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特許拒絶査定不服審判

2023-015119

ゴーシェ病を処置する方法

審判番号
2023-015119
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-532586
請求日
2023年09月08日
審決日
2025年10月23日
公報発行日
2026年04月24日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】ジェンザイム・コーポレーション
  • 【請求人代理人】結田 純次
  • 【請求人代理人】竹林 則幸
審判長/審判官
  • 審判長 前田 佳与子
  • 審判官 池上 京子
  • 審判官 川口 裕美子
分類
P18 .121-WZ (A61K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-532586「ゴーシェ病を処置する方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月20日国際公開、WO2019/118707、令和 3年 2月22日国内公表、特表2021-506789〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2018年(平成30年)12月13日(パリ条約による優先権主張 2017年12月15日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であり、その主な手続の経緯は、以下のとおりである。 令和 3年12月 9日 手続補正書の提出 令和 4年10月31日付け 拒絶理由通知 令和 5年 4月 7日 手続補正書・意見書の提出 同年 4月24日付け 拒絶査定 同年 9月 8日 審判請求書・手続補正書の提出 同年10月25日 手続補正書(方式)の提出 (審判請求書の「請求の理由」の内容を補正するもの) 令和 7年 5月19日付け 拒絶理由通知(当審) 同年 8月20日 意見書の提出 第2 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明は、令和5年9月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項3】 中等度、または重篤な腎機能障害を有するCYP2D6迅速代謝型の患者におけるゴーシェ病を処置するための医薬であって、エリグルスタットまたは薬学的に許容されるその塩を含み、該医薬は1日2回用量の、塩基形態で測定したエリグルスタット84mgまたは薬学的に許容されるその塩を含む、前記医薬。」 第3 当審において通知した拒絶理由の概要 当審が、令和7年5月19日付けで通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうち、本願発明に対する拒絶理由の概要は、本願発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献1~2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 引用文献1:医薬品インタビューフォーム サデルガカプセル100mg、第4版、2016年、p.1~62 引用文献2:サデルガカプセル100mg 審議結果報告書・審査報告書、2015年3月26日掲載、p.1~98 第4 引用文献及び参考文献の記載、並びに引用発明 1 引用文献及び参考文献 引用文献1:医薬品インタビューフォーム サデルガカプセル100mg、第4版、2016年、p.1~62 引用文献2:サデルガカプセル100mg 審議結果報告書・審査報告書、2015年3月26日掲載、p.1~9 (引用文献1~2は、上記第3において引用した文献である。) 参考文献A:臨床薬理、2004年9月、Vol.35、No.5、p.265~268 参考文献B:治療、1993年2月、Vo1.75、No.2、p.233~236 参考文献C:医学のあゆみ、2014年5月31日、Vol.249、No.9、p.867~873 (参考文献A~Cは本願優先日当時の技術常識(以下「技術常識」という。)を示す文献である。また、参考文献Cは、令和7年8月20日に提出された意見書に添付された参考資料1と同じものである。) 2 引用文献及び参考文献の記載、及び、引用文献1に記載された発明 引用文献の記載の摘記においては、原則として、全角を用いた。また、下線は強調のために、当審が付したものである。 (1)ア 引用文献1には、以下の事項が記載されている。 (摘記1a)(表紙) 「医薬品インタビューフォーム ・・・(略)・・・ サデルガ(R)(当審注:「(R)」は、丸囲いのRの上付き文字である。以下同様。)カプセル100mg ・・・(略)・・・ エリグルスタット酒石酸塩 [図:0001433401000001.jpg] 」 (摘記1b)(10ページ1行~3行) 「V.治療に関する項目 1.効能又は効果 ゴーシェ病の諸症状(貧血、血小板減少症、肝脾腫及び骨症状)の改善」 (摘記1c)(10ページ17行~末行) 「2.用法及び用量 通常、CYP2D6 Extensive Metabolizer及びIntermediate Metabolizerの成人にはエリグルスタット酒石酸塩として1回100mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態に応じて適宜減量する。 <解説> 健康被験者及びゴーシェ病I型患者に対する薬物動態解析で、本剤の薬物動態は肝チトクローム酵素であるCYP2D6の表現型に大きく影響されていることが判明した。表現型には、CYP2D6の活性が欠損している(Poor Metabolizer、PM)、CYP2D6の活性が低い(Intermediate Metabolizer、IM)、CYP2D6の活性が通常(Extensive Metabolizer、EM)、CYP2D6の活性が過剰(Ultra Rapid Metabolizer、URM)が存在し、PMでは代謝を受けにくいため血中濃度が高くなり有害事象の発現のおそれがあり、また、URMでは迅速に代謝されるため、効果が減弱するおそれがあることがわかった。そこで、投与前に患者のCYP2D6表現型を確認し、EM 及びIM患者には1回100mgを1日2回投与することとした。これらの表現型に限定した1回100mg、1日2回投与は十分な効果と安全性が期待できる推奨用量と考えられる。」 (摘記1d)(34ページ2行~5行) 「5.代謝 (1) 代謝部位及び代謝経路 本剤は、主に肝で代謝を受ける。 本剤の酸化的代謝が主たる代謝経路である。」 (摘記1e)(35ページ10行~18行) 「(4) 代謝物の活性の有無及び比率 構造が確認された10種類の代謝物にはグルコシルセラミド合成酵素活性の著明な阻害を示したものはなかったことから(50%阻害濃度[IC50]>1μmol/L;エリグルスタット換算で親化合物より55倍以上高い)、本剤の薬理作用に対する代謝物の寄与は極めて低いことが示された。 本剤の心臓抑制の可能性(心臓イオンチャネルに対する代謝物の活性)について評価した。 心臓イオンチャネルの阻害に対するin vitroでのIC50値は、健康被験者及びゴーシェ病I型患者に本剤を1日2回反復投与したときに認められた代謝物の最高濃度よりも十分高いことから、これらの代謝物による心臓に関する安全性上のシグナルは示唆されなかった。」 (摘記1f)(35ページ21行~末行) 「6.排泄 (1)排泄部位及び経路 ほとんどが代謝物として尿及び糞便中に排泄された(本剤未変化体(エリグルスタット)の割合は1%未満)。 (2)排泄率 外国人データ 外国人健康成人10例にエリグルスタット酒石酸塩100mgを1日2回5日間反復経口投与後に、14C-エリグルスタット酒石酸塩100mg(約100μCi)を単回経口投与したとき、投与放射能に対する総放射能の回収率は93.2%であり、尿中及び糞中排泄率(平均値±標準偏差)は41.8±5.12及び51.4±3.96%であった。血漿中において21種類の代謝物が確認され、そのうち血漿中総放射能の曝露量(AUC)に対する代謝物の曝露量の割合が10%以上の代謝物は5-カルボキシ体(15.9%)であった28)。」 (摘記1g)(37ページ4行~18行) 「2.禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む) 【禁忌(次の患者には投与しないこと)】 1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 2.次に掲げる患者[本剤の血中濃度が大幅に上昇するおそれがある。「用法・用量に関連する使用上の注意」、「重要な基本的注意」、「相互作用」、「薬物動態」の項参照] 1)チトクロームP450(CYP)2D6の活性が通常の患者(Extensive Metabolizer、EM)で、CYP2D6 阻害作用を有する薬剤とCYP3A 阻害作用を有する薬剤の両方を使用中の患者 2)CYP2D6 の活性が低い患者(Intermediate Metabolizer、IM)で、CYP3A 阻害作用を有する薬剤を使用中の患者 3)CYP2D6 の活性が欠損している患者(Poor Metabolizer、PM)で、CYP3A 阻害作用を有する薬剤を使用中の患者 3.QT 延長のある患者(先天性QT 延長症候群等)[「薬物動態」の項参照] 4.クラスIa(キニジン、プロカインアミド等)及びクラスIII(アミオダロン、ソタロール等)の抗不整脈薬又はベプリジル塩酸塩を使用中の患者[「相互作用」の項参照] 5.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人[「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」の項参照]」 (摘記1h)(38ページ11行~末行) 「5.慎重投与内容とその理由 慎重投与(次の患者には慎重に投与すること) ・・・略・・・ (2)肝機能障害のある患者[使用経験が少なく、本剤の血中濃度が上昇するおそれがあること] (3)腎機能障害のある患者[使用経験が少ない] ・・・略・・・ <解説> ・・・略・・・ (3)国内外の臨床試験において、腎機能障害を有する患者への投与は検討されていないため、慎重に投与すべきと判断し設定した。 ・・・略・・・」 (摘記1i)(39ページ2行~27行) 「6.重要な基本的注意とその理由及び処置方法 重要な基本的注意 ・・・略・・・ (5)重篤な肝機能障害を有する患者では本剤の血中濃度が上昇するおそれがあるため、投与を避けることが望ましい。 ・・・略・・・」 (摘記1j)(42ページ) 「 [図:0001433401000002.jpg] 」 (摘記1k)(56ページ下から8行から末行) 「5.承認条件等 【承認条件】 ・・・略・・・ ・国内での治験症例が極めて限られていることから、製造販売後、再審査期間中の全投与症例を対象に使用成績調査を実施することにより、本剤使用患者の背景情報を把握するとともに、本剤の安全性及び有効性に関するデータを早期に収集し、本剤の適正使用に必要な措置を講じること。 本剤は希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)として指定されている。」 イ 引用文献1に記載された発明 (摘記1a)には、「サデルガ(R)カプセル100mgがエリグルスタット酒石酸塩100mg(エリグルスタットとして84mg)を含有」する医薬品であることが記載されている。 (摘記1b)には、効能又は効果が「ゴーシェ病の諸症状(貧血、血小板減少症、肝脾腫及び骨症状)の改善」であることが記載されている。 (摘記1c)には、「2.用法及び用量 通常、CYP2D6 Extensive Metabolizer及びIntermediate Metabolizerの成人にはエリグルスタット酒石酸塩として1回100mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態に応じて適宜減量する。」との記載がある。 これらの記載から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明> 「CYP2D6 Extensive Metabolizerの患者におけるゴーシェ病の諸症状(貧血、血小板減少症、肝脾腫及び骨症状)の改善のための、「サデルガ(R)カプセル100mg」と称される医薬であって、該医薬は1日2回用量のエリグルスタット酒石酸塩100mg(エリグルスタットとして84mg)を含み、前記用量は、患者の状態に応じて適宜減量するものである、前記医薬。」 (2)引用文献2には、以下の事項が記載されている。 (摘記2a)(89ページ8行~下から4行) 「2)腎機能障害患者及び肝機能障害患者 申請者は、以下のように説明している。第II相及び第III相試験において、中等度から高度の腎及び肝疾患を有する患者、ALT、AST及び総ビリルビンが基準範囲上限の2倍を超える患者は除外したため、当該患者集団における有効性及び安全性の結果は得られていない。また、中等度又は高度の腎機能障害又は肝機能障害を有する被験者における薬物動態試験も実施しなかったため、当該患者集団における曝露量の上昇の程度は不明である。 第II/III相試験の併合解析114において、MDRD式で測定された推算糸球体濾過量(eGFR)が、60mL/min/1.73m2未満(43.4~59.7)の患者は13例、肝機能障害を有する患者は4例認められた。当該患者において、全体集団と比較して安全性に問題となる事象は認められなかった。 米国及び欧州の海外規制当局からの要請により、市販後に肝障害又は腎障害を有する被験者において薬物動態及び安全性を検討する試験を実施する予定である。本邦においては中等度から重度の腎機能障害患者や肝機能障害患者に対して基本的に使用を推奨していない。したがって、中等度から重度の腎機能障害患者や肝機能障害患者を慎重投与に設定し、注意喚起することが適切と考える。 機構は、以下のように考える。現時点において肝機能障害又は腎機能障害を有する患者における薬物動態及び安全性は検討されていないことから、基本的には使用を推奨しない旨の申請者の見解に特段の問題はない。臨床試験における検討例数が少ないことから、製造販売後調査において引き続き腎機能障害及び肝機能障害を有する患者における安全性に関して情報収集する必要がある。」 (摘記2b)(37~38ページ) 「3)マスバランス試験(5.3.3.1-3:GZGD02107試験<■■年■月~■月>参考資料) 外国人健康成人男性(目標被験者数10例)を対象に、本薬の体内動態を検討するため、非盲検非対照試験が実施された。 用法・用量は、第1日目に本薬50mgを1時間かけて単回静脈内投与、第8日目に本剤100mgを単回経日投与、第9日目の夕方から第14日目までに本剤100mgを1日2回(200mg/日)反復経口投与とされ、第15日目に本薬の14C標識体100mgを単回経口投与とされた。 総投与例数10例(CYP2D6表現型EM:9例、IM:1例)全例が薬物動態及び安全性の解析対象集団とされた。 (略) 本薬の14C標識体100mg投与12時間後における投与放射能に対する本薬未変化体の累積尿中排泄率は0.47±0.18%、投与24時間後における投与放射能に対する本薬未変化体の累積糞中排泄率は0.13±0.11%であった。本薬の14C標識体100mg投与240時間後における投与放射能に対する尿中及び糞中総放射能の累積排泄率は41.8±5.12及び51.4±3.96%であった。 代謝プロファイルについて、本薬の14C標識体100mg投与後の血漿中には21種類の代謝物が認められ、そのうち血漿中総放射能の曝露量(AUC)に対する代謝物の曝露量の割合が10%以上の代謝物は5-カルボキシ体のM24であり、その割合は15.9%であった。代謝物M24の曝露量は、本薬未変化体の曝露量の8.78倍高かった。」 (摘記2c)(96ページ~97ページ) 「(7)医薬品リスク管理計画(案)について (略) 機構は、以上の点について申請者に対応を求めたところ、申請者から以下の医薬品リスク管理計画(案)の概要(表57、表58)及び特定使用成績調査計画の骨子(案)(表59)が示され、それらの内容に問題がないことを確認した。 [図:0001433401000003.jpg] 」 (摘記2d)(79~80ページ) 「5)CYP2D6表現型別の安全性について 第II/III相試験の併合解析114におけるCYP2D6の表現型別の有害事象の発現割合は表50のとおりであった。有害事象の発現割合は、EMで87.7%(272/310例)、IMで73.5%(36/49例)、PMで78.6%(11/14例)であり、PMにおいて発現割合が増加する傾向は認められなかった。PMは、50mgBID又はより低用量を投与され、URMの多くは150mgBIDまで増量された。IMの発現時用量別の有害事象の発現割合は、50mgBIDで67.3%(33/49例)、100mgBIDで63.2%(12/19例)と、100mgBID投与時に有害事象の発現割合が増加する傾向はみられなかった。EMの発現時用量別の有害事象の発現割合は、50mgBIDで41.2%(127/308例)、100 mgBIDで73.4%(207/282例)と、100mgBID投与時に発現割合が高かったが、100人年あたりの発現件数は50mgBIDで520件、100mgBIDで362件と100mgBIDで高くなることはなかった。URM及び表現型が判別不能の患者では例数が少なかった。 [図:0001433401000004.jpg] 」 (3)技術常識を示す参考文献Aには、以下の事項が記載されている。 (摘記Aa)265ページ左欄1行~11行 「体内に入った薬物は生体から見れば異物であり種々の臓器により代謝・排泄され,体内から除去される.この除去に関わる臓器で最も重要なものは肝臓と腎臓である.すなわち体内から除去されるため,薬物は肝臓で産生される代謝酵素で分解される場合と腎臓から尿中へあるいは肝臓から胆汁中へと排泄される場合がある.どちらの経路により体内から除去されるかは薬物の化学的性質によって異なるが,これらの臓器に機能障害がある場合には,正常臓器機能を有する者に比し薬物の除去が遅延し体内に薬物が蓄積することになる.」 (摘記Ab)265ページ右欄7行~28行 「1)どのような薬物が腎機能障害者での薬物動態試験を実施する必要があるか? 薬物が腎機能障害者で使用される可能性があり,未変化体の薬物あるいは活性や毒性を有する代謝物の体内動態が腎機能障害により著明な影響を受けることが予想され,腎機能障害者では安全性や有効性の確保のために用量調節が必要と考えられる場合には,確認のための薬物動態試験が必要となる.とくに未変化体の薬物や活性代謝物の治療係数(therapeutic index,中毒発現濃度/最低有効濃度比)が小さく,薬物除去の主たる経路が腎臓での排泄や代謝である場合には不可欠である.重篤な腎機能障害が肝代謝能を低下させることもあるため,治療係数が大きくない限り,肝代謝型薬物であっても腎機能障害者を対象とした薬物動態試験の実施が必要なこともありうる.もし薬物動態に腎機能障害の影響がないとしても,透析により薬物が除去されるか検討する必要があるかもしれない.反面,未変化体の薬物や活性代謝物の治療係数が大きく,体内からの除去が肝代謝や胆汁排泄の場合,あるいは揮発性の薬物で肺臓から除去される場合や薬物投与が1回限りの場合には腎機能障害者で用量の調節は不要であり,この試験の必要はない.」 (4)技術常識を示す参考文献Bには、以下の事項が記載されている。 (摘記Ba)233ページ左欄2行~8行、25行~末行 「肝と腎は薬物動態にとって最も重要な臓器である.多くの薬は肝で代謝され,また多くの薬は腎から排泄されるからである.したがって肝機能障害時には薬の代謝が遅延し,腎機能障害時には薬の排泄が遅延するので,いずれの場合も薬の血中濃度が増大し,薬効が強くですぎたり,副作用が起こったりする.」 「本稿では肝機能障害時の薬物療法と腎機能障害時の薬物療法について注意点を述べることにした.」 (摘記Bb)234ページ右欄17行~235ページ左欄17行 「■腎機能障害時の薬物療法 腎疾患の患者においては正常腎機能の患者に比し,副作用の発現率が著しく高くなることがよく知られている. とくに副作用発現率の増大は腎排泄型薬物について著明である. (略) 尿中未変化体排泄率の小さな薬を腎機能障害者に投与するときには特に用法・用量の変更を必要としないが,尿中未変化体排泄率の大きな薬物については1回投与量あるいは投与間隔を変更する必要がある.」 (5)技術常識を示す参考文献Cには、以下の事項が記載されている。 (摘記Ca)タイトル 「腎機能低下時に気をつけるべき薬物動態」 (摘記Cb)870ページ右欄28行~35行 「減量する必要の少ない薬剤 ・・・一般的に腎で排泄する割合の低い薬物,肝で代謝され,その代謝産物に活性のない薬剤,胆汁中に排泄する割合の高い薬剤は減量の必要が少ない.」 第5 対比・判断 1 本願発明と引用発明との対比 引用発明の「CYP2D6 Extensive Metabolizerの患者」は、本願発明の「CYP2D6迅速代謝型の患者」に相当する。 引用発明の「ゴーシェ病の諸症状(貧血、血小板減少症、肝脾腫及び骨症状)の改善のための、「サデルガ(R)カプセル100mg」と称される医薬」は、本願発明の「ゴーシェ病を処置するための医薬」に相当する。 引用発明の「エリグルスタット酒石酸塩」は、本願発明の「エリグルスタットまたは薬学的に許容されるその塩」に相当する。 したがって、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 <一致点> 「CYP2D6迅速代謝型の患者におけるゴーシェ病を処置するための医薬であって、エリグルスタットまたは薬学的に許容されるその塩を含む、前記医薬。」 <相違点> 本願発明は、患者が「中等度、または重篤な腎機能障害を有する」と特定されており、「1日2回用量の、塩基形態で測定したエリグルスタット84mgまたは薬学的に許容されるその塩を含む」医薬、であるのに対して、引用発明は、患者の腎機能についての特定はなく、「1日2回用量のエリグルスタット酒石酸塩100mg(エリグルスタットとして84mg)を含み、前記用量は、患者の状態に応じて適宜減量するものである」医薬である点。 2 判断 (1)相違点の検討 ア 薬物の代謝・排泄、用量調節についての技術常識 (ア)薬物の代謝・排泄について 技術常識を示す参考文献Aの(摘記Aa)には、「体内に入った薬物は生体から見れば異物であり種々の臓器により代謝・排泄され,体内から除去される.この除去に関わる臓器で最も重要なものは肝臓と腎臓である.」、「薬物は肝臓で産生される代謝酵素で分解される場合と腎臓から尿中へあるいは肝臓から胆汁中へと排泄される場合がある.」、「これらの臓器に機能障害がある場合には,正常臓器機能を有する者に比し薬物の除去が遅延し体内に薬物が蓄積することになる.」との記載がある。 また、技術常識を示す参考文献Bの(摘記Ba)には、「多くの薬は肝で代謝され,また多くの薬は腎から排泄される」、「肝機能障害時には薬の代謝が遅延し,腎機能障害時には薬の排泄が遅延するので,いずれの場合も薬の血中濃度が増大し,薬効が強くですぎたり,副作用が起こったりする.」、「肝機能障害時の薬物療法と腎機能障害時の薬物療法について注意点を述べる」、との記載がある。 これらの記載から、薬物の代謝・排泄について、以下の技術常識があると認められる。 (i)体内に入った薬物は代謝・排泄されて、体内から除去されるが、この除去に関わる臓器で最も重要なものは肝臓と腎臓である。 (ii)上記除去には、体内に入った薬物が、肝臓で産生される代謝酵素で分解される場合、腎臓から尿中へ排泄される場合、あるいは肝臓から胆汁中へ排泄される場合がある。 (iii)肝機能障害時には薬物の代謝の遅延により、腎機能障害時には薬物の排泄の遅延により、薬物の血中濃度が増大して、薬効が強くなりすぎたり,副作用が起こったりすることがあるから、肝機能障害時の薬物療法と、腎機能障害時の薬物療法について、注意すべき点がある。 (イ)腎機能障害を有する患者における用量調節について 技術常識を示す参考文献Aの(摘記Ab)には、腎機能障害を有する患者について、「未変化体の薬物や活性代謝物の治療係数が大きく,体内からの除去が肝代謝や胆汁排泄の場合」「腎機能障害者で用量の調節は不要であり,この試験の必要はない.」との記載があり、技術常識を示す参考文献Bの(摘記Bb)には、「尿中未変化体排泄率の小さな薬を腎機能障害者に投与するときには特に用法・用量の変更を必要としない」との記載があり、技術常識を示す参考文献Cの(摘記Ca)及び(摘記Cb)には、「腎機能低下時に気をつけるべき薬物動態」として「一般的に腎で排泄する割合の低い薬物,肝で代謝され,その代謝産物に活性のない薬剤,胆汁中に排泄する割合の高い薬剤は減量の必要が少ない.」との記載がある。 これらの記載から、腎機能障害を有する患者における用量調節について、以下の技術常識があると認められる。 (i)一般的に、未変化体の薬物や活性代謝物の治療係数が大きく、体内からの除去が肝臓における代謝や胆汁中への排泄である場合は、腎機能障害を有する患者において、用量の調節を必要としない。 (ii)一般的に、尿中への未変化体の排泄率が小さな薬物である場合は、腎機能障害を有する患者において、特に用法・用量の変更を必要としない。 (iii)一般的に、腎臓で排泄する割合の低い薬物、肝臓で代謝されて、その代謝産物に活性のない薬物、胆汁中に排泄する割合の高い薬物は、腎機能障害を有する患者において、用量を減量する必要が少ない。 イ エリグルスタットを投与する患者を「腎機能障害を有する患者」にすることについて 引用発明の医薬は、患者の状態に応じて用量を適宜減量するものであり(摘記1c)、上記ア(ア)(iii)のとおり、腎機能障害時の薬物療法について注意すべき点があることは技術常識であることを踏まえて、引用発明の有効成分である「エリグルスタット酒石酸塩100mg(エリグルスタットとして84mg)」(以下「エリグルスタット」と略して記載することがある。)を投与する患者を「腎機能障害を有する患者」にすることについて、以下、検討する。 (ア)引用文献1の記載 引用文献1には、「エリグルスタット酒石酸塩100mg(エリグルスタットとして84mg)を含有」する医薬品である「サデルガ(R)カプセル100mg」(摘記1a)を、腎機能障害を有する患者に投与することについて、以下の記載がある。 (摘記1h)「慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)」「(3)腎機能障害のある患者[使用経験が少ない]」「<解説>」「(3)国内外の臨床試験において、腎機能障害を有する患者への投与は検討されていないため、慎重に投与すべきと判断し設定した。」 (摘記1k)「【承認条件】」「国内での治験症例が極めて限られていることから、製造販売後、再審査期間中の全投与症例を対象に使用成績調査を実施することにより、本剤使用患者の背景情報を把握するとともに、本剤の安全性及び有効性に関するデータを早期に収集し、本剤の適正使用に必要な措置を講じること。」 また、 (摘記1g)「【禁忌(次の患者には投与しないこと)】」の欄、 (摘記1i)「重要な基本的注意」の欄、 (摘記1j)の「併用禁忌」の欄、 のいずれにも、腎機能障害を有する患者についての記載はない。 このように、引用文献1には、「腎機能障害のある患者[使用経験が少ない]」(摘記1h)に対して、「サデルガ(R)カプセル100mg」を慎重に投与することが示唆されており、上記「製造販売後、再審査期間中の全投与症例を対象に使用成績調査を実施する」という記載から、「本剤の適正使用に必要な措置を講じる」ために、「腎機能障害のある患者[使用経験が少ない]」に対しても、「使用成績調査を実施」して、「本剤の安全性及び有効性に関するデータを早期に収集」することが求められていることが記載されているが、腎機能障害を有する患者に対するエリグルスタットの投与は禁忌であるという趣旨の記載はない。 (イ)引用文献2の記載 引用文献2は、引用文献1の「エリグルスタット酒石酸塩100mg(エリグルスタットとして84mg)を含有」する医薬品である「サデルガ(R)カプセル100mg」(摘記1a)の承認審査についての報告書であるから、引用文献2に記載された事項は、引用文献1の「サデルガ(R)カプセル100mg」についての情報であるといえる。 引用文献2には、以下の記載がある。 (摘記2a)「米国及び欧州の海外規制当局からの要請により、市販後に肝障害又は腎障害を有する被験者において薬物動態及び安全性を検討する試験を実施する予定である。」、 「機構(当審注:独立行政法人医薬品医療機器総合機構のこと)は、以下のように考える。・・・(略)・・・臨床試験における検討例数が少ないことから、製造販売後調査において引き続き腎機能障害及び肝機能障害を有する患者における安全性に関して情報収集する必要がある。」 このように、引用文献2には、「サデルガ(R)カプセル100mg」を、市販後に、腎機能障害を有する患者に対して投与して、「薬物動態及び安全性を検討する試験を実施する予定」であること、及び、製造販売後調査において、引き続き、腎機能障害を有する患者における「サデルガ(R)カプセル100mg」の安全性に関して情報収集する必要があることが記載されているが、腎機能障害を有する患者に対するエリグルスタットの投与は禁忌であるという趣旨の記載はない。 (ウ)上記(ア)及び(イ)のまとめ 上記(ア)及び(イ)から、以下のa~cが本願優先日当時に知られていたといえる。 a 腎機能障害を有する患者に対してエリグルスタットを慎重に投与することが示唆されていた。 b 腎機能障害を有する患者に対するエリグルスタットの投与は禁忌ではない。 c 腎機能障害を有する患者におけるエリグルスタットの薬物動態や安全性を検討する予定及び必要性がある。 すなわち、本願優先日当時、腎機能障害を有する患者に対して、エリグルスタットは慎重に投与する必要があるけれども(上記a)、エリグルスタットの投与は禁忌ではなく(上記b)、エリグルスタットの薬物動態や安全性を検討する予定及び必要性がある(上記c)のであるから、エリグルスタットを投与する患者を「腎機能障害を有する患者」にすることを阻害する要因があったとはいえない。 ウ 腎機能障害を有する患者に対するエリグルスタットの用量調節について 上記ア(イ)のとおり、一般的に、腎機能障害を有する患者において、薬物の用量調節を必要としない場合があることは技術常識である。 そこで、引用発明のエリグルスタットが、腎機能障害を有する患者において用量調節を必要としない薬物に該当するか否かを判断するために、エリグルスタットの代謝・排泄について、以下、検討する。 (ア)引用文献1の記載 引用文献1には、「エリグルスタット酒石酸塩100mg(エリグルスタットとして84mg)を含有」する医薬品である「サデルガ(R)カプセル100mg」(摘記1a)の代謝・排泄について、以下の記載がある。 (摘記1d)「本剤は、主に肝で代謝を受ける。本剤の酸化的代謝が主たる代謝経路である。」 (摘記1e)「本剤の薬理作用に対する代謝物の寄与は極めて低い」、「これらの代謝物による心臓に関する安全性上のシグナルは示唆されなかった」 (摘記1f)「ほとんどが代謝物として尿及び糞便中に排泄された(本剤未変化体(エリグルスタット)の割合は1%未満)。」 (イ)引用文献2の記載 引用文献2には、上記「サデルガ(R)カプセル100mg」の代謝・排泄について、以下の記載がある。 (摘記2b)「投与12時間後における投与放射能に対する本薬未変化体の累積尿中排泄率は0.47±0.18%・・・であった。」 (ウ)上記(ア)及び(イ)のまとめ 上記(ア)及び(イ)から、エリグルスタットは主に肝臓で代謝され、未変化体として腎臓から排出される量は極めて少ないことは、当業者は容易に理解することである。 また、代謝物の薬理作用に対する寄与は極めて低く、かつ、代謝物による心臓に関する安全性上のシグナルは示唆されなかった(摘記1e)ことから、代謝物は、主作用及び副作用の両方に関して不活性であり、いわゆる不活性代謝物であるといえる。 そうすると、エリグルスタットは、「肝臓で代謝されて、その代謝産物に活性のない薬物」(上記ア(イ)(iii))かつ「尿中への未変化体の排泄率が小さな薬物」(上記ア(イ)(ii))であるから、一般的に、腎機能障害を有する患者において、特に用法・用量の変更を必要とせず、用量を減量する必要が少ない薬物に該当することは、本願優先日当時に知られていたといえる。 エ エリグルスタットの安全性について (ア)引用文献2の(摘記2c)の表57 医薬品リスク管理計画(案)における安全性検討事項及び有効性に関する検討事項の「重要な不足情報」には、「肝機能障害を有する患者への投与時の安全性」の記載がある一方、腎機能障害を有する患者についての記載がない点からみて、腎機能障害を有する患者において投与時の安全性に特段の問題はなかったことは、当業者が容易に理解することである。 (イ)引用文献2の(摘記2a)には、「第II/III相試験の併合解析114において、MDRD式で測定された推算糸球体濾過量(eGFR)が、60mL/min/1.73m2未満(43.4~59.7)の患者は13例、・・・(略)・・・認められた。当該患者において、全体集団と比較して安全性に問題となる事象は認められなかった。」との記載がある。 上記患者は、本願のクレアチニンクリアランスを用いた分類(【0024】)とは異なるが、一般に「中等度腎機能障害」に分類される患者である(要すれば、特開2017-186371号公報【0135】、特表2017-504649号公報【0089】参照)。したがって、少なくとも、中等度腎機能障害を有する患者において、投与時の安全性に特段の問題はなかったことは、当業者が容易に理解することである。 (ウ)上記(ア)及び(イ)のまとめ 上記(ア)及び(イ)から、エリグルスタットの安全性について、腎機能障害を有する患者については、血中濃度が上昇するおそれが低く、腎機能障害を有する患者において投与時の安全性に特段の問題はなかったことは、本願優先日当時に知られていたといえる。 オ エリグルスタットを投与する患者を「中等度、または重篤な腎機能障害」を有する患者にすることについて エリグルスタットを投与する患者を「腎機能障害を有する患者」にすることについて、本願優先日当時に知られていた事項は、上記イで説示したとおりである。 ここで、引用文献2の(摘記2a)には、「本邦においては中等度から重度の腎機能障害患者や肝機能障害患者に対して基本的に使用を推奨していない。したがって、中等度から重度の腎機能障害患者や肝機能障害患者を慎重投与に設定し、注意喚起することが適切と考える。」という記載があるが、当該記載は、エリグルスタットを「中程度から重度の腎機能障害患者」に投与する際の注意喚起をするものであって、当該患者に投与してはいけない(すなわち禁忌である)ことを意味する記載ではない。 そして、引用文献1及び2のいずれにも、エリグルスタットを「中程度または重篤な腎機能障害を有する患者」に投与してはいけない(すなわち禁忌である)という事項の記載、あるいは、エリグルスタットを「中程度または重篤な腎機能障害を有する患者」に投与する際には用法・用量の変更又は用量の減量が必要であるという事項の記載はなく、これらの事項が技術常識であるともいえない。 このように、エリグルスタットを、「中等度、または重篤な腎機能障害」を有する患者に投与することを阻害する要因があったとはいえず、「中等度、または重篤な腎機能障害」を有する患者に投与する際に用法・用量の変更又は用量の減量が必要であるとはいえないことは、本願優先日当時に知られていたといえる。 カ 相違点の検討のまとめ 以上のとおり、本願優先日当時、エリグルスタットを投与する患者を「腎機能障害を有する患者」にすることを阻害する要因があったとはいえず(上記イ(ウ))、エリグルスタットは、一般的に、腎機能障害を有する患者において、特に用法・用量の変更を必要とせず、用量を減量する必要が少ない薬物に該当し(上記ウ(ウ))、腎機能障害を有する患者において投与時の安全性に特段の問題はなく(上記エ(ウ))、「中等度、または重篤な腎機能障害」を有する患者に投与することを阻害する要因があったとはいえず、「中等度、または重篤な腎機能障害」を有する患者に投与する際に用法・用量の変更又は用量の減量が必要であるとはいえなかった(上記オ)。 そうすると、引用発明において、「CYP2D6 Extensive Metabolizerの患者」(すなわち「CYP2D6迅速代謝型の患者」)を、「中等度、または重篤な腎機能障害を有するCYP2D6迅速代謝型の患者」とし、その際に、エリグルスタットの用法・用量の変更又は用量の減量をすることなく「1日2回用量のエリグルスタット酒石酸塩100mg(エリグルスタットとして84mg)」とし、引用発明を、相違点に係る本願発明の構成を備えたものにすることは、当業者が容易になし得ることである。 (2)本願発明の効果について ア 本願発明の効果について、本願の発明の詳細な説明の実施例3(【0086】~【0106】、以下「本願の実施例3」ともいう。)には、「腎機能障害(RI)(軽度、中等度、および重篤)を有する対象、ならびに、年齢、重量、およびチトクロムP450[CYP]2D6表現型がRI対象とマッチした、正常な腎機能を有する対象における、単一用量エリグルスタット酒石酸塩の第1相、非盲検、2段階の、薬物動態学および許容性の研究を、エリグルスタットの薬物動態学(PK)に対する軽度、中等度、および重篤なRIの効果を研究するために実行した。」(【0086】)、「エリグルスタット酒石酸塩の単一の100mgカプセル(エリグルスタット84mgに相当)を、RIを有するCYP2D6 EMまたはIM対象およびマッチした健康な対象に投与した。」(【0092】)、「エリグルスタットの相乗平均C最大およびAUC値は、CYP2D6EM表現型を有する、重篤なRIを有する対象および健康なマッチした対象において同様であった(それぞれ0.878および0.986倍)。」(【0105】)、「重篤なRI対象の平均t1/2z値 は健康な対象よりも短く(6.56対8.50時間)、t最大値は長かった(4.0対1.5時間)。」(【0105】)ことが記載されている。(当審注:「CYP2D6 EMまたはIM対象」は、「CYP2D6迅速代謝型(EM)又は中間代謝型(IM)の対象を意味する。) したがって、本願の実施例3では、「エリグルスタット酒石酸塩の単一の100mgカプセル(エリグルスタット84mgに相当)」を、「CYP2D6EM表現型を有する重篤なRIを有する対象」及び「CYP2D6EM表現型を有する健康なマッチした対象」に投与したところ、「エリグルスタットの相乗平均C最大およびAUC値は」「同様であった(それぞれ0.878および0.986倍)」のであるから、本願の実施例3では、「CYP2D6EM表現型を有する、重篤なRIを有する対象」に対して、「エリグルスタット酒石酸塩100mg(エリグルスタットとして84mg)」という用量を減量せずに使用できることが確認されたといえる(以下、「本願の実施例3で確認された効果」という。)。 イ 本願の実施例3で確認された効果(上記ア)について、検討する。 上記(1)ウ(ウ)のとおり、エリグルスタットは、「肝臓で代謝されて、その代謝産物に活性のない薬物」かつ「尿中への未変化体の排泄率が小さな薬物」であり、上記(1)エ(ウ)のとおり、エリグルスタットは、腎機能障害を有する患者においても血中濃度が上昇するおそれが低く、用量を変更せずに使用できる薬物であり、上記(1)エ(ウ)のとおり、腎機能障害を有する患者において、エリグルスタットの投与時の安全性に特段の問題はなく、上記(1)オのとおり、エリグルスタットを「中等度、または重篤な腎機能障害」を有する患者に投与する際に、用法・用量の変更又は用量の減量が必要であるとはいえなかったのであるから、本願の実施例3で確認された効果(上記ア)は、当業者が予想し得た程度のものであるといえる。 ウ したがって、本願発明によって、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が得られたとはいえない。 (3)よって、本願発明は、引用発明及び引用文献1~2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 3 審判請求人の主張について (1)請求人は、審判請求書において、要するに、引用文献1の全体を参照すると、引用文献1は肝障害や腎障害を有する患者に対する投与を避けるように、当業者に明確に注意を促しており、本願出願時点では、阻害要因があり、主引用発明がその適用を避けているにもかかわらず、肝障害や腎障害を有する患者にも有効であることを、当業者が合理的な成功への期待をもって想到することは極めて困難であると考えられる、と主張している。 しかしながら、2(1)イ(ウ)で検討したとおりであるから、本願優先日当時に、請求人が主張する阻害要因があったとはいえない。 また、2(1)カに記載したように、本願優先日当時、エリグルスタットを投与する患者を「腎機能障害を有する患者」にすることを阻害する要因があったとはいえず、エリグルスタットは、一般的に、腎機能障害を有する患者において、特に用法・用量の変更を必要とせず、用量を減量する必要が少ない薬物に該当し、腎機能障害を有する患者において投与時の安全性に特段の問題はなく、「中等度、または重篤な腎機能障害」を有する患者に投与することを阻害する要因があったとはいえず、「中等度、または重篤な腎機能障害」を有する患者に投与する際に用法・用量の変更又は用量の減量が必要であるとはいえなかったのであるから、当業者は、引用発明を本願発明の構成を備えたものにすることによる合理的な成功への期待をもつものと考えられる。 よって、上記出願人の主張は採用できない。 (2)請求人は、令和7年8月20日提出の意見書において、「(1)引用発明、一致点及び相違点の認定の誤り」として、要するに、以下の主張をしている。 ア 引用文献1に記載された用法及び用量が、「中等度、または重篤な腎機能障害を有する患者」を含む患者群にとっても、安全に使用でき、所望の薬効が得られる用法及び用量であることは、引用文献1に記載されていない。 イ 「中等度、または重篤な腎機能障害を有する患者」に対しては、減量等の用法及び用量の変更が不要である理由は、拒絶理由通知書において明らかにされていない。 ウ 参考資料1から、一般的に、健常人に対する用法及び用量が、肝機能障害を有する患者や腎機能障害を有する患者に対しても安全かつ有効であることを示す理由はない。 エ 本願発明の「1日2回用量の、塩基形態で測定したエリグルスタット84mgまたは薬学的に許容されるその塩を含む」と「中等度、または重篤な腎機能障害を有するCYP2D6迅速代謝型の患者」という発明特定事項の組合せは、安全に使用でき、所望の薬効が得られるという効果を奏するうえで一体不可分の関係にあるといえるので、それらは分断されることなく、一つの相違点として認定され、進歩性の判断がなされるべきであり、引用発明、一致点、相違点は、以下のとおりに認定されるべきである。(引用発明、一致点、相違点については省略) しかしながら、上記ア及びイについて、引用発明は、「用量を、患者の状態に応じて適宜減量するものである」ものの、引用文献1に、「中等度、または重篤な腎機能障害を有する患者」が用量を減量すべき患者に該当する旨の記載はない。そして、エリグルスタットを「中等度、または重篤な腎機能障害を有する患者」に投与するにあたり、用量を減量する必要がないことは、上記2(1)ウ~カで検討したとおりである。 上記ウについて、上記2(1)ア(イ)で検討したとおりである。 上記エについて、上記第4 2(1)イの<引用発明>及び上記1の<一致点>及び<相違点>に記載したとおりである。 したがって、上記出願人の主張は採用できない。 (3) 請求人は、令和7年8月20日提出の意見書において、「(2)相違点の判断の誤り」として、要するに、以下の主張をしている。 ア 「中等度、または重篤な腎機能障害を有するCYP2D6迅速代謝型の患者」に対する「用法及び用量」として、「1日2回用量の、塩基形態で測定したエリグルスタット84mgまたは薬学的に許容されるその塩を含む」ものが当業者にとって容易に採用し得る理由、特に、上記患者においては、減量等の用法及び用量の変更が不要である理由が具体的に明らかにされていない。 イ 意見書に添付した参考資料1によると、本願の優先日当時、「臓器障害を有する者では、機能障害の状態に合わせ薬物の用法や用量を調整する必要があるが、臓器障害がそれぞれの薬物動態にどのような影響を与えるか正確に予測することは困難であり、実際は各薬物で確認する必要がある。」との技術常識があった。 しかしながら、上記アについては、上記2(1)ウ~カで検討したとおりである。 上記イについては、上記2(1)ア(イ)で検討したとおりである。 したがって、上記出願人の主張は採用できない。 (4) 請求人は、令和7年8月20日提出の意見書において、「(3)効果の判断の誤り」として、要するに、以下の主張をしている。 ア 引用文献2の(摘記2a)の「推算糸球体濾過量(eGFR)が、60mL/min/1.73m2未満(43.4~59.7)の患者」が、本願発明の「中等度、または重篤な腎機能障害を有するCYP2D6迅速代謝型の患者」である旨の説明は、何らなされていない。 イ 引用文献1(摘記1f)(令和7年5月19日付け拒絶理由通知の(摘記1h)と同じ)によると、尿中排泄率(平均値±標準偏差)は41.8±5.12%であり、糞便で排泄されるものとほぼ同量が尿からも排泄される。 ウ 「慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)」の指定がなされている患者(中等度、または重篤な腎機能障害を有するCYP2D6迅速代謝型の患者)であるにも関わらず、減量等の用法及び用量の変更が不要である理由は、上記指摘の点を踏まえても不明であり、拒絶理由通知書においても具体的に説明されていない。 エ そうすると、本願の優先日当時、「臓器障害を有する者では、機能障害の状態に合わせ薬物の用法や用量を調整する必要があるが、臓器障害がそれぞれの薬物動態にどのような影響を与えるか正確に予測することは困難」という技術常識があったところ、薬物動態等の確認を行うことなく、[0110]及び[0111](本e)に記載された「単一の84mg用量後、エリグルスタットのC最大およびAUCは重篤な腎機能障害を有するCYP2D6EMおよび健康なCYP2D6EMにおいて同様であった。」及び「機序に基づくCYP2D6の阻害が原因の時間依存的効果は腎機能障害によって影響を受けないと予想されるため、CYP2D6EMにおけるエリグルスタットの繰り返し投与はエリグルスタット曝露に対して影響を与えないことが予想される。したがって、軽度、中等度、および重篤なRIを有するCYP2D6EMでは用量の調節は提案されていない。」等の効果を当業者が予測し得たとはいえない。 しかしながら、上記ア~エについては、上記2(2)ア~イで検討したとおりであり、(摘記2a)、(摘記1f)のみに基づき、効果を検討したわけではない。 また、上記アについて、(摘記2d)には、(摘記2a)と同じ「第II/III相試験の併合解析114」の結果が示されている。表50には、同併合解析の対象となった患者は全体で393例であったところ、EMは310例であったことが記載されている(全用量の欄参照)。そうすると、(摘記2a)の13例の「推算糸球体濾過量(eGFR)が、60mL/min/1.73m2未満(43.4~59.7)の患者」の中には、EM、すなわち、CYP2D6迅速代謝型の患者が含まれる蓋然性は高い。 また、上記イについて、(摘記2b)によれば、当該数値は、「投与放射能に対する尿中及び糞中総放射能の累積排泄率」、すなわち、未変化体及び代謝物を含んだ値であり、「投与12時間後における投与放射能に対する本薬未変化体の累積尿中排泄率は0.47±0.18%、投与24時間後における投与放射能に対する本薬未変化体の累積糞中排泄率は0.13±0.11%であった」との記載を合わせると、そのほとんどは、代謝物として排出されたものであるといえる。そして、代謝物が主作用及び副作用の両方に関して不活性であることは、上記2(1)ウ(ウ)のとおりである。 また、上記ウについて、(摘記1h)によれば、腎機能障害のある患者が慎重投与である理由は「使用経験が少ない」からであり、「本剤の血中濃度が上昇するおそれがあること」といった、減量等の用法及び用量の変更を示唆する理由は記載されていない。 したがって、上記出願人の主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおり、請求項3に係る発明は、引用文献1に記載された発明、及び引用文献1~2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-015119

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