特許拒絶査定不服審判
2024-011796
燃焼室内へ噴射される可燃性流体の流量を追加のオリフィス・プレートを伴わずに決定するための方法
- 審判番号
- 2024-011796
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-516469
- 請求日
- 2024年07月18日
- 審決日
- 2025年10月31日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ジーイー・ベルノバ・テクノロジー・ゲーエムベーハー
- 【請求人代理人】小倉 博
- 【請求人代理人】黒川 俊久
- 【請求人代理人】澤木 亮一
- 審判長/審判官
- 審判長 道祖土 新吾
- 審判官 濱野 隆
- 審判官 井海田 隆
- 分類
- P18 .121-Z (G01F) / P18 .536-Z (G01F) / P18 .537-Z (G01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第17条の2第5項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-516469「燃焼室内へ噴射される可燃性流体の流量を追加のオリフィス・プレートを伴わずに決定するための方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 3月26日国際公開、WO2020/058617、令和 4年 1月 6日国内公表、特表2022-501597〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)9月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2018年9月21日及び同年12月20日、いずれもフランス)を国際出願日とする外国語特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和3年 5月 6日 :翻訳文の提出
令和5年10月30日付け :拒絶理由通知書
令和6年 2月 7日 :意見書、手続補正書の提出
同年 3月 8日付け :拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月19日 :原査定の謄本の送達)
同年 7月18日 :審判請求書及び手続補正書の提出
以下、2018年(平成30年)9月21日を「優先日」という。
第2 令和6年7月18日にされた補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年7月18日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和6年7月18日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をするものであり、本件補正により、次の(1)に示す本件補正前(令和6年2月7日にされた手続補正後のものをいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正された。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
タービン(100)の燃焼室(120)内へ噴射される可燃性流体の流量をコントローラにより決定するための方法であって、前記可燃性流体は、ガス混合気であり、少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)のオリフィスを通って前記燃焼室内へ噴射され、前記オリフィスは、前記燃焼室の内側に配され、それにおいて前記方法が、
- 前記可燃性流体が通って前記燃焼室(120)内へ噴射される、前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの断面積を決定するステップと、
- 前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの上流の前記可燃性流体の圧力を決定するステップと、
- 前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの下流の圧力を決定するステップと、
- 前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスを通って流れる前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタの前記オリフィスの前記決定された断面積と、前記インジェクタの前記オリフィスの上流の前記決定された前記可燃性流体の圧力と、前記インジェクタの前記オリフィスの下流の前記決定された圧力と、の関数として決定するステップと、
- 前記燃焼室(120)内へ噴射される前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記上流の圧力と、前記少なくとも一つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記下流の圧力との間における差の関数として決定するステップと、
を包含し、
前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記上流の前記可燃性流体の圧力は、前記可燃性流体のラインの圧力とコンプレッサを離れる圧縮空気の圧力(PCD)との間の差を測定することによって間接的に決定される、決定するための方法。」
(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
タービン(100)の燃焼室(120)内へ噴射される可燃性流体の流量をコントローラが計算するための方法であって、前記可燃性流体は、ガス混合気であり、少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)のオリフィスを通って前記燃焼室内へ噴射され、前記オリフィスは、前記燃焼室の内側に配され、それにおいて前記方法が、
- 前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスを通って流れる前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタの前記オリフィスの断面積と、前記インジェクタの前記オリフィスの上流の前記可燃性流体の圧力と、前記インジェクタの前記オリフィスの下流の圧力と、の関数として前記コントローラが計算するステップと、
- 前記燃焼室(120)内へ噴射される前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスを通って流れる前記可燃性流体の前記流量の関数として前記コントローラが計算するステップと、
を包含し、
前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記上流の前記可燃性流体の圧力は、前記可燃性流体のラインの圧力とコンプレッサを離れる圧縮空気の圧力(PCD)との間の差を測定することによって推定される、方法。」
2 本件補正の適否
(1) 請求項1の補正について
本件補正のうち請求項1についてする補正には、次のア~ウに示す補正事項1~3が含まれる。
ア 補正事項1(方法全体について)
次のaに示す補正前の記載をbに示す補正後の記載に補正すること。
a 補正前の記載
「タービン(100)の燃焼室(120)内へ噴射される可燃性流体の流量をコントローラにより決定するための方法であって、」
「前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記上流の前記可燃性流体の圧力は、前記可燃性流体のラインの圧力とコンプレッサを離れる圧縮空気の圧力(PCD)との間の差を測定することによって間接的に決定される、決定するための方法。」
b 補正後の記載
「タービン(100)の燃焼室(120)内へ噴射される可燃性流体の流量をコントローラが計算するための方法であって、」
「前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記上流の前記可燃性流体の圧力は、前記可燃性流体のラインの圧力とコンプレッサを離れる圧縮空気の圧力(PCD)との間の差を測定することによって推定される、方法。」
イ 補正事項2(1つめの「関数」について)
次のaに示す補正前の記載をbに示す補正後の記載に補正すること。
a 補正前の記載
「 - 前記可燃性流体が通って前記燃焼室(120)内へ噴射される、前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの断面積を決定するステップと、
- 前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの上流の前記可燃性流体の圧力を決定するステップと、
- 前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの下流の圧力を決定するステップと、
- 前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスを通って流れる前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタの前記オリフィスの前記決定された断面積と、前記インジェクタの前記オリフィスの上流の前記決定された前記可燃性流体の圧力と、前記インジェクタの前記オリフィスの下流の前記決定された圧力と、の関数として決定するステップ」
b 補正後の記載
「 - 前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスを通って流れる前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタの前記オリフィスの断面積と、前記インジェクタの前記オリフィスの上流の前記可燃性流体の圧力と、前記インジェクタの前記オリフィスの下流の圧力と、の関数として前記コントローラが計算するステップ」
ウ 補正事項3(2つめの「関数」について)
次のaに示す補正前の記載をbに示す補正後の記載に補正すること。
a 補正前の記載
「 - 前記燃焼室(120)内へ噴射される前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記上流の圧力と、前記少なくとも一つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記下流の圧力との間における差の関数として決定するステップ」
b 補正後の記載
「 - 前記燃焼室(120)内へ噴射される前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスを通って流れる前記可燃性流体の前記流量の関数として前記コントローラが計算するステップ」と補正すること。
(2) 当審の判断
事案に鑑みて、補正事項2、3から検討する。
ア 補正事項2について
(ア) 特許請求の範囲の限定的減縮に該当しないことについて
補正事項2について検討すると、当該補正により、「オリフィスの断面積」と、「上流の圧力」と、「下流の圧力」を決定する各ステップが削除されている。したがって、当該補正事項2は、本件補正前の請求項1の発明特定事項を限定するものではないから、いわゆる限定的減縮に該当しないことは明らかである。
(イ) 明瞭でない記載の釈明に該当しないことについて
請求人は、審判請求書において、「決定に関する記載を削減する補正は、上記ご指摘(当審注:特許法第36条第6項第2号)に対応するもの」と述べており、この補正が、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると主張しているようにも思われる。
しかしながら、「明瞭でない記載の釈明」とは、不明瞭な記載の記載上の不備を正し、その本来の意を明らかにすることである。補正事項2は、補正前の記載において不明確と指摘されていた「決定」という文言の本来の意味内容を明らかにするものではなく、「決定」するステップを削除することで実質的な発明の範囲を拡大するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるということはできない。
(ウ) その他の補正の目的要件にも該当しないことについて
そして、補正事項2が、誤記の訂正や請求項の削除を目的とするものにも該当しないことは明らかである。よって、補正事項2は特許法17条の2第5項各号のいずれを目的とするものにも該当しない。
イ 補正事項3について
(ア) 特許請求の範囲の限定的減縮に該当しないことについて
補正事項3について検討すると、当該補正により、可燃性流体の流量を、「前記少なくとも1つのインジェクタの前記オリフィスの前記上流の圧力と、前記少なくとも一つのインジェクタの前記オリフィスの前記下流の圧力との間における差の関数」として「決定する」ステップが、「前記少なくとも1つのインジェクタの前記オリフィスを通って流れる前記可燃性流体の前記流量の関数」として「前記コントローラが計算する」ステップに変更されている。すなわち、「可燃性流体の流量」を決定する、またはコントローラが計算する「関数」は、補正前はオリフィスの上流と下流の「圧力差」を変数とするものであるのに対し、補正後は「流量」の関数になっており、両者の内容が明らかに異なっている。したがって、補正事項3は、本件補正前の請求項1の発明特定事項を限定するものではないから、いわゆる限定的減縮に該当しないことは明らかである。
(イ) 明瞭でない記載の釈明に該当しないことについて
この補正について、請求人は、審判請求書の[請求の理由]において「その直前に記載された「ステップ」とどのように関係しているのかということが明確でない。」という明確性の拒絶理由に対して「…となるように補正されておりますので、ご指摘の関係は明確であり、補正後の特許請求の範囲の記載はご指摘の対象となるものではないと思料いたします」と述べており、この補正が、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると主張しているようにも思われる。
しかしながら、前記のとおり、「明瞭でない記載の釈明」とは、不明瞭となっている記載の記載上の不備を正し、その本来の意を明らかにすることである。補正事項3は、「関数」の意味内容を明らかにするものではなく、関数の実質的な内容を変更するものであるから、この補正が明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるということはできない。
(ウ) その他の補正の目的要件にも該当しないことについて
そして、補正事項3が、誤記の訂正や請求項の削除を目的とするものにも該当しないことは明らかである。よって、補正事項3は特許法17条の2第5項各号のいずれを目的とするものにも該当しない。
3 本件補正の却下の決定の理由のむすび
前記(2)に検討のとおり、本件補正のうち請求項1についての補正は、特許法17条の2第5項各号のいずれを目的とするものにも該当しない補正事項2、補正事項3を含むものである。
よって、本件補正は、特許法17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(1) 本願発明の分説
ここで、検討の便宜上、本願発明の構成を、改行を調整しつつ次のとおり構成Aから構成Gまでに分説する。
<本願発明の分説>
「A タービン(100)の燃焼室(120)内へ噴射される可燃性流体の流量をコントローラにより決定するための方法であって、前記可燃性流体は、ガス混合気であり、少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)のオリフィスを通って前記燃焼室内へ噴射され、前記オリフィスは、前記燃焼室の内側に配され、それにおいて前記方法が、
B - 前記可燃性流体が通って前記燃焼室(120)内へ噴射される、前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの断面積を決定するステップと、
C - 前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの上流の前記可燃性流体の圧力を決定するステップと、
D - 前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの下流の圧力を決定するステップと、
E - 前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスを通って流れる前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタの前記オリフィスの前記決定された断面積と、前記インジェクタの前記オリフィスの上流の前記決定された前記可燃性流体の圧力と、前記インジェクタの前記オリフィスの下流の前記決定された圧力と、の関数として決定するステップと、
F - 前記燃焼室(120)内へ噴射される前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記上流の圧力と、前記少なくとも一つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記下流の圧力との間における差の関数として決定するステップと、を包含し、
G 前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記上流の前記可燃性流体の圧力は、前記可燃性流体のラインの圧力とコンプレッサを離れる圧縮空気の圧力(PCD)との間の差を測定することによって間接的に決定される、決定するための方法。」
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明に対する理由1(明確性要件違反)、理由5(進歩性の欠如)の概要は、次の理由を含むものである。
理由1(明確性要件違反)本願発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
記
(1) 本願発明の「決定」との文言について、それぞれどのような意味であるのか明確でない。
(2) 本願発明の「オリフィスの前記上流の圧力と、前記少なくとも一つのインジェクタの前記オリフィスの前記下流の圧力との間における差の関数として決定するステップ」は、その直前に記載された「ステップ」と異なるものであるのかどうかということが明確でない。
また、本願発明の「前記インジェクタの前記オリフィスの前記上流の前記可燃性流体の圧力は、前記可燃性流体のラインの圧力とコンプレッサを離れる圧縮空気の圧力との間の差を測定することによって間接的に決定される」という記載について、「タービンの燃焼室」と「可燃性流体のライン」及び「コンプレッサ」との関係が何ら特定されていないことから、「前記可燃性流体のラインの圧力とコンプレッサを離れる圧縮空気の圧力との間の差」がどのような意味を持つのかということが明確とはいえない。
理由2(実施可能要件違反)本願発明は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
記
理由1で指摘した「決定」など、本願の発明の詳細には日本語として意味が理解できない記載が多く、この出願の発明の詳細な説明は、本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
理由5(進歩性の欠如)本願発明は、優先日前に発行された下記の刊行物に記載された発明に基いて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
1.特開2016-023605号公報(主たる引用文献)
2.特開2007-218254号公報(主たる引用文献)
3.特開2016-008609号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2015-219004号公報(周知技術を示す文献)
3 当審の判断
(1) 現査定の拒絶の理由1(1)について
ア 拒絶の理由1(1)について
(ア) 本願発明は、「可燃性流体の流量をコントローラにより決定」するための発明であり、「オリフィスの断面積を決定」(構成B)、「オリフィスの上流の前記可燃性流体の圧力を決定」(構成C)、「オリフィスの下流の圧力を決定」(構成D)のように、「決定」との文言が多く見受けられるが、それらがそれぞれどのような意味であるのかが、以下に示すとおり、請求人の意見を参酌しても明確ではない。
(イ) 請求人は意見書において、補正により「決定」が人為的なものではなく、「コントローラ」により実行されることが明らかとなったとの説明をしている。しかしながら、補正によって「コントローラにより」との文言が付されることになったのは、請求項1の冒頭の「可燃性流体の流量」の「決定」のみであって、発明の詳細な説明の記載を参酌しても当該「可燃性流体の流量」以外の決定については、コントローラにより行われるものか、人が行うものも含まれるのか、不明である。
(ウ) また、そもそも「決定」という言葉自体が、(制御のために圧力や流量等の)目標値を「決定」するのか、(測定のために圧力や流量等の)推定値を「決定」するのか、(計算モデルの作成のために圧力や流量等の)関係式を「決定」するのか、多義的に理解し得るものであり、本願発明の技術思想が明確ではない。
(エ) なお「決定」という用語の意味について、請求人は意見書において、「本願明細書に記載のさまざまな実施形態を包括的にカバーするための上位概念として使用されている用語」であって「測定や推定や計算によるパラメータの取得すること、またはパラメータを(データベースなどから)取得してインジェクタのオリフィスから噴射される流量を推定または計算することを包括的に表現したものです。」という主張をしているが、「決定」という用語をそのように解釈する根拠は、当初明細書等からは見出すことができない。請求項の用語は明細書等の記載も参酌しつつ通常の意味で解釈をするものであるから、意見書の主張のみをもって、請求項に記載された「決定」という用語に通常の意味と異なる定義を持たせることはできない。
イ 拒絶の理由1(2)について
(ア) 本願発明には、「前記少なくとも1つのインジェクタの前記オリフィスを通って流れる前記可燃性流体の流量」を決定するステップ(構成E)と「前記燃焼室内へ噴射される前記可燃性流体の流量」を決定するステップ(構成F)が含まれているが、構成Aによれば、「前記可燃性流体は、ガス混合気であり、少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)のオリフィスを通って前記燃焼室内へ噴射され」るのであり、インジェクタのオリフィスを通った後に、燃焼室内へ噴射されずにどこかにリークされるようなことが想定されているわけでもないから、両流量は同一の物理量を示していると理解される。そして、前者のステップと後者のステップでは異なる関数を用いて可燃性流体の流量を求めているように見えるため、同一の物理量を異なる2つの関数で求めていると理解される。
(イ) しかしながら、発明の詳細な説明等の記載を参酌しても、当該2つの関数がどのような関係にあって、どういう目的や原理で2つの関数から可燃性流体の流量を決定しているのかは、不明である。
(ウ) また、これらの関数中の「前記オリフィスの前記(決定された)上流の前記可燃性流体の圧力」について、構成Gで「前記可燃性流体のラインの圧力とコンプレッサを離れる圧縮空気の圧力(PCD)との間の差を測定することによって間接的に決定される」ことが特定されているが、構成Aで可燃性流体は「ガス混合気」、つまり、ガスに空気が混ざった後のものであると特定されている。このため「可燃性流体の圧力」が、空気が混ざる前の可燃性流体の圧力(分圧)を示しているのか、「ガス混合気」の圧力(全圧)を示しているのかが不明である。また、発明の詳細な説明における具体的な実施形態の説明も不足しているため、「可燃性流体のラインの圧力」と「コンプレッサを離れる圧縮空気の圧力」とがオリフィス上流の「可燃性流体の圧力」とどのような関係にあるのかも不明である。技術常識を考慮すれば、「可燃性流体のライン」からオリフィスに流れ込む可燃性流体の圧力と「コンプレッサ」を離れてオリフィスに流れ込む圧縮空気の圧力の「和」から、オリフィスの上流の「混合ガス」の圧力を間接的に求めることを意図しているようにも思われるが、当該構成Gはそのような特定とはなっておらず、請求項に係る発明の内容を明確に理解することができない。
よって、本願発明は明確でない。
ウ したがって、本願発明は、特許法36条6項2号の規定により、特許を受けることができない。
(2) 現査定の拒絶の理由2(実施可能要件違反)についての判断
ア 前記(1)ア、イで検討のとおり、本願発明における「決定」や「関数」、「可燃性流体の圧力」については発明の詳細な説明の記載を参酌しても不明瞭な点が含まれており、どのようにして可燃性流量を決定するのか理解することができない。したがって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
イ 本願の経緯を確認すると審査官は拒絶査定において、以下の指摘をしている。
「 上記「●理由1(特許法第36条第6項第2号)について」では、請求項1-8に記載された「決定」との文言の意味が明確でないことなどを指摘したが、本願の発明の詳細においても、日本語として不自然な表現であることなどにより、意味が理解できない若しくは意味が不明確である記載が多く見受けられる。例えば、段落[0032]の「この方法は、燃焼室120内における少なくとも各タイプのインジェクタ112、113、114、115の有効断面積の使用を考慮する。各インジェクタは、動作モードに従って寸法が既知になる、110のカバーと111のインジェクタの後の間における可燃性流体の通路のための有効断面積を有するとして特徴記述される。有効通路断面積は、オリフィスに類似と考えることが可能である。したがって、質量流量、111における燃焼室の内側の圧力、および可燃性ガスの特性に基づいて設計ポイントのそれぞれについて、110のカバーにおける圧力を計算することが可能である。」との記載からは、請求項1に記載された「前記オリフィスの断面積を決定するステップ」の「決定」がどのように行われるのかということを明確に理解することができない。」
ウ これに加えて、審査官は拒絶理由通知において「なお、以上で指摘した不明確な記載や日本語として不自然な表現のいくつかは、不適切な翻訳によって生じたものであるとも考えられるので、出願人においては、原文(フランス語でされた国際特許出願の明細書および請求の範囲)の記載内容を再度十分に確認した上で、翻訳文の記載全体を見直し、発明の内容が日本語で明確に理解できるようになっているかを確認されたい。また、補正をする際には、意見書で、各補正事項について補正が適法なものである理由を、根拠となる当初の翻訳文等の記載箇所を明確に示したうえで主張するようにし、また、必要があれば、誤訳訂正書を提出されたい。」と助言していたにも関わらず、請求人は審判請求書において、「ご指摘の段落[0032]および[0040]については、明細書全体に接した当業者であれば、技術的な意味を明確に理解することができるものと思料いたします。」と主張するのみで、拒絶理由通知及び拒絶査定で指摘されていた実施可能要件違反に対しては何の対応も行っていない。
エ これらの経緯を踏まえ、改めて当審で検討をしても、本願発明の詳細な説明は理解が困難であるといえる。特に本願発明の実施に関わる事項として、特許請求の範囲に記載の「オリフィスの断面積」と段落[0032]等に記載の「インジェクタの有効断面積」の関係、特許請求の範囲に記載の2つの「関数」と段落[0033]に記載の、「回路の質量流量、インジェクタの圧力比、燃料の特性、燃焼室内の圧力(PCC)、および有効断面積に関係する式」との関係(特許請求の範囲には「燃料の特性」に関する記載はない)、特許請求の範囲に記載の「可燃性流体」及び「ガス混合気」と、発明の詳細な説明のみに記載されている「可燃性ガス」と「可燃性混合気」がどのように使い分けられているのか、などは対応関係を明確に理解することができない。さらに、「オリフィスの断面積」及び「インジェクタの有効断面積」の具体的な算出方法、特許請求の範囲に記載の2つの「関数」と「回路の質量流量、インジェクタの圧力比、燃料の特性、燃焼室内の圧力(PCC)、および有効断面積に関係する式」の具体的な式とその解法、「可燃性流体のラインの圧力」として(複数に分岐する長い「ライン」が想定される中)「ライン」のどの点の圧力をいつ測定するのかについてなど、発明の実施に必要不可欠な具体的な手順についての十分な説明もされていない。
カ そもそも特許制度とは、発明を公開した者にその代償として一定期間一定の条件で独占権を付与するものであって、発明の詳細な説明の記載が明確にされていないときは、発明の公開の意義も失われ、ひいては特許制度の目的も失われてくることになる。その意味で、特許法36条4項1号は極めて重要な規定である。そのような前提に立ったとき、特許請求の範囲の記載は勿論、発明を開示する発明の詳細な説明においても、可能な限り簡明、直截に表現すべきであり、特段の事情が無い限り、明細書の多岐にわたる記載箇所を参酌、総合して初めて理解できるようなものは、特許法36条4項1号に規定する要件を満たすものと評価することはできないものである。それどころか、本願発明は、明細書の多岐にわたる記載箇所を参酌、総合したとしても、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものと認めることができない。してみれば、前記アで述べたとおり、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないものといわざるを得ない。
(3) 現査定の拒絶の理由5(進歩性の欠如)についての判断
ア 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願前に発行された特開2016-023605号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は、当合議体が付したものである。
a 【0001】
「【0001】
本発明は、燃料流量制御装置、燃焼器、ガスタービン、燃料流量制御方法及びプログラムに関する。」
b 【0021】
「【0021】
<第一実施形態>
以下、本発明の第一実施形態による燃料流量制御装置を図1~図5を参照して説明する。
図1は本発明に係る第一実施形態におけるガスタービンプラントの系統図である。
本実施形態のガスタービンプラントは、図1に示すように、ガスタービン10と、ガスタービン10の駆動で発電する発電機16と、ガスタービン10へ燃料を供給する燃料供給装置20と、燃料供給の制御を行う燃料制御装置26、燃料流量調節弁の制御を行う燃料流量制御装置30を備えている。ガスタービン10と発電機16は、ロータ15で連結されている。
ガスタービン10は、空気を圧縮して圧縮空気を生成する圧縮機11と、圧縮空気と燃料ガスとを混合して燃焼させ、高温の燃焼ガスを生成する燃焼器12と、燃焼ガスにより駆動するタービン13と、を備えている。
圧縮機11には、IGV14が設けられている。IGV14は圧縮機11へ流入する空気の量を調節する。」
c 【0039】~【0042】
「【0039】
<第二実施形態>
以下、本発明の第二実施形態による燃料流量制御装置を図6~図7を参照して説明する。
図6は、本発明に係る第二実施形態における燃料流量制御装置の一例を示すブロック図である。
図6で示すように、本実施形態において燃料流量制御装置30は、燃料流量推定部38を備えている点が第一実施形態とは異なる。また、状態量取得部31が取得する状態量には、燃料流量調節弁の下流における燃料流量の計測値が含まれない。他の構成は第一実施形態と同様である。
燃料流量推定部38は、燃焼室に燃料を噴射するノズル前後の圧力差を用いて燃料流量を推定する。ノズルの上流の圧力(車室圧力)には、燃料流量調節弁の下流での圧力の計測値を用いる。ノズルの下流の圧力(燃焼室圧力)には、圧力計で計測した値を用いてもよいし、燃焼室圧力の推定値を用いてもよい。燃料流量推定部38は、ノズルの前後圧と、ノズルの口径、燃料の温度などの情報を取得し、以下の式によって燃料流量を算出する。
[図:0001433637000001.jpg]
【0042】
式(1)は、非チョーク時の燃料流量の算出式である。式(2)は、チョーク時の燃料流量の算出式である。チョークと非チョークの判定は、P0÷P1<2のとき非チョークと判定し、式(1)で計算を行う。また、P0÷P1≧2のときチョークと判定し、式(2)で計算を行う。また、ガス密度γ0は、以下の式で表すことができる。Tfは、温度計40が計測した燃料の温度である。
γ0 = γN × { 273 ÷(Tf + 273) }
× (P0 ÷ 1.033 ) ・・・・(3)
なお、Gは燃料流量[kg/s]、Cdはノズル流量係数、Aはノズル1本あたりの合計径面積[m2]、gは重力加速度[m/s2]、kは比熱比、P0はノズル前の圧力[ata]、P1はノズル後方の圧力[ata]、γ0はガス密度[kg/m3]、γNは0℃でのガス密度[kg/m3]である。Cdなどの係数は、記憶部36に予め記憶されているものとする。
また、ノズル後方の圧力P1には、燃焼器による圧損を考慮したノズル上流での圧力の計測値(車室圧力)より所定の割合だけ小さな値を推定して用いることが可能である。推定の方法は、例えば、ノズル上流の車室圧力をP、燃焼器による圧損をx%とすると以下の式で推定することができる。
燃焼室圧力 = P × ( 1-(x ÷ 100) ) ・・・・(4)
燃料流量推定部38は、式(1)や式(2)でノズル1本あたりの燃料流量を算出し、制御対象となる燃料流量調節弁に接続されたノズルの数を乗算することで燃料流量を推定する。」
(イ) 引用発明の認定
前記(ア)に摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
「空気を圧縮して圧縮空気を生成する圧縮機11と、圧縮空気と燃料ガスとを混合して燃焼させ、高温の燃焼ガスを生成する燃焼器12と、燃焼ガスにより駆動するタービン13と、を備えたガスタービン10であって、(【0021】)
燃焼室に燃料を噴射するノズル前後の圧力差を用いて燃料流量を推定する燃料流量推定部38は以下の式によって燃料流量を算出し、
[図:0001433637000002.jpg]
Gはノズル1本あたりの燃料流量、Aはノズル1本あたりの合計径面積、P0はノズル前の圧力、P1はノズル後方の圧力であり、(【0039】~【0042】)
ノズルの上流の圧力(車室圧力)には、燃料流量調節弁の下流での圧力の計測値を用い、ノズルの下流の圧力(燃焼室圧力)には、圧力計で計測した値又は燃焼室圧力の推定値を用い、(【0039】)
ノズル後方の圧力P1は例えば、ノズル上流の車室圧力をP、燃焼器による圧損をx%とした式(4)で推定することができ、(【0042】)
燃焼室圧力 = P × ( 1-(x ÷ 100) ) ・・・・(4)
制御対象となる燃料流量調節弁に接続されたノズルの数を乗算することで燃料流量を推定する方法(【0042】)。」
イ 引用文献5に記載された事項及び技術事項の認定
(ア) 引用文献5の記載事項
当審で新たに引用する優先日前に発行された特開平8-121194号公報(以下「引用文献5」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は、当合議体が付したものである。また、図面を参照して実施の形態等を詳細に説明する箇所については、当該図面を明細書において初めて実質的に説明される箇所の直後に掲載した。
a 【0052】~【0063】、【図4】、【図5】
「【0052】
図4は、本発明の他の実施例のガスタービン制御装置121を備えるコージェネレーション設備60aの一部の構成を示す系統図である。本実施例のガスタービン制御装置121には、信号発生器50の低位信号選択器10dから出力される燃料ガス制御信号Xfおよびガスタービン3の特性に基づいて燃料ガス圧縮機の出口の圧力としての第2燃料供給管路112内の燃料ガスの圧力からガスタービンの燃焼器3b内のガス圧力を減算した差圧の目標値ΔPを演算する演算手段である燃料ガス流量-差圧変換器21と、前記差圧の目標値ΔPと後述する差圧発信器22から出力される差圧信号Aとを比較し、この差圧信号Aの表す検出差圧が前記目標値となるように前記燃焼器3bに供給される燃料ガスの流量を表す制御信号を出力する差圧制御手段23とを含んで構成されるガスタービン制御回路10eが備えれる。また、前記制御手段23に第2燃料供給管路112内の燃料ガスの圧力から、燃焼器3b内のガス圧力を減算した差圧を検出する前記差圧発信器22が設けられる。その他の同様の構成を有する部分には、同一の参照符号を付し、説明は省略する。」
「【図4】
[図:0001433637000003.jpg]
」
「【0053】
図5は、本実施例の燃焼器3b付近の構成を簡略化して示す図である。燃焼器3bは、燃料が燃焼される燃焼筒3b1を有する。燃料ガスは、ノズル3b2から燃焼筒内に噴射され、空気は、燃焼筒3b1の周囲の環状の空間3b3から、燃焼筒3b1に形成される複数の透孔3b4を介し燃焼筒3b1内に導かれる。この燃焼筒3b1内で燃料ガスが燃焼され、燃焼後のガスは、タービン3cへ導かれる。」
「【図5】
[図:0001433637000004.jpg]
」
「【0054】
前記差圧発信器22は、燃料ガス圧縮機2からの燃料ガスを、ガスタービン3の燃焼器3bに導く第2燃料供給管路112内の圧力Pf と、燃焼器3bの燃料が燃焼される空間、すなわち燃焼筒3b1内のガス圧力Pc とを検出し、その差圧Pf-Pcを求めて、差圧制御手段23へ出力する。
…(中略)…
【0057】
燃料ガス流量-差圧変換器21は、信号発生器の低位信号選択器10dから出力される燃料ガス指令信号Xf から、次の手順で第2燃料供給管路112の燃料ガス圧力Pfと燃焼器3b内の圧力Pcとの間の差圧の目標値ΔPを演算する。ガスタービン3へ供給される燃料ガス流量Gfは、一般的に第2燃料供給管路112内の燃料ガスの圧力Pfと燃焼器3b内の圧力Pcとによって決まることが周知である。その燃料ガス流量Gfと差圧Pf-Pc との関係は、次の関係式(4)で与えられる。
【0058】
Gf = C ・ √ (Pf - Pc) …(4)
ここで、係数Cはガスタービンにより決まる定数である。この関係式に従って、燃料ガス流量が燃料ガス制御信号Xf に相当する値となるための差圧を演算すると、次のようになる。
【0059】
【数3】
[図:0001433637000005.jpg]
[図:0001433637000006.jpg]
【0060】
式(5)に基づいて、燃料ガス制御信号Xf の表す燃料ガスの流量に対応する第2燃料供給管路112内の燃料ガス圧力とからガスタービンの燃焼器3b内のガス圧力とを減算した差圧の目標値を演算し、その目標値を表す信号を出力する。
【0061】
再び図4を参照して、差圧制御手段23では、式(5)で与えられる差圧の目標値ΔPと、差圧発信器22とから出力される差圧信号Aの表す第2燃料供給管路112の燃料ガス圧力Pfから燃焼器3b内のガス圧力Pcを減算した前記検出差圧Pf-Pcを比較し、比例、積分、微分などの制御演算を行い、制御信号Bを第1関数発生器11および第2関数発生器12に与える。この制御演算では、前記検出差圧Pf-Pcが前記目標値ΔP未満であるとき、出力する制御信号Bとして、燃料ガス制御信号Xf の表す流量よりも流量を増加させるように指令し、ガスタービン3へ供給する燃料ガス流量を増加させ、逆に前記検出差圧が目標値を越えるとき、制御信号Bによって、ガスタービン3へ供給する燃料ガス流量を減少させる。燃料ガス制御信号Xf に代えて制御信号Bが入力されるけれども、第1関数発生器11、第2関数発生器12、第1流量調整弁6および第2流量調整弁7の機能については図1に示す実施例と同様である。
【0062】
前記差圧制御手段23は、たとえば比例-積分-微分回路(略称PID回路)によって実現される。このような本実施例のガスタービン制御装置121は、図1に示す実施例のガスタービン制御装置120と同様の効果を得ることができる。また、このように第2燃料供給管路112内の燃料ガスの圧力Pf から燃焼器3b内のガス圧力Pc を減算した差圧を検出して、前記差圧の目標値ΔPと比較し、演算を行って第1流量調整弁6および第2流量調整弁7の制御を行うことによって、燃料ガス圧縮機2が大型であり、大容量であったとしても、第1流量調整弁6および第2流量調整弁7による燃料ガスの流量の制御の遅れを排し、ガスタービンの安定した制御を行うことができる。
【0063】
図4、図5および図6を参照し、図4~図6に示す実施例において、差圧発信器22は、第2燃料供給管路112内の燃料ガスの圧力Pf から燃焼器3b内の圧力Pc を減算した差圧を検出するように構成されたけれども、燃焼器3b内は、高温となるため、圧力の検出が困難であることから、本発明の他の実施例として、差圧発信器22に代えて仮想線で示されるように、第2燃料供給管路112内の燃料ガスの圧力Pfから、空気圧縮機3aの出口としての空気圧縮機3aから燃焼器3bに圧縮空気を導く空気管路116内の空気の圧力Pa を減算した差圧を検出するように構成される差圧発信器22aを設けるようにしてもよい。空気管路116内の空気の圧力と、燃焼器3b内のガス圧力とは、ほぼ一致するので、前記のように差圧発信器22aを用いても図4~図6に示す実施例と同様の効果を得ることができる。」
(イ) 引用文献5技術事項の認定
前記アに摘記した引用文献5の記載事項を総合すると、引用文献5には次に示す技術事項(以下「引用文献5技術事項」という。)が記載されていると認められる。
<引用文献5技術事項>
「第2燃料供給管路112内の燃料ガスの圧力からガスタービンの燃焼器3b内のガス圧力を減算した差圧の目標値ΔPを演算する燃料ガス流量-差圧変換器21と、前記差圧の目標値ΔPと後述する差圧発信器22から出力される差圧信号Aとを比較し、この差圧信号Aの表す検出差圧が前記目標値となるように前記燃焼器3bに供給される燃料ガスの流量を表す制御信号を出力する差圧制御手段23とを含んで構成されるガスタービン制御回路10eを備えたガスタービン制御装置121において、(【0052】)
ガスタービン3へ供給される燃料ガス流量Gf は、一般的に第2燃料供給管路112内の燃料ガスの圧力Pfと燃焼器3b内の圧力Pcとによって決まることが周知であり、(【0057】)
燃焼器3b内は圧力の検出が困難であることから、第2燃料供給管路112内の燃料ガスの圧力Pf から、空気圧縮機3aの出口としての空気圧縮機3aから燃焼器3bに圧縮空気を導く空気管路116内の空気の圧力Pa を減算した差圧を検出するように構成される差圧発信器22aを設けるようにしてもよいこと。(【0063】)」
ウ 本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比する。なお、本願発明の構成F、Gについては、前記3(1)で検討のとおり、内容に一部不明瞭な点があるものの、対比にあたっては請求項の記載のとおりで解釈するものとする。
(ア) 構成Aの観点
a 構成Aは「タービン(100)の燃焼室(120)内へ噴射される可燃性流体の流量をコントローラにより決定するための方法」であって、「前記可燃性流体は、ガス混合気であり、少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)のオリフィスを通って前記燃焼室内へ噴射され、前記オリフィスは、前記燃焼室の内側に配され[る]」ことを特定するものである。
b 次の<引用発明>の各欄に記載の構成は、それぞれ対応する<本願発明>の各欄に記載の構成に対応する。
<引用発明> <本願発明>
タービン13 タービン
燃焼器12 燃焼室
燃料ガス 可燃性流体
燃料流量推定部 コントローラ
c また、本願発明のインジェクタは、明細書の全体を参酌しても、ガスを注入するための特別な機構等があるわけでもなく、上流下流の圧力や、オリフィスとしての開口の面積等が定義されているだけで、実質的には吹出口と同等の構成としかなり得ないため、引用発明の「ノズル」は本願発明の「インジェクタ」に相当するものと認められる。
d ここで、構成Aの「インジェクタのオリフィス」について、「オリフィス」という語は、一般に流体の流量を制限する小さな開口に用いられるところ、本願の発明の詳細な説明や図面等には「インジェクタのオリフィス」の形状や配置等の具体的な説明はないため、一般的なインジェクタが有する構成である流路(開口部)がオリフィスであると理解するほかない。さらに、引用発明の「ノズルの下流の圧力」が「燃焼室圧力」であることから、引用発明の「燃焼室に燃料を噴射するノズル」が有する流路(開口部)は、本願発明の「燃焼室の内側に配され」る「インジェクタのオリフィス」に相当する。
また、引用発明は「圧縮空気と燃料ガスとを混合して燃焼」するものであるから、当該混合物は「ガス混合気」に相当する。
e したがって、本願発明と引用発明は、「タービン(100)の燃焼室(120)内へ噴射される可燃性流体の流量をコントローラにより決定するための方法であって、前記可燃性流体は、ガス混合気であり、少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)のオリフィスを通って前記燃焼室内へ噴射され、前記オリフィスは、前記燃焼室の内側に配され[る]」点で一致する。
(イ) 構成B~Eの観点
a 構成B~Eは、
「B - 前記可燃性流体が通って前記燃焼室(120)内へ噴射される、前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの断面積を決定するステップと、
C - 前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの上流の前記可燃性流体の圧力を決定するステップと、
D - 前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの下流の圧力を決定するステップと、
E - 前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスを通って流れる前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタの前記オリフィスの前記決定された断面積と、前記インジェクタの前記オリフィスの上流の前記決定された前記可燃性流体の圧力と、前記インジェクタの前記オリフィスの下流の前記決定された圧力と、の関数として決定するステップ」である。
b 前記(ア)dで説示したように、ノズルが有する流路(開口部)が本願発明のオリフィスに相当するから、引用発明の「ノズル1本あたりの合計径面積A」、「ノズル前の圧力P0」、「ノズル後方の圧力P1」、「燃料流量G」はそれぞれ本願発明の「オリフィスの断面積」、「オリフィスの上流の前記可燃性流体の圧力」、「オリフィスの下流の圧力」、「オリフィスを通って流れる前記可燃性流体の流量」に相当する。
また、引用発明の「燃料流量Gを、ノズル1本あたりの合計径面積A、ノズル前の圧力P0、ノズル後方の圧力P1を用いた式(1)から算出」することは、「前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスを通って流れる前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタの前記オリフィスの前記決定された断面積と、前記インジェクタの前記オリフィスの上流の前記決定された前記可燃性流体の圧力と、前記インジェクタの前記オリフィスの下流の前記決定された圧力と、の関数として決定する」事に相当する。
そして、引用発明において式(1)から燃料流量Gを計算するに先んじて、当該計算に必要なパラメータである「ノズル1本あたりの合計径面積A」、「ノズル前の圧力P0」、「ノズル後方の圧力P1」を決定していることは明らかである。
c したがって、本願発明と引用発明は、
「- 前記可燃性流体が通って前記燃焼室(120)内へ噴射される、前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの断面積を決定するステップと、
- 前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの上流の前記可燃性流体の圧力を決定するステップと、
- 前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの下流の圧力を決定するステップと、
- 前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスを通って流れる前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタの前記オリフィスの前記決定された断面積と、前記インジェクタの前記オリフィスの上流の前記決定された前記可燃性流体の圧力と、前記インジェクタの前記オリフィスの下流の前記決定された圧力と、の関数として決定するステップ」を包含する点で一致する。
(ウ) 構成Fの観点
a 構成Fは「 - 前記燃焼室(120)内へ噴射される前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記上流の圧力と、前記少なくとも一つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記下流の圧力との間における差の関数として決定するステップ」である。
b ここで、当該構成Fの「前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記上流の圧力と、前記少なくとも一つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記下流の圧力との間における差の関数」というのがどのような関数であるか、発明の詳細な説明や意見書等に具体的な説明はなく、特に構成Eと構成Fがどのように関連し、両者の「関数」がどのような関係にあるのかも不明である。
c したがって、本願発明は、「- 前記燃焼室(120)内へ噴射される前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記上流の圧力と、前記少なくとも一つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記下流の圧力との間における差の関数として決定するステップ」を包含するのに対し、引用発明はそのような構成を有するか不明であるという点で、両者は一応相違するものとする。
(エ) 構成Gの観点
a 構成Gは「前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記上流の前記可燃性流体の圧力は、前記可燃性流体のラインの圧力とコンプレッサを離れる圧縮空気の圧力(PCD)との間の差を測定することによって間接的に決定される、決定するための方法。」である
b これに対して、引用発明は「ノズルの上流の圧力」として、「燃料流量調節弁の下流での圧力の計測値」を用いるものであるから「前記可燃性流体のラインの圧力とコンプレッサを離れる圧縮空気の圧力(PCD)との間の差を測定することによって間接的に決定」するものではない。
c したがって、本願発明と引用発明は、次の点で相違する。
本願発明は「前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記上流の前記可燃性流体の圧力は、前記可燃性流体のラインの圧力とコンプレッサを離れる圧縮空気の圧力(PCD)との間の差を測定することによって間接的に決定される」のに対し、引用発明は「ノズルの上流の圧力」として「燃料流量調節弁の下流での圧力の計測値」を用いるものである点。
エ 一致点及び相違点
前記ウの対比分析の結果をまとめると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次の(ア)及び(イ)に示すとおりである。
(ア) 一致点
「 タービン(100)の燃焼室(120)内へ噴射される可燃性流体の流量をコントローラにより決定するための方法であって、前記可燃性流体は、ガス混合気であり、少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)のオリフィスを通って前記燃焼室内へ噴射され、前記オリフィスは、前記燃焼室の内側に配され、それにおいて前記方法が、
- 前記可燃性流体が通って前記燃焼室(120)内へ噴射される、前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの断面積を決定するステップと、
- 前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの上流の前記可燃性流体の圧力を決定するステップと、
- 前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの下流の圧力を決定するステップと、
- 前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスを通って流れる前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタの前記オリフィスの前記決定された断面積と、前記インジェクタの前記オリフィスの上流の前記決定された前記可燃性流体の圧力と、前記インジェクタの前記オリフィスの下流の前記決定された圧力と、の関数として決定するステップと、
を包含する方法」である点。
(イ) 相違点
a 一応の相違点1
本願発明は、「- 前記燃焼室(120)内へ噴射される前記可燃性流体の流量を、前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記上流の圧力と、前記少なくとも一つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記下流の圧力との間における差の関数として決定するステップ」を包含するのに対し、引用発明はそのような構成を有するか不明であるという点。
b 相違点2
本願発明は「前記インジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記上流の前記可燃性流体の圧力は、前記可燃性流体のラインの圧力とコンプレッサを離れる圧縮空気の圧力(PCD)との間の差を測定することによって間接的に決定される」のに対し、引用発明は「ノズルの上流の圧力」として「燃料流量調節弁の下流での圧力の計測値」を用いるものである点。
オ 相違点についての当審の判断
(ア) 相違点1について
相違点1について検討する。
a 「前記少なくとも1つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記上流の圧力と、前記少なくとも一つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記下流の圧力との間における差の関数」というのがどのような関数であるかは不明であるものの、物理量間の関係を示す関数において、適宜の変数変換を行うことは、当業者の周知慣用の手法である。
b ここで、引用発明は「ノズルの下流の圧力」として「燃焼室圧力の推定値」を用いても良く、ノズル後方の圧力をノズル上流の車室圧力から推定する式(4)中の「燃焼器による圧損」というのはノズル前後の圧力差を示すパラメータであるから、「オリフィスの前記上流の圧力と、前記少なくとも一つのインジェクタ(112、113、114、115)の前記オリフィスの前記下流の圧力との間における差」に相当する。したがって引用発明には、引用発明の式(1)に式(4)を適用することで、「燃焼器による圧損」を含む関数によって燃料流量を決定する方法も含まれている。
c したがって、相違点1に係る本願発明の構成は、引用発明との相違点を構成しないものであるか、または少なくとも引用文献1中に示唆されている構成にすぎない。
d なお、前記イ(イ)において引用文献5技術事項として認定したとおり、「第2燃料供給管路112内の燃料ガスの圧力Pf から、空気圧縮機3aの出口としての空気圧縮機3aから燃焼器3bに圧縮空気を導く空気管路116内の空気の圧力Pa を減算した差圧」を検出してガスタービンの燃料ガスの流量の制御を行うことは公知である。このような公知技術の存在は、前記a~cで検討した、上流と下流の圧力差から流量を測定する手法を採用することの容易想到性の推論を間接的に裏付けているものともいえる。
e してみれば、一応の相違点1に係る本願発明の構成は、引用発明との相違点を構成しないか、または引用発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。
(イ) 相違点2について
相違点2について検討する。
本願発明において、「オリフィスの前記上流の前記可燃性流体の圧力」と「可燃性流体のラインの圧力」と「コンプレッサを離れる圧縮空気の圧力(PCD)」との間にどのような関係があるかは不明であるものの、ある位置の圧力を、他の位置の圧力と差圧に基づいて間接的に特定するといったことは、当業者であれば適宜なし得たことにすぎないものと認められるから、当該相違点2に係る本願発明の構成に基づいて、本願発明の進歩性を認めることができない。
カ 請求人の主張について
(ア) 意見書及び審判請求書における請求人の主張の内容
請求人は、意見書及び審判請求書において、本願発明の進歩性について、次の2点を主張している
a いずれの引用文献も、燃焼室の内側に圧力測定のためのインジェクタのオリフィスを配置することを開示しないこと(以下「主張1」という。)。
b いずれの引用文献も、オリフィスの上流の可燃性流体の圧力を、可燃性流体のラインの圧力とコンプレッサを離れる圧縮空気の圧力(PCD)との間の差を測定することによって決定することの開示も示唆もなく、本願発明ではガス混合気/コンプレッサの圧縮空気の使用により、燃焼室に注入される流量をより正確に決定することが可能であること(以下「主張2」という。)。
(イ) 請求人の主張についての検討
前記の主張1については、前記ウ(ア)で検討のとおり、引用発明の「ノズル」は「インジェクタのオリフィス」に相当し、引用発明の燃料流量推定部38が当該ノズル前後の圧力差を用いて燃料流量を推定しているのだから、本願発明のオリフィスと同じ目的で利用されていることは明らかである。よって、出願人の主張には根拠がない。
前記の主張2については、前記3(1)イで検討のとおり、そもそも本願発明の「混合ガス」がどのようなガスかも、「可燃性流体のラインの圧力」がどこの圧力(何の分圧)を示しているのか、本願の構成に不明瞭な点があるものの、前記第エ(イ)で検討のとおり、「第2燃料供給管路112内の燃料ガスの圧力Pf から、空気圧縮機3aの出口としての空気圧縮機3aから燃焼器3bに圧縮空気を導く空気管路116内の空気の圧力Paを減算した差圧」の検出器を用いてガスタービンの制御を行うことは公知であるから、当該構成自体が新たな構成であるとはいえない。
そして、請求人が主張する効果についても、可燃性流体のラインの圧力とコンプレッサを離れる圧縮空気の圧力(PCD)との間の差を測定することで燃焼室に注入される流量をより正確に決定できるという根拠も不明であるから、本願発明の構成に新たな効果があるとも認められない。
そうすると、引用発明において、可燃性流体のラインの圧力とコンプレッサを離れる圧縮空気の圧力(PCD)との間の差を測定する検出器を用いてオリフィスの上流の可燃性流体の圧力を決定することは、公知技術を用いた単なる設計変更に過ぎない。
したがって、請求人の主張は採用できない。
第4 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法36条6項2号、29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-011796