特許拒絶査定不服審判
2023-020707
管腔臓器の視覚化に関するプログラム及び方法
- 審判番号
- 2023-020707
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-028071
- 請求日
- 2023年12月05日
- 審決日
- 2025年01月28日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】陳 昭成
- 【請求人代理人】弁理士法人服部国際特許事務所
- 【請求人】陳 昭宇
- 【請求人代理人】弁理士法人服部国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 南 宏輔
- 審判官 伊藤 幸仙
- 審判官 ▲高▼見 重雄
- 分類
- P18 .121-Z (A61B) / P18 .57 -Z (A61B) / P18 .575-Z (A61B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-28071「管腔臓器の視覚化に関するプログラム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔令和4年9月15日出願公開、特開2022-135986〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」と記す。)は、令和4年2月25日(パリ条約による優先権主張 2021年3月5日 米国)の出願であって、令和5年1月6日付けで拒絶理由が通知され、これに対し同年4月13日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月31日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされたところ、同年12月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。
第2 令和5年12月5日付けの手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
令和5年12月5日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
〔理由〕
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の全文、及び明細書の段落【0007】及び同段落【0013】を補正するものであって、その補正内容は、特許請求の範囲について、【請求項1】を
「【請求項1】
コンピュータを使用して管腔臓器を視覚化し、3D管状物体の内部構造を表示させるプログラムであって、
3D管状物体を構築するアルゴリズムを用いて、自動的に3D管状物体のシェルを生成する手順と、
3D管状物体の中心線を表す特徴点を抽出し、隣接する2つごとの特徴点を繋ぎ、デジタル化する手順と、
自動によりシェルをいくつかのセグメントに分割する手順と、
3D管状物体を操作する手順とを、コンピュータに実行させる管腔臓器の視覚化に関するプログラム。」(以下「補正前請求項1」という。)
から
「【請求項1】
コンピュータを使用して管腔臓器を視覚化するプログラムであって、
3D管状物体を構築するアルゴリズムを用いて、自動的に3D管状物体のシェルを生成する手順と、
自動または手動によりシェルをいくつかのセグメントに分割する手順と、
3D管状物体を操作する手順とを含み、3D管状物体の内部構造を歪みなく表示する管腔臓器の視覚化に関するプログラム。」(以下「補正後請求項1」という。下線部は補正箇所を示す。)
と補正するものを含むものである。
2.本件補正の目的について
(1)本件補正のうち、請求項1についての補正は、前記「1.」より以下の補正1ないし4の補正項目を含むものである。
(補正1)「コンピュータを使用して管腔臓器を視覚化」する「プログラム」を「3D管状物体の内部構造を表示させる」プログラムから、「3D管状物体の内部構造を歪みなく表示する」プログラムに限定する。
(補正2)プログラムに規定された手順のうち、「3D管状物体の中心線を表す特徴点を抽出し、隣接する2つごとの特徴点を繋ぎ、デジタル化する手順」を削除する。
(補正3)プログラムに規定された手順のうち、「シェルをいくつかのセグメントに分割する手順」を、「自動により」分割する手順から「自動または手動により」分割する手順に変更する。
(補正4)「コンピュータを使用して管腔臓器を視覚化」する「プログラム」を規定された各手順を「コンピュータに実行させる」プログラムから、規定された各手順を「含む」プログラムに変更する。
(2)前記「補正2」については、補正前請求項1に係る発明を特定する「3D管状物体の中心線を表す特徴点を抽出し、隣接する2つごとの特徴点を繋ぎ、デジタル化する手順」をプログラムが含む、という技術事項を削除するという、直列的に記載された発明特定事項の一部を削除する補正であることから、当該「補正2」の補正項目によりなされた補正は補正前請求項1に係る発明を減縮する補正に該当しない。
(3)前記「補正3」については、補正前請求項1に係る発明を特定する「自動によりシェルをいくつかのセグメントに分割する手順」を「自動または手動によりシェルをいくつかのセグメントに分割する手順」に変更するという、択一的記載の要素を付加する補正であることから、当該「補正3」の補正項目によりなされた補正は補正前請求項1に係る発明を減縮する補正に該当しない。
(4)また、前記「(2)及び(3)」で検討した「補正2」及び「補正3」の補正項目は、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とする補正とも認められない。
(5)以上のことから、前記「補正2」及び「補正3」の補正項目を含む請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げる事項の何れかを目的とするものであるとは認められず、同条同項の規定に違反する補正、いわゆる目的外補正であると認められる。
(6)よって、前記請求項1についての補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
3.補正後請求項1が独立特許要件違反であるかどうかについて
前記「2.」で説示したとおり、請求項1についての補正は、目的外補正であると認められるが、仮に前記「補正1」ないし「補正4」の補正項目がすべて特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合に、補正後請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明1」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)サポート要件違反について
ア 前記「補正1」で補正されたことにより新たに特定された「3D管状物体の内部構造を歪みなく表示する」という技術事項のうち、「歪みなく表示する」という記載(以下「記載1」という。)について、以下に検討する。
(ア)前記記載1における「歪みなく」とは、どのような表示を行えば「歪みなく」表示することになるのか、本願の発明の詳細な説明には一部の表示手法が例示されているものの、出願時の技術常識に照らしても「歪みなく」という記載が示す表示手法の範囲が不明であり、発明の詳細な説明に開示された発明の課題を解決するための手段が反映されていない発明を包含するものであるから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっている。
(イ)前記記載1に関係する本願の明細書の記載は、以下のとおりである(下線は当審で付与した。)。
a「【0001】
既存のfly-through法(仮想内視鏡検査)及びCPR法(curved planar reformation)と比較して、仮想内視鏡の位置は管腔臓器内に制限されているため、ひどい歪みは避けられない。さらに、CPR法は画像が本質的に静的な二次元(2D)画像であり、死角が多いため、インタラクティブな視覚化機能が提供できない。本発明では、管腔臓器の一部が除去され、その結果、仮想内視鏡をどこにでも配置できるようになったため、仮想内視鏡と検査対象の管腔臓器の壁との間の距離が短いことによるひどい歪みを回避することができる。」
b「【0003】
医師は、fly-through法に関する技術を、使用することがよくあり、臨床現場では徐々に一般的になりつつある。しかし、fly-through法には次の欠点がある。
(1)仮想内視鏡の視野(FOV)が制限されているため、表示される表面の視界範囲が狭くなる。その結果、医師が多くの時間をかけて大腸などの器官の内腔を全部検査しなければ、多くの死角が見えない。
(2)視覚化された表面積を最大化するために、大腸などの内腔のナビゲーションは、順行方向と逆行方向の両方で実行する必要があり、非常に時間がかかる。
(3)大腸などの管腔臓器のひだの周りに隠れている小さなポリープを視覚化することは困難である。
(4)大腸などの内腔は常に不規則な形状であるため、方向が乱れやすくなる。
(5)透視投影(perspective projection)が使用されるため、画像の歪みが避けられない。特に仮想内視鏡を非常に狭い管腔に置かなければならないため、検査対象の大腸の壁に非常に近く、画像にかなりの歪みが生じる。
(6)仮想内視鏡が管腔内を移動しており、管腔臓器の全体構造が見えないため、管腔が徐々に狭くなったり広がったりするのが簡単に検出できない。この点は、血管の検査用途では特に重要である。
【0004】
医学界で確立された技術であるCPR法は、物体の中心線に従ってデータセットを再サンプリングして視覚化する。そして、さまざまなプロパティ(例えば、最小及び最大の血管径、平均減衰)も推定して表示できる。しかし、CPR法には次の欠点がある。
(1)CPR法は幾何学的マッピングに基づいているため、幾何学的歪みは避けられない。したがって、重要な診断機能が変更されたり、削除されたりする可能性がある。
(2)これらの画像は物体の3D立体画像に見えるが、実際には静的な2D平面画像であり、大腸などの内部構造の実際の形状を明らかにするためにインタラクティブに回転させたり、さまざまな視点から表示することはできない。そのため、大腸などの管腔臓器のひだには見えない死角が多い。
(3)CPR法により平坦化された画像は実際には歪んだ画像であるため、正常である領域でも異常があるように見える場合がある。その影響で、医師は誤って完全に正常なところを検査して多くの時間を浪費する可能性がある。
【0005】
現在の医療用途に適用した視覚化技術では、非常に歪んだ臓器の画像しか生成できず、臓器の実際の長さが映し出せなく、目立った歪みのない管腔臓器の内部構造の直接視覚化などの重要な特性も実現できない。これらの問題は長年続いており、まだ解決されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既存の方法は、非常に歪んだ3D管状物体の内部構造の画像しか生成できない。
本発明は、上述に鑑みてなされたものであり、その目的は、3D管状物体の内層、外層を簡単に取得できる方法とコンピュータ画面で3D管状物体の移動、または回転などの操作する管腔臓器の視覚化に関するプログラム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の管腔臓器の視覚化に関するプログラムは、3D管状物体の中心線をいくつかのセグメントに分割し、各セグメントは円柱に似ている形状にする。各セグメントは、3D管状物体の一部を除去するための基本的な操作ユニットとして使用されることで、各セグメントの内部構造をインタラクティブに視覚化する。
本発明は、3D管状物体の内部構造を歪みなく視覚化及び直接操作するためのアルゴリズムを用いたプログラムである。
本発明の管腔臓器の視覚化に関するプログラムは、コンピュータを使用して3D管状体(不規則な形の血管、気管支、大腸など)を構築するアルゴリズムを用いて、自動的に3D管状物体のシェル(内層、外層)を生成する手順と、自動または手動(利用者が指定した設定)により、シェルをいくつかのセグメントに分割する手順と、3D管状物体を操作する手順とを含み、3D管状物体の内部構造を歪みなく表示する。
本発明の管腔臓器の視覚化に関する方法は、管状物体の内部構造を直接操作するための方法であって、入力データを設定し、管状物体をエンコードし、ボクセル形式を使用して3D管状物体を表すステップと、物体の外シェルと内シェルが含まれるシェルを計算して生成するステップと、3D管状物体の中心線を計算するステップと、3D管状物体の中心線をデジタル化するステップと、3D管状物体の各セグメントを操作し、各セグメントの中心線に従って、物体の特定の部分を削除するための切断面またはマスクを自動的に生成し、3D管状物体の内部構造を視覚化するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の管腔臓器の視覚化に関するプログラムによると、医療用3D画像表示プログラムに用いることができる。3D管状物体の内部構造を本物のように目立った歪みなしに視覚化して操作することができる。」
c「【0021】
(b) 3D管状物体の表面に切れ目を入れる操作
本発明と従来の実内視鏡検査または仮想内視鏡検査との主な違いは、3D管状物体の表面に切れ目を入れる操作である。従来の実内視鏡検査または仮想内視鏡検査では、実内視鏡検査または仮想内視鏡は視覚化の目的で血管、気管支、大腸などの内腔に配置される。そのため、カメラと観察対象との距離が短すぎて画像が大きく歪んでしまう問題がある。さらに、視野は管腔臓器の内部に制限されているため、管腔臓器の全体的な形態を視覚化することも非常に困難である。
本発明では、管腔臓器の表面に切れ目を入れることにより、観察対象が切れ目を通して見える限り、仮想内視鏡を任意の視点に配置でき、観察対象と適切な距離を取って歪みなく観察できる。また、全体的な形態を簡単に視覚化できることも利点である。」
d「【0023】
3D管状物体の内部構造を歪みなしに視覚化する必要がある多くの用途では、本発明を使用することができる。たとえば、血管、気管支、大腸の内部構造の視覚化など、多くの医療アプリケーションに本発明が適用できる。」
(ウ)前記「(イ)」の下線箇所より、本願の発明の課題は、非常に歪んだ3D管状物体の内部構造の画像しか生成できないことであり、その課題を解決する手段である「歪みなく表示する」ことの例として、
a 3D管状物体の表面に切れ目を入れることにより、3D管状物体内部構造の観察対象が切れ目を通して見えるようにし、仮想内視鏡を任意の視点に配置するようにして、観察対象と適切な距離を取った表示を行うことにより歪みなく表示すること
b その表示は、既存の透視投影(perspective projection)が使用されるfly-through法(仮想内視鏡検査)及び幾何学的マッピングを用いるCPR法(curved planar reformation)とは異なること
が開示されていると認められるが、前記「a及びb」以外のどのような「歪みなく表示する」手法が含まれるのかについては、本願の発明の詳細な説明には開示されていない。
(エ)画像の表示においては、ディスプレイ等に表示される画像は、裸眼で対象物を観察した時に捉えられるイメージ(以下「裸眼観察像」という。)とは異なり、光学、電磁気、超音波等の技術により対象物からの応答を測定しその測定したデータを処理して画像化するものであるから、その画像化されたものには程度の差こそあれ「歪み」が生じることは、本願の出願時において当業者に広く知られた常識的事項である。よって、前記「歪みなく表示する」という発明特定事項により本件補正発明1の範囲を特定するには、どのような基準を満たせば「歪み」のない画像を表示するといえるのかを示すための「基準」が必要であるが、当該「基準」を特定するための記載は、補正後請求項1には見受けられず、当該「基準」が本願の出願時において当業者に技術常識として広く知られた常識的事項であるとも認められない。ゆえに、「歪みなく表示する」という記載により特定される本件補正発明1は、「歪みなく」と判断する基準が当業者において技術常識ではないことから、上記「(ウ)a及びb」に示した表示手法以外のあらゆる表示手法を包含する発明であり、そのような本件補正発明1は、「非常に歪んだ3D管状物体の内部構造の画像しか生成できないこと」という発明の課題を解決する手段を含まない態様を包含するものとなっている。したがって、本件補正発明1は、上記発明の課題を解決する手段を反映していない態様を含む発明であり、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっている。
(オ)以上のことから、「歪みなく表示する」という特定事項で特定される本件補正発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
イ 以上前記「ア」で説示した理由により、本件補正発明1は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、そのため本件補正発明1は特許出願の際独立して特許を受けることができない発明である。
(2)新規性及び進歩性について
ア 本件補正発明1の項目分け
本件補正発明1は、前記「1.」に記載した「補正後請求項1」により特定される発明であるが、以下の「ウ 対比」及び「エ 判断」で用いるために、当該本件補正発明1について、以下のように各構成単位に分けることを行う。ここで、各構成単位冒頭の「1A」等は当審にて付した分説記号であり、以下当該構成単位について「構成1A」などという。
「【請求項1】
1A コンピュータを使用して管腔臓器を視覚化するプログラムであって、
1B 3D管状物体を構築するアルゴリズムを用いて、自動的に3D管状物体のシェルを生成する手順と、
1C 自動または手動によりシェルをいくつかのセグメントに分割する手順と、
1D 3D管状物体を操作する手順とを含み、
1E 3D管状物体の内部構造を歪みなく表示する管腔臓器の視覚化に関するプログラム。」
イ 引用例1及び引用発明
原査定の拒絶の理由2において引用文献1として引用された、本願の優先日前である平成13年(2001年)9月4日に頒布された「特表2001-513923号公報」(以下「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同様。)
(ア)「【特許請求の範囲】
1 内腔または管腔を有する組織の三次元表現をインタラクティブに描写して異常壁厚領域を表示するためのコンピュータにより実行される方法であって、
a 三次元組織に関速する少なくとも一つの物性を示す一連の二次元画像から三次元ボリュームデータを形成し、
b 選択された関心領域を示す物性の所定値に基づいてボリュームデータから該関心領域の等表面を作り、
c 複数の頂点より構成される該等表面のワイヤフレームモデルを作成し、
d 該ワイヤフレームモデルの頂点を異常壁組織を示す特性を有する個体群に分類し、
e 該ワイヤフレームモデルをインタラクティブな三次元ディスプレイに描写して前記個体群を表示する、ことを特徴とする方法。」(第2頁第1-12行)
(当審注:上記「a 三次元組織に関速する」は「a 三次元組織に関連する」の誤記と認める。)
(イ)「好適な実施例の説明
本発明は概して、図1~図4に概略的に示されるように、管腔や内腔を有する三次元組織のインタラクティブな三次元画像表現を作成するための方法およびシステムに関する。組織体は通常の場合、生体の選択された領域、特に結腸、血管、気道等の中空腔体を有する人体や動物の生体器官の概形をなしている。本発明によれば、コンピュータ制御された方法において、たとえば選択された生体器官について螺旋状CTスキャンから得られた一連の二次元的断面画像からインタラクティブな三次元表現が作成される。この三次元表現は、コンピュータシステムのモニタ等の視覚的ディスプレイ上でユーザが操作することにより三次元組織の内部、その回りまたはその中を通って移動させることができ、しかも同時に該移動に応じて変化する中心点またはユーザが選択した中心点上にマルチ平面画像をディスプレイすることができる点においてインタラクティブである。」(第8頁第24行-第9頁第7行)
(ウ)「図1に戻って、関心領域のセグメント化が終了した後ステップ37で関心領域の等表面を創出する。等表面はマーチングキューブアルゴリズムの変形(variant)を用いて作り出すことができる。次いでステップ38でこの等表面を用いてワイヤフレームモデルを作る。ワイヤフレームモデルは関心領域の表面に対応する多角形メッシュよりなる。」(第15頁第10-14行)
(エ)「表現組織を通じてナビゲートする代わりに三次元表現組織の断層(split open)写真を表示して、ユーザが位相マップのような組織内面を見ることができるようにしても良い。断層表示は既述した順序づけし直された連結行列を中央線を用いてワイヤフレームモデルを幾つかの小さなセグメントに分割し、各セグメントを半分に分割してその内面を露出させることによって行うことができる。連結行列を用いることによって、ワイヤフレームモデルの中央線の全体曲率の如何に拘わらずにワイヤフレームの分割を行うことができる。この手法は、たとえば単一の無限切断面、球形切断面または円形切断面に見られるような従来から用いられている他の分割平面技術に内在する数学的制約を克服し、ワイヤフレームの多角形リストを横切る唯一の通路で任意数のセグメントを分割することを可能にする。
分割は、まず最初に曲がった切断面を一連の有限交差面に近似させることによって行われる。これらの面はワイヤフレームモデルの中央通路を含み、すなわち該中央通路を通っている。中央通路の決定は、図8に示すように、まず結腸や内腔の内部に中間的に位置しているポイントを作り出すことによって行うことができる。次に、検出された中間ポイントを接続された中央通路とリンクづけ、解剖組織上の変位や画像セグメント化による人為物によって発生した小さなホールを通る付帯的通路を取り除くことによって結腸を映像化するに最も適切な通路を選択する。
中央通路アルゴリズムはオブジェクトの三次元骨格を用いてその内腔中央に沿って横たわる通路を見出す。まずユーザが通路のための出発地点と最終地点を選ぶ。これらは多平面画像ディスプレイとコンピュータマウスを用いて選ぶことができる。出発地点と最終地点を選択した後、アルゴリズムはオブジェクトの領域成長セグメント化データ(region-grown segmented data)の三次元位相薄肉化(three dimensional topological thinning)を行う。薄肉化は玉ねぎの皮を剥くことに似ており、オブジェクトの外層を除去して全体の位相(形状)を保存するものである。得られた組織は、地点を結んだときに概して一次元曲線と二次元表面とからなるオブジェクトの三次元骨格である。薄肉化位相は同値類を用いて改善することにより、全ての可能性有る近隣関係(neighboring relationship)をサーチすることなく、ボクセルの近傍に分類される。
この三次元位相薄肉化方法は3つの点において優れている。第一に、多くの従来法において用いられているように全ての可能性有る近隣関係をサーチすることに代えて同値類に基づいて行うものであるため、連続性の決定がより効率的である。
第二に、薄肉化方法は一つの背景点のみを調査すれば足りる。待ち行列(queues)と呼ばれる特別のデータ組織を用いて薄肉化効率を高めることができる。この方法は、単一通路の間にオリジナルボリュームを通過した後に待ち行列の中に表面地点(除去の候補となっている領域成長オブジェクトの外面上のボクセル)をストアすることによって、従来法よりも時間の短縮が可能である。薄肉化が進行する間、待ち行列上の表面地点が除去されるたびに新たに露出された表面地点が待ち行列に加えられる。待ち行列が空になったときに薄肉化工程が終了する。
第三に、三次元領域成長オブジェクトに対する距離変換が計算される。オブジェクト内の地点の距離変換はこの地点からオブジェクト内にない最も近いボリューム地点までの距離である。距離変換を用いてオブジェクトの内腔における最大内接球中心(CMB)を見出す。CMBはオブジェクトの内腔にフィットし得る最大球と考えることができる。CMBの中心は薄肉化処理におけるアンカーポイントとして用いることができ、作り出された中央通路を元のオブジェクト(すなわち結腸)の向きに対して中間に位置して非求心的である(insensitive)ようにしている。
薄肉化処理において中間に位置する曲線や表面の分岐が数多く発生するが、ユーザが規定した出発地点と最終地点を用いて行き止まりの分岐を取り除<。結果として、指定された地点から出発し終端する曲線が得られるが、この曲線にはオブジェクトを通って同一の場所に至る付随的通路を示すループが含まれている可相性がある。
通路選択フェーズは骨格点を結んでグラフにおいてエッジと呼ばれる線につなげることにより骨格点をグラフ表示化する。複数の線が出合う点がグラフの頂点である。グラフが作成された後、線上の点に関連するCMBの径に基づいて不要エッジを取り除く。この作業は薄肉化位相中に適用される距離変換から取られる。
通路選択の次のステップは基本的にグラフ現象処理である。グリーディ(Greedy)サーチアルゴリズムがこの目的のために用いられ、これにより最大重みを持つ2つを除いて各頂点における全てのエッジが取り除かれる。各エッジの重みはエッジの地点の半径の関数である。一つの有効な重みづけ方法によればエッジ上の全ての点の最小CMBを見出す。あるいはユーザがマニュアル的に不正確なエッジを抽出しても良い。全ての不正確なエッジが取り除かれた後に残るエッジがオブジェクトの内腔に沿って延長する中央通路、たとえば結腸の中央通路を形成する。
あるいはセグメント化されたオブジェクトの内腔に内在する第1のシードポイント(seed point)を選択することによって中央通路を決定しても良い。このポイントを通りオブジェクト解剖体の最小面積を有する平面を決定し、該断面積の中心を求める。次いで、第1シードポイントを通る最小面積平面に対して直角方向に第1シードポイントから所定距離離れて位置する新たなシードポイントを選択する。新たなシードポイントを通る最小面積平面を求め、その中心を算出する。これを繰り返して中心を結ぶ中央通路を決定する。
図10aを参照して、中央線305を有する結腸300のセグメントが模式的に示されている。オブジェクトの分割に戻って、図10bに示すように中央通路に沿ってポイント310,312,314を可変的に副標本化することにより、線分320で接続された連続点シーケンスを決定する。一つのポイントで連結された一対の線分について、該ポイントを含んで線分(中央通路の一部)に直交するスライス面325を算出する。図10cに示すようにこれら線分の各々について二等分平面330を求める。第1の二等分平面330は、線分320と、該線分に直交する所定軸からオフセットしている角度によって任意に指定されたポイント340とを含むように定められる。図10dに示すようにオフセット角度を変化することによって二等分平面330は(時計の針のように)線分の回りを回転する。第2の二等分平面332は、第2の線分と、第1の二等分平面と第1のスライス面との交線を含むように定められる。この第2の二等分平面は第1の二等分平面の向きに従属する唯一のものである。したがって最初の二等分平面を回転させると第2の二等分平面も回転する。同様にして、第2の二等分平面323は第3の線分と、第2の二等分平面と第2のスライス面との交線を含むように定められ、以降も同様である。得られた二等分平面の連続体は中央通路に追従する湾曲切断面に近似したものであり、得られたスライス面は順序づけし直された連結行列と共に二等分平面に沿って分割するのに用いられる。
次いで図10eに示すようにして、最初のシード多角形350を選択しマーキングすることによってワイヤフレームモデルの分割を行う。順序づけし直された連結行列を用いて、シードに隣接する多角形を第1スライス面325に対してチェックし、これらをシード多角形と同じ側にマーキングする。新たにチェックされマークされた多角形の各々が新たなシードとなり、元のシード多角形に連続して接続された全ての多角形をマークするまで、同様にして未チェック・未マークの多角形の各々を第1スライス面に対してチェックする。図10fに示すように、これらマーク済み多角形の各々を次いで第1二等分平面330に対してチェックし、平面330に沿って分割して図10gに示すように結腸半体360,361を得る。最後にマークされた多角形に隣接する未マーク多角形はこの処理の次の反復のためのシードとして用いられ、このようにして全ての多角形がマーク・チェックされるまで処理を繰り返す。図10hに示すように、分割および二等分により得られたセグメント360と361、370と371、380と381、390と391は個々にあるいはグループごとにディスプレイすることができ、また内外面を容易に認識できるように強調色をつけることができる。」(第23頁第11行-第27頁第4行)
(オ)「【図4】
[図:0001424147000001.jpg]
」
(カ)「【図10】
[図:0001424147000002.jpg]
[図:0001424147000003.jpg]
[図:0001424147000004.jpg]
」
(キ)前記「(ア)」の「内腔または管腔を有する組織の三次元表現をインタラクティブに描写して異常壁厚領域を表示するためのコンピュータにより実行される方法」は、コンピュータにより実行されることから、コンピュータにより実行可能なプログラムに該方法で行う各手順又は各ステップが記述されていることは明らかである。よって、引用例1には、「内腔または管腔を有する組織の三次元表現をインタラクティブに描写して異常壁厚領域を表示するためのコンピュータにより実行されるプログラム」も開示されていると認められる。
(ク)前記引用例1の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
当該引用発明1についても、前記本件補正発明1と同様に、以下のように各構成単位に分けることを行う。ここで、各構成単位冒頭の「a,b,・・」等は当審にて付した分説記号であり、以下当該構成単位について「構成a,b,・・」などという。また、括弧内の符号は、各構成単位を認定した参照箇所を示す。
「1a 管腔を有する組織の三次元表現をインタラクティブに描写して異常壁厚領域を表示するためのコンピュータにより実行される方法及びプログラムであって、(前記(ア)(イ)(オ)(キ)参照)
1b 三次元組織に関連する少なくとも一つの物性を示す一連の二次元画像から三次元ボリュームデータを形成し、(前記(ア)参照)
1c 選択された関心領域を示す物性の所定値に基づいてボリュームデータから該関心領域の等表面を作り、(前記(ア)(ウ)参照)
1d 関心領域の等表面を用いて関心領域の表面に対応する多角形メッシュよりなるワイヤフレームモデルを作り、(前記(ア)(ウ)参照。)
1e 中央通路アルゴリズムにより内腔中央に沿って横たわる中央通路を見出し、(前記(エ)(カ)参照)
1f 中央線を用いてワイヤフレームモデルを幾つかの小さなセグメントに分割し、(前記(エ)(カ)参照)
1g 各セグメントを半分に分割してその内面を露出させることによって断層表示を行う、(前記(エ)(カ)参照)
1h 具体的には、中央線305を有する結腸300のセグメントにおいて、中央通路に沿ってポイント310,312,314を可変的に副標本化することにより、線分320で接続された連続点シーケンスを決定し、これら線分の各々について二等分平面330を求め、平面330に沿って分割して結腸半体360,361を得、この処理を繰り返し、分割および二等分により得られたセグメント360と361、370と371、380と381、390と391を個々にあるいはグループごとにディスプレイし、(前記(エ)(カ)参照)
1i インタラクティブな三次元表現は、コンピュータシステムのモニタ等の視覚的ディスプレイ上でユーザが操作することにより三次元組織の内部、その回りまたはその中を通って移動させることができる、(前記(ア)(イ)(エ)(オ)参照)
1a 方法及びプログラム。」
ウ 対比
本件補正発明1を、引用発明と比較する。
(ア)本件補正発明1の構成1Aについて
a 引用発明の構成1aの「管腔を有する組織」は、本件補正発明1の構成1Aの「管腔臓器」に相当する。
b 引用発明の構成1aの「管腔を有する組織の三次元表現をインタラクティブに描写して異常壁厚領域を表示する」ことは、本件補正発明1の構成1Aの「管腔臓器を視覚化する」ことに相当する。
c 前記「a及びb」を総合勘案すると、引用発明の構成1aの「管腔を有する組織の三次元表現をインタラクティブに描写して異常壁厚領域を表示するためのコンピュータにより実行される」「プログラム」は、本件補正発明1の構成1Aの「コンピュータを使用して管腔臓器を視覚化するプログラム」に相当する。よって、引用発明は本件補正発明1の構成1Aに相当する構成を備えているといえる。
(イ)本件補正発明1の構成1Bについて
a 引用発明の構成1d及び構成1fの「ワイヤフレームモデル」は、引用発明の構成1dより、関心領域の表面に対応する多角形メッシュよりなるワイヤフレームモデルである。そして、前記関心領域の具体例は構成hに「結腸300」として示されている。したがって、引用発明の構成1dの「結腸300」及び「ワイヤフレームモデル」は、それぞれ本件補正発明1の構成1Bの「3D管状物体」及び「3D管状物体のシェル」に相当し、引用発明の構成dの「ワイヤフレームモデルを作」ることは、本件補正発明1の構成1Bの「3D管状物体のシェルを生成する」ことに相当する。
b 引用発明の構成1dの「ワイヤフレームモデル」は、引用発明の構成1bないし構成1dの手順がコンピュータにより実行されて作成されることから、引用発明の構成1bないし構成1dの手順がコンピュータで実行される時に当該コンピュータで動作しているアルゴリズムは、本件補正発明1の構成1Bの「3D管状物体を構築するアルゴリズム」に相当する。
c 前記引用発明の構成1bないし構成1dの手順はコンピュータで実行される手順であり、仮に構成1cの関心領域を示す物性の所定値の選択が、コンピュータの外部から選択されるものであったとしても、構成1cの「ボリュームデータから該関心領域の等表面を作」ることと構成1dの「関心領域の等表面を用いて関心領域の表面に対応する多角形メッシュよりなるワイヤフレームモデルを作」ることの両方は、コンピュータにより実行されることである。すなわち、構成1cの「ボリュームデータから該関心領域の等表面を作」ることと構成1dの「関心領域の等表面を用いて関心領域の表面に対応する多角形メッシュよりなるワイヤフレームモデルを作」ることとを合わせたことは、コンピュータを使用して自動的にワイヤフレームモデルを生成することと認められる。
d よって、引用発明は「自動的に」ワイヤフレームモデルを作ることを備えていると認められる。
e 前記「aないしd」を総合勘案すると、引用発明の構成1bないし1dの手順は、本件補正発明1の構成1Bの「3D管状物体を構築するアルゴリズムを用いて、自動的に3D管状物体のシェルを生成する手順」に相当する。よって、引用発明は本件補正発明1の構成1Bに相当する構成を備えているといえる。
(ウ)本件補正発明1の構成1Cについて
a 引用発明の構成1fの「ワイヤフレームモデルを幾つかの小さなセグメントに分割」することは、本件補正発明1の構成1Cの「シェルをいくつかのセグメントに分割する」ことに相当する。
b また、引用発明の構成1fの手順は、コンピュータにより実行されるものであり、引用発明の構成1hに「この処理を繰り返し、分割および二等分により得られたセグメント360と361、370と371、380と381、390と391」と具体的に記載されていることから、コンピュータにより繰り返し自動で行われる、または、自動でなければ外部からの指示を受けてコンピュータにより繰り返し行われる、のいずれかの態様すなわち自動又は手動により行われると認められる。
c 前記「a及びb」を総合勘案すると、引用発明の構成1fの手順は、本件補正発明1の構成1Cの「自動または手動によりシェルをいくつかのセグメントに分割する手順」に相当する。よって、引用発明は本件補正発明1の構成1Cに相当する構成を備えているといえる。
(エ)本件補正発明1の構成1Dについて
a 引用発明の構成1hの「分割および二等分により得られたセグメント360と361、370と371、380と381、390と391」は、結腸300を分割及び二等分して得られたものであり、引用発明の構成1h及び構成1iより、引用発明は、結腸300を分割及び二等分して得られたセグメント360と361、370と371、380と381、390と391とが個々にあるいはグループごとにディスプレイされ、コンピュータシステムのモニタ等の視覚的ディスプレイ上でユーザが操作することにより三次元組織の内部、その回りまたはその中を通って移動させることができるものである。
b したがって、引用発明の「コンピュータシステムのモニタ等の視覚的ディスプレイ上で」「結腸300」を「分割および二等分」して「得られたセグメント360と361、370と371、380と381、390と391」を「ユーザが操作すること」は、本件補正発明1の構成1Dの「3D管状物体を操作する手順」に相当する。よって、引用発明は本件補正発明1の構成1Dに相当する構成を備えているといえる。
(オ)本件補正発明1の構成1Eについて
a 引用発明の構成1g及び構成1hより、引用発明は「結腸300」を「半分に分割し」た「セグメント360と361、370と371、380と381、390と391」の「内面を露出させることによって断層表示を行う」ものであり、その断層表示は構成1a及び構成1iより、「インタラクティブに描写」されるものであり、その「インタラクティブな三次元表現」は「三次元組織の内部、その回りまたはその中を通って移動させることができる」ものである。したがって、引用発明は、結腸300を半分に分割した各セグメント360と361、370と371、380と381、390と391の内面を露出させることによって断層表示を行い、その断層表示は三次元組織(結腸)の内部、その回りまたはその中を通って移動させることができるインタラクティブな三次元表現により行われると認められる。
b よって、前記「(ア)」及び前記「a」を総合勘案すると、引用発明と本件補正発明1とは本件補正発明1の項目1Eのうち、「3D管状物体の内部構造を」「表示する管腔臓器の視覚化に関するプログラム」である点で共通する。
(カ)本件補正発明1と引用発明との一致点、相違点について
以上「(ア)ないし(オ)」より、本件補正発明1と、引用発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「1A コンピュータを使用して管腔臓器を視覚化するプログラムであって、
1B 3D管状物体を構築するアルゴリズムを用いて、自動的に3D管状物体のシェルを生成する手順と、
1C 自動または手動によりシェルをいくつかのセグメントに分割する手順と、
1D 3D管状物体を操作する手順とを含み、
1E* 3D管状物体の内部構造を表示する管腔臓器の視覚化に関するプログラム。」
(当審注:構成1E*は、構成1Eと相違する点がある構成である。)
一方で、両者は、次の点で相違する。
<相違点1>
構成1E*における「3D管状物体の内部構造を」「表示する」ことが、本件補正発明1では、「歪みなく」表示するのに対し、引用発明は歪みなく表示するかどうか明記が無い点。
エ 判断
(ア)相違点1についての検討
a 引用発明は、前記「ウ(オ)」より、結腸300を半分に分割した各セグメント360と361、370と371、380と381、390と391の内面を露出させることによって断層表示を行い、その断層表示は三次元組織(結腸)の内部、その回りまたはその中を通って移動させることができるインタラクティブな三次元表現により行われると認められる。
b 前記「a」で述べた引用発明の断層表示は、引用発明の構成1bで形成された三次元ボリュームデータを画像処理して構成される断層表示である。したがって、当該断層表示は、三次元ボリュームデータに基づいた断層像を表示するものであり、三次元組織(結腸)を実測定した三次元ボリュームデータを正確に表示する、いわゆる歪みのない断層像を表示するものと認められる。さらに、引用発明の当該断層表示は、結腸300を半分に分割した各セグメント360と361、370と371、380と381、390と391の内面を露出させることによる断層表示であることから、結腸の内面を結腸を半分に分割した際の切れ目を通して任意の方向からの視点で観察する表示となり、本願明細書の段落【0021】の「本発明では、管腔臓器の表面に切れ目を入れることにより、観察対象が切れ目を通して見える限り、仮想内視鏡を任意の視点に配置でき、観察対象と適切な距離を取って歪みなく観察できる。」(前記「(1)ア(イ)c」参照。)という記載に基づく表示、すなわち歪みなく表示するものと認められ、本件補正発明1の構成1Eの「3D管状物体の内部構造を歪みなく表示する」ことに相当すると認められる。
c 仮に、前記「b」で検討した引用発明の断層表示が、三次元ボリュームデータを処理した際に歪みのある断層画像になったとしても、その歪み度合いは、前記「(1)ア」で説示したとおり、画像処理に伴う裸眼観察像との違い程度の歪みにすぎず、「歪みなく」とする基準を示していない本件補正発明1の「歪みなく表示する」の発明特定事項が示す範囲に包含される断層表示と見なされるものである。
d そして、引用発明の当該断層表示は、引用例1に記載された引用発明の実施例等を参照しても、少なくとも前記「(1)ア(ウ)b」で検討したCPR法により生成された画像(歪みのある画像)でしかあり得ないとは特定されていないことから、常に歪みのある断層表示をするとは認められない。
e よって、引用発明は前記相違点1に係る「歪みなく」表示することを備えていると認められ、したがって、前記相違点1は、本件補正発明1と引用発明との相違点ではなく、引用発明は本件補正発明1の構成1Eに相当する構成を備えているといえる。
f 仮に、引用発明の前記「a」で述べた断層表示が歪みなく表示するものであるといえないとしても、引用発明の構成1bで形成された三次元ボリュームデータより構成される断層像を歪みのない断層像とすることは、当業者が適宜なし得る表示する画像の種類の選択にすぎず、当業者ならば容易になし得たことである。
(イ)本件補正発明1の効果について
本件補正発明1の効果は、引用発明から当業者が予測しうる程度のものにすぎない。
(ウ)審判請求書における請求人の主張について
a 請求人は令和5年12月5日付審判請求書において、原査定における引用文献1(前記引用例1)、引用文献2(特開2006-51154号公報)及び引用文献3(特開2006-346022号公報)には、本願発明のアルゴリズムは開示されていないこと、本願発明は図5及び図6に示すとおり3D管状物体の内部構造の歪みのない画像を生成し、3D管状物体の内部構造の全体像を提供すること、等を主張し、本願発明は、前記引用文献1ないし3から当業者が容易になし得た発明ではない旨主張する(特に「4.審判請求人の主張」を参照のこと。)。
b 上記「a」の主張は、以下の点をポイントとして主張していると認められる。
(a)本願発明は、従来のCPR法や仮想内視鏡法による3D管状物体の内部構造の表示ではないことから、歪みのない表示ができる。<R1>
(b)本願発明は、3D管状物体の上部を削除して、半大腸を作成し、3D管状物体の内部構造を可視化するのに適切な場所に視点を設置することにより、歪みのない表示ができる。<R2、R3>
(c)本願の請求項1に係る発明は、一般的な事項に加えて、「自動的に3D管状物体のシェルを生成する手順」、「3D管状物体の内部構造を歪みなく表示する管腔臓器の視覚化に関するプログラム」という特徴的事項が特定されている。特に引用文献1との相違点で「歪みなく」という事項が無視されている<R5>
(d)引用文献1-3の図面に開示された半円筒は、人の想像に基づいて描かれたものであり、本願発明のような実際のデータセットを基にコンピュータによって生成された「半大腸」ではない。よって、本願発明のアルゴリズムが引用文献1-3に記載された発明と同じであると認定するのは失当である。<R6>
c 上記「b」の各主張について検討する。
(a)上記「b(a)」の主張については、上記「(ア)」で検討したとおりであり、引用発明は三次元ボリュームデータを画像処理して構成される断層表示であり、CPR法や仮想内視鏡法とは特定されていない。よって、引用発明は当該主張で挙げられたCPR法や仮想内視鏡法のような歪みのある表示をしているとは認められない。
(b)上記「b(b)」の主張については、上記「ウ(オ)」で検討したとおりであり、引用発明は結腸を半分に分割した各セグメントの内面を露出させることによって断層表示を行うものであり、その断層表示は「インタラクティブに描写」されるものであり、その「インタラクティブな三次元表現」は「三次元組織の内部、その回りまたはその中を通って移動させることができる」ものであることから、3D管状物体の上部を削除して、3D管状物体の内部構造を可視化するのに適切な場所に視点を設置することを行うと認められる。また、上記「b(b)」の主張は、「3D管状物体の内部構造を可視化するのに適切な場所に視点を設置する」ことは、本件補正発明1の発明特定事項ではないので、本件補正発明1に基づく主張とは認められない。
(c)上記「b(c)」の主張については、上記「ウ及びエ」で検討したとおりである。
(d)上記「b(d)」の主張については、引用発明は、上記「イ」で認定したとおり、引用文献1の摘記箇所及び図面に基づき認定した発明である。したがって、上記「b(d)」の主張における、引用文献1の図面が半円筒のモデル(図10等)で記載されていることに基づき、引用発明を、実際のデータセットを基にコンピュータによって生成されたものではないとする主張は、引用発明を正しく認定したものとは認められず、採用することはできない。
(e)以上のことから、上記「b」の各主張は、採用することはできない。
d そして、引用発明の認定及び本件補正発明1と引用発明との対比判断については、前記「イ」ないし「エ(ア)」で検討したとおりであり、引用発明は本件補正発明1の構成1Aないし1Eを備えている、または引用発明と本件補正発明との相違点に係る技術事項を引用発明に備えるようにすることは当業者が容易になし得たことである。
e 以上のことから、請求人の前記主張は採用することができない。
オ 小括
したがって、本件補正発明1は、引用発明である、又は引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反する、または特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1.本願発明1
令和5年12月5日付けの手続補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、令和5年4月13日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、前記「第2 1.」に示した補正前請求項1であり、以下に再掲したとおりのものである。ここで、各構成単位冒頭の「1A」等は、当審にて付した分説記号であり、前記「第2 3.(2)ア」で本件補正発明1に付した分節記号と同内容の分説については同じ分説記号を用いている。
「【請求項1】
1A’ コンピュータを使用して管腔臓器を視覚化し、3D管状物体の内部構造を表示させるプログラムであって、
1B 3D管状物体を構築するアルゴリズムを用いて、自動的に3D管状物体のシェルを生成する手順と、
1F 3D管状物体の中心線を表す特徴点を抽出し、隣接する2つごとの特徴点を繋ぎ、デジタル化する手順と、
1C’ 自動によりシェルをいくつかのセグメントに分割する手順と、
1D 3D管状物体を操作する手順と
1G を、コンピュータに実行させる
1E’ 管腔臓器の視覚化に関するプログラム。」
(当審注:構成1A’と構成1C’と構成 1E’は、それぞれ構成1Aと構成1Cと構成1Eと相違する点がある構成である。構成1Fは本件補正発明1では特定されていない新たな構成である。)
2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明1についての拒絶の理由は、
<理由2>この出願の請求項1に係る発明は、その出願の優先日前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物である引用文献1に記載された発明に基いて、その出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
というものである。
引用文献1:特表2001-513923号公報
3.引用された刊行物に記載された発明及び周知技術
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1と、本審決における引用例1は同一である。
そして、引用例1の記載事項及び引用発明は、前記「第2 3.(2)イ」に記載したとおりである。
4.対比・判断
(1)本願発明1は、前記「第2 3.」で検討した本件補正発明1から、以下の変更1ないし3を行ったものである。
ア <変更1> 本件補正発明1の構成1Aに構成1Eの一部である「3D管状物体の内部構造を」「表示」するという特定事項を移動させて構成1A’とし、構成1Eの「3D管状物体の内部構造を歪みなく表示する」という特定事項を削除して構成1E’とすることにより、「3D管状物体の内部構造」の「表示」について「歪みなく」という限定を外して拡張する。
イ <変更2> 本件補正発明1の構成1Cの「シェルをいくつかのセグメントに分割する手順」において、その手順を「自動または手動により」行うことから「自動により」行うことに変更して構成1C’とすることにより、一方の選択肢である「手動により」行うことを削除することにより限定する。
ウ <変更3> 本件補正発明1で特定されていない構成1F「3D管状物体の中心線を表す特徴点を抽出し、隣接する2つごとの特徴点を繋ぎ、デジタル化する手順」をプログラムがコンピュータに実行させる手順の1つとして特定して限定する。
(2)前記<変更1>により生じた本願発明の構成1A’と構成1E’については、本件補正発明1の構成1Aと構成1Eより拡張されたものであり、構成1A及び構成1Eについては、前記「第2 3.(2)ウ(ア)及び(オ)」で説示したとおり引用発明が備える構成である。したがって、本願発明1の構成1A’と構成1E’についても、前記「第2 3.(2)ウ(ア)及び(オ)」で説示したのと同様の理由により、引用発明が備える構成である。
(3)前記<変更2>により生じた本願発明の構成1C’について検討する。前記「第2 3.(2)ウ(ウ)」で説示したとおり、引用発明は「シェルをいくつかのセグメントに分割する手順」をコンピュータに繰り返し行わせているのであるから、引用発明において、その手順をコンピュータに行わせる指示等を「自動」にすることにより「自動により」「シェルをいくつかのセグメントに分割する手順」を備えるようにすることは、単なる設計変更にすぎず当業者ならば容易になし得たことである。
(4)前記<変更3>により新たに備えることとなった構成1Fについて検討する。
ア 引用発明の構成hの「中央線305」及び「ポイント310,312,314」は、それぞれ、本願発明1の構成1Fの「3D管状物体の中心線」及び「3D管状物体の中心線を表す特徴点」に相当する。
イ 引用発明の構成hの「中央通路に沿ってポイント310,312,314を可変的に副標本化することにより、線分320で接続された連続点シーケンスを決定」することは、本願発明1の構成1Fの「3D管状物体の中心線を表す特徴点を抽出し、隣接する2つごとの特徴点を繋ぎ、デジタル化する手順」に相当する。よって、引用発明は本願発明1の構成1Fに相当する構成を備えているといえる。
(5)本願発明1の構成1B,1Dについては、前記「第2 3.(2)ウ(イ)及び(エ)」で説示したとおり、引用発明が備える構成である。
(6)本願発明1の構成1Gについては、引用発明は、構成1aに「コンピュータにより実行される」「プログラム」と特定されているとおり、引用発明が備える構成である。
(7)本願発明1の効果は、引用発明から当業者が予測しうる程度のものにすぎない。
(8)令和5年4月13日付意見書における請求人の主張について
請求人は、令和5年4月13日付意見書において、本願発明1は引用文献1に記載された発明と異なる旨主張する。しかしながら、当該主張は、引用文献1に記載された発明はCPR画像であると認定しその認定に基づいて本願発明1は引用文献1に記載された発明と異なると主張するものであり、本審決で認定した引用発明は前記「第2 3.(2)イ」に記載したとおり、断層表示については、CPR法に基づく表示を行うものとは認定していない(前記「第2 3.(2)イ」に示した引用例1の摘記箇所を参照のこと。)。したがって、前記意見書における請求人の主張は採用することができない。
(9)以上のことから、本願発明1は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明である本願発明1は、引用文献1に記載された発明である引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-020707