特許拒絶査定不服審判
2024-019008
容器詰調味用組成物及びその使用並びに容器詰加工食品
- 審判番号
- 2024-019008
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-149339
- 請求日
- 2024年11月28日
- 審決日
- 2026年05月01日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】キッコーマン株式会社
- 【請求人代理人】森本 敏明
- 審判長/審判官
- 審判長 松田 成正
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 天野 宏樹
- 分類
- P18 .113-Z (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-149339「容器詰調味用組成物及びその使用並びに容器詰加工食品」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年12月16日出願公開、特開2021-191300〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年5月22日に出願された特願2020-89844号の一部を、同年12月21日に新たな特許出願とした特願2020-211513号の一部を、令和3年9月14に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和6年 6月19日付け 拒絶理由通知
同 年 7月26日 意見書及び手続補正書の提出
同 年10月 8日付け 拒絶査定
同 年11月28日 審判請求書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~5に係る発明は、令和6年7月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下に示す請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
「【請求項1】
フェネチルアセテートを有効成分として含む、食材に基づく加熱劣化臭抑制用組成物。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、令和6年6月19日付け拒絶理由通知に示された理由1、3及び4であり、次のとおりのものである。
「1.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
・・・
3.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
4.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(サポート要件)について
・請求項:1~5
・・・
●理由3(新規性)、理由4(進歩性)について
・請求項:1~5
・引用文献:1
・・・
●理由3(新規性)、理由4(進歩性)について
・請求項:1~5
・引用文献:2~5
・・・
<引用文献等一覧>
1.特開2014-168458号公報
2.特表2019-526228号公報
3.J. Brew. Soc. Japan, 1990, Vol.85, No.7, pp.501-505
4.J. Brew. Soc. Japan, 1979, Vol.74, No.3, pp.173-178
5.J. Agric. Food Chem., 2008, Vol.56, No.17, pp.8086-8095
参考文献
A.宝酒造株式会社 [オンライン], 2021.05.31 [検索日 2024.06.14], インターネット:<URL:https://web.archive.org/web/20210531055409/https://www.takarashuzo.co.jp/products/seasoning/basicinfo/001.htm>
B.食品工業,2002年,Vol.45, No.9,pp.54-59
第4 当審の判断
当審は、原査定の拒絶の理由3(新規性)の引用文献1に基づく理由に示すとおり、本願発明は引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないと判断する。詳細は以下のとおりである。
1.引用文献1の記載事項
原査定で引用された引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(1-1)「【請求項1】
カプロン酸エチルおよび/またはカプリル酸エチルおよび/または酢酸フェネチルを含有し、トマトの色素成分を含有することを特徴とするトマト含有調味料。」
(1-2)「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、様々な食材と合わせて食した際に発生する不快味・不快臭を低減させ、洋風料理や中華料理だけでなく、和風料理など幅広い食品に適したトマト含有調味料を提供することにある。」
(1-3)「【0020】
本発明は、簡便には上記各成分をトマト含有調味料へ添加することにより得られる。また、トマト含有調味料へ上記の各成分を含有する麹由来原料を添加することや、トマト含有調味料を酵母発酵させることにより、上記各成分を所望の量含有させた調味料とすることもできる。
例えば、
(1)トマトに、カプロン酸エチルおよび/またはカプリル酸エチルおよび/または酢酸フェネチルを添加する方法、
(2)トマトと、上記各成分を所望量含有するように添加した、あるいは発酵した麹由来原料を混合する方法、
(3)トマトと麹由来原料を混合し、上記各成分が所望量となるまで発酵する方法、
によって本発明のトマト含有調味料が得られる。」
(1-4)「【0029】
本明細書における「麹由来原料」とは、その原料に麹そのもの、もしくは麹と食塩水を混和後に得られる諸味や、乳酸菌による乳酸発酵後の諸味、酵母による酵母発酵後の諸味、発酵熟成を終えた諸味を含み、さらに果汁、エキス類、ペースト類、だし類、調味料、発酵調味料、酸味料、香料等を混合したもの、またはこれらを混合後さらに発酵、熟成、裏ごし、火入れのいずれかの工程を経て得られる原料をいう。醤油麹に由来する醤油諸味や、豆麹・米麹・麦麹に由来する米みそ・麦みそ・豆みそ・調合みそが麹由来原料として好ましく、特に酵母発酵中または酵母発酵後または発酵・熟成後の醤油諸味が麹由来原料として好ましい。」
(1-5)「【0041】
<トマトと麹由来原料の混合>
麹由来原料にトマトを添加し発酵・熟成させる際に、トマトは、麹由来原料として乳酸発酵を終えた醤油諸味、または好気的条件下で酵母発酵中の醤油諸味、または好気的条件下での酵母発酵を終えて熟成途上の醤油諸味、または熟成を終えた醤油諸味、味噌等へ混合することが好ましい。好気的条件下での酵母発酵を終えた醤油諸味(発酵開始後約2ヶ月経過した諸味)または発酵熟成を終えた醤油諸味(発酵開始後4ヶ月以上経過した諸味)へ混合し発酵することがより好ましい。添加する時期が早過ぎると、醤油諸味における原料溶出や乳酸発酵が阻害されるため好ましくない。
・・・
【0046】
発酵熟成させて得られたトマト諸味は、カプロン酸エチルおよび/またはカプリル酸エチルおよび/または酢酸フェネチルの各成分が発酵により増加し、トマト含有調味料を使用した際の不快な口腔香に対するマスキング効果が高く、風味のバランスに優れ、汎用性の高い調味料となる。これらの成分が生成されているかは、定法に従ってガスクロマトグラフ法により定量することで確認することができる。発酵は、これら各成分の濃度が上述の濃度範囲に達したことを確認した後、終了することができる。発酵終了の決定に際しては、上記各成分以外にも、麹菌の酵素や、醤油酵母・醤油乳酸菌による発酵・熟成中のメイラード反応によって生じる成分も考慮することができる。」
(1-6)「【実施例2】
【0059】
<トマト諸味の調製>
トマトとしてトルコ産トマトペースト(日本デルモンテ社製、Brix30-32%(w/w))を、麹由来原料として醤油諸味を用意した。醤油諸味は脱脂大豆と小麦より調製された脱脂大豆醤油諸味(キッコーマン食品社製、脱脂大豆:小麦=50:50(w:w)、5ヶ月発酵のもの)、脱脂大豆醤油諸味をパルパーフィニッシャー(ヤエス社製、型式HC-1)により定法に従い裏ごしした裏ごし脱脂大豆醤油諸味、丸大豆と小麦より調製された丸大豆醤油諸味(キッコーマン食品社製、丸大豆:小麦=50:50(w:w)、2ヶ月発酵のものと5ヶ月発酵のもの)を用いた。トマトペーストと醤油諸味は50:50(w:w)となるように混合した。さらに食塩を加え、しょうゆ酵母としてZygosaccharomyces rouxiiを約1/106 cfu/gとなるように加えよく混合し、4040gずつトマト諸味を仕込んだ。対照品は実施例1と同様にして調製した。対照品と各試作品の配合を表2に示す。
【0060】
【表2】
対照品・試験品の配合と発酵期間
[図:0001436812000001.jpg]
【0061】
<トマト諸味の発酵・熟成>
諸味品温を25~30℃に保持し、4時間(試験品2-3)または7日間(試験品2-1~2-2、2-4~2-5)通気攪拌し、酵母発酵を行った。さらに諸味品温を25~30℃に保持し発酵・熟成させた(試験品2-1~2-2、2-4~2-5)。
【0062】
4時間~18日間の発酵で得られたトマト諸味について80℃達温30分間の火入れを行い試験品2-1~2-5のトマト含有調味料を得た。
・・・
【0069】
対照品および試験品の一般成分分析値、香気成分分析値、官能評価結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
対照品・試験品の一般成分分析値、香気成分分析値、及び官能評価の結果
[図:0001436812000002.jpg]
【0071】
表3に示す香気成分分析値より、トマトと麹由来原料として醤油諸味を混合後、発酵・熟成させることにより、酢酸フェネチル、カプロン酸エチル、カプリル酸エチルを含有するトマト含有調味料が得られた。リコピンは22.9~29.3mg/100g含有されていた。酢酸フェネチルは0.16~0.81ppm、カプロン酸エチルは0.33~0.77ppm、カプリル酸エチルは0.09~1.98ppmとなり、対照品・比較品と比較して顕著に高くなっていることが分かる。」
(1-7)「【実施例5】
【0100】
<試作品2-2のオフフレーバー低減効果の評価>
牛100%の挽肉(オーストラリア産牛肉)に、調味料として(1)16%食塩水+3%エタノール、(2)こいくちしょうゆ(キッコーマン食品社製)をそれぞれ6.4ml、(3)試作品2-2を6.4mlに相当するように比重で合わせた7.7gを加え、良くこねた。こねた肉(肉パテ)を8g計量し、丸め、軽く押して俵状にしたものを、8分間フライパンで焼いた。粗熱が取れた後、小袋に小分けにし、測定まで冷凍保存した。測定日に肉パテを解凍し、80℃の水浴にて肉パテを温めた。
【0101】
分析は内部標準を1,2-ジクロロベンゼンとし、焼いた肉のオフフレーバーとしてよく知られているヘキサナール(Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety,Vol.5,18-25(2006))についてGC/MSによる分析を行った。
肉8gに対して64mlの蒸留水を加えて破砕したサンプル10gをバイアルに入れて、TWISTER(GERSTEL社製、100%ポリジメチルシロキサン(PDMS)をコーティングさせた攪拌子、膜厚0.5mm、長さ10mm)をサンプルに触れないように1本入れて蓋をし、50℃で2時間サンプルを撹拌しながら、ヘキサナールを吸着させた。TWISTERをバイアルから取り出し、加熱脱着システム(型式MPS-TDU、GERSTEL社製)にセットし、GC/MSシステムに導入し、下記の条件で分析に供した。得られたヘキサナールのピーク面積を内部標準のピーク面積で割ることで補正し、各調味料を練りこんだ肉を焼くことにより生じたヘキサナールの面積値を比較した。
【0102】
<分析条件>
測定機器: アジレント・テクノロジーズ社製(型式5975C)
カラム: HP-INNOWAX(Agilent Technologies社製、60m×内径0.25mm×膜厚0.5μm)
温度プログラム: 40℃、2分保持後、5℃/分の速度で240℃まで昇温
注入モード:スプリットレス
キャリアガス: ヘリウム、流速1.8ml/min
測定モード: Scanモード
【0103】
各調味料使用時の焼いた肉パテのヘキサナール量について、そのピーク面積を図1に示す。食塩とエタノールを加えた肉パテに比べ、こいくちしょうゆと試験品2-2を使用した際に、オフフレーバーの生成量は顕著に抑えられていた。特に試験品2-2は、こいくちしょうゆよりもさらに強くオフフレーバーの生成を抑制していることが示された。ヘキサナールは肉に含まれる油の酸化によって生じることが知られている。本発明のトマト含有調味料は、香気成分を含有しているだけでなく、抗酸化成分としてリコピンやカロテン類、クエン酸等の成分も含んでおり、これらの成分が複合的に働き、加熱調理時や保存中に生じる脂質酸化に由来する不快臭を抑える効果が強くなったことが推察された。以上より、本発明のトマト含有調味料は、口腔内で食材とトマトを合わせた時に生じる不快臭をマスキングするだけでなく、焼いた肉など加熱調理時に発生するオフフレーバーの生成を抑える機能が高いことが示された。
【0104】
以上より、本発明のトマト含有調味料は、口腔内で食材とトマトを合わせたときに生じる不快臭をマスキングし、和・洋・中の各種料理に適しているだけでなく、香辛料の風味を増す、油物をサッパリ食べられる、脂質酸化に伴い生じる不快臭を低減する、旨味・風味・コクが増すなどの有用な調理機能を有していることが示された。」
(1-8)「【図1】
[図:0001436812000003.jpg]
各調味料使用時の焼いた肉より検出されたヘキサナールのピーク面積値」
2.引用文献1に記載された発明
引用文献1の請求項1(摘記1-1)には、「カプロン酸エチルおよび/またはカプリル酸エチルおよび/または酢酸フェネチルを含有し、トマトの色素成分を含有することを特徴とするトマト含有調味料。」が記載されており、【0013】(摘記1-2)には、「様々な食材と合わせて食した際に発生する不快味・不快臭を低減させ、洋風料理や中華料理だけでなく、和風料理など幅広い食品に適したトマト含有調味料を提供する当該調味料を提供する」という課題を解決しようとするものであることが記載されている。
また、その製造方法の例として、【0020】(摘記1-3)には、「(3)トマトと麹由来原料を混合し、上記各成分が所望量となるまで発酵する方法」が記載され、【0029】(摘記1-4)には、「特に酵母発酵中または酵母発酵後または発酵・熟成後の醤油諸味が麹由来原料として好ましい」ことが記載され、【0041】及び【0046】(摘記1-5)には、「麹由来原料にトマトを添加し発酵・熟成させる」際には、トマトは「好気的条件下での酵母発酵を終えた醤油諸味(発酵開始後約2ヶ月経過した諸味)または発酵熟成を終えた醤油諸味(発酵開始後4ヶ月以上経過した諸味)へ混合し発酵することがより好まし」く、「発酵熟成させて得られたトマト諸味は、カプロン酸エチルおよび/またはカプリル酸エチルおよび/または酢酸フェネチルの各成分が発酵により増加し、トマト含有調味料を使用した際の不快な口腔香に対するマスキング効果が高く、風味のバランスに優れ、汎用性の高い調味料となる」ことが記載されているところ、【0059】~【0075】(摘記1-6)には、上記好ましい製造方法に相当する方法で実施例2のトマト含有調味料を製造し、成分分析を行ったことが記載されており、【0059】~【0062】の記載と【0060】の【表2】における「試験品2-2」の記載を参酌すると、「試験品2-2」は、「トマトとしてトルコ産トマトペースト(日本デルモンテ社製、Brix30-32%(w/w))を、麹由来原料として醤油諸味を用意」し、「醤油諸味は脱脂大豆と小麦より調製された脱脂大豆醤油諸味(キッコーマン食品社製、脱脂大豆:小麦=50:50(w:w)、5ヶ月発酵のもの)」を用い、「トマトペーストと醤油諸味は50:50(w:w)となるように」2000gずつ混合し、「さらに食塩を」40g加え、「しょうゆ酵母としてZygosaccharomyces rouxiiを約1/106 cfu/gとなるように加えよく混合し、4040gずつトマト諸味を仕込」み、「諸味品温を25~30℃に保持」し、「7日間(試験品2-1~2-2、2-4~2-5)通気攪拌し、酵母発酵を行」い、「さらに諸味品温を25~30℃に保持し」、18日間「発酵・熟成させた(試験品2-1~2-2、2-4~2-5)」ものであることが読み取れ、【0070】の【表3】における「試験品2-2」の成分分析結果を参酌すると、「試験品2-2」は「香気成分」として「カプロン酸エチル」、「カプリル酸エチル」及び「酢酸フェネチル」をそれぞれ0.69ppm、0.30ppm及び0.81ppm含有し、「一般成分」の一つとしてトマトの色素成分である「リコピン」を29.3mg/100g含有するものであったことが読み取れる。
さらに、【0100】~【0103】(摘記1-7)及び【図1】(摘記1-8)には、「試作品2-2のオフフレーバー低減効果の評価」と題する実施例5が記載されており(当審注:【0103】に「試験品2-2」と記載されていることを参酌すると、表題の「試作品2-2」は「試験品2-2」の誤記と認められる。)、「牛100%の挽肉(オーストラリア産牛肉)に、調味料として・・・(3)試作品2-2を6.4mlに相当するように比重で合わせた7.7gを加え、良くこねた。こねた肉(肉パテ)を8g計量し、丸め、軽く押して俵状にしたものを、8分間フライパンで焼いた」こと、「各調味料を練りこんだ肉を焼くことにより生じたヘキサナールの面積値を比較した」ところ、ピーク面積は図1に示すとおりであり、「食塩とエタノールを加えた肉パテに比べ、こいくちしょうゆと試験品2-2を使用した際に、オフフレーバーの生成量は顕著に抑えられていた。特に試験品2-2は、こいくちしょうゆよりもさらに強くオフフレーバーの生成を抑制していることが示された。ヘキサナールは肉に含まれる油の酸化によって生じることが知られている。本発明のトマト含有調味料は、香気成分を含有しているだけでなく、抗酸化成分としてリコピンやカロテン類、クエン酸等の成分も含んでおり、これらの成分が複合的に働き、加熱調理時や保存中に生じる脂質酸化に由来する不快臭を抑える効果が強くなったことが推察された。以上より、本発明のトマト含有調味料は、口腔内で食材とトマトを合わせた時に生じる不快臭をマスキングするだけでなく、焼いた肉など加熱調理時に発生するオフフレーバーの生成を抑える機能が高いことが示された。」ことが記載されている。
そうすると、引用文献1には、トマト含有調味料の「試験品2-2」及びその実施例5における評価結果に基づき、以下の発明が記載されているといえる。
「香気成分であるカプロン酸エチルを0.69ppm、カプリル酸エチルを0.30ppm、酢酸フェネチルを0.81ppm含有し、トマトの色素成分であるリコピンを29.3mg/100g含有するトマト含有調味料であって、
トマトとしてトルコ産トマトペースト(日本デルモンテ社製、Brix30-32%(w/w))を、麹由来原料として醤油諸味を用意し、醤油諸味は脱脂大豆と小麦より調製された脱脂大豆醤油諸味(キッコーマン食品社製、脱脂大豆:小麦=50:50(w:w)、5ヶ月発酵のもの)を用い、トマトペーストと醤油諸味は50:50(w:w)となるように2000gずつ混合し、さらに食塩を40g加え、しょうゆ酵母としてZygosaccharomyces rouxiiを約1/106 cfu/gとなるように加えよく混合し、4040gずつトマト諸味を仕込み、諸味品温を25~30℃に保持し、7日間通気攪拌し、酵母発酵を行い、さらに諸味品温を25~30℃に保持し、18日間発酵・熟成させて製造されたものであり、
牛100%の挽肉(オーストラリア産牛肉)に、調味料として7.7gを加え、良くこね、こねた肉(肉パテ)を8g計量し、丸め、軽く押して俵状にしたものを、8分間フライパンで焼き、調味料を練りこんだ肉を焼くことにより肉に含まれる油の酸化によって生じることが知られているヘキサナールの面積値で評価したときに、オフフレーバー(加熱調理時や保存中に生じる脂質酸化に由来する不快臭)の生成を抑制していると評価される、トマト含有調味料。」(以下、「引用発明」という。)
3.対比・判断
(1)本願発明と引用発明との対比、判断
本願発明と引用発明とを対比する。引用発明における「酢酸フェネチル」は、本願発明における「フェネチルアセテート」に相当し、引用発明における「トマト含有調味料」は、本願発明における「組成物」に相当する。
また、本願発明は「食材に基づく加熱劣化臭抑制用」と特定されるものであるところ、「食材」、「加熱」、及び「食材に基づく加熱劣化臭抑制用」に関し、本願明細書の【0048】~【0049】には「本発明の一態様の組成物は、例えば、所望の加工食品を得るために、野菜類、香辛野菜類、キノコ類、果実類、種実類、肉類、魚介類、海藻類、卵、食肉加工品、加工食品などの食材と混合して、常温にて、又は加熱して、調理するように使用できる。・・・本発明の一態様の組成物は、レトルト臭のみならず、加熱調理による加熱劣化臭も抑制し得る」及び「加熱調理としては、炒める、揚げる、焼く、蒸す、電子レンジを用いて加熱する、熱風により加熱する、熱水中で加熱するなどの通常の加熱調理方法が挙げられ、これらの加熱調理方法を適宜組合せて実施してもよい。」と記載されていることを参酌すると、引用発明における「牛100%の挽肉(オーストラリア産牛肉)に、調味料として7.7gを加え、良くこね、こねた肉(肉パテ)を8g計量し、丸め、軽く押して俵状にしたものを、8分間フライパンで焼」くことは、本願発明における「食材」及び「加熱」の一態様である「肉類」と「混合して」「加熱して、調理するように使用」する態様に相当し、引用発明における「調味料を練りこんだ肉を焼くことにより肉に含まれる油の酸化によって生じることが知られているヘキサナールの面積値で評価したときに、オフフレーバー(加熱調理時や保存中に生じる脂質酸化に由来する不快臭)の生成を抑制していると評価される」ことは、本願発明における「食材に基づく加熱劣化臭抑制用」の一態様と解される「加熱調理による加熱劣化臭」を「抑制」する態様で組成物を使用することに相当する。
さらに、引用文献1の【0103】(摘記1-7)に、「本発明のトマト含有調味料は、香気成分を含有しているだけでなく、抗酸化成分としてリコピンやカロテン類、クエン酸等の成分も含んでおり、これらの成分が複合的に働き、加熱調理時や保存中に生じる脂質酸化に由来する不快臭を抑える効果が強くなった」と記載されていることを参酌すると、引用発明における香気成分の一つである「酢酸フェネチルを0.81ppm含有し」は、リコピン等の成分とともに「加熱調理時や保存中に生じる脂質酸化に由来する不快臭を抑える効果」を発揮するよう働く量で含有されていることに当たるから、本願発明における「フェネチルアセテートを有効成分として含む」を満たしているといえる。
以上のことから、本願発明と引用発明とは、「フェネチルアセテートを有効成分として含む、食材に基づく加熱劣化臭抑制用組成物。」の点で一致し、相違するところがない。
(2)請求人の主張について
ア 請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書の「第4 本願発明が特許される理由」の「4-2.引用文献1にかかわらず新規性及び進歩性を有すること」において、概略、以下のように主張している。
(ア)新規性について
「(4-2-3)本願発明の新規性
本願発明1は、(i)フェネチルアセテートが食材に基づく加熱劣化臭を抑制できるとの未知の属性を発見し、(ii)この属性により、フェネチルアセテートが食材に基づく加熱劣化臭を抑制するとの新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく用途発明であるのに対して、引用発明1はいかなる用途発明でもない点で、両者は相違する。
上記相違点により、本願発明1は引用文献1に記載された発明ではないので、引用文献1にかかわらず、新規性を有する。」
(イ)進歩性について
「(4-2-4)本願発明の進歩性
上記相違点に関して、引用文献1には、(i)フェネチルアセテートが食材に基づく加熱劣化臭を抑制できること、(ii)この属性により、フェネチルアセテートが食材に基づく加熱劣化臭を抑制するとの新たな用途への使用に適すること、について記載も示唆も無い。
・・・引用文献1の段落[0100]~[0103]には、トマト配合量が50質量%であり、酢酸フェネチルだけではなく、食塩、グルタミン酸、グルコース、リコピン、エタノール、カプロン酸エチル及びカプリル酸エチルを含み、数多くの成分の組合せである試作品2-2(おそらく、試験品2-2の誤記)を用いた場合に焼いた肉パテのヘキサナール量が減ったことが記載されており、酢酸フェネチル(フェネチルアセテート)が食材に基づく加熱劣化臭を抑制できることについて記載も示唆も無い。そして、引用文献1の段落[0103]には、「本発明のトマト含有調味料は、香気成分を含有しているだけでなく、抗酸化成分としてリコピンやカロテン類、クエン酸等の成分も含んでおり、これらの成分が複合的に働き、加熱調理時や保存中に生じる脂質酸化に由来する不快臭を抑える効果が強くなったことが推察された」とあるとおり、試作品2-2が数多くの成分の組合せであることにより焼いた肉パテのヘキサナール量を減らしたと推察されている。このような試作品2-2が数多くの成分の組合せであること、そしてこのことによりヘキサナール量が減ったとの記載(阻害要因)があること、さらに試作品2-2に含まれる数多くの成分のうち、酢酸フェネチルが単独で機能してヘキサナールの生成量を抑え得ることについて記載も示唆も無いことを看過して、フェネチルアセテートが食材に基づく加熱劣化臭を抑制できることを導き得るとする科学的かつ合理的な理由は見当たらない。特に、引用文献1のこれらの記載から、フェネチルアセテートを含む物のうち、数多くの含有成分の中からフェネチルアセテートが特に作用して、或いは他の成分の影響を排除して、フェネチルアセテートが食材に基づく加熱劣化臭を抑制したと結論付けることは不可能である。
また、引用文献1にはフェネチルアセテートが食材に基づく加熱劣化臭を抑制できることについて記載も示唆も無いのであるから、本願発明1が有する食材に基づく加熱劣化臭抑制作用は、引用発明1からは到底予期し得ない、格別顕著に優れた効果である。
したがって、審査官殿の上記認定を考慮したとしても、引用文献1には、(i)フェネチルアセテートが食材に基づく加熱劣化臭を抑制できること、(ii)この属性により、フェネチルアセテートが食材に基づく加熱劣化臭を抑制するとの新たな用途への使用に適すること、について記載も示唆も無く、本願発明1は引用発明1に対して有利な効果を有することから、本願発明1は引用発明1に基づいて構成することが不可能乃至非常に困難な発明であるので、引用文献1にかかわらず進歩性を有する。」
イ 請求人の主張についての検討
請求人の上記主張について、検討する。
本願発明において、組成物の成分組成を明示的に特定する発明特定事項は「フェネチルアセテートを有効成分として含む」ことであるが、上記(1)に記載したとおり、引用発明も「フェネチルアセテートを有効成分として含む」組成物といえるから、本願発明と引用発明の調味料とは成分組成が一致するものである。
また、上記(1)に記載したとおり、本願発明を使用する調理の食材及び加熱調理の方法に関し、本願明細書の【0048】~【0049】には「本発明の一態様の組成物は、例えば、所望の加工食品を得るために、野菜類、香辛野菜類、キノコ類、果実類、種実類、肉類、魚介類、海藻類、卵、食肉加工品、加工食品などの食材と混合して、常温にて、又は加熱して、調理するように使用できる。」及び「加熱調理としては、炒める、揚げる、焼く、蒸す、電子レンジを用いて加熱する、熱風により加熱する、熱水中で加熱するなどの通常の加熱調理方法が挙げられ、これらの加熱調理方法を適宜組合せて実施してもよい。」と記載されているから、本願発明の組成物を使用する対象となる食材には公知の「肉」が含まれ、加熱調理の方法には公知の「焼く」方法が含まれると解され、したがって、いずれも引用発明における使用対象の食材及び加熱調理の方法と一致する。
さらに、本願発明の「食材に基づく加熱劣化臭抑制」という特定事項に関しては、上記(1)に記載したとおり、本願明細書の【0048】~【0049】に「本発明の一態様の組成物は、レトルト臭のみならず、加熱調理による加熱劣化臭も抑制し得る」及び「加熱調理としては、炒める、揚げる、焼く、蒸す、電子レンジを用いて加熱する、熱風により加熱する、熱水中で加熱するなどの通常の加熱調理方法が挙げられ」と記載されていることを参酌すると、「通常の加熱調理方法」で生じる「加熱劣化臭」を抑制することを意味する発明特定事項と解されるものであるから、上記した本願発明を使用する調理の食材及び加熱調理の方法に具体的な制限を設ける事項とは認められないし、本願発明の組成物の成分組成に具体的な制限を設ける事項とも認められない。そして、引用発明は、「調味料を練りこんだ肉を焼くことにより肉に含まれる油の酸化によって生じることが知られているヘキサナールの面積値で評価したときに、オフフレーバー(加熱調理時や保存中に生じる脂質酸化に由来する不快臭)の生成を抑制していると評価される」ものであるから、本願発明における「食材に基づく加熱劣化臭抑制」と一致する効果を発揮するものである。
なお、請求人は、進歩性に関して引用文献1の段落【0103】を引用し、「試作品2-2が数多くの成分の組合せであること、そしてこのことによりヘキサナール量が減ったとの記載(阻害要因)があること、さらに試作品2-2に含まれる数多くの成分のうち、酢酸フェネチルが単独で機能してヘキサナールの生成量を抑え得ることについて記載も示唆も無いことを看過して、フェネチルアセテートが食材に基づく加熱劣化臭を抑制できることを導き得るとする科学的かつ合理的な理由は見当たらない。」と主張しているが、本願発明においては酢酸フェネチルが「単独で機能してヘキサナールの生成量を抑え」る成分であるとは特定されていないから、請求人の主張は請求項の記載に基づかないものであり、採用することはできない。また、上記(1)に記載したとおり、引用文献1の【0103】には、「本発明のトマト含有調味料は、香気成分を含有しているだけでなく、抗酸化成分としてリコピンやカロテン類、クエン酸等の成分も含んでおり、これらの成分が複合的に働き、加熱調理時や保存中に生じる脂質酸化に由来する不快臭を抑える効果が強くなった」と記載されているから、引用文献1には、引用発明における香気成分の一つである「酢酸フェネチル」が、「リコピンやカロテン類、クエン酸等の成分」とともに「複合的に」「加熱調理時や保存中に生じる脂質酸化に由来する不快臭を抑える効果」を発揮するように働く成分であることが記載されているといえる。よって、請求人の「引用文献1にはフェネチルアセテートが食材に基づく加熱劣化臭を抑制できることについて記載も示唆も無い」旨の主張も、引用文献1の記載に基づくものとはいえず、採用することはできない。
以上まとめると、引用文献1には、「(i)フェネチルアセテートが食材に基づく加熱劣化臭を抑制できること」が記載されているといえる。
また、本願発明の組成物は、成分組成、使用する食材及び使用するときの加熱調理の方法のいずれの点も引用発明と一致しており、組成物を加熱調理において使用したときに得られる効果も共通するものであるから、本願発明は引用発明と比較したときに「新たな用途への使用」を特定したものとはいえず、本願発明と引用発明とは相違するところがない。
よって、請求人の主張によって、上記(1)に示した本願発明の新規性についての判断を覆すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-019008