特許拒絶査定不服審判
2023-016560
がんを治療するための投与計画におけるCEA CD3二重特異性抗体及びPD-1軸結合アンタゴニストの使用
- 審判番号
- 2023-016560
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-532892
- 請求日
- 2023年10月02日
- 審決日
- 2025年08月18日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
- 【請求人代理人】園田・小林弁理士法人
- 審判長/審判官
- 審判長 松波 由美子
- 審判官 山村 祥子
- 審判官 田村 直寛
- 分類
- P18 .121-Z (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-532892「がんを治療するための投与計画におけるCEA CD3二重特異性抗体及びPD-1軸結合アンタゴニストの使用」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月20日国際公開、WO2019/115659、令和 3年 2月22日国内公表、特表2021-506817〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)12月13日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2017年12月14日、 2018年3月5日 いずれも(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その出願後の主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 8月12日 :翻訳文の提出
令和3年12月 2日 :手続補正書の提出
令和4年 9月26日付け :拒絶理由通知
令和5年 3月 6日 :意見書、手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
令和5年 5月16日付け :拒絶査定
令和5年10月 2日 :審判請求書の提出
令和5年11月15日 :手続補正書(方式)の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~12に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
CEA CD3二重特異性抗体を含む、アテゾリズマブと組み合わせてがんを治療するための医薬であって、
CEA CD3二重特異性抗体が、三週毎(Q3W)に、約100mgの固定用量で投与され、且つ、
アテゾリズマブが、三週毎(Q3W)に、約1200mgの固定用量で投与され、
CEA CD3二重特異性抗体は、
(i)CD3に特異的に結合する第1の抗原結合部分であって、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域を含み、第1の抗原結合部分は、Fab軽鎖とFab重鎖の可変領域又は定常領域、特に定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分;
(ii)CEAに特異的に結合する第2及び第3の抗原結合部分であって、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域を含み、第2及び第3の抗原結合部分の各々がFab分子、特に従来のFab分子である、第2及び第3の抗原結合部分;
(iii)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含み、
第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している、医薬。」
第3 原査定の拒絶の理由
令和5年5月16日付けの拒絶査定における拒絶の理由は、概略、次のとおりのものである。
(進歩性) この出願の請求項1~12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1又は2に記載された発明及び引用文献1又は2に記載された事項並びに優先日当時の技術常識に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.国際公開第2017/118675号
2.Journal of Clinical Oncology 35(15_suppl) (2017.05.20), 3002
第4 当審の判断
1.引用文献1の記載及び引用文献1に記載された発明
(1) 引用文献1の記載
原審の拒絶理由で引用され、本願優先日前に発行された国際公開第2017/118675号(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(英文のため当審による日本語訳で記載する。日本語訳にあたっては、対応する日本語出願の公表公報である特表2019-502712号公報を参考にした。また、下線は当審合議体が付し、「・・・」は摘記の省略を示す。以下、他の引用文献についても同様である。)。
摘記1-1
「1. 有効量のヒトPD-1軸結合アンタゴニスト及び抗CEA/抗CD3抗体を個体に対して投与することを含む、個体におけるがんを治療するため又はその進行を遅延させるための方法。
2. PD-1軸結合アンタゴニストが、PD-1結合アンタゴニスト、PD-L1結合アンタゴニスト及びPD-L2結合アンタゴニストからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
・・・
10. PD-1軸結合アンタゴニストがPD-L1結合アンタゴニストである、請求項2に記載の方法。
・・・
15. PD-L1結合アンタゴニストが:MPDL3280A(アテゾリズマブ)、YW243.55.S70、MDX-1105、MEDI4736(デュルバルマブ)、及びMSB0010718C(アベルマブ)からなる群より選択される、請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。
・・・
26. 抗CEA/抗CD3二重特異性抗体が、CD3に結合する第1の抗原結合ドメイン、及びCEAに結合する第2の抗原結合ドメインを含む、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
・・・
28. 第1の抗原結合ドメインが、配列番号44のHVR-H1配列、配列番号45のHVR-H2配列、及び配列番号46のHVR-H3配列を含む重鎖可変領域(VHCD3);及び/又は配列番号47のHVR-L1配列、配列番号48のHVR-L2配列、及び配列番号49のHVR-L3配列を含む軽鎖可変領域(VLCD3)を含む、請求項26又は27に記載の方法。
29. 第1の抗原結合ドメインが、配列番号50のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VHCD3)及び/又は配列番号51のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VLCD3)を含む、請求項26から28のいずれか一項に記載の方法。
30. 第2抗原結合ドメインが、配列番号38のHVR-H1配列、配列番号39のHVR-H2配列、及び配列番号40のHVR-H3配列を含む重鎖可変領域(VHCEA);及び/又は配列番号41のHVR-L1配列、配列番号42のHVR-L2配列、及び配列番号43のHVR-L3配列を含む軽鎖可変領域(VLCEA)を含む、請求項26から29のいずれか一項に記載の方法。
31. 第2の抗原結合ドメインが、配列番号34のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VHCEA)及び/又は配列番号35のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VLCEA)を含む、請求項26から30のいずれか一項に記載の方法。
32. 抗CEA/抗CD3二重特異性抗体が、CEAに結合する第3の抗原結合ドメインを含む、請求項26から31のいずれか一項に記載の方法。
33. 第3の抗原結合ドメインが、配列番号38のHVR-H1配列、配列番号39のHVR-H2配列、及び配列番号40のHVR-H3配列を含む重鎖可変領域(VHCEA);及び/又は配列番号41のHVR-L1配列、配列番号42のHVR-L2配列、及び配列番号43のHVR-L3配列を含む軽鎖可変領域(VLCEA)を含む、請求項32に記載の方法。
34. 第3の抗原結合ドメインが、配列番号34のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VHCEA)及び/又は配列番号35のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VLCEA)を含む、請求項32又は33に記載の方法。
35. 抗原結合ドメインがFab分子である、請求項26から34のいずれか一項に記載の方法。
36. 第1の抗原結合ドメインが、Fab重鎖とFab軽鎖の可変ドメイン又は定常ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子であり、第2の抗原結合ドメイン及び存在する場合は第3の抗原結合ドメインが従来のFab分子である、請求項26から35のいずれか一項に記載の方法。
37. (i)第2の抗原結合ドメインがFab重鎖のC末端において第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合しているか、又は(ii)第1の抗原結合ドメインがFab重鎖のC末端において第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合している、請求項35又は36に記載の方法。
38. 抗CEA/抗CD3二重特異性抗体が、安定に会合することのできる第1のサブユニットと第2のサブユニットから構成されるFcドメインをさらに含む、請求項26から37のいずれか一項に記載の方法。
・・・
40. (i)第2の抗原結合ドメインがFab重鎖のC末端において第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合しており、第1の抗原結合ドメインがFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、且つ第3の抗原結合ドメインがFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合しているか、又は(ii)第1の抗原結合ドメインがFab重鎖のC末端において第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合しており、第2の抗原結合ドメインがFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、且つ第3の抗原結合ドメインがFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している、請求項38又は39に記載の方法。
・・・
53. ヒトPD-1軸結合アンタゴニストが、約1200mgの用量で3週毎に投与される、請求項1から52のいずれか一項に記載の方法。
54. 抗CEA/抗CD3二重特異性抗体が約5mgから約100mgの用量で毎週投与される、請求項1から52のいずれか一項に記載の方法。
55. 治療周期を含み、個体は、各周期の1日目にヒトPD-1軸結合アンタゴニストを約1200mgの用量で、各周期の1、8、及び15日目に抗CEA/抗CD3抗体を約5mg、約10mg、約20mg、約40mg、約80mg又は約160mg、特に少なくとも約80mgの用量で、それぞれ投与され、各周期は21日毎に繰り返される、請求項1から53のいずれか一項に記載の方法。」
(特許請求の範囲)
摘記1-2
「技術分野
[0002] がんは、世界的に最も多い死因の一つである。治療の選択肢の進歩にも関わらず、進行がん患者の予後は依然として芳しくない。したがって、許容できない毒性を引き起こすことなくがん患者の生存期間を延ばすための最適な治療法に対し、持続的で緊急の医学的必要性が存在する。
[0003] 臨床治験の最近の結果により、免疫療法、特に免疫チェックポイント阻害剤ががん患者の全生存期間を延ばし、持続的応答をもたらすことが示された。このような有望な結果にも関わらず、現行の免疫に基づく治療法は患者の一部にしか効果がなく、治療効果を向上させるために組み合わせ戦略が必要とされている。
[0004] プログラム死-リガンド1(PD-L1)は免疫細胞及び腫瘍細胞の表面上に見出され、その発現はインターフェロンガンマ(IFNγ)により誘導される。同リガンドは、免疫系が、活性化したT細胞上において阻害性のプログラム死-1(PD-1)及びB7.1受容体と相互作用することによりがん細胞を破壊することを妨げ、これはT細胞阻害シグナルを生じさせる。
[0005] したがって、PD-1と、PD-1との相互作用によりシグナル伝達する他の分子、例えばプログラム死リガンド1(PD-L1)及びプログラム死リガンド2(PD-L2)の治療標的化は、非常に興味深い領域である。PD-L1は、多くのがんにおいて過剰発現され、多くの場合予後不良に関連付けられる(Okazaki T et al., Intern. Immun. 2007 19(7):813) (Thompson RH et al., Cancer Res 2006, 66(7):3381)。興味深いことに、腫瘍浸潤Tリンパ球の大部分は、正常組織及び末梢血Tリンパ球中のTリンパ球とは対照的に、PD-1を支配的に発現し、このことは、腫瘍反応性のT細胞上でのPD-1の上方制御が抗腫瘍免疫応答の低下に寄与しうることを示唆している(Blood 2009 114(8):1537)。これは、PD-L1発現腫瘍細胞がPD-1発現T細胞と相互作用してT細胞活性化の減弱及び免疫監視の回避をもたらすことにより媒介されるPD-L1シグナル伝達の搾取作用に起因している可能性がある(Sharpe et al., Nat Rev 2002) (Keir ME et al., 2008 Annu. Rev. Immunol. 26677)。したがって、PD-L1/PD-1相互作用の阻害は、腫瘍のCD8+ T細胞媒介性死滅を増強しうる。
[0006] PD-L1シグナル伝達の阻害は、がん並びに急性及び慢性(例えば持続性)感染を含む感染の治療のためのT細胞免疫(例えば腫瘍免疫)を向上させる手段として提示された。最適な治療的処置は、T細胞、特にCD8+ T細胞を活性化する薬剤を用いたPD-1受容体/リガンド相互作用の遮断を組み合わせることができる。
[0007] PD-1とPD-L1の二重遮断が、in vitroモデルにおいてCEA BiTEにより導かれる腫瘍のT細胞死滅を向上させることが報告されている(Osada et al., Cancer Immunol Immunother (2015) 64(6):677-88)。
[0008] 患者の様々ながんを治療、安定化、予防するため、及び/又はその進行を遅延させるための最適な治療法が依然として必要とされている。」
([0002]段落~[0008]段落)
摘記1-3
「[0032] 一実施態様では、抗CEA/抗CD3二重特異性抗体は、配列番号52の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である配列を含むポリペプチド、配列番号53の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である配列を含むポリペプチド、配列番号54の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である配列を含むポリペプチド、及び配列番号55の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である配列を含むポリペプチドを含む。一実施態様では、二重特異性抗体は、配列番号52の配列を含むポリペプチド、配列番号53の配列を含むポリペプチド、配列番号54の配列を含むポリペプチド、及び配列番号55の配列を含むポリペプチドを含む。(CEA TCB)」
([0032]段落)
摘記1-4
「[0054] 本出願の発明者らは、CEA T細胞二重特異性抗体及び抗PD-L1免疫療法が、その抗がん特性において相乗的に作用し、それらの組み合わせががん患者に有意な臨床効果をもたらしうることを実証した。本出願のデータは、CEA T細胞二重特異性抗体(CEA TCB)と抗PD-L1免疫療法の組み合わせが、腫瘍増殖の増強された阻害をもたらしたことを示すものである。」
([0054]段落)
摘記1-5
「[0163] 本明細書では、有効量のPD-1軸結合アンタゴニスト及び抗CEA/抗CD3二重特異性抗体を個体に対して投与することを含む、個体におけるがんを治療するため又はその進行を遅延させるための方法が提供される。また、本明細書では、有効量のPD-1軸結合アンタゴニスト及び抗CEA/抗CD3二重特異性抗体を、がんを有する個体に対して投与することを含む、同個体における免疫機能を増強する方法が提供される。
[0164] ここでは、ヒトがん胎児性抗原(CEA)に結合する二重特異性抗体が提供される。“CEA”の別名にはCEACAM5が含まれる。特に断らない限り、本明細書において使用される用語“CEA”は、霊長類(例えばヒト)、非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)及びげっ歯類(例えばマウス及びラット)といった哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来のいずれかの天然型CEAを指す。この用語は、“完全長”の及び非プロセス型のCEA並びに細胞(例えば、成熟タンパク質)内でのプロセシングから生じる任意の形態のCEAを包含する。この用語は、CEAの天然に存在する変異体及びアイソフォーム、例えば、スプライシング変異体又は対立遺伝子変異体も包含する。一実施態様では、CEAはヒトCEAである。ヒトCEAのアミノ酸配列は、UniProt(www.uniprot.org)の登録No.P06731、又はNCBI(www.ncbi.nlm.nih.gov/)RefSeq NP_004354.2に示されている。
[0165] いくつかの実施様態では、CEAに結合する二重特異性抗体の抗原結合ドメインは、
アミノ酸配列:
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTEFGMNWVRQAPGQGLEWMGWINTKTGEATYVEEFKGRVTFTTDTSTSTAYMELRSLRSDDTAVYYCARWDFAYYVEAMDYWGQGTTVTVSS(配列番号34)
を含む重鎖可変領域(VHCEA)、及び/又は
アミノ酸配列:
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCKASAAVGTYVAWYQQKPGKAPKLLIYSASYRKRGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCHQYYTYPLFTFGQGTKLEIK(配列番号35)
を含む軽鎖可変領域(VLCEA)
を含む。
[0166] いくつかの実施様態では、CEAに結合する二重特異性抗体の抗原結合ドメインは、EFGMN(配列番号38)のHVR-H1配列、WINTKTGEATYVEEFKG(配列番号39)のHVR-H2配列、及びWDFAYYVEAMDY(配列番号40)のHVR-H3配列を含む重鎖可変領域と、KASAAVGTYVA(配列番号41)のHVR-L1配列、SASYRKR(配列番号42)のHVR-L2配列、及びHQYYTYPLFT(配列番号43)のHVR-L3配列を含む軽鎖可変領域とを含む。
[0167] いくつかの実施様態では、抗CEA/抗CD3二重特異性抗体は、ヒトCD3ポリペプチドに結合する第1の抗原結合ドメインと、CEAに結合する第2の抗原結合ドメインとを含む。いくつかの実施様態では、抗CEA/抗CD3二重特異性抗体は、CEAに結合する第3の抗原結合ドメインをさらに含む。いくつかの実施様態では、第2及び第3の抗原結合ドメインは同一である(即ち同じアミノ酸配列を有する)。
[0168] CD3(分化3のクラスター)T細胞補助受容体は、タンパク質複合体であり、四つの異なる鎖から構成される。哺乳動物において、複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、及び二つのCD3ε鎖を含む。これらの鎖は、T細胞受容体(TCR)及びζ鎖と結合してTリンパ球内に活性化シグナルを生成する。TCR、ζ鎖、及びCD3分子は一緒にTCR複合体を形成する。特に断らない限り、本明細書において使用される用語“CD3”は、霊長類(例えばヒト)、非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)及びげっ歯類(例えばマウス及びラット)といった哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来のいずれかの天然型CD3を指す。この用語は、“完全長”の及び非プロセス型のプロテインA、並びに細胞内でのプロセシングから生じる任意の形態のタンパク質(例えば、成熟ポリペプチド)又はCD3鎖(ポリペプチド)の一又は複数を包含する。この用語は、天然に存在するCD3アイソフォームの変異体及びアイソフォーム、例えば、スプライシング変異体又は対立遺伝子変異体も包含する。例えば、CD3γ、Cd3δ、及びCD3ε鎖及び配列の説明は、www.uniprot.org/uniprot/P04234、www.uniprot.org/uniprot/P07766、及びwww.uniprot.org/uniprot/P09693にある。一実施態様では、CD3は、ヒトCD3、特にヒトCD3のエプシロンサブユニット(CD3ε)である。ヒトCD3のアミノ酸配列は、UniProt(www.uniprot.org)の登録No.P07766(バージョン144)、又はNCBI(www.ncbi.nlm.nih.gov/)RefSeq NP_000724.1に示されている。カニクイザル[Macaca fascicularis]CD3εのアミノ酸配列が、NCBI GenBank no. BAB71849.1に示されている。
[0169] いくつかの実施様態では、二重特異性抗体はヒトCD3エプシロン(CD3ε)ポリペプチドに結合する。いくつかの実施様態では、二重特異性抗体は、他のTCRサブユニットと会合した天然T細胞受容体(TCR)中のヒトCD3エプシロンポリペプチドに結合する。いくつかの実施様態では、二重特異性抗体はヒトCD3ガンマ(CD3γ)ポリペプチドに結合する。いくつかの実施様態では、二重特異性抗体は、他のTCRサブユニットと会合した天然T細胞受容体(TCR)複合体中のヒトCD3ガンマポリペプチドに結合する。
[0170] 一態様では、アッセイは、生物活性を有するその抗(CD3)抗体を同定するために提供される。生物活性には、例えば、in vivo、in vitro、又はex vivoでの、CD3ポリペプチド(例えば、T脂肪の表面上のCD3)又はそのペプチド断片に対する結合が含まれる。本発明の多重特異性(例えば、二重特異性)抗CD3抗体(例えば、抗CEA結合ドメイン及びCD3ポリペプチドを認識する結合ドメインを有するTCB抗体)の場合、生物活性は、例えば、エフェクター細胞活性化(例えば、T細胞(例えば、CD8+及び/又はCD4+ T細胞)活性化)、エフェクター細胞集団の拡大(即ち、T細胞数の増加)、標的細胞集団の減少(即ち、細胞表面上にCEAを発現する細胞の集団の減少)、及び/又は標的細胞の死滅も含みうる。in vivo及び/又はin vitroでこのような生物活性を有する抗体が提供される。ある実施態様では、本発明の抗体は、そのような生物活性について試験される。
[0171] いくつかの実施様態では、CEAに結合する二重特異性抗体の抗原結合ドメイン(複数可)は、配列番号34のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VHCEA)と、配列番号35のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VLCEA)とを含む。いくつかの実施様態では、CEAに結合する抗原結合ドメインは、EFGMN(配列番号38)のHVR-H1配列、WINTKTGEATYVEEFKG(配列番号39)のHVR-H2配列、及びWDFAYYVEAMDY(配列番号40)のHVR-H3配列を含む重鎖可変領域を含み、KASAAVGTYVA(配列番号41)のHVR-L1配列、SASYRKR(配列番号42)のHVR-L2配列、及びHQYYTYPLFT(配列番号43)のHVR-L3配列を含む軽鎖可変領域を含む。
[0172] いくつかの実施様態では、CD3に結合する二重特異性抗体の抗原結合ドメインは、配列番号50のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VHCD3)、及び配列番号51のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VLCD3)を含む。いくつかの実施様態では、CD3に結合する抗原結合ドメインは、TYAMN(配列番号44)のHVR-H1配列、RIRSKYNNYATYYADSVKG(配列番号45)のHVR-H2配列、及びHGNFGNSYVSWFAY(配列番号46)のHVR-H3配列を含む重鎖可変領域を含み、GSSTGAVTTSNYAN(配列番号47)のHVR-L1配列、GTNKRAP(配列番号48)のHVR-L2配列、及びALWYSNLWV(配列番号49)のHVR-L3配列を含む軽鎖を含む。
・・・
[0176] 一実施態様では、抗CEA/抗CD3二重特異性抗体は、
(i)配列番号44のHVR-H1配列、配列番号45のHVR-H2配列、及び配列番号46のHVR-H3配列を含む重鎖可変領域(VHCD3);並びに配列番号47のHVR-L1配列、配列番号48のHVR-L2配列、及び配列番号49のHVR-L3配列を含む軽鎖可変領域(VLCD3)を含み、第1の抗原結合部分が、Fab軽鎖の可変領域又は定常領域、特に定常領域と、Fab重鎖の可変領域又は定常領域、特に定常領域とが交換されているクロスオーバーFab分子である、CD3に結合する第1の抗原結合ドメイン;
(ii)配列番号38のHVR-H1配列、配列番号39のHVR-H2配列、及び配列番号40のHVR-H3配列を含む重鎖可変領域(VHCEA);並びに配列番号41のHVR-L1配列、配列番号42のHVR-L2配列、及び配列番号43のHVR-L3配列を含む軽鎖可変領域(VLCEA)を含み、第2及び第3の抗原結合部分の各々がFab分子、特に従来のFab分子である、CEAに結合する第2及び第3の抗原結合ドメイン;
(iii)安定に会合できる第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含み、
第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合しており、第1の抗原結合ドメインがFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3の抗原結合ドメインがFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している。」
([0163]段落~[0176]段落)
摘記1-6
「[0329] 本明細書では、有効量のPD-1軸結合アンタゴニスト及び抗CEA/抗CD3二重特異性抗体を個体に対して投与することを含む、個体におけるがんを治療するため又はその進行を遅延させるための方法が提供される。いくつかの実施態様では、治療は、治療後の個体に応答をもたらす。いくつかの実施態様では、応答は部分寛解である。いくつかの実施様態では、応答は完全寛解である。いくつかの実施態様では、治療は、治療休止後の個体に持続性の応答(例えば、持続性の部分寛解又は完全寛解)をもたらす。本明細書に記載される方法は、免疫原性の増強、例えばがんの治療のための腫瘍免疫原性の増大が望ましい状態の治療に用途を見出しうる。また、本明細書では、有効量のPD-1軸結合アンタゴニスト(例えば、MPDL3280A)及び抗CEA/抗CD3二重特異性抗体(例えばCEA TCB)を、がんを有する個体に対して投与することを含む、同個体における免疫機能を増強する方法が提供される。
[0330] いくつかの例では、本明細書に記載される方法は、PD-1結合アンタゴニスト、PD-L1結合アンタゴニスト、及びPD-L2結合アンタゴニストからなる群より選択される有効量のPD-1軸結合アンタゴニストを投与することを含む。いくつかの例では、PD-L1結合アンタゴニストは、抗体、例えばPD-L1の、PD-1及びB7.1に対する結合を阻害できるがPD-1のPD-L2に対する結合を妨害しない抗体である。いくつかの実施様態では、PD-L1結合アンタゴニスト抗体はMPDL3280Aであり、三週間ごとに約800mgから約1500mg(例えば、三週間ごとに約1000mgから約1300mg、例えば、三週間ごとに約1100mgから約1200mg)の用量で投与される。いくつかの実施様態では、MPDL3280Aは、三週間ごとに約1200mgの用量で投与される。
・・・
[0332] いくつかの例では、本明細書に記載される方法は、有効量の抗CEA/抗CD3二重特異性抗体(例えば、CEA TCB)の投与を含む。いくつかの例では、抗CEA/抗TCB二重特異性抗体(例えば、CEA TCB)は、個体に対し、毎週約5mgから約400mg(例えば、毎週約10mgから約60mg、例えば、毎週約10mgから約40mg、例えば毎週約80mgから約200mg、例えば毎週約80mgから約400mg、又は例えば毎週約160mgから400mg)の用量で投与される。いくつかの実施態様では、抗CEA/抗CD3二重特異性抗体(例えば、CEA TCB)は、毎週約5mg、約10mg、約20mg、約40mg、約80mg又は約160mgの用量で投与される。一般命題として、ヒトに投与される抗CEA/抗CD3二重特異性抗体(例えば、CEA TCB)の治療的有効量は、投与回数が一回か複数回かを問わず、約5から約400mg(例えば、約5mg、約10mg、約15mg、約20mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、約100mg、約150mg、約160mg、約200mg、約250mg、約300mg、約350mg、又は約400mg)の範囲であろう。例えば、いくつかの実施態様では、約5mg、約10mg、約20mg、約40mg、約80mg又は160mgのCEA TCBが投与される。いくつかの実施態様では、CEA TCBは、週に一度、5mg、10mg、20mg、40mg、80mg又は160mgで投与される。特定の実施態様では、少なくとも約80mgのCEA TCBが投与される。いくつかの実施態様では、CEA TCBは、週に一度80mgで投与される。いくつかの実施態様では、CEA TCBは、週に一度80~200mg、80~400mg又は160~400mgで投与される。いくつかの実施態様では、抗CEA/抗CD3二重特異性抗体(例えば、CEA TCB)は、毎週、2週毎に、3週毎に、4週毎に、21日周期のそれぞれ1、8及び15日目に、又は28日周期のそれぞれ1、8、及び15日目に、投与される。
[0333] いくつかの例では、PD-1軸結合アンタゴニスト(例えば、抗PD-L1抗体、例えば、MPDL3280A)及び抗CEA/抗CD3二重特異性抗体(例えば、CEA TCB)は、単一用量レジメンにおいて投与される。これら薬剤の投与は、投薬レジメンに応じて並行して行われても、別々に行われてもよい。例えば、いくつかの例では、本明細書に記載される方法は、治療周期を含む投薬レジメンを含み、個体は各周期の1日目にヒトPD-1軸結合アンタゴニストを約1200mgの用量で、各周期の1、8、及び15日目に抗CEA/抗CD3二重特異性抗体を約5mg、約10mg、約20mg、約40mg、約80mg又は約160mgの用量で投与され、各周期は21日毎に繰り返される。一実施態様では、個体は、各周期の1日目にヒトPD-1軸結合アンタゴニストを約1200mgの用量で、各周期の1、8、及び15日目に抗CEA/抗CD3二重特異性抗体を約80mgの用量で投与され、各周期は21日毎に繰り返される。特定の一実施態様では、個体は、各周期の1日目にヒトPD-1軸結合アンタゴニストを約1200mgの用量で、各周期の1、8、及び15日目に抗CEA/抗CD3二重特異性抗体を少なくとも約80mgの用量で投与され、各周期は21日毎に繰り返される。また別の実施態様では、個体は、各周期の1日目にヒトPD-1軸結合アンタゴニストを約1200mgの用量で、各周期の1、8、及び15日目に抗CEA/抗CD3二重特異性抗体を約80mgから約200mg、約80mgから約400mg、又は約160mgから約400mgの用量で投与され、各周期は21日毎に繰り返される。」
([0329]段落~[0333]段落)
摘記1-7
「実施例1:CEA TCB媒介性腫瘍溶解は、in vitroにおいて、ヒトT細胞上のPD-1及び生存腫瘍細胞上のPD-L1の上方制御をもたらす
[0354] CEA TCBは、腫瘍細胞上のがん胎児性抗原(CEA)及びT細胞上のCD3を標的とする新規のT細胞二重特異性抗体である。CEA TCBは現在、進行性及び/又は転移性CEA発現腫瘍を有する患者の第I相試験における単剤として研究されている。
・・・
実施例5:局所的に進行した及び/又は転移したCEA陽性固形腫瘍を有する患者における、アテゾリズマブと組み合わせたCEA TCBの安全性、薬物動態及び治療活性を評価するための非盲検、マルチセンター、用量漸増及び拡大フェーズIB試験
[0388] 上述のデータは、CEA TCBとアテゾリズマブがそれらの抗がん特性において相乗的に作用すること、及びそれら組み合わせが集合的に、がん患者に意義のある臨床効果を提供することを実証する。
[0389] アテゾリズマブと組み合わせたCEA TCBの非盲検、マルチセンター、用量漸増及び拡大フェーズIb臨床試験を実施する。各治療周期は21日間であり、毎週(QW)(±1日)行われるCEA TCBのIV点滴と、3週ごとに投与されるアテゾリズマブ(Q3W)(±2日)の組み合わせからなる。患者には、各周期の1日目にアテゾリズマブ(1200mgの固定用量)をIV投与し、続いてCEA TCBを少なくとも一時間後に、各周期の1日目、8日目、及び15日目にIV投与する。
[0390] CEA TCBの場合、QWスケジュールで投与される開始用量は5mgであり、両方が同日(各周期の1日目)に投与されるときには1200mgのアテゾリズマブの投与後少なくとも一時間後に投与される。
[0391] 患者は臨床利益が失われるか、許容できない毒性が生じるか、又は同意を撤回するまで治療される。治療の一方を完全に止める場合、他方の薬物のみによる治療を継続することができる。
[0392] 主要な適格条件には、標準治療において疾患が進行した患者、標準治療に不耐性の患者、及び/又は標準治療に従わない患者において確認された局所的進行及び/又は転移固形腫瘍;米国東海岸癌臨床試験グループ(ECOG)のパフォーマンスステータス(PS)0~1;並びに腫瘍組織において局所的に確認されたCEA発現(≧50%の腫瘍細胞がすべての固形腫瘍に関して少なくとも中から高の強度のCEA発現で染色され、但しNSCLCに関しては≧20%の腫瘍細胞が少なくとも中から高の強度のCEA発現で染色される)又は中央に確認されたCEA発現が含まれる。
[0393] この試験の主要な目的は安全性及び忍容性であり、他にPK及び臨床活動の二次的目的(固形癌効果判定基準(RECIST)、Version 1.1の基準及び修正版RECIST基準による、客観的な全奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR;奏功率[RR]+安定病勢率[SDR])、無増悪生存(PFS)及び全生存(OS)データ)がある。
[0394] 腫瘍応答は、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン又は磁気共鳴画像法といった一次元測定を使用し、RECIST v1.1及び修正版RECIST基準に従って評価される。
結果
[0395] 2016年11月15日の時点で、30名の患者が以下の用量コホートレベルで治療されていた:
5mgのCEA TCB QW+1200のアテゾリズマブQ3W:4名の患者
10mgのCEA TCB QW+1200のアテゾリズマブQ3W:4名の患者
20mgのCEA TCB QW+1200のアテゾリズマブQ3W:4名の患者
40mgのCEA TCB QW+1200のアテゾリズマブQ3W:6名の患者
80mgのCEA TCB QW+1200のアテゾリズマブQ3W:5名の患者
160mgのCEA TCB QW+1200のアテゾリズマブQ3W:7名の患者
[0396] 併用治療は、現行の用量レベルで(最大で160mgのCEA TCB QW+1200mgのアテゾリズマブQ3W)安全で良好な耐容性を示した。治療に関連する安全事象に起因して治療を中止した患者はいなかった。
[0397] この試験のすべての患者が、4週目においてFDG PETスキャン腫瘍評価を、8週目、及びその後8週毎にCTスキャン腫瘍評価を受けた。
[0398] RECIST基準によれば、20mgのCEA TCBにより、2/4名の患者において安定病勢期間が延びた。一名の膵臓腺癌患者はこの試験に32週にわたって参加し、4週目に、FDG PETにより評価された安定代謝応答を得た。第2の患者は、MSI不安定性を有する胃食道接合部腺癌に罹患しており、本試験に30週にわたって参加した。この患者は、4週目に、FDG PET評価による部分代謝応答を得た。
[0399] RECIST基準によれば、40mgのCEA TCBにより、1/6名の患者において安定病勢期間が延び、これは本試験において20週間継続している。この患者は、結腸直腸癌患者であり、単剤療法治験(BP29541)における治療歴を有し、31周期の治療を受けた。
[0400] 80mgのCEA TCBでは、5/5名の患者が8週目のCTスキャンにより腫瘍体積の減少を示し、4週目にFDG PETスキャンにより代謝部分寛解を示した。このコホートでは、4/5名の患者が結腸直腸癌患者であり、1名ファーター膨大部癌患者であった。
[0401] 即ち、この治験においてこれまでに生成された臨床データは、20mgのCEA TCB+1200mgのアテゾリズマブで治療された2/4名の患者、40mgのCEA TCB+1200mgのアテゾリズマブで治療された1/6名の患者、及び80mgのCEA TCB+1200mgのアテゾリズマブで治療された5/5名の患者に、有望な関連する臨床抗腫瘍活性を示した。
[0402] 抗PD-1又は抗PD-L1治療に応答しない集団における80mgのCEA TCBコホートに関する上述のデータは、CEA TCBとアテゾリズマブが、それらの抗がん特性において相乗的に作用し、それらの組み合わせが集合的に、がん患者に有意義な臨床利益を提供することをサポートするものである。」
(実施例1~実施例5)
摘記1-8
「
[図:0001431502000001.jpg]
[図:0001431502000002.jpg]
」
(配列番号52)
摘記1-9
「
[図:0001431502000003.jpg]
[図:0001431502000004.jpg]
[図:0001431502000005.jpg]
[図:0001431502000006.jpg]
」
(配列番号53)
摘記1-10
「
[図:0001431502000007.jpg]
[図:0001431502000008.jpg]
[図:0001431502000009.jpg]
」
(配列番号54)
摘記1-11
「
[図:0001431502000010.jpg]
[図:0001431502000011.jpg]
」
(配列番号55)
(2)引用文献1に記載された発明(引用発明)
引用文献1には、「有効量のヒトPD-1軸結合アンタゴニスト及び抗CEA/抗CD3抗体を個体に対して投与することを含む、個体におけるがんを治療するため又はその進行を遅延させるための方法」が記載され(摘記1-1請求項1、摘記1-5)、「ヒトPD-1軸結合アンタゴニスト」を「PD-L1結合アンタゴニスト」である「MPDL3280A(アテゾリズマブ)」とすること(摘記1-1請求項15、摘記1-6)、及び「抗CEA/抗CD3二重特異性抗体」を、「配列番号52の配列を含むポリペプチド、配列番号53の配列を含むポリペプチド、配列番号54の配列を含むポリペプチド、及び配列番号55の配列を含むポリペプチドを含む」「CEA TCB」とすることについても記載されている(摘記1-3)。
そして、当該方法における具体的な用法・用量について記載した実施例5(摘記1-7)には、「局所的に進行した及び/又は転移したCEA陽性固形腫瘍を有する患者における、アテゾリズマブと組み合わせたCEA TCBの安全性、薬物動態及び治療活性を評価するための非盲検、マルチセンター、用量漸増及び拡大フェーズIB試験」と題し、「毎週(QW)(±1日)行われるCEA TCBのIV点滴と、3週ごとに投与されるアテゾリズマブ(Q3W)(±2日)の組み合わせからなる」、「21日間」の「治療周期」において、患者に、「各周期の1日目にアテゾリズマブ(1200mgの固定用量)をIV投与し、続いてCEA TCBを少なくとも一時間後に、各周期の1日目、8日目、及び15日目にIV投与」し、CEA TCBを「4名の患者」に対し「5mg」で、また、「4名の患者」に対し「10mg」で、「4名の患者」に対し「20mg」で、「6名の患者」に対し「40mg」で、「5名の患者」に対し「80mg」で、そして、「7名の患者」に対し「160mg」で「QW」にて投与したところ、「併用治療は、現行の用量レベルで(最大で160mgのCEA TCB QW+1200mgのアテゾリズマブQ3W)安全で良好な耐容性を示した」こと、及び「20mgのCEA TCB+1200mgのアテゾリズマブで治療された2/4名の患者、40mgのCEA TCB+1200mgのアテゾリズマブで治療された1/6名の患者、及び80mgのCEA TCB+1200mgのアテゾリズマブで治療された5/5名の患者に、有望な関連する臨床抗腫瘍活性を示した」ことが、試験結果の裏付けをもって記載されている。ここで、当該試験では、「CEA TCB」がそれぞれの患者群に対して一定量で投与されていることから、「CEA TCB」も「固定用量」で投与されていることは明らかである。
そうすると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「有効量のアテゾリズマブ及び抗CEA/抗CD3二重特異性抗体を個体に対して投与することを含む、個体におけるがんを治療するため又はその進行を遅延させるための方法であって、
抗CEA/抗CD3二重特異性抗体が、毎週(QW)に、20mg、40mg、80mg、又は160mgの固定用量で投与され、且つ、
アテゾリズマブが、三週ごと(Q3W)に、1200mgの固定用量で投与され、
抗CEA/抗CD3二重特異性抗体は、配列番号52の配列を含むポリペプチド、配列番号53の配列を含むポリペプチド、配列番号54の配列を含むポリペプチド、及び配列番号55の配列を含むポリペプチドを含むCEA TCBである、方法。」
2.参考文献の記載及び本願優先日当時の技術常識
(1)参考文献の記載
ア 参考文献3
当審において新たに技術常識を示す参考文献として引用する、本願優先日前に発行された「新医薬品の臨床評価に関する一般指針について」, 薬新薬第四三号, 厚生省薬務局新医薬品課長通知, 平成4年6月29日(以下「参考文献3」という。)には、以下の記載がある。
摘記3-1
「第一 段階的進め方
通常、臨床試験は第I相、第II相及び第III相と順に進めて行く。
1 第I相試験は、治験薬を初めてヒトに適用する試験で、原則として少数の健康男性志願者において、治験薬について臨床安全用量の範囲ないし最大安全量を推定することを目的とし、あわせて吸収・排泄などの薬物動態学的検討を行ない、第II相試験に進み得るか否かの判断資料を得るための試験である。
なお第I相試験は、それに先立って行われる非臨床試験の結果から、薬効、危険性、副作用の可能性などを十分に評価したうえで、医薬品としての有用性が期待できると判断された薬物についてのみ、その実施が考慮されるべきである。健康志願者における試験に引き続いて患者で行われるごく早期の試験も、第I相試験の一部と見なす考え方もある。
2 第II相試験は、適切な疾病状態にある限られた数の患者において、治験薬の有効性と安全性とを検討し、適応疾患や、用法・用量の妥当性など、第III相試験に進むための情報を収集することを目的とする試験である。第II相試験は通常、前期と後期に分けられる。
前期第II相試験では、患者を対象に安全性、有効性及び薬物動態などについて瀬踏み的に検討する。後期第II相試験では、前期に引き続き治験薬の薬効プロフィール(適応範囲)を明らかにするための探索的検討を行うとともに、用量反応(設定)試験(必要な場合にはプラセボを含める。)を行い、最小有効量及び最大安全量の範囲を検討し、臨床至適用量幅を決定する。また、第II相試験の期間に剤形と処方を決めておく必要がある。なお、製剤の剤形と処方の変更にあたっては、薬物の生物学的利用性(bioavailability)等を検討して、変更前に得られた臨床試験成績を使用することの妥当性について十分に検討する必要がある。
3 第III相試験は、比較臨床試験及び一般臨床試験により、さらに多くの臨床試験成績を収集し、対象とする適応症に対する治験薬の有効性及び安全性を精密かつ客観的に明らかにし、治験薬の適応症に対する臨床上の有用性の評価と位置づけを行うことを目的とする試験である。」
(〔別添〕新医薬品の臨床評価に関する一般指針 第1章第一)
イ 参考文献4
当審において新たに技術常識を示す参考文献として引用する、本願優先日前に発行されたClin Cancer Res, 2016, Vol.22, No.6, pp.1318-24(以下「参考文献4」という。)は、「がん領域における標的治療薬の最適投与法:模範となる医薬品開発事例」と題した学術文献であって、以下の記載がある。
摘記4-1
「腫瘍学のファースト・イン・ヒト試験の重要な目的の一つは、しばしば最大耐容量(MTD)を設定することであった。しかし、標的治療薬は、十分に活性のある用量よりもかなり高い用量では用量制限毒性(DLT)を示さない可能性があり、有害事象を客観的に定量化する能力はしばしば限られている。このように、MTDに基づく第II相推奨用量の決定により、一部の細胞毒性薬では適切な用量が得られているかもしれないが、標的治療薬(モノクローナル抗体及び/又は免疫療法を含む)では、無作為化用量範囲設定試験のための用量範囲を同定するのに役立つ代替的又は補完的な戦略が必要な場合がある。補完的な戦略の一つは、「効果マーカー」を用いて生物学的に有効な用量(BED)を定義することである。効果マーカーは、標的関与マーカー、薬力学的マーカー、又は疾患進行マーカー(固形腫瘍では腫瘍サイズの変化、一部の血液腫瘍では骨髄芽球数の変化)である。BEDの概念は広範に議論されているが、本書では、BEDのアプローチががん領域の臨床開発に影響を与えた具体的な事例をレビューする。文献と実例から抽出したデータは、患者、医療提供者、バイオ医薬品業界にとって有益な用量選択戦略の改善を支持するものである。これらの例は用量選択における効果マーカーの重要な貢献を示しているが、用量選択に対する万能のアプローチは正当化できない。最適な用量よりも高い用量は、後の臨床試験(及び臨床使用)において毒性を増加させ、(アドヒアランスの低下や毒性による直接的な後遺症を介して)有効性に悪影響を及ぼす可能性がある。がん領域における適切な用量選択は、単一の第II相用量ではなく、無作為化用量範囲試験につながる多因子的決定プロセスに従うべきである。」
(1318頁要約)
摘記4-2
「投与量の選択は、臨床開発において最も重要な(そして困難な)戦略的決定の一つであり、抗癌剤の開発において、投与量に対する画一的なアプローチを正当化することはできない。MTDに基づく投与と効果マーカーに基づく投与のどちらにも役割がある。歴史的には、様々なMTD探索法(3+3、CRM、TITE-CRM、accelerated titrationなど)から明らかなように、MTDを同定するための臨床試験デザインの開発に多くの注意が払われてきた。最適な用量を選択するための戦略が今こそ必要である。MTDに焦点を当てた臨床試験デザインに代わる合理的な方法として、第I相前試験及び第I/II相試験で得られた効果マーカーデータを用いて、無作為化用量設定第IB/II相試験で用いる(少なくとも2つの)用量を選択する方法が考えられる(図2)。」
(1321頁右欄下から4行~1322頁左欄8行)
摘記4-3
「
[図:0001431502000012.jpg]
図2.
BEDとMTDを活用し、前臨床データと臨床データの両方を活用する癌分野の統合的早期開発戦略。第II/III相では、通常標準治療群とともにさらなる用量の確認が必要となる。」
(1322頁図2)
摘記4-4
「高用量を選択すると、より長期間の後期試験で毒性が発現する可能性が高くなる。その結果、忍容性が低下し、毒性に起因する早期の投与中止(又は投与量/投与頻度の減少;参考文献11)により、有効性に悪影響を及ぼすことさえある。モノクローナル抗体の場合、高用量は商品コストを上昇させ、市場における価格設定や競争上の課題を増大させる可能性がある。また、将来の研究で低用量でも同等の有効性が示されるリスクが高まり、患者アクセスが危険にさらされる可能性もある。効果マーカーの有用性は、用量選択だけでなく、患者選択(クリゾチニブなど)や、場合によっては併用療法にも及ぶ可能性がある(39)。初期の臨床試験における投与量の最適でない決定は、後にコストのかかる決定であることを証明し、効果的な薬剤への患者のアクセスを遅らせることさえある(29)。投与量の選択を改善することは、医療とその経済性を改善することにより、患者、医療提供者、バイオ医薬品業界に利益をもたらすであろう。」
(1322頁左欄下から4行~右欄12行)
ウ 参考文献5
当審において新たに技術常識を示す参考文献として引用する、本願優先日前に発行された “A Study of the Safety, Pharmacokinetics, and Therapeutic Activity of RO6958688 in Combination With Atezolizumab in Participants With Locally Advanced and/or Metastatic Carcinoembryonic Antigen (CEA)-Positive Solid Tumors”, ClinicalTrials.gov ID NCT02650713, V18(2017-12-04)版, 2017-12-06(投稿), URL:
https://clinicaltrials.gov/study/NCT02650713?tab=history&a=18#version-content-panel(以下「参考文献5」という。)は、「局所進行性及び/又は転移性のヒトがん胎児性抗原(CEA) 陽性固形がん患者を対象とした、アテゾリズマブとの併用によるRO6958688の安全性、薬物動態、及び治療活性に関する試験 ClinicalTrials.gov ID NCT02650713」と題した臨床試験計画であって、以下の記載がある。
摘記5-1
「
[図:0001431502000013.jpg]
」
(Study Identification欄)
摘記5-2
「
[図:0001431502000014.jpg]
」
(Arms and Interventions欄)
(2)本願優先日当時の技術常識
本願優先日当時の臨床試験の実施方法に関する技術常識を示す文献として引用する参考文献3(摘記3-1)には、「臨床試験は第I相、第II相及び第III相と順に進めて行く」ものであって、「第I相試験は、」「治験薬について臨床安全用量の範囲ないし最大安全量を推定することを目的と」するものであり、「前期第II相試験では、患者を対象に安全性、有効性及び薬物動態などについて瀬踏み的に検討」し、「後期第II相試験では、」「最小有効量及び最大安全量の範囲を検討し、臨床至適用量幅を決定する」ものであることが記載されている。
また、本願優先日当時のがん領域における用法・用量選択に関する技術常識を示す文献として引用する参考文献4には、「投与量の選択は、臨床開発において最も重要な(そして困難な)戦略的決定の一つ」(摘記4-2)であって、「モノクローナル抗体の場合、高用量は商品コストを上昇させ、市場における価格設定や競争上の課題を増大させる可能性があ」り、「また、将来の研究で低用量でも同等の有効性が示されるリスクが高ま」るものであって(摘記4-4)、「最適な用量よりも高い用量は、後の臨床試験(及び臨床使用)において毒性を増加させ、(アドヒアランスの低下や毒性による直接的な後遺症を介して)有効性に悪影響を及ぼす可能性がある」(摘記4-1)こと、及び用量設定にあたっては、「フェーズIA:用量漸増」段階の試験において「安全性と忍容性の評価」を行い、「MTD(合議体註:最大耐用量を意味する)又は最大投与量(MAD)の設定」を行った後、「フェーズIB/II:BED(合議体註:生物学的に有効な用量を意味する)とMTDを用いた用量設定」段階の試験において、「MTD/MADよりも低用量で同様の有効性が期待できる用量があるかを判定する」こと(摘記4-3)が記載されている。
そうすると、本願優先日当時、がん領域における抗体医薬を含め、医薬品の臨床試験では、まず最大安全量又は最大耐用量を設定し、その後、当該最大安全量又は最大耐用量より低用量でも有効性を確認し、臨床至適用量幅を設定することは技術常識であったと認められる。
3.本願発明1と引用発明1との対比・判断
(1)本願発明1と引用発明1との対比
本願発明1と引用発明1を対比する。
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項8、及び本願明細書の発明の詳細な説明の【0003】段落によれば、本願発明1の「CEA CD3二重特異性抗体」は「CEA TCB」を包含するものであって、当該「CEA TCB(RG7802、RO6958688、シビサタマブ)は、腫瘍細胞上のCEA及びT細胞上のCD3εを標的とする新規のT細胞活性化二重特異性抗体」である。他方、引用文献1は本願と同一の出願人による特許出願の特許公開公報であって、引用文献1には、引用文献1に記載された「抗CEA/抗CD3二重特異性抗体」に、「(i)配列番号44のHVR-H1配列、配列番号45のHVR-H2配列、及び配列番号46のHVR-H3配列を含む重鎖可変領域(VHCD3);並びに配列番号47のHVR-L1配列、配列番号48のHVR-L2配列、及び配列番号49のHVR-L3配列を含む軽鎖可変領域(VLCD3)を含み、第1の抗原結合部分が、Fab軽鎖の可変領域又は定常領域、特に定常領域と、Fab重鎖の可変領域又は定常領域、特に定常領域とが交換されているクロスオーバーFab分子である、CD3に結合する第1の抗原結合ドメイン;(ii)配列番号38のHVR-H1配列、配列番号39のHVR-H2配列、及び配列番号40のHVR-H3配列を含む重鎖可変領域(VHCEA);並びに配列番号41のHVR-L1配列、配列番号42のHVR-L2配列、及び配列番号43のHVR-L3配列を含む軽鎖可変領域(VLCEA)を含み、第2及び第3の抗原結合部分の各々がFab分子、特に従来のFab分子である、CEAに結合する第2及び第3の抗原結合ドメイン;(iii)安定に会合できる第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインを含み、第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合しており、第1の抗原結合ドメインがFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3の抗原結合ドメインがFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している」(摘記1-5;)ものが包含されることが記載されたうえで、このうち引用発明1の「CEA TCB」が「腫瘍細胞上のがん胎児性抗原(CEA)及びT細胞上のCD3を標的とする新規のT細胞二重特異性抗体」(摘記1-7)であって、そのアミノ酸配列の部分配列が、配列番号52及び53、並びに配列番号54及び55(摘記1-3、1-8、1-9、1-10、1-11参照)であることが記載され、これらの部分配列は、それぞれ本願発明1の配列番号1~6、及び配列番号9~14により特定されるアミノ酸配列を含むものである。そして、引用文献1記載の上記配列番号44~49と配列番号38~43により特定されるアミノ酸配列は、それぞれ本願発明1の配列番号1~6、及び配列番号9~14により特定されるアミノ酸配列と同一である。そうすると、引用発明1の「抗CEA/抗CD3二重特異性抗体」である「CEA TCB」は、その出願人、アミノ酸配列により特定される構造、抗腫瘍活性という特性、及び名称からして、本願発明1の「CEA CD3二重特異性抗体」である、「(i)CD3に特異的に結合する第1の抗原結合部分であって、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域を含み、第1の抗原結合部分は、Fab軽鎖とFab重鎖の可変領域又は定常領域、特に定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分;(ii)CEAに特異的に結合する第2及び第3の抗原結合部分であって、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域を含み、第2及び第3の抗原結合部分の各々がFab分子、特に従来のFab分子である、第2及び第3の抗原結合部分;
(iii)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインを含み、第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している」抗体に相当するものといえる。
また、引用発明1の「抗CEA/抗CD3二重特異性抗体が、毎週(QW)に、20mg、40mg、80mg、又は160mgの固定用量で投与され」は、本願発明1の「CEA CD3二重特異性抗体が、三週毎(Q3W)に、約100mgの固定用量で投与され」と、「CEA CD3二重特異性抗体が、固定用量で投与され」る点において、共通するものである。
そして、引用発明1の「個体におけるがんを治療するため又はその進行を遅延させるための方法」において「抗CEA/抗CD3二重特異性抗体」を「アテゾリズマブ」と組み合わせていることは明らかであって、「アテゾリズマブ」や「抗CEA/抗CD3二重特異性抗体」は、投与にあたり溶媒等とともに医薬の形態とされていることは、当業者に自明である。
そうすると、本願発明1と引用発明1との一致点、相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「 CEA CD3二重特異性抗体を含む、アテゾリズマブと組み合わせてがんを治療するための医薬であって、
CEA CD3二重特異性抗体が、固定用量で投与され、且つ、
アテゾリズマブが、三週毎(Q3W)に、約1200mgの固定用量で投与され、
CEA CD3二重特異性抗体は、
(i)CD3に特異的に結合する第1の抗原結合部分であって、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域を含み、第1の抗原結合部分は、Fab軽鎖とFab重鎖の可変領域又は定常領域、特に定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分;
(ii)CEAに特異的に結合する第2及び第3の抗原結合部分であって、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域を含み、第2及び第3の抗原結合部分の各々がFab分子、特に従来のFab分子である、第2及び第3の抗原結合部分;
(iii)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメイン
を含み、
第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している、医薬。」
<相違点1>
CEA CD3二重特異性抗体の用法・用量について、本願発明1では「三週毎(Q3W)に、約100mg」であることが特定されているのに対し、引用発明1では「毎週(QW)に、20mg、40mg、80mg、又は160mg」である点。
(2)判断
ア 相違点1について
(ア) 本願優先日当時、がん領域における抗体医薬を含め、医薬品の臨床試験では、まず最大安全量又は最大耐用量を設定し、その後、当該最大安全量又は最大耐用量より低用量でも有効性を確認し、臨床至適用量幅を設定することは技術常識であった(必要なら、上記2.(2)参照)。
(イ) 上記1.(1)の引用文献1の記載によれば、引用文献1には、「PD-L1シグナル伝達の阻害は、がん並びに急性及び慢性(例えば持続性)感染を含む感染の治療のためのT細胞免疫(例えば腫瘍免疫)を向上させる手段として提示され」、「免疫療法、特に免疫チェックポイント阻害剤ががん患者の全生存期間を延ばし、持続的応答をもたらすことが示された」ものの、「現行の免疫に基づく治療法は患者の一部にしか効果がな」いことから、「患者の様々ながんを治療、安定化、予防するため、及び/又はその進行を遅延させるための最適な治療法が依然として必要とされている」との技術背景のもと(摘記1-2)、「CEA T細胞二重特異性抗体及び抗PD-L1免疫療法が、その抗がん特性において相乗的に作用し、それらの組み合わせががん患者に有意な臨床効果をもたらしうることを実証した」ことから(摘記1-4)、「有効量のヒトPD-1軸結合アンタゴニスト及び抗CEA/抗CD3抗体を個体に対して投与することを含む、個体におけるがんを治療するため又はその進行を遅延させるための方法が提供される」と記載されている(摘記1-5)。
そして、抗CEA/抗CD3二重特異性抗体であるCEA TCBの用法・用量に関し、摘記1-6で示したように、「一般命題として、ヒトに投与される抗CEA/抗CD3二重特異性抗体(例えば、CEA TCB)の治療的有効量は、投与回数が一回か複数回かを問わず、約5から約400mg(例えば、約5mg、・・・、約100mg、・・・、又は約400mg)の範囲であろう」、及び「抗CEA/抗CD3二重特異性抗体(例えば、CEA TCB)は、毎週、2週毎に、3週毎に、4週毎に・・・、投与される」と、さまざまな用法・用量を採り得る旨が記載されたうえで、実施例5において、20mg、40mg、80mg、又は160mg・毎週(QW)の固定用量のCEA TCBを、1200mg・三週毎(Q3W)の固定用量のアテゾリズマブと組み合わせた場合に、最大用量の160mg投与において「安全で良好な耐容性を示し」、20mg投与においても「臨床抗腫瘍活性を示した」ことが記載されている(摘記1-7)。
(ウ) そうすると、上記(ア)に記載の技術常識を熟知した当業者であれば、引用文献1記載される上記(イ)の記載から、同文献の実施例5に記載された「アテゾリズマブと組み合わせたCEA TCBの安全性、薬物動態及び治療活性を評価するための」「フェーズIB試験」における用法・用量は、CEA TCBの臨床上有効な抗腫瘍活性が得られ、かつ安全な用法・用量を示すものであることを自然に認識するといえる。そして、毒性の高いがんの治療薬の分野においてはとりわけ、「最適な用量よりも高い用量は、後の臨床試験(及び臨床使用)において毒性を増加させ、(アドヒアランスの低下や毒性による直接的な後遺症を介して)有効性に悪影響を及ぼす可能性がある」(摘記4-1)ことを踏まえれば、なおのこと、引用文献1に開示された用法・用量の範囲内で、より長い投与間隔で、より低い用量におけるCEA TCBの有効性を希求することは、当業者にとり当然に動機付けられたものといえ、このことは、本願優先日前の臨床試験計画状況を示す文献として引用する参考文献5の摘記5-1及び5-2に示されるように、CEA TCBに相当するRO6958688が、1200mg・Q3Wのアテゾリズマブとの併用において、週1回(QW)投与だけでなく、3週毎(Q3W)での投与が計画されていたこととも符合するものである。
したがって、引用発明1において、CEA TCBの採り得る投与間隔としてのQ3Wや、投与量としての100mgを含め、さまざまな用法・用量が開示された引用文献1を踏まえつつ、安全性及び臨床的抗腫瘍活性が実際に確認された最大の固定用量である160mg・QWを起点として、より長い投与間隔及びより低用量における安全性及び臨床的抗腫瘍活性を試験・確認し、相違点1に係る構成に至ることは当業者が容易に想到し得たことである。
イ 効果について
本願明細書の発明の詳細な説明では、実施例1において、アテゾリズマブと組み合わせたCEA-TCB(RG7802、RO6958688)の非盲検、多施設、用量漸増及び拡大フェーズIb臨床試験として、局所的に進行した及び/又は転移したCEA陽性固形腫瘍を有する患者に、三週毎に(Q3W)1200mgの固定用量のアテゾリズマブと組み合わせて、CEA TCBを、一週毎に(QW)又は三週毎に(Q3W)100mgの固定用量で投与したところ、「利用可能な有効性、安全性及びPKデータに基づいて、100mg Q3Wの固定用量がさらなる研究のために選択された」こと、「固定用量のレジメンは、40mgの用量から開始し1200mgの用量まで上昇する漸増用量投与計画と比較して、より好ましいベネフィット・リスクプロファイルを有するようである」こと、「アテゾリズマブと組み合わせたCEA TCBは、QW又はQ3Wのいずれかで投与された100mgの固定用量で、概して管理可能なセーフティープロファイルを示した」こと、及び「これらの投与計画のセーフティープロファイル及び臨床的有効性は同等であったが、100mg Q3Wのスケジュールは、低頻度の投与による、より簡便な(conventient)手法を表し、QWと比較してCEA TCB投与間のより長い回復期間を可能にする」ことが記載されている。
そこで、まず、漸増用量レジメンと比較した固定用量のレジメンの効果について検討すると、実施例1には、上記のとおり「より好ましいベネフィット・リスクプロファイルを有するようである」旨がわずかに記載されるにとどまり、なんら具体的な試験結果は示されておらず、かかる記載から、漸増用量レジメンが適用されたコホートB1、B2、C1、C2及びC3と比較して、固定用量のレジメンが適用されたコホートAが、臨床的有効性あるいは安全性において特に優れた効果を奏すると認めることはできない。
そして、引用文献1には、1200mg・QWのアテゾリズマブと組み合わせた、固定用量での160mg・QWのCEA TCBが、当該レジメンが適用された7名の患者において、抗腫瘍活性を示しつつ、安全で良好な耐用性を示したことが記載されているのであるから、160mg・QWより低い用量の100mg・Q3Wにおいて、安全なプロフィールが確認されること、すなわち「好ましいベネフィット・リスクプロファイル」を有することは、引用文献1から当業者が予測し得ることである。
次に、100mg Q3Wのスケジュールが、より簡便で、QWと比較してCEA TCB投与間のより長い回復期間を可能にするという効果についてみると、低頻度とすることで、投与負担が減少し、投与の管理等が簡便となることは明らかであるし、早期投与中止のリスクが低減されることで(摘記4-4)、長期投与により回復期間を長くすることが可能となることも、引用文献1の記載及び本願優先日当時の技術常識から当業者が十分予測し得ることである。
したがって、本願発明1の構成により奏される効果が、引用文献1に記載された事項及び本願優先日当時の技術常識から当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するとは認められない。
ウ 請求人の主張について
請求人は令和5年11月15日提出の手続補正書(方式)により補正された審判請求書において、「引用文献は、いずれも、開示されている投与レジメンを、本願請求項にかかる(すなわち、三週毎(Q3W)にCEA CD3二重特異性抗体の100mg固定用量を用いる)投与レジメンに変更するような動機づけを与えないと思料する。事実、むしろその逆で、当業者であれば、サイトカイン放出症候群(CRS、T細胞が関与する二重特異性抗体の一般的かつ重篤な副作用)のリスクを軽減し、かつ開発中または市販されているT細胞結合二重特異性抗体の大部分(ブリナツモマブ、モスネツズマブ、グロフィタマブ、エプコリタマブなどを含む)に適用される戦略であるステップアップ投与計画を検討したであろうと思料する。さらに、本願明細書の例えば本願実施例は、本願請求項にかかる発明が引用文献1または2に記載の発明に照らし、優れた効果を有することを実証すると思料する。」と主張している。
しかしながら、引用文献1の記載及び本願優先日当時の技術常識を踏まえれば、当業者が、引用発明1において、より低用量でCEA TCBの有効性を確認しようと動機付けられることは、前記アで説示したとおりであるし、引用文献1の実施例5において、すでに160mg・QWの固定用量において安全性が確認されていることを踏まえれば、少なくともアテゾリズマブと組み合わせたCEA TCBについては、当該用量より低用量・低頻度の固定用量も安全であることを期待できるのだから、相違点1に係る用法・用量を選択することが阻害されるとは認められない。また、本願実施例に記載され効果が、引用文献1及び技術常識から当業者が予測し得るものであることは、前記イで説示したとおりである。
したがって、請求人の主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-016560