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特許拒絶査定不服審判

2023-006393

発振機構又は脱進機構のための剛性測時器構成要素、及びそのような構成要素を含む測時器ムーブメント

審判番号
2023-006393
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-206489
請求日
2023年04月19日
審決日
2024年02月07日
公報発行日
2024年07月26日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
  • 【請求人代理人】山川 茂樹
審判長/審判官
  • 審判長 濱野 隆
  • 審判官 田邉 英治
  • 審判官 佐藤 久則
分類
P18 .121-Z (G04B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

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特願2020-206489「発振機構又は脱進機構のための剛性測時器構成要素、及びそのような構成要素を含む測時器ムーブメント」拒絶査定不服審判事件〔令和3年7月1日出願公開、特開2021-99324〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、令和2年12月14日を出願日とする外国語書面出願(パリ条約による優先権主張 2019年12月20日 欧州特許庁)であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。なお、以下、2019年12月20日を「優先日」という。 令和2年12月14日 :翻訳文の提出 令和3年11月26日付け:拒絶理由通知書 令和4年 3月 7日 :意見書、手続補正書の提出 同年 5月31日付け:拒絶理由通知書 同年 9月14日 :意見書、手続補正書の提出 同年12月 8日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) (同月20日 :原査定の謄本の送達) 令和5年 4月19日 :審判請求書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1~12に係る発明は、令和4年9月14日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次に特定されるとおりである。 「【請求項1】 測時器ムーブメントの発振機構又は脱進機構のための剛性測時器構成要素(6、7、8)であって、前記構成要素は、主平面(P)に沿って延在し、複合材料(1)から作製した少なくとも一部を含む、構成要素(6、7、8)において、前記複合材料(1)は、母材(2)と、前記母材(2)内に分散する多数のナノチューブ又はナノワイヤ(3)とを備え、前記ナノチューブ又はナノワイヤ(3)は、前記構成要素の前記平面(P)に実質的に直交する軸(A)と実質的に平行に配設し、前記母材(2)は剛性材料(4)から形成され、前記剛性材料(4)が前記ナノチューブ又はナノワイヤ(3)の隙間に充填され、該ナノチューブ又はナノワイヤ(3)を互いに接合して当該ナノチューブ又はナノワイヤ(3)の全ての機械的特性を修正して前記母材(2)を剛性にして撓みを防止するよう構成され、前記剛性材料(4)は、前記構成要素(6、7、8)の弾性変形を阻止する剛性機械的特性を有し、前記構成要素内に含まれる前記剛性材料(4)は、2GPaよりも大きいヤング率を有することを特徴とする、構成要素(6、7、8)。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由のうち、本願発明に係る理由の概要は、次のとおりである。 本願発明は、優先日前に日本国内又は外国において発行された下記の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1 特表2019-518965号公報 引用文献2 特開2008-116205号公報 第4 当審の判断 1 引用文献等に記載された事項及び引用発明の認定 (1) 引用文献1に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された引用文献1(特表2019-518965号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は、当合議体が付したものであり、以下同様である。 ア 【0001】~【0005】 「【技術分野】 【0001】 本発明は、時計ムーブメント用部品、時計ムーブメントおよび時計、ならびに時計ムーブメント用部品の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 時計ムーブメントは、通常、レギュレータ、時計ムーブメントの時間基準を決定する機械振動子を含む。このレギュレータは、テンプと呼ばれる振動錘と連携するコイルばねを含む。このコイルばねは、時計ムーブメントの計時精度を決定する極端な寸法精度を必要とする。 【0003】 コイルばねの一例は、特にJP2008116205Aに記載されている。このコイルばねは、マトリックス内に分散されかつコイルの長手方向に整列されたカーボンナノチューブで強化された、黒鉛およびアモルファス炭素のマトリックスを含む複合材料から作られている。ナノチューブは、約10nmの直径および約10ミクロンの長さを有する。コイルを製造するために、ナノチューブ、黒鉛、およびアモルファス炭素を用いて均質な混合物を最初に製造し、次に混合物を押出してコイルの長さ内にナノチューブを整列させることを目的としてコイルばねの形状を得る。 【0004】 このようなコイルばねは多くの欠点を有する。 ‐押出しプロセスは高い機械的精度を許容せず、許容できない計時誤差をもたらす。 ‐ナノチューブは均質混合物中にランダムに配置されているので、ナノチューブの配向はあまり制御されていない。 ‐この方法は、コイルばねの規則性をもたらす、材料の良好な均質性を確保するように実施するのが複雑である。 ‐均質性を維持しながら混合物の量を非常に正確に調節しなければならないので、コイルばねの所望の機械的性質を得るのが複雑である。 【0005】 これらの欠点は、少なくとも部分的に、時計ムーブメント用の他の可撓性部品にも存在する。」 イ 【0008】~【0015】 「【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は、上記の欠点のいくつかまたはすべてを克服することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 この目的のために、本発明は、少なくとも1つの可撓性部分を含み、前記可撓性部分が、軸に垂直な平面内で曲がるように構成され、かつ、マトリックス内に拘束されたナノチューブを含む複合材料で作られる、時計ムーブメント用部品であって、ナノチューブがナノチューブのフォレストを形成しており、ナノチューブが並置され、概して軸に平行に配置されることを特徴とする、時計ムーブメント用部品を提供する。 【0010】 これらの構成により、ナノチューブ成長およびナノチューブのフォレストへのマトリックスの浸透のプロセスによって得られる、ナノチューブの配向および完全に制御され再現可能な均質性を有する、数ナノメートルの精度の時計ムーブメント用部品を作製することができる。時計ムーブメント用部品がコイルばねの場合、結果はコイルばねの卓越した計時精度である。 【0011】 さらに、例えばマトリックス材料および/またはナノチューブのフォレストに浸透するマトリックスの量を調節することによって、時計ムーブメント用部品の所望の機械的特性を容易に得ることができる。 【0012】 上述の特許とは異なり、ナノチューブは、曲げ面に対して垂直に配向されており、その面内には配向されていない。これは、当業者に知られている、それらの機械的曲げ特性を使用するためにコイルの長さ内にナノチューブを整列させることを助言するJP2008116205Aの教示に反する。対照的に、本発明の時計ムーブメント用部品では、上述の文献JP2008116205Aとは異なり、ナノチューブは、それらの機械的特性のためには使用されず、時計ムーブメント用部品の機械的特性に寄与するとしても、ごくわずかしか寄与しない(部品の曲げはナノチューブの曲げをもたらさない)が、代わりに成長におけるそれらの幾何学的精度のために使用され、機械的特性は浸透されたマトリックスによって提供される。 【0013】 さらに、このようにして得られた複合材料は、軸に垂直な平面内で特に可撓性であり(コイルばねの場合にはテンプの質量を減少させることができる)、この平面外では実質的に非可撓性である 時計のコイルばねにとって特に重要である)。 【0014】 最後に、上記の構成は、一般に「ウェハ」という用語で表されるシリコンウェハなどの基板上にナノチューブを成長させることによって、製造プロセスを簡略化することを可能にする。 【0015】 本発明による時計ムーブメント用部品の様々な実施形態では、以下の構成の1つまたは複数をさらに使用することができる: ‐ナノチューブは炭素からなる。 ‐ナノチューブは多層である。 ‐ナノチューブは、7から30nmの間(または任意選択的に2から10nmの間、好ましくは3から7nmの間、特に約5nm)に含まれる直径を有する。 ‐ナノチューブは、200から400ミクロンの間(または任意選択的に100から200ミクロンの間、特に約150ミクロン)に含まれる長さを有する。 ‐マトリックスは炭素からなる。 ‐前記時計ムーブメント用部品は、軸を中心に振動するように構成されたコイルばねである。 ‐前記時計ムーブメント用部品は、時計ムーブメント用振動子である。 ‐前記時計ムーブメント用部品はぜんまいである。」 ウ 【0021】、【図1】 「【発明を実施するための形態】 【0021】 様々な図において、同一の参照符号は同一または類似の要素を示す。 図1は、 ‐ケース2と、 ‐ケース2内に含まれる時計ムーブメント3と、 ‐一般に、ネジ巻き機構4と、 ‐文字盤5と、 ‐文字盤5を覆う透明カバー6と、 ‐透明カバー6と文字盤5との間に配置され、時計ムーブメント3によって作動される、例えば、それぞれ時と分のための2つの針7a、7bを含む時間インジケータ7と、 を備える、腕時計のような時計1を表す。」 【図1】 「 [図:0001411958000001.jpg] 」 エ 【0022】、【図2】 「【0022】 図2に概略的に表されるように、時計ムーブメント3は、例えば、 ‐機械的エネルギーを貯蔵する装置8、典型的にはぜんまいと、 ‐機械的エネルギーを貯蔵する装置8によって駆動される機械式動力伝達装置9と、 ‐上述の時間インジケータ7と、 ‐エネルギー分配ホイール10(例えば、スイスアンカーエスケープメント又は同様のもののガンギ車)と、 ‐エネルギー分配ホイール10を逐次的に保持および解放するのに適したロック機構11(例えばスイスアンカーまたは同様の物)と、 ‐エネルギー分配ホイール10が一定の時間間隔で動かされるようにロック機構11を規則的に動かすようにロック機構11を制御する振動機構であるレギュレータ12と、 を備えることができる。」 【図2】 「 [図:0001411958000002.jpg] 」 オ 【0023】~【0026】、【図3】~【図4】 「【0023】 レギュレータ12は、振動錘、例えばテンプ(図示せず)と、図3および図4に示すもののようなコイルばね12aとを備える。 【0024】 コイルバネ12aは、 ‐テンプの中心に固定され、テンプと共に中心軸Xの周りを回転することが意図された中央リング13と、 ‐リング13から「外端カーブ」と呼ばれる外端部分15まで、中心軸Xの周りに数回巻かれたいくつかの巻線14と、 を備え得る。 【0025】 外端部分15は、通常、スタッド(図示せず)によってブリッジ(図示せず)に取り付けられており、ブリッジにはテンプが枢着されている。 【0026】 コイルばね12aの巻線14および外端部分15は、(中心軸Xに垂直な平面内で)厚さeおよび(中心軸Xに平行な)高さhを有することができる。厚さeは、例えば数十ミクロン、例えば約10から100ミクロンであり得る。」 【図3】 「 [図:0001411958000003.jpg] 」 【図4】 「 [図:0001411958000004.jpg] 」 カ 【0027】~【0036】、【図5】~【図6】 「【0027】 コイルばね12aは、マトリックス16a内に束ねられたナノチューブ16(図5)を含む複合材料でできている。 ナノチューブ16はナノチューブのフォレストを形成しており、このことはナノチューブ16が並置され、全て実質的に互いに平行に配置されることを意味する。 【0028】 有利には、ナノチューブ16は全て中心軸Xと実質的に平行に配置され、それ故に中心軸Xと概して平行である。それらは、概して互いに均等に離間して、複合材料の全質量にわたって存在し、コイルばね12aの製造中にナノチューブ成長プロセスによって制御される(軸Xに垂直な平面内で)表面密度を有する。 【0029】 ナノチューブ16は、有利には炭素からなり得る。 ナノチューブ16は、有利には本質的に多層であり得る。任意選択で、ナノチューブ16は有利には主に単層であり得る。 【0030】 ナノチューブは、7から30nmの間に含まれる直径dを有し得る。任意選択的に、ナノチューブは、2から10nm、好ましくは3から7nm、特に約5nmの直径を有し得る。 【0031】 ナノチューブは、200から400ミクロンの間に含まれる長さを有し得る。任意選択的に、ナノチューブは、100から200ミクロンの間、特に約150ミクロンの長さを有し得る。この長さは、コイルばねの巻線14の上述の厚さhに有利に対応し得る。 【0032】 マトリックス16aもまた有利には炭素からなり得る。マトリックス16aは図5に非常に概略的に表されている。それは、ナノチューブ16間のギャップ17内およびナノチューブ16の内部空間18内に存在するナノチューブ16を有利に包含することができる。このマトリックスは、ナノチューブ間の凝集を提供し、それによってナノチューブのフォレストの機械的特性を変更することを可能にする。 【0033】 コイルばね12aは、例えば、 a)ナノチューブ16のフォレストを、一般に、シリコンまたは他のウェハなどの基板(図示せず)上に成長させる、ナノチューブのフォレストの成長ステップと、 b)マトリックス16aの構成材料をナノチューブ16のフォレストに浸透させる、浸透ステップと、 c)複合材料を基板から分離する、分離ステップと、 を含む方法によって製造することができる。 【0034】 ステップa)の間、中心軸Xに対して垂直に配置されている基板に対して実質的に垂直にナノチューブ16のフォレストを成長させることが有利である。 【0035】 ナノチューブのフォレストの成長がコイルバばね12aの正確な経路に沿って所望の正確な位置で起こるように、基板は例えばフォトリソグラフィによって既知の方法で前処理される。ナノチューブの成長およびカーボンマトリックスによる浸透のための制御された方法の例は、例えば、著者Richard Scott Hansenによる文献「Mechanical and electrical properties of carbon-nanotube-templated metallic micro-structures」(2012年6月)、または、ブリガムヤング大学のCollin Brownの「Infiltration of CNT forests by Atomic Layer Deposition for MEMS applications」と題するシニア論文(2014年4月22日)に記載されている。 【0036】 それ自体、特に上記の文献から知られている炭素マトリックスの浸透は、一般に蒸着によって行われる。浸透時間を決定することによって、ナノチューブ間の浸透されるマトリックスの量に影響を与えることができ、それはばねの機械的性質を変えることを非常に容易にする。」 【図5】 「 [図:0001411958000005.jpg] 」 【図6】 「 [図:0001411958000006.jpg] 」 キ 【0037】~【0041】、【図8】~【図9】 「【0037】 図8および図9に示すように、基板19(シリコンまたは他のもの)はシリカ層20で覆われ、シリカ層は触媒層21(特に鉄)で覆われ、その上にナノチューブ16のフォレストが成長することができる。シリカ層20および触媒層21はナノチューブ16のフォレストと一体のままであり、したがって上記ステップc)においてナノチューブの層と共に基板16から分離される。 【0038】 上記のステップa)の前に、任意選択的に追加のナノチューブを溶媒中に分散させ、特に超音波によって触媒層21上に噴霧して、追加のナノチューブ層22を画定することができる。この追加のナノチューブ層22は、前記追加のナノチューブ層22を通してナノチューブのフォレスト16の炭素(または他の構成材料)を堆積させ、前記追加のナノチューブ層の下に成長させるのに十分に多孔性である(図9)。このようにして、ナノチューブのフォレストのナノチューブ16の成長が均一化され、したがってそれらはすべて実質的に同じ長さを有する。浸透ステップb)も、その多孔性のために、追加のナノチューブ層22を通して行われる。 【0039】 ステップc)の間、複合材料は、特にフッ化水素HFを使用して、湿式エッチングによって、または好ましくは気相エッチングによって基板19から分離することができる。 【0040】 得られるコイルばね12aは多くの利点を有する: ‐ナノチューブの成長およびナノチューブのフォレストへのマトリックスの浸透のプロセスによって得られる、ナノチューブの配向および完全に制御され再現可能な均質性を有するコイルばねをナノメートル精度で作製することができ、その結果、コイルばねの卓越した計時精度がもたらされる。 ‐例えば、マトリックスの材料および/またはナノチューブのフォレストに浸透するマトリックスの量を調節することによって、コイルの幾何学形状(特にその厚さ)を調節することによって、コイルばねの所望の機械的性質を容易に得ることができる。 ‐コイルばね12aは、中心軸に垂直な平面内で特に可撓性であり(これにより、テンプの質量を減少させることができる)、この平面外では実質的に可撓性がない(衝撃やユーザの動きによる面外の加速の影響を制限するために、時計コイルばねにとって特に重要である)。 ‐複合材料は、温度変化に対する感度が非常に低く(低熱膨張係数、低弾性率変動)、低密度を有し、非磁性であり、耐食性である。 【0041】 上述の材料は、少なくとも1つの可撓性部分を含む時計ムーブメント用の他の部分にも使用することができ、前記可撓性部分はナノチューブの軸Xに垂直な平面内で曲がるように構成される。」 【図8】 「 [図:0001411958000007.jpg] 」 【図9】 「 [図:0001411958000008.jpg] 」 ク 【0042】~【0043】、【図7】 「【0042】 例えば、本発明の第2の実施形態では、上述のエネルギー貯蔵装置として使用することができる図6のもののようなぜんまい8に上述の材料を使用することができる。上述のようにエネルギー貯蔵装置として使用可能である。そのようなばねは、例えば、バレル8b内で、軸Xに沿って中央シャフト8aの周りに巻き付けられてもよい。 【0043】 別の例によれば、本発明の第3の実施形態では、上述の材料を使用して、前述のコイルばね以外の機械振動子を形成することができる。特に、上述の材料は、上述のレギュレータ12のかわりに、時計に使用することができる図7のもののようなレギュレータ12’を形成するために使用することができる。レギュレータ12’は、例えばプレート110内の単一部品として形成されていてもよく、その内側には、ロータ111と、ロータ111を残りのプレート110に連結する弾性サスペンション112とが形成されている。弾性サスペンションは、プレート110に形成された非常に細くて細いアームによって形成され得る。ロータ111は、両方向矢印Rに従って、軸Xを中心にして回転振動する。このようなレギュレータ12’の例は、文献EP3021174Aに詳細に記載されている。」 【図7】 「 [図:0001411958000009.jpg] 」 (2) 引用文献1の記載から認定した事項 ア 引用文献1の【0043】には、「別の例によれば、本発明の第3の実施形態では、上述の材料を使用して、前述のコイルばね以外の機械振動子を形成することができる。特に、上述の材料は、上述のレギュレータ12のかわりに、時計に使用することができる図7のもののようなレギュレータ12’を形成するために使用することができる」と記載されている。 そうすると、引用文献1には、「本発明の第3の実施形態」として、「時計に使用することができる」「レギュレータ12’」の発明が開示されていると認められる(以下「認定事項ア」という。)。 イ 引用文献1の【0022】には、「時計ムーブメント3」の構成要素として、以下の(ア)~(カ)が示されている。 (ア) 機械的エネルギーを貯蔵する装置8(ぜんまい) (イ) 機械的エネルギーを貯蔵する装置8によって駆動される機械式動力伝達装置9 (ウ) 時間インジケータ7 (エ) エネルギー分配ホイール10(ガンギ車) (オ) エネルギー分配ホイール10を逐次的に保持および解放するのに適したロック機構11(アンクル) (カ) エネルギー分配ホイール10が一定の時間間隔で動かされるようにロック機構11を規則的に動かすようにロック機構11を制御する振動機構であるレギュレータ12 そうすると、上記(カ)の「レギュレータ12」は、時計ムーブメントの振動機構であると認められる。 同様に、「レギュレータ12’」についても、「レギュレータ12のかわりに、時計に使用することができる」ものであり、「プレート110」と、その内側に「ロータ111」と「弾性サスペンション112」を備え、「ロータ111」は、「回転振動」するのであるから(【0043】を参照)、時計ムーブメントの振動機構であると認められる(以下「認定事項イ」という。)。 ウ 引用文献1の【0043】の「レギュレータ12’を形成するために使用することができる」「上述の材料」とは、「レギュレータ12」の「コイルばね12a」に使用される材料であるところ(【0023】を参照)、「コイルばね12aは、マトリックス16a内に束ねられたナノチューブ16(図5)を含む複合材料でできている。」との記載(【0027】)を踏まえると、「レギュレータ12’」を形成するために使用される材料は、「マトリックス16a内に束ねられたナノチューブ16(図5)を含む複合材料」であると認められる。 また、この「複合材料」に含まれる「マトリックス16a」及び「ナノチューブ16」については、引用文献1の【0029】~【0032】に記載されている。 そうすると、「レギュレータ12’」を形成するために使用する材料は、引用文献1の【0029】~【0032】に記載されるマトリックス16a内に束ねられたナノチューブ16を含む複合材料であると認められる(以下「認定事項ウ」という。)。 エ 引用文献1の「レギュレータ12’」は、「プレート110内の単一部品」として形成されるものであり(【0043】)、図7を見ると、この「プレート110」は、円板状の形状をしていることが見て取れる(以下「認定事項エ」という。)。 (3) 引用発明の認定 前記(1)において摘記した事項及び前記(2)において認定した事項を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明> 「時計に使用することができるレギュレータ12’であって、(認定事項ア) レギュレータ12’は、時計ムーブメントの振動機構であり、(認定事項イ) レギュレータ12’は、プレート110内の単一部品として形成されており、その内側には、ロータ111と、ロータ111を残りのプレート110に連結する弾性サスペンション112とが形成されており、 弾性サスペンションは、プレート110に形成された非常に細くて細いアームによって形成されるものであり、 ロータ111は、両方向矢印Rに従って、軸Xを中心にして回転振動するものであり、(【0043】) プレート110は、円板状の形状をしており、(認定事項エ) レギュレータ12’を形成するために使用する材料は、マトリックス16a内に束ねられたナノチューブ16を含む複合材料であり、(認定事項ウ) ナノチューブ16は、ナノチューブのフォレストを形成しており、このことはナノチューブ16が並置され、全て実質的に互いに平行に配置されることを意味し、(【0027】) マトリックス16aは炭素からなり、ナノチューブ16間のギャップ17内およびナノチューブ16の内部空間18内に存在するナノチューブ16を有利に包含することができ、ナノチューブ間の凝集を提供し、それによってナノチューブのフォレストの機械的特性を変更することを可能にするものである、(【0032】) レギュレータ12’。」 (4) 引用文献2に記載された事項及び引用文献2技術事項の認定 ア 引用文献2に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された引用文献2(特開2008-116205号公報)には、以下の記載がある。 (ア) 【0001】 「【技術分野】 【0001】 本発明は、駆動輪列の回転を調速する調速装置に使用されるゼンマイ、調速装置、機器、およびゼンマイの製造方法に関する。」 (イ) 【0006】~【0017】 「【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明のゼンマイは、駆動力を伝達する駆動輪列の回転を調速する調速装置に使用されるゼンマイであって、少なくともグラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブの複合材から構成されていることを特徴とする。 【0007】 この発明によれば、グラファイト(黒鉛)、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブ(カーボンナノファイバー)が用いられたゼンマイ材料としての複合材の構成を実現でき、この複合材からゼンマイを構成することで、以下のような種々多様な利点が得られる。 ・・・(中略)・・・ 【0017】 [10.材料設計自由度の向上] 以上に加えて、前記複合材においては、他の材料に比べて引張強度およびヤング率を広範囲に設定できる。 すなわち、グラファイトとアモルファスカーボンとの配合比および焼成条件を変えることで広範囲に亘るヤング率を実現でき、これらグラファイトおよびアモルファスカーボンにカーボンナノチューブを複合化することで、グラファイトおよびアモルファスカーボンにより可変となるヤング率の範囲全域に亘って引張強度を向上させることが可能となる。 これにより、本発明の複合材を引張強度が要請されるゼンマイ材料として使用でき、当該複合材における引張強度やヤング率を広範囲に設定できることにより、ゼンマイ材料の設計の自由度が格段に向上することになる。 ここで、グラファイトおよびアモルファスカーボンのみによる複合材の引張強度は約0.05~約0.7GPa程度、ヤング率は約10~約200GPa程度であり、これにカーボンナノチューブを加えた複合材とすることにより、グラファイトおよびアモルファスカーボンのみによる剛性率を可変させる特長はそのままに、引張強度を約1.0~約1.5GPaまで大幅に向上させることが可能となる。 なお、一般炭素材の強度は0.02~0.1GPa程度、ヤング率は4~20GPa程度である。本発明の複合材のヤング率と引張強度の関係を図7に示す。」 (ウ) 【0049】 「【0049】 [6.ゼンマイ材料の構成] 以上を踏まえ、本実施形態では、ヒゲゼンマイ32の原料として下記を使用する。 フラン樹脂 20重量% グラファイト粉末 10重量% アモルファスカーボン粉末 40重量% カーボンナノチューブ 20重量% ジオクチルフタレート 10重量%」 (エ) 【0060】~【0061】 「【0060】 この焼成(炭素化)工程S4の結果、グラファイト、アモルファスカーボン、およびカーボンナノチューブの複合材から構成された所望形状のヒゲゼンマイ32が得られた。 このようにして得られたヒゲゼンマイ32のヤング率は約100GPa、引張強度は約1.5GPaであった。 以上で得られたヒゲゼンマイ32の特性について、ヒゲゼンマイ32とは材料が異なる前述の特許文献1,2の各ゼンマイの特性と対比し、次表に示す。 【0061】 【表2】 [図:0001411958000010.jpg] 」 イ 引用文献2技術事項の認定 前記アにおいて摘記した事項から、引用文献2には次の技術事項が記載されていると認められる(以下「引用文献2技術事項」という)。 <引用文献2技術事項> 「一般炭素材のヤング率は4~20GPa程度であるが、グラファイト及びアモルファスカーボンのみによる複合材のヤング率は、配合比及び焼成条件を変えることにより、約10~約200GPa程度の広範囲に亘るように設定でき、グラファイト及びアモルファスカーボンにカーボンナノチューブを加えた複合材としても、グラファイト及びアモルファスカーボンのみによる剛性率を可変させる特長はそのままにできること。」 (5) 参照文献1に記載された事項及び技術事項の認定 ア 参照文献1に記載された事項 引用文献1の段落【0043】で参照される、「文献EP3021174A」(欧州特許出願公開3021174号明細書、以下「参照文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、邦訳は、参照文献1のパテントファミリである特表2017-534892号公報の対応する記載に基づき、当合議体で作成した。 (ア) [0001] 「FIELD OF THE INVENTION [0001] The invention relates to monolithic timepiece regulators, to timepiece movements and timepieces having such regulators.」 (【技術分野】 [0001]本発明は、モノリシック時計レギュレータ、そのようなレギュレータを有する時計ムーブメント及び時計に関する。) (イ) [0020]-[0031], FIG.2 「[0020] According to the invention, the regulator 7 is monolithic and made in a single plate 9, as shown for instance in Figure 2. Plate 9 is usually planar. [0021] The plate 9 may have a small thickness, e.g. about 0.1 to about 0.6 mm, depending of the material thereof. [0022] The plate 9 may have transversal dimensions, in the plane of said plate (e.g. width and length, or diameter), comprised between about 15 mm and 40 mm. [0023] The plate 9 may be manufactured in any suitable material, preferably having a relatively high Young modulus to exhibit good elastic properties. Examples of materials usable for plate 9 are: silicon, nickel, steel, titanium. In the case of silicon, the thickness of plate 9 may be for instance comprised between 0.5 and 0.6 mm. [0024] The various members of the regulator 7, which will be detailed hereafter, are formed by making cutouts in plate 9. These cutouts may be formed by any manufacturing method known in micromechanics, in particular for the manufacture of MEMS. [0025] In the case of a silicon plate 9, plate 9 may be locally hollowed out for instance by Deep Reactive Ion Etching (DRIE), or in some cases by solid state laser cutting (in particular for prototyping or small series). [0026] In the case of a nickel plate 9, regulator 7 may be obtained for instance by LIGA. [0027] In the case of a steel or titanium plate 9, plate 9 may be locally hollowed out for instance by Wire Electric Discharge Machining (WEDM). [0028] The constituting parts of regulator 7, each formed portions of plate 9, by will now be described in details. [0029] In all embodiments, regulator 7 comprises: - an external (i.e. outer) rigid element 10, - an internal (i.e. inner) rigid element 11 surrounded by said external rigid element 10, - a plurality of elastic suspensions 12 connecting the external rigid element 10 to the internal rigid element 11 and enabling oscillating rotational movements between the external rigid element and the internal rigid element, around an axis of rotation Z which is perpendicular to the plate 9. The axis of rotation Z may be slightly movable, since there may be off axis movements between the internal and external rigid elements due to gravity or acceleration of shock. [0030] The external rigid element 10 may have an annular shape, i.e. a closed shape surrounding a hollow space, either substantially circular or other. In possible variants, external rigid element 10 may surround internal rigid element 11 only partially, i.e. not on 360 deg. [0031] The difference between so-called rigid parts and so-called elastic parts is their rigidity in the plane of plate 9, due to their shape and in particular to their slenderness. Slenderness may be measured for instance by the slenderness ratio (ratio of length of the part on width of the part). Parts of high slenderness are elastic (i.e. elastically deformable) and parts of low slenderness are rigid. For instance, so-called rigid parts may have a rigidity in the plane of plate 9, which is at least about 1000 times higher than the rigidity of so-called elastic parts in the plane of plate 9.」 ([0020] 本発明によると、レギュレータ7は、例えば図2に示されるように、モノリシックであり、単一プレート9内に作られる。プレート9は、通常平面である。 [0021] プレート9は、その材料に応じて小さい厚さ、例えば約0.1から約0.6mmを有してもよい。 [0022] プレート9は、前記プレートの平面内で、約15mmから40mmの間に含まれる横の寸法(例えば、幅及び長さ、又は直径)を有してもよい。 [0023] プレート9は、好ましくは良好な弾性特性を示すために比較的高いヤング率を有する、任意の適切な材料から製造されてもよい。プレート9のために使用できる材料の例は、シリコン、ニッケル、スチール、チタンである。シリコンの場合は、プレート9の厚さは、例えば0.5から0.6mmの間に含まれてもよい。 [0024] この後で詳述されることになる、レギュレータ7の様々な部材は、プレート9内にカットアウトを作ることによって形成される。これらのカットアウトは、特にMEMSの製造のための、マイクロメカニクスで知られている任意の製造方法によって形成されてもよい。 [0025] シリコンプレート9の場合は、プレート9は、例えば深堀り反応性イオンエッチング(DRIE)によって、又は場合によっては固体レーザ切断(特にプロトタイピング又は小規模なシリーズ(small series)のための)によって局所的にくりぬかれてもよい。 [0026] ニッケルプレート9の場合は、レギュレータ7は、例えばLIGAによって得られてもよい。 [0027] スチール又はチタンプレート9の場合は、プレート9は、例えばワイヤ放電加工(WEDM)によって局所的にくりぬかれてもよい。 [0028] プレート9の一部によってそれぞれ形成される、レギュレータ7の構成パーツは、今から詳細に述べられることになる。 [0029] すべての実施形態において、レギュレータ7は、 - 外部(すなわち外側)剛性要素10と、 - 前記外部剛性要素10によって取り囲まれる内部(すなわち内側)剛性要素11と、 - 外部剛性要素10を内部剛性要素11に接続し、プレート9に垂直である回転軸Zの周りで、外部剛性要素と内部剛性要素との間の振動回転運動を可能にする複数の弾性サスペンション12とを備える。回転軸Zは、重力又は衝撃の加速度に起因して内部剛性要素と外部剛性要素との間にオフアクシスの動きがあってもよいので、わずかに移動可動であってもよい。 [0030] 外部剛性要素10は、環形状、すなわち実質的に円形か又はその他の、中空空間を取り囲む閉じた形状を有してもよい。可能性のある変形では、外部剛性要素10は、内部剛性要素11を部分的にだけ、すなわち360度ではなく取り囲んでもよい。 [0031] いわゆる剛性パーツといわゆる弾性パーツとの間の差は、それらの形状に、特にそれらの細長さに起因する、プレート9の平面内でのそれらの剛性である。細長さは、例えば細長比(パーツの幅に対するパーツの長さの比)によって測定されてもよい。高細長さのパーツは、弾性的(すなわち弾性的に変形可能)であり、低細長さのパーツは、固い。例えば、いわゆる剛性パーツは、プレート9の平面内で剛性を有してもよく、それは、プレート9の平面内でいわゆる弾性パーツの剛性よりも少なくとも約1000倍高い。) FIG.2(図2) 「 [図:0001411958000011.jpg] 」 (ウ) [0032]-[0040] 「[0032] The internal rigid element 11 comprises a plurality of rigid arms 13 which are rigidly connected with one another. [0033] The arms 13 are distributed on 360 deg. and leave between them free angular spaces 14 which are radially external to the internal rigid element 11. [0034] For instance, the internal rigid element 11 may also include a rigid central hub 15 formed in one piece with the arms 13. The arms 13 may extend substantially radially outwardly from the central hub 15. [0035] In the example of Figure 2, the arms 13 are 3 and evenly distributed at 120 deg. from each other, and the elastic suspensions 12 are also 3, distributed at 120 deg. from each other. More generally, the arms 13 are at least 2 and the elastic suspensions 12 are in the same number as the arms 13. [0036] The arms 13 may be wider at their radially outer end compared to their radially inner end. More specifically, in the example of Figure 2, each arm 13 may include a radially inner portion 16 of relatively small width and a radially outer diverging portion 17 having a width which increases radially outwardly. The outer diverging portions 17 may have respective holes 17a. In the example of Figure 2, the internal rigid element 11 is designed to be fixed to a support S (shown only schematically in Fig. 3) in the timepiece 1, for instance by screws or similar through the holes 17a, and the external rigid element 11 is designed to freely oscillate in rotation around the axis of rotation Z, in the direction of arrows R. The rigid external element 10 is thus here constituting an inertial regulator member which controls the above-mentioned blocking mechanism. During these oscillations, the suspensions 12 bias the rigid external element 10 toward a neutral position, shown in Figure 2. [0037] It should be noted that the configuration of the regulator may be reversed, with the rigid internal element being fixed and the rigid external element being pivoting in oscillations. [0038] The radially outer end of the arm 13 may be extended laterally, by two opposite lateral extensions 18, so that each arm 13 is T-shaped, the outer end of the arm 13, including the lateral extensions, forming an outer head extending in a substantially angular direction relative to the axis of rotation Z. [0039] The inside rim of the rigid external element 10 is preferably circular and centered on the axis of rotation Z, and the outer rim of each arm 13, including possible lateral extensions 18, are also circular and centered on the axis of rotation Z. A small clearance is left between the outer rim of each arm 13 and the inner rim of the rigid external element 10, for instance of the order of 0.1 mm. [0040] The rigid external element 10 may possibly include protrusions 19 extending radially inwardly from the inner rim of said rigid external element 10. These protrusions 19 may serve as stop members cooperating with the lateral extensions 18 to limit the angular oscillations of the rigid external element 10 relative to the rigid inner element 11. In the example shown in Figure 2, protrusions 19 are disposed at mid-distance between the arms 13. For instance, each protrusion may be separated from adjacent arms by approximately 30 deg.」 ([0032] 内部剛性要素11は、互いに強固に接続される複数の剛性アーム13を備える。 [0033] アーム13は、360度上に分配され、内部剛性要素11に対して半径方向外部にある自由角度間隔14をそれらの間に残す。 [0034] 例えば、内部剛性要素11はまた、アーム13と一体に形成される剛性中央ハブ15を含んでもよい。アーム13は、中央ハブ15から実質的に半径方向外向きに延びてもよい。 [0035] 図2の例では、アーム13は、3つであり、互いに120度で均等に分配され、弾性サスペンション12もまた、3つであり、互いに120度で分配される。より一般的には、アーム13は、少なくとも2つであり、弾性サスペンション12は、アーム13と同じ数である。 [0036] アーム13は、それらの半径方向内端と比較して、それらの半径方向外端ではより広くてもよい。より具体的には、図2の例では、各アーム13は、比較的小さい幅の半径方向内側部分16および半径方向外向きに増加する幅を有する半径方向外側発散部分17を含んでもよい。外側発散部分17は、それぞれの穴17aを有してもよい。図2の例では、内部剛性要素11は、例えば穴17aを通り抜けるネジまたは同様のものによって、時計1内の支持部S(図3に概略的にだけ示される)に固定されるように設計され、外部剛性要素10は、矢印Rの方向に、回転軸Zの周りで自由に振動して回転するように設計される。外部剛性要素10はそれ故に、ここでは上述のブロッキング機構を制御する慣性レギュレータ部材を構成している。これらの振動中、サスペンション12は、図2に示される中立位置に向かって外部剛性要素10にバイアスをかける。 [0037] レギュレータの構成は、逆にされてもよく、内部剛性要素が、固定され、外部剛性要素が、旋回して振動してもよいことに留意すべきである。 (当審注:[0036]の記載を踏まえると、[0037]の記載は、「レギュレータの構成は、逆にされてもよく、外部剛性要素が、固定され、内部剛性要素が、旋回して振動してもよいことに留意すべきである。」の明らかな誤記であると認められる。) [0038] アーム13の半径方向外端は、各アーム13がT字状であるように、2つの対向する横方向延長部18によって横方向に延長されてもよく、横方向延長部を含むアーム13の外端は、回転軸Zに対して実質的に角度方向に延びる外側ヘッドを形成する。 [0039] 外部剛性要素10の内縁は、好ましくは円形であり、回転軸Zに中心があり、可能性のある横方向延長部18を含む、各アーム13の外縁もまた、円形であり、回転軸Zに中心がある。例えば0.1mm程度の小さい隙間が、各アーム13の外縁と外部剛性要素10の内縁との間に残される。 [0040] 外部剛性要素10はおそらくは、前記外部剛性要素10の内縁から半径方向内向きに延びる突出部19を含んでもよい。これらの突出部19は、内部剛性要素11に対する外部剛性要素10の角度振動を制限するために、横方向延長部18と協働する停止部材としての役割を果たしてもよい。図2に示される例では、突出部19は、アーム13の間の中間距離に配置される。例えば、各突出部は、隣接するアームから約30度だけ分離されてもよい。) (エ) [0041]-[0054] 「[0041] The elastic suspensions 12 are respectively located in said free angular spaces 14 between the arms 13. [0042] Preferably, each elastic suspension 12 includes a plurality of elastic branches which are disposed substantially radially with regard to the axis of rotation and which extend each between an inner end and an outer end, said elastic branches being connected together either at their respective inner ends, or at their respective outer ends. [0043] In the example of Figure 2, each elastic suspension 12 comprises at least one first elastic branch 20 and at least two second elastic branches 21. The first elastic branch 20 has an outer end connected to the external rigid element 10 and an inner end connected to a rigid intermediate element 22 separate from the internal rigid element 11, while the two second elastic branches 21 having inner ends connected to said intermediate rigid element 22 and outer ends connected respectively to two adjacent arms 13 of the internal rigid element. [0044] The length of elastic branches 20, 21 may be comprised between for instance 8 and 13 mm. [0045] The width of elastic branches 20, 21 may be comprised between 0.02 and 0.03 mm, for instance around 0.025 mm. [0046] The same order of magnitude of lengths and widths may apply to other elastic branches of the elastic suspensions 12, in other embodiments. [0047] The elastic suspension 12 may include two first elastic branches 20. [0048] The outer ends of the first elastic branches 20 may be connected to the protrusions of the rigid external element 10. [0049] The outer ends of the second elastic branches 21 may be connected respectively to the free ends of the lateral extensions 18, which avoids interference between said elastic branches 21 and arms 13. [0050] The intermediate rigid elements 22 may be shaped as arcs of circle centered on the axis of rotation Z and disposed around the rigid hub 15, which may also have a circular shape. The clearance between rigid elements 22 and hub 15 may be small, e.g. about 0.1 mm. [0051] The above regulator may have an oscillation frequency of e.g. about 15 to 30 Hz when made out of silicon. [0052] The amplitude of oscillation may be up to around 20 deg. while keeping good properties of linearity and thus good precision in time measurement. In particular, the amplitude of oscillation may be up to 13 deg. while keeping excellent time precision, with maximum time deviation per day of less than 6 s. [0053] In a particular example of the embodiment of Figure 2, regulator 7 may exhibit the following properties: - material of plate 9: silicon; - thickness of plate 9: 0.525 mm; - inner diameter of rigid external element 10: 24 mm; - outer diameter of rigid external element 10: 29 mm; - width of elastic branches 20, 21: 0.024 mm; - rotational stiffness of the regulator: kr = 1.37 x10-4 Nm/rad (kr is such that, when a torque T is applied to the movable inertial regulating member - here external rigid element 10 - around the rotation axis Z, said movable inertial regulating member turns from its rest position of an angle ω such that T = kr . ω) ; - minimum off-axis stiffness koa of the regulator: 181 N/m (koa is such that, when a force F is applied to the movable inertial regulating member - here external rigid element 10 - in the plane of plate 9, said movable inertial regulating member is shifted from its rest position of a distance d such that F = koa ・d). [0054] The above described regulator has a number of advantages over the prior art and in particular over US2013176829A1: - the intrinsic properties of the regulator, in particular time period of the oscillations and positioning of the axis of rotation, is not sensitive to mounting of the regulator in a timepiece movement; - the mutual disposition of the rigid external and internal elements enable a relatively large amplitude of oscillations without interference between these elements and with good linearity properties.」 ([0041] 弾性サスペンション12はそれぞれ、アーム13の間の前記自由角度間隔14内に位置する。 [0042] 好ましくは、各弾性サスペンション12は、回転軸に関して実質的に半径方向に配置され、かつ内端と外端との間にそれぞれ延びる複数の弾性分岐を含み、前記弾性分岐は、それらのそれぞれの内端、またはそれらのそれぞれの外端において一緒に接続される。 [0043] 図2の例では、各弾性サスペンション12は、少なくとも1つの第1の弾性分岐20および少なくとも2つの第2の弾性分岐21を備える。第1の弾性分岐20は、外部剛性要素10に接続される外端および内部剛性要素11から分離している中間剛性要素22に接続される内端を有し、一方2つの第2の弾性分岐21は、前記中間剛性要素22に接続される内端および内部剛性要素の2つの隣接するアーム13にそれぞれ接続される外端を有する。 [0044] 弾性分岐20、21の長さは、例えば8から13mmの間に含まれてもよい。 [0045] 弾性分岐20、21の幅は、0.02から0.03mmの間に含まれてもよく、例えば約0.025mmであってもよい。 [0046] 同じ程度の大きさの長さおよび幅が、他の実施形態において、弾性サスペンション12の他の弾性分岐に適用されてもよい。 [0047] 弾性サスペンション12は、2つの第1の弾性分岐20を含んでもよい。 [0048] 第1の弾性分岐20の外端は、外部剛性要素10の突出部に接続されてもよい。 [0049] 第2の弾性分岐21の外端は、横方向延長部18の自由端にそれぞれ接続されてもよく、それは、前記弾性分岐21とアーム13との間の干渉を回避する。 [0050] 中間剛性要素22は、回転軸Zに中心があり、また円形状を有してもよい剛性ハブ15の周りに配置される円弧として成形されてもよい。剛性要素22とハブ15との間の隙間は、小さく、例えば約0.1mmであってもよい。 [0051] 上記のレギュレータは、シリコンで作り上げられているとき、例えば約15から30Hzの振動周波数を有してもよい。 [0052] 振動振幅は、良好な線形性特性、それ故に良好な時間測定精度を保ちながら、約20度に至るまでであってもよい。特に、振動振幅は、1日当たりの最大時間ずれが6秒未満という、優れた時間精度を保ちながら、13度に至るまでであってもよい。 [0053] 図2の実施形態の特定例では、レギュレータ7は、次の特性を示してもよく、すなわち、 - プレート9の材料:シリコン、 - プレート9の厚さ:0.525mm、 - 外部剛性要素10の内径:24mm、 - 外部剛性要素10の外径:29mm、 - 弾性分岐20、21の幅:0.024mm、 - レギュレータの回転剛性:kr=1.37×10-4Nm/rad(krは、トルクTが、回転軸Zの周りで可動慣性調整部材-ここでは外部剛性要素10-に印加されるとき、前記可動慣性調整部材が、その静止位置からT=kr・ωであるような角度ωだけ回転するようなものである)、 - レギュレータの最小オフアクシス剛性koa:181N/m(koaは、力Fが、プレート9の平面内で可動慣性調整部材-ここでは外部剛性要素10-に印加されるとき、前記可動慣性調整部材が、その静止位置からF=koa・dであるような距離dだけ移動されるようなものである)。 [0054] 上述のレギュレータは、従来技術、特に米国特許出願第2013176829A1号を超えるいくつかの利点を有し、 - レギュレータの固有特性、特に振動の時間周期および回転軸の位置決めは、時計ムーブメント内のレギュレータの取り付けに敏感でなく、 - 外部剛性要素および内部剛性要素の相互配置は、これらの要素間の干渉がなく、良好な線形性特性を有して、比較的大きい振動振幅を可能にする。) イ 技術事項の認定 上記アに摘記した事項から、参照文献1には、次の技術事項(ア)~(カ)が開示されていると認められる。 <技術事項(ア)> レギュレータ7は、モノリシックであり、通常平面である単一プレート9内に作られ、プレート9は、比較的高いヤング率を有する材料から製造され、その材料に応じて小さい厚さ、例えば約0.1~0.6mmを有し、その平面内で約15~40mmの間に含まれる横の寸法(例えば、幅及び長さ、又は直径)を有すること。([0020]~[0023]) <技術事項(イ)> レギュレータ7は、外部剛性要素10と、前記外部剛性要素10によって取り囲まれる内部剛性要素11と、外部剛性要素10を内部剛性要素11に接続する複数の弾性サスペンション12とを備えること。([0029]) <技術事項(ウ)> 内部剛性要素11は、互いに強固に接続される複数の剛性アーム13を備え、アーム13と一体に形成される剛性中央ハブ15を含むこと。([0032]、[0034]) <技術事項(エ)> 内部剛性要素11は、時計1内の支持部Sに固定され、外部剛性要素10は、矢印Rの方向に、回転軸Zの周りで自由に振動して回転するが、外部剛性要素10が固定され、内部剛性要素11が旋回して振動してもよいこと。([0036]~[0037]) <技術事項(オ)> 中間剛性要素22が、弾性サスペンション12の第1、2の弾性分岐20、21の内端に接続され、中間剛性要素22は、回転軸Zに中心があり、剛性ハブ15の周りに配置される円弧として成形されること。([0043]、[0050]) <技術事項(カ)> 剛性パーツと弾性パーツとの間のプレート9の平面内での剛性の差は、それらの形状に、特にそれらの細長さに起因すること。([0031]) 2 本願発明と引用発明の対比 (1) 対比分析 本願発明と引用発明を対比する。 ア 引用発明の「レギュレータ12’」は、「時計に使用することができる」ものであるから、測時器構成要素であるといえる。 そして、引用発明の「レギュレータ12’」は、「時計ムーブメントの振動機構」であるから、測時器ムーブメントの発振機構であるといえる。 そうすると、引用発明の「時計ムーブメントの振動機構」であって「時計に使用することができるレギュレータ12’」と本願発明の「測時器ムーブメントの発振機構又は脱進機構のための剛性測時器構成要素(6、7、8)」は、「測時器ムーブメントの発振機構又は脱進機構のための測時器構成要素」である点で共通する。 イ 引用発明の「レギュレータ12’」は、「プレート110内の単一部品として形成されており」、「プレート110」は、「円板状の形状」をしていることを踏まえると、「レギュレータ12’」は、円板状のプレート110を含む平面上に形成されたものであるといえるから、引用発明の円板状のプレート110を含む平面は、本願発明の「主平面(P)」に相当する。 また、引用発明の「単一部品として」の「プレート110」の「内側」に「形成」された「ロータ111」と「弾性サスペンション112」は、プレート110と一体のものとして、プレート110を含む平面に沿って延在しているといえる。 そうすると、本願発明と引用発明は、「前記構成要素は、主平面に沿って延在」する点で一致する。 ウ 引用発明の「マトリックス16a内に束ねられたナノチューブ16を含む複合材料」は、本願発明の「複合材料(1)」に相当するところ、上記「複合材料」は、「レギュレータ12’を形成するために使用する材料」であるから、引用発明の「レギュレータ12’」は「マトリックス16a内に束ねられたナノチューブ16を含む複合材料」から作製した少なくとも一部を含むものであるといえる。 そうすると、本願発明と引用発明は、「複合材料から作製した少なくとも一部を含む、構成要素」である点で一致する。 エ(ア) 引用発明の「マトリックス16a」は、本願発明の「母材」に相当する。 (イ) 引用発明の「ナノチューブ16」は、「ナノチューブのフォレストを形成しており、このことはナノチューブ16が並置され、全て実質的に互いに平行に配置されることを意味」するから、引用発明の「ナノチューブ16」が多数のナノチューブからなることは明らかである。 (ウ) 引用発明の「マトリックス16a」が「ナノチューブ16間のギャップ17内およびナノチューブ16の内部空間18内に存在」し「ナノチューブ16を有利に包含する」ことは、本願発明の「多数のナノチューブ」が「母材(2)内に分散する」ことに相当する。 (エ) 前記(ア)~(ウ)を踏まえると、引用発明の「複合材料」が「マトリックス16a内に束ねられたナノチューブ16を含む」ことは、本願発明の「前記複合材料(1)は、母材(2)と、前記母材(2)内に分散する多数のナノチューブ又はナノワイヤ(3)とを備え」ることに相当する。 (オ) 以上より、前記ウの検討結果も踏まえると、本願発明と引用発明は、「複合材料から作製した少なくとも一部を含む、構成要素において、前記複合材料は、母材と、前記母材内に分散する多数のナノチューブ又はナノワイヤとを備え」る点で一致する。 オ 引用発明においては、「ナノチューブ16が並置され、全て実質的に互いに平行に配置される」ものであるから、このナノチューブ16が実質的に平行に配置される「ある軸」を考えることができる。 そうすると、引用発明の「ナノチューブ16」が「ある軸」と実質的に平行に配置されることは、本願発明の「前記ナノチューブ又はナノワイヤ(3)」が「軸(A)と実質的に平行に配設」されることに相当する。 よって、本願発明と引用発明は、「前記ナノチューブ又はナノワイヤは、ある軸と実質的に平行に配設」する点で共通する。 カ(ア) 引用発明の「マトリックス16a」が「ナノチューブ16間のギャップ17内およびナノチューブ16の内部空間18内に存在する」ことは、本願発明の「前記母材(2)」が「前記ナノチューブ又はナノワイヤ(3)の隙間に充填され」ることに相当する。 そうすると、本願発明と引用発明は、「前記母材が前記ナノチューブ又はナノワイヤの隙間に充填され」る点で共通する。 (イ) 引用発明において、「ナノチューブ16間のギャップ17内およびナノチューブ16の内部空間18内に存在」し「ナノチューブ16を有利に包含する」「マトリックス16a」が「ナノチューブ間の凝集を提供」することは、本願発明の「前記母材(2)」が「該ナノチューブ又はナノワイヤを互いに接合」することに相当する。 (ウ) 引用発明において、「マトリックス16a」が「ナノチューブ間の凝集を提供し、それによってナノチューブのフォレストの機械的特性を変更することを可能にする」ことは、本願発明の「該ナノチューブ又はナノワイヤ(3)を互いに接合」する「前記母材(2)」が「当該ナノチューブ又はナノワイヤ(3)の全ての機械的特性を修正」することに相当する。 (エ) 前記(ア)~(ウ)を踏まえると、本願発明と引用発明は、「前記母材が前記ナノチューブ又はナノワイヤの隙間に充填され、該ナノチューブ又はナノワイヤを互いに接合して当該ナノチューブ又はナノワイヤの全ての機械的特性を修正するよう構成され」る点で共通する。 (2) 本願発明と引用発明の一致点及び相違点 上記(1)の対比分析の検討結果をまとめると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。 ア 一致点 「測時器ムーブメントの発振機構又は脱進機構のための測時器構成要素であって、前記構成要素は、主平面に沿って延在し、複合材料から作製した少なくとも一部を含む、構成要素において、前記複合材料は、母材と、前記母材内に分散する多数のナノチューブ又はナノワイヤとを備え、前記ナノチューブ又はナノワイヤは、ある軸と実質的に平行に配設し、前記母材が前記ナノチューブ又はナノワイヤの隙間に充填され、該ナノチューブ又はナノワイヤを互いに接合して当該ナノチューブ又はナノワイヤの全ての機械的特性を修正するよう構成される、構成要素。」 である点。 イ 相違点 (ア) 相違点1 本願発明においては、「測時器構成要素」は「剛性測時器構成要素(6、7、8)」であり、「前記母材(2)を剛性にして撓みを防止するよう構成され」るように「母材(2)」が「剛性材料(4)から形成され」ており、「前記剛性材料(4)は、前記構成要素(6、7、8)の弾性変形を阻止する剛性機械的特性を有し、前記構成要素内に含まれる前記剛性材料(4)は、2GPaよりも大きいヤング率を有」するものであるのに対し、 引用発明においては、「マトリックス16a」は「炭素」からなるものであるが、「レギュレータ12’」が剛性であることや、「マトリックス16a」の剛性の度合い(ヤング率)については明らかではない点。 (イ) 相違点2 「前記ナノチューブ又はナノワイヤ」が「実質的に平行に配設」される「ある軸」が、本願発明では、「前記構成要素の前記平面(P)に実質的に直交する軸(A)」であるのに対し、引用発明ではそのような軸ではない点。 3 相違点についての判断 (1) 相違点1についての判断 ア 「剛性測時器構成要素」について (ア) 本願発明の「剛性測時器構成要素」については、本願の明細書の発明の詳細な説明において明確な定義が示されていないものの、段落【0005】及び【0025】の記載を参酌すると、「剛性測時器構成要素」とは、測時器ムーブメントを精密にするため高レベルの剛性を必要とする構成要素であって、例えば、脱進機構アンクル組立体、脱進機構車、測時器ムーブメント輪列、又は発振機構てんぷを含むリストから選択されるものであると解するのが相当である。 (イ) 一方、引用発明の「レギュレータ12’」は、「円板状の形状」をした「プレート110内の単一部品」として形成されており、「プレート110」の「内側」には、「ロータ111と、ロータ111を残りのプレート110に連結する弾性サスペンション112とが形成されており、弾性サスペンションは、プレート110に形成された非常に細くて細いアームによって形成されるものであり、ロータ111は、両方向矢印Rに従って、軸Xを中心にして回転振動するもの」であるところ、引用発明の「レギュレータ12’」の要素である「プレート110」、「ロータ111」、「弾性サスペンション112」の材料的属性は、一義的には明らかではなく、前記(ア)に示した解釈に照らして、引用発明の「レギュレータ12’」が「剛性測時器構成要素」に該当するかどうかを直ちに判断できない。 (ウ) この点について、引用文献1の【0043】には「このようなレギュレータ12’の例は、文献EP3021174Aに詳細に記載されている。」との記載があることから、引用発明の「レギュレータ12’」の詳細については、「文献EP3021174A」(参照文献1)に開示された技術事項を参照して、その具体的態様を検討することは許されるというべきである。 (エ) そこで、前記1(5)イにおいて認定した技術事項(ア)~(カ)に基づくと、引用発明の「レギュレータ12’」は、参照文献1の「レギュレータ7」に対応し、引用発明の「プレート110」は、参照文献1の「プレート9」の「外部剛性要素10」に対応するところ、外部剛性要素10が固定され内部剛性要素11が旋回して振動してもよいとしているから(前記技術事項(エ))、引用発明の「ロータ111」は、参照文献1の「内部剛性要素11」に対応するといえる。そして、引用発明の「弾性サスペンション112」は、参照文献1の「弾性サスペンション12」に対応する。 (オ) ここで、前記技術事項(ア)において、「プレート9は、比較的高いヤング率を有する材料から製造され[る]」としているところ、「ヤング率」とは、弾性範囲における応力とひずみの比例関係を表す比例係数であって、材料のヤング率が大きいほど剛性が高くなることは技術常識であるから、引用発明の「プレート110」は、剛性の比較的高い材料からなるものであるといえる。 (カ) また、前記技術事項(イ)、(ウ)及び(オ)から、「レギュレータ7」は、「外部剛性要素10」、「内部剛性要素11」(「剛性アーム13」、「剛性中央ハブ15」)及び「中間剛性要素22」を備えることを踏まえると、引用発明の「レギュレータ12’」は、剛性の要素を含むものであると認められる。 (キ) もっとも、「レギュレータ7」は、「弾性サスペンション12」を備えるから(前記技術事項(イ))、引用発明の「レギュレータ12’」は、剛性の要素の他に弾性の要素も含むことになり、この観点から、前記(ア)に示した解釈に照らして、引用発明の「レギュレータ12’」が「剛性測時器構成要素」に該当するかどうかについてさらに検討する必要がある。 (ク) この点に関し、前記技術事項(カ)によれば、「剛性パーツと弾性パーツとの間のプレート9の平面内での剛性の差は、それらの形状に、特にそれらの細長さに起因する」のであるから、要するに各要素の細長さの程度によって剛性か弾性かを分類しているにすぎない。 そうすると、「弾性サスペンション」の「弾性」は、材料的属性を特定したものではなく細長さの程度が大きいことを意味しているにすぎないから、「弾性サスペンション」を含めて検討しても、「プレート110内の単一部品」として形成された「レギュレータ12’」の材料的属性は剛性であるというべきである。 そして、引用発明の「レギュレータ12’」の「外部剛性要素10」、「内部剛性要素11」(「剛性アーム13」、「剛性中央ハブ15」)及び「中間剛性要素22」は、前記(ア)の「発振機構てんぷ」と同様の機能を果たすものであるから、「時計ムーブメントの振動機構」を精密にするために高レベルの剛性が必要な要素であることは明らかである。 したがって、前記(ア)に示した解釈に照らしてみると、引用発明の「レギュレータ12’」は、「剛性測時器構成要素」に該当するとして差し支えないから、前記相違点1に係る「測時器構成要素」が「剛性測時器構成要素」であることは、実質的な相違点ではない。 イ 「剛性材料(4)」の「母材(2)」とその「ヤング率」について (ア) 前記アにおいて検討したとおり、引用発明の「プレート110内の単一部品」として形成された「レギュレータ12’」は、比較的高いヤング率を有する材料から製造される、剛性を有するものである。 (イ) ここで、引用文献2には、「グラファイト及びアモルファスカーボンにカーボンナノチューブを加えた複合材としても、グラファイト及びアモルファスカーボンのみによる剛性率を可変させる特長はそのままにできること」が記載されている(引用文献2技術事項)。 (ウ) 前記引用文献2技術事項に基づけば、引用発明において、「マトリックス16a内に束ねられたナノチューブ16を含む複合材料」が「レギュレータ12’を形成するために使用」されているのであるから、「レギュレータ12’」の剛性を支配するのは、炭素からなるマトリックス16aであって、マトリックス16aのヤング率によってレギュレータ12’の剛性が決まるものと理解される。 (エ) そして、前記引用文献2技術事項に基づけば、「一般炭素材」の場合であっても、その「ヤング率は4~20GPa程度」であるのだから、前記相違点1に係る本願発明の「前記2GPaよりも大きいヤング率」は、「一般炭素材」でも満たされる程度の特性にすぎず、引用発明の炭素からなるマトリックス16aとして「一般炭素材」が排除されているという事情は認められないから、引用発明のマトリックス16aは、「2GPaよりも大きいヤング率」を有する「剛性材料」であるといえる。 (オ) 本願発明の「前記2GPaよりも大きいヤング率」が、「一般炭素材」のヤング率(4~20GPa程度)を越える範囲を含むとしても、前記引用文献2技術事項に基づけば、「グラファイト及びアモルファスカーボンのみによる複合材のヤング率は、配合比及び焼成条件を変えることにより、約10~約200GPa程度の広範囲に亘るように設定でき」るから、引用発明のマトリックス16aのヤング率を「一般炭素材」のヤング率を越える範囲にまで大きくすることも可能である。 (カ) そうすると、引用発明の炭素からなるマトリックス16aは、「剛性材料から形成され」るものとなり、それによって、マトリックス16aを剛性にして撓みを防止するよう構成できることも明らかである。 さらに、引用発明のレギュレータ12’の弾性変形を阻止するような剛性機械的特性をマトリックス16aが有することも、自然に導かれる事項である。 (キ) したがって、前記相違点1に係る「母材」が「剛性材料から形成され」、「前記母材を剛性にして撓みを防止するよう構成され」、「前記剛性材料は、前記構成要素の弾性変形を阻止する剛性機械的特性を有し、前記構成要素内に含まれる前記剛性材料は、2GPaよりも大きいヤング率を有」することは、当業者であれば容易になし得たことである。 ウ 小括 以上ア及びイにおいて検討した結果をまとめると、引用発明及び引用文献2技術事項に基づいて、前記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。 (2) 相違点2について 引用文献1には、「図8および図9に示すように、基板19(シリコンまたは他のもの)はシリカ層20で覆われ、シリカ層は触媒層21(特に鉄)で覆われ、その上にナノチューブ16のフォレストが成長することができる。」(【0037】)と記載されるように、基板19がなす平面上にナノチューブ16のフォレストを成長させることが記載されている。また、引用文献1には、「ナノチューブは、200から400ミクロンの間に含まれる長さを有し得る。」(【0031】)と記載されている。 ここで、前記1(5)イにおいて認定した技術事項(ア)によれば、「プレート9」は、「その材料に応じて小さい厚さ、例えば約0.1~0.6mmを有し、その平面内で、約15~40mmの間に含まれる横の寸法(例えば、幅及び長さ、又は直径)を有する」のであるから、引用発明の「レギュレータ12’」の厚さ(縦の寸法)は「ナノチューブ16」の長さ程度であるが、「レギュレータ12’」の横の寸法(幅及び長さ、又は直径)は、「ナノチューブ16」の長さに比べてはるかに大きいことがいえる。 そうすると、引用発明のナノチューブ16のフォレストが成長する方向として最もあり得る方向は、「レギュレータ12’」が形成される「円板状の形状をしたプレート110」がなす平面に実質的に垂直な方向であるといえるから、そのようなナノチューブ16が平行に配設される軸が、レギュレータ12’が形成される円板状の形状をしたプレート110に実質的に直交する軸となることは、当業者にとって自明な設計事項にすぎない。 してみれば、引用発明から、前記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。 (3) 総合評価 前記(1)及び(2)の検討内容を踏まえると、前記相違点1及び2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。 また、本願発明の奏する効果も当業者が容易に予測し得たものにすぎない。 したがって、本願発明は当業者であれば容易に発明することができたものである。 なお、前記(1)及び(2)においては、参照文献1に開示された技術事項を参照して、前記相違点1及び2を判断したが、引用発明の「レギュレータ12’」の「プレート110」に剛性が必要であることは自明であるから、参照文献1を参照しなくても、引用発明の「レギュレータ12’」を「剛性測時器構成要素」として構成することは、当業者にとって自明な設計事項にすぎず、前記引用文献2技術事項に基づけば、「レギュレータ12’」の弾性変形を阻止するような剛性機械的特性を「マトリックス16a」が有するようにヤング率が大きい剛性材料にして、撓みを防止するように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。 また、引用発明において、ナノチューブ16が平行に配設される軸をレギュレータ12’のプレート110に実質的に直交させることは、自然な発想であり、当業者にとって自明な設計事項にすぎない。 したがって、参照文献1を参照しなくても、前記相違点1及び2に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことに変わりはない。 (4) 請求人の主張について 請求人は、審判請求書において、本願発明は、段落0009に記載の構成、特に、「ナノチューブ又はナノワイヤを、構成要素の平面に実質的に直交する軸と実質的に平行に並置、配設し、母材が、隙間を充填し、ナノチューブ又はナノワイヤを互いに接合する剛性材料を含み、材料が、構成要素の弾性変形を阻止する剛性機械的特性を有する」ようにしたことを特徴としたものであるが、引用文献1、2のいずれのものも可撓性のある部品を作成するもので、本願発明のようなたわみを防止するための特別な構成を有するものではない、と主張する。 しかし、前記(1)で示したとおり、引用発明も剛性であるレギュレータ12’であり、また、前記(2)で示した、引用発明のナノチューブをレギュレータ12’が形成される円板状の形状をしたプレート110に実質的に直交する軸と平行に配設することを含め、その他の発明特定事項については、引用発明から当業者であれば容易に発明することができたものである。 したがって、請求人の主張を採用することはできない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-006393

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