特許拒絶査定不服審判
2023-017172
ボルト締め付けシステム
- 審判番号
- 2023-017172
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-539056
- 請求日
- 2023年10月11日
- 審決日
- 2025年09月30日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ジーイー・ベルノバ・テクノロジー・ゲーエムベーハー
- 【請求人代理人】小倉 博
- 【請求人代理人】黒川 俊久
- 【請求人代理人】澤木 亮一
- 審判長/審判官
- 審判長 本庄 亮太郎
- 審判官 大山 健
- 審判官 田々井 正吾
- 分類
- P18 .121-WZ (B25B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-539056「ボルト締め付けシステム」拒絶査定不服審判事件〔2019年(令和元年)8月8日国際公開、WO2019/152142、令和3年5月6日国内公表、特表2021-511220〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(平成31年)1月8日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2018年1月30日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする国際特許出願であって、その手続の経緯の概略は以下のとおりである。
1 令和2年 7月15日
国内書面の提出
2 令和2年 9月 4日
翻訳文の提出
3 令和3年 4月28日
手続補正書の提出
4 令和4年11月22日付け
拒絶理由の通知
5 令和5年 2月22日
意見書及び手続補正書の提出
6 令和5年 6月 7日付け
拒絶をすべき旨の査定(以下「原査定」という。)
7 令和5年10月11日
拒絶査定不服審判の請求書の提出
8 令和6年 9月25日付け
当審より拒絶理由を通知
9 令和6年12月20日
意見書及び手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~8に係る発明(このうち請求項1に係る発明を、以下「本願発明1」という。)は、令和6年9月25日付けで当審より通知した拒絶理由(以下、この拒絶理由の通知を「当審拒絶理由通知」という。)に対して、令和6年12月20日に提出した手続補正書により補正をした(以下、この補正を「最新補正」という。)特許請求の範囲の請求項1~8に記載した事項により特定されるとおりのものであって、このうち、本願発明1を特定する請求項1に記載した事項は以下のとおりである。(下線は、上記補正箇所に付したものである。)
「 【請求項1】
ガスタービンエンジン構成要素にボルトを締め付け及び取り外すためのボルト締め付けシステム(100)であって、当該ボルト締め付けシステム(100)が、
ボルト(140)と、
ナット(150)と、
ボルト締め付け工具(110)と
を備えており、前記ボルト締め付け工具(110)が、内部にアダプタ(190)及びチャンバ(230)を有する締め付けスリーブ(130)を備え、
前記締め付けスリーブ(130)が、ドリル端部(170)とナット端部(180)とを有する外殻(160)を備え、
前記アダプタ(190)がトルクを前記ボルト(140)に適用し、前記チャンバ(230)が所定の位置に前記ナット(150)を保持する、
ボルト締め付けシステム(100)。」
第3 当審拒絶理由通知
1 理由の概要
当審拒絶理由通知において、最新補正前の本願発明1に対して通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。
(進歩性)本願発明1は、次の2の引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基いて、本願出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、本願は、第1のとおりパリ条約による優先権主張を伴うところ、上記引用文献1及び引用文献2は、いずれも優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった公開特許公報である。
2 引用文献
(1)引用文献1:特開昭47-24698号公報
(2)引用文献2:特開2016-68238号公報
第4 引用文献
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載事項(下線は当審で付与したもの。以下同じ。)
ア 発明の詳細な説明
(ア)「本発明は、被締付け物にボルトを貫通せしめてそのボルト頭とナツトとによつて被締付け物を挾んでこれを締付ける場合に用いるボルト・ナツトの締付け装置に関するものである。」(第1ページ左下欄第19行~右下欄第2行)
(イ)「そこで本発明は、そのボルト・ナツトの締付け時にボルト頭の係止をすることなく、かつ被締付け物に嵌合部を形成することもなく、その一方が逆転することがないように構成された締付け装置を提供することを目的としてなされたものであり、以下その実施例を示す図面に基づいて説明する。」
(第1ページ右下欄第17行~第2ページ左上欄第2行)
(ウ)「図面において、(1)は装置本体(2)内に有せしめられたたとえばエヤーモータ(図示されず)等のロータ軸に連結された回転軸であり、先端にボツクススパナ(3)嵌合部(4)を形成して、そのスパナ(3)の後部に形成した穴(5)を一体的に回動するように嵌合している。このボツクススパナ(3)は、嵌合部(4)に形成した長穴(6)に遊嵌するピン(7)によつて回転軸(1)と連結するもので、その先端にはボルト係合部(8)を形成している。該ボツクススパナ(3)は長穴(6)の範囲内で前進後退自在で、通常時はばね(9)によつて前方に付勢され、使用時に適宜後退するものである。(10)はナツト係合部(11)を内周先端部に形成したナツト回り止め部材であり、該部材(10)は本体(2)に螺着固定された連結部材(12)に回動方向規制(図示例では第2図に点線で示すように六角形状にしている)して嵌合せしめており、該ナツト回り止め部材(10)は抜止め冠(13)によつて前方に抜けることがないようにし、その後端と連結部材(12)との間にばね(14)を介在せしめて後退自在に構成している。(第2ページ左上欄第3行~右上欄第2行)
(エ)「以上のような構成にして、ボツクススパナ(3)の先端係合部(8)にボルトを係合し回転軸(1)の回転により該ボルトを回動し、ナツト回り止め部材(10)のナツト係合部(11)にそのボルトと螺合するナツトを係合してその回動を係止することにより締付けを行なうものであり、次にその使用態様について説明する。」(第2ページ右上欄第3~9行)
(オ)「第3図(イ)(ロ)に示すように、被締付け物(A)(B)を締付けるのにボルト(C)とナツト(D)とを用い、その被締付け物(A)(B)を貫通し更にナツト(D)を螺嵌したボルト(C)の先端に、前述したボツクススパナ(3)の係合部(8)に嵌合する係合片(E)を予め形成しておくもので、ナツト(D)の外周の大きさは前述のナツト係合部(11)に嵌合する大きさのものとする。したがつて、ボルト(C)とナツト(D)を手動で仮締めした状態で(イ)図に示すように締付け装置のボルト係合部(8)とナツト係合部(11)とを嵌合し得るのである。この(イ)図の状態で回転軸(1)を回転せしめてボルト(C)とナツト(D)が締付けられる方向(a)にボルト(C)を回動すれば、ナツト(D)は係止されているから、被締付け物(A)(B)は(ロ)図に示すようにボルト頭(C)′とナツト(D)とによつて締付けられる。この場合、ボルト(C)がナツト(D)に螺合して(b)方向に移動して締付けた形となり、実質上(ハ)図に示すようにボルト(C)の回動とは逆方向(a)′にナツト(D)が回動したこととなる。」(第2ページ右上欄第10行~左下欄第7行)
(カ)「要するに本発明は、ねじ締付け用回転軸の先端に前進後退自在に連結したボルト回動用ボツクススパナを設け、該スパナの外周に装置本体の先端に設けたナツト回り止め部材を位置させ、前記ボツクススパナはばねによつて前方に付勢せしめて構成し、被締付け物を貫通し更にナツトを螺嵌したボルトの先端に形成せしめた係合部に前記ボツクススパナのボルト係合部を嵌合するとともにそのナツトに前記ナツト回り止め部材のナツト係合部を嵌合して、前記回転軸を回動せしめることにより締付けを行なうようにしたので、従来のように被締付け物を挾んで位置するボルト頭とナツトのうち、一方を固定するかあるいは嵌合部を形成する必要がなく、ボルト・ナツトを仮締めした後、被締付け物のナツトを位置せしめた側においてのみその締付け動作を行なえばよいものであり、ボルト・ナツトの締付け装置として非常に有効な発明である。」(第2ページ右下欄第5行~第3ページ左上欄第2行)
イ 図面
(ア)第1図
[図:0001432374000001.jpg]
(イ)第2図
[図:0001432374000002.jpg]
(ウ)第3図
[図:0001432374000003.jpg]
(2)引用文献1の記載の整理
ア 上記(1)ア(ア)~(イ)、上記(1)イの第1、3図の記載からみて、引用文献1には、被締付け物A、Bにボルト・ナットを締め付けるためのボルト・ナットの締付け装置の発明について記載されている(なお、引用文献1における「ナツト」を「ナット」とするなど、促音等は適宜修正した。以下同様。)。
イ 上記(1)ア(ウ)、(オ)、上記(1)イの第1、3図の記載からみて、上記アのボルト・ナットの締付け装置の発明は、ボルト頭C′、ボルトC、係合片E(以下、まとめて「ボルトC等」ということがある。)とナットD、装置本体2を備えている。
ウ 上記(1)ア(ウ)、上記(1)イの第1~3図の記載からみて、上記イの装置本体2は、この装置本体2に螺着固定された連結部材12と、当該連結部材12に嵌合せしめた抜止め冠13によって前方に抜けることがないように抜止めされて、内周にボックススパナ3及びナット係合部11を有するナット回り止め部材10を備えている。そして、このナット回り止め部材10は、「(10)はナツト係合部(11)を内周先端部に形成したナツト回り止め部材であり」、及び「該ナツト回り止め部材(10)は・・・その後端と連結部材(12)との間にはばね(14)を介在せしめて」の記載からみて、「先端部」と「後端」を有している。
エ 上記(1)ア(エ)~(カ)、上記(1)イの第1~3図の記載からみて、ボックススパナ3がボルトCを回動し、ナット係合部11が前記ナットDの回動を係止する。
(3)引用文献1記載の発明
上記(1)~(2)より、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が、記載されている。
「 被締付け物A、Bにボルト・ナットを締付けるためのボルト・ナットの締付け装置であって、当該ボルト・ナットの締付け装置が、
ボルトC等と、
ナットDと、
装置本体2と
を備えており、前記装置本体2が、螺着固定された連結部材12と、当該連結部材12に回動方向規制して嵌合せしめており内周にボックススパナ3及びナット係合部11を有するナット回り止め部材10を備え、
前記連結部材12に回動方向規制して嵌合せしめている前記ナット回り止め部材10は、後端と先端部とを有する前記ナット回り止め部材10であり、
前記ボックススパナ3が前記ボルトC等を回動し、前記ナット係合部11が前記ナットDの回動を係止する、
ボルト・ナットの締付け装置。」
2 引用文献2
(1)引用文献2の記載事項
「【0003】
駆動回転装置は、ソケット等の工具が取り付けられることにより、ボルトまたはナット等の締緩作業、あるいは対象物の切削作業を行うための装置である。駆動回転装置には、インパクトレンチ、インパクトドライバ、ドリルドライバ等の電動回転工具、あるいはエアインパクト等、様々な種類がある。」
(2)引用文献2記載の技術的事項
上記(1)の記載事項からみて、引用文献2には次の技術的事項(以下「引用文献2記載の技術的事項」という。)が記載されている。
「駆動回転装置に工具を取り付けてボルトまたはナット等の締緩作業を行うこと。」
第5 当審の判断
1 本願発明1と引用発明1の対比
(1)引用発明1の「被締付け物A、B」と本願発明1の「ガスタービンエンジン構成要素」を対比すると、両者は「機械構成要素」という点に限り一致する。
次に、引用発明1の「ボルト・ナット」は本願発明1の「ボルト」に相当し、以下同様に、「締付け」が「締め付け」に、「ボルト・ナットの締付け装置」が「ボルト締め付けシステム(100)」に、「ボルトC等」が「ボルト(140)」に、「ナットD」が「ナット(150)」に、「装置本体2」が「ボルト締め付け工具(110)」に、それぞれ相当する。
(2)引用発明1の「内周」は本願発明1の「内部」に相当し、以下同様に「ボックススパナ3」は「アダプタ(190)」に、「ナット係合部11」は「チャンバ(230)」に相当する。
そして、引用発明1においては、装置本体2に螺着固定された連結部材12に回動方向規制して嵌合せしめたナット回り止め部材10の内周にボックススパナ3及びナット係合部11を有しており、また、連結部材12とナット回り止め部材10は、本願発明1の締め付けスリーブ(130)として機能しているといえることから、引用発明1の「前記装置本体2が、螺着固定された連結部材12と、当該連結部材12に回動方向規制して嵌合せしめており内周にボックススパナ3及びナット係合部11を有するナット回り止め部材10を備え」は、本願発明1の「前記ボルト締め付け工具(110)が、内部にアダプタ(190)及びチャンバ(230)を有する締め付けスリーブ(130)を備え」に相当する。
(3)上記(2)のとおり、引用発明1の連結部材12とナット回り止め部材10が、本願発明1の締め付けスリーブ(130)として機能し、引用発明1と本願発明1の両発明において、ナットが係合する側の端部を前側端部、反対側の端部を後側端部としたときに、引用発明1の「後端」及び「先端部」を有する「ナット回り止め部材10」と、本願発明1の「ドリル端部」及び「ナット端部」を有する「外殻(160)」とは、いずれも「後側端部」及び「前側端部」を有するといえる。
したがって、引用発明1の「前記連結部材12に回動方向規制して嵌合せしめている前記ナット回り止め部材10は、後端と先端部とを有する前記ナット回り止め部材10であり」と本願発明1の「前記締め付けスリーブ(130)が、ドリル端部(170)とナット端部(180)とを有する外殻(160)を備え」を対比すると、「前記締め付けスリーブ(130)が、後側端部と前側端部とを有する外殻(160)を備え」という点に限り一致する。
(4)引用発明1の「前記ボックススパナ3が前記ボルトC等を回動し」は本願発明1の「前記アダプタ(190)がトルクを前記ボルト(140)に適用し」に相当し、同様に「前記ナット係合部11が前記ナットDの回動を係止する」は「前記チャンバ(230)が所定の位置に前記ナット(150)を保持する」に相当する。
2 本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点
上記1より、本願発明1と引用発明1は、以下の(1)の点で一致し、(2)の点で相違する。(以下、本願発明1で付されている図面の符号は省略する。)
(1)一致点
機械構成要素にボルトを締め付けるためのボルト締め付けシステムであって、当該ボルト締め付けシステムが、
ボルトと、
ナットと、
ボルト締め付け工具と
を備えており、前記ボルト締め付け工具が、内部にアダプタ及びチャンバを有する締め付けスリーブを備え、
前記締め付けスリーブが、後側端部と前側端部とを有する外殻を備え、
前記アダプタがトルクを前記ボルトに適用し、前記チャンバが所定の位置に前記ナットを保持する、
ボルト締め付けシステム。
(2)相違点
ア 相違点1
機械構成要素について、本願発明1がガスタービンエンジンのものであるのに対して、引用発明1は、被締付け物A、Bがガスタービンエンジンのものであるか否かが不明である点。
イ 相違点2
機械構成要素に作用するボルト締め付けシステムが、本願発明1がボルトを締め付け及び取り外すためのものであるのに対して、引用発明1はボルトを締め付けるためのものではあるが取り外すためのものであるか否かが不明である点。
ウ 相違点3
外殻が有する「後側端部」と「前側端部」について、本願発明1が「ドリル端部」と「ナット端部」であるのに対して、引用発明1は「後端」と「先端部」である点。
3 相違点の検討
(1)相違点1について
引用文献1の第3図に図示されたボルトC等とナットDが締付ける被締付け物A、Bは板材であり、このような板材、ボルトC等及びナットDはガスタービンのエンドカバー等の締め付けでも用いられることは技術常識であるから、引用発明1のボルト・ナットの締付け装置によるボルトC等とナットDの締め付けを、ガスタービンエンジンの構成要素の締め付けに適用することにも、格別の困難性は認められない。
(2)相違点2について
引用発明1が、構成要素(被締付け物A、B)にボルトを締め付けるために回転軸を回転駆動させる駆動回転工具であるところ、駆動回転工具により、引用文献1記載のような被締付け物A、BにボルトC等とナットDを締め付けたり、逆に取り外したりすることは、上記第4の2(2)の引用文献2記載の技術的事項に含まれる「締緩作業」という用語が何らの注釈もされず普通に使われていることからみても、作業の目的に応じて適宜行われていることであり、引用発明1のボルト・ナットの締付け装置の構造からみて、ボルトC等とナットDを締付けるときとは駆動回転工具の回転軸1を逆方向に回転させることによって、ナットDの取り外しができることは明らかであるといえるし、又はこの回転軸1を逆方向に回転させることによってナットDの取り外しができるようにすることは、容易になし得たものであるといえる。
さらに、構成要素にボルトを締め付けることに加えて、取り外すこともできるボルト締め付けシステムとすることを妨げる事情も見当たらないことから、引用発明1のボルト・ナットの締付け装置について、引用文献2記載の技術的事項のようにボルトまたはナット等の締緩作業を行うものとして構成することは、当業者が容易に想到し得たものである。
また、本願発明1が、引用発明1及び引用文献2記載の技術的事項と比較して、構成要素からナットを取り外すために特有の技術的特徴を殊更備えているとの事情も認められない。
(3)相違点3について
本願発明1の「ドリル端部」及び「ナット端部」の用語は、本願明細書の段落0013の「締め付けスリーブ130は、第1の端部またはドリル端部170および第2の端部またはナット端部180を有する外殻160を含むことができる。」の記載からみて、締め付けスリーブ130が含む外殻160の2つの端部を区別するために便宜上用いられていることが明らかであり、引用発明1において、ナット係合部11とばね14の位置を特定するためにやはり便宜上用いられている「後端」及び「先端部」の用語との間に特段の差異はない。
さらに、仮に、本願発明1の「ドリル端部」の用語が、本願発明1における「ボルト締め付け工具」が「ドリル」であることを特定するものであると見做したとしても、引用文献2の段落0003(第4の2(1))には、ソケット等の工具が取り付けられることによりボルトまたはナット等の締緩作業、あるいは対象物の切削作業を行う駆動回転装置として、インパクトレンチ、インパクトドライバ、ドリルドライバ等の電動回転工具、あるいはエアインパクト等、様々な種類があること(以下「周知技術」という。)が知られており(以下、この段落0003に記載された知見を「周知技術」という。)、引用発明1において、引用文献1で挙げられているエヤーモータを動力源とする駆動回転装置に代えて、上記周知技術を適用してドリルドライバを採用し、ナット回り止め部材10の「後端」を「ドリル端部」の名称とすることは、単なる用語の選択の問題に過ぎないものであって、技術的に格別な困難性は存在しない。
次いで、本願発明1の「ナット端部」については、ナットが係合する側の端部である点で引用発明1の「先端部」と変わりはなく、引用発明1の「先端部」を「ナット端部」の名称とすることも、やはり、単なる用語の選択の問題に過ぎないから、技術的な困難性は存在しない。
4 請求人の意見書における主張
請求人は、令和6年12月20日提出の意見書(以下、単に「意見書」という。)において、次の(1)及び(2)の主張をするので、以下検討する。
(1)締め付けスリーブ130に関する主張
ア 主張の内容
引用文献1に記載されたナット回り止め部材10は、装置本体2に螺着固定された連結部材12に回動方向規制した状態で嵌合したうえ、その周囲に抜止め冠13を被せて前方に抜けることがないようにしたものであり、「本願発明のボルト締め付けシステム100のように、トルクをボルト140に適用するためのアダプタ190とナット150を所定の位置に保持するためのチャンバ230とを内部に有する締め付けスリーブ130を、ドリル端部170とナット端部180とを有する外殻160を備えるものとして構成すること」(以下「請求人主張構成」という。)は記載も示唆もされていない。
イ 上記アの主張に対する検討
上記請求人主張構成は、1(2)~(3)で引用発明1と対比した本願発明1の「前記締め付けスリーブ(130)が、ドリル端部(170)とナット端部(180)とを有する外殻(160)を備え、前記アダプタ(190)がトルクを前記ボルト(140)に適用し、前記チャンバ(230)が所定の位置に前記ナット(150)を保持する」の発明特定事項に関するものである。
そして、上記1(2)で対比したとおり、引用発明1の「前記装置本体2が、これに螺着固定された連結部材12と、当該連結部材12に回動方向規制して嵌合せしめており内周にボツクススパナ3及びナット係合部11を有するナット回り止め部材10を備え」は、本願発明1の「前記ボルト締め付け工具(110)が、内部にアダプタ(190)及びチャンバ(230)を有する締め付けスリーブ(130)を備え」に相当し、上記1(3)で対比したとおり、引用発明1の「前記連結部材12に回動方向規制して嵌合せしめている前記ナット回り止め部材10は、後端と先端部とを有する前記ナット回り止め部材10であり」と本願発明1の「前記締め付けスリーブ(130)が、ドリル端部(170)とナット端部(180)とを有する外殻(160)を備え」を対比すると、「前記締め付けスリーブ(130)が、後側端部と前側端部とを有する外殻(160)を備え」という点に限り一致し、この1(3)における対比で一致しない事項、すなわち、外殻が有する「後側端部」と「前側端部」について、本願発明1が「ドリル端部」と「ナット端部」であるのに対して、引用発明1は「後端」と「先端部」であるという相違点3についても、上記3(3)で検討したとおり、進歩性が認められるものではない。
したがって、上記アについて、引用文献1に記載されたナット回り止め部材10は、請求人が説明するとおり「装置本体2に螺着固定された連結部材12に回動方向規制した状態で嵌合したうえ、その周囲に抜止め冠13を被せて前方に抜けることがないようにしたもの」である一方で、上記請求人主張構成については、引用発明1が対応する事項を備え、相違する事項(相違点3)についても進歩性が認められないものであるから、請求人が主張するように、引用文献1に記載も示唆もされていないということはできない。
(2)引用文献1記載の回転軸1の回転方向が逆転できないことの主張
ア 主張の内容
引用文献1に記載された発明では、ナット回り止め部材10は、装置本体2に螺着固定された連結部材12に「回動方向規制して」嵌合し、その周囲に抜止め冠13を被せて前方に抜けることがないようにしているので、回転軸1の回転方向を逆転させることができないことは明らかであり、拒絶理由通知における「ボルト・ナットの締付け装置の構造から見て引用発明1Aのボルト締め付けシステムにおいてナットDを締め付け時と逆方向に回転させることによって取り外しができることは明らかである。」との説示は、引用文献1に記載された発明の解釈を誤ったものであり、前提に欠ける。
イ 上記アの主張に対する検討
上記第4の1(1)ア(エ)記載のとおり、引用文献1に記載された発明では、ボックススパナ3の先端係合部8にボルトを係合し回転軸1の回転により該ボルトを回動し、ナット回り止め部材10のナット係合部11にそのボルトと螺合するナットを係合してその回動を係止することにより締付けを行なうものである。すなわち、回転軸1がエヤーモータ等のロータ軸に連結され、連結部材12の内部で軸支されて装置本体2に対して回転するのに対して、ナット回り止め部材10は、装置本体2に螺着固定された連結部材12に回動方向規制して嵌合し装置本体2に対して回転しないことで、ボルトとナットの締付けを行うから、回転軸1とナット回り止め部材10との間で動力が伝達されることはない。
したがって、上記アのとおり、ナット回り止め部材10は、装置本体2に螺着固定された連結部材12に「回動方向規制して」嵌合し、その周囲に抜止め冠13を被せて前方に抜けることがないようにしてはいるものの、回転軸1の回転方向を逆転させることができないという主張については合理的な根拠を見いだすことができない。
なお、請求人は、上記アの当審拒絶理由通知における説示に対して、「引用文献1に記載された発明の解釈を誤ったものであり、前提に欠ける」との主張もしており、当該説示においては「ボルトC等」と記載すべきところ、「ナットD」と誤って記載されている。しかしながら、引用文献1においては、ボルトC等を回動し、ナットDの回動を係止してボルトとナットの締付けを行うことの内容で一貫しており、当審拒絶理由通知の内容も他の箇所についてはこの内容に即したものとなっているから、上記説示には誤記の限りにおいて瑕疵はあるものの、結論に影響を与えるものではない。
(3)請求人の意見書における主張のまとめ
したがって、請求人の意見書における主張は、(1)及び(2)のいずれも採用することはできない。
5 小括
したがって、当審拒絶理由通知で通知した理由(進歩性)のとおり、本願発明1は、引用発明1、引用文献2記載の技術的事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明、及び周知技術に基づいて、本願出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-017172