特許拒絶査定不服審判
2023-018378
グラビア印刷機及びグラビア印刷方法、グラビア印刷物
- 審判番号
- 2023-018378
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-114238
- 請求日
- 2023年10月31日
- 審決日
- 2024年09月11日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】東京加工紙株式会社
- 【請求人代理人】堤 裕一朗
- 審判長/審判官
- 審判長 川俣 洋史
- 審判官 殿川 雅也
- 審判官 山本 一
- 分類
- P18 .121-Z (B41F) / P18 .561-Z (B41F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-114238「グラビア印刷機及びグラビア印刷方法、グラビア印刷物」拒絶査定不服審判事件〔令和4年2月7日出願公開、特開2022-22688〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年7月1日の出願であって、令和5年4月7日付けで拒絶理由が通知され、同年6月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月19日付け(送達日同年7月31日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対し、同年10月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、さらに同年11月22日に手続補正書が提出されたものである。
第2 令和5年10月31日及び同年11月22日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和5年10月31日及び同年11月22日に各々提出された手続補正書による補正(以下、両手続補正書による補正を「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を全文にわたって補正をするものであるところ、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和5年6月19日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1ないし7を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし7へと補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
紙のグラビア印刷において、前記紙の表面にインクによる印刷を施し、前記紙の裏面に塗工量3~15 g/ m2の塗工液をパートコートし、前記紙の表面と裏面との印刷のずれを抑えるための見当制御機構を備え、前記見当制御機構が前記紙の表面裏面共にレジスターマークを用いた自動見当制御機構であることを特徴とするグラビア印刷機
【請求項2】
前記見当制御機構が前記紙の表面裏面共にレジスターマークを用いた自動見当制御機構であって、裏面のレジスターマークの形が三角形であることを特徴とする請求項1に記載のグラビア印刷機
【請求項3】
前記塗工液がヒートシール剤であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のグラビア印刷機
【請求項4】
前記紙が坪量20~160 g/m2の片艶紙又は純白紙であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のグラビア印刷機
【請求項5】
前記紙が坪量70 g/m2の片艶紙又は坪量35 g/m2の純白紙であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のグラビア印刷機
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のグラビア印刷機を用いたグラビア印刷方法
【請求項7】
紙のグラビア印刷物において、前記紙の表面はインクによる印刷を施され、裏面は塗工量3~15 g/ m2のヒートシール剤でパートコートされ、グラビア印刷の見当制御機構として表面裏面共にレジスターマークを用いた自動見当制御機構を用いたことによるレジスターマークが表面裏面共に印刷され、裏面に印刷されたレジスターマークの形が三角形であることを特徴としたグラビア印刷物」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
紙のグラビア印刷において、前記紙の表面にインクによる印刷を施し、前記紙の裏面に塗工量3~15 g/ m2の無色透明な塗工液をパートコートし、前記紙の表面と裏面との印刷のずれを抑えるための見当制御機構を備え、前記見当制御機構が前記紙の表面裏面共に有色のレジスターマークを用いた自動見当制御機構であることを特徴とするグラビア印刷機
【請求項2】
前記見当制御機構が前記紙の表面裏面共にレジスターマークを用いた自動見当制御機構であって、裏面のレジスターマークの形が三角形であることを特徴とする請求項1に記載のグラビア印刷機
【請求項3】
前記塗工液がヒートシール剤であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のグラビア印刷機
【請求項4】
前記紙が坪量20~160 g/m2の片艶紙又は純白紙であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のグラビア印刷機
【請求項5】
前記紙が坪量70 g/m2の片艶紙又は坪量35 g/m2の純白紙であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のグラビア印刷機
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のグラビア印刷機を用いたグラビア印刷方法
【請求項7】
紙のグラビア印刷物において、前記紙の表面はインクによる印刷を施され、裏面は塗工量3~15 g/ m2の無色透明なヒートシール剤でパートコートされ、グラビア印刷の見当制御機構として表面裏面共にレジスターマークを用いた自動見当制御機構を用いたことによる有色のレジスターマークが表面裏面共に印刷され、裏面に印刷されたレジスターマークの形が三角形であることを特徴としたグラビア印刷物」
(3)補正事項
上記(1)及び(2)によれば、本件補正は、
ア 本件補正前の請求項1の「グラビア印刷機」の発明特定事項である「塗工液」及び「前記紙の表面裏面共に」「用い」られる「レジスターマーク」について、各々「無色透明」及び「有色」との事項を追加する補正(以下「補正事項1」という。)、
イ 本件補正前の請求項7の「グラビア印刷物」の発明特定事項である「ヒートシール剤」及び「表面裏面共に印刷され」る「レジスターマーク」について、各々「無色透明」及び「有色」との事項を追加する補正(以下「補正事項2」という。)、
を含むものである。
2 補正の適否について
(1)補正の目的について
ア 特許法第17条の2第5項の規定によれば、拒絶査定不服審判の請求と同時にする特許請求の範囲についての補正は、請求項の削除(第1号)、特許請求の範囲の減縮(第2号)、誤記の訂正(第3号)、明瞭でない記載の釈明(第4号)のいずれかを目的とするものに限るとされている。
イ そこで、補正事項1及び補正事項2について、以下、検討する。
ウ 補正事項1は、「塗工液」の色を「無色透明」に限定し、「紙の表面裏面共に」「用い」られる「レジスターマーク」の色を「有色」に限定するものである。
エ また、補正事項2は、「ヒートシール剤」の色を「無色透明」に限定し、「表面裏面共に印刷され」た「レジスターマーク」の色を「有色」に限定するものである。
オ そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明、及び、補正前の請求項7に記載された発明と補正後の請求項7に記載された発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
カ そうすると、補正事項1及び補正事項2は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(2)願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の補正であるか
ア 当初明細書等に記載された事項
(ア)本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、これらを「当初明細書等」という。)には、補正事項1及び補正事項2に関連して次の記載がある。
「【0013】
…前記紙の表面と裏面との印刷のずれを抑えるための見当制御機構は、前記塗工液が透明であることが多いことから、目視で行うことは難しく、自動で見当制御可能な装置を導入した方が良い。一般的に普及している、レジスターマークを用いた自動見当制御機構を用いて行う場合には、表面と裏面との印刷のずれを抑えるために、レジスターマークの位置合わせに留意する。」
「【実施例1】
【0014】
紙のグラビア印刷において、前記紙の表面に通常の6色のインクによる印刷を施した後、前記紙を反転させて、前記紙の裏面にヒートシール剤をパートコートする。パートコートする部分は、包装用の紙袋としてシールする必要がある部分のみとする。前記紙の表面と裏面との印刷のずれを抑えるための見当制御機構は、前記紙の表面裏面共にレジスターマークを用いた自動見当制御機構を用いる。」
「【実施例2】
【0015】
紙のグラビア印刷において、前記紙の表面に通常の6色のインクによる印刷を施した後、前記紙を反転させて、前記紙の裏面にヒートシール剤をパートコートする。パートコートする部分は、包装用の紙袋としてシールする必要がある部分のみとする。前記紙の表面と裏面との印刷のずれを抑えるための見当制御機構は、前記紙の表面裏面共にレジスターマークを用いた自動見当制御機構を用いる。」
(イ)【0014】記載の実施例1、及び、【0015】記載の実施例2によれば、紙の裏面にヒートシール剤(塗工液)をパートコートすることが記載されているのみであり、無色透明なヒートシール剤(塗工液)をパートコートすることに加えて、有色のレジスターマークを別途印刷することについて明示も示唆もされてない。
(ウ)かえって、【0013】の記載から、塗工液が透明であることが多く、見当制御を目視で行うことが難しいので、自動で見当制御可能な装置を導入していることからすると、紙の裏面に透明なヒートシール剤(塗工液)をパートコートし、パートコート部分の一部をレジシターマークとして用いる自動見当制御可能な機構を用いていると解すべきである。
イ 請求人の主張について
(ア)本件補正に関連して、請求人は、令和5年10月31日に拒絶査定不服審判を請求すると同時に手続補足書及び甲第1号証として以下の見本を提出した。
[甲第1号証]
本見本は、上から順に、フィルム、アルミ蒸着、紙の三つの基材に対して、無色透明な塗工液であるヒートシール材を用いた三角形のレジスターマークをグラビア印刷したものである。
本見本では、黒い丸で囲った部分にそれぞれ印刷を施してあり、これら三つの部分を目視して比較すると、フィルムとアルミ蒸着においてはうっすらとレジスターマークを認識できるのに対して、紙においては目視にて認識できないことが認められる。
(イ)請求人は、甲第1号証の提出に際して、審判請求書において次のように主張している。
「…フィルムとアルミ蒸着においては、検出器の検出感度を大幅に上げて本レジスターマークを用いて自動見当制御できたとしても、紙においては、目視では全く見当制御できず、さらに、レジスターマークを用いた自動見当制御機構を用いて見当制御しようとしても、紙に印刷された無色透明のレジスターマークでは検出器の検出感度をいくら上げても全く検出できないため自動見当制御できないのである。このように、無色透明のレジスターマークを用いることができないため、これまでの紙のグラビア印刷においては、無色透明な塗工液を印刷するときには、紙に全面べた印刷するより他に方法がなかったのである。本願発明は、この無色透明な塗工液を紙にグラビア印刷する際に、一般的な有色のレジスターマークを用いた自動見当制御機構を備えるよう工夫したことで、全面べた印刷ではなく、パートコートすることを可能とした画期的な発明である。有色のレジスターマークに合わせて無色透明な塗工液をパートコートするという発想はこれまでになく、この工夫によって、紙に無色透明な塗工液をパートコートすることができるようになったことで、グラビア印刷を適用できる範囲が広がり、食品包装用の紙袋や紙容器等に応用することができるようになったのである。」(審判請求書の3(a)を参照。)
「令和5年10月31日付けの手続補正書における「請求項1」及び「請求項7」の補正事項のうち、追加した「無色透明な」の文言についての補正の根拠を明示する。本願明細書の段落0013において「前記塗工液が透明であることが多い」と記載したが、一般的に、コート剤やヒートシール剤、抗菌剤などの塗工液は無色透明であることが多く、本願発明が最も有用な範囲は無色透明な塗工液であることから、はっきりと塗工液が無色透明であることを明示して、特許請求の範囲を減縮する補正をした。…紙のグラビア印刷におけるレジスターマークを用いた自動見当制御機構においては、これまで、検出器で検出可能なレジスターマークは有色のものに限られているため、有色のレジスターマークを用いた自動見当制御機構しか存在していないのである。すなわち、紙にグラビア印刷されたレジスターマークは有色であることは言うまでもないことであるが、前記塗工液が無色透明であることと対比するため、あえて有色であることを明示する補正をしたものである。」(審判請求書の3(b)を参照。)
(ウ)上記(ア)及び(イ)について検討するにあたり、透明なレジスターマークを検出する技術に関連した文献を以下に列挙する。
a 周知技術文献1
本願出願前の昭和63年5月31日に頒布された刊行物である特開昭63-127898号公報(以下「周知技術文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
「(発明の技術分野)
この発明は、同一パターンが繰返し連続的に印刷されている連続パターンシートのパターン区域識別方法及び装置に関する。」(第685頁右欄第12行ないし同欄第15行)
「この発明の目的は、デザイン上目立ち難く、通常無色透明或いは薄い乳白色であり、紫外線の照射により蛍光(可視光域)を発生する蛍光発生インキをレジスタマークとして白紙面に印刷した連続パターンシートを用いて上記レジスタマークが発生する蛍光を検出して、所定位置でパターン毎に検出、切断するようにした…」(第686頁右上欄第8行ないし同欄第15行)
「…レジスタマーク2をパターン1Aと同じ表面の端部に設けているが、無色透明であるので、パターン1A上に設けても外観上は何ら支障なく、或いは裏面に設けても良い。」(第687頁左上欄第3行ないし同欄第6行)
「照射された紫外線32は連続パターンシート1に設けられているレジスタマーク2によって発光して反射され、これが検出手段4によって検出される。」(第687頁右下欄第19行ないし第688頁左上欄第2行)
b 周知技術文献2
本願出願前の平成1年11月14日に頒布された刊行物である特開平1-283147号公報(以下「周知技術文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
「(産業上の利用分野)
この発明は、紫外線吸収物質又は赤外線吸収物質を添加された透明インクで印刷された見当マークを検出し、見当マークの間隔を制御することで図柄見当を合せるための方法及び装置に関するものである。」(第306頁左上欄第15行ないし同頁右上欄第1行)
「第1図はこの発明の基本原理を紫外線について示す図であり、紫外線を発光する光源20と、紫外線領域にピーク感度を持つ受光素子としての紫外線センサ21とを有し、紙、フィルムなどの非印刷物23には紫外線吸収剤を含む透明インキで印刷された見当マーク22が層設されている。紫外線センサ21はその視野の中に見当マーク22が無いとき、光源20より発せられ被印刷物23より一定の反射率で反射して来る紫外線208に反応してこれを電流に変換する。ところが紫外線センサ21の視野の中に見当マーク22が入ると、光源20より発せられる紫外線20Aは見当マーク22に吸収され、反射して来る紫外線200の割合は減少する。しかるに、紫外線センサ21の出力電流は反射光208の光量にほぼ比例するため、見当マーク22をこの出力電流の差に基づいて検知することができるのである。」(第307頁左上欄第9行ないし同頁右上欄第4行)
c 周知技術文献3
本願出願前の平成5年12月3日に頒布された刊行物である特開平5-319626号公報(以下「周知技術文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、例えばプリンター等に用いられるシート搬送装置に関するものである。」
「【0014】図2はシート3上にピッチdで記録された位置検出マーク9を表わす平面図である。この位置検出マーク9の記録には紫外線を吸収し、発光するハロリン酸カルシウム等を含む無色透明の蛍光インクを用いる。」
「【0016】次に搬送誤差の検出動作について説明する。シート3が光学センサ1の対向部付近まで搬送されると、光源2の照射によって位置検出マーク9の蛍光インクを塗布した部分のみが発光する。この発光により、シート3からの反射光が増加する。これを光学センサ1によって光量の変化として検出し、検出信号をパルス発生器11に出力する。これに応じて、パルス発生器11から検出信号に対応したパルスが出力される。」
「【0019】なお、蛍光インクの他に、可視光を吸収しない位置検出マーク9をシートに記録する手段として、無色透明な高分子材料等のものがある。この場合、位置検出マークは表面抵抗の変化として検出され、マーク検出手段としては表面抵抗計が用いられる。」
(エ)周知技術文献1ないし周知技術文献3の「レジスタマーク」、「見当マーク」、「位置検出マーク」が本願発明の「レジスターマーク」に相当するので、上記(ウ)aないしcから、次の技術事項が本願出願前に周知技術(以下「周知技術1」という。)であったと認められる。
[周知技術1]
印刷された透明なレジスターマークを検出する技術。
(オ)すると、周知技術1の存在からすれば、請求人が主張するように、「これまで、検出器で検出可能なレジスターマークは有色のものに限られているため、有色のレジスターマークを用いた自動見当制御機構しか存在していない」ことは事実に反し、本願出願前に無色透明なレジスターマークを用いた見当合わせ技術が知られていた。
(カ)また、甲第1号証において、紙になしたヒートシール剤によるマークを視認できないからといって、いかなる材質又は色の紙に対していかなるヒートシール剤をマークに用いた場合であっても、マークにおいて色又は反射率の変化が生じることがないということはできず、視認できない程度の色又は反射率変化によるレジスターマークを検出器により検出できないということもできない。
(キ)よって、上記、(ウ)ないし(カ)から、当初明細書等に、紙の裏面に無色透明なヒートシール剤(塗工液)によるパートコートとは別に有色のレジスターマークが印刷されていることが当然に記載されていたと理解することができない。
(ク)したがって、上記(イ)の請求人の主張にかかわらず、上記ア(イ)、(ウ)にて上述したとおり、補正事項1により追加された「塗工液」の色を「無色透明」に限定するとともに「紙の表面裏面共に」「用い」られる「レジスターマーク」の色を「有色」に限定する事項、及び、補正事項2により追加された「ヒートシール剤」の色を「無色透明」に限定するとともに「表面裏面共に印刷され」た「レジスターマーク」の色を「有色」に限定する事項は、当初明細書等には記載がなく、当初明細書等から自明でもないから、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下された。
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和5年6月19日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の【請求項1】に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
紙のグラビア印刷において、前記紙の表面にインクによる印刷を施し、前記紙の裏面に塗工量3~15 g/ m2の塗工液をパートコートし、前記紙の表面と裏面との印刷のずれを抑えるための見当制御機構を備え、前記見当制御機構が前記紙の表面裏面共にレジスターマークを用いた自動見当制御機構であることを特徴とするグラビア印刷機」
2 原査定の拒絶の理由
原査定の理由とされた、令和5年4月7日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、以下のものを含むものである。
(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された特開2008-100694号公報に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 引用文献
(1)引用文献1記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前の平成20年5月1日に頒布された刊行物である特開2008-100694号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器、例えば、ゼリー、ヨーグルトなどの食品用の容器、の開口縁部にヒートシールする蓋材の製造方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の蓋材は、基材フィルムの裏面側全体にヒートシール剤を塗布してあるので、この蓋材を用いて容器の開口縁部にヒートシールすると、内容物によっては香料成分などがヒートシール剤に吸着し、内容物の香りや味が変化してしまうことがあった。これを防止するため、吸着の少ないヒートシール剤を用いると、接着力が弱く、良好な接着が得られないという問題が生じる。
また、特許文献2に記載の蓋材は、ヒートシールを要する部分にのみヒートシール剤を塗布してあるので、内容物の香料成分が吸着してしまうことはない。しかし、このような蓋材の製造は、枚葉で製造するものであり、ライン上で製造することはできなかった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決するため、ヒートシールを要する部分にのみヒートシール剤を塗布した蓋材を連続的に製造する方法を提供することにある。」
「【0007】
…装置1は、印刷ユニット2,3、ヒートシール剤塗布ユニット4、検出器5などを構成として備えており、ロール状に巻かれた印刷原反6から基材フィルム7を連続的に送出し、印刷ユニット2,3にて表面側に印刷を施し、ヒートシール剤塗布ユニット4にて裏面側にヒートシール剤を塗布することができるものである。
【0008】
印刷ユニット2,3は、インクを貯留するインク槽2a,3a、版が装着された版胴2b,3b、版胴と対をなす圧胴2c,3cなどを備えており、適宜色のインクをインク槽2a,3aに貯留してあり、各版胴2b,3bにより基材フィルム7の表面側に印刷する柄の一色を施し、また、基材フィルム7の端にレジスターマークを設けることができる。
本例では、2色の印刷を施す場合を示しているため、印刷ユニットは2箇所としてあるが、印刷ユニットをさらに増やし、さらに多色の印刷を施すこともできる。
なお、印刷方法としては、グラビア印刷、オフセット印刷など従来公知の方法を適宜選択できる。
【0009】
ヒートシール剤塗布ユニット4は、ヒートシール剤を貯留するシール剤槽4a、版が装着された版胴4b、版胴と対をなす圧胴4cなどを備えており、版胴4bにより基材フィルム7の裏面側にヒートシール剤を塗布することができる。
【0010】
検出器5は、情報処理装置(図示せず)と接続されており、前記レジスターマークの位置を光の反射の相違などにより検出することができ、これにより、表面側の色の位置合わせや表面側の印刷と裏面側のヒートシール剤との位置合わせをすることができる。
本例では、検出器5は、基材フィルム7が印刷ユニット3の版胴3b及び圧胴3c間を通過した後、レジスターマークを検出するように配置してある。
【0011】
基材フィルム7は、製造する蓋材の基材となるものであり、紙、アルミ箔、プラスチックフィルムなどからなり、本例では、ロール状に巻いた印刷原反6から連続的に送出されるようにしてある。
【0012】
上記装置1を用いて、以下のように蓋材を製造することができる。
基材フィルム7は、印刷原反6から連続的に図1の矢印の方向に送り出され、印刷ユニット2の版胴2b及び圧胴2c間で表面側にインク槽2aのインクにより1色目の印刷が施される。また、この印刷と同時に基材フィルム7の端に1色目の色に対する略矩形のレジスターマークも施される。
【0013】
次に、基材フィルム7は、印刷ユニット3の版胴3b及び圧胴3c間で表面側にインク槽3aのインクにより2色目の印刷が施される。また、この印刷と同時に基材フィルム7の端に2色目の色に対する略矩形のレジスターマークも施され、このレジスターマークは、1色目のレジスターマークとは適宜間隔を置いて印刷される。
【0014】
これらレジスターマークは、印刷ユニット3を経た後、検出器5により検出され、2つのレジスターマークの間隔が設定したとおりでなければ、色の位置がずれていることになる。色の位置がずれている場合は、コンペンセータロール(図示せず)などにより基材フィルム7の張力を調整し、色の位置が合うよう調整することができる。
【0015】
その後、基材フィルム7は、裏面側が下側になるようにローラ上を流れていき、ヒートシール剤塗布ユニット4の版胴4b及び圧胴4c間で裏面側にシール剤槽4aのヒートシール剤が塗布される。
なお、ヒートシール剤を塗布する位置は、検出器5で検出した2色目の位置を基準として基材フィルム7の送り速度を制御し、表面側の印刷の位置に合わせることができる。
【0016】
印刷及びヒートシール剤の塗布が終了した基材フィルム7は、適宜形状に切断され蓋材とすることができる。
【0017】
上記では、表裏両面の位置合わせとして、表面側の2色目のレジスターマークを基準として裏面側のヒートシール剤を塗布する位置を合わせるようにしたが、この他の位置合わせとしては、ヒートシール剤によりレジスターマークを設け、ヒートシール剤自体は無色であるが、ヒートシール剤の乾燥後は光の反射が異なるので、その差を利用して、表裏両面側に設けた検出器によりヒートシール剤のレジスターマークを検出して制御し、位置合わせをすることもできる。」
「【図1】
[図:0001417363000001.jpg]
」
上記摘記事項を次のとおり整理する。
ア 上記【0008】及び【0012】に印刷ユニット2,3を用いて基材フィルム7の表面側にインクによりグラビア印刷により柄及びレジスターマークを印刷することが記載されており、上記【0011】に基材フィルム7に紙を用いることが記載されているから、引用文献1には「印刷ユニット2,3を用いて、紙からなる基材フィルム7の表面側にインクにより柄及びレジスターマークをグラビア印刷」することが記載されている。
イ 上記【0005】及び【0015】に「ヒートシール剤塗布ユニット4を用いて、基材フィルム7の裏面側のヒートシールに要する部分にのみヒートシール剤を塗布」することが記載されている。
ウ 上記【0014】に「レジスターマークは、検出器5により検出され、色の位置がずれている場合は、コンペンセータロールにより基材フィルム7の張力を調整し、色の位置が合うよう調整」することが記載されている。
エ 上記【0015】及び【0017】に、「基材フィルム7の裏面側にヒートシール剤によりレジスターマークを設け、ヒートシール剤自体は無色であるが、ヒートシール剤の乾燥後は光の反射が異なるので、その差を利用して、表裏両面側に設けた検出器によりヒートシール剤のレジスターマークを検出して制御し、位置合わせ」をすることが記載されている。
オ 【0005】及び【0007】の記載から、引用文献1記載のヒートシールを要する部分にのみヒートシールを塗布方法は、印刷ユニット2,3、ヒートシール剤塗布ユニット4、検出器5を備える「装置1」を用いて実現される。
(2)引用発明
上記アないしオから、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
[引用発明]
印刷ユニット2,3を用いて、紙からなる基材フィルム7の表面側にインクにより柄及びレジスターマークをグラビア印刷し((1)ア)、
ヒートシール剤塗布ユニット4を用いて、基材フィルム7の裏面側のヒートシールに要する部分にのみヒートシール剤を塗布し((1)イ)、
レジスターマークは、検出器5により検出され、色の位置がずれている場合は、コンペンセータロールにより基材フィルム7の張力を調整し、色の位置が合うよう調整し((1)ウ)、
基材フィルム7の裏面側にヒートシール剤によりレジスターマークを設け、ヒートシール剤自体は無色であるが、ヒートシール剤の乾燥後は光の反射が異なるので、その差を利用して、表裏両面側に設けた検出器によりヒートシール剤のレジスターマークを検出して制御し、位置合わせをする((1)エ)、
装置1((1)オ)
(3)周知技術文献4記載事項
本願出願前の令和1年9月25日に頒布された特許第6580291号公報(以下「周知技術文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のヒートシール層を有する包装用紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーを含み、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で2~10g/m2であり、前記ヒートシール層が少なくとも一方の面に2層以上形成されていることを特徴とする包装用紙。」
「【請求項4】
アイオノマーエマルジョンを含有するヒートシール層用塗工液を調製する工程と、紙基材の少なくとも一方の面に、前記ヒートシール層用塗工液を固形分換算で2~10g/m2の範囲で塗工する工程とを有する、請求項1~3のいずれか一つに記載の包装用紙の製造方法。」
「【0011】
また、本発明における包装用紙の製造方法は、アイオノマーエマルジョンを含有するヒートシール層用塗工液を調製する工程と、紙基材の少なくとも一方の面に、前記ヒートシール層用塗工液を固形分換算で2~10g/m2の範囲で塗工する工程とを有することを特徴とする。特にアイオノマーエマルジョンとして、水系アイオノマーエマルジョンを使用する事により、塗工量を比較的低くコントロールすることが可能であり、またVOC排出が無いことから環境負荷の小さい包装用紙を得ることができる。」
上記記載事項から、周知技術文献4には「塗工量を比較的低くコントロールして環境負荷の小さい包装用紙を得る観点からヒートシール層用塗工液を固形分換算で2~10g/m2の範囲で塗工する包装用紙の製造方法」(以下「周知技術文献4記載事項」という。)が記載されている。
(4)周知技術文献5記載事項
本願出願前の平成11年12月21日に頒布された刊行物である特開平11-350382号公報(以下「周知技術文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子レンジ対応の個別包装材料や、例えば、てんぷら等のお惣菜の持ち帰り用包装材料の素材として用いられる食品用ヒートシール包装材に係り、特に、内容物が内圧によって爆発飛散することなく、電子レンジにて再加熱することができるヒートシールパック包装に用いられる素材に関する。」
「【0027】電子レンジ加熱適性についての最終的な評価は、水蒸気の抜けが良いか悪いか(通気性)の評価であり、ヒートシール性樹脂の塗工量が5g/m2の時は、JIS透気度試験に基づき90秒であり、塗工量±2g/m2の範囲では、透気度±30秒つまり60~120秒の範囲が最もヒートシール性と通気性という相反する性質をバランス良く発揮するという結果が得られた。」
上記記載事項から、周知技術文献5には「通気性の観点からヒートシール製樹脂の塗工量を3~7g/m2としたヒートシールパック包装に用いられる素材」(以下「周知技術文献5記載事項」という。)が記載されている。
(5)周知技術文献6記載事項
本願出願前の平成16年3月11日に頒布された刊行物である特開2004-76189号公報(以下「周知技術文献6」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐油性紙及びその製造法に関する。更に詳しくは、チョコレート、スナック菓子等の包装紙、フライドポテト、フライドチキン、ドーナツ、クラッカー、ケーキ等の紙箱や紙袋、紙製カード、ハンバーガー、天プラ等の惣菜類の包装紙等に好適に使用しうる耐油性紙及びその製造法に関する。」
「【0038】
耐油性層用樹脂組成物の塗工量(乾燥後の量)は、紙基材の用途等によって異なるので一概には決定することができない。しかし、塗工量は、ピンホールの発生を抑制する観点から、通常、8g/m2以上、好ましくは12g/m2以上であること望ましく、またあまりにも塗工量が多くてもそれ以上の耐油性の向上が望めないことから、20g/m2以下、好ましくは15g/m2以下であることが望ましい。」
上記記載事項から、周知技術文献6には「ピンホールの発生を抑制する観点から耐油性層用樹脂組成物の塗工量(乾燥後の量)が8g/m2以上20g/m2以下である耐油性紙の製造方法」(以下「周知技術文献6記載事項」という。)が記載されている。
4 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「紙からなる素材フィルム7」、「ヒートシール剤」、「レジスターマーク」は、各々本願発明の「紙」、「塗工液」、「レジスターマーク」に相当する。
イ 引用発明の「装置1」は、グラビア印刷する装置であるから、後述の相違点を除き、本願発明の「グラビア印刷機」に相当する。
ウ 引用発明は、紙からなる機材フィルム7の表面側にインクによりグラビア印刷する装置であるから、本願発明と同じく「紙のグラビア印刷において、前記紙の表面にインクによる印刷を施」す装置である。
エ 引用発明は、基材フィルム7の裏面側のヒートシールに要する部分にのみヒートシール剤を塗布するのであって、ヒートシール剤を部分的に塗布することを「パートコート」と称するから、本願発明と同じく、「紙の裏面に塗工液をパートコート」するものである。
オ 引用発明は、検出器5により基材フィルム7の表面及び裏面に設けられたレジスターマークを検出し、表面の色の位置及び裏面のヒートシール剤を塗布する位置がずれないように、コンペンセータロールにより基材フィルム7の張力を調整して位置合わせ制御するものであって、ヒートシール剤を部分的に塗布することはヒートシール剤を部分的に印刷しているとみることができるから、本願発明の「前記紙の表面と裏面との印刷のずれを抑えるための見当制御機構」を備えている。
カ 引用発明における、基材フィルム7の表面側のインクによるレジスターマーク及び裏面側のヒートシール剤によるレジスターマークを用いて、表面側の印刷の位置合わせ及び裏面側のヒートシール剤の位置合わせをするためにコンペンセータロールにより基材フィルム7の張力を調整して位置合わせ制御する仕組みは、検出器5の検出結果を用いてコンペンセータロールを制御して基材フィルム7の張力を調整するものであるから、自動的に印刷位置の位置決め、すなわち自動見当制御をしているといえるので、本願発明の「前記見当制御機構が前記紙の表面裏面共にレジスターマークを用いた自動見当制御機構」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
[一致点]
「紙のグラビア印刷において、前記紙の表面にインクによる印刷を施し、前記紙の裏面に塗工液をパートコートし、前記紙の表面と裏面との印刷のずれを抑えるための見当制御機構を備え、前記見当制御機構が前記紙の表面裏面共にレジスターマークを用いた自動見当制御機構であるグラビア印刷機」
で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
塗工液の塗工量が、本願発明では「3~15 g/ m2」であるのに対し、引用発明における塗工量が定かでない点。
(2)判断
本願出願前に、環境負荷を小さくするために塗工量を2~10g/m2とした包装用紙(周知技術文献4記載事項)、通気性の観点からヒートシール製樹脂の塗工量を3~7g/m2としたヒートシールパック包装素材(周知技術文献5記載事項)、ピンホールの発生を抑制する観点から塗工量を8g/m2以上20g/m2以下とした耐油製紙(周知技術文献6記載事項)が各々公知であったことからすると、塗工する対象や得たい効果とその程度等により、2g/m2以上20g/m2以下の塗工量とすることは当業者が適宜なし得た事項といえる。そして、本願明細書の記載を参照しても本願発明のごとく「3~15 g/ m2」の塗工量としてどのような効果が生じ得るのか開示されていないことからすると、本願発明の塗工量にしたことによって得られる当業者が予測し得ない格別の効果を推認することができない。したがって、引用発明において、ヒートシール剤を塗布するにあたり、周知技術文献4記載事項ないし周知技術文献6記載事項の塗工量に基づき、塗工する対象及び得たい効果とその程度に応じて本願発明のごとく「3~15 g/ m2」の塗工量として相違点の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、その効果も、引用発明及び周知技術文献4記載事項ないし周知技術文献6記載事項から当業者が予測し得る程度のものにすぎない。
そうすると、本願発明は、引用発明及び周知技術文献4記載事項ないし周知技術文献6記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-018378