特許拒絶査定不服審判
2023-017244
光学センサ
- 審判番号
- 2023-017244
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-213803
- 請求日
- 2023年10月11日
- 審決日
- 2025年03月12日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】オムロン株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人深見特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 小島 寛史
- 審判官 喜々津 徳胤
- 分類
- P18 .561-Z (G01B) / P18 .55 -Z (G01B) / P18 .575-Z (G01B) / P18 .537-Z (G01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項、特許法第50条の2、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-213803「光学センサ」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 2月18日出願公開、特開2022- 31539〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年9月29日に出願された特願2017-190521号の一部を令和3年12月28日に新たな特許出願とした特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和4年 1月27日 :手続補正書の提出
同年 9月21日付け:拒絶理由通知書
(特許法50条の2の通知を伴う。)
同年11月16日 :意見書、手続補正書の提出
令和5年 1月31日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年 4月 7日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月29日付け:補正の却下の決定
同日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年 7月11日 :原査定の謄本の送達)
同年10月11日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和5年10月11日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年10月11日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和5年10月11日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正するものであって、次の(1)に示す本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を、後記の(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正するものである。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
対象物からの反射光に基づいて前記対象物との距離または前記対象物の変位を計測する光学センサであって、
前記対象物へ照射する光を発生する光源装置と、
前記対象物からの反射光を受光する受光部と、
前記光源装置と光学的に結合される第1の光ファイバおよび前記受光部と光学的に結合される第2の光ファイバを融着して前記対象物へ向かう第3の光ファイバの一端と接合する分岐部と、
前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された受光量を基準検出量として、前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される受光量の前記基準検出量に対する増分が予め定められた正の第1のしきい値以下である場合に、反射光が少なくなったことに基づいて、前記第3の光ファイバと前記分岐部との接合部における接合異常があると判断する処理部とを備える、光学センサ。」
(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
対象物からの反射光に基づいて前記対象物との距離または前記対象物の変位を計測する光学センサであって、
前記対象物へ照射する光を発生する光源装置と、
前記対象物からの反射光を受光して、複数の波長特性を出力する受光部と、
前記光源装置と光学的に結合される第1の光ファイバおよび前記受光部と光学的に結合される第2の光ファイバを融着して前記対象物へ向かう第3の光ファイバの一端と接合する分岐部と、
前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された複数の波長特性における受光量を基準検出量として、前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される複数の波長特性における受光量の前記基準検出量に対応する基準波長特性に対する増分に基づく波長特性が予め定められた正の第1のしきい値以下であり、かつ、正の第2のしきい値より大きい場合に、反射光が少なくなったことに基づいて、前記第3の光ファイバと前記分岐部との接合部におけるファイバ抜けの接合異常があると判断する処理部とを備える、光学センサ。」
(3) 補正内容
本件補正は、それぞれ次のア~オに示す補正事項1から補正事項5までの補正事項からなる(それぞれ、(ア)及び(イ)に本件補正前の記載と本件補正後の記載を示す。)。
ア 補正事項1
(ア) 本件補正前の記載
「前記対象物からの反射光を受光する受光部」
(イ) 本件補正後の記載
「前記対象物からの反射光を受光して、複数の波長特性を出力する受光部」
イ 補正事項2
(ア) 本件補正前の記載
「前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された受光量を基準検出量として」
(イ) 本件補正後の記載
「前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された複数の波長特性における受光量を基準検出量として」
ウ 補正事項3
(ア) 本件補正前の記載
「前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される受光量の前記基準検出量に対する増分」
(イ) 本件補正後の記載
「前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される複数の波長特性における受光量の前記基準検出量に対応する基準波長特性に対する増分に基づく波長特性」
エ 補正事項4
(ア) 本件補正前の記載
「予め定められた正の第1のしきい値以下である場合」
(イ) 本件補正後の記載
「予め定められた正の第1のしきい値以下であり、かつ、正の第2のしきい値より大きい場合」
オ 補正事項5
(ア) 本件補正前の記載
「前記第3の光ファイバと前記分岐部との接合部における接合異常」
(イ) 本件補正後の記載
「前記第3の光ファイバと前記分岐部との接合部におけるファイバ抜けの接合異常」
2 本件補正についての当審の判断
(1) 「複数の波長特性」という概念を導入することについて
ア 検討の対象となる技術事項
本件補正後の請求項1の記載は、接合異常の判断において「複数の波長特性」を用いることを特定するものである(前記補正事項1~3に対応)。
イ 「波長特性」という用語の解釈について
(ア) 本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、それぞれ「当初明細書」などといい、まとめて「当初明細書等」という。)の記載を参照すると、「波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける強度」との記載はあるものの(それぞれ次のa及びbに摘記した当初特許請求の範囲における請求項3~6及び当初明細書の【課題を解決するための手段】の欄の【0008】~【0011】参照。なお、下線は当合議体が付した。)、「複数の波長特性」という記載は無い。
a 当初特許請求の範囲
「【請求項1】
対象物からの反射光に基づいて前記対象物との距離または前記対象物の変位を計測する光学センサであって、
前記対象物へ照射する光を発生する光源装置と、
前記対象物からの反射光を受光する受光部と、
前記光源装置と光学的に結合される第1の光ファイバおよび前記受光部と光学的に結合される第2の光ファイバを融着して前記対象物へ向かう第3の光ファイバの一端と接合する分岐部と、
前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された受光量を基準検出量として、前記受光部において検出される受光量の前記基準受光量に対する増分が予め定められた範囲内にあるか否かに基づいて、前記第3の光ファイバと前記分岐部との接合部における接合異常の有無を判断する処理部とを備える、光学センサ。
【請求項2】
前記受光部は、入射する光強度の波長特性を出力するように構成されており、
前記処理部は、前記基準検出量に対応する基準波長特性と前記受光部からの波長特性との差分に相当する差分波長特性に基づいて、前記増分が予め定められた範囲内にあるか否かを判断する、請求項1に記載の光学センサ。
【請求項3】
前記処理部は、前記差分波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける強度が、全て予め定められた正の第1のしきい値以下であり、かつ1つ以上が前記正の第1のしきい値より小さい予め定められた正の第2のしきい値より大きい場合に、前記第3の光ファイバと前記分岐部との接合部に異常があると判断する、請求項2に記載の光学センサ。
【請求項4】
前記処理部は、前記差分波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける強度の全てが前記正の第2のしきい値以下である場合に、前記光源装置からの光の発生に異常があると判断する、請求項3に記載の光学センサ。
【請求項5】
前記処理部は、前記差分波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける強度が、全て前記正の第2のしきい値以下であり、かつ1つ以上が前記基準検出量の反転負値より大きい場合、前記光源装置が劣化したと判断し、前記差分波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける強度の全てが前記基準検出量の反転負値と実質的に同一の場合、前記光源装置からの光の発生が停止したと判断する、請求項4に記載の光学センサ。
【請求項6】
前記処理部は、前記差分波長特性が示す各波長の強度を積算して面積値を算出するとともに、算出された面積値が予め定められた正の第1のしきい値以下であり、かつ前記正の第1のしきい値より小さい予め定められた正の第2のしきい値より大きい場合に、前記第3の光ファイバと前記分岐部との接合部に異常があると判断する、請求項2に記載の光学センサ。
(後略)」
b 当初明細書の【課題を解決するための手段】の欄の記載
「【0006】 本開示のある局面によれば、対象物からの反射光に基づいて対象物との距離または対象物の変位を計測する光学センサであって、対象物へ照射する光を発生する光源装置と、対象物からの反射光を受光する受光部と、光源装置と光学的に結合される第1の光ファイバおよび受光部と光学的に結合される第2の光ファイバを融着して対象物へ向かう第3の光ファイバの一端と接合する分岐部と、第3の光ファイバの他端から反射がない状態において受光部により検出された受光量を基準検出量として、受光部において検出される受光量の基準受光量に対する増分が予め定められた範囲内にあるか否かに基づいて、第3の光ファイバと分岐部との接合部における接合異常の有無を判断する処理部とを備える。
【0007】 好ましくは、受光部は、入射する光強度の波長特性を出力するように構成されており、処理部は、基準検出量に対応する基準波長特性と受光部からの波長特性との差分に相当する差分波長特性に基づいて、増分が予め定められた範囲内にあるか否かを判断する。
【0008】 好ましくは、処理部は、差分波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける強度が、全て予め定められた正の第1のしきい値以下であり、かつ1つ以上が正の第1のしきい値より小さい予め定められた正の第2のしきい値より大きい場合に、第3の光ファイバと分岐部との接合部に異常があると判断する。
【0009】 好ましくは、処理部は、差分波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける強度の全てが正の第2のしきい値以下である場合に、光源装置からの光の発生に異常があると判断する。
【0010】 好ましくは、処理部は、差分波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける強度が、全て正の第2のしきい値以下であり、かつ1つ以上が基準検出量の反転負値より大きい場合、光源装置が劣化したと判断し、差分波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける強度の全てが基準検出量の反転負値と実質的に同一の場合、光源装置からの光の発生が停止したと判断する。
【0011】 好ましくは、処理部は、差分波長特性が示す各波長の強度を積算して面積値を算出するとともに、算出された面積値が予め定められた正の第1のしきい値以下であり、かつ正の第1のしきい値より小さい予め定められた正の第2のしきい値より大きい場合に、第3の光ファイバと分岐部との接合部に異常があると判断する。
(後略)」
(イ) 「波長特性」という語は、「スペクトル」と同義であることは技術常識である(例えば、https://www.klv.co.jp/corner/light-source-wavelength-characteristics.htmlを参照)。
そして、「スペクトル」は、「光を分光器にかけて得られる、波長とその波長における強さを示したもの」を意味する(広辞苑第七版)。
(ウ) 「波長特性」という語に関して、前記(ア)bに摘記した当初明細書の発明の詳細な説明の記載を参照すると、例えば、次のa及びbに示す記載がある。
a 「受光部は、入射する光強度の波長特性を出力するように構成されており、処理部は、基準検出量に対応する基準波長特性と受光部からの波長特性との差分に相当する差分波長特性に基づいて、増分が予め定められた範囲内にあるか否かを判断する」(【0007】)
b 「処理部は、差分波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける強度が、全て予め定められた正の第1のしきい値以下であり、かつ1つ以上が正の第1のしきい値より小さい予め定められた正の第2のしきい値より大きい場合に、第3の光ファイバと分岐部との接合部に異常があると判断する」(【0008】)
(エ) 通常「波長特性」という用語は「スペクトル」を意味するところ、前記(ウ)に摘記した当初明細書の記載等においても、「波長特性」という用語を「スペクトル」、すなわち「各波長における強さを示したもの」の意味として理解して文章全体の意味が取れることが理解できるから、当初明細書等においては、「波長特性」という用語は「スペクトル」を意味するものとして用いていると解するのが相当である。
ウ 「複数の波長特性」という技術事項について
(ア) 前記イ(エ)の「波長特性」という用語の解釈を踏まえると、本件補正後の請求項1においては「複数の波長特性」と記載されていることから、各波長における強さを示すスペクトルが「複数」あることを意味することとなる。
(イ) しかしながら、当初明細書等においては、「スペクトル」がある、すなわち、計測される光の強度は波長が異なればその値が異なるところ、このような「スペクトル」は、個々の各「光学センサ」においては、それぞれの各状況下における各時点においては「単一」であることを前提として、「複数の波長のそれぞれにおける強度」を用いることは記載されているものの、このような個々の各光学センサの各状況下における各時点における「スペクトル」が「複数」認識できることを用いて何らかの処理をすることの記載は、当初明細書等には存在しない。
(ウ) そうすると、「複数の波長特性」を含む本件補正後の請求項1は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内において補正するものとは認められない。
(2) 「複数の波長特性」という記載等を善解した検討
ア 「複数の波長特性」という記載自体の善解について
(ア) 「複数の波長特性」が「波長特性が示す複数の波長」又は「波長特性が示す複数の波長における強度」の意味であるとの主張が考えられるため、このように善解して、進んで検討する。
(イ) このように善解すると、補正事項1及び補正事項2による本件補正後の記載並びに補正事項3による本件補正後の記載の前半の部分は、それぞれa~cのとおりとなり、問題なく理解することは可能である。
a 補正事項1に係る事項
(a) 本件補正後の記載
「前記対象物からの反射光を受光して、複数の波長特性を出力する受光部」
(b) 善解した記載
「前記対象物からの反射光を受光して、波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける強度を出力する受光部」
b 補正事項2に係る事項
(a) 本件補正後の記載
「前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された複数の波長特性における受光量を基準検出量として」
(b) 善解した記載
「前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける受光量を基準検出量として」
c 補正事項3に係る事項のうち前半部分
(a) 本件補正後の記載
「前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される複数の波長特性における受光量」
(b) 善解した記載
「前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける受光量」
(ウ) しかしながら、前記(イ)c(b)のとおり、補正事項3の前半部分を善解したとしても、補正事項3の後段部分を補正後のとおり記載すると、補正事項3の全体は次のとおりとなり、残された下線部分を同様の手法で善解することができないことが理解できる。
「前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける受光量の前記基準検出量に対応する基準波長特性に対する増分に基づく波長特性」
(エ) このように、本件補正後の請求項1の記載は、「複数の波長特性」が「波長特性が示す複数の波長」又は「波長特性が示す複数の波長における強度」の意味であると単純に理解することにより善解することはできないものである。
イ 請求項1の記載全体の善解について
(ア) 前記ア(エ)のとおり、「複数の波長特性」という記載を「波長特性が示す複数の波長」又は「波長特性が示す複数の波長における強度」の意味に単純に置き換える善解方法では、請求項1の記載の意味が不明となるが、更に進んで、補正事項3にかかる事項のうち後半部分の「前記基準検出量に対応する基準波長特性に対する増分に基づく波長特性」における下線部を削除する場合には、意味が通るものとなり、善解可能である。
以下、このように理解し検討する。
(イ) 前記(ア)のとおり善解すると、本件補正後の請求項1の記載は、次のとおり理解することとなる。
<善解した請求項1の記載>
「【請求項1】
対象物からの反射光に基づいて前記対象物との距離または前記対象物の変位を計測する光学センサであって、
前記対象物へ照射する光を発生する光源装置と、
前記対象物からの反射光を受光して、波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける強度を出力する受光部と、
前記光源装置と光学的に結合される第1の光ファイバおよび前記受光部と光学的に結合される第2の光ファイバを融着して前記対象物へ向かう第3の光ファイバの一端と接合する分岐部と、
前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された波長特性における複数の波長のそれぞれにおける受光量を基準検出量として、前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける受光量の前記基準検出量に対する増分が予め定められた正の第1のしきい値以下であり、かつ、正の第2のしきい値より大きい場合に、反射光が少なくなったことに基づいて、前記第3の光ファイバと前記分岐部との接合部におけるファイバ抜けの接合異常があると判断する処理部とを備える、光学センサ。」
(ウ) しかしながら、当初明細書等に開示されているのは、次に摘記した【図13】及び関連する明細書の【0066】~【0068】等を参照すると理解されるとおり、「波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける受光量の前記基準検出量に対する増分」(【図13】における「「数点」の「代表点」における「サンプリング値」」がこれに相当する。)が、「全て予め定められた正の第1のしきい値以下であり、かつ1つ以上が正の第1のしきい値より小さい予め定められた正の第2のしきい値より大きい場合」に「ファイバ抜けの接合異常があると判断する」判断方法であって、「全て」と「1つ以上」の限定なしに、ファイバ抜けを判断することは、当初明細書等には記載も示唆もされていない。
「【図13】
[図:0001421950000001.jpg]
」
「【0066】
図13に戻って、ステップS13において、サンプリング点Rdkでの各サンプリング値が全て予め定められた正のしきい値TH1以下であるかどうかを判定する。当該サンプリング値が全て正のしきい値TH1以下であれば、ステップS14において、当該サンプリング値が1つ以上正のしきい値TH2より大きいかどうかを判定する。
【0067】
上記サンプリング値が1つ以上正のしきい値TH2より大きければ、ステップS15において、光ファイバ52がファイバコネクタ30から抜けたと判断する。このとき、ステップS16において、モニタ54にエラーを表示するとともに、ファイバ抜けの異常があったことを通知する。
【0068】
図3および図7で説明したように、戻り光RL、受光信号REはいずれも、計測対象物TSの反射率にかかわらずほぼ一定の値を示す。そのため、図11を参照して、補正信号REd=RE-RLも計測対象物TSの反射率にかかわらずほぼ一定の値となり、変動幅は極めて小さくなる。よって、上記サンプリング値が、全て予め定められた正のしきい値TH1以下であり、かつ1つ以上正のしきい値TH2より大きければ、計測対象物TSの存在に関わらず、光ファイバ52がファイバコネクタ30から抜けたと判断される。」
(エ) すなわち、「全部でなく複数の点で正の第1のしきい値以下」であり、「一つではなく複数の点で正の第2のしきい値より大きい」場合に「ファイバ抜け」と判断することを、本件補正後の請求項1は包摂するものの、このような概念は、【図13】等に記載されたものとは異なるものであり、当初明細書等には記載も示唆もされていない。
(オ) そうすると、前記(イ)のとおり本件補正後の請求項1を善解したとしても、本件補正後の請求項1は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、本件補正は、いずれにしても、当初明細書等に記載された事項の範囲内において補正するものとは認められない。
(3) 請求人の主張について
ア 審判請求書における請求人の主張
請求人は、審判請求書において、次のとおり主張している。
本件補正の根拠は、当初明細書等の【0043】、【0066】~【0068】、【0083】、図3などであり、本件補正後の請求項1が当初明細書等に記載されたものであることは、明らかである。
イ 請求人の主張についての検討
(ア)a 当初明細書の【0043】及び【図3】には、次の事項が記載されている。
「【0043】
図3は、ファイバコネクタ30での戻り光RLの波長ごとの受光量を示した図である。
図3を参照して、戻り光RLは、計測対象物TSの存在に関わらず乗ってくるオフセット成分である。戻り光RLは、計測時のリニアリティ性能に影響する可能性がある。このオフセット成分は、接続する光ファイバによって機差がある。そこで、ヘッド部51の校正を行なうことで当該機差を補正する必要がある。」
「【図3】
[図:0001421950000002.jpg]
」
b 前記箇所の記載が、前記(1)ウ(ウ)及び(2)イ(オ)の結論を左右するものでないことは明らかである。
(イ) 当初明細書の【0066】~【0068】が、前記(1)ウ(ウ)の結論を左右するものでないことは明らかであり、また、これらの記載は既に(2)イ(ウ)において検討しており、これらの記載が前記(2)イ(オ)の結論と齟齬しないことも明らかである。
(ウ)a 当初明細書の【0081】~【0083】及び当該箇所が説明する【図17】には、次のことが記載されている。
「【0081】 図17は、サンプリングしきい値を用いて非測定時の共焦点計測装置50の投光部での異常を検知する方法を示したフロー図である。
【0082】 図17を参照して、まず、ステップS50において、計測対象物TSを取り除いて受光波形データを取得する(図3、図7または図9および対応する説明参照)。ステップS51では、当該受光波形データの中から代表点を数点サンプリングする。
【0083】 ステップS52において、サンプリング値が全て予め定められた正のしきい値TH1以下であるかどうかを判定する。当該サンプリング値が全て正のしきい値TH1以下であれば、ステップS53において、当該サンプリング値が1つ以上正のしきい値TH2より大きいかどうかを判定する。当該サンプリング値が1つ以上正のしきい値TH2より大きければ、ステップS54において、検出信号を有効な基準検出量の戻り光RLとして出力する(図3参照)。当該戻り光RLの波形データは、処理部59に記録されて次の計測に用いられる。」
「【図17】
[図:0001421950000003.jpg]
」
b 【図17】のものにおいて「ファイバ抜けと判断[する]」のは、「計測対象物TSを取り除いて受光波形データを取得する」という条件と「サンプリング値が全て予め定められた正のしきい値TH1以下であること」が否定されたという条件の二つの条件が満たされた場合であって、これが、善解した本件補正後の請求項1の次の条件と異なることは、明らかである。
「前記第3の光ファイバの他端から反射がない状態において前記受光部により検出された波長特性における複数の波長のそれぞれにおける受光量を基準検出量として、前記第3の光ファイバの他端が前記対象物に対向しているときに前記受光部において検出される波長特性が示す複数の波長のそれぞれにおける受光量の前記基準検出量に対する増分が予め定められた正の第1のしきい値以下であり、かつ、正の第2のしきい値より大きい場合に、反射光が少なくなったことに基づいて、前記第3の光ファイバと前記分岐部との接合部におけるファイバ抜けの接合異常があると判断する」
c したがって、明細書の【0088】の記載が、前記(1)ウ(ウ)の結論だけでなく、前記(2)イ(オ)の結論を左右するものでもないことは、明らかである。
(エ) 前記(ア)~(ウ)において検討したとおりであるから、請求人が示す根拠記載を参照しても、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲においてするものであるとは認められない。
(4) 新規事項の有無の判断についてのまとめ
以上検討のとおり、本件補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法17条の2第3項の規定に違反する。
(5) 目的要件違反
仮に、本件補正が特許法17条の2第3項の規定に違反するものでないとして以下、検討する。
請求人は、本件補正の目的を特許請求の範囲の減縮であると主張しているところ、「複数の波長特性」の意味するところは、前記(2)において検討したとおり、技術常識や本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても、不明瞭であるから、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するとはいえない。
また、本件補正が、特許法17条の2第5項1号に掲げる請求項の削除、同3号に掲げる誤記の訂正、及び、同4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項の規定に違反する。
(6) 独立特許要件違反
仮に、本件補正が特許法17条の2第3項の規定及び同条5項の規定に違反するものでないとして検討する。
請求人は、本件補正の目的を特許請求の範囲の減縮であると主張しているところ、「複数の波長特性」の意味するところは、前記(2)において検討したとおり、技術常識や本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても、不明瞭であるから、請求項1の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼす程度に不明瞭であって、特許法36条6項2号の規定に違反するから、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反する。
3 本件補正の適否のむすび
前記2(1)から(4)において検討したとおり、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反しているから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に、本件補正が特許法17条の2第3項の規定に違反しないとしても、前記2(5)に示したとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
さらにまた、仮に、本件補正が特許法17条の2第3項の規定及び同条5項に違反しないとしても、前記2(6)に示したとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願の請求項1について
1 本願請求項1
本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項1は、前記第2の1(1)に摘記したとおりである。
2 拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由1の概要は、次のとおりである。
理由1(新規事項) 令和4年11月16日付け手続補正書によりした補正は、下記の点において当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
請求項1には補正により「…正の第1のしきい値以下である場合に、反射光が少なくなったことに基づいて、前記第3の光ファイバと前記分岐部との接合部における接合異常があると判断する…」との事項が含まれることとなった。
ここで意見書にはその補正の根拠として[0064]、[0066]、図13等が挙げられているが、例えば図13と比較すると、請求項1に係る発明とは異なっている。すなわち、図13では「S13」の「サンプリング値が全て正の第1のしきい値以下?」で「YES」であり、かつ「S14」の「サンプリング値が1つ以上正の第2しきい値より大きい?」で「YES」の場合にのみ「S15」のように「ファイバ抜けと判断」されている。
それに対し、請求項1では上記事項はその他の例、例えばサンプリング値が1つ以上第1のしきい値以下と判断されると、第3の光ファイバと分岐部との接合部における接合異常があると判断する場合や、サンプリング値が全て正の第1のしきい値以下と判断されると、その他の条件は一切見ないで、あるいはその他の条件の判定結果によらず、第3の光ファイバと分岐部との接合部における接合異常があると判断する場合なども包含し得るものである。
しかしながら、本願の[0064]、[0066]、図13だけでなく、他の段落や、他の図面を参照しても、これらのようにすることは当初明細書等に記載されていない。
よって、上記補正は当初明細書等に記載された範囲内においてしたものでない。
3 判断
拒絶査定の理由1は、前記第2の2(2)の検討と同旨であるから、当該理由が妥当であることは明らかである。したがって、令和4年11月16日付け手続補正書によりした補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法17条の2第3項の規定に違反するものである。
第4 むすび
以上のとおりであるから、令和4年11月16日に提出した手続補正書によりした補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-017244