特許異議申立
2023-701125
ショベル及びショベル用のシステム
- 審判番号
- 2023-701125
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-079855
- 登録番号
- 7263290
- 請求日
- 2023年10月20日
- 審決日
- 2025年06月30日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】住友重機械工業株式会社
- 【権利者代理人】伊東 忠重
- 【権利者代理人】伊東 忠彦
- 【異議申立人】▲徳▼田 久子
- 【異議申立人】高橋 詔男
- 審判長/審判官
- 審判長 有家 秀郎
- 審判官 西田 秀彦
- 審判官 居島 一仁
- 分類
- P1651.537-ZB (E02F) / P1651.55 -ZB (E02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第120条の5第9項、特許法第29条、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第4項、特許法第17条の2、特許法第44条、特許法第120条の5第7項、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7263290号発明「ショベル及びショベル用のシステム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7263290号の請求項1~7に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 出願分割の経緯の概略
本件特許異議申立に係る特許第7263290号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、令和2年4月28日にされた特許法44条1項の規定による特許出願であって、平成25年3月19日に出願した特願2013-57399号を最先の出願とする、いわゆる第3世代の分割出願であるところ、出願の分割の経緯は、次のとおりである。なお、括弧内は当該出願の提出日を示す。
最先の出願:特願2013- 57399号(平成25年 3月19日)
第1世代 :特願2016-231735号(平成28年11月29日)
第2世代 :特願2018-156226号(平成30年 8月23日)
本願 :特願2020- 79855号(令和 2年 4月28日)
2 本件特許の設定登録以降の手続の経緯の概略
(1)本件特許異議申立の前までの手続の経緯
本件特許異議申立の前までの手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
令和5年 4月14日 :設定登録(請求項1~7)
同月24日 :特許掲載公報の発行
(2)本件特許異議申立の手続の経緯
本件特許異議申立は、特許異議申立人 徳田 久子(「徳」は旧字体(「心」の上に「一」)。以下「申立人A」という。)により、本件特許の請求項1~7に係る特許に対して、特許異議申立人 高橋 詔男(以下「申立人B」という。)により、本件特許の請求項1~7に係る特許に対して、特許異議の申立てがされたものである。
本件特許異議申立における手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
令和5年10月20日 :申立人Aによる特許異議申立書(以下「申立書A」という。)の提出
令和5年10月24日 :申立人Bによる特許異議申立書(以下「申立書B」という。)の提出
令和6年 1月22日付け:取消理由通知
同年 3月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 4月 8日付け:申立人A及び申立人Bのそれぞれに対する訂正請求があった旨の通知
同年 4月26日 :申立人Aによる意見書の提出
令和6年 8月29日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年11月 5日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和7年 2月27日付け:訂正拒絶理由通知
同年 4月 3日 :特許権者による意見書の提出
なお、令和6年3月25日にされた訂正の請求は、同年11月5日に新たな訂正の請求がされたことにより、取り下げられたものとみなす(特許法120条の5第7項)。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年11月5日にされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の趣旨は、特許第7263290号の特許請求の範囲を、本件訂正請求の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その内容は、次の訂正事項1~訂正事項3からなるものである(下線は訂正箇所を示す)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「下部走行体と、前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、前記上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントと、を含んで構成されるショベルであって、前記ショベルの周囲における人の存否を判定する制御部を有し、前記制御部は、前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグを設定する、ショベル。」と記載されているのを、「下部走行体と、前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、前記上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントと、を含んで構成されるショベルであって、前記ショベルの周囲における人の存否を判定する制御部を有し、前記制御部は、前記制御部が動作中であれば、前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても人検知フラグを初期値としてのオフに設定し、前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態においては、前記ショベルの周囲における人を検出すると前記人検知フラグをオンに設定し、前記ショベルが作業を開始する前の作業可能状態においては、前記ショベルの周囲における人を検出すると前記人検知フラグをオンにせずにオフにしたままとすることでオフに設定し、前記ショベルが作業を開始するときに前記人検知フラグがオンに設定されている場合には、前記ショベルの周囲に人が存在すると判定した場合と同じ処理を実行できるようにする、ショベル。」に訂正する。
なお、訂正事項1については、訂正請求書の全趣旨からみて、請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正するものと認められる。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「前記設定された人検知フラグは、操作者が停止操作を行うまで継続される、請求項1に記載のショベル。」と記載されているのを、「前記人検知フラグのオン設定は、操作者が停止操作を行うまで継続される、請求項1に記載のショベル。」に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に「下部走行体と、前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、前記上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントと、を含んで構成されるショベルに用いられるショベル用のシステムであって、前記ショベルの周囲における人の存否を判定する制御部を有し、前記制御部は、前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグを設定する、ショベル用のシステム。」と記載されているのを、「下部走行体と、前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、前記上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントと、を含んで構成されるショベルに用いられるショベル用のシステムであって、前記ショベルの周囲における人の存否を判定する制御部を有し、前記制御部は、前記制御部が動作中であれば、前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても人検知フラグを初期値としてのオフに設定し、前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態においては、前記ショベルの周囲における人を検出すると前記人検知フラグをオンに設定し、前記ショベルが作業を開始する前の作業可能状態においては、前記ショベルの周囲における人を検出すると前記人検知フラグをオンにせずにオフにしたままとすることでオフに設定し、前記ショベルが作業を開始するときに前記人検知フラグがオンに設定されている場合には、前記ショベルの周囲に人が存在すると判定した場合と同じ処理を実行できるようにする、ショベル用のシステム。」に訂正する。
なお、訂正事項3については、訂正請求書の全趣旨からみて、請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正するものと認められる。
(4) 一群の請求項についての説明
訂正前の請求項1~5について、請求項2~5はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項1~5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項6~7について、請求項7は請求項6を引用しているものであって、訂正事項3によって記載が訂正される請求項6に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項6~7に対応する訂正後の請求項6~7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正拒絶理由の概要
本件訂正について、当審において令和7年2月27日付けで通知した訂正拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
訂正事項1及び3は、特許法120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項を目的とせず、同条9項において準用する126条5項の規定に適合しないから、請求項1及び6に係る訂正は認められない。
そして、訂正前の本件特許請求の範囲の請求項1~5及び6~7のそれぞれは、一群の請求項を構成するものであるところ、請求項1及び6に係る訂正は認められないのであるから、訂正事項1~3からなる本件訂正は、いずれも認めることができない。
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正事項1~3は、いずれもその訂正を拒絶すべきものである。
3 訂正の適否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的について
(ア) 検討・判断
a 訂正事項1において、訂正前は「前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出する」と「人検知フラグを設定する」ものであったが、訂正後は、「前記制御部が動作中であれば、前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても人検知フラグを初期値としてのオフに設定」(以下「構成A」という。)し、「前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態においては、前記ショベルの周囲における人を検出すると前記人検知フラグをオンに設定し」(以下「構成B」という。)、また、「前記ショベルが作業を開始する前の作業可能状態においては、前記ショベルの周囲における人を検出すると前記人検知フラグをオンにせずにオフにしたままとすることでオフに設定」(以下「構成C」という。)するものとなっている。
b 構成Aと構成Bとを対比すると、構成Aでは「前記制御部が動作中であれば、前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態」で「人検知フラグを初期値としてのオフに設定」するとあるのに対し、構成Bでは、「前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態においては、前記ショベルの周囲における人を検出すると前記人検知フラグをオンに設定」するものであるから、「前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態」のときであって「前記ショベルの周囲における人を検出する」ときに、人検知フラグがオンにするかオフにするかが一義的に決まらないものとなっている。
よって、構成Aと構成Bを含むものに訂正することは、「制御部」に係る構成を減縮するといえないから、訂正事項1による訂正は、訂正前の構成を減縮するとはいえない。
c 構成Cについて、「・・・人検知フラグをオンにせずにオフにしたままとすることでオフに設定し」とあり、形式的には「人検知フラグ」を「設定する」ものであるが、訂正前の「人検知フラグを設定する」処理を実質的に何も行わないことを意味するものであり、構成Cによって「設定する」処理を行う訂正前の構成を限定したとはいえない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではない。
また、同条同項ただし書第2号に規定する「誤記又は誤訳の訂正」、第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」及び第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」のいずれを目的とするものでもないことは明らかである。
(イ) 特許権者の主張について
a 特許権者の主張の概要
(a) 訂正請求書における主張
特許権者は、令和6年11月5日に提出された訂正請求書の7(3)イ(ア)aにおいて、次の主張をしている。
「訂正前の請求項1に係る特許発明は、どのような条件において、どのような機能等をもたらすために、「前記制御部」が「人検知フラグ」を設定するかについては特定していない。
これに対して、訂正後の請求項1は、「前記制御部は、前記制御部が動作中であれば、前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても人検知フラグを初期値としてのオフに設定し、前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態においては、前記ショベルの周囲における人を検出すると前記人検知フラグをオンに設定し、前記ショベルが作業を開始する前の作業可能状態においては、前記ショベルの周囲における人を検出すると前記人検知フラグをオンにせずにオフにしたままとすることでオフに設定し、前記ショベルが作業を開始するときに前記人検知フラグがオンに設定されている場合には、前記ショベルの周囲に人が存在すると判定した場合と同じ処理を実行できるようにする、」との記載により、訂正前の請求項1に係る発明における「前記制御部」が、どのような条件において、どのような機能等をもたらすために、「人検知フラグ」を設定するかを具体的に特定するものである。」
(b) 意見書における主張
特許権者は、令和7年4月3日に提出された意見書の2頁13行~3頁17行において、次の主張をしている。
「その上で、審判合議体は、訂正事項1による訂正は、「構成B及び構成Cと構成Aとが異なる条件で動作する不明確な関係のものになっている」とご指摘されています。
しかしながら、記載「制御部が動作中であれば」は、構成Aのみにかかる条件ではなく、構成A~構成Cのそれぞれにかかる条件であるのは自明であると考えます。制御部が動作していなければ人検知フラグを設定できないためです。そのため、構成A~構成Cのそれぞれは、「制御部が動作中であれば」という同じ条件で動作する明確な関係のものであると考えます。
また、構成Aが人検知フラグの初期値に関する記載であり、構成B及び構成Cが人検知フラグの初期値に関する記載でないことは明らかであるため、構成A~構成Cが三者択一の関係にないことは明らかであると考えます。
また、構成Bの記載「前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態においては、」と構成Cの記載「前記ショベルが作業を開始する前の作業可能状態においては、」とは、相互排他的(二者択一的)な関係にあるため、両者の関係は明確であると考えます。
したがって、構成A~構成Cのそれぞれは、明確な関係のものになっていると考えます。
また、審判合議体殿は、構成Cについては、『実質的に「人検知フラグ」に対して何も行わないことを意味するものであり、「設定する」処理を行う訂正前の構成を限定したとはいえない』として「訂正事項1による訂正は、訂正前の構成を減縮するものとはいえない」と判断されています。
しかしながら、構成Cは、訂正前の記載「人検知フラグを設定する」を限定するものではなく、「前記制御部」の処理内容を限定するものであると考えます。」
b 特許権者の主張の検討
前記aの主張を総合して検討する。
前記(ア)に示したとおり、構成Aと構成Bにおいて、「前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態」のときであって「前記ショベルの周囲における人を検出する」ときに、人検知フラグがオンにするかオフにするかが一義的に決まらないものである。
そして、「制御部」の処理内容として、訂正前の「前記ショベルが作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても人を検知すると人検知フラグを設定する」ことを、構成Aと構成Bとで一義的に決まらないものを含むものとし、構成Cでは実質的に「設定しない」処理に変更するものであるから、訂正前の請求項の記載を減縮するものではない。
よって、前記特許権者の意見は前記判断を左右するものではなく採用できない。
(ウ) 小括
以上のとおりであるから、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書各号に掲げるいずれの事項を目的とするものでもない。
イ 新規事項の有無について
(ア) 訂正後の請求項1の「制御部」について
訂正後の請求項1において、「制御部」は、前記(1)アに示した構成A、構成B、及び、構成Cを含むものである。
(イ) 本件特許の本件明細書等の記載について
本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」といい、明細書を「本件明細書」という。)には次の記載がある。
a 段落【0206】
「また、作業機械状態判定手段14によりショベル60が作業可能状態にないと判定された場合(ステップS22のNO)、人存否判定手段12は、検出信号を警報制御手段13に対して出力せず、NVRAM等に用意された人検出フラグの値を「1」(オン)に設定する(ステップS24)。なお、人検出フラグは、初期値として値「0」(オフ)が設定されており、検出フラグの値「1」(オン)は人を検出したことを表し、検出フラグの値「0」(オフ)は人を検出していないことを表す。この時点では、警報制御手段13は、検出信号を受けないため、警報開始信号を警報出力部7に対して出力することはなく、警報出力部7から警報を出力させることもない。・・・(略)・・・」
b 段落【0210】
「一方、警報停止ボタンG1が押下されていないと判定した場合(ステップS25のNO)、警報制御手段13は、警報停止信号を警報出力部7に対して出力しない。すなわち、警報制御手段13が出力させた警報は、その後に人存否判定手段12がショベル60の周囲に人が存在しないと判定した場合であっても、警報停止ボタンG1が押下されるまで停止しない。また、画像生成手段11は、頭高さ基準の周辺監視用仮想視点画像(出力画像D33参照。)を表示している場合には、その頭高さ基準の周辺監視用仮想視点画像の表示を継続させる。」
c 段落【0219】及び【0220】
「【0219】
次に、図25を参照して、警報制御手段13による作業開始時警報制御処理について説明する。
【0220】
最初に、警報制御手段13は、人検出フラグの値を参照する(ステップS41)。そして、人検出フラグの値が「1」オンであると判定した場合(ステップS41のYES)、警報制御手段13は、警報開始信号を警報出力部7に対して出力し、警報出力部7から警報を出力させる(ステップS42)。具体的には、警報制御手段13は、人存否判定手段12により、現時点においてショベル60の周囲に人が存在しないと判定された場合であっても警報を出力させる。本実施例では、警報制御手段13は、左側方警報出力部7L、後方警報出力部7B、及び右側方警報出力部7Rに対して警報開始信号を出力し、3つ全ての警報出力部から警報音を出力させる。この場合、警報制御手段13は、警報の出力が停止されるまで、ショベル60による作業を禁止してもよい。具体的には、警報制御手段13は、ゲートロック弁を閉状態にし、コントロールバルブと操作レバー等との間の作動油の流れを遮断して操作レバー等を無効にしてもよい。」
d 段落【0223】~【0228】
「【0223】
一方、警報開始後に所定時間が経過したと判定した場合(ステップS43のYES)、警報制御手段13は、警報停止信号を警報出力部7に対して出力し、警報出力部7からの警報の出力を停止させる(ステップS44)。また、警報制御手段13は、人検出フラグの値を「0」(オフ)にリセットする(ステップS45)。なお、警報制御手段13は、警報停止ボタンG1が押下されるまで警報を停止させないようにしてもよい。
【0224】
以上の構成により、画像生成装置100は、監視空間内に人が存在すると判定した場合であってもショベル60が作業不可状態の場合には警報を出力しない。そのため、画像生成装置100は、ショベル60が作業不可状態にある場合に不要な警報が出力されてしまうのを防止できる。
【0225】
一方で、画像生成装置100は、現時点において監視空間内に人が存在しないと判定した場合であっても、ショベル60が作業不可状態にある間に作業者が監視範囲内に進入していた場合には警報を出力する。そのため、画像生成装置100は、ショベル60の周囲の監視空間に存在していた作業者が監視空間外に退出したことの確認を操作者に促すことができる。
【0226】
また、上述の作業開始時警報制御処理では、警報制御手段13は、人検出フラグの値が「1」(オン)でありさえすれば警報を出力させる。しかしながら、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、警報制御手段13は、人検知フラグの値が「1」(オン)に設定された時点からの経過時間が所定時間以上であれば警報を出力させないようにしてもよい。或いは、人存否判定手段12は、人検知フラグの値を「1」(オン)に設定した時点からの経過時間が所定時間に達した場合に人検知フラグの値を「0」(オフ)にリセットしてもよい。あまりにも古い検出記録に基づいて警報を出力させてしまうのを防止するためである。
【0227】
また、画像生成装置100は、人存否判定手段12が動体検出センサに基づいて作業者(動体)の存否を判定する場合、ショベル60が作業不可状態にあるときに監視空間内に進入して静止している作業者を、ショベル60が作業可能状態になったときに検出し損ね、ショベル60の操作者がその作業者に気付かないままショベル60による作業を開始してしまうのを防止できる。
【0228】
また、画像生成装置100は、人存否判定手段12がオプティカルフローを用いて作業者(動体)の存否を判定する場合に、ショベル60が作業不可状態にあるときに監視空間内に進入して静止している作業者を、ショベル60が作業可能状態になったときに検出し損ね、ショベル60の操作者がその作業者に気付かないままショベル60による作業を開始してしまうのを防止できる。」
e 【図22】
「
[図:0001426791000001.jpg]
」
f 【図24】
「
[図:0001426791000002.jpg]
」
(ウ) 新規事項についての検討・判断
a 構成Aについて
「人検出フラグ」を「オフ」にすることについて、本件明細書等の発明の詳細な説明の段落【0206】に「なお、人検出フラグは、初期値として値「0」(オフ)が設定されており、検出フラグの値「1」(オン)は人を検出したことを表し、検出フラグの値「0」(オフ)は人を検出していないことを表す。」と記載されているが、この記載は「人検出フラグ」の値の意味を示すものであって、構成Aに記載された条件で人検知フラグの設定処理を行うことを示すものではない。
そして、「前記制御部が動作中であれば、前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても人検知フラグを初期値としてのオフに設定」する構成Aは、「前記制御部が動作中」という条件では「前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても」「人検知フラグを初期値としてのオフに設定」するものであり、作業不可状態から作業可能状態に変わった場合にも「人検知フラグ」を「初期値としてオフに設定する」と解されるところ、そのようなことは、作業不可状態で人を検出して1に設定した人検出フラグの値を作業開始時に参照する本件明細書の記載(段落【0206】、【0219】~【0220】参照)と整合せず、他の発明の詳細な説明に記載も示唆もされておらず、自明ともいえない。
b 構成Cについて
前記(イ)a~dには、構成Cの「前記ショベルが作業を開始する前の作業可能状態においては、前記ショベルの周囲における人を検出すると前記人検知フラグをオンにせずにオフにしたままとすることでオフに設定」することについて直接的な記載も示唆もない。
そして、前記(イ)a~dを踏まえ、前記(イ)eのS21、S22及びS24をみると、S21でYES、S22でYESとしたときにS23で「警報を出力」させることが記載されているが、そのときに構成Cのような「前記人検知フラグをオンにせずにオフにしたままとすることでオフに設定」することが記載も示唆もされていない。また、構成Cは、「ショベルの周囲に人が存在すると判定した」条件下で、「作業可能状態」でないと判定されることを意味するものと解することができるところ、前記(イ)eとは、S21とS22の判定の順序が逆のものであるから、構成Cを示すものではない。
そして、前記発明の詳細な説明には、他に記載も示唆もされておらず、自明ともいえない。
c 新規事項の判断について
よって、訂正事項1における訂正後の請求項1の構成A及び構成Cは、本件特許の明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正ではない。
(エ) 特許権者の主張について
a 特許権者の主張の概要
(a) 訂正請求書における主張
特許権者は、令和6年11月5日に提出された訂正請求書の7(3)イ(ア)cにおいて、次の主張をしている。
「訂正事項1は、明細書記載の実施形態に基づいて導き出される構成である。この実施形態に係る説明として、段落【0206】には、・・・(略)・・・、段落【0210】には、・・・(略)・・・、段落【0220】には、・・・(略)・・・、段落【0227】には・・・(略)・・・、段落【0228】には・・・(略)・・・、且つ、図25には、ステップS41のYES→ステップS42の流れ(図20におけるステップS11のYES→ステップS12の流れに対応する流れ)が記載されていることから、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。」と主張している。
(b) 意見書における主張
特許権者は、令和7年4月3日に提出された意見書において、次の主張をしている。
(b-1) 構成Aについて「「前記制御部が動作中であれば、前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても」という条件であるとすれば、段落【0206】に記載されているものと考えます・・・。段落【0206】には、人検知フラグを設定する主体が「制御部」(実施形態では制御部1の人存否判定手段12)であることが記載されており、制御部が動作していないときに人検知フラグが設定されることはないため、すなわち、「制御部が動作中」のときに人検知フラグが設定されることは自明であるためです。また、人検知フラグを初期値に設定することは、「前記ショベルが作業を開始する前」(図22のS24よりも前)に行われることは自明であり、また、「作業不可状態」であるか「作業可能状態」であるかにかかわらず行われることも自明であると考えます。仮に、「作業可能状態」では人検知フラグが初期値に設定されないとすると、人検知フラグの値は「1」であるか「0」であるか不明となってしまうためです。」(4頁5~21行)
(b-2) 「構成Cは、「S21とS22の判定の順序が逆のもの」ではありません。構成Cは、「ショベルの周囲に人が存在すると判定」するタイミング(S21のタイミング)と「作業可能状態」であるか否かを判定するタイミング(S22のタイミング)の順序については限定していないためです。
すなわち、構成Cは、「前記ショベルが作業を開始する前の作業可能状態においては、前記ショベルの周囲における人を検出すると前記人検知フラグをオンにせずにオフにしたままとすることでオフに設定し、」であり、S21のYES→S22のNO→S24の流れとはならずに、S21のYES→S22のYES→の流れになる点を限定しているにすぎないためです。」(5頁17~27行)
b 特許権者の主張の検討
前記a(a)及びa(b)(b-1)、(b-2)の主張について、前記(ウ)に示したとおりである。
よって、特許権者の主張は、前記(ウ)の判断を左右するものではなく採用できない。
(オ) 小括
よって、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正ではない。
よって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合するものではない。
(2) 訂正事項3について
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項6に対して、訂正事項1と同様の訂正を行うものである。
そうすると、前記(1)アに示したのと同様に、訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」、第2号に規定する「誤記又は誤訳の訂正」、第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」及び第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」のいずれを目的とするものでもない。
また、前記(1)イに示したのと同様に、訂正事項3に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正ではないから、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合するものではない。
(3) 訂正事項2について
訂正前の本件特許請求の範囲の請求項1~5は、一群の請求項を構成するものであるところ、前記1に示したとおり、訂正事項1は認めることができないことにより、訂正事項2も認めることはできない。
4 まとめ
訂正事項1及び3は、特許法120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項を目的とせず、同条9項において準用する126条5項の規定に適合しないから、請求項1及び6に係る訂正は認められない。
そして、訂正前の本件特許請求の範囲の請求項1~5及び6~7のそれぞれは、一群の請求項を構成するものであるところ、請求項1及び6に係る訂正は認められないのであるから、訂正事項1~3からなる本件訂正は、いずれも認めることができない。
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正事項1~3は、いずれもその訂正を拒絶すべきものである。
第3 本件特許発明
前記第2のとおり本件訂正は認めることができないので、本件特許の請求項1~7に係る発明(以下「本件特許発明1」等といい、全体を「本件特許発明」という。)のそれぞれは、その特許請求の範囲の請求項1~7に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1~7の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
下部走行体と、
前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、
前記上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントと、を含んで構成されるショベルであって、
前記ショベルの周囲における人の存否を判定する制御部を有し、
前記制御部は、前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグを設定する、
ショベル。
【請求項2】
作業可能状態とは、作動油が連通されて操作レバーが有効な状態であり、作業不可状態とは、作動油が遮断されて操作レバーが無効な状態である、
請求項1に記載のショベル。
【請求項3】
前記設定された人検知フラグは、操作者が停止操作を行うまで継続される、
請求項1に記載のショベル。
【請求項4】
前記制御部は、検出した人が退出したと判定するまで警報を出力する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項5】
前記制御部は、前記人検知フラグを設定することで、人を検出したことを記憶する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項6】
下部走行体と、前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、前記上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントと、を含んで構成されるショベルに用いられるショベル用のシステムであって、
前記ショベルの周囲における人の存否を判定する制御部を有し、
前記制御部は、前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグを設定する、
ショベル用のシステム。
【請求項7】
作業可能状態とは、作動油が連通されて操作レバーが有効な状態であり、作業不可状態とは、作動油が遮断されて操作レバーが無効な状態である、
請求項6に記載のショベル用のシステム。」
第4 証拠方法、特許異議申立理由の概要
1 申立人Aによる特許異議申立
(1) 証拠方法
申立人Aが提出した証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2014-181509号公報
甲第2号証:特開平5-93431号公報
甲第3号証:岡本茂 外3名著, 「’92-’93年版最新パソコン用語事典」, 第3版第3刷, 株式会社技術評論社, 平成4年7月1日, p.326-327
甲第4号証:特開2010-126954号公報
甲第5号証:特開2009-228874号公報
甲第6号証:特開平9-310381号公報
甲第7号証:特開平6-18661号公報
甲第8号証:特開平5-65725号公報
なお、以下では、甲第1号証~甲第8号証のそれぞれを、甲1A~甲8Aということがある。
(2) 異議申立理由の概要
ア サポート要件違反
本件特許の請求項1~7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではないため、特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 明確性違反
本件特許の請求項1~7に係る発明は明確でないから、特許請求の範囲の記載は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 分割要件違反に基づく新規性または進歩性の欠如
本件出願は出願分割の実体的要件を満たしておらず、かつ、本件特許の請求項1~7に係る発明は、その現実の出願日である令和2年4月28日よりも前に日本国内又は外国において頒布された甲1Aに記載された発明である、または甲1Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法29条1項3号または同条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
エ 新規性または進歩性の欠如
本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件出願の原出願日である平成25年3月19日よりも前に日本国内又は外国において頒布された甲2Aに記載された発明である、または甲2Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法29条1項3号または同条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立人Bによる特許異議申立
(1) 証拠方法
申立人Bが提出した証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2011-17258号公報
甲第2号証:特開2010-198519号公報
甲第3号証:特開平10-72851号公報
甲第4号証:特開平8-121205号公報
甲第5号証:特開平5-93431号公報
甲第6号証:特開2012-138080号公報
甲第7号証:特開平10-49799号公報
甲第8号証:特開2012-144157号公報
なお、以下では、甲第1号証~甲第8号証のそれぞれを、甲1B~甲8Bということがある。
(2) 異議申立理由の概要
本件特許の請求項1~7に係る発明は、甲1Bに記載された発明又は甲2Bに記載された発明に基づいて、又は甲1B又は甲2Bに記載された発明に甲1B~甲8Bに記載された周知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 取消理由通知に記載した取消理由の概要
本件特許発明1~7に対して、当審が令和6年1月22日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
1 取消理由1 (サポート要件)
本件特許発明1~7は、発明の詳細な説明に記載された発明ではないため、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていないものであって、その発明に係る特許は、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 取消理由2 (明確性)
本件特許発明1~7は、発明が明確でないから、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないものであって、その発明に係る特許は、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
1 取消理由(新規事項)
令和3年8月26日付けでした手続補正(以下「本件補正」という。)は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」といい、明細書のみを「当初明細書」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、本件特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
第7 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1) 取消理由1(サポート要件)
ア 判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
イ 判断基準に基づく判断
前記アの判断基準に基づいて、判断する。
(ア) 本件特許発明が解決しようとする課題
本件明細書の発明の詳細な説明に次の記載がある。
「【0002】
従来、ショベルに搭載される障害物検出器の監視範囲内で作業者が検出された場合に警報音を発する周辺監視装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、ショベルの周囲に設定した作業エリア内に進入した作業者が共同作業者であるか否かをその作業者のヘルメットに取り付けられたLEDの発光パターンから判断して警報音を出力させるか否かを決定する警報システムが知られている(例えば、特許文献2参照。)。また、フォークリフトとその近傍(周り)で作業を行う作業者との間で通信を行い、この通信に基づいて警報音の出力を制御する安全装置が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
・・・(略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~3の技術は何れも、所定範囲内に進入した作業者を確実に検出できることを前提としており、所定範囲内で作業する作業者を検出し損ねる場合を想定していない。そのため、ショベル等の操作者は、警報音が止めば、所定範囲内で作業していた作業者が所定範囲外に退出したものと判断し、操作者自身による確認を行うことなくショベル等による作業を開始してしまうおそれがある。」
この記載から本件特許発明が解決しようとする課題は、「所定範囲内に進入した作業者を確実に検出できることを前提としており、所定範囲内で作業する作業者を検出し損ねる場合を想定していない」場合に、「ショベル等の操作者は、警報音が止めば、所定範囲内で作業していた作業者が所定範囲外に退出したものと判断し、操作者自身による確認を行うことなくショベル等による作業を開始してしまうおそれがある」ことであると理解できる。
(イ) 課題を解決できると当業者が認識できるものか否かについて
請求項1に係る発明の「ショベル」において、「前記ショベルの周囲における人の存否を判定する制御部」が、「所定範囲内で作業する作業者を検出し損ねる場合」に対応する要件を必ずしも満たすとはいえない。
そして、「前記制御部は、前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグを設定する」構成において、必ずしも人が直接認識できるとはいえない「人検知フラグ」を「設定する」ことにより、「所定範囲内で作業する作業者を検出し損ねる場合」に「ショベル等の操作者は、警報音が止めば、所定範囲内で作業していた作業者が所定範囲外に退出したものと判断し、操作者自身による確認を行うことなくショベル等による作業を開始してしまうおそれがある」ことが解決されるとはいえず、当業者が発明の課題を解決できると認識できるといえるような出願時の技術常識も見あたらない。
また、請求項1に係る発明の他の構成を考慮しても、上記の点は同様である。
そうすると、請求項1に係る発明が、前記発明の課題を解決できると当業者が認識できるものではない。
そして、請求項2~7に係る発明についても同様である。
ウ 取消理由1のまとめ
前記ア及びイのとおりであるから、請求項1~7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(2) 取消理由2(明確性)
ア 特許請求の範囲の請求項1及び6に「前記制御部は、前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグを設定する」(以下「人検知フラグ設定構成」という。)と記載されているが、次の2点が不明である。
(ア) 「前記ショベルが作業を開始する前」について
a 「人検知フラグ設定構成」における「前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態」について、特許権者は、令和3年8月26日に提出された意見書の【意見の内容】の[2]において、「請求項2、4、9、及び12のそれぞれにおける記載「作業不可状態」を「作業を開始する前の作業不可状態」に補正しました。また、請求項1、4、11、及び12のそれぞれにおける記載「作業可能状態」を「作業を開始する前の作業可能状態」に補正しました。」とした上で「これらの補正は、明細書の段落[0227]の記載「画像生成装置100は、人存否判定手段12が動体検出センサに基づいて作業者(動体)の存否を判定する場合、ショベル60が作業不可状態にあるときに監視空間内に進入して静止している作業者を、ショベル60が作業可能状態になったときに検出し損ね、ショベル60の操作者がその作業者に気付かないままショベル60による作業を開始してしまうのを防止できる。」等に基づいており、特許法第17条の2の規定に反するものではありません。」と主張している。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0227】は「作業不可状態」から「作業可能状態」に変化したときのことについて記載していると解することができるところ、「前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態」について、同段落の記載がどのように対応するか不明である。
b そして、「人検知フラグ設定構成」が動作するには、「制御部」が動作している必要があるといえるところ、「作業を開始する前」がどの時点までを示すものであるのかについて、前記段落を含む本件明細書に記載も示唆もなく、そのような関係が技術常識ともいえない。
c よって、「作業を開始する前」が表す意味が不明であるため、「人検
知フラグ設定構成」において「前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても」が、どのような条件を表すものかが不明である。
(イ) 「人検知フラグを設定する」ことについて
a 「人検知フラグ設定構成」における「人検知フラグを設定する」ことについて、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0220】に「最初に、警報制御手段13は、人検出フラグの値を参照する(ステップS41)。そして、人検出フラグの値が「1」オンであると判定した場合(ステップS41のYES)、警報制御手段13は、警報開始信号を警報出力部7に対して出力し、警報出力部7から警報を出力させる(ステップS42)。」、段落【0223】に「また、警報制御手段13は、人検出フラグの値を「0」(オフ)にリセットする(ステップS45)。」、段落【0226】に「例えば、警報制御手段13は、人検知フラグの値が「1」(オン)に設定された時点からの経過時間が所定時間以上であれば警報を出力させないようにしてもよい。或いは、人存否判定手段12は、人検知フラグの値を「1」(オン)に設定した時点からの経過時間が所定時間に達した場合に人検知フラグの値を「0」(オフ)にリセットしてもよい。」との記載(なお、これらの記載内容からみて「人検出フラグ」と「人検知フラグ」は「警報制御手段」の警報を出力させるためのものであるから、同一のものを表すと解することができる。)から、「人検知フラグ」は「0」か「1」かを示す「制御部」の処理内部で使用される「変数」であると解することができる。
b 一方、請求項1及び6には、「人検出フラグを設定する」ことと「ショベル」に関する他の構成との関係について特定されておらず、技術常識ともいえないから、単なる変数である「人検知フラグ」を「設定する」ことが、「ショベル」においてどのような機能等をもたらすものかが不明である。
イ 取消理由2のまとめ
前記アのとおりであるから、請求項1、6に係る発明及び各請求項を引用する請求項2~5、7に係る発明は、明確でない。
2 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1) 検討・判断
ア 本件特許の特許請求の範囲について
本件特許の特許請求の範囲の記載は、令和3年1月19日に提出された手補正書による補正(以下「第1補正」ともいう。)、令和3年8月26日に提出された手続補正書による補正(以下「第2補正」ともいう。)、及び令和5年1月5日に提出された手続補正書による補正(以下「第3補正」ともいう。)により補正されている。
イ 「前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグを設定する」ことについて
(ア) 本件特許発明1の「前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグを設定」することは、第2補正で請求項4を「前記制御部は、前記ショベルが作業不可状態、及び、作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグを設定する」との事項を、「前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグを設定する」と補正し(下線は、補正箇所を示す。)、第3補正で、請求項1~3を削除した際に、請求項1に繰り上げたものである。
(イ) 本件特許発明6の「前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグを設定する」ことは、第2補正で請求項12を「前記制御部は、前記ショベルが作業不可状態、及び、作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグを設定する」との事項を、「前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態、及び、作業を開始する前の作業可能状態、の何れであっても前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグを設定する」と補正し(下線は、補正箇所を示す。)、第3補正で、請求項1~3、及び9~11を削除した際に、請求項6に繰り上げたものである。
ウ 当初明細書等の記載について
当初明細書の段落【0201】に「次に、図22~図25を参照して、警報制御手段13が人存否判定手段12の判定結果と、作業機械状態判定手段14の判定結果とに基づいて警報出力部7を制御する処理(以下、「第2警報制御処理」とする。)について説明する。なお、図22は、第2警報制御処理の流れを示すフローチャートであり、図23は、第2警報制御処理中に表示される出力画像の推移の一例を示す。また、図24は、作業機械状態判定手段14が作業機械の状態を判定する処理(以下、「作業機械状態判定処理」とする。)の流れを示すフローチャートであり、図25は、作業不能状態から作業可能状態への切り替わり時に警報制御手段13が警報出力部7を制御する処理(以下、「作業開始時警報制御処理」とする。)の流れを示すフローチャートである。なお、警報制御手段13は、所定周期で繰り返し第2警報制御処理を実行し、作業機械状態判定手段14は、所定周期で繰り返し作業機械状態判定処理を実行する。また、警報制御手段13は、作業不能状態から作業可能状態への切り替わり時に作業開始時警報制御処理を実行する。」、段落【0206】に「また、作業機械状態判定手段14によりショベル60が作業可能状態にないと判定された場合(ステップS22のNO)、人存否判定手段12は、検出信号を警報制御手段13に対して出力せず、NVRAM等に用意された人検出フラグの値を「1」(オン)に設定する(ステップS24)。なお、人検出フラグは、初期値として値「0」(オフ)が設定されており、検出フラグの値「1」(オン)は人を検出したことを表し、検出フラグの値「0」(オフ)は人を検出していないことを表す。この時点では、警報制御手段13は、検出信号を受けないため、警報開始信号を警報出力部7に対して出力することはなく、警報出力部7から警報を出力させることもない。また、警報制御手段13は、既に警報出力部7に対して警報開始信号を出力していた場合にはそれら警報出力部7に対して警報停止信号を出力してもよい。また、画像生成手段11は、表示部5が起動している場合には、ショベル60の周囲に人が存在すると判定されているにもかかわらず、人が存在しないと判定された場合と同様の出力画像を表示する。具体的には、画像生成手段11は、例えば図23の出力画像D32に示すような路面高さ基準の周辺監視用仮想視点画像を表示する。但し、画像生成手段11は、路面高さ基準の周辺監視用仮想視点画像を頭高さ基準の周辺監視用仮想視点画像に切り換えてもよい。」と記載されており、【図22】は次のものである。
「
[図:0001426791000003.jpg]
」
また、段落【0227】に「また、画像生成装置100は、人存否判定手段12が動体検出センサに基づいて作業者(動体)の存否を判定する場合、ショベル60が作業不可状態にあるときに監視空間内に進入して静止している作業者を、ショベル60が作業可能状態になったときに検出し損ね、ショベル60の操作者がその作業者に気付かないままショベル60による作業を開始してしまうのを防止できる。」と記載されている。
エ 検討・判断
(ア) 本件特許発明1及び6の記載事項に係る特許権者の主張
a 第2補正に関し、特許権者が令和3年8月26日に提出した意見書において、「請求項2、4、9、及び12のそれぞれにおける記載「作業不可状態」を「作業を開始する前の作業不可状態」に補正しました。
また、請求項1、4、11、及び12のそれぞれにおける記載「作業可能状態」を「作業を開始する前の作業可能状態」に補正しました。
これらの補正は、明細書の段落[0227]の記載「画像生成装置100は、人存否判定手段12が動体検出センサに基づいて作業者(動体)の存否を判定する場合、ショベル60が作業不可状態にあるときに監視空間内に進入して静止している作業者を、ショベル60が作業可能状態になったときに検出し損ね、ショベル60の操作者がその作業者に気付かないままショベル60による作業を」開始してしまうのを防止できる。」等に基づいており、特許法第17条の2の規定に反するものではありません。」と主張している。
b また、令和6年3月25日に提出された意見書の「(4-2-1)「ア 「前記ショベルが作業を開始する前」について」において、特許権者は次のように主張している。
「段落[0201]の記載「次に、図22~図25を参照して、警報制御手段13が人存否判定手段12の判定結果と、作業機械状態判定手段14の判定結果とに基づいて警報出力部7を制御する処理(以下、「第2警報制御処理」とする。)について説明する。」、及び、段落[0224]の記載「以上の構成により、画像生成装置100は、監視空間内に人が存在すると判定した場合であってもショベル60が作業不可状態の場合には警報を出力しない。」から明らかなように、それに続く段落[0227]及び段落[0228]の記載は、図22~図25を参照して説明された処理によって実現される効果に関します。
具体的には、段落[0227]の記載は、上述のように、省略された部分を補うと、「また、画像生成装置100は、人存否判定手段12が動体検出センサに基づいて作業者(動体)の存否を判定する場合(この場合、作業者が(静止していないため)存在すると判定されたときには人検知フラグはオンに設定されますが警報は出力されません。図22のステップS24及び段落[0224]参照)、ショベル60が(作業を開始する前の)作業不可状態にあるときに監視空間内に進入して静止している作業者(既に存在していると判定されて人検知フラグがオンに設定される原因となった作業者)を、ショベル60が(作業を開始する前の)作業可能状態になったときに検出し損ね(た場合であっても、それ以前に人検知フラグがオンに設定されているときには、警報が出力される(図25のステップS42参照)ので)、ショベル60の操作者がその作業者に気付かないままショベル60による作業を開始してしまうのを防止できる。」となります。括弧で囲まれた下線部は、省略された部分を補った部分です。
そして、請求項1における「前記ショベルが作業を開始する前の」という記載は、段落[0227]の最後の記載「ショベル60による作業を開始してしまうのを防止できる。」から明らかであると考えます。段落[0227]は、ショベル60による作業を開始する前の作業不可状態のときにショベル60の周囲における作業者が検出されたときには、人検知フラグがオンに設定されるため(そして、その後にショベル60による作業を開始する時点で警報が出力されるため)、ショベル60の操作者がその作業者に気付かないままショベル60による作業を開始してしまうのを防止できる旨を記載しているためです。段落[0228]の記載についても同様です。
また、「前記ショベルが作業を開始する前の作業不可状態」において「前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグをオンに設定」することは、段落[0206]の記載「作業機械状態判定手段14によりショベル60が作業可能状態にないと判定された場合(ステップS22のNO)、人存否判定手段1 2 は、検出信号を警報制御手段13に対して出力せず、NVRAM等に用意された人検出フラグの値を「1」(オン)に設定する(ステップS24)。」にも記載されています。
また、「作業を開始する前の作業可能状態」において「前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグをオンに設定」することは、段落[0206]の記載「なお、人検出フラグは、初期値として値「0」(オフ)が設定されており、検出フラグの値「1」(オン)は人を検出したことを表し、検出フラグの値「0」(オフ)は人を検出していないことを表す。」からも明細書に実質的に記載されていると考えます。段落[0206]の記載「検出フラグの値「1」(オン)は人を検出したことを表し」は、ショベルが作業不可状態にあるか作業可能状態にあるかにかかわらず、ショベルの周囲における人が検出されている場合に人検知フラグがオンに設定されることを開示しているためです。」
(イ) 検討・判断
前記(ア)に示した特許権者の主張において「作業を開始する前」とは、図22のフローチャートのステップS22以前の時点を示す旨の主張を行っていると解することができる。
しかしながら、前記(ア)に示した特許権者の主張を参酌しても、「人検知フラグ」を「設定」することについて、当初明細書等には「作業機械状態判定手段14によりショベル60が作業可能状態にないと判定された場合(ステップS22のNO)、人存否判定手段12は、検出信号を警報制御手段13に対して出力せず、NVRAM等に用意された人検出フラグの値を「1」(オン)に設定する」ことが記載されているのみであって、「作業を開始する前の作業可能状態」において「前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグを設定」することについて記載がなく、当該事項が記載されていることが自明ともいえない。
そうすると、本件特許発明1及び6のそれぞれに対応する請求項の記載において、「作業を開始する前の作業可能状態」に「前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグを設定する」ことを特定した第3補正が、「当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとき」に該当するとはいえない。
したがって、本件特許発明1~7の特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたことに該当する。
オ 分割要件ついて
前記エに示したとおり、「作業を開始する前の作業可能状態」に「前記ショベルの周囲における人を検出すると人検知フラグを設定する」ことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入したものであるが、同様に、前記の事項が、本件特許の原出願である特願2018-156226号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面にも記載されたものでなく、記載されていることが自明ともいえないから、原出願の当初明細書等及び原出願の分割直前の明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、分割要件を満たしていない。
よって、本件特許の出願日は、現実の出願日である令和2年4月28日である。
第8 むすび
第7に示したとおり、本件特許発明1~7は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、本件特許発明1、6及び各請求項の記載を引用する本件特許発明2~5及び7は明確でなく、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号の規定により取り消されるべきものである。
また、本件特許発明1~7の特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたことに該当するから、同法113条1号の規定により取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-701125