特許無効審判
2023-800068
マルチタッチ端末のためのタッチ制御方法及び装置
- 審判番号
- 2023-800068
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2014-229328
- 登録番号
- 6033824
- 請求日
- 2023年10月27日
- 審決日
- 2025年04月14日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】小島 優太
- 【請求人代理人】高久 由紀子
- 【被請求人】上海逗屋▲網▼絡科技有限公司
- 審判長/審判官
- 審判長 山澤 宏
- 審判官 村松 貴士
- 審判官 篠塚 隆
- 分類
- P1113.121-Y (G06F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6033824号発明「マルチタッチ端末のためのタッチ制御方法及び装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨
特許第6033824号の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。
第2 手続の経緯
本件特許6033824号(以下、「本件特許」という。)は、平成26年11月11日(パリ条約による優先権主張2014年7月25日、中華人民共和国)の出願であって、平成28年11月4日にその発明について特許権の設定登録がなされたものであるが、本件特許権は、令和2年11月4日に特許料の未納により、消滅している。
これに対して、令和5年10月27日に本件無効審判が請求された。
被請求人は在外者であるので、本件特許の設定登録時の特許管理人であった弁理士の佐藤武幸氏に、特許管理人として受任するか否かを令和5年11月6日に確認したところ、同年同月10日に受任しないとの回答があった。
請求書副本は、令和6年1月19日、同年4月18日及び同年5月29日の3回、被請求人あてに郵送されたが送達されず、公示送達に付され(官報掲載 令和6年9月20日)、同年10月10日に送達の効力が発生した。
これに対して、被請求人から何ら応答がなかった。
第3 本件特許発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。)は、それぞれ本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。
なお、各請求項において、「A」~「I」、「a」~「i」として付された記号は、各請求項において特定される事項を識別するために当審で付加したものであり、以下、それぞれの記号が付される特定事項を、「構成要件A」~「構成要件I」などという。
本件特許発明1:
A.表示部にタッチパネルを備えたマルチタッチ端末のタッチ制御方法であって、
B.ユーザが前記タッチパネル上の第1のタッチボタンに対する第1の操作をするか否かの操作情報及び第2のタッチボタンに対する第2の操作をするか否かの操作情報を第1の装置が取得し
C.前記第1の操作と前記第2の操作は単独の操作対象を操作し、前記第1の操作と前記第2の操作はシーケンシャルに少なくとも部分的に重なって実行され、前記操作対象への第1の操作の実行後に、前記操作対象への操作に対応する後続の操作を実行することをさらに含み、
D.前記第1の装置は
前記ユーザがタッチパネル上に設定されたターゲット制御領域をタッチするか否かを検出し、前記ターゲット制御領域にタッチした場合には、前記第1のタッチボタンを表示し、又は連続的に前記第2のタッチボタンを表示し、
E.前記ターゲット制御領域をタッチしない場合には前記第1のタッチボタン又は前記第2のタッチボタンを表示せず、
F.前記第1の操作は前記第1のタッチボタンを長く押してドラッグする操作により前記操作対象の移動を制御し、
G.前記第2の操作は前記操作対象が実行可能な動作を選択する操作作用領域を前記操作対象の現在位置に基づいて調整し、かつ調整前の前記操作作用領域と調整後の前記操作作用領域を同時に表示し、
H.更に前記タッチパネル上の空き領域をクリックして長く押して上にスライドさせる操作により前記操作対象の前記操作作用領域での選択内容が実行されるターゲットの領域である操作作用ターゲット領域を調整し、
I. 前記第1のタッチボタン及び第2のタッチボタンの前記タッチパネル上での位置は、
前記タッチパネルのサイズと、
ユーザによる前記マルチタッチ端末の保持状態と、
ユーザの選択により他のアプリケーションがタッチパネル上に同時に表示されたときは前記第1のタッチボタン及び第2のタッチボタンを前記他のアプリケーションを表示していない画面上であること
のうちの少なくとも一つにマッチングさせることを含む制御方法。
本件特許発明2:
a.表示部にタッチパネルを備えたマルチタッチ端末のタッチ制御装置であって、
b.ユーザが前記タッチパネル上の第1のタッチボタンに対する第1の操作をするか否か及び第2のタッチボタンに対する第2の操作をするか否かの操作情報を取得する第1の装置と、
c.前記第1の操作と前記第2の操作は単独の操作対象を操作し、前記第1の操作と前記第2の操作はシーケンシャルに少なくとも部分的に重なって実行され、前記操作対象への第1の操作の実行後に、前記操作対象への操作に対応する後続の操作を実行することをさらに含み、
d.前記第1の装置は
前記ユーザがタッチパネル上に設定されたターゲット制御領域をタッチするか否かを検出し、前記ターゲット制御領域にタッチした場合には、前記第1のタッチボタンを表示し、又は連続的に前記第2のタッチボタンを表示させ、
e.前記ターゲット制御領域をタッチしない場合には前記第1のタッチボタン又は前記第2のタッチボタンを表示せず、
f.前記第1の操作は前記第1のタッチボタンを長く押してドラッグする操作により前記操作対象の移動を制御し、
g.前記第2の操作は前記操作対象が実行可能な動作を選択する領域である操作作用領域を前記操作対象の現在位置に基づいて調整し、かつ調整前の前記操作作用領域と調整後の 前記操作作用領域を同時に表示し、
h.更に前記タッチパネル上の空き領域をクリックして長く押して上にスライドさせる操作により前記操作対象の前記操作作用領域での選択内容が実行されるターゲットの領域である操作作用ターゲット領域を調整し、
i. 前記第1のタッチボタン及び第2のタッチボタンの前記タッチパネル上での位置は、
前記タッチパネルのサイズと、
ユーザによる前記マルチタッチ端末の保持状態と、
ユーザの選択により他のアプリケーションがタッチパネル上に同時に表示されたときは前記第1のタッチボタン及び第2のタッチボタンを前記他のアプリケーションを表示していない画面上であること
のうちの少なくとも一つにマッチングさせることを含む制御装置。
第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
特許第6033824号の請求項1及び2に係る特許発明は、甲第1号証~甲第4号証に記載された発明に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
2 証拠方法
甲第1号証:「A Guide To iOS Twin Stick Shooter Usability (gamedeveloper.com)」
https://www.gamedeveloper.com/design/a-guide-to-ios-twin-stick-shooter-usability#close-modal
甲第2号証:「IPhone AC番外レポート:Geometry wars:Touch」
http://iphoneac-blog.com/archives/3633082.html
甲第3号証:「バーチャルパッド(アナログスティック)【cocos2d】-(:3[kanのメモ帳」
https://kan-kikuchi.hatenablog.com/entry/2013/12/09/909009
甲第4号証:特表2012-503241公報
以降、「甲第1号証」ないし「甲第4号証」を、「甲1」ないし「甲4」などと省略して記載する場合がある。
第5 被請求人の主張及び証拠方法
上記第2のとおり、請求書副本の公示送達に対して被請求人からの応答はなく、被請求人は答弁書を提出していない。
第6 当審の判断
1 甲1に記載された事項及び甲1発明
(1)甲1に記載された事項
甲1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)
ア 「
[図:0001427368000001.jpg]
」(第2頁の図面)
(請求人による図面中の用語の訳)
「移動 射撃」
イ 「Twin stick shooters are a genre of game which use two controls, typically operated by the thumbs. One control dictates the character's movement, the other the direction of shooting.
Importantly, these can be operated independently, i.e. it's possible to move in one direction, and shoot in another.」(第2頁第2行~第6行)
(請求人による訳)
「ツイン スティック シューティングとは、2つのコントローラーを使用するゲームのジャンルで、通常は親指で操作されます。1つのコントローラーはキャラクターの動きを決定し、もう1つのコントローラーは射撃の方向を決定します。
重要なのはこれらが独立して操作できることです。つまり、キャラクターは一定の方向に移動しつつ、同時に別の方向に向けて射撃することが可能となります。」
ウ 「Terminology
No standard definitions exist to describe the interactions we're about to introduce, so we'll try to keep them as descriptive as possible.
Most of the terminology will be defined when we introduce the four components, however they all have one feature in common, the virtual joystick region (VJR hereafter).
Within this region, thumb contact is registered as control input, if the player's thumb touches the screen outside of this area, it is not registered as player input.」(第4頁第5行~第13行)
(請求人よる訳)
「専門用語
これから紹介するコンポーネントを説明する標準的な定義は存在しないため、できる限り説明します。
用語のほとんどは4つのコンポーネントを紹介するときに定義されますが、それらにはすべて、仮想ジョイスティック範囲(以下、VJR)という共通の機能があります。
この範囲内では、親指の接触はコントロール入力として認識されますが、プレーヤーの親指がこの範囲の外で画面に触れた場合はプレーヤーの入力として認識されません。」
エ 「Dynamic Controls. This approach centers the controls at the point where the player touches the screen, i.e. the controls can change spatial location depending on where the player's thumb makes contact.
Crucially, however, there is one important factor in how dynamic controls are implemented, which brings us on to the second component.」(第7頁第1行~第5行)
(請求人による訳)
「動的コントロ-ルについて このアプローチは、プレイヤーがスクリーンに触れたポイントを中心にコントロールを設定します。つまり、プレイヤーの親指が接触する場所にコントロールの空間的な位置を変えることができます。
しかし、ダイナミック・コントロールの実装方法には、1つの重要な要素があります。」
オ 「
[図:0001427368000002.jpg]
Dynamic controls - controls center where the player taps.」(第7頁の図面)
(請求人による図面説明の訳)
「ダイナミックコントロール-プレイヤーが触れた場所を中心にコントロールする。」
カ 「Step 2 - thumb release
This step is the key difference, and benefit to this approach. When the player lifts their thumb, the VJR is hidden from view (not drawn).」(第11頁第6行~第8行)
(請求人による訳)
「ステップ2-親指を離す
このステップが主な違いであり、このアプローチの利点でもあります。プレイヤーが親指を上げると、VJRは表示されなくなります(描画されません)。」
キ 「
[図:0001427368000003.jpg]
」(第11頁の下の図面)
(請求人による図面説明の訳)
「画面から親指を離すと、VJRが非表示になります。」
ク 「Component 3: Active Outside of the VJR
For dynamic controls, when the player initially touches the screen, the VJR is typically drawn as a circle centered around the point of contact (there are exceptions; we'll come to those later).
The player can then make a sliding gesture to direct movement (or shoot) in the desired direction.
However, as long as the player does not lift their finger off the screen, it is common in most (but not all) games to be able to continue to use the controls outside of the VJR.
This means that the controls will continue to work until the player's finger is lifted, e.g. dragging left will move their character left etc, however when lifted, they will have to start again by touching within the VJR.」(第12頁第4行~第13頁第9行)
(請求人による訳)
「コンポーネント3:VJRの範囲外のアクティブ
ダイナミック・コントロールの場合、プレイヤーが最初に画面に触れたとき、VJRは通常、接触点を中心とした円として描画されます(例外もあります。)
プレイヤーは、スライドジェスチャーを行うことで、希望の方向に移動(または射撃)を指示することができる。
ただし、プレイヤーが画面から指を離さない限り、VJRの範囲外でもコントロールを使用し続けることができるのが、ほとんどのゲーム(すべてではありません)で一般的です。
つまり、プレイヤーの指が離されるまで、操作は継続されます。例えば、左にドラッグするとキャラクターは左に移動します。しかし、指が離されると、VJR内を触れてやり直す必要があります。」
(2)甲1発明
上記(1)の記載事項ア~クから、甲1には、次の事項が記載されているといえる。
ア 上記(1)イ及びウより、「プレイヤーは、タッチパネル上の2つのコントローラーを、各々独立して操作でき、一方のコントローラーは、キャラクターを一定の方向に移動させつつ、他方のコントローラーは、射撃することを可能にすること」
イ 上記(1)エ及びカより、「動的コントロールでは、プレイヤーの親指が、タッチパネルに接触すると、その場所にコントローラーを仮想ジョイスティック範囲(VJR)として表示し、プレイヤーの親指が、タッチパネルから離れると、VJRは表示されなくなること」
ウ 上記(1)クより、「プレイヤーは、スライドジェスチャーを行うことで、希望の方向に、キャラクターの移動又は射撃を指示することができること」
エ 以上、上記ア~ウから、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「プレイヤーは、タッチパネル上の2つのコントローラーを、各々独立して操作でき、
一方のコントローラーは、キャラクターを一定の方向に移動させつつ、他方のコントローラーは、射撃することを可能にし、
動的コントロールでは、プレイヤーの親指が、タッチパネルに接触すると、その場所にコントローラーを仮想ジョイスティック範囲(VJR)として表示し、プレイヤーの親指が、タッチパネルから離れると、VJRは表示されなくなり、
プレイヤーは、スライドジェスチャーを行うことで、希望の方向に、キャラクターの移動又は射撃を指示することができる、動的コントロール方法。」
2 甲2~4に記載された事項
(1)甲2に記載された事項
甲2には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「
[図:0001427368000004.jpg]
」(第1頁の図面)
イ 「画面左下のコントロールサークルで自機を移動、画面右下のサークルで弾の発射方向を指定する、全方向スクロールシューティングおなじみの操作方法です。
操作性は良好で、コントロールサークルは指を置いた場所に現れるため、操作していて違和感を感じることはありません。」(第1頁第12行~第2頁第1行)
(2)甲3に記載された事項
甲3には、次の事項が記載されている。
ア 「一つ目は移動させるボタン((CCSprite*)Button)で,これは指の動きに合わせて動きます.
二つ目はボタン台((CCSprite*)ButtonBack)で,これの上にボタンを載せており,ボタン台自体は指に合わせて動きません.
なぜ二つのパーツにしたかというと,今回のバーチャルパッドは固定の位置にあるのでは無く,始点(タッチを開始した点)に出現し,そこからどれだけ指を動かしたかによって操作するため,視覚的に始点を分かりやすくするためです.
ボタンのみだと,ボタンを動かした後は始点が分かり難くなります。」(第3頁第3行~第9行)
イ 「流れは以下の通りです
1.タッチされた場所にボタン台を表示する(addchildしているのでボタンも表示される)
2.タッチしたまま指が動いたらボタンを動かす
3.一定範囲(円状)よりボタンは動かない
4.ボタンの移動距離をみてプレイヤーを操作(上記プログラム内には該当箇所無し)
5.タッチされたまま指が動いたら
6.タッチが終了したらボタン台を消す(addchildしているのでボタンも消える)
重要点は移動距離の制限です.ボタンがどこまででも行ってしまうとコントローラーにならないので,動かせる直接距離(MaxMoveRate)を設定しています.」(第3頁第13行~第4頁第7行)
(3)甲4に記載された事項
甲4には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0056】
図3で例示されたポインティングモードは、他のタイプのグラフィックオブジェクトに適用されてもよい。例えば、グラフィックオブジェクトが、ユーザが指またはスタイレットによって手書き原稿を取得することができるテキストゾーンである場合、ポインティングモードに従って、このオブジェクトに特有の処理ルールが適用される。例えば、第1ポインティングモードでは、カーソルの軌跡は1つの取得フェーズから他の取得フェーズへと追跡される。そして、線分または補間された曲線が1つの点から他の点へとプロットされる。このように、文字認識処理を適用することによって手書きを復元することができる。第2ポインティングモードでは、ユーザは、テキストゾーンをスクロールすることができる。第3ポインティングモードでは、ユーザは、指を離して広げたり、または、より近づけたりすることによって、テキストゾーンを拡大することができる。」
イ 「【0062】
図5は、図3および図4で記載したポインティングモードを組合せたモードを示す。写真または他の任意の画像を操作可能なアプリケーションの(上記で参照された)実施例では、非利き手6aの親指6bによってドロップダウンメニューのボタンがアクティブになると、利き手5aで操作されるグラフィックオブジェクト2aに適用される特有の処理ルールが変更される。したがって、「選択(英語で「Select」)」ボタン3dが選択された場合、利き手5aの第1ポインティングモード(図5(A))によって画像の一部を取り囲んで選択できるようにしたり、第3ポインティングモード(図5(B))によってこの選択範囲を拡大できるようにしたりする。」
ウ 【図3(B)】「
[図:0001427368000005.jpg]
」
エ 【図3(C)】「
[図:0001427368000006.jpg]
」
オ 【図5(A)】「
[図:0001427368000007.jpg]
」
カ 【図5(B)】「
[図:0001427368000008.jpg]
」
キ 【図11】「
[図:0001427368000009.jpg]
」
3 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と、甲1発明とを対比する。
ア 構成要件Aについて
(ア)甲1発明では、「プレイヤーの親指が、タッチパネルに接触すると、その場所にコントローラーを仮想ジョイスティック範囲(VJR)として表示」するから、「表示部にタッチパネルを備え」る、「タッチ制御方法」といえる。
(イ)甲1発明では、「プレイヤーは、タッチパネル上の2つのコントローラーを、各々独立して操作でき」るが、「操作」は、2つの「親指」を「タッチパネルに接触」させることによりなされるものであるから、プレイヤーの操作対象は、「マルチタッチ端末」であるといえる。
(ウ)上記(ア)及び(イ)から、甲1発明と本件特許発明1とは、「表示部にタッチパネルを備えたマルチタッチ端末のタッチ制御方法」の点で一致する。
イ 構成要件Bについて
(ア) 甲1発明の「プレイヤー」は、その親指でタッチパネルを操作しているから、本件特許発明1の「ユーザ」に相当する。
(イ)甲1発明の「2つのコントローラー」は、「プレイヤー」が、「タッチパネル上の2つのコントローラーを、各々独立して操作」するから、本件特許発明1の「第1のタッチボタン」及び「第2のタッチボタン」に相当する。
(ウ)甲1発明では、「プレイヤーは、タッチパネル上の2つのコントローラーを、各々独立して操作でき、一方のコントローラーは、キャラクターを一定の方向に移動させつつ、他方のコントローラーは、射撃することを可能に」するから、上記(ア)及び(イ)も踏まえれば、甲1発明が、「ユーザが前記タッチパネル上の第1のタッチボタンに対する第1の操作をするか否かの操作情報及び第2のタッチボタンに対する第2の操作をするか否かの操作情報を第1の装置が取得」していることは明らかである。
ウ 構成要件Cについて
甲1発明では、「プレイヤーは、タッチパネル上の2つのコントローラーを、各々独立して操作でき、一方のコントローラーは、キャラクターを一定の方向に移動させつつ、他方のコントローラーは、射撃することを可能に」するが、2つのコントローラーの操作が、ゲーム中の同一のキャラクターに対する操作であることは、明らかであって、シューティングゲームにおいて、2つのコントローラーの操作が時間的に重複することを許容していること、及び、「移動」操作に後続する操作として、「射撃」操作を行うことも可能であることも明らかであるから、甲1発明と本件特許発明1とは、「前記第1の操作と前記第2の操作は単独の操作対象を操作し、前記第1の操作と前記第2の操作はシーケンシャルに少なくとも部分的に重なって実行され、前記操作対象への第1の操作の実行後に、前記操作対象への操作に対応する後続の操作を実行すること」を含む点で一致する。
エ 構成要件D、Eについて
(ア)甲1発明では、「コントローラーを仮想ジョイスティック範囲(VJR)として表示」するから、「VJR」は、「コントローラー」の別の呼称であることは明らかである。
(イ)甲1発明では、「動的コントロールでは、プレイヤーの親指が、タッチパネルに接触すると、その場所にコントローラーを仮想ジョイスティック範囲(VJR)として表示し、プレイヤーの親指が、タッチパネルから離れると、VJRは表示されなくなる」から、上記ウ及び(ア)も踏まえると、甲1発明と本件特許発明1とは、「前記第1の装置は前記ユーザがタッチパネルをタッチするか否かを検出し、タッチした場合には、前記第1のタッチボタンを表示し、又は連続的に前記第2のタッチボタンを表示し、タッチしない場合には前記第1のタッチボタン又は前記第2のタッチボタンを表示」しない点で一致する。
オ 構成要件Fについて
甲1発明の「キャラクター」は、本件特許発明1の「操作対象」に相当するところ、甲1発明では、「プレイヤーは、スライドジェスチャーを行うことで、希望の方向に、キャラクターの移動」「を指示することができる」。そして、「動的コントロールでは、プレイヤーの親指が、タッチパネルに接触すると、その場所にコントローラーを仮想ジョイスティック範囲(VJR)として表示し、プレイヤーの親指が、タッチパネルから離れると、VJRは表示されなくな」る。プレイヤーの親指は、ゲーム中、必然的にタッチパネルに接触したままになるから、甲1発明のコントローラーを、プレイヤーは、長く押してドラッグする操作により、キャラクターの移動を指示できることは明らかである。よって、甲1発明と本件特許発明1とは、「前記第1の操作は前記第1のタッチボタンを長く押してドラッグする操作により前記操作対象の移動を制御」する点で一致する。
カ 一致点及び相違点
上記ア~オの検討から、本件特許発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、次の点で相違するといえる。
<一致点>
表示部にタッチパネルを備えたマルチタッチ端末のタッチ制御方法であって、
ユーザが前記タッチパネル上の第1のタッチボタンに対する第1の操作をするか否かの操作情報及び第2のタッチボタンに対する第2の操作をするか否かの操作情報を第1の装置が取得し
前記第1の操作と前記第2の操作は単独の操作対象を操作し、前記第1の操作と前記第2の操作はシーケンシャルに少なくとも部分的に重なって実行され、前記操作対象への第1の操作の実行後に、前記操作対象への操作に対応する後続の操作を実行することをさらに含み、
前記第1の装置は
前記ユーザがタッチパネルをタッチするか否かを検出し、タッチした場合には、前記第1のタッチボタンを表示し、又は連続的に前記第2のタッチボタンを表示し、
タッチしない場合には前記第1のタッチボタン又は前記第2のタッチボタンを表示せず、
前記第1の操作は前記第1のタッチボタンを長く押してドラッグする操作により前記操作対象の移動を制御することを含む制御方法。
<相違点1>(構成要件D、E)
本件特許発明1が、ユーザがタッチパネル上に設定されたターゲット制御領域をタッチするか否かを検出し、前記ターゲット制御領域にタッチした場合には、第1のタッチボタンを表示し、又は連続的に第2のタッチボタンを表示し、前記ターゲット制御領域をタッチしない場合には前記第1のタッチボタン又は前記第2のタッチボタンを表示しないのに対し、甲1発明では、ユーザがタッチパネルをタッチするか否かを検出し、タッチした場合には、第1のタッチボタンを表示し、又は連続的に第2のタッチボタンを表示し、タッチしない場合には前記第1のタッチボタン又は前記第2のタッチボタンを表示しないことが特定されているものの、ユーザがタッチするか否かの検出領域として、タッチパネル上にターゲット制御領域を設定すること、第1のタッチボタンを表示し、又は連続的に第2のタッチボタンを表示するのは、前記ターゲット制御領域をタッチした場合であること、及び、前記第1のタッチボタン又は前記第2のタッチボタンを表示しないのは、前記タッチ制御領域をタッチしない場合であることは、特定されていない点
<相違点2>(構成要件G)
本件特許発明1が、第2の操作は操作対象が実行可能な動作を選択する操作作用領域を前記操作対象の現在位置に基づいて調整し、かつ調整前の前記操作作用領域と調整後の前記操作作用領域を同時に表示するのに対し、甲1発明では、他方のコントローラーに対する操作が、射撃の操作であることは特定されているものの、操作対象が実行可能な動作を選択する操作作用領域を調整すること、前記操作作用領域が、前記操作対象の現在位置に基づいて調整されること、及び、調整前の前記操作作用領域と調整後の前記操作作用領域が同時に表示されることは、特定されていない点
<相違点3>(構成要件H)
本件特許発明1が、タッチパネル上の空き領域をクリックして長く押して上にスライドさせる操作により前記操作対象の前記操作作用領域での選択内容が実行されるターゲットの領域である操作作用ターゲット領域を調整するのに対し、甲1発明では、他のコントローラーに対する操作が、射撃の操作であって、かつ、プレイヤーは、スライドジェスチャーを行うことで、希望の方向に、射撃を指示することができることは特定されているものの、甲1発明では、タッチパネル上の空き領域をクリックして長く押して上にスライドさせる操作により、操作対象の操作作用領域での選択内容が実行されるターゲットの領域である操作作用ターゲット領域を調整することは、特定されていない点
<相違点4>(構成要件I)
本件特許発明1が、第1のタッチボタン及び第2のタッチボタンのタッチパネル上での位置は、前記タッチパネルのサイズと、ユーザによるマルチタッチ端末の保持状態と、ユーザの選択により他のアプリケーションがタッチパネル上に同時に表示されたときは前記第1のタッチボタン及び第2のタッチボタンを前記他のアプリケーションを表示していない画面上であることのうちの少なくとも一つにマッチングさせるのに対し、甲1発明では、プレイヤーの親指がタッチパネルに接触した場所以外の場所に、一方のコントローラー及び他方のコントローラーを配置することは、特定されていない点
(2)判断
ア 相違点1について
相違点1に係る本件特許発明1の構成である、ユーザがタッチするか否かの検出領域として、タッチパネル上にターゲット制御領域を設定すること、第1のタッチボタンを表示し、又は連続的に第2のタッチボタンを表示するのは、前記ターゲット制御領域をタッチした場合であること、及び、前記第1のタッチボタン又は前記第2のタッチボタンを表示しないのは、前記タッチ制御領域をタッチしない場合であることは、甲2~4には記載も示唆もなく、また、このように構成することが本件特許の優先日前において周知技術であったともいえない。
したがって、当業者といえども、甲1発明及び甲2~4に記載された事項から、上記相違点1に係る本件特許発明1の構成を容易に想到することはできない。
イ 相違点2について
本件特許発明1の「操作作用領域」は、請求項1の記載によれば、操作対象が実行可能な動作を選択する領域である。したがって、本件特許発明1は、そのような領域を調整するものである。ここで、「調整」とは、本件特許の明細書段落【0027】には、「具体的には、第2の操作は操作作用領域を調整することも含む。例えば、異なるサイズ又は異なる形状(例えば、扇形、円形、長方形又は他の形状)の各種の領域に設定するように、第2の操作はさらに対象への操作の操作作用領域を調整する。」と記載されているから、領域のサイズ又は形状を変更することを意味していると解される。
そうすると、相違点2に係る本件特許発明1の構成である、操作対象が実行可能な動作を選択する領域のサイズ又は形状を変更すること、操作作用領域が、前記操作対象の現在位置に基づいてサイズ又は形状の変更がされること、及び、変更前の前記操作作用領域と変更後の前記操作作用領域が同時に表示されることは、甲2~4には記載も示唆もなく、また、このように構成することが本件特許の優先日前において周知技術であったともいえない。
したがって、当業者といえども、甲1発明及び甲2~4に記載された事項から、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成を容易に想到することはできない。
ウ 相違点3について
本件特許発明1における、タッチパネル上の空き領域をクリックして長く押して上にスライドさせる操作により操作対象の操作作用領域での選択内容が実行されるターゲットの領域である操作作用ターゲット領域を調整することについて、本件特許の明細書段落【0034】には、「例えば、ユーザがタッチスクリーンの空き領域をクリックして長く押して上にスライドするという第2の操作を実行すれば、第2の操作の調整する対象への操作の操作作用ターゲットが元の操作作用ターゲットと異なることを示す。つまり、元のターゲットを調整して、元のターゲットとは異なる他のターゲットに調整する。」と記載されているから、本件特許発明1の「前記操作対象の前記操作作用領域での選択内容が実行されるターゲットの領域である操作作用ターゲット領域を調整」するとは、元のターゲットから、これとは異なる他のターゲットに変更することを意味すると解され、本件特許発明1では、その変更の契機が、ユーザがタッチパネル上の空き領域をクリックして長く押して上にスライドするという操作であるといえる。
甲1発明では、「プレイヤーは、スライドジェスチャーを行うことで、希望の方向に、」「射撃を指示することができる」ことが特定されているから、元のターゲットから、これとは異なる他のターゲットに変更することについては、甲1発明に開示されているといえるが、甲1発明では、プレイヤーは、射撃を希望する方向にスライドジェスチャーを行っていることは明らかであるから、本件特許発明1と甲1発明とは、ターゲットの変更のための操作が相違している。
よって、相違点3に係る本件特許発明1の構成である、タッチパネル上の空き領域をクリックして長く押して上にスライドさせる操作により、ターゲットを、元のターゲットから、これとは異なる他のターゲットに変更することは、甲2~4には記載も示唆もなく、また、このように構成することが本件特許の優先日前において周知技術であったともいえない。
したがって、当業者といえども、甲1発明及び甲2~4に記載された事項から、上記相違点3に係る本件特許発明1の構成を容易に想到することはできない。
エ 相違点4について
相違点4に係る本件特許発明1の構成である、第1のタッチボタン及び第2のタッチボタンのタッチパネル上での位置は、前記タッチパネルのサイズと、ユーザによる前記マルチタッチ端末の保持状態と、ユーザの選択により他のアプリケーションがタッチパネル上に同時に表示されたときは第1のタッチボタン及び第2のタッチボタンを他のアプリケーションを表示していない画面上であることのうちの少なくとも一つにマッチングさせることは、甲2~4には記載も示唆もなく、また、このように構成することが本件特許の優先日前において周知技術であったともいえない。
したがって、当業者といえども、甲1発明及び甲2~4に記載された事項から、上記相違点4に係る本件特許発明1の構成を容易に想到することはできない。
オ むすび
上記ア~エにおいて、検討したとおり、本件特許発明1は、当業者であっても、甲1発明及び甲2~4に記載された事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
4 本件特許発明2について
本件特許発明2は、「制御装置」の発明であって、上記3(2)ア~エで検討した相違点1~4に係る構成と実質的に同一の構成を備えるものであるから、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲1発明及び甲2~4に記載された事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
5 請求人の主張及び当審の判断について
(1)請求人の主張
請求人は、令和5年10月27日提出の審判請求書において、特に相違点の構成G~Iについて、下記ア~ウのとおり主張する。
ア 「(イ)の点について(当審注「構成要件G」の相違点)
甲第2号証には、マルチタッチ端末のためのタッチ制御方法であって、左下のコントロールサークル(第1のタッチボタンに対する第1の操作)で自機を移動(操作対象の移動を制御)し、右下のコントロールサークル(第2のタッチボタンに対する第2の操作)で弾の発射方向を指定(操作作用領域を調整)すること(G’)が示唆されており、マルチタッチパネル上のボタン操作に関する甲第1号証に、甲第2号証の制御方法を付加することに格別の困難性はなく、当業者が容易に想到することができたものにすぎない。」(審判請求書第28頁第1行~第8行)
イ 「(ロ)の点について(当審注「構成要件H」の相違点)
甲第2号証は、操作作用領域内の操作作用ターゲットに対して操作を実行するものではないが、第2のスティックボタンを用いる操作方法において、対象の操作が作用する領域およびターゲットを調整し、またその際同期的に調整後の領域を表示することが記載されており、このような操作方法をマルチタッチ可能なタッチパネルに用いることができない理由もない(H’)。
なお、甲第4号証にも、「図3で例示されたポインティングモードは、他のタイプのグラフィックオブジェクトに適用されてもよい。例えば、グラフィックオブジェクトが、ユーザが指またはスタイレットによって手書き原稿を取得することができるテキストゾーンである場合、ポインティングモードに従って、このオブジェクトに特有の処理ルールが適用される。例えば、第1ポインティングモードでは、カーソルの軌跡は1つの取得フェーズから他の取得フェーズヘと追跡される。そして、線分または補間された曲線が1つの点から他の点へとプロットされる。このように、文字認識処理を適用することによって手書きを復元することができる。第2ポインティングモードでは、ユーザは、テキストゾーンをスクロールすることができる。第3ポインティングモードでは、ユー ザは、指を離して広げたり、または、より近づけたりすることによって、テキストゾーンを拡大することができる。」(H’’)の記載がある。」(審判請求書第28頁第9行~第28頁第26行)
ウ 「(ハ)の点について(当審注「構成要件I」の相違点)
甲第2号証には、「マルチタッチ端末のためのタッチ制御方法であって、左下のコントロールサークル(第1のタッチボタンに対する第1の操作)で自機を移動(操作対象の移動を制御)し、右下のコントロールサークル(第2のタッチボタンに対する第2の操作)で弾の発射方向を指定(操作作用領域を調整)すること」(I’)が示唆されており、甲第4号証には、「【0066】 図11は、コンテキストオブジェクトを表示することができるステップの図を示す。コンテキストオブジェクトは、画面の例えば中央などの任意のポジションに表示されることに留意されたい。」(I’’)との記載がある。
したがって、マルチタッチパネル上のボタン操作に関する甲第1号証に、甲第2号証~甲第4号証の制御方法を付加することに格別の困難性はなく、これらの手段を採用するか否かは、当業者が任意に定めることができる単なる設計上の選択事項にすぎない。」(審判請求書第28頁第27行~第29頁第11行)
(2)当審の判断
ア 構成要件Gについて
上記3(2)イにおいて説示したとおり、本件特許発明1の「調整」は、領域のサイズ又は形状を変更することを意味していると解され、甲2の「弾の発射方向を指定」は、本件特許発明1の「調整」に相当するものではない。また、甲2には、変更前の操作作用領域と変更後の前記操作作用領域を同時に表示することも記載されていない。
したがって、本件特許発明1の構成要件Gについて、操作対象が実行可能な動作を選択する領域のサイズ又は形状を変更すること、操作作用領域が、前記操作対象の現在位置に基づいてサイズ又は形状の変更がされること、及び、変更前の前記操作作用領域と変更後の前記操作作用領域が同時に表示されることは、甲2に記載も示唆もないから、上記5(1)アの主張は理由がなく、採用の限りではない。
イ 構成要件Hについて
上記3(2)ウにおいて説示したとおり、本件特許発明1の「前記操作対象の前記操作作用領域での選択内容が実行されるターゲットの領域である操作作用ターゲット領域を調整」するとは、元のターゲットから、これとは異なる他のターゲットに変更することを意味すると解され、本件特許発明1では、その変更の契機が、タッチパネル上の空き領域をクリックして長く押して上にスライドするという操作であるところ、タッチパネル上の空き領域をクリックして長く押して上にスライドさせる操作により、ターゲットを、元のターゲットから、これとは異なる他のターゲットに変更することは、甲2及び4に記載も示唆もないから、上記5(1)イの主張は理由がなく、採用の限りではない。
ウ 構成要件Iについて
請求人が主張するように、甲2には「画面左下のコントロールサークルで自機を移動、画面右下のサークルで弾の発射方向を指定する」ことが記載され、甲4に「【0066】 図11は、コンテキストオブジェクトを表示することができるステップの図を示す。コンテキストオブジェクトは、画面の例えば中央などの任意のポジションに表示されることに留意されたい。」と記載されているが、甲1発明に、甲2、甲3又は甲4に記載された事項を適用しても、本件特許発明1の構成要件Iに至ることはないから、上記5(1)ウの主張は理由がなく、採用の限りではない。
第7 むすび
以上のとおり、本件特許発明1及び2に係る特許は、甲1発明及び甲2~4に記載された事項に基づいて、当業者が容易にすることができたものではなく、請求人が主張する無効理由によっては無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-800068