特許拒絶査定不服審判
2024-004188
スイッチング電源装置及びその制御方法
- 審判番号
- 2024-004188
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-239182
- 請求日
- 2024年03月08日
- 審決日
- 2024年09月26日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】新電元工業株式会社
- 【請求人代理人】平山 一幸
- 審判長/審判官
- 審判長 林 毅
- 審判官 脇岡 剛
- 審判官 山崎 慎一
- 分類
- P18 .55 -Z (H02M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-239182「スイッチング電源装置及びその制御方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 7月 2日出願公開、特開2020-102933〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1.手続の経緯
本願は、平成30年12月21日の出願であって、その手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
令和4年11月29日付け:拒絶理由通知
令和5年 1月28日 :意見書、手続補正書の提出
令和5年 5月18日付け:拒絶理由通知
令和5年 8月29日 :意見書の提出
令和5年12月 8日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和6年 3月 8日 :審判請求書の提出
第2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、令和5年1月28日に提出された手続補正書でした補正(以下、「本件補正」という。)は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない、というものである。
第3.当審の判断
1.本件補正
本件補正は、以下の補正事項1ないし6を含むものと認められる。
(1)補正事項1
願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1について、
「前記制御部は、
前記複数の1次側駆動パルス中及び/又は前記複数の2次側駆動パルス中に、前記高レベル側のスイッチのすべて及び/又は前記低レベル側のスイッチのすべてを同時にオンするパルスパターンを付加する」との記載を、
「前記制御部は、
デューティ比に対する前記変圧器に流れる電流実効値のシミュレーション結果と、前記1次側電圧と前記2次側電圧との電圧比と、に基づき、前記低レベル側のスイッチのすべてがオフ状態の時に、前記低レベル側のスイッチに対応する前記高レベル側のスイッチのすべてをオンし、前記高レベル側のスイッチのすべてがオフ状態の時に、前記高レベル側のスイッチに対応する前記低レベル側のスイッチのすべてをオンする、パルスパターンの前記デューティ比を求め、前記複数の1次側駆動パルス中及び/又は前記複数の2次側駆動パルス中に、前記デューティ比の前記パルスパターンを付加する」とする。
(2)補正事項2
願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項3について、
「前記1次側電圧と前記2次側電圧との電圧比、又は、前記1次側電流と前記2次側電流との電流比に基づき、前記高レベル側のスイッチのすべて及び/又は前記低レベル側のスイッチのすべてを同時にオンするパルスパターンの第1デューティ比及び/又は第2デューティ比を算出するデューティ比算出部」との記載を、
「前記シミュレーション結果と前記電圧比とに基づき、前記高レベル側のスイッチのすべて及び前記低レベル側のスイッチのすべてをオンする前記パルスパターンの第1デューティ比及び/又は第2デューティ比を算出するデューティ比算出部」とする。
(3)補正事項3
願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項9に、
「デューティ比に対する前記変圧器に流れる電流実効値のシミュレーション結果と、前記1次側電圧と前記2次側電圧との電圧比と、に基づき、前記低レベル側のスイッチのすべてがオフ状態の時に、前記低レベル側のスイッチに対応する前記高レベル側のスイッチのすべてをオンし、前記高レベル側のスイッチのすべてがオフ状態の時に、前記高レベル側のスイッチに対応する前記低レベル側のスイッチのすべてをオンする、パルスパターンの前記デューティ比を算出し、」との事項を追加する。
(4)補正事項4
願書に最初に添付した明細書の段落0013について、
「そして、前記制御部は、前記複数の1次側駆動パルス中及び/又は前記複数の2次側駆動パルス中に、前記H側のスイッチのすべて及び/又は前記L側のスイッチのすべてを同時にオンするパルスパターンを付加する」との記載を、
「そして、前記制御部は、デューティ比に対する前記変圧器に流れる電流実効値のシミュレーション結果と、前記1次側電圧と前記2次側電圧との電圧比と、に基づき、前記L側のスイッチのすべてがオフ状態の時に、前記L側のスイッチに対応する前記H側のスイッチのすべてをオンし、前記H側のスイッチのすべてがオフ状態の時に、前記H側のスイッチに対応する前記L側のスイッチのすべてをオンする、パルスパターンの前記デューティ比を求め、前記複数の1次側駆動パルス中及び/又は前記複数の2次側駆動パルス中に、前記デューティ比の前記パルスパターンを付加する」とする。
(5)補正事項5
願書に最初に添付した明細書の段落0014に、
「デューティ比に対する前記変圧器に流れる電流実効値のシミュレーション結果と、前記1次側電圧と前記2次側電圧との電圧比と、に基づき、前記L側のスイッチのすべてがオフ状態の時に、前記L側のスイッチに対応する前記H側のスイッチのすべてをオンし、前記H側のスイッチのすべてがオフ状態の時に、前記H側のスイッチに対応する前記L側のスイッチのすべてをオンする、パルスパターンの前記デューティ比を算出し、」との事項を追加する。
(6)補正事項6
願書に最初に添付した明細書の段落0023について、
「デューティ比算出部46は、1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2との電圧比に基づき、H側スイッチ11、13、15のすべて、及び/又は、L側スイッチ12、14、16のすべてを同時にオンするパルスパターンの第1デューティ比D1と、H側スイッチ31、33、35のすべて、及び/又は、L側スイッチ32、34、36のすべてを同時にオンするパルスパターンの第2デューティ比D2と、を算出」との記載を、
「デューティ比算出部46は、デューティ比D1、D2に対する変圧器20Aに流れる電流実効値のシミュレーション結果と、1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2との電圧比と、に基づき、H側スイッチ11、13、15のすべてと、L側スイッチ12、14、16のすべてと、を交互にオンするパルスパターンの第1デューティ比D1と、H側スイッチ31、33、35のすべてと、L側スイッチ32、34、36のすべてと、を交互にオンするパルスパターンの第2デューティ比D2と、を算出」とする。
2.特許法第17条の2第3項について
特許法17条の2第3項は、明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしなければならない旨規定している。上記にいう「当初明細書等に記載した事項」とは、当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「当初明細書等に記載した事項」の範囲内においてするものということができると解するのが相当である。
このため、本件補正は、当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるかについて、以下に検討する。
3.当初明細書等の記載事項
当初明細書等には、以下の記載がある。(下線は当審で付加した。)
「【0023】
デューティ比算出部46は、1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2との電圧比に基づき、H側スイッチ11、13、15のすべて、及び/又は、L側スイッチ12、14、16のすべてを同時にオンするパルスパターンの第1デューティ比D1と、H側スイッチ31、33、35のすべて、及び/又は、L側スイッチ32、34、36のすべてを同時にオンするパルスパターンの第2デューティ比D2と、を算出して1次側パルスパターン付加部44及び2次側パルスパターン付加部45へ与えるものである。第1デューティ比D1及び第2デューティ比D2は、0~1の範囲の所望の値である。
…(中略)…
【0028】
デューティ比算出部46は、1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2との電圧比が略1であるので、第1デューティ比D1=第2デューティ比D2=0を算出する。
…(中略)…
【0031】
(II) 2次側短絡時の動作
例えば、負荷の変動によって2次側電圧Vdc2が0V(短絡状態)になった場合の動作を説明する。この動作では、図2の回路モード(1)~(6)中に、第1デューティ比D1のパルスパターンが付加される。
図1-2の制御部40において、2次側電圧Vdc2が0Vになり、誤差部41から位相差算出部42へ出力される誤差eが最大になる。位相差算出部42では、位相差φ=0degを算出し、この0degを駆動パルス生成部43に入力する。駆動パルス生成部43は、位相差φ=0degの1次側駆動パルスS10及び2次側駆動パルスS30を生成し、その1次側駆動パルスS10を1次側パルスパターン付加部44に入力すると共に、その2次側駆動パルスS30を2次側パルスパターン付加部45に入力する。
【0032】
デューティ比算出部46では、1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2との電圧比が最大値のVdc1であるので、例えば、第1デューティ比D1=第2デューティ比D2=0.66を算出する。そのため、1次側パルスパターン付加部44は、入力された1次側駆動パルスS10に第1デューティ比D1を付加した出力パルスS44を生成し、その出力パルスS44を1次側パルス駆動部47に入力する。更に、2次側パルスパターン付加部45は、入力された2次側駆動パルスS30に第2デューティ比D2を付加した出力パルスS45を生成し、その出力パルスS45を2次側パルス駆動部48に入力する。
…(中略)…
【0035】
(実施例1の詳細な制御方法)
付加された1次側デューティ比D1のみが異なる第1、第2、第3態様(I)~(III)のシミュレーション結果を示す図6~図11-2を参照しつつ、本実施例1の詳細な制御方法を説明する。
【0036】
(I) 第1態様の制御方法
図6は、本実施例1の3相DAB型DC/DCコンバータにおける制御方法を示す動作波形図である。この図6では、図1-1の定常状態デッドタイム無しの駆動パルスS11~S16、S31~S36のパターン及び回路各部の電流波形のシミュレーション結果が示されている。
図6の設定条件は、1次側インバータ10Aに直流の1次側電圧Vdc1が供給され、2次側平滑コンデンサ37の出力側に接続された図示しない負荷が短絡状態(直流の2次側電圧Vdc2=0V)であって、1次側インバータ10Aの出力電圧vpと2次側インバータ30Aの入力電圧vsとの間の位相差φが0deg(即ち、出力電力指令値が0W)、且つ、付加されるパルスパターンの第1、第2デューティ比D1、D2が従来と同様の1.0である。
…(中略)…
【0043】
(II) 第2態様の制御方法
図8は、本実施例1の3相DAB型DC/DCコンバータにおける制御方法を示す動作波形図である。この図8では、図1-1の定常状態デッドタイム無しの駆動パルスS11~S16、S31~S36(D1=0.8、D2=1.0)のパターン及び回路各部の電流波形のシミュレーション結果が示されている。
図8の設定条件は、図6と異なり、付加されるパルスパターンの第1デューティ比D1=0.8及び第2デューティ比D2=1.0となっている。
…(中略)…
【0050】
(III) 第3態様の制御方法
図10は、本実施例1の3相DAB型DC/DCコンバータにおける制御方法を示す動作波形図である。この図10では、図1-1の定常状態デッドタイム無しの駆動パルスS11~S16、S31~S36(D1=0.66、D2=1.0)のパターン及び回路各部の電流波形のシミュレーション結果が示されている。
図10の設定条件は、図8と異なり、付加されるパルスパターンの第1デューティ比D1=0.66及び第2デューティ比D2=1.0となっている。
…(中略)…
【0054】
以上の第1態様から第3態様の制御方法(I)~(III)において、出力電力指令値である位相差φは0degであるので、回路に流れている電流はすべて回路を循環するのみの無効電流成分となる。そのため、回路各部に流れる電流は少ない方が好ましい。
本実施例1では、1周期の回路遷移において、回路モード(1)~(6)に、第1デューティ比D1の回路モード(A)~(F)を付加するか、或いは、回路モード(1)~(6)に代えて、第1デューティ比D1の回路モード(A)~(F)を設けている。シミュレーション結果より、付加する第1デューティ比D1が0.66の時には、回路モード(A)~(F)に従来の制御方法のパターンが全く発生しなくなり、回路内を循環する電流が理論上0Aとなることが分かる。
【0055】
(実施例1と従来の制御方法の比較結果)
図12~図14を参照しつつ、本実施例1と従来の制御方法の比較結果を説明する。
図12は、本実施例1と従来の位相差φ(deg)に対する2次側電流Idc2のシミュレーションの比較結果を示す図である。
シミュレーション条件は、1次側電圧Vdc1が有り、2次側電圧Vdc2が有り(1次側電圧Vdc1と同値)、及び、出力電力指令値である位相差φの範囲が-60~+60degである。図12では、破線曲線で示す1次側デューティ比D1及び2次側デューティ比D2が共に1.0の場合(従来)と、実線曲線で示す1次側デューティ比D1及び2次側デューティ比D2が共に0.9の場合(実施例1)と、の2次側電流Idc2の値の比較結果が示されている。
本実施例1の方が、従来に比べて、位相差φの変化に対して2次側電流Idc2の値の傾斜が緩やかになっている。
【0056】
図13は、本実施例1と従来の位相差φ(deg)に対する変圧器電流実効値Itrans(rms)のシミュレーションの比較結果を示す図である。
シミュレーション条件は、図12と同一である。図13では、破線曲線で示す1次側デューティ比D1及び2次側デューティ比D2が共に1.0の場合(従来)と、実線曲線で示す1次側デューティ比D1及び2次側デューティ比D2が共に0.9の場合(実施例1)と、の変圧器電流実効値Itransの比較結果が示されている。
位相差φdeg=0を基準にして、本実施例1の方が、従来に比べて、位相差φの変化に対する変圧器電流実効値Itransの立ち上り傾斜が緩やかになっている。
【0057】
図14は、本実施例1と従来の1次側デューティ比D1に対する変圧器電流実効値Itrans(rms)のシミュレーションの差異を示す図である。
シミュレーション条件は、1次側電圧Vdc1が有り、2次側電圧Vdc2が無し(0V)、2次側デューティ比D2が1.0、及び、出力電力指令値である位相差φが0deg(出力電力指令値0W)である。図14では、1次側デューティ比D1を0~1の範囲で変更した場合の本実施例1と従来の変圧器電流実効値Itransの差異が示されている。
従来は、1次側デューティ比D1が常に1で動作しているので、変圧器電流実効値Itransが大きい。本実施例1では、1次側デューティ比D1を0~1の範囲で変化させるため、変圧器電流実効値Itransを減少させることが可能である。特に、1次側デューティ比D1が0.66の時に、変圧器電流実効値Itransが最小電流値となる。」
「【図1-2】
[図:0001417509000001.jpg]
【図6】
[図:0001417509000002.jpg]
【図8】
[図:0001417509000003.jpg]
【図10】
[図:0001417509000004.jpg]
【図12】
[図:0001417509000005.jpg]
【図13】
[図:0001417509000006.jpg]
【図14】
[図:0001417509000007.jpg]
」
(1)「シミュレーション結果」について
ア.2次側電流のシミュレーション結果
(ア)上記段落0036、0043、0050、0054の記載、及び、図6、8、10によると、当初明細書等には、「1次側インバータ10Aに直流の1次側電圧Vdc1が供給され、2次側平滑コンデンサ37の出力側に接続された図示しない負荷が短絡状態」、「1次側インバータ10Aの出力電圧vpと2次側インバータ30Aの入力電圧vsとの間の位相差φが0deg」、及び、「付加されるパルスパターンの第1、第2デューティ比D1、D2」が「1.0、1.0」、「0.8、1.0」、「0.66、1.0」を設定条件としたときの、「駆動パルスS11~S16、S31~S36のパターン及び回路各部の電流波形のシミュレーション結果」が記載されているといえる。
(イ)上記段落0055の記載、及び、図12によると、当初明細書等には、「1次側電圧Vdc1が有り、2次側電圧Vdc2が有り(1次側電圧Vdc1と同値)、及び、出力電力指令値である位相差φの範囲が-60~+60deg」、及び、「1次側デューティ比D1及び2次側デューティ比D2」が「共に1.0」と「共に0.9」としたの場合の「位相差φに対する2次側電流Idc2のシミュレーションの比較結果」が記載されているといえる。
(ウ)上記(ア)、(イ)によると、当初明細書等には、1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2とを所定の電圧とし、デューティ比を変更した場合(第1、第2デューティ比D1、D2を「1.0、1.0」又は「0.8、1.0」又は「0.66、1.0」とした場合、あるいは、「共に1.0」と「共に0.9」としたの場合)における2次側電流Idc2のシミュレーションの結果が記載されているといえる。
イ.変圧器電流実効値のシミュレーション結果
(ア)上記段落0056の記載、及び、図13によると、当初明細書等には、「1次側電圧Vdc1が有り、2次側電圧Vdc2が有り(1次側電圧Vdc1と同値)、及び、出力電力指令値である位相差φの範囲が-60~+60deg」、及び、「1次側デューティ比D1及び2次側デューティ比D2」が「共に1.0」と「共に0.9」との場合の「位相差φに対する変圧器電流実効値Itrans(rms)のシミュレーションの比較結果」が記載されているといえる。
(イ)上記段落0057の記載、及び、図14によると、当初明細書等には、「1次側電圧Vdc1が有り、2次側電圧Vdc2が無し(0V)、2次側デューティ比D2が1.0、及び、出力電力指令値である位相差φが0deg(出力電力指令値0W)」とし、「1次側デューティ比D1を0~1の範囲で変更した場合」の「本実施例1と従来の1次側デューティ比D1に対する変圧器電流実効値Itrans(rms)のシミュレーションの差異」が記載されているといえる。
(ウ)上記(ア)、(イ)によると、当初明細書等には、1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2とを所定の電圧とし、デューティ比を変更した場合(「共に1.0」と「共に0.9」、あるいは、「2次側デューティ比D2が1.0、及び、1次側デューティ比D1を0~1の範囲」とした場合)における変圧器電流実効値のシミュレーションの結果が記載されているといえる。
(2)「電圧比」に基づき「デューティ比」を求めることについて
上記段落0023、0028、0032の記載、及び、図1-2によると、当初明細書等には、「1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2との電圧比」に基づき「第1デューティ比」及び「第2デューティ比」を求めることが記載されているといえる。(もっとも、令和4年11月29日付けで通知した拒絶理由の理由4において指摘したように、発明の詳細な説明には、「電圧比」に基づいて「デューティ比」をどのように算出するのかについて、当業者が理解できる程度に明確かつ十分に記載されていない。)
4.補正事項1について
補正事項1は、請求項1に係る発明について、「前記制御部」が、「デューティ比に対する前記変圧器に流れる電流実効値のシミュレーション結果」と、「前記1次側電圧と前記2次側電圧との電圧比」との両方に基づき「前記デューティ比」を求めるとの事項を特定する補正を含むものであるといえる。そして、補正事項1の上記「デューティ比に対する前記変圧器に流れる電流実効値のシミュレーション結果」は、「デューティ比」を変更したときの「前記変圧器に流れる電流実効値」の変化をシミュレーションしたものと解するのが相当である。
当初明細書等には、上記3.(1)イで説示したとおり、「デューティ比を変更した場合における変圧器電流実行値のシミュレーション結果」が記載されているといえるから、当該記載事項は、補正事項1における「デューティ比に対する前記変圧器に流れる電流実効値のシミュレーション結果」に対応するものといえる。また、当初明細書等には、上記3.(2)で説示したとおり、「1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2との電圧比」に基づき「デューティ比」を求めることが記載されているといえるから、当該記載事項は、補当正事項1における「前記1次側電圧と前記2次側電圧との電圧比」に基づき「デューティ比」を求めることに対応するといえる。
しかし、上記3.(1)イ及び3.(2)で説示した当初明細書等の記載事項は、「デューティ比を変更した場合における変圧器電流実行値のシミュレーション結果」又は「1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2との電圧比」のいずれか一方のみに基づいて「デューティ比」を求めるものであって、当該一方に加えて、他方にも基づくことが当初明細書等に記載又は示唆されておらず、かつ、そのことが、本願出願時における技術常識であるともいえない。
また、上記3.(1)アで説示した当初明細書等の記載事項は、1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2とを所定の電圧とし、デューティ比を変更した場合における2次側電流Idc2のシミュレーションの結果についてのものであって、「デューティ比に対する前記変圧器に流れる電流実効値のシミュレーション結果」に対応したものではない。
加えて、当初明細書等の段落0054には、「シミュレーション結果より、付加する第1デューティ比D1が0.66の時には、回路モード(A)~(F)に従来の制御方法のパターンが全く発生しなくなり、回路内を循環する電流が理論上0Aとなることが分かる。」と記載されているところ、上記段落0054の記載は、「デューティ比を変更した場合における変圧器電流実行値のシミュレーション結果」により、「第1デューティ比D1を0.66」とすれば、「回路内を循環する電流が理論上0Aとなること」が「分かる」という事項を示すにすぎず、他方、当初明細書等には、「前記制御部」(特に「デューティ比算出部46」)が「シミュレーション結果」と「1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2との電圧比」とに基づいて「デューティ比」を求めるように構成されていることについて記載も示唆もない以上、上記段落0054の記載から直ちに、「制御部」が、「シミュレーション結果」と「1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2との電圧比」とに基づいて「デューティ比」を求めるとの構成を導き出すことはできない。
また、「制御部」が、「デューティ比に対する前記変圧器に流れる電流実効値のシミュレーション結果」と、「前記1次側電圧と前記2次側電圧との電圧比」との両方に基づき「前記デューティ比」を求めることは本願出願時の技術常識であるともいえないから、本願出願時の技術常識を参酌しても、「制御部」が「デューティ比に対する前記変圧器に流れる電流実効値のシミュレーション結果」と、「前記1次側電圧と前記2次側電圧との電圧比」との両方に基づき「前記デューティ比」を求めることが当初明細書等に記載されているとはいえない。
したがって、補正事項1において、「前記制御部」が、「デューティ比に対する前記変圧器に流れる電流実効値のシミュレーション結果」と、「前記1次側電圧と前記2次側電圧との電圧比」との両方に基づき「前記デューティ比」を求めるとの事項は、当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内のものであるとはいえない。
5.補正事項2ないし6について
補正事項2ないし6は、「デューティ比に対する前記変圧器に流れる電流実効値のシミュレーション結果」と、「前記1次側電圧と前記2次側電圧との電圧比」とに基づき「前記デューティ比」を求めるとの事項を追加する補正を含むものであり、当該補正は、上記4と同様に、当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内のものであるとはいえない。
6.請求人の主張について
請求人は、令和6年3月8日に提出された審判請求書において、次の主張をしている。
「以上説明したように、実際の制御部では、1次側電圧と2次側電圧とがデューティ比算出部に入力され、図14に示すデューティ比に対する変圧器に流れる電流実効値のシミューション結果とに基づいて、本発明では、従来とは異なり、変圧器電流実効値を低下させるようにデューティ比算出部で例えばD1が1から0.6の値となるような制御が行われます。
このように、制御部の動作について、従来の制御方法との対比が、当初明細書の段落[0054]から[0057]の記載及び図12から図14のシミュレーション結果として記載されており、原審指摘の請求項1の「デューティ比に対する前記変圧器に流れる電流実効値のシミュレーション結果と、前記1次側電圧と前記2次側電圧との電圧比と、に基づき」において、「デューティ比に対する前記変圧器に流れる電流実効値のシミュレーション結果」は、段落[0057]の第1行から2行「図14は、本実施例1と従来の1次側デューティ比D1に対する変圧器電流実効値Itrans(rms)のシミュレーションの差異を示す図である。」との説明と図14に示すグラフから明瞭にサポートされており、十分理解できるものであります。」
上記審判請求書における請求人の主張について検討する。
請求人は、補正の根拠として、「図12から図14のシミュレーション結果」を挙げているところ、まず、当初明細書等の図12、13は、1次側デューティ比D1と2次側デューティ比D2とを、「D1=1.0、D2=1.0」及び「D1=0.9、D2=0.9」とし、位相差φを変更した場合の2次電流Ide2の変化(図12)、あるいは、位相差φを変更した場合の変圧器電流実行値の変化(図13)を表すシミュレーション結果であって、「前記1次側電圧と前記2次側電圧との電圧比」と、「デューティ比」及び「変圧器電流実行値」との関係を表すものとはいえない。
また、当初明細書等の図14は、1次側デューティ比D1を変更した場合の変圧器電流実行値の変化を表すシミュレーション結果であって、「前記1次側電圧と前記2次側電圧との電圧比」と、「デューティ比」及び「変圧器電流実行値」との関係を表すものとはいえない。
なお、当初明細書等の段落0032には、「1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2との電圧比が最大値のVdc1であるので、例えば、第1デューティ比D1=第2デューティ比D2=0.66を算出する。」との、「1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2との電圧比が最大値のVdc1」であるという特定の「電圧比」の場合に、「第1デューティ比D1=第2デューティ比D2=0.66」という特定の「デューティ比」を求めることが記載されており、また、同段落0057及び図14には、シミュレーション結果として「2次側デューティ比D2が1.0」との条件下で「1次側デューティ比D1が0.66の時に、変圧器電流実効値Itransが最小電流値となる。」ことが記載されているといえるところ、同段落0032に記載した事項と、同段落0057及び図14に記載した「シミュレーション結果」とでは、「2次側デューティ比D2」の値が異なるため、同段落0032に記載した事項が、同段落0057及び図14に記載した「シミュレーション結果」に基づいたものであるとはいえない。また、上述したように、段落0032の記載は、特定の「電圧比」の場合に、特定の「デューティ比」を一義的に算出するものであるところ、その算出において、さらに「シミュレーション結果」が介在する余地はない。
加えて、上記段落0054の記載から直ちに、「制御部」が、「シミュレーション結果」と「1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2との電圧比」とに基づいて「デューティ比」を求めるとの構成を導き出すことができないことは、上記4.で説示したとおりである。
そうすると、当初明細書の段落0032の記載を加味しても、当初明細書等には、「1次側電圧Vdc1と2次側電圧Vdc2との電圧比が最大値のVdc1であるときに、変圧器電流実効値を最小値となるように、デューティ比を制御する」こと等の「…電圧比」と、(シミュレーション結果である)「デューティ比」及び「変圧電流実行値」との関係が記載されているとはいえない。また、仮に同段落0032、0054等の記載から、当該関係が当業者によって理解できることであるとしても、当該関係に基づいた制御を行うことは、記載されているとはいえない。
よって、「前記制御部」が、「デューティ比に対する前記変圧器に流れる電流実効値のシミュレーション結果」と、「前記1次側電圧と前記2次側電圧との電圧比」との両方に基づき「前記デューティ比」を求めるとの事項は、当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内のものであるとはいえないため、上記請求人の主張は認められない。
7.小括
したがって、本件補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、当該補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものではない。
第4.むすび
以上のとおり、令和5年1月28日に提出された手続補正書でした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-004188