特許拒絶査定不服審判
2023-018613
ユーザ保護ライセンス
- 審判番号
- 2023-018613
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-564729
- 請求日
- 2023年11月02日
- 審決日
- 2024年06月07日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】ソニーグループ株式会社
- 【請求人代理人】辻居 幸一
- 【請求人代理人】須田 洋之
- 【請求人代理人】大塚 文昭
- 【請求人代理人】上杉 浩
- 【請求人代理人】鈴木 信彦
- 【請求人】ソニー ピクチャーズ エンターテインメント インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】辻居 幸一
- 【請求人代理人】須田 洋之
- 【請求人代理人】大塚 文昭
- 【請求人代理人】上杉 浩
- 【請求人代理人】鈴木 信彦
- 審判長/審判官
- 審判長 吉田 美彦
- 審判官 林 毅
- 審判官 大塚 俊範
- 分類
- P18 .561-WY (H04L) / P18 .572-WY (H04L) / P18 .575-WY (H04L) / P18 .121-WY (H04L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第1号、特許法第17条の2第5項、特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第3項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-564729「ユーザ保護ライセンス」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年11月28日国際公開、WO2019/226622、令和 3年 9月16日国内公表、特表2021-525030、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)5月21日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2018年5月22日、米国)を国際出願日とする特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年12月 6日付け:拒絶理由通知書
令和4年 5月13日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 9月 5日付け:拒絶理由(最後)通知書
令和5年 3月 6日 :意見書、手続補正書の提出
令和5年 6月29日付け:拒絶査定(原査定)
令和5年11月 2日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 補正の却下の決定
1 補正の却下の決定の結論
令和5年11月2日に提出された手続補正書に係る手続補正(以下、「本件補正」という)を却下する。
2 補正の却下の決定の理由
(1)本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、以下の補正事項を含むものである。
ア 補正事項1
「前記コンテンツのライセンスを、ユーザが所有するユーザのデバイスではなく被許諾者である前記ユーザに結びつけるステップ」を追加する補正。
イ 補正事項2
「ユーザのデバイスにおいて準同型暗号化を選択するステップ」を追加する補正。
ウ 補正事項3
「鍵」を「ユーザ鍵」とする補正。
エ 補正事項4
「前記エージェントは、ノンスを用いて前記暗号化された使用権に対して準同型演算を実行して、修正暗号化使用権を生成し、」を「前記エージェントは、前記ユーザ鍵で暗号化された準同型暗号化と適合する準同型演算を選択し、かつノンスを用いて前記暗号化された使用権に対して準同型演算を実行して、前記エージェントが前記ユーザといかなる秘密も共有することなく前記ユーザを認証できるように修正暗号化使用権を生成し」とする補正。
オ 補正事項5
「前記修正暗号化使用権を復号して」を「当該ユーザに特有のユーザ鍵で前記修正暗号化使用権を復号して」とする補正。
カ 補正事項6
「前記エージェントにおいて、前記ノンスを用いて前記準同型演算と逆の演算を実行することによって、前記復号された修正使用権から、使用権を抽出するステップ」を「ユーザのデバイスにおいて、前記ノンスを用いて前記準同型演算と逆の演算を実行することによって、前記復号された修正使用権から、使用権を抽出するステップ」とする補正。
キ 補正事項7
「前記エージェントにおいて、抽出された使用権が前記ライセンスに含まれる使用権と同じことを検証するステップ」を「前記エージェントにおいて、抽出された前記ユーザの使用権が前記ライセンスに含まれる使用権と同じことを検証するステップ」とする補正。
ク 補正事項8
「前記ユーザが、当該ユーザの選択する任意のデバイスで前記コンテンツを消費することを可能にするステップ」を追加する補正。
(2)本件補正の適否の判断
ア 新規事項について
(ア)補正事項2について
出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、これらを総称して「当初明細書等」という。)には、「準同型暗号化」の「選択」に関して、次の記載がある。
「 【0022】
[0028] 1つの実装では、DRMエージェント110は、ノンスを用いて、暗号化された使用権に対して準同型演算を実行する(「難読化」と呼ばれる)。ノンスは、暗号通信において1回だけ用いられる任意の乱数又は擬似乱数である。したがって、準同型演算は、選択された準同型暗号化に適合しなければならない。ユーザ140は、修正(又は難読化)暗号化使用権を受け取り、それを復号し、その結果をDRMエージェントに戻す。DRMエージェント110は、戻された演算が正しいかどうかを検証する。この場合、ユーザ140が、使用権を暗号化するために最初に用いられた適切な復号鍵を有する場合のみ、ユーザ140は、適切な情報を戻すことができる。」
「 【0021】
[0027] 1つの実装では、ユーザ140は、登録認定機関120から使用権を受け取り、ユーザに特有のユーザ鍵142で使用権を暗号化する。1つの実装では、使用権は、準同型暗号化を用いて暗号化され、準同型暗号化は、暗号化されたテキストに対して計算を実行することができ、これは、復号されるときに平文に対して実行される演算の結果と一致する。…(以下省略)」
上記記載によれば、当初明細書等において、「ユーザ」が「準同型暗号化」を用いて「使用権」を暗号化すること、及び「準同型演算」が「選択された準同型暗号化」に適合しなければならないことが記載されている。
しかしながら、当初明細書等には、「準同型暗号化」の「選択」を「ユーザ」(又は「ユーザのデバイス」)が行うことまでは記載されておらず、また、他のデバイス等によって「選択された準同型暗号化」が、「ユーザのデバイス」に予めインストールされることも想定し得ることに鑑みれば、「選択された準同型暗号化」を「ユーザ」(又は「ユーザのデバイス」)が用いることのみを根拠として、「ユーザのデバイス」において「準同型暗号化」を「選択」することが自明とはいえない。
また、「準同型暗号化」の「選択」が「ユーザのデバイス」においてなされることが本願優先日前における技術常識とも認められない。
よって、補正事項2は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
(イ)補正事項6について
「ノンス」を用いた「準同型演算と逆の演算」について、当初明細書等には、次の記載がある。
「 【0032】
[0038] 1つの実装では、ユーザ140がコンテンツアイテムを再生する前に、DRMエージェント110が、提供されたライセンス200についての3つの条件を受け取り、それらを検証する。第1に、DRMエージェント110は、既知の合法の認定機関が、署名230の妥当性をチェックすることによって、ライセンスを発行したこと、及びそれが登録認定機関120によって署名されたことを検証する。第2に、DRMエージェント110は、以下のこと、すなわち、(1)ノンス(Agent_nonce)を生成し、(2)下式を計算し、
【数3】
[図:0001412196000001.jpg]
(3)ObfuscatedEncryptedUsageRightsをユーザ140に送信して、ユーザ鍵142を用いてそれを復号し、(4)その結果Obfuscated DecryptedUsageRightsをユーザ140から受け取り、(5)下式を計算し、
【数4】
[図:0001412196000002.jpg]
(6)DecryptedUsageRightsのハッシュを計算して、それがハッシュ使用権220に等しいことを検証する、ことを実行することによって、ライセンスの所有者(すなわちユーザ)がライセンスの使用権を復号することができたことを確かめるためにチェックする。…(以下省略)」
上記記載の【数4】に含まれる演算「f’」は、「ノンス」を用いた「準同型演算と逆の演算」に相当するところ、当初明細書等には、「DRMエージェント」が「ノンス」を用いた「準同型演算と逆の演算」を実行することは記載されている。
しかしながら、当初明細書等の他の記載を参酌しても、「ユーザのデバイス」において「ノンス」を用いた「準同型演算と逆の演算」を実行することは記載も示唆もなく、また、「ノンス」を生成するのが「ユーザのデバイス」ではなく「DRMエージェント」であるとの前提において、「ユーザのデバイス」において「ノンス」を用いた「準同型演算と逆の演算」を実行することは本願優先日前における技術常識とも認められない。
よって、補正事項6は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
イ 補正の目的について
補正事項1ないし5、7及び8は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものと認められる。
しかしながら、補正事項6は、処理の主体を「エージェント」から「ユーザのデバイス」に変更するものであり、「ユーザのデバイス」は「エージェント」の下位概念とは認められないから、上記「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものではない。また、補正事項6は、特許法第17条の2第5項第1号に規定する「請求項の削除」、同第3号に規定する「誤記の訂正」又は同第4号に規定する「明りょうでない記載の釈明」のいずれにも該当しない。
よって、補正事項6は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に適合しない。
ウ 独立特許要件について
前記イを参酌すれば、請求項1に係る本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものともいえる。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
本件補正発明において、「前記コンテンツのライセンスを、ユーザが所有するユーザのデバイスではなく被許諾者である前記ユーザに結びつけるステップ」の主体及び「ライセンス」を「ユーザ」に結びつける手段は、明細書(特に、【0005】)及び図面の記載並びに本願優先日前における技術常識を参酌しても明確とはいえない。
もっとも、「ユーザのデバイス」による「選択」の動作が「ユーザ」の指示に基づき得ることは本願優先日前の技術常識であるところ、本件補正発明の「ユーザのデバイスにおいて準同型暗号化を選択するステップ」は、「ユーザ」の指示に基づいて「選択」がなされる態様を含み得る。この場合、「ユーザ」にとって「準同型暗号化」は既知である。
また、本件補正発明において、「エージェント」は、「前記ユーザ鍵で暗号化された準同型暗号化と適合する準同型演算を選択」するものであるところ、「エージェント」にとって、「ユーザのデバイス」において選択された「準同型暗号化」は既知である。
また、「準同型暗号化」は、「暗号化」のための手段である以上、「秘密」に含まれる事項である。
これらの事項によれば、本件補正発明において、「ユーザ」と「エージェント」との間には「準同型暗号化」という「秘密」が共有されている必要がある。
そうすると、本件補正発明の「前記エージェントが前記ユーザといかなる秘密も共有することなく前記ユーザを認証できる」との構成は明らかに矛盾したものである。
よって、本件補正発明は、明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件補正発明は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しない。
エ まとめ
したがって、請求項1に係る補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第3項、第5項及び同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たしていないので、上記のとおり本件補正を却下する。
第3 原査定の概要
原査定(令和5年6月29日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1、2に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明と引用文献2ないし6に記載された周知技術等に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1 特開2007-172593号公報
引用文献2 特開昭63-160444号公報
引用文献3 MENEZES, A. J., VAN OORSCHOT, P. C. and VANSTONE, S. A.,HANDBOOK of APPLIED CRYPTOGRAHY,CRC Press,1996年,pp.20,21,499,500
引用文献4 SCHNEIER, B.,APPLIED CRYPTOGRAHY,2nd Edition,John Wiley & Sons,1996年,pp.516,517
引用文献5 特表2007-531127号公報
引用文献6 Would a OTP No-Key Protocol work?, StackExchange, [online],2017年08月29日,URL:https://crypto.stackexchange.com/questions/51187/would-a-otp-no-key-protocol-work,[2021年12月6日検索]
第4 本願発明
本件補正は、上記「第2 補正の却下の決定」のとおり、却下された。
したがって、本願請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)は、令和5年3月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される発明であり、このうち、本願発明1は、以下のとおりの発明である。
「 ライセンスに含まれる使用権によって規定される条件に従って消費されるべきコンテンツの前記ライセンスを配信及び強要するための方法であって、前記方法は、
ユーザのデバイスにおいて、準同型暗号化を用いて、当該デバイスを所有するユーザに特有の鍵で前記使用権を暗号化し、前記暗号化された使用権をエージェントに送信するステップと、ここで前記エージェントは、ノンスを用いて前記暗号化された使用権に対して準同型演算を実行して、修正暗号化使用権を生成し、前記ノンスはユーザとエージェントとの間の通信において1回だけ用いられる擬似乱数であり、
ユーザのデバイスにおいて、前記エージェントから修正暗号化使用権を受け取るステップと、
ユーザのデバイスにおいて、前記修正暗号化使用権を復号して、復号された修正使用権を生成し、前記復号された修正使用権を前記エージェントに返送するステップと、
前記エージェントにおいて、前記ノンスを用いて前記準同型演算と逆の演算を実行することによって、前記復号された修正使用権から、使用権を抽出するステップと、
前記エージェントにおいて、抽出された使用権が前記ライセンスに含まれる使用権と同じことを検証するステップと、
を含むことを特徴とする方法。」
本願発明2ないし5は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明6は、本願発明1を「非一時的コンピュータ可読記憶媒体」の発明として特定したものであり、本願発明7および8は、本願発明6を減縮した発明である。
第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、著作権保護されているコンテンツを再生する為のライセンスを管理する装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、音楽や映像、ゲーム等のデジタル著作物であるコンテンツを、インターネットやデジタル放送等で配信するシステムが開発され、その一部は、実用化の段階を迎えている。また、これらのコンテンツの配信に当たり、著作権保護等の観点から、配信したコンテンツの再生期限や回数等を制限するコンテンツの利用制御方法が併せて検討されている。
【0003】
従来では、サーバが、コンテンツを利用するために必要な利用条件やコンテンツ鍵等を含む情報(以下、「ライセンス」と呼ぶ)を配信し、家庭内のネットワークシステム(ホームネットワーク)上の複数の端末が、サーバから配信されたライセンスを用いてコンテンツを利用し、再生等を行うようにモデル化されている。
【0004】
また、サーバから配信されたライセンスは、個々の端末に保有され、端末は、自らが保有するライセンスを用いてコンテンツを利用する。そうしたライセンスを複数の端末間において移動を行う際には、コンテンツの権利保護の観点、および、端末所有者のプライバシー保護の観点から、無制限な範囲での移動は許されず、ある一定範囲内での移動のみが許されるのが一般的である。一般的には同一ユーザが所有する複数の端末間においてのみ移動が許されると考えられている。
【0005】
これを実現する従来手法として、同一ユーザが所有する複数の端末に対して一つのドメインを設定し、ドメイン毎に、ドメイン鍵を生成して各端末に配信することが考えられている。端末は、ライセンスを外部に出力する際には、それをドメイン鍵で暗号化して出力する。この結果、同一ドメインに属する端末においては、このライセンスの復号が可能であるが、同一ドメインに属さない端末においては、このライセンスの復号ができないということになる。このようにして、二つの端末が同一のドメインに属している場合には、その端末間でのライセンスの移動を許可するが、それ以外の場合には、ライセンスの移動を許可しないということを実現している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000-181803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の手法によれば、端末間でライセンスを移動する際、移動元端末においては、ライセンスをドメイン鍵で暗号化した上で出力し、移動先端末においては、ドメイン鍵で暗号化されたライセンスを入力として受け取り、それをドメイン鍵で復号して利用する。ここで、ドメイン鍵で暗号化されたライセンスは、安全な認証チャネル(Secure Authenticated Channel、以降、「SAC」と呼ぶ)を確立した上で移動先の端末に送信されるわけではない。」
(2)引用発明
したがって、特に下線部に着目すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「 著作権保護されているコンテンツを再生する為のライセンスを管理する方法であって、
サーバが、コンテンツを利用するために必要な利用条件やコンテンツ鍵等を含む情報(ライセンス)を配信し、
サーバから配信されたライセンスは、個々の端末に保有され、端末は、自らが保有するライセンスを用いてコンテンツを利用し、
同一ユーザが所有する複数の端末に対して一つのドメインを設定し、ドメイン毎に、ドメイン鍵を生成して各端末に配信し、
端末間でライセンスを移動する際、移動元端末においては、ライセンスをドメイン鍵で暗号化した上で出力し、移動先端末においては、ドメイン鍵で暗号化されたライセンスを入力として受け取り、それをドメイン鍵で復号して利用する、
方法。」
2 周知技術等
(1)引用文献2(1頁右下欄-2頁右上欄〔従来技術〕)、引用文献3(p,499,500 (iii) Key transport without a priori shared keys, 特に p.500 12.22 Protocol Shamir's no-key protocol)、引用文献4(4(22.3 SHAMIR'S THREE-PASS PROTOCOL)及び引用文献6(全体)に記載されているように、暗号化による通信を、
「送信側において、準同型暗号化を用いて鍵でメッセージを暗号化し、前記暗号化メッセージを送信するステップと、ここで受信側は、ノンスを用いて前記暗号化メッセージに対して準同型演算を実行して、修正暗号化メッセージを生成し、送信側において、受信側から修正暗号化メッセージを受け取るステップと、送信側において、前記修正暗号化メッセージを復号し、前記復号された修正メッセージを返送するステップと、受信側において、前記ノンスを用いて前記準同型演算と逆の演算を実行することによって、前記復号された修正メッセージから、メッセージを抽出するステップ」
により行うこと(Shamir's three-pass (no-key) protocol)は、本願優先日前における周知技術(以下、「周知技術1」という。)である。
暗号・復号化に用いるノンス(鍵)を、通信において1回だけ用いられる疑似乱数とすることは、通信の暗号化において、例えば、疑似乱数を通信の1回のセッションごとに生成して用いるセッション鍵の技術にみられるように、特に文献を示すまでもない技術常識(以下、「技術常識1」という。)にすぎない。
引用文献5(【0062】-【0107】、特に、段落【0091】、【0102】、【0103】)には、転送したライセンスの受信に当たって、ライセンスの署名を確認することが記載されているところ、受信したライセンスが、発行されたライセンスと同じであることを検証することは、本願優先日前における周知技術(以下、「周知技術2」という。)である。
第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「コンテンツを利用するために必要な利用条件」は「ライセンス」に含まれるところ、本願発明1の「ライセンスに含まれる使用権によって規定される条件」に相当する。
そして、引用発明において、「コンテンツ」は、「著作権保護されている」ため、「コンテンツを利用するために必要な利用条件」に従って消費されるものといえるから、本願発明1の「ライセンスに含まれる使用権によって規定される条件に従って消費されるべきコンテンツ」に相当する。
よって、引用発明の「著作権保護されているコンテンツを再生する為のライセンスを管理する方法」は、「サーバから配信されたライセンスは、個々の端末に保有され、端末は、自らが保有するライセンスを用いてコンテンツを利用」することを想定しているため、本願発明の「ライセンスに含まれる使用権によって規定される条件に従って消費されるべきコンテンツの前記ライセンスを配信及び強要するための方法」に相当する。
イ 引用発明の「移動元端末」は、本願発明1の「ユーザのデバイス」に相当する。
引用発明の「端末間でライセンスを移動する際、移動元端末においては、ライセンスをドメイン鍵で暗号化した上で出力し、移動先端末においては、ドメイン鍵で暗号化されたライセンスを入力として受け取り、それをドメイン鍵で復号して利用する」を、以下、「構成A」という。
構成Aにおいて、「ライセンスを」「暗号化」することと、本願発明1において、「準同型暗号化を用いて」「前記使用権を暗号化」することとは「暗号化を用いて」「前記使用権を暗号化」することである点において共通する。
また、構成Aにおける「ドメイン鍵」は、「同一ユーザが所有する複数の端末に対して一つのドメインを設定し、ドメイン毎に、ドメイン鍵を生成して各端末に配信」したものであるところ、本願発明1の「該デバイスを所有するユーザに特有の鍵」に相当する。
また、構成Aにおける「移動先端末」と本願発明1の「エージェント」とは、「他の装置」である点において共通する。
また、構成Aにおいて、「移動先端末」は、「移動元端末」が出力した、暗号化した「ライセンス」を入力している以上、「移動先端末」は、暗号化した「ライセンス」を「移動先端末」に送信しているものと認められる。
よって、引用発明において、「移動元端末においては、ライセンスをドメイン鍵で暗号化した上で出力し、移動先端末においては、ドメイン鍵で暗号化されたライセンスを入力として受け取」る処理(ステップ)と、本願発明1の「ユーザのデバイスにおいて、準同型暗号化を用いて、当該デバイスを所有するユーザに特有の鍵で前記使用権を暗号化し、前記暗号化された使用権をエージェントに送信するステップ」とは、「ユーザのデバイスにおいて、暗号化を用いて、当該デバイスを所有するユーザに特有の鍵で前記使用権を暗号化し、前記暗号化された使用権を他の装置に送信するステップ」である点において共通する。
(2)一致点、相違点
したがって、本願発明1と引用発明とは、以下の点において一致ないし相違する。
(一致点)
「 ライセンスに含まれる使用権によって規定される条件に従って消費されるべきコンテンツの前記ライセンスを配信及び強要するための方法であって、前記方法は、
ユーザのデバイスにおいて、暗号化を用いて、当該デバイスを所有するユーザに特有の鍵で前記使用権を暗号化し、前記暗号化された使用権を他の装置に送信するステップ
を含むことを特徴とする方法。」
(相違点)
(相違点1)
本願発明1においては、「使用権」の暗号化に「準同型暗号化」を用いるのに対し、引用発明において、「ライセンス」の暗号化にどのような暗号化を用いるのかを具体的に特定していない点。
(相違点2)
本願発明1において、「暗号化された使用権」を「エージェント」に送信するのに対し、引用発明において、「ドメイン鍵で暗号化されたライセンス」は「移動先端末」に出力(送信)されている点。
(相違点3)
本願発明1は、「暗号化された使用権」を「エージェント」に送信した後の処理として、「前記エージェントは、ノンスを用いて前記暗号化された使用権に対して準同型演算を実行して、修正暗号化使用権を生成し、前記ノンスはユーザとエージェントとの間の通信において1回だけ用いられる擬似乱数であり、ユーザのデバイスにおいて、前記エージェントから修正暗号化使用権を受け取るステップと、ユーザのデバイスにおいて、前記修正暗号化使用権を復号して、復号された修正使用権を生成し、前記復号された修正使用権を前記エージェントに返送するステップと、前記エージェントにおいて、前記ノンスを用いて前記準同型演算と逆の演算を実行することによって、前記復号された修正使用権から、使用権を抽出するステップと、前記エージェントにおいて、抽出された使用権が前記ライセンスに含まれる使用権と同じことを検証するステップ」を更に備えるのに対し、引用発明は、「ドメイン鍵で暗号化されたライセンス」を「移動先端末」に出力(送信)した後の処理として、「移動先端末においては、ドメイン鍵で暗号化されたライセンスを入力として受け取り、それをドメイン鍵で復号して利用する」処理を更に備える点。
(3)相違点についての判断
本願明細書及び図面の全趣旨からすれば、相違点1ないし3に係る本願発明1の構成は、「DRMエージェント又は認定機関は、いかなる秘密もユーザと共有しないが、依然として、ユーザを認証し、ライセンスがユーザに「属している」ことを確認する。」(本願明細書の【0017】)ための構成と認められるため、上記相違点1ないし3についてまとめて検討する。
引用発明は、ユーザを認証し、ライセンスがユーザに「属している」ことを確認する「エージェント」に相当する構成を備えておらず、また、引用発明が、「端末間でライセンスを移動する」ための方法であることに鑑みれば、引用発明に、「エージェント」に相当する構成を付加し、又は、引用発明の「移動元端末」を「エージェント」に置換すべき事情は存在しない。よって、引用発明に「エージェント」を付加し、又は、引用発明の「移動先端末」を「エージェント」に置換した上で、メッセージ一般の通信を対象とした準同型暗号に関する周知技術1及び技術常識1並びに「受信したライセンスが、発行されたライセンスと同じであることを検証すること」を目的とした周知技術2を、「移動元端末」と「エージェント」との間の通信及び処理に適用することは、当業者であっても容易に想到できるものではない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明と引用文献2ないし6に記載された周知技術等に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
2 本願発明2ないし8について
本願発明2ないし5は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明6は、本願発明1を「非一時的コンピュータ可読記憶媒体」の発明として特定したものであり、本願発明7および8は、本願発明6を減縮した発明であるところ、本願発明2ないし8は、相違点1ないし3に係る本願発明1の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明と引用文献2ないし6に記載された周知技術等に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし8は、当業者が引用発明と引用文献2ないし6に記載された周知技術等に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-018613