特許拒絶査定不服審判
2019-012474
液晶表示装置、偏光板および偏光子保護フィルム
- 審判番号
- 2019-012474
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-001046
- 請求日
- 2019年09月20日
- 審決日
- 2020年07月01日
- 公報発行日
- 2020年10月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】東洋紡株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人三枝国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 樋口 信宏
- 審判官 宮澤 浩
- 分類
- P18 .121-Z (G02B) / P18 .572-Z (G02B) / P18 .575-Z (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2018-1046「液晶表示装置,偏光板および偏光子保護フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年4月12日出願公開、特開2018- 60230〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は,成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続等の経緯
特願2018-1046号(以下「本件出願」という。)は,平成24年12月27日(先の出願に基づく優先権主張 平成23年12月28日,平成24年7月31日)に出願された特願2012-284081号の一部を平成30年1月9日に新たな特許出願としたものであって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成30年11月12日付け:拒絶理由通知書
平成31年 1月17日付け:意見書
平成31年 1月17日付け:手続補正書
令和 元年 6月14日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年 9月20日付け:審判請求書
令和 元年 9月20日付け:手続補正書
第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年9月20日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の(平成31年1月17日にされた手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1及び請求項4の記載は,次のとおりである。
「【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に,共重合ポリエステル樹脂(A)及びブロック型イソシアネート基を含有する樹脂(B)を主成分とする表面層が設けられており,該ポリエステルフィルムのリタデーションが3000~30000nmである,偏光子保護フィルムが偏光子の少なくとも片側に積層された偏光板,及び
連続的な発光スペクトルを有する白色光源
を有する液晶表示装置。
【請求項4】
表面層上にハードコート層,防眩層,反射防止層,低反射層,低反射防眩層,反射防止防眩層,及び帯電防止層からなる群より選択される1種以上の層が積層された,請求項1~3のいずれかに記載の液晶表示装置。」
(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は補正箇所を示す。
「【請求項1】
ポリエステルフィルムの一方の面に,共重合ポリエステル樹脂(A)及びブロック型イソシアネート基を含有する樹脂(B)を主成分とする表面層が設けられており,
表面層上にハードコート層,防眩層,反射防止層,低反射層,低反射防眩層,反射防止防眩層,及び帯電防止層からなる群より選択される1種以上の層が積層されており,
該ポリエステルフィルムの他方の面にポリエステル樹脂,ポリウレタン樹脂及びポリアクリル樹脂の少なくとも1種を主成分とする易接着層が設けられており,
該ポリエステルフィルムのリタデーションが8000~30000nmである,偏光子保護フィルムが,前記易接着層を介して偏光子の少なくとも片側に積層された偏光板,及び,
連続的な発光スペクトルを有する白色光源
を有する液晶表示装置。」
(3) 補正について
本件補正は,本件補正前の請求項4に記載された発明(請求項1を引用して記載されたもの,以下「本願発明」という。)の,発明を特定するために必要な事項である「表面層」が設けられる面,「ポリエステルフィルムのリタデーション」の範囲,「偏光子保護フィルム」と「偏光子」の積層構造について,上記のとおり限定を付加するものである。また,本願発明と,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)の産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は,同一である(【0001】及び【0006】)。
そうしてみると,本件補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする補正を含むものである。
そこで,本件補正後発明が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。
2 独立特許要件についての判断
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された,特開2011-59488号公報(以下「引用文献1」という。)は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには以下の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと,
前記偏光フィルムの片面に,第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと,を備え,
前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,面内の遅相軸方向の屈折率をnx,面内で遅相軸と直交する方向の屈折率をny,厚み方向の屈折率をnzとしたときに,(nx-nz)/(nx-ny)で表されるNz係数が2.0未満であることを特徴とする偏光板。
【請求項2】
前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,面内の位相差値が200~1200nmもしくは2000~7000nmの値である請求項1に記載の偏光板。
…(省略)…
【請求項4】
前記偏光フィルムにおける前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層されている面とは反対側の面に,第二の接着剤層を介して積層された保護フィルムまたは光学補償フィルムを備える請求項1~3のいずれかに記載の偏光板。
…(省略)…
【請求項7】
前記保護フィルムまたは前記光学補償フィルムにおける前記偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に積層された粘着剤層を備える請求項4~6のいずれかに記載の偏光板。
【請求項8】
前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムにおける前記偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に積層された,防眩層,ハードコート層,反射防止層,および帯電防止層から選ばれる少なくとも1層を備える請求項1~7のいずれかに記載の偏光板。
【請求項9】
請求項7または8に記載の偏光板が,その粘着剤層を介して液晶セルに貼合された液晶パネルを備える液晶表示装置。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,偏光板およびそれを用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,消費電力が低く,低電圧で動作し,軽量でかつ薄型の液晶表示装置が,携帯電話,携帯情報端末,コンピュータ用のモニター,およびテレビ等の情報用表示デバイスとして急速に普及している。さらに,液晶技術の発展に伴い,様々なモードの液晶表示装置が提案され,従来,応答速度,コントラスト,および視野角等の液晶表示装置の問題とされていた点が解消されつつある。
【0003】
一方で,液晶表示装置のさらなる薄型軽量化を望む強い市場要求を受けて,液晶表示装置を構成する液晶パネル,拡散板,バックライトユニット,および駆動IC等の薄型化や小型化が進められている。このような状況下,液晶パネルを構成する部材である偏光板も10μmの単位で薄型化することが求められている。
…(省略)…
【0007】
上記要求を満足できる技術として,ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする手法が提案されている。ポリエチレンテレフタレートは機械的強度に優れることから,薄膜化に適しており,偏光板の薄型化を実現できる。…(省略)…
【0008】
しかしながら,一方で,ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとした偏光板を液晶表示装置に搭載した場合,トリアセチルセルロースフィルムを保護フィルムとする一般的な偏光板に比べて,その高いレタデーション値に由来する斜め方向からの色ムラ(干渉ムラ,虹ムラとも言う)が目立ち,視認性に劣るという問題を有している。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで,本発明の目的は,ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする偏光板であって,液晶表示装置に搭載した際の色ムラが少なく視認性に優れ,かつ薄型化を実現し,コストパフォーマンスや生産性にも優れる偏光板を提供することにある。また,本発明のもう一つの目的は,前記の偏光板を用いた視認性に優れる液晶表示装置を提供することにある。
…(省略)…
【0022】
<偏光板>
本発明の偏光板は,ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと,該偏光フィルムの片面に,第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと,を備えるものである。
…(省略)…
【0023】
(偏光フィルム)
本発明に用いる偏光フィルムは,通常,公知の方法によってポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程,ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色することにより,二色性色素を吸着させる工程,二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程,およびホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て製造されるものである。
…(省略)…
【0038】
(延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム)
本発明に用いる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとは,一種以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を溶融押出によって製膜し,横延伸してなる一層以上の一軸延伸フィルム,または,製膜後引き続いて縦延伸し,次いで横延伸してなる一層以上の二軸延伸フィルムである。
…(省略)…
【0072】
本発明の偏光板においては,かかる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとして,Nz係数が2.0未満であるものを用いる。このため,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,一軸延伸にて作製することが好ましい。このような光学性能の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを採用することで,かかる偏光板を搭載した液晶表示装置における色ムラを効果的に低減することが可能となる。Nz係数は,2.0未満であれば小さいほど色ムラ低減の効果を発揮し,好ましくは1.5以下,より好ましくは1.0以下である。Nz係数が2.0以上の場合は,かかる偏光板を搭載した液晶表示装置において強い色ムラが発生し,視認性に劣るものとなる。
…(省略)…
【0073】
また,本発明の偏光板における延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,膜厚をdとしたときに,(nx-ny)×dで定義される面内位相差値R0が200~1200nmもしくは2000~7000nmのものが好適に採用できる。R0がかかる範囲外,すなわちR0が1200を超え,2000nm未満の範囲にある場合は,比較的目立つ色ムラが発生する傾向にある。したがって,より効果的に色ムラを低減する観点から,面内位相差値R0は,1200nm以下もしくは2000nm以上であることが好ましい。また,R0が200nm未満と小さい場合は,安定的にNz係数を2.0未満に制御することが困難であり,生産性やコストの面に問題を有する。一方で,R0が7000nmを超える場合は,Nz係数は低減させやすいものの,機械的強度に劣るフィルムとなる傾向にある。
…(省略)…
【0077】
本発明における延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムにおいて,Nz係数,面内位相差値R0および遅相軸を特定範囲に制御するためには,公知のあらゆる技術が制限なく採用できる。具体的には,上記の延伸処理時における延伸温度,延伸倍率,弛緩処理,ラインスピード等の延伸条件を調整することで制御できる。
…(省略)…
【0079】
本発明の偏光板に用いられる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みは,15~75μmの範囲内であることが好ましく,20~60μmの範囲内であることがより好ましい。延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みが15μm未満である場合には,ハンドリングしにくい(取り扱い性に劣る)傾向にあり,また厚みが75μmを超える場合には,厚膜となるためコスト高となり,さらには,薄肉化のメリットが薄れる傾向にある。
…(省略)…
【0081】
(機能層)
本発明に用いられる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムには,そのフィルムが偏光板の視認側に用いられる場合,偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に,防眩層,ハードコート層,反射防止層,および帯電防止層から選ばれる少なくとも1つの機能層を設けることが好ましい。
…(省略)…
【0084】
さらに,本発明に用いられる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムには,本発明の効果を妨げない限り,上記以外にも様々な機能層を片面または両面に積層することができる。積層される上記以外の機能層としては,たとえば,導電層,平滑化層,易滑化層,ブロッキング防止層,および易接着層等が挙げられる。中でも,この延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,偏光フィルムと接着剤層を介して積層されることから易接着層が積層されていることが好ましい。
【0085】
易接着層を構成する成分は,特に限定されるものではないが,たとえば,極性基を骨格に有し比較的低分子量で低ガラス転移温度である,ポリエステル系樹脂,ウレタン系樹脂,またはアクリル系樹脂等が挙げられる。また,必要に応じて架橋剤,有機または無機フィラー,界面活性剤,および滑剤等を含有することができる。
…(省略)…
【0147】
(保護フィルム,光学補償フィルム)
本発明の偏光板は,偏光フィルムの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層されている面と反対側の面に,第二の接着剤層を介して積層された保護フィルムまたは光学補償フィルムを備えていてもよい。
…(省略)…
【0222】
液晶表示装置を構成するバックライトも,一般の液晶表示装置に広く使用されているものでよい。たとえば,拡散板とその背後に配置された光源で構成され,光源からの光を拡散板で均一に拡散させたうえで前面側に出射するように構成されている直下型のバックライトや,導光板とその側方に配置された光源で構成され,光源からの光を一旦導光板の中に取り込んだうえで,その光を前面側に均一に出射するように構成されているサイドライト型のバックライトなどを挙げることができる。バックライトにおける光源としては,蛍光管を使って白色光を発光する冷陰極蛍光ランプや,発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)などを採用することができる。」
エ 「【実施例】
【0223】
…(省略)…
【0225】
<実施例1>
(a)偏光フィルムの作製
…(省略)…
【0226】
(b)粘着剤付き偏光板の作製
厚み38μmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(Nz係数:1.0,R0:2160nm)の貼合面に,コロナ処理を施した後,脂環式エポキシ化合物を含有する無溶剤の活性エネルギー線硬化性接着剤組成物を,チャンバードクターを備える塗工装置によって厚さ2μmで塗工した。また,厚み73μmの環状オレフィン系樹脂からなる光学補償フィルム(面内位相差値R0:63nm,厚み方向位相差値Rth:225nm)の貼合面に,コロナ処理を施した後,上記と同じ接着剤組成物を同様の装置にて厚さ2μmで塗工した。
【0227】
次いで,直ちに上記(a)にて得られた偏光フィルムの片面に上記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを,もう一方の面に上記光学補償フィルムを,各々接着剤組成物の塗工面を介して貼合ロールによって貼合した。
…(省略)…
【0228】
(c)液晶表示装置の作製
ソニー(株)製の垂直配向モードの液晶表示装置“BRAVIA”(対角寸法40インチ=約102cm)の液晶パネルから光出射側偏光板を剥がし,その代わりに,市販の偏光板(スミカランSRW842E-GL5,住友化学(株)製)を,オリジナルの偏光板と同じ軸方向で,その粘着剤層側にて貼り付けた。また,光入射側偏光板も剥がし,その代わりに,上記(b)で作製した粘着剤層付き偏光板からセパレートフィルムを剥がしたものを,オリジナルの偏光板と同じ軸方向で,その粘着剤層を用いて貼り付けた。得られた液晶表示装置について,目視にて観察したところ,斜め方向の色ムラ(干渉ムラ)は小さく,視認性は良好であった。
…(省略)…
【0230】
<実施例3>
Nz係数が1.8,面内位相差値R0が3950nmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用い,偏光フィルムの透過軸と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が40度となるよう接着貼合したこと以外は実施例1の(b)同様にして偏光板を作製し,さらに,実施例1の(c)と同様にして,液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について,目視にて観察したところ,斜め方向の色ムラ(干渉ムラ)は比較的小さく,視認性は比較的良好であった。
…(省略)…
【0234】
各例につき,偏光板における延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの光学特性と試験結果を表1にまとめた。
【0235】
【表1】
【0236】
表1に示されるように,偏光板における延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのNz係数が2.0未満である実施例1~5については,偏光板を搭載した液晶表示装置における色ムラが少なく,視認性に優れる効果が認められた。一方で,Nz係数が2.0以上である比較例1については,色ムラが強く,視認性に劣るものであった。
【0237】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され,特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。」
(2) 引用発明
引用文献1の請求項9に係る発明(請求項8,請求項7,請求項4,請求項2及び請求項1に記載された発明特定事項を具備する)「液晶表示装置」は,【0010】に記載された発明の目的に対応するものと認められる。
そうしてみると,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,「ポリエチレンテレフタレートフィルム」と「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は,後者で用語を統一した。
「 延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとし,液晶表示装置に搭載した際の色ムラが少なく視認性に優れ,かつ薄型化を実現し,コストパフォーマンスや生産性にも優れる偏光板を用いた,視認性に優れる液晶表示装置であって,
偏光板は,
ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと,
偏光フィルムの片面に,第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと,を備え,
前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,面内の遅相軸方向の屈折率をnx,面内で遅相軸と直交する方向の屈折率をny,厚み方向の屈折率をnzとしたときに,(nx-nz)/(nx-ny)で表されるNz係数が2.0未満であり,
延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,面内の位相差値が200~1200nmもしくは2000~7000nmの値であり,
偏光フィルムにおける延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層されている面とは反対側の面に,第二の接着剤層を介して積層された保護フィルム又は光学補償フィルムを備え,
保護フィルム又は光学補償フィルムにおける偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に積層された粘着剤層を備え,
延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムにおける偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に積層された,防眩層,ハードコート層,反射防止層,及び帯電防止層から選ばれる少なくとも1層を備え,
偏光板が,その粘着剤層を介して液晶セルに貼合された液晶パネルを備える,
液晶表示装置。」
(3) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 偏光板
引用発明の「偏光板」は,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとし」,「偏光フィルムの片面に,第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」を備えたものである。
ここで,「ポリエチレンテレフタレート」は,「ポリエステル」の下位概念である。また,引用発明の「保護フィルム」が,「偏光フィルム」を保護するためのものであることは,技術常識である。そして,引用発明の「偏光板」は,その文言が意味するとおりのものである。
そうしてみると,引用発明の「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」,「保護フィルム」及び「偏光板」は,それぞれ本件補正後発明の「ポリエステルフィルム」,「偏光子保護フィルム」及び「偏光板」に相当する。また,引用発明の「偏光板」と本件補正後発明の「偏光板」は,「ポリエステルフィルム」「である,偏光子保護フィルムが,偏光子の少なくとも片側に積層された偏光板」である点で共通する。
イ 1種以上の層
引用発明の「偏光板」は,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムにおける偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に積層された,防眩層,ハードコート層,反射防止層,及び帯電防止層から選ばれる少なくとも1層を備え」る。
ここで,引用発明の「防眩層」,「ハードコート層」,「反射防止層」及び「帯電防止層」は,その文言が意味するとおりのものである。
そうしてみると,引用発明の「偏光板」と本件補正後発明の「偏光板」は,「防眩層,反射防止層,低反射層,低反射防眩層,反射防止防眩層,及び帯電防止層からなる群より選択される1種以上の層が積層されており」という構成を具備する点で共通する。
ウ 液晶表示装置
引用発明の「液晶表示装置」がその文言が意味するとおりのものであって,かつ,バックライト光源として「白色光源」を具備することは,技術水準を踏まえた当業者が直ちに理解可能な事項である(引用文献1の【0002】の記載を参照。)。
そうしてみると,引用発明の「液晶表示装置」は,本件補正後発明の「液晶表示装置」に相当する。また,引用発明の「液晶表示装置」と本件補正後発明の「液晶表示装置」は,「偏光板,及び」,「白色光源」「を有する」点で共通する。
(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 ハードコート層,防眩層,反射防止層,低反射層,低反射防眩層,反射防止防眩層,及び帯電防止層からなる群より選択される1種以上の層が積層されており,
ポリエステルフィルムである,偏光子保護フィルムが,偏光子の少なくとも片側に積層された偏光板,及び,
白色光源
を有する液晶表示装置。」
イ 相違点
(相違点1)
「偏光板」が,本件補正後発明は,「ポリエステルフィルムの一方の面に,共重合ポリエステル樹脂(A)及びブロック型イソシアネート基を含有する樹脂(B)を主成分とする表面層が設けられており」,「表面層上に」1種以上の層が積層されているのに対して,引用発明は,このような表面層を具備するものとは特定されていない点。
(相違点2)
「偏光板」が,本件補正後発明は,「該ポリエステルフィルムの他方の面にポリエステル樹脂,ポリウレタン樹脂及びポリアクリル樹脂の少なくとも1種を主成分とする易接着層が設けられており」,偏光子保護フィルムが「前記易接着層を介して」偏光子の少なくとも片側に積層されているのに対して,引用発明は,このような易接着層を具備するものとは特定されていない点。
(相違点3)
「ポリエステルフィルム」が,本件補正後発明は,「リタデーションが8000~30000nm」のものであるのに対して,引用発明は,「面内の位相差値が200~1200nmもしくは2000~7000nmの値であ」る点。
(相違点4)
「白色光源」が,本件補正後発明は,「連続的な発光スペクトルを有する」ものであるのに対して,引用発明は,このように特定されたものではない点。
(5) 判断
ア 相違点1及び相違点2について
引用発明の「保護フィルム」は,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」であるところ,延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムが,その結晶配向度の高さに起因して,他の層との密着性・接着性が悪いことは技術常識である。そして,「他の層との密着性・接着性を改善することを目的として,共重合ポリエステル樹脂及びブロック型イソシアネート基を含有する樹脂を主成分とする層をポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に設けること」は,周知技術である(例えば,いずれも原査定の拒絶の理由で引用された,特開2007-55222号公報の【0001】,【0020】,【0046】【0049】,【0101】,【0119】,【0123】及び【0127】の記載,特開2000-296595号公報の【0001】,【0009】,【0013】,【0015】及び【0071】~【0076】の記載からも理解できる事項である。)。
そして,このような層を「表面層」と称することは,当業者の随意である。また,このような層は,「ポリエステル樹脂,ポリウレタン樹脂及びポリアクリル樹脂の少なくとも1種を主成分とする易接着層」ともいうことができる。
ここで,引用発明の「偏光板」において,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は,その一方の面に「防眩層,ハードコート層,反射防止層,及び帯電防止層から選ばれる少なくとも1層を備え」,他方の面は「第一の接着剤層を介して」「偏光フィルム」に積層されるものである。また,引用文献1の【0084】には,下線を付したとおり,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」の両面に易接着層を積層することが示唆されている。
そうしてみると,引用発明において,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」と「防眩層,ハードコート層,反射防止層,及び帯電防止層から選ばれる少なくとも1層」及び「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」と「第一の接着剤層」との密着性・接着性を改善するための手段として上記周知技術を採用し,相違点1及び相違点2に係る本件補正後発明の構成を採用することは,周知技術を心得た当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。
イ 相違点3について
引用発明の「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,面内の位相差値が200~1200nmもしくは2000~7000nmの値であ」る。
この点に関して,引用文献1の【0073】には,「より効果的に色ムラを低減する観点から,面内位相差値R0は,1200nm以下もしくは2000nm以上であることが好ましい。」及び「R0が7000nmを超える場合は,Nz係数は低減させやすいものの,機械的強度に劣るフィルムとなる傾向にある。」と記載されている。また,Nz係数に関して,引用文献1の【0072】には,「Nz係数は,2.0未満であれば小さいほど色ムラ低減の効果を発揮し,好ましくは1.5以下,より好ましくは1.0以下である。Nz係数が2.0以上の場合は,かかる偏光板を搭載した液晶表示装置において強い色ムラが発生し,視認性に劣るものとなる。」と記載されている。
そうしてみると,引用発明において,色ムラの低減の効果を最大限に得ることを重視した当業者ならば,機械的強度が劣るフィルムとならないようにフィルムの厚さを厚くしつつ,Nz係数を低減させることが容易な,R0が7000nmを超えるものにするといえる(例:8000nmにする。)。
ここで,引用文献1の【0010】によれば,引用発明の「液晶表示装置」は,「液晶表示装置に搭載した際の色ムラが少なく視認性に優れ」ることのみならず,「薄型化を実現」することも望まれているものである(この側面からしてみれば,フィルムは厚くすべきではなく,また,【0079】においても,「薄肉化のメリットが薄れる傾向にある」などとして,上限は75μmが好ましいとされている。)。しかしながら,引用文献1の【0002】の記載からみて,引用発明の「液晶表示装置」の用途には,「携帯電話」や「携帯情報端末」のように,薄型化に対する要求が比較的強いと考えられる機器の他,「コンピュータ用のモニター」や「テレビ」のように,薄型化よりも色ムラに対する要求が強い機器も含まれる。そして,後者の用途を念頭に置いた当業者ならば,多少フィルムが厚くなるとしても,より高いリタデーション及びより低いNz係数のフィルムを採用するといえる。
以上勘案すると,引用発明において,相違点3に係る本件補正後発明の構成を採用することは,液晶表示装置の用途に応じた当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。
ウ 相違点4について
引用文献1の【0003】には,「液晶表示装置のさらなる薄型軽量化を望む強い市場要求を受けて,液晶表示装置を構成する液晶パネル,拡散板,バックライトユニット,および駆動IC等の薄型化や小型化が進められている。」と記載されている。また,保護フィルムを薄型化しても,その効果は高々数十μmと考えられるが,バックライトユニットの薄型化による効果は,これにとどまらない。
そうしてみると,液晶表装置のバックライトにおいて,薄型化・小型化に適した白色光源として例示するまでもなく周知である,青色LED及び黄色蛍光体を組み合わせてなる,白色LEDを採用することは,先の出願前の当業者が当然に採用する構成にすぎない。
(当合議体注:上記白色LEDが「連続的な発光スペクトルを有する」ことは,技術常識である。)
(6) 発明の効果について
発明の効果に関して,本件出願の明細書の【0009】には,「本発明の液晶表示装置,偏光板および偏光子保護フィルムは,いずれの観察角度においても顕著な虹状の色斑が見られない良好な視認性を有する。また,本発明の偏光子保護フィルムは,ハードコート層等の機能層との強固な接着性を有する。」と記載されている。
しかしながら,このような効果は,周知技術を採用した引用発明が奏する効果であって,当業者が予測可能な範囲内のものである。
なお,「8000nm」というリタデーションの下限値に関して,本件出願の明細書の【0018】には,「好ましいリタデーションの下限値は4500nm以上,次に好ましくは5000nm以上,より好ましくは6000nm以上,更に好ましくは8000nm以上,より更に好ましくは10000nm以上である。」と記載されている。
上記記載を考慮すると,本件補正後発明における「8000nm」という下限値が,顕著な効果をもたらすものでないことは,明らかである。
(7) 請求人の主張について
請求人は,審判請求書3-2-2.において,「補正後の請求項1において,ポリエステルフィルムは8000~30000nmのリタデーションを有します。一方,主引例である,引例1では,ポリエステルフィルムのリタデーションは2000~7000nmであり(請求項2),機械的強度の観点で,リタデーションを7000nmよりも大きくすることは否定されています。」と主張している。
しかしながら,前記(5)イで述べたとおりである。
なお,リタデーション値を8000nm以上にまで高めた例としては,原査定において引用された特開2011-107198号公報の【0052】~【0054】に記載のフィルムの他,特開昭60-26304号公報の4頁右下欄1~4行に記載のフィルム,特開昭58-143305号公報の2頁右下欄の表2及び3頁右上欄2~9行の記載から理解されるフィルムが挙げられる(なお,3番目のフィルムのNz係数は2.0を超えると考えられるが,1番目と2番目のフィルムのNz係数は,2.0を超えない。Nz係数は,適宜制御可能と考えられる。)。
(8) 小括
本件補正後発明は,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
3 補正の却下の決定のむすび
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり,本件補正は却下されたので,本件出願の請求項4に記載された発明(請求項1を引用して記載されたもの,すなわち,本願発明)は,前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は,本願発明は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2011-59488号公報(引用文献1)及び周知技術に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
3 引用文献及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は,前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。
4 対比及び判断
本願発明は,前記前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から,「表面層」が設けられる面,「ポリエステルフィルムのリタデーション」の範囲,「偏光子保護フィルム」と「偏光子」の積層構造に関する限定を除いたものである。また,本願発明の構成を全て具備し,これにさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明は,前記「第2」[理由]2で述べたとおり,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると,本願発明も,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2019-012474