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特許異議申立

2024-700785

鍵盤装置および荷重の付与方法

審判番号
2024-700785
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-179836
登録番号
7436344
請求日
2024年08月20日
審決日
2024年10月22日
公報発行日
2024年11月29日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】ローランド株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人真明センチュリー
  • 【異議申立人】石井 ゆかり
審判長/審判官
  • 審判長 高橋 宣博
  • 審判官 樫本 剛
  • 審判官 圓道 浩史
分類
P1652.113-Y (G10B) / P1652.121-Y (G10B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
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事件の表示

特許第7436344号発明「鍵盤装置および荷重の付与方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7436344号の請求項1~3、6、8、11、14に係る特許を維持する。

理由

理 由 1 手続の経緯 特許第7436344号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、令和2年10月27日に出願され、令和6年2月13日にその特許権の設定登録がされ、同年2月21日に特許掲載公報が発行された。 その後、本件特許の請求項1~3、6、8、11、14に係る特許について、令和6年8月20日に特許異議申立人石井ゆかりにより特許異議の申立てがされた。 2 本件発明 本件特許の請求項1~3、6、8、11、14に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明3」、「本件発明6」、「本件発明8」、「本件発明11」、「本件発明14」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3、6、8、11、14に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1~3、6、8、11、14の記載は次のとおりである。 〔本件発明1〕【請求項1】 一端側に質量体を有し、鍵の押鍵時に他端側が押し込まれることで第1方向に回転するハンマーと、 前記第1方向に向けた第1荷重と、前記第1方向とは反対の第2方向に向けた第2荷重と、の少なくとも一方を前記ハンマーに付与する荷重付与部材と、を備え、 前記第1荷重は、前記鍵の押鍵の終端位置に近づくにつれて徐々に増加する荷重であり、 前記第2荷重は、前記終端位置に近づくにつれて徐々に減少する荷重であることを特徴とする鍵盤装置。 〔本件発明2〕【請求項2】 押鍵時に前記鍵または前記ハンマーによって押し込まれるスイッチを備え、 前記鍵または前記ハンマーによって前記スイッチが押し込まれている間は、前記第1荷重または前記第2荷重が前記ハンマーに付与されることを特徴とする請求項1記載の鍵盤装置。 〔本件発明3〕【請求項3】 前記鍵または前記ハンマーによって前記スイッチが押し込まれている間は、前記第1荷重が前記ハンマーに付与されることを特徴とする請求項2記載の鍵盤装置。 〔本件発明6〕【請求項6】 前記鍵が押鍵される前の初期位置において前記第2荷重が前記ハンマーに付与されることを特徴とする請求項1又は2に記載の鍵盤装置。 〔本件発明8〕【請求項8】 前記初期位置から前記終端位置にかけて前記第2荷重が前記ハンマーに付与されることを特徴とする請求項6記載の鍵盤装置。 〔本件発明11〕【請求項11】 前記ハンマーの回転軸から前記ハンマーの一端までの寸法が、前記ハンマーの回転軸から前記ハンマーの他端までの寸法よりも長く形成され、 前記ハンマーの他端に前記第1荷重または前記第2荷重が付与されることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の鍵盤装置。 〔本件発明14〕【請求項14】 一端側に質量体を有し、鍵の押鍵時に他端側が押し込まれることで第1方向に回転するハンマーと、前記第1方向に向けた第1荷重と、前記第1方向とは反対の第2方向に向けた第2荷重と、の少なくとも一方を前記ハンマーに付与する荷重付与部材と、を備える鍵盤装置における荷重の付与方法であって、 前記第1荷重は、前記鍵の押鍵の終端位置に近づくにつれて徐々に増加する荷重であり、 前記第2荷重は、前記終端位置に近づくにつれて徐々に減少する荷重であることを特徴とする荷重の付与方法。 3 特許異議申立理由 特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。 (理由1:新規性(引用発明1-1)) 本件発明1、2、11、14は、甲第1号証に記載された発明(引用発明1-1)であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、当該請求項1、2、11、14に係る特許は、同条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (理由2:進歩性(引用発明1-1)) 本件発明1、2、11、14は、甲第1号証に記載された発明(引用発明1-1)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該請求項1、2、11、14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (理由3:新規性(引用発明1-2)) 本件発明1、2、6、8、14は、甲第1号証に記載された発明(引用発明1-2)であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、当該請求項1、2、6、8、14に係る特許は、同条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (理由4:進歩性(引用発明1-2)) 本件発明1、2、6、8、14は、甲第1号証に記載された発明(引用発明1-2)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該請求項1、2、6、8、14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (理由5:新規性(引用発明2)) 本件発明1~3、14は、甲第2号証に記載された発明(引用発明2)であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、当該請求項1~3、14に係る特許は、同条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (理由6:進歩性(引用発明2)) 本件発明1~3、14は、甲第2号証に記載された発明(引用発明2)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該請求項1~3、14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 甲第1号証:特開2002-23758号公報 甲第2号証:特開平11-316588号公報 4 甲号証について (1)甲第1号証について ア 記載事項 甲第1号証には次の記載がある。なお、以降の下線は当審において付されたものである。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、電子ピアノ等の電子楽器の鍵盤装置に関する。 【0002】 【従来の技術】アコースティックピアノでは、鍵を押し下げていくと鍵ストロークの終端近くで脱進メカニズムにより押圧力が急激な変化を示す。すなわち、図11に示すように鍵の押圧曲線においては、鍵を押し始めてしばらくは平坦な押圧力であるが、その後押圧力の山と谷(押圧力が急上昇したあと急減少)を経由して、最後に再び急上昇するという特性を示す。これに対し、従来の電子楽器の鍵盤装置では、押圧力の急激な山と谷がないので、アコースティックピアノの鍵ストローク終端近くで得られる抜けるような感触を得ることができない。」 「【0007】そこで、本発明は、複雑な機構を使わずにアコースティックピアノに近い鍵タッチを実現するとともに、抜けるようなタッチ感と発生音のタイミングのずれを生じない電子楽器用鍵盤装置を提供することを目的とする。」 「【0015】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を実施例により説明する。図1は、第1の実施例の電子ピアノ用鍵盤装置の構成を示す断面図である。これは鍵盤シャーシに多数個並べられた鍵のうちの1つについての断面を示している。鍵盤シャーシ12は、鍵11の下部に位置して延びるベース12eの一端に立ち上がり部12cを備え、立ち上がり部12cの上端にベース12eと平行に延びる短い張り出し部12dが形成されている。張り出し部12dの先端に鍵11の一端が軸12fで回動可能に支持される。鍵盤シャーシ12のベース12eには、その立ち上がり部12cと反対側の端から当該ベース12eの長さの略1/3程度の位置に支持部12aが立ち上がっており、この支持部12aの上端を回動支点として金属製のハンマー13が支持されている。 【0016】ハンマー13は、回動支点である支持部12aの上端にかぶさる支持受け部13bから立ち上がり部12c側へ延びる第1アーム13cとこれと反対方向へ延びる第2アーム13dを有している。第1アーム13cは第2アーム13dのほぼ2倍の長さとなっており、自然状態で第1アーム13cの先端がベース12e上に着座し、第2アーム13dの先端は持ち上がっている。鍵11の自由端近くの下面には突起部11aが形成されており、この突起部11aがハンマー13の第2アーム13dの先端に当接して、自然状態では鍵11がベース12eと略平行となっている。以下、鍵11のこの状態を必要に応じて基準位置と呼ぶ。 【0017】鍵11の中間部から先端側を押し下げることにより、鍵11は張り出し部12dの先端の軸12fを中心として回動する。これにより、ハンマー13は第2アーム13dが押し下げられ、第1アーム13cが持ち上がる。第1アーム13cが第2アーム13dより長くて重いので、ハンマー13は押鍵に際してその反力を押圧力として与え、離鍵時には復帰力を鍵11に与える。第1アーム13cの支持受け部13bとの接続部における上面は、支持部12a上端の回動支点より若干下方に位置して段差部を形成し、この段差部と鍵11の張り出し部12d近傍との間に板ばね14が設けられて、鍵11が基準位置にある自然状態を保持するようになっている。 【0018】鍵盤シャーシ12のベース12eには、さらに、支持部12aよりハンマー13の第2アーム13d側に斜面状に形成されたスイッチ取付部12bが設けられている。スイッチ取付部12bには、ハンマー13の第2アーム13dに対向して、静電容量型のスイッチ15が取り付けられている。第2アーム13dの下面には、ハンマー13が回動したときスイッチ15の後述する突起部25に当接可能の押下部13aが形成されている。 【0019】鍵11が押し下げられると、これに連動してハンマー13が支持部12aの上端を回動支点として回動し、ハンマー13の押下部13aが突起部25を押してゆきスイッチ15を作動させると、発音が開始される。そして第1アーム13cの先端が張り出し部12dに当接した点が鍵11のストローク限となる(図2参照)。なお、ハンマー13が自然状態ならびに回動時に第1アーム13cの先端がそれぞれ当接するベース12eおよび張り出し部12dには、その当接する部位にフェルト材の衝撃吸収体27a、27bが設けられている。ここで、スイッチ15に当接可能の押下部13aを有するハンマー13と、鍵11の自由端近くの下面に形成されていてハンマー13の先端に当接している突起部11aとが、押圧手段を構成している。 【0020】次に、スイッチ15の構造について図3、図4、図5により説明する。図4の(a)は自由状態、(b)はハンマー13で押圧されて弾性被覆体21が変形した状態を示す。特に図3に示すように、絶縁基体のプリント基板16の上面に半円形状の二つの固定電極17、18が互いに向かい合わせに形成されている。これら一対の固定電極17、18の上面にはポリエステルフィルムの誘電体19が被着されている。誘電体19上に固定電極17、18をカバーしてコニックリング(円錐形のつる巻ばね)20が載置され、このコニックリング20が弾性被覆体21によって被覆されている。 【0021】弾性被覆体21は、平板部22から膨出して大略コニックリング20にそった釣鐘形状をなすカップ部23を有し、頂上部分には上面が平らな突起部25を有している。カップ部23の内側の上面には小形の突部24が形成されており、コニックリング20の上端が突部24に嵌まって安定するようになっている。特に図5に示すように、平板部22のプリント基板16に接する面には空気流通部30が4方向に設けられている。」 「【0026】スイッチ15を押すと弾性被覆体21の弾性抵抗を受け、そのストロークが増すにつれて反力、すなわち荷重が大きくなる。しかしながら、押圧力が所定の値を越すと弾性被覆体21は図4の(b)に示すように急激な変形を生じて、このとき弾性抵抗を減少させる。すなわち、図6の荷重とストロークとの関係に示すように、スイッチ15を押していくと、ストロークが進むにしたがって荷重が上昇し、荷重がピークに到達した後に低減して、さらに押していくと底突きして再度荷重が上昇するような特性になる。」 「【0028】次に、鍵11を基準位置から押し下げていったときの押圧曲線を図7に示す。押鍵開始後、ハンマー13の押下部13aがスイッチ15の頂面、すなわち弾性被覆体21の突起部25に当たるまでのM~N間は、押圧力は一定である。この後、押下部13aがスイッチ15を押し下げると弾性被覆体21の弾性抵抗を受けて鍵の押圧力は急上昇する。そして、押圧力が所定値を越えると、弾性被覆体21の急変形によって押圧力が減少し、これによってアコースティックピアノに類似した押圧力上昇後の抜けるような鍵タッチを指先に感じることができる。さらに鍵11を押し下げていくと、ハンマー13の第1アーム13cの先端が衝撃吸収体27bに当接して底突し、再び押圧力が上昇する。このピーク荷重直後の押圧力が急減する時点(図7のS)で、スイッチ15はその可変電極であるコニックリング20の固定電極17、18との対向面積(誘電体との接触面積)が急増して静電容量が所定値を越えてオンするから、同時に発音が行なわれる。」 「【図1】 [図:0001416532000001.jpg] 」 「【図2】 [図:0001416532000002.jpg] 」 「【図6】 [図:0001416532000003.jpg] 」 「【図7】 [図:0001416532000004.jpg] 」 イ 甲1発明 上記アから、甲第1号証には次の2つの発明(以下、上記引用発明1-1、引用発明1-2にそれぞれ対応するものとして「甲1-1発明」、「甲1-2発明」という。)が記載されている。なお、各構成の末尾括弧内に、対応する記載箇所を付した。 〔甲1-1発明〕 電子ピアノ用鍵盤装置であって、(【0001】、【0015】) 従来の電子楽器の鍵盤装置では、押圧力の急激な山と谷がないので、アコースティックピアノの鍵ストローク終端近くで得られる抜けるような感触を得ることができず、そこで、複雑な機構を使わずにアコースティックピアノに近い鍵タッチを実現する電子楽器用鍵盤装置を提供することを目的とするものであり、(【0002】、【0007】) 鍵盤シャーシ12は、鍵11の下部に位置して延びるベース12eの一端に立ち上がり部12cを備え、立ち上がり部12cの上端にベース12eと平行に延びる短い張り出し部12dが形成されており、張り出し部12dの先端に鍵11の一端が軸12fで回動可能に支持されるものであり、鍵盤シャーシ12のベース12eには、その立ち上がり部12cと反対側の端から当該ベース12eの長さの略1/3程度の位置に支持部12aが立ち上がっており、この支持部12aの上端を回動支点として金属製のハンマー13が支持されており、(【0015】) ハンマー13は、回動支点である支持部12aの上端にかぶさる支持受け部13bから立ち上がり部12c側へ延びる第1アーム13cとこれと反対方向へ延びる第2アーム13dを有しており、第1アーム13cは第2アーム13dのほぼ2倍の長さとなっており、自然状態(鍵11がベース12eと略平行となっている状態)で第1アーム13cの先端がベース12e上に着座し、第2アーム13dの先端は持ち上がっており、(【0016】) 鍵11の中間部から先端側を押し下げることにより、鍵11は張り出し部12dの先端の軸12fを中心として回動し、これにより、ハンマー13は第2アーム13dが押し下げられ、第1アーム13cが持ち上がり、第1アーム13cが第2アーム13dより長くて重いので、ハンマー13は押鍵に際してその反力を押圧力として与え、離鍵時には復帰力を鍵11に与えるものであり、(【0017】) 鍵盤シャーシ12のベース12eには、さらに、支持部12aよりハンマー13の第2アーム13d側に斜面状に形成されたスイッチ取付部12bが設けられており、スイッチ取付部12bには、ハンマー13の第2アーム13dに対向して、静電容量型のスイッチ15が取り付けられており、(【0018】) スイッチ15は、絶縁基体のプリント基板16の上面に半円形状の二つの固定電極17、18が互いに向かい合わせに形成され、これら一対の固定電極17、18の上面にはポリエステルフィルムの誘電体19が被着され、誘電体19上に固定電極17、18をカバーしてコニックリング(円錐形のつる巻ばね)20が載置され、このコニックリング20が弾性被覆体21によって被覆されている構造を有し、(【0020】) 弾性被覆体21は、平板部22から膨出して大略コニックリング20にそった釣鐘形状をなすカップ部23を有し、頂上部分には上面が平らな突起部25を有しており、(【0021】) 鍵11が押し下げられると、これに連動してハンマー13が支持部12aの上端を回動支点として回動し、ハンマー13の押下部13aが突起部25を押してゆきスイッチ15を作動させるものであり、(【0019】) スイッチ15を押すと弾性被覆体21の弾性抵抗を受け、そのストロークが増すにつれて反力、すなわち荷重が大きくなり、押圧力が所定の値を越すと弾性被覆体21は急激な変形を生じて、このとき弾性抵抗を減少させるものであり、(【0026】) 押下部13aがスイッチ15を押し下げると弾性被覆体21の弾性抵抗を受けて鍵の押圧力は急上昇し、そして、押圧力が所定値を越えると、弾性被覆体21の急変形によって押圧力が減少し、これによってアコースティックピアノに類似した押圧力上昇後の抜けるような鍵タッチを指先に感じることができる(【0028】) 電子ピアノ用鍵盤装置。 〔甲1-2発明〕 甲1-1発明の電子ピアノ用鍵盤装置において、 第1アーム13cの支持受け部13bとの接続部における上面は、支持部12a上端の回動支点より若干下方に位置して段差部を形成し、この段差部と鍵11の張り出し部12d近傍との間に板ばね14が設けられて、鍵11が基準位置にある自然状態を保持するようになっている(【0017】) 電子ピアノ用鍵盤装置。 (2)甲第2号証について ア 記載事項 甲第2号証には次の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、電子ピアノなどの鍵盤楽器における鍵盤装置に関する。 【0002】 【従来の技術】電子ピアノなどの鍵盤楽器では、アコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得るために、鍵の下方に所定の重量を有するハンマーアームを上下方向に回動可能に設け、鍵の押鍵操作に伴ってハンマーアームがそれ自身の重量に抗して回動することにより、鍵に所定のアクション荷重を付与するようにしたものがある。このような鍵盤楽器では、鍵を回動可能に支持する鍵盤シャーシにハンマーアームをただ単に回動可能に取り付けた場合、鍵に所定のアクション荷重を付与することはできるが、アコースティックピアノで得られる抜ける感じの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得ることができない。そこで、従来では、このような鍵タッチ感が得られるように、クリック感付与手段を備えた鍵盤装置が開発されている。 【0003】図16はその一例を示した図である。この鍵盤装置は、楽器ケース内に組み込まれる鍵盤シャーシ1を備えている。この鍵盤シャーシ1は、前端部(同図では左端部)1aが凹部状に折り曲げられた上、その前端上部が更にL字状に折り曲げられ、かつ後端部(同図では右端部)1bがコ字状に折り曲げられ、前端部1aの凹部状の部分の底部と後端部1bのコ字状の部分の底部とがほぼ同じ高さに形成されている。この鍵盤シャーシ1上には、合成樹脂製の複数の鍵(白鍵と黒鍵、ただしここでは黒鍵について説明する。)2が並列に配置されている。この場合、各鍵2は、その後端部(同図では右端部)の下部が鍵盤シャーシ1の後端部1b上に設けられた鍵支持部3の軸4に回動自在に取り付けられ、この軸4を中心に上下方向に回動するように構成されている。 【0004】また、鍵2の中間部に対応する鍵盤シャーシ1上には、ハンマーアーム5を上下方向に回動自在に支持するハンマー支持軸6が設けられている。ハンマーアーム5は、上端部5a、中間部5b、および下端部5cからなり、中間部5bがハンマー支持軸6に回動自在に支持され、下端部5cが鍵盤シャーシ1の開口部1cを通して鍵盤シャーシ1の後端部1b内に配置され、この下端部5cに錘7が設けられ、この錘7の重量によって図16において時計方向に付勢され、これにより上端部5aが鍵2の下面に当接し、鍵2を上方に付勢している。また、このハンマーアーム5は、図16に示すように、通常は錘7の重量によって下方に付勢され、下端部5cの後端に設けられた突起部5dの下面が鍵盤シャーシ1の後端部1bの底部上に設けられたフェルトなどの下限ストッパ8に当接し、これにより所定の下限位置に位置規制されており、また錘7の重量に抗して鍵2が押鍵された際には、ハンマーアーム5の下端部5cの突起部5dの上面が鍵盤シャーシ1の後端部1bの上部内面に設けられたフェルトなどの上限ストッパ9に当接し、これにより所定の上限位置に位置規制されている。 【0005】このハンマーアーム5の下端部5cの後方(同図では右方)における鍵盤シャーシ1の後端部1bの底部上には、鍵2にアコースティックピアノで得られる抜ける感じの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を付与するクリック感付与部材10が設けられている。このクリック感付与部材10は、図16および図17に示すように、鍵盤シャーシ1の後端部1bの底部上に固定された合成樹脂製のローラ支持体11を備えている。このローラ支持体11は、各鍵2に対応する個所に板ばね部11aがほぼL字形状に形成されて上方に延び、この板ばね部11aの上端部にローラ12が回転自在に取り付けられる取付枠11bが形成された構造になっている。このクリック感付与部材10は、押鍵時にハンマーアーム5の下端部5cに設けられた突起部5dの先端がローラ12に当接した後、ローラ支持体11の板ばね部11aのばね力に抗してローラ12を乗り越えたときに、鍵2に抜ける感じの鍵タッチ感を付与する。」 「【0013】 【発明の実施の形態】[第1実施形態]以下、図1~図3を参照して、この発明の鍵盤装置の第1実施形態について説明する。なお、図16および図17に示された従来例と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。この鍵盤装置は、図1に示すように、鍵2のスイッチ押圧部16によって押圧されるゴムスイッチ20が従来例と異なり、かつハンマーアーム5の後方(同図では右方)における鍵盤シャーシ1の後端部1b内に支持体21が設けられ、この支持体21に板ばね22および発音制御スイッチ23が取り付けられた構成になっており、これら以外は従来例と同じ構成になっている。ゴムスイッチ20は、回路基板17に設けられた膨出ゴム20aと、この膨出ゴム20a内における回路基板17の上面に設けられた1つの固定接点20bと、膨出ゴム20aの内面に設けられて固定接点20bに接離可能に接触する可動接点20cとからなり、膨出ゴム20aが鍵2のスイッチ押圧部16によって押圧されると、膨出ゴム20aが弾性変形して可動接点20cが固定接点20bに接触してオンし、またスイッチ押圧部16が膨出ゴム20aから離れると、膨出ゴム20aが元の状態に復帰し、可動接点20cが固定接点20bから離間してオフになるように構成されている。 【0014】支持体21は、図1に示すように、鍵盤シャーシ1の後端部1b内の上部内面にビス21cによって取り付けられた取付部21aと、この取付部21a上に立設された支持部21bとからなり、これらが合成樹脂により一体に形成され、ハンマーアーム5と対向する支持部21bの対向面に基板24がビス24aによって取り付けられた構成になっている。板ばね22は、図1および図2に示すように、ほぼL字状に形成され、ハンマーアーム5の下端部5cの突起部5dに対向した状態で、板ばね22の下部先端が支持体21の支持部21bの下部に一体に形成され、上端部に突起部22aが設けられ、この突起部22aにハンマーアーム5の突起部5dに設けられた当接部25が当接して乗り越えるときに、後方向(図2では右方向)に撓み変形するように構成されている。」 「【0016】このような鍵盤装置では、従来例と同様、鍵2が押鍵されて軸4を中心に下方に回動し、ハンマーアーム5がハンマー支持軸6を中心に図1において反時計方向に回動すると、ハンマーアーム5の錘7の重量が鍵2に作用するため、図3に示すように、鍵荷重が急激に重くなり、A点に到達するとハンマーアーム5の回動速度がほぼ一定となるため、鍵荷重もほぼ一定となる。この状態で、鍵2が回動してB点に到達すると、鍵2のスイッチ押圧部16がゴムスイッチ20を押圧するので、鍵荷重が更に重くなる。このときには、ゴムスイッチ20の膨出ゴム20aが弾性変形して可動接点20cが固定接点20bに接触し、ゴムスイッチ20がオンになる。この後、鍵2が更に回動してC点に到達すると、ハンマーアーム5の突起部5dの当接部25が板ばね22の突起部22aに下方から当接して板ばね22を撓み変形させるので、鍵荷重が急に重くなり、D点に到達するとハンマーアーム5の当接部25が板ばね22の突起部22aを乗り越えるので、図3のD点からE点に示すように、鍵荷重は急激に軽くなる。これにより、鍵2に抜ける感じのクリック感が与えられる。」 「【0020】[第2実施形態]次に、図5~図9を参照して、この発明の鍵盤装置の第2実施形態について説明する。この場合には、図1~図3に示された第1実施形態と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。この鍵盤装置は、図5に示すように、ハンマーアーム5の後方(同図では右方)における鍵盤シャーシ1の後端部1b内に設けられた支持体21に、板ばね22および発音制御スイッチ23以外に、電磁石30を取り付けた構成になっており、これら以外は第1実施形態と同じ構成になっている。この場合、板ばね22は、図7に示すように、金属板からなり、ほぼL字状に形成され、ハンマーアーム5の突起部5dに対向した状態で、板ばね22の下部先端が支持体21の支持部21bの下部に取り付けられ、その上端部の突起部22aにハンマーアーム5の当接部25が当接して乗り越えるときに、後方向(図7では右方向)に撓み変形するように構成されている。」 「【0028】[第3実施形態]次に、図11~図14を参照して、この発明の鍵盤装置の第3実施形態について説明する。この場合には、図16および図17に示された従来例と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。この鍵盤装置は、図11および図12に示すように、クリック感付与部材40が従来例と異なり、これ以外は従来例と同じ構成になっている。すなわち、このクリック感付与部材40は、鍵2の前部側に設けられた弾性片41と、この弾性片41の下側に対応する箇所の鍵盤シャーシ1に設けられた固定片42とを備えている。弾性片41は、鍵2の前部側に形成されたリブ2aに装着されて垂下され、その下端部に突起部43が設けられ、この状態で鍵2の前後方向、つまりほぼ水平方向に弾性変形するように構成されている。固定片42は、鍵盤シャーシ1上にビス44により固定され、その上端部に半円弧状に湾曲した当接部45が形成され、この当接部45の円弧面に弾性片41の突起部43が上下方向から当接して乗り越えるように構成されている。 【0029】この場合、弾性片41の突起部43は、鍵2の前側に向けて突出したほぼ三角形状に形成され、その下面側が第1傾斜面43aに形成され、上面側が第2傾斜面43bに形成されている。すなわち、第1傾斜面43aは、図13(a)に示すように、押鍵時に鍵2が下方に回動して突起部43が上方から当接部45の円弧面に当接し、このときに生じる反力f0の垂直方向の分力f1が水平方向の分力f2よりも大きくなる傾斜角度で形成されている。第2傾斜面43bは、図13(b)に示すように、離鍵時に鍵2が上方に回動して突起部43が下方から当接部45の円弧面に当接し、このときに生じる反力f’0の垂直方向の分力f’1が水平方向の分力f’2よりも小さくなる傾斜角度で形成されている。 【0030】このような鍵盤装置では、ハンマーアーム5の錘7の重量に抗して鍵2が押鍵されると、鍵2がその後端部の軸4を中心に下方に回動するとともに、ハンマーアーム5がその中間部5bのハンマー支持軸6を中心に図11において反時計方向に回動する。このときには、鍵荷重が急激に重くなり、図14に示すA点に到達するとハンマーアーム5の回動速度がほぼ一定となり、鍵荷重もほぼ一定となる。そして、図14に示すB点に到達すると、鍵2のスイッチ押圧部16がゴムスイッチ15を押圧し、ゴムスイッチ15の第1、第2スイッチ部15b、15cを順次オンさせ、その時間差に基づくタッチレスポンスの強弱信号に応じて楽音を発生させる。 【0031】この後、鍵2が更に回動して図14に示すC点に到達すると、鍵2に装着された弾性片41の突起部43が鍵盤シャーシ1に固定された固定片42の当接部45に上方から当接し、弾性片41がほぼ水平方向に撓んで弾性変形するので、鍵荷重が急に重くなる。このときには、突起部43の第1傾斜面43aが当接部45の円弧面に上方から当接し、このときに生じる反力f0は、図13(a)に示すように、その垂直方向の分力f1が水平方向の分力f2よりも大きいので、鍵荷重が重くなる。そして、D点に到達すると突起部43が当接部45を乗り越えるので、図14に示すD点からE点に到達するときに、鍵荷重が急激に軽くなる。これにより、鍵2に抜ける感じの鍵タッチ感を付与することができる。そして、ハンマーアーム5の突起部5dが上限ストッパ9に当接すると、再び鍵荷重が重くなり、ハンマーアーム5および鍵2の回動が停止する。」 「【図1】 [図:0001416532000005.jpg] 」 「【図2】 [図:0001416532000006.jpg] 」 「【図3】 [図:0001416532000007.jpg] 」 「【図7】 [図:0001416532000008.jpg] 」 「【図11】 [図:0001416532000009.jpg] 」 「【図12】 [図:0001416532000010.jpg] 」 「【図13】 [図:0001416532000011.jpg] 」 「【図14】 [図:0001416532000012.jpg] 」 「【図16】 [図:0001416532000013.jpg] 」 イ 甲2発明 上記アから、甲第2号証には、次の発明(以下、上記引用発明2に対応するものとして「甲2発明」という。)及び技術(以下「甲2技術」という。)が記載されている。なお、各構成の末尾括弧内に、対応する記載箇所を付した。 〔甲2発明〕 電子ピアノなどの鍵盤楽器における鍵盤装置であって、(【0001】) 鍵盤シャーシ1は、前端部1aが凹部状に折り曲げられた上、その前端上部が更にL字状に折り曲げられ、かつ後端部1bがコ字状に折り曲げられ、前端部1aの凹部状の部分の底部と後端部1bのコ字状の部分の底部とがほぼ同じ高さに形成されており、(【0003】) 各鍵2は、その後端部の下部が鍵盤シャーシ1の後端部1b上に設けられた鍵支持部3の軸4に回動自在に取り付けられ、この軸4を中心に上下方向に回動するように構成されており、(【0003】) 鍵2の中間部に対応する鍵盤シャーシ1上には、ハンマーアーム5を上下方向に回動自在に支持するハンマー支持軸6が設けられており、ハンマーアーム5は、上端部5a、中間部5b、下端部5c、及び下端部5cの後端に設けられた突起部5dからなり、中間部5bがハンマー支持軸6に回動自在に支持され、下端部5cが鍵盤シャーシ1の開口部1cを通して鍵盤シャーシ1の後端部1b内に配置され、この下端部5cに錘7が設けられ、この錘7の重量によって下端部5cが下向きに回動する方向に付勢され、これにより上端部5aが鍵2の下面に当接し、鍵2を上方に付勢しており、(【0004】、図16) 鍵2が押鍵されて軸4を中心に下方に回動し、ハンマーアーム5がハンマー支持軸6を中心に下端部5cが上向きに回動する方向に回動するものであり(【0016】、図1、2) ハンマーアーム5の後方における鍵盤シャーシ1の後端部1b内に支持体21が設けられ、この支持体21に板ばね22および発音制御スイッチ23が取り付けられた構成になっており、(【0013】) 板ばね22は、ほぼL字状に形成され、ハンマーアーム5の下端部5cの突起部5dに対向した状態で、板ばね22の下部先端が支持体21の支持部21bの下部に一体に形成され、上端部に突起部22aが設けられ、この突起部22aにハンマーアーム5の突起部5dに設けられた当接部25が当接して乗り越えるときに、後方向に撓み変形するように構成されており、(【0014】) ハンマーアーム5の突起部5dの当接部25が板ばね22の突起部22aに下方から当接して板ばね22を撓み変形させると、鍵荷重が急に重くなり、ハンマーアーム5の当接部25が板ばね22の突起部22aを乗り越えると、鍵荷重は急激に軽くなり、これにより、鍵2に抜ける感じのクリック感が与えられる(【0016】) 鍵盤装置。 〔甲2技術〕 電子ピアノなどの鍵盤楽器における鍵盤装置であって、(【0001】) 鍵盤シャーシ1は、前端部1aが凹部状に折り曲げられた上、その前端上部が更にL字状に折り曲げられ、かつ後端部1bがコ字状に折り曲げられ、前端部1aの凹部状の部分の底部と後端部1bのコ字状の部分の底部とがほぼ同じ高さに形成されており、(【0003】) 各鍵2は、その後端部の下部が鍵盤シャーシ1の後端部1b上に設けられた鍵支持部3の軸4に回動自在に取り付けられ、この軸4を中心に上下方向に回動するように構成されており、(【0003】) 鍵2の中間部に対応する鍵盤シャーシ1上には、ハンマーアーム5を上下方向に回動自在に支持するハンマー支持軸6が設けられており、ハンマーアーム5は、上端部5a、中間部5b、下端部5c、及び下端部5cの後端に設けられた突起部5dからなり、中間部5bがハンマー支持軸6に回動自在に支持され、下端部5cが鍵盤シャーシ1の開口部1cを通して鍵盤シャーシ1の後端部1b内に配置され、この下端部5cに錘7が設けられ、この錘7の重量によって上端部5aが鍵2の下面に当接し、鍵2を上方に付勢しており、(【0004】、図16) 鍵2が押鍵されて軸4を中心に下方に回動し、ハンマーアーム5がハンマー支持軸6を中心に下端部5cが上向きに回動する方向に回動するものであり(【0016】、図1、2) クリック感付与部材40は、鍵2の前部側に設けられた弾性片41と、この弾性片41の下側に対応する箇所の鍵盤シャーシ1に設けられた固定片42とを備えており、弾性片41は、鍵2の前部側に形成されたリブ2aに装着されて垂下され、その下端部に突起部43が設けられ、この状態で鍵2の前後方向、つまりほぼ水平方向に弾性変形するように構成されており、固定片42は、鍵盤シャーシ1上にビス44により固定され、その上端部に半円弧状に湾曲した当接部45が形成され、この当接部45の円弧面に弾性片41の突起部43が上下方向から当接して乗り越えるように構成されており、(【0028】) 弾性片41の突起部43は、鍵2の前側に向けて突出したほぼ三角形状に形成され、その下面側が第1傾斜面43aに形成され、上面側が第2傾斜面43bに形成されており、第1傾斜面43aは、押鍵時に鍵2が下方に回動して突起部43が上方から当接部45の円弧面に当接し、このときに生じる反力f0の垂直方向の分力f1が水平方向の分力f2よりも大きくなる傾斜角度で形成されており、第2傾斜面43bは、離鍵時に鍵2が上方に回動して突起部43が下方から当接部45の円弧面に当接し、このときに生じる反力f’0の垂直方向の分力f’1が水平方向の分力f’2よりも小さくなる傾斜角度で形成されており、(【0029】) 鍵2に装着された弾性片41の突起部43が鍵盤シャーシ1に固定された固定片42の当接部45に上方から当接し、弾性片41がほぼ水平方向に撓んで弾性変形すると、鍵荷重が急に重くなり、このときには、突起部43の第1傾斜面43aが当接部45の円弧面に上方から当接し、このときに生じる反力f0は、その垂直方向の分力f1が水平方向の分力f2よりも大きいので、鍵荷重が重くなり、そして、突起部43が当接部45を乗り越えると、鍵荷重が急激に軽くなり、これにより、鍵2に抜ける感じの鍵タッチ感を付与することができる(【0031】) 鍵盤装置。 5 当審の判断 (1)甲1-1発明に対する新規性について ア 本件発明1について 本件発明1と甲1-1発明を対比する。 (ア)甲1-1発明の「電子ピアノ用鍵盤装置」は、本件発明1の「鍵盤装置」に相当する。 (イ)甲1-1発明の「ハンマー13」は、回動支点である支持部12aの上端にかぶさる支持受け部13bから立ち上がり部12c側へ延びる第1アーム13cとこれと反対方向へ延びる第2アーム13dを有しており、第1アーム13cは第2アーム13dのほぼ2倍の長さとなっており、自然状態(鍵11がベース12eと略平行となっている状態)で第1アーム13cの先端がベース12e上に着座し、第2アーム13dの先端は持ち上がっており、鍵11の中間部から先端側を押し下げることにより、鍵11は張り出し部12dの先端の軸12fを中心として回動し、これにより、ハンマー13は第2アーム13dが押し下げられ、第1アーム13cが持ち上がる構成を有するものである。 当該構成における、立ち上がり部12c側、立ち上がり部12c側と反対の側、及び、回動支点を中心にハンマー13の第2アーム13dが押し下げられ、第1アーム13cが持ち上がる回動方向は、本件発明1の「一端側」、「他端側」及び「第1方向」にそれぞれ相当する。 また、上記構成における、回動支点である支持部12aの上端にかぶさる支持受け部13bから立ち上がり部12c側(一端側)へ延びる「第1アーム13c」は、長さが第2アーム13dのほぼ2倍で、自然状態(鍵11がベース12eと略平行となっている状態)で先端がベース12e上に着座するものであるから、相対的に重量の大きい部分であり、本件発明1の「質量体」に相当するものといえる。 以上から、甲1-1発明のハンマー13は、本件発明1の「一端側に質量体を有し、鍵の押鍵時に他端側が押し込まれることで第1方向に回転するハンマー」に相当する。 (ウ)甲1-1発明の鍵盤装置は、鍵11が押し下げられると、これに連動してハンマー13が支持部12aの上端を回動支点として回動し、ハンマー13の押下部13aが突起部25を押してゆきスイッチ15を作動させ、スイッチ15を押すと弾性被覆体21の弾性抵抗を受けるものであり、当該「弾性抵抗」及び「弾性被覆体21」は、本件発明1の「前記第1方向とは反対の第2方向に向けた第2荷重」及び「前記第1方向とは反対の第2方向に向けた第2荷重」「を前記ハンマーに付与する荷重付与部材」にそれぞれ相当する。 そして、甲1-1発明の前記弾性抵抗(第2荷重)は、ストロークが増すにつれて反力、すなわち荷重が大きくなり、押圧力が所定の値を越すと弾性被覆体21は急激な変形を生じて、このとき弾性抵抗を減少させるものであり、そのうちの弾性被覆体21が急激な変形を生じて、このとき弾性抵抗を減少させる部分は「前記終端位置に近づくにつれて」「減少する荷重」といえる。 そうすると、本件発明1と甲1-1発明は「前記第1方向に向けた第1荷重と、前記第1方向とは反対の第2方向に向けた第2荷重と、の少なくとも一方を前記ハンマーに付与する荷重付与部材」「を備え、」「前記第2荷重は、前記終端位置に近づくにつれて」「減少する荷重である」という点で共通する。 しかしながら、甲1-1発明において、上記弾性被覆体21が急激な変形を生じて、このとき弾性抵抗を減少させる部分は、弾性被覆体21の急変形によって押圧力が減少し、これによってアコースティックピアノに類似した押圧力上昇後の抜けるような鍵タッチを指先に感じることができるようにするためのものであり、当該弾性抵抗(第2荷重)の減少は「徐々に」(少しずつ進行したり変化したりするさま(デジタル大辞泉(小学館)))なされるものとはいえない。 したがって、前記第2荷重が、本件発明では「前記終端位置に近づくにつれて徐々に減少する荷重である」のに対し、甲1-1発明では徐々に減少する荷重ではない点(以下「相違点1」という。)で、両者は相違する。 (エ)以上から、本件発明1は、甲1-1発明との間に相違点1を有するものであり、甲第1号証に記載された発明ではない。 イ 本件発明2、11、14について 本件発明2、11、14も、上記相違点1に係る構成と同等の構成を備えるものであるから、上記アと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明ではない。 (2)甲1-1発明に基づく進歩性について ア 本件発明1について 上記相違点1について検討する。 甲1-1発明は、従来の電子楽器の鍵盤装置では、押圧力の急激な山と谷がないので、アコースティックピアノの鍵ストローク終端近くで得られる抜けるような感触を得ることができず、そこで、複雑な機構を使わずにアコースティックピアノに近い鍵タッチを実現する電子楽器用鍵盤装置を提供することを目的とするものであり、アコースティックピアノに類似した押圧力上昇後の抜けるような鍵タッチを指先に感じることができるものするための弾性被覆体21(荷重付与部材)の弾性抵抗(第2荷重)を「徐々に減少する荷重」に変更することは、上記アコースティックピアノに類似した押圧力上昇後の抜けるような鍵タッチ(押圧力の急激な山と谷)を損なうことになるから、甲1-1発明において、当該弾性抵抗(第2荷重)を「徐々に減少する荷重」に変更する動機は存在しない。 したがって、本件発明1は、当業者が甲1-1発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明2、11、14について 本件発明2、11、14も、上記相違点1に係る構成と同等の構成を備えるものであるから、上記アと同様の理由により、当業者が甲1-1発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)甲1-2発明に対する新規性について ア 本件発明1について 本件発明1と甲1-2発明を対比する。 (ア)本件発明1の「鍵盤装置」及び「一端側に質量体を有し、鍵の押鍵時に他端側が押し込まれることで第1方向に回転するハンマー」については、上記(1)ア(ア)、(イ)に説示したとおりであり、甲1-2発明の「電子ピアノ用鍵盤装置」及び「ハンマー13」は、本件発明1の「鍵盤装置」「一端側に質量体を有し、鍵の押鍵時に他端側が押し込まれることで第1方向に回転するハンマー」にそれぞれ相当する。 (イ)甲1-2発明の板ばね14は、第1アーム13cの支持受け部13bとの接続部上面における支持部12a上端の回動支点より若干下方の位置と、鍵11の張り出し部12d近傍との間に設けられて、鍵11に対して基準位置にある自然状態(鍵11がベース12eと略平行となっている状態)を保持する荷重を付与するものである。 当該第1アーム13cの支持受け部13bとの接続部上面においては、板ばね14が設けられる位置が支持部12a上端の回動支点より若干下方の位置であることから、第1アーム13cが持ち上がる方向(第1方向)とは逆方向(第2方向)に板ばね14により若干の荷重が付与されているものと認められる。 そうすると、当該若干の荷重及び板ばね14は、本件発明1のハンマーに付与される「前記第1方向とは反対の第2方向に向けた第2荷重」及び「前記第1方向とは反対の第2方向に向けた第2荷重」「を前記ハンマーに付与する荷重付与部材」にそれぞれ相当するといえる。 したがって、本件発明1と甲1-2発明は「前記第1方向に向けた第1荷重と、前記第1方向とは反対の第2方向に向けた第2荷重と、の少なくとも一方を前記ハンマーに付与する荷重付与部材」「を備え」る点で共通する。 しかしながら、甲1-2発明の板ばね14は、鍵11が基準位置にある自然状態(鍵11がベース12eと略平行となっている状態)を保持するために設けられているものであって、ハンマー13に対する荷重を押鍵量に応じて変動させることは甲第1号証には記載も示唆もされていない。 なお、甲第1号証の図1、2によれば、板ばね14からハンマー13に加えられる力のうちハンマー13の回転方向成分の分力比は、押鍵によるハンマー13の回転に伴うハンマー13上の板ばね14が設けられる位置の変動に応じて小さくなりうると解されるが、それと同時に板ばね14の曲げ量及び当該曲げ量に応じたハンマー13に加えられる力自体も押鍵量によって大きくなりうると解されるから、当該板ばね14において、ハンマー13に対する回転方向の荷重(第2荷重)を押鍵量に応じて有意に変動させる機能を特定することはできない。 したがって、前記第2荷重が、本件発明では「前記終端位置に近づくにつれて徐々に減少する荷重である」のに対し、甲1-2発明では徐々に減少する荷重ではない点(以下「相違点2」という。)で、両者は相違する。 (ウ)以上から、本件発明1は、甲1-2発明との間に相違点2を有するものであり、甲第1号証に記載された発明ではない。 イ 本件発明2、6、8、14について 本件発明2、6、8、14も、上記相違点2に係る構成と同等の構成を備えるものであるから、上記アと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明ではない。 (4)甲1-2発明に基づく進歩性について ア 本件発明1について 上記相違点2について検討する。 甲1-2発明の板ばね14は、鍵11が基準位置にある自然状態(鍵11がベース12eと略平行となっている状態)を保持するために設けられているものであるから、板ばね14によるハンマー13に対する荷重を押鍵量に応じて変動させようとする動機は存在しない。 したがって、本件発明1は、当業者が甲1-2発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明2、6、8、14について 本件発明2、6、8、14も、上記相違点2に係る構成と同等の構成を備えるものであるから、上記アと同様の理由により、当業者が甲1-2発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)甲2発明に対する新規性について ア 本件発明1について 本件発明1と甲2発明を対比する。 (ア)甲2発明の「電子ピアノなどの鍵盤楽器における鍵盤装置」は、本件発明1の「鍵盤装置」に相当する。 (イ)甲2発明のハンマーアーム5は、上端部5a、中間部5b、下端部5c、及び下端部5cの後端に設けられた突起部5dからなり、中間部5bがハンマー支持軸6に回動自在に支持され、下端部5cに錘7が設けられ、この錘7の重量によって下端部5cが下向きに回動する方向に付勢され、これにより上端部5aが鍵2の下面に当接し、鍵2を上方に付勢しており、鍵2が押鍵されると下方に回動し、ハンマーアーム5がハンマー支持軸6を中心に下端部5cが上向きに回動する方向に回動するものである。 前記「下端部5c」側、「錘7」、「上端部5a」側、「下端部5cが上向きに回動する方向」は、本件発明1の「一端側」、「質量体」、「他端側」、「第1方向」にそれぞれ相当し、甲2発明の「ハンマーアーム5」は、本件発明1の「一端側に質量体を有し、鍵の押鍵時に他端側が押し込まれることで第1方向に回転するハンマー」に相当する。 (ウ)甲2発明は、ハンマーアーム5の下端部5cの突起部5dに対向した状態で、ほぼL字状に形成された板ばね22の下部先端が支持体21の支持部21bの下部に一体に形成され、上端部に突起部22aが設けられ、この突起部22aにハンマーアーム5の突起部5dに設けられた当接部25が当接して乗り越えるときに、後方向に撓み変形するように構成されており、ハンマーアーム5の突起部5dの当接部25が板ばね22の突起部22aに下方から当接して板ばね22を撓み変形させると、鍵荷重が急に重くなり、ハンマーアーム5の当接部25が板ばね22の突起部22aを乗り越えると、鍵荷重は急激に軽くなり、これにより、鍵2に抜ける感じのクリック感が与えられるという構成を有するものである。 前記上端部に突起部22aが設けられた板ばね22は、突起部22aにハンマーアーム5の当接部25が当接して、鍵荷重を急に重くし、また急激に軽くするものであるから、本件発明1の「前記第1方向に向けた第1荷重と、前記第1方向とは反対の第2方向に向けた第2荷重と、の少なくとも一方を前記ハンマーに付与する荷重付与部材」に相当するものといえる。 しかしながら、甲2の前記板ばね22は、鍵荷重を急に重くし、また急激に軽くするものであり、これにより、鍵2に抜ける感じのクリック感が与えられるものであるから、当該鍵荷重(第1荷重又は第2荷重)の増加又は減少は「徐々に」なされるものとはいえない。 したがって、本件発明では「前記第1荷重は、前記鍵の押鍵の終端位置に近づくにつれて徐々に増加する荷重であり、前記第2荷重は、前記終端位置に近づくにつれて徐々に減少する荷重である」のに対し、甲2発明では鍵荷重(第1荷重又は第2荷重)が徐々に増加又は減少する荷重ではない点(以下「相違点3」という。)で、両者は相違する。 以上から、本件発明1は、甲2発明との間に相違点3を有するものであり、甲第2号証に記載された発明ではない。 イ 本件発明2、3、14について 本件発明2、3、14も、上記相違点3に係る構成と同等の構成を備えるものであるから、上記アと同様の理由により、甲第2号証に記載された発明ではない。 (6)甲2発明に基づく進歩性について ア 本件発明1について 上記相違点3について検討する。 甲2発明は、板ばね22を設けて鍵2に抜ける感じのクリック感が与えられるようにしたものであり、鍵2に抜ける感じのクリック感が与えられるようにするための板ばね22(荷重付与部材)の鍵荷重(第1荷重又は第2荷重)を「徐々に増加する荷重」又は「徐々に減少する荷重」に変更することは、上記鍵2に与えられる抜ける感じのクリック感を損なうことになるから、甲2発明において、当該鍵荷重(第1荷重又は第2荷重)を「徐々に増加する荷重」又は「徐々に減少する荷重」に変更する動機は存在しない。 したがって、本件発明1は、当業者が甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 また、甲2技術は、鍵2に装着された弾性片41の突起部43が鍵盤シャーシ1に固定された固定片42の当接部45に上方から当接し、弾性片41がほぼ水平方向に撓んで弾性変形するので、鍵荷重が急に重くなり、そして、突起部43が当接部45を乗り越えるので、鍵荷重が急激に軽くなり、これにより、鍵2に抜ける感じの鍵タッチ感を付与することができるものであり、甲2発明と同様に鍵荷重(第1荷重又は第2荷重)の増加又は減少が「徐々に」なされるものとはいえないから、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、甲2発明に甲2技術を適用したとしても想到しえないものである。 したがって、本件発明1は、当業者が甲2発明及び甲2技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 以上のとおり、本件発明1は、当業者が甲2発明、又は、甲2発明及び甲2技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明2、3、14について 本件発明2、3、14も、上記相違点に係る構成と同等の構成を備えるものであるから、上記アと同様の理由により、当業者が甲2発明、又は、甲2発明及び甲2技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由(理由1~6)によっては、本件発明1~3、6、8、11、14に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1~3、6、8、11、14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700785

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