特許異議申立
2022-700842
成膜用冶具及び気相成長装置
- 審判番号
- 2022-700842
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-153969
- 登録番号
- 7063493
- 請求日
- 2022年08月30日
- 審決日
- 2023年02月01日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社 天谷製作所
- 【権利者代理人】佐野 弘
- 【権利者代理人】石井 明夫
- 【異議申立人】田中 理恵子
- 審判長/審判官
- 審判長 河本 充雄
- 審判官 松永 稔
- 審判官 棚田 一也
- 分類
- P1651.121-Y (H01L) / P1651.536-Y (H01L) / P1651.55 -Y (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7063493号発明「成膜用冶具及び気相成長装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7063493号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7063493号の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和2年9月14日に出願され、令和4年4月25日にその特許権の設定登録がされ、同年5月9日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年8月30日に特許異議申立人 田中 理恵子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
特許第7063493号の請求項1~6の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1~6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ウエハに反応ガスを吹き付けて成膜する気相成長装置に用いられ、前記ウエハが載置されて搬送手段によって搬送される成膜用冶具であって、
上側面に前記ウエハを保持する保持用凹部が形成され、該保持用凹部内に前記ウエハの周縁部を支持する支持部が形成され、該支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され、
前記曲率半径は、成膜時の段階において、前記支持部に前記ウエハの周縁部が支持された状態で、前記ウエハにおける周縁部よりも内側に形成されて下方に向けて湾曲した内側部分と、前記保持用凹部の前記所定の曲率半径を有する凹面形状の部分との間が略全面に亘って等しい間隙となるように設定されていることを特徴とする成膜用冶具。
【請求項2】
前記支持部は、前記保持用凹部の周縁部に形成された傾斜面であることを特徴とする請求項1に記載の成膜用冶具。
【請求項3】
ウエハに反応ガスを吹き付けて成膜する気相成長装置に用いられ、前記ウエハが載置されて搬送手段によって搬送される成膜用冶具であって、
上側面に前記ウエハを保持する保持用凹部が形成され、該保持用凹部内に前記ウエハの周縁部を支持する支持部が形成され、該支持部の内側が所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され、
前記曲率半径は、成膜時の段階において、前記支持部に前記ウエハの周縁部が支持された状態で、前記ウエハにおける周縁部よりも内側に形成されて下方に向けて湾曲した内側部分と、前記保持用凹部の底面との間が略全面に亘って等しい間隙となるように設定され、
前記支持部の周方向に一定間隔をおいて3つの貫通孔が設けられ、これらの貫通孔をそれぞれ閉止可能とする支持部材が設けられ、これらの支持部材は、それぞれ上面に前記支持部の傾斜面と同一角度の傾斜面が形成され、これらの支持部材が昇降ピンにより上下動可能に構成されていることを特徴とする成膜用冶具。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の成膜用冶具が複数設置され、これらの成膜用冶具にそれぞれ前記ウエハを載置して水平方向に順次搬送する搬送装置と、
前記搬送装置によって順次搬送される前記ウエハに反応ガスを吹き付けて成膜するガスヘッドと、
を備えることを特徴とする気相成長装置。
【請求項5】
少なくとも熱応力及び膜応力による前記ウエハの反りに基づいて、前記ウエハと前記保持用凹部の底面部との間隙が一定の値となるように前記曲率半径が設定されていることを特徴とする請求項4に記載の気相成長装置。
【請求項6】
上側面にウエハを保持する保持用凹部が形成され、該保持用凹部内に前記ウエハの周縁部を支持する支持部が形成され、該支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され、前記曲率半径は、成膜時の段階において、前記支持部に前記ウエハの周縁部が支持された状態で、前記ウエハにおける周縁部よりも内側に形成されて下方に向けて湾曲した内側部分と、前記保持用凹部の前記所定の曲率半径を有する凹面形状の部分との間が略全面に亘って等しい間隙となるように設定された成膜用冶具と、
前記成膜用冶具が複数設置され、これらの成膜用冶具にそれぞれ前記ウエハを載置して水平方向に順次搬送する搬送装置と、
前記搬送装置によって順次搬送される前記ウエハに反応ガスを吹き付けて成膜するガスヘッドと、
前記保持用凹部の底面部に3つの挿通孔が形成され、これらの挿通孔にそれぞれ挿通されて前記ウエハの下面を上下動可能に支持する3本のリフトピンと、を備え、
前記3本のリフトピンは、セラミックス棒の先端部にポリイミド樹脂が設けられていることを特徴とする気相成長装置。」
第3 取消理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証~甲第4号証を提出し、以下の取消理由1~3により、本件の請求項1~6に係る特許を取り消すべきものである旨主張した。
1 取消理由1(進歩性欠如)
本件発明1、2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1、2に係る特許は、同法第113条第2号により取消されるべきものである。
2 取消理由2(実施可能要件違反)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号に違反するから、本件の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第4号により取り消されるべきものである。
3 取消理由3(新規事項の追加)
令和4年2月8日提出日の手続補正書(甲第3号証)において、請求項1~6に係る発明について「該支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され、」との構成を追加した補正は、新規事項の追加に該当し、特許法第17条の2第3項に違反するから、本件の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第1号により取り消されるべきものである。
[証拠]
甲第1号証:特開2011-144091号公報
甲第2号証:特開2001-3172号公報
甲第3号証:令和4年2月8日提出日の手続補正書
甲第4号証:令和4年2月8日提出日の意見書
第4 甲第1、2号証の記載事項、及び引用発明
1 甲第1号証(特開2011-144091号公報)
(1) 本件特許出願の日前に公知となった甲第1号証には、以下の記載がある(当審注:下線は引用箇所を示すために当審において付加した。)
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板上に気相成長させる際に用いる気相成長装置において、半導体基板を支持する気相成長用サセプタ及び気相成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エピタキシャル成長技術は、バイポーラトランジスタやMOSLSI等の集積回路の製造に用いられる単結晶薄膜層を気相成長させる技術であり、清浄な半導体単結晶ウェーハ上に基板の結晶方位に合わせて均一な単結晶薄膜を成長させたり、ドーパント濃度差が大きい接合の急峻な不純物勾配を形成させたりできるので、極めて重要な技術である。
【0003】
このような気相成長を行うための装置としては、縦型(パンケーキ型)、バレル型(シリンダー型)、さらに横型の3種類が一般的である。これらの成長装置の基本的な原理は共通しており、半導体基板を載置するための気相成長用サセプタを内部に備えた反応炉や、反応炉の外部に設けられるハロゲンランプ等からなる加熱手段等を備えて構成され、縦型のうち1枚ずつ処理する装置を枚葉式気相成長装置と呼んでいる。
【0004】
枚葉式気相成長装置は、半導体基板を支持する略円盤状のサセプタを備えており、サセプタ上の半導体基板を両面側から加熱しつつ主表面上に反応ガスを供給することで単結晶薄膜を気相成長させる構成になっている。
【0005】
このような、気相成長装置に用いるサセプタの部分断面図を図5(a)に、平面概略図を図5(b)に示す。図5(b)に示すように、サセプタ100には主表面の中央部に、略円形のザグリ103を有しており、このザグリ103内に半導体基板Wを載置する。図5(a)、(b)に示すザグリ103は、凹形状であって最外周の垂直な側壁102と基板を支持する底面101とからなる。
このようなサセプタ100のザグリ103内に半導体基板Wを載置する際、半導体基板Wとザグリ103との間に介在する雰囲気ガスのために、半導体基板Wがザグリ103内で横滑りして、偏心した位置に載置されることがある。このようになると、半導体基板Wの外周縁と側壁102との距離にバラツキが生じ、半導体基板Wの外周縁付近のガスフローが不均一になって、半導体基板Wの外周領域に成長させる単結晶薄膜の膜厚分布が悪化することがある。
【0006】
また、気相成長装置に用いるサセプタの他の一例の部分断面図を図6(a)に、平面概略図を図6(b)に示す。図6(a)、(b)に示すような、サセプタ200の凹形状のザグリ203周縁の側壁202の全周を底面201に対して傾斜させたものが、特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 特開2002-265295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体基板として直径300mmのシリコンウェーハを多く使用するようになってから、デバイス製造プロセスでウェーハ割れが多く発生するようになった。これは、ハロゲンランプ等で急速な昇降温を行うRTA(Rapid Thermal Annealing)炉を用いた熱処理工程など、シリコンウェーハに強い応力を与えるデバイス製造工程が増えたためと考えられる。このようなウェーハ割れはシリコンウェーハの外周縁に発生したキズを起点として発生することがある。この割れの起点となるキズは、基板を上記のようなサセプタに載置した際に基板外周縁に生じやすいという問題がある。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、気相成長中の半導体基板の外周縁のキズを低減することで割れを防止し、さらには、半導体基板の偏心を抑制することで、成長させる単結晶薄膜の膜厚分布の悪化を防止できる気相成長用サセプタ及びそれを用いた気相成長方法を提供することを目的とする。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、気相成長させる半導体基板へのキズの発生を低減して割れを防止し、さらには膜厚分布の良い高品質の単結晶薄膜を成長させることができる。
・・・(中略)・・・
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の気相成長用サセプタについて、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は、本発明の気相成長用サセプタの実施態様の一例を示す部分断面図である。図2は、本発明の気相成長用サセプタの実施態様の一例を示す平面図である。図3は、本発明の気相成長用サセプタを用いることができる気相成長装置の一例を示す概略図である。図4、8は、本発明の気相成長用サセプタの実施態様の他の一例を示す部分断面図である。
【0021】
本発明の気相成長用サセプタを用いることができる枚葉式気相成長装置を図3に示す。
図3に示す枚葉式気相成長装置12は、気相成長させるシリコン単結晶ウェーハなどの半導体基板Wが内部に配置される反応炉18を備えている。
この反応炉18は頂壁19、底壁20および側方壁21、21’を有する反応室を有する。頂壁19と底壁20は、例えば透光性の石英で形成される。側方壁21には、反応炉18内にエピタキシャル成長用の反応ガス25を供給するためのガス供給口23が、側方壁21’には、反応炉18から反応ガスを排出するためのガス排出口24が形成されている。ガス供給口23には、所定の組成及び流量で反応ガス25を供給するガス供給装置(図示せず)が接続されている。なお、反応ガス25としては、例えばシリコン単結晶ウェーハ上にシリコン単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる際には、原料ガスであるトリクロロシランガスとキャリアガスである水素ガスとの混合ガスを用いることができる。
【0022】
反応炉18の上方には、頂壁19を通して反応炉18の内部に向かって輻射を行う加熱装置26が配置され、反応炉18の下方には底壁20を通して反応炉18の内部に向かって輻射を行う加熱装置26’が配設されている。なお、加熱装置26、26’としてハロゲンランプを用いることができる。
そして、反応炉18の内部には、半導体基板Wを載置するための略円盤状のサセプタ10が、回転可能な支持部材22に支持された状態で配置される。
【0023】
本発明の気相成長用サセプタ10は、例えば図1、2に示すように、凹形状のザグリ11を有する気相成長用サセプタ10であって、ザグリ11は底面13と側壁14とからなり、側壁14は、周縁の一部に、ザグリ11中心に向かって深さが増すように傾斜したテーパ状又は曲線状の断面形状(図2のA-A’断面、図1(a))を含む傾斜側壁15が形成され、側壁14の残りの周縁には、傾斜側壁15が形成されていない(図2のB-B’断面、図1(b))ものである。
・・・(中略)・・・
【0032】
また、図1、2、4、8に示すように、底面13の外周領域に、ザグリ11中心に向かって深さが増すようにゆるやかに傾斜したテーパ状の断面形状を含む基板支持面16が形成され、底面13の外周領域に囲まれた中央領域に、基板支持面16よりも深さが深い凹状の中央面17が形成されたものであることが好ましい。
これにより、気相成長中のスリップ転位や半導体基板Wの裏面のキズの発生も防止して、基板Wの割れをより低減することができるサセプタ10となる。
【0033】
このような基板支持面16の傾斜角としては、例えば10度以下にするのが好適である。載置する半導体基板Wは基板支持面16で支持されるため、上記のような傾斜角であれば、半導体基板Wと基板支持面16との接触面積が増大して、面積あたりの荷重が低減し、スリップ転位発生をより抑制することができる。また、基板支持面16の傾斜角が小さすぎると、半導体基板Wの中心側にサセプタ10との接触キズが発生する場合もあるため、0.3度以上は傾斜させることが好ましい。このような傾斜角度は、気相成長条件に合わせて最適な角度に調整することが好ましい。
また、図1(a)に示すように、中央面17は、縦断面視U字状に形成されることができ、気相成長の際に半導体基板Wの裏面と接触しない深さに窪んだものとすることができる。
【0034】
なお、本発明のサセプタは、半導体基板をザグリの底面の基板支持面により接触して支持するものである。また、本発明のサセプタのザグリの側壁は、搬送時等にザグリの外へ基板が出ないようにするためのものである。そして、側壁の一部を成す傾斜側壁は、基板支持面に載置された半導体基板が偏心した場合には接触して所定位置に戻して、基板の偏心を抑制する。このような基板の偏心抑制や飛び出し防止の目的から、傾斜側壁は基板支持面よりも大きい傾斜角を有する。
【0035】
このような本発明の気相成長用サセプタ10は、特に限定されないが、グラファイトに炭化ケイ素がコーティングされたもので形成することができる。
【0036】
以上のような本発明の気相成長用サセプタ10によれば、気相成長させる半導体基板Wの外周縁へのキズの発生を低減して割れを防止し、さらには膜厚分布の良い高品質の単結晶薄膜を成長させることができる。」
「【図1】
[図:0001395237000001.jpg]
」
「【図2】
[図:0001395237000002.jpg]
」
「【図3】
[図:0001395237000003.jpg]
」
(2) 引用発明
上記(1)によると、甲第1号証には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「サセプタ上の半導体基板を両面側から加熱しつつ主表面上に反応ガスを供給することで単結晶薄膜を気相成長させる構成になっている(段落0004)枚葉式気相成長装置で用いられる気相成長用サセプタ(段落0021)であって、
枚葉式気相成長装置12は、気相成長させるシリコン単結晶ウェーハなどの半導体基板Wが内部に配置される反応炉18を備え(段落0021)、
反応炉18の上方には、頂壁19を通して反応炉18の内部に向かって輻射を行う加熱装置26が配置され、反応炉18の下方には底壁20を通して反応炉18の内部に向かって輻射を行う加熱装置26’が配設され、加熱装置26、26’としてハロゲンランプを用いることができ(段落0022)、
半導体基板Wを載置するための略円盤状のサセプタ10が、反応炉18の内部に、回転可能な支持部材22に支持された状態で配置され(段落0022)、
気相成長用サセプタ10は、凹形状のザグリ11を有する気相成長用サセプタ10であって、ザグリ11は底面13と側壁14とからなり(段落0023)、
底面13の外周領域に、ザグリ11中心に向かって深さが増すようにゆるやかに傾斜したテーパ状の断面形状を含む基板支持面16が形成され、底面13の外周領域に囲まれた中央領域に、基板支持面16よりも深さが深い凹状の中央面17が形成され(段落0032)、
載置する半導体基板Wは基板支持面16で支持され、中央面17は、縦断面視U字状に形成され(段落0033)、
サセプタのザグリの側壁は、搬送時等にザグリの外へ基板が出ないようにするためのものである(段落0034)
気相成長用サセプタ。」
2 甲第2号証(特開2001-3172号公報)
本件特許出願の日前に公知となった甲第2号証には、以下の記載がある。(下線は、引用箇所を示すため当審において付加した。)
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体デバイス製造プロセスにおいて用いられるエピタキシャル成長装置による半導体エピタキシャル成長方法に関する。
【0002】
【従来の技術】シリコン(Si)単結晶である基板ウエハの上に基板ウエハと同方位を持つシリコン単結晶薄膜を化学気相反応(CVD,Chemical Vapor Deposition)で形成する方法は、エピタキシャル(epitaxial)成長と呼ばれている。半導体デバイス製造プロセスにおいてエピタキシャル成長を行うためには、ディスク型エピタキシャル成長装置が広く用いられている。
【0003】ディスク型エピタキシャル成長装置は、石英製のベルジャで覆われた反応室内にカーボン製の回転可能なディスク型サセプタを設置し、サセプタ上に基板ウエハを載置する。サセプタを回転させながらサセプタ下方に設置されたワークコイルに高周波電流を流すことによりサセプタを高周波誘導加熱し、サセプタ上に載置されている基板ウエハは1000℃以上の高温に加熱される。
【0004】この際、基板ウエハはサセプタから熱を受け取り、基板ウエハ表面からベルジャへ放熱することにより基板ウエハ表裏間には温度差が生じ、そのため基板ウエハ上面が凹となるように反るが、この反り量を予め考慮した上でサセプタ表面上の基板ウエハ載置箇所には略円錐状のザグリが設けられている。
【0005】ザグリを設けることで基板ウエハ中心部と基板ウエハ外周部との間に大きな温度差が生じ難くなり、温度差に起因する熱応力の発生が抑制され、その結果基板ウエハ面内の結晶欠陥であるスリップの発生が低減される。
【0006】(省略)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】シリコンのエピタキシャル薄膜を形成する過程において、近年、基板ウエハは大口径化する傾向にある。式(数1)で示されるように、基板ウエハの周辺をザグリ外周により均等に単純支持した場合の自重によるたわみ量は、基板ウエハ半径の4乗に比例して大きくなるので、基板ウエハの大口径化に伴い、自重によるたわみ量を十分に把握して基板ウエハ面内のスリップ低減化を図る必要がある。
【0008】
【数1】(省略)
【0009】また、実際のエピタキシャル成長装置では、ザグリの外周は完全な平坦形状ではなく、よって基板ウエハはザグリ外周に沿って並ぶ複数の点接触により支持されることになる。例えば12インチウエハが図5(b)に示すように不均等に並ぶ点A,B,C(この場合は3点支持)により支持されている場合ではおよそ450μmたわむ。このたわみ量は12インチウエハがその周辺を均等に単純支持されている場合(図5(a))の4倍以上となる。したがって、基板ウエハがなるべく多くの点で支持されるように、ザグリ外周の平坦度の精度を上げる必要がある。
【0010】さらに、基板ウエハの大口径化により、上記の自重による基板ウエハの変形だけではなく、高周波誘導加熱による基板ウエハ,サセプタ面内の温度分布も大きくなる傾向にあり、よって、この傾向を把握した上で基板ウエハ面内のスリップの発生を抑えることのできる最適なザグリ形状を決定することが重要となる。
【0011】本発明の目的は、大口径基板ウエハ上にエピタキシャル成長を行う場合に生じる上記の課題を解決するための半導体エピタキシャル成長方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】大口径基板ウエハ上にエピタキシャル薄膜を形成する際には、ザグリ外周の平坦度の影響により基板ウエハが自重によって大きく変形すると同時に、エピタキシャル薄膜の成膜温度の高温化により基板ウエハ面内の温度分布が大きくなり熱応力に起因する変形量が増大し、従来のように単にザグリを設けただけではスリップの低減が困難になりつつある。
【0013】本発明は、上記の課題を解決するため、ザグリの外周の平坦度を5~30μmとすることで基板ウエハがザグリの外周によりほぼ全周が均等に単純支持されるようにし、且つ、6インチウエハではザグリ深さを20μmから130μm,8インチウエハではザグリ深さを30μmから200μm、12インチウエハではザグリ深さを40μmから400μmとすることで、基板ウエハ面内のスリップの発生を抑制することのできる半導体エピタキシャル成長を行うことを特徴としたものである。
【0014】
【発明の実施の形態】以下に図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0015】図1,図2はそれぞれ、本発明において用いられるディスク型半導体エピタキシャル成長装置の概略断面図、同装置のサセプタ上に設けられるザグリの概略構成を示す断面図である。
【0016】本発明で用いられるエピタキシャル成長装置では、石英製のベルジャ2で覆われた反応室1内にカーボン製の回転可能なディスク型サセプタ3を設置し、サセプタ3上には基板ウエハ4を載置する。この際、基板ウエハ4の自重による変形と、1000℃以上の高温下で成膜が行われるために基板ウエハ4の表裏間に生じる温度差による変形のために、基板ウエハ4は上面が凹となるように大きく反る。
【0017】このため、サセプタ3表面上の基板ウエハ4載置箇所には、基板ウエハ4の変形量を予め考慮した上でザグリ8が設けられている。サセプタ3下方にはワークコイル5が設置されており、ワークコイル5に高周波電流を流すことによりサセプタ3を高周波誘導加熱する。サセプタ3の中心位置の開口部にはノズル6が設けられており、基板ウエハ4の表面にエピタキシャル薄膜を生成させるためにノズル6から原料ガスをキャリアガスと共に流す構造になっている。また、図1中の7はコイルカバーである。
・・・(中略)・・・
【0021】図3には本発明のエピタキシャル成長方法に用いられるエピタキシャル成長装置におけるサセプタ3,基板ウエハ4の温度分布を示している。同図は6インチの基板ウエハ4の外周がサセプタ3上のザグリ8外周により単純支持される場合の基板ウエハ4,サセプタ3の温度分布である。同図(a),(b)はそれぞれ、ザグリ8深さが40μm,200μmのときの温度分布であり、同図中X軸は基板ウエハ4の中心位置からの半径方向距離(単位はmm)である。
【0022】ザグリ8形状は二次曲線としており、その極小値がザグリ8中心位置にくるように形状を決めている。基板ウエハ4はシリコンウエハであり輻射率は0.7 、サセプタ3はカーボン製であり本来輻射率は0.9 であるが、エピタキシャル成長が行われる過程において、基板ウエハ4を載置していない領域のサセプタ3表面上にはシリコンが付着しているので、基板ウエハ4を載置していない領域のサセプタ3の輻射率は基板ウエハ4と同じく0.7となる。
【0023】以下にザグリ8が浅い場合(40μm,同図(a))と深い場合(200μm,同図(b))を比較する。ザグリ8が浅い場合には、ザグリ8と基板ウエハ4間の隙間が小さいために両者間の熱抵抗が非常に小さくなり、その結果ザグリ8温度と基板ウエハ4温度間に大きな差が現れない。したがって、基板ウエハ4面内の半径方向温度分布はほぼ均一である。
【0024】一方、ザグリ8が深い場合では、ザグリ8と基板ウエハ4間の隙間が比較的大きいために両者間の熱抵抗が大きくなり、その結果基板ウエハ4,ザグリ8間の温度差が大きくなる。よって、基板ウエハ面内温度分布が大きくなり、スリップが生じ易くなる。つまり、基板ウエハ4,サセプタ3間の隙間がより均一である浅いザグリ8の方が基板ウエハ4面内の温度分布が均一になり、その結果スリップの発生も少なくなる。尚、基板ウエハ4をサセプタ3上のザグリ8に載置することにより生じる基板ウエハ4,サセプタ3の温度分布は、基板ウエハ4が大口径化するほど顕著になる。
【0025】次に、本発明のエピタキシャル成長方法に用いられるエピタキシャル成長装置におけるザグリ8形状を明示する。図4は基板ウエハ4温度と基板ウエハ4面内の最大温度差に起因する基板ウエハ4面内の最大せん断応力の関係をザグリ8深さを変えて示したものであり、降伏せん断応力の存在する領域も同図中に示している。同図中に示した二本の降伏せん断応力(それぞれ上限および下限値)で囲まれた領域以上の領域では、基板ウエハ4面内にスリップが多く発生する。同図において、基板ウエハ4の径は6インチであり、ザグリ8外周により全周を単純支持されている。
【0026】また、エピタキシャル成長が行われている状態での結果であり、基板ウエハ4を載置していない領域のサセプタ3表面にはシリコンが付着している。図3と同様に同図からも、基板ウエハ4,サセプタ3間の隙間がより均一である浅いザグリ8の方が、基板ウエハ4面内の温度差が小さくなり、温度差に起因する熱応力も小さくなることがわかる。したがって、6インチの基板ウエハ4がザグリ8により全周支持される場合では、基板ウエハ4面内にスリップが発生しにくいザグリ8深さの範囲は20~130μmとなる。
【0027】前述したように実際のエピタキシャル成長装置においては、ザグリ8外周は完全な平坦ではない。よって、ザグリ8外周での平坦度の精度を上げて基板ウエハ4とザグリ8外周との接触点数を多くすることにより、自重による基板ウエハ4のたわみ量をなるべく小さくする必要がある。そこで、本発明で使用されるエピタキシャル成長装置ではザグリ8外周の平坦度を5~30μmまで精度を上げた。このことにより、基板ウエハ4はザグリ8外周によりほぼ全周を単純支持されると考えることができる。
【0028】以上より、本発明で用いられるエピタキシャル成長装置において6インチの基板ウエハ4をザグリ8上に載置した場合に、基板ウエハ4面内にスリップが発生しにくいザグリ8深さの範囲は20~130μmとなる。
【0029】6インチの基板ウエハ4をザグリ8上に載置した場合と同様な手法で、8,12インチの基板ウエハ4をザグリ8上に載置した場合に基板ウエハ4面内にスリップが発生しにくい最適なザグリ8深さを決定すると、8,12インチ基板ウエハ4に対してそれぞれ、30μmから200μm,40μmから400μmの範囲のザグリ8となり、この範囲のザグリ8であれば基板ウエハ4面内のスリップの発生を低減することが可能となる。
【0030】
【発明の効果】本発明の半導体エピタキシャル成長方法により、6インチ,8インチ,12インチの各基板ウエハに対して、基板ウエハ面内のスリップの発生を抑えることができ、品質の優れたエピタキシャルウエハを高い歩留まりで製作することが可能となる。」
第5 取消理由1(進歩性欠如)について
1 本件発明1について
(1) 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
ア(ア) 「サセプタ上の半導体基板を両面側から加熱しつつ主表面上に反応ガスを供給することで単結晶薄膜を気相成長させる構成になっている枚葉式気相成長装置で用いられる気相成長用サセプタ」である引用発明は、「ウエハに反応ガスを吹き付けて成膜する気相成長装置に用いられ」る「成膜用冶具」といえる点で本件発明1と一致する。
(イ) 「半導体基板Wを載置するための略円盤状のサセプタ10」であり、「サセプタのザグリの側壁は、搬送時等にザグリの外へ基板が出ないようにするためのものである」引用発明は、「ウエハが載置されて搬送手段によって搬送される成膜用冶具」といえる点で本件発明1と一致する。
(ウ) 以上のとおり、引用発明は「ウエハに反応ガスを吹き付けて成膜する気相成長装置に用いられ、前記ウエハが載置されて搬送手段によって搬送される成膜用冶具」といえる点で本件発明1と共通する。
イ(ア) 引用発明の、気相成長用サセプタが有する「凹形状のザグリ11」は、図1,3に示されるように、気相成長用サセプタの上側面に形成され、また、「載置する半導体基板W」は、「底面13の外周領域に、ザグリ11中心に向かって深さが増すようにゆるやかに傾斜したテーパ状の断面形状を含む」ように形成された「基板支持面16」で支持、すなわち保持される。
そうすると、引用発明の気相成長用サセプタが有する「凹形状のザグリ11」は、本件発明1の、成膜用冶具の上側面に形成される「前記ウエハを保持する保持用凹部」に相当する。
(イ) 引用発明の気相成長用サセプタ10のザグリ11を構成する「底面13の外周領域に、ザグリ11中心に向かって深さが増すようにゆるやかに傾斜したテーパ状の断面形状を含む」ように形成され、「載置する半導体基板W」を支持する「基盤支持面16」は、本件発明1の、該保持用凹部内に形成された「前記ウエハの周縁部を支持する支持部」に相当する。
(ウ) 気相成長用サセプタ10のザグリ11を構成する、底面13の外周領域に基板支持面16が形成された引用発明において、「底面13の外周領域に囲まれた中央領域に、基板支持面16よりも深さが深」く「縦断面視U字状に」中央面17が形成された引用発明は、「該支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され、」といえる点で本件発明1と一致する。
(2) 一致点・相違点
上記(1)を踏まえると、本件発明1と引用発明とは次の点で一致し、相違する。
ア 一致点
「ウエハに反応ガスを吹き付けて成膜する気相成長装置に用いられ、前記ウエハが載置されて搬送手段によって搬送される成膜用冶具であって、
上側面に前記ウエハを保持する保持用凹部が形成され、該保持用凹部内に前記ウエハの周縁部を支持する支持部が形成され、該支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成された、
成膜用冶具。」
イ 相違点
本件発明1が、「該支持部の内周縁から中心部に連続して」形成された凹面形状が有する「所定の曲率半径」について、「前記曲率半径は、成膜時の段階において、前記支持部に前記ウエハの周縁部が支持された状態で、前記ウエハにおける周縁部よりも内側に形成されて下方に向けて湾曲した内側部分と、前記保持用凹部の前記所定の曲率半径を有する凹面形状の部分との間が略全面に亘って等しい間隙となるように設定されている」のに対し、引用発明は、底面13の外周領域に囲まれた中央領域に、縦断面視U字状に形成された、基板支持面16よりも深さが深い凹状の中央面17の曲率半径についての特定がない点。
(3) 相違点についての判断
引用発明は、「サセプタ上の半導体基板を両面側から加熱しつつ主表面上に反応ガスを供給することで単結晶薄膜を気相成長させる構成になっている枚葉式気相成長装置で用いられる気相成長用サセプタ」(下線は当審において付加。)であって、サセプタ上の半導体基板は、反応炉18の上方及び下方に配設され、頂壁19及び底壁20を通して反応炉18の内部に向かって輻射を行うハロゲンランプ等の加熱装置26、26’で加熱される。
一方、甲第2号証には、「サセプタ下方に設置されたワークコイルに高周波電流を流すことによりサセプタを高周波誘導加熱し、サセプタ上に載置されている基板ウエハは1000℃以上の高温に加熱される」ディスク型エピタキシャル成長装置に設置される「カーボン製の回転可能なディスク型サセプタ」(段落0003)が記載されている。
そうすると、引用発明と甲第2号証に記載された事項とは、いずれも、気相成長装置において半導体基板(ウエハ)を載置するサセプタに関する点で共通するが、サセプタに載置された半導体基板(ウエハ)の加熱方法は異なる。
そして、甲第2号証には、「基板ウエハはサセプタから熱を受け取り、基板ウエハ表面からベルジャへ放熱することにより基板ウエハ表裏間には温度差が生じ、そのため基板ウエハ上面が凹となるように反る」(段落0004)こと、及び「1000℃以上の高温下で成膜が行われるために基板ウエハ4の表裏間に生じる温度差による変形」(段落0016)に起因する問題点に対して、「基板ウエハ4,サセプタ3間の隙間がより均一である浅いザグリ8の方が基板ウエハ4面内の温度分布が均一になり、その結果スリップの発生も少なくなる。」(段落0024)との記載があるが、半導体基板を上方及び下方の両面側から加熱する引用発明の半導体基板(ウエハ)には、甲第2号証に記載されたような表裏間の温度差は生じない。
そうすると、引用発明のザグリの形状として、サセプタ自体を高周波誘導加熱することを前提とする甲第2号証に記載された事項を採用する動機付けがあるとはいえず、甲第2号証に記載された事項に基づいて相違点に係る本件発明1の構成を容易想到ということはできない。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。
(4) 申立人の主張について
申立人は本件発明1について、次の取消理由1を主張した。
「(ウ) 相違点の検討
以上のとおり、本件特許発明1及び甲1発明を対比すると、甲1発明には、半導体基板の裏面とザグリの中央面との間が略全面に亘って等しい間隙となるように設定されるとの記載がないという相違点がある。
しかしながら、甲第2号証には、「一方、ザグリ8が深い場合では、ザグリ8と基板ウエハ4間の隙間が比較的大きいために両者間の熱抵抗が大きくなり、その結果基板ウエハ4、ザグリ8間の温度差が大きくなる。よって、基板ウエハ面内温度分布が大きくなり、スリップが生じ易くなる。つまり、基板ウエハ4、サセプタ3間の隙間がより均一である浅いザグリ8の方が基板ウエハ4面内の温度分布が均一になり、その結果スリップの発生も少なくなる。尚、基板ウエハ4をサセプタ3上のザグリ8に載置することにより生じる基板ウエハ4、サセプタ3の温度分布は、基板ウエハ4が大口径化するほど顕著になる。」(段落0024)とあり、気相成長中のスリップの発生を防止するためには、基板ウエハとサセプタ間の隙間を均ーにしたほうがよいことが記載されている。
甲第2号証に記載の、基板ウエハとサセプタ間の隙間を均一にする点は、構成要件1Cの「前記ウエハにおける周縁部よりも内側に形成されて下方に向けて湾曲した内側部分と、前記保持用凹部の前記所定の曲率半径を有する凹面形状の部分との間が略全面に亘って等しい間隙」に対応する。したがって、甲2には、相違点に係る構成が開示されている。
(エ) 甲1発明及び甲2発明の組み合わせは容易であること
甲1発明の気相成長用のサセプタ及び甲第2号証に記載のサセプタは、いずれも、気相成長装置において半導体基板(ウエハ)を載置するサセプタに関する発明である点で、技術分野が共通する(甲第1号証の段落0001、甲第2号証の段落の0001)。
また、甲第1号証には、「また、図1、2、4、8に示すように、底面13の外周領域に、ザグリ11中心に向かって深さが増すようにゆるやかに傾斜したテーパ状の断面形状を含む基板支持面16が形成され、底面13の外周領域に囲まれた中央領域に、基板支持面16よりも深さが深い凹状の中央面17が形成されたものであることが好ましい。これにより、気相成長中のスリップ転位や半導体基板Wの裏面のキズの発生も防止して、基板Wの割れをより低減することができるサセプタ10となる。」(甲第1号証、段落0032)とあり、基板支持面よりも深さが深い凹状の中央面が形成されたほうが望ましく、その場合、気相成長中のスリップ転位や半導体基板の裏面のキズの発生も防止できることが記載されている。
甲第2号証には、「本発明で用いられるエピタキシャル成長装置では、・・・サセプタ3上には基板ウエハ4を載置する。この際、基板ウエハ4の自重による変形と、1000℃以上の高温下で成膜が行われるために基板ウエハ4の表裏間に生じる温度差による変形のために、基板ウエハ4は上面が凹となるように大きく反る。」(甲第2号証、段落0016)とあり、エピタキシャル成長、すなわち気相成長時に基板ウエハの上面は凹となるように大きく反るという問題点を適示したうえで、「一方、ザグリ8が深い場合では、ザグリ8と基板ウエハ4間の隙間が比較的大きいために両者間の熱抵抗が大きくなり、その結果基板ウエハ4、ザグリ8間の温度差が大きくなる。よって、基板ウエハ面内温度分布が大きくなり、スリップが生じ易くなる。つまり、基板ウエハ4、サセプタ3間の隙間がより均一である浅いザグリ8の方が基板ウエハ4面内の温度分布が均一になり、その結果スリップの発生も少なくなる。」(甲第2号証、段落0024)とあり、気相成長時に生じるスリップを防止する観点で、基板ウエハとサセプタ間の隙間を均一にすることが記載されている。
したがって、甲1発明の気相成長用のサセプタ及び甲第2号証に記載のサセプタは、いずれも、気相成長時に生じるスリップを防止するという点で課題が共通する。
以上の甲1発明及び甲第2号証の記載に照らすと、甲1発明に甲第2号証に記載されている事項を組み合わせる動機付けが存在し、当業者にとって、甲1発明にかかる気相成長用サセプタにおいて、そのザグリの中央面の曲率半径を、半導体基板の裏面とザグリの中央面の隙間が均一になるように調整したものとすることに想到することは容易である。
(オ) 顕著な効果を奏しないこと
本件特許発明1は、ウエハのスクラッチの発生を未然に防止し、ウエハの研磨加工を極力低減することを課題とし(本件明細書、段落0010)、当該課題解決のために、「前記曲率半径は、成膜時の段階において、前記支持部に前記ウエハの周縁部が支持された状態で、前記保持用凹部の前記所定の曲率半径を有する凹面形状の部分との間が略全面に亘って等しい間隙となるように設定」している。
一方、甲第2号証には、上記「3(4)ウ(ウ)」のとおり、基板ウエハとサセプタ間の隙間を均一にする目的は、気相成長時に生じるスリップを防止する観点であることが記載されている(甲第2号証、段落0024)。
したがって、本件特許発明1において「前記曲率半径は、成膜時の段階において、前記支持部に前記ウエハの周縁部が支持された状態で、前記ウエハにおける周縁部よりも内側に形成されて下方に向けて湾曲した内側部分と、前記保持用凹部の前記所定の曲率半径を有する凹面形状の部分との間が略全面に亘って等しい間隙となるように設定」する効果は、出願時の技術水準から当業者が予測することができたものに過ぎず、顕著な効果を奏するものということはできない。
(カ) 小括
以上により、本件特許発明1は、甲1発明及び甲第2号証の記載に基づいて、その出願前にその発明の属する技術分野における当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明1にかかる特許は特許法第29条第2項に該当し、同法第113条第2号により取消されるべきものである。」(特許異議申立書17ページ8行~20ページ9行、下線は異議申立書の記載のとおり。)
しかしながら、上記(3)のとおり、引用発明のザグリの形状として、サセプタ自体を高周波誘導加熱することを前提とする甲第2号証に記載された事項を採用する動機付けがあるとはいえず、甲第2号証に記載された事項に基づいて相違点に係る本件発明1の構成を容易想到ということはできない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(5) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の全ての構成を有するものであるから、上記1で検討したのと同様の理由により、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 まとめ
したがって、本件発明1、2についての取消理由は理由がない。
第6 取消理由2(実施可能要件違反)
1 申立人の主張
申立人は取消理由2として次の主張をした。
「オ 実施可能要件違反(取消理由2)
本件特許発明1~6のいずれにも「前記曲率半径は、成膜時の段階において、前記支持部に前記ウエハの周縁部が支持された状態で、前記ウエハにおける周縁部よりも内側に形成されて下方に向けて湾曲した内側部分と、前記保持用凹部の前記所定の曲率半径を有する凹面形状の部分との間が略全面に亘って等しい間隙となるように設定され」との構成要件が規定されている。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明の記載にはどのようにして作製するのか具体的な記載はなく、当業者であっても実施することは困難である。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号に違反し、同法第113条第4号の取消理由を有する。」(特許異議申立書21ページ16行~22ページ3行、下線は特許異議申立書の記載のとおり。)
2 当審の判断
本件明細書の段落0035には「この支持部23の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成されている。すなわち、支持部23の内周側は、SR(球面)加工が施されている。上記曲率半径は、支持部23にウエハ2の周縁部が支持された状態で、ウエハ2における周縁部よりも内周側に形成されて下方に向けて湾曲した内側部分と、保持用凹部22の所定の曲率半径を有する凹面形状の部分との間が略全面に亘って等しい間隙Gとなるように設定されている。この間隙Gは、ウエハ2の周縁部が支持された状態で、本実施形態では保持用凹部22の底面部中央において約1.0mmになるように設定されている。」との記載がある。
そうすると、支持部23の内周側に「SR(球面)加工」を施すことによって、所定の曲率半径の凹面形状を形成し得ることは明らかであるから、本件発明1~6の「前記曲率半径は、成膜時の段階において、前記支持部に前記ウエハの周縁部が支持された状態で、前記ウエハにおける周縁部よりも内側に形成されて下方に向けて湾曲した内側部分と、前記保持用凹部の前記所定の曲率半径を有する凹面形状の部分との間が略全面に亘って等しい間隙となるように設定され」との構成は、当業者であれば作製できるといえる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、取消理由2は理由がない。
第7 取消理由3(新規事項の追加)
1 申立人の主張
申立人は取消理由3として次の主張をした。
「カ 新規事項の追加(取消理由3)
本件特許発明1~6のいずれにも「該支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され、」が規定されている。
この構成は、令和4年1月5日起案日の拒絶理由通知に対する応答として、令和4年2月8日提出日の手続補正書(甲第3号証)によって追加された。出願人は、令和4年2月8日提出日の意見書(甲第4号証)において、「また、上記請求項1、6の補正において、「支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され、」の下線部は、出願当初の明細書段落番号[0035]、[0050]の記載及び図面2~図面4等に基いています。」(甲第4号証、4頁下19~下17行)と主張しているが、出願当初の本件明細書の段落0035及び段落0050には支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成されていることを示す記載は存在しない。現在の本件明細書の段落0035及び段落0050には「支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され、」に対応する記載は存在するが、これらは令和4年2月8日提出日の手続補正書(甲第3号証)によって補正により追加されたに過ぎない。
図面2~図面4を見ても、各図面の細部が不鮮明であるため、「支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され、」ているということも言えない。
さらに、出願人は、令和4年2月8日提出日の手続補正書(甲第3号証)によって、本件明細書の段落0017に「また、請求項1に記載の発明によれば、ウエハの周縁部を支持する支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され、この曲率半径は、成膜時の段階において、支持部にウエハの周縁部が支持された状態で、ウエハの周縁部よりも内側の下方に向けて湾曲した内側部分と、ウエハを保持する保持用凹部の所定の曲率半径を有する凹面形状の部分との間が略全面に亘って等しい間隙となるように設定されていることから、成膜時に、ウエハ全体の温度分布が一定となり、ウエハに薄膜を均一に形成することができる。」との記載も追加した。
かかる補正により、「支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され、」との構成によって、成膜時に、ウエハ全体の温度分布が一定となり、ウエハに薄膜を均一に形成することができるとの作用効果が新たに生じることまでが追加された。この効果は、出願時には一切記載がなく、「支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され、」との構成によって新たに得ることができる効果であることを裏付けている。
このように、「支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され、」との構成の追加は、成膜時に、ウエハ全体の温度分布が一定となり、ウエハに薄膜を均一に形成することができるという効果を新たに生じさせるものである以上、新たな技術的事項を追加するものというほかない。
したがって、令和4年2月8日提出日の手続補正書(甲第3号証)において、本件特許発明1~6に「該支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され、」との構成を追加した補正は、新規事項の追加に該当し、特許法17条の2第3項に違反し、同法第113条第1号の取消理由を有する。」(特許異議申立書22ページ4行~23ページ22行、下線は特許異議申立書の記載のとおり)
2 当審の判断
(1) 請求項の補正について
ア 請求項1、6、及び請求項1を引用する請求項2、4、5に対する補正について
本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の段落0035には「この支持部23の内周側が所定の曲率半径を有する凹面形状に形成されている。すなわち、支持部23の内周側は、SR(球面)加工が施されている。」との記載がある。
そして、当初明細書等の「ウエハトレイ20の上側面中央には、ウエハ2を保持するための円形の保持用凹部22が形成されている。」(段落0034)、「支持部23は、保持用凹部22の周縁から内周側に6mmの範囲に傾斜して形成され」(段落0035)との記載を踏まえれば、支持部23における「所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され」た部分は「内周縁」ということができる。
また、「SR(球面)加工」は、上記「内周縁」から、最も深く加工される部分である中心部に連続する所定の曲率半径を有する凹面形状を形成する加工であるといえる。
そうすると、当初明細書等において、円形の保持用凹部22の「所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され」た部分は、支持部23の内周縁から中心部に連続したものといえる。
したがって、令和4年2月8日に提出された手続補正書による請求項1、6、及び請求項1を引用する請求項2、4、5に対する「該支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され、」との補正事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、請求項1、6、及び請求項1を引用する請求項2、4、5に対する補正ついての取消理由3は理由がない。
イ 請求項3、及び請求項3を引用する請求項4、5に対する補正について
申立人は、請求項3、及び請求項3を引用する請求項4、5に対する補正についても取消理由3を主張している。
しかしながら、請求項3に対しては、申立人が主張する「該支持部の内周縁から中心部に連続して所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され、」との補正はされておらず、当初明細書等の段落0050の記載に対応する「該支持部の内側が所定の曲率半径を有する凹面形状に形成され」と補正がされている。
そうすると、請求項3に対する補正事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、請求項3、及び請求項3を引用する請求項4、5に対する補正ついての取消理由3は理由がない。
(2) 明細書の補正について
当初明細書等には、「加えて、保持用凹部22の凹面形状は、ウエハ2の反りに合せた形状であるため、ウエハ2の温度むらも少なくなる。」(段落0048)と記載されている。
そして、気相成長装置において、ウエハの温度むらが成膜むらの原因となることが技術常識であることを踏まえると、令和4年2月8日に提出された手続補正書による段落0017についての「成膜時に、ウエハ全体の温度分布が一定となり、ウエハに薄膜を均一に形成することができる。」との作用効果についても、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
(3) 小括
以上のとおり、令和4年2月8日に提出された手続補正書による補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではないから、取消理由3は理由がない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700842