審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2023-015380

低速早期点火を低減するための方法

審判番号
2023-015380
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-520731
請求日
2023年09月12日
審決日
2025年09月30日
公報発行日
2026年03月27日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
  • 【請求人代理人】山本 修
  • 【請求人代理人】宮前 徹
  • 【請求人代理人】新井 規之
審判長/審判官
  • 審判長 八木 誠
  • 審判官 遠藤 秀明
  • 審判官 中尾 麗
分類
P18 .121-Z (C10L) / P18 .575-Z (C10L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-520731「低速早期点火を低減するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月25日国際公開、WO2019/079246、令和 3年 1月 7日国内公表、特表2021-500427〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2018年(平成30年)10月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2017年10月18日、アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特許出願であって、令和4年7月28日付けで拒絶理由を通知し(発送日:令和4年8月1日)、令和5年2月1日に意見書が提出されるとともに誤訳訂正がされ、同年2月3日に上申書が提出されたが、同年5月2日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ(発送日:同年5月12日)、これに対して、同年9月12日に本件拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされた。 第2 令和5年9月12日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和5年9月12日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所を示す。)。 「火花点火内燃エンジンにおける低速早期点火(LSPI)の発生を低減するための無鉛ガソリン燃料組成物の使用であって、前記火花点火内燃エンジンがターボ過給エンジンであり、前記無鉛ガソリン燃料組成物が、ガソリンベース燃料および洗浄添加剤パッケージを含み、前記洗浄添加剤パッケージが、マンニッヒ塩基洗浄剤混合物を含み、前記混合物が、ジ-またはポリアミンに由来する第1のマンニッヒ塩基洗浄剤成分およびモノアミンに由来する第2のマンニッヒ塩基洗浄剤成分を含み、前記第1のマンニッヒ塩基洗浄剤と前記第2のマンニッヒ塩基洗浄剤との重量比が、1:6~3:1の範囲であり、前記火花点火内燃エンジンが、総潤滑剤組成物に基づいて、1200ppmw~3000ppmwのカルシウムを含む潤滑剤組成物で潤滑される、使用。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載 本件補正前の、令和5年2月1日の誤訳訂正による特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「火花点火内燃エンジンにおける低速早期点火(LSPI)の発生を低減するための無鉛ガソリン燃料組成物の使用であって、前記無鉛ガソリン燃料組成物が、ガソリンベース燃料および洗浄添加剤パッケージを含み、前記洗浄添加剤パッケージが、マンニッヒ塩基洗浄剤混合物を含み、前記混合物が、ジ-またはポリアミンに由来する第1のマンニッヒ塩基洗浄剤成分およびモノアミンに由来する第2のマンニッヒ塩基洗浄剤成分を含み、前記第1のマンニッヒ塩基洗浄剤と前記第2のマンニッヒ塩基洗浄剤との重量比が、1:6~3:1の範囲であり、前記火花点火内燃エンジンが、総潤滑剤組成物に基づいて、1200ppmw~3000ppmwのカルシウムを含む潤滑剤組成物で潤滑される、使用。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「火花点火内燃エンジン」について、「前記火花点火内燃エンジンがターボ過給エンジンであり、」との記載に限定したものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項、引用発明 ア 引用文献1 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特表2016-540849号公報(公表日:平成28年12月28日、以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。 (ア)記載事項 a「【特許請求の範囲】 【請求項1】 無鉛ガソリン燃料用洗浄剤添加剤パッケージであって、マンニッヒ塩基洗浄剤混合物を含有して成っていて、前記混合物がジ-もしくはポリアミンに由来する1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤成分およびモノアミンに由来する2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤成分を含有して成りかつ前記混合物中の前記1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤と前記2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤の重量比が約1:6から約3:1の範囲である洗浄剤添加剤パッケージ。 ・・・ 【請求項5】 添加剤濃縮液であって、請求項1記載の洗浄剤添加剤パッケージを含有しかつ更にヒドロカルビルアミドおよびヒドロカルビルイミドから成る群より選択される抗摩耗成分も含有して成る添加剤濃縮液。 【請求項6】 無鉛ガソリン燃料組成物であって、請求項5記載の添加剤濃縮液を重量で表して約40から約2000ppm含有して成る無鉛ガソリン燃料組成物。 【請求項7】 無鉛ガソリン燃料組成物であって、請求項5記載の添加剤濃縮液を重量で表して約200から約400ppm含有して成る無鉛ガソリン燃料組成物。」 b「【技術分野】 【0001】 本発明は、火花点火燃料組成物、燃料添加剤組成物、および制御方法、即ち火花点火内燃機関における燃料噴射装置の沈着物を減少または除去しかつ抗摩耗性能を改善する方法に関する。より詳細には、本発明は、火花点火燃料および燃料用混合洗浄剤添加剤組成物を含有して成る燃料組成物および前記燃料組成物を直接噴射式ガソリン(DIG)エンジンで用いることに関する。」 c「【背景技術】 【0002】 火花点火内燃機関の燃料導入システムにおける沈着物生成を制御(防止または減少)するための添加剤に向けた研究が長年に渡ってかなり成されてきた。特に、燃料噴射装置の沈着物、吸気弁の沈着物および燃焼室の沈着物を有効に制御し得る添加剤が本分野でかなり行われてきた研究活動の中心に相当するが、そのような努力にも拘わらず、特に燃料経済性およびエンジンの摩耗を改良するためのエンジン技術におけるさらなる進展を考慮してさらなる改善が望まれている。 ・・・ 【0007】 前記に加えて、現世代のDIGエンジン技術は沈着物問題を被っている。特に懸念の持たれる領域は、燃料レール、噴射装置、燃焼室(CCD)、クランクケーススートローディングス(crankcase soot loadings)および吸気弁(IVD)である。吸気マニホルド内の沈着物はPCV弁および排気再循環を経由して入ってくる。吸気弁の後方を湿らす液体燃料は存在しないことから、そのような沈着物は極めて急速に蓄積し、それを除去しない限り、燃料経済性が経時的に低下してしまう可能性がある。」 d「【0009】 前記を鑑み、本開示の様々な態様では、火花点火内燃機関用燃料組成物、火花点火エンジン用燃料添加剤パッケージ、火花点火エンジン作動方法および吸気弁沈着物を減少させるか或は火花点火エンジンにおける抗摩耗性能を向上させる方法を提供する。本添加剤パッケージにジ-もしくはポリアミンに由来する1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤成分およびモノアミンに由来する2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤成分で構成させたマンニッヒ塩基洗浄剤混合物を含有させる。前記混合物に入れる前記1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤と前記2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤の重量比を約1:6から約3:1、例えば1:4から2:1または1:3から1:1の範囲にする。 【0010】 本開示の1つの態様では、火花点火エンジン用の燃料添加剤パッケージを提供し、これには、(a)ジ-もしくはポリアミンに由来する1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤成分、(b)モノアミンに由来する2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤成分、(c)抗摩耗成分および(d)場合により、ポリエーテルモノオールおよびポリエーテルポリオールから成る群より選択した担体流体成分を含有させる。前記燃料添加剤パッケージに入れる前記1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤と前記2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤の重量比を約1:6から約3:1、例えば1:4から2:1または1:3から1:1の範囲にする。 【0011】 本開示の別の態様では、火花点火エンジンを無鉛燃料組成物で作動させる方法を提供する。この方法は、前記エンジンに(a)ガソリン燃料、(b)ジ-もしくはポリアミンに由来する1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤、(c)モノアミンに由来する2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤、(d)抗摩耗成分および(e)場合により、スクシニミド洗浄剤を含有させた燃料成分を供給することを包含する。前記燃料に入れる(b)と(c)の重量比を約1:6から約3:1、例えば1:4から2:1または1:3から1:1の範囲にする。前記燃料組成物を前記エンジンに導入してそれを燃焼させそして前記エンジンを前記燃料で作動させる。 【0012】 本開示の更に別の態様では、火花点火エンジン用無鉛燃料組成物を提供する。この燃料組成物に(a)優勢量(major amount)のガソリン燃料、(b)ジ-もしくはポリアミンに由来する劣勢量(minor amount)の1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤、(c)ジ-アルキルモノアミンに由来する劣勢量の2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤、(d)ヒドロカルビルアミドおよびヒドロカルビルイミドから成る群より選択した抗摩耗成分および(f)ポリエーテル担体流体を含有させる。前記燃料組成物に入れる前記1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤と前記2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤の重量比が1:6から約3:1、例えば1:4から2:1または1:3から1:1の範囲にする。 【0013】 本開示の別の態様は、火花点火エンジンにおける吸気弁沈着物の減少または抗摩耗性能の改善の少なくとも一方を改良する方法である。この方法は、(a)エタノールを含有する優勢量のガソリン燃料、(b)ジ-もしくはポリアミンに由来する劣勢量の1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤、(c)ジ-アルキルモノアミンに由来する劣勢量の2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤、(d)ヒドロカルビルアミドおよびヒドロカルビルイミドから成る群より選択した抗摩耗成分および(e)C6-C20アルキルフェノールプロポキシレートを含有して成るポリエーテル担体流体を含有させた燃料組成物を供給することを包含する。前記燃料組成物に入れる前記1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤と前記2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤の重量比を1:6から約3:1、例えば1:4から2:1または1:3から1:1の範囲にする。前記燃料組成物を前記エンジンに供給して前記エンジン内で燃焼させる。 【0014】 従って、本開示の態様のマンニッヒ塩基洗浄剤は、以下により詳細に説明する如き少なくとも2種類の異なるマンニッヒ塩基洗浄剤を含有する。この開示する態様の利点には、これらに限定するものでないが、燃料噴射装置性能の改善、エンジン沈着物の減少、エンジン内の可動部分の抗摩耗性能の改善、燃料経済性の改善、吸気弁沈着物の減少、燃料噴射装置沈着物の減少および/または火花点火エンジン、特にDIGエンジンにおける煤生成の減少および燃料詰まりの減少の中の1つ以上が含まれ得る。以下に示す本開示の態様の詳細な説明からさらなる利益および利点が明らかになるであろう。 e「【0090】 基礎燃料 開示する態様の燃料組成物を配合する時に用いる基礎燃料には、火花点火内燃機関の作動で用いるに適した如何なる基礎燃料も含まれ、例えば鉛含有または無鉛モーターおよび航空機用ガソリンおよびいわゆる改質ガソリン[これには典型的にガソリン沸騰範囲の炭化水素と燃料に可溶な酸素化混合剤(「含酸素添加剤」)、例えばアルコール、エーテルおよび他の適切な酸素含有有機化合物などの両方が入っている]などが含まれる。例えば、当該燃料にガソリン沸騰範囲で沸騰する炭化水素の混合物を含有させてもよい。そのような燃料は直鎖もしくは分枝鎖パラフィン、シクロパラフィン、オレフィン、芳香族炭化水素またはそれらの任意混合物で構成されていてもよい。直留ナフサ、重合体ガソリン、天然ガソリンまたは触媒による改質を受けさせたストック(約27から約230℃の範囲で沸騰)からガソリンを生じさせることができる。そのようなガソリンのオクタンレベルは重要でなく、本開示の態様では通常の如何なるガソリンも使用可能である。 f「【0095】 ガソリン基礎燃料またはガソリン沸騰範囲の炭化水素混合物が本発明の態様の燃料組成物の中のある比率を占める。本明細書では用語「優勢量」(major amount)を用いる、と言うのは、ガソリン沸騰範囲の炭化水素の量がしばしば約50重量もしくは体積パーセント以上であるからである。そのようなガソリン基礎燃料をガソリン組成物中に約15%(体積/体積)以上、より好適には約50%(体積/体積)以上の量で存在させてもよい。1つの態様では、その濃度を約15%(体積/体積)以下または約49%(体積/体積)以下にしてもよい。別の態様では、その濃度を約60%(体積/体積)以下、約65%(体積/体積)以下、約70%(体積/体積)以下、約80%(体積/体積)以下または約90%(体積/体積)以下にさえしてもよい。」 (イ)認定事項 a 記載事項cの【0002】、【0007】、記載事項dの【0014】の記載からみて、引用文献1が「燃料噴射装置の沈着物、燃焼室沈着物、吸気弁沈着物、すなわちエンジン内部の沈着物の減少」を意図するものであることが理解できる。 b 記載事項aの【請求項5】には「添加剤濃縮液」が「請求項1記載の洗浄剤添加剤パッケージを含有」することが記載され、さらに記載事項aの【請求項6】、【請求項7】には、「無鉛ガソリン燃料組成物」が「請求項5記載の添加剤濃縮液を含有すること」が記載されているから、「燃料組成物が無鉛ガソリン燃料組成物であること」及び「無鉛ガソリン燃料組成物が無鉛ガソリン燃料用洗浄剤添加剤パッケージを含むこと」が理解できる。 c 記載事項e、記載事項fから「ガソリン基礎燃料を使用していること」が理解できる。 (ウ)引用発明 そうすると、上記(ア)、(イ)からみて、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「火花点火内燃機関におけるエンジン内部の沈着物を減少または除去しかつ抗摩耗性能を改善する方法に関し、火花点火燃料および燃料用混合洗浄剤添加剤組成物を含有して成る燃料組成物および前記燃料組成物を直接噴射式ガソリン(DIG)エンジンで用いる方法であって、 前記燃料組成物は無鉛ガソリン燃料組成物であって、ガソリン基礎燃料を使用し、無鉛ガソリン燃料用洗浄剤添加剤パッケージを含み、 無鉛ガソリン燃料用洗浄剤添加剤パッケージが、マンニッヒ塩基洗浄剤混合物を含有して成っていて、前記混合物がジ-もしくはポリアミンに由来する1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤成分およびモノアミンに由来する2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤成分を含有して成りかつ前記混合物中の前記1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤と前記2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤の重量比が約1:6から約3:1の範囲である、 前記燃料組成物を直接噴射式ガソリン(DIG)エンジンで用いる方法。」 イ 引用文献2 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特表2016-534216号公報(公表日:平成28年11月4日、以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。 (ア)記載事項 a「【請求項1】 火花点火式直噴式内燃機関における低速プレイグニッション事象を低減させる方法であって、該内燃機関に潤滑粘度の基油と過塩基性金属清浄剤とを含む潤滑剤組成物を供給することを含む方法。 【請求項2】 前記内燃機関を正味平均有効圧力(BMEP)が10バールまたはそれより大きい負荷の下で運転する、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記内燃機関を3、000rpmまたはそれより遅い速度で運転する、請求項1に記載の方法。 【請求項4】 前記内燃機関に、液状炭化水素燃料、液状非炭化水素燃料またはその混合物が燃料供給される、請求項1に記載の方法。 【請求項5】 前記内燃機関が、天然ガス、液化石油ガス(LPG)、圧縮天然ガス(CNG)またはその混合物によって燃料供給される、請求項4に記載の方法。 ・・・ 【請求項18】 低速プレイグニッション事象が100、000回の燃焼事象あたり20回未満のLSPI事象まで低減される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。」 b「【背景技術】 【0001】 発明の背景開示した技術は内燃機関用の潤滑剤、特に火花点火式直噴エンジン用の潤滑剤に関する。」 c「【0006】 つい最近、車両製造業者により、ターボチャージ式ガソリンエンジンの製造において、特に低速で中負荷から高負荷時に断続的な異常燃焼が観察された。より詳しくは、エンジンを3、000rpmまたはそれより遅い速度および正味平均有効圧力(BMEP)が10バールまたはそれより大きい負荷の下で運転させた場合、低速プレイグニッション(LSPI)と称され得る状態が非常にランダムで確率論的な様式で発生し得る。 【0007】 開示した技術により、直噴エンジンにおけるLSPI事象を、過塩基性金属清浄剤を含む潤滑剤を伴って該エンジンを運転させることにより低減、抑止またはさらには解消するための方法を提供する。」 d「【0009】 本発明により、火花点火式直噴式内燃機関における低速プレイグニッション事象を低減させる方法であって、該内燃機関に潤滑粘度の基油と過塩基性金属清浄剤とを含む潤滑剤組成物を供給することを含む方法を提供する。 【0010】 本発明によりさらに、該内燃機関を正味平均有効圧力(BMEP)が10バールまたはそれより大きい負荷の下で運転する、本明細書に記載の方法を提供する。 【0011】 本発明によりさらに、該内燃機関を3、000rpmまたはそれより遅い速度で運転する、本明細書に記載の方法を提供する。 【0012】 本発明によりさらに、該内燃機関に、液状炭化水素燃料、液状非炭化水素燃料またはその混合物が燃料供給される、本明細書に記載の方法を提供する。 【0013】 本発明によりさらに、該内燃機関が、天然ガス、液化石油ガス(LPG)、圧縮天然ガス(CNG)またはその混合物によって燃料供給される、本明細書に記載の方法を提供する。」 e「【0026】 本発明によりさらに、低速プレイグニッション事象が100、000回の燃焼事象あたり20回未満のLSPI事象まで低減される、本明細書に記載の方法を提供する。」 f「【0028】 上記のように、エンジンを3、000rpmまたはそれより遅い速度および正味平均有効圧力(BMEP)が10バールまたはそれより大きい負荷の下で運転させた場合、エンジン内で低速プレイグニッション(LSPI)事象が発生し得る。LSPI事象は、1回またはそれより多くのLSPI燃焼サイクルからなるものであり得、一般的には連続様式または合間に正常な燃焼サイクルを伴う交互様式で発生する多数回のLSPI燃焼サイクルからなる。特定の理論に拘束されないが、LSPIは、例えば、ピストンのトップランドクレビス容積内またはピストンリング-ランドとリング-グルーブクレビスに蓄積され得る油滴(1滴もしくは複数)または油-燃料混合物の滴(1滴もしくは複数)またはその組合せの燃焼に起因し得る。潤滑剤は、異常なピストンリング動作のため該油の下方のコントロールリングからピストントップランド領域に移動することがあり得る。低速、高負荷条件では、シリンダー内圧の力学(圧縮圧力および燃焼圧)は低負荷においてシリンダー内圧と、特に、燃焼位相と高いブースト圧およびピーク圧縮圧力(これはリング運動の力学に影響を及ぼし得る)との強い関連性のため、かなり異なり得る。 【0029】 前述の負荷の際、LSPIは、その後にデトネーションおよび/または深刻なエンジンノックが付随して起こる場合があり得、すぐに(多くの場合、1~5エンジンサイクル以内に)エンジンに深刻なダメージを引き起こし得る。エンジンノックは、点火装置による正常な火花がもたらされた後、複数火炎が存在し得ることを考慮すると、LSPIを伴って起こり得る。本発明の目的は、過塩基性金属清浄剤を含む潤滑剤をエンジンに供給することを含む、LSPI事象を抑止するまたは低減させるための方法を提供することである。」 g「【0031】 LSPI事象は、比較的珍しいが、本質的に破滅的であり得る。したがって、直接燃料噴射エンジンの通常運転中または持続運転中のLSPI事象の劇的な低減またはさらには排除が望ましい。一実施形態において、本発明の方法は、100、000回の燃焼事象あたりにみられるLSPI事象が20回未満または100、000回の燃焼事象あたりにみられるLSPI事象が10回未満であるようなものである。一実施形態では、100、000回の燃焼事象あたりにみられるLSPI事象が5回未満、100、000回の燃焼事象あたりにみられるLSPI事象が3回未満であり得;または100、000回の燃焼事象あたりにみられるLSPI事象が0であり得る。」 h「【0043】 本発明の燃料添加剤組成物および燃料組成物に存在させ得る性能添加物としてはまた、ジカルボン酸(酒石酸など)および/またはトリカルボン酸(クエン酸など)をアミンおよび/またはアルコールと、任意選択で既知のエステル化触媒の存在下で反応させることにより調製されるジ-エステル、ジ-アミド、エステル-アミドおよびエステル-イミド摩擦調整剤も挙げられる。」 i「【0056】 過塩基性金属清浄剤過塩基性金属清浄剤(あるいは過塩基性清浄剤、金属含有過塩基性清浄剤または超塩基化塩とも称する)は、該金属および該金属と反応させた特定の酸性有機化合物、すなわち基質の化学量論に従って中和に必要であり得る量よりも過剰の金属含有量を特徴とするものである。過塩基性清浄剤は、非含硫フェネート、含硫フェネート、スルホネート、サリシレートおよびその混合物のうちの1種類またはそれより多くを含むものであり得る。」 j「【0060】過塩基性金属含有清浄剤はアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩であり得る。一実施形態において、該過塩基性清浄剤は、フェネート、含硫フェネート、スルホネート、サリキサレートおよびサリシレートのナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩またはその混合物であり得る。一実施形態では、該過塩基性清浄剤はカルシウム清浄剤、マグネシウム清浄剤またはその混合物である。一実施形態では、過塩基性カルシウム清浄剤は、潤滑組成物に対して少なくとも500ppmのカルシウム(重量基準)かつ3000ppmより多くないカルシウム(重量基準)、または少なくとも1000ppmのカルシウム(重量基準)、または少なくとも2000ppmのカルシウム(重量基準)、または2500ppmより多くないカルシウム(重量基準)が送達される量で存在させ得る。」 k「【0105】 潤滑組成物潤滑粘度のグループIIの基油で一連の5W-20エンジン潤滑剤を、上記の添加剤ならびに慣用的な添加剤、例えば高分子粘度調整剤、無灰スクシンイミド分散剤、過塩基性清浄剤、酸化防止剤(フェノール系エステルとジアリールアミンの組合せ)、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)、ならびに以下(表1)のとおりの他の性能添加物を含有させて調製する。また、一部において、各実施例がこれらの物質を同様の量で有し、したがって比較例と本発明の実施例の適正な比較がなされていることを示すために、各実施例のリン含有量、硫黄分含有量および灰分含有量も表中に示す。 【表1】 省略 【表2】(一部を抜粋して表示) [図:0001432361000001.jpg] 【0106】 試験低速プレイグニッション事象を2種類のエンジン、Ford 2.0L EcoboostエンジンとGM 2.0L Ecotecにおいて測定する。これらのエンジンはどちらもターボチャージ式ガソリン直噴(GDI)エンジンである。Ford Ecoboostエンジンは2段階で運転させる。第1段階では、エンジンを1500rpmおよび14.4バールの正味平均有効圧力(BMEP)で運転させる。第2段階中は、エンジンを1750rpmおよび17.0バールのBMEPで運転させる。各段階でエンジンを25、000回の燃焼サイクルで実験し、LSPI事象をカウントする。 【0107】 GM Ecotecエンジンは100℃の油だめの温度において、2000rpmおよび22.0バールのBMEPで運転する。この試験は、9相の15、000回の燃焼サイクルからなり、各相間に休止期間を設ける。したがって、燃焼事象を135、000回にわたる燃焼サイクルにおいてカウントする。 【0108】 LSPI事象は、シリンダー内のチャージ燃料のピークシリンダー圧(PP)と質量燃焼割合(MFB)をモニタリングすることにより測定する。両方の基準がみたされたとき、LSPI事象が発生したと判定する。ピークシリンダー圧の閾値は典型的には9、000~10、000kPaである。MFBの閾値は典型的には、チャージ燃料の少なくとも2%が遅れて、すなわち上死点後(ATDC)5.5度のときに燃焼するようなものである。LSPI事象は、100、000回の燃焼サイクルあたりの事象数、1サイクルあたりの事象数および/または事象1回あたりの燃焼サイクル数として報告され得る。 【表4】(一部を抜粋して表示) [図:0001432361000002.jpg] 」 (イ)認定事項 a 【0105】において、表2(潤滑油組成物の配合5W-30)では、本発明の実施例8、9、10のカルシウムがそれぞれ2500ppmw、2500ppmw、2100ppmwとなっている。 b 【0106】において、低速プレイグニッション(LSPI)事象の試験をターボチャージ式ガソリン直噴(GDI)エンジンにて測定し、上記実施例8、9、10では100、000サイクルあたりのLSPI事象数は、12.6、8.1、4.4となっている(いずれも20回未満である)。 (ウ)引用文献2に記載された事項 上記(ア)、(イ)からみて、引用文献2には、以下の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されていると認められる。 「火花点火式直噴式内燃機関における低速プレイグニッション(LSPI)事象を低減させる方法であって、該内燃機関に潤滑粘度の基油と過塩基性金属清浄剤とを含む潤滑剤組成物を供給することを含み、該内燃機関に液状炭化水素燃料、液状非炭化水素燃料またはその混合物、又は、天然ガス、液化石油ガス(LPG)、圧縮天然ガス(CNG)またはその混合物等の燃料を燃料組成物に存在させ得る性能添加物とともに供給することを含む方法であって、 前記過塩基性金属含有清浄剤は、カルシウム清浄剤又はその混合物であり、過塩基性カルシウム清浄剤は、潤滑組成物に対して少なくとも500ppmのカルシウム(重量基準)かつ3000ppmより多くないカルシウム(重量基準)が送達される量で存在し、 低速プレイグニッション(LSPI)事象の試験を、ターボチャージ式ガソリン直噴(GDI)エンジンで測定し、カルシウムがそれぞれ2500ppmw、2500ppmw、2100ppmwの実施例8、9、10において、100、000サイクルあたりのLSPIの事象数は、それぞれ、12.6、8.1、4.4回である、方法。」 ウ 周知文献1 本願の優先日前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である国際公開第2015/198932号(国際公開日:2015年(平成27年)12月30日、以下「周知文献1」という。)には、次の記載がある。 「[0002] 近年、自動車エンジンの環境対応による燃費の向上と高性能化を両立する手段として、エンジンの排気量を20~50%低減する、いわゆるダウンサイジングが推進され、さらに、高圧縮比を実現する技術として直噴エンジンにターボチャージング(過給)を組合せることが行われている。これらのエンジンの高効率化は必然的にエンジン温度の上昇をもたらすが、温度の上昇は出力低下に繋がるノッキングを招くので、特にバルブ周りの部品の冷却能を向上させることが必要となっている。」 エ 周知文献2 本願の優先日前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2013-253555号公報(公開日:平成25年12月19日、以下「周知文献2」という。)には、次の記載がある。 「【0007】 近年、燃費向上のために排気量のダウンサイジングを図りながら、十分なトルクを確保可能な内燃機関として、過給機を有する直噴ガソリンエンジン(直噴ターボエンジン)が普及し始めている。 直噴ターボエンジンにおいても、非過給の直噴ガソリンエンジンと同様に、分割噴射が用いられている。本願発明者の知るところでは、現在、直噴ターボエンジンを制御するにあたり、定常状態にてトルクが最大となる圧縮噴射比率の値(トルク最大点)が予め求められている。そして、直噴ターボエンジンの制御装置は、加速の際に、トルク最大点にて分割噴射を実行するように構成されている。」 オ 周知文献3 本願の優先日前に、自動車技術会春季学術講演会において発表された研究論文「過給火花点火機関における低速プレイグニッション発生メカニズム」(発表日:平成27年5月20日、以下「周知文献3」という。)の第1頁左欄第2~7行には、次の記載がある。 「近年増加している火花点火式過給ダウンサイジングエンジンでは、低速高負荷領域において低速プレイグニッション(Low-Speed Pre-Ignition, 以下LSPI)と呼ばれる以上燃焼が発生することが知られている。これは、プラグによる点火以前に過早着火が生じ、火炎伝播発生した結果、ヘビーノックが起きる現象である。」 (3)発明の対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「火花点火内燃機関」は前者の「火花点火内燃エンジン」に相当し、以下同様に、「無鉛ガソリン燃料組成物」は「無鉛ガソリン燃料組成物」に、「用いる方法」は「使用」に、「ガソリン基礎燃料」は「ガソリンベース燃料」に、「無鉛ガソリン燃料用洗浄剤添加剤パッケージ」は「洗浄添加剤パッケージ」に、「マンニッヒ塩基洗浄剤混合物」は「マンニッヒ塩基洗浄剤混合物」に、「ジ-もしくはポリアミンに由来する1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤成分」は「ジ-またはポリアミンに由来する第1のマンニッヒ塩基洗浄剤成分」に、「モノアミンに由来する2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤成分」は「モノアミンに由来する第2のマンニッヒ塩基洗浄剤成分」に、「前記1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤と前記2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤の重量比」は「前記第1のマンニッヒ塩基洗浄剤と前記第2のマンニッヒ塩基洗浄剤との重量比」に、「約1:6から約3:1の範囲」は「1:6~3:1の範囲」に、それぞれ相当する。 上記相当関係を踏まえると、以下のことがいえる。 イ 後者の「燃料組成物は無鉛ガソリン燃料組成物」であることを踏まえると、後者の「火花点火内燃機関における燃料噴射装置、燃焼室、吸気弁といったエンジン内部の沈着物を減少または除去しかつ抗摩耗性能を改善する方法に関し、火花点火燃料および燃料用混合洗浄剤添加剤組成物を含有して成る燃料組成物および前記燃料組成物を直接噴射式ガソリン(DIG)エンジンで用いる方法」と、前者の「火花点火内燃エンジンにおける低速早期点火(LSPI)の発生を低減するための無鉛ガソリン燃料組成物の使用」とは、「火花点火内燃エンジンにおける無鉛ガソリン燃料組成物の使用」において共通する。 ウ 後者の「前記燃料組成物は無鉛ガソリン燃料組成物であって、ガソリン基礎燃料を使用し、無鉛ガソリン燃料用洗浄剤添加剤パッケージを含」むことは、前者の「前記無鉛ガソリン燃料組成物が、ガソリンベース燃料および洗浄添加剤パッケージを含」むことに相当する。 エ 後者の「無鉛ガソリン燃料用洗浄剤添加剤パッケージが、マンニッヒ塩基洗浄剤混合物を含有して成っていて、前記混合物がジ-もしくはポリアミンに由来する1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤成分およびモノアミンに由来する2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤成分を含有して成りかつ前記混合物中の前記1番目のマンニッヒ塩基洗浄剤と前記2番目のマンニッヒ塩基洗浄剤の重量比が約1:6から約3:1の範囲である」ことは、前者の「前記洗浄添加剤パッケージが、マンニッヒ塩基洗浄剤混合物を含み、前記混合物が、ジ-またはポリアミンに由来する第1のマンニッヒ塩基洗浄剤成分およびモノアミンに由来する第2のマンニッヒ塩基洗浄剤成分を含み、前記第1のマンニッヒ塩基洗浄剤と前記第2のマンニッヒ塩基洗浄剤との重量比が、1:6~3:1の範囲であ」ることに相当する。 オ 後者の「前記燃料組成物を直接噴射式ガソリン(DIG)エンジンで用いる方法」は、前者の「使用」に相当する。 カ そうすると、両者は、 「火花点火内燃エンジンにおける無鉛ガソリン燃料組成物の使用であって、 前記無鉛ガソリン燃料組成物が、ガソリンベース燃料および洗浄添加剤パッケージを含み、 前記洗浄添加剤パッケージが、マンニッヒ塩基洗浄剤混合物を含み、前記混合物が、ジ-またはポリアミンに由来する第1のマンニッヒ塩基洗浄剤成分およびモノアミンに由来する第2のマンニッヒ塩基洗浄剤成分を含み、前記第1のマンニッヒ塩基洗浄剤と前記第2のマンニッヒ塩基洗浄剤との重量比が、1:6~3:1の範囲である、使用。」 である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。 【相違点】 無鉛ガソリン燃料組成物の使用が、本件補正発明では、「低速早期点火(LSPI)の発生を低減するため」であり、「前記火花点火内燃エンジンがターボ過給エンジンであり」、「前記火花点火内燃エンジンが、総潤滑剤組成物に基づいて、1200ppmw~3000ppmwのカルシウムを含む潤滑剤組成物で潤滑される」のに対して、引用発明では、エンジン内部の沈着物を減少または除去しかつ抗摩耗性能を改善することを目的とし、前記火花点火内燃機関が直接噴射式ガソリン(DIG)エンジンであるものの、それ以上の特定はされていない点。 (4)相違点の判断 本件補正発明と上記(2)イ(ウ)の引用文献2に記載された事項とを対比すると、後者の「火花点火式直噴式内燃機関」は前者の「火花点火内燃エンジン」に相当し、以下同様に、「低速プレイグニッション(LSPI)事象」は「低速早期点火(LSPI)の発生」に、「ターボチャージ式ガソリン直噴(GDI)エンジン」は「ターボ過給エンジン」に、「潤滑組成物に対して少なくとも500ppmのカルシウム(重量基準)かつ3000ppmより多くないカルシウム(重量基準)」は「総潤滑剤組成物に基づいて、1200ppmw~3000ppmwのカルシウムを含む潤滑剤組成物」に、それぞれ相当する。 また、後者の「該内燃機関に」「供給された」「潤滑剤組成物」により「該内燃機関が潤滑される」ことは明らかである。 また、後者の「潤滑組成物」と「燃料組成物」は該内燃機関に供給されるから「該内燃機関」において使用されることは明らかである。 そうすると、引用文献2には、以下の技術(以下「引用文献2の記載技術」という。)が記載されているといえる。 「低速早期点火(LSPI)の発生を低減するための潤滑組成物と燃料組成物を使用する火花点火内燃エンジンであって、前記エンジンは、総潤滑剤組成物に基づいて、1200ppmw~3000ppmwのカルシウムを含む潤滑剤組成物で潤滑されるターボチャージ式ガソリン直噴(GDI)エンジン。」 一般に、直接噴射式エンジンは、燃焼室内に直接ガソリンを噴射することで、燃焼効率を高め、少ない燃料でより多くのエネルギーを生み出すことが可能である。一方、ターボチャージャーは、排気ガスを利用してタービンを回し、エンジンに多くの空気を送り込むことで、出力を向上させることが可能である。そして、エンジンの小型化を実現しつつ必要なトルクを確保するために、直接噴射式エンジンにターボチャージャーを組み合わせることは本願の優先日前に周知である(上記2(2)ウ、エの周知文献1及び2の記載を参照)。 また、車両の発進加速向上のために低回転域の高トルク化が求められるガソリン直噴過給ダウンサイジングエンジンにおいて低回転高負荷運転時に発生するプリイグニションつまりLSPIと呼ばれる異常燃焼が生じることはよく知られたことであるところ(例えば、引用文献2の【0006】、周知文献3の摘記箇所参照)、引用文献2の記載技術では、1200ppmw~3000ppmwのカルシウムを含む潤滑剤組成物で潤滑されるターボチャージ式ガソリン直噴(GDI)エンジンにおいて低速早期点火(LSPI)の発生が低減されることが開示されている。 これらを踏まえると、引用発明において、直接噴射式エンジンにターボチャージャーを組み合わせるに際して、LSPI発生の低減を実現した引用発明2の記載技術を採用する動機付けは十分にあるといえるので、引用発明に引用文献2の記載技術を適用して、相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本件補正発明の効果について検討しても、引用発明、引用文献2の記載技術に基いて予測される以上の格別なものはない。 したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2の記載技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。 (5)請求人の主張の検討 請求人は、審判請求書において、下記ア~ウの主張をしている。 ア 「表1から、本願発明によって、試験ごとのLSPI事象のサイクルが98から60に低減したことが明らかであり、この効果は、引用文献1及び2からは予測できない顕著な効果である」旨主張する。 しかしながら、引用発明の燃料組成物は、本件補正発明の燃料組成物と成分が同様であることから、引用発明と引用文献2に記載された技術が組み合わされたターボ過給エンジンにおいて、LSPIの低減という技術課題は結果として解決されているから、本願発明の上記効果は、引用文献1及び2からは予測できない顕著な効果があるとはいえない。 イ 「引用文献1はLSPIに言及しないし、ましてやカルシウムを多く含有するエンジンオイルを用いて動作するターボ過給火花点火内燃エンジンでLSPIが特に生じやすいことにも言及しない。引用文献2はLSPIに言及するが、LSPIの問題を、燃料組成物でなく、潤滑剤組成物を改良することで解決することを開示する(引用文献2の請求項1等)」旨主張する。 しかしながら、課題の共通性は、動機付けの要件の1つであるところ、請求人の該主張は、引用文献2には、LSPIについての課題が記載されているが、引用文献1には、LSPIについての記載すらないから、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用する動機付けはないというものであると解されるが、上記(4)で説示したように、課題の共通性は、主引用例や副引用例の記載のみに基づいて判断するのではなく、周知の課題や技術常識も参酌して判断される得るものである。 また、上記(4)に述べたように、引用発明に引用文献2の記載技術を適用する動機付けは十分にある。 したがって、審判請求人の主張は採用することができない。 (6)まとめ 以上により、本件補正発明は、引用発明、上記引用文献2の記載技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 そうすると、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本件補正前の本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、「第2 1(2)」に示したとおりのものと認められる。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は、以下をとおりである。 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願(優先日)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ・請求項 1-15 ・引用文献等 1、2 <引用文献等一覧> 1.特表2016-540849号公報(上記第2 2(2)アの引用文献1と同じ) 2.特表2016-534216号公報(上記第2 2(2)イの引用文献2と同じ) 3 引用文献とその記載事項等 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献、その記載事項、認定事項及び引用発明は、上記「第2 2(2)ア、イ」に記載したとおりである。 4 対比・判断 「第2 2」を参照すると、本願発明は、本件補正発明の記載から「前記火花点火内燃エンジンがターボ過給エンジンであり、」を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付した本件補正発明が、引用発明、引用文献2の記載技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2の記載技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項を検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2023-015380

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決13件(シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ)
  • 2024-014686拒絶査定不服審判 / 2026-07-07 / 原査定取消(特許/登録すべき)硫黄含有有機シランポリマーを調製するためのプロセス
    同じ当事者: シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
  • 2024-008655拒絶査定不服審判 / 2026-05-27 / 原査定取消(特許/登録すべき)潤滑性添加剤を含む燃料組成物
    同じ当事者: シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
  • 2022-000018拒絶査定不服審判 / 2023-06-22 / 請求不成立潤滑組成物の酸化安定性を向上させる方法
    同じ当事者: シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
  • 2021-010167拒絶査定不服審判 / 2022-11-08 / 原査定取消(特許/登録すべき)油圧系内の潤滑油の放気を向上させる方法
    同じ当事者: シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
  • 2021-009210拒絶査定不服審判 / 2022-07-26 / 請求不成立自動車燃料組成物中におけるワックス沈降防止添加剤の使用
    同じ当事者: シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
検索でもっと見る →
同じ論点・分野の審決(審決分類)85件(121・C10L、575・C10L)
  • 2020-008910拒絶査定不服審判 / 2021-01-20 / 請求不成立汚泥燃料化装置、汚泥燃料化システム、汚泥燃料活用型工場および固形燃料の製造方法
    共通の審決分類: 121・C10L、575・C10L
  • 2020-002576拒絶査定不服審判 / 2021-01-05 / 請求不成立石炭用酸化防止剤及び石炭の酸化防止方法
    共通の審決分類: 121・C10L、575・C10L
  • 2015-019466拒絶査定不服審判 / 2018-09-19 / 請求不成立清浄性をもたらす方法および組成物
    共通の審決分類: 121・C10L、575・C10L
  • 2024-012218拒絶査定不服審判 / 2026-08-13 / 原査定取消(特許/登録すべき)固形燃料の製造方法及び製造装置
    共通の審決分類: 121・C10L
  • 2024-008655拒絶査定不服審判 / 2026-05-27 / 原査定取消(特許/登録すべき)潤滑性添加剤を含む燃料組成物
    共通の審決分類: 121・C10L

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存