特許拒絶査定不服審判
2023-011726
目標検出装置及び目標検出プログラム
- 審判番号
- 2023-011726
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-132691
- 請求日
- 2023年07月12日
- 審決日
- 2024年10月09日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日本無線株式会社
- 【請求人代理人】岡田 賢治
- 【請求人代理人】畑 雅明
- 【請求人代理人】田中 真理
- 【請求人代理人】今下 勝博
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 中塚 直樹
- 審判官 佐々木 祐
- 分類
- P18 .113-Z (G01S) / P18 .121-Z (G01S)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-132691「目標検出装置及び目標検出プログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 1月16日出願公開、特開2020- 8535〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年7月12日の特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和4年 6月10日付け :拒絶理由通知書
同年 8月10日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 9月30日付け :拒絶理由通知書(最後)
同年11月 9日 :意見書及び手続補正書の提出
令和5年 2月16日付け :拒絶理由通知書(最後)
同年 4月 4日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 5月 1日付け :補正却下
同日付け :拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月16日 :原査定の謄本の送達)
同年 7月12日 :審判請求書及び手続補正書の提出
第2 令和5年7月12日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年7月12日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和5年7月12日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正するものであって、次の(1)に示す本件補正前の特許請求の範囲(令和4年11月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲)の請求項1の記載を、後記の(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正することを含むものである。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前の請求項1
「 レーダ反射強度又は光学的な白黒階調に基づいて、海面の波頭間隔、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかをレーダ計測又は撮像計測する海面計測部と、
海面の波頭間隔、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケールがレーダ覆域全体又は撮像覆域全体にわたる背景場を除去し、海面の波頭間隔、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケールが前記レーダ覆域全体又は前記撮像覆域全体と比べて小さい擾乱の存在を検出し、前記擾乱の存在を海面上又は海面下の目標の存在として検出する目標検出部と、
を備えることを特徴とする目標検出装置。」
(2) 本件補正後の請求項1
「 レーダ反射強度又は光学的な白黒階調に基づいて、海面の波頭間隔、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかをレーダ計測又は撮像計測する海面計測部と、
海面の波頭間隔、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケールがレーダ覆域全体又は撮像覆域全体にわたる背景場を除去し、海面の波頭間隔、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケールが前記レーダ覆域全体又は前記撮像覆域全体と比べて小さく検出対象の目標の空間スケールと等しい擾乱の存在を検出し、前記擾乱の存在を海面上又は海面下の目標の存在として検出し、定置網、航跡波を残さない船体、ブイ、後流を残さない潜水艦又は岩礁を検出する目標検出部と、
を備えることを特徴とする目標検出装置。」
2 本件補正の目的について
(1) 本件補正による請求項1についての補正は、次のア及びイに示す限定をすることからなる。
ア 本件補正前の「目標検出部」が検出する「擾乱」について「検出対象の目標の空間スケールと等しい」ことを限定すること。
イ 本件補正前の「目標検出部」が検出する「目標」が「定置網、航跡波を残さない船体、ブイ、後流を残さない潜水艦又は岩礁」を含むものに限定すること。
(2) そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
(3) したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
3 独立特許要件について
本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、本件補正後における請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか否か、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。
(1) 本件補正発明
ア 本件補正発明の認定と分説
本件補正発明は、前記1(2)の本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
ここで、本件補正発明の構成を便宜上次のように構成Xと構成A及び構成Bに分説する。また、参考図として、本願の【図3】を掲載する。
<本件補正発明の分説>
(構成A) レーダ反射強度又は光学的な白黒階調に基づいて、海面の波頭間隔、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかをレーダ計測又は撮像計測する海面計測部と、
(構成B) 海面の波頭間隔、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケールがレーダ覆域全体又は撮像覆域全体にわたる背景場を除去し、海面の波頭間隔、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケールが前記レーダ覆域全体又は前記撮像覆域全体と比べて小さく検出対象の目標の空間スケールと等しい擾乱の存在を検出し、前記擾乱の存在を海面上又は海面下の目標の存在として検出し、定置網、航跡波を残さない船体、ブイ、後流を残さない潜水艦又は岩礁を検出する目標検出部と、
を備えることを特徴とする
(構成X) 目標検出装置
<参考図(【図3】)>
[図:0001417223000001.jpg]
イ 課題・作用効果に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、本件補正発明の技術上の意義の概略を理解するために、発明が解決しようとする課題及び作用効果に関連する記載等を一部抜粋すると、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本開示は、海面上のレーダ断面積が小さい目標を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
海面上のレーダ断面積が小さい目標を検出する技術が、特許文献1等に開示されている。特許文献1では、レーダ送信電力を高くすることにより、レーダ受信電力を高くすることができるため、海面上のレーダ断面積が小さい目標を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-075615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そして、他の従来技術として、レーダ受信機の感度を高くしたり、レーダ受信アンテナの利得を高くしたり、海面クラッタを抑圧することにより、海面上のレーダ断面積が小さい目標を検出することができる。しかし、特許文献1及び他の従来技術であっても、海面上のレーダ断面積が小さい目標を確実には検出することができなかった。
【0005】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、レーダ送信電力を高くしたり、レーダ受信機の感度を高くしたり、レーダ受信アンテナの利得を高くしたり、海面クラッタを抑圧する以外に、海面上のレーダ断面積が小さい目標を確実に検出することを目的とする。」
「【発明の効果】
【0016】
このように、本開示は、レーダ送信電力を高くしたり、レーダ受信機の感度を高くしたり、レーダ受信アンテナの利得を高くしたり、海面クラッタを抑圧する以外に、海面上のレーダ断面積が小さい目標を確実に検出することができる。」
「【0024】
ここで、図3において、背景場Bについては、海面の波長、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケールが、レーダ覆域全体にわたっている。一方で、擾乱Dについては、海面の波長、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケールが、目標Tの周囲のみにわたっている。
【0025】
そこで、図3の上段では、目標検出部32は、背景場Bに埋もれた擾乱Dの存在を検出することにより、海面上又は海面下の目標Tの存在を検出する。一方で、図3の下段では、目標検出部32は、背景場Bを除去して擾乱Dの存在を検出することにより、海面上又は海面下の目標Tの存在を検出する。
【0026】
このように、海面上のレーダ断面積が小さい目標Tを検出することができ、海面クラッタに埋もれた物体及び海面下に没した物体も検出することができる。」
(2) 各引用文献の記載事項並びに引用発明及び技術常識の認定
ア 引用文献2の記載事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願前に発行された文献である特開2015-148452号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付した。以下同様である。)
a 【特許請求の範囲】
「【請求項1】
複数のチャープ方式の電波を同じ撮像領域に向けて送信し、前記撮像領域からの反射電波を各々受信する送受信部と、
前記送受信部で受信した受信信号から、各チャープ方式の受信信号のみを用いて各チャープ方式に対応するSAR(Synthetic Aperture Radar)画像を生成するSAR信号処理部と、
同じ位置が重なるように位置合わせをした前記SAR画像の差分を算出することにより、目標を検出する航跡検出部と、
を備えることを特徴とする合成開口レーダ装置。
(後略)」
b 段落【0001】~【0004】
「【0001】
本発明は、複数のチャープ方式や、複数の中心周波数による送信信号を用いることにより、移動物体やそれにより発生した海面の波等を検出する合成開口レーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar :SAR)は、航空機や衛星等に搭載され、移動しつつ側方に電波を送受信して観測を行い、得られたデータを信号処理することにより観測領域の二次元の高分解能画像である合成開口レーダ画像(以下、SAR画像ともいう)を得ることが出来るレーダである。
SAR画像は様々な利用をされているが、海面監視にも利用されており、SAR画像を用いて船舶の移動等に伴う海面の波(航跡)の情報を検出することができる(例えば特許文献1、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3785824号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】X. Xiangwei, et al., "An Enhancing Normalized Radon Transform Method for Ship Wake Detection in SAR Imagery," EUSAR 2012, pp.559-562, April 2012.」
c 段落【0005】~【0006】
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、海面の波は、風向き・うねりに応じた海面の全体的な波と、船舶の移動等に伴う局所的な波である航跡が重畳されたものである。海面の全体的な波が大きい場合には、船舶の移動等に伴う航跡は、SAR画像上、全体的な波に埋もれて検出が難しいという問題があった。
特に、移動体が船舶ではなく潜水艦の場合には、移動に伴い発生する波が非常に小さいため、SAR画像上、全体的な波に埋もれて検出が難しいという問題があった。
【0006】
この発明は、係る課題を解決するために成されたものであり、移動物体により発生した海面上の航跡を検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る合成開口レーダ装置は、複数のチャープ方式の電波を同じ撮像領域に向けて送信し、前記撮像領域からの反射電波を各々受信する送受信部と、前記送受信部で受信した受信信号から、各チャープ方式の受信信号のみを用いて各チャープ方式に対応するSAR画像を生成するSAR信号処理部と、同じ位置が重なるように位置合わせをした前記SAR画像の差分を算出することにより、目標を検出する航跡検出部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る合成開口レーダ装置によれば、海面の全体的な波の影響をキャンセルすることによって、従来、全体的な波に埋もれて検出が難しかった移動物体により発生した海面上の航跡を精度よく検出できる。」
d 段落【0010】~【0011】、【図1】
「【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
以下、図を用いて、この発明の実施の形態1に係る合成開口レーダ装置について説明する。図1は実施の形態1による合成開口レーダ装置1の運用状態図を示している。」
「【図1】
[図:0001417223000002.jpg]
」
「【0011】
図1において、合成開口レーダ装置1は、飛行体の一例である航空機2に搭載されており、移動しながら撮像領域3に向けて電波を送信し、撮像領域3からの反射電波を受信する。
撮像領域3には、海面4の全体的な波と、移動物体5による波である航跡6がある。航跡は一般に移動物体の進行方向後方に、ハの字状に形成される。
海面の全体的な波と航跡は、異なる方向に進行する。航跡はハの字状に形成されるため、たとえハの字の片側の航跡が、全体的な波の進行方向と一致した場合でも、他方の片側の航跡は、全体的な波の進行方向と異なることとなる。
図1では合成開口レーダ装置を搭載する飛行体として航空機としているが、衛星としてもよい。移動体は例えば船舶であり、あるいは潜水艦であってもよい。」
e 段落【0012】、【図2】
「【0012】
一般に合成開口レーダは、周波数変調したチャープパルスを、PRI(Pulse Repetition Interval、パルス繰り返し周期)の周期で繰り返し送信する。
図2は、本実施の形態に係る合成開口レーダから送信する送信パルスの図である。実施の形態1では、図2に示すように、1パルスごとにチャープ方式を変え、UPチャープパルス、DOWNチャープパルスを切り替えて送信するものとする。
UPチャープパルスとは、時間とともに周波数を増加させる変調パルスのことであり、DOWNチャープパルスとは、時間とともに周波数を減少させる変調パルスのことである。」
「【図2】
[図:0001417223000003.jpg]
」
f 段落【0013】、【図3】
「【0013】
図3は、実施の形態1における合成開口レーダ装置1の構成を示すブロックである。
合成開口レーダ装置1は、アンテナ部7と、送受信部8と、SAR信号処理部9と、航跡検出部10を備える。
送受信部8から出力された送信信号を、アンテナ部7により撮像領域に向けて電波として送信し、撮像領域からの反射電波をアンテナ部7により受信する。
受信信号を送受信部8で受信ビデオ信号に変換し、SAR信号処理部9にてSAR複素画像(振幅情報だけではなく、位相情報を含むSAR画像)を生成し、そのSAR複素画像を用いて、航跡検出部10で、航跡を検出する。
SAR信号処理部9では、UPチャープパルスの受信ビデオを用いて生成したSAR複素画像と、DOWNチャープパルスの受信ビデオを用いて生成したSAR複素画像の2種類の画像を生成する。」
「【図3】
[図:0001417223000004.jpg]
」
g 段落【0014】、【図4】
「【0014】
図4は、SAR信号処理部9の処理フローを示した図である。
まず、送受信部8からの受信ビデオ信号がUPチャープか、DOWNチャープかをステップs11(s11とする。以下同じ)で判定する。
送信パルスの順番でどちらのチャープ方式か決まっているので、例えば図2のようにUPチャープから送信した場合には、奇数パルス目はUPチャープ、偶数パルス目はDOWNチャープのように判定することができる。
UPチャープの受信ビデオ信号については、UPチャープパルス圧縮処理(s12)によりパルス圧縮を行い、SAR画像化処理(s14)にてSAR複素画像を生成する。
DOWNチャープの受信ビデオ信号についても同様に、DOWNチャープパルス圧縮処理(s13)によりパルス圧縮を行い、SAR画像化処理(s14)にてSAR複素画像を生成する。
パルス圧縮処理及びSAR画像化処理は、従来の合成開口レーダで一般的に実施されているものと同様のものである。
生成したUPチャープによるSAR複素画像とDOWNチャープによるSAR複素画像は、航跡検出部10において使用する。」
「【図4】
[図:0001417223000005.jpg]
」
h 段落【0015】、【図5】
「【0015】
図5は、(a)UPチャープと(b)DOWNチャープの違いによる影響を示した図である。
図5を用いて、UPチャープとDOWNチャープの違いによる受信信号への影響を説明する。
受信信号には、合成開口レーダ装置と目標との相対速度に応じたドップラ周波数が生じる。パルス圧縮処理は、周波数に応じた遅延フィルタ(マッチドフィルタ)により狭いパルスに圧縮しているため、受信信号をパルス圧縮すると、ドップラ周波数に相当する遅延分のずれが圧縮後の信号に生じる。UPチャープとDOWNチャープでは、パルス圧縮処理の遅延フィルタの特性が異なるため、逆方向のずれとなり、このずれがSAR画像上の位置のずれになる。」
「【図5】
[図:0001417223000006.jpg]
」
i 段落【0016】~【0018】、【図6】~【図7】
「【0016】
図1で説明したとおり、海面の全体的な波と航跡は、異なる方向に進行しているため、それぞれから受信信号のドップラ周波数も異なることとなる。そのため、海面の全体的な波と、航跡ではSAR画像上の位置ずれ量が異なる。この位置ずれ量の違いを利用して、航跡を検出する。
UPチャープによるSAR画像とDOWNチャープによるSAR画像では、1PRIの時間ずれた画像となっているが、海面の波の変化に比べて非常に小さい時間であるため、ドップラ周波数による位置ずれの差異に比べて無視できる。
【0017】
図6は、航跡検出部10の処理フロー図である。SAR信号処理部で生成されたUPチャープとDOWNチャープのSAR複素画像を、それぞれ補間処理(s15)において、公知の補間処理技術を利用してアップサンプリングする。これは、海面の全体的な波と、航跡の位置ずれ量が、SAR複素画像のピクセルサイズより小さい場合を想定し、後段の位置合わせ処理(s17)で、より細かな位置合わせを行うことを目的としている。SAR複素画像のピクセルサイズが位置ずれ量よりも十分小さい場合には、補間処理15を省略してもよい。
UPチャープとDOWNチャープの補間処理後のSAR複素画像を、それぞれ振幅画像処理(s16)において、各ピクセルの複素データを絶対値にすることにより、SAR振幅画像を生成する。」
「【図6】
[図:0001417223000007.jpg]
」
「【0018】
位置合わせ処理(s17)から差分画像算出処理(s18)により航跡検出SAR画像を得るまでの概念図を図7に示す。
位置合わせ処理17において、UPチャープとDOWNチャープのSAR振幅画像20、21を重ねて各画像の海面の全体的な波が一致するように、位置合わせをする。具体的には、SAR振幅画像の中で海面の全体的な波(船舶等の移動体及びその周辺を含まない領域)を各画像から切り出して、それらの相関値が最大になるように、位置合わせを行う。
差分画像算出処理18において、位置合わせをしたUPチャープとDOWNチャープそれぞれのSAR振幅画像の差分の絶対値を算出し、海面の全体的な波をキャンセルした航跡検出SAR画像22を得る。」
「【図7】
[図:0001417223000008.jpg]
」
(イ) 引用発明の認定
a 前記(ア)の引用文献2の記載事項を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。また、参考図として引用文献2の【図1】及び【図7】を掲載した。
[引用発明]
「複数のチャープ方式の電波を同じ撮像領域に向けて送信し、前記撮像領域からの反射電波を各々受信する送受信部と、
前記送受信部で受信した受信信号から、各チャープ方式の受信信号のみを用いて各チャープ方式に対応するSAR(Synthetic Aperture Radar)画像を生成するSAR信号処理部と、
同じ位置が重なるように位置合わせをした前記SAR画像の差分を算出することにより、目標を検出する航跡検出部と、
を備える合成開口レーダ装置であって、(【請求項1】)
船舶等の移動物体やそれにより発生した海面の波等を検出目標とし、(【0001】、【0018】)
海面の全体的な波の影響をキャンセルすることによって、従来、全体的な波に埋もれて検出が難しかった移動物体により発生した海面上の航跡を精度よく検出できるものであり、(【0008】)
実施の形態1による合成開口レーダ装置1としては、(【0010】)
飛行体の一例である航空機2に搭載されており、移動しながら撮像領域3に向けて電波を送信し、撮像領域3からの反射電波を受信するものであり、(【0011】)
撮像領域3には、海面4の全体的な波と、移動物体5による波である航跡6があり、(【0011】)
周波数変調したチャープパルスを、PRI(Pulse Repetition Interval、パルス繰り返し周期)の周期で繰り返し送信し、1パルスごとにチャープ方式を変え、UPチャープパルス、DOWNチャープパルスを切り替えて送信するものであり、(【0012】)
合成開口レーダ装置1は、アンテナ部7と、送受信部8と、SAR信号処理部9と、航跡検出部10を備え、(【0013】)
送受信部8から出力された送信信号を、アンテナ部7により撮像領域に向けて電波として送信し、撮像領域からの反射電波をアンテナ部7により受信するものであり、(【0013】)
受信信号を送受信部8で受信ビデオ信号に変換し、SAR信号処理部9にてSAR複素画像(振幅情報だけではなく、位相情報を含むSAR画像)を生成し、そのSAR複素画像を用いて、航跡検出部10で、航跡を検出することができるものであって、(【0013】)
SAR信号処理部9では、UPチャープパルスの受信ビデオを用いて生成したSAR複素画像と、DOWNチャープパルスの受信ビデオを用いて生成したSAR複素画像の2種類の画像を生成するものであり、(【0013】)
海面の全体的な波と航跡は、異なる方向に進行しているため、それぞれから受信信号のドップラ周波数も異なることとなり、海面の全体的な波と、航跡ではSAR画像上の位置ずれ量が異なるところ、この位置ずれ量の違いを利用して、航跡を検出することができ、(【0016】)
UPチャープによるSAR画像とDOWNチャープによるSAR画像では、1PRIの時間ずれた画像となっているが、海面の波の変化に比べて非常に小さい時間であるため、ドップラ周波数による位置ずれの差異に比べて無視できるものであり、(【0016】)
UPチャープとDOWNチャープのSAR振幅画像20、21を重ねて各画像の海面の全体的な波が一致するように、位置合わせをするものであり、具体的には、SAR振幅画像の中で海面の全体的な波(船舶等の移動体及びその周辺を含まない領域)を各画像から切り出して、それらの相関値が最大になるように、位置合わせを行い、位置合わせをしたUPチャープとDOWNチャープそれぞれのSAR振幅画像の差分の絶対値を算出し、海面の全体的な波をキャンセルした航跡検出SAR画像22を得ることができる、(【0018】)
合成開口レーダ装置。」
<参考図>
【図1】
[図:0001417223000009.jpg]
【図7】
[図:0001417223000010.jpg]
イ 引用文献3の記載事項及び技術常識1の認定
(ア) 引用文献3の記載事項
当審において新たに引用する、本願出願前の2012年3月30日に発行された「有井基文ほか「衛星搭載合成開口レーダによる海洋監視技術の進化と深化」MSS技報,Vol.22,6-12ページ」(https://www.mesw.co.jp/business/report/pdf/mss_22_02.pdf)(以下「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。
「2.1 SARの原理と特徴
合成開口原理を理解するためには、レンズを思い浮かべるとよい。我々は、既にレンズの口径が大きいものほど対象をはっきりと映し出すことができることを知っている。SARは、センサ自体を移動させることで仮想的に大きなレンズ(大開口)を実現したものであり、合成開口原理とは、細かい部分を鮮明化する(すなわち高分解能化)ための技術である。図1の(A)に航空機や衛星のような移動プラットフォームに搭載した実開口レーダの例を示す。実開口レーダとは、1回のパルス照射による短い観測で対象を撮影するもので、小さいレンズ(小開口)で対象を見ようとするのと等価である。続いて、(B)に観測対象を連続的な複数のパルスで撮影し。図1の(A)に航空機や衛星のような移動プラットフォームに搭載した実開口レーダの例を示す。実開口レーダとは、1回のパルス照射による短い観測で対象を撮影するもので、小さいレンズ(小開口)で対象を見ようとするのと等価である。続いて、(B)に観測対象を連続的な複数のパルスで撮影した例を示す。このような観測を実施することにより、進行方向に仮想的に大規模なレンズ(衛星だと数10km)を構成することができ、従って(A)の実開口レーダに比べて格段に分解能を向上することが可能となる。分解能の影響を示すために、図2に、停泊中の船舶を観測した異なる2つのSAR画像を示す。PALSAR(Phased Array type L-band Synthetic Aperture Radar)は、人工衛星ALOS(Advanced Land Observing Satellite)に搭載されたLバンドSARであり、分解能は10mである。一方、PI-SAR-L(Polarimetric and Interferometric Airborne SAR)は、航空機搭載のLバンドSARであり、分解能は3mである。どちらも宇宙航空研究開発機構(JAXA)により開発されたセンサである。光学画像をベースにこれら2つの画像を比較すると、分解能が高い方が明確に個々の船舶を分離できていることがわかる。なお、両SAR画像の入射角が異なるため、船舶からの散乱及び海面からの散乱に対する強弱はここで議論できないことに留意する。
ここで、光学画像の方がSAR画像より視認性が優れていると考える読者もいるだろう。しかし、衛星搭載SARとして通常使用される3cm(Xバンド)~24cm(Lバンド)という波長は水蒸気の影響を受けにくいことがわかっており、即ち天候に左右されないという大きなメリットがある。更に、アクティブセンサの特性として、昼夜問わず観測可能であるため、対象の定期的なモニタリングが必要とされるミッションには最適なセンサといえる。」
「
[図:0001417223000011.jpg]
」
「
[図:0001417223000012.jpg]
」
(イ) 技術常識1の認定
前記(ア)に摘記した引用文献3の記載に例示されているように、次の事項(以下「技術常識1」という。)は本願出願前に技術常識であったと認められる。
[技術常識1]
「合成開口レーダ(SAR)で停止中の船舶を観測できたら便利であること。」
ウ 引用文献4の記載事項及び技術常識2の認定
(ア) 引用文献4の記載事項
当審において新たに引用する、本願出願前の1977年に発行された「合田良実ほか「波による係留船舶の運動および係留力に関する実験」第24回海岸工学講演会論文集(1977),418-422ページ」(https://www.jstage.jst.go.jp/article/proce1970/24/0/24_0_418/_pdf)(以下「引用文献4」という。)には、次の事項が記載されている。
「 2. 実験装置
実験に用いた水路は,運輸省港湾技術研究所大型水工実験場内に設置された40m不規則波造波水路である.…(中略)…
4. 実験方法
4.1 実験波
実験に用いた波は規則波と一方向スペクトルを持つ不規則波である.…(中略)…
5. 実験結果と考察
5.1 規則波中の係留船舶の運動および係留力
(1) 船体のふれまわり運動
船体,係留状態および入射波が完全に対称であれば,迎波状態では船体は左右に振れず,水路軸方向でのみ動揺するものと考えられる.しかし実験においては波長が長いときには船軸と水路軸がほぼ一致していたが,波長が短かくなってL<110cm(T<0.9sec,L:波長)となると船尾が水路軸からはずれるという現象が見られた.この原因としては,上記の各条件が対称でなかったこと,船体による散乱波の水路側壁からの反射波の影響および波長の短かい波に対しては,波の進行方向に船腹を向けようとする傾向があることなどが考えられる.(後略)」
(イ) 技術常識2の認定
前記(ア)に摘記した引用文献4の記載に例示されているように、次の事項(以下「技術常識2」という。)は本願出願前に技術常識であったと認められる。
[技術常識2]
「停止中の船舶においても、船体により海波の散乱波が発生すること。」
(3) 対比
ア 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
なお、引用発明をなるべく技術的に正確に認定したところ、引用発明の特定事項が比較的に長文となったことから、対比分析に当たっては、引用発明の認定の記載の根拠になった箇所も参考として括弧内に示している。
(ア) 構成X(目標検出装置の発明)の観点
引用発明の「合成開口レーダ装置」は「目標を検出する航跡検出部」を備えるものであるから(【請求項1】)、「目標検出装置」であるといえる。
したがって、本件補正発明と引用発明は、「目標検出装置」の発明である点において一致する。
(イ) 構成A(海面計測部)の観点
a(a)引用発明は「海面の全体的な波の影響をキャンセルすることによって、従来、全体的な波に埋もれて検出が難しかった移動物体により発生した海面上の航跡を精度よく検出できる」(【0008】)ものである。
(b) そして、このことは、「海面の全体的な波と航跡は、異なる方向に進行しているため、それぞれから受信信号のドップラ周波数も異なることとなり、海面の全体的な波と、航跡ではSAR画像上の位置ずれ量が異なる」ことに起因して生じる「海面の全体的な波」と「航跡」の「SAR画像上の位置ずれ量」の違いを利用することにより可能となる(【0016】)。
(c) このように、引用発明はドップラ周波数を利用するものであるから、海面の波向き及び海面の波速度を測定していることは明らかである。
b(a) 引用発明は、「複数のチャープ方式の電波を同じ撮像領域に向けて送信し、前記撮像領域からの反射電波を各々受信する送受信部」と「前記送受信部で受信した受信信号から、各チャープ方式の受信信号のみを用いて各チャープ方式に対応するSAR(Synthetic Aperture Radar)画像を生成するSAR信号処理部」を備える(【請求項1】)。
(b) そうすると、引用発明における「送受信部」(「アンテナ部7」と「送受信部8」)は、前記a(c)の海面の波向き及び海面の波速度を測定することをレーダ反射強度に基づいたレーダ計測により行っているといえる。
(c) 以上を踏まえると、引用発明は、本件補正発明にいうところの「レーダ反射強度に基づいて、海面の波向き及び波速の少なくともいずれかをレーダ計測する海面計測部」に相当する構成を備えているといえる。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「レーダ反射強度又は光学的な白黒階調に基づいて、波頭間隔、海面の波向き、波速及び波高の少なくともいずれかをレーダ計測又は撮像計測する海面計測部」を備える点。
(ウ) 構成B(目標検出部)の観点
a(a) 引用発明において、「合成開口レーダ装置」から「複数のチャープ方式の電波」が「送信」される「撮像領域3」は、本件補正発明における「レーダ覆域全体」に相当する。
(b) そうすると、前記(イ)の検討結果も踏まえると、引用発明における「撮像領域3」の「海面の全体的な波」は、本件補正発明にいうところの「海面の波向き」及び「波速」の少なくともいずれかが変動する空間スケールがレーダ覆域全体」「にわたる背景場」に相当する。
b(a) 引用発明における「航跡」は、本件補正発明における「擾乱」に相当する。
(b) 引用発明における「航跡」は、「撮像領域3」の「海面の全体的な波」に比較して、「海面の波頭間隔、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケール」が小さいことは、自明である。
ここで、本件補正発明における「検出対象の目標の空間スケールと等しい」という語句の意味について検討すると、審判請求書において請求人は、明細書の段落【0024】の「図3において、背景場Bについては、海面の波長、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケールが、レーダ覆域全体にわたっている。一方で、擾乱Dについては、海面の波長、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケールが、目標Tの周囲のみにわたっている。」の記載と、段落【0025】の「擾乱Dの存在を検出することにより、海面上又は海面下の目標Tの存在を検出する。」の記載に基づく補正事項であると説明している。
また、段落【0028】及び【図4】の上側の図と【図5】の下側の図には、次のように記載されている。
「図4の上段では、船舶Mが航跡波Wを残すことにより、海面の波長、波向き、波速及び波高に対して、船舶Mの航跡波Wに特有の擾乱を及ぼす。そこで、種類判別部33は、海面の波長、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかについての上記擾乱とその周囲との相違に基づいて、目標Tの種類として航跡波Wを残した船舶Mを判別する。」
【図4】の上側の図
「
[図:0001417223000013.jpg]
」
【図5】の上側の図
「
[図:0001417223000014.jpg]
」
審判請求書における請求人の主張及び上記段落【0028】、【図4】及び【図5】の記載も参酌すると、「航跡波W」という「擾乱」についても、「海面の波長、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケールが、目標Tの周囲のみにわたっている」ものであることが理解できる。
そうすると、引用発明における「航跡」についても、「海面の波頭間隔、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケールが前記レーダ覆域全体又は前記撮像覆域全体と比べて小さく検出対象の目標の空間スケールと等しい擾乱」であるといえる。
(c) そして、引用発明において「目標を検出する航跡検出部」が「位置合わせをしたUPチャープとDOWNチャープそれぞれのSAR振幅画像の差分の絶対値を算出し、海面の全体的な波をキャンセルした航跡検出SAR画像22を得」ること(【0018】)は、本件補正発明において「目標検出部」が「背景場を除去し」、「擾乱の存在を検出」することに相当する。
(d) 引用発明において「船舶」である「目標を検出する航跡検出部」が「航跡を精度よく検出」し(【0008】)、「目標を検出する」こと(【請求項1】)は、本件補正発明において「目標検出部」が「擾乱の存在を海面上の目標の存在として検出し」、「船体」を「検出する」ことに相当する。
(e) 前記(a)~(d)までの検討結果をまとめると、引用発明と本件補正発明は、構成B(目標検出部)の観点について、次のiに示す共通点において共通し、iiに示す相違点において相違する。
i 構成B(目標検出部)の観点の共通点
「海面の波頭間隔、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケールがレーダ覆域全体又は撮像覆域全体にわたる背景場を除去し、海面の波頭間隔、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケールが前記レーダ覆域全体又は前記撮像覆域全体と比べて小さく検出対象の目標の空間スケールと等しい擾乱の存在を検出し、前記擾乱の存在を海面上又は海面下の目標の存在として検出し、船体を含む何らかの目標を検出する目標検出部」を備える点。
ii 構成B(目標検出部)の観点の相違点
本件補正発明においては、
目標は、「定置網、航跡波を残さない船体、ブイ、後流を残さない潜水艦又は岩礁」を含むのに対して、
引用発明においては、
目標は「移動物体」としての「船舶」である点。
イ 一致点及び相違点の認定
前記アの対比分析の検討結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、次の(ア)に示す一致点において一致し、後記(イ)に示す相違点において相違する。
(ア) 一致点
「レーダ反射強度又は光学的な白黒階調に基づいて、海面の波頭間隔、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかをレーダ計測又は撮像計測する海面計測部と、
海面の波頭間隔、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケールがレーダ覆域全体又は撮像覆域全体にわたる背景場を除去し、海面の波頭間隔、波向き、波速及び波高の少なくともいずれかが変動する空間スケールが前記レーダ覆域全体又は前記撮像覆域全体と比べて小さく検出対象の目標の空間スケールと等しい擾乱の存在を検出し、前記擾乱の存在を海面上又は海面下の目標の存在として検出し、船体を含む何らかの目標を検出する目標検出部と、
を備える目標検出装置」である点。
(イ) 相違点
本件補正発明においては、
目標は、「定置網、航跡波を残さない船体、ブイ、後流を残さない潜水艦又は岩礁」を含むのに対して、
引用発明においては、
目標は「移動物体」としての「船舶」である点。
(4) 判断
ア(ア) 前記(2)イ(イ)において技術常識1として認定したとおり、「合成開口レーダ(SAR)で停止中の船舶を観測できたら便利であること」は、当業者にとっては自明の事項であるから、引用発明において、移動する船舶だけでなく、停止中の船舶を観測できるかどうかを検討することは、当業者にとっては自明の検討事項にすぎない。
(イ) なお、海流等の流れのない位置での停止中の船舶や海流に乗って漂流している船舶に航跡が生じないことは技術常識である。
(ウ) そうすると、引用発明において、目標として、航跡の生じない停止中・漂泊中の船舶を検出できるかを検討することは当業者にとって自明の検討事項にすぎないから、引用発明が想定する「海面の全体的な波」が存在する状況下で、航跡の生じない「停止中の船舶」が存在する場合に、引用発明の測定手法ではどのような測定結果が得られるのかを考えることは、当業者にとっては、自明の検討事項にすぎない。
イ(ア) ここで、前記(2)ウ(イ)において技術常識2として認定するまでもなく、「停止中の船舶においても、船体により海波の散乱波が発生すること」は、自明のことである。
(イ) したがって、「海面の全体的な波」が存在する状況下で、航跡の生じない「停止中の船舶」が存在した場合に、船体により海波の散乱波が発生することは、当業者には自明の事項である。
(ウ) そして、引用発明において目標を航跡波を残さない「停止中の船舶」にした場合、海波の散乱波の向き及び速度が海面の全体的な波の向き及び速度と異なるから、海面の全体的な波をキャンセルすることにより、航跡の場合に航跡検出SAR画像が得られるのと同様に、停止中の船舶の船体による海波の散乱波の検出SAR画像が得られることは、当業者にとっては、容易に理解できることである。
(エ) したがって、引用発明を航跡波を残さない停止中の船舶に適用し、前記相違点に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、当業者にとっては、自明の事項にすぎない。
ウ 以上検討したとおり、前記相違点は、引用発明並びに技術常識1及び2に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
そして、本件補正発明の奏する効果としては、当業者にとって予測困難であり、かつ、格別顕著なものを認めることはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明並びに技術常識1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5) 請求人の主張について
ア 請求人の主張内容
審判請求書において、請求人は、おおよそ次の主張をしている。
本件補正発明では、擾乱の存在を海面上又は海面下の「移動しない目標(自らの動力を使わない)」の存在として検出する。一方で、引用発明では、「航跡検出結果」を「移動する船舶あるいは潜水艦」の存在として検出する。ここで、「移動する船舶あるいは潜水艦」は、「航跡」を生じるが、海面上又は海面下の「移動しない目標」は、「航跡」を生じない。引用発明は、本件補正発明と異なり、擾乱の存在を海面上又は海面下の「移動しない目標」の存在として検出していないから、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 請求人の主張についての検討
引用発明において、検出対象として航跡波を残さない停止中の船舶も検出対象とする動機があり、これに適用可能であることが当業者にとって自明なことは、前記(4)アにおいて検討したとおりであるから、請求人の主張は、採用することができない。
(6) 小括
以上検討のとおり、本件補正発明は、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記第2において却下したので、本願の請求項1~5に係る発明は、令和4年11月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は前記第2の1(1)の本件補正前の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の本願発明に係る拒絶の理由2及び理由3の概要は、次のとおりである。
理由2.本願発明は、引用発明と差違が無いから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
理由3.本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
3 引用文献に記載された事項等
前記引用文献2には、前記第2の3(2)ア(イ)において認定したとおりの引用発明が記載されていると認められる。
4 対比・判断
(1) 本願発明は、本件補正発明において、次のア及びイの限定を省いたものである(前記第2の2参照)。
ア 本件補正前の「目標検出部」が検出する「擾乱」について「検出対象の目標の空間スケールと等しい」ことを限定すること。
イ 本件補正前の「目標検出部」が検出する目標が「定置網、航跡波を残さない船体、ブイ、後流を残さない潜水艦又は岩礁」を含むものに限定すること。
(2) そうすると、前記第2の3(3)アでの対比検討を踏まえれば、引用発明と本願発明は前記相違点を有しておらず、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものでもある。
第4 むすび
以上検討のとおり、本願発明は引用発明であり、また引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条1項3号及び2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-011726