特許拒絶査定不服審判
2024-008441
車両用アンテナグレージング
- 審判番号
- 2024-008441
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-500038
- 請求日
- 2024年05月21日
- 審決日
- 2024年12月09日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エージーシー グラス ユーロップ
- 【請求人代理人】風早 信昭
- 【請求人代理人】浅野 典子
- 審判長/審判官
- 審判長 土居 仁士
- 審判官 高野 洋
- 審判官 衣鳩 文彦
- 分類
- P18 .121-Z (H01Q)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-500038「車両用アンテナグレージング」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 1月 9日国際公開、WO2020/007746、令和 3年10月28日国内公表、特表2021-529487〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和元年6月28日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2018年7月2日 欧州特許庁、2018年12月7日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。
令和 5年 8月 7日付け 拒絶理由通知書
11月 6日 意見書・手続補正書
令和 6年 1月29日付け 拒絶査定
5月21日 審判請求書・手続補正書
以下では、令和6年1月29日付け拒絶査定を「原査定」といい、同年5月21日の手続補正書による補正を「本件補正」という。
第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正後の請求項1
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所を示す。)。
【請求項1】
アンテナ素子(1)を含む車両用アンテナグレージングにおいて、前記アンテナ素子(1)は、2.41~2.48GHzの周波数で動作するWIFIアンテナであり、前記アンテナ素子(1)は、同軸コネクタ(9)に接続されるアレイ状の2つの平面放射素子(2)を含み、前記アレイ状の2つの平面放射素子(2)のそれぞれが、異なる位相で給電されること、及び前記平面放射素子(2)は、薄い金属ベースのコーティング、銀の印刷又は細い導電ワイヤの目の細かいメッシュ等の平面導電材料で作られることを特徴とする車両用アンテナグレージング。
(2)本件補正前の請求項1
本件補正前の、令和5年11月6日に提出された手続補正書にて補正された特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
【請求項1】
アンテナ素子(1)を含む車両用アンテナグレージングにおいて、前記アンテナ素子(1)は、2.41~2.48GHzの周波数で動作するWIFIアンテナであり、前記アンテナ素子(1)は、同軸コネクタ(9)に接続される平面放射素子(2)を含むこと、及び前記平面放射素子(2)は、薄い金属ベースのコーティング、銀の印刷又は細い導電ワイヤの目の細かいメッシュ等の平面導電材料で作られることを特徴とする車両用アンテナグレージング。
2 本件補正の適否
本件補正による請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1の発明を特定するために必要な事項である「平面放射素子(2)」について、「アレイ状の2つの」との限定を付加し、この「アレイ状の2つの平面放射素子(2)」について、「それぞれが、異なる位相で給電される」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1(1)に記載したとおりのものである。
なお、後の参照の便宜のため、本件補正発明を以下のA~Fに分説し、「発明特定事項A」のようにして参照する。
【請求項1】
A アンテナ素子(1)を含む車両用アンテナグレージングにおいて、
B 前記アンテナ素子(1)は、2.41~2.48GHzの周波数で動作するWIFIアンテナであり、
C 前記アンテナ素子(1)は、同軸コネクタ(9)に接続されるアレイ状の2つの平面放射素子(2)を含み、
D 前記アレイ状の2つの平面放射素子(2)のそれぞれが、異なる位相で給電されること、及び
E 前記平面放射素子(2)は、薄い金属ベースのコーティング、銀の印刷又は細い導電ワイヤの目の細かいメッシュ等の平面導電材料で作られることを特徴とする
F 車両用アンテナグレージング。
(2)文献の記載事項、引用発明、周知技術
ア 引用文献1の記載事項、引用発明
(ア)原査定で引用された米国特許出願公開第2017/0324138号明細書(平成29年11月9日公開。以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は強調のために当審で付した(以下同様)。
「[0002] This disclosed system relates generally to an antenna structure including an antenna and a frequency selective impedance surface surrounding the antenna printed on a flexible substrate and, more particularly, to a dual-band co-planar (CPW) antenna structure mounted to vehicle glass and including a frequency selective impedance surface surrounding an antenna that reduces the effects of surface waves.」
(当審訳:[0002]この開示されたシステムは、一般的には、フレキシブル基板上に印刷されたアンテナと、アンテナを囲む周波数選択インピーダンス表面とを含むアンテナ構造に関するものであり、より具体的には、車両のガラスに取り付けられ、表面波の影響を低減するアンテナを囲む周波数選択インピーダンス表面を含むデュアルバンドコプレーナ(CPW)アンテナ構造に関するものである。)
「[0020] FIG. 3 is a profile view of an antenna structure 20 including a windshield 22 having an outer glass layer 24, an inner glass layer 26 and a polyvinyl butyral (PVB) layer 28 therebetween. The structure 20 includes an antenna 30 formed on a thin, flexible film substrate 32, such as polyethylene terephthalate (PET), biaxially-oriented polyethylene terephthalate (BoPET), flexible glass substrates, mylar, Kapton, etc., and adhered to a surface of the layer 26 by an adhesive layer 34. The adhesive layer 34 can be any suitable adhesive or transfer tape that effectively allows the substrate 32 to be secured to the glass layer 26, and further, if the antenna 30 is located in a visible area of the glass layer 26, the adhesive or transfer tape can be transparent or near transparent so as to have a minimal impact on the appearance and light transmission therethrough. The antenna 30 can be protected by a low RF loss passivation layer 36, such as parylene. An antenna connector 38 is shown connected to the antenna 30 and can be any suitable RF or microwave connector such as a direct pig-tail or coaxial cable connection. Although the antenna 30 is shown being coupled to an inside surface of the inner glass layer 26, the conductor 30 can be adhered to the outer surface of the outer glass layer 24 or the surface of the layers 24 or 26 adjacent to the PVB layer 28 or the surfaces of the PVB layer 28.
[0021] The antenna 30 can be formed by any suitable low loss conductor, such as copper, gold, silver, silver ceramic, metal grid/mesh, etc.If the antenna 30 is at a location on the vehicle glass that requires the driver or other vehicle occupant to see through the glass, then the antenna conductor can be any suitable transparent conductor, such as indium tin oxide (ITO), silver nano-wire, zinc oxide (ZnO), etc. Performance of the antenna 30 when it is made of a transparent conductor could be enhanced by adding a conductive frame along the edges of the antenna 30 as is known in the art.
[0022] The thickness of automotive glass may vary approximately over 2.8 mm-5 mm and have a relative dielectric constant εr in the range of 4.5-7.0. The antenna 30 includes a single layer conductor and a co-planar waveguide (CPW) feed structure to excite the antenna radiator. The CPW feed structure can be configured for mounting the connector 38 in a manner appropriate for the CPW feed line or for a pigtail or a coaxial cable. When the connector 38 or the pigtail connection to the CPW line is completed, the antenna 30 can be protected with the passivation layer 36. In one embodiment, when the antenna 30 is installed on the glass, a backing layer of the transfer tape can be removed. By providing the antenna conductor on the inside surface of the vehicle windshield 22, degradation of the antenna 30 can be reduced from environmental and weather conditions.
[0023] As discussed above, the present invention discloses an antenna structure that is operable to receive and transmit signals in the WiFi frequency bands with appropriate polarization when mounted or integrated on the vehicle glass. The antenna structure can be shaped and patterned into a transparent conductor and a co-planar structure where both the antenna and ground conductors are printed on the same layer. The antenna can use low cost thin films made of transparent conductive oxides and silver nano-wires with a high conductivity metal frame surrounding the antenna elements.
[0024] FIG. 4 is a top view of an antenna structure 40 that has application to operate as a dual-band WiFi antenna in the 2.4 GHz and 5.8 GHz WiFi frequency bands. FIG. 5 is an isometric illustration 42 of the antenna structure 40 formed to a thin film 50, and secured to a surface 44 of a curved vehicle glass 46 by an adhesive layer 48. The antenna structure 40 includes a ground plane 56 having a cut-out slot 60 therein, and an extension portion 58 that is part of a CPW feed structure 62.The antenna structure 40 further includes an antenna radiating element 66 having a feed line 68 that is also part of the feed structure 62 extending into the slot 60 and being electrically isolated from the ground plane 56, and a pentagon-shaped radiating portion 70 coupled thereto.The radiating portion 70 has a shape and size to operate in the 2.4 GHz and 5.8 GHz WiFi frequency bands, where a U-shaped slot 72 is formed in the radiating portion 70 to provide band rejection between the two separate WiFi frequency bands.」
(当審訳:[0020]FIG.3は、外側ガラス層24、内側ガラス層26、およびそれらの間のポリビニルブチラール(PVB)層28を有するフロントガラス22を含むアンテナ構造20の側面図である。構造20は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(BoPET)、フレキシブルガラス基板、マイラー、カプトンなどの薄いフレキシブルフィルム基板32上に形成され、接着層34によって層26の表面に接着されたアンテナ30を含む。接着層34は、基板32をガラス層26に効果的に固定できる任意の適切な接着剤または転写テープとすることができ、さらに、アンテナ30がガラス層26の可視領域に位置する場合、接着剤または転写テープは、その外観および光透過に対する影響が最小になるように透明または透明に近いものとすることができる。アンテナ30は、パリレンなどの低RF損失パッシベーション層36によって保護できる。アンテナコネクタ38はアンテナ30に接続されており、直接ピグテール接続や同軸ケーブル接続などの任意の適切なRFまたはマイクロ波コネクタとすることができる。アンテナ30は内側ガラス層26の内側表面に結合されているように示されているが、導体30は外側ガラス層24の外面、またはPVB層28に隣接する層24または26の表面、またはPVB層28の表面に接着できる。
[0021]アンテナ30は、銅、金、銀、銀セラミック、金属グリッド/メッシュなどの任意の適切な低損失導体で形成できる。アンテナ30が、運転者または他の車両乗員がガラスを通して見る必要がある車両ガラス上の位置にある場合、アンテナ導体は、酸化インジウムスズ(ITO)、銀ナノワイヤ、酸化亜鉛(ZnO)などの任意の適切な透明導体で形成できる。アンテナ30が透明導体で作られている場合、アンテナ30の性能は、当技術分野で知られているように、アンテナ30のエッジに沿って導電性フレームを追加することで向上できる。
[0022]自動車用ガラスの厚さは、約2.8mm~5mmの範囲で変化し、比誘電率εrは4.5~7.0の範囲を有してもよい。アンテナ30は、アンテナ放射体を励起するために単層導体とコプレーナ線路(CPW)給電構造を含む。CPW給電構造は、CPW給電線に適した方法、または、ピグテールまたは同軸ケーブルに適した方法で、コネクタ38を取り付けるように構成することができる。コネクタ38またはCPW線へのピグテール接続が完了すると、アンテナ30をパッシベーション層36で保護することができる。一実施形態では、アンテナ30がガラス上に取り付けられると、転写テープの裏打ち層を除去することができる。アンテナ導体を車両フロントガラス22の内側表面に設けることにより、環境条件および気象条件によるアンテナ30の劣化を軽減することができる。
[0023]上述のように、本発明は、車両ガラスに搭載または一体化された場合に、適切な偏波でWiFi周波数帯の信号を受信および送信するように動作可能なアンテナ構造を開示する。アンテナ構造は、アンテナおよび接地導体の両方が同じ層に印刷される透明導体および同一平面構造に成形およびパターン化することができる。アンテナは、透明導電性酸化物および銀ナノワイヤで作られた低コストの薄膜を、アンテナ素子を囲む高導電性金属フレームとともに使用することができる。
[0024]FIG.4は、2.4GHz及び5.8GHzのWiFi周波数帯におけるデュアルバンドWiFiアンテナとして動作するように適用されるアンテナ構造40の上面図である。FIG.5は、薄いフィルム50に形成され、接着層48によって、湾曲した車両ガラス46の表面44に固定されたアンテナ構造40の斜視図42である。アンテナ構造40は、切り抜きスロット60を有するグランドプレーン56と、CPW給電構造62の一部である延長部分58とを含む。アンテナ構造40は、スロット60内に延び、グランドプレーン56から電気的に絶縁された給電構造62の一部でもある給電線68と、それに結合された五角形の放射部70とを有するアンテナ放射素子66をさらに含む。放射部70は、2.4GHzおよび5.8GHzのWiFi周波数帯で動作する形状およびサイズを有し、放射部70にはU字型のスロット72が形成され、2つの別々のWiFi周波数帯域間の帯域除去が行われる。)
「FIG.3
[図:0001422211000001.jpg]
」
「FIG.4
[図:0001422211000002.jpg]
」
「FIG.5
[図:0001422211000003.jpg]
」
「[0033] In addition to the implementation here, that uses substrates that contain antennas and surface wave suppression elements that are adhered to the glass, the antennas and surface waves can be embedded into the glass structures.There are various methods to add conductive elements to glass; including adding silver-ceramic paint that is commonly used on automotive back-glass for heating/de-icing; addition of conductive coating to one of the layers of glass in a windshield and/or incorporating conductive elements in the PVB, or similar, layers of the glass.」
(当審訳:[0033]ここで、ガラスに接着されたアンテナと表面波抑制素子を含む基板を使用する実装に加えて、アンテナと表面波をガラス構造に埋め込むこともできる。ガラスに導電性素子を追加するには、自動車のバックガラスで加熱/除氷に一般的に使用されている銀セラミック塗料を追加する、フロントガラスのガラス層の1つに導電性コーティングを追加する、および/またはPVBまたは同様のガラス層に導電性素子を組み込むなど、さまざまな方法がある。)
(イ)FIG.3~FIG.5の記載について
a 引用文献1の[0020]~[0022]には、FIG.3で示された構成について記載されている。ここで、[0022]に続く[0023]に「上述のように、本発明は、車両ガラスに搭載または一体化された場合に、適切な偏波でWiFi周波数帯の信号を受信および送信するように動作可能なアンテナ構造を開示する。」と記載されていることを考慮すると、FIG.3の「アンテナ30」は、WiFi周波数帯で用いるアンテナについて記載されていると認められる。
b [0023]に続く[0024]に「FIG.4は、2.4GHz及び5.8GHzのWiFi周波数帯におけるデュアルバンドWiFiアンテナとして動作するように適用されるアンテナ構造40の上面図である。FIG.5は、薄いフィルム50に形成され、接着層48によって、湾曲した車両ガラス46の表面44に固定されたアンテナ構造40の斜視図42である。」と記載されているから、前記aを考慮すると、FIG.4及びFIG.5で示される構成は、FIG.3で示された構成をデュアルバンドWiFiアンテナとして動作するように適用した際の構成について示していることが明らかである。
c 前記a及びbから、FIG.4及びFIG.5の「アンテナ放射素子66」は、FIG.3の「アンテナ30」を2.4GHz及び5.8GHzのWiFi周波数帯におけるデュアルバンドWiFiアンテナとして動作するように適用した際に用いられるアンテナ放射素子であると理解される。
したがって、「アンテナ30」を形成する「銅、金、銀、銀セラミック、金属グリッド/メッシュなどの低損失導体」は、「アンテナ放射素子66」においても用いられると認められる。
(ウ)前記(ア)及び(イ)によれば、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。なお、後の参照の便宜のため、引用発明をa~jに分説し、「構成a」のようにして参照する。
「a 2.4GHz及び5.8GHzのWiFi周波数帯におけるデュアルバンドWiFiアンテナとして動作するように適用されるアンテナ構造40であって、([0024])
b アンテナ構造40は、薄いフィルム50に形成され、接着層48によって、湾曲した車両ガラス46の表面44に固定されたものであり、([0024])
c アンテナ構造40は、CPW給電構造62の一部でもある給電線68と、それに結合された放射部70とを有するアンテナ放射素子66を含み、([0024])
d 放射部70は、2.4GHzのWiFi周波数帯で動作する形状およびサイズを有し、([0024])
e CPW給電構造は、同軸ケーブルに適した方法でコネクタ38を取り付けるように構成することができ、([0022])
f アンテナ構造は、アンテナおよび接地導体の両方が同じ層に印刷される透明導体および同一平面構造に成形及びパターン化することができ、([0023])
g アンテナ30は、銅、金、銀、銀セラミック、金属グリッド/メッシュなどの低損失導体で形成でき、アンテナ30が、運転者または他の車両乗員がガラスを通して見る必要がある車両ガラス上の位置にある場合、アンテナ導体は、銀ナノワイヤなどの透明導体で形成でき、([0021])
h アンテナをガラス構造に埋め込むこともでき、ガラスに導電性素子を追加するには、フロントガラスのガラス層の1つに導電性コーティングを追加するなど、さまざまな方法があり、([0033])
i アンテナ30を形成する銅、金、銀、銀セラミック、金属グリッド/メッシュなどの低損失導体は、アンテナ放射素子66においても用いられる、(前記(イ))
j アンテナ構造40。」
イ 引用文献2及び3の記載事項、周知技術
(ア)引用文献2
当審で新たに引用する特開2006-314071号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の構成のアンテナを、車輌のガラスに設置した場合、車室外の天板上にアンテナを設置した場合と比較して、受信特性が顕著に劣化するということが確認されてきた。」
「【発明の効果】
【0020】
本発明の車載アンテナ装置は、これまで知られておらず、今回、新たに明確化された課題である車体金属フレームからの反射・散乱波による受信特性の劣化の課題を、これまではタブーであると考えられていた有指向性のアンテナを採用することにより解決し、車輌のガラスに設置する車載アンテナ装置の受信特性を著しく向上させることができる。また、車室内のガラス面上、又はガラス内部に当発明の車載アンテナ装置を配設することにより、車外設置アンテナの課題であった車輌のデザインを損なう点、盗難の問題を解決すると共に、従来の車室内設置アンテナに対して非常に優れた受信特性を実現することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(実施の形態1)
図7を用いて、本発明の実施の形態1の車載アンテナ装置について説明する。
【0022】
図7は、フロントガラスに取り付けられた本発明の車載アンテナ装置の放射パターンを表したものである。図中の黒点9が車載アンテナ装置の設置位置を示している(形状の大きな車載アンテナ装置の場合、車載アンテナ装置の給電点位置が前記黒点9の位置にあると考える)。」
「【0039】
図11には、フロントガラス3の上部領域22に設置されたアレーアンテナ21(2以上のダイポールアンテナを平行に配列したアレーアンテナ)が図示されている。このアレーアンテナ21は、アンテナ工学バンドブック(電子情報通信学会編 第1版 オーム社)のp198に記載されているようなものを指し、比較的小型に有指向性を実現することが可能である。具体的には、このアレーアンテナ21はダイポールアンテナの配列軸方向に放射ビームが向けられたエンドファイアアレーアンテナであり、ダイポールアンテナ間距離はλ/4で、各々のダイポールアンテナに給電される信号が90度の位相差を持つよう(フロントガラス3の下部領域23側に近いダイポールアンテナの給電位相が天板1に近いダイポールアンテナの給電位相に対して90度位相が遅れている)設計される。このアンテナを図11に示したようにフロントガラス3の上部領域22に設置することにより、請求項に記載の放射パターンを実現することが可能となる。」
「【0057】
尚、上記に示したダイポールアンテナ、八木アンテナ、対数周期ダイポールアンテナ、アレーアンテナは、車輌のガラス内部に形成することによっても実現できるし、PETやPEN等の透明フィルム上に導電材料からなるアンテナ導体を形成し、この透明フィルムを車室内側のガラス面に貼り付けることによっても実現することができる。透明フィルム上にアンテナ導体を形成する方法としては、導電ペーストを印刷することによっても可能であるし、スパッタや蒸着により銅や銀を透明フィルムに付着させ、アンテナエレメント部分のみエッチングで残すことによっても実現可能である。また、銅などの導体線を透明フィルム上に貼り付けることによっても実現することができる。」
「【0062】
尚、図18においては、モノポールアンテナとモノポール構成八木アンテナについてのみ図示したが、アレーアンテナについても同様に、モノポールアンテナを用いて小型化が図れることは言うまでも無い。又、モノポールアンテナ28、モノポール構成八木アンテナ、モノポール構成アレーアンテナについても、d<30mmの領域に設置することで、車室内の搭乗者からの視認性を良好にする事ができることは言うまでも無い。更に、モノポールアンテナ28、モノポール構成八木アンテナ、モノポール構成アレーアンテナについても、d<30mmの領域に存在するアンテナエレメントの幅を太くする事で、良好な視認性を確保しつつ、放射効率の向上を図ることが可能となるのは言うまでも無い。」
(イ)引用文献3
当審で新たに引用する特開平8-65023号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両の窓ガラスに一体形成されるアンテナとそのアンテナを用いた受信装置に関する。」
「【0008】
【実施例】
-第1の実施例-
加熱用導電線を円偏波を受信可能なパターンに形成し、本来の窓曇り除去用として用いるとともにGPS信号受信用アンテナとして兼用するようにした第1の実施例を説明する。図1はこの第1の実施例の構成を示す。車両のリヤガラス20には加熱用導電線群21が一体に形成される。この導電線群21はn本の導電線から構成されており、上下端の2本の導電線は直線状に形成され、中央部の導電線は円偏波を受信可能な矩形波状に形成される。これらの中央部の導電線群22はそれぞれ、一端が各導電線のインピーダンスを調整するための負荷22aを介して端子21aへ接続されるとともに、他端が各導電線の位相を調整するための移相器22bを介して端子21bへ接続される。これらの端子21a,21bはスイッチ23を介して車載バッテリー24へ接続され、窓雲りが発生した時にスイッチ23が閉路されてバッテリー24から加熱用導電線群22へ直流電力が供給される。
【0009】導電線群21の一端はまた給電点25に接続されており、中央部の導電線群22で受信された電波信号はこの給電点25を介してフィルター/アンプ回路26へ送られる。スイッチ23が投入されてバッテリー24から加熱用導電線群21に通電されている時、すなわち、加熱用導電線群21が本来の窓曇り除去用として用いられると同時にGPS信号用アンテナとして用いられる場合は各導電線に直流電流が流れるとともに、中央部の導電線群22にはこの直流電流にGPS信号電波を受信した交流電流が重畳して流れることになるため、低周波数カットフィルターとアンプを備えているフィルター/アンプ回路26は、導電線群22からの信号に含まれる直流成分をカットしてGPS信号を含む交流成分を取り出し、増幅してバンドパスフィルター27へ出力する。バンドパスフィルター27は中央部の導電線群22で受信された交流信号の中からGPS帯の周波数成分のみを取り出し、GPS受信機28へ送る。GPS受信機28は、GPS帯用バンドパスフィルター27により抽出されたGPS信号に基づいてGPS演算を行ない、車両の現在位置、進行方位などを検出する。
【0010】図2は、GPS信号電波を受信可能にするための加熱用導電線のパターン例を示す。GPS衛星からの信号電波は円偏波で送信されるので、GPS信号を受信するためのアンテナも円偏波用にしなければならない。しかし、通常の窓曇り防止用の加熱用導電線群は直線状に形成されており、このような直線状導電線群をアンテナに兼用してGPS信号を受信するのは困難である。そこで、中央の加熱用導電線をGPS信号の周波数である1.5GHzの円偏波信号を受信可能なパターンにする必要がある。すなわち、各加熱用導電線を、図2に示すように、4つの直角ベンドを1組の基本放射素子とし、このような基本放射素子が複数個、直列に接続された矩形波状に形成する。ここで、基本放射素子のa,b,cの長さをそれぞれ、
【数1】a=(3/8)λ
b=(1/2)λ
c=(1/4)λ
λ;波長
とする。1.5GHzのGPS信号の波長λはL1帯の場合、約19.1cmであるから、基本放射素子の各部の長さは、
【数2】a=7.16cm
b=9.55cm
c=4.78cm
とする。このように、中央部の加熱用導電線群22をそれぞれ上記のように矩形波状に形成してアンテナエレメントとし、これらの複数のアンテナエレメントによりアレーアンテナを構成する。そして、このアレーアンテナを進行波アンテナとして動作させることにより、円偏波のGPS信号を受信することができる。
【0011】次に、この中央部の加熱用導電線群22から成るアレーアンテナの指向特性を天頂に向ける。アレーアンテナの指向特性を希望する方向に向けるには、図3に示すように、各アンテナエレメントの移相器22bによって希望方向に等位相面ができるように位相を調整すればよい。図4に示すような実際の車両のリヤガラスでは、各アンテナエレメントの位相量を次式により算出する。
【数3】(位相量)={(アンテナ間隔)×tan(ガラスの傾斜角)}×360/(GPS信号の波長)
今、4本の中央部の加熱用導電線からアレーアンテナが構成され、各エレメントA,B,C,Dの間隔を2cm、リヤガラス21の傾斜角を30度とすると、エレメントAを基準にして、エレメントB,C,Dの位相量はそれぞれ約+21度、約+43度、約+64度となる。これらの位相量をエレメントB,C,Dの各移相器22bに設定することにより、エレメントA~Dから成るアレーアンテナの指向特性を天頂に向けることができる。この結果、図5に示すように、パッチアンテナをリヤガラスに張り付けた従来のGPSアンテナでは受信できなかった天頂や前方に位置するGPS衛星10,11からの信号電波も受信することができるようになり、車両上空の広範囲に位置するGPS衛星を捕捉でき、GPS衛星の捕捉率を向上させることができる。」
「【図1】
[図:0001422211000004.jpg]
」
「【図3】
[図:0001422211000005.jpg]
」
「【図4】
[図:0001422211000006.jpg]
」
(ウ)周知技術
a 前記(ア)の下線部の記載によれば、以下の事項が記載されていると認められる。
「アンテナを車輌のガラスに設置した場合、受信特性が劣化するところ、フロントガラスに取り付けられた車載アンテナ装置について、フロントガラスの上部領域にアレーアンテナを設置し、このアレーアンテナの各々のダイポールアンテナに給電される信号が90度の位相差を持つように設計することで、車輌のガラスに設置する車載アンテナ装置の受信特性を向上させること。」
b 前記(イ)の下線部の記載によれば、以下の事項が記載されていると認められる。
「車輌の窓ガラスに一体形成されるアンテナに関し、車輌のリアガラスに加熱用導電線群が一体に形成され、この導電線群がn本の導電線から構成され、導電線群の一端は給電点に接続され、加熱用導電線群をそれぞれアンテナエレメントとし、これらの複数のアンテナエレメントによりアレーアンテナを構成し、アレーアンテナの指向特性を希望する方向に向けるために、各アンテナエレメントの移送器に異なる位相が与えられるように位相が調整され、この結果、従来のGPSアンテナでは受信できなかった天頂や前方に位置するGPS衛星からの信号電波も受信することができるようになり、GPS衛星の捕捉率を向上させることができること。」
ここで、アンテナエレメントとされるn本の導電線群は給電点に接続され、各アンテナエレメントの移送器に異なる位相が与えられるから、それぞれのアンテナエレメントは異なる位相で給電されると認められる。また、従来のGPSアンテナでは受信できなかった位置のGPS衛星からの信号電波も受信することができるようにすることは、通信特性を向上させるために行っていることが明らかである。
c 前記a及びbによれば、前記引用文献2及び3は、いずれも「車両のガラスにおいてアンテナを設ける際に、通信特性向上のために、アレイ状の複数のアンテナ素子を設け、アレイ状の複数のアンテナ素子のそれぞれが異なる位相で給電される」技術を示しており、当該技術は、本願の出願前における周知技術であったと認められる。
(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 発明特定事項A及びFについて
引用発明において、「アンテナ構造40は、薄いフィルム50に形成され、接着層48によって、湾曲した車両ガラス46の表面44に固定され」る(構成b)。ここで、「アンテナ構造40」、「接着層48」及び「車両ガラス46」からなる構成は、車両用アンテナグレージングであるといえる。
また、「アンテナ構造40」は「アンテナ放射素子66を含」む(構成c)。
したがって、引用発明の「アンテナ放射素子66」は、本件補正発明の「アンテナ素子」に相当し、本件補正発明と引用発明とは、「アンテナ素子を含む車両用アンテナグレージング」である点で一致する。
イ 発明特定事項Bについて
引用発明において、「アンテナ放射素子66」は「放射部70」を有し(構成c)、「放射部70」は「2.4GHzのWiFi周波数帯で動作する」(構成d)。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「前記アンテナ素子は、2.4GHzの周波数帯で動作するWIFIアンテナ」である点で共通する。
他方、「2.4GHzの周波数帯」について、本件補正発明は「2.41~2.48GHz」であるのに対して、引用発明は、「2.41~2.48GHz」であることが特定されていない点で相違する。
ウ 発明特定事項Cについて
(ア)引用発明において、「アンテナ放射素子66」は「放射部70」を有し(構成c)、「放射部70」は「CPW給電構造62」に結合され(構成c)、「CPW給電構造は、同軸ケーブルに適した方法でコネクタ38を取り付けるように構成する」(構成e)から、「アンテナ放射素子66」は同軸コネクタに接続されると認められる。
(イ)引用発明では、「アンテナ」が「平面構造に成形」(構成f)されるから、「アンテナ放射素子66」も平面構造に成形されると認められ、このことは、FIG.4及びFIG.5の記載からも明らかである。そうすると、「アンテナ放射素子66」は、平面放射素子であるといえる。
(ウ)前記(ア)及び(イ)より、引用発明の「コネクタ38」は、本件補正発明の「同軸コネクタ」に相当し、本件補正発明と引用発明とは、「前記アンテナ素子は、同軸コネクタに接続される平面放射素子を含」む点で一致する。
他方、引用発明は、平面放射素子が「アレイ状の2つの」ものであることについて特定されていない。
エ 発明特定事項Dについて
引用発明では、「前記アレイ状の2つの平面放射素子のそれぞれが、異なる位相で給電される」ことについて特定されていない。
オ 発明特定事項Eについて
引用発明において、「アンテナ放射素子66」は平面放射素子であり(前記ウ(イ))、「銅、金、銀、銀セラミック、金属グリッド/メッシュなどの低損失導体は、アンテナ放射素子66においても用いられる」(構成i)。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「前記平面放射素子は、メッシュ等の平面導電材料で作られる」点で共通する。
他方、「メッシュ等の平面導電材料」について、本件補正発明は、「薄い金属ベースのコーティング、銀の印刷又は細い導電ワイヤの目の細かいメッシュ等」の平面導電材料であるに対して、引用発明では、「銅、金、銀、銀セラミック、金属グリッド/メッシュなどの低損失導体」の平面導電材料である点で相違する。
カ 前記ア~オによれば、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
〈一致点〉
「アンテナ素子を含む車両用アンテナグレージングにおいて、前記アンテナ素子は、2.4GHzの周波数帯で動作するWIFIアンテナであり、前記アンテナ素子は、同軸コネクタに接続される平面放射素子を含むこと、及び前記平面放射素子は、メッシュ等の平面導電材料で作られることを特徴とする車両用アンテナグレージング。」
〈相違点1〉
「2.4GHzの周波数帯」について、本件補正発明は「2.41~2.48GHzの周波数」であるのに対して、引用発明は、「2.41~2.48GHzの周波数」であることが特定されていない点。
〈相違点2〉
本件補正発明では、平面放射素子が「アレイ状の2つの」ものであって、
「前記アレイ状の2つの平面放射素子のそれぞれが、異なる位相で給電される」のに対して、引用発明では、この点について特定されていない点。
〈相違点3〉
「メッシュ等の平面導電材料」について、本件補正発明は、「薄い金属ベースのコーティング、銀の印刷又は細い導電ワイヤの目の細かいメッシュ等」の平面導電材料であるに対して、引用発明では、「銅、金、銀、銀セラミック、金属グリッド/メッシュなどの低損失導体」の平面導電材料である点。
(4)判断
ア 相違点についての判断
(ア)相違点1について
引用発明は、2.4GHzの周波数帯で動作するWiFiアンテナであるところ、2.41~2.48GHzの周波数は、WiFiの2.4GHzの周波数帯として通常に用いられているから、引用発明の「2.4GHzの周波数帯」を「2.41~2.48GHzの周波数」とすることは、当業者が適宜なし得た設計的事項にすぎない。
したがって、前記相違点1に係る構成は、引用発明から当業者が容易になし得たことと認められる。
(イ)相違点2について
引用発明において、「アンテナ構造40」は「車両ガラス46」に固定される(構成b)ものであって、「2.4GHzのWiFi周波数帯で動作する」(構成d)ものであるところ、車両のガラスにアンテナを設置した場合、車両の向き等に応じて、アンテナの位置とWiFiのアクセスポイントとの位置関係は変化するから、位置関係に応じて通信特性が劣化する位置関係が存在することは明らかである。
ここで、通信特性の向上は当業者が当然追求すべき課題であり、かつ、「車両のガラスにおいてアンテナを設ける際に、通信特性向上のために、アレイ状の複数のアンテナ素子を設け、アレイ状の複数のアンテナ素子のそれぞれが異なる位相で給電される」技術は周知技術(前記(2)イ(ウ))であるから、引用発明において、アンテナを設置した位置とWiFiのアクセスポイントとの位置関係に応じた通信特性を向上させるために、該周知技術を採用して、相違点2の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(ウ)相違点3について
a 引用発明の「メッシュ等の平面導電材料」は、「銅、金、銀、銀セラミック、金属グリッド/メッシュなどの低損失導体」(前記(3)オ)であり、「アンテナ」は「印刷」することができ(構成f)、「アンテナ導体は、銀ナノワイヤなどの透明導体で形成でき」(構成g)るから、引用発明では、銀の印刷又は導電ワイヤのメッシュ等が用いられると認められる。
b 引用発明では、「アンテナをガラス構造に埋め込むこともでき、ガラスに導電性素子を追加するには、フロントガラスのガラス層の1つに導電性コーティングを追加するなど、さまざまな方法がある」(構成h)から、引用発明の「アンテナ放射素子66」、すなわち「平面放射素子」(前記(3)ウ(イ))として、「導電性コーティング」を用いることは、当業者が適宜なし得た設計的事項であって、該「導電性コーティング」は、本件補正発明の「金属ベースのコーティング」に相当する。
c 引用発明において、「運転者または他の車両乗員がガラスを通して見る必要がある車両ガラス上の位置にある場合」、「アンテナ導体」は「透明導体で形成でき」る(構成g)ことを考慮すると、運転者または他の車両乗員の視界を妨げないように、「金属ベースのコーティング」(前記b)を「薄い」ものとすることや「導電ワイヤ」(前記a)を「細い導電ワイヤの目の細かい」ものとすることは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。
d 前記a~cより、前記相違点3に係る構成は、引用発明から当業者が容易になし得たことと認められる。
イ 効果についての判断
前記アのとおり、前記相違点1~3は、引用発明及び周知技術から当業者が容易になし得たことと認められ、引用発明及び周知技術から想到される構成は、本件補正発明と同様の効果を奏することが明らかであるから、本件補正発明の奏する効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものであり、格別なものということはできない。
ウ 請求人の主張についての判断
請求人は、審判請求書において、本件補正発明について、次のように主張する。
「本願の対応米国特許出願のかかる審査経過に鑑み、出願人は、本願の拒絶査定に対して、本願の対応米国特許出願の第2回拒絶理由通知書と同様のクレーム限定を行った。具体的には、本願明細書[0037]及び図3に基づいて、本願請求項1において、平面放射素子の構造をさらに具体的に規定し、「前記アンテナ素子(1)は、同軸コネクタ(9)に接続されるアレイ状の2つの平面放射素子(2)を含み、前記アレイ状の2つの平面放射素子(2)のそれぞれが、異なる位相で給電されること」を明確にした。
本願発明では、このように、アレイ状の2つの放射素子2が使用され、異なる位相でそれに給電し、アレイ状素子間の距離を操作することにより、放射パターンを整形することが可能になるという利点を有する(本願明細書[0037])。従って、本願発明によれば、放射パターンを方位角360°にわたってはるかに均一に整形することができる(本願明細書[0008])。
このような本願発明の特徴的な構造及びそれによる有利な効果は、引用文献1には何ら開示されていない。実際、引用文献1は、アンテナの放射パターンの整形の問題には何ら言及していない。
従って、本願発明が引用文献1に対して進歩性を有することは明らかである。」
しかしながら、請求人が主張する「前記アンテナ素子(1)は、同軸コネクタ(9)に接続されるアレイ状の2つの平面放射素子(2)を含み、前記アレイ状の2つの平面放射素子(2)のそれぞれが、異なる位相で給電されること」という構成は、前記相違点2に係る構成であるところ、前記ア(イ)のとおり、引用発明において周知技術を採用して前記相違点2の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。そして、引用発明において周知技術を採用した構成は、請求人が主張する上記構成と同様の効果を奏すると認められるから、出願人の主張は採用できない。
エ 以上より、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)小括
以上によれば、本件補正発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
3 本件補正についてのむすび
前記2によれば、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(2)のとおりである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の概要は、以下のとおりである。
(進歩性)この出願の請求項1~9に係る発明は、下記の文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:米国特許出願公開第2017/0324138号明細書
3 引用文献
原査定で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、前記第2[理由]2(2)アに記載したとおりである。
4 対比
本願発明は、前記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、「平面放射素子(2)」に係る限定事項を削除したものであり、この削除した限定事項は、前記第2[理由]2(3)における相違点2で示した事項となるから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
〈一致点〉
「アンテナ素子を含む車両用アンテナグレージングにおいて、前記アンテナ素子は、2.4GHzの周波数帯で動作するWIFIアンテナであり、前記アンテナ素子は、同軸コネクタに接続される平面放射素子を含むこと、及び前記平面放射素子は、メッシュ等の平面導電材料で作られることを特徴とする車両用アンテナグレージング。」
〈相違点4〉
「2.4GHzの周波数帯」について、本願発明は「2.41~2.48GHz」であるのに対して、引用発明は、「2.41~2.48GHz」であることが特定されていない点。
〈相違点5〉
「メッシュ等の平面導電材料」について、本願発明は、「薄い金属ベースのコーティング、銀の印刷又は細い導電ワイヤの目の細かいメッシュ等」の平面導電材料であるに対して、引用発明では、「銅、金、銀、銀セラミック、金属グリッド/メッシュなどの低損失導体」の平面導電材料である点。
5 判断
(1)相違点についての判断
前記相違点4及び5は、それぞれ前記第2[理由]2(3)における相違点1及び3と同様であり、これらの相違点に係る構成は、前記第2[理由]2(4)ア(ア)及び(ウ)に示したとおり、引用発明から当業者が容易になし得たことと認められる。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)効果についての判断
前記(1)のとおり、前記相違点4及び5は、引用発明から当業者が容易になし得たことと認められ、引用発明から想到される構成は、本願発明と同様の効果を奏することが明らかであるから、本願発明の奏する効果は、引用発明から当業者が予測できる範囲のものであり、格別なものということはできない。
(3)請求人の主張についての判断
前記相違点4及び5は、それぞれ前記第2[理由]2(3)における相違点1及び3と同様であるところ、請求人の主張は、前記第2[理由]2(3)の相違点2で示した構成に基づくものであるから、出願人の主張は採用できない。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-008441