特許拒絶査定不服審判
2023-017295
アークチャンバ材料の混合物を用いるイオン注入システム
- 審判番号
- 2023-017295
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-502814
- 請求日
- 2023年10月12日
- 審決日
- 2025年03月14日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】インテグリス・インコーポレーテッド
- 【請求人代理人】園田・小林弁理士法人
- 審判長/審判官
- 審判長 山村 浩
- 審判官 後藤 孝平
- 審判官 波多江 進
- 分類
- P18 .113-WZ (H01J) / P18 .121-WZ (H01J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-502814「アークチャンバ材料の混合物を用いるイオン注入システム」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 1月21日国際公開、WO2021/011143、令和 4年 9月15日国内公表、特表2022-540503〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)6月17日(優先権主張外国庁受理 2019年(令和元年)7月18日(以下「優先日」という。) 米国)を国際出願日とする外国語特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和4年 3月11日 :翻訳文の提出
同月25日 :手続補正書の提出
令和5年 2月 3日付け:拒絶理由通知書
同年 5月12日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月 6日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月13日 :原査定の謄本の送達)
同年10月12日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和6年 9月12日付け:拒絶理由通知書
同年12月16日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による補正を「本件補正」という。)の提出
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
2つ以上のアークチャンバライナーを備え、その一方が、第2のアークチャンバ材料を含み、その他方が、第1のアークチャンバ材料を含み、ここで、前記第2のアークチャンバ材料は、前記第1のアークチャンバ材料とは異なる材料であり、前記第1のアークチャンバ材料および前記第2のアークチャンバ材料は、前記第2のアークチャンバ材料が使用される際、同じ条件で前記第2のアークチャンバ材料がないイオン種のビーム電流に比べて、他のイオン種のどれよりも大きく増加される所望のイオン種のビーム電流を提供するために選択される、基板に1つまたは複数のイオン種を注入するためのシステムであって、
1つまたは複数のイオン種にイオン化可能な化合物を含むガス源と、
2つ以上の異なるアークチャンバ材料を含むアークチャンバと
を備え、
前記アークチャンバが、内面を有するアークチャンバ壁、および前記内面の一部に接触するように構成された2つ以上のアークチャンバライナーを備え、
前記2つ以上の異なるアークチャンバ材料が、前記アークチャンバ壁内、1つもしくは複数のアークチャンバライナー内、またはその両方に存在し、
前記2つ以上の異なるアークチャンバ材料が、タングステン、モリブデン、炭素、シリコン、ホウ素、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、フッ素、インジウム、窒素、酸素、ガリウム、およびゲルマニウムから成るグループから選択された1つまたは複数の原子を含む第1および第2のアークチャンバ材料を含み、
前記ガス源が、AsH3、PH3、GeH4およびB2H6から成るグループから選択された1つもしくは複数のイオン化可能な水酸化物ガス、He、Ne、Ar、Kr、Xe、およびN2から成るグループから選択された1つもしくは複数のイオン化可能な不活性ガス、または、1つもしくは複数のイオン化可能なフッ化物ガス、あるいはこれらの組合せを含む、
システム。」
第3 当審において通知した拒絶の理由の概要
本願発明は、本件補正前の請求項1(令和5年10月12日に提出された手続補正書による補正後のもの)に係る発明を補正したものであるところ、当審において令和6年9月12日付け拒絶理由通知書で本件補正前の請求項1に係る発明に対して通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は、次に概要を示す理由3及び4を含むものである。
理由3(新規性)この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
理由4(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
<引用文献一覧>
1.特開2014-44886号公報
第4 当合議体の判断
当合議体は、以下に示すとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができず、また、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。
1 引用文献1に記載された事項及び引用発明等の認定
(1) 引用文献1に記載された事項
当審拒絶理由で引用され、本願の優先日前に発行された引用文献1(特開2014-44886号公報)には、次の事項が記載されている。下線は当合議体が付したものである。
ア 請求項12
「高融点材料で構成されたアークチャンバと、
前記アークチャンバ内に熱電子を放出する熱電子放出部と、
前記アークチャンバ内にソースガスを導入するガス導入口と、
前記アークチャンバの内壁の少なくとも一部を覆うライナーと、
前記アークチャンバ内で発生したイオンを引き出す開口部と、を備え、
前記ライナーは、前記アークチャンバと比較して、前記ソースガスが分解された際に生じるラジカルと反応し易い材料で構成されていることを特徴とするイオン源。」
イ 技術分野、背景技術
「【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン生成方法およびイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、導電性を変化させる目的、半導体ウエハの結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウエハにイオンを注入する工程が標準的に実施されている。この工程で使用される装置は、一般にイオン注入装置と呼ばれる。
【0003】
このようなイオン注入装置におけるイオン源として、直流放電型のイオン源が知られている。直流放電型のイオン源は、直流電流によってフィラメントを加熱して熱電子を発生させ、その熱電子によってカソードが加熱される。そして、加熱されたカソードから発生した熱電子がアークチャンバ内で加速され、導入されているソースガス分子と衝突することで、ソースガス分子に含まれている原子がイオン化される(特許文献1参照)。」
ウ 発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段
「【0005】
ところで、アークチャンバ内に導入されるソースガス分子には、フッ化物や塩化物等のハロゲン化物が用いられることが多い。ハロゲン化物のソースガス分子は、イオン化の過程でハロゲンラジカルを発生させ、このハロゲンラジカルがイオン源を構成する部品、例えばアークチャンバ内壁の金属材料に作用し、化学結合する。そして、化学結合した金属材料は、ソースガス分子とともにイオン化され、イオンビームとしてイオン源から引き出される。
【0006】
その結果、アークチャンバ内壁の金属材料がイオンとして半導体ウエハに注入され、ウエハが金属等の不純物イオンで汚染される懸念がある。特に、直流放電型のイオン源の場合、アークチャンバ内が高温となるため、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)等の高融点金属をアークチャンバ内壁に用いる場合があるが、このような高融点金属による汚染は、半導体素子の性能向上ためにも極力低減することが望まれている。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、イオン源を構成する部分、特にアークチャンバへのラジカルの作用を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のイオン生成方法は、高融点材料で構成されたアークチャンバを備えた直流放電型イオン源を用いるイオン生成方法であって、アークチャンバ内でソースガスの分子と熱電子とを衝突させてプラズマ放電を起こしてイオンを発生させるイオン発生工程と、イオン発生工程で生じたラジカルを、アークチャンバの内壁の少なくとも一部を覆うように配置されたライナーと反応させる反応工程と、を含む。ライナーは、アークチャンバと比較して、ソースガスが分解された際に生じるラジカルと反応し易い材料で構成されている。
【0009】
本発明の別の態様は、イオン源である。このイオン源は、高融点材料で構成されたアークチャンバと、アークチャンバ内に熱電子を放出する熱電子放出部と、アークチャンバ内にソースガスを導入するガス導入口と、アークチャンバの内壁の少なくとも一部を覆うライナーと、アークチャンバ内で発生したイオンを引き出す開口部と、を備える。ライナーは、アークチャンバと比較して、ソースガスが分解された際に生じるラジカルと反応し易い材料で構成されている。」
エ 第1の実施形態
「【0014】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係るイオン源のアークチャンバ内を示す模式図である。図2は、図1に示すイオン源のA-A断面を示す模式図である。
【0015】
第1の実施の形態に係るイオン源10は、直流放電型のイオン源であり、アークチャンバ12と、熱電子放出部14と、ライナー16と、リペラー18と、サプレッション電極20と、グランド電極22と、各種電源とを備える。
【0016】
アークチャンバ12は、ソースガスを導入するガス導入口24と、イオンビームが引き出される開口部としてのフロントスリット26とが形成されている。
・・・(中略)・・・
【0020】
本実施の形態に係るイオン源10は、(2次)熱電子40を放出する直流放電型のイオン源であり、アークチャンバ12の内部は非常に高温になる。そのため、アークチャンバ12は、高融点材料、具体的には、タングステン(W),モリブデン(Mo),タンタル(Ta)などの高融点金属やそれらの合金、グラファイト(C)等で構成されている。これにより、直流放電型イオン源のように、アークチャンバ内が比較的高温となる環境下でも、アークチャンバを溶けにくくできる。
【0021】
ソースガスには、Ar等の希ガスやH2,PH3,AsH3等の水素化物、BF3,GeF4等のフッ化物やInCl3等の塩化物(ハロゲン化物)、CO2,CO等の酸化物が用いられる。これらのソースガスは、アークチャンバ12に導入され、(2次)熱電子40によりイオン化されるが、励起されたイオンは、アークチャンバ12内壁、フロントスリット26、カソード30、リペラー18に入射して衝突すると、各部の構成素材(W,Ta,Mo,グラファイト等)を、スパッタにより摩滅させる。また、ソースガスがフッ化物の場合、例えば、BF3の場合、イオン化によりB+,BF+, BF2+,F+,F2+が生成され、これらのイオンがアークチャンバ12内部の壁面で中性化されると、F,F2等の反応性の高いフッ素ラジカル(通常、半導体製造プロセスのSiやSiO2膜のエッチングで使用されている。)が生成される。
【0022】
フッ素ラジカルは、イオン源10を構成する部品の材料と化学結合し、WFx,TaFx,MoFx,CFxなどのフッ化物となる。これらフッ化物は、比較的低温でガス化するためアークチャンバー内で導入ソースガスとともにイオン化され、W+,Ta+,Mo+などのイオンビームとして導入ソースガスの主イオンビームとともに引き出されてしまう。
【0023】
一方、昨今のイオン注入では半導体素子の性能向上のため、高融点金属のような重金属イオン(W+,Ta+,Mo+など)による金属汚染(メタルコンタミ)の低減が厳しく要求されている。しかしながら、前述のように、イオンソースガスに含まれるフッ素と、イオン源を構成するアークチャンバ12などの高融点材料とが化学結合してガス化し、コンタミイオンとしてアークチャンバ12から引き出されることは好ましくない。
【0024】
また、イオンビームとして引き出されたこれらの重金属イオンは、ビームライン内に堆積するとともに、その一部はイオン注入部に到達して、注入ウエハの重金属汚染を引き起こし、半導体素子の歩留りを低下させる。さらに、フッ素ラジカルは高温のイオン源の構成物(カソード、リペラー、フロントスリット、アークチャンバ等)を短時間で蝕耗させるとともに、一部の高温部材に堆積し、絶縁不良等の不具合を引き起こす。そのため、各部品を頻繁に交換する必要があり、イオン源やイオン源を備えるイオン注入装置のメンテサイクルを短くしその生産性を低下させることになる。
【0025】
そこで、本発明者が鋭意検討した結果、以下の技術に想到した。つまり、高温のイオンソース内で生じるソース物質のフッ化物や塩化物等のハロゲン化物由来の反応性の高いラジカルを、イオン源を構成する高融点金属からなるアークチャンバ12と化学結合しないように、効率よく低減することで、イオンビーム中に含まれるイオン源10の構成部材由来の重金属イオンを抑制できる点に想到した。また、この技術により、アークチャンバ12をはじめとするイオン源10を構成する部品の損耗が抑えられ、イオン源10長寿命化を図ることも可能となる。
【0026】
このような知見を考慮し、本実施の形態に係るイオン生成方法は、高融点材料で構成されたアークチャンバ12を備えた直流放電型のイオン源10を用いるイオン生成方法である。このイオン生成方法は、アークチャンバ12内でソースガスの分子と熱電子40とを衝突させてプラズマ放電を起こしてイオンを発生させるイオン発生工程と、イオン発生工程で生じたラジカルを、アークチャンバ12の内壁の少なくとも一部を覆うように配置されたライナー16と反応させる反応工程と、を含む。ライナー16は、アークチャンバ12と比較して、ソースガスが分解された際に生じるラジカルと反応し易い材料で構成されている。
【0027】
これにより、イオン源10は、ラジカルがライナー16と反応することでアークチャンバ12内のラジカルが減少し、ライナー16以外のイオン源を構成する部分、例えば、アークチャンバ12、リペラー18、フロントスリット26、カソード30へのラジカルの作用が減少する。そのため、例えば、アークチャンバ12へ作用することが抑制されることで、アークチャンバ12に含まれる高融点材料がイオンとしてフロントスリット26から引き出されることが低減される。
【0028】
本実施の形態に係るソースガスは、ハロゲン化物または酸化物のガスである。具体的には、ソースガスは、BF3,GeF4,PF3,InCl3,InI,InBr,CO2およびCOからなる群より選択される少なくとも一種のガスである。これらのガスは、高温であってもガスの状態を維持できるため、直流放電型イオン源におけるソースガスに適している。
【0029】
これらのソースガスのうちハロゲン化物、例えば、BF3やGeF4等のフッ化物がイオン源10のアークチャンバ12に導入されると、前述したように所望のドーパントイオンを得るためにアークチャンバ12内でプラズマ化され、種々のイオンが生成される。例えば、BF3の場合、生成されるイオンはB+,BF+,BF2+,F+,F2+で、それらのイオンの一部はフロントスリット26の開口部から引き出され、質量分離され、B+またはBF2+のみ半導体素子に注入される。しかしながら、ほとんどのイオンはアークチャンバ12や、カソード30、リペラー18の表面に流入し中性化される。
【0030】
これらのイオンの中でF+やF2+は中性化され、FやF2のフッ素ラジカルとなる。特に反応性の高いフッ素ラジカルは、アークチャンバ12内壁に吸着し、壁面部材(W,Mo,Ta,C等)と化学的に結合し、WFx,MoFx,TaFx,CFxなどが生じる。これらのフッ化物は、数百度以下の比較的低温で気化するため、イオン源10がイオンを発生させている運転時に600℃以上(または1000℃以上、または1500℃以上)に達するアークチャンバ12内の壁面より気化してアークチャンバ12の内壁を蝕耗する。
【0031】
気化したフッ化物は、更に高温のカソード30周辺やリペラー18の表面で熱分解し、Fが解離し、W,Mo,Ta,C等が堆積する、といった、いわゆる、ハロゲンサイクルが起こる。アークチャンバ12内でフッ素ラジカルによる蝕耗や堆積が起こると、前述したように部材の形状変化や、初期隙間の低下等により絶縁不良やビーム性能の低下が起きうる。
【0032】
そこで、本実施の形態では、このようなラジカルを効率よく除去すべく、ライナー16の材料として、W,Mo,Ta,C等の高融点材料よりも融点が低いシリコン(Si)を用いている。半導体プロセスにおける結晶SiやポリSiのエッチングには、CF4のプラズマがよく使用されるており、高融点金属やカーボン(C)と比較してSiは、CF4プラズマ中のフッ素ラジカルやCF2ラジカルに対して非常に選択性が高い。
【0033】
この際の反応は、
Si(固体)+4F→SiF4(ガス)
として表される。
つまり、Siからなるライナー16は、高融点材料よりも容易にエッチングされ易い犠牲材料として機能する。また、ライナー16のSiは、SiF4ガスとして排気され、Siのエッチングが効率よく行われる。逆に、フッ素ラジカルが発生する箇所にSiを置けば、効率よくフッ素ラジカルを除去できるともいえる。なお、ラジカルが酸素ラジカルの場合であっても同様である。また、排気されるガスに、SiF3、SiO、SiO2などのシリコン化合体の気体が含まれていてもよい。
【0034】
このように本実施の形態に係るイオン形成方法は、前述の反応工程で生じた、ラジカルとライナーの材料であるSiとの化合物ガス(SiF4)をイオン源10から排気する排気工程を更に含んでいる。これにより、ラジカルを化合物ガスとして効率よくアークチャンバ12の外へ排出できる。
【0035】
反応工程において用いられるライナー16は、前述のSi以外に、ゲルマニウム(Ge)や炭化ケイ素(SiC)を含む材料であってもよい。なお、Siの純度は、99.999%以上が好ましい。
【0036】
なお、Siは、単結晶シリコンであってもよい。単結晶シリコンは、例えば、ラジカルによってエッチングされる速度が速いため、ラジカルをより効率よく化合物ガスへ変化させることができる。また、単結晶シリコンは、アークチャンバ内で生じるプラズマと対向する面が(100)面となるように配置されていてもよい。単結晶シリコンの(100)面は、ラジカルによってエッチングされる速度が速いため、ラジカルをより効率よく化合物ガスへ変化させることができる。
【0037】
また、シリコンは、多結晶シリコンやアモルファスシリコンであってもよい。多結晶シリコンやアモルファスシリコンは、単結晶シリコンよりも、エッチングされる速度が遅いため、ライナーの寿命を延ばすことができる。
【0038】
また、本実施の形態を別の態様で表現すると、イオン源10は、高融点材料で構成されたアークチャンバ12と、アークチャンバ12内に熱電子を放出する熱電子放出部14と、アークチャンバ12内にソースガスを導入するガス導入口24と、アークチャンバ12の内壁の少なくとも一部を覆うライナー16と、アークチャンバ12内で発生したイオンを引き出すフロントスリット26と、を備える。ライナー16は、アークチャンバ12と比較して、ソースガスが分解された際に生じるラジカルと反応し易い材料で構成されている。
【0039】
また、ライナー16は、少なくとも一部がアークチャンバ12と接していてもよい。これにより、アークチャンバを介してライナーの熱を外部へ放熱できる。
【0040】
なお、アークチャンバ12と別部材のライナー16を設けるのではなく、アークチャンバ12やイオン源10のその他の構成部品の内壁側の表面にSiやGeなどの材料をコーティングしてもよい。その際、その材料は、単結晶、多結晶、アモルファスのいずれかから適宜選択すればよい。」
「【図1】
[図:0001425136000001.jpg]
【図2】
[図:0001425136000002.jpg]
」
オ 第4の実施形態
「【0045】
(第4の実施の形態)
図5は、第4の実施の形態に係るイオン源のアークチャンバ内を示す模式図である。イオン源70において、アークチャンバ12は、フロントスリット26の周辺部であってライナーで覆われていない露出領域12bを有している。ライナー72はラジカルによってエッチングされ減少する。そのため、フロントスリット26の縁までライナーを設けておくと、開口部近傍の形態が経時的に変化し、フロントスリット26から引き出されるイオンビームの形状が安定しなくなるおそれがある。そこで、フロントスリット26の周辺部はライナー72で覆わないことで、イオンビームの形状を安定にできる。
【0046】
このように、イオンビームの引き出し性能については、フロントスリット26に拡散してきたプラズマから磁場に平行なスリットを通して行われるが、引き出されるビーム電流量やビームの発散量はフロントスリット部の摩滅やソース物質の堆積による開口形状の変化に大きく左右され、ひいては、イオン注入部での注入ビーム電流の低下を招き、イオン注入装置の生産性を低下させる。
【0047】
そこで、本実施の形態に係るライナー形状とすることで、フッ素ラジカルによるフロントスリット26近傍の蝕耗やソース物質の堆積が低減され、開口形状の変化が抑えられるため、ビーム形状への影響が低減され、イオン注入装置の安定な運転が維持できる。」
「【図5】
[図:0001425136000003.jpg]
」
カ 各実施の形態に共通する事項
「【0050】
上述のように、特に高温で運転されるイオン源において、フッ化物をソースガスとして使用する場合、例えば、Siライナーをアークチャンバー内に配置すれば、フッ素ラジカルはガスとしてSiF4若しくはSiF2として効率よく排出され、高融点金属やカーボン等の蝕耗や堆積が抑制される。したがって、ソース寿命が著しく改善されることとなる。
【0051】
また、Siライナーでアークチャンバー内壁を覆うことにより、重金属やカーボンのフッ化物が少なくなることから、引き出されるビーム中の重金属イオンも著しく減少し、重金属汚染の低減が可能となる。
【0052】
なお、通常のイオン源は、引出電極に電圧を印加するために絶縁物(インシュレーター)が配置されているが、重金属イオンやカーボンイオンが引き出されると、それらのイオンはその絶縁物表面に付着し、絶縁不良を生ぜしめる。一方、上述の実施の形態にように、Siライナーの場合は、生じたSiF4ガスからイオン化されたSi+も引き出されるが、Siは絶縁物であるため堆積しても絶縁不良を生じない。したがって、引出電極やイオン源周辺の絶縁特性が改善され、ビーム引出の安定化が図られる。
【0053】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を各実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
・・・(中略)・・・
【0056】
また、ガス導入口24やフロントスリット26近傍のライナーをグラファイトとし、それ以外のライナーをSiとしてもよい。
・・・(中略)・・・
【0059】
なお、上述のイオン源は、ライナーをソースとするSiビームの発生装置として機能させてもよい。また、プラズマは、RFアンテナなどの他の手段によって発生させてもよい。」
(当合議体注:【0059】の「Siビームを発生装置として機能させてもよい」は、「Siビームの発生装置として機能させてもよい」の誤記であることが明らかであるから、誤記を正して摘記した。)
(2) 引用文献1の記載事項から当業者が把握できる事項
ア 引用文献1の「半導体製造工程では、導電性を変化させる目的、半導体ウエハの結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウエハにイオンを注入する工程が標準的に実施されている。この工程で使用される装置は、一般にイオン注入装置と呼ばれる。」(【0002】)及び「このようなイオン注入装置におけるイオン源」(【0003】)との背景技術についての記載から、当業者は、引用文献1の実施形態に係るイオン源は、「半導体ウエハにイオンを注入する工程で使用されるイオン注入装置におけるイオン源」であることを把握できる。
イ 引用文献1の【0059】の「ライナーをソースとするSiビームの発生装置として機能させる」との記載について、このSiビームは、「SiF4ガスからイオン化されたSi+」(【0052】)であることが理解できる。そして、このSiF4ガスは、Siからなるライナー16とソースガスから生じるラジカルが反応して生成されるものであるから(【0028】~【0033】)、SiライナーをソースとしてSiビームの発生させる際にも、【0028】に記載されているソースガスが必要であることが理解できる。したがって、引用文献1のイオン源は、「ライナーをソースとするSiビームの発生装置として機能させる」際にも、ソースガスを備えるものであることを当業者は把握できる。
(3) 引用発明の認定
前記(1)に摘記した引用文献1の記載事項及び前記(2)の引用文献1の記載から当業者が把握できる事項を総合すると、引用文献1には、第1の実施形態(図1)に係るイオン源において、【0056】の記載のように「ガス導入口24やフロントスリット26の近傍のライナーをグラファイトとし、それ以外のライナーをSiとし」、【0059】の記載のように「ライナーをソースとするSiビームの発生装置として機能させる」イオン源に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている(引用発明の認定に用いた段落番号等を参考までに括弧内に付してある。以下同じ。)。
<引用発明>
「イオン源10であって、(【0014】)
半導体ウエハにイオンを注入する工程で使用されるイオン注入装置におけるイオン源であり、(前記(2)ア)
イオン源10は、直流放電型のイオン源であり、アークチャンバ12と、熱電子放出部14と、ライナー16と、リペラー18と、サプレッション電極20と、グランド電極22と、各種電源とを備え、(【0015】)
アークチャンバ12は、ソースガスを導入するガス導入口24と、イオンビームが引き出される開口部としてのフロントスリット26とが形成されており、(【0016】)
アークチャンバ12は、高融点材料、具体的には、タングステン(W),モリブデン(Mo),タンタル(Ta)などの高融点金属やそれらの合金、グラファイト(C)等で構成されており、(【0020】)
ソースガスは、ハロゲン化物または酸化物のガスであり、具体的には、ソースガスは、BF3,GeF4,PF3,InCl3,InI,InBr,CO2およびCOからなる群より選択される少なくとも一種のガスであり、(【0028】、前記(2)イ)
これらのソースガスのうちハロゲン化物、例えば、BF3やGeF4等のフッ化物がイオン源10のアークチャンバ12に導入されると、所望のドーパントイオンを得るためにアークチャンバ12内でプラズマ化され、種々のイオンが生成され、(【0029】)
ライナー16の材料として、W,Mo,Ta,C等の高融点材料よりも融点が低いシリコン(Si)を用いており、(【0032】)
ライナー16は、アークチャンバ12の内壁の少なくとも一部を覆い、ライナー16は、アークチャンバ12と比較して、ソースガスが分解された際に生じるラジカルと反応し易い材料で構成されており、(【0038】)
Siライナーの場合は、生じたSiF4ガスからイオン化されたSi+も引き出され、(【0052】)
ガス導入口24やフロントスリット26の近傍のライナーをグラファイトとし、それ以外のライナーをSiとし、(【0056】)
ライナーをソースとするSiビームの発生装置として機能させる、(【0059】、前記(2)イ)
イオン源10。」
2 対比
(1) 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
ア 本願発明の「2つ以上のアークチャンバライナーを備え、その一方が、第2のアークチャンバ材料を含み、その他方が、第1のアークチャンバ材料を含み、ここで、前記第2のアークチャンバ材料は、前記第1のアークチャンバ材料とは異なる材料であり、前記第1のアークチャンバ材料および前記第2のアークチャンバ材料は、前記第2のアークチャンバ材料が使用される際、同じ条件で前記第2のアークチャンバ材料がないイオン種のビーム電流に比べて、他のイオン種のどれよりも大きく増加される所望のイオン種のビーム電流を提供するために選択される、基板に1つまたは複数のイオン種を注入するためのシステムであって、」及び「システム。」との発明特定事項について
(ア) 引用発明の「イオン源10」は、「半導体ウエハにイオンを注入する工程で使用されるイオン注入装置におけるイオン源」であるから、本願発明の「基板に1つまたは複数のイオン種を注入するためのシステム」に相当する。
(イ) 引用発明の「ライナー16」は、「アークチャンバ12の内壁の少なくとも一部を覆[う]」ものであるから、本願発明の「アークチャンバライナー」に相当する。そして、引用発明は、「ガス導入口24やフロントスリット26の近傍のライナーをグラファイトとし、それ以外のライナーをSiと[する]」ものであるから、グラファイトとされるライナーと、Siとされるライナーを備えるものといえ、これらのライナーが、本願発明の「2つ以上のアークチャンバライナー」に相当する。したがって、引用発明は、本願発明でいう、「2つ以上のアークチャンバライナーを備え[る]」ものである。
(ウ) 前記(イ)のとおり、引用発明は、グラファイトとされるライナーと、Siとされるライナーを備えるものといえるところ、「グラファイト」及び「Si」はそれぞれ、本願発明の「第1のアークチャンバ材料」及び「第2のアークチャンバ材料」に相当し、「グラファイト」と「Si」は異なる材料である。したがって、引用発明は、本願発明でいう、「その一方が、第2のアークチャンバ材料を含み、その他方が、第1のアークチャンバ材料を含み、ここで、前記第2のアークチャンバ材料は、前記第1のアークチャンバ材料とは異なる材料であ[る]」ものである。
(エ) 引用発明は、「ライナーをソースとするSiビームの発生装置として機能させる」ものであり、このことは、イオン源が「SiF4ガスからイオン化されたSi+」の発生装置として機能することを意味することを当業者は理解できるから、引用発明の「Si+」は、本願発明の「所望のイオン種」に相当する。このとき、Siビームはライナーをソースとするのであるから、引用発明において、Si+のビーム電流が同じ条件でSiライナーがないSi+のビーム電流に比べて増加することは自明であるし、このことは、ライナーのSi(本願発明の「第2のアークチャンバ材料」に相当。)がSi+のビーム電流が増加するように選択されたものであるともいえる。したがって、引用発明は、本願発明でいう、「前記第1のアークチャンバ材料および前記第2のアークチャンバ材料は、前記第2のアークチャンバ材料が使用される際、同じ条件で前記第2のアークチャンバ材料がないイオン種のビーム電流に比べて、」「増加される所望のイオン種のビーム電流を提供するために選択される」ものであるといえる。
(オ) 前記(ア)~(エ)をまとめると、本願発明と引用発明は、「2つ以上のアークチャンバライナーを備え、その一方が、第2のアークチャンバ材料を含み、その他方が、第1のアークチャンバ材料を含み、ここで、前記第2のアークチャンバ材料は、前記第1のアークチャンバ材料とは異なる材料であり、前記第1のアークチャンバ材料および前記第2のアークチャンバ材料は、前記第2のアークチャンバ材料が使用される際、同じ条件で前記第2のアークチャンバ材料がないイオン種のビーム電流に比べて、」「増加される所望のイオン種のビーム電流を提供するために選択される、基板に1つまたは複数のイオン種を注入するためのシステム」である点で共通する。
(カ) 一方で、所望のイオン種のビーム電流の増加について、本願発明は、「他のイオン種のどれよりも大きく」増加されるのに対して、引用発明は、「ライナーをソースとするSiビームの発生装置として機能させる」ものであるが、Si+が他のイオン種のどれよりも大きくビーム電流が増加されるかは不明である点で一応相違する。
イ 本願発明の「1つまたは複数のイオン種にイオン化可能な化合物を含むガス源と、」「を備え、」との発明特定事項について
(ア) 引用発明の「ソースガス」は、本願発明の「ガス源」に相当する。そして、引用発明の「ソースガス」は、「ハロゲン化物または酸化物のガスであり」、「これらのソースガスのうちハロゲン化物、例えば、BF3やGeF4等のフッ化物がイオン源10のアークチャンバ12に導入されると」、「アークチャンバ12内でプラズマ化され、種々のイオンが生成され[る]」ものであるから、引用発明の「ハロゲン化物」は、本願発明の「1つまたは複数のイオン種にイオン化可能な化合物」に相当する。
(イ) したがって、本願発明と引用発明は、「1つまたは複数のイオン種にイオン化可能な化合物を含むガス源と、」「を備え[る]」点で一致する。
ウ 本願発明の「2つ以上の異なるアークチャンバ材料を含むアークチャンバとを備え、」との発明特定事項について
(ア) 引用発明の「アークチャンバ12」と「ライナー16」からなる構成は、本願発明の「アークチャンバ」に相当する。
(イ) 前記ア(イ)で説示したとおり、引用発明は、グラファイトとされるライナーと、Siとされるライナーを備えるところ、前記(ア)を踏まえると、引用発明の「グラファイト」及び「Si」は、本願発明の「2つ以上の異なるアークチャンバ材料」に相当する。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)をまとめると、本願発明と引用発明は、「2つ以上の異なるアークチャンバ材料を含むアークチャンバとを備え[る]」点で一致する。
エ 本願発明の「前記アークチャンバが、内面を有するアークチャンバ壁、および前記内面の一部に接触するように構成された2つ以上のアークチャンバライナーを備え、」との発明特定事項について
(ア) 引用発明の「アークチャンバ12の内壁」は、本願発明の「内面を有するアークチャンバ壁」に相当する。
(イ) 引用発明の「ライナー16」は、「アークチャンバ12の内壁の少なくとも一部を覆[う]」ものであるから、前記ア(イ)及び前記(ア)も踏まえると、本願発明でいう、「前記内面の一部に接触するように構成された2つ以上のアークチャンバライナー」に相当する。
(ウ) 前記ウ(ア)を勘案して前記(ア)及び(イ)をまとめると、本願発明と引用発明は、「前記アークチャンバが、内面を有するアークチャンバ壁、および前記内面の一部に接触するように構成された2つ以上のアークチャンバライナーを備え[る]」点で一致する
オ 本願発明の「前記2つ以上の異なるアークチャンバ材料が、前記アークチャンバ壁内、1つもしくは複数のアークチャンバライナー内、またはその両方に存在し、」との発明特定事項について
(ア) 前記ア(イ)及び同(ウ)で説示したとおり、引用発明は、グラファイトとされるライナーと、Siとされるライナーを備え、「グラファイト」及び「Si」はそれぞれ、本願発明の「第1のアークチャンバ材料」及び「第2のアークチャンバ材料」に相当することを勘案すれば、引用発明は、本願発明でいう、「前記2つ以上の異なるアークチャンバ材料が、」「1つもしくは複数のアークチャンバライナー内」「に存在[する]」ものである。
(イ) したがって、本願発明と引用発明は、「前記2つ以上の異なるアークチャンバ材料が、前記アークチャンバ壁内、1つもしくは複数のアークチャンバライナー内、またはその両方に存在[する]」点で一致する。
カ 本願発明の「前記2つ以上の異なるアークチャンバ材料が、タングステン、モリブデン、炭素、シリコン、ホウ素、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、フッ素、インジウム、窒素、酸素、ガリウム、およびゲルマニウムから成るグループから選択された1つまたは複数の原子を含む第1および第2のアークチャンバ材料を含み、」との発明特定事項について
(ア) 前記ウ(イ)で説示したとおり、引用発明の「グラファイト」及び「Si」は、本願発明の「2つ以上の異なるアークチャンバ材料」に相当するとともに、前記ア(ウ)で説示したとおり、「グラファイト」及び「Si」はそれぞれ、本願発明の「第1のアークチャンバ材料」及び「第2のアークチャンバ材料」に相当するところ、引用発明の「グラファイト」及び「Si」はそれぞれ、本願発明の「炭素」及び「シリコン」に相当する。
(イ) したがって、本願発明と引用発明は、「前記2つ以上の異なるアークチャンバ材料が、タングステン、モリブデン、炭素、シリコン、ホウ素、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、フッ素、インジウム、窒素、酸素、ガリウム、およびゲルマニウムから成るグループから選択された1つまたは複数の原子を含む第1および第2のアークチャンバ材料を含[む]」点で一致する。
キ 本願発明の「前記ガス源が、AsH3、PH3、GeH4およびB2H6から成るグループから選択された1つもしくは複数のイオン化可能な水酸化物ガス、He、Ne、Ar、Kr、Xe、およびN2から成るグループから選択された1つもしくは複数のイオン化可能な不活性ガス、または、1つもしくは複数のイオン化可能なフッ化物ガス、あるいはこれらの組合せを含む、」との発明特定事項について
(ア) 引用発明の「ソースガス」(本願発明の「ガス源」に相当。)は、「ハロゲン化物または酸化物のガスであり、具体的には、ソースガスは、BF3,GeF4,PF3,InCl3,InI,InBr,CO2およびCOからなる群より選択される少なくとも一種のガス」であって、「これらのソースガスのうちハロゲン化物、例えば、BF3やGeF4等のフッ化物がイオン源10のアークチャンバ12に導入されると、所望のドーパントイオンを得るためにアークチャンバ12内でプラズマ化され、種々のイオンが生成され[る]」ものであるから、引用発明の「ソースガス」である「ハロゲン化物、例えば、BF3やGeF4等のフッ化物」は、本願発明の「1つもしくは複数のイオン化可能なフッ化物ガス」に相当する。
(イ) したがって、本願発明と引用発明は、「前記ガス源が、AsH3、PH3、GeH4およびB2H6から成るグループから選択された1つもしくは複数のイオン化可能な水酸化物ガス、He、Ne、Ar、Kr、Xe、およびN2から成るグループから選択された1つもしくは複数のイオン化可能な不活性ガス、または、1つもしくは複数のイオン化可能なフッ化物ガス、あるいはこれらの組合せを含む」点で一致する。
(2) 一致点及び相違点の認定
前記(1)から、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「2つ以上のアークチャンバライナーを備え、その一方が、第2のアークチャンバ材料を含み、その他方が、第1のアークチャンバ材料を含み、ここで、前記第2のアークチャンバ材料は、前記第1のアークチャンバ材料とは異なる材料であり、前記第1のアークチャンバ材料および前記第2のアークチャンバ材料は、前記第2のアークチャンバ材料が使用される際、同じ条件で前記第2のアークチャンバ材料がないイオン種のビーム電流に比べて、増加される所望のイオン種のビーム電流を提供するために選択される、基板に1つまたは複数のイオン種を注入するためのシステムであって、
1つまたは複数のイオン種にイオン化可能な化合物を含むガス源と、
2つ以上の異なるアークチャンバ材料を含むアークチャンバとを備え、
前記アークチャンバが、内面を有するアークチャンバ壁、および前記内面の一部に接触するように構成された2つ以上のアークチャンバライナーを備え、
前記2つ以上の異なるアークチャンバ材料が、前記アークチャンバ壁内、1つもしくは複数のアークチャンバライナー内、またはその両方に存在し、前記2つ以上の異なるアークチャンバ材料が、タングステン、モリブデン、炭素、シリコン、ホウ素、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、フッ素、インジウム、窒素、酸素、ガリウム、およびゲルマニウムから成るグループから選択された1つまたは複数の原子を含む第1および第2のアークチャンバ材料を含み、
前記ガス源が、AsH3、PH3、GeH4およびB2H6から成るグループから選択された1つもしくは複数のイオン化可能な水酸化物ガス、He、Ne、Ar、Kr、Xe、およびN2から成るグループから選択された1つもしくは複数のイオン化可能な不活性ガス、または、1つもしくは複数のイオン化可能なフッ化物ガス、あるいはこれらの組合せを含む、
システム」である点。
<相違点>
所望のイオン種のビーム電流の増加について、本願発明は、「他のイオン種のどれよりも大きく」増加されるのに対して、引用発明は、「ライナーをソースとするSiビームの発生装置として機能させる」ものであるが、Siが他のイオン種のどれよりも大きくビーム電流が増加されるかどうかは不明である点。
3 判断
(1) 相違点についての検討
前記相違点について検討する。
引用発明は、「ライナーをソースとするSiビームの発生装置として機能させる」ものであって、「ソースガスは、BF3,GeF4,PF3,InCl3,InI,InBr,CO2およびCOからなる群より選択される少なくとも一種のガス」であるから、SiビームのソースとなるのはSiライナーのみである。そして、前記2(1)ア(エ)で検討したように、Si+のビーム電流は、同じ条件でSiライナーがないSi+のビーム電流に比べて増加されることは自明であるところ、Siライナーがないときには他にSi+のソースがないことに加えて、Siビームの発生装置として機能させるものである以上、通常はSi+のビーム電流を他のイオン種のビーム電流よりも大きくすることを勘案すれば、Siライナーを設けることによりビーム電流が最も大きく増加するのは、Si+であること、すなわち、ライナーのSiの存在により、所望のイオン種であるSi+のビーム電流が、他のイオン種のどれよりも大きく増加することは明らかである。したがって、前記相違点は実質的な相違点ではなく、他に相違点はないから、本願発明は引用発明である。
仮に、Siライナーを設けることによりビーム電流が最も大きく増加するのがSi+であることが直ちに明らかではないとしても、引用発明は「ライナーをソースとするSiビームの発生装置として機能させる」ものである以上、生成されるイオンの中でSi+が最も多く生成されるような条件とすることは当業者が容易に想到し得ることであるし、そのような条件であれば、Siライナーがないときには他にSi+の供給源がないことも踏まえれば、Siライナーを設けることによりビーム電流が最も大きく増加するのは、必然的にSi+となる。したがって、引用発明において相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるともいえる。
(2) 予備的検討
ところで、本願発明の「ガス源」は、「1つまたは複数のイオン種にイオン化可能な化合物を含む」ものであり、かつ、「AsH3、PH3、GeH4およびB2H6から成るグループから選択された1つもしくは複数のイオン化可能な水酸化物ガス、He、Ne、Ar、Kr、Xe、およびN2から成るグループから選択された1つもしくは複数のイオン化可能な不活性ガス、または、1つもしくは複数のイオン化可能なフッ化物ガス、あるいはこれらの組合せを含む」ものであれば足りるが、本願の明細書の【0017】の「アークチャンバ内に所定の電力および電圧を印加すると、イオン種をガスまたはガス混合物から生成することができ、種は、基板注入に望ましい1つまたは複数のイオン種を含む」との記載を参酌して、本願発明の「ガス源」が、「基板注入に望ましい1つまたは複数のイオン種」を生成する「ガスまたはガス混合物」を含むものと解した場合について、予備的に検討する。
この場合、前記(1)でも説示したように、引用発明は、「ソースガスは、BF3,GeF4,PF3,InCl3,InI,InBr,CO2およびCOからなる群より選択される少なくとも一種のガス」であるから、SiビームのソースとなるのはSiライナーのみであり、引用発明の「ソースガス」は、この場合の本願発明の「ガス源」とは、「基板注入に望ましい1つまたは複数のイオン種」を生成するものではない点で相違することとなる。
しかしながら、チャンバの被覆材料とガス源の双方から基板に注入する所望のイオンを生成することは、例えば特開昭52-52099号公報(1頁左下欄の特許請求の範囲、2頁右上欄6行~同左下欄5行参照)、特開平6-223758号公報(【0016】~【0017】、【0021】~【0024】参照)に見られるように周知技術であるから、「ライナーをソースとするSiビームの発生装置として機能させる」引用発明において、ライナーに加えて、ガス源もSiビームのソースとなるガスを含むものとすることは、当業者が容易になし得たことである(なお、このようにガス源とライナーから基板注入に望ましいイオンを得ることは、本願の明細書の【0064】にも記載されており、本願発明はこのような形態を包含している。)。そして、この際にも、前記(1)で検討したのと同様の理由により、生成されるイオンの中でSi+が最も多く生成されるような条件とすることで、Siライナーを設けることによりビーム電流が最も大きく増加するのがSi+であるようにすることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、本願発明の「ガス源」を「基板注入に望ましい1つまたは複数のイオン種」を生成する「ガスまたはガス混合物」を含むものと解した場合の前記相違点に係る構成は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に至ることができたものである。
(3) 効果について
本願発明の奏する効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明からは予測困難な効果であり、かつ、格別顕著な効果であるとはいえないものにすぎない。
(4) 請求人の主張について
請求人は、「前記第2のアークチャンバ材料は、前記第1のアークチャンバ材料とは異なる材料であり、前記第1のアークチャンバ材料および前記第2のアークチャンバ材料は、前記第2のアークチャンバ材料が使用される際、同じ条件で前記第2のアークチャンバ材料がないイオン種のビーム電流に比べて、他のイオン種のどれよりも大きく増加される所望のイオン種のビーム電流を提供するために選択される」との構成は、引用文献1には開示も示唆もされていない旨を主張している。
しかしながら、当該構成は引用発明でも同様であり実質的な相違点ではないか、実質的な相違点であるとしても、引用発明に基づいて当業者が容易になし得たことであることは、前記(1)で検討したとおりである。
したがって、請求人の主張は採用できない。
4 小括
以上検討のとおり、本願発明は、引用発明である。また、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条1項3号に該当し、また、同条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-017295