特許異議申立
2024-700411
読取装置及び情報提供システム
- 審判番号
- 2024-700411
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-079934
- 登録番号
- 7470953
- 請求日
- 2024年04月30日
- 審決日
- 2025年01月21日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社NIP
- 【権利者代理人】浅野 哲平
- 【異議申立人】南 俊宏
- 審判長/審判官
- 審判長 山澤 宏
- 審判官 北元 健太
- 審判官 野崎 大進
- 分類
- P1651.14 -Y (G07G) / P1651.536-Y (G07G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第1項、特許法第44条第1項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7470953号発明「読取装置及び情報提供システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7470953号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 出願の分割の経緯
特許第7470953号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願(以下「本願」という。)は、平成31年4月19日にされた特許法第44条第1項の規定による特許出願であって、平成29年5月9日に出願された特願2017-93449号を最先の出願とする、いわゆる第2世代の分割出願であるところ、出願の分割の経緯の概略は、次のとおりである(括弧内は当該出願の提出日を示す。)。
最先の出願 特願2017-93449号(平成29年5月 9日)
第1世代分割 特願2019- 5597号(平成31年1月16日)
本願 特願2019-79934号(平成31年4月19日)
2 本件特許の経緯
本件特許については、令和6年4月11日にその特許権の設定登録がされ、同年同月19日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、特許異議申立人 南 俊宏(以下「申立人」という。)は、同年同月30日に特許異議の申立てを行った。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
物品に付されたRFタグから情報を読み取る読取装置であって、
前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、
上向きにのみ開口した筐体内に設けられ、前記アンテナを収容するシールド部と、
を備え、
前記筐体および前記シールド部は上向きにのみ開口した状態で前記物品を入れた買物カゴを包囲可能且つ出し入れ可能に構成されており、当該状態を維持したままで前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする読取装置。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として甲第1-15号証(以下、それぞれ「甲1」-「甲15」という。)を提出し、次の申立理由1-2により、本件特許の請求項1に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1(特許法第29条第1項柱書(同法第113条第2号))
本件特許発明は、次の点で未完成であり、特許法第2条第1項にいう「発明」に該当しないから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(1)電波の回折、反射等
本件特許発明では、開口の周縁で生じる回折波や、天井で反射した反射波により、読取装置の周りにある商品のRFタグの情報を誤読するおそれがある(甲1-5)。しかしながら、このような誤読が生じない範囲に電波の周波数やアンテナ出力を限定することは、本件特許の明細書等に記載されていない。
また、電波の出力を弱くすることで、上記の誤読のおそれを軽減できる可能性があるが、電波の出力が弱いとき、RFタグの向きや密集の程度によっては、RFタグの情報を読むことができないおそれがある(甲1,6)。この点についても、本件特許の明細書等には記載も示唆もされていない。
(2)アンテナの取付位置
本件特許発明において、アンテナが開口の近くに配置されると、アンテナから放射された電波はシールド部の外に漏れ、読取装置の周りにある商品のRFタグの情報を誤読するおそれがある。しかしながら、本件特許の明細書には、「アンテナ60はシールド部44の内側において、開口30から離れた位置であれば何処に取り付けてもよい」と記載されている(段落【0032】)のみであって、アンテナ60を開口30からどの程度離すべきかは記載されていない。
(3)株式会社ユニクロのセルフレジによる誤読等
株式会社ユニクロの店舗で使用されているセルフレジは、前記最先の出願に係る特許権の侵害に係る訴訟に関して和解が成立したこと(甲7)及び当該セルフレジの筐体(甲8)と本件特許発明の対比から、本件特許発明の技術的範囲に属すると推測される。そして、当該セルフレジについて、当該セルフレジ外のRFタグの情報を読み取った事例(甲9-14)及び当該セルフレジ内のRFタグの情報を読み落とした事例(甲12,15)があることから、本件特許発明では、読取装置の周りにあるRFタグの情報を誤読したり、シールド部の中にあるRFタグの情報を読み落としたりすることが実際にあるといえる。
2 申立理由2(特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号))
本件特許の明細書における発明の詳細な説明は、次の点で本件特許発明をその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものである。
(1)電波の回折、反射等
本件特許発明では、開口の周縁で生じる回折波や、天井で反射した反射波により、読取装置の周りにある商品のRFタグの情報を誤読するという問題が生じる(甲1-5)。しかしながら、本件特許の明細書における発明の詳細な説明には、この問題を解決する手段は記載されていない。
また、電波の出力を弱くすることで、上記問題を軽減できる可能性があるが、電波の出力が弱いとき、RFタグの向きや密集の程度によっては、RFタグの情報を読むことができないという問題がある(甲1,6)ところ、本件特許の明細書における発明の詳細な説明には、読取装置の周りにあるRFタグの情報を読み出したり、シールド部の内部にあるRFタグの情報を読み落としたりするおそれを低減することができる電波の周波数とアンテナの電波出力について手がかりとなる記載がない。
(2)アンテナの取付位置
本件特許発明において、アンテナが開口の近くに配置されると、アンテナから放射された電波はシールド部の外に漏れ、読取装置の周りにある商品のRFタグの情報を誤読するおそれがある。しかしながら、本件特許の明細書における発明の詳細な説明には、アンテナを開口からどの程度離すべきかについて決定するための指針は記載されていない。
3 証拠方法
甲1 一般社団法人日本自動認識システム協会編,「よくわかるRFID(改訂2版) 電子タグのすべて」,改訂2版第5刷,株式会社オーム社,2020年3月30日,pp.125-132
甲2 「プラチナバンド」,[online],フリー百科事典Wikipedia,[2024年4月22日検索],インターネット <URL: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%81%E3%83%8A%E3%83%90%E3%83%B3%E3%83%89>
甲3 「無線通信 基礎編 電波の伝わり方:反射/透過、回折、干渉」,[online],2016年10月11日,ROHM TechWeb,[2024年4月22日検索],インターネット <URL: https://techweb.rohm.co.jp/product/wireless/wireless-communication/1844/>
甲4 特開2008-99266号公報
甲5 「無線通信 基礎編 電波の伝わり方:減衰」,[online],2016年8月30日,ROHM TechWeb,[2024年4月22日検索],インターネット <URL: https://techweb.rohm.co.jp/product/wireless/wireless-communication/1582/>
甲6 特開2009-15517号公報
甲7 「訴訟に関する和解について」,[online],2021年12月24日,株式会社アスタリスク,[2024年4月22日検索],インターネット <URL: https://www.asx.co.jp/news/20210224_press/>
甲8 パパンダ,「ユニクロセルフレジの仕組みや使い方を画像つきで解説!クレジットカードや電子マネーで支払える」,[online],2023年9月30日,ノマド的節約術,[2024年4月29日検索],インターネット <URL: https://nomad-saving.com/88836/>
甲9 ほんさき,「機械の言う事の方が正しい気がしてしまう~ユニクロセルフレジが間違えた話」,[online],2020年2月28日,小石の眼から見た景色 あらかた50主婦のあったこと録,[2023年6月19日検索],インターネット <URL: https://www.honsaki.com/entry/2020/02/28/174330>
甲10 「ユニクロのセルフレジで間違い発見!どうすればいいの?」,[online],2020年8月7日,よろず情報局,[2024年4月22日検索],インターネット <URL: https://yorozu-johokyoku.com/424.html>
甲11 「今日、UNIQLOで買い物をしました。セルフレジに購入品を入れたカ…」,[online],2020年8月10日,Yahoo!知恵袋,[2024年4月22日検索],インターネット <URL: https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13229787953>
甲12 「ユニクロのセルフレジで質問です。積み上げて過ぎてしまって、読み取りが出…」,[online],2020年10月11日,Yahoo!知恵袋,[2024年4月22日検索],インターネット <URL: https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10232708795>
甲13 sinianinarimasite,「ユニクロのセルフレジでミスに気づいた(RFIDシステム)」,[online],2021年6月15日,60歳になりましての日記,[2024年4月22日検索],インターネット <URL: https://sinianinarimasite.hatenablog.com/entry/2021/06/15/103118>
甲14 リテールガイド編集部,「ユニクロの導入したセルフレジの仕組みとは?メリットも紹介」,[online],2022年4月22日,リテールガイド,[2024年4月29日検索],インターネット <URL: https://retailguide.tokubai.co.jp/tech/8905/>
甲15 「ユニクロのセルフレジで会計を済ませ、店を出ようとしたら『思わぬ悲劇』が・・・」,[online],2023年3月13日,四葉のclover,[2024年4月22日検索],インターネット <URL: https://clover48.com/trend/iwasu/rebdfd/>
第4 当審の判断
1 申立理由1について
(1)未完成発明について
発明は自然法則の利用に基礎づけられた一定の技術に関する創作的な思想であるが、特許制度の趣旨にかんがみれば、その創作された技術内容は、その技術分野における通常の知識・経験をもつ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術効果をあげることができる程度にまで具体化され、客観化されたものでなければならない(最判昭和44年1月28日(民集23巻1号54頁))。したがって、その技術内容がこの程度に構成されていないものは、発明としては未完成であり、特許法第2条第1項にいう「発明」に該当しないものというべきである。
以下、この観点に立って判断する。
(2)本件特許の明細書等の記載事項
本件特許の明細書及び図面には、次の事項が記載されている(下線は当審による。)。
ア 「【0002】
近年、店舗における会計をスムーズに行うために図6に示す会計システム100が提案されている。この会計システム100は、各商品Pに付されたRFタグ102と、RFタグ102の情報を読み取るリーダライタ104と、リーダライタ104と通信可能に接続されたレジスター106と、から構成されている。リーダライタ104は、会計カウンターTの裏面に設置されており、会計カウンターT上の買物カゴ内にある商品PのRFタグ102から情報を一括して読み取り、読み取った情報をレジスター106へと送信する。レジスター106は、受信した情報に対応する商品情報(商品名及び価格)に基づいて会計処理を行う。
【0003】
上記会計システム100によれば、会計カウンターT上に買物カゴを載せるという簡便な動作で会計処理ができる。また、会計カウンターT上に載せたままで会計処理が可能なので、買物カゴの中身を視認でき、顧客は会計処理中も購入すべき商品Pを再度確認することができる。その反面、リーダライタ104の交信領域と顧客が存在する空間とが連続しているので、リーダライタ104のアンテナから放出される電波が他の装置に影響したり、他の装置から放出された電波がリーダライタ104の交信電波に干渉する可能性があった。
【0004】
ここで、特許文献1の読取装置は、開口を通じて商品を収容する筐体と、当該開口を開閉するフタと、を備え、筐体とフタは電波を反射または吸収する部材で形成されている。この読取装置は、筐体の開口がフタで閉められた状態、すなわち筐体内に収容された物品がシールドで密閉された状態でRFタグの読み取りを行うので、上記した電波に関する問題を防止することができる。」
イ 「【図6】
[図:0001420328000001.jpg]
」
ウ 「【0006】
しかしながら、特許文献1の読取装置では、筐体内に商品を入れてフタを閉めて会計処理をした後、フタを開けて商品を取り出すといった煩わしい動作が必要となる。また、筐体内に収容された買物カゴを視認することができないので、会計処理中には、商品を再度確認することができなくなってしまう。すなわち、顧客の利便性が損なわれてしまう。
【0007】
このように、顧客の利便性を確保することと、電波の影響を低減することを両立するのは困難であった。なお、このような問題は、会計処理に用いられる読取装置だけでなく、物品に付されたRFタグを読み取る据置式の装置について同様に生じうるものである。
【0008】
上記した課題に鑑み、本発明は、読み取り時の利便性を確保しつつ、電波の影響を低減した読取装置、及び情報提供システムを提供することを目的とする。」
(3)本件特許発明が目的とする技術効果
上記(2)から、特に下線を付した記載に着目すると、本件特許発明が目的とする技術効果について、次のことがいえる。
ア 上記(2)ウから、本件特許発明が目的とする技術効果は、「読取装置」において「電波の影響を低減」することであると認められる。
イ 上記アの「電波の影響」は、上記(2)アから、「リーダライタのアンテナから放出される電波が他の装置に影響したり、他の装置から放出された電波がリーダライタの交信電波に干渉する」ことを指すものと認められる。
ウ 上記(2)イから、会計システム100において、リーダライタ104がシールド部に収容されていないことが見て取れることに鑑みれば、上記アの「低減」は、リーダライタがシールド部に収容されていない会計システムより低減されることを指すものと認められる。
(4)判断
本件特許発明は、「読取装置」が「アンテナを収容するシールド部」を備え、「前記シールド部は上向きにのみ開口した状態で前記物品を入れた買物カゴを包囲可能」とした構成を有するものであり、当該構成の作用により、「リーダライタ16のアンテナ60から放出される電波が読取装置20の周囲に広がるのを抑制し、他の機器に対する電波の影響を低減させることができ」、「読取装置20の周囲にある他の機器からの電波が収容部36に進入することも抑制され、電波の干渉に起因する読取精度の低下を低減させることができる」(明細書段落【0029】)という効果を奏することが明らかである。したがって、本件特許発明は、上記(3)の技術効果をあげることができる程度にまで具体化され、客観化されたものであるといえる。
そして、申立人が主張するように、電波の回折等やアンテナの取付位置などに起因して電波がシールド部の外に達することによる誤読等が本件特許発明において生じるとしても、そのことは、本件特許発明における電波の影響が、リーダライタがシールド部に収容されていないシステムと比較して低減されていないことを示すものではないから、本件特許発明が上記(3)の技術効果をあげることができないことにはならない。また、甲1-15からは、申立人が主張する誤読等の程度が、本件特許発明を読取装置として使用することを不可能とし、上記(3)の技術効果をあげることを不可能とするほど著しいものとまではいえない。
したがって、本件特許発明は、発明として未完成であるということはできず、特許法第2条第1項にいう「発明」に該当しないとはいえない。
2 申立理由2について
(1)実施可能要件について
物の発明について、特許法第36条第4項第1号が規定するいわゆる実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載内容及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用できる程度の記載があることを要する(知財高判令和2年1月28日(平成31年(行ケ)第10064号))。
以下、この観点に立って判断する。
(2)判断
本件特許発明の「読取装置」は、「アンテナ」及び「シールド部」を備えるものである。「シールド部」については、上向きに開口した筐体24を形成する壁板28及び各壁板28の内壁面に接着されている水平板50のうち、各壁板28において水平板50よりも上方に延在している内壁面42及び水平板50の上面に設けられた電波反射シート38と電波吸収シート40によって、上向きに開口30が形成されたシールド部44が構成されること(段落【0018】-【0020】)、シールド部44が買物カゴBを収容する収容部36として機能し、開口30を通じて収容部36に買物カゴBを入れること(段落【0021】、【0028】)など、その構造及び使用方法が斜視図及び断面図等(図1,3)とともに具体的に記載されている。また、「アンテナ」については、配線54によってアンテナ60とリーダライタ16の本体48とが互いに電気的に接続されること(段落【0022】)、リーダライタ16のアンテナ60から電波が放出されること(段落【0029】)、本体48が備えるCPU56がアンテナ60を介してRFタグ12からタグ情報を取得すること(段落【0023】)、アンテナ60はシールド部44の内側において開口30から離れた位置に取り付けられること(段落【0032】)、収容部36が開口した状態で読取装置20によって各商品Pのタグ情報が読み出されること(段落【0027】)など、その配置及び動作がブロック図及び断面図等(図2,3)とともに具体的に記載されている。
このように、本件特許の明細書における発明の詳細な説明には、本件特許発明の具体的な実施の形態が記載されており、当業者が本件特許発明を製造し、使用できる程度の記載があるといえる。そして、出願時の技術常識を踏まえれば、その製造及び使用に当業者が過度の試行錯誤を要するとも認められない。したがって、本件特許の明細書における発明の詳細な説明は、実施可能要件を充足する。
(3)申立人の主張について
申立人は、電波の回折等やアンテナの取付位置などに起因して電波がシールド部の外に達することによる誤読等を解消する手段についての記載がないことから、本件特許の明細書における発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に違反する旨主張している。しかしながら、甲1-15からは、当該誤読等の程度が、本件特許発明を読取装置として使用することを不可能とするほど著しいものとまではいえないから、申立人による当該主張は、本件特許の明細書における発明の詳細な説明の記載内容及び出願時の技術常識に基づき、当業者が本件特許発明を使用できるとした上記判断を左右するものではない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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