特許拒絶査定不服審判
2024-004092
強化バイオポリマー
- 審判番号
- 2024-004092
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-535909
- 請求日
- 2024年03月07日
- 審決日
- 2026年01月07日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダブリュ.エル.ゴア アンド アソシエイツ,インコーポレイティド
- 【請求人代理人】青木 篤
- 【請求人代理人】三橋 真二
- 【請求人代理人】鶴田 準一
- 【請求人代理人】南山 知広
- 【請求人代理人】渡辺 陽一
- 【請求人代理人】中村 和広
- 【請求人代理人】出野 知
- 審判長/審判官
- 審判長 淺野 美奈
- 審判官 井上 千弥子
- 審判官 田中 耕一郎
- 分類
- P18 .536-Z (A61L) / P18 .537-Z (A61L) / P18 .575-Z (A61L) / P18 .856-Z (A61L) / P18 .55 -Z (A61L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第36条第4項第1号、特許法第17条の2第5項第1号、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-535909「強化バイオポリマー」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 6月17日国際公開、WO2021/119460、令和 5年 2月15日国内公表、特表2023-506207〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)12月11日(パリ条約による優先権主張 2019年12月13日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和 5年 6月19日付け 拒絶理由通知
同年 9月25日提出 意見書及び手続補正書
同年10月30日付け 拒絶査定
令和 6年 3月 7日提出 審判請求書及び手続補正書
同年 4月30日付け 前置報告
第2 令和6年3月7日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年3月7日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1についての以下の補正を含むものである。
(1)本件補正後の請求項1の記載
本件補正により、請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線は、補正箇所を明示するために当審で付した。)。
「【請求項1】
i)合成支持膜及びii)バイオポリマー層を含む、強化バイオポリマーであって、前記強化バイオポリマーは、
a)少なくとも85%の測定光学透明度を有し、
b)100μm以下の厚さを有し、
c)少なくとも30KJ/m3の靭性を有し、
前記合成支持膜は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)及び膨張ポリエチレンのうちの少なくとも1つを含み、
前記合成支持膜は、0.5μm~76.2μmの厚さを有し、
前記バイオポリマー層は、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、エラスチン、トロンボスポンジン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、多糖類、アルギネート、キトサン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる材料を含み、
前記バイオポリマー層は、95μm以下の厚さを有する、
強化バイオポリマー。」
(2)本件補正前の請求項1の記載
本件補正前の、令和5年9月25日提出の手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
i)合成支持膜及びii)バイオポリマーを含む、強化バイオポリマーであって、前記強化バイオポリマーは、
a)少なくとも85%の測定光学透明度を有し、
b)100μm以下の厚さを有し、そして
c)少なくとも30KJ/m3の靭性を有する、
強化バイオポリマー。」
2 本件補正の適否について
(1)補正事項
請求項1についての本件補正は、強化バイオポリマーに含まれる「合成支持膜」について、「0.5μm~76.2μmの厚さ」を有するものに限定する特定(補正事項1)を含むものである。
(2)本願の国際出願日における国際特許出願の明細書の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(以下、翻訳文等という。)の記載
翻訳文等には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
i)合成支持膜及びii)バイオポリマーを含む、強化バイオポリマーであって、前記強化バイオポリマーは、
a)少なくとも85%の測定光学透明度を有し、
b)約100μm以下の厚さを有し、そして
c)少なくとも30KJ/m3の靭性を有する、
強化バイオポリマー。
・・・
【請求項5】
前記バイオポリマーの層は前記支持膜の各側に存在し、前記支持膜は、前記バイオポリマーの2つの層の間のほぼ中央に配置されている、請求項1~4のいずれか1項記載の強化バイオポリマー。
・・・
【請求項12】
前記合成支持膜は、約0.5μm~約10μmの厚さを有する、請求項1~11のいずれか1項記載の強化バイオポリマー。」
イ 「【背景技術】
【0002】
背景
細胞移植は、組織を再生及び修復し、疾患及び障害を治療するための重要な可能性を保持している。目的の標的又はその近くに浮遊状態で移植された細胞は、標的組織に付着して統合する可能性がある。しかしながら、多くの要因が標的組織への取り込み速度に影響を与える可能性があり、細胞は目的の標的に効果的に付着しない可能性がある。バイオポリマー足場は、細胞を目的の標的に保持する手段を提供し、移植された細胞の標的組織への取り込み速度を高めることができる。
【0003】
ポリマー足場でのインビトロ細胞培養は、組織形成及び細胞移植のための方策を提供する。特定の細胞株はポリマー足場に播種される。ポリマー足場は、良好な生体適合性、制御可能な生分解性、適切な引張強度及び可撓性を提供すべきである。コラーゲンは、しばしばバイオポリマー足場として使用されてきたが、バイオポリマーに必要な引張強度を与えるためにコラーゲンの広範な架橋がしばしば要求され、その結果、可撓性が低下し、細胞培養及び移植の両方で操作が困難になる。さらに、そのようなバイオポリマー足場は、一般に、曇っており、眼へのインプラント処置には不適切である。
【発明の概要】
【0004】
要旨
1つの例(「例1」)によれば、本明細書で提供されるのは、i)合成支持膜及びii)バイオポリマーを含む、強化バイオポリマーであって、前記強化バイオポリマーは、a)少なくとも85%の測定光学透明度を有し、b)約100μm以下の厚さを有し、そしてc)少なくとも30KJ/m3の靭性を有する、強化バイオポリマーである。
ウ 「【0012】
別の例(「例9」)によれば、例1~8のいずれか1つに加えて、前記合成支持膜は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)及び膨張(膨張、エキスパンデッド、延伸又は発泡)ポリエチレンのうちの少なくとも1つを含む。
【0013】
別の例(「例10」)によれば、例1~9のいずれか1つに加えて、前記合成支持膜は、結晶化度が少なくとも94%でありそして長手方向及び横断方向の両方のマトリックス引張強度が少なくとも約600MPaである、二軸配向ePTFE膜である。」
エ 「【0015】
別の例(「例12」)によれば、例1~11のいずれか1つに加えて、前記合成支持膜は、約0.5μm~約10μmの厚さを有する。」
オ 「【0037】
特定の実施形態において、合成支持膜102は生物学的に不活性である。合成支持膜102は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)及び膨張ポリエチレンのうちの少なくとも1つを含むことができる。幾つかの実施形態において、合成支持膜102は、ePTFEを含む。」
カ 「【0041】
強化バイオポリマーの合成支持膜は、約0.5μm~約10μmの厚さを有することができる。特定の実施形態において、合成支持膜は、約0.5μm、約1μm、約1.5μm、約2μm、約2.5μm、約3μm、約3.5μm、約4μm、約4.5μm、約5μm、約5.5μm、約6μm、約6.5μm、約7μm、約7.5μ、約8μm、約8.5μm、約9μm、約9.5μm又は約10μmの厚さを有する。以下で詳細に記載されるように、特定の例において、湿潤プロセスにより、合成支持膜が「崩壊」し、膜の厚さが減少することができる。上記の厚さは、湿潤後の複合強化バイオポリマーに見られる「崩潰した」合成支持膜を指す。」
キ 「【0042】
特定の実施形態において、バイオポリマーは、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、エラスチン、トロンボスポンジン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、多糖類、アルギネート、キトサン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、又はこれらのいずれか2つ以上の組み合わせを含む。特定の実施形態において、バイオポリマーはコラーゲンを含む。これらの構成要素の多くは、様々な形式で又は様々なタイプとして存在することができる。例えば、コラーゲンの多くの様々なタイプ(例えば、タイプI、II、IIIなど)及びゼラチン(例えば、タイプA、タイプB)がある。さらに、これらの構成要素は様々な供給源に由来することができる。任意の供給源に由来する任意のタイプ又は形態が、本明細書に記載のバイオポリマーに含まれうることが考えられる。
【0043】
幾つかの実施形態において、バイオポリマーはまた、例えば、コーティング又は吸収助剤、粘度調整剤、密度調整剤又はバイオポリマー架橋剤などの1つ以上の添加剤を含む。
【0044】
合成支持膜の片側に存在する単一のバイオポリマー層は、約0μm~約95μmの厚さを有することができる。幾つかの実施形態において、バイオポリマーは、合成支持膜の片側で合成支持膜中に完全に吸収され、したがって、バイオポリマー層は、約0μmの厚さを有する。」
ク 「【0053】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載の強化バイオポリマーは、少なくとも約30KJ/m3の靭性を有する。合成支持膜の靭性はバイオポリマー層の靭性よりも数桁大きいため、たとえ架橋されていても、合成支持膜の靭性は強化バイオポリマーの靭性に近似している。強化バイオポリマーの靭性へのバイオポリマーの寄与は無視することができる。
【0054】
本明細書に記載の強化バイオポリマーの合成支持膜-バイオポリマー複合構造は、細胞培養手順及びインビボインプラント処置の両方の間の取り扱い及び操作に耐えるのに十分な引張強度及び靭性を有するバイオポリマーをもたらす。操作及びインプラント処置に耐えるのに十分な引張強度を達成するために広範な架橋を必要とするバイオポリマーのみから構成される基材とは異なり、記載の強化バイオポリマーは、バイオポリマー層をさらに操作する(例えば、架橋する)必要性を最小限に抑えながら、可撓性及び強靭である。」
ケ 「【0065】
引張強度及び靭性
強化バイオポリマーの引張特性に近似する合成支持膜の引張特性は、ASTM D412-ドッグボーンFに従って決定される。ピーク引張荷重、引張荷重及び靭性(すなわち、ピーク引張荷重までの曲線下面積))は、それぞれ標準試験データから計算できる。」
コ 「【実施例】
【0067】
例
タイプAゼラチンを用いて10%ゼラチン溶液を調製した。3ミル(厚さ76.2μm)のePTFE膜をテーブル上に置き、固定した。次に、膜を親水的に処理し、乾燥させた。乾燥した親水的に処理された膜をフープに取り付けた。過剰のゼラチン溶液をピペットで膜上に移し、RDS15メイヤーバーを使用してドローダウン手順を実行して、膜上にゼラチンの層を形成した。この手順では、ゼラチン溶液のライン(過剰)を膜の上端に横切って配置し、メイヤーバーでドローダウンした。膜を動かさないように注意した。膜はすぐにゼラチンで湿潤した。次に、形成された強化バイオポリマー複合材料を乾燥させた。複合材料は、剥がしやすいように、場合により再湿潤させた。ゼラチン層の厚さは、様々なドローダウンバーを使用して制御できる。ゼラチン層を有する膜を乾燥させ、親水的に処理した。次に、乾燥して処理した膜を。
【0068】
ゼラチン層のゼラチンを、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド-N-ヒドロキシスクシンイミド(EDC-NHS)架橋手順を使用して架橋した(例えば、Kuijpersら(2000), Journal of Biomaterials Science, Polymer Edition、11(3):225-243)。EDC/NHSの濃度を、5%~「100%」の架橋を生成するように変更した(立体障害を考慮して最大に官能基架橋された)。強化バイオポリマーのゼラチン質量を測定し、ゼラチンの量を使用して、カルボン酸残基を活性化するために必要なEDCの量を計算した。NHS(モル比NHS/EDC=0.2)を含む2.5%w/vのEDC溶液を調製した。MESバッファー(0.05M、pH5.3)を使用してePTFE-ゼラチン複合材料を浸漬し、ゼラチンの濃度を1g/50mlにした。この体積から必要量のEDC/NHS溶液を差し引き、必要量のEDC/NHS溶液を加えた。次の式は、計算を示す。
【数1】
[図:0001435558000001.jpg]
上式中、xは望ましいカルボン酸残基の活性化の程度である。ゼラチン100gあたり79mmLのCOO-は、平均78~80ミリモルに基づいて、ゼラチンタイプAにのみ当てはまることに注意されたい。
【数2】
[図:0001435558000002.jpg]
【0069】
強化バイオポリマーを、冷蔵庫で16時間インキュベートし、その後に、クエンチング溶液中で2時間クエンチングした。強化バイオポリマーを、溶液の置換及び攪拌を含めて、脱イオン水で4時間洗浄し、反応副産物の除去を確実にした。
【0070】
次に、強化バイオポリマーを、24ウェルプレートに配置されたPTFEリングに取り付けた。細胞培養物をサンプルに播種するまで、強化バイオポリマーを水和状態に維持した。」
(3)判断
翻訳文等には、強化バイオポリマーに含まれる「合成支持膜」の厚さを「約0.5μm~約10μm」とすることは記載されている(上記(2)ア、エ、カ)ものの、強化バイオポリマーに含まれる「合成支持膜」の厚さの上限が「76.2μm」であることは記載されていない。
また、翻訳文等の実施例には、「3ミル(厚さ76.2μm)のePTFE膜」に対して、浸水処理や乾燥工程を行った後、ゼラチン層を形成し、さらに湿潤、乾燥、再湿潤、浸水処理、架橋、クエンチングを含む工程によって、強化バイオポリマーを製造することができることが記載されている(上記(2)コ)ところ、翻訳文等には、「ePTFE膜」は強化バイオポリマーに含まれる「合成支持膜」に相当すること(上記(2)ウ、オ)、及び、合成支持膜は湿潤プロセスにより「崩壊」して膜の厚さが減少する旨が記載されている(上記(2)カ)。
そうすると、翻訳文等の実施例には、湿潤を含む工程(湿潤プロセス)によって、厚さが「3ミル(厚さ76.2μm)」から減少したePTFE膜を含む強化バイオポリマーが記載されているといえるものの、強化バイオポリマーに含まれる「合成支持膜」の厚さの上限が「76.2μm」であることが記載されているとはいえない。
また、翻訳文等に記載された強化バイオポリマーに含まれる「合成支持膜」の厚さの上限が「76.2μm」であることが当業者に自明であるともいえない。
したがって、「合成支持膜」の厚さの上限を「76.2μm」とする補正事項1を含む本件補正後の特許請求の範囲は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項が導入されたものであることは明らかである。
以上のとおりであるから、補正事項1を含む本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものである。
(4)請求人の主張について
請求人は審判請求書において、「1)補正の根拠の明示
請求項1中の記載「バイオポリマー」を、記載『バイオポリマー層・・・前記合成支持膜は、0.5μm~76.2μmの厚さを有し、・・・前記バイオポリマー層は95μm以下の厚さを有し、』に限定し、さらに原請求項2、9中の記載を請求項1に取り込んでこれらの請求項を削除する補正を行った。
補正の根拠は出願当初明細書中段落[0044]中の記載「合成支持膜の片側に存在する単一のバイオポリマー層は、約0μm~約95μmの厚さを有することができる。」、同[0067]中の記載「・・・3ミル(厚さ76.2μm)のePTFE膜をテーブル上に置き、・・・」である。
上記補正は、なんら新規事項を追加するものではなく、特許法第17条の2第5項第1号および第2号に規定の要件を満たすものである。」と主張している。
しかしながら、請求人が根拠とする翻訳文等の【0044】の記載は、バイオポリマー層の厚さに関する記載であって、合成支持膜の厚さに関する記載ではないし、同【0067】の「3ミル(厚さ76.2μm)のePTFE膜」という記載が強化バイオポリマーに含まれる「合成支持膜」の厚さを意味するものではないことは、上記(3)アで説示したとおりである。
したがって、請求人の主張は採用することができない。
3 予備的検討(独立特許要件)
上記2(3)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものであるが、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、予備的に検討する。
(1)本件補正発明について
本件補正発明は、上記1(1)に示したとおりのものである。
(2)翻訳文等の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)の記載について
発明の詳細な説明に記載された事項は、上記2(2)に示したとおりのものである。
(3)実施可能要件についての判断
ア 実施可能要件の規範
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきものと解される。
この観点で発明の詳細な説明を検討すると、本件補正発明は「強化バイオポリマー」という物の発明であるから、本件補正発明が実施可能要件に適合するためには、発明の詳細な説明において、
「i)合成支持膜及びii)バイオポリマー層を含む、強化バイオポリマー」であって、合成支持膜が「延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)及び膨張ポリエチレンのうちの少なくとも1つを含み、」「0.5μm~76.2μmの厚さを有し、」バイオポリマー層が「コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、エラスチン、トロンボスポンジン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、多糖類、アルギネート、キトサン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる材料を含み、」「95μm以下の厚さを有する」ことで、本件補正発明の「a)少なくとも85%の測定光学透明度を有し、
b)100μm以下の厚さを有し、
c)少なくとも30KJ/m3の靭性を有」する「強化バイオポリマー」を製造できると当業者が理解できる程度の記載がなされている必要があるといえる。
以下、この点を踏まえて検討する。
イ 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明に記載された事項は、上記2(2)に示したとおりのものである。
ウ 実施可能要件についての当審の判断
本件補正発明の強化バイオポリマーは、「少なくとも85%の測定光学透明度」、「100μm以下の厚さ」及び「少なくとも30KJ/m3の靭性」を有するものである。
発明の詳細な説明には、本件補正発明の強化バイオポリマーが、細胞培養手順及びインビボインプラント処置の両方の間の取り扱い及び操作に耐えるのに十分な靭性を有するものであるといった一般的な事項(上記2(2)ク)及び強化バイオポリマーの靭性の計算方法(上記2(2)ケ)は記載されているものの、「少なくとも30KJ/m3の靭性」を有する強化バイオポリマーが得られたことを裏付ける具体的な記載は見あたらない。
また、発明の詳細な説明の実施例には、「3ミル(厚さ76.2μm)のePTFE膜」に対して、浸水処理や乾燥工程を行った後、ゼラチン層を形成し、さらに湿潤、乾燥、再湿潤、浸水処理、架橋、クエンチングを含む工程によって、強化バイオポリマーを製造することができる旨が記載されている(上記2(2)コ)ものの、得られた強化バイオポリマーの透明度、厚さ及び靭性は記載されておらず、実施例の製造方法によって得られた強化バイオポリマーが「少なくとも85%の測定光学透明度」、「100μm以下の厚さ」及び「少なくとも30KJ/m3の靭性」を有することが当業者に自明の技術的事項であったともいえない。
そうすると、当業者は、発明の詳細な説明の記載から、本件補正発明の「少なくとも85%の測定光学透明度」、「100μm以下の厚さ」及び「少なくとも30KJ/m3の靭性」を有する強化バイオポリマーを製造できることを理解できるとはいえない。
そして、強化バイオポリマーの靭性は、合成支持膜の靭性と近似しているものである(上記2(2)ク)ところ、合成支持膜の靭性といった物性は、これを構成するポリマーの種類や配合量だけでなく合成支持膜の製造工程によって大きく変動するものであることが当業界の技術常識である。
そうすると、発明の詳細な説明において、合成支持膜を構成するポリマーが「延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)及び膨張ポリエチレンの少なくとも1つを含む」ものであること(上記2(2)オ)や、「3ミル(厚さ76.2μm)のePTFE膜」に対して、浸水処理や乾燥工程を行った後、ゼラチン層を形成し、さらに湿潤、乾燥、再湿潤、浸水処理、架橋、クエンチングを含む工程によって強化バイオポリマーを製造することができること(上記2(2)コ)が開示されていたとしても、本件補正発明の「少なくとも85%の測定光学透明度」、「100μm以下の厚さ」及び「少なくとも30KJ/m3の靭性」を有する強化バイオポリマーを当業者が製造するためには、「延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)及び膨張ポリエチレン」を組み合わせる際の配合量の選択と、合成支持膜の製造条件の変更を繰り返し検討して、得られた合成支持膜の靭性を確認するといった、当業者といえども過度の試行錯誤が必要であるといえる。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件補正発明の強化バイオポリマーを製造することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(4)サポート要件についての判断
ア サポート要件の規範
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
以下、この点を踏まえて検討する。
イ 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明に記載された事項は、上記2(2)に示したとおりのものである。
ウ 本件補正発明が解決しようとする課題
発明の詳細な説明の記載からみて、本件補正発明が解決しようとする課題(以下「本願発明の課題」という。)は、細胞を目的の標的に保持し、移植された細胞の標的組織への取り込み速度を高めることができる、良好な生体適合性、制御可能な生分解性、適切な引張強度及び可撓性を有するバイオポリマー足場である、i)合成支持膜及びii)バイオポリマーを含む、強化バイオポリマーであって、前記強化バイオポリマーは、a)少なくとも85%の測定光学透明度を有し、b)約100μm以下の厚さを有し、そしてc)少なくとも30KJ/m3の靭性を有する、強化バイオポリマーを提供することにあると認める(上記2(2)イ)。
エ サポート要件についての当審の判断
本件補正発明の強化バイオポリマーは、「少なくとも85%の測定光学透明度」、「100μm以下の厚さ」及び「少なくとも30KJ/m3の靭性」を有するものであるる。
上記(3)ウで説示したように、発明の詳細な説明には、「少なくとも85%の測定光学透明度」、「100μm以下の厚さ」及び「少なくとも30KJ/m3の靭性」を有する強化バイオポリマーが得られたことを裏付ける具体的な記載は見あたらないし、実施例をみても製造された強化バイオポリマーの透明度、厚さ及び靭性が記載されておらず、実施例の製造方法によって得られた強化バイオポリマーが「少なくとも85%の測定光学透明度」、「100μm以下の厚さ」及び「少なくとも30KJ/m3の靭性」を有することが当業者に自明の技術的事項であったともいえない。
そうすると、当業者は、発明の詳細な説明には、本件補正発明の「少なくとも85%の測定光学透明度」、「100μm以下の厚さ」及び「少なくとも30KJ/m3の靭性」を有する強化バイオポリマーを実際に得られたことが記載されていると認識できるとはいえない。
したがって、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できるとはいえないし、発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できるともいえない。
(5)請求人の主張について
請求人は審判請求書において、「3)拒絶理由2(明確性)、理由4(実施可能要件)、理由5(サポート要件)について
・・・
3)強化バイオポリマーの透明度、厚さ、靭性の測定値などのその他の審査官殿ご指摘の点について以下説明する。
・・・
靭性についても、本願請求項は、強化バイオポリマーがc)少なくとも30KJ/m3の靭性を有すること(請求項1)を規定しており、本願明細書は、靭性について段落[0053]に、靭性の測定の、規格、形状、測定条件などについて段落[0065]、段落[0067]~[0070]の実施例に記載のように、靭性は本願請求項および明細書中の記載に沿った固有のものとなる。
以上の説明から、審査官殿ご指摘の点については解消したものと思料する。
よって本拒絶理由は解消したものと思料する。」と主張している。
しかしながら、請求人が根拠とする発明の詳細な説明の【0053】及び【0065】は、靭性の値や靭性の測定方法について一般的に記載するにとどまるものである。また、同【0067】~【0070】の実施例は、「3ミル(厚さ76.2μm)のePTFE膜」に対して、浸水処理や乾燥工程を行った後、ゼラチン層を形成し、さらに湿潤、乾燥、再湿潤、浸水処理、架橋、クエンチングを含む工程によって強化バイオポリマーを製造することを開示するものであるが、この工程によって製造された強化バイオポリマーの透明度、厚さ及び靭性を具体的に開示するものではない。
そして、当業者は、発明の詳細な説明をみても、本件補正発明の「少なくとも85%の測定光学透明度」、「100μm以下の厚さ」及び「少なくとも30KJ/m3の靭性」を有する強化バイオポリマーが製造できることを理解できるとはいえないことは、上記(3)ウ及び(4)エで説示したとおりである。
したがって、請求人の主張は採用することができない。
(6)予備的検討のまとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明の記載は、本件補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、また、本件補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、本件補正発明は、特許法第36条第4項第1号及び同法第36条第6項第1号の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
4 補正の却下の決定についてのむすび
本件補正は、上記2(3)で説示したように、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また仮に、本件補正が、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしており、かつ、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求に範囲の減縮を目的とするものであるとしても、本件補正発明は、上記3(6)のとおり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(2)で示した、令和5年9月25日提出の手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
i)合成支持膜及びii)バイオポリマーを含む、強化バイオポリマーであって、前記強化バイオポリマーは、
a)少なくとも85%の測定光学透明度を有し、
b)100μm以下の厚さを有し、そして
c)少なくとも30KJ/m3の靭性を有する、
強化バイオポリマー。」
2 原査定の拒絶の理由の概略
原査定の拒絶の理由は、概ね以下に示すように、本願発明は、特許法第36条第4項第1号及び同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない、という理由(理由4及び理由5)を含むものである。
本願発明は、合成支持膜及びバイオポリマーを含み、「少なくとも85%の測定光学透明度」、「100μm以下の厚さ」及び「少なくとも30KJ/m3の靭性」を有する強化バイオポリマーに係るものであるところ、合成支持膜及びバイオポリマーの材質や形態が特定されていない。一方、本願明細書には、厚さ76.2μmのePTFE膜を親水的に処理し、乾燥させた後、タイプAゼラチン層を形成することで、「強化バイオポリマー」を作製したことが記載されているが、当該「強化バイオポリマー」の透明度、厚さ及び靭性の測定値は示されていないから、本願発明の「強化バイオポリマー」を作製するためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要するものであるし、本願発明の「強化バイオポリマー」は、発明の詳細な説明に記載されたものともいえない。
3 判断
本願発明の強化バイオポリマーは、「少なくとも85%の測定光学透明度」、「100μm以下の厚さ」及び「少なくとも30KJ/m3の靭性」を有するという、本件補正発明と同じ発明特定事項を有するものである。
そうすると、原査定の拒絶の理由(理由4及び理由5)についての判断は、上記第2の3で説示した、本件補正発明の独立特許要件についての判断と同旨である。
よって、発明の詳細な説明の記載は、本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、また、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、本願発明は、特許法第36条第4項第1号及び同法第36条第6項第1号に規定する要件に違反するものである。
第4 むすび
以上のとおり、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、特許法第36条第4項第1号及び同法第36条第6項第1号に規定する要件に違反するものであるから、特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-004092