特許拒絶査定不服審判
2024-010649
学習モデル生成装置、ストレス推定装置、学習モデル生成方法、ストレス推定方法、及びプログラム
- 審判番号
- 2024-010649
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-531311
- 請求日
- 2024年06月27日
- 審決日
- 2025年04月28日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日本電気株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人ブライタス
- 審判長/審判官
- 審判長 南 宏輔
- 審判官 瓦井 秀憲
- 審判官 藏田 敦之
- 分類
- P18 .121-Z (A61B) / P18 .561-Z (A61B) / P18 .571-Z (A61B) / P18 .572-Z (A61B) / P18 .573-Z (A61B) / P18 .574-Z (A61B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-531311「学習モデル生成装置、ストレス推定装置、学習モデル生成方法、ストレス推定方法、及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔2021年(令和3年)12月30日国際公開、WO2021/260836〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1.手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)6月24日を国際出願日とする日本語特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和4年12月19日 :手続補正書提出
令和5年10月31日付け:拒絶理由通知
令和6年 2月16日 :意見書提出
同日 :手続補正書提出
令和6年 3月12日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年 4月 2日 :原査定の謄本の送達)
同年 6月27日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 7月19日付け:前置報告書
第2.令和6年6月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年6月27日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 補正の内容
令和6年6月27日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正をするものであり、本件補正により、次の(1)に示す本件補正前(令和6年2月16日にされた手続補正後のものをいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正された。下線は補正箇所を示す。
(1)本件補正前
「【請求項1】
生体において同時に測定された発汗データ及び前記発汗データ以外の生体データを、訓練データとして取得する、訓練データ取得部と、
前記訓練データとなる発汗データから第1の特徴量を抽出し、前記訓練データとなる前記発汗データ以外の生体データから第2の特徴量を抽出する、特徴量抽出部と、
抽出された前記第1の特徴量と抽出された前記第2の特徴量とを機械学習して、発汗データ以外の生体データから、それに対応する発汗データの特徴量を推定する、機械学習モデルを生成する、機械学習モデル生成部と、
を備え、
発汗データ以外の生体データが、心電データ、心拍データ、脈波データ、呼吸データ、瞳孔データ、血圧データ、及び脳波データのうちの少なくとも1つである、
ことを特徴とする、学習モデル生成装置。」
(2)本件補正後
「【請求項1】
生体において同時に測定された発汗データ及び前記発汗データ以外の生体データを、訓練データとして取得する、訓練データ取得部と、
前記訓練データとなる発汗データから第1の特徴量を抽出し、前記訓練データとなる前記発汗データ以外の生体データから第2の特徴量を抽出する、特徴量抽出部と、
抽出された前記第1の特徴量と抽出された前記第2の特徴量とを機械学習して、発汗データ以外の生体データから、それに対応する発汗データの特徴量を推定する、機械学習モデルを生成する、機械学習モデル生成部と、
を備え、
発汗データ以外の生体データが、交感神経及び副交換神経の両方の影響を示すデータであって、心電データ、心拍データ、脈波データ、呼吸データ、瞳孔データ、血圧データ、及び脳波データのうちの少なくとも1つであり、
発汗データが、副交感神経の影響を含まないデータである、
ことを特徴とする、学習モデル生成装置。」
(3)本件補正の内容
本件補正後の請求項1の記載は、上記(2)に示したとおりであるところ、本件補正は次のア及びイの補正事項からなり、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であると認められる。
ア 本件補正前の「発汗データ以外の生体データ」について、「交感神経及び副交換神経の両方の影響を示すデータであ」るものに限定すること。
イ 「発汗データが、副交感神経の影響を含まないデータであ」るとの記載を追加すること。
2 本件補正の適否(新規事項の追加)
本件補正が、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてしたものであるかについて以下検討する。
(1)当初明細書等の記載
上記1(3)にて示した本件補正の内容に関して、当初明細書等には次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
ア「[0005] ところで人の自律神経には、起きている時及び緊張している時に働く交感神経と、寝ている時及びリラックスしている時に働く副交感神経と、がある。そして、ストレスに関係しているのは交感神経であるので、ストレスレベルを正確に推定するためには、生体データから、交感神経による影響を示す特徴量を抽出すれば良い。
[0006] しかしながら、心拍は、交感神経による影響だけでは無く、副交感神経による影響も受けるため、生体データとして心拍データを用いる上記特許文献1に開示された方法には、上記特許文献2に開示された方法に比べて、精度が低いという問題がある。
[0007] 一方、発汗データは副交感神経による影響を受けにくく、上記特許文献2に開示された方法によれば、上記特許文献1に開示された方法よりも精度を高めることができる。しかし、発汗データを取得するための発汗センサは、心拍データを取得するための心拍センサに比べて種類・数が少なく、高価である。このため、上記特許文献2に開示された方法を実施するためには、センサの入手にコストがかかってしまうという問題がある。」
イ「[0024] 実施の形態1において、発汗データ以外の生体データ(以下「非発汗データ」と表記する)としては、心電データ、心拍データ、脈波データ、呼吸データ、瞳孔データ、血圧データ、及び脳波データが挙げられる。更に、非発汗データは、これらのうちの1つのみであっても良いし、2つ以上の組合せであっても良い。」
(2)引用文献6-7の記載事項及び技術常識の認定
ア 引用文献6に記載された事項及び技術常識1の認定
(ア) 引用文献6に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の国際出願日前に発行された文献である特許第5901089号公報(以下「引用文献6」という。)には、次の記載がある。
「【0028】
周波数解析部24は、心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて心拍変動の周波数解析を行うことにより、高周波成分HF、低周波成分LFを求める。
【0029】
つまり、周波数解析部24は、心電モニタ14により測定された心電データを周波数解析した結果得られるパワースペクトルにおける高周波帯域の積分値である高周波成分HFの値を算出して、副交感神経活動度指標とするHF成分算出手段である。
【0030】
また、周波数解析部24は、心電図モニタ14により測定された心電データを周波数解析した結果得られるパワースペクトルにおける低周波帯域の積分値である低周波成分LFの値を算出して、交感神経活動度指標とするLF成分算出手段である。
・・・(中略)・・・
【0100】
また、本実施形態では、被診断者の心電データを測定し、その心電データから得られた心電図R-R間隔に基づいて算出された各指標の値を2次元表示するものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。一般的に心電データを測定するためには複数の電極を被診断者に装着する必要がある。そのため、より手軽で簡便に測定ができるように、簡易的な方法ではあるが、心電データの替わりに被診断者の脈波を測定し、その脈波データから脈波間隔を得て、心電データの場合と同様に周波数解析を行うことによっても、各指標の値を2次元表示することが可能である。
【0101】
具体的には、例えば生体の橈骨動脈に当てられた圧力センサを用いて被診断者の脈波を測定するような脈波測定器を、心電図モニタ14の替わりに用いるような構成とすることにより、本願発明の認知症判定装置を構成することが可能となる。そして、このような構成の場合には、周波数解析部24は、脈波データに基づいてLF及びHFを算出することとなる。」
(イ) 技術常識1の認定
前記(ア)に示した引用文献6の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、国際出願時に当業者にとって技術常識であったと認められる。(以下「技術常識1」という。)
<技術常識1>
「心電データ及び脈波データが、交感神経及び副交感神経の両方の影響を示すデータであること。」
イ 引用文献7に記載された事項及び技術常識2の認定
(ア) 引用文献7に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の国際出願日前に発行された文献である特開2017-74099号公報(以下「引用文献7」という。)には、次の記載がある。
「【0091】
自律神経には交感神経と副交感神経の二つがあり、代謝、消化吸収、体温の維持、睡眠と覚醒のリズム、免疫、血液循環、ホルモンバランスの調節など人間の体の機能の維持調節を行っている。慢性疾患の70~80%は自律神経のバランスの崩れが原因と言われている。
【0092】
副交感神経が優位な状態では、瞳孔が収縮、心拍数が低下、体温が低下、呼吸が深くなり呼吸数が低下するとともに、α波が増強されリラックスした状態になることが知られている。
逆に交感神経が優位な状態では、瞳孔が拡大、心拍数が増加、体温上昇、呼吸が浅くなり回数が増加するとともに、γ波が増強されストレスがある状態であることが知られている。
坐禅やヨーガの瞑想で、正しく深い呼吸を行うと副交感神経の働きを優位にすることができ、リラックスするとともにα波が増強される。リラックス後の睡眠時には熟睡でき強いδ波が発生することが知られている。
【0093】
(血圧の測定)
また信州大学の高木らの報告(第12回日本生体医工学甲信越支部長野地区シンポジウム)によると、Fiber Bragg Grating(FBG)センサーにより、無拘束状態で血圧を測定することができ、本発明の生体信号センサーとして利用できる。
副交感神経が優位に働きリラックスしているときは血管が広がり血行が良くなり血圧が低下する。逆にストレス時には交感神経が優位になり血圧が上昇する。」
(イ) 技術常識2の認定
前記(ア)に示した引用文献7の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、国際出願時に当業者にとって技術常識であったと認められる。(以下「技術常識2」という。)
<技術常識2>
「瞳孔、心拍、呼吸、脳波、及び血圧が、交感神経及び副交感神経の両方の影響を示すこと。」
(3)新規事項の判断
ア 明示的な記載の有無
上記1(3)アに示した補正事項に関し、上記(1)にて摘記したように、当初明細書等には「心拍」が、「交感神経による影響だけでは無く、副交感神経による影響も受ける」ことが明示されている一方、「発汗データ以外の生体データ」として列挙されている「心電データ」及び「脈波データ、呼吸データ、瞳孔データ、血圧データ、及び脳波データ」が交感神経及び副交感神経の両方の影響を示すことは明示されていない。
そして、上記1(3)イに示した補正事項に関し、上記(1)にて摘記したように、当初明細書等には「発汗データ」が「副交感神経による影響を受けにく」いことが明示されている一方、副交感神経の影響を含まないデータであることを示す、又は示唆する記載はない。
イ 技術常識を踏まえた検討
上記(2)にて示した技術常識1及び技術常識2を踏まえると、「発汗データ以外の生体データ」として列挙されている「心電データ、心拍データ、脈波データ、瞳孔データ、呼吸データ、血圧データ、及び脳波データ」のすべてが交感神経及び副交感神経の両方の影響を示すデータであることは、国際出願時において当業者にとって技術常識であったといえる。
したがって、上記1(3)アに示した補正事項は、当初明細書等の記載から自明な事項であると認められる。
一方、「発汗データ」が「副交感神経による影響を受けにく」いことは、文言上、発汗データが副交感神経による影響を受けないという意味ではないこと、すなわち、発汗データが副交感神経による影響を含まないことを意味するものでないことは明らかである。そして「発汗データ」が「副交感神経による影響を受けにく」いことを、発汗データが副交感神経により影響を含まないことに限定して解することができることを示す技術常識もない。
したがって、上記1(3)イに示した補正事項は、当初明細書等の記載から自明な事項とは認められない。
(4)小括
ア 上記(3)にて説示したとおり、上記1(3)イに示した本件補正後の請求項1に記載された事項は、当初明細書等に明示的な記載がなく、当初明細書等の記載から自明であるとも認められない。
イ これに対し、審判請求人は、審判請求書において、上記1(3)イに示した補正事項は当初明細書等に明示的に記載された事項への補正、又は当初明細書等の記載から自明な事項への補正に相当し、新規事項の追加には該当しない旨主張するが、上記(3)にて説示したとおりであるから、採用できない。
ウ したがって、上記1に示した本件補正は、当初明細書等に記載された全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
3 本件補正の適否(目的該当性違反)
次に、上記1に示した本件補正が、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮(同法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的とするものに該当するか否かを検討する。
(1)特許請求の範囲の減縮の判断
上記1(3)アに示した補正事項に関し、「発汗以外の生体データ」には、交感神経の影響と副交感神経の影響の観点からは、両者の影響を受けるものや前者のみの影響を受けるもの等様々なものが含まれ得るところ、上記1(3)アに示した補正事項は、交感神経及び副交感神経の影響の有無に関して特に限定がなされていない「発汗以外の生体データ」について、「交感神経及び副交換神経の両方の影響を示すデータ」に限定するものといえる。
一方、上記1(3)イに示した補正事項に関し、仮に、「発汗データが、副交感神経の影響を含まない」ことが、当初明細書(上記2(1)アの段落[0007]参照)に記載されるように、「副交感神経による影響を受けにく」いことを意味するものと解釈できるとした場合、当該補正事項は、発汗データが副交感神経による影響を受けにくいという、発汗データに関する一般の生理学的な事象について言及したものに過ぎないと理解できることから、当該補正事項は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「発汗データ」を何ら限定するものとはいえない。
また、「発汗データが、副交感神経の影響を含まない」ことが、仮に「副交感神経による影響を受けにく」いこと以外を意味し、かつ、当初明細書等において対応する記載がないにも関わらず新規事項とならない補正事項であるとすれば、発汗データとは、そもそも、そのようなものであり、発汗データであれば、当然に有している事項について言及したものに過ぎない。よって、この場合にも、当該補正事項は、「発汗データ」を何ら限定するものとはいえない。
したがって、上記1(3)イに示した補正事項は、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものには該当しない。
(2)小括
ア 上記(1)にて説示したとおり、上記1(3)イに示した本件補正後の請求項1に記載された事項は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当するものとは認められない。
イ これに対し、審判請求人は、審判請求書において、上記1(3)イに示した補正事項は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定する補正に該当する旨主張するが、上記(1)にて説示したとおりであるから、採用できない。
ウ さらに、上記1(3)イに示した補正事項が、特許法17条の2第5項1号、3号及び4号に規定する「請求項の削除」、「誤記の訂正」及び「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」のいずれにも該当しないことは明らかである。
4 本件補正の適否についてのまとめ
したがって、本件補正は、上記2において示したとおり、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものであるとはいえないから、特許法17条の2第3項に規定する要件に違反するものである。
また仮に、本件補正が当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものであるとしても、本件補正は、上記3において示したとおり、特許法17条の2第5項各号のいずれを目的とするものではない補正であり、特許法17条の2第5項の規定に違反するもの(目的該当性違反)であるから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3.本願発明について
1 本願発明1
本件補正は、上記第2に示したとおり却下したので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、令和6年2月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(上記第2の1(1)参照)により特定されるとおりのものである。
本願発明1の構成を便宜上次のように構成Xと構成A~Dに分説する。
「【請求項1】
A 生体において同時に測定された発汗データ及び前記発汗データ以外の生体データを、訓練データとして取得する、訓練データ取得部と、
B 前記訓練データとなる発汗データから第1の特徴量を抽出し、前記訓練データとなる前記発汗データ以外の生体データから第2の特徴量を抽出する、特徴量抽出部と、
C 抽出された前記第1の特徴量と抽出された前記第2の特徴量とを機械学習して、発汗データ以外の生体データから、それに対応する発汗データの特徴量を推定する、機械学習モデルを生成する、機械学習モデル生成部と、
を備え、
D 発汗データ以外の生体データが、心電データ、心拍データ、脈波データ、呼吸データ、瞳孔データ、血圧データ、及び脳波データのうちの少なくとも1つである、
ことを特徴とする、
X 学習モデル生成装置。」
2 原査定の拒絶の理由
原査定における本願発明1についての拒絶の理由(理由2:進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
理由2(進歩性の欠如):
本願発明1は、国際出願日前に発行された下記の引用文献1及び3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1:国際公開第2018/163558号
引用文献3:国際公開第2019/135403号(周知技術を示す文献)
3 各引用文献に記載された事項及び引用発明の認定等
(1)引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の国際出願日前に発行された文献である国際公開第2018/163558号(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「[0017] <<1.2.システム構成例>>
次に、本実施形態に係る情報処理システムのシステム構成例について説明する。図1は、本実施形態に係る情報処理システムのシステム構成例を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係る情報処理システムは、情報処理端末10および情報処理装置20を備えてもよい。また、情報処理端末10および情報処理装置20は、ネットワーク50を介して、互いに通信が行えるように接続される。
[0018] (情報処理端末10)
本実施形態に係る情報処理端末10は、ユーザに係る種々のセンサ情報を収集する情報処理装置である。情報処理端末10により収集される上記のセンサ情報は、情報処理装置20による健康指標の算出や行動推定などに用いられ得る。本実施形態に係る情報処理端末10は、例えば、ユーザが所持する携帯電話、スマートフォン、タブレット、または各種のウェアラブルデバイスなどであってよい。図1には、本実施形態に係る情報処理端末10がユーザの所持するリストバンド型のウェアラブルデバイスである場合の一例が示されている。
[0019] (情報処理装置20)
本実施形態に係る情報処理装置20は、情報処理端末10が収集したセンサ情報に基づいてユーザの健康指標を算出し、改善を要する要改善項目を決定する機能を有する。要改善項目の一例には、例えば、睡眠量や活動量などが挙げられる。また、本実施形態に係る情報処理装置20は、上記のような要改善項目に基づいて、要改善項目を改善する改善手段と要改善項目が達成された場合に供される娯楽に関する報酬とを決定する機能を有する。さらに、本実施形態に係る情報処理装置20は、上記の改善手段および報酬に係るユーザへの提示を制御する機能を有する。
[0020] 図1には、本実施形態に係る情報処理装置20がユーザの所持するスマートフォンである場合の一例が示されている。この場合、情報処理装置20は、スマートフォンの表示部に上記の改善手段および報酬の内容を表示させてよい。
[0021] また、本実施形態に係る情報処理装置20は、逐次算出される健康指標の変動に基づいて要改善項目が改善されたか否かを判定する機能を有する。さらに、情報処理装置20は、ユーザへの報酬の提供を制御する機能を有する。具体的には、情報処理装置20は、要改善項目が改善されたと推定した場合、ユーザへ報酬を与える制御を行ってよい。例えば、図1に示す一例の場合、情報処理装置20は、スマートフォンの動作部に報酬に対応する動作を行わせることができる。
[0022] なお、図1では、情報処理装置20がスマートフォンである場合の一例が示されているが、本実施形態に係る情報処理装置20は係る例に限定されない。本実施形態に係る情報処理装置20は、例えば、クラウドに配置されるサーバなどであってもよい。この場合、情報処理装置20は、ユーザが所持するスマートフォンなどを制御し、改善手段および報酬の内容の提示や、報酬の提供などを行わせることができる。
[0023] また、本実施形態に係る情報処理装置20は、改善手段および報酬の内容の提示と報酬の提供とを、それぞれ異なる制御対象に行わせてもよい。例えば、情報処理装置20は、改善手段および報酬の内容の提示をテレビジョン装置に行わせ、報酬の提供をスマートフォンに行わせることも可能である。このように、本実施形態に係る情報処理装置20の形態や情報処理装置20の制御対象は、仕様や運用に応じて柔軟に変更され得る。
[0024] <<1.3.情報処理端末10の機能構成例>>
次に、本実施形態に係る情報処理端末10の機能構成例について説明する。図2は、本実施形態に係る情報処理端末10の機能ブロック図の一例である。図2に示すように、本実施形態に係る情報処理端末10は、センサ部110、入力部120、出力部130、端末制御部140、および通信部150を備え得る。
[0025] (センサ部110)
センサ部110は、ユーザに係る種々のセンサ情報を収集する機能を有する。上述したように、センサ部110により収集されるセンサ情報は、情報処理装置20による健康指標の算出に用いられる。このため、センサ部110が収集するセンサ情報には、ユーザの生体情報が含まれてよい。ここで、上記の生体情報には、例えば、脈波、発汗、血圧、筋電位、心電、眼電位、脳波、瞳孔開口率、体温などの情報が含まれる。このため、センサ部110は、上記のような生体情報を収集するセンサを備える。
[0026] また、センサ部110は、情報処理装置20による行動推定に用いられるセンサ情報を収集してよい。このため、センサ部110は、例えば、加速度センサ、ジャイロセンサ、気圧センサ、気温センサ、湿度センサ、筋電センサ、マイクロフォン、振動センサ、圧力センサ、撮像センサ、GPSセンサなどを備える。
[0027] (入力部120)
入力部120は、ユーザによる入力操作を受け付ける機能を有する。このために、本実施形態に係る入力部120は、ユーザによる入力操作を検出するための各種の装置やセンサを含んでよい。入力部120は、例えば、タッチパネル、ボタン、キーボード、スイッチなどを備える。また、入力部120は、ユーザの音声を収集するマイクロフォンを備えてもよい。
[0028] (出力部130)
出力部130は、利用者に対し視覚情報および音声情報を提示する機能を有する。このために、本実施形態に係る出力部130は、例えば、タッチパネル、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)装置、OLED(Organic Light Emitting Diode)装置などを備える。また、本実施形態に係る出力部130は、音声を出力するスピーカーやアンプを備えてもよい。なお、本実施形態に係る出力部130は、情報処理装置20による制御対象であり得る。このため、本実施形態に係る出力部130は、情報処理装置20による制御に基づいて、改善手段および報酬の内容を出力してもよい。また、出力部130は、情報処理装置20による制御に基づいて、報酬をユーザに提供してもよい。
[0029] (端末制御部140)
端末制御部140は、情報処理端末10が備える各構成の動作を制御する機能を有する。また、端末制御部140は、例えば、情報処理端末10にインストールされるOS(Operating System)や各種のアプリケーションの制御を行う。
[0030] (通信部150)
通信部150は、ネットワーク50を介して、情報処理装置20との情報通信を行う機能を有する。具体的には、通信部150は、センサ部110が収集したセンサ情報を情報処理装置20に送信する。また、通信部150は、改善手段および報酬の内容提示や報酬の提供に係る制御信号を受信してもよい。
[0031] 以上、本実施形態に係る情報処理端末10の機能構成例について説明した。なお、図2を用いて説明した上記の機能構成はあくまで一例であり、本実施形態に係る情報処理端末10の機能構成は係る例に限定されない。例えば、本実施形態に係る情報処理端末10は、必ずしも上述した構成のすべてを備えなくてもよい。また、情報処理端末10は、図2に示す以外の構成をさらに備えてもよい。本実施形態に係る情報処理端末10の機能構成は、仕様や運用に応じて柔軟に変形され得る。
[0032] <<1.4.情報処理装置20の機能構成例>>
次に、本実施形態に係る情報処理装置20の機能構成例について説明する。図3は、本実施形態に係る情報処理装置20の機能ブロック図の一例である。図3に示すように、本実施形態に係る情報処理装置20は、健康指標算出部210、センサDB220、行動推定部230、行動‐指標DB240、状況推定部250、制御部260、提示部270、動作部280、および通信部290を備え得る。
[0033] (健康指標算出部210)
健康指標算出部210は、情報処理端末10により収集されたセンサ情報に基づいて健康指標を算出する機能を有する。また、本実施形態に係る健康指標算出部210は、算出した健康指標に基づいて、改善を要する要改善項目を設定する機能を有する。ここで、本実施形態に係る健康指標は、下記の表1に示すように、複数の異なる項目を含んでもよい。
[0034]
[図:0001424373000001.jpg]
[0035] 上記の表1には、本実施形態に係る健康指標の項目、当該項目の算出に用いられるセンサ情報、また当該センサ情報を収集する情報処理端末10の種別の一例が示されている。例えば、本実施形態に係る健康指標算出部210は、表1に示すように、ウェアラブルデバイス型の情報処理端末10により収集された加速度情報や脈波情報に基づいて睡眠量を算出してもよい。より具体的には、健康指標算出部210は、加速度から寝返りを認識し、当該寝返りの回数に基づいて睡眠の質を判定してもよい。また、健康指標算出部210は、脈波情報から心拍数を算出し、心拍数の時間変動を周波数変換によりLF(Low Frequency:低周波)成分およびHF(High Frequency:高周波)成分に分離し、両者の比(LF/HF)を自律神経の活動の指標に用いることもできる。
[0036] このように、本実施形態に係る健康指標算出部210は、センサ情報に応じたノイズ除去や特徴抽出を行うことで、複数の項目に係る健康指標を算出することができる。また、本実施形態に係る健康指標算出部210は、算出した複数の項目のそれぞれの値に基づいて要改善項目を設定してよい。例えば、健康指標算出部210は、複数の項目のうち、定められた基準との差が最も大きい項目を要改善項目に設定することができる。具体的には、算出した睡眠量が8時間、活動量(エネルギー消費量)が200kcalであり、定められた基準がそれぞれ6時間、450kcalである場合、健康指標算出部210は、活動量が基準を下回ることに基づいて、活動量を要改善項目に設定してよい。本実施形態に係る健康指標算出部210が有する上記の機能によれば、ユーザにより重要な要改善項目を提示することが可能となり、また、例えば、ユーザが自覚していない健康状態を指摘するなどの効果も期待される。
[0037] なお、本実施形態に係る健康指標は必ずしも複数の項目を含まなくてもよい。健康指標が単一の項目に関する場合であっても、健康指標算出部210は当該項目と基準値とを比較し、算出値が基準値を下回る場合には当該項目を要改善項目に設定することができる。
[0038] また、本実施形態に係る健康指標算出部210は、ニューラルネットワークなどの機械学習技術を用いて、同時刻に収集されたセンサ情報を用いた演算を行ってもよい。上記によれば、単一のセンサ情報を用いて得られる健康指標を、複数の生体信号の関係性に基づいて推測する変換式などを学習することが可能となり、より精度や汎化性の高い健康指標の算出を行うことができる。
[0039] 例えば、健康指標算出部210は、例えば、発汗と脈波に係る情報を用いて教師あり学習を行ってもよい。この際、健康指標算出部210は、発汗情報から算出される信頼性の高い交感神経活性度を教師に、脈波情報を生徒に学習を行うことができる。上記の学習によれば、入力される脈波情報に基づいて交感神経活性度を推定する変換式を得ることができ、発汗に係るセンサ情報が得られない場合であっても、脈波情報のみを用いて交感神経活性度を推定することが可能となる。
[0040] (センサDB220)
センサDB220は、情報処理端末10が収集したセンサ情報を蓄積するデータベースである。本実施形態に係るセンサDB220は、同時刻に収集された異なる種類のセンサ情報を時間軸に沿って記憶する機能を有する。このように、センサDB220が同時刻に得られた複数の種類のセンサ情報を記憶することで、健康指標算出部210が上述したような学習を行うことが可能となる。
[0041] (行動推定部230)
行動推定部230は、情報処理端末10が収集したセンサ情報に基づいてユーザの行動を推定する機能を有する。例えば、本実施形態に係る行動推定部230は、制御部260が決定した要改善項目を改善するための改善手段に対応するユーザの行動を推定することができる。ここで、本実施形態に係る改善手段は、行動種別および当該行動種別の強度を含んでよい。すなわち、本実施形態に係る行動推定部230は、ユーザが改善手段に対応する行動を行ったか、また、どの程度の強度で当該行動を行ったか、を推定することができる。
[0042] また、本実施形態に係る行動推定部230は、推定したユーザの行動と健康指標算出部210が算出した健康指標とを関連付けて行動‐指標DB240に時系列に記憶させる機能を有する。本実施形態に係る行動推定部230が有する上記の機能によれば、後述するように、制御部260がより効果的な改善手段や報酬を決定することが可能となる。
[0043] (行動‐指標DB240)
行動‐指標DB240は、行動推定部230による制御に基づいて、推定されたユーザの行動と算出された健康指標とを対応付けて時系列に記憶するデータベースである。行動‐指標DB240には、例えば、ユーザが行動Aを行っている間の健康指標の変動、ユーザが行動Bを行っている間の健康指標の変動などが記憶される。
[0044] (状況推定部250)
状況推定部250は、ユーザの状況を推定する機能を有する。状況推定部250が推定するユーザの状況は、制御部260による改善手段や報酬の決定に用いられてよい。ここで、上記のユーザの状況には、例えば、ユーザのスケジュールが含まれる。本実施形態に係る状況推定部250は、例えば、スケジュールアプリケーションから取得した情報に基づいて、ユーザのスケジュールを推定してもよい。また、状況推定部250は、メッセージアプリケーションなどにおいてユーザが送受信したテキスト情報から予定に関するキーワードを抽出することで、ユーザのスケジュールを推定してもよい。また、状況推定部250は、ユーザの発話から予定に関するキーワードを抽出し、スケジュールを推定することも可能である。
[0045] また、本実施形態に係るユーザの状況には、ユーザの体調が含まれてもよい。状況推定部250は、例えば、情報処理端末10が収集したセンサ情報に含まれる体温の値からユーザの体調を推定することができる。また、状況推定部250は、収集されたGPS情報からユーザが医療機関に訪問したことを検出し、ユーザの体調を推定してもよい。また、状況推定部250は、ユーザの発話や咳、くしゃみなどからユーザの体調を推定することも可能である。
[0046] (制御部260)
制御部260は、健康指標算出部210が算出した要改善項目に基づいて、要改善項目を改善するための改善手段と要改善項目が改善された場合に供される報酬とを決定する機能を有する。この際、本実施形態に係る制御部260は、ユーザの好む娯楽に関する報酬を決定してよい。また、本実施形態に係る制御部260は、決定した改善手段および報酬の内容をユーザに対し提示させる機能を有する。
[0047] さらに、本実施形態に係る制御部260は、逐次算出される健康指標の変動に基づいて要改善項目が改善されたか否かを判定する機能を有する。この際、制御部260は、要改善項目が改善されたと判定したことに基づいて、制御対象に上記の報酬に対応する動作を行わせる。本実施形態に係る制御部260によれば、報酬を得ようとする心理を利用して、ユーザに自発的な改善手段の実行を促すことが可能となる。
[0048] また、本実施形態に係る制御部260は、行動推定部230が推定したユーザの行動が健康指標に与える影響度を算出し、当該影響度に基づいて、改善手段を決定する機能を有してよい。この際、制御部260は、行動‐指標DB240に記憶される情報に基づいて、改善手段を決定することができる。制御部260は、例えば、改善手段に対応する行動をユーザが行った際に変動した健康指標の値に基づいて、より効果的な改善手段を決定してよい。
[0049] なお、上述したように、本実施形態に係る改善手段には、行動種別および当該行動種別の強度が含まれる。例えば、本実施形態に係る制御部260は、要改善項目が活動量である場合、行動種別をランニング、強度を30分と指定した改善手段を決定してもよい。制御部260は、ユーザの行動が健康指標に与える影響度に基づいて、上記の行動種別や強度を変更してよい。本実施形態に係る制御部260によれば、ユーザの特性に応じた改善手段を都度決定することができ、より効果の高い健康改善効果が期待できる。なお、制御部260は、必ずしも上記の強度を決定しなくてもよい。制御部260は、改善手段に係る行動種別のみを決定し、当該行動種別をユーザに提示させてもよい。
[0050] また、本実施形態に係る制御部260は、状況推定部250が推定したユーザの状況に基づいて、改善手段や報酬を決定してもよい。上述したように、本実施形態に係るユーザの状況には、ユーザのスケジュールや体調などが含まれる。本実施形態に係る制御部260が有する上記の機能によれば、よりユーザの日常に溶け込んだ無理のない行動変容を促すことが可能となる。なお、本実施形態に係る制御部260が有する機能の詳細および具体例については、別途後述する。
[0051] (提示部270)
提示部270は、制御部260による制御に基づいて、改善手段および報酬の内容を提示する機能を有する。このために、本実施形態に係る提示部270は、視覚情報を出力する表示装置や、音声情報を出力するスピーカーなどを備える。
[0052] (動作部280)
動作部280は、制御部260による制御に基づいて、報酬に対応する動作を行う機能を有する。なお、本実施形態に係る動作部280は、制御部260が決定した報酬に応じた種々の装置により実現される。本実施形態に係る動作部280の具体例については、別途詳細に説明する。
[0053] (通信部290)
通信部290は、ネットワーク50を介して、情報処理端末10との情報通信を行う機能を有する。具体的には、通信部290は、情報処理端末10からセンサ情報を受信する。また、制御部260による制御対象が情報処理装置20とは別途の装置である場合、通信部290は、改善手段および報酬の内容提示や報酬の提供に係る制御信号を制御対象に送信してよい。
[0054] 以上、本実施形態に係る情報処理装置20の機能構成例について説明した。なお、図3を用いて説明した上記の機能構成はあくまで一例であり、本実施形態に係る情報処理装置20の機能構成は係る例に限定されない。例えば、情報処理装置20が備える各機能構成は複数の装置に分散されて実現されてもよい。また、情報処理装置20は、上記に示した構成を必ずしもすべて備えなくてもよい。例えば、制御部260による制御対象が情報処理装置20とは別途の装置である場合、情報処理装置20は、提示部270や動作部280を備えなくてもよい。一方、本実施形態に係る情報処理装置20は、提示部270や動作部280と外部の装置との両方を制御対処とすることも可能である。本実施形態に係る情報処理装置20の機能構成は、仕様や運用に応じて適宜変形され得る。」
イ 引用発明の認定
上記アに摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。
<引用発明>
「同時刻に収集された脈波、発汗、血圧、筋電位、心電、眼電位、脳波、瞳孔開口率、体温などの情報が含まれるユーザの生体情報が含まれるセンサ情報を収集するセンサ部110と([0025]、 [0038])、
ニューラルネットワークなどの機械学習技術を用いて、同時刻に収集されたセンサ情報を用いた演算を行う健康指標算出部210と、
を備え([0032]、[0038])、
健康指標算出部210は、発汗情報から算出される信頼性の高い交感神経活性度を教師に、脈波情報を生徒に学習を行うことができ、入力される脈波情報に基づいて交感神経活性度を推定する変換式を得ることができる([0039])、
情報処理システム([0017])。」
(2)引用文献3の記載事項及び周知技術の認定
ア 引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の国際出願日前に発行された文献である国際公開第2019/135403号(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
(ア)「[0016] (実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。図1は、本実施形態に係るラベル付与装置1を用いた機械学習による行動認識の概要を示す図である。この機械学習による行動認識では、被験者の行動の時系列を推定する。ラベル付与装置1を用いた機械学習による行動認識には、学習フェーズと、推定フェーズとがある。
[0017] 学習フェーズでは、教師データTDが生成され、生成された教師データTDを用いた機械学習により学習モデルLMが生成される。本実施形態のラベル付与装置1は、この教師データTDを生成する。
[0018] 教師データTDは、センサデータSD1から抽出される特徴量ベクトルFVと、教師ラベルLLとの組である。ここで教師ラベルLLとは、被験者の行動を示すキーワードである。教師ラベルLLは、例えば、[食べた]、「トイレ」、「薬を飲んだ」、「錠剤を服用した」、「服用」、「散歩」、「走った」などの被験者の行動を示すキーワードである。センサデータSD1とは、被験者の動作や姿勢を測定するセンサが測定した値を、値が測定された時間の順に並べた時系列データである。
[0019] センサとは、例えば、被験者の生体情報を取得するセンサや、被験者の体動を検知する加速度計などである。センサが測定した値とは、被験者の心拍数や、センサが取りつけられた身体の部位の加速度である。このセンサは、被験者の身体に設けられてもよいし、被験者の周囲に設置されてもよい。被験者の周囲に設置される場合、センサは、被験者の周囲に設置されたカメラが被験者を撮像した画像を画像解析することにより、被験者の動作や姿勢を測定してもよい。センサは、環境センサであってもよい。センサが環境センサである場合、被験者の周囲の明るさ、室温、気温、及び湿度などの環境データを測定してもよい。また、センサは、人感センサであってもよい。ただし、センサが被験者の周囲に設置される場合、センサは、測定するデータが被験者についてのデータであることを識別できる。例えば、センサは、被験者の動作や姿勢と被験者以外の人物の動作や姿勢とを区別できる。また、センサは、環境データを被験者の住居の環境データと、他の場所の環境データとを区別できる。
[0020] 教師ラベルLLは、自然言語テキスト形式を用いて被験者の行動が記録されたテキストデータTXから、自然言語処理により行動キーワードKAが、教師ラベル候補LCとして抽出され、抽出された教師ラベル候補LCから生成される。ここで行動キーワードKAとは、被験者の行動を示すキーワードである。教師ラベル候補LCとは、教師ラベルLLの候補である。つまり、被験者の行動を示すキーワードが、教師ラベルLLの候補として抽出される。テキストデータTXは、例えば、介護施設において被験者の介護の様子が記録された業務日誌として記述されたデータである。
[0021] 被験者の行動が記録されたテキストデータTXからは、教師ラベル候補LCとともに、被験者の行動が行われた時刻の候補を示す時刻情報TIが抽出される。ここで時刻情報TIには、開始時刻の候補を示す開始時刻情報BT、及び終了時刻の候補を示す終了時刻情報ETがある。教師ラベル候補LCと、被験者の行動の開始時刻情報BT及び終了時刻情報ETとからラベルセグメントLSが生成される。ここでラベルセグメントLSとは、教師ラベル候補LCと、開始時刻情報BT及び終了時刻情報ETとの組である。以下では、開始時刻情報BTが示す被験者の行動の開始時刻の候補から、終了時刻情報ETが示す被験者の行動の終了時刻の候補までの時間区間を、ラベルセグメントLSの時間区間INと呼ぶ。また、ラベルセグメントLSに含まれる開始時刻情報BTが示す行動の開始時刻を、ラベルセグメントLSの開始時刻などと呼ぶことがある。ラベルセグメントLSに含まれる終了時刻情報ETが示す行動の終了時刻を、ラベルセグメントLSの開始時刻などと呼ぶことがある。
[0022] 特徴量ベクトルFVとは、センサデータSD1から抽出される1以上の特徴量を並べたベクトルである。センサデータSD1の特徴量とは、ある時間間隔におけるデータの値の平均、標準偏差、最大値、最小値、増加率、及び1次微分の平均値などである。以下、時間間隔を、時間窓TWと呼ぶ。抽出された1以上の特徴量は、時間窓TWの中央値によって示される時刻における特徴量ベクトルFVを構成する。
時間窓TWのサイズは、秒数などに基づいて予め決められてもよいし、特徴量を抽出するのに適したサイズとして決められてもよい。時間窓TW同士の間隔は、秒数などを用いて予め決められてもよいし、特徴量を抽出するのに適した間隔として決められてもよい。
[0023] 図1に示す例においては、時間窓TW1における1以上の特徴量が、時間窓TW1の中央値によって示される時刻における特徴量ベクトルFV1として抽出されている。時間窓TW2における1以上の特徴量が、時間窓TW2の中央値によって示される時刻における特徴量ベクトルFV2として抽出されている。時間窓TW3における1以上の特徴量が、時間窓TW3の中央値によって示される時刻における特徴量ベクトルFV3として抽出されている。ただし、図1に示す例においては、時間窓TW1~時間窓TW3のみが図示されているが、時間窓TW1~時間窓TW3以外の時間窓に対応する特徴量ベクトルも抽出されている。
[0024] 図1に示す例では、センサデータSD1が示す時間に対応する被験者の行動が記録されたテキストデータTXから1以上のラベルセグメントLS1、ラベルセグメントLS2、…が生成されている。ただし、図1に示す例においては、ラベルセグメントLS1、ラベルセグメントLS2のみが図示されているが、ラベルセグメントLS1、ラベルセグメントLS2以外のラベルセグメントLSi(i=3、4、…)も生成されている。
[0025] 抽出された特徴量ベクトルFV1、特徴量ベクトルFV2、特徴量ベクトルFV3、…と、生成されたラベルセグメントLS1、ラベルセグメントLS2、…とから、教師あり学習を用いて、サンプルSM1、サンプルSM2、サンプルSM3、…が生成される。ここでサンプルとは、ある時刻における特徴量ベクトルFVと、この時刻における教師ラベルLLとの組である。例えば、サンプルSM1は、特徴量ベクトルFV1と教師ラベルLL1との組である。
[0026] ここで、特徴量ベクトルFV1、特徴量ベクトルFV2、特徴量ベクトルFV3、…の数と、ラベルセグメントLS1、ラベルセグメントLS2、…の数とは一般に異なる。また、特徴量ベクトルFV1、特徴量ベクトルFV2、特徴量ベクトルFV3、…の各々に対応する時刻と、ラベルセグメントLS1の時間区間IN1、ラベルセグメントLS2の時間区間IN2、…とは対応しているとは限らない。特徴量ベクトルFV1、特徴量ベクトルFV2、特徴量ベクトルFV3、…と、ラベルセグメントLS1、ラベルセグメントLS2、…とから、教師あり学習により、特徴量ベクトルFV1、特徴量ベクトルFV2、特徴量ベクトルFV3、…の各々に対応する教師ラベルLL1、教師ラベルLL2、教師ラベルLL3、…が判定される。この教師あり学習の詳細については後述する。
[0027] 生成されたサンプルSM1、サンプルSM2、サンプルSM3、…は教師データTDとなる。教師データTDを用いた機械学習により学習モデルLMが生成される。学習モデルLMは、センサデータSD1から抽出されるある特徴量ベクトルFVjが入力されると、センサデータSD1が示す被験者の行動を示すキーワードを出力する関数である。
[0028] 推定フェーズでは、学習フェーズにおいて学習された学習モデルLMを用いて、センサデータSD2から被験者の行動が推定される。推定フェーズにおいては、学習フェーズと異なり、センサデータSD2が示す時間に対応する被験者の行動が記録されたテキストデータTXが用いられずに、学習モデルLMに基づいてセンサデータSD2から推定ラベルELが推定される。推定ラベルELとは、センサデータSD2が示す時間に対応する被験者の行動を示すキーワードである。
[0029] センサデータSD2から、時間窓ETW1に対応する特徴量ベクトルEFV1が生成される。センサデータSD2から、時間窓ETW2に対応する特徴量ベクトルEFV2が生成される。センサデータSD2から、時間窓ETW3に対応する特徴量ベクトルEFV3が生成される。特徴量ベクトルEFV1、特徴量ベクトルEFV2、特徴量ベクトルEFV3、…から、学習モデルLMに基づいて推定ラベルEL1、推定ラベルEL2、推定ラベルEL3、…がそれぞれ推定される。」
イ 周知技術1の認定
上記アに示した引用文献3の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、国際出願時において当業者にとって周知技術であったと認められる。(以下「周知技術1」という。)
<周知技術1>
「機械学習の技術分野において、データを用いて機械学習を行うにあたり、データから特徴量を抽出して機械学習を行うこと。」
4 本願発明1と引用発明の対比
(1)対比分析
本願発明1と引用発明を対比する。
ア 構成Aの観点(訓練データ取得部について)
(ア)引用発明の「同時刻に収集された脈波、発汗、血圧、筋電位、心電、眼電位、脳波、瞳孔開口率、体温などの情報が含まれるユーザの生体情報が含まれるセンサ情報」は、本願発明1の「生体において同時に測定された発汗データ及び前記発汗データ以外の生体データ」に相当する。
(イ)引用発明において、「ニューラルネットワークなどの機械学習技術を用いて、同時刻に収集されたセンサ情報を用いた演算」が行われることから、引用発明の「同時刻に収集された・・・センサ情報」は、本願発明1の「訓練データ」にも相当し、「同時刻に収集された・・・センサ情報を収集するセンサ部110」は、本願発明1の「訓練データ取得部」に相当する。
(ウ)したがって、本願発明1と引用発明は、次の点において一致する。
「生体において同時に測定された発汗データ及び前記発汗データ以外の生体データを、訓練データとして取得する、訓練データ取得部」を備える点。
イ 構成Bの観点(特徴量抽出部について)
(ア)構成Bは、「前記訓練データとなる発汗データから第1の特徴量を抽出し、前記訓練データとなる前記発汗データ以外の生体データから第2の特徴量を抽出する、特徴量抽出部」を備えることである。
(イ)引用発明は、本願発明1の構成Bに相当する構成を備えていないから、本願発明1と引用発明は、次の点において相違する。
本願発明1は、「前記訓練データとなる発汗データから第1の特徴量を抽出し、前記訓練データとなる前記発汗データ以外の生体データから第2の特徴量を抽出する、特徴量抽出部」を備えるのに対して、
引用発明は、そのような特定がない点。
ウ 構成Cの観点(機械学習モデル生成部について)
(ア)引用発明の「発汗情報から算出される信頼性の高い交感神経活性度」、「脈波情報」、「健康指標算出部210」は、それぞれ本願発明1の「発汗データ」、「発汗データ以外の生体データ」、「機械学習モデル生成部」に相当する。
(イ)そして、引用発明の「発汗情報から算出される信頼性の高い交感神経活性度を教師に、脈波情報を生徒に学習を行うことができ、脈波情報に基づいて交感神経活性度を推定する変換式を得る」は、本願発明1の「発汗データ以外の生体データから、それに対応する発汗データ」「を推定する、機械学習モデルを生成する」に相当する。
(ウ)一方、引用発明は、構成Cの「抽出された前記第1の特徴量と抽出された前記第2の特徴量とを機械学習して、」(発汗データ以外の生体データから、それに対応する)「発汗データの特徴量を推定する」構成を備えていない。
(エ)したがって、本願発明1と引用発明は、「発汗データ以外の生体データから、それに対応する発汗データを推定する、機械学習モデルを生成する、機械学習モデル生成部と、を備え」る点で一致し、次の点において相違する。
本願発明1は、「抽出された前記第1の特徴量と抽出された前記第2の特徴量とを機械学習して、」「発汗データの特徴量を推定する」のに対して、引用発明は、そのような特定がない点。
エ 構成Dの観点(発汗データ以外の生体データについて)
(ア)引用発明の「脈波、」「血圧、筋電位、心電、眼電位、脳波、瞳孔開口率、体温などの情報が含まれるユーザの生体情報が含まれるセンサ情報」は、本願発明1の「発汗データ以外の生体データ」に相当するとともに、「心電データ、心拍データ、脈波データ、呼吸データ、瞳孔データ、血圧データ、及び脳波データのうちの少なくとも1つ」に相当する。
(イ)したがって、本願発明1と引用発明は、次の点において一致する。
「発汗データ以外の生体データが、心電データ、心拍データ、脈波データ、呼吸データ、瞳孔データ、血圧データ、及び脳波データのうちの少なくとも1つである」点。
オ 構成Xの観点(学習モデル生成装置)
(ア)引用発明は、「ニューラルネットワークなどの機械学習技術を用いて、同時刻に収集されたセンサ情報を用いた演算を行う健康指標算出部210」を備える「情報処理システム」であるから、機械学習技術により学習モデルを生成する装置を含むことは自明である。
(イ)したがって、引用発明は、「学習モデル生成装置」の発明である点において本願発明1と一致する。
(2)一致点及び相違点
上記(1)の対比分析の結果をまとめると、本願発明1と引用発明は、次のアに示す一致点において一致し、イに示す相違点において相違すると認められる。
ア 一致点
「生体において同時に測定された発汗データ及び前記発汗データ以外の生体データを、訓練データとして取得する、訓練データ取得部と、
発汗データ以外の生体データから、それに対応する発汗データを推定する、機械学習モデルを生成する、機械学習モデル生成部と、
を備え、
発汗データ以外の生体データが、心電データ、心拍データ、脈波データ、呼吸データ、瞳孔データ、血圧データ、及び脳波データのうちの少なくとも1つである、
ことを特徴とする、学習モデル生成装置」の発明である点。
イ 相違点
本願発明1は、「前記訓練データとなる発汗データ」と「前記訓練データとなる前記発汗データ以外の生体データ」を元に機械学習する際に、「第1の特徴量」及び「第2の特徴量」を抽出して行い、「発汗データ以外の生体データ」から「それに対応する発汗データ」を推定する際には、「発汗データの特徴量」を推定するのに対し、引用発明はそのような特定をしていない点。
5 判断
(1)上記相違点についての検討
ア 「機械学習の技術分野において、データを用いて機械学習を行うにあたり、データから特徴量を抽出して機械学習を行うこと」は、周知の技術である(上記「周知技術1」参照)。
イ したがって、引用発明において、「発汗データ」と「発汗データ以外の生体データ」を用いて機械学習を行うにあたり、周知技術1を適用してそれぞれのデータから特徴量、すなわち第1の特徴量と第2の特徴量を抽出し、抽出したそれぞれの特徴量を機械学習して、機械学習モデルを生成することは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。
ウ また、当該機械学習モデルを用いることで「発汗データ以外の生体データ」から「発汗データの特徴量」が推定されることは、当業者にとって自明である。
エ そして、本願発明1が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難なものではなく、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
オ したがって、引用発明において、上記相違点に係る構成をなすことは、当業者が容易になし得たことである。
(2) 審判請求人の主張について
ア 審判請求書における審判請求人の主張
令和6年6月27日提出の審判請求書において、審判請求人は、概略下記に示す内容を主張している。
(ア)ストレスの判定には、交感神経の影響のみを含む発汗データを用いるのが適しているが、発汗データを取得できるセンサは高価である。一方、安価なセンサで取得できる生体データ(非発汗データ)では、交感神経と副交換神経の両方の影響を含むため、ストレスの判定精度が低下する。このため、本発明では、機械学習モデルを用いて、安価なセンサで取得できる生体データ(非発汗データ)の特徴量を、交感神経の影響のみを含む発汗データの特徴量に変換する。
(イ)原査定において引用されている、引用文献1の[0025]、[0038]-[0039]には、センサ情報から健康指標を算出する技術が開示されている。しかしながら、引用文献1の段落[0034]の表1には、「副交感神経」活性度を健康指標として算出するためのセンサ情報として、「発汗」が明記されており、発汗から副交換神経についての数値を導き出すことを想定している。このことは、引用文献1には、上述の本発明の技術的特徴を想到するに至った知見が開示されていないことを示唆している。つまり、このことから、引用文献1が上述の本発明の技術的特徴については開示及び示唆していないことは明白である。
イ 審判請求人の主張についての検討
上記第2にて説示したとおり、上記第2.1(3)イに示した補正事項を含む本件補正は決定をもって却下されており、本願発明1は上記第2.1(3)イに示した補正事項、すなわち、発汗データが副交感神経の影響を含まない旨の構成を含まないものである。
したがって、発汗データが副交感神経の影響を含まないことを前提とした上記ア(ア)及びア(イ)の主張はいずれも採用することができないものであり、上記(1)の結論を左右するものではない。
6 小括
上記5にて説示したとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4.むすび
以上のとおり、本願発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-010649