特許拒絶査定不服審判
2022-009975
時計構成要素を支持要素の上で弾性的に保持するための機構
- 審判番号
- 2022-009975
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-109325
- 請求日
- 2022年06月29日
- 審決日
- 2024年01月31日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
- 【請求人代理人】山川 茂樹
- 【請求人代理人】小池 勇三
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 九鬼 一慶
- 審判官 中塚 直樹
- 分類
- P18 .121-WZ (G04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-109325「時計構成要素を支持要素の上で弾性的に保持するための機構」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 3月 1日出願公開、特開2021- 32878〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、令和2年(2020年)6月25日(パリ条約による優先権主張 令和元年8月16日 欧州特許庁)を出願日とする外国語特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和2年 6月25日 :翻訳文の提出
令和3年 6月24日付け:拒絶理由通知書
同年 9月17日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 2月14日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年 3月 1日 :原査定の謄本の送達)
同年 6月29日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 9月26日 :前置報告書
令和5年 6月 1日付け:拒絶理由通知書
同年 8月 4日 :意見書、手続補正書の提出
2 本願発明の認定
本願の請求項1-11に係る発明は、令和5年8月4日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1-11に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次に特定されるとおりである。
「【請求項1】
時計構成要素(2)を支持要素(3)の上に留めるための弾性保持機構(1)であって、前記支持要素(3)を挿入することができる開口(12)を画定している自由端(9)を備えた少なくとも3つの変形可能アーム(4)を備える内面(6)を備える剛直部分(7)を含み、前記変形可能アーム(4)は、前記開口(12)中のこの支持要素(3)の圧縮における弾性締付けによって前記支持要素(3)との結合を実施するように構成され、
前記変形可能アーム(4)の前記自由端(9)は、円筒状の前記支持要素(3)の周囲に沿う湾曲した接触面(10)を有し、
前記変形可能アーム(4)は、台形の形であり、
さらに、前記変形可能アーム(4)は、台形の形の開口部であるオープンワーク(13、14)を有し、前記オープンワーク(13、14)は、前記剛直部分(7)から前記弾性保持機構(1)の中心軸(A)に向かう方向に規則的に減少する開口部であることを特徴とする、弾性保持機構(1)。」
3 当審において通知した拒絶の理由の概要
当審において令和5年6月1日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由のうち、理由3(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
理由3(進歩性の欠如)本件補正前の請求項1-12に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において発行された特開2009-204575号公報(以下「引用文献3」という。)に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
4 当審の判断
(1) 引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献3の記載事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献3の記載事項
前記引用文献3(特開2009-204575号公報)には、次に摘記する事項が記載されている。
a 【請求項1】
「【請求項1】
歯車と、
前記歯車の中心部に形成された歯車穴に圧入される軸とで構成され、
前記歯車は前記歯車穴の中心方向に凸となっている3つ以上複数の突起部を有し、前記軸の圧入により前記突起部または前記軸が変形されて前記歯車と前記軸が固定される歯車構造体。」
b 【0001】
「【0001】
本発明は時計のような小型の精密機械に用いられるに適した歯車構造体及びこれを備えた時計に係る。」
c 【0006】-【0011】
「【課題を解決するための手段】
【0006】
歯車構造体は、歯車と、前記歯車の中心部に形成された歯車穴に圧入される軸とで構成され、前記歯車は前記歯車穴の中心方向に凸となっている3つ以上複数の突起部を有し、前記軸の圧入により前記突起部または前記軸が変形されて前記歯車と前記軸が固定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上記構成により、歯車と軸とが相対回転することなく高トルクの伝達が可能な歯車構造体及びこれを備えた時計を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(1)実施形態の概要
従来の圧入部の形状が、歯車穴部、軸圧入部外形形状ともに円形をしており、軸の回転軸と歯車の回転軸が重なるように圧入されるものではトルクが加えられたときに軸と歯車穴の接触面で生じる摩擦力のみで軸と歯車が相対回転をしないようにしていた。この軸圧入部とそこに圧入される歯車穴部の形状は、接触面上において確実に合致するように加工を施すようにすることは大変困難である。そのため軸を歯車穴に圧入したとしても、歯車穴と軸圧入部の接触面の間で滑りが生じてしまったり、歯車穴部に軸が圧入された際に歯車穴径に歯対して軸径が大きいために歯車が軸方向に反りを生じてしまい、歯先が隣り合う歯車と噛み合わないために、十分にトルクの伝達を行うことはできない。
(中略)
【0010】
そこで、本発明では(軸圧入部に直接加工を加えることはせずに)、歯車穴に回転中心方向に突出した突起部を複数形成する。また、軸の回転中心と歯車の回転中心が一致するように突起部は歯車穴に3箇所以上形成される。このように突起部が形成された歯車穴に軸が圧入されることで、歯車穴に形成された突起部先端が軸を歯車平面状で、各突起部が中心向きに押さえつけ、歯車と軸が固定される。
【0011】
歯車穴上に形成された突起部は歯車穴に軸が圧入される時、その歯車中心と軸中心が同じ位置にくるように圧入される必要がある。そのため歯車穴上に形成される突起部の間隔は、軸圧入部が歯車穴に形成されている各突起部から軸中心に向かって力を受けるとき、その力が軸を通してその他接触している歯車穴突起部に均等に分散されるように、突起部の形成される間隔が、歯車穴上に等間隔になるように形成する。ただし、軸と歯車中心が同一点上にあり、さらに歯車構造体に回転方向にトルクが加えられたときに軸と歯車が相対回転しなければ、その限りではない。
また、歯車穴に軸が圧入されたとき、歯車穴に形成された突起部と軸圧入部では、突起部先端により形成される凸部先端により形成される円径が軸圧入部の径よりも小さいので、その軸圧入部は歯車穴に形成された突起部先端部から軸中心に向かって変形する。このとき、歯車回転方向にも突起部の持つ幅と同じ程度の変形が生じることになる。このときの変形が隣り合う突起部による変形部分と重なってしまう場合、両突起部の間にくる歯車穴部も、軸中心方向へ変形してしまい、歯車穴に形成された突起部先端と軸圧入部との接触面部分が少なくなってしまう。よって、歯車穴に形成された突起部と、軸が圧入されたことにより形成された突起部間の噛み合いが少なくなってしまい、軸圧入部と歯車穴部の噛み合いにより軸と歯車を回転方向に押さえる力は生じなくなってしまう。よって、歯車穴に形成する突起部先端の間隔は、軸圧入部に生じる変形部が歯車穴に形成されている隣り合う突起部によって生じる変形部と干渉し合わないだけの間隔で形成するものとする。
歯車穴に形成される突起部の突起先端までの長さは、軸が歯車穴に圧入されたときに、軸の圧入部外径が歯車穴に接することがないものとし、軸回転方向にトルクが生じたときに、突起部が軸圧入部から受けるトルクで軸と歯車部に所定の機能に影響を及ぼす量の相対回転を生じない長さとする。
歯車穴に形成される突起部の形状は、歯車中心の向きに凸となった形状であり、その凸形状は、歯車穴に軸が圧入されたときに、その先端部が圧入される軸と締め代をもつ状態あればよい。
凸部の形状としては、台形形状や円形状、三角形状などが挙げられるが、これらは、軸が圧入されたときに、軸と歯車が相対回転を起こすことなく、圧入方向・回転方向に変形することがなければこの限りではない。
(2)実施形態の詳細
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
(後略)」
d 【0017】、【0018】、【図3】
「【0017】
(前略)
(実施の形態3)
図3は、この発明の実施の形態3に係る、軸と歯車を示す説明図である。
【0018】
実施の形態3に係る歯車構造体300は、歯車穴に突起部6が形成されている。突起部6は略台形形状をしており、その両側面は歯車13の回転中心方向に同じ長さだけ伸びている。また、実施形態2と同様に、突起部6は略等間隔に配置されていても良い。その上底部(軸接面部)61で圧入される軸23を固定することになる。図1や図2に示す突起部4や5a・5bに比べ、圧入される軸23と面で接触することができるので、軸23をより安定に固定することができる。また、圧入される軸23は歯車中心Aを中心として、各凸部上底部61により形成される円形状の径よりも、圧入される軸23の径のほうが大きいので、凸部上底部61は圧入される軸23との接触部分において軸23を突起部先端形状に変形させて圧入されることになる。これにより歯車構造体300の回転方向と垂直に形成された接触面において、軸23と歯車穴33が直接回転方向にトルクを生じさせることが出来るので、相対回転を起こすことなく、トルクを発生させることが出来る。
(後略)」
「【図3】
[図:0001411670000001.jpg]
」
(イ) 引用文献3の記載から読み取れる事項の認定
a 認定事項1
(a) 下記の参考図の左側の図は、引用文献3の【図3】である。
そして、右側の図は、この【図3】において、歯車13の歯車穴33の面のうち突起6が形成されていない部分を、突起6の形成部分まで外挿した面(以下「内面S」という。)を点線で示したものである。
<参考図>
[図:0001411670000002.jpg]
(b) 前記参考図から、次の事項(以下「認定事項1」という。)が見て取れる。
[認定事項1]
「歯車13は、断面が略円形形状であって突起部6が形成される内面Sを有し、
歯車13のうち内面Sの外側の部分の断面積は、歯車13の突起部6の断面積の合計よりも大きいこと。」
b 認定事項2
(a) 引用文献3には、軸23の形状を理解する上で有用な記載事項として、次のi)及びii)に示す事項がある
i) 従来の圧入部の形状が、歯車穴部、軸圧入部外形形状ともに円形をしていたこと。(段落【0008】)
ii) 本発明では(軸圧入部に直接加工を加えることはせずに)、歯車穴に回転中心方向に突出した突起部を複数形成すること。(段落【0010】)
(b) 前記(a)に示したi)及びii)から、次のことが理解できる。
従来の軸圧入部の外形形状は円形であったところ(前記(a)i))、引用文献3に記載された発明は、前記従来の軸圧入部の記載を受けて、「軸圧入部に直接加工を加えることはせずに」とするものであるから(前記(a)ii))、当該引用文献3に記載された発明における「軸圧入部外形形状」は、従来と同様の「円形」であること。
(c) 前記(b)を踏まえると、「軸圧入部外形形状」が「円形」である「軸23」は、より正確には、軸圧入部の断面の外形形状が「円形」であるというものであるから、円筒状であると理解できる。
(d) したがって、引用文献3の記載から次の事項(以下「認定事項2」という。)が読み取れる。
[認定事項2]
「軸23は、円筒状であること。」
c 認定事項3
(a) 引用文献3には、「上底部(軸接面部)61」の形状を理解する上で有用な記載事項として、次のi)からiii)に示す事項がある。
i) 突起部6は略等間隔に配置されており、その上底部(軸接面部)61で圧入される軸23を固定することになり、圧入される軸23と面で接触すること。(段落【0018】)
ii) 歯車構造体300の回転方向と垂直に形成された接触面において、軸23と歯車穴33が直接回転方向にトルクを生じさせるものであること。(段落【0018】)
iii) 【図3】を参照すると、上底部(軸接面部)61に対応する部分が円弧状になっていること。
(b) 前記(a)i)からiii)に示す事項から、引用文献3の記載から読み取れる事項として、次の事項(以下「認定事項3」という。)が認められる。
[認定事項3]
「突起部6の上底部(軸接面部)61は、円筒状の軸23の周囲に沿う湾曲した接触面であること。」
(ウ) 引用発明の認定
前記(ア)で示した摘記事項及び前記(イ)で認定した引用文献3の記載から読み取れる事項1から3を総合すると、引用文献3には、次に示す発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「歯車13と、
前記歯車13の中心部に形成された歯車穴33に圧入される軸23とで構成され、
前記歯車13は前記歯車穴33の中心方向に凸となっている3つ以上複数の突起部6を有し、前記軸23の圧入により前記突起部6が変形されて前記歯車13と前記軸23が固定される歯車構造体300であって、(【請求項1】(及び【図3】、【符号の説明】、【0018】))
時計に用いられ、(【0001】)
突起部6は略台形形状をしており、その両側面は歯車13の回転中心方向に同じ長さだけ伸びており、
突起部6は略等間隔に配置されており、その上底部(軸接面部)61で圧入される軸23を固定することになり、圧入される軸23と面で接触することができるので、軸23をより安定に固定することができ、
圧入される軸23は歯車中心Aを中心として、各凸部上底部61により形成される円形状の径よりも、圧入される軸23の径のほうが大きく、
歯車構造体300の回転方向と垂直に形成された接触面において、軸23と歯車穴33が直接回転方向にトルクを生じさせるものであり、(【0018】)
歯車13は、断面が略円形形状であって突起部6が形成される内面Sを有し、
歯車13のうち内面Sの外側の部分の断面積は、歯車13の突起部6の断面積の合計よりも大きく、(認定事項1)
軸23は、円筒状であり、(認定事項2)
突起部6の上底部(軸接面部)61は、円筒状の軸23の周囲に沿う湾曲した接触面である、(認定事項3)
歯車構造体300。」
イ 引用文献5及び6の記載事項並びに周知技術の認定
(ア) 引用文献5の記載事項
当審において新たに引用する特開2009-265097号公報(以下「引用文献5」という。)には、次に摘記する事項が記載されている。
「【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、特に時計製造の分野に関し、特に非常に小さな(ミリメートル単位程度の)寸法を有する歯車、ピニオン、コレット、(アンクル用の)けん先、ディスプレイディスク等の製造に適している。
【0016】
具体的には、スピンドルをホイールの中心穴に挿入することにより得られるアセンブリは、所望の機能を供するために十分な抵抗力をもって保持されることが必要である。要するに、一方の部品が他方の部品に対して空転することなくトルクを伝達することが必要である。また、場合によっては、所定のトルクを超えた場合は空転を起こすことが必要となる。
【0017】
つまり、最悪の場合における最小駆動力に対応する最小抵抗トルクは、空転を防止するためには、最大負荷トルクより大きくなければならない。さらに、(最大抵抗トルクに対応する)最大駆動力は、組立中の損傷(例えば微小クラックや塑性変形等)が発生しない限界の閾値より小さくなければならない。
【0018】
図3は本発明の第1実施例にかかる微小機械部品の部分図である。この微小機械部品は平坦で薄く、スピンドル(図示せず)を受け入れるための開口10を有する。剛性部11と弾性部12が交互に開口10の縁に形成される。
【0019】
各剛性部11は、図3において点Cと図示される開口10の中心方向に向かって、微小機械部品から突出する凸部からなる。各剛性部11の輪郭は円弧状である。すべての剛性部11は同一形状を有し、それぞれの剛性部の開口10の点Cに最も近い端部13を結ぶことにより、点Cを中心とする第1円C1が得られる。
【0020】
各弾性部12は点Cに向かって湾曲するアームからなる。各アームは、点Cに向かって微小機械部品から突出する輪状片の形状を有し、その最大直径部分は点Cに向かって配置される。この輪状片によって開口10と微小機械部品との間に実質的に楕円形の切り抜き部14が形成される。
【0021】
弾性部12は、切り抜き部14を含む環状形状を有することにより、剛性部11よりも著しく大きい弾性を有する。すべての弾性部12は同一形状を有し、それぞれの弾性部の開口10の点Cに最も近い端部15を結ぶことにより、点Cを中心とする第2円C2が得られる。
【0022】
第2円C2の直径は第1円C1の直径よりも小さい。
各剛性部11とその両隣に各々配置される弾性部12との間には間隔16が形成される。
この第1実施例に係る微小機械部品は交互に配置された3つの剛性部と3つの弾性部を有し、それにより3つの対称な部分からなる。」
「【図3】
[図:0001411670000003.jpg]
」
(イ) 引用文献6の記載事項
当審において新たに引用する特開2006-064575号公報(以下「引用文献6」という。)には、次に摘記する事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、時計用部品、時計用組立部品、および時計に関する。」
「【0035】
以下には、電鋳によって製造された歯車204を有する四番車104について、より詳しく説明する。図5には、四番車104の平面図を示した。図6には、歯車204と軸部材230の嵌合部分の部分断面図を示した。
四番車104は、上述した工程によって得られた歯車204の中心穴214を軸部材230に嵌合することによって得られる。
図5において、歯車204には、中心穴214から4本の細長い切欠215が90°おきに外周に向かって形成され、各切欠215の間には、周方向に沿って4箇所の肉抜き穴216が形成されている。
(中略)
【0038】
歯車204の嵌合は、母型面400側から行なわれる。中心穴214の周縁は、嵌合される際に、切欠215および肉抜き穴216の作用で弾性変形して広がり、嵌合後には元の形状に戻る。ここで、側面233の傾きより嵌合部235の傾きが大きいので、嵌合後は、フォト面250に近い側の側面部分234と嵌合部235とで径方向の位置決めが行われることになる。
この場合、側面233のうち、フォト面250側の側面部分234は、フォトマスク200に形成されたパターン204Pに近い位置であり、その形状をより反映するので寸法精度がよい。したがって、側面部分234で位置合わせを行うと四番車104の寸法精度も向上する。
(中略)
【0044】
(5)歯車204には中心穴214から延びた切欠215が形成されているため、歯車204を軸部材230に嵌合する際の応力を切欠215で緩和でき、歯車204のそり等の変形を防止できる。
【0045】
(6)歯車204には肉抜き穴216が形成されているために、切欠215回りに残された腕状部分の弾性変形により、嵌合時の応力をより確実に緩和でき、このことでも、歯車204のそり等の変形を良好に防止できる。
(中略)
【0049】
(10)以上には、四番車104および歯車204に関する効果を説明したが、同様な方法で製造された他の番車102,103,105,106およびその他の歯車についても同じ効果がある。そして、これらの番車102~106で増速輪列110を構成することにより、時計1の時刻指示ずれを少なくできて時刻表示精度の高い時計1を得ることができ、使用者に高品質感を与えることができる。」
「【図5】
[図:0001411670000004.jpg]
」
(ウ) 周知技術1の認定
前記(ア)及び(イ)で示した引用文献5及び6の記載に例示されるように、次に示す技術事項は周知技術(以下「周知技術1」という。)であると認められる。
[周知技術1]
「時計に用いられ、嵌合する部材からなる組み立て体において、弾性変形に起因して弾性力を生じる部材に開口部を設けること。」
(2) 対比
ア 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
(ア)a(a) 本願発明は「時計構成要素(2)を支持要素(3)の上に留めるための弾性保持機構(1)」の発明であるところ、「上に留める」という語句の意味を把握するために本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参照すると、明細書の段落【0026】に次の記載がある。
「【0026】
したがってこの保持機構1a、1b、1cを支持要素3の上に取り付けている間、次に、取付け領域を備えるこの支持要素3の一方の端部が保持機構1の中に画定された開口12に挿入される。この文脈においては、この支持要素3の接触部分13を備えるこの取付け領域は、この取付け領域に対して、また、保持機構1のこの開口12に対して共通の中心軸Aの周りに、開口12と同軸で配置されることが好ましい。この共通軸Aの周りのこのような配置は、この挿入の間、開口12に対するこの取付け領域の指標付けに寄与する。より詳細には、この挿入の間、接触面10が半径方向に変形し、したがって次にアーム4が、支持要素3の取付け領域の接触部分13によるアーム4の接触面10への、図2に示されている圧縮力Fの印加の影響下で弾性変形する。このような圧縮力Fは、保持機構1a、1b、1cの内面6に接続されたアーム4の第1の端部に対して、中心軸Aに対して半径方向の個々のアーム4の圧縮における弾性変形を生成する。このような変形は、とりわけ、保持機構1a、1b、1cが大量の弾性エネルギーを蓄える点で寄与し、この弾性エネルギーは、保持機構1a、1b、1cに実質的な保持トルクを与えることに寄与し、とりわけ圧縮における弾性締付けによる最適保持を許容する。さらに、このような弾性機構1a、1b、1cは、現況技術の弾性機構と比較すると、締付け力のかなりの増加を許容し、実際、この締付け力は、ここでは、同じ構成の現況技術の機構の締付け力の約2倍の強さであることに留意されたい。」
(b) 前記(a)に摘記した発明の詳細な説明の記載を参酌すると、本願発明における「上に留める」という語句が示す意味の範囲には、嵌合(かんごう)する部材同士を嵌合(かんごう)する際に生じた弾性変形に起因する弾性力で保持することが含まれることが理解できる。
b(a) 引用発明の「歯車構造体300」は「時計に用いられ[る]」から、引用発明における「歯車13」は、本願発明における「時計構成要素(2)」に相当する。
(b) また、引用発明における「軸23」は、本願発明における「支持要素(3)」に相当する。
(c) 引用発明においては「軸23」は、「歯車13の中心部に形成された歯車穴33に」「圧入される」から、前記a(b)の検討結果を踏まえると、「歯車13」は「軸23」の「上に留められている」といえる。
すなわち、引用発明は、「時計構成要素を支持要素の上に留めるための」ものであるといえる。
(d) また、引用発明は、「歯車13と、前記歯車13の中心部に形成された歯車穴33に圧入される軸23とで構成され」、「前記歯車13は前記歯車穴33の中心方向に凸となっている3つ以上複数の突起部6を有し、前記軸23の圧入により前記突起部6が変形されて前記歯車13と前記軸23が固定される歯車構造体300」であるところ、「歯車13」と「軸23」は弾性力により保持されているといえるから、引用発明の「歯車構造体300」は、軸23を歯車13に取り付けるための弾性保持機構であるといえる。
(e) 前記(c)及び(d)の検討結果をまとめると、「弾性保持機構(1)」の発明である本願発明と、「歯車13」と「軸23」で構成された「歯車構造体300」の発明である引用発明とは、次の発明である点において一致する。
「時計構成要素を支持要素の上に留めるための弾性保持機構」の発明である点。
(イ)a 引用発明の「3つ以上複数の突起部6」は、「前記軸23の圧入により」「変形され[る]」ものであるから、本願発明の「少なくとも3つの変形可能アーム(4)」と、「少なくとも三つの変形可能部材」である点において共通する。
また、引用発明の「突起部6」の「上底部(軸接面部)61」は、本願発明の「自由端(9)」に相当する。
b 引用発明の「各凸部上底部61により形成される円形状」は、ここに「軸23」が「圧入される」ことを踏まえると、本願発明の「前記支持要素(3)を挿入することができる開口(12)」に相当する。
c 引用発明の「歯車13」の「内面S」は、本願発明の「内面(6)」に相当する。
d(a) 本願発明の「剛直部分(7)」という語句の意味を把握するために発明の詳細な説明の記載を参照すると、明細書の段落【0019】及び【図3】には次の記載がある。
「【0019】
このような保持機構1a、1b、1cは、好ましくは平らな上面および下面を備える1つのピースで構築されることが好ましく、これらの上面および下面は、いずれも、それぞれ第1の平面P1および第2の平面P2に含まれている。また、この機構1a、1b、1cは、上面から下面へ延びている厚さを有している。また、このような保持機構1a、1b、1cは、内面6を備えた剛直部分7を備えている。この剛直部分7は、保持機構1a、1b、1cのうちのもっとも重要な材料体積/量を備える部分に対応している。言い換えると、剛直部分7は、保持機構1a、1b、1cの変形可能アーム4のセットの材料体積/量を上回る材料体積/量を備えている。したがって剛直部分7は、この保持機構1a、1b、1cの変形可能アーム4の材料体積の合計よりも大きい材料体積を含むことが理解される。また、保持機構1a、1b、1cは、外面すなわち外部周囲壁を備えることができ、とりわけ保持機構1a、1b、1cがひげ玉である場合、それは、とりわけこの外面に配置された少なくとも1つの取付け点を介して時計構成要素2に接続されることが意図される。変形態様では、このような外面、したがって保持機構1は、時計構成要素2が図1および図2で見ることができる車である場合、時計構成要素2と一体で構築することができる。」
「【図3】
[図:0001411670000005.jpg]
」
(b) 前記(a)に摘記した発明の詳細な説明の記載を踏まえると、本願発明における「剛直部分(7)」という語句が示す意味は、「保持機構」のうち「変形可能アーム4」を含まない部分であって、変形可能アーム4のセットの材料体積/量を上回る材料体積/量を備えているもの」と解釈するのが相当である。
(c) 引用発明においては、「歯車13のうち内面Sの外側の部分の断面積は、歯車13の突起部6の断面積の合計よりも大き[い]」から、前記(b)の検討結果を踏まえると、引用発明の「歯車13のうち内面Sの外側の部分」は、本願発明の「剛直部分(7)」に相当する。
e 引用発明においては「前記軸23の圧入により前記突起部6が変形されて前記歯車13と前記軸23が固定される」ところ、完全剛体ではない「軸23」も前記「圧入」の際に弾性変形することは自明であるから、当該技術事項は、本願発明における「前記変形可能アーム(4)は、前記開口(12)中のこの支持要素(3)の圧縮における弾性締付けによって前記支持要素(3)との結合を実施するように構成され[る]」ことと、次の点において共通する。
「前記変形可能部材は、前記開口中のこの支持要素の圧縮における弾性締付けによって前記支持要素との結合を実施するように構成され[る]」点。
f 前記aからeまでの検討結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次の点において共通する。
「前記支持要素を挿入することができる開口を画定している自由端を備えた少なくとも三つの変形可能部材を備える内面を備える剛直部分を含み、前記変形可能部材は、前記開口中のこの支持要素の圧縮における弾性締付けによって前記支持要素との結合を実施するように構成され[る]」点。
(ウ)a 引用発明において「軸23は、円筒状であ[る]」ことは、本願発明において「支持要素(3)」が「円筒状」であることに相当する。
b そして、前記(ア)及び(イ)の検討結果を踏まえると、引用発明において「突起部6の上底部(軸接面部)61は、円筒状の軸23の周囲に沿う湾曲した接触面である」ことは、本願発明において「前記変形可能アーム(4)の前記自由端(9)は、円筒状の前記支持要素(3)の周囲に沿う湾曲した接触面(10)を有し」ていることに相当する。
c したがって、本願発明と引用発明は、次の点において共通する。
「前記変形可能部材の前記自由端は、円筒状の前記支持要素の周囲に沿う湾曲した接触面を有[する]」点。
(エ) 引用発明の「突起部6は略台形形状」であるから、本願発明と引用発明は、次の点において共通する。
「前記変形可能部材は、台形の形であ[る]」点。
イ 一致点及び相違点の認定
前記アの対比分析の結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次の(ア)に示す一致点において一致し、後記の(イ)に示す相違点において相違すると認められる。
(ア) 一致点
「時計構成要素を支持要素の上に留めるための弾性保持機構であって、前記支持要素を挿入することができる開口を画定している自由端を備えた少なくとも3つの変形可能部材を備える内面を備える剛直部分を含み、前記変形可能部材は、前記開口中のこの支持要素の圧縮における弾性締付けによって前記支持要素との結合を実施するように構成され、
前記変形可能部材の前記自由端は、円筒状の前記支持要素の周囲に沿う湾曲した接触面を有し、
前記変形可能部材は、台形の形である、
弾性保持機構」である点。
(イ) 相違点
「変形可能部材」が、
本願発明においては、「台形の形の開口部であるオープンワーク(13、14)」を有する「変形可能アーム」であって、前記オープンワーク(13、14)は、前記剛直部分(7)から前記弾性保持機構(1)の中心軸(A)に向かう方向に規則的に減少する開口部である」のに対して、
引用発明においては、「略台形形状をして[いる]」「突起部6」であり、「突起部6」は開口部を有していない点。
(3) 相違点についての判断
前記相違点について検討する。
ア 前記(1)イ(ウ)の「周知技術1の認定」で示したとおり、「時計に用いられ、嵌合する部材からなる組み立て体において、弾性変形に起因して弾性力を生じる部材に開口部を設けること」は、周知技術である。
イ したがって、例えば、時計に用いられる歯車構造体の発明である引用発明における「突起部6」に対して、弾性力の調整などの目的のために前記周知技術1を選択採用することは、当業者が適宜選択できる設計変更にすぎない。
その際、「突起部6」が「略台形形状をして[いる]」ところ、歪みが集中しないようにすること等を考慮して、「開口部」の具体的な形状として、台形の形状に類似した形状、すなわち台形形状の外側部分(「内面S」の部分)から「上底部(軸接面部)61」に向かう方向(すなわち「歯車構造体300」の「中心方向」)に規則的に減少する開口部の形状とすることは、自明な設計上の選択肢にすぎず、この形状を選択したことにより、当業者に予測困難であって、かつ、格別顕著な効果を奏するとは認められない。
ウ なお、「突起」と「アーム」という用語の間には、明確な差違が認められないところ、仮に「アーム」という表現が細長い形状であることの意味を含んでいるのだとしても、引用発明の「突起部6」は「略台形形状」であるところ、形状の縦横比をどのように定めるかは、用いる「歯車構造体300」における「歯車13」のサイズや材質、固定する軸23のサイズや材質、固定する力の大きさ等を考慮して当業者が適宜定める設計上の事項にすぎないから、仮に前記用語の間に差違があったとしても、「アーム」の形状とすることに困難性は認められない。
エ したがって、引用発明において、「時計に用いられ、嵌合する部材からなる組み立て体において、弾性変形に起因して弾性力を生じる部材に開口部を設ける」という周知技術1を選択採用し、その際、開口の形状として、「突起部6」の形状である台形の形状に類似した形状を採用して、更にその際、台形形状の高さ、上底、下底の寸法を適宜調整して、歯車のうち「内面S」の外側部分(本願発明の「剛直部分(7)」に相当する。)から歯車機構の中心(本願発明の「弾性保持機構(1)の中心軸(A)に向かう方向」に相当する。)に規則的に減少する開口部を有する変形可能アームとして、相違点1に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
オ 以上検討のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 意見書における請求人の主張について
ア 請求人の具体的な主張内容
請求人は、令和5年8月4日に提出した意見書において、次の主張をしている。
引用例3には、補正後の本願請求項1の次の構成が記載されていない。
「前記変形可能アーム(4)は、台形の形であり、さらに、前記変形可能アーム(4)は、台形の形の開口部であるオープンワーク(13、14)を有し、前記オープンワーク(13、14)は、前記剛直部分(7)から前記弾性保持機構(1)の中心軸(A)に向かう方向に規則的に減少する開口部であること」。
このような台形の変形可能アームと台形のオープンワークの構成による相乗効果により、補正後の本願発明の保持機構1は、個々の台形のオープンワークを有する変形可能アーム4が、オープンワークがない変形可能アームに比べて、材料が節約でき、圧縮力Fで弾性変形しやすくなり、すなわち保持機構の中心軸Aに対して、半径方向に弾性変形しやすく、支持要素3に対して締め付け力が増加する作用効果を奏する。
言い換えると、これらの図3、4に記載の変形可能アーム4の各々は、支持要素3によって誘導される半径方向の圧縮力Fにさらされると、静止構成から応力構成に切り変えられる際に、中心軸Aに対して半径方向に変形しやすくなり、この静止構成から応力構成に切り換えられると、台形のオープンワークを有する変形可能アーム4の各々が、中心軸Aに対して半径方向に、保持機構1の内面6およびオープンワークの剛直部分7へ圧縮される。このような台形のオープンワークを有する変形可能アーム4の各々は、支持要素へより締め付け力を加えることができ、半径方向に圧縮されて中心軸Aに対して変形するように構成されている間、変形可能アーム4の各々が、開口12中における支持要素3への弾性締付け結合をより保証することができる顕著な作用効果を奏する。
そして、台形のオープンワーク(透かし彫り開口部)を有する台形の変形可能アーム4は、形状がシンプルで簡易に製造でき、さらに、材料も節約でき、少ない材料で半径方向の応力を増加する作用効果を奏することも明らかである。
イ 請求人の主張に対する当審の判断
「時計に用いられ、嵌合する部材からなる組み立て体において、弾性変形に起因して弾性力を生じる部材に開口部を設けること」は、前記(1)イ(ウ)において「周知技術1」として認定したとおり、周知技術であって、当業者に自明の設計上の選択肢であるから、引用文献3に開示がないといえども、弾性率の調整などの目的のためにかかる構成を選択採用することに困難性は認められない。
なお、形状がシンプルで簡易に製造でき、さらに、材料も節約できるという効果を請求人は主張しているところ、本願発明の構成が奏する効果として当業者が予測困難な効果とはいえず、格別顕著な効果であるとは認められない。
したがって、請求人の主張は、前記(3)の結論を左右するものではない。
4 むすび
以上検討のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-009975