特許拒絶査定不服審判
2024-012444
雨水貯留システム
- 審判番号
- 2024-012444
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-099547
- 請求日
- 2024年07月30日
- 審決日
- 2025年12月23日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社竹中工務店
- 【請求人代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 有家 秀郎
- 審判官 土屋 真理子
- 審判官 石川 信也
- 分類
- P18 .121-WZ (E03F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 99547「雨水貯留システム」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年12月23日出願公開、特開2021-193251〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年6月8日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 5年10月27日付け:拒絶理由通知書
令和 5年12月19日 :意見書、手続補正書の提出
令和 6年 1月 5日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和 6年 3月 7日 :意見書、手続補正書の提出
令和 6年 5月 9日付け:令和 6年 3月 7日の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定
令和 6年 7月30日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 7年 8月20日付け:令和 6年 7月30日の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和 7年10月 8日 :意見書、手続補正書の提出
第2 令和7年10月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年10月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、本件補正後の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
構造物の地下構造体に設けられる水蓄熱槽と、
前記水蓄熱槽内に蓄熱された熱を利用する利用機器と、
前記水蓄熱槽に接続され、前記水蓄熱槽に貯留された水を地下に設けられた排水管に放流する放流管と、
前記水蓄熱槽に接続され、前記構造物に降雨した雨水を前記水蓄熱槽に供給する雨水供給管と、
前記放流管を開閉する放流弁と、
前記雨水供給管を開閉する雨水供給弁と、
降水量予報に基づいて前記放流弁を開閉し、前記水蓄熱槽内の水を前記排水管に放流した後に、前記雨水供給弁を開く制御部と、
を備える雨水貯留システム。
【請求項2】
前記水蓄熱槽は、水をそれぞれ貯留する複数の貯留部を有し、
前記制御部は、降水量予報又は降水量に基づいて、選択した少なくとも1つの前記貯留部に貯留された水を前記排水管に放流した後、該貯留部に前記雨水供給管から雨水を供給する、
請求項1に記載の雨水貯留システム。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
令和6年7月30日提出の手続補正書による補正は、令和7年8月20日付けの補正の却下の決定により却下されており、また、令和6年3月7日提出の手続補正書による補正は、原審における同年5月9日付けの補正の却下の決定により却下されているから、本件補正前の特許請求の範囲の記載は、令和5年12月19日提出の手続補正書による補正後の、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
構造物の地下構造体に設けられる水蓄熱槽と、
前記水蓄熱槽内に蓄熱された熱を利用する利用機器と、
前記水蓄熱槽に接続され、前記水蓄熱槽に貯留された水を地下に設けられた排水管に放流する放流管と、
前記水蓄熱槽に接続され、前記構造物に降雨した雨水を前記水蓄熱槽に供給する雨水供給管と、
を備える雨水貯留システム。
【請求項2】
前記放流管を開閉する放流弁と、
前記雨水供給管を開閉する雨水供給弁と、
降水量予報又は降水量に基づいて前記放流弁を開閉し、前記水蓄熱槽内の水を前記排水管に放流した後に、前記雨水供給弁を開く制御部と、
を備える請求項1に記載の雨水貯留システム。
【請求項3】
前記水蓄熱槽は、水をそれぞれ貯留する複数の貯留部を有し、
前記制御部は、降水量予報又は降水量に基づいて、選択した少なくとも1つの前記貯留部に貯留された水を前記排水管に放流した後、該貯留部に前記雨水供給管から雨水を供給する、
請求項2に記載の雨水貯留システム。」
2.補正目的
本件補正は、本件補正後の請求項1についてみれば、本件補正前の請求項1に記載された発明の「雨水貯留システム」について、本件補正前の請求項2の発明特定事項を追加することにより限定するとともに、さらに、本件補正前の請求項2においては「前記雨水供給弁を開く制御部」が「前記放流弁を開閉」するのが「降水量予報又は降水量に基づ」くものであったのを、選択肢の一方の「降水量」に基づくものを削除して「降水量予報に基づ」くものに限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
3.独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)補正後の本願発明(本件補正発明)
本件補正発明は、上記1.(1)の【請求項1】に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載、引用発明等
ア 引用文献1
(ア)記載事項
当審において通知した拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2007-262720号公報(平成19年10月11日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下、同様。)。
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の用途に良好に対応でき、熱交換機能の他、使用用途を利水、治水等切換え可能な機能を持つ雨水貯留槽および多目的雨水貯留装置に関する。」
【背景技術】
【0002】
近年、森林伐採により大地の保水能力が低下し、鉄砲水や水不足などの災害が増加しており、この防止策として集中豪雨時に雨水を一旦貯留する雨水貯留槽(特許文献1)が着目されている。また雨水貯留槽の貯留水をトイレ、洗濯、洗車、屋上緑化の散水などに利用する方法が提案されている(特許文献2)。また地中埋設した雨水貯留槽の内部或いは下方に空気を流して熱交換し、前記熱交換後の空気を家屋の冷暖房に用いる地熱(年間を通じて約15℃)利用法が提案されている(特許文献3、4)。さらに集水槽、ろ過槽、殺菌槽、貯留槽という複数の槽を連結して用いる雨水貯留槽が提案されている(特許文献5)。」
b 「【0007】
最近では、冷暖房システムの運転コスト削減の要求から、地中埋設した雨水貯留槽を利用して熱交換することも検討されているが、地中熱と効率的に熱交換を行う熱交換用途とその他の利水治水用途を複合して行うことが可能な、雨水貯留槽やそれを用いる多目的雨水貯留装置の開発が望まれていた。
そこで、本発明は、地中熱を利用する熱交換機能を備えると同時に、利水、治水等複数の用途に良好に対応できる雨水貯留槽、および給水並びに散水作業などが効率よく行える多目的雨水貯留装置の提供を目的とする。」
c 「【発明の効果】
【0014】
本発明の雨水貯留槽は、内部が仕切板により2室に仕切られており、前記2室は給排水が独立して行え、前記2室のうちの1室が貯留水を常時所定量満たす熱交換用途に用いられ、他室が貯留水量を変動させる中水用途または治水用途のいずれかに用いられるので、複数の用途に良好に対応できる。
本発明の雨水貯留槽は複数の室に仕切り、地熱利用を始めとする複数の用途に用いるので、1個の雨水貯留槽で複数の機能を果たすことができ、省スペース、設備費削減などが図れる。
【0015】
また、本発明の雨水貯留槽は、内部が仕切板により3室以上に仕切られており、前記3室以上の各室は給排水が独立して行え、前記3室以上のうちの少なくとも1室が貯留水を常時所定量満たす熱交換用途に用いられ、他の室が貯留水量を変動させる中水用途または常時空にしておく治水用途のうちの1方または両方の用途に用いられるので、複数の用途に良好に対応できる。
・・・・
【0017】
前記複数の室の給排水が、給水ポンプ、排水ポンプ、給水弁、排水弁を遠隔操作できるようにし、かつ各用途の切り替えを可能にしておくと集中豪雨時における給排水作業が効率よくかつ安全に行える。
【0018】
本発明の多目的雨水貯留装置は、熱交換用途、中水用途、治水用途の3室を有する少なくとも1つの雨水貯留槽と、中水用途、治水用途の少なくとも2室を有する他の貯留槽を有する複数の貯留槽からなる多目的雨水貯留装置において、中水用途、治水用途の少なくとも2種類の室同士が、通水可能な状態で相互に連結(連通)されており、前記熱交換用途、中水用途、治水用途の3室を有する少なくとも1つの雨水貯留槽の少なくとも1室は熱交換用途に使用され、他の室および槽は中水用途または治水用途の少なくとも1用途に使用でき、中水用途、治水用途の複数の用途に良好に対応できるのみでなく、中水用途、治水用途の貯水量をさらに増加させることができる。」
d 「【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明を、図を参照して具体的に説明する。なお符号の重複説明は省略する。
図1(イ)、(ロ)に示す多目的雨水貯留装置20は、内部が仕切板2により2室に仕切られており、前記2室のうちの1室3aが貯留水を常時所定量満たす熱交換用途に用いられ、他室3bが貯留水量を変動させる中水用途に用いられる。
【0022】
本発明の多目的雨水貯留装置20は、上方に給水管4が配されており、給水管4から枝分かれして給水用細径管4aが各室3a、3bごとに設けられている。各室3a、3bの給水量は、給水用細径管4aに設けられた開閉弁5を操作することにより制御できる。給水管4の入口4bは家屋7の樋8に接続されている。
【0023】
上記雨水貯留装置20の下方には排水管9が配されており、排水管9から枝分かれして排水用細径管9aが各室3a、3bごとに設けられている。各室3a、3bの排水量は、排水用細径管9aに設けられた排水用開閉弁10を操作することにより制御できる。
【0024】
排水管の出口9bが排水溝14上に位置しているので、各室3a、3bは排水用開閉弁10を操作することにより容易に空にできる。従って、使用用途を熱交換用、利水用、治水用、という複数の用途に容易に切換えて対応でき、また、室内の清掃、点検などが効率良く行える。
・・・・
【0026】
図2(イ)に示す雨水貯留槽1は、内部が仕切板2により2室に仕切られており、前記2室のうちの1室3aが貯留水を常時所定量満たす熱交換用途に用いられ、他室3cが貯留水を常時空にする治水用途に用いられる。前記2室は給排水が独立して行える。」
e 「【0030】
本発明において、前記開閉弁の開閉操作は、貯留槽を地下埋設することから、自動で行うようにしておく、もちろん必要に応じて、操作を手動に切り替えることも可能なものとする。
【0031】
本発明の多目的雨水貯留装置の雨水貯留槽の各室は熱交換用途、中水用途、治水用途のうちの少なくとも2つの用途に使用される。緊急時には、全室を同じ用途に使用することもできる。
【0032】
雨が降り始める前に上記多目的雨水貯留装置の操作パネルで、弁の開閉やポンプの運転を自動でできるようにしておくと、大雨警報が発令されたときなどの災害の被害拡大前などに、通常中水用途に使用している部分を排水して、治水用にして台風に備えることもできる。さらに、熱交換の運転を停止すれば、全室を空にして多量の雨水を給水できるようにしておくこともできる。このように、多目的雨水貯留装置の特定の室の貯留水を排水して使用する場合には、弁の開閉を雨量センサーと連動させておき、降雨量が所定値に達したら、排水用開閉弁を自動開閉できるようにしておくと、排水作業が適確に行える。
【0033】
本発明の雨水貯留槽は地中埋設して、熱交換用途室の貯留水は地熱と熱交換させて冷暖房に使用する。中水用途室の貯留水を飲料に使用する場合は、水道水を貯留する。この場合は、給水管および仕切板などは衛生上他の用途室とは別にする。」
(イ)認定事項
上記段落【0030】-【0033】において、「本発明」について言及する内容は、段落【0021】-【0026】において、図番を付して説明された具体例についても該当すると認められる。
上記段落【0021】、【0026】及び【0031】の記載より、「多目的雨水貯留装置20」が「雨水貯留槽1」を有し、「雨水貯留槽1」の「内部」が「仕切板2」により「2室」である「3a」及び「3b」に仕切られると認められる。
上記段落【0023】に記載される「雨水貯留装置20」は、「多目的雨水貯留装置20」の趣旨であり、上記段落【0024】に記載される「排水管」は、「排水管9」の趣旨であると認められる。
(ウ)記載された発明
上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠とした段落番号を、括弧書きで付した。
「内部が仕切板2により2室3a、3bに仕切られた雨水貯留槽1を有する、多目的雨水貯留装置20であって、(【0021】、【0026】、【0031】)
多目的雨水貯留装置20は、上方に給水管4が配されており、給水管4から枝分かれして給水用細径管4aが各室3a、3bごとに設けられ、各室3a、3bの給水量は、給水用細径管4aに設けられた開閉弁5を操作することにより制御でき、給水管4の入口4bは家屋7の樋8に接続されており、(【0022】)
多目的雨水貯留装置20の下方には排水管9が配されており、排水管9から枝分かれして排水用細径管9aが各室3a、3bごとに設けられ、各室3a、3bの排水量は、排水用細径管9aに設けられた排水用開閉弁10を操作することにより制御でき、排水管の出口9bが排水溝14上に位置しているので、各室3a、3bは排水用開閉弁10を操作することにより空にでき、(【0023】、【0024】)
多目的雨水貯留装置20の雨水貯留槽1の各室3a、3bは熱交換用途、中水用途、治水用途のうちの少なくとも2つの用途に使用され、緊急時には、全室を同じ用途に使用することもでき、(【0031】)
雨が降り始める前に上記多目的雨水貯留装置20の操作パネルで、弁の開閉やポンプの運転を自動でできるようにしておくと、大雨警報が発令されたときなどの災害の被害拡大前などに、通常中水用途に使用している部分を排水して、治水用にして台風に備えることができ、さらに、熱交換の運転を停止すれば、全室を空にして多量の雨水を給水できるようにしておくこともでき、弁の開閉を雨量センサーと連動させておき、降雨量が所定値に達したら、排水用開閉弁10を自動開閉できるようにしておくと、排水作業が適確に行え、(【0032】)
雨水貯留槽1は地中埋設して、熱交換用途室の貯留水は地熱と熱交換させて冷暖房に使用する、(【0033】)
多目的雨水貯留装置20。」
イ 引用文献2
(ア)記載事項
当審において通知した拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2010-101559号公報(平成22年5月6日出願公開。以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
a 「【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シーズンを通して冷熱と温熱の供給を高効率化するとともに、任意の設定場所で適用可能な水熱源熱循環システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図1を参照して、本発明による一実施例の水熱源熱循環システムを説明する。本実施例の水熱源熱循環システム1は、地下フロアとN(1以上の自然数)階フロアとを有する建造物を想定して説明する。地下フロアでは、水熱源水槽2が設置されており、この水熱源水槽2は、シーズンを通じて15℃~35℃に保持される。
【0022】
冬期(例えば外気温-20℃~15℃)においては、この水熱源水槽2に設けられる温度センサ4aによって検知した温度に従ってコンプレッサ4を稼働し、予め過熱媒体を貯水している小型の個別水熱源3からの温水を、水熱源水槽2に対して循環させて、水熱源水槽2の温度を15℃~35℃に保持することもできる。」
b 【図1】
「
[図:0001432650000001.jpg]
」
(イ)記載された技術事項
上記(ア)より、引用文献2には、次の技術事項(以下、「引用文献2技術事項1」等という。)が記載されていると認められる。
a 引用文献2技術事項1
シーズンを通して冷熱と温熱の供給を高効率化する水熱源熱循環システム1において、水熱源水槽2を、地下フロアとN(1以上の自然数)階フロアとを有する建造物の地下フロアに設置すること(【0020】、【0021】、【図1】)。
(3)本件補正発明の進歩性
ア 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「雨水貯留槽1」は、「熱交換用途室の貯留水は地熱と熱交換させて冷暖房に使用する」から、熱交換した地熱の温熱分または冷熱分を、雨水を貯留した貯留水に蓄えて利用することが明らかであり、本件補正発明の「水蓄熱槽」に相当する。
本件補正発明において、「水蓄熱槽」が「構造物の地下構造体に設けられ」る構成と、引用発明において、「雨水貯留槽1」が「地中埋設」される構成とは、「水蓄熱槽」が「地下に設けられ」る点で一致する。
(イ)引用発明において、「雨水貯留槽1」の「熱交換用途室の貯留水は地熱と熱交換させて冷暖房に使用する」から、引用発明が「雨水貯留槽1」の熱を利用して協働する「冷暖房」用の機器を備えていることが明らかであることは、本件補正発明において「水蓄熱槽内に蓄熱された熱を」「利用する利用機器」を備える構成に、相当する。
(ウ)引用発明において、「多目的雨水貯留装置20の下方」に配された「排水管9」は、「多目的雨水貯留装置20」が有する「地中埋設」された「雨水貯留槽1」の下方にあって地下に配置されていることが明らかであることを踏まえると、本件補正発明における「地下に設けられた排水管」に相当する。また、引用発明において、「排水管9から枝分かれして」「各室3a、3bごとに設けられ」た「排水用細径管9a」は、「各室3a、3bの排水量」を「排水用細径管9aに設けられた排水用開閉弁10を操作することにより制御でき」るから、本件補正発明において、「前記水蓄熱槽に接続され、前記水蓄熱槽に貯留された水を地下に設けられた排水管に放流する放流管」に相当する。
(エ)引用発明の「給水管4から枝分かれ」した「給水用細径管4a」は、「雨水貯留槽1」の「各室3a、3bごとに設けられ、各室3a、3bの給水量は、給水用細径管4aに設けられた開閉弁5を操作することにより制御でき」るから、「雨水貯留槽1」の「各室3a、3b」に接続されて雨水を給水していることは明らかであり、本件補正発明の「前記水蓄熱槽に接続され」て「前記水蓄熱槽に供給する雨水供給管」に相当する。また、引用発明の「給水用細径管4a」が「給水管4から枝分かれ」しており、「給水管4の入口4bは家屋7の樋8に接続されて」いる構成は、「給水用細径管4a」が「家屋7」に降る雨水を「樋8」及び「給水管4」を介して給水していることが明らかであるから、本件補正発明の「雨水供給管」が「構造物に降雨した雨水」を供給する構成に相当する。
(オ)引用発明において、「排水管9から枝分かれして」「各室3a、3bごとに設けられ」た「排水用細径管9a」は、「各室3a、3bの排水量」を「排水用細径管9aに設けられた排水用開閉弁10を操作することにより制御でき」るから、引用発明における「排水用細径管9aに設けられた排水用開閉弁10」は、本件補正発明における「前記放流管を開閉する放流弁」に、相当する。
(カ)引用発明において、「給水管4から枝分かれして」「各室3a、3bごとに設けられ」た「給水用細径管4a」は、「各室3a、3bの給水量」を「給水用細径管4aに設けられた開閉弁5を操作することにより制御でき」るから、引用発明における「給水用細径管4aに設けられた開閉弁5」は、本件補正発明における「前記雨水供給管を開閉する雨水供給弁」に、相当する。
(キ)引用発明において、「雨が降り始める前に上記多目的雨水貯留装置20の操作パネルで、弁の開閉やポンプの運転を自動でできるようにしておくと、大雨警報が発令されたときなどの災害の被害拡大前などに、通常中水用途に使用している部分を排水して、治水用にして台風に備えることができ、弁の開閉を雨量センサーと連動させておき、降雨量が所定値に達したら、排水用開閉弁10を自動開閉できるようにして・・・排水作業」を「適確に行」うことは、そのような自動開閉の制御を行う部材を備えることが明らかであることを踏まえると、本件補正発明における構成のうち、「前記放流弁を開閉し、前記水蓄熱槽内の水を前記排水管に放流」する「制御部」を備える構成に、相当する。
本件補正発明において、「制御部」が「降水量予報に基づいて前記放流弁を開閉」する構成と、引用発明において、制御を行う部材を有することが明らかであるとともに、「弁の開閉を雨量センサーと連動させておき、降雨量が所定値に達したら、排水用開閉弁10を自動開閉できる」構成とは、「制御部」が降雨に関する情報に基づいて「放流弁を開閉」する点で一致する。
(ク)引用発明における「多目的雨水貯留装置20」は、「操作パネル」によって「弁の開閉」を「自動」ででき、また「雨量センサーと連動」して「排水用開閉弁10を自動開閉できる」から、少なくとも「開閉弁5」が設けられた「給水用細径管4a」及び「排水用開閉弁10」が設けられた「排水用細径管9a」と協働するシステムとなっているということができ、本件補正発明における「雨水貯留システム」に相当する。
以上を整理すると、本件補正発明と引用発明とは、次の一致点で一致し、以下の相違点1~3で相違する。
<一致点>
「地下に設けられる水蓄熱槽と、
前記水蓄熱槽内に蓄熱された熱を利用する利用機器と、
前記水蓄熱槽に接続され、前記水蓄熱槽に貯留された水を地下に設けられた排水管に放流する放流管と、
前記水蓄熱槽に接続され、前記構造物に降雨した雨水を前記水蓄熱槽に供給する雨水供給管と、
前記放流管を開閉する放流弁と、
前記雨水供給管を開閉する雨水供給弁と、
降雨に関する情報に基づいて前記放流弁を開閉し、前記水蓄熱槽内の水を前記排水管に放流する制御部と、
を備える雨水貯留システム。」
<相違点1>
「水蓄熱槽」に関し、
本件補正発明においては、「構造物の地下構造体に設けられ」ており、「前記構造物」に降雨した雨水が供給されるのに対し、
引用発明においては、「地下に設けられ」ており、「家屋7」に降った雨水が給水される点。
<相違点2>
「前記放流弁を開閉し、前記水蓄熱槽内の水を前記排水管に放流する制御部」に関し、
本件補正発明においては、「降水量予報に基づいて放流弁を開閉」すると特定されているのに対し、
引用発明においては、「雨量センサー」に基づく場合は「排水用開閉弁10」の「自動開閉」が制御を行う部材により行われることが明らかであるものの、「降水量予報」に基づいて同様の「自動開閉」が行われるとは特定されていない点。
<相違点3>
「前記放流弁を開閉し、前記水蓄熱槽内の水を前記排水管に放流する制御部」に関し、
本件補正発明においては、「放流した後に、前記雨水供給弁を開く」と特定されているのに対し、
引用発明においては、そのように特定されていない点。
イ 判断
(ア)相違点1について
上記相違点1について判断する。
引用文献2には、上記(2)イ(イ)aに認定した引用文献2技術事項1が記載されているところ、引用文献2技術事項1は、冷熱と温熱を利用するための「水熱源水槽2」を、「地下フロアとN(1以上の自然数)階フロアとを有する建造物の地下フロア」に設置する構成を有する。
引用発明1において、「家屋7」の規模や種類について特段制限されるような事情はなく、また本願出願時点において、家屋が地下フロアと地上フロアとを含む規模の建造物、または当該規模の建造物の一部として構成されることは、広く一般的に行われていたところ、家屋をある程度の規模の建造物とする際に、上記引用文献2技術事項1を適用し、建造物の地下フロアに「雨水貯留槽1」を設けるとともに、当該建造物に降雨する雨水を「雨水貯留槽1」に給水することとし、もって上記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
そして、そうしたことによる効果は、引用発明1及び引用文献2技術事項1から事前に予測される範囲を超える、格別顕著なものとは認められない。
(イ)相違点2について
上記相違点2について判断する。
引用発明において、「大雨警報が発令されたときなどの災害の被害拡大前などに、通常中水用途に使用している部分を排水して、治水用にして台風に備える」観点から、「雨量センサーと連動」させている「弁の開閉」を、「大雨警報」等を含む天気予報における降水量の予報とも連動させ、もって上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者であれば適宜になし得た設計事項程度である。
また、気象予報データはインターネット等を通じて提供されていることが広く知られているところ、インターネット等を通じて提供される情報を取得して制御に利用することは、証拠を示すまでもなく周知技術であり、例えば本願明細書の段落【0003】及び【0004】で言及される特開2013-133678号公報においても、ネットワークを通じて取得した気象予報データに基づいて得た予測降水量により、雨水貯留槽に貯留した雨水を下水道に排出するか否かを判定することが記載されている(摘記を省略するが、段落【0024】-【0026】)。
そうすると、引用発明において、「大雨警報が発令されたときなどの災害の被害拡大前などに、通常中水用途に使用している部分を排水して、治水用にして台風に備える」観点から、「雨量センサーと連動」させている「弁の開閉」を、インターネット等を通じて気象予報データを取得して得る予測降水量とも連動させ、もって上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、引用発明における「被害拡大前」に「備える」という思想、及びインターネット等を通じて提供される情報を取得して利用するという周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、引用発明において、本件補正発明のうち、「制御部」により「降水量予報に基づいて放流弁を開閉」する、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者であれば適宜になし得た設計事項程度であるか、周知技術に基づいて想到容易である。
そして、そうしたことによる効果は、「大雨警報が発令されたときなどの災害の被害拡大前などに、通常中水用途に使用している部分を排水して、治水用にして台風に備える」という引用発明の思想に基づいて、洪水を効果的に予防するという効果として、引用発明及び周知技術から事前に予測される範囲を超える、格別顕著なものとは認められない。
(ウ)相違点3について
上記相違点3について判断する。
引用発明において、上述した「排水作業」を「適確に行」うことは、「排水」した「通常中水用途に使用している部分」を「治水用にして台風に備える」ためであるから、上記排水が完了した後には、台風などの降雨を一時的に蓄えるよう、「給水用細径管4aに設けられた開閉弁5」を開く制御を行うことは、当然である。
したがって、引用発明において、本件補正発明のうち、「制御部」により「放流した後に、前記雨水供給弁を開く」制御に相当する制御を行い、上記相違点3に係る構成とすることは、当業者であれば適宜になし得た設計事項程度である。
そして、そうしたことによる効果は、「排水」した「通常中水用途に使用している部分」を「治水用にして台風に備える」ことで、洪水を効果的に予防するという効果として、引用発明から事前に予測される範囲を超える、格別顕著なものとは認められない。
ウ 請求人の主張について
請求人は令和7年10月8日提出の意見書において、以下のとおり主張している。
(ア)主張の概要
主張1:「引用文献1には、雨量センサーに基づいて排水用開閉弁10を開閉して、多目的雨水貯留装置20を排水することは開示されているが、排水後に開閉弁5を開閉して、多目的雨水貯留装置20に雨水を貯留することは開示されていない。」(第2頁第21~23行)
主張2:「また、引用文献1は、雨量センサーに基づくリアルタイム制御であるため、雨量センサーが所定量の雨量を検出した段階で、多目的雨水貯留装置20を排水しても、洪水を効率的に予防することはできない。
これに対して本願請求項1に係る発明・・は、降水量予報に基づき、例えば、雨が降る前に水蓄熱槽を予め排水しておき、その後、水蓄熱槽に雨水を貯留することができるため、洪水を効果的に予防することができる。」(第2頁第24~29行)
(イ)主張に対する見解
a 主張1について
主張1については、上記相違点3について上記イ(ウ)に判断したとおり、当業者であれば適宜になし得た設計事項程度である。そして、相違点3に係る構成の効果についても上記イ(ウ)に判断したとおり、引用発明から事前に予測される範囲を超える、格別顕著なものとは認められない。
したがって、請求人の上記主張を考慮しても、上記イ(ウ)の判断を変更すべき事情は見いだせない。
b 主張2について
主張2については、上記相違点2について上記イ(イ)に判断したとおり、当業者であれば適宜になし得た設計事項程度であるか、または周知技術に基づいて想到容易である。そして、請求人が主張する、洪水を効果的に予防することができるという効果についても、上記イ(イ)に判断したとおり、引用発明及び周知技術から事前に予測される範囲を超える、格別顕著なものとは認められない。
したがって、請求人の上記主張を考慮しても、上記イ(イ)の判断を変更すべき事情は見いだせない。
エ 進歩性の小括
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2技術事項1に基づいて、又は、引用発明、引用文献2技術事項1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)独立特許要件のまとめ
上記(1)~(3)のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
4 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1.本願発明
令和6年7月30日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-3に係る発明は、令和5年12月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1.(2)に示した【請求項1】に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2.当審における拒絶の理由
本願発明について、令和7年8月20日付けで当審において通知した拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項1に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2007-262720号公報
引用文献2:特開2010-101559号公報
3.引用文献
当審における拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2の[理由]3.(2)ア(ア)に示したとおりであり、同引用文献1には、前記第2の[理由]3.(2)ア(ウ)に認定した引用発明が記載されている。
また、当審における拒絶の理由で引用された引用文献2の記載事項は、前記第2の[理由]3.(2)イ(ア)に示したとおりであり、同引用文献2には、前記第2の[理由]3.(2)イ(イ)に認定した引用文献2技術事項1が記載されている。
4.対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]3.で検討した本件補正発明から、「放流弁」、「雨水供給弁」及び「制御部」を削除し、上記第2の[理由]3.(3)アに認定した相違点2及び相違点3に係る本件補正発明の構成を有さないものである。
そして、相違点2及び相違点3を除く本件補正発明の構成は、前記第2の[理由]3.(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2技術事項1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2技術事項1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-012444