特許拒絶査定不服審判
2024-008267
改質アスファルト防水シート
- 審判番号
- 2024-008267
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-062766
- 請求日
- 2024年05月17日
- 審決日
- 2025年06月16日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】MUマテックス株式会社
- 【請求人代理人】長谷川 芳樹
- 【請求人代理人】石坂 泰紀
- 【請求人代理人】吉川 絵美
- 【請求人代理人】和田 雄二
- 審判長/審判官
- 審判長 渋谷 知子
- 審判官 澤田 真治
- 審判官 蔵野 いづみ
- 分類
- P18 .121-WZ (E04D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 62766「改質アスファルト防水シート」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年10月11日出願公開、特開2021-161695〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年3月31日の出願であって、令和5年10月16日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月21日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、令和6年2月7日付け(送達日:同月20日)で拒絶査定がなされ、それに対して、同年5月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、これに対し、当審において、令和7年1月29日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年4月1日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2 本願の請求項1~7に係る発明
本願の請求項1~7に係る発明は、令和7年4月1日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ請求項番号を付して「本願発明1」等という。)。
「【請求項1】
改質アスファルト組成物層と、該改質アスファルト組成物層の一方の面上に設けられた、可塑剤を含むポリ塩化ビニル層とを備え、
前記可塑剤の数平均分子量が500~4000である、改質アスファルト防水シート(ただし、前記ポリ塩化ビニル層が、平均分子量が450~560の高分子量フタル酸エステル系可塑剤を含むもの、及び、前記ポリ塩化ビニル層が、平均重合度が1000~4000の塩化ビニル樹脂を含むものを除く。)。
【請求項2】
前記可塑剤が、ポリエステル系可塑剤又はエポキシ系可塑剤を含む、請求項1に記載の防水シート。
【請求項3】
前記ポリ塩化ビニル層の厚さが5~500μmである、請求項1又は2に記載の防水シート。
【請求項4】
前記改質アスファルト組成物層と前記ポリ塩化ビニル層との間に、織布又は不織布を更に備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の防水シート。
【請求項5】
前記ポリ塩化ビニル層と、前記織布又は前記不織布とが、ポリオレフィンのラミネート加工によって貼り合わされている、請求項4に記載の防水シート。
【請求項6】
前記改質アスファルト組成物層の、前記ポリ塩化ビニル層が設けられた面とは反対の面上に、剥離層を更に備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の防水シート。
【請求項7】
前記改質アスファルト組成物層の、前記ポリ塩化ビニル層が設けられた面とは反対の面上に、合成樹脂フィルムを更に備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の防水シート。」
第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由は、概略、次のとおりのものである。
(進歩性)この出願の請求項1~4に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、請求項5及び6に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された事項及び引用文献3及び4に記載された周知技術に基いて、請求項7に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された事項、引用文献3及び4に記載された周知技術及び引用文献5に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1 実願昭60-170955号(実開昭62-80628号)のマイクロフィルム
引用文献2 特開平4-159351号公報
引用文献3 特開平9-207293号公報
引用文献4 特開2018-20565号公報
引用文献5 実願昭56-176855号(実開昭58-82241号)のマイクロフィルム
第4 引用文献の記載、引用発明
1 引用文献1
当審拒絶理由で引用文献1として引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布され、又は電気通信回線を通じて利用可能となった実願昭60-170955号(実開昭62-80628号)のマイクロフィルム(昭和62年5月23日公開)には、防水シート(考案の名称)に関し、次の事項が図とともに記載されている。なお、下線は当審で付した。以下同じ。
(1) 記載事項
「前記有毛羽シート状物としては、ポリエステル繊維、ガラス繊維、アスベスト繊維又は再生繊維等の耐熱性を有する繊維を用いて作られ、寸法安定性のある織物、経織物、不織布又は紙等を用いることかできる。」(4頁7~11行)
「前記ゴムアスファルト層は当業界で通常用いられているアスファルトに天然ゴム又は合成ゴムを添加してシート状に形成された弾性を有する層を意味し、必要に応じて合成樹脂を添加して、温度安定性、粘性、施工性を改良したものを用いてもよい。」(5頁8~13行)
「又高分子シートに塩ビシートを用いた場合において、塩ビシート中の可塑剤のゴムアスファルト層への移行が有毛羽シート状物によって防がれるので、ゴムアスファルト層が劣化することがない。」(6頁1~5行)
「<実施例>
以下本考案の防水シートの実施例を示す添付図面を参照して本考案を詳述する。
第1図に示す本考案の防水シート1はその表面に厚さ0.3m/m、目付400g/m2の塩化ビニールシート2を有し、その下側に厚さ0.2m/m、目付40g/m2のポリエステル系スパンボンド不織布、0.2m/m、厚さ1.0m/m、目付1kg/m2のゴムアスファルト層4、厚さ0.2m/m、目付40g/m2のポリエステル系スパンボンド不織布5が順次積層されている。
一方第2図に示す防水シート10は第1図に示した防水シート1の最下層のポリエステル系スパンボンド不織布5の代りに市販の離型紙50が積層されている。」(7頁7行~8頁1行)」
「
[図:0001425441000001.jpg]
」
「
[図:0001425441000002.jpg]
」
(2) 引用文献1に記載された発明
上記(1)より、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明)
「表面に、厚さ0.3m/mであり、可塑剤を含む塩化ビニールシート2を有し、その下側に織物、不織布等の有毛羽シート状物3、アスファルトに天然ゴム又は合成ゴムを添加してシート状に形成された弾性を有するゴムアスファルト層4、最下層に離型紙50が積層されている防水シート。」
2 引用文献2
当審拒絶理由で引用文献2として引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布され、又は電気通信回線を通じて利用可能となった特開平4-159351号公報(平成4年6月2日公開)には、被膜防水シート材料(発明の名称)に関し、次の事項が記載されている。
(1) 記載事項
「(課題を解決するための手段)
本発明は、平均重合度が1000~4000の塩化ビニル樹脂100重量部に対し、
平均分子量が1000~8000のポリエステル系可塑剤及び平均分子量が450~620の大分子量フタル酸エステル系可塑剤からなる群より選ばれた一種以上の可塑剤を30重量部以上、90重量部以下添加したことを特徴とする、被膜防水シート材料に係るものである。
本発明の被膜防水シート材料に使用する塩化ビニル樹脂は、平均重合度が1000~4000のものである。この平均重合度が1000より低いと、材料の機械的強度が小さくなり、平均重合度が4000より高いと、材料の加工性とそれに伴う経済性が低下する。」(2頁右上欄1~15行)
「(作 用)
本発明の被膜防水シート材料は、ポリエステル系可塑剤及び/又は大分子量フタル酸エステル系可塑剤、即ち大分子量可塑剤を使用しているため、汎用フタル酸エステル系可塑剤等の小分子量可塑剤等を使用した一般のポリ塩化ビニル系防水シート材料に比べ、機械的強度に優れ、また長期に亘る屋外暴露等の過酷な条件における可塑剤の移行、浸出、揮散等によるシートの重量変化、寸法変化などの原因で起こるシートの硬化、収縮による弱点部の破断等がなく安定である。
このように、本発明の被膜防水シート材料は、可塑剤の移行、浸出、揮散が少ないため、アスファルト防水層や発泡スチレン断熱ボードの上にシートを直接接触させて施工することができ、一般の小分子量フタル酸エステル系可塑剤を使用したポリ塩化ビニル系防水シート材料のように、絶縁フィルム又は絶縁シートを使用する必要がなく、材料及び施工の際の工程を省略することができる。」(3頁左上欄4行~同頁右上欄2行)
「(実施例)
以下、本発明を次の実施例及び比較例により説明する。
被膜防水シートの作成(当審注:この下線は原文のまま)
第1表に示す配合割合で、ポリ塩化ビニルに各種ポリエステル系可塑剤と大分子量フタル酸エステル系可塑剤(ここではDUP:フタル酸ジウンデシルを使用)とを単独又は併用で配合し、ヘンシェルミキサーを用いてコンパウンドを製造し、該コンパウンドを110mm異方向二軸押出機にて、1.5mm厚みのシート状となるように押出成形した。
比較のため、上記と同様の製造方法にて、汎用の小分子量フタル酸エステル系可塑剤(ここではDOP:ジ(2-エチルへキシル)フタレート及びDINP:ジイソノニルフタレートを使用)をポリ塩化ビニルに配合し、同様のシートを作成した。これらの配合比について第1表に示す。」(3頁右上欄8行~同頁左下欄4行)
「
[図:0001425441000003.jpg]
」(第1表)
「*1 ポリ塩化ビニル:平均重合度P=1300の懸濁重合ポリ塩化ビニル樹脂(当審注:「P」は上バー付き)
*2 ポリエステル系A:アジピン酸-1,6-ヘキサンジオール系 平均分子量2600のポリエステル系可塑剤
*3 ポリエステル系B:アジピン酸-ネオペンチルグリコール系 平均分子量2600のポリエステル系可塑剤
*4 ポリエステル系C:セバシン酸-1,6-ヘキサンジオール系 平均分子量6000のポリエステル系可塑剤
*5 紫外線吸収剤:チヌビンP(チバーガイギー社製トリアゾール系紫外線吸収剤)
*6 ポリエチレン系ワックス:低密度ポリエチレンワックス
*7 顔料、塩素法ルチルタイプ酸化チタン0.5重量部、カーボンブラック0.5重量部
*8 炭酸カルシウム:白艶華cc (白石工業社製)」(4頁左上欄1~18行)
(2) 引用文献2に記載された事項
上記(1)より、引用文献2には、以下の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
(引用文献2記載事項)
「一般の小分子量フタル酸エステル系可塑剤を使用したポリ塩化ビニル系防水シート材料において、可塑剤の移行、浸出、揮散を少なくして、アスファルト防水層や発泡スチレン断熱ボードの上にシートを直接接触させて施工することができるようにするために、
小分子量フタル酸エステル系可塑剤に代えて、平均分子量が1000~8000のポリエステル系可塑剤及び平均分子量が450~620の大分子量フタル酸エステル系可塑剤からなる群より選ばれた一種以上の可塑剤を30重量部以上、90重量部以下添加した被膜防水シート材料であり、
例として、ポリ塩化ビニルに、アジピン酸-1,6-ヘキサンジオール系であり、平均分子量2600のポリエステル系可塑剤(ポリエステル系A)、またはアジピン酸-ネオペンチルグリコール系であり、平均分子量2600のポリエステル系可塑剤(ポリエステル系B)を、それぞれ単独で配合した被膜防水シート材料。」
3 引用文献3
当審拒絶理由で引用文献3として周知技術を示す文献として引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布され、又は電気通信回線を通じて利用可能となった特開平9-207293号公報(平成9年8月12日公開)には、成形物およびその製造方法(発明の名称)に関し、次の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されていると認められる。
(引用文献3記載事項)
「塩化ビニールシートと不織布の間に一定温度で融解するアタクティックポリプロピレン系のシート状ホットメルト型接着剤を介在させて、成形時の熱で融解接着させること(【0043】、【0044】)。」
4 引用文献4
当審拒絶理由で引用文献4として引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布され、又は電気通信回線を通じて利用可能となった特開2018-20565号公報(平成30年2月8日公開)には、耐火性シート(発明の名称)に関し、次の事項(以下「引用文献4記載事項」という。)が記載されていると認められる。
(引用文献4記載事項)
「ポリ塩化ビニル樹脂をマトリックス樹脂として形成されている熱膨張性材料層2(【0017】~【0019】)及び、織布又は不織布で構成される基材層3(【0041】)の層間の接着をポリエチレン、ポリプロピレンからなるラミネート層4により支援すること(【0047】)。」
5 引用文献5
当審拒絶理由で引用文献5として引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布され、又は電気通信回線を通じて利用可能となった実願昭56-176855号(実開昭58-82241号)のマイクロフィルム(昭和58年6月3日公開)には、複合シート(考案の名称)に関し、次の事項(以下「引用文献5記載事項」という。)が記載されていると認められる。
(引用文献5記載事項)
「ゴムアスファルト組成物層2の片面には、織布、不織布などからなる断熱シート5が、さらに、ポリ塩化ビニルからなる発泡体シート6が積層され(5頁18行~6頁15行、第2図)、他の面にはフィルムからなる伸長性保護材4が積層されている(7頁7~16行)、防水用下地材として使用される複合シート(8頁3~4行)。」
第5 対比、判断
1 本願発明1と引用発明を対比する。
(1) 引用発明の「ゴムアスファルト層4」、「可塑剤を含む塩化ビニールシート2」及び「防水シート」は、本願発明1の「改質アスファルト組成物層」、「可塑剤を含むポリ塩化ビニル層」及び「改質アスファルト防水シート」に相当する。
そして、引用発明は、「塩化ビニールシート2」「の下側に」「有毛羽シート状物3」、「ゴムアスファルト層4」「が積層されている」ものであるところ、このことは、本願発明1の「ポリ塩化ビニル層」が「該改質アスファルト組成物層の一方の面」より「上に設けられ」ていることに相当する。
(2) よって、本願発明1と引用発明は、
「改質アスファルト組成物層と、該改質アスファルト組成物層の一方の面より上に設けられた、可塑剤を含むポリ塩化ビニル層とを備える、改質アスファルト防水シート。」の点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
「ポリ塩化ビニル層」が、
本願発明1では、「該改質アスファルト組成物層の一方の面上に設けられ」ているのに対し、
引用発明では、「ゴムアスファルト層4」の上の「有毛羽シート状物3」の上に「積層されている」点。
[相違点2]
「改質アスファルト防水シート」に関して、
本願発明1では、「前記可塑剤の数平均分子量が500~4000であ」り、「前記ポリ塩化ビニル層が、平均分子量が450~560の高分子量フタル酸エステル系可塑剤を含むもの、及び、前記ポリ塩化ビニル層が、平均重合度が1000~4000の塩化ビニル樹脂を含むものを除く」としているのに対し、
引用発明では、そのような構成を備えているか不明である点。
2 上記相違点について検討する。
(1) 相違点1について
上記相違点1に係る本願発明1の構成に関し、本願発明1を引用する本願発明4において「前記改質アスファルト組成物層と前記ポリ塩化ビニル層との間に、織布又は不織布を更に備える」と特定していることから、本願発明1の「該改質アスファルト組成物層の一方の面上に設けられた、可塑剤を含むポリ塩化ビニル層」という特定は、「該改質アスファルト組成物層の一方の面」よりも「上に」「可塑剤を含むポリ塩化ビニル層」が「設けられ」ていることを特定するものと理解できる。
そうすると、上記1(1)においても説示したように、引用発明は、「塩化ビニールシート2(本願発明1の「ポリ塩化ビニル層」に相当。)」「の下側に」「有毛羽シート状物3」、「ゴムアスファルト層4(本願発明1の「改質アスファルト組成物層」に相当。)」「が積層されている」ものであるから、引用発明においても「ゴムアスファルト層4」よりも上に「ポリ塩化ビニル層」「が積層されている」という、上記相違点1に係る本願発明1の構成を備えているといえる。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。
(2) 相違点2について
引用文献2記載事項の「アジピン酸-1,6-ヘキサンジオール系であり、平均分子量2600のポリエステル系可塑剤」及び「アジピン酸-ネオペンチルグリコール系であり、平均分子量2600のポリエステル系可塑剤」は、いずれも本願発明1の「数平均分子量が500~4000である」「可塑剤」に相当する。
そして、引用発明の防水シートにおいても、塩化ビニールシート2に含まれている可塑剤の移行、浸出、揮散が少ない方が好ましいことは自明なので、引用発明において、引用文献2記載事項を適用し、可塑剤として小分子量フタル酸エステル系可塑剤ではなく、より分子量が大きい可塑剤を用いるにあたり、引用文献2記載事項の、平均分子量が1000~8000のポリエステル系可塑剤及び平均分子量が450~620の大分子量フタル酸エステル系可塑剤からなる群より選ばれた一種以上の可塑剤に基づき、平均分子量が1000~8000のポリエステル系可塑剤(例えば、「アジピン酸-1,6-ヘキサンジオール系であり、平均分子量2600のポリエステル系可塑剤」又は「アジピン酸-ネオペンチルグリコール系であり、平均分子量2600のポリエステル系可塑剤」)を単独で採用することは、当業者であれば容易になし得ると認められる。
また、引用発明は、塩化ビニールシート2に含まれている塩化ビニル樹脂の平均重合度に限定がないから、平均重合度が1000~4000ではない塩化ビニル樹脂を含む態様を包含している。
なお、本願発明1は、「前記ポリ塩化ビニル層が、平均分子量が450~560の高分子量フタル酸エステル系可塑剤を含むもの、及び、前記ポリ塩化ビニル層が、平均重合度が1000~4000の塩化ビニル樹脂を含むものを除く。」と特定されているが、この特定は、上記説示を左右しない。
そうすると、引用発明及び引用文献2記載事項から、上記相違点2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(3) 相違点1について予備的見解
上記(1)のとおり相違点1は、実質的な相違点ではないが、本願発明1の「面上」が「面」の直上を意味していると解した場合について、さらに検討する。
引用文献2記載事項の「ポリ塩化ビニル」に「可塑剤」を「配合した」「被膜防水シート材料」からなる「シート」及び「アスファルト防水層」は、本願発明1の「ポリ塩化ビニル層」及び「改質アスファルト組成物層」に、それぞれ相当する。
そして、引用文献2記載事項の「被膜防水シート材料」からなる「シート」は「アスファルト防水層の上に直接接触させて施工することができる」ものであるところ、このことは、本願発明1の「塩化ビニル層」が「該改質アスファルト組成物層の一方の面上に設けられ」ていることに相当する。
引用発明と引用文献2記載事項は、可塑剤を含有したポリ塩化ビニル層をアスファルト防水層の上方に設けた防水構造である点で共通するから、 引用発明の「ゴムアスファルト層4」の上の「有毛羽シート状物3」により塩ビシート中の可塑剤のゴムアスファルト層への移行を防ぎ、その「有毛羽シート状物3」の上に「塩化ビニールシート2」を「積層」することに代えて、引用文献2記載事項を採用し、「ゴムアスファルト層4」の面の直上に「平均分子量2600のポリエステル系可塑剤」を「配合した」「塩化ビニールシート2」を設けるようにして、上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(4) 本願発明1の効果について
本願発明1の奏する効果は、引用発明及び引用文献2記載事項から当業者が予測される範囲内のものであって、格別顕著なものではない。
(5) 小括
以上のことから、本願発明1は、引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
3 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和7年4月1日提出の意見書の「第3 本願発明が特許をされるべき理由」の「2.本願発明と引用発明との対比」において、
以下の主張をしている。
「ここで、引用文献2に記載の発明では、「ポリ塩化ビニル樹脂系被膜防水シート材料の問題点を解決しようとするものであって、長期に亘り屋外で使用しても可塑剤の移行、浸出、揮散が少なく、安定性、機械的強度接合性に優れる、ポリ塩化ビニル樹脂系の被膜防水ンート材料を提供すること」を課題とし(引用文献2の第2頁左上欄下から1~7行)、当該課題を解決するための手段として、被膜防水シート材料が、「平均重合度が1000~4000の塩化ビニル樹脂」を含むことが必須構成とされています(引用文献2の特許請求の範囲)。
拒絶理由通知書においては、「引用発明と引用文献2記載事項は、可塑剤を含有したポリ塩化ビニル層をアスファルト防水層の上方に設けた防水構造である点で共通し、塩化ビニル層からアスファルト防水層への可塑剤の移行を防ぐという課題も共通するから、引用発明の『可塑剤』として、引用文献2記載事項の『ポリエステル系可塑剤』を採用することにより、上記相違点2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。」との判断が示されています。
しかしながら、引用文献2を参照した当業者であれば、引用文献2に記載された発明のうち、塩化ビニル樹脂に添加される可塑剤に関する特定のみを取り出して引用発明に組み合わせるのではなく、引用文献2に記載された発明の課題を解決するための手段として必須構成である、「平均重合度が1000~4000の塩化ビニル樹脂」を用いるという塩化ビニル樹脂についての特定と組み合わせたまま、引用発明に適用するはずです。
一方、本願発明1の改質アスファルト防水シートからは、請求項1に規定されたとおり、ポリ塩化ビニル層が、平均重合度が1000~4000の塩化ビニル樹脂を含むものが除かれています。引用発明及び引用文献2を参照した当業者が、引用文献2に記載された可塑剤を引用発明に適用しようとするならば、引用文献2に記載された平均重合度が1000~4000の塩化ビニル樹脂と合わせて採用するはずです。
したがって、ポリ塩化ビニル層が、平均重合度が1000~4000の塩化ビニル樹脂を含むものが除かれている本願発明1の改質アスファルト防水シートの構成は、引用文献1及び2に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものではないと思料します。」
しかしながら、引用文献2において「平均重合度が1000~4000の塩化ビニル樹脂」を用いることとしているのは、「この平均重合度が1000より低いと、材料の機械的強度が小さくなり、平均重合度が4000より高いと、材料の加工性とそれに伴う経済性が低下する」からであって、「ポリ塩化ビニル層」に含まれる可塑剤の移行、浸出、揮散とは関係のない、別の問題に対応するために構成であるから、引用文献2記載事項を上記のとおりに認定したことに誤りはない。
したがって、上記2(2)にて説示のとおり、塩化ビニル樹脂の平均重合度が限定されない引用発明において、可塑剤の移行の問題を解決するために、引用文献2記載事項における、「平均分子量が1000~8000のポリエステル系可塑剤」、「例として」、「平均分子量2600のポリエステル系可塑剤」を、「単独で配合」するとの技術的事項を採用することに、格別の困難性は見出せない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-008267