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特許異議申立

2024-700237

冷凍サイクル装置における冷媒としての使用

審判番号
2024-700237
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-202400
登録番号
7343805
請求日
2024年03月13日
審決日
2025年12月22日
公報発行日
2026年04月24日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】ダイキン工業株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
  • 【異議申立人】伊藤 裕美
審判長/審判官
  • 審判長 水野 治彦
  • 審判官 鈴木 充
  • 審判官 平瀬 知明
分類
P1651.851-YAA(C09K) / P1651.853-YAA(C09K) / P1651.121-YAA(C09K) / P1651.537-YAA(C09K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7343805号発明「冷凍サイクル装置における冷媒としての使用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7343805号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし11〕について訂正することを認める。 特許第7343805号の請求項1ないし3、5及び7ないし11に係る特許を維持する。 特許第7343805号の請求項4及び6に係る特許についての特許異議申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7343805号の請求項1ないし11に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和3年12月14日に出願され、令和5年9月5日に特許権の設定登録がされ、同年9月13日に特許掲載公報が発行された。 その後、特許異議申立人伊藤裕美(以下「申立人」という。)により請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和6年 3月13日 特許異議の申立て 令和6年 6月21日付け 取消理由通知書 同年 8月26日 特許権者より意見書、訂正請求書の提出 同年11月14日 特許権者より訂正請求書についての手続補正書(方式)の提出 令和7年 1月10日 申立人による意見書の提出 令和7年 3月10日付け 取消理由通知書(決定の予告) 同年 5月12日 特許権者より意見書、訂正請求書の提出 同年 8月 8日 特許権者より訂正請求書についての手続補正書(方式)の提出 (以下、この手続補正書により補正がされた訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。また、本件訂正請求この訂正請求による訂正を「本件訂正」という。) 同年 9月24日 申立人による意見書の提出 なお、令和6年8月26日に特許権者がした訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 本件訂正の適否 1 訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度が120℃以下に維持される、冷凍サイクル装置(1)における、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロカーボンを含む混合冷媒と、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロオレフィンを含む混合冷媒と、の少なくともいずれかの冷媒としての使用。」との記載を、 「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度が120℃以下に維持され、前記油溜め部における前記冷凍機油の温度は、下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される、冷凍サイクル装置(1)における、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロカーボンを含む混合冷媒と、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロオレフィンを含む混合冷媒と、の少なくともいずれかの冷媒としての使用。0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15)」と訂正する。訂正後の請求項1を引用する請求項7~11も同様に訂正する。(下線は訂正箇所を示す。以下の訂正事項においても同様。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2の「前記冷凍機油は、酸捕捉剤を含有しないか、または、3.0重量%未満の酸捕捉剤を含有し、前記油溜め部における前記冷凍機油の温度が100℃以下に維持される、冷凍サイクル装置(1)における、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロカーボンを含む混合冷媒と、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロオレフィンを含む混合冷媒と、の少なくともいずれかの冷媒としての使用。」との記載を、 「前記冷凍機油は、2.0重量%以上3.0重量%未満の酸捕捉剤を含有し、前記油溜め部における前記冷凍機油の温度が100℃以下に維持され、前記油溜め部における前記冷凍機油の温度は、下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される、冷凍サイクル装置(1)における、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロカーボンを含む混合冷媒と、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロオレフィンを含む混合冷媒と、の少なくともいずれかの冷媒としての使用。0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15)」と訂正する。訂正後の請求項2を引用する請求項7~11も同様に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3の「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度が100℃以下に維持される、冷凍サイクル装置(1)における、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロカーボンを含む混合冷媒と、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロオレフィンを含む混合冷媒と、の少なくともいずれかの冷媒としての使用。」との記載を、 「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度が100℃以下に維持され、前記油溜め部における前記冷凍機油の温度は、下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される、冷凍サイクル装置(1)における、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロカーボンを含む混合冷媒と、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロオレフィンを含む混合冷媒と、の少なくともいずれかの冷媒としての使用。0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15)」と訂正する。訂正後の請求項3を引用する請求項7~11も同様に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5の「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度が80℃以下に維持される、冷凍サイクル装置(1)における、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロカーボンを含む混合冷媒と、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロオレフィンを含む混合冷媒と、の少なくともいずれかの冷媒としての使用。」との記載を、 「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度が80℃以下に維持され、前記油溜め部における前記冷凍機油の温度は、下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される、冷凍サイクル装置(1)における、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロカーボンを含む混合冷媒と、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロオレフィンを含む混合冷媒と、の少なくともいずれかの冷媒としての使用。0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15)」と訂正する。訂正後の請求項5を引用する請求項7~11も同様に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6を削除する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7の「請求項1から6のいずれか1項」との記載を、「請求項1,2,3,5のいずれか1項」と訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項8の「請求項1から7のいずれか1項」との記載を、「請求項1,2,3,5,7のいずれか1項」と訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項9の「請求項1から8のいずれか1項」との記載を、「請求項1,2,3,5,7,8のいずれか1項」と訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項10の「請求項1から9のいずれか1項」との記載を、「請求項1,2,3,5,7,8,9のいずれか1項」と訂正する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項11の「請求項1から10のいずれか1項」との記載を、「請求項1,2,3,5,7,8,9,10のいずれか1項」と訂正する。 2 訂正の適否についての判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度」について、 「下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される 0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15)」 という発明特定事項を直列的に付加して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項1は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項6の記載並びに明細書の段落【0112】及び【0113】等の記載事項に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は上記アのとおり、「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度」について、 「下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される 0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15)」 という発明特定事項を直列的に付加して限定するものであり、これにより、油溜め部における冷凍機油の温度範囲は、訂正前の請求項1の温度範囲よりも狭くなる(上限値が低くなる)のであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正事項2は、訂正前の請求項2の「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度」について、 「下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される 0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15)」 という発明特定事項を直列的に付加して限定するものである。また、訂正前の請求項2において「前記冷凍機油は、酸補足剤を含有しないか、または、3.0重量%未満の酸補足剤を含有し」であったものを、「前記冷凍機油は、2.0重量%以上3.0重量%未満の酸補足剤を含有し」とすることで酸補足剤の含有割合の範囲を狭く限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項2は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項6の記載並びに明細書の段落【0112】及び【0113】等の記載事項に基づくものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2は上記アのとおり、「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度」について、 「下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される 0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15)」 という発明特定事項を直列的に付加して限定するものであり、これにより、油溜め部における冷凍機油の温度範囲は、訂正前の請求項2の温度範囲よりも狭くなる(上限値が低くなる)。 また、酸補足剤の含有割合の範囲も訂正前の請求項2よりも狭く限定されるものである。 よって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的 訂正事項3は、訂正前の請求項3の「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度」について、 「下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される 0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15)」 という発明特定事項を直列的に付加して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項3は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項6の記載並びに明細書の段落【0112】及び【0113】等の記載事項に基づくものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項3は上記アのとおり、「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度」について、 「下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される 0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15)」 という発明特定事項を直列的に付加して限定するものであり、これにより、油溜め部における冷凍機油の温度範囲は、訂正前の請求項3の温度範囲よりも狭くなる(上限値が低くなる)のであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (4)訂正事項4及び6について ア 訂正の目的 訂正事項4及び6は、それぞれ、請求項4及び6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項4及び6は、それぞれ、請求項4及び6を削除するものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項4及び6は、それぞれ、請求項4及び6を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (5)訂正事項5について ア 訂正の目的 訂正事項5は、訂正前の請求項5の「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度」について、 「下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される 0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15)」 という発明特定事項を直列的に付加して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項5は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項6の記載並びに明細書の段落【0112】及び【0113】等の記載事項に基づくものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項5は上記アのとおり、「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度」について、 「下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される 0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15)」 という発明特定事項を直列的に付加して限定するものであり、これにより、油溜め部における冷凍機油の温度範囲は、訂正前の請求項5の温度範囲よりも狭くなる(上限値が低くなる)のであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (6)訂正事項7ないし11について ア 訂正の目的 訂正事項7ないし11は、訂正事項4及び6において、請求項4及び6が削除されたことに伴い、訂正前の請求項7ないし11が請求項4及び6を引用していたものを、請求項4及び6を引用しないものとする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項7ないし11は、訂正前の請求項7ないし11が請求項4及び6を引用していたものを、請求項4及び6を引用しないものとする訂正であるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項7ないし11は、訂正前の請求項7ないし11が請求項4及び6を引用していたものを、請求項4及び6を引用しないものとする訂正であり、これにより実質上特許請求の範囲が拡張され、又は変更されることはないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (7)一群の請求項について ア 訂正前の請求項1ないし11について、請求項6ないし11は、請求項1を引用するものであるから、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。よって、請求項1及び6ないし11は一群の請求項を構成する。 イ 訂正前の請求項1ないし11について、請求項6ないし11は、請求項2を引用するものであるから、訂正事項2によって訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。よって、請求項2及び6ないし11は一群の請求項を構成する。 ウ 訂正前の請求項1ないし11について、請求項6ないし11は、請求項3を引用するものであるから、訂正事項3によって訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。よって、請求項3及び6ないし11は一群の請求項を構成する。 エ 訂正前の請求項1ないし11について、請求項6ないし11は、請求項4を引用するものであるから、訂正事項4によって訂正される請求項4に連動して訂正されるものである。よって、請求項4及び6ないし11は一群の請求項を構成する。 オ 訂正前の請求項1ないし11について、請求項6ないし11は、請求項5を引用するものであるから、訂正事項5によって訂正される請求項5に連動して訂正されるものである。よって、請求項5ないし11は一群の請求項を構成する。 カ そして、上記アないしオの一群の請求項は共通する請求項6ないし11を備え、これら各一群の請求項は組み合わされて、請求項1ないし11が一つの一群の請求項を構成する。よって、訂正前の請求項1ないし11に対応する訂正後の請求項1ないし11は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (8)令和7年9月24日提出の意見書(以下、単に「意見書」という。)における申立人の主張について 申立人は、意見書の「(2-1)取消理由に対する意見1」において、概略以下の主張をしている。 訂正特許請求の範囲の請求項1~3、5の「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度は、下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される、」という構成は、当該式に対して「冷媒回路の空気の圧力」の数値を代入すると、冷凍機油の温度約40℃となるから、「冷凍機油の温度が約40℃以下に維持される」ことと実質的に同義である。すなわち、訂正特許請求の範囲の請求項1~3、5に追加された事項によって、油溜め部における冷凍機油の温度に関する技術的要件が変更されたといえる。 当該主張について検討すると、訂正特許請求の範囲の請求項1~3、5に追加された事項によって、油溜め部における冷凍機油の温度範囲は訂正前の温度範囲よりも単に狭くなる(上限値が低くなる)ものであるから、冷凍機油の温度に関する技術的要件が変更されたとはいえない。 したがって、請求人の主張は採用できない。 (9)小括 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、訂正後の請求項〔1ないし11〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記のとおり訂正が認められるから、本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明11」という。)は、令和7年5月12日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 圧縮機(11、11a)を有する冷媒回路(10)を備え、 前記圧縮機は、冷媒を圧縮する圧縮要素(21)と、冷凍機油が貯留される油溜め部(37、37a)と、を有し、 前記冷媒回路の内部の空気の圧力は667Pa以下であり、 前記冷凍機油は、3.0重量%以上5.0重量%以下の酸捕捉剤を含有し、 前記油溜め部における前記冷凍機油の温度が120℃以下に維持され、 前記油溜め部における前記冷凍機油の温度は、下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される、 冷凍サイクル装置(1)における、 1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロカーボンを含む混合冷媒と、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロオレフィンを含む混合冷媒と、の少なくともいずれかの冷媒としての使用。 0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15) 【請求項2】 圧縮機(11、11a)を有する冷媒回路(10)を備え、 前記圧縮機は、冷媒を圧縮する圧縮要素(21)と、冷凍機油が貯留される油溜め部(37、37a)と、を有し、 前記冷媒回路の内部の空気の圧力は1333Pa以下であり、 前記冷凍機油は、2.0重量%以上3.0重量%未満の酸捕捉剤を含有し、 前記油溜め部における前記冷凍機油の温度が100℃以下に維持され、 前記油溜め部における前記冷凍機油の温度は、下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される、 冷凍サイクル装置(1)における、 1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロカーボンを含む混合冷媒と、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロオレフィンを含む混合冷媒と、の少なくともいずれかの冷媒としての使用。 0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15) 【請求項3】 圧縮機(11、11a)を有する冷媒回路(10)を備え、 前記圧縮機は、冷媒を圧縮する圧縮要素(21)と、冷凍機油が貯留される油溜め部(37、37a)と、を有し、 前記冷媒回路の内部の空気の圧力は2000Pa以下であり、 前記冷凍機油は、3.0重量%以上5.0重量%以下の酸捕捉剤を含有し、 前記油溜め部における前記冷凍機油の温度が100℃以下に維持され、 前記油溜め部における前記冷凍機油の温度は、下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される、 冷凍サイクル装置(1)における、 1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロカーボンを含む混合冷媒と、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロオレフィンを含む混合冷媒と、の少なくともいずれかの冷媒としての使用。 0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15) 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 圧縮機(11、11a)を有する冷媒回路(10)を備え、 前記圧縮機は、冷媒を圧縮する圧縮要素(21)と、冷凍機油が貯留される油溜め部(37、37a)と、を有し、 前記冷媒回路の内部の空気の圧力は4000Pa以下であり、 前記冷凍機油は、3.0重量%以上5.0重量%以下の酸捕捉剤を含有し、 前記油溜め部における前記冷凍機油の温度が80℃以下に維持され、 前記油溜め部における前記冷凍機油の温度は、下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される、 冷凍サイクル装置(1)における、 1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロカーボンを含む混合冷媒と、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロオレフィンを含む混合冷媒と、の少なくともいずれかの冷媒としての使用。 0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15) 【請求項6】 (削除) 【請求項7】 前記冷凍機油には、ポリビニルエーテルとポリオールエステルの少なくともいずれかが含まれる、 請求項1,2,3,5のいずれか1項に記載の冷凍サイクル装置における冷媒としての使用。 【請求項8】 前記冷媒回路の内部の水分量は、前記冷媒回路に封入される前記冷媒の量に対して300ppm以下である、 請求項1,2,3,5,7のいずれか1項に記載の冷凍サイクル装置における冷媒としての使用。 【請求項9】 前記冷媒回路は、ニードル部(93b)を有する膨張弁(9)を有しており、 前記ニードル部は、SUS製または真鍮製である、 請求項1,2,3,5,7,8のいずれか1項に記載の冷凍サイクル装置における冷媒としての使用。 【請求項10】 前記冷媒は、1,2-ジフルオロエチレンとR32からなる冷媒、1,2-ジフルオロエチレンとR1234yfからなる冷媒、1,2-ジフルオロエチレンとR32とR1234yfからなる冷媒 、のいずれかである、 請求項1,2,3,5,7,8,9のいずれか1項に記載の冷凍サイクル装置における冷媒としての使用。 【請求項11】 前記冷凍サイクル装置は、前記油溜め部における前記冷凍機油の温度を検知する温度検知部(79)を備えており、前記温度検知部の検知結果に基づいて前記圧縮機の回転数が制御される、 請求項1,2,3,5,7,8,9,10のいずれか1項に記載の冷凍サイクル装置における冷媒としての使用。」 第4 取消理由の概要 当審が令和7年3月10日付け取消理由通知書で通知した取消理由(決定の予告)(以下「決定の予告」という。)の概要は、以下のとおりである。 理由1.(進歩性)本件特許の請求項1ないし5及び7ないし10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項1ないし5及び7ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、その発明に係る特許は特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。 理由2.(サポート要件)本件特許の請求項4及び6ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、その発明に係る特許は特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである。 <引用文献等一覧> 甲第1号証:国際公開第2020/017522号(以下「甲1」という。) 甲第2号証:公益社団法人日本冷凍空調学会 SIによる上級冷凍受験テキスト 第7次改訂第2刷 平成24年4月13日 p177(以下「甲2」という。) 甲第6号証:特開2008-25037号公報(以下「甲6」という。) 甲第7号証:国際公開第2017/068909号(以下「甲7」という。) 甲第12号証:国際公開第2015/136980号(以下「甲12」という。) 甲第13号証:特開2009-222361号公報(以下「甲13」という。) 甲第14号証:特開平8-334280号公報(以下「甲14」という。) 第5 甲号証に記載された発明、事項等 1 甲1 甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下同様。)。 (1)「[0356] (26)上記の各グループにおける冷媒の詳細 上記の第1~第25グループそれぞれで、冷媒として、第1観点の冷媒を採用する。第1観点の冷媒は、以下の、第1の冷媒X、第2の冷媒Y、第3の冷媒A、第4の冷媒B、第5の冷媒C、第6の冷媒D、あるいは、第7の冷媒Eである。 [0357] 第1の冷媒Xは、CO2、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))、ジフルオロメタン(R32)及び2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(R1234yf)を含む。 [0358] 第2の冷媒Yは、シス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を含む。 [0359] 第3の冷媒Aは、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))、ジフルオロメタン(HFC-32)及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を含む。 [0360] 第4の冷媒Bは、HFO-1132(E)、HFO-1123及びHFO-1234yfを含み。 [0361] 第5の冷媒Cは、HFO-1132(E)及びHFO-1234yfを含む。 [0362] 第6の冷媒Dは、HFC-32、HFO-1234yf、並びに、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)及びテトラフルオロエチレン(FO-1114)の少なくとも一種を含む。」 (2)「[0505] 冷凍機油の基油としては、例えば、ポリアルキレングリコール(PAG)、ポリオールエステル(POE)及びポリビニルエーテル(PVE)からなる群より選択される少なくとも一種が好ましい。 [0506] 冷凍機油は、基油に加えて、さらに添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、酸化防止剤、極圧剤、酸捕捉剤、酸素捕捉剤、銅不活性化剤、防錆剤、油性剤及び消泡剤からなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。」 (3)「[1089] (1-3-3-13-4)冷媒C4 本開示の組成物に含まれる冷媒は、一つの態様において、HFO-1132(E)及びHFO-1234yfを含有し、HFO-1132(E)及びHFO-1234yfの全質量に対して、HFO-1132(E)の含有割合が21.0~28.4質量%であり、HFO-1234yfの含有割合が79.0~71.6質量%である。この冷媒を「冷媒C4」ということがある。 [1090] 冷媒C4は、上述の構成を有することによって、(1)GWPが十分小さいこと(100以下)、(2)R1234yfと同等程度のCOPを有すること、及び(3)R1234yfと比較して140%以上の冷凍能力を有すること、及び(4)ASHRAEの規格で微燃性(クラス2L)であることという、諸特性を有する。更にこの場合、冷媒C4は、飽和温度-10℃の飽和圧力が、0.380MPa以上0.420MPa以下となり、市販のR1234yf用冷凍装置に対して大きな設計変更なく適用することができる。」 (4)「[1095] 冷媒C4において、HFO-1132(E)及びHFO-1234yfの全質量に対して、HFO-1132(E)の含有割合は好ましくは21.5~28.0質量%であり、HFO-1234yfの含有割合は好ましくは78.5~72.0質量%である。この場合、冷媒C4は、GWPが100以下であること、R1234yfに対するCOPが98%以上であること、R1234yfに対する冷凍能力が140%以上であること、ASHRAEの規格で微燃性(クラス2Lであること)、吐出温度が65.0℃以下であること、臨界温度が83.5℃以上であることという、諸特性を有する。更にこの場合、冷媒C4は、飽和温度-10℃の飽和圧力が、0.383MPa以上0.418MPa以下となり、市販のR1234yf用冷凍装置に対して大きな設計変更なく適用することができる。」 (5)「[1519] (2-3)添加剤 冷凍機油には、1種または2種以上の添加剤が含まれていてもよい。 [1520] 添加剤としては、酸捕捉剤、極圧剤、酸化防止剤、消泡剤、油性剤、銅不活性化剤等の金属不活化剤、、摩耗防止剤、および、相溶化剤等が挙げられる。」 (6)「[1536] 上記各添加剤の配合量は、冷凍機油に含まれる割合が0.01質量%以上5質量%以下であってよく、0.05質量%以上3質量%以下であることが好ましい。なお、冷媒組成物と冷凍機油とを合わせた冷凍機用作動流体中の添加剤の配合割合が、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。」 (7)「[1569] 室外熱交換器23の液側端から流出した冷媒は、室外膨張弁24を通過する際に減圧される。なお、室外膨張弁24は、例えば、圧縮機21に吸入される冷媒の過熱度が所定の過熱度目標値となるように制御される。ここで、圧縮機21の吸入冷媒の過熱度は、例えば、吸入圧力(吸入圧力センサ63の検出圧力)に相当する飽和温度を、吸入温度(吸入温度センサ62の検出温度)から差し引くことにより求めることができる。なお、室外膨張弁24の弁開度制御の手法は、特に限定されず、例えば、圧縮機21から吐出される冷媒の吐出温度が所定温度となるように制御されてもよいし、圧縮機21から吐出される冷媒の過熱度が所定条件を満たすように制御されてもよい。」 (8)「[2450] (10)第10グループの技術の実施形態 (10-1)空調機1の構成 図10Aは、一実施形態に係る圧縮機100が利用される空調機1の冷媒回路図である。空調機1は、圧縮機100を備えた冷凍サイクル装置である。圧縮機100が採用される空調機1として、「冷房運転専用の空調機」、「暖房運転専用の空調機」、及び「四路切換弁を用いて冷房運転および暖房運転のいずれかに切り換え可能な空調機」などが挙げられる。ここでは、「四路切換弁を用いて冷房運転および暖房運転のいずれかに切り換え可能な空調機」を用いて説明する。」 (9)「[2453] 本実施形態では、冷媒回路11には、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行うための冷媒が充填されている。当該冷媒は、(1)で説明したいずれかの冷媒であり、上述した冷媒X,冷媒Y,冷媒A~冷媒Eのいずれかを用いることができる。また、冷媒回路11には、当該混合冷媒と共に、冷凍機油が充填されている。」 (10)「[2465] ケーシング20には、圧縮機構60、モータ70、クランクシャフト80、および下部軸受90を含む圧縮機100の構成機器が収容される。また、ケーシング20の下部には油溜まり空間Soが形成される。油溜まり空間Soには、圧縮機構60等を潤滑するための冷凍機油Oが溜められる。なお、冷凍機油Oは、上述の冷凍機油を言う。」 (11)「[図10A] [図:0001434095000001.jpg] 」 (12)「[図10B] [図:0001434095000002.jpg] 」 (13)上記(1)及び(9)から、冷媒Aである、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))、ジフルオロメタン(HFC-32)及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を含む冷媒と、冷媒Cである、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を含む冷媒と、の少なくともいずれかの冷媒が、冷媒回路11に、冷媒として使用されることが把握できる。 上記記載事項、認定事項及び図面の図示内容から、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。 〔甲1発明〕 「圧縮機21を有する冷媒回路10を備え、 前記圧縮機21は、冷媒を圧縮する圧縮機構60と、冷凍機油Oが溜められる油溜まり空間Soと、を有し、 前記冷凍機油Oは、酸捕捉剤を含んでいてもよい、 冷凍サイクル装置における、 トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))、ジフルオロメタン(HFC-32)及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を含む冷媒と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を含む冷媒と、の少なくともいずれかの冷媒としての使用。」 2 甲2 甲2には、以下の事項が記載されている。 「c.空気の侵入防止 冷凍・空調装置が空気を吸い込むと,空気は凝縮器で凝縮できないので不凝縮ガスとして溜まり,また侵入した空気中の水分は,冷媒に溶け込んで冷凍サイクル内を循環する.したがって,空気の侵入はサイクル性能や信頼性に影響を及ぼす.冷媒の大気放出防止の観点からも,装置に漏洩箇所がある場合には,すみやかに修理する.また空気の侵入を防ぐため,負圧運転はできるだけ避ける.」(177ページ左欄34行ないし右欄5行) 「d.真空ポンプを用いた充分な装置の乾燥 冷媒充てん前に装置内を乾燥させるため,真空ポンプを用いて装置内の水分を含んだ空気を排気する.装置内を真空にすれば,水分が蒸発してこれを装置外に排除することができる.真空乾燥させるためには,装置の大きさや構成によっても異なるが,0.67kPa以上の高真空に到達してから,数時間保持することが必要になる場合もある.」(177ページ右欄6ないし14行) 上記記載事項から、甲2には次の事項(以下「甲2記載事項1」及び「甲2記載事項2」という。)が記載されているものと認められる。 〔甲2記載事項1〕 「冷凍・空調装置が空気を吸い込むと、空気は凝縮器で凝縮できないので不凝縮ガスとして溜まり、侵入した空気中の水分は、冷媒に溶け込んで冷凍サイクル内を循環し、空気の侵入はサイクル性能や信頼性に影響を及ぼすため、装置に漏洩箇所がある場合には、すみやかに修理し、空気の侵入を防ぐため、負圧運転はできるだけ避けること。」 〔甲2記載事項2〕 「冷媒充てん前に装置内を乾燥させるため、真空ポンプを用いて装置内の水分を含んだ空気を排気し、真空乾燥させるために、0.67kPa以上の高真空に到達してから、数時間保持すること。」 3 甲6 甲6には、以下の事項が記載されている。 「【0059】 そして、このような構成を有する圧縮機21において、圧縮機モータ73を駆動すると、吸入管81及び低圧空間Q1を通じて圧縮機ケーシング71内に低圧の冷媒が流入し、圧縮要素72によって圧縮されて高圧の冷媒となった後、吐出管82を通じて圧縮機ケーシング71の高圧空間Q2から流出する。ここで、圧縮要素72の吐出口72bから高圧空間Q2に流入した高圧の冷媒は、主として、図2における吸入冷媒の流れを示す二点鎖線で描かれた矢印に示されるように、油溜まり部71dに溜まった冷凍機油の油上面と接するように流れた後、圧縮機モータ73と圧縮機ケーシング71との隙間やステータ73aとロータ73bとの隙間を通じて上昇して、吐出管82を通じて高圧空間Q2内から流出することになる。そして、油溜まり部71dに溜まった冷凍機油は、その油上面が冷媒に接しているため、油上面付近の冷凍機油は冷媒の温度に近づき、そして、油溜まり部71dを形成する圧縮機ケーシング71の下部(主として、下部鏡板71c)の壁面付近の冷凍機油は壁面の温度、すなわち、圧縮機21外部の雰囲気温度に近づくことから、油溜まり部71dに溜まった冷凍機油には、油溜まり部71dの油上面に接する冷媒の温度と圧縮機21外部の雰囲気温度との温度差に相当する温度分布が生じることになる。そして、油溜まり部71dの油上面に接する冷媒は、圧縮要素72によって圧縮されることに伴って高温になった高圧の冷媒であり、室内空気の温度や室外空気の温度に比べて高い温度を示すことから、圧縮機21外部の雰囲気温度との温度差は大きくなる傾向となる。すなわち、本実施形態の空気調和装置1は、圧縮機21内部の油溜まり部71dに溜まった冷凍機油とこの冷凍機油に接する冷媒との温度差が大きくなるように構成されており、圧縮機21内部の油溜まり部71dに溜まった冷凍機油の温度分布が生じやすくなっている。」 上記記載事項から、甲6には次の事項(以下「甲6記載事項」という。)が記載されているものと認められる。 〔甲6記載事項〕 「圧縮機21の油溜まり部71dに溜まった冷凍機油は、その油上面が冷媒に接しているため、油上面付近の冷凍機油は冷媒の温度に近づき、油溜まり部71dを形成する圧縮機ケーシング71の下部の壁面付近の冷凍機油は、圧縮機21外部の雰囲気温度に近づくこと。」 4 甲7 甲7には、以下の事項が記載されている。 (1)「[0024] まず、冷媒回路15における冷媒の流れについて説明する。圧縮機10は、低温・低圧の冷媒を吸入し、圧縮して、高温・高圧の冷媒を吐出する。圧縮機10から吐出された高温・高圧の冷媒は、油分離器11、冷媒流路切替装置12を介して、熱源側熱交換器13に流入する。そして、熱源側熱交換器13に流れる冷媒は、ファン14から供給される室外空気と熱交換して凝縮する。熱源側熱交換器13で凝縮された冷媒は、室外機1から流出して、主管3と枝管4a,4bを通って室内機2a,2bに流入する。」 (2)「[0123] 次に、冷凍機油の流れを以下に示す。圧縮機10のシェル内に溜まっている冷凍機油は、冷媒によって冷媒と同等温度まで加熱され、圧縮機10から吐出される。圧縮機10から吐出された高温の冷凍機油は、油分離器11で分離され、第1バイパス流路70を介して補助熱交換器71に流入する。そして、補助熱交換器71を流れる冷凍機油は、ファン14から供給される室外空気に放熱しながら室外空気と同等温度まで冷却される。熱源側熱交換器13から流出した冷凍機油は、第1流量調整装置72を通って、圧縮機10へ再度吸入される。」 上記記載事項から、甲7には次の事項(以下「甲7記載事項」という。)が記載されているものと認められる。 〔甲7記載事項〕 「圧縮機10を有する冷媒回路15において、圧縮機10のシェル内に溜まっている冷凍機油は、冷媒によって冷媒と同等温度まで加熱され、圧縮機10から吐出されること。」 5 甲12 甲12には、以下の事項が記載されている。 「[0062] 水分があると、エチレン系フッ化炭化水素の分解が促進される。そのため、本実施の形態では、さらに、冷媒回路11a,11bにおける水分量を300ppm以下にする。また、冷凍機油に溶け込んだ冷媒の分解を防止するため、冷凍機油として、飽和水分量が300ppm以下の冷凍機油を使用する。これにより、冷凍サイクル装置10の化学的安定性が向上する。」 上記記載事項から、甲12には次の事項(以下「甲12記載事項」という。)が記載されているものと認められる。 〔甲12記載事項〕 「冷媒回路11a,11bにおける水分量を300ppm以下にすること。」 6 甲13 甲13には、以下の事項が記載されている。 「【0063】 上記膨張弁(12)において、ニードル(50)はステンレス鋼で構成されている。具体的に、上記ニードル(50)の材質は、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼又は析出硬化系系ステンレス鋼である。より具体的には、上記ニードル(50)は、JIS SUS301、JIS SUS302、JIS SUS304、JIS SUS305、JIS SUS321、JIS SUS430、JIS SUS416、JIS SUS440又はJIS SUS631で構成されている。」 上記記載事項から、甲13には次の事項(以下「甲13記載事項」という。)が記載されているものと認められる。 〔甲13記載事項〕 「膨張弁(12)において、ニードル(50)はステンレス鋼で構成すること。」 7 甲14 甲14には、以下の事項が記載されている。 (1)「【0010】前記弁本体10は、その下端開口雌ねじ部に螺着されるヒッチング部材15を包含し、前記ダイヤフラム4と共動して該ダイヤフラムの下方への変位を規制する変位規制部材16と、ダイヤフラム4の変位を下方に伝達する作動棒17(この作動棒は図1において1本だけを示しているが、実際には弁受け可動体18の円周方向に所定の間隔を存して3本配置され、この各作動棒17が弁本体10の3本の縦孔に上下動できるように挿通されている)と、オリフィス30の開口部に形成される弁座に接離する弁体9(図では弁受け可動体18に保持されたニードル弁を示している)と、この弁体9を上方(弁座19の方向)に付勢するバイアスばね20と、このばね20のバイアス力を調整するための調節部材21とが組込まれている。」 (2)「【0013】以上のような構成を有する膨張弁にあって、本発明においては、オリフィス30にオリフィス部材100を固着したものである。図2はオリフィス部材100がオリフィス30内に固着された状態を示す。オリフィス部材100は、弁本体10の材料に比べて硬度の高い金属材料でつくられる。具体的には、弁本体10が黄銅でつくられる場合に、オリフィス部材100はステンレススチールで形成される。弁体9もステンレススチール等で形成される。」 上記記載事項から、甲14には次の事項(以下「甲14記載事項」という。)が記載されているものと認められる。 〔甲14記載事項〕 「膨張弁をニードル弁とし、弁本体10が黄銅でつくられる場合に、オリフィス部材100はステンレススチールで形成され、弁体9もステンレススチール等で形成されること。」 第6 理由1(進歩性)についての当審の判断 1 本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを、その機能、構成又は技術的意義を考慮して対比する。 甲1発明の「圧縮機21」は、本件発明1の「圧縮機(11、11a)」に相当し、以下同様に、「冷媒回路10」は「冷媒回路(10)」に、「圧縮機構60」は「圧縮要素(21)」に、「油溜まり空間So」は「油溜め部(37、37a)」に、「冷凍機油O」は「冷凍機油」に、「酸捕捉剤」は「酸捕捉剤」に、「冷凍サイクル装置」は「冷凍サイクル装置(1)」に、それぞれ相当する。 そうすると、甲1発明の「圧縮機21を有する冷媒回路10を備え」は、本件発明1の「圧縮機(11、11a)を有する冷媒回路(10)を備え」に相当し、同様に、「前記圧縮機21は、冷媒を圧縮する圧縮機構60と、冷凍機油Oが溜められる油溜まり空間Soと、を有し」は「前記圧縮機は、冷媒を圧縮する圧縮要素(21)と、冷凍機油が貯留される油溜め部(37、37a)と、を有し」に相当する。 甲1発明の「前記冷凍機油Oは、酸捕捉剤を含んでいてもよい」ことと、本件発明1の「前記冷凍機油は、3.0重量%以上5.0重量%以下の酸捕捉剤を含有」することとは、「前記冷凍機油は、酸捕捉剤を含有」することという限りにおいて一致する。 甲1発明の「トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))」は1,2-ジフルオロエチレンであり、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)」はハイドロフルオロオレフィンであるから、甲1発明の「トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を含む冷媒」は、本件発明1の「1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロカーボンを含む混合冷媒と、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロオレフィンを含む混合冷媒と 、の少なくともいずれかの冷媒」に相当する。 よって、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。 〔一致点〕 「圧縮機を有する冷媒回路を備え、 前記圧縮機は、冷媒を圧縮する圧縮要素と、冷凍機油が貯留される油溜め部と、を有し、 前記冷凍機油は、酸捕捉剤を含有する、 冷凍サイクル装置における、 1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロカーボンを含む混合冷媒と、1,2-ジフルオロエチレンおよび1種類以上のハイドロフルオロオレフィンを含む混合冷媒と、の少なくともいずれかの冷媒としての使用。」 〔相違点1-1〕 本件発明1においては、「冷媒回路の内部の空気の圧力は667Pa以下」であるのに対して、甲1発明においては、冷媒回路の内部の空気の圧力が不明な点。 〔相違点1-2〕 本件発明1においては、冷凍機油は、「3.0重量%以上5.0重量%以下の」酸捕捉剤を含有するのに対して、甲1発明においては、冷凍機油が酸捕捉剤を含んでいてもよいが、その量は不明な点。 〔相違点1-3〕 本件発明1においては、 「油溜め部における冷凍機油の温度が120℃以下に維持され、 前記油溜め部における前記冷凍機油の温度は、下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される、 0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15)」 のに対して、 甲1発明においては、冷凍機油の温度が不明な点。 事案に鑑み、上記相違点1-3について検討する。 甲2、6、7、12ないし14の記載事項は、上記第5の2ないし7のとおりであって、上記相違点1-3に係る本件発明1の発明特定事項を開示ないし示唆するものではない。 また、申立人が提出した甲第3号証ないし甲第5号証及び甲第8号証ないし甲第11号証(以下、それぞれ「甲3」ないし「甲5」及び「甲8」ないし「甲11」という。)にも、上記相違点1-3に係る本件発明1の発明特定事項は記載されておらず、示唆もされていない。 さらに、上記相違点1-3に係る本件発明1の発明特定事項が、周知の技術である、あるいは、当業者が適宜決定し得る設計的事項であるといえる根拠もない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし甲14に記載された事項等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 本件発明2について 本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記の本件発明1と甲1発明との対比における一致点と同様の一致点を有し、以下の相違点を有する。 〔相違点2-1〕 本件発明2においては、「冷媒回路の内部の空気の圧力は1333Pa以下」であるのに対して、甲1発明においては、冷媒回路の内部の空気の圧力が不明な点。 〔相違点2-2〕 本件発明2においては、冷凍機油は、「2.0重量%以上3.0重量%未満の」酸捕捉剤を含有するのに対して、甲1発明においては、冷凍機油が酸捕捉剤を含んでいてもよいが、その量は不明な点。 〔相違点2-3〕 本件発明2においては、「油溜め部における冷凍機油の温度が100℃以下に維持され、 前記油溜め部における前記冷凍機油の温度は、下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される、 0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15)」 のに対して、 甲1発明においては、冷凍機油の温度が不明な点。 事案に鑑み、上記相違点2-3について検討する。 甲2、6、7、12ないし14の記載事項は、上記第5の2ないし7のとおりであって、上記相違点2-3に係る本件発明2の発明特定事項を開示ないし示唆するものではない。 また、申立人が提出した甲3ないし甲5及び甲8ないし甲11にも、上記相違点2-3に係る本件発明2の発明特定事項は記載されておらず、示唆もされていない。 さらに、上記相違点2-3に係る本件発明2の発明特定事項が、周知の技術である、あるいは、当業者が適宜決定し得る設計的事項であるといえる根拠もない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明及び甲2ないし甲14に記載された事項等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 本件発明3について 本件発明3と甲1発明とを対比すると、上記の本件発明1と甲1発明との対比における一致点と同様の一致点を有し、以下の相違点を有する。 〔相違点3-1〕 本件発明3においては、「冷媒回路の内部の空気の圧力は2000Pa以下」であるのに対して、甲1発明においては、冷媒回路の内部の空気の圧力が不明な点。 〔相違点3-2〕 本件発明3においては、冷凍機油は、「3.0重量%以上5.0重量%以下の」酸捕捉剤を含有するのに対して、甲1発明においては、冷凍機油が酸捕捉剤を含んでいてもよいが、その量は不明な点。 〔相違点3-3〕 本件発明3においては、「油溜め部における冷凍機油の温度が100℃以下に維持され、 前記油溜め部における前記冷凍機油の温度は、下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される、 0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15)」 のに対して、甲1発明においては、冷凍機油の温度が不明な点。 事案に鑑み、上記相違点3-3について検討する。 甲2、6、7、12ないし14の記載事項は、上記第5の2ないし7のとおりであって、上記相違点3-3に係る本件発明3の発明特定事項を開示ないし示唆するものではない。 また、申立人が提出した甲3ないし甲5及び甲8ないし甲11にも、上記相違点3-3に係る本件発明3の発明特定事項は記載されておらず、示唆もされていない。 さらに、上記相違点3-3に係る本件発明3の発明特定事項が、周知の技術である、あるいは、当業者が適宜決定し得る設計的事項であるといえる根拠もない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明及び甲2ないし甲14に記載された事項等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4 本件発明5について 本件発明5と甲1発明とを対比すると、上記の本件発明1と甲1発明との対比における一致点と同様の一致点を有し、以下の相違点を有する。 〔相違点5-1〕 本件発明5においては、「冷媒回路の内部の空気の圧力は4000Pa以下」であるのに対して、甲1発明においては、冷媒回路の内部の空気の圧力が不明な点。 〔相違点5-2〕 本件発明5においては、冷凍機油は、「3.0重量%以上5.0重量%以下の」酸捕捉剤を含有するのに対して、甲1発明においては、冷凍機油が酸捕捉剤を含んでいてもよいが、その量は不明な点。 〔相違点5-3〕 本件発明5においては、「油溜め部における冷凍機油の温度が80℃以下に維持され、 0.1=((8×10-5×133.322×空気の圧力(Pa))+0.0017)×(冷凍機油の温度(℃))+(-0.0032×133.322×空気の圧力(Pa)-0.15)」のに対して、甲1発明においては、冷凍機油の温度が不明な点。 事案に鑑み、上記相違点5-3について検討する。 甲2、6、7、12ないし14の記載事項は、上記第5の2ないし7のとおりであって、上記相違点5-3に係る本件発明5の発明特定事項を開示ないし示唆するものではない。 また、申立人が提出した甲3ないし甲5及び甲8ないし甲11にも、上記相違点5-3に係る本件発明5の発明特定事項は記載されておらず、示唆もされていない。 さらに、上記相違点5-3に係る本件発明5の発明特定事項が、周知の技術である、あるいは、当業者が適宜決定し得る設計的事項であるといえる根拠もない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は、甲1発明及び甲2ないし甲14に記載された事項等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 6 本件発明7ないし11について 本件発明7ないし11は、本件発明1、2、3又は5の発明特定事項を全て含み、更に請求項7ないし11で新たに特定される事項を含むから、上記本件発明1、2、3及び5に対して述べたものと同様の理由により、申立人が提出した証拠に記載された発明、事項等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第7 理由2(サポート要件)についての当審の判断 理由2(サポート要件)の対象であった請求項4に係る発明は、本件訂正により削除され、請求項4を引用していた請求項7ないし11に係る発明は、本件訂正により、請求項4を引用しないものとなった。 したがって、理由2(サポート要件)は解消した。 第8 取消理由において採用しなかった理由について 1 取消理由において採用しなかった特許異議申立書の取消理由の概要 申立人は、特許異議申立書において、概略以下の取消理由を主張する。 (1)理由1(特許法第36条第6項第1号違反) 請求項1~5に係る発明は、それぞれ、「冷媒回路の内部の空気の圧力」の上限値や、「油溜め部における冷凍機油の温度」の上限値が、互いに異なるものであるが、これらの下限値が特定されてなく、本件特許発明1、3、5は、3.0重量%以上5.0重量%以下の酸捕捉剤を含有する一方で、本件特許発明2、4は、酸捕捉剤を含有しないか、又は、3.0重量%未満の酸捕捉剤を含有するものである。 請求項1、3、5に係る発明と請求項2、4に係る発明とでは、「冷媒回路の内部の空気の圧力」や「油溜め部における冷凍機油の温度」が共通する範囲(例えば、空気の圧力が667Pa以下、かつ、冷凍機油の温度が80℃以下の範囲)が含まれているが、当該範囲において、酸捕捉剤は、3.0重量%以上であってもよいし、3.0重量%未満であってもよいことになり、課題に対する手段の関係が不明である。 よって、請求項2、4及び6ないし11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 したがって、本件特許の請求項2、4及び6ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、その発明に係る特許は特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである(特許異議申立書14、15、66ページ)。 (2)理由2(特許法第36条第6項第2号違反) 請求項1~11に係る発明は、「冷媒回路の内部の圧力」の下限値や、「油溜め部における冷凍機油の温度」の下限値が記載されていない点で明確でない。 したがって、本件特許の請求項1~11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、その発明に係る特許は特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである(特許異議申立書15、65ページ)。 2 当審の判断 (1)理由1について ア 請求項2及び4に係る発明について 本件訂正によって、請求項2の「前記冷凍機油は、酸補足剤を含有しないか、または、3.0重量%未満の酸捕捉剤を含有し、」との記載は、「前記冷凍機油は、2.0重量%以上3.0重量%未満の酸捕捉剤を含有し、」と訂正された。また、請求項4は削除された。 イ 発明の詳細な説明の記載と請求項に係る発明の関係について 本件特許明細書の段落【0003】の「このようなHFO冷媒は、GWPが低いものの、安定性が低いことから、一定条件下において分解し、腐食性の強いフッ化水素を生じさせてしまうおそれがある。」及び段落【0006】等の「この冷凍サイクル装置における冷媒としての使用によれば、冷媒の分解を抑制することができ、冷媒回路における腐食の発生を抑制することができる。」との記載から、発明が解決しようとする課題は、HFO冷媒を使用した冷凍サイクル装置において、冷媒の分解を抑制し、冷媒回路における腐食の発生を抑制することであることが理解できる。 そして、本件特許明細書の段落【0102】、【0104】及び【0107】の記載事項並びに図5及び6の図示事項からみて、本件訂正後の請求項2に係る発明は、当該課題を解決できるものと理解できる。 ウ まとめ したがって、請求項2に係る発明及び請求項2を引用する請求項6ないし11に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるから、発明の詳細な説明に記載したものといえる。 (2)理由2について 請求項1~11に係る発明においては「冷媒回路の内部の圧力」の「上限値」及び「油溜め部における冷凍機油の温度」の「上限値」は特定されており、「冷媒回路の内部の圧力」及び「油溜め部における冷凍機油の温度」の低い側の値の取り得る範囲は、冷凍サイクル装置の運転条件や周囲環境等により定まることが技術常識であるから、「冷媒回路の内部の圧力」の下限値や、「油溜め部における冷凍機油の温度」の下限値が特定されていなくても、技術常識を踏まえれば、発明を明確に理解できるのであるから、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 したがって、請求項1~11に係る発明は明確である。 第9 意見書における申立人の主張について 意見書の「(2-2)取消理由に対する意見2」において、申立人は、概略以下の主張をする。 訂正特許請求の範囲の請求項1~3、5では、式に代入する冷媒回路の内部の空気の圧力が如何なる時期に測定された値であるかについて、何ら特定されていない。 本件特許の発明の詳細な説明には、冷媒回路の内部の空気の圧力を測定する時期として、運転停止状態のみが開示されている(【0049】参照)。しかし、本件特許の発明の詳細な説明に基づくと、冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる冷凍機油の温度値が如何なる時期(期間)に維持されるかが不明であり、任意の時期(期間)が包含される可能性がある。 また、本件特許の発明の詳細な説明に基づくと、訂正特許請求の範囲の請求項1~3、5に記載された「前記冷媒回路の内部の空気の圧力は・・・Pa以下であり、」における「冷媒回路の内部の空気の圧力」と「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度は、下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される、」における「冷媒回路の内部の空気の圧力」との関係も不明である。また、本件明細書の【0049】に記載された「運転停止状態」と令和6年8月26日付けで提出された意見書で述べられた「冷媒が使用されている状態」との関係も不明である。 よって、訂正特許請求の範囲の請求項1~3、5に係る発明は、訂正後の特許請求の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができないものであり、当業者が理解できる程度に発明の詳細な説明に記載されたものではない。 当該主張について検討する。 訂正特許請求の範囲の請求項1~3、5に係る発明は、それぞれ、訂正前の請求項1~3、5に係る発明に、訂正前の請求項6に係る発明の発明特定事項を付加したものであるから(上記第2の2(1)ないし(3)及び(5)を参照。)、訂正前の請求項6に係る発明と実質的に同じものである。そうすると、上記申立人の主張は、訂正に付随して新たに生じたものではなく、採用できない。 当該主張が訂正に付随して新たに生じた理由と仮定して予備的に検討を行うと、訂正特許請求の範囲の請求項1~3、5で、式に代入する冷媒回路の内部の空気の圧力が如何なる時期に測定された値であるかは、本件明細書の段落【0049】等の記載から理解できる。また、訂正特許請求の範囲の請求項1~3、5に記載された「前記冷媒回路の内部の空気の圧力は・・・Pa以下であり、」における「冷媒回路の内部の空気の圧力」と「前記油溜め部における前記冷凍機油の温度は、下記式に前記冷媒回路の内部の空気の圧力を代入して得られる値以下に維持される、」における「冷媒回路の内部の空気の圧力」が同じものであることは、本件明細書の段落【0049】、【0112】、【0113】等の記載から理解できる。 したがって、訂正特許請求の範囲の請求項1~3、5に係る発明は、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するものではなく、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。 よって、申立人の主張は採用できない。 第10 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1ないし3、5、7ないし11に係る特許を取り消すことができない。そして、他に取り消すべき理由を発見しない。 また、本件特許の請求項4及び6は本件訂正により削除された。これにより請求項4及び6に係る特許に対する申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700237

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