンド膜(64)とを備えた拡管プラグ(60)が、上記伝熱管(30)に押し込まれ 、
上記伝熱管(30)の材質は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であり、
上記伝熱管(30)は、内側面に複数の溝が形成された内面溝付管であり、
上記拡管工程において用いられる上記拡管プラグ(60)は、該拡管プラグ(60)の上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが0.023μm以下であり、
上記拡管工程の実行前における上記伝熱管(30)の内径が、拡管前内径であり、
上記拡管プラグ(60)は、
基端(60b)及び先端(60a)を有すると共に、
上記基端(60b)と上記先端(60a)の中間に位置して外径が最も大きい第1部分(71)と、
上記先端(60a)から上記第1部分(71)にわたる部分であって上記先端(60a)から上記第1部分(71)に向かって外径が次第に拡大する拡径部(76)と、
上記拡径部(76)のうち外径が上記拡管前内径と等しい部分である第2部分(72)とを含み、
上記第2部分(72)における上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが、上記第1部分(71)における上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaよりも小さく、
上記第1部分(71)における上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが0.023μm以下であり、
上記第2部分(72)における上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが0.013μm以下である
熱交換器の製造方法。
【請求項4】
板状のフィン(20)と、円管状の伝熱管(30)とを備えた熱交換器(10)の製造方法であって、
上記フィン(20)に形成された貫通孔(21)に上記伝熱管(30)を挿し通す挿管工程と、
上記伝熱管(30)に上記フィン(20)を固定するために、上記挿管工程において上記フィン(20)に挿し通された上記伝熱管(30)の外径を拡大させる拡管工程とを備え、
上記拡管工程では、上記伝熱管(30)の外径を拡大させるために、超硬合金からなるプラグ本体(62)と、該プラグ本体(62)の表面を覆うダイヤモンド膜(64)とを備えた拡管プラグ(60)が、上記伝熱管(30)に押し込まれ 、
上記伝熱管(30)の材質は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であり、
上記伝熱管(30)は、内側面に複数の溝が形成された内面溝付管であり、
上記拡管工程において用いられる上記拡管プラグ(60)は、該拡管プラグ(60)の上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが0.013μm以下であり、
上記拡管工程よりも前に行われる工程であって、上記伝熱管(30)の内面に潤滑油を塗布する塗布工程を備え、
上記塗布工程において一本の上記伝熱管(30)の内側面に塗布される上記潤滑油の量が、上記伝熱管(30)の長さ1mあたり0.5gよりも少ない
熱交換器の製造方法。
【請求項5】
板状のフィン(20)と、円管状の伝熱管(30)とを備えた熱交換器(10)の製造方法であって、
上記フィン(20)に形成された貫通孔(21)に上記伝熱管(30)を挿し通す挿管工程と、
上記伝熱管(30)に上記フィン(20)を固定するために、上記挿管工程において上記フィン(20)に挿し通された上記伝熱管(30)の外径を拡大させる拡管工程とを備え、
上記拡管工程では、上記伝熱管(30)の外径を拡大させるために、超硬合金からなるプラグ本体(62)と、該プラグ本体(62)の表面を覆うダイヤモンド膜(64)とを備えた拡管プラグ(60)が、上記伝熱管(30)に押し込まれ 、
上記伝熱管(30)の材質は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であり、
上記伝熱管(30)は、内側面に複数の溝が形成された内面溝付管であり、
上記拡管工程において用いられる上記拡管プラグ(60)は、該拡管プラグ(60)の上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが0.013μm以下であり、
上記伝熱管(30)の内側面に潤滑油が塗布されていない状態で上記拡管工程を行う
熱交換器の製造方法。
【請求項6】
(削除)」
第4 本件取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、当審が令和7年2月26日付けで特許権者に通知した本件取消理由の概要は、次のとおりである。
1 請求項1及び6に係る発明の進歩性について
本件訂正前の請求項1及び6に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に係る発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
2 請求項2~6の実施可能要件について
本件訂正前の請求項2~6に係る特許は、明細書の記載が不備のため、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 請求項1~6のサポート要件について
本件訂正前の請求項1~6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第5 当審の判断
1 申立人が提出した証拠
(1)特許異議申立書に添付した証拠
甲第1号証:特開2015-62951号公報
甲第2号証:Changwan Han、ほか3名、「The Role of the Process and Design Variables in Improving the Performance of Heat Exchanger Tube Expansion」Applied Sciences、MDPI、2018年
甲第3号証:韓国登録特許第10-1877556号公報
甲第4号証:平野康之、「ダイヤモンドコーティング工具の開発」、TIRIクロスミーティング2016要旨集、地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター、2016年
甲第5号証:「JIS B 0601:2013 製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語、定義及び表面性状パラメータ」、一般財団法人日本規格協会、2013年
甲第6号証:一般社団法人日本機械学会 機械工学事典の「クーロンの摩擦法則」の項目、[online]、一般社団法人日本機械学会、[令和6年10月9日検索]、インターネット、
<URL:https://www.jsme.or.jp/jsme-medwiki/doku.php?id=16:1003231>
甲第7号証:広辞苑第七版の「ちゅう・かん【中間】」の項目、株式会社岩波書店、2018年1月12日
(2)令和7年7月16日に提出した意見書に添付した証拠
甲第8号証:「審査基準 第IV部 第2章 新規事項を追加する補正」、1~12ページ、特許庁
甲第9号証:「審査基準 第II部 第1章 第2節 委任省令要件」、1~5ページ、特許庁
甲第10号証:「JIS B 0633:2001 製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-表面性状評価の方式及び手順」、一般財団法人日本規格協会、2001年
2 権利者が提出した証拠
乙第1号証:「JIS B 1501:2009 転がり軸受-鋼球」、一般財団法人日本規格協会、2009年
乙第2号証:佐藤鉄工株式会社のウェブサイトの「規格・技術資料(鋼球)」、[online]、佐藤鉄工株式会社、[令和7年4月8日検索]、インターネット、
<URL:https://www.satotekkou.co.jp/steel/steel-jis/>
乙第3号証:大陽鋼球軸受株式会社のウェブサイトの「転がり軸受用鋼球(JIS B 1501)仕様」、[online]、大陽鋼球軸受株式会社、[令和7年4月8日検索]、インターネット、
<URL:https://www.taiyo-koukyu.co.jp/product/item01/>
乙第4号証:株式会社天辻鋼球製作所のカタログ、[online]、株式会社天辻鋼球製作所、[令和7年4月8日検索]、インターネット、
<URL:https://www.sunco.co.jp/maker/import/pdf/amatsuji.pdf>
乙第5号証:特開平2-129509号公報
乙第6号証:特許第6326710号公報
(以下、各証拠を、「甲1」、「乙1」などという。)
3 請求項1及び6に係る特許の進歩性の判断
本件特許の請求項1及び6に係る特許は、本件訂正により削除されたため、進歩性に係る本件取消理由の対象が存在しない。
4 請求項2~6に係る特許の実施可能要件について
(1)本件取消理由における実施可能要件の内容
本件取消理由における実施可能要件の内容は、以下のとおりである。
算術平均粗さRa(以下「Ra」という。)は、JIS B 0601:2013(甲5)において定義され、「4.2.1」欄(甲5の13/30ページ)に、「基準長さにおけるZ(x)の絶対値の平均。」と記載され、また、基準長さについては、「3.1.9」欄(同7/30ページ)に、「輪郭曲線の特性を求めるために用いる輪郭曲線のX軸方向長さ。」と記載されている。
本件訂正前の請求項2の第1部分及び第2部分のRaを求めるためには、基準長さ(すなわち、輪郭曲線のX軸方向長さ)が必要であるが、拡管プラグにおいて、Raを求める部分のX軸方向長さをどのように計測するのか、本件明細書等には明確に記載されていないから、当業者は、本件訂正前の請求項2における第1部分及び第2部分のRaを求めることができない。
同様に、当業者は、本件訂正前の請求項2を引用する本件訂正前の請求項3~6における第1部分及び第2部分のRaを求めることができない。
(2)本件特許の請求項2及び6の実施可能要件の判断
本件特許の請求項2及び6に係る特許は、本件訂正により削除されたため、実施可能要件に係る本件取消理由の対象が存在しない。
(3)本件特許の請求項3~5の実施可能要件の判断
円柱のような回転体の表面粗さについて、円周方向の表面粗さを計ることは、乙5の1ページ右下欄7~11行や、乙6の請求項1に示すように、表面粗さの測定に関する技術分野における技術常識といえ、円周方向の表面粗さを計る際に、X軸方向長さを円周方向にして計測することは明らかである。
本件特許の請求項3~5に係る拡管プラグは、回転体ではないが、本件明細書等の図面から、回転体と同様に、回転対称な形状であることが看取されるから、当業者であれば、拡管プラグのRaを求めるに当たり、回転体と同様に、X軸方向長さを円周方向にして計測すると理解するといえる。
したがって、表面粗さの測定に関する技術分野における技術常識を踏まえた当業者であれば、本件特許の請求項3~5に係る拡管プラグの第1部分及び第2部分のRaを求めることができるから、実施可能要件に係る本件取消理由により、本件特許の請求項3~5に係る特許を取り消すことはできない。
5 請求項1~6のサポート要件について
(1)本件取消理由におけるサポート要件の内容
本件取消理由におけるサポート要件の内容は、以下のとおりである。
ア 本件明細書等を参酌すると、本件特許に係る発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、伝熱管の外形を拡大させる拡管工程のために使用される潤滑油の量を削減すること(【0006】)であると認められ、本件訂正前の請求項1は、拡管プラグにおける全ての部分で、Raが0.023μmで均一であることを含んでいるといえる。
イ 本件明細書の【表1】(【0072】)には、供試体1~4に係る拡管試験が記載されており、伝熱管の内面に潤滑油を塗布するという同じ条件で試験される(【0074】)から、供試体1~4により、直ちに本件課題が解決されているか否かを判別できないが、拡管プラグに対するアルミニウムの凝着がない供試体1~3から見て、拡管推力が287N以下となることで、本件課題を解決できると推認できる。
ウ 供試体2のRaは、訂正前の請求項1のRaよりも小さく、拡管推力は287Nであり、供試体3のRaは、訂正前の請求項1のRaと同じであって、拡管推力は208Nであり、供試体4のRaは、訂正前の請求項1のRaをわずかに上回り、拡管推力は328Nである。
試供体2~4のRa及び拡管推力の大小の差を踏まえると、仮に、試供体4のRaを0.023μmとした場合、その拡管推力は、287Nよりも上回る蓋然性が高いから、訂正前の請求項1に係る発明は、当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
同様に訂正前の請求項1を引用する請求項2~6に係る発明も、当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
(2)本件特許の請求項1~2及び6のサポート要件の判断
本件特許の請求項1~2及び6に係る特許は、本件訂正により削除されたため、サポート要件に係る本件取消理由の対象が存在しない。
(3)本件特許の請求項3のサポート要件の判断
ア 本件明細書等の【表1】(【0072】)には、拡管試験について、伝熱管の内面に0.01gの潤滑油を塗布するという同じ条件で行うこと(【0074】)が記載されているから、この【表1】だけでは、本件課題が解決されているかを判別できないが、「この塗布工程において伝熱管(30)に塗布される潤滑油の量は、・・・従来の製造方法において伝熱管に塗布される潤滑油の量に比べて少ない。具体的に、・・・伝熱管(30)の長さ1mあたり0.5gよりも少ない。・・・この塗布工程では、一本の伝熱管(30)に塗布される潤滑油の量を、伝熱管(30)の長さ1mあたり0.01g以下にまで削減可能である。」(【0089】)という記載を参照すると、伝熱管を製造する際に塗布する潤滑油の量が、伝熱管の長さ1mあたり0.5g(すなわち、従来の製造方法で塗布される潤滑油の量)よりも少ない場合に、本件課題が解決されると解するのが相当である。
また、潤滑油は、伝熱管と拡管プラグの摩擦を低減するために塗布するものであり(【0030】)、摩擦が大きければ、拡管プラグに伝熱管のアルミニウムが凝着することは明らかであるから、【表1】において、アルミニウムの凝着が無い場合に、本件課題が解決されるといえる。
イ 上記アを踏まえて、【表1】の供試体2及び3を参照すると、供試体3は、第1部分のRaが0.023μmであり、アルミニウムの凝着が無いことが記載され、供試体2は、第2部分のRaが0.013μmであり、アルミニウムの凝着が無いことが記載されている。
拡管プラグに対するアルミニウムの凝着が無いことは、拡管プラグの第1部分と第2部分のいずれの部分にも、アルミニウムが凝着していないことを意味するから、供試体2及び3を参照すれば、第1部分のRaを0.023μmとすることで、第1部分にアルミニウムが凝着しないことを理解でき、第2部分のRaを0.013μmとすることで、第2部分にアルミニウムが凝着しないことを理解できる。
そして、供試体2及び3の拡管試験は、0.01gの潤滑油を塗布して行われ、伝熱管の長さは150mmである(【0074】)から、1mあたりの潤滑油は、1000/150×0.01=0.07gとなり、0.5gよりも少ないといえる。
ウ 本件特許の請求項3の拡管プラグの第1部分のRaは0.023μmであり、第2部分のRaが0.013μmであるから、上記ア及びイに説示するとおり、発明の詳細な説明に記載された本件課題を解決するための手段が反映されているといえる。
したがって、サポート要件に係る本件取消理由により、本件特許の請求項3に係る特許を取り消すことはできない。
(4)本件特許の請求項4~5のサポート要件の判断
本件特許の請求項4~5の拡管プラグのRaは、0.013μm以下であるから、拡管プラグにおける全ての部分で、Raが0.013μmで均一であることを含んでいる。
そして、上記(3)イで説示するとおり、本件明細書等の記載に接した当業者は、第1部分のRaが0.023μmの場合に第1部分にアルミニウムが凝着せず、第2部分のRaが0.013μmの場合に第2部分にアルミニウムが凝着しないことを理解するところ、第1部分のRaを0.023μmよりも低い、0.013μmとすれば、当然に、第1部分にアルミニウムが凝着しないといえる。
また、潤滑油については、請求項4には、1mあたり0.5gよりも少ないことが特定され、請求項5には、潤滑油を塗布しないことが特定されているから、当業者であれば、本件特許の請求項4~5に係る構成により、発明の詳細な説明に記載された本件課題を解決するための手段が反映されていると理解する。
したがって、サポート要件に係る本件取消理由により、本件特許の請求項4~5に係る特許を取り消すことはできない。
第6 本件取消理由で採用しなかった特許異議申立理由について
1 本件取消理由で採用しなかった特許異議申立理由の概要
特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載された特許異議申立理由のうち、本件取消理由で採用しなかった理由の概要は、以下のとおりである。
(1)請求項2~5に係る発明の進歩性の理由
本件訂正前の請求項2~5に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2~甲4に示す周知技術から、容易に発明をすることができたものである。(申立書38~42ページ)
(2)請求項1~6の実施可能要件の理由
本件明細書等の【表1】の実験結果を得るための実験条件、例えば、拡管プラグの寸法や構造、潤滑油の種類等の条件が不明なため、本件訂正前の請求項1~6に係る発明を実施するために過度の試行錯誤が必要となる。(申立書43~45ページ)
(3)請求項1~6のサポート要件の理由
ア 本件訂正前の請求項1~6には、Ra以外の条件、例えば、拡管プラグの寸法等の条件が特定されていないから、本件課題を解決できない形態が含まれる蓋然性が高い。(申立書47~48ページ)
イ 本件訂正前の請求項2の「上記基端(60b)と上記先端(60a)の中間に位置して外径が最も大きい第1部分(71)」という記載の「中間」は、「ちょうど真ん中」(甲7)と解されるが、本件明細書等を参照すると、第1部分71は、基端(60b)と先端(60a)の「ちょうど真ん中」には存在しない(やや先端寄りに存在する)から、本件訂正前の請求項2~6の記載と、発明の詳細な説明の記載が整合していない。(申立書48~50ページ)
ウ 本件訂正前の請求項4は、潤滑油の使用量を特定しているが、多種多様な全ての潤滑油について、同じ量を適用できるとは言い切れないから、本件訂正前の請求項4は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求している。(申立書50ページ)
エ 本件訂正前の請求項5は、潤滑油を使用しないことを特定しているが、潤滑油を使用しない実施例は記載されていないから、本件訂正前の請求項5に係る発明の範囲まで、本件明細書等の実施例の結果を拡張ないし一般化できるとはいえない。(申立書50~51ページ)
(4)請求項2~6の明確性の理由
ア 本件訂正前の請求項2は、「面」とはいえない部分のRaを特定しているが、どのようにRaを測定するのか不明であるから、本件訂正前の請求項2~6の範囲の外縁が不明確である。(申立書51~52ページ)
イ 本件訂正前の請求項4は、潤滑油の使用量を特定しているが、潤滑油の具体的な種類が不明であるから、本件訂正前の請求項4の記載は明確でない。(申立書52ページ)
2 本件取消理由で採用しなかった特許異議申立理由の判断
(1)本件発明3~5の進歩性の判断
ア 甲1発明
甲1に記載された事項を本件特許の請求項3~5の記載に合わせて整理すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。(括弧内に、甲1の用語の記載箇所と、甲1の用語に対応する本件発明3~5の用語を付記する。)
「板状のフィン材15(【0027】、フィン(20))と、円管状のヘアピンパイプ17(【0027】、伝熱管(30))とを備えた熱交換器105(【0003】、熱交換器(10))の製造方法であって、
上記フィン材15に形成された貫通孔に上記ヘアピンパイプ17を挿し通す挿管工程(【0027】、挿管工程)と、
上記ヘアピンパイプ17に上記フィン材15を固定するために、上記挿管工程において上記フィン材15に挿し通された上記ヘアピンパイプ17の外径を拡大させる拡管工程(【0028】、拡管工程)とを備え、
上記拡管工程では、上記ヘアピンパイプ17の外径を拡大させるために、超硬合金から一体形成されるヘッド部3(【0018】、プラグ本体(62))と、該ヘッド部3の表面を覆うダイヤモンドライクカーボン被膜5(【0021】、ダイヤモンド膜(64))とを備えた拡管プラグ1が、上記ヘアピンパイプ17に押し込まれ、
上記ヘアピンパイプ17の材質は、アルミニウムまたはアルミニウム合金(【0026】、アルミニウムまたはアルミニウム合金)であり、
上記ヘアピンパイプ17は、内側面に複数のフィン溝14(【0025】、溝)が形成された内面溝付管であり、
上記拡管工程において用いられる上記拡管プラグ1は、該拡管プラグ1の上記ダイヤモンドライクカーボン被膜5の表面の算術平均粗さRaが0.05μm以下(【0031】)であり、
上記拡管工程よりも前に行われる工程であって、上記ヘアピンパイプ17を潤滑油に浸漬する工程(【0038】、塗布工程)を備える
熱交換器の製造方法。」
イ 本件発明3の進歩性の判断
(ア)本件発明3と甲1発明の対比
本件発明3と甲1発明を対比すると、両発明は以下の点で一致及び相違する。
[一致点]
「板状のフィンと、円管状の伝熱管とを備えた熱交換器の製造方法であって、
上記フィンに形成された貫通孔に上記伝熱管を挿し通す挿管工程と、
上記伝熱管に上記フィンを固定するために、上記挿管工程において上記フィンに挿し通された上記伝熱管の外径を拡大させる拡管工程とを備え、
上記拡管工程では、上記伝熱管の外径を拡大させるために、超硬合金からなるプラグ本体と、該プラグ本体の表面を覆う被膜とを備えた拡管プラグが、上記伝熱管に押し込まれ、
上記伝熱管の材質は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であり、
上記伝熱管は、内側面に複数の溝が形成された内面溝付管であり、
上記拡管工程において用いられる上記拡管プラグは、該拡管プラグの上記被膜の表面の算術平均粗さRaが所定値以下である
熱交換器の製造方法。」
[相違点1]
プラグ本体の表面を覆う被膜が、本件発明3では「ダイヤモンド膜」であるのに対して、甲1発明では「ダイヤモンドライクカーボン被膜」である点。
[相違点2]
本件発明3は、「上記拡管工程の実行前における上記伝熱管(30)の内径が、拡管前内径であり、上記拡管プラグ(60)は、基端(60b)及び先端(60a)を有すると共に、上記基端(60b)と上記先端(60a)の中間に位置して外径が最も大きい第1部分(71)と、上記先端(60a)から上記第1部分(71)にわたる部分であって上記先端(60a)から上記第1部分(71)に向かって外径が次第に拡大する拡径部(76)と、上記拡径部(76)のうち外径が上記拡管前内径と等しい部分である第2部分(72)とを含み、上記第2部分(72)における上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが、上記第1部分(71)における上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaよりも小さく、上記第1部分(71)における上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが0.023μm以下であり、上記第2部分(72)における上記ダイヤモンド膜(64)の表面の算術平均粗さRaが0.013μm以下である」のに対して、
甲1発明は、プラグ本体(62)における全ての部分で、算術平均粗さRaが0.05μm以下である点。
(イ)相違点2の判断
a 事案に鑑みて、相違点2について検討すると、本件発明3は、拡管プラグの第2部分のRaが第1部分のRaよりも小さいこと、及び、第1部分のRaが0.023μm以下であり、第2部分のRaが0.013μm以下であることを備えている。
これに対して、伝熱管の拡管工程に用いられる拡管プラグにおいて、第2部分のRaを第1部分のRaよりも小さく構成することや、第1部分のRaを0.023μm以下とし、第2部分のRaを0.013μm以下とするように構成することは、申立人が提出したいずれの証拠にも記載されていない。
したがって、相違点2は、甲1発明及び甲2~甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
b 申立人は、相違点2について、最大静止摩擦力が動摩擦力よりも大きいことが技術常識である(甲6)ところ、拡管プラグの第2部分には大きな最大静止摩擦力が付与され、第1部分には小さな動摩擦力が付与されるから、第2部分のRaを第1部分のRaよりも小さく構成することは容易である旨を主張している。(申立書39~40ページ)
しかし、甲1発明の拡管プラグのRaは、全ての部分が所定値以下となるように構成されているから、仮に、当業者が申立人のいう技術常識を考慮したとしても、甲1発明の全ての部分について、最大静止摩擦力に対応するRaとなるように構成することを想到するにとどまり、第1部分と第2部分でRaが異なるように構成することを想到するとはいえない。
したがって、相違点2に対する申立人の主張は採用できない。
(ウ)本件発明3の進歩性の判断のむすび
以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明及び甲2~甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明4の進歩性の判断
(ア)本件発明4と甲1発明の対比
本件発明4と甲1発明を対比すると、両発明は、相違点1と同様の相違点で相違するほかに、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点3]
被膜の表面の算術平均粗さRaの上限が、本件発明4では「0.013μm」であるのに対して、甲1発明では「0.05μm」である点。
[相違点4]
塗布工程において、本件発明4は、「一本の上記伝熱管(30)の内側面に塗布される上記潤滑油の量が、上記伝熱管(30)の長さ1mあたり0.5gよりも少ない」のに対して、甲1発明は、塗布される潤滑油の量が不明な点。
(イ)相違点4の判断
a 事案に鑑みて、相違点4について検討すると、塗布工程において一本の伝熱管の内側面に塗布される潤滑油の量を、伝熱管の長さ1mあたり0.5gよりも少なくするように構成することについて、申立人が提出したいずれの証拠にも記載されていない。
したがって、相違点4は、甲1発明及び甲2~甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
b 申立人は、相違点4について、甲1発明の解決課題は、拡管時の抵抗を低く抑制することであり、そのために、甲1発明には、ダイヤモンドライクカーボン膜5が形成され、ダイヤモンド膜を形成することで、さらに高潤滑化を図ることができるから、潤滑油の使用量を削減することは容易である旨を主張している。(申立書41~42ページ)
しかし、潤滑油を使用した方が、拡管時の抵抗を低く抑制できることは明らかであるから、当業者が、甲1発明の解決課題を根拠として、潤滑油の量を削減するとはいえない。
したがって、相違点4に対する申立人の主張は採用できない。
(ウ)本件発明4の進歩性の判断のむすび
以上のとおりであるから、相違点1と同様の相違点及び相違点3について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1発明及び甲2~甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明5の進歩性の判断
(ア)本件発明5と甲1発明の対比
本件発明5と甲1発明を対比すると、両発明は、相違点1と同様の相違点及び相違点3と同様の相違点で相違するほかに、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点5]
本件発明5は、「上記伝熱管(30)の内側面に潤滑油が塗布されていない状態で上記拡管工程を行う」のに対して、甲1発明は、「上記拡管工程よりも前に行われる工程であって、上記ヘアピンパイプ17を潤滑油に浸漬する工程」を備える点。
(イ)相違点5の判断
a 事案に鑑みて、相違点5について検討すると、伝熱管の内側面に潤滑油が塗布されていない状態で拡管工程を行うことについて、申立人が提出したいずれの証拠にも記載されていない。
したがって、相違点5は、甲1発明及び甲2~甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
b 申立人は、相違点5について、拡管時の抵抗を低く抑制することを解決課題とする甲1発明において、潤滑油の使用量を削減することが容易であり、潤滑油は伝熱管を流れる冷媒にとって異物であることが技術常識であるから、潤滑油を使用しないように拡管することは容易である旨を主張している。(申立書42ページ)
しかし、潤滑油を使用した方が、拡管時の抵抗を低く抑制できることは明らかであるから、当業者が、甲1発明の解決課題を根拠として、潤滑油を使用しないように構成するとはいえない。また、甲1は、伝熱管の拡管方法に係る文献であって、拡管された伝熱管の使用方法に係る文献ではないから、伝熱管を使用する際に流れる冷媒にとって、潤滑油が異物であるからといって、当業者が甲1発明の伝熱管を拡管する際に、潤滑油を使用しないように試みるとはいえない。
したがって、相違点5に対する申立人の主張は採用できない。
(ウ)本件発明5の進歩性の判断のむすび
以上のとおりであるから、相違点1と同様の相違点及び相違点3と同様の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は、甲1発明及び甲2~甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件特許の請求項3~5の実施可能要件の判断
申立人は、本件明細書等には、拡管プラグの寸法や構造、潤滑油の種類が記載されていない旨を主張している(上記1(2))が、本件課題は、伝熱管の外形を拡大させる拡管工程のために使用される潤滑油の量を削減すること(上記第5の5(1)ア)であり、本件発明3~5は、拡管工程で使用する拡管プラグの表面をダイヤモンド膜で覆い、その表面粗さを所定値以下とすることで、本件課題を解決するものである。
すなわち、本件発明3~5は、拡管プラグの寸法や構造、潤滑油の種類を特定することで、本件課題を解決するものではないから、拡管プラグの寸法や構造、潤滑油の種類は、本件優先日当時の技術常識を越えるものではない。そして、本件優先日当時の技術常識にすぎない、拡管プラグの寸法や構造、潤滑油の種類を適切に選択することが、過度な試行錯誤であると評価することはできない。
したがって、本件特許に係る発明の詳細な説明の記載は、本件発明3~5の属する技術の分野における当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(3)本件特許の請求項3~5のサポート要件の判断
ア 申立人は、本件特許の請求項3~5には、Ra以外の条件、例えば、拡管プラグの寸法等の条件が特定されていない旨を主張している(上記1(3)ア)が、上記(2)で説示するとおり、本件発明3~5における拡管プラグの寸法や構造、潤滑油の種類は、本件優先日当時の技術常識を越えるものではないから、それらの条件が本件特許の請求項3~5で特定されていないとしても、本件発明3~5は、当業者が本件優先日当時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというほかない。
イ 申立人は、本件特許の請求項3(本件訂正前の請求項2)に記載される「中間」が「ちょうど真ん中」という意味であることを前提に、「第1部分」について、本件特許の請求項3の記載と発明の詳細な説明の記載が整合しない旨を主張している(上記1(3)イ)が、「中間」には、「二つの物の間」という意味もあることは自明であって、その意味と解すれば、本件特許の請求項3の記載と発明の詳細な説明の記載は整合する。
ウ 申立人は、本件特許の請求項4~5について、潤滑油が特定されていないことや、実施例が記載されていないことを主張する(上記1(3)ウ~エ)が、本件発明4~5について、当業者が本件特許の優先日当時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることは、本件取消理由のサポート要件の判断で説示するとおり(上記第5の5(4))である。
(4)本件特許の請求項3~5の明確性の判断
申立人は、本件特許の請求項3(本件訂正前の請求項2)において、どのようにRaを測定するのか不明であることや、本件特許の請求項4において、潤滑油が特定されておらず、不明であることを主張している(上記1(4)ア~イ)が、Raの測定は、表面粗さの測定に関する技術分野における技術常識(上記第5の4(3))であるし、潤滑油についても、本件優先日当時の技術常識(上記(2))であるから、当業者の優先日当時の技術常識を基礎として、本件特許の請求項3~5の記載をみれば、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
第7 意見書における申立人の主張について
1 意見書の主張の概要
令和7年7月16日に提出した意見書(以下「意見書」という。)における申立人の主張の概要は、以下のとおりである。
(1)本件訂正における訂正事項4~5の新規事項について
本件訂正における訂正事項4~5により、請求項4~5において、Raを「0.013μm以下」と訂正したが、当該訂正は、本件明細書等に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入する訂正であって、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合しないから、認められるべきではない。(意見書5~8ページ)
(2)本件特許の請求項3の実施可能要件及び委任省令違反について
ア 本件特許の請求項3のプラグ本体の形状は「球体」に限定されていないから、仮に、「球体」の断面の輪郭線に沿ってRaを測定することが乙1~乙4から周知であるとしても、当業者が球体以外のプラグ本体を使用する場合に、本件発明3を過度の試行錯誤を要することなく実施することはできない。
したがって、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。(意見書8~9ページ)
イ 本件特許の請求項3のプラグ本体は、回転することなく、軸方向に摺動するものであるから、摩擦を抑制したいという課題を解決するのであれば、軸方向におけるRaを測定し、評価することが自然である。本件特許の請求項3のプラグ本体のRaを、周方向に沿って測定することは不自然であり、発明の技術上の意義が理解できないから、特許法36条4項1号に規定する委任省令要件に違反する。(意見書9~12ページ)
(3)本件訂正前の請求項4~5のサポート要件について
上記(1)のとおり、訂正事項4~5は認められるべきではないから、本件訂正前の請求項4~5に係る特許は、本件取消理由のとおり、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 意見書の主張の検討
(1)訂正事項4~5の新規事項の主張について
本件訂正における訂正事項4~5が、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合することは、上記第2の4(3)イ及び同(4)イに説示するとおりであるから、申立人の当該主張は採用できない。
(2)請求項3の実施可能要件及び委任省令違反の主張について
ア 申立人は、乙1~乙4から周知技術を認定することを前提に、請求項3の実施可能要件を主張している(上記1(2)ア)が、当審は、本件特許の請求項3の実施可能要件について、乙5~乙6を根拠として判断している(上記第5の4(3))から、申立人の当該主張は採用できない。
イ 申立人は、プラグ本体が軸方向に摺動するから、軸方向におけるRaを測定することが自然であると主張している(上記1(2)イ)が、プラグ本体の軸方向におけるRaを測定することが自然であるとする事実を認めるに足る証拠がないから、申立人の主張は採用できない。
また仮に、軸方向のRaの方が自然であるとしても、軸方向のRaの値と周方向のRaの値が異なることを申立人は説明していないから、やはり、申立人の主張は採用できない。
(3)本件訂正前の請求項4~5のサポート要件の主張について
申立人は、訂正事項4~5が認められないことを前提に、本件訂正前の請求項4~5のサポート要件を主張している(上記1(3))が、訂正事項4~5を含む本件訂正は認められるから、申立人の当該主張は採用できない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、本件取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由並びに意見書の主張によっては、本件特許の請求項3~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項3~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許の請求項1~2及び6は、上記第2及び第3のとおり、本件訂正により削除された。これにより、申立人による請求項1~2及び6に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-701043