特許異議申立
2024-700296
すすかび病抵抗性トマト植物
- 審判番号
- 2024-700296
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-032297
- 登録番号
- 7357173
- 請求日
- 2024年04月01日
- 審決日
- 2025年12月16日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】タキイ種苗株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人レクシード・テック
- 【異議申立人】中川 太佑
- 審判長/審判官
- 審判長 上條 肇
- 審判官 長井 啓子
- 審判官 小暮 道明
- 分類
- P1651.112-ZDA(A01H) / P1651.113-ZDA(A01H) / P1651.121-ZDA(A01H) / P1651.537-ZDA(A01H)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第30条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項第2号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7357173号発明「すすかび病抵抗性トマト植物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7357173号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8、12〕、〔9~11〕、〔13、14〕について訂正することを認める。
特許第7357173号の請求項1~8、12~14に係る特許を取り消す。
特許第7357173号の請求項9~11、15~17に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7357173号の請求項1~17に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和5年3月2日に出願され、令和5年9月27日にその特許権の設定登録がされ、令和5年10月5日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年 4月 1日 特許異議の申立て(特許異議申立人)
同年 6月25日付け 取消理由通知書
同年 8月27日 意見書の提出(特許権者)
同年10月 8日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年12月 6日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
令和7年 2月 3日 意見書の提出(特許異議申立人)
同年 6月24日付け 取消理由通知書(決定の予告)
本通知書に対して、特許権者からの応答はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年12月6日提出の訂正請求書による訂正請求の趣旨は、
「特許第7357173号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正することを求める。」
というものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「すすかび病抵抗性トマト植物:」と記載されているのを、
「すすかび病抵抗性トマト植物(ただし、すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170を除く。):」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「すすかび病抵抗性トマト植物:」と記載されているのを、
「すすかび病抵抗性トマト植物(ただし、すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170を除く。):」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項9に
「前記(x)工程において、
前記被検トマト植物について、下記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列を含むポリヌクレオチドを特異的に検出可能な分子マーカーを検出することにより、すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域を検出し、
前記すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域を含むすすかび病抵抗性トマト植物を選抜し、前記部分配列の長さは、5000塩基長以上である、請求項8に記載の生産方法:」と記載されているのを、
「下記(a)および(b)工程を含み、
下記(a)工程に先立って、下記(x)工程を含む、すすかび病抵抗性トマト植物の生産方法:
(x)被検トマト植物について、下記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列を含むポリヌクレオチドを特異的に検出可能な分子マーカーを検出することにより、すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域を検出し、
前記すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域を含むすすかび病抵抗性トマト植物を選抜する工程であり、
前記部分配列の長さは、5000塩基長以上である工程;
(a)前記すすかび病抵抗性トマト植物と、他のトマト植物とを交雑する工程;(b)前記(a)工程より得られたトマト植物またはその後代系統から、すすかび病抵抗性トマト植物を選抜する工程;」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項13に
「下記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列からなるポリヌクレオチドを、」と記載されているのを、
「下記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列からなるポリヌクレオチド(ただし、すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170のポリヌクレオチドを除く。)を、」に訂正する。
2 訂正の適否についての判断
(1)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~12について、請求項3は請求項2を引用し、請求項4~12は請求項1又は2を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1及び2によって訂正される請求項1及び2に連動して訂正されるものである。また、訂正前の請求項13及び14について、請求項14は請求項13を引用しているものであって、訂正事項4によって訂正される請求項13に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~12に対応する訂正後の請求項1~12、訂正前の請求項13及び14に対応する訂正後の請求項13及び14は、それぞれ特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1及び2について
訂正事項1及び2による訂正は、訂正前の「すすかび病抵抗性トマト植物」から「すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
イ 訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項9が訂正前の請求項8を引用する記載であったのを、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、訂正前の「下記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列からなるポリヌクレオチド」から「すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170のポリヌクレオチド」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(3)独立特許要件について
訂正事項1、2及び4は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、本件においては訂正前の全請求項について特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項1、2及び13に係る訂正事項1、2及び4に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
そして、訂正後の請求項9~11については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位として扱われることの求めがされていることから、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8、12〕、〔9~11〕、〔13、14〕について一群の請求項ごとに訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~17に係る発明は、令和6年12月6日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項の番号に従って「本件発明1」~「本件発明17」という。下線は訂正された箇所を示す。また、本件特許の設定登録時の明細書を「本件特許明細書」という。)
「【請求項1】
すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを含む、すすかび病抵抗性トマト植物(ただし、すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170を除く。):
(G)下記(G1)、(G2)、または(G3)のポリヌクレオチド:
(G1)配列番号1の457321~517433番目の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(G2)前記(G1)の塩基配列において、1~6011個の塩基が欠失、置換、挿入および/または付加された塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド;
(G3)前記(G1)の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド。
【請求項2】
すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドの部分配列からなるポリヌクレオチドを含み、
前記部分配列の長さは、5000塩基長以上である、すすかび病抵抗性トマト植物(ただし、すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170を除く。):(G)下記(G1)、(G2)、または(G3)のポリヌクレオチド:
(G1)配列番号1の457321~517433番目の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(G2)前記(G1)の塩基配列において、1~6011個の塩基が欠失、置換、挿入および/または付加された塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド;
(G3)前記(G1)の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記トマト植物は、前記部分配列からなるポリヌクレオチドにより、前記すすかび病抵抗性を付与される、請求項2に記載のトマト植物。
【請求項4】
前記すすかび病抵抗性トマト植物は、受託番号FERM P-22459で特定されるトマト植物の種子から得られるトマト植物またはその後代系統である、請求項1または2に記載のトマト植物。
【請求項5】
請求項1または2に記載のすすかび病抵抗性トマト植物の部分。
【請求項6】
前記植物の部分が、種子である、請求項5に記載の植物の部分。
【請求項7】
下記(a)および(b)工程を含むことを特徴とする、すすかび病抵抗性トマト植物の生産方法:
(a)請求項1または2に記載のすすかび病抵抗性トマト植物と、他のトマト植物とを交雑する工程;
(b)前記(a)工程より得られたトマト植物またはその後代系統から、すすかび病抵抗性トマト植物を選抜する工程。
【請求項8】
前記(a)工程に先立って、下記(x)工程を含む、請求項7に記載の生産方法。
(x)被検トマト植物から、すすかび病抵抗性トマト植物を選抜する工程
【請求項9】
下記(a)および(b)工程を含み、
下記(a)工程に先立って、下記(x)工程を含む、すすかび病抵抗性トマト植物の生産方法:
(x)被検トマト植物について、下記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列を含むポリヌクレオチドを特異的に検出可能な分子マーカーを検出することにより、すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域を検出し、
前記すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域を含むすすかび病抵抗性トマト植物を選抜する工程であり、
前記部分配列の長さは、5000塩基長以上である工程;
(a)前記すすかび病抵抗性トマト植物と、他のトマト植物とを交雑する工程;
(b)前記(a)工程より得られたトマト植物またはその後代系統から、すすかび病抵抗性トマト植物を選抜する工程;
(G)下記(G1)、(G2)、または(G3)のポリヌクレオチド:
(G1)配列番号1の457321~517433番目の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(G2)前記(G1)の塩基配列において、1~6011個の塩基が欠失、置換、挿入および/または付加された塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド;
(G3)前記(G1)の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド。
【請求項10】
前記(x)工程において、
前記被検トマト植物について、下記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列を含むポリヌクレオチドを特異的に検出可能な分子マーカーを検出することにより、すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域を検出し、
前記すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域を含むすすかび病抵抗性の候補トマト植物を選抜し、
前記候補トマト植物またはその後代系統に対して、すすかび病菌の接種試験を行い、すすかび病抵抗性を示すトマト植物を、すすかび病抵抗性トマト植物として選抜し、
前記部分配列の長さは、5000塩基長以上である、請求項9に記載の生産方法:
(G)下記(G1)、(G2)、または(G3)のポリヌクレオチド:
(G1)配列番号1の457321~517433番目の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(G2)前記(G1)の塩基配列において、1~6011個の塩基が欠失、置換、挿入および/または付加された塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド;
(G3)前記(G1)の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド。
【請求項11】
前記(x)工程に先立ち、前記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列の塩基配列と、トマト植物における対応する領域の参照配列とを用いて、前記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列の塩基配列を特異的に検出可能な分子マーカーを設計する工程を含む、請求項9に記載の生産方法。
【請求項12】
前記(x)工程における選抜が、下記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列を含むポリヌクレオチドを含む、すすかび病抵抗性トマト植物の選抜であり、
前記部分配列の長さは、5000塩基長以上である、請求項8に記載の生産方法:
(G)下記(G1)、(G2)、または(G3)のポリヌクレオチド:
(G1)配列番号1の457321~517433番目の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(G2)前記(G1)の塩基配列において、1~6011個の塩基が欠失、置換、挿入および/または付加された塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を発現させるポリヌクレオチド;
(G3)前記(G1)の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を発現させるポリヌクレオチド。
【請求項13】
すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列からなるポリヌクレオチド(ただし、すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170のポリヌクレオチドを除く。)を、トマト植物に導入する導入工程を含み、
前記部分配列の長さは、5000塩基長以上であることを特徴とする、トマト植物へのすすかび病抵抗性の付与方法:
(G)下記(G1)、(G2)、または(G3)のポリヌクレオチド:
(G1)配列番号1の457321~517433番目の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(G2)前記(G1)の塩基配列において、1~6011個の塩基が欠失、置換、挿入および/または付加された塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド;
(G3)前記(G1)の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド。
【請求項14】
すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列からなるポリヌクレオチドを含むすすかび病抵抗性トマト植物と交雑することにより、前記すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列からなるポリヌクレオチドを導入し、
前記部分配列の長さは、5000塩基長以上である、請求項13に記載の付与方法:
(G)下記(G1)、(G2)、または(G3)のポリヌクレオチド:
(G1)配列番号1の457321~517433番目の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(G2)前記(G1)の塩基配列において、1~6011個の塩基が欠失、置換、挿入および/または付加された塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド;
(G3)前記(G1)の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド。
【請求項15】
トマト植物のすすかび病抵抗性の検出方法であって、
被検トマト植物について、下記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列を含むポリヌクレオチドを特異的に検出可能な分子マーカーを検出することにより、下記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列を含むポリヌクレオチドを含むすすかび病抵抗性を付与するゲノム領域を検出する検出工程を含み、
前記部分配列の長さは、5000塩基長以上である、方法:
(G)下記(G1)、(G2)、または(G3)のポリヌクレオチド:
(G1)配列番号1の457321~517433番目の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(G2)前記(G1)の塩基配列において、1~6011個の塩基が欠失、置換、挿入および/または付加された塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド;
(G3)前記(G1)の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド。
【請求項16】
前記検出工程に先立ち、前記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列の塩基配列と、トマト植物における対応する領域の参照配列とを用いて、前記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列の塩基配列を特異的に検出可能な分子マーカーを設計する工程を含み、
前記検出工程において、前記被検トマト植物について、前記分子マーカーを検出することにより、前記すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域を検出する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
すすかび病抵抗性トマト植物のスクリーニング方法であって、
被検トマト植物から、下記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列を含むポリヌクレオチドを特異的に検出可能な分子マーカーを検出することにより、すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを含むトマト植物を、すすかび病抵抗性の候補トマト植物として選抜する選抜工程を含み、
前記部分配列の長さは、5000塩基長以上である、スクリーニング方法:
(G)下記(G1)、(G2)、または(G3)のポリヌクレオチド:
(G1)配列番号1の457321~517433番目の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(G2)前記(G1)の塩基配列において、1~6011個の塩基が欠失、置換、挿入および/または付加された塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド;
(G3)前記(G1)の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド。」
第4 取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由について
本件発明1~8及び12~14に係る特許に対して、当審が令和7年6月24日付けで特許権者に通知した取消理由は、次のとおりのものである。
1 取消理由1(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、本件発明13及び14に係る特許は、同法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)請求項13には、「下記(G)のポリヌクレオチドまたはその部分配列からなるポリヌクレオチド(ただし、すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170のポリヌクレオチドを除く。)」とある。
しかし、「下記(G)のポリヌクレオチド」とは、請求項13に
「(G)下記(G1)、(G2)、または(G3)のポリヌクレオチド:
(G1)配列番号1の457321~517433番目の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
・・・」
と記載されているとおり、塩基配列により特定されており、物質として一義的に定まるものである。物質として一義的に定まる「(G)のポリヌクレオチド」を、「すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170のポリヌクレオチド」と「TTM-170以外のポリヌクレオチド」とに区別できるとは考えられないから、上記「ただし」により除かれる「すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170のポリヌクレオチド」が、どのようなものであるのか不明である。
したがって、請求項13及びそれを引用する請求項14において、特許を受けようとする発明が明確でない。
2 取消理由2(公然実施発明に基づく進歩性欠如)
本件発明1~8、12~14は、本件特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明(甲第2、6、7号証)に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1~8、12~14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(証拠方法)
甲第1号証:令和4年3月30日官報告示「農林水産省告示第六百五十一号」
甲第2号証:品種登録願(出願番号35878)の願書及び添付資料
甲第3号証:特願2023-32297の令和5年3月29日提出「新規性の喪失の例外証明書提出書」及び「発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書」
甲第4号証:「農耕と園芸」2022年冬号、第77巻4号、目次、第11~14頁、奥付
甲第5号証:「農耕と園芸」ONLINEカルチベ【公式】Xアカウントによる2022年11月24日投稿記事
甲第6号証:SeeSaaBLOG「湯野でトマト農家になろう」2022年10月5日投稿記事
甲第7号証:「令和4年度普及センターだより We LOVE農業!! ~高梁の農業の動きを紹介します~」(備北広域農業普及指導センター、農畜産物生産課)
(以下、それぞれ「甲1」~「甲7」という。)
(1)証拠の記載事項
ア 甲1の記載事項
甲1は、種苗法第5条第1項の規定に基づく品種登録出願を公示する農林水産省告示であって、次の事項が記載されている。
甲1ア
「
[図:0001434098000001.jpg]
」(第1頁)
甲1イ
「
[図:0001434098000002.jpg]
」(第4頁)
イ 甲2の記載事項
甲2は、農林水産大臣に提出された品種登録願及びその添付資料であって、次の事項が記載されている(頁数は、当審が付与したものである。)。
甲2ア 「1.出願者
(1)住所又は居所並びに氏名又は名称
・・・
住所又は居所:(郵便番号600-8686)京都府京都市下京区梅小路通猪熊東入南夷町180番地
・・・
氏名又は名称:タキイ種苗株式会社」(第1頁項目1)
甲2イ 「3.農林水産植物の種類
学名(ローマ字): Solanum lycopersicum L.
和名: トマト種」(第2頁項目3)
甲2ウ 「4.出願品種の名称
・・・
品種名称 TTM170」(第2頁項目4)
甲2エ 「5.出願品種の育成者
・・・
(2)(育成をした者と出願者が異なる場合)出願者が品種登録を受ける地位にある理由は、次のとおり。
職務育成品種」(第3頁項目5)
甲2オ 「8.本品種の種苗又は収穫物を業として譲渡した履歴
(1)日本における譲渡
・・・
譲渡した。(以下に記載すること。)
2021年01月19日に日本で最初の譲渡を行った。
譲渡時の名称: TTM-170」(第3頁項目8)
甲2カ 「3.出願品種が種子又は種菌を種苗とする場合
(1)提出する種子又は種菌の別及びその量
・・・
種子:1,000粒」(第5頁項目3)
甲2キ 「4.出願品種の育成及び繁殖方法
(1)育成方法
・・・
(a)交配
母親の品種名 (桃太郎ワンダー母系×すすかび抵抗性素材)交雑後代
父親の品種名 (TTM130父系×りんか409)交雑後代」(第7頁項目4)
甲2ク 「7.品種審査において参考となり得る追加情報
・・・
すすかび抵抗性」(第9頁項目7)
ウ 甲3の記載事項
甲3は、本件特許出願の令和5年3月29日提出「新規性の喪失の例外証明書提出書」及び「発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書」であって、次のとおりの事項が記載されている。
甲3ア 「(刊行物を通じた公開)発行日:2022年11月23日 刊行物:農耕と園芸 2022年冬号、第77巻4号、第11~14頁 発行者:株式会社誠文堂新光社」(第1/E頁【刊行物等】の欄)
甲3イ 「1.公開の事実
(1)発行日 令和4年11月23日
(2)刊行物 農耕と園芸 2022年冬号、第77巻4号、第11~14頁
(3)公開者 株式会社誠文堂新光社
(4)販売した物の内容 株式会社誠文堂新光社が、農耕と園芸の2022年冬号、第77巻4号、第11~14頁にて、清水寿朗、有本龍平、青池仁美、芦原紗也加、及び遠藤誠が発明したすすかび病抵抗性トマト植物について公開した。」(第3頁項目1)
甲3ウ 「(6)行為時の権利者と公開者との関係等について
タキイ種苗株式会社は、すすかび病抵抗性トマト植物について、株式会社誠文堂新光社から非公開で取材を受け、その後、株式会社誠文堂新光社が、その取材内容について、公開の事実に記載のとおり公開を行った。」(第4頁項目(6))
エ 甲4の記載事項
甲4は、本件特許出願の特許法第30条第2項適用(新規性喪失の例外の規定の適用)の証明書として提出された雑誌の記事であって、次の事項が記載されている。
甲4ア 「豪雪地帯で60年「南郷トマト」に新品種登場」(第11頁標題)
甲4イ 「「南郷地区に合った品種を作ろう。5年かけてタキイ種苗さんと、試験栽培に取り組んできました」
・・・できるだけ産地全体に適応するものを選抜し、「TTM-170(桃太郎みなみ)」が誕生した。・・・今年から組合員全戸で本格的な栽培が始まった。「果形が良く、裂果はほとんどありません」
同品種は、すすかび病耐性を持つ品種としても有望視されていて、市場での評価も上々。」(第12頁下欄第25行~第13頁第2欄第6行)
オ 甲6の記載事項
甲6は、岡山県高梁市のトマト農家によるブログであって、本件特許出願日より前の2022年10月5日付け記事として、次の事項が記載されている。
甲6ア 「よそのトマトは大きく見える」(記事標題)
甲6イ 「新品種TTM-170の栽培講習会があった。今年新品種を植えている農家の圃場を見学した。・・・うちも1ハウスだけ新品種を植えてみている・
・・」(記事本文第1~3行)
カ 甲7の記載事項
甲7は、本件特許出願日前に岡山県高梁市の備北広域農業普及指導センターが発行した機関誌で、次の事項が記載されている。
甲7ア 「令和4年度普及センターだより」(表紙)
甲7イ 「○裂果が少ない桃太郎系統の新品種栽培実証の紹介
高温期の裂果対策及び着果率向上対策の1つとして、昨年度から新品種「TTM-170」を試作しています。
今年度の調査により、「TTM-170」は、裂果が少なく、秀品率が高いことがわかりました。」(第3頁囲み記事第1~5行)
甲7ウ 「
[図:0001434098000003.jpg]
」(第3頁囲み記事の写真とその注釈)
(2)甲2に基づく理由2(公然実施発明に基づく進歩性欠如)
ア 公然実施された発明
本件特許権者であるタキイ種苗株式会社(以下、単に「タキイ種苗」という。)により品種登録出願(甲2)された「TTM170」は、他の品種と区別するために役立つ形質としてすすかび抵抗性を有するトマト植物であって(上記(1)の甲2ア、イ、ウ、ク)、本件特許出願日(2023年3月2日)より2年以上も前の2021年1月19日に「TTM-170」の名称で日本において業として譲渡が行われたものである(上記(1)の甲2オ)。すすかび抵抗性は、「TTM-170( TTM170)」を特徴付ける栽培上有利な形質、いわば、アピールポイントであるのだから、譲渡に際しては、「TTM-170」がすすかび病抵抗性を有することを明らかにしたうえで譲渡されたと解するのが自然であり、当該譲渡に守秘義務が課されていた等の事情は認められないから、本件特許出願日前に、次の発明が公然実施されたと認められる。
「すすかび抵抗性を有するトマト植物である、TTM-170(TTM170)。」(以下、「甲2発明」という。)
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明のトマト植物が有する「すすかび抵抗性」は、本件発明1の「すすかび病抵抗性」と同義であり、遺伝的な形質であることは明らかだから、甲2発明のトマト植物は、すすかび抵抗性を付与するゲノム領域を有していると認められる。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、
「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域を含む、すすかび病抵抗性トマト植物。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1: 本件発明1は「すすかび病抵抗性トマト植物(ただし、すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170を除く。)」であって、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」が「(G)のポリヌクレオチド」((G)の具体的内容は省略する。以下同様。)であることが特定されているのに対して、甲2発明は「すすかび抵抗性を有するトマト植物である、TTM-170(TTM170)」であって、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」が特定されていない点。
(イ)判断
本件発明1は、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを含む、すすかび病抵抗性トマト植物(ただし、すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170を除く。)」というものだから、甲2発明である「すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170」自体は包含しないものの、甲2発明を他の系統のトマト植物と交雑して得られた、TTM-170の後代植物である「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを含む、すすかび病抵抗性トマト植物」は包含する。
一方、甲2発明のトマト植物「TTM-170」について検討すると、甲2発明のトマト植物が譲渡された当時、トマトの全ゲノムは既に解読され、品種ごとに異なるDNA配列の違いを見つけるための基準となるゲノム参照配列が利用できる状況にあった(Nature 485,635-641 (2012)で発表され、本件特許の実施例でも用いられたHeinz1706など)。また、甲2発明のトマト植物「TTM-170」は、甲2の品種登録出願者であり、本件特許権者でもあるタキイ種苗により業として譲渡(実施)されたものであるところ(上記(1)の甲2オ)、タキイ種苗は、1985年のトマト植物「桃太郎」の発表以来、TTM番号を付した品種名で多種類の「桃太郎」系統品種のトマト植物を開発、販売していることが広く知れ渡っていた(https://www.takii.co.jp/brand/momotaro2.html)。このような状況にあって、当業者であれば、甲2発明のトマト植物「TTM-170」のすすかび抵抗性を付与するゲノム領域について、トマトゲノム参照配列や、入手可能な多種類の「桃太郎」系統のトマト植物のゲノムを用いたQTL解析やDNAマーカー解析等(例えば、Horiculture Research (2021)8:113、2007年7月31日農林水産省農林水産技術会議事務局編集・発行「農林水産研究開発レポートNo.21 ゲノム情報の品種改良への利用-DNAマーカー育種-」)、当業者が通常行う分析技術を用いることにより分析できたものといえる。
次に、甲2発明のトマト植物「TTM-170」が含む「すすかび抵抗性を付与するゲノム領域」がどのようなものであるのかについて検討すると、甲2発明のトマト植物「TTM-170」は、育成者及び名称が同一で、共に2021年(令和3年)~2022年時点で新品種とされる、桃太郎系統のトマト植物であって、すすかび病抵抗性という特徴的な形質を共有する、甲4に記載されたトマト植物「TTM-170(桃太郎みなみ)」と同一の品種のトマト植物であると認められる(上記(1)の甲2ア~エ、ク、甲4ア、イ)。ここで、甲4は、本件特許権者自身が、本件特許出願について特許法第30条第2項が規定する新規性喪失の例外の適用を受けるための証明書として提出したものであるのだから(上記(1)の甲3ア、イ、ウ)、甲4に記載されたトマト植物「TTM-170(桃太郎みなみ)」は、本件特許設定登録時(本件訂正前)の本件発明1の「すすかび病抵抗性トマト植物」(「(ただし、すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170を除く。)」という発明特定事項を含まないもの)に包含されるものであり、「すすかび抵抗性を付与するゲノム領域」として本件発明1の「(G)のポリヌクレオチド」を含むものである。そうすると、甲2発明のトマト植物「TTM-170」も同様に、「すすかび抵抗性を付与するゲノム領域」として本件発明1の「(G)のポリヌクレオチド」を含むことが明らかである。
したがって、当業者は、トマトゲノム参照配列や、入手可能な多種類の「桃太郎」系統のトマトのゲノムを用いたQTL解析等、当業者が通常行う分析技術を用いて分析することにより、甲2発明のトマト植物「TTM-170」が「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」として本件発明1の「(G)のポリヌクレオチド」を含むことを知ることができたものと認められる。
以上によれば、甲2発明は、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」として、「(G)のポリヌクレオチド」を含むものであることが公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で譲渡された(実施された)ということができる。そして、当該技術分野において、病害抵抗性植物は広く求められており、遺伝性の病害抵抗性を有する植物系統と他の植物系統とを交雑して、その後代植物を当該病害抵抗性について選抜して、当該病害抵抗性を有する後代植物を生産することは、周知慣用技術であって、当該後代植物が親植物と同じ病害抵抗性を付与するゲノム領域を有することは自明である。そうすると、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」として「(G)のポリヌクレオチド」を含むものであることが公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で公然実施された甲2発明のトマト植物「TTM-170」を他の系統のトマト植物と交雑して、TTM-170の後代植物であり、本件発明1に包含される、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを含む、すすかび病抵抗性トマト植物」を得ることは、当業者が容易になし得たことと認める。
ウ 本件発明2、3について
本件発明2、3は、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドの部分配列からなるポリヌクレオチドを含み、前記部分配列の長さは、5000塩基長以上である、すすかび病抵抗性トマト植物(ただし、すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170を除く。)」というものだから、甲2発明である「すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170」自体は包含しないものの、甲2発明を他の系統のトマト植物と交雑して得られた、TTM-170の後代植物である「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドの部分配列からなるポリヌクレオチドを含み、前記部分配列の長さは、5000塩基長以上である、すすかび病抵抗性トマト植物」を包含する。
甲2発明のトマト植物「TTM-170」は、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」として約60,000塩基からなる長大な「(G)のポリヌクレオチド」を含んでいるが(上記イ(イ))、交雑により、両親植物の染色体が交差、組換えを起こし得ることは技術常識であるから、甲2発明のトマト植物を他の系統のトマト植物と交雑した場合、「(G)のポリヌクレオチド」の全長ではなく部分配列を有し、すすかび抵抗性を呈する後代植物も得られることは自明である。
そうすると、上記イ(イ)と同様の理由により、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」として「(G)のポリヌクレオチド」を含むものであることが公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で公然実施された甲2発明のトマト植物「TTM-170」を他の系統のトマト植物と交雑して、「(G)のポリヌクレオチドの部分配列」を含む、TTM-170の後代植物であり、本件発明2、3に包含される「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドの部分配列からなるポリヌクレオチドを含み、前記部分配列の長さは、5000塩基長以上である、すすかび病抵抗性トマト植物」を得ることは、当業者が容易になし得たことと認める。
エ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1又は2に従属し、「受託番号FERM P-22459で特定されるトマト植物の種子から得られるトマト植物またはその後代系統である」という構成を備えたものである。
本件特許明細書の実施例1によれば、「受託番号FERM P-22459で特定されるトマト植物」は、タキイ種苗農場で継代育種により採取された大量のトマト系統からすすかび病菌接種試験を実施して選択されたすすかび病抵抗性トマト系統であって、当該系統の後代系統のゲノムの分析により、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」として「(G)のポリヌクレオチド」が特定されたものである。そして、本件特許明細書に開示されたすすかび病抵抗性トマトは、全て、「受託番号FERM P-22459で特定されるトマト植物」自体か、それを親とする後代系統であるし、「(G)のポリヌクレオチド」は、本件発明1で特定されたとおり、約60,000塩基からなる長大なポリヌクレオチドであって、「受託番号FERM P-22459で特定されるトマト植物」に由来するもの以外は事実上あり得ないといえる。
したがって、甲2発明も、「受託番号FERM P-22459で特定されるトマト植物の種子から得られるトマト植物またはその後代系統」であると強く推認されるから、本件発明4は、上記イ及びウと同様の理由により、甲2発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 本件発明5、6について
本件発明5は、「請求項1または2に記載のすすかび病抵抗性トマト植物の部分。」、本件発明6は、「前記植物の部分が、種子である、請求項5に記載の植物の部分。」というものである。
上記イ、ウのとおり、本件発明1、2の「すすかび病抵抗性トマト植物」は、甲2発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その部分である本件発明5、6も同様に、進歩性を有さないものである。
カ 本件発明7、8、12について
当該技術分野において、病害抵抗性植物は広く求められており、遺伝性の病害抵抗性を有する植物系統と他の植物系統とを交雑して、その後代植物を当該病害抵抗性について選抜して、当該病害抵抗性を有する後代植物を生産すること、その際、交雑を複数回繰り返し行うことは周知慣用技術である。よって、当業者であれば、甲2発明及び周知慣用技術に基づいて、甲2発明のトマト植物を他の系統のトマト植物と交雑してすすかび病抵抗性トマト植物を生産することや、親トマト植物をすすかび病抵抗性について選抜してから交雑を行うことを容易に想到しうると認められる。
したがって、本件発明7、8、及び12は、甲2発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
キ 本件発明13、14について
本件発明13において、「トマト植物に導入する導入工程」には、トマト植物を請求項1又は2のトマト植物との交雑により導入する場合が含まれると解される(本件特許明細書の段落【0076】)。
当該技術分野において、病害抵抗性植物は広く求められており、遺伝性の病害抵抗性を有する植物系統と他の植物系統とを交雑して、その後代植物を当該病害抵抗性について選抜して、植物に当該病害抵抗性を付与すること、その際、交雑を複数回繰り返し行うことは周知慣用技術である。よって、当業者であれば、甲2発明及び周知慣用技術に基づいて、甲2発明のトマト植物を他の系統のトマト植物と交雑して、トマト植物にすすかび病抵抗性を付与することや、親トマト植物をすすかび病抵抗性について選抜してから交雑を行うことを容易に想到しうると認められる。
したがって、本件発明13及び14は、甲2発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)甲6に基づく理由2(公然実施発明に基づく進歩性欠如)
ア 公然実施された発明
甲6は、岡山県高梁市のトマト農家によるブログであって、これによれば、本件特許出願日(2023年3月2日)より前の2022年10月5日にトマトの新品種「TTM-170」の栽培講習会があったこと、及び2022年10月5日時点でブログ執筆者及び他の農家の圃場で当該新品種が栽培されていたこと(上記(1)の甲6ア、イ)が認められる。
一方、栽培用トマト植物の技術分野において、TTM番号は、本件特許権者であるタキイ種苗が長年にわたり開発している一連の桃太郎系統のトマト品種に付される品種名を表す番号として広く知れ渡っていた(https://www.takii.co.jp/brand/momotaro2.html)から、トマトの新品種「TTM-170」といえば、タキイ種苗が開発した桃太郎系統のトマト品種であることが自明である。そして、「TTM-170(TTM170)」という名称のトマト品種が、他の品種と区別しうる特有の形質として「すすかび抵抗性」を有するものとして、2021年12月6日にタキイ種苗により品種登録出願され、2022年3月1日には当該品種の形質や最初の譲渡を行った日付等、品種登録出願の内容の詳細が公開されていた(上記(1)の甲2ア~ク)。また、雑誌「農耕と園芸」2022年冬号(2022年11月23日発行)の第11~14頁の記事「「南郷トマト」に新品種登場」によれば、当該雑誌が発行された2022年11月23日よりも前から、タキイ種苗が開発したトマト新品種「TTM-170(桃太郎みなみ)」はすすかび病耐性を持つ品種として有望視されており、市場での評価の高いものであるとされていた(上記(1)の甲4イ)。
そうしてみると、甲6ブログに記載された、岡山県高梁市の農家が栽培講習会を受けて、実際に栽培をし、他の農家も栽培していたトマト植物「TTM-170」は、甲2及び甲4に記載された、本件特許権者であるタキイ種苗が開発した「TTM-170(TTM170)(桃太郎みなみ)」と同一の品種であると認められる。そして、甲2及び甲4に記載されたとおり、すすかび病抵抗性は、「TTM-170(TTM170)(桃太郎みなみ)」を特徴付ける栽培上有利な形質、すなわちアピールポイントであるのだから、甲6ブログに記載された栽培講習会では、当然、「TTM-170」がすすかび病抵抗性を有することが明らかにされ、甲6ブログ執筆者及び他の農家はすすかび病抵抗性であることを認識して栽培していたと解するのが自然である。そして、当該栽培講習会や当該栽培に守秘義務が課されていた等の事情は認められないから、本件特許出願日前に、次の発明が公然実施されたと認められる。
「すすかび病抵抗性の新品種トマト植物である、TTM-170。」(以下、「甲6発明」という。)
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲6発明とを対比すると、甲6発明のトマト植物が有する「すすかび病抵抗性」が遺伝的な形質であることは明らかだから、甲6発明のトマト植物は、すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域を有していると認められる。
したがって、本件発明1と甲6発明とは、
「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域を含む、すすかび病抵抗性トマト植物。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点2: 本件発明1は「すすかび病抵抗性トマト植物(ただし、すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170を除く。)」であって、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」が「(G)のポリヌクレオチド」であることが特定されているのに対して、甲6発明は「すすかび病抵抗性の新品種トマト植物である、TTM-170」であって、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」が特定されていない点。
(イ)判断
本件発明1は、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを含む、すすかび病抵抗性トマト植物(ただし、すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170を除く。)」というものだから、甲6発明である「すすかび病抵抗性の新品種トマト植物である、TTM-170」自体は包含しないものの、甲6発明を他の系統のトマト植物と交雑して得られた、TTM-170の後代植物である「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを含む、すすかび病抵抗性トマト植物」は包含する。
一方、甲6発明のトマト植物「TTM-170」について検討すると、甲6発明のトマト植物「TTM-170」の栽培講習会が開催され、当該トマト植物が栽培されていた当時、トマトの全ゲノムは既に解読され、品種ごとに異なるDNA配列の違いを見つけるための基準となるゲノム参照配列が利用できる状況にあった(Nature 485,635-641 (2012)で発表され、本件特許の実施例でも用いられたHeinz1706など)。また、甲6発明のトマト植物は「TTM-170」という品種名が付されているところ、本件特許権者でもあるタキイ種苗は、1985年のトマト植物「桃太郎」の発表以来、TTM番号を付した品種名で多種類の「桃太郎」系統品種のトマト植物を開発、販売していることが広く知れ渡っていた(https://www.takii.co.jp/brand/momotaro2.html)。このような状況にあって、当業者であれば、甲6発明のトマト植物「TTM-170」のすすかび抵抗性を付与するゲノム領域について、トマトゲノム参照配列や、入手可能な多種類の「桃太郎」系統のトマト植物のゲノムを用いたQTL解析やDNAマーカー解析等(例えば、Horiculture Research (2021)8:113、2007年7月31日農林水産省農林水産技術会議事務局編集・発行「農林水産研究開発レポートNo.21 ゲノム情報の品種改良への利用-DNAマーカー育種-」)、当業者が通常行う分析技術を用いることにより分析できたものといえる。
次に、甲6発明のトマト植物「TTM-170」が含む「すすかび抵抗性を付与するゲノム領域」がどのようなものであるのかについて検討すると、上記アで判断したとおり、甲6発明のトマト植物「TTM-170」は、甲4に記載されたトマト植物「TTM-170(桃太郎みなみ)」と同一の品種であると認められる。ここで、甲4は、本件特許権者自身が、本件特許出願について特許法第30条第2項が規定する新規性喪失の例外の適用を受けるための証明書として提出したものであるのだから(上記(1)の甲3ア、イ、ウ)、甲4に記載されたトマト植物「TTM-170(桃太郎みなみ)」は、本件発明1の「すすかび病抵抗性トマト植物」に包含されるものであり、「すすかび抵抗性を付与するゲノム領域」として本件発明1の「(G)のポリヌクレオチド」を含むものである。そうすると、甲6発明のトマト植物「TTM-170」も同様に「すすかび抵抗性を付与するゲノム領域」として本件発明1の「(G)のポリヌクレオチド」を含むことが明らかである。
したがって、当業者は、トマトゲノム参照配列や、入手可能な多種類の「桃太郎」系統のトマトのゲノムを用いたQTL解析等、当業者が通常行う分析技術を用いて分析することにより、甲6発明のトマト植物「TTM-170」が「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」として本件発明1の「(G)のポリヌクレオチド」を含むことを知ることができたものと認められる。
以上によれば、甲6発明は、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」として、「(G)のポリヌクレオチド」を含むものであることが公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で譲渡された(実施された)ということができる。そして、当該技術分野において、病害抵抗性植物は広く求められており、遺伝性の病害抵抗性を有する植物系統と他の植物系統とを交雑して、その後代植物を当該病害抵抗性について選抜して、当該病害抵抗性を有する後代植物を生産することは、周知慣用技術であって、当該後代植物が親植物と同じ病害抵抗性を付与するゲノム領域を有することは自明である。そうすると、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」として「(G)のポリヌクレオチド」を含むものであることが公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で公然実施された甲6発明のトマト植物「TTM-170」を他の系統のトマト植物と交雑して、TTM-170の後代植物であり、本件発明1に包含される「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを含む、すすかび病抵抗性トマト植物」を得ることは、当業者が容易になし得たことと認める。
ウ 本件発明2~8、12~14について
上記(2)ウ~キに示したのと同様の理由により、本件発明2~8、12~14も、甲6発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)甲7に基づく理由2(公然実施発明に基づく進歩性欠如)
ア 公然実施された発明
甲7は、岡山県高梁市の備北広域農業普及指導センターが発行した令和4(2022)年度の「普及センターだより」であって、トマトの写真と共に「昨年度から新品種「TTM-170」を試作しています。」(上記(1)の甲7イ)と記載されており、「昨年度」とは令和3(2021)年度であると解されるから、2021年度から、すなわち、本件特許出願日(2023年3月2日)よりも2年ほど前の2021年の栽培シーズン(技術常識に照らし、春~秋と認められる。)からトマト新品種「TTM-170」が試作されていたことが認められる。
一方、栽培用トマト植物の技術分野において、TTM番号は、本件特許権者であるタキイ種苗が長年にわたり開発している一連の桃太郎系統のトマト品種に付される品種名を表す番号として広く知れ渡っていた(https://www.takii.co.jp/brand/momotaro2.html)から、トマトの新品種「TTM-170」といえば、タキイ種苗が開発した桃太郎系統のトマト品種であることが自明である。そして、「TTM-170(TTM170)」という名称のトマト品種が、他の品種と区別しうる特有の形質として「すすかび抵抗性」を有するものとして、2021年12月6日にタキイ種苗により品種登録出願され、2022年3月1日には当該品種の形質や最初の譲渡を行った日付等、品種登録出願の内容の詳細(甲2)が公開されていた(上記(1)の甲2ア~ク)。また、雑誌「農耕と園芸」2022年冬号(2022年11月23日発行)の第11~14頁の記事「「南郷トマト」に新品種登場」によれば、当該雑誌が発行された2022年11月23日よりも前から、タキイ種苗が開発したトマト新品種「TTM-170(桃太郎みなみ)」はすすかび病耐性を持つ品種として有望視されており、市場での評価の高いものであるとされていた(上記(1)の甲4イ)。
そうしてみると、甲7に記載されたとおり、本件特許出願日(2023年3月2日)よりも2年ほど前の2021年の栽培シーズン(春~秋)から試作されていたトマト新品種「TTM-170」とは、甲2及び甲4に記載された、本件特許権者であるタキイ種苗が開発した「TTM-170(TTM170)(桃太郎みなみ)」と同一の品種であると認められる。そして、甲2及び甲4に記載されたとおり、すすかび病抵抗性は、「TTM-170(TTM170)(桃太郎みなみ)」を特徴付ける栽培上有利な形質、すなわちアピールポイントであるのだから、2021年の栽培シーズン(春~秋)から行われていた甲7記載の試作では、当然、「TTM-170」がすすかび病抵抗性を有することが明らかにされ、試作を行った農家はすすかび病抵抗性であることを認識して栽培していたと解するのが自然である。そして、当該試作に守秘義務が課されていた等の事情は認められないから、本件特許出願日前に、次の発明が公然実施されたと認められる。
「すすかび病抵抗性の新品種トマト植物である、TTM-170。」(以下、「甲7発明」という。)
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲7発明とを対比すると、甲7発明のトマト植物が有する「すすかび病抵抗性」が遺伝的な形質であることは明らかだから、甲7発明のトマト植物は、すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域を有していると認められる。
したがって、本件発明1と甲7発明とは、
「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域を含む、すすかび病抵抗性トマト植物。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点3: 本件発明1は「すすかび病抵抗性トマト植物(ただし、すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170を除く。)」であって、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」が「(G)のポリヌクレオチド」((G)の具体的内容は省略する。以下同様。)であることが特定されているのに対して、甲7発明は「すすかび病抵抗性の新品種トマト植物である、TTM-170」であって、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」が特定されていない点。
(イ)判断
本件発明1は、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを含む、すすかび病抵抗性トマト植物(ただし、すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170を除く。)」というものだから、甲7発明である「すすかび病抵抗性の新品種トマト植物である、TTM-170」自体は包含しないものの、甲7発明を他の系統のトマト植物と交雑して得られた、TTM-170の後代植物である「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを含む、すすかび病抵抗性トマト植物」は包含する。
一方、甲7発明のトマト植物「TTM-170」が試作されていた当時、トマトの全ゲノムは既に解読され、品種ごとに異なるDNA配列の違いを見つけるための基準となるゲノム参照配列が利用できる状況にあった(Nature 485,635-641(2012)で発表され、本件特許の実施例でも用いられたHeinz1706など)。また、甲7発明のトマト植物は「TTM-170」という品種名が付されているところ、本件特許権者でもあるタキイ種苗は、1985年のトマト植物「桃太郎」の発表以来、TTM番号を付した品種名で多種類の「桃太郎」系統品種のトマト植物を開発、販売していることが広く知れ渡っていた(https://www.takii.co.jp/brand/momotaro2.html)。このような状況にあって、当業者であれば、甲7発明のトマト植物「TTM-170」のすすかび抵抗性を付与するゲノム領域について、トマトゲノム参照配列や、入手可能な多種類の「桃太郎」系統のトマト植物のゲノムを用いたQTL解析やDNAマーカー解析等(例えば、Horiculture Research (2021)8:113、2007年7月31日農林水産省農林水産技術会議事務局編集・発行「農林水産研究開発レポートNo.21 ゲノム情報の品種改良への利用-DNAマーカー育種-」)、当業者が通常行う分析技術を用いることにより分析できたものといえる。
次に、甲7発明のトマト植物「TTM-170」が含む「すすかび抵抗性を付与するゲノム領域」がどのようなものであるのかについて検討すると、上記アで判断したとおり、甲7発明のトマト植物「TTM-170」は、甲4に記載されたトマト植物「TTM-170(桃太郎みなみ)」と同一の品種であると認められる。ここで、甲4は、本件特許権者自身が、本件特許出願について特許法第30条第2項が規定する新規性喪失の例外の適用を受けるための証明書として提出したものであるのだから(上記(1)の甲3ア、イ、ウ)、甲4に記載されたトマト植物「TTM-170(桃太郎みなみ)」は、本件発明1の「すすかび病抵抗性トマト植物」に包含されるものであり、「すすかび抵抗性を付与するゲノム領域」として本件発明1の「(G)のポリヌクレオチド」を含むものである。そうすると、甲7発明のトマト植物「TTM-170」も同様に「すすかび抵抗性を付与するゲノム領域」として本件発明1の「(G)のポリヌクレオチド」を含むことが明らかである。
したがって、当業者は、トマトゲノム参照配列や、入手可能な多種類の「桃太郎」系統のトマトのゲノムを用いたQTL解析等、当業者が通常行う分析技術を用いて分析することにより、甲7発明のトマト植物「TTM-170」が「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」として本件発明1の「(G)のポリヌクレオチド」を含むことを知ることができたものと認められる。
以上によれば、甲7発明は、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」として、「(G)のポリヌクレオチド」を含むものであることが公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で譲渡された(実施された)ということができる。そして、当該技術分野において、病害抵抗性植物は広く求められており、遺伝性の病害抵抗性を有する植物系統と他の植物系統とを交雑して、その後代植物を当該病害抵抗性について選抜して、当該病害抵抗性を有する後代植物を生産することは、周知慣用技術であって、当該後代植物が親植物と同じ病害抵抗性を付与するゲノム領域を有することは自明である。そうすると、「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域」として「(G)のポリヌクレオチド」を含むものであることが公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で公然実施された甲7発明のトマト植物「TTM-170」を他の系統のトマト植物と交雑して、TTM-170の後代植物であり、本件発明1に包含される「すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として、下記(G)のポリヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを含む、すすかび病抵抗性トマト植物」を得ることは、当業者が容易になし得たことと認める。
ウ 本件発明2~8、12~14について
上記(2)ウ~キに示したのと同様の理由により、本件発明2~8、12~14も、甲7発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 令和7年6月24日付け取消理由通知書(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立人による異議申立理由の概要及び証拠
特許異議申立人は、その特許異議申立書において、特許権設定登録時の請求項1~17に係る特許を取り消すべき理由として、以下に概要を示す異議申立理由を主張し、証拠方法として上記第4の2の(証拠方法)に示した甲1~7を提出した。なお、異議申立理由の項目番号は、便宜のため当合議体が付したものである。
(1)異議申立理由1(刊行物記載発明に基づく新規性欠如)
特許権設定登録時の請求項1~6、13及び14に係る発明(以下、特許権設定登録時の請求項1~17に係る発明をそれぞれ「訂正前本件発明1」等という。)は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲2に記載された発明であり、特許権設定登録時の請求項1~6、13及び14に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
(2)異議申立理由2(刊行物記載発明に基づく進歩性欠如)
訂正前本件発明1~17は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲2に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~17に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)異議申立理由3(公然実施発明に基づく新規性欠如)
訂正前本件発明1~6は、甲2、5、6及び7に示されるとおり本件特許出願前に日本国内において公然実施された発明であり、特許権設定登録時の請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第1項第2号の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
(4)異議申立理由4(公然実施発明に基づく進歩性欠如)
訂正前本件発明1~17は、甲2、5、6及び7に示されるとおり本件特許出願前に日本国内において公然実施された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~17に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 令和7年6月24日付け取消理由通知書(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
上記1に記載した異議申立理由のうち、令和7年6月24日付け取消理由通知書(決定の予告)において採用しなかったものは、異議申立理由1~3、ならびに異議申立理由4のうち訂正前本件発明9~11及び15~17に対する理由である。
以下、これらの理由について検討する。
(1)異議申立理由1(刊行物記載発明に基づく新規性欠如)
異議申立人は、訂正前本件発明1~6、13及び14は、甲2に記載された発明である旨主張する。
これについて検討すると、甲2は、「TTM170」と称する品種のトマト植物の品種登録願であって、上記第4の2(1)イ(特に、甲2キ、ク)のとおり、「TTM170」について、形質及び特性や育成に用いた交配親名等の情報が記載されている。しかし、ある品種の植物の形質及び特性等が明らかにされただけで、当該品種の植物を作出できるわけではない。また、ある品種の植物の育成に用いた交配親名が明らかにされたとしても、全ての交配親が入手できなくては当該交配を再現することはできないし、たとえ交配を再現したとしても、同じ交配親による交配であってもその結果生じる子孫植物のゲノム構成(それにより生じる形質や特性)はさまざまであって、当該品種の植物を再度作出できる可能性は限りなく低いことが技術常識であるから、甲2の記載事項からトマト植物「TTM170」を作出できるとは認められない。
甲2(第4の2(1)イの甲2カ)には、「TTM170」の種子1,000粒が提出されたことも記載されているが、当該種子は種苗法第15条及び第15条の2に基づき出願品種の栽培試験等による審査のために国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構種苗管理センターに提出されたものであって、第三者への譲渡が予定されるものとは認められない。
さらに、甲2(第4の2(1)イの甲2オ)には、甲2の品種登録願の出願前(本件特許出願日前でもある。)に「TTM170」の種苗又は収穫物を日本で業として譲渡したことが記載されており、これは過去に行われた業としての特定の譲渡の事実を示し、公然実施された発明であると認められることは、上記第4の2(2)アにおいて述べたとおりである。一方で、業としての譲渡は、出願者の意思により第三者に対して所有権を移転することであるから、業としての特定の譲渡が行われたという事実は、出願者が任意の第三者からの分譲要求に応じることを保証するものではない。また、種苗法における品種登録の要件の一つとして「出願前に公然知られた他の品種と明確に区別されること」(種苗法第3条第1項)が規定されているとおり、出願前に公然知られた品種は品種登録要件を満たさないことに照らしても、甲2の品種登録願の出願前に、出願者が任意の第三者からの分譲要求に応じる用意があったとは認められない。
以上のとおり、甲2には、トマト植物「TTM170」を作ったり入手することができるように記載されているとは認められず、トマト植物「TTM170」の発明が記載されているということができないから、異議申立理由1は理由がない。
(2)異議申立理由2(刊行物記載発明に基づく進歩性欠如)
異議申立理由2は、甲2にトマト植物「TTM170」の発明が記載されていることを前提とするものである。
しかし、上記(1)のとおり、甲2にはトマト植物「TTM170」の発明が記載されているとはいえないのだから、異議申立理由2は前提を欠いており、理由がない。
(3)異議申立理由3(公然実施発明に基づく新規性欠如)
異議申立理由3の根拠となる甲2、5、6及び7は、いずれもトマト植物TTM-170が本件特許出願日前に公然実施されていたことを立証しようとするもので、それ以外のトマト植物が本件特許出願日前に公然実施されていたことを示すものではない。
それに対して、異議申立理由3の対象である訂正前本件発明1~6の「すすかび病抵抗性トマト植物」は、本件訂正により、「すすかび病抵抗性トマト植物(ただし、すすかび病抵抗性トマト植物である、TTM-170を除く。)」と訂正され、本件発明1~6にはトマト植物TTM-170が含まれないことになったから、異議申立理由3は理由がない。
(4)異議申立理由4(公然実施発明に基づく進歩性欠如)
異議申立理由4は、甲2、5、6及び7に記載された事項を総合して、トマト植物「TTM170」が本件特許出願日前に公然実施された発明であると認定した上で、訂正前本件発明1~17が当該公然実施された発明に対して進歩性を欠如することを主張するものである。
一方、当審は、甲5は、雑誌(「農耕と園芸」2022年冬号、第77巻4号)の発行を宣伝するXの記事にすぎないことから、それ単独あるいは甲2、6及び7と組み合わせて公然実施された発明を認定するに足りる事項を記載したものとは認めない一方、上記第4の2「2 取消理由2(公然実施発明に基づく進歩性欠如)」のとおり、甲2、6及び7それぞれに記載された事項に基づいて公然実施された発明を認定し、本件発明1~8及び12~14が当該公然実施された発明に対して進歩性を欠如する旨判断した。
そこで、異議申立理由4のうち、令和7年6月24日付け取消理由通知書(決定の予告)において採用しなかった部分についての判断として、甲2、6及び7それぞれに記載された事項に基づいて認定した公然実施発明に基づいて本件発明9~11及び15~17が進歩性を欠如するといえるかどうかの判断を以下に示す。
本件発明9~11及び15~17は、いずれも、
「(G)下記(G1)、(G2)、または(G3)のポリヌクレオチド:
(G1)配列番号1の457321~517433番目の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(G2)前記(G1)の塩基配列において、1~6011個の塩基が欠失、置換、挿入および/または付加された塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド;
(G3)前記(G1)の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、すすかび病抵抗性を付与するポリヌクレオチド」
を利用する工程を含む方法の発明であって、上記「(G1)のポリヌクレオチド」は、本件のすすかび病抵抗性トマト植物のゲノム中から特定された、全長60113塩基からなる、すすかび病抵抗性を付与するゲノム領域であり、上記「(G2)のポリヌクレオチド」及び「(G3)のポリヌクレオチド」は上記「(G1)のポリヌクレオチド」の変異型である。
これに対して、上記第4の2「2 取消理由2(公然実施発明に基づく進歩性欠如)」のとおり、甲2、6及び7それぞれに記載された事項に基づいて次のとおりの公然実施発明が認定できる。
甲2発明「すすかび抵抗性を有するトマト植物である、TTM-170(TTM170)。」
甲6発明「すすかび病抵抗性の新品種トマト植物である、TTM-170。」
甲7発明「すすかび病抵抗性の新品種トマト植物である、TTM-170。」
しかし、甲2、6及び7のいずれからも、甲2、6及び7発明のトマト植物TTM-170のゲノムが解析されたという事実は認定できないし、それらのトマト植物からすすかび病抵抗性を付与するゲノム領域として上記「(G1)~(G3)のポリヌクレオチド」という特定の6万超の塩基からなる具体的な配列を導き出すことが本件特許出願日当時の当業者が容易になし得ることであるといえる根拠もない。
そうすると、上記「(G1)~(G3)のポリヌクレオチド」を利用する工程を含む方法の発明である本件発明9~11及び15~17は、甲2、6及び7それぞれに記載された事項に基づいて認定した公然実施発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、異議申立理由4のうち、令和7年6月24日付け取消理由通知書(決定の予告)において採用しなかった部分は、理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、本件特許の請求項13及び14に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである。また、本件発明1~8、12~14は、本件特許出願前に甲2発明、甲6発明及び甲7発明として公然実施された発明並びに周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~8、12~14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1~8、12~14に係る特許は、特許法第113条第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、特許異議申立理由によっては、本件発明9~11、15~17に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件発明9~11、15~17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700296