特許拒絶査定不服審判
2023-009307
電気機械スイッチング装置の摩耗を検出する装置および方法
- 審判番号
- 2023-009307
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-525630
- 請求日
- 2023年06月06日
- 審決日
- 2025年02月26日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】フェニックス コンタクト ゲーエムベーハー ウント コムパニー カーゲー
- 【請求人代理人】太田 和宏
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 喜々津 徳胤
- 審判官 濱野 隆
- 分類
- P18 .575-Z (G01R) / P18 .121-Z (G01R)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-525630号「電気機械スイッチング装置の摩耗を検出する装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔2020年6月11日国際公開、WO2020/115313、令和4年2月3日国内公表、特表2022-512295号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和元年(2019年)12月6日を国際出願日とする外国語特許出願であって(パリ条約による優先権主張 2018年12月7日 ベルギー)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。以下、2018年12月7日を「優先日」という。
令和3年 7月 8日 :翻訳文の提出
令和4年 7月29日付け:拒絶理由通知書
同年11月 9日 :意見書、手続補正書の提出
令和5年 1月31日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年 2月 7日 :原査定の謄本の送達)
同年 6月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出
同月28日付け:前置報告書
同年 8月14日 :上申書の提出
令和6年 6月 5日付け:審尋
同年 9月 9日 :回答書の提出
第2 令和5年6月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年6月6日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和5年6月6日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、次の(1)に示す本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を、後記の(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正することを含むものである。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
電気機械スイッチング装置(1000)の摩耗を検出する装置(100)であって、
前記装置(100)が、
前記電気機械スイッチング装置(1000)の少なくとも1つの所定の動作パラメータを検出するように形成される測定装置(10)と、
機械深層学習方法に基づいて、トレーニングデータの形のビッグデータを用いて、前記電気機械スイッチング装置(1000)の前記検出された所定の動作パラメータから前記電気機械スイッチング装置(1000)のその時々の摩耗状態を求めるように形成される評価装置(20)と
を含む、装置(100)。」
(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
電気機械スイッチング装置(1000)の摩耗を検出する装置(100)であって、
前記装置(100)が、
前記電気機械スイッチング装置(1000)の少なくとも1つの所定の動作パラメータを検出するように形成される測定装置(10)と、
機械深層学習方法に基づいて、トレーニングデータの形のビッグデータを用いて、前記電気機械スイッチング装置(1000)の前記検出された所定の動作パラメータから前記電気機械スイッチング装置(1000)のその時々の摩耗状態を求めるように形成される評価装置(20)と
を含み、
前記評価装置(20)が、前記求められたその時々の摩耗状態と前記ビッグデータとに基づいて、前記電気機械スイッチング装置(1000)の将来の摩耗経過を予測できるように形成される、装置(100)。」
2 本件補正の目的
本件補正のうち請求項1の補正は、「評価装置(20)」について、「前記求められたその時々の摩耗状態と前記ビッグデータとに基づいて、前記電気機械スイッチング装置(1000)の将来の摩耗経過を予測できるように形成される」ことを限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正のうち請求項1についての補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
3 独立特許要件についての当審の判断
本件補正のうち請求項1についての補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、本件補正後における請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討を行う。
(1) 本件補正発明について
ア 本件補正発明の認定
本件補正発明は、前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
ここで、検討の便宜上、本件補正発明の構成を次のように構成Xと構成Aから構成Cまでに分説するとともに、参考図として本願の図3を示す。
<本件補正発明>
(構成X) 電気機械スイッチング装置(1000)の摩耗を検出する装置(100)であって、
前記装置(100)が、
(構成A) 前記電気機械スイッチング装置(1000)の少なくとも1つの所定の動作パラメータを検出するように形成される測定装置(10)と、
(構成B) 機械深層学習方法に基づいて、トレーニングデータの形のビッグデータを用いて、前記電気機械スイッチング装置(1000)の前記検出された所定の動作パラメータから前記電気機械スイッチング装置(1000)のその時々の摩耗状態を求めるように形成される評価装置(20)と
を含み、
(構成C) 前記評価装置(20)が、前記求められたその時々の摩耗状態と前記ビッグデータとに基づいて、前記電気機械スイッチング装置(1000)の将来の摩耗経過を予測できるように形成される、
(構成X) 装置(100)。
参考図(【図3】)
[図:0001424988000001.jpg]
イ 審尋について
前記第1において示したとおり、当審においては、令和6年6月5日付けで審尋(以下、単に「審尋」という。)を行ったところ、そのうちの審尋事項6、7の内容及び同年9月9日に提出した回答書(以下、単に「回答書」という。)による請求人の回答は次のとおりである。
(ア) 審尋事項6
a 審尋内容
特許請求の範囲の請求項1等や明細書の随所に現れる「その時々の摩耗状態」という語句は、原文では、「einen aktuellen Verschleisszustand」であり、冠詞「ein」があり「Verschleisszustand」は単数形であるから、「その時々の」と複数を思わせる記載となっていることは、翻訳が不適切であると考えており、より正確には、「現時点での摩耗状態」と訳すべきもので、「動作パラメータを測定した時点における電気機械スイッチング装置の摩耗状態」の意味であると考えております。
上記の合議体の理解に対する請求人の意見をお聞かせください。
b 請求人の回答
「その時々の摩耗状態」について、「einen aktuellen Verschleisszustand」は、「現時点での摩耗状態」と翻訳すべきものであり、「動作パラメータを測定した時点における電気機械スイッチング装置の摩耗状態」の意味です。本件請求人は、審判合議体の意見に同意いたします。
(イ) 審尋事項7
請求項1における次の技術構成(以下「構成A」という。)について審尋します。
「 機械深層学習方法に基づいて、トレーニングデータの形のビッグデータを用いて、前記電気機械スイッチング装置(1000)の前記検出された所定の動作パラメータから前記電気機械スイッチング装置(1000)のその時々の摩耗状態を求めるように形成される評価装置(20)と
を含み、
前記評価装置(20)が、前記求められたその時々の摩耗状態と前記ビッグデータとに基づいて、前記電気機械スイッチング装置(1000)の将来の摩耗経過を予測できるように形成される、」
a 審尋事項7-1
(a) 審尋内容
「電気機械スイッチング装置(1000)のその時々の摩耗状態」の例としては、明細書の段落【0089】の「継電器は70%摩耗」が例として含まれるという理解でよろしいでしょうか。請求人の御意見をお聞かせください。
また、これ以外の開示はないと考えますが、請求人の御意見をお聞かせください。
(b) 回答
「電気機械スイッチング装置(1000)のその時々の摩耗状態」の例としては、明細書の段落0089の「継電器は70%摩耗」が例として含まれます。また、出願当初の明細書には、これ以外の開示はありません。
b 審尋事項7-2
(a) 審尋内容
「電気機械スイッチング装置(1000)の将来の摩耗経過を予測」の例としては、明細書の段落【0089】の「予測される残寿命は3年と2か月」しか記載されてないことから、これが例として含まれるという理解でよろしいでしょうか。請求人の御意見をお聞かせください。
その他、「予測される残寿命は後●●サイクル」なども例として含まれるという理解でよろしいでしょうか。
(b) 回答
「電気機械スイッチング装置(1000)の将来の摩耗経過を予測」の例としては、明細書の段落0089の「予測される残寿命は3年と2か月」しか記載されてないことから、これが例として含まれます。
その他、「予測される残寿命は後●●サイクル」なども例として含まれます。
c 審尋事項7-3
(a) 審尋内容
「継電器は70%摩耗」という結果が出力された場合、70%とは、寿命のサイクルに対しての摩耗の割合なので、この数字が得られた場合、本願の明細書の段落【0026】のように、摩耗状態だけで、更にビッグデータを利用すること無く、「予測される残寿命は後●●サイクル」という計算は簡単にできると存じます。
本願の明細書の段落【0026】の記載も考慮すると、
構成Aは、「ビッグデータを用いて、動作パラメータから「摩耗状態」を求め」、その後で、「摩耗状態と前記ビッグデータとに基づいて、「将来の摩耗経過」を予測[する]」というように、「摩耗状態」を求めるときとその後の「将来の摩耗経過」を予測するときの二段階のステップで「前記ビッグデータ」を合計2回用いていると理解すべきではなく、
構成Aは、ビッグデータと電気機械スイッチング装置の動作パラメータとに基づいて、当該電気機械スイッチング装置のその時々の「摩耗状態」(例えば「継電器は80%摩耗」という結果)を算出し、次いでその時々の切換サイクル数(使用開始から当該動作パラメータの測定時までに経過した切換サイクル数)と当該「摩耗状態」に基づいて「将来の摩耗経過」に対応する残りの寿命を算出するもの(例えば、2000サイクルで「継電器は80%摩耗」という結果が出たとき、残寿命=2000×(100-80)/80=500と求めること。)も含む(この場合ビッグデータの利用は1回である。)と理解すべきと考えます。
上記の合議体の見解に対する請求人の御意見を、お聞かせください。
なお、構成Aは、上記のような例(明細書の段落【0026】のような例)は含まないと理解する場合、明細書の発明の詳細な説明に具体的な開示はなく、実施可能要件・サポート要件を満たしていないと考えますので、この点の御意見もお願いします。
(b) 回答
構成Aは、「ビッグデータを用いて、動作パラメータから「摩耗状態」を求め」、その後で、「摩耗状態と前記ビッグデータとに基づいて、「将来の摩耗経過」を予測[する]」というように、「摩耗状態」を求めるときとその後の「将来の摩耗経過」を予測するときの二段階のステップで「前記ビッグデータ」を合計2回用いていると理解すべきではなく、
構成Aは、ビッグデータと電気機械スイッチング装置の動作パラメータとに基づいて、当該電気機械スイッチング装置のその時々の「摩耗状態」(例えば「継電器は80%摩耗」という結果)を算出し、次いでその時々の切換サイクル数(使用開始から当該動作パラメータの測定時までに経過した切換サイクル数)と当該「摩耗状態」に基づいて「将来の摩耗経過」に対応する残りの寿命を算出するもの(例えば、2000サイクルで「継電器は80%摩耗」という結果が出たとき、残寿命=2000×(100-80)/80=500と求めること。)も含む(この場合ビッグデータの利用は1回である。)と理解すべきと考えます、との審判合議体の意見に本件請求人は同意いたします。
構成Aは、現在の摩耗状態と将来の摩耗状態との両方を決定することができます。経年変化については、出願当初の明細書の段落0026に「例えば継電器の負荷がほぼ一定で、過去には一週間当たり通常1,000切換サイクル行われ、この継電器が現在40,000切換サイクル進行していて、80%の現在の摩耗が評価装置によって予測され、線形に老化すると仮定される場合には、およそ10,000切換運動あるいは10週間がこの継電器の残寿命となることが簡単な高等計算で推論できる。より複雑な老化モデルにも当然使用できる。」と記載されています。
(2) 引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された文献であって、優先日前に発行された特開2018-141774号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。下線は合議体が付した。以下同様である。
a 段落【0025】~【0027】、【図1】
「【0025】
図1では、接触器タイプの電気ユニット1は、負荷3に電力を供給するか、または負荷3への電力供給を停止するための1つまたは複数の電力電気接点2を備える。電気接点は、電磁コイル4によって制御される。コマンドまたは制御回路5は、電磁コイル4を制御して、接点2を閉成または開成する。回路5はまた、接点の閉成の瞬間の突入段階の間、ならびに減少したエネルギーおよび制御電流により閉成された接点を保持する段階の間、コイル内を流れる電流を制御する。」
「【図1】
[図:0001424988000002.jpg]
」
「【0026】
ユニット1の摩耗を診断するためのデバイス10は、電気ユニットと関連付けられるか、あるいは電気ユニットの部分を形成する。このデバイス10は、例えば接点を制御するコイル4の電圧または電流等の電気量を表す信号を受信する。有利には、デバイス10は、接点の開成時にコイルによって生成される電圧信号を受信するために、コイルに並列接続される。コイル内を流れる電流信号も使用されることができる。しかしながら、優先的な実施形態において、電圧信号は、有利には、より安定しており、使用がより簡単である。したがって、デバイス10は、コイル4に接続されるアナログ・デジタル変換器6、信号を受信して電気ユニットの診断を進めるために変換器に接続される診断モジュール7、および電気ユニットの状態、特にその接点摩耗のレベルを信号伝達するためのデバイス8を備える。診断モジュール7はまた、別の、外部のまたは遠隔処理モジュール9と接続されることができ、それを用いてデータを処理することができる。この場合、診断デバイスは、2つ以上の部分に分かれている。外部にある部分は、いくつかのデバイスに共通であるか、または中央集中されることも可能である。処理モジュール9は、ユニットの状態の遠隔信号伝達を確実にすることができる。当然ながら、モジュールとデバイスとの間の通信は、有線または無線によって実施される。
【0027】
このようにして、例えば接触器等の電気ユニットの摩耗のモニタリングおよび診断は、好ましくは、前記接触器の開成時のコイルの電圧の分析によって行われる。この電圧は、接触器の可動部の移動速度を表す。この場合、接点の摩耗は、電気ユニットの可動部の移動速度の減少をもたらす。」
b 段落【0028】~【0032】、【図2】~【図3】
「【0028】
電気ユニットの摩耗の状態を診断することは、前記ユニットの寿命サイクルの間、著しい数の製品に対して実施される予備学習段階を備える。この学習段階は、学習データを獲得することを可能にし、学習データは、まずは格納され、モデル化され、保存され、次いでモニタリングされる各ユニットに対してその特有の摩耗のモニタリングのためにロードされる。図2は、学習段階11および学習データの格納12を例示する。」
「【図2】
[図:0001424988000003.jpg]
」
「【0029】
学習段階の間、測定曲線は、摩耗サイクルにおけるユニットの開成時に獲得される。測定曲線は、平均サイズの電気ユニットでは、数10ミリ秒、例えば30ms~50ms続く電気信号を表す。これらの継続時間は、ユニットのサイズおよびタイプによって大きく異なってもよい。信号は、一般的には、数百個のサンプル、例えば80~500個のサンプルでサンプリングされるが、異なる数も使用されることができ、それは、診断デバイスで使用されるプロセッサの計算能力に依存する。
【0030】
学習段階の間、電気ユニットは、ユニットの寿命をたどることを可能にする操作の量に供される。接触器の場合、操作回数は、例えば800,000回に達する可能性があるが、他の値も使用されることができる。データの量は大量になる場合もあるため、電気ユニットの特性の傾向は、記述子D1、D2、D3、D4、D5によって規定され、この記述子は、電気特性、および電気ユニットの寿命中の前記記述子の傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5と関連付けられる。診断されるユニットのデバイス内に、引き続いてロードされることになる学習データのサイズをさらに減少させるため、記述子の傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5は、タイプa+bxの直線セグメントを表すデータの形式で保存される。傾向曲線は、ユニットのライフスパンを規定するいくつかの連続的な直線セグメントを有することができる。記述子の傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5のセットは、製品の寿命にわたって、いくつかの次元において空間を形成する。記述子の、部分、曲線の一部、または値の一部は、電気ユニットの摩耗クラスと関連付けられる。ユニットの操作の数を考えると、測定曲線は、各開成時に必ずしも獲得されない。測定曲線の獲得は、操作の回数の範囲によって、またはより関連して、ユニットの傾向の関数として、定期的に間隔が空けられてもよい。例えば、操作の数は、寿命の終わりではより頻繁に、および寿命の始まりでは非常に間隔が空けられてもよい。
【0031】
学習段階はまた、摩耗参照曲線CRUを提供する。この摩耗参照曲線は、学習時に使用されるユニットの需要の終わりに、測定曲線から得られる。摩耗参照曲線CRUは、いくつかの測定曲線および/またはいくつかの摩耗ユニットにわたって平均化された曲線であってもよい。
【0032】
故に、学習段階の最後に、例えば記述子の傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5および摩耗参照曲線CRU等の学習データは、まずは格納され、モデル化され、保存され、次いで各ユニットに、それ自体の摩耗のモニタリングのためにロードされる。これらの学習データは、1つのかつ同じタイプのユニットと関連付けられるすべてのモニタリング・デバイスに共通である。図3は、診断されるユニットに事前に格納された学習データのローディング13の段階を例示する。」
「【図3】
[図:0001424988000004.jpg]
」
c 段落【0034】~【0035】、【図4】
「【0034】
好ましい実施形態において、本発明による診断方法はまた、モニタリングされる製品の決定された特有の参照曲線CRPを備える初期化データを決定するための初期化段階14と、前記電気ユニット・モニタリング段階15における前記初期化データの使用とを備える。
【0035】
モニタリング段階では、モニタリングされる各ユニットに特有のローカル記述子DL1、DL2、DL3、DL4、DL5は、測定曲線CMの獲得中に決定される。これらの記述子は、記述子のグローバル傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5を作成するために使用されたものと同じタイプのものである。5つの記述子D1、D2、D3、D4、D5を備える好ましい実施形態において、これらの記述子は、それぞれ、事前に作成され、保存され、ロードされた5つのグローバル傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5、ならびに、それぞれ、電気ユニットの開成時に測定曲線から導出される各ユニットに特有の5つのローカル記述子DL1、DL2、DL3、DL4、DL5を与える。」
「【図4】
[図:0001424988000005.jpg]
」
d 段落【0036】~【0043】、【図5】~【図11】
「【0036】
図5は、電気ユニットの開成時の制御コイルの電気電圧信号を表す測定曲線CMを示す。そのような曲線は、電気ユニットのモニタリングの段階の間の測定曲線CM、および記述子の傾向曲線を作成するための学習段階の間の測定曲線の両方であってもよい。」
「【図5】
[図:0001424988000006.jpg]
」
「【0037】
第1の記述子D1は、測定曲線CMの2つの注目点21と22との間の値の偏差または差20を表す。これらの点21および22は、有利には、信号の変動の方向の変化点、または前記測定信号のドリフトの兆候の変化である。第1の点21では、信号は、相対値において増大した後に減少し、第2の点22では、信号は、相対値において減少した後に増大していた。第1の点21と第2の点22との間の値の偏差は、製品寿命の間に減少される傾向がある。図7は、この記述子D1の傾向を表す曲線CD1を例示する。」
「【図7】
[図:0001424988000007.jpg]
」
「【0038】
第2の記述子D2は、測定される信号の測定曲線CMとモニタリングされる製品の初期または特有の参照曲線CRPとの間の偏差、変動、差、または相関を表す。例えば、ノルム値において、この記述子は、測定された曲線CMが特有または初期の参照曲線CRPに近い場合は”1”に近い値、および測定された曲線CMが、特有または初期の参照曲線CRPとは非常に異なるか、または離れている場合はゼロ”0”に近い値を有することができる。製品寿命の間、記述子D2の値は、1に近い値からゼロに近い値へと変化する。図8は、この記述子D2の傾向を表す曲線CD2を例示する。その結果として、測定曲線CMが特有の参照曲線CRPから離れるほど、ユニットは摩耗されていると見なされることになる。」
「【図8】
[図:0001424988000008.jpg]
」
「【0039】
第3の記述子D3は、測定される信号の測定曲線CMとモニタリングされる製品の摩耗参照曲線CRUとの間の偏差、変動、差、または相関を表す。摩耗参照曲線は事前にロードされている。例えば、ノルム値において、この記述子は、測定された曲線CMが摩耗参照曲線CRUとは非常に異なるか、または離れている場合はゼロ”0”に近い値、および測定値CMが摩耗参照曲線に近くなる場合は”1”に近い値を有することができる。製品寿命の間、記述子D3の値は、”0”に近い値から”1”に近い値へと変化する。図9は、この記述子D3の傾向を表す曲線CD3を例示する。その結果として、測定曲線CMが摩耗参照曲線CRUに近いほど、ユニットは摩耗されていると見なされることになる。」
「【図9】
[図:0001424988000009.jpg]
」
「【0040】
第4の記述子D4は、2つの注目点24と25との間の測定曲線CMの信号の積分23を表す。有利には、注目点は、それぞれ、信号の変動の方向の第1の変化後の第1のしきい値26、および信号の変動の方向の第2の変化後の第2のしきい値27であってもよい。製品寿命の間、記述子D4の値は、絶対値が減少する。説明される実施形態において、値は負であり、上昇曲線を示すゼロに近づく。図10は、この記述子D3の傾向を表す曲線CD4を例示する。」
「【図10】
[図:0001424988000010.jpg]
」
「【0041】
第5の記述子D5は、測定曲線CMの注目点22の値を表す。この点は、有利には、信号の変動の方向の変化点、または前記測定信号のドリフトの兆候の変化である。好ましくは、注目点は、信号が相対値において減少した後に増大している兆候の第2の変化の点22であってもよい。図11は、この記述子D5の傾向を表す曲線CD5を例示する。この曲線は、図6に示される学習曲線から導出される。この図6では、学習段階の間、記述子D5の非常に多くの測定が実施され、曲線ND5によって示された。次いで、これらの多くの値は、モニタされるユニットにロードされる記述子CD5の傾向曲線を得るために、直線セグメントとしてモデル化された。図11のこの曲線は、例えば、5つのセグメント28を備える。セグメントの数は無制限であるが、有利には、1~20の間にある。しかしながら、他の実施形態は、例えば、レベルによって、または多項式によって可能である。」
「【図6】
[図:0001424988000011.jpg]
」
「【図11】
[図:0001424988000012.jpg]
」
「【0042】
記述子のグローバル傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5の始まりに、記述子は、新品のユニットまたはバーンイン(burned in)されているユニットの特定のクラスCL1と関連付けられ、一方で、曲線の終わりには、記述子は、摩耗ユニットのクラスCL3と関連付けられる。クラスCL1とCL3との間は、記述子は、通常動作にあるユニットのクラスCL2と関連付けられる。
【0043】
少なくとも2つ以上の記述子D1、D2、D3、D4、D5の使用が、モニタリングされる電気ユニットの摩耗の状態をより正確または確実に検出することを可能にする。上記の記述子は、電気量に依存する。しかしながら、他の記述子も、電気量と、例えば温度またはユニットの水平位置もしくは垂直位置等の環境量とを組み合わせることによって使用されることができる。そのような量は、環境の関数として記述子を選択するために使用されることができる。記述子の曲線はまた、電気ユニットの特定のタイプの使用の関数として選択されることができる。製品のタイプまたは電気ユニットのタイプおよび前記ユニットの使用を規定することを可能にするパラメータ化データも、ローディング段階の間に対応する学習データと共にロードされる。」
e 段落【0044】~【0046】、【図12】~【図13】
「【0044】
図12は、記述子D1、D2、D3、D4、D5の値の例、およびそれらの比較、または本発明の実施形態に従う記述子の傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5に対する位置付け(positioning)を示す。箱30は、測定曲線CMの5つの記述子としてのフォーマッティングPt1={D1;D2;D3;D4;D5}を示す。箱31は、測定点または測定曲線に対応するこれらの記述子のノルム値Pt1{51;0.996;0.881;-70;-87}を与える。箱32は、最小グローバル偏差(33)からそれらをランク付けすることによって最も近い状況を示す。この場合、3つの摩耗クラス1、2つのクラス2、および1つのクラス3を有する6つの最も近い状況(34)が存在する。5つの最も近い状況に対して決定がなされる場合、結果は、過半数の摩耗クラス、即ち、クラス1となる。」
「【図12】
[図:0001424988000013.jpg]
」
「【0045】
学習データが、例えば接触器等の電気ユニットの摩耗の診断を適用する準備の整ったデバイスにロードされるとき、初期化段階は、モニタリングされるユニットに特有の初期データを格納することを可能にする。これらの初期特性の中には、有利には、特有の参照曲線CRPの獲得がある。この参照曲線は、好ましくは、予め決められた回数の第1の開成に対応するユニットのバーンインの後、および/または測定曲線CMの変動が安定したときに格納される。
【0046】
図13は、曲線の2つの例を示す。特有の参照曲線CRPであってもよい第1の新品ユニット測定曲線CM、および事前にロードされた摩耗ユニット参照曲線CRUであってもよい摩耗ユニット測定曲線CM。ユニットの寿命の間の他の測定曲線CMは、これら2つの参照曲線CRPおよびCRUの間に位置することになる。」
「【図13】
[図:0001424988000014.jpg]
」
f 段落【0064】~【0065】
「【0064】
使用の各カテゴリの摩耗クラスは、記述子によって規定される。それらは、製品の状態を特徴付け、製品のライフスパンの指標を有することを可能にする。
【0065】
主なクラスの非限定的なリストは、
- クラス1:新品の製品またはバーンインされている製品
- クラス2:使用中の製品
- クラス3:摩耗した製品
- クラス4:寿命の最後にある製品
であってもよい。」
(イ) 引用発明の認定
前記(ア)において摘記した事項を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
「 負荷3に電力を供給するか、または負荷3への電力供給を停止するための1つまたは複数の電力電気接点2を備える接触器タイプの電気ユニット1の摩耗を診断するためのデバイス10であって、(【0025】、【0026】)
接点を制御するコイル4の電圧または電流等の電気量を表す信号を受信するものであり、接点の開成時にコイルによって生成される電圧信号を受信するために、コイルに並列接続され、(【0026】)
コイル4に接続されるアナログ・デジタル変換器6、信号を受信して電気ユニットの診断を進めるために変換器に接続される診断モジュール7、および電気ユニットの状態、特にその接点摩耗のレベルを信号伝達するためのデバイス8を備え、(【0026】)
接触器等の電気ユニットの摩耗のモニタリングおよび診断は、前記接触器の開成時のコイルの電圧の分析によって行われ、この電圧は、接触器の可動部の移動速度を表すものであり、この場合、接点の摩耗は、電気ユニットの可動部の移動速度の減少をもたらすものであり、(【0027】)
電気ユニットの摩耗の状態を診断することは、前記ユニットの寿命サイクルの間、著しい数の製品に対して実施される予備学習段階を備えており、この学習段階は、学習データを獲得することを可能にし、学習データは、まずは格納され、モデル化され、保存され、次いでモニタリングされる各ユニットに対してその特有の摩耗のモニタリングのためにロードされるものであり、(【0028】)
電気ユニットの特性の傾向は、記述子D1、D2、D3、D4、D5によって規定され、この記述子は、電気特性、および電気ユニットの寿命中の前記記述子の傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5と関連付けられ、傾向曲線は、ユニットのライフスパンを規定するいくつかの連続的な直線セグメントを有することができ、記述子の、部分、曲線の一部、または値の一部は、電気ユニットの摩耗クラスと関連付けられるものであり、(【0030】)
学習段階はまた、摩耗参照曲線CRUを提供し、摩耗参照曲線CRUは、いくつかの測定曲線および/またはいくつかの摩耗ユニットにわたって平均化された曲線であってもよく、(【0031】)
学習段階の最後に、例えば記述子の傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5および摩耗参照曲線CRU等の学習データは、まずは格納され、モデル化され、保存され、次いで各ユニットに、それ自体の摩耗のモニタリングのためにロードされ、これらの学習データは、1つのかつ同じタイプのユニットと関連付けられるすべてのモニタリング・デバイスに共通であり、(【0032】)
測定曲線CMは、電気ユニットの開成時の制御コイルの電気電圧信号を表すものであり、そのような曲線は、電気ユニットのモニタリングの段階の間の測定曲線CM、および記述子の傾向曲線を作成するための学習段階の間の測定曲線の両方であってもよく、(【0036】)
第1の記述子D1は、測定曲線CMの2つの注目点21と22との間の値の偏差または差20を表すものであり、第1の点21と第2の点22との間の値の偏差は、製品寿命の間に減少される傾向があり、(【0037】)
第2の記述子D2は、測定される信号の測定曲線CMとモニタリングされる製品の初期または特有の参照曲線CRPとの間の偏差、変動、差、または相関を表すものであり、製品寿命の間、記述子D2の値は、1に近い値からゼロに近い値へと変化し、測定曲線CMが特有の参照曲線CRPから離れるほど、ユニットは摩耗されていると見なされることになり、(【0038】)
第3の記述子D3は、測定される信号の測定曲線CMとモニタリングされる製品の摩耗参照曲線CRUとの間の偏差、変動、差、または相関を表すものであり、製品寿命の間、記述子D3の値は、0に近い値から1に近い値へと変化し、測定曲線CMが摩耗参照曲線CRUに近いほど、ユニットは摩耗されていると見なされることになり、(【0039】)
第4の記述子D4は、2つの注目点24と25との間の測定曲線CMの信号の積分23を表すものであり、製品寿命の間、記述子D4の値は、絶対値が減少するものであり、(【0040】)
第5の記述子D5は、測定曲線CMの注目点22の値を表すものであり、この点は、信号の変動の方向の変化点、または前記測定信号のドリフトの兆候の変化であり、注目点は、信号が相対値において減少した後に増大している兆候の第2の変化の点22であってもよく、(【0041】)
記述子のグローバル傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5の始まりに、記述子は、新品のユニットまたはバーンイン(burned in)されているユニットの特定のクラスCL1と関連付けられ、一方で、曲線の終わりには、記述子は、摩耗ユニットのクラスCL3と関連付けられ、クラスCL1とCL3との間は、記述子は、通常動作にあるユニットのクラスCL2と関連付けられるものであり、(【0042】)
使用の各カテゴリの摩耗クラスは、記述子によって規定され、それらは、製品の状態を特徴付け、製品のライフスパンの指標を有することを可能にするものであり、(【0064】)
- クラス1:新品の製品またはバーンインされている製品
- クラス2:使用中の製品
- クラス3:摩耗した製品
- クラス4:寿命の最後にある製品
であってもよい、(【0065】)
デバイス10。」
イ 引用文献6~8に記載された事項と技術常識の認定
(ア) 引用文献6に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された文献であって、優先日前に発行された特開2018-147443号公報(以下「引用文献6」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0001】
開示の実施形態は、故障予知方法、故障予知装置および故障予知プログラムに関する。」
「【0014】
図1Aに示すように、対象機械100は、センサS-1~S-nのセンサ群を備える。そして、本実施形態に係る故障予知方法は、かかるセンサ群からのセンサデータに基づき、センサS-1~S-n間の相関性(以下、「センサ相関性」と言う場合がある)を把握し、かかるセンサ相関性の変化に基づいて対象機械100全体の挙動の変化を把握するものである。
【0015】
具体的には、図1Bに示すように、本実施形態に係る故障予知方法では、「正常状態分」のセンサ相関性を示す各センサS-1~S-nのセンサデータを用いて機械学習を実行し(ステップS1)、センサ相関モデル12cを生成する。なお、本実施形態では、機械学習のアルゴリズムとしてディープラーニングを用いる。ディープラーニングについては公知のため、詳細な説明は省略する。」
「【図1A】
[図:0001424988000015.jpg]
」
「【図1B】
[図:0001424988000016.jpg]
」
(イ) 引用文献7に記載された事項
当審において新たに引用する文献であって、優先日前に発行された次の文献(以下「引用文献7」という。)には、次の事項が記載されている。
<引用文献7>
福島俊一、藤巻遼平、岡野原大輔、杉山将「ビッグデータ×機械学習の展望:最先端の技術的チャレンジと広がる応用」情報管理、60巻、8号、2017年11月、543~553頁
a 543頁左欄1行~544左欄下から4行
「1. はじめに
第3次AIブームといわれる昨今,AI(人工知能:Artificial Intelligence)に関する話題が新聞・テレビ・ネット等のメディアで取り上げられない日がないほどである。この第3次AIブームを牽引しているのは機械学習(machine learning)技術の進化だといわれる。機械学習は,データの背後に潜む規則性や特異性を発見することにより,人間と同程度あるいはそれ以上の学習能力をコンピューターで実現しようとする技術である。これを用いると,過去の事例・観測データからの学習に基づく,モノやコトの判別・分類,予測,異常検知等の知的な判断をコンピューターで実現可能になる(図1)。
第2次AIブーム(1980年代)のときには,人手で記述したルールによって,人間が行うような知的な判断をコンピューターで再現しようというアプローチが盛んに試みられた。しかし,人手によるルール記述は,規模拡大・品質維持等に限界があり,適用される場面がなかなか広がらなかった。それに対して,機械学習のアプローチをとることで,事例に基づいて観測データから帰納的にルールを獲得していけるようになり,人手によるルール記述の限界を超えることが可能になった。
このようなアプローチが有効になった背景には,ビッグデータ(big data)が利用可能になったことがある。つまり,ネット上のさまざまなサービスや実世界に配置されたさまざまなセンサーから大量データが集まるようになり,また,コンピューター性能の向上によって大量データの高速処理が可能になったことが,機械学習技術の進化に結びついた。
現在,機械学習技術の応用は,ビッグデータの活用と相まって,幅広い分野に広がっている。たとえば,画像認識,音声認識,医療診断,文書分類,スパムメール検出,広告配信,商品推薦,囲碁・将棋等のゲームソフト,商品・電力等の需要予測,与信,不正行為の検知,設備・部品の劣化診断,ロボット制御,車の自動運転等が挙げられる。ブームといわれること自体には終わりが来るとしても,機械学習技術が,さまざまな問題解決に有効な手段として,社会にいっそう普及・浸透していくことは間違いない。
本稿では,機械学習技術がさまざまな問題解決に適用されていくうえで,特に重要な技術的チャレンジの方向性を,取り組み事例とともに紹介する。機械学習のアルゴリズムとしてさまざまなものが提案・実装されているが,特に現在のAIブームの中心にあるのは深層学習(deep learning)である。以下では,まず深層学習の適用からみえてきた技術課題を踏まえたうえで,技術的チャレンジの方向性を論じる。」
b 544頁の「図1 機械学習技術」
「
[図:0001424988000017.jpg]
」
c 544頁右欄12行~545頁左欄5行
「2.1 深層学習のインパクト
深層学習は多層ニューラルネットワーク(Deep Neural Network: DNN)を用いた機械学習手法である。実際には深さだけでなく幅も広く,従来のニューラルネットワークでは,幅が数百ノード,深さが3~5層程度だったのに対して,深層学習で使われるもの(図2)は,幅が数百万ノード,深さは数百層に達するものもある。脳神経回路の構造をヒントにしており,各ノードで重み付き入力に対する出力計算を行いながら,その結果を伝播していくことで,入力層に対する最終的な出力層の結果を得る。入力層と出力層のペアに対して教師データを与え(たとえば,動物の写真を入力,その動物名を出力として与える等),実際の出力と教師出力との差分を減らすように,反復計算によって各ノードの重みを変化させる誤差逆伝播法(Backpropagation)等の手法によって学習が実現される。なお,深層学習で用いるDNNとして,図2には各層が直列につながったシンプルな構造を例示したが,畳み込み・分岐・迂回路・再帰・メモリー等を含む複雑な構造のものも用いられるようになっている。」
d 545頁左欄の「図2 多層ニューラルネットワーク」
「
[図:0001424988000018.jpg]
」
e 545頁右欄11行~546頁左欄2行
「深層学習は,画像データだけでなく,音声データ,テキストデータ,センサーデータ等の入力に対しても,(1)(2)を通したEnd-to-Endの学習をさせることが可能である。画像認識の他,音声認識,自然言語解析,センサーデータ解析,および,それらを複合したマルチモーダル解析等へ応用が広がっている。さらに,認識・解析の逆過程である生成にも深層学習は適用可能で,画像の生成・変換への応用も盛んに行われている(テキストからの画像生成,画像の高解像度化,自動着色等)。」
f 545頁右欄の「図4 機械学習を用いた処理ステップの自動化範囲」
「
[図:0001424988000019.jpg]
」
(ウ) 引用文献8に記載された事項
当審において新たに引用する文献であって、優先日前に発行された次の文献(以下「引用文献8」という。)には、次の事項が記載されている。
<引用文献8>
Kai WANG、Lifeng WU、Jing TIAN、Aidong XU、Michael PECHT「電子機器の故障予知と健全性管理の展望」日本機械学会誌、2015年7月、118巻、1160号、404~408頁
a 404頁左欄下から2行~同頁右欄下から7行
「1. はじめに
電子機器や電子システムには,必要な機能と性能を提供するための電子部品が大量に使用されている.しかし,これらの電子部品は,製品やシステムを構成する部品の中で最初に故障する部品である場合が多い.システムの稼働中に電子部品の故障が発生すると,システムの機能に影響を及ぼすとともに,莫大なコストが発生する可能性があるため,電子システムの故障診断および予知を行うことは重要である.従来から用いられている電子部品の信頼性評価方法は,実使用条件下のシステムから得られたin situのデータではなく,蓄積された過去のフィールドデータの平均値(Mil-Hdbk-217 , Telcordia SR -332, CNET/RDFなど)を基準としているため,正確性と信頼性に問題がある.「故障予知および健全性管理(Prognostics and Health Management :PHM)」は,製品の信頼性をその実使用条件下において評価し,故障の有無を判定し,システムリスクを軽減するための技術と乎法からなる,有効な手法である.企業,政府,アカデミアの間でも,電子製品および電子システムの持続的な信頼性や健全性を監視し,その残余耐用年数(Remaining Useful Life :RUL)を予測するための手段として,PHMの導入に対する関心が高まりつつある.PHMは製品稼働時の信頼性の評価に使われるだけではなく,製品の回収や廃棄の判断にも応用可能である.
したがって,PHMは,システムのライフサイクル全般にわたって生じる電子部品の信頼性,可用性,保守性に関わる問題を解決するための,最も有望な手法の一つであると考えられる.
現在,多くの組織や研究者が,故障を事前に警告することで,電子システムのメンテナンス時期の予測,システム寿命の延長,間欠的に発生する故障の診断を可能にすることを目的にPHMの研究・開発を行っている.本稿では,主なPHM研究者の研究・開発活動を紹介しながら,PHMの研究・開発における今後の課題や将来展望について述べる.」
b 404頁右欄下から6行~405頁右欄11行
「2. PHM技術の概要
診断と予知の関係を図1に示す.この図は,ある機器の障害が起こるまでの長期間にわたる劣化のプロセスを表している.図1に示すとおり,診断とは基本的に,すでに発生した故障の原因や性質を調査または分析するための手段であるのに対して,予知の主な目的は,故障が発生する前に,劣化の過程で得られた特定の所見や関連データをもとに,故障の発生を予測することである.電子部品を対象としたさまざまな故障診断・予知方法が開発されている.組込み試験(Built-In Test :BIT)は,障害の特定および確認を目的とする,機器に組み込まれたハードウェア・ソフトウェア診断手法であり,エラー検出・訂正回路,完全自己検査回路,自己検証回路からなる,古典的な電子部品の健全性モニタリング手法である.電子部品の故障予知におけるPHM手法の概要を図2に示す.まず,仮想寿命評価を行う.この段階では,設計データ,予想されるライフサイクル条件,故障モード・メカニズム・影響解析(Fai1ure Modes , Mechanisms , and Effects Analysis :FMMEA),故障物理 (Physics of Fallur:PoF)モデルに基づいて仮想寿命が評価され,重大な故障モードおよび故障メカニズムの優先順位が決定される.次に,PHMのモニタリング項目とセンサ位置を設定する.これは,仮想寿命評価の結果と,既存のセンサおよびモニタリングデータ,BITの結果,およびメンテナンス記録の内容を併せて判断する.最後に,収集された動作データおよび環境データから,後述する予知手法を用いて製品の健全性を評価する.
そして,得られたPHM情報をもとに,メンテナンスの予測と,ライフサイクルコストを最小化する,または稼働率などのその他の機能を最大化するための各種判断を行う.
通常,PHMは,PoFに基づくアプローチまたはデータ駆動型(data-driven)のアプローチのいずれかを用いて行われる.PoFに基づくアプローチでは、各種物理現象と,システム内での部品間の相互作用が考慮される.一方,データ駆動型アプローチでは,統計的パターン認識と機械学習を利用してパラメータデータの変動を検出することにより,診断および予知指標が算出される.なお,電子部品を対象とした古典的なPoF手法には,ヒューズ,カナリアデバイス,消費寿命モニタリング(Life Consumption Monitoring :LCM)などがある.最近では,RULの推定方法として.PoFに基づくアプローチとデータ駆動型アプローチの長所を組み合わせた融合
法(fusion methods)が提唱されている.これらの手法の詳細については次章で述べる.」
c 405頁の左欄の「図1 診断と予知の関係」
「
[図:0001424988000020.jpg]
」
d 405頁の左欄の「図2 PHM手法の概要」
「
[図:0001424988000021.jpg]
」
e 406頁左欄下から18行~同頁右欄11行
「 3.2 データ駆動型のPHM手法
データ駆動型のアプローチは,利用可能な過去の情報に基づいて,電子システムの健全性と信頼性に関する判断,推定,予測を,統計学的および確率論的に導く手法である.
データ駆動型の手法においては,システムデータの統計的特性は,当該システム内に障害が発生するまで比較的変化せずに維持される,という基本的な考え方に基づいている.
データ駆動型アプローチの一般的な手順は以下のとおりである.まず,システムを監視するセンサーネットワークを利用して,in situのデータを取得する.次に,システムの健全状態(State of Health :SOH)に関する情報を含有する特徴を,センサーシグナルからノイズ除去,外れ値除去,冗長抑制などの処理を行って抽出する.最後に,機械学習技術などの意思決定手法を用いて,抽出された特徴からシステムのSOHを推定する.電子システムの健全性モニタリングの実施に当たっては,健全なシステム挙動と不健全なシステム挙動の違いを理解する必要がある.そのため,データ駆動型手法を用いた健全性モニタリングにおいては,機械学習技術が重要な要素となる.機械学習技術は,過去データの使用の有無によって,教師あり学習(supervised leaning)と教師なし学習(unsupervised leaning)とに分けられる.教師あり学習では,過去データを用いてアルゴリズムを訓練し,複数のSOH領域を作成する.現在のシステムにおけるSOHは,現在のデータをこれらの領域のいずれかに分類することで判定される.広く用いられている教師あり学習技術の例としては,サポートベクターマシン(Support Vector Machine :SVM),人工ニューラルネットワーク,ファジー人工ニューラルネットワークなどが挙げられる.」
(エ) 技術常識の認定
前記(ア)~(ウ)に摘記した引用文献6~8の摘記事項に例示されるように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であると認められる(以下「技術常識1」という)。
<技術常識1>
「ディープラーニング(深層学習)等の機械学習法は、ビッグデータを活用して行われるものであり、センサーデータを教師データとして、機器の劣化や故障の診断、予測に応用できること。」
(3) 対比・判断
ア 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
(ア) 構成Xの観点
引用発明の「負荷3に電力を供給するか、または負荷3への電力供給を停止するための1つまたは複数の電力電気接点2を備える接触器タイプの電気ユニット1」は、本件補正発明の「電気機械スイッチング装置(1000)」に相当する。
そうすると、引用発明の「接触器タイプの電気ユニット1の摩耗を診断するためのデバイス10」は、本件補正発明の「電気機械スイッチング装置(1000)の摩耗を検出する装置(100)」に相当する。
したがって、本件補正発明と引用発明は、「電気機械スイッチング装置の摩耗を検出する装置」の発明である点において一致する。
(イ) 構成Aの観点
a 構成Aは、「前記電気機械スイッチング装置の少なくとも1つの所定の動作パラメータを検出するように形成される測定装置」を含むことである。
b(a) 引用発明においては、「接触器等の電気ユニットの摩耗のモニタリングおよび診断は、前記接触器の開成時のコイルの電圧の分析によって行われ、この電圧は、接触器の可動部の移動速度を表すものであり、この場合、接点の摩耗は、電気ユニットの可動部の移動速度の減少をもたらすものであ[る]」ところ、引用発明の「接触器の可動部の移動速度を表す」「前記接触器の開成時のコイルの電圧」は、本件補正発明の「前記電気機械スイッチング装置(1000)の少なくとも1つの所定の動作パラメータ」に相当する。
(b) そうすると、引用発明の「コイル4に接続されるアナログ・デジタル変換器6」は、本件補正発明の「前記電気機械スイッチング装置(1000)の少なくとも1つの所定の動作パラメータを検出するように形成される測定装置(10)」に相当する。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記電気機械スイッチング装置の少なくとも1つの所定の動作パラメータを検出するように形成される測定装置」を備える点。
(ウ) 構成Bの観点
a 構成Bは、「機械深層学習方法に基づいて、トレーニングデータの形のビッグデータを用いて、前記電気機械スイッチング装置の前記検出された所定の動作パラメータから前記電気機械スイッチング装置のその時々の摩耗状態を求めるように形成される評価装置」を含むことである。
b(a) 引用発明においては、「電気ユニットの摩耗の状態を診断することは、前記ユニットの寿命サイクルの間、著しい数の製品に対して実施される予備学習段階を備えており」、「学習段階の最後に、例えば記述子の傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5および摩耗参照曲線CRU等の学習データは、まずは格納され、モデル化され、保存され、次いで各ユニットに、それ自体の摩耗のモニタリングのためにロードされ」る。
ここで、本件補正発明の「機械深層学習方法」において用いられる「トレーニングデータの形のビッグデータ」と、引用発明の「記述子の傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5および摩耗参照曲線CRU等の学習データ」は、「学習データ」である点において共通する。
(b) 引用発明においては、「記述子のグローバル傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5の始まりに、記述子は、新品のユニットまたはバーンイン(burned in)されているユニットの特定のクラスCL1と関連付けられ、一方で、曲線の終わりには、記述子は、摩耗ユニットのクラスCL3と関連付けられ、クラスCL1とCL3との間は、記述子は、通常動作にあるユニットのクラスCL2と関連付けられるものであり」、「使用の各カテゴリの摩耗クラスは、記述子によって規定され、それらは、製品の状態を特徴付け、製品のライフスパンの指標を有することを可能にするもの」であるから、引用発明の「電気ユニット」の「摩耗クラス」として「カテゴリ」化された「製品の状態」は、本件補正発明の「前記電気機械スイッチング装置(1000)」の「摩耗状態」に相当する。
そして、前記(a)を踏まえると、本件補正発明と引用発明は、「前記電気機械スイッチング装置の摩耗状態を求める」ために「学習データ」を用いる点において共通する。
(c) そうすると、本件補正発明と引用発明は、「学習データを用いて、前記電気機械スイッチング装置の摩耗状態を求める」という点において共通する。
c(a) 引用発明の「記述子D1、D2、D3、D4、D5」については、次のiからvに示すとおり「測定曲線CM」に基づくものであるといえる。
i 「第1の記述子D1」:「測定曲線CMの2つの注目点21と22との間の値の偏差または差20を表す」
ii 「第2の記述子D2」:「測定される信号の測定曲線CMとモニタリングされる製品の初期または特有の参照曲線CRPとの間の偏差、変動、差、または相関を表す」
iii 「第3の記述子D3」:「測定される信号の測定曲線CMとモニタリングされる製品の摩耗参照曲線CRUとの間の偏差、変動、差、または相関を表すもの」
iv 「第4の記述子D4」:「2つの注目点24と25との間の測定曲線CMの信号の積分23を表す」
v 「第5の記述子D5」:「測定曲線CMの注目点22の値を表す」
(b) ここで、引用発明の「測定曲線CM」は、「電気ユニットの開成時の制御コイルの電気電圧信号を表すものであり、そのような曲線は、電気ユニットのモニタリングの段階の間の測定曲線CM、および記述子の傾向曲線を作成するための学習段階の間の測定曲線の両方であってもよ[い]」としているから、引用発明においては、測定された「電気ユニットの開成時の制御コイルの電気電圧信号」の波形を図5に示されたような「測定曲線CM」とし、前記(a)に従って「記述子D1、D2、D3、D4、D5」を定め、「記述子の傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5」(図7~11を参照)から、「摩耗クラス」を求めていることは明らかである。
(c) そうすると、引用発明においては、測定された「電気ユニットの開成時の制御コイルの電気電圧信号」から「電気ユニット」の「摩耗クラス」として「カテゴリ」化された「製品の状態」を求めていることになり、前記b(b)を踏まえると、本件補正発明と引用発明は、「学習データを用いて、前記電気機械スイッチング装置の前記検出された所定の動作パラメータから前記電気機械スイッチング装置の摩耗状態を求める」という点において共通する。
d(a) 審尋における審尋事項6で指摘した事項(前記(1)イ(ア)参照)及び回答書における「審尋事項6」に対する請求人の回答を踏まえると、本件補正発明の「電気機械スイッチング装置(1000)のその時々の摩耗状態」とは、「動作パラメータを測定した時点における電気機械スイッチング装置の摩耗状態」を意味すると解するのが相当である。
(b) 引用発明においては、
「- クラス1:新品の製品またはバーンインされている製品
- クラス2:使用中の製品
- クラス3:摩耗した製品
- クラス4:寿命の最後にある製品
であってもよい」としており、前記cを踏まえると、製品の使用開始から寿命が尽きるまでの時間の経過に沿って、「電気ユニットの開成時の制御コイルの電気電圧信号」を測定した時点における「電気ユニット」の「摩耗クラス」として「カテゴリ」化された「製品の状態」を求めているといえる。
(c) 前記(a)において示した解釈を踏まえると、引用発明において、製品の使用開始から寿命が尽きるまでの時間の経過に沿って、「電気ユニットの開成時の制御コイルの電気電圧信号」を測定した時点における「電気ユニット」の「摩耗クラス」として「カテゴリ」化された「製品の状態」を求めることは、本件補正発明の「前記電気機械スイッチング装置のその時々の摩耗状態を求める」ことに相当する。
d 引用発明の「信号を受信して電気ユニットの診断を進めるために変換器に接続される診断モジュール7」及び「電気ユニットの状態、特にその接点摩耗のレベルを信号伝達するためのデバイス8」は、本件補正発明の「評価装置」に相当する。
e 以上a~dを踏まえると、本件補正発明と引用発明の構成Bの観点における一致点及び相違点は、次の(a)及び(b)に示すとおりである。
(a) 構成Bの観点における一致点
「学習データを用いて、前記電気機械スイッチング装置の前記検出された所定の動作パラメータから前記電気機械スイッチング装置のその時々の摩耗状態を求めるように形成される評価装置」を備える点。
(b) 構成Bの観点における相違点
本件補正発明においては、
「学習データ」が「トレーニングデータの形のビッグデータ」であり、
「学習データ」を用いて学習する際に基づく「学習方法」が「機械深層学習方法」であるのに対して、
引用発明においては、
「学習データ」が「記述子の傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5および摩耗参照曲線CRU等」であり、
「学習データ」を用いて学習する際に基づく「学習方法」が「機械深層学習方法」であることの限定は無い点。
(エ) 構成Cの観点
a 構成Cは、「前記評価装置(20)が、前記求められたその時々の摩耗状態と前記ビッグデータとに基づいて、前記電気機械スイッチング装置(1000)の将来の摩耗経過を予測できるように形成される」ことである。
b 本件補正発明は構成Cの特定があるのに対して、引用発明は構成Cの特定が無い点において相違する。
イ 一致点及び相違点の認定
前記アの対比分析の検討結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、次の一致点において一致し、以下の相違点において相違する。
(ア) 一致点
「電気機械スイッチング装置の摩耗を検出する装置であって、
前記装置が、
前記電気機械スイッチング装置の少なくとも1つの所定の動作パラメータを検出するように形成される測定装置と、
学習データを用いて、前記電気機械スイッチング装置の前記検出された所定の動作パラメータから前記電気機械スイッチング装置のその時々の摩耗状態を求めるように形成される評価装置と
を含む、装置」である点。
(イ) 相違点
本件補正発明においては、
「学習データ」が「トレーニングデータの形のビッグデータ」であり、
「学習データ」を用いて学習する際に基づく「学習方法」が「機械深層学習方法」であり、
「前記評価装置が、前記求められたその時々の摩耗状態と前記ビッグデータとに基づいて、前記電気機械スイッチング装置の将来の摩耗経過を予測できるように形成される」(構成C)のに対して、
引用発明においては、
「学習データ」が「記述子の傾向曲線CD1、CD2、CD3、CD4、CD5および摩耗参照曲線CRU等」であり、
「学習データ」を用いて学習する際に基づく「学習方法」が「機械深層学習方法」であることの限定は無く、
本件補正発明の構成Cを備えていない点。
ウ 判断
(ア) 構成Cの解釈について
回答書における「審尋事項7-3」に対する請求人の回答を踏まえると、構成Cにおいては、「前記求められたその時々の摩耗状態と前記ビッグデータとに基づいて」と規定されていても、構成Bの「摩耗状態」を求めるときと、その後の「将来の摩耗経過」を予測するときの二段階のステップで「前記ビッグデータ」を合計二回用いていると理解すべきではなく、「ビッグデータ」の利用は一回であると解するのが相当である。
(イ) 相違点の検討について
a 引用発明の「予備学習段階」は「前記ユニットの寿命サイクルの間、著しい数の製品に対して実施される」ものであるところ、「接点の開成時にコイルによって生成される電圧信号」から構築される「学習データ」は、膨大な規模のセンサーデータ群を構成するといえる。
b ここで、「ディープラーニング(深層学習)等の機械学習法は、ビッグデータを活用して行われるものであり、センサーデータを教師データとして、機器の劣化や故障の診断、予測に応用できること」は、当業者にとって技術常識である(前記技術常識1を参照)。
c そして、前記(ア)に示した構成Cの解釈を前提として、前記技術常識1を踏まえると、引用発明の「学習データ」を教師データ(トレーニングデータ)の形のビッグデータとして取り扱うことによりディープラーニング(機械深層学習方法)を行い、電気ユニットの現在の摩耗状態(その時々の摩耗状態)を診断するだけでなく、将来の摩耗状態を予測するように構成することは、当業者ならば自明な設計変更にすぎない。
d 相違点は、「将来の摩耗経過」という用語を用いているところ、「将来の摩耗状態」という語と区別できるものではない。なお、「将来の摩耗経過を予測[すること]」が「残寿命」を予測することだと善解して限定的に解釈したとしても、機器の劣化や故障の予測(予知)に「寿命」が含まれることは自明である(前記(2)イ(ウ)の引用文献8の摘記事項a及びb参照)。
e したがって、引用発明において、前記相違点に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(ウ) 総合評価
前記(イ)において検討したとおり、前記相違点に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、引用発明及び技術常識1に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
また、本件補正発明の奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 請求人の主張について
ア 審判請求書の主張
(ア) 審判請求書の主張の概要
本件補正発明では、機械深層学習方法に基づいて、ビッグデータを用いて電気機械スイッチング装置の継続的な動作中に、電気機械スイッチング装置の摩耗を予測するのに対して、引用文献1では、電気機械スイッチング装置の継続的な動作中に、電気機械スイッチング装置の将来の摩耗を予測することを可能にするために、ビッグデータを用いた機械深層学習方法を使用することについては、記載も示唆もない。
(イ) 審判請求書の主張に対する当審の判断
請求人の主張は、要するに前記相違点に係る構成についてのものであるところ、前記相違点については、前記(3)ウにおいて説示したとおり、引用発明及び技術常識1に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。
ア 上申書の主張
(ア) 上申書の主張の概要
請求人は、令和5年8月14日に提出された上申書において、請求項1について次の補正案を示している。
<補正案>
「【請求項1】
電気機械スイッチング装置(1000)の摩耗を検出する装置(100)であって、
前記装置(100)が、
前記電気機械スイッチング装置(1000)の少なくとも1つの所定の動作パラメータを検出するように形成される測定装置(10)と、
機械深層学習方法に基づいて、トレーニングデータの形のビッグデータを用いて、前記電気機械スイッチング装置(1000)の前記検出された所定の動作パラメータから前記電気機械スイッチング装置(1000)のその時々の摩耗状態を求めるように形成される評価装置(20)とを含み、
前記評価装置(20)が、前記求められたその時々の摩耗状態と前記ビッグデータとに基づいて、前記電気機械スイッチング装置(1000)の将来の摩耗経過を予測できるように形成され、
前記測定装置(10)が、前記電気機械スイッチング装置(1000)の継電器ソケット内に集積されるように形成され、および
前記評価装置(20)が、前記電気機械スイッチング装置(1000)の継電器ソケット内に集積され、前記評価装置(20)がさらに、別の電気機械スイッチング装置(1000)の別の継電器ソケット内に集積された複数の測定装置(10)の共通のヘッドモジュールとして使用されるように形成される、装置(100)。」
(イ) 上申書の主張に対する当審の判断
審判合議体は、上記補正案を検討したところ、以下のa及びbの心証を有するため、上記補正案を受け入れることはできないと判断した。
a 「測定装置(10)」や「評価装置(20)」が、「電気機械スイッチング装置(1000)の継電器ソケット内に集積されるように形成され」るように構成することは、装置の小型化の観点から当業者が適宜なし得た設計事項にすぎない。
b 「評価装置(20)」がさらに、「別の電気機械スイッチング装置(1000)の別の継電器ソケット内に集積された複数の測定装置(10)の共通のヘッドモジュールとして使用されるように形成される」ことについては、引用文献1の段落【0026】の「診断モジュール7はまた、別の、外部のまたは遠隔処理モジュール9と接続されることができ、それを用いてデータを処理することができる。この場合、診断デバイスは、2つ以上の部分に分かれている。外部にある部分は、いくつかのデバイスに共通であるか、または中央集中されることも可能である。」との記載を踏まえると、複数ある部品に共通する機能を一つにまとめるという観点が示唆されているといえるから、当業者が適宜なし得た設計事項にすぎない。
(5) 小括
以上検討のとおり、本件補正発明は、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明の認定
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~15に係る発明は、令和4年11月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は前記第2の1(1)に摘記した事項により特定されるとおりである。
2 拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由は、次のとおりである。
本願発明は、下記の引用文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1:特開2018-141774号公報
引用文献2:特開2018-129007号公報
引用文献3:特開2017-58954号公報
引用文献4:特開2018-72029号公報
引用文献5:特開2018-132809号公報
引用文献6:特開2018-147443号公報
3 引用文献に記載された事項及び技術常識
前記引用文献1には、前記第2の3(2)ア(イ)において認定したとおりの引用発明が記載されていると認められる。
また、前記技術常識1は、前記第2の3(2)イ(エ)において認定したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明の「評価装置(20)」について、「前記求められたその時々の摩耗状態と前記ビッグデータとに基づいて、前記電気機械スイッチング装置(1000)の将来の摩耗経過を予測できるように形成される」という限定を省いたものである(前記第2の2参照)。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、当該構成の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の3において検討したとおり、引用発明及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び技術常識1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上検討のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-009307