2023-002734
ガラス繊維断熱材
- 審判番号
- 2023-002734
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-243013外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年02月17日
- 審決日
- 2025年01月21日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .537-Z (B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 11項目
第1 手続の経緯
本願は、平成30年12月26日の出願であって、令和4年7月6日付けで拒絶理由が通知され、同年9月8日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月30日付けで拒絶査定がされ、令和5年2月17日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1~10に係る発明は、令和4年9月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】第1の面及び第2の面を有するガラス繊維マットと、前記第1の面に接着された防湿性シートとを含む断熱材であって、前記断熱材が、透湿性シートを含まず、前記ガラス繊維マットが、ガラス繊維及びバインダーを含み、前記ガラス繊維が、1.0~5.0μmの平均繊維径を有し、前記バインダーが、4.2~5.4N/mm2のバインダー強度を有し、前記ガラス繊維マットにおけるバインダー含有率が、2.0~8.0質量%である、断熱材。」
第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。
・本願請求項1における「バインダーが、4.2~5.4N/mm2のバインダー強度」を有するという発明特定事項は、発明の詳細な説明に記載された測定方法が十分でないことから、明確でない。
第4 当審の判断
1 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、上記観点を踏まえて検討する。
2 特許請求の範囲の請求項1の記載
本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は上記第2のとおりである。
3 発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明にはおおむね次の記載がある。(下線は当審で付した。「・・・」は摘記の省略を表す。)
・「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決する課題は、1面に防湿性シートを設けたガラス繊維マットを含む断熱材において、透湿性シートを用いずにガラス繊維の皮膚刺激性触感を抑制することである。」
・「【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、ガラス繊維マットにおけるガラス繊維の繊維径並びにバインダーの強度及び含有率を調節することにより解決できることが見出された。すなわち、本発明は、下記〔1〕~〔12〕に関するものである。
【0008】
〔1〕第1の面及び第2の面を有するガラス繊維マットと、前記第1の面に接着された防湿性シートとを含む断熱材であって、
前記断熱材が、透湿性シートを含まず、
前記ガラス繊維マットが、ガラス繊維及びバインダーを含み、
前記ガラス繊維が、1.0~5.0μmの平均繊維径を有し、
前記バインダーが、3.6~6.1N/mm2のバインダー強度を有し、
前記ガラス繊維マットにおけるバインダー含有率が、1.0~8.5質量%である、
断熱材。
〔2〕前記ガラス繊維が、2.0~4.6μmの平均繊維径を有する、前記〔1〕に記載の断熱材。
〔3〕前記バインダーが、4.2~5.4N/mm2のバインダー強度を有する、前記〔1〕又は〔2〕に記載の断熱材。
〔4〕前記ガラス繊維マットにおけるバインダー含有率が、2.0~8.0質量%である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の断熱材。
【0009】
〔5〕前記ガラス繊維マットの密度が、6~48kg/m3である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の断熱材。
〔6〕前記ガラス繊維マットの密度が、9~38kg/m3である、前記〔5〕に記載の断熱材。
〔7〕前記バインダーが、アミド化反応、イミド化反応、エステル化反応及びエステル交換反応からなる群から選択される反応により硬化する熱硬化性樹脂を含む、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の断熱材。
〔8〕前記バインダーが、防塵剤を含む、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の断熱材。
【0010】
〔9〕前記防湿性シートが、前記第1の面の周囲に延出する耳部を形成している、前記〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の断熱材。
〔10〕前記第1の面が、長辺及び短辺を有する長方形であり、前記耳部が、前記第1の面の両短辺側に30~150mm延出している、前記〔9〕に記載の断熱材。
〔11〕前記第1の面が、長辺及び短辺を有する長方形であり、前記耳部が、前記第1の面の両長辺側に30~50mm延出している、前記〔9〕又は〔10〕に記載の断熱材。
〔12〕前記防湿性シートが、10~90μmの厚さを有する、前記〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の断熱材。」
・「【発明の効果】
【0011】
本発明により、1面に防湿性シートを設けたガラス繊維マットを含む断熱材において、透湿性シートを用いずにガラス繊維の皮膚刺激性触感を抑制することができる。」
・「【発明を実施するための形態】
・・・
【0018】
ガラス繊維マットは、バインダーを含む。バインダーは、3.6~6.1N/mm2のバインダー強度を有するものであれば、特に制限なく使用することができる。バインダーは、好ましくは3.9~5.7N/mm2、より好ましくは4.2~5.4N/mm2のバインダー強度を有する。バインダー強度が3.6N/mm2以上であれば、ガラス繊維マットは十分な強度を有し、圧縮梱包からの解放時に厚みが適切に復元する。バインダー強度が6.1N/mm2以下であれば、ガラス繊維マットは適度な剛性を有しつつも、皮膚刺激性触感が低減される。バインダー強度は、実施例において詳述されるシェルモールド引張強度測定方法によって測定することができる。
・・・
【0046】
本発明の断熱材は、ガラス繊維マットにおけるガラス繊維の平均繊維径並びにバインダーの強度及び含有率を上述の通り調節することにより、ガラス繊維の皮膚刺激性触感を抑制することができる。そのため、本発明の断熱材は、ガラス繊維の皮膚刺激性触感の抑制の目的で従来用いられてきた透湿性シートを含んでおらず、筋交い部への施工の際の手間を省くことができ、短辺側パックR部の隙間の問題も生じない。また、透湿性シートを省くことによりコスト低減も見込むことができる。更に、梱包時の圧縮や施工時の厚みの復元に必要な空気の流出、流入を容易とし、マット内部の湿気を通気によって逃がし易くすることも効果として挙げられる。・・・」
・「【実施例】
【0051】
実施例において、ガラス繊維の平均繊維径、ガラス繊維の繊維長、ショット率、ガラス繊維マットの密度、バインダー含有率及びバインダー強度は、以下の方法により測定した。
・・・
【0057】
(バインダー強度)
(1)150gのガラスビーズに2.7質量%のバインダーを投入して混合して混合物を得る工程、
(2)工程(1)で得られた混合物を鉄製金型に均一に詰め、オーブンで加熱してバインダーを硬化させて、シェルモールド試験片(厚み6mm×幅27mm×長さ74mm、但し、クリップ部幅42mm)を得る工程、
(3)工程(2)で得られたシェルモールド試験片をオーブンから取り出し、室温まで冷却する工程、及び
(4)万能材料試験機を用いて引張速度5mm/分でシェルモールド試験片の引張強度を測定する工程、
を含むシェルモールド引張強度測定方法によってバインダー強度を測定した。
【0058】
(断熱材の製造)
ガラス融液から繊維化装置にて繊維化を行い、繊維長30mm、平均繊維径4.0μmのガラス繊維を得た。これに熱硬化性樹脂(アクリル系樹脂)、架橋剤、防塵剤(99質量%の鉱物油と1質量%の界面活性剤との混合物、動粘度300mm2/s(40℃))、他添加剤を含むアクリル系樹脂バインダーを、硬化後にガラス繊維とバインダーの合計質量に対して4質量%となる量で、繊維化直後に吹き付け、積層コンベヤ上に目付が2170g/m2となるように集綿し、厚さが155mmとなるように圧縮しながらオーブンで210℃にてバインダーを硬化させた。その後、スリッティング、トリムカット、製品短辺方向の切断等を施して、幅430mm、長さ1370mm、厚み155mmの寸法を有するガラス繊維マット(密度14kg/m3、ショット率0.5質量%、防塵剤含有量0.2質量%(固形分換算))を得た。厚さ18μmの高密度ポリエチレン防湿フィルム(透湿抵抗70m2・Hr・mmHg/g)をホットメルト系接着剤で第1の面(短辺及び長辺を有する面)に貼り付けて、実施例1の断熱材を製造した。断熱材は、ガラス繊維マットの第1の面の両短辺側に120mm延出する耳部と、第1の面の両長辺側に45mm延出する耳部とを有した。
【0059】
ガラス繊維の平均繊維径及び繊維長、ショット率、ガラス繊維マットの密度、厚み、幅及び長さ、バインダー種類、バインダー含有率、バインダー強度、防塵剤の有無並びに防湿性シートの厚み及び透湿抵抗を表1に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2~6及び比較例1~6の断熱材を製造した。
・・・
【0063】
【表1】
[図:0001420707000001.jpg]
」
4 判断
本願発明の発明特定事項である「バインダー強度」に関する発明の詳細な説明の記載は上記3のとおりであり、本願発明の課題である「1面に防湿性シートを設けたガラス繊維マットを含む断熱材において、透湿性シートを用いずにガラス繊維の皮膚刺激性触感を抑制すること」(段落【0006】)を解決する手段において、「ガラス繊維マットにおけるガラス繊維の平均繊維径並びにバインダーの強度及び含有率を調節する」(段落【0007】、【0046】)ことが重要な要素となっているから、バインダー強度を特定する必要がある。
そして、当該「バインダー強度」の測定手段として、段落【0057】において、
「(バインダー強度)(1)150gのガラスビーズに2.7質量%のバインダーを投入して混合して混合物を得る工程、(2)工程(1)で得られた混合物を鉄製金型に均一に詰め、オーブンで加熱してバインダーを硬化させて、シェルモールド試験片(厚み6mm×幅27mm×長さ74mm、但し、クリップ部幅42mm)を得る工程、(3)工程(2)で得られたシェルモールド試験片をオーブンから取り出し、室温まで冷却する工程、及び(4)万能材料試験機を用いて引張速度5mm/分でシェルモールド試験片の引張強度を測定する工程、を含むシェルモールド引張強度測定方法によってバインダー強度を測定した。」と記載されている。
ここで、上記のようなガラスビーズをバインダーで結合した試験片においては、使用するガラスビーズの粒子径によって、バインダーとの接触状態も異なり、引張強度も異なると解されるところ、本願明細書の記載の限りからではガラスビーズの粒子径がわからないため、バインダー強度を特定することができず、バインダー強度をどのように測定するのか明確ではない。
また、当業者の技術常識を踏まえて、どのような粒子径のガラスビーズを用いるのかが理解できるかを検討しても、バインダー強度の測定に係る統一された試験方法は見当たらないから、ガラスビーズの粒子径を特定することはできない。さらに、下記5(2)において後述するとおり、請求人が提示する資料1(特開2005-299013号公報)におけるバインダー強度の試験方法を採用する合理的な理由はなく、当該試験方法が本願明細書に記載されているわけでもないから、当業者が平均粒径0.1mmのガラスビーズを使用することが当然であるともいえない。
そうすると、当業者の技術常識を踏まえても、本願明細書に記載の「バインダー強度」の測定に利用するガラスビーズの粒子径を特定することはできないから、本願明細書の記載からは、一義的に「バインダー強度」を特定することはできず、本願発明の発明特定事項である「バインダーが、4.2~5.4N/mm2のバインダー強度を有し」の意味について、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載からも、また、当業者の出願時の技術常識を考慮しても、明確であるとはいえない。
よって、本願発明に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎としても、第三者が本願と同様なガラス繊維マットを含む断熱材が本願発明の特許請求の範囲に記載の発明に該当するかどうかを確認することができないため、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。
5 請求人の主張について
(1)請求人の主張
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請求人は、審判請求書において「しかしながら、バインダー強度(引張強度)の測定試料として、出願人が提出した資料1(審決注:特開2005-299013号公報)の他に、特表2010-535864号公報や特開2013-151777号公報に記載されるものが知られていたとしても、測定試料に用いるガラスビーズ及びバインダーの量が本願明細書の記載と一致しているのは、資料1だけです。
具体的に、本願明細書と資料1のガラスビーズ及びバインダーの量が一致していることは、意見書で詳述したとおりです。特表2010-535864号公報の段落0066では、727.5gのガラスビーズと、75gのバインダを使用しています。段落0064における「バインダ溶液は、溶液の総重量のパーセンテージとして約45%の溶解した固体を含有するようにした。」との記載に基づくと、段落0066ではガラスビーズ(727.5g)に対して4.6質量%(75g×45%=33.75g)のバインダーを使用しています。特開2013-151777号公報の段落0062には、ガラスビーズに対してバインダー固形分が2.5%であることは記載されているものの、ガラスビーズの量は記載されていません。
なお、出願人が提出した資料2(審決注:国際公開第2016/104261号)は、引張強度ではなく曲げ強さの測定試料に関するものですが、段落0091に「結合剤を、有効成分がガラスビーズ重量の7.5%となるように添加し」と記載されているものの、ガラスビーズの量は記載されていません。
これらをまとめると、以下の表のとおりです。
[図:0001420707000002.jpg]
したがって、バインダー強度の測定試料として複数のものが知られていたとしても、当業者であれば、本願明細書の記載に基づき、本願発明におけるバインダー強度は、資料1と同様の測定試料に基づいて測定されるものであると理解します。そして、資料1のシェルモールド試験法では平均粒径0.1mmのガラスビーズ150gを用いていることから(段落0032)、当業者であれば、本願明細書のシェルモールド引張強度測定方法における「150gのガラスビーズ」として平均粒径0.1mmのものを使用することを理解できます。
以上のとおり、仮に、バインダー強度を測定するための試験片に用いられるガラスビーズの平均粒径が当業界において統一されていなかったとしても、当業者であれば、本願明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて、バインダー強度の測定方法を明確に理解でき、バインダー強度自体も明確であると理解します。」(審判請求書第3ページ第22行~第5ページ第1行)と主張する。
(2)請求人の主張についての検討
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請求人が提示する資料1(特開2005-299013号公報)におけるバインダー強度の試験方法における数値や条件をみると(段落【0062】~【0066】)、ガラスビーズの量150gに対してのバインダーの量は、2.1g(結合剤11.8gの固形分18%の場合で、本願における1.4質量%に相当)又は4.1g(結合剤11.8gの固形分35%の場合で、本願における2.7質量%に相当)、チャック間距離は35mm、引張り速度は30mm/分である。また、試験体については、長さ70mm、最大幅40mm(中央部の最小幅25mm)のマユ型で、厚さ6.7mmの形状に賦形した後、賦形した混合物を金型から外し、230℃で30分加熱して得たものとなっている。これに対して、本願発明においては、ガラスビーズの量150gに対してのバインダーの量は2.7質量%、引張り速度は5mm/分であり、試験体は、厚み6mm×幅27mm×長さ74mmの形状である。
つまり、本願発明と資料1とはガラスビーズの量とバインダーの量の2つの数値が一致するだけであり、それも結合剤の固形分比率として18%と35%の二種類があるうち35%の方を選ばなければ、一致するのはガラスビーズの量だけである。
このような状況において、請求人が主張する「測定試料に用いるガラスビーズ及びバインダーの量が本願明細書の記載と一致しているのは、資料1だけ」という理由で、バインダー強度の試験方法として様々考え得る中から、資料1に記載された試験方法を選択し、平均粒径0.1mmという特定のガラスビーズを採用する点に、合理的な根拠は認められない。そして、そもそも、資料1だけでは、本願発明のバインダー強度の試験方法のような試験方法において、ガラスビーズの平均粒径を0.1mmとすることが技術常識であるとも認められない。
そうすると、当業者であっても、請求人が主張する資料1のバインダー強度の測定方法に基づいて、本願発明のバインダー強度の測定において利用する「ガラスビーズ」の粒子径が、資料1のものと同じであるとは理解しないから、請求人の主張は採用できない。
6 小括
したがって、特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-002734