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特許拒絶査定不服審判

2024-009100

通信ID割当方法およびその方法を提供するバッテリパック

審判番号
2024-009100
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2022-562468外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2024年05月31日
審決日
2025年01月20日
公報発行日
2025年07月25日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P18 .536-Z (H02J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第3項、特許法第37条、特許法第17条の2第4項、特許法第17条の2第6項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2022-562468「通信ID割当方法およびその方法を提供するバッテリパック」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 7月 7日国際公開、WO2022/145688、令和 5年 5月31日国内公表、特表2023-522645〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 10項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は、2021年(令和3年)11月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2020年12月28日 (KR)大韓民国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。

令和4年10月18日 翻訳文提出書

令和5年 9月14日付け 拒絶理由通知書

12月19日 意見書

令和6年 2月 9日付け 拒絶査定

5月31日 審判請求書・手続補正書

6月24日 前置報告書

8月29日 上申書

9月27日 面接

9月30日 面接記録

11月28日 上申書

以下、令和6年 2月 9日付け拒絶査定を「原査定」といい、同年 5月31日の手続補正書による補正を「本件補正」という。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

本件補正を却下する。

[理由]

1 本件補正の内容

(1)本件補正前である出願時の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】
直列連結された複数のバッテリセルを含む複数のバッテリモジュールが直列連結されるバッテリパックであって、
前記複数のバッテリモジュールを管理する複数のスレーブBMSと、
所定のバッテリモジュールが放電した後前記複数のバッテリモジュールが充電されるように前記複数のスレーブBMSを制御し、バッテリセルの充電前の第1セル電圧および充電後の第2セル電圧を指示するデータを前記複数のスレーブBMSから受信するマスタBMSとを含み、
続きを表示(全59行)
前記マスタBMSは、
前記第1セル電圧より前記第2セル電圧が低い低電圧バッテリセルを含むバッテリモジュールを前記放電したバッテリモジュールに隣接する上位電位に位置するバッテリモジュールと判断して前記複数のバッテリモジュールの連結順序を推定し、
前記推定された複数のバッテリモジュールの連結順序に基づいて前記複数のスレーブBMSそれぞれの通信IDを割り当てる、バッテリパック。
【請求項2】
前記第1セル電圧および前記第2セル電圧は、
前記バッテリモジュール内の最低電位に位置するバッテリセルのセル電圧である、請求項1に記載のバッテリパック。
【請求項3】
前記第2セル電圧は、
前記充電される時点に同期されて測定される、請求項1または2に記載のバッテリパック。
【請求項4】
前記マスタBMSは、
前記所定のバッテリモジュールが放電するように前記スレーブBMSを制御した履歴が存在し、前記上位電位に位置するバッテリモジュールが存在する場合、
前記上位電位に位置するバッテリモジュールが放電するように対応するスレーブBMSを制御する、請求項1から3のいずれか一項に記載のバッテリパック。
【請求項5】
前記マスタBMSは、
前記所定のバッテリモジュールが放電するように前記スレーブBMSの制御履歴が存在しない場合、
前記複数のバッテリセルのうち任意のバッテリモジュールが放電するように対応するスレーブBMSを制御する、請求項1から4のいずれか一項に記載のバッテリパック。
【請求項6】
前記マスタBMSは、
前記所定のバッテリモジュールが放電するように前記スレーブBMSを制御した履歴が存在し、前記上位電位に位置するバッテリモジュールが存在しない場合、
放電履歴がない未放電バッテリモジュールのうち任意のバッテリモジュールが放電するように対応するスレーブBMSを制御する、請求項1から5のいずれか一項に記載のバッテリパック。
【請求項7】
前記マスタBMSは、
前記複数のバッテリセルのうち放電履歴がない未放電バッテリモジュールが存在しない場合、
前記推定された複数のバッテリモジュールの連結順序に基づいて前記複数のスレーブBMSそれぞれの通信IDを割り当てる、請求項1から6のいずれか一項に記載のバッテリパック。
【請求項8】
直列連結された複数のバッテリセルを含む複数のバッテリモジュールが直列連結されるバッテリパックにおいて、マスタBMSが前記複数のバッテリモジュールを管理する複数のスレーブBMSそれぞれの通信IDを割り当てる方法であって、
所定のバッテリモジュールが所定の放電期間、放電するように対応するスレーブBMSに放電命令を伝送して制御する段階と、
前記放電期間が経過すると、前記複数のバッテリモジュールが充電されるように前記複数のスレーブBMSに充電命令を伝送して制御する段階と、
バッテリセルの充電前の第1セル電圧より充電後の第2セル電圧が低い低電圧バッテリセルを含むバッテリモジュールを前記放電したバッテリモジュールに隣接する上位電位のバッテリモジュールと判断して前記複数のバッテリモジュールの連結順序を推定する段階と、
前記推定された複数のバッテリモジュールの連結順序に基づいて前記複数のスレーブBMSそれぞれの通信IDを割り当てる段階とを含む、通信ID割当方法。
【請求項9】
前記第1セル電圧および前記第2セル電圧は、
前記バッテリモジュール内の最低電位に位置するバッテリセルのセル電圧である、請求項8に記載の通信ID割当方法。
【請求項10】
前記第2セル電圧は、
前記充電される時点に同期されて測定される、請求項8または9に記載の通信ID割当方法。
【請求項11】
前記スレーブBMSに放電命令を伝送して制御する段階は、
前記所定のバッテリモジュールが放電するように前記スレーブBMSを制御した履歴が存在するのかを判断する段階と、
前記履歴が存在する場合、前記上位電位に位置するバッテリモジュールが存在するのかを判断する段階と、
前記上位電位に位置するバッテリモジュールが存在する場合、前記上位電位に位置するバッテリモジュールが放電するように対応するスレーブBMSを制御する段階を含む、請求項8から10のいずれか一項に記載の通信ID割当方法。
【請求項12】
前記スレーブBMSに放電命令を伝送して制御する段階は、
前記所定のバッテリモジュールが放電するように前記スレーブBMSを制御した履歴が存在するのかを判断する段階と、
前記履歴が存在しない場合、前記複数のバッテリセルのうち任意のバッテリモジュールが放電するように対応するスレーブBMSを制御する段階を含む、請求項8から11のいずれか一項に記載の通信ID割当方法。
【請求項13】
前記スレーブBMSに放電命令を伝送して制御する段階は、
前記所定のバッテリモジュールが放電するように前記スレーブBMSを制御した履歴が存在するのかを判断する段階と、
前記履歴が存在する場合、前記上位電位に位置するバッテリモジュールが存在するのかを判断する段階と、
前記上位電位に位置するバッテリモジュールが存在しない場合、放電履歴がない未放電バッテリモジュールのうち任意のバッテリモジュールが放電するように対応するスレーブBMSを制御する段階を含む、請求項8から12のいずれか一項に記載の通信ID割当方法。
【請求項14】
前記複数のバッテリモジュールの連結順序を推定する段階の後、
前記複数のバッテリモジュールのうち放電履歴がない未放電バッテリモジュールが存在するのかを判断する段階をさらに含み、
前記放電履歴がない未放電バッテリモジュールが存在しない場合、前記複数のスレーブBMSそれぞれの通信IDを割り当てる段階を行う、請求項8から13のいずれか一項に記載の通信ID割当方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。

「 【請求項1】
直列連結された複数のバッテリセルを含む複数のバッテリモジュールが直列連結されるバッテリパックであって、
前記複数のバッテリモジュールを管理する複数のスレーブBMSと、
所定のバッテリモジュールが放電した後前記複数のバッテリモジュールが充電されるように前記複数のスレーブBMSを制御し、バッテリセルの充電前の第1セル電圧および充電後の第2セル電圧を指示するデータを前記複数のスレーブBMSから受信するマスタBMSとを含み、
続きを表示(全57行)
前記マスタBMSは、
前記第1セル電圧より前記第2セル電圧が低い低電圧バッテリセルを含むバッテリモジュールを前記放電したバッテリモジュールに隣接する上位電位に位置するバッテリモジュールと判断して前記複数のバッテリモジュールの連結順序を推定し、
前記推定された複数のバッテリモジュールの連結順序に基づいて前記複数のスレーブBMSそれぞれの通信IDを割り当て、
前記第2セル電圧は、
前記充電される時点に同期されて測定される、バッテリパック。
【請求項2】
前記第1セル電圧および前記第2セル電圧は、
前記バッテリモジュール内の最低電位に位置するバッテリセルのセル電圧である、請求項1に記載のバッテリパック。
【請求項3】
前記マスタBMSは、
前記所定のバッテリモジュールが放電するように前記スレーブBMSを制御した履歴が存在し、前記上位電位に位置するバッテリモジュールが存在する場合、
前記上位電位に位置するバッテリモジュールが放電するように対応するスレーブBMSを制御する、請求項1または2に記載のバッテリパック。
【請求項4】
前記マスタBMSは、
前記所定のバッテリモジュールが放電するように前記スレーブBMSの制御履歴が存在しない場合、
前記複数のバッテリセルのうち任意のバッテリモジュールが放電するように対応するスレーブBMSを制御する、請求項1から3のいずれか一項に記載のバッテリパック。
【請求項5】
前記マスタBMSは、
前記所定のバッテリモジュールが放電するように前記スレーブBMSを制御した履歴が存在し、前記上位電位に位置するバッテリモジュールが存在しない場合、
放電履歴がない未放電バッテリモジュールのうち任意のバッテリモジュールが放電するように対応するスレーブBMSを制御する、請求項1から4のいずれか一項に記載のバッテリパック。
【請求項6】
前記マスタBMSは、
前記複数のバッテリセルのうち放電履歴がない未放電バッテリモジュールが存在しない場合、
前記推定された複数のバッテリモジュールの連結順序に基づいて前記複数のスレーブBMSそれぞれの通信IDを割り当てる、請求項1から5のいずれか一項に記載のバッテリパック。
【請求項7】
直列連結された複数のバッテリセルを含む複数のバッテリモジュールが直列連結されるバッテリパックにおいて、マスタBMSが前記複数のバッテリモジュールを管理する複数のスレーブBMSそれぞれの通信IDを割り当てる方法であって、
所定のバッテリモジュールが所定の放電期間、放電するように対応するスレーブBMSに放電命令を伝送して制御する段階と、
前記放電期間が経過すると、前記複数のバッテリモジュールが充電されるように前記複数のスレーブBMSに充電命令を伝送して制御する段階と、
バッテリセルの充電前の第1セル電圧より充電後の第2セル電圧が低い低電圧バッテリセルを含むバッテリモジュールを前記放電したバッテリモジュールに隣接する上位電位のバッテリモジュールと判断して前記複数のバッテリモジュールの連結順序を推定する段階と、
前記推定された複数のバッテリモジュールの連結順序に基づいて前記複数のスレーブBMSそれぞれの通信IDを割り当てる段階とを含み、
前記第2セル電圧は、
前記充電される時点に同期されて測定される、通信ID割当方法。
【請求項8】
前記第1セル電圧および前記第2セル電圧は、
前記バッテリモジュール内の最低電位に位置するバッテリセルのセル電圧である、請求項7に記載の通信ID割当方法。
【請求項9】
前記スレーブBMSに放電命令を伝送して制御する段階は、
前記所定のバッテリモジュールが放電するように前記スレーブBMSを制御した履歴が存在するのかを判断する段階と、
前記履歴が存在する場合、前記上位電位に位置するバッテリモジュールが存在するのかを判断する段階と、
前記上位電位に位置するバッテリモジュールが存在する場合、前記上位電位に位置するバッテリモジュールが放電するように対応するスレーブBMSを制御する段階を含む、請求項7または8に記載の通信ID割当方法。
【請求項10】
前記スレーブBMSに放電命令を伝送して制御する段階は、
前記所定のバッテリモジュールが放電するように前記スレーブBMSを制御した履歴が存在するのかを判断する段階と、
前記履歴が存在しない場合、前記複数のバッテリセルのうち任意のバッテリモジュールが放電するように対応するスレーブBMSを制御する段階を含む、請求項7から9のいずれか一項に記載の通信ID割当方法。
【請求項11】
前記スレーブBMSに放電命令を伝送して制御する段階は、
前記所定のバッテリモジュールが放電するように前記スレーブBMSを制御した履歴が存在するのかを判断する段階と、
前記履歴が存在する場合、前記上位電位に位置するバッテリモジュールが存在するのかを判断する段階と、
前記上位電位に位置するバッテリモジュールが存在しない場合、放電履歴がない未放電バッテリモジュールのうち任意のバッテリモジュールが放電するように対応するスレーブBMSを制御する段階を含む、請求項7から10のいずれか一項に記載の通信ID割当方法。
【請求項12】
前記複数のバッテリモジュールの連結順序を推定する段階の後、
前記複数のバッテリモジュールのうち放電履歴がない未放電バッテリモジュールが存在するのかを判断する段階をさらに含み、
前記放電履歴がない未放電バッテリモジュールが存在しない場合、前記複数のスレーブBMSそれぞれの通信IDを割り当てる段階を行う、請求項7から11のいずれか一項に記載の通信ID割当方法。」

2 補正の目的

本件補正は、請求項3及び10を削除するとともに、独立請求項である本件補正前の請求項1及び8の「第2セル電圧」について、「前記第2セル電圧は、前記充電される時点に同期されて測定される、」との限定を付して、それぞれ本件補正後の請求項1及び7とするものであり、本件補正前の請求項1及び8に係る発明と本件補正後の請求項1及び7に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」(いわゆる限定的減縮)を目的とするものを含む。

3 補正の適否

本件補正における、「前記第2セル電圧は、前記充電される時点に同期されて測定される、」との事項は、発明の詳細な説明【0011】、【0060】等の記載に基づくものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

また、本件補正前に受けた拒絶理由通知において特許することができないものか否かについて判断が示された発明と、本件補正後の特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明とが、特許法第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に適合するものである。

そして、本件補正は、前記2のとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものを含むことから、本件補正後の請求項1~12に係る発明(以下、総称して「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)実施可能要件

ア 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基いて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきものと解される。

本件補正発明は、前記1(2)のとおり特定されるものであり、「前記マスタBMSは、前記第1セル電圧より前記第2セル電圧が低い低電圧バッテリセルを含むバッテリモジュールを前記放電したバッテリモジュールに隣接する上位電位に位置するバッテリモジュールと判断して前記複数のバッテリモジュールの連結順序を推定」するとの発明特定事項を含むものである。

そうすると、本件補正発明において、「複数のバッテリモジュールの連結順序」の「推定」は「低電圧バッテリセル」を特定することによりなされるものである。

そして、「第1セル電圧」、及び「第2セル電圧」は、本件補正発明の「所定のバッテリモジュールが放電した後前記複数のバッテリモジュールが充電されるように前記複数のスレーブBMSを制御し、バッテリセルの充電前の第1セル電圧および充電後の第2セル電圧を指示するデータを前記複数のスレーブBMSから受信するマスタBMSとを含」むとの発明特定事項より、それぞれ、「バッテリセルの充電前の」セル電圧、及びバッテリセルの「充電後の」セル電圧である。

以上を踏まえると、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するためには、発明の詳細な説明に、本件補正発明の「バッテリセルの充電前の」「前記第1セル電圧より」「充電後の」「前記第2セル電圧が低い低電圧バッテリセル」を特定できることを、当業者が認識できる記載が必要であるといえる。

イ 発明の詳細な説明及び図面

本願の発明の詳細な説明及び図面には、以下の事項が記載されている。なお、下線は強調のため当審で付与した。

「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、複数のバッテリモジュールの連結順序に基づいて複数のスレーブBMSそれぞれの通信IDを割り当てる方法およびその方法を提供するバッテリパックを提供する。」
「【0031】
図1は一実施形態によるバッテリパックを説明する図面であり、図2は図1のスレーブBMSの機能を説明するブロック図であり、図3は図1のマスタBMSの機能を説明するブロック図である。
【0032】
図1を参照すると、バッテリパック1は複数のバッテリモジュール10_1,10_2,10_3、複数のスレーブBMS20_1,20_2,20_3、そしてマスタBMS30を含む。
【0033】
バッテリモジュール10は直列連結された複数のバッテリセル(cell1,ce112,cell3)を含む。複数のバッテリモジュール10_1,10_2,10_3は直列連結されて必要な電源を供給する。図1では、直列連結された複数のバッテリモジュール10_1,10_2,10_3が二つの出力端OUT1,OUT2の間に連結されており、直列連結されるバッテリモジュール10の個数が増加するほど供給できる電力が増加する。図1では3個のバッテリモジュール10と各バッテリモジュール10が3個のバッテリセル(cell)を含むものとして示すが、これに限定されるものではなく、直列連結されるバッテリモジュール10およびバッテリセル(cell)の個数は選択に応じて多様に定めることができる。
【0034】
図1で、最下端に連結された第1バッテリモジュール10_1は電位が最も低く、最上端に連結された第3バッテリモジュール10_3の電位が最も高い。以下、直列連結された第1から第3バッテリモジュール10_1,10_2,10_3に含まれた複数のバッテリセルは電位が高くなる順に第1バッテリセルcell1、第2バッテリセルcell2などと定義する。したがって、図1で最も低い電位に位置するバッテリセルは第1バッテリセルcell1であり、最も高い電位に位置するバッテリセルは第9バッテリセルcell9である。
【0035】
例えば、バッテリセルのセル電圧が所定の誤差範囲内で5Vである場合、直列連結された第1から第3バッテリモジュール10_1,10_2,10_3が供給できる電圧は合計45Vであり得る。セル電圧は、該当バッテリセルが位置に対応する電位から下位バッテリセルが位置に対応する電位の差で算出される。以下、詳細な説明は図4および図5で説明する。」
「【0047】
図4は一実施形態により時間経過によるバッテリモジュールの電位変化を示す図であり、図5は図4で時間経過によるバッテリセルのセル電圧の変化を示す図である。
【0048】
例えば、複数のバッテリセル(cell1-cell9)それぞれのセル電圧は5Vであり、3個の直列連結されたバッテリモジュール10_1,10_2,10_3それぞれは3個の直列連結されたバッテリセルを含むと仮定する。図4を参照すると、9個のバッテリセル(cell1-cell9)が直列連結されるので、バッテリパック1の全体電圧は45Vである。第1バッテリセルcell1から第9バッテリセルcell9に行くほど電位は高くなるが、各バッテリセルのセル電圧は5Vである。
続きを表示(全30行)
【0049】
一実施形態により、図4を参照すると、第1バッテリモジュール10_1は最低電位に位置するバッテリモジュール10であり、第3バッテリモジュール10_3は最高電位に位置するバッテリモジュール10である。また、第2バッテリモジュール10_2は第1バッテリモジュール10_1に隣接する上位電位に位置するバッテリモジュール10である。また、第2バッテリモジュール10_2は第3バッテリモジュール10_3に隣接する下位電位に位置するバッテリモジュール10である。
【0050】
具体的に説明すると、複数のバッテリモジュール10_1,10_2,10_3の連結順序は、第1バッテリモジュール10_1の隣接する上位電位に第2バッテリモジュールは10_2が位置し、第2バッテリモジュールは10_2の隣接する上位電位に第3バッテリモジュール10_3が位置するように構成される。一実施形態により、マスタBMS30は、第1バッテリモジュール10_1、第2バッテリモジュールは10_2、および第3バッテリモジュール10_3を管理する第1スレーブBMS20_1、第2スレーブBMS20_2、および第3スレーブBMS20_3それぞれに対して第1通信ID(ID_1)、第2通信ID(ID_2)、および第3通信ID(ID_3)を割り当てることができる。
【0051】
マスタBMS30は、バッテリパック1の最初駆動時点に複数のスレーブBMS20_1,20_2,20_3それぞれの通信IDを割り当てる。この時、マスタBMS30は、スレーブBMS20の通信IDを該当スレーブBMS20が管理するバッテリモジュール10の電気的位置に対応するように割り当てられる。すなわち、複数のスレーブBMS20_1,20_2,20_3の通信IDの割り当ては、複数のバッテリモジュール10_1,10_2,10_3の電気的位置、すなわち、複数のバッテリモジュール10_1,10_2,10_3相互間の連結順序を確認する意味を含む。
【0052】
マスタBMS30は、複数のバッテリモジュール10_1,10_2,10_3のうち任意のバッテリモジュール10が所定の放電期間の間放電するようにした後、複数のバッテリモジュール10_1,10_2,10_3全体が充電されるように制御する。一実施形態により、マスタBMS30は、低電圧バッテリセルを含むバッテリモジュール10を放電したバッテリモジュール10の上位電位に隣接するように連結されたバッテリモジュール10と推定する。低電圧バッテリセルは、充電直前に測定された第1セル電圧より充電直後に測定された第2セル電圧が低いバッテリセルである。
【0053】
例えば、図4を参照すると、複数のバッテリモジュール10_1,10_2,10_3の連結順序を知らない状態で、マスタBMS30は、第2バッテリモジュールは10_2が放電した後、第1から第3バッテリモジュール10_1,10_2,10_3が充電されるように制御する。マスタBMS30は、第3バッテリモジュール10_3を放電した第2バッテリモジュール10_2の上位電位に隣接するように連結されたバッテリモジュール10と推定する。
【0054】
マスタBMS30は、前記方法を繰り返し行って複数のバッテリモジュール10_1,10_2,10_3の全体連結順序を推定する。マスタBMS30は、複数のバッテリモジュール10_1,10_2,10_3の全体連結順序に基づいて複数のスレーブBMS20_1,20_2,20_3の通信IDを割り当てる。
【0055】
一方、バッテリモジュール10が充電される時、内部抵抗に応じて充電される時点で瞬間的に増加する電圧の大きさがバッテリセル(cell)ごとに相異なる。具体的にはバッテリセル(cell)の内部抵抗はセル電圧、より正確にはSOC(State of Charge)によって異なる。バッテリセル(cell)のセル電圧が低いと、内部抵抗が大きく充電時に瞬間的に増加する電圧の大きさ(以下、電圧増加量)が内部抵抗の小さいバッテリセルの電圧増加量より大きい。
【0056】
図4を参照すると、例えば、第1時点T1から第2時点T2まで、マスタBMS30は、第2バッテリモジュール10_2が放電するように第2スレーブBMS20_2を制御する。その後、第3時点T3で、マスタBMS30は、第1から第3バッテリモジュール10_1,10_2,10_3全体が充電されるように第1から第3スレーブBMS20_1,20_2,20_3を制御する。
【0057】
図5を参照すると、第2バッテリモジュール10_2が放電し、第4から第6バッテリセルcell4,cell5,cell6の第1セル電圧は3Vである。放電していない第1バッテリモジュール10_1の第1から第3バッテリセルcell1,cell2,cell3および第3バッテリモジュール10_3の第7から第9バッテリセルcell7,cell8,cell9の第1セル電圧は5Vである。
【0058】
図4を参照すると、第3時点T3で第1から第3バッテリモジュール10_1,10_2,10_3が充電されると、第1セル電圧3Vが低い第2バッテリモジュール10_2の第4から第6バッテリセルcell4,cell5,cell6の電圧増加量は2Vとなる。反面、第1セル電圧5Vがこの高い第1バッテリモジュール10_1の第1から第3バッテリセルcell1,cell2,cell3および第3バッテリモジュール10_3の第7から第9バッテリセルcell7,cell8,cell9の電圧増加量は1Vになる。
【0059】
図4および図5を参照すると、セル電圧は基準電位との電位差である。したがって、第1バッテリセルcell1は基準点がグラウンド(GND,0V)である。第1バッテリセルcell1の第2セル電圧は第1セル電圧5Vにグラウンド(GND)に対して電圧増加量(1V)が加えられ、6Vになる。第2バッテリセルcell2は基準点が第1バッテリセルcell1の電位である。第2バッテリセルcell2は電圧増加量(1V)があるが、基準点である第1バッテリセルcell1の電位も同様に上昇する。したがって、第2バッテリセルcell2の第2セル電圧は第1セル電圧(5V)と同一である。同じ方法で、図5に示すように、複数のバッテリセル(cell1-cell9)それぞれの第2セル電圧を計算することができる。
【0060】
一実施形態により、第7バッテリセルcell7は基準点が第6バッテリセルcell6の電位である。第1時点T1から第2時点T2の間または、第3時点T3の時点直前に測定される第7バッテリセルcell7の第1セル電圧は5V(29V-24V=5V)であり、第3時点T3の時点に同期されて測定される第2セル電圧は4V(30V-26V=4V)で第1セル電圧(5V)より低い。これは、第7バッテリセルcell7の電圧増加量(1V)に対して基準点である第6バッテリセルcell6の電圧増加量(2V)がより大きいから発生するものと見ることができる。この時、第7バッテリセルcell7は第1セル電圧より第2セル電圧が低い低電圧バッテリセルで定義する。
【0061】
まとめると、マスタBMS30は、第1セル電圧より第2セル電圧が低い低電圧バッテリセルを含むバッテリモジュールを放電したバッテリモジュールに隣接する上位電位に位置するバッテリモジュールと判断することができる。」
「【図1】
[図:0001424344000001.jpg]
」
「【図4】
[図:0001424344000002.jpg]
」
「【図5】
[図:0001424344000003.jpg]
」

ウ 実施可能要件の判断

(ア)前記イより、発明の詳細な説明及び図面には、「バッテリセルの充電前の」「前記第1セル電圧より」「充電後の」「前記第2セル電圧が低い低電圧バッテリセル」について、次の説明がされていると理解される。

a 図4は「時間経過によるバッテリモジュールの電位変化を示す図」(【0047】)であり、「複数のバッテリセル(cell1-cell9)それぞれのセル電圧は5Vであり、」「図4を参照すると、9個のバッテリセル(cell1-cell9)が直列連結されるので、バッテリパック1の全体電圧は45Vである。」(【0048】)ことから、図4において第1から第9バッテリセルcell1-cell9に示されている電圧Vは、「第1バッテリセルcell1」の「基準点」である「グラウンド」(【0059】)を基準電位とした電位であると理解できる。

b 図4によると、第1から第9バッテリセルcell1-cell9の各電位は、それぞれ、T=0の時点において5V、10V、15V、20V、25V、30V、35V、40V、45Vであり、第3時点T3の時点直前において5V、10V、15V、18V、21V、24V、29V、34V、39Vであり、第3時点T3において6V、11V、16V、20V、23V、26V、30V、35V、40Vである。

c 図4の第3時点T3における第1から第9バッテリセルcell1-cell9の電位変化は、「第3時点T3で第1から第3バッテリモジュール10_1,10_2,10_3が充電されると、」「第1セル電圧3Vが低い第2バッテリモジュール10_2の第4から第6バッテリセルcell4,cell5,cell6の電圧増加量」が「2V」になり、「第1セル電圧5Vがこの高い第1バッテリモジュール10_1の第1から第3バッテリセルcell1,cell2,cell3および第3バッテリモジュール10_3の第7から第9バッテリセルcell7,cell8,cell9の電圧増加量」が「1V」になる(【0058】)ことによるものである。

d 発明の詳細な説明には、「図4および図5を参照すると、セル電圧は基準電位との電位差である。したがって、第1バッテリセルcell1は基準点がグラウンド(GND,0V)である。第1バッテリセルcell1の第2セル電圧は第1セル電圧5Vにグラウンド(GND)に対して電圧増加量(1V)が加えられ、6Vになる。第2バッテリセルcell2は基準点が第1バッテリセルcell1の電位である。第2バッテリセルcell2は電圧増加量(1V)があるが、基準点である第1バッテリセルcell1の電位も同様に上昇する。したがって、第2バッテリセルcell2の第2セル電圧は第1セル電圧(5V)と同一である。同じ方法で、図5に示すように、複数のバッテリセル(cell1-cell9)それぞれの第2セル電圧を計算することができる。」(【0059】)と記載されているから、図5の「図4で時間経過によるバッテリセルのセル電圧の変化を示す図」(【0047】)は、図4の電位変化を示す図に示される電位に基づいて計算されたものである。

e 発明の詳細な説明に記載される一実施形態は、第7バッテリセルcell7について、「基準点が第6バッテリセルcell6の電位」であり、「第1時点T1から第2時点T2の間または、第3時点T3の時点直前に測定される第7バッテリセルcell7の第1セル電圧は5V(29V-24V=5V)であり、第3時点T3の時点に同期されて測定される第2セル電圧は4V(30V-26V=4V)で第1セル電圧(5V)より低」(【0060】)くなることから、「第7バッテリセルcell7」を「第1セル電圧より第2セル電圧が低い低電圧バッテリセルで定義する」(【0060】)ものである。

ここで、「セル電圧」は、「該当バッテリセルが位置に対応する電位から下位バッテリセルが位置に対応する電位の差で算出される」(【0035】)ものであり、「第1バッテリセルcell1は基準点がグラウンド(GND,0V)」、「第2バッテリセルcell2は基準点が第1バッテリセルcell1の電位」(【0059】)であるから、上記「第7バッテリセルcell7の第1セル電圧」は、図4に示される、第3時点T3の時点直前の第7バッテリセルcell7の電位(図4より29V)、及び基準電位となる第6バッテリセルcell6の電位(図4より24V)との電位の差として計算されるものであり、第7バッテリセルcell7の上記「第2セル電圧」は、第3時点T3での第7バッテリセルcell7の電位(図4より30V)、及び基準電位となる第6バッテリセルcell6の電位(図4より26V)との電位の差として計算されるものと認められる。

f 前記a~eより、発明の詳細な説明の記載は、「低電圧バッテリセル」について、第1から第9バッテリセルcell1-cell9の各電位が、図4に示される電位変化となることに基いて特定していると理解される。

(イ)バッテリセルにおける技術常識

バッテリセルは、起電力を生じる電圧源と内部抵抗の直列回路として等価的に表され、バッテリセルを充電する場合、充電電流が内部抵抗を流れることにより、充電電流により内部抵抗において生じる電圧の分だけ、バッテリセルの電圧が増加することは、技術常識であると認められる(例えば、特開2008-136330号公報の【0003】、【0008】、【図7】、特開2011-79447号公報の【0021】、【0071】、【図6】等参照。)。

ここで、上記バッテリセルの電圧の増加は、充電電流が内部抵抗を流れることにより生じるものであるから、当該バッテリセルの電圧は、当該バッテリセルのセル電圧といえるものである。

よって、上記技術常識を踏まえれば、バッテリセルの充電において、充電電流が内部抵抗を流れることにより、バッテリセルのセル電圧が増加するといえる。

(ウ)実施可能要件の判断

a 発明の詳細な説明の「バッテリセル(cell)のセル電圧が低いと、内部抵抗が大きく充電時に瞬間的に増加する電圧の大きさ(以下、電圧増加量)が内部抵抗の小さいバッテリセルの電圧増加量より大きい」(【0055】)との記載をみれば、バッテリセルの充電において、充電前にセル電圧が低いバッテリセルは、充電前にセル電圧が高いバッテリセルよりも電圧増加量が大きくなることを、当業者は理解する。

ここで、当該電圧増加量の電圧増加は、内部抵抗によるものであるから、前記(イ)を踏まえれば、バッテリセルのセル電圧が電圧増加量の分だけ増加することを意味すると認められる。

そして、発明の詳細な説明においては、「図4を参照すると、第3時点T3で第1から第3バッテリモジュール10_1,10_2,10_3が充電されると、」「第1セル電圧3Vが低い第2バッテリモジュール10_2の第4から第6バッテリセルcell4,cell5,cell6の電圧増加量」が「2V」になり、「第1セル電圧5Vがこの高い第1バッテリモジュール10_1の第1から第3バッテリセルcell1,cell2,cell3および第3バッテリモジュール10_3の第7から第9バッテリセルcell7,cell8,cell9の電圧増加量」が「1V」になる(【0058】)ものであり、上記のとおり、電圧増加量による電圧増加は内部抵抗によるものであるから、バッテリセルのセル電圧が電圧増加量の分だけ増加することを意味するものである。

そうすると、第1から第9バッテリセルcell1-cell9のいずれのバッテリセルにおいても、第3時点T3でセル電圧が「1V」あるいは「2V」である電圧増加量の分だけ増加すると、当業者は理解するものであり、第3時点T3でセル電圧が低くなる低電圧バッテリセルが生じることは、想定できない。

b バッテリセルの電位について検討する。

複数のバッテリセルが直列連結されている場合における各バッテリセルの電位は、当該バッテリセルと、当該バッテリセルの下位に位置するバッテリセルまでの各セル電圧を累計したものとなることは、当然の事項である。

そうすると、第3時点T3における各バッテリセルの電位は、最も低い電位に位置するバッテリセルから当該バッテリセルまでの間に位置するバッテリセルのセル電圧を累計したものとなることは明らかであり、例えば、第2バッテリセルcell2の第3時点T3におけるセル電圧は、5V(第3時点T3の直前の第2バッテリセルcell2のセル電圧)+1V(充電による第2バッテリセルcell2における瞬間的な電圧増加量)により6Vとなって、電位は、6V(第2のバッテリセルcell2の基準電位となる第1バッテリセルcell1の第3時点T3における電位)+6V(第3時点T3における第2バッテリセルcell2の上記セル電圧)の12Vとなり、本願の図4における第2時点T2の各電位を前提とすれば、第3時点T3における第1から第9バッテリセルcell1-cell9の各電位は、それぞれ、6V、12V、18V、23V、28V、33V、39V、45V、51Vとなると認められる。

これに対して、本願の図4に示される第3時点T3における各バッテリセルの電位は、各バッテリセルの電位が、それぞれ電圧増加量だけ増加するものとして示されるものであり、前記(イ)及び上記当然の事項から理解される各バッテリセルの電位と合致しない。

そして、図4に示される第3時点T3における各バッテリセルの電位についての技術的な根拠は、発明の詳細な説明の記載の全体を見ても明らかでない。

よって、図4に示される第3時点T3における各バッテリセルの電位を理解することができず、図4に示される各バッテリセルの電位により求められる図5の各バッテリセルのセル電圧も理解できない。

(エ)小括

よって、発明の詳細な説明は、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基いて、「バッテリセルの充電前の」「前記第1セル電圧より」「充電後の」「前記第2セル電圧が低い低電圧バッテリセル」を特定できることを、当業者が認識できるように記載されていないから、「前記マスタBMSは、前記第1セル電圧より前記第2セル電圧が低い低電圧バッテリセルを含むバッテリモジュールを前記放電したバッテリモジュールに隣接する上位電位に位置するバッテリモジュールと判断して前記複数のバッテリモジュールの連結順序を推定」することはできず、当業者が本件補正発明を実施することができない。

(オ)請求人の主張について

a 審判請求書の主張

請求人は、審判請求書において、「低電圧バッテリセル」を特定できることについて、次の主張をする。

「図4のT3時点で、第2バッテリモジュールの内部抵抗が第1および第3バッテリモジュールの内部抵抗より大きいため、第1および第3バッテリモジュールの電圧増加量は1Vであり、第2バッテリモジュールの電圧増加量が2Vとなっている。これにより、i)Cell4-Cell6のうちのCell4のセル電圧のみが1V上昇し、ii)Cell7-Cell9のうちのCell7のセル電圧のみが1V減少し、iii)Cell1-Cell3のうちのCell1のセル電圧のみが1V上昇することとなる。」、

「本願明細書の段落[0058]で、バッテリ充電による第1-第3バッテリモジュールの電圧増加量について説明しており、段落[0059]及び[0060]で、電圧増加に伴い電位が変化した結果を利用して、複数のバッテリセル(Cell1~Cell9)それぞれの第1セル電圧及び第2セル電圧を測定する過程を説明している。すなわち、当業者は、上記の説明に基づいて審査官が指摘した「電圧」の変化を根拠に「電位」が変化した過程についても容易に理解できる。」

しかしながら、電圧増加量による電圧増加に伴い変化するものは、前記(ウ)aで述べたとおり、「セル電圧」であり、各バッテリセルの電位が、図4のように変化するとは認められない(前記(ウ)b)から、当該主張は採用できない。

b 令和6年11月28日の上申書の主張

請求人は、令和6年11月28日の上申書において、「低電圧バッテリセル」を特定できることについて、次の主張をする。

(a)「3.第7バッテリセルの電圧変化について」

「 すなわち、本願発明において、充電直前に測定される第1セル電圧と充電直後に測定される第2セル電圧は、基準電位との電位差を測定して導き出される値に相当し、第1セル電圧と第2セル電圧の基準電圧は、隣接する下位セルの正極電位(すなわち、該当バッテリセルの負極電位)を意味するものであるから、未放電のバッテリセルであっても、充電開始により該当バッテリセルの基準電位の上昇が該当バッテリセルの正極電位の上昇よりも大きい場合には、第1セル電圧よりも第2セル電圧が低い場合が発生することができる。
したがって、セル電圧が「測定」されるものであれば、未放電の第7バッテリセルが低電圧バッテリセルに変化することは技術的に不可能であると判断した審判官の判断は不当である。」

しかしながら、前記(ウ)aのとおり、いずれのバッテリセルにおいても、第3時点T3でセル電圧が電圧増加量の分だけ増加するものであり、低電圧バッテリセルが生じることは想定できないから、当該主張は採用できない。

(b)「4.第7バッテリセルに関する物理現象について」

「 また、図4のT3時点(すなわち、充電開始時点)で第7バッテリセルCell7のセル電圧が低くなる理由は、充電開始時点でバッテリセル間のセル電圧が異なる場合、相対的にセル電圧が低いバッテリセルの電位上昇速度が、相対的にセル電圧が高いバッテリセルの電位上昇速度より速い現象が発生するからである。
上記の現象を図4のグラフを参照して説明すると、T1-T2区間によって第2バッテリモジュールのみが放電されたため、第4~6バッテリセルのセル電圧が第1~第3バッテリセルおよび第7~9バッテリセルのセル電圧より低くなる。これにより、第1~第3バッテリモジュールに対する充電が開始されるT3時点では、放電された第4~6バッテリセルのセル電圧が、第1および第3バッテリセル並びに第7および第9バッテリセルのセル電圧より低いので、第4~6バッテリセルのセル電圧が第1~3バッテリセルおよび第7~9バッテリセルのセル電圧より相対的に早く上昇する現象が発生する。
これは、放電状態のセルが充電時に低電圧状態から高電圧に変換される速度がより速いために生じる自然な結果である。」、

「 まとめると、充電開始時、セル電圧(すなわち、SOC)が低いほど、該当バッテリセルの内部抵抗が大きいので、瞬間的に増加する電位が大きくなり、これにより、第2バッテリモジュールの瞬間的な電位増加量が第1および第3バッテリモジュールの瞬間的な電位増加量より大きくなるので、第7バッテリセルのセル電圧がT3時点で低くなる。」

しかしながら、「セル電圧が低いバッテリセルの電位上昇速度」が、「セル電圧が高いバッテリセルの電位上昇速度より速い現象が発生する」ことは、発明の詳細な説明に記載されるものではなく、また、「電位上昇速度」の意味するところが不明であり、技術的根拠も不明である。

そして、当該主張は、内部抵抗の大きさによる、瞬間的に増加する電位の違いを主張するものと解されるところ、当該主張における「瞬間的に増加する電位」は、内部抵抗による電圧増加量による電圧増加であり、前記(ウ)aのとおり、セル電圧が増加することを意味するものである。

よって、当該主張は採用できない。

(c)「1.図4の修正およびT1時点の動作の説明」、「2.図4における電位計算方法の説明」、及び「5.図4の回路接続の説明」における主張を考慮しても、上記判断は左右されない。

c 小括

よって、請求人の主張は採用できない。

(2)まとめ

以上によれば、発明の詳細な説明は、本件補正発明の「バッテリセルの充電前の」「前記第1セル電圧より」「充電後の」「前記第2セル電圧が低い低電圧バッテリセル」を特定できることを当業者が理解できるように記載されているとはいえないから、「前記マスタBMSは、前記第1セル電圧より前記第2セル電圧が低い低電圧バッテリセルを含むバッテリモジュールを前記放電したバッテリモジュールに隣接する上位電位に位置するバッテリモジュールと判断して前記複数のバッテリモジュールの連結順序を推定」することはできず、当業者が本件補正発明を実施することができない。

したがって、発明の詳細な説明の記載は、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基いて、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤を要することなく、本件補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

4 本件補正についてのむすび

前記3によれば、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明

本件補正は上述のとおり却下されたため、本願の請求項1~14に係る発明(以下、総称して「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(1)のとおりである。

第4 原査定の概要

原査定の概要は、以下のとおりである。

1.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第5 当審の判断

本願発明は、前記第2[理由]3で検討した本件補正発明の「前記第2セル電圧」を限定する「前記充電される時点に同期されて測定される、」という発明特定事項を削除したものである(前記第2[理由]2を参照)。

そして、本願発明においても、「前記マスタBMSは、前記第1セル電圧より前記第2セル電圧が低い低電圧バッテリセルを含むバッテリモジュールを前記放電したバッテリモジュールに隣接する上位電位に位置するバッテリモジュールと判断して前記複数のバッテリモジュールの連結順序を推定」することを発明特定事項とするものであり、前記第2[理由]3のとおり、発明の詳細な説明の記載により、「バッテリセルの充電前の」「前記第1セル電圧より」「充電後の」「前記第2セル電圧が低い低電圧バッテリセル」を特定できることを当業者が理解できるように記載されているとはいえないから、発明の詳細な説明は、本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

第6 むすび

以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2024-009100

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