特許拒絶査定不服審判
2023-004844
光造形装置、及び造形物の製造方法
- 審判番号
- 2023-004844
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-570691外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年03月23日
- 審決日
- 2024年02月27日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】国立大学法人大阪大学
- 【請求人代理人】家入 健
- 分類
- P18 .121-Z (B29C) / P18 .575-Z (B29C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-570691「光造形装置、及び造形物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月15日国際公開、WO2019/155933〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(平成31年)1月29日(先の出願に基づく優先権主張 平成30年2月6日)を国際出願日とする出願であって、令和4年9月27日付けの拒絶理由の通知に対し、同年12月1日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年12月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して令和5年3月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。
第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正前の請求項1に係る発明
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、次のとおりである。
「 波長510nm以下で、レーザ光強度が5mW~40mWのレーザ光を発生させるレーザ光源と、
前記レーザ光を、モノマーを含む造形材料に集光するレンズと、
前記造形材料に対する前記レーザ光の焦点位置を変化させる走査手段と、を備え、
波長510nm以下の前記レーザ光は、二光子吸収により、前記造形材料を硬化させることで造形物を形成し、
前記レーザ光は、前記レーザ光の二光子波長が前記モノマーの官能基の吸収帯と一致する波長を有しており、
前記官能基を直接二光子励起することで、前記焦点位置で隣接する前記モノマーが重合反応し、
前記造形材料が前記重合反応により硬化する光造形装置。」
(2)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、次のとおりである(下線部は補正箇所を示す。)。
「 波長510nm以下で、レーザ光強度が5mW~40mWのレーザ光を発生させるレーザ光源と、
前記レーザ光を、モノマーを含む造形材料に集光するレンズと、
前記造形材料に対する前記レーザ光の焦点位置を変化させる走査手段と、
前記造形材料、又は前記造形材料を硬化することで得られた造形物を照明するための照明光を発生する照明光源と、
前記照明光で照明された前記造形材料又は前記造形物を撮像するカメラと、
前記照明光源と前記造形材料との間の光路中に設けられ、前記照明光に含まれる前記造形材料を1光子吸収で硬化する波長の光をカットする紫外線フィルタと、を備え、
波長510nm以下の前記レーザ光は、二光子吸収により、前記造形材料を硬化させることで造形物を形成し、
前記レーザ光は、前記レーザ光の二光子波長が前記モノマーの官能基の吸収帯と一致する波長を有しており、
前記官能基を直接二光子励起することで、前記焦点位置で隣接する前記モノマーが重合反応し、
前記造形材料が前記重合反応により硬化する光造形装置。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「光造形装置」について、「前記造形材料、又は前記造形材料を硬化することで得られた造形物を照明するための照明光を発生する照明光源」、「前記照明光で照明された前記造形材料又は前記造形物を撮像するカメラ」、及び、「前記照明光源と前記造形材料との間の光路中に設けられ、前記照明光に含まれる前記造形材料を1光子吸収で硬化する波長の光をカットする紫外線フィルタ」を備えることを特定するものである。
本件補正は、「光造形装置」を、上記「照明光源」、「カメラ」、及び、「紫外線フィルタ」を備えるものに限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
3 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。
4 引用文献
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張に係る先の出願前に、日本国内又は外国において頒布された引用文献である、特開2002-154163号公報(平成14年5月28日出願公開。以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。なお、下線は、合議体が引用発明の認定等に用いた箇所を示すものである。
ア 技術分野
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、マイクロ光造形法に関し、特にはマイクロセンサ、マイクロアクチュエータ及びマイクロマシンの分野で用いることのできる、ケースや構造材などの微小構造物の作製に対して好適に用いることのできるマイクロ光造形法に関する。」
イ 発明が解決しようとする課題
「【0006】本発明は、簡易かつ比較的短時間で微小な構造物を作製することのできる新規な光造形法を提供することを目的とする。」
ウ 課題を解決するための手段
「【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成すべく、本発明は、液状の光硬化性樹脂の内部にレーザ光を走査させながら連続的に照射し、前記光硬化性樹脂の前記内部を線分的に連続させて硬化することにより、面状の微小構造物を作製することを特徴とする、マイクロ光造形法に関する。」
エ 発明の実施の形態
「【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明を発明の実施の形態に基づいて詳細に説明する。図2は、本発明のマイクロ光造形法において好適に用いることのできるマイクロ光造形装置の構成を示す概略図である。図2に示すマイクロ光造形装置は、レーザ光源1と、このレーザ光源1から発せられたレーザ光のスポット径を絞るための倒立型光学顕微鏡2と、溶融状態の光硬化性樹脂を配置し、レーザ光照射によって微小構造物を作製するための3次元電動ステージ3とを具えている。」
合議体注:図2は次のものである。
[図:0001409878000001.jpg]
「【0017】レーザ光源1と倒立型光学顕微鏡2との間には、電動シャッタ4が設けられており、3次元電動ステージ3にドライバ5を介して接続されたコンピュータ6からの信号に基づき、3次元電動ステージ3の動作に連動して開閉するように構成されている。また、3次元電動ステージ3の上方にはCCDカメラ7及びVTR8が具えられており、レーザ照射による線分状の光硬化性樹脂の形成過程、及びこれら線分状の光硬化性樹脂が積層されることによる、面状又は3次元状の微小構造物の形成過程がリアルタイムで観察できるように構成されている。
【0018】3次元電動ステージ3上には、スポイトなどを用いて滴下した液状の光硬化性樹脂Xが配置されている。レーザ光源1から発せられたレーザ光は、開状態の電動シャッタ4を通って倒立型光学顕微鏡2に入射し、光の波長程度にまでスポット径が絞られた後、3次元電動ステージ3上に設置された光硬化性樹脂Xの内部に照射される。そして、3次元電動ステージ3を任意の方向に適宜に走査させることによって、レーザ光を光硬化性樹脂Xの内部に走査させながら連続的に照射し、図1(a)に示すような線分状に硬化した複数の光硬化性樹脂Aを作製する。」
合議体注:図1(a)は次のものである。
[図:0001409878000002.jpg]
「【0020】レーザ光源は、使用する光硬化性樹脂の種類及び要求されるレーザ光強度などに応じて任意のものを用いることができる。例えば、He-Cdレーザ、Nd:YAGレーザの第3高調波、チタン酸サファイアレーザの第2高調波、及び青色半導体レーザを用いることができる。図2に示すその他の構成要素においては、市販のものを用いることができる。
【0021】さらに、本発明において使用する光硬化性樹脂の種類についても、作製すべき面状又は3次元状の微小構造体の種類に応じて任意に選択することができる。具体的には、ウレタンアクリルレート系、エポキシアクリルレート系、エステルアクリルレート系、及びアクリルレート系を例示することができる。また、使用するレーザ光源の波長の光を吸収できるように、上記光硬化性樹脂に対して所定の増感剤、例えば、ベンゾフェノン系を添加することもできる。
【0022】本発明においては、上述したような微小構造体を作製した後、内部に残留している未硬化の光硬化性樹脂は、紫外線を照射することによって一括して硬化させることができる。本発明によれば、光硬化性樹脂の表層部分のみを硬化させるとともに、内部の未硬化樹脂についても紫外線照射によって一括して硬化させるので、最終的に光硬化性樹脂を全体的に硬化させる必要がある場合においても、その硬化時間は従来の比べて極めて短くすることができる。」
オ 実施例
「【0025】
【実施例】図3は、図2に示すような装置を用い、光硬化性樹脂としてノプコキュア800(アクリル系樹脂)を用いるとともに、レーザ光源としてチタン酸サファイアレーザ(波長800nm)を用い、これをSHGを用いて400nmに変換したパルス光を用い、ノプコキュア800を二光子吸収による誘起を利用して硬化させた、一辺が約10μmの三角柱型の3次元微小構造体である。このように、本発明のマイクロ光造形法に従うことによって、10μmオーダの3次元微小構造体が得られることが分かる。なお、図3に示す3次元微小構造体の作製に際しては、本発明の好ましい態様にしたがって最初に底面を作製することにより実施した。
【0026】以上、具体例を挙げながら発明の実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。例えば、上記図2においては、レーザ光のスポット径を絞るための倒立型光学顕微鏡を用いているが、正立型光学顕微鏡を用いることもできる。」
合議体注:図3は次のものである。
[図:0001409878000003.jpg]
カ 発明の効果
「【0027】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のマイクロ光造形法によれば、光硬化性樹脂の表層部分にレーザ光を照射し、この部分を硬化させることによって目的とする微小構造物を作製するので、比較的短時間の作製が可能となる。さらには、線分状に硬化させた光硬化性樹脂を積層させることによって、目的とする構造物を作製するので、突起状物などの特異形状物もこの線分で構成することにより、支持部材を必用とすることなく簡易に形成することができる。」
(2)引用発明
引用文献2の上記記載事項エ及び記載事項オに基づけば、引用文献2には、図2に示すマイクロ光造形装置を用いた実施例に係る発明として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていたと認められる。
「レーザ光源と、このレーザ光源から発せられたレーザ光のスポット径を絞るための倒立型光学顕微鏡と、溶融状態の光硬化性樹脂を配置し、レーザ光照射によって微小構造物を作製するための3次元電動ステージとを具えており、3次元電動ステージの上方にはCCDカメラ及びVTRが具えられており、レーザ照射による線分状の光硬化性樹脂の形成過程、及びこれら線分状の光硬化性樹脂が積層されることによる、面状又は3次元状の微小構造物の形成過程がリアルタイムで観察できるように構成されており、レーザ光源から発せられたレーザ光は、開状態の電動シャッタを通って倒立型光学顕微鏡に入射し、光の波長程度にまでスポット径が絞られた後、3次元電動ステージ上に設置された光硬化性樹脂の内部に照射され、3次元電動ステージ3を任意の方向に適宜に走査させることによって、レーザ光を光硬化性樹脂Xの内部に走査させながら連続的に照射する、マイクロ光造形装置であって、
光硬化性樹脂としてノプコキュア800(アクリル系樹脂)を用いるとともに、レーザ光源としてチタン酸サファイアレーザ(波長800nm)を用い、これをSHGを用いて400nmに変換したパルス光を用い、ノプコキュア800を二光子吸収による誘起を利用して硬化させる、マイクロ光造形装置。」
5 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(1)レーザ光源
引用発明の「レーザ光源」は、「チタン酸サファイアレーザ(波長800nm)」であり、「SHGを用いて400nmに変換したパルス光」を発生させるものである。そうすると、引用発明の「レーザ光源」は、本件補正発明の「レーザ光源」に相当する。また、引用発明の「レーザ光源」と本件補正発明の「レーザ光源」とは、「波長510nm以下で、レーザ光を発生させる」点で共通する。
(2)レンズ
引用発明の「倒立型光学顕微鏡」は、「レーザ光源から発せられたレーザ光のスポット径を絞る」ためのものであり、「光の波長程度にまでスポット径が絞られた後、3次元電動ステージ上に設置された光硬化性樹脂の内部に照射される」ように配置されている。光学顕微鏡がレーザ光のスポット径を絞るための構成として、レンズを備えていることは自明であり、引用発明の「倒立型光学顕微鏡」が備えるレンズが、光硬化性樹脂の内部に照射されるように、レーザ光のスポット系を絞っていると理解できる。
また、引用発明において「光硬化性樹脂」として用いられる「ノプコキュア800(アクリル系樹脂)」は、「溶融状態の光硬化性樹脂」であって「二光子吸収による誘起を利用して硬化」することにより「面状又は3次元状の微小構造物」が形成されるものである(なお、令和4年12月1日に請求人が提出した意見書に添付された参考文献2の Table 2 には、ノプコキュア800の「Type of material」について「Acrylic acid ester」と記載されており、アクリル酸エステルは、モノマーにあたる。)。そして、段落【0021】には、「本発明において使用する光硬化性樹脂」の具体例として、「エステルアクリレート系」等のモノマーが例示されていることから、引用発明の「光硬化性樹脂」が「モノマー」を含むことは明らかである。そうすると、引用発明の「光硬化性樹脂」は、面状又は3次元状の微小構造物を形成するための「造形材料」であって、励起により硬化するモノマーを含んでいるといえる。
したがって、引用発明は、本件補正発明の「レーザ光を、モノマーを含む造形材料に集光するレンズ」を備えているといえる。
(3)走査手段
引用発明の「3次元電動ステージ」は、「任意の方向に適宜に走査させることによって、レーザ光を光硬化性樹脂Xの内部に走査させながら連続的に照射する」ように作動するものである。そうすると、引用発明の「3次元電動ステージ」は、本件補正発明の「前記造形材料に対する前記レーザ光の焦点位置を変化させる走査手段」に相当する。
(4)カメラ
引用発明の「CCDカメラ」は、「レーザ照射による線分状の光硬化性樹脂の形成過程、及びこれら線分状の光硬化性樹脂が積層されることによる、面状又は3次元状の微小構造物の形成過程がリアルタイムで観察できる」ように構成されている。そうすると、引用発明の「CCDカメラ」は、本件補正発明の「前記造形材料又は前記造形物を撮像するカメラ」に相当する。
(5)二光子吸収による硬化
引用発明の「マイクロ光造形装置」は、「溶融状態の光硬化性樹脂」を「SHGを用いて400nmに変換したパルス光を用い、ノプコキュア800を二光子吸収による誘起を利用して硬化」させている。溶融状態の光硬化性樹脂が励起により硬化することから、光硬化性樹脂を構成するモノマーが励起により重合する反応が生じていると理解できる。
そうすると、引用発明の「マイクロ光造形装置」は、本件補正発明の「波長510nm以下の前記レーザ光は、二光子吸収により、前記造形材料を硬化させることで造形物を形成」するとの要件、「二光子励起することで、前記焦点位置で隣接する前記モノマーが重合反応」し、「前記造形材料が前記重合反応により硬化する」との要件を満たしている。
(6)光造形装置
引用発明の「マイクロ光造形装置」は、前記(1)~(5)において検討した要件を備えるものである。そうすると、引用発明の「マイクロ光造形装置」は、本件補正発明の「光造形装置」に相当する。
(7)一致点及び相違点
以上より、本件補正発明と引用発明とは、
「 波長510nm以下で、レーザ光を発生させるレーザ光源と、
前記レーザ光を、モノマーを含む造形材料に集光するレンズと、
前記造形材料に対する前記レーザ光の焦点位置を変化させる走査手段と、
前記造形材料又は前記造形物を撮像するカメラと、
を備え、
波長510nm以下の前記レーザ光は、二光子吸収により、前記造形材料を硬化させることで造形物を形成し、
二光子励起することで、前記焦点位置で隣接する前記モノマーが重合反応し、
前記造形材料が前記重合反応により硬化する光造形装置。」
である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点1]
レーザ光強度が、本件補正発明では「5mW~40mW」であるのに対し、引用発明ではレーザ光強度が明らかでない点。
[相違点2]
本件補正発明は、「前記造形材料、又は前記造形材料を硬化することで得られた造形物を照明するための照明光を発生する照明光源」と、「前記照明光源と前記造形材料との間の光路中に設けられ、前記照明光に含まれる前記造形材料を1光子吸収で硬化する波長の光をカットする紫外線フィルタ」とを備え、カメラが、「前記照明光で照明された」前記造形材料又は前記造形物を撮像するのに対し、引用発明は照明光源及び紫外線フィルタを備えていない点。
[相違点3]
本件補正発明では、レーザ光の二光子波長が「モノマーの官能基の吸収帯と一致する」ことにより「官能基を直接」二光子励起するのに対し、引用発明では、「ノプコキュア800」に含まれるモノマーの官能基の吸収帯と一致するのかが明らかでなく、直接二光子励起されているか不明である点。
6 判断
(1)[相違点1]について
引用文献2には、「レーザ光源は、使用する光硬化性樹脂の種類及び要求されるレーザ光強度などに応じて任意のものを用いることができる。」(【0020】)と記載されている。
上記記載に基づけば、引用発明のレーザ光源は、使用する光硬化性樹脂において要求される強度に応じて、そのレーザ光強度が適宜調整されるべきものである。そうすると、引用発明において、レーザ光強度を、5mW~40mWの範囲内とすることは、当業者が適宜なし得た最適化に過ぎない。また、レーザ光強度を、5mW~40mWの範囲内としたことにより、格別な効果の差異が生じるともいえない。
したがって、引用発明において、本件補正発明の[相違点1]に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
(2)[相違点2]について
本願の明細書に先行技術文献として挙げられた特開2003-1599号公報には、二光子吸収誘起樹脂硬化を利用して自在な三次元形状微細構造を作製可能な装置の光学系について、以下の記載がある。
「【0067】また、光学調整を容易にするため、試料の透過像の観察光学系を作製した。試料は上方よりファイバー光源41を用いて照明され、PBS35、イメージングレンズ43を介してCCD44に結像している。照明光によって樹脂が硬化するのを防ぐため、波長560nm以下をカットするカラーフィルター42を用いている。露光ビームの焦点位置はガルバノスキャナー27を用いて焦平面内で走査され、ピエゾ作動ステージ40によって光軸方向に走査される。」
ここで、「カラーフィルター42」は、「波長560nm以下をカットする」ものであるから紫外光もカットすることは明らかである。さらに、「照明光によって樹脂が硬化するのを防ぐ」ものであるから、照明光に含まれる造形材料を1光子吸収で硬化する波長の光をカットすることも明らかである。
上記記載に基づけば、本願の先の出願前において、光造形装置に、試料を照明する光源、照明光によって樹脂が硬化するのを防ぐためのカラーフィルター、CCDを備えた観察光学系を設けることは、光造形装置の背景技術として知られていたといえる。
引用発明は、「CCDカメラ及びVTRが具えられており、レーザ照射による線分状の光硬化性樹脂の形成過程、及びこれら線分状の光硬化性樹脂が積層されることによる、面状又は3次元状の微小構造物の形成過程がリアルタイムで観察できるように構成」された観察光学系を備えている。このような観察光学系に、背景技術として知られた、照明光源及び照明光によって樹脂が硬化するのを防ぐためのカラーフィルターを採用することは、当業者が適宜なし得たことである。
また、そのような構成を採用したことにより、格別な効果の差異が生じるともいえない。
したがって、引用発明において、本件補正発明の[相違点2]に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
(3)[相違点3]について
請求人が令和4年12月1日に提出した意見書に添付した参考文献2の Table 2 に基づけば、引用発明における「ノプコキュア800」は、「Acrylic acid ester」であると理解できる。
[図:0001409878000004.jpg]
一方、本願明細書の[0045]には、図2と共に、「図2は、分子の官能基とその吸収帯を示す表である。図2に示すように、有機分子の官能基の吸収帯は、主に、波長が180nm~260nmの深紫外光領域にある。ここで、二光子波長を分子の官能基の吸収帯に一致させるために、レーザ光L1の波長を350nm~510nmとしている。モノマー、又は架橋剤に内在する官能基を直接二光子励起して、重合反応を引き起こすことが可能になる。重合反応による造形材料21が硬化する。」と記載されており、本願明細書の[0053]には、図3と共に、「造形材料21の吸収スペクトルを図3に示す。図3では、メタクリル酸メチル(methylmethacrylate:MMA)とDPE6A(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:dipentaerythritol hexacrylate)の吸収スペクトルを示すグラフである。図3に示すように、レーザ波長(400nm)に吸収を持たず、二光子吸収波長(200nm)の高い吸光度を持っている。MMA、又はDPE6Aを造形材料21として用いることが可能である。」と記載されている。
[図:0001409878000005.jpg]
引用発明の「ノプコキュア800」は、「Acrylic acid ester」であるから、メタクリル酸メチル(MMA)及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPE6A)と同じ官能基「C=C」、「C=O」を有している。そうすると、引用発明の「ノプコキュア800」は、メタクリル酸メチル(MMA)及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPE6A)と同様に、二光子吸収波長(200nm)の高い吸光度を持っているといえる。
そうすると、引用発明の「レーザ光源」が発生する「400nm」のパルス光は、光硬化性樹脂「ノプコキュア800」の官能基の吸収帯と一致し、光硬化性樹脂に含まれるモノマーの「官能基を直接」二光子励起しているといえる。
したがって、引用発明の「マイクロ光造形装置」は、官能基の吸収帯が「レーザ光源」の波長と一致するモノマーを含む光硬化性樹脂を用いて直接二光子励起できるように構成されたものであるから、[相違点3]は実質的な相違点ではない。
仮に、[相違点3]が実質的な相違点であったとしても、引用文献2には、「本発明において使用する光硬化性樹脂の種類についても、作製すべき面状又は3次元状の微小構造体の種類に応じて任意に選択することができる。具体的には、ウレタンアクリルレート系、エポキシアクリルレート系、エステルアクリルレート系、及びアクリルレート系を例示することができる。」(段落【0021】)との記載がある。これらの光硬化性樹脂として挙げられたモノマーも、いずれも、メタクリル酸メチル(MMA)及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPE6A)と同じ官能基「C=C」、「C=O」を有しており、二光子吸収波長(200nm)の高い吸光度を持っており、「400nm」のパルス光で直接二光子励起されるといえる。したがって、引用文献2における示唆に基づいて、引用発明の「マイクロ光造形装置」を、官能基「C=C」、「C=O」を有するモノマーを含む光硬化性樹脂を直接二光子励起するように構成することは、当業者が適宜なし得たことである。
なお、段落【0021】には、「使用するレーザ光源の波長の光を吸収できるように、上記光硬化性樹脂に対して所定の増感剤、例えば、ベンゾフェノン系を添加することもできる。」(下線は当審が付与。)との記載があるが、当該記載は増感剤を必須の構成とすることを意味すると理解することができない。
(4)発明の効果
本件補正発明の効果は、「様々な造形材料に適用することが可能な光造形装置、及び造形物の製造方法を提供することができる。」(段落[0024])というものである。
一方、引用文献2の段落【0021】には、「本発明において使用する光硬化性樹脂の種類についても、作製すべき面状又は3次元状の微小構造体の種類に応じて任意に選択することができる。」と記載されている。当該記載に基づけば、引用発明も、様々な光硬化性樹脂に適用することが可能なマイクロ光造形装置を提供できるものといえる。そうすると、引用発明は、本件補正発明と同様の効果を奏するものといえる。
請求人は、令和4年12月1日に提出した意見書において、「請求項1にかかる光造形装置は、レーザ光源が、波長510nm以下で、レーザ光強度が5mW~40mWのレーザ光を発生させる点を技術的特徴の一つとしております。このようにすることで、効率よく光造形を行うことができます。このようにすることで、2光子吸収により造形材料を効率よく硬化させることができます。」、「請求項1、9にかかる発明は、引用文献と比して発明特定事項上の差異を有し、また、その差異に基づき特有の効果を奏するものであります。よって、本願発明は、当業者が引用文献に基づいて容易に想到できるとは考えられません。」(第3頁)と主張している。
しかし、引用発明も、波長510nm以下のレーザ光源を用いている。また、引用文献2には、「レーザ光源は、使用する光硬化性樹脂の種類及び要求されるレーザ光強度などに応じて任意のものを用いることができる。」(【0020】)と記載されており、使用する光硬化性樹脂において要求されるレーザ光強度とした場合に、無駄なく効率よく光造形を行うことができることは自明の効果である。また、本願の明細書を参酌しても、レーザ光源を、「波長510nm以下で、レーザ光強度が5mW~40mW」とすることにより、格別な効果の差異が生じると理解することができない。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。
また、請求人は、審判請求書において、「請求項1の構成によれば、リアルタイムで造形材料、及び造形物をユーザが観察する場合でも、高い加工精度を得ることができる。」、「引用文献2の図2の装置は、光源としてレーザ光源しか備えていないため、造形材料を適切に照明することができずに、カメラによって観察できない困難となる。具体的には、レーザ光源のレーザ波長は2光子吸収可能な単一波長に制限される。よって、造形材料や造形物(微小構造物)の反射特性又は透過特性によっては、CCDカメラがレーザ光を検出できないため、適切に観察することが困難である。」(第5頁)、「請求項1にかかる発明は、引用文献と比して、異なる発明特定事項を有し、これに基づいて優れた効果を有するため、当業者が引用文献に基づいて容易に想到できるものではない。」(第5~6頁)と主張している。
しかし、引用発明も、「リアルタイムで観察できるように構成」されたものである。また、前記(2)において検討したとおり、観察光学系において照明光源を用いることも、当該分野において従来より知られており、照明光源によって適切に観察できるという効果も自明である。そうすると、本件補正発明の効果は、従来知られていた効果を寄せ集めたものに過ぎず、格別なものということができない。
したがって、上記請求人の主張も採用できない。
7 むすび
以上のとおり、[相違点1]~[相違点3]は、いずれも、当業者が容易になし得たことであるか、実質的な相違点とはいえないものである。そうすると、本件補正発明は、引用発明及び背景技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本件発明
1 本件発明
本件補正は、前記第2にとおり却下されたので、本願の請求項1~16に係る発明は、令和4年12月1日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、前記第2の1(1)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、この出願の請求項1~8に係る発明は、本願の優先権主張に係る先の出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献である、引用文献2に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する次述の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献2:特開2002-154163号公報
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2及びその記載事項は、前記第2の4に記載したとおりである。
4 対比・判断
本件発明は、前記第2の2において検討したとおり、本件補正発明から、「照明光源」、「カメラ」、及び、「紫外線フィルタ」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の7に記載したとおり、引用発明及び背景技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、引用発明及び背景技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-004844