特許拒絶査定不服審判
2024-011674
サイドエアバッグ装置
- 審判番号
- 2024-011674
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-501709
- 請求日
- 2024年07月16日
- 審決日
- 2025年05月22日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】オートリブ ディベロップメント エービー
- 【請求人代理人】弁理士法人バリュープラス
- 審判長/審判官
- 審判長 八木 誠
- 審判官 山本 信平
- 審判官 中尾 麗
- 分類
- P18 .121-Z (B60R)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-501709「サイドエアバッグ装置」拒絶査定不服審判事件〔令和3年8月26日国際公開、WO2021/166530〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2021年(令和3年)1月20日(国内優先権主張 2020年2月21日)を国際出願日とする特許出願であって、令和5年7月5日付けで拒絶理由を通知し(発送日:同年7月7日)、同年8月24日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、同年11月28日付けで再度拒絶理由を通知し(発送日:同年12月5日)、令和6年1月10日に意見書が提出されると共に手続補正がされたが、同年4月12日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ(発送日:同年4月23日)、これに対して、同年7月16日に本件拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされた。
第2 令和6年7月16日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年7月16日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所を示し、当審で付した。)。
「車両用シートのシートバックに収容されるサイドエアバッグ装置であって、
前記シートバック内の側部に位置するサイドフレームの乗員側に配置され、膨張ガスを発生するインフレータと;
前記膨張ガスによって膨張し、前記車両用シートに着座した乗員を保護するエアバッグと、を備え、
前記エアバッグは、前記シートバックの前方に向かって展開するメインチャンバと;前記インフレータを内部に収容し、前記メインチャンバの乗員側に連結されたプリチャンバとを含み、
前記プリチャンバの内部には、当該プリチャンバの前方部分に連結された前端部と、当該プリチャンバの後方部分に連結された後端部とを有する内部テザーが設けられ、
前記内部テザーの前端部は、前記プリチャンバの前縁付近に連結され、
前記プリチャンバは、前記メインチャンバに結合部で接続される第1パネルと乗員側に設けられる第2パネルを含む少なくとも2枚のパネルで構成され、
前記プリチャンバの前記第1パネルと前記第2パネルは、前記プリチャンバの前記前縁の上下部分が前記前縁の上下方向における中間部分よりも更に前方に突出した形状になるように構成されていることを特徴とするサイドエアバッグ装置。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正前の、令和6年1月10日の手続補正による特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「車両用シートのシートバックに収容されるサイドエアバッグ装置であって、
前記シートバック内の側部に位置するサイドフレームの乗員側に配置され、膨張ガスを発生するインフレータと;
前記膨張ガスによって膨張し、前記車両用シートに着座した乗員を保護するエアバッグと、を備え、
前記エアバッグは、前記シートバックの前方に向かって展開するメインチャンバと;前記インフレータを内部に収容し、前記メインチャンバの乗員側に連結されたプリチャンバとを含み、
前記プリチャンバの内部には、当該プリチャンバの前方部分に連結された前端部と、当該プリチャンバの後方部分に連結された後端部とを有する内部テザーが設けられ、
前記内部テザーの前端部は、前記プリチャンバの前縁付近に連結され、
前記プリチャンバは、前記メインチャンバに結合部で接続される第1パネルと乗員側に設けられる第2パネルを含む少なくとも2枚のパネルで構成され、
前記プリチャンバの前記第1パネルと前記第2パネルは、前記プリチャンバの前記前縁の上下部分が前方に突出した形状になるように構成されていることを特徴とするサイドエアバッグ装置。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記プリチャンバの前記前縁の上下部分が前方に突出した形状になるように構成されていること」との記載を、「前記プリチャンバの前記前縁の上下部分が前記前縁の上下方向における中間部分よりも更に前方に突出した形状になるように構成されていること」との記載に限定したものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項、引用発明
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である国際公開第2019/244493号(2019年12月26日国際公開、以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。
(ア)記載事項
a「[0001]
本発明は、サイドエアバッグ装置及び、これを備えた備えた車両用シートに関する。特に、メインチャンバの内側(乗員側)で展開するプリチャンバを備えたサイドエアバッグ装置の改良に関する。」
b「[0005]
本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、速やか且つ適切に乗員を拘束可能なサイドエアバッグ装置及び、これを備えた車両用シートを提供することを目的とする。
また、装置のコンパクト化に寄与するサイドエアバッグ装置及びこれを備えた車両用シートを提供することを他の目的とする。」
c「[0008]
上記のような構成の本発明によれば、サイドエアバッグ装置の作動初期の段階において、プリチャンバが真っ先に展開を開始し、乗員が車両幅方向外側に移動するのを速やかに拘束することが可能となる。このとき、プリチャンバが乗員を車両幅方向内側に向かって押しつけるような格好となるため、乗員を背中方向から斜め前方に押し出すような力の発生を抑制することができる。すなわち、エアバッグの展開によって、乗員がシートベルトを引き出す方向(進行方向)へ押されることがなく、乗員への加害性を抑えつつも、拘束性能を最大限に発揮することが可能となる。」
d「[0012]
プリチャンバに上方突出部を設けることにより、エアバッグが展開した際に、当該上方突出部が乗員の頭部付近に位置し、傷害の発生し易い頭部を速やかに拘束することができる。また、プリチャンバに下方突出部を設けることにより、エアバッグが展開した際に、当該下方突出部が乗員の腰部付近に位置し、人間の身体における重心に近い腰部を押すことにより、事故発生時の初期段階における乗員拘束性能が向上する。」
e「[0027]
図4に示すように、シートバック1は、車幅方向側部(端部)において車両進行方向(車両前方)に膨出したサイドサポート部12を備える。サイドサポート部12の内部には、ウレタンパッド16が配置されていない隙間にサイドエアバッグ装置20が収容される。サイドエアバッグ装置20は、膨張展開することで乗員を拘束するエアバッグ(34,36)と;エアバッグ(34,36)に対して膨張ガスを供給するインフレータ30とを備える。」
f「[0033]
図6(A),(B),(C)に示すように、エアバッグ(34,36)は、シートのサイドサポート部12の前方に向かって展開するメインチャンバ34と;インフレータ30を収容し、メインチャンバ34の車幅方向内側で当該メインチャンバ34に先行して展開を開始するプリチャンバ36とから構成される。また、図5(A)及び図6(A),(B)に示すように、メインチャンバ34とプリチャンバ36の仕切り部(境界部分)には、膨張ガスがプリチャンバ36からメインチャンバ34に流れ込む内部ベントV1,V2,V3が設けられている。
[0034]
本実施例においては、インフレータ30を包囲し、膨張ガスの流れを規制する、例えばチューブ状の整流部材200がプリチャンバ36の内部に設けられている。これによって、プリチャンバ36への膨張ガスの流れを制御可能となっている。そして、整流部材200の上端部及び下端部に、インフレータ30から放出されたガスを上下方向に導く開口を設け、プリチャンバ36の上部領域36U及び下部領域36Lに速やかにガスを供給することができる。」
g「[0038]
図7は、プリチャンバ36を構成するパネル構造を示す説明図である。プリチャンバ36は、同一形状の2枚のパネル136a,136bを重ね合わせ、周囲を縫製することによって作製することができる。
[0039]
プリチャンバ36において、メインチャンバ34と連結される外側のパネル136bには、1つのフロントベントV1aと、2つのリアベントV2a,V3aが形成されている。フロントベントV1aは、後述するメインチャンバ34の前方チャンバ34Fに連通し、リアベントV2a,V3aは後方チャンバ34Rに連通する。」
h「
[図:0001427636000001.jpg]
」
i「
[図:0001427636000002.jpg]
」
j「
[図:0001427636000003.jpg]
」
k「
[図:0001427636000004.jpg]
」
l「
[図:0001427636000005.jpg]
」
(イ)認定事項
a 図示内容h,iからみて、「エアバッグ34,36がシートバック1内の側部に位置するサイドフレーム10の乗員側に配置されていること」が理解できる。
b 記載事項fと図示内容kからみて、「チューブ状の整流部材200がプリチャンバ36の内部の後方部分に設けられ」ていることが理解できる。
c 図示内容lからみて、「内側のパネル136aが乗員側に配置され」ていること、及び、「プリチャンバ36は、前縁の上下部分が前縁の上下部分における中間部分よりもさらに前方に突出するような形状に形成されている」ことが理解できる。
(ウ)引用発明
そうすると、上記(ア)、(イ)からみて、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「車両用シートのシートバック1は、サイドサポート部12を備え、サイドサポート部12の内部に、ウレタンパッド16が配置されていない隙間に収容されたサイドエアバッグ装置20であって、
前記シートバック1内の側部に位置するサイドフレーム10の乗員側に配置され、膨張展開することで乗員を拘束するエアバッグ34,36と、エアバッグ34,36に対して膨張ガスを供給するインフレータ30とを備え、
エアバッグ34,36は、サイドサポート部12の前方に向かって展開するメインチャンバ34と、インフレータ30を収容し、メインチャンバ34の車幅方向内側で展開するプリチャンバ36とから構成され、
チューブ状の整流部材200がプリチャンバ36の内部の後方部分に設けられ、
プリチャンバ36は、同一形状の2枚のパネル136a,136bを重ね合わせ、周囲を縫製することによって作製され、外側のパネル136bがメインチャンバ34と連結され、内側のパネル136aが乗員側に配置され、
プリチャンバ36は、前縁の上下部分が前縁の上下部分における中間部分よりもさらに前方に突出するような形状に形成されている、
サイドエアバッグ装置20。」
イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2014-31096号公報(平成26年2月20日出願公開、以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。
(ア)記載事項
a「【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用サイドエアバッグ装置に関する。」
b「【0004】
上述の如きサイドエアバッグでは、前後仕切部の車両前後方向の位置は、後側バッグ部の車両前後方向の膨張幅によって決定される。また、後側バッグ部の車両前後方向の膨張幅は、後側バッグ部の車幅方向の膨張幅によって変動する。つまり、後側バッグ部内にガスが供給された際には、後側バッグ部の内面にガスの圧力が均一に加わるため、後側バッグ部の車幅方向の膨張幅を変更すると、後側バッグ部の車両前後方向の膨張幅も変更されてしまい、前後仕切部の車両前後方向の位置が変動してしまう。これを回避するためには、後側バッグ部の車幅方向の膨張幅の設定の自由度が低くなるため、サイドエアバッグの乗員初期拘束性能を向上させる点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、前側バッグ部と後側バッグ部とが前後仕切部によって区画されたサイドエアバッグの乗員初期拘束性能を向上させることができる車両用サイドエアバッグ装置を得ることを目的としている。」
c「【0009】
この点、本発明では、サイドエアバッグが膨張展開すると、後側バッグ部内に設けられた伸張部材が伸張されて後側バッグ部の車両前後方向の膨張が抑制されることにより、後側バッグ部の車幅方向の膨張幅が拡大される。このため、前側バッグ部と後側バッグ部との間の前後仕切部が乗員の胸部の側面における前後方向中央部と対向するように伸張部材を設定すれば、当該伸張部材によって車幅方向の膨張幅を拡大される後側バッグ部を早期に胸後半部と接触させることが可能になる。これにより、サイドエアバッグの乗員初期拘束性能を向上させることができる。しかも、後側バッグ部内に伸張部材を設定するだけの僅かな変更で対策可能であるため、簡単な構成にすることができる。」
d「【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明に係る車両用サイドエアバッグ装置では、前側バッグ部と後側バッグ部とが前後仕切部によって区画されたサイドエアバッグの乗員初期拘束性能を向上させることができる。」
e「【0033】
(構成)
図1に示されるように、本実施形態に係るサイドエアバッグ装置10は、車両用シート12におけるシートバック14のドア側サイド部14A(車幅方向外側の側部)に搭載されている。このシートバック14は、シートクッション16の後端部に傾倒可能に連結されており、上端部にはヘッドレスト18が連結されている。
f「【0035】
サイドエアバッグ装置10は、サイドエアバッグ20と、該サイドエアバッグ20内でガスを発生させるガス発生装置としてのインフレータ22と、インフレータ22から発生したガスを整流するディフューザ46と、サイドエアバッグ20内に設けられた伸張部材としてのストラップ(テザー)60と、を主要部として構成されている。以下、各構成部材について説明する。」
g「【0037】
・・・
なお、サイドエアバッグ20が1枚の基布26によって縫製される構成に限らず、2枚の基布が重ね合わされて周縁部を縫製されることにより袋状のサイドエアバッグ20が形成される構成にしてもよい。また、以下の説明に記載するサイドエアバッグ20の前後上下の方向は、サイドエアバッグ20が膨張展開した状態での方向であり、車両の前後上下の方向と略一致している。」
h「【0040】
前側バッグ部30の内部は、前側チャンバ34とされており、後側バッグ部32の内部は、後側チャンバ36とされている。つまり、サイドエアバッグ20の内部は、前側チャンバ34と後側チャンバ36とに区画されている。」
i「【0041】
一方、インフレータ22は、所謂シリンダータイプのインフレータであり、円筒状に形成されたディフューザ46と共に後側本体部32A内の後端部の下部側に収容されている。」
j「【0044】
一方、ストラップ60は、膨張幅拡大部を構成しており、サイドエアバッグ20の後側バッグ部32における後側本体部32A内に設けられている。このストラップ60は、基布26と同様の布材によって長尺帯状に形成されており、前端部が縫製部T2の下側縦延部T21において後側本体部32Aの前端部(前後仕切部33)に縫製されると共に、後端部が縫製部T1において後側本体部32Aの後端部に縫製されている。つまり、このストラップ60は、後側本体部32Aの前後両端部間に掛け渡されており、サイドエアバッグ20の膨張展開状態では、長手方向が前後方向に沿う状態で後側本体部32A内の上下方向中央部付近に位置するように配設されている。
【0045】
上記構成のサイドエアバッグ装置10では、インフレータ22が作動すると、インフレータ22の上端側又は下端側に設けられたガス噴出口からガスが噴出される。ガス噴出口から噴出されるガスは、ディフューザ46の上端開口部及びディフューザ46の上下方向中間部に形成された図示しない開口部から後側チャンバ36に供給される(図2の矢印G1、G2参照)。後側チャンバ36に供給されたガスの一部は、前後連通口38を介して前側チャンバ34に供給される。また、インフレータ22のガス噴出口から噴出されるガスは、ディフューザ46の下端開口部から前側チャンバ34に直接供給される(図2の矢印G3参照)。これにより、サイドエアバッグ20が乗員Pと車体側部(ここでは図示しないサイドドアのドアトリム)との間に膨張展開する。」
k「【0050】
また、このサイドエアバッグ20では、後側バッグ部32が膨張展開すると、前端部が後側本体部32Aの前端部(前後仕切部33)に縫製(係止)され、後端部が後側本体部32Aの後端部に縫製(係止)されたストラップ60が、車両前後方向に伸張され、前後仕切部33の車両前後方向の位置が規制される。つまり、ストラップ60の長さ寸法は、ストラップ60が設けられていない場合の後側本体部32Aにおける車両前後方向の膨張幅よりも短く設定されている。このため、ストラップ60が後側本体部32Aの前後両端部間に掛け渡された本実施形態では、ストラップ60が伸張されることにより、後側本体部32Aの車両前後方向への膨張が抑制される一方、後側本体部32Aの車幅方向の膨張幅W3が拡大される(増加される)ようになっている。」
l「【0055】
上記構成のサイドエアバッグ装置10では、側突ECU54が側突センサ56からの信号により側面衝突を検知すると、当該側突ECU54によってインフレータ22が作動される。すると、インフレータ22のガス噴出口から噴出されるガスがサイドエアバッグ20の前側チャンバ34及び後側チャンバ36に供給され、サイドエアバッグ20が乗員Pとサイドドアのドアトリムとの間に膨張展開する。この膨張展開状態では、後側バッグ部32の車両前方に前側バッグ部30が配置される。これにより、前側バッグ部30及び後側バッグ部32によって、車両用シート12に着座した乗員Pを車幅方向外側から拘束することができる。」
m「【0057】
この点、本実施形態では、サイドエアバッグ20が膨張展開すると、後側本体部32A内に設けられたストラップ60が伸張されて後側本体部32Aの車両前後方向の膨張が抑制されることにより、前後仕切部33が乗員Pの胸部Cの側面における前後方向中央部と対向すると共に、後側本体部32Aの車幅方向の膨張幅W3が拡大される。これにより、胸部Cへの負荷を低減しつつ、後側本体部32Aを早期に胸部Cの後半部と接触させることができるので、サイドエアバッグ20の乗員初期拘束性能を向上させることができる。
【0058】
つまり、相対的に荷重耐性が高い胸部Cの後半部を後側本体部32Aによって早期に拘束することにより、相対的に荷重耐性が低い胸部Cの前半部に前側本体部30Aから入力される荷重を低減することができる。このように、荷重耐性の高低に応じて乗員Pの身体(上体)を適切に拘束することにより、サイドエアバッグ20の乗員初期拘束性能を向上させることができる。しかも、後側本体部32A内にストラップ60を設定するだけの僅かな変更で対策可能であるため、簡単な構成にすることができる。」
n「【0075】
また、上記第1実施形態では、前側バッグ部30が後側バッグ部32の下方へ延びる後延部30Bを備えた構成にしたが、本発明はこれに限らず、後延部30Bが省略され、後側本体部30A(審決注:32Aの誤記か)が下方へ延長される構成にしてもよい。
o「【0078】
<第2の実施形態>
図5には、本発明の第2実施形態に係る車両用サイドエアバッグ装置70の部分的な構成が図3に対応した断面図にて示されている。この実施形態は、ストラップ60’の後端部が整流布(インナチューブ)72に縫製(係止)されている点で、前記第1実施形態とは異なる。この整流布72は、ディフューザ46の上下の開口から噴出されたガスを上下方向に分配するものである。この整流布72は、基布26と同様の布材からなる矩形の布片が一端部と他端部とを縫製部T3において縫製されることにより筒状に形成されており、軸線方向がシートバック14の高さ方向に沿う状態で後側本体部32A内の後端側に配置されている。この整流布72の内側には、インフレータ22及びディフューザ46が収容されており、ディフューザ46と基布26との間に整流布72の一部が挟まれている。この整流布72の縫製部T3には、ストラップ60’の後端部が共縫いされている。このストラップ60’は、前記第1実施形態に係るストラップ60と基本的に同様の構成とされているが、ストラップ60よりも若干短く形成されている。
【0079】
この実施形態では、後側バッグ部32が膨張展開すると、ストラップ60’が整流布72と後側バッグ部32の前端部(前後仕切部33)との間で伸張されて後側本体部32Aの車両前後方向の膨張を抑制することにより、後側本体部32Aの車幅方向の膨張幅を拡大させる。従って、この第1変形例においても、前記第1実施形態と基本的に同様の作用効果を奏する。
p「図1
[図:0001427636000006.jpg]
」
q「図2
[図:0001427636000007.jpg]
」
r「図3
[図:0001427636000008.jpg]
」
s「図5
[図:0001427636000009.jpg]
」
(イ)認定事項
a 記載事項nにより、後延部30Bが省略され、後側本体部32Aが下方へ延長されると、記載事項jの段落【0045】で「ガス噴出口から噴出されるガスは、ディフューザ46の上端開口部及びディフューザ46の上下方向中間部に形成された図示しない開口部から後側チャンバ36に供給される(図2の矢印G1、G2参照)」とともに「インフレータ22のガス噴出口から噴出されるガスは、ディフューザ46の下端開口部から前側チャンバ34に直接供給される(図2の矢印G3参照)」とされていたものが、「インフレータ22のガス噴出口から噴出されるガスは、ディフューザ46の下端開口部から後側チャンバ36の後側本体部32に供給される」ことになり、「後側本体部32Aを先に膨張させている」といえる。
b そうすると、段落【0057】、【0058】,【0079】の記載事項から、「胸部Cの後半部を後側本体部32Aによって早期に拘束することにより、乗員Pの身体(上体)を適切に拘束し、サイドエアバッグ70の乗員初期拘束性能を向上させる」ものであるが、ここで「胸部Cの後半部」は、「早期に拘束する必要な部位」であり、当該「早期に拘束する必要な部位」を適切に拘束するために、後側本体部32Aを先に膨張させているといえる。
(ウ)引用文献2に記載された事項
上記(ア)、(イ)からみて、図5の第2の実施形態に着目すると,引用文献2には、以下の事項(以下「引用文献2に記載された事項」が記載されていると認められる。
<引用文献2に記載された事項>
「車両用シート12におけるシートバック14のドア側サイド部14Aに搭載される車両用サイドエアバッグ装置70であって、
前記シートバック14内の側部に位置するサイドフレーム50Aに配置され、ガスを発生させるインフレータ22と、
ガスが供給されて膨張展開し、車両用シート12に着座した乗員Pを車幅方向外側から拘束するサイドエアバッグ20とを備え、
前側バッグ部30の内部は、前側チャンバ34とされ、後側バッグ部32の内部は、後側チャンバ36とされており、サイドエアバッグ20の内部は、前側チャンバ34と後側チャンバ36とに区画され、インフレータ22のガス噴出口から噴出されるガスは、後側チャンバ36に供給され、後側チャンバ36に供給されたガスの一部は前後連通口38を介して前側チャンバ34に供給され、後側バッグ部32の後側本体部32A内の後端部の下部側にインフレータ22を収容し、
2枚の基布が重ね合わされて周縁部を縫製されることにより袋状のサイドエアバッグ20が形成される
車両用サイドエアバッグ装置70において、
早期に拘束する必要のある部位を適切に拘束するために後側本体部32Aを先に膨張させて、サイドエアバッグ装置70の乗員初期拘束性能を向上させることを課題として、
後側チャンバ36の後側バッグ部32における後側本体部32A内にストラップ60’が設けられ、ストラップ60’の前端部が後側本体部32の前端部(前後仕切部33)に縫製されると共に、後端部が整流布(インナチューブ)72に縫製(係止)され、
後側本体部32Aの車両前後方向の膨張を抑制することにより、後側本体部32Aの車幅方向の膨張幅を拡大させること。」
(3)発明の対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「車両用シート」は前者の「車両用シート」に相当し、以下同様に、「シートバック1」は「シートバック」に、「サイドエアバッグ装置20」は「サイドエアバッグ装置」に、「サイドフレーム10」は「サイドフレーム」に、「拘束する」ことは「保護する」ことに、「エアバッグ34,36」は「エアバッグ」に、「インフレータ30」は「インフレータ」に、「メインチャンバ34」は「メインチャンバ」に、「プリチャンバ36」は「プリチャンバ」に、「外側のパネル136b」は「第1パネル」に、「内側のパネル136a」は「第2パネル」に、それぞれ相当する。
これらの相当関係を踏まえると、以下のことがいえる。
イ 後者の「車両用シートのシートバック1は、サイドサポート部12を備え、サイドサポート部12の内部に、ウレタンパッド16が配置されていない隙間に収容されたサイドエアバッグ装置20」は、前者の「車両用シートのシートバックに収容されるサイドエアバッグ装置」に相当する。
ウ 後者の「前記シートバック1内の側部に位置するサイドフレーム10の乗員側に配置され、膨張展開することで乗員を拘束するエアバッグ34,36と、エアバッグ34,36に対して膨張ガスを供給するインフレータ30とを備え」ることは、前者の「前記シートバック内の側部に位置するサイドフレームの乗員側に配置され、膨張ガスを発生するインフレータと;前記膨張ガスによって膨張し、前記車両用シートに着座した乗員を保護するエアバッグと、を備え」ることに相当する。
エ 後者の「シートバック1はサイドサポート部12を備えて」おり、「プリチャンバ36」の「外側パネル136bがメインチャンバに連結され」ているから、後者の「エアバッグ34,36は、サイドサポート部12の前方に向かって展開するメインチャンバ34と、インフレータ30を収容し、メインチャンバ34の車幅方向内側で展開するプリチャンバ36とから構成され」ることは、前者の「前記エアバッグは、前記シートバックの前方に向かって展開するメインチャンバと;前記インフレータを内部に収容し、前記メインチャンバの乗員側に連結されたプリチャンバとを含」むことに相当する。
オ 後者の「プリチャンバ36は、同一形状の2枚のパネル136a,136bを重ね合わせ、周囲を縫製することによって作製され、外側のパネル136bがメインチャンバ34と連結され、内側のパネル136aが乗員側に配置され」ることは、前者の「前記プリチャンバは、前記メインチャンバに結合部で接続される第1パネルと乗員側に設けられる第2パネルを含む少なくとも2枚のパネルで構成され」ることに相当する。
カ 上記オの相当関係を踏まえると、後者の「プリチャンバ36は、前縁の上下部分が前縁の上下部分における中間部分よりもさらに前方に突出するような形状に形成されている」ことは、前者の「前記プリチャンバの前記第1パネルと前記第2パネルは、前記プリチャンバの前記前縁の上下部分が前記前縁の上下方向における中間部分よりも更に前方に突出した形状になるように構成されていること」に相当する。
キ そうすると、両者は、
「車両用シートのシートバックに収容されるサイドエアバッグ装置であって、
前記シートバック内の側部に位置するサイドフレームの乗員側に配置され、膨張ガスを発生するインフレータと;
前記膨張ガスによって膨張し、前記車両用シートに着座した乗員を保護するエアバッグと、を備え、
前記エアバッグは、前記シートバックの前方に向かって展開するメインチャンバと;前記インフレータを内部に収容し、前記メインチャンバの乗員側に連結されたプリチャンバとを含み、
前記プリチャンバは、前記メインチャンバに結合部で接続される第1パネルと乗員側に設けられる第2パネルを含む少なくとも2枚のパネルで構成され、
前記プリチャンバの前記第1パネルと前記第2パネルは、前記プリチャンバの前記前縁の上下部分が前記前縁の上下方向における中間部分よりも更に前方に突出した形状になるように構成されている、サイドエアバッグ装置。」
の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。
<相違点>
本件補正発明では、「前記プリチャンバの内部には、当該プリチャンバの前方部分に連結された前端部と、当該プリチャンバの後方部分に連結された後端部とを有する内部テザーが設けられ、前記内部テザーの前端部は、前記プリチャンバの前縁付近に連結され」ているのに対して、引用発明では、プリチャンバ36の内部にテザーが設けられていない点。
(4)相違点の判断
上述したように、引用文献2に記載された事項は、
「早期に拘束する必要のある部位を適切に拘束するために後側本体部32Aを先に膨張させて、サイドエアバッグ装置70の乗員初期拘束性能を向上させることを課題として、
後側チャンバ36の後側バッグ部32における後側本体部32A内にストラップ60’が設けられ、ストラップ60’の前端部が後側本体部32の前端部(前後仕切部33)に縫製されると共に、後端部が整流布(インナチューブ)72に縫製(係止)され、
後側本体部32Aの車両前後方向の膨張を抑制することにより、後側本体部32Aの車幅方向の膨張幅を拡大させること。」を含むものである。
そして、引用発明と引用文献2に記載された事項は、車両用シートの側部に設けたサイドエアバッグ装置という技術分野において共通し、早期に拘束が必要な部位に対応するチャンバを先に膨張させて、サイドエアバッグ装置の乗員初期拘束性能を向上させるという課題においても共通する。
さらに、引用発明と引用文献2に記載された事項は、本件補正発明に倣うと、
「車両シートのシートバックに収容されるサイドエアバッグ装置であって、
前記シートバック内の側部に位置するサイドフレームに配置され、膨張ガスを発生するインフレータと、
前記膨張ガスによって膨張し、前記車両用シートに着座した乗員を保護するエアバッグと,を備え、
前記エアバッグは、前記シートバッグの前方に向かって展開するチャンバと、インフレータを収容する別のチャンバとを含み、
前記別のチャンバは、第1パネルと乗員側に設けられる第2パネルを含む少なくとも2枚のパネルで構成される、サイドエアバッグ装置。」
という構成においても共通する。
そうすると、共に、早期に拘束が必要な部位に対応して先に膨張するチャンバである引用発明の「プリチャンバ36」に、引用文献2に記載された事項の「後側本体部32A」を対応させて、「ストラップ60’」(本件補正発明の「内部テザー」に相当。)の取付構造を適用する動機付けは十分にあるといえ、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用することにより、「プリチャンバ36の内部には、当該プリチャンバ36の前端部(前方部分)に縫製(連結)された前端部と、当該プリチャンバ36のチューブ状の整流部材200(後方部分)に縫製(連結)された後端部とを有するストラップ(内部テザー)が設けられ、前記ストラップ(内部テザー)の前端部は、前記プリチャンバ36の前端部(前縁付近)に縫製(連結)されるようにすること、すなわち、相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
そして、本件補正発明の効果について検討しても、引用発明、引用文献2に記載された事項に基いて予測される以上の格別なものはない。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。
(5)請求人の主張の検討
請求人は、審判請求書において、「引用文献2には、本願発明のように、シートバックの前方に向かって展開するメインチャンバと、メインチャンバの乗員側に連結されたプリチャンバとで構成されるエアバッグは存在せず、本願発明とは、エアバッグの構成が著しく異なる。また、引用文献2は、プリチャンバが存在しないので、当然ながらプリチャンバの内部に内部テザーを設ける構成も存在しない。
このように、引用文献1、2には、本願発明の特徴的な構成は開示も示唆もされていない。また、引用文献2は、本願発明のエアバッグとは構造が異なるものであるから、仮に、当業者が引用文献1、2に接することがあったとしても、本願発明のプリチャンバの内部にスクラップ60のような構成を設けようとする動機付けがなく、本願発明の構成に容易に想到できるものではない。」旨主張する。
しかしながら、上記(4)で述べたように、引用文献2に記載された事項の「後側本体部32A」は、早期に拘束を必要とする部位に対応して先に膨張するチャンバであるから、引用発明の「プリチャンバ36」に対応するものである。
また、上記(4)に述べたように、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用する動機付けは十分にある。
したがって、審判請求人の主張は採用することができない。
(6)まとめ
以上により、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本件補正前の本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、「第2 1(2)」に示したとおりのものと認められる。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下をとおりである。
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願(優先日)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
・請求項 1-14
・引用文献等 1、2
<引用文献等一覧>
1.国際公開第2019/244493号(上記第2 2(2)アの引用文献1と同じ)
2.特開2014-31096号公報(上記第2 2(2)イの引用文献2と同じ)
3 引用文献とその記載事項等
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献、その記載事項,認定事項及び引用発明は、上記「第2 2(2)ア、イ」に記載したとおりである。
4 対比・判断
「第2 2」を参照すると、本願発明は、本件補正発明の「前記プリチャンバの前記前縁の上下部分が前記前縁の上下方向における中間部分よりも更に前方に突出した形状になるように構成されていること」との記載から下線部分を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付した本件補正発明が、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項を検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-011674