商標取消審判
2022-300563
カガヒャクマンゴクミソ、カガヒャクマンゴク、ヒャクマンゴク、カガミソ
- 審判番号
- 2022-300563
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 取消審判(商標取消の審決)
- 出願番号
- 商願2010-024828
- 登録番号
- 5379272
- 請求日
- 2022年06月20日
- 審決日
- 2025年05月08日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【請求人】石川県味噌工業協同組合
- 【被請求人】株式会社 ベストワン
- 【被請求人代理人】伊藤 捷雄
- 審判長/審判官
- 審判長 高野 和行
- 審判官 豊瀬 京太郎
- 審判官 板谷 玲子
- 分類
- T131 .1 -Z (X30)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法50条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第2条第3項第8号、商標法第2条第3項、商標法第2条第3項第1号、商標法第50条第1項、商標法第50条第2項、商標法第2条第3項第2号、商標法第2条、商標法第50条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第5379272号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
登録第5379272号商標の商標登録を取り消す。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第5379272号商標(以下「本件商標」という。)は、「加賀百万石味噌」の文字を標準文字で表してなり(「噌」の文字は、口偏に「曽」。(別掲))、平成22年3月30日に登録出願、第30類「石川県産のみそ」を指定商品として、同年12月24日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
そして、本件審判の請求の登録日は、令和4年7月8日であり、商標法第50条第2項に規定する「審判の請求の登録前3年以内」とは、令和元年(2019年)7月8日から令和4年(2022年)7月7日までの期間(以下「要証期間」という。)である。
第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品(以下「請求に係る商品」という。)について、継続して3年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
請求に係る商品に対して本件商標が使用された事実はない。
なお、乙第4号証から乙第10号証で示された交渉過程について、請求人の組合員である株式会社ヤマト醤油味噌(以下「ヤマト醤油味噌社」という。)担当者に確認した結果、本商談について交渉は不成立となっており、出荷の事実はない。
第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第10号証(枝番号を含む。なお、枝番号を有する証拠において、枝番号のすべてを引用する場合は、枝番号の記載を省略する。)を提出した。
1 被請求人は、「株式会社山愛フーズ」(以下「山愛フーズ社」という。)に令和3年1月5日付けで、本件商標の指定商品である第30類「石川県産のみそ」について範囲全部の使用権を許諾をした(乙1)。山愛フーズ社は、本件商標の権利者(以下「本件商標権者」という。)の親会社ともいうべき関連会社であり、本件商標権者と同じ所在地にその本社を置くと共に、その財務管理執行役員は、本件商標権者の代表取締役を兼ねている(乙2)。
2 本件商標権者と、本件商標の使用許諾を受けた山愛フーズ社とは、両者ともみその製造工場を持たないため、本件商標を用いて石川県産のみそを製造している会社(ヤマト醤油味噌社(乙4))を見つけ出し、提携交渉を開始した。
3 ヤマト醤油味噌社は、石川県金沢市に所在し、石川県味噌工業組合の組合員であると共に、石川県内に醤油とみその製造工場を持つ会社であり、さらに創業西暦1911年という古い歴史のある会社である。本件商標の使用権者である山愛フーズ社は、ヤマト醤油味噌社との間の本件商標を付した味噌の、令和3年1月30日から同年5月1日までの間(すなわち要証期間内)の製造委託交渉の中で、本件商標を、請求に係る商品に使用していることは明らかである(乙4~乙10)。
4 商標法第50条第1項に規定された使用には、同法第2条第3項第8号に規定されており、本件ケースのような使用も含まれる。また、そのことは判決においても支持されている(知財高裁平成29年(行ケ)第10118号事件・知財高裁平成20年(行ケ)第10224号事件)。
5 よって、本件商標は不使用とはいえない。
第4 審尋
当審より被請求人に対し、令和6年3月8日付けで審尋を行い、回答を求めた。その要旨は、以下のとおりである。
1 答弁書及び乙第1号証ないし乙第10号証によっては、(1)各書面(乙4~乙10)は、作成者が不明であり、商標の使用者を把握することができず、また、いつ、どこで、誰に対して展示又は頒布等されたのかも明らかではない上、会社の内部資料にすぎないものとみられるから、第三者(取引者、需要者)に対して展示又は頒布等されたとは推測し難いものであり、商標の使用行為を把握することができないこと、(2)製造委託交渉の中で、本件商標をその指定商品に使用している(乙4~乙10)旨主張しているが、具体的にどのような標章を付し、いつ、どのような使用行為を行っているのかが明らかでないこと、(3)みその製造会社との提携交渉を開始したところであり、本件商標を付した商品「石川県産のみそ」は存在しないものとみられるところ、当該商品の製造を委託するための交渉先と交わしたやりとりや、製造者欄に当該交渉先の記載がある商品ラベルのデザイン案(乙5、乙9、ほか)は、業として商品を生産等する者がその商品について使用(商標法第2条第3項各号)をするものとは認められないことから、本件商標を使用したことを証明したものと認めることができない。
2 前記1及び審判事件弁駁書に対する意見、又は本件商標の使用をしていることについての更なる証明があれば、主張、立証されたい。
第5 審尋に対する被請求人からの回答
被請求人は、前記第4の審尋に対して、令和6年4月12日付け回答書を提出し、要旨次のように述べた。
1 乙第9号証に係るヤマト醤油味噌社の担当者から山愛フーズ社の取締役商品本部執行役員にあてた2021年4月15日付けの味噌の見積書の商品名の欄に「加賀百万石味噌」という記載と、「加賀百万石味噌」と記されたラベルが記載されており、作成者と使用者と作成日付が明確な証拠資料が存在している。なお、「味噌」の文字は、若干変形されているが、一般社会通念上「みそ」と称呼されるものである。
2 乙第4号証ないし乙第8号証の作成者は、乙第2号証の1と乙第9号証からして、山愛フーズ社の取締役商品本部執行役員であることは明らかであり、仮に内部資料としても、石川県内の各味噌のメーカーに対し、乙第4号証ないし乙第8号証に記載された日付(令和3年1月30日から4月3日)以前に「加賀百万石」と記載されたラベルを用いて本件商標の使用交渉をしていることは明らかである。
その結果が乙第9号証となっていることも明らかである。
商標法第2条第3項には、その第8号において標章の使用形態について「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」と規定している。そうすると、乙第4号証から乙第9号証に記載されている事実は、商標法第2条第3項第8号でいう標章の使用に当たる。
3 乙第4号証から乙第8号証においては、本件商標の使用権者である山愛フーズ社が乙第4号証から乙第8号証に記載された石川県下の味噌のメーカー4社に対して、そこに記載されている日付(いずれも令和3年1月から4月)以前に、本件商標の文字を記載したラベルを示し、その使用交渉をしていることは明らかである。
4 石川県の味噌の製造業者であるヤマト醤油味噌社が、本件商標の使用権者である山愛フーズ社にあてて出したその取引書類の一種である見積書(乙9)において、「加賀百万石味噌」と記したラベルを表示する行為は、その時点で石川県産の味噌が存在する以上、まさに商標法第2条第3項第8号でいう「商品味噌に関する取引書類に標章を付して頒布した行為」に当たり、標章の使用に当たるものと認められるべきである。見積書を提出した後に提携交渉又は製造委託交渉がたとえ成立しなくとも、標章の使用に該当することは明らかである。
5 審判事件弁駁書には、反論すべき内容は見当たらない。
第6 当審の判断
1 商標の使用について
商標法は、第50条において、「その審判の請求の登録前3年以内」に「日本国内」において「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者」のいずれかが「その請求に係る指定商品」のいずれかについての登録商標の「使用」をしていることを被請求人(商標権者)が証明しない限り、当該指定商品について当該商標の登録が取り消されると定め、また、第2条において、商標とは「業として」使用するものであり、その「使用」とは、同条第3項各号に列記されているものに限ることを定めている。
したがって、本件において、商標権者である被請求人は、本件商標が、その審判の請求の登録前3年以内に、日本国内において商標権者又は使用権者によって、その指定商品について、業務に係る標章として同条第3項各号に掲げる行為をもって使用されていたことを立証することを要するものである。
2 被請求人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
(1)「商標使用許諾書」と題する本件商標権者から「株式会社山愛フーズ」(同社の住所の記載はない)宛ての令和3年1月5日付けの書面(乙1)には、「今般、弊社が所有する下記登録商標を貴社に範囲全部について使用許諾いたしましたことに相違ありません。」の記載と共に、「記」以下に、本件商標の登録番号、登録日及び登録商標「加賀百万石味噌」の記載並びに「使用を許諾した商品」として「石川県産のみそ」の記載がある。
また、本件商標権者の代表取締役と山愛フーズ社の取締役財務管理執行役員の氏名は一致する(乙2の1、乙2の2)。
(2)ヤマト醤油味噌社は、石川県金沢市に所在し、醤油及びみそ等の製造を行う会社である(乙3)。
(3)ア 乙第4号証ないし乙第8号証は、「商品本部」と表示された書面であり、それぞれ、令和3年1月30日付け(乙4(1葉目~3葉目))、同年2月6日付け(乙4(4葉目~6葉目))、同月13日付け(乙4(7葉目~9葉目))、同月20日付け(乙5(1葉目~3葉目))、同月27日付け(乙5(4葉目~))、同年3月13日付け(乙6)、同月27日付け(乙7)、同年4月3日付け(乙8(1葉目~4葉目))、及び同月10日付け(乙8(5葉目~))で作成された「2021年春夏期商品開発」に関する週毎の進捗報告であることが認められる。また、乙第10号証は、「商品本部」と表示された書面であり、令和3年5月1日付けで作成された「2022年春夏新規導入強化品目」に関する同年1月18日ないし同年2月20日及び同年2月28日ないし同年4月24日の週毎の進捗報告であることが認められる。ここにおいて、例えば乙第5号証(6葉目~10葉目)は、令和3年2月26日及び同月27日現在の商品ラベルのデザイン案等と見うけられ、また、乙第9号証の2葉目以下には、乙第10号証と同様の書面がある。
上記各書面(乙4~乙8、乙10)からは、その作成者が必ずしも明らかでないものの、当該書面の記載内容に後述の見積書(乙9(1葉目)、ほか)、商標使用許諾(乙1)及び山愛フーズ社の会社概要(乙2の1)の記載内容を合わせみれば、当該各書面の作成者は、山愛フーズ社の商品本部であることが推認される。
イ 「2021年春夏期商品開発」及び「2022年春夏新規導入強化品目」と題する書面(乙4~乙8、乙9(2葉目~)、乙10)(以下「本件報告書」という。)の作成者を山愛フーズ社と推認しても、上記各書面がいつ、どこで、誰に対して展示又は頒布等されたのかについて明らかにする証拠の提出はない。
また、本件報告書には、例えば、「・・・進捗報告」の記載(乙4の1葉目における「【3週目】※1/23~1/30迄の進捗報告」をはじめとする同様の記載)、「・・・下記のメーカーへ商売の打診を行います。商売を行うのは、1社に絞ります。」の記載(乙4の2葉目、ほか)などの記載があり、その記載内容からすれば、当該書面は山愛フーズ社の内部資料にすぎないものとみられ、そもそも、内部資料であればその性質上、第三者(取引者、需要者)に対して展示又は頒布等されたとは推測し難いものであり、商標の使用行為を把握することができない。
ウ 本件報告書に示された商品ラベルのデザイン案(乙5、乙9、ほか)は、その記載内容に変遷があるものの、いずれにも縦書きで書された「加賀百万石味噌」(「噌」の文字は、口偏に「曽」。以下、ラベルデザイン案の標章において同じ。)があり、名称として米みそ、製造者としてヤマト醤油味噌社の記載がある。
エ 本件商標権者と山愛フーズ社のいずれも、みその製造工場を持たず(被請求人の主張)、山愛フーズ社がヤマト醤油味噌社を含むみその製造会社4社との提携交渉を開始したところである上(乙4~乙10)、「※4/11~4/17迄の進捗報告」として「この件に関しては、一旦白紙にすると、方向性が出ている状況。」、「※4/18~4/24迄の進捗報告」として「先週で、保留中。」及び「以降、新規保留」の記載があること(乙9、乙10)からすれば、標章「加賀百万石味噌」を付した商品「石川県産のみそ」(以下「本件商品」という。)の製造委託交渉については、2021年(令和3年)4月頃には中断していたものと推認できる。
(4)ア ヤマト醤油味噌社から山愛フーズ社に宛てた2021年(令和3年)4月8日及び同月15日を見積日とする「御見積書」(乙8(9葉目)、乙9(1葉目)、)(以下「本件見積書」という。)には、「分類」欄に「みそ」、「商品名」欄に「(仮)天然醸造 加賀百万石味噌」、「賞味期限」欄に「常温6ケ月」等の各記載がある。
本件見積書において、「小売価格」欄には「(未設定)」と記載され、また、「備考」欄には「スタート時の製造分につきましてはご相談の上、対応させて頂きます。デザインデータは貴社からの支給となります。」と記載され、さらに、「・上記の単価はラベル代、初回版代を含みます。」、「・ラベルの発注は貴社のご了承を頂いた上で、弊社が印刷会社に発注致します。」、「・PB商品につきご発注後のキャンセルは不可となります。」等の記載がある。これに加え、本件報告書に示されたラベル案と同様のラベルデザインが表示されている。
そして、本件見積書における見積りの有効期限として、「本日より30日有効」と記載されている。
イ 前記アからすれば、本件見積書における商品は、商品名が暫時決められた仮のものであること、小売価格が未設定であること、ラベルが未発注であることが認められ、本件見積書に対応する商品の発注、納入は行われなかったものと推認できる。
(5)前記(3)及び(4)からすれば、本件商品(標章「加賀百万石味噌」を付した商品「石川県産のみそ」)は、新商品として企画されていたものの製造に至らなかったといえ、その他の証拠及び被請求人の主張によっても、本件商品が実際に製造されていたとはいえないから、本件商品は存在しなかったものである。
3 前記2において認定した事実によれば、以下のとおり判断できる。
(1)使用者について
前記2(1)の認定事実からすれば、山愛フーズ社は、本件商標の通常使用権者であると推認することができる。
(2)使用行為について
ア 前記2(2)ないし(4)の認定事実からすれば、要証期間内である令和3年1月頃から同年5月頃までの間、本件商標の通常使用権者と認められる山愛フーズ社が、本件商品を企画し、その製造を石川県所在のヤマト醤油味噌社に委託すべく交渉し、商品開発を進めていたことが認められ、上記交渉の過程でヤマト醤油味噌社に「加賀百万石味噌」の文字を縦書きで表示した本件商品のラベルのデザイン案を提示していたことが推認されるものの、前記2(5)のとおり、本件商品は、製造に至らず、存在しなかったものと認められる。この点につき被請求人は、製造委託交渉が成立した旨の主張又は証拠の提出は行っていない。
そうすると、たとえ山愛フーズ社が本件商標の使用を計画していた「石川県産のみそ」が、請求に係る商品に含まれるものであったとしても、業として商品を生産等する者がその商品について使用(商標法第2条第3項各号)をするものとは認められない。
イ 商標法第2条第3項各号所定の使用についてさらに具体的に検討すると、以下のとおりである(参考:知的財産高等裁判所平成22年12月15日判決(平成22年(行ケ)第10012号))。
(ア)商標法第2条第3項第1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」とは、同号に並列して掲げられている「商品に標章を付する行為」と同視できる態様のもの、すなわち、指定商品を現実に包装したものに標章を付し又は標章を付した包装用紙等で指定商品を現実に包装するなどの行為をいい、指定商品を包装していない単なる包装紙等に標章を付する行為又は単に標章の電子データを作成若しくは保持する行為は、商標法第2条第3項第1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」に当たらないものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、前記認定のとおり、通常使用権者(山愛フーズ社)は、本件審判の請求の登録日以前から、本件商品を販売するため製造会社(ヤマト醤油味噌社)との交渉を進めていたところ、本件報告書や本件見積書に表示された本件商品のラベルのデザインは、あくまでラベルデザイン案にすぎない。したがって、通常使用権者がこれを保持していたからといって、これをもって商標法第2条第3項第1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」ということはできない。むしろ、前記認定のとおり、本件商品は、製造に至らなかったものであるから、当該ラベルデザインを用いた本件商品の包装容器で本件商品を包装することは、不可能である。
したがって、被請求人は、本件商標について、要証期間に我が国において商標法第2条第3項第1号所定の「商品又は商品の包装に標章を付する行為」がされた事実を証明していないというほかない。
(イ)本件商品が存在したことがない以上、商標法第2条第3項第2号所定の「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し・・・する行為」がされた事実を証明することは不可能である。
(ウ)商標法第2条第3項第8号所定の標章を付した広告等の「頒布」とは、同号に並列して掲げられている「展示」及び「電磁的方法により提供する行為」と同視できる態様のもの、すなわち、標章を付した広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に置かれることをいい、標章を付した広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に置かれていない場合には、商標法第2条第3項第8号所定の標章を付した広告の「頒布」に当たらないものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、前記2(3)イの認定のとおり、本件報告書は内部資料であると認められ、その性質上、第三者(取引者、需要者)に対して展示又は頒布等されたとは推測し難いものであり、もとより、一般公衆による閲覧可能な状態に置かれたともいえない。
また、本件見積書の作成者はヤマト醤油味噌社であるから、たとえ「加賀百万石味噌」と記載した商品ラベルのデザインが表示されていたとしても、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが使用したものとはいえない。加えて、ヤマト醤油味噌社が本件商標の使用権者であると認められる主張、立証はない。
その他、本件商品の企画、製造委託交渉の過程で、本件商標権者又は通常使用権者(山愛フーズ社)が、第三者(取引者、需要者)に対して本件商品に関する広告、価格表又は取引書類に本件商標を付して展示等したことも確認できない。
したがって、被請求人は、本件商標について、要証期間に我が国において商標法第2条第3項第8号所定の「商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し・・・する行為」がされた事実を証明していないといえる。
(3)小括
以上によれば、請求に係る商品について、本件商標が要証期間内に、日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかによって使用されていたことを認めることはできない。
その他、被請求人の提出した全証拠及び同人の主張を総合して見ても、要証期間に、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかによって請求に係る商品に本件商標が使用されたことが証明されたとは認めることはできない。
4 被請求人の主張について
(1)被請求人は、仮に内部資料であるとしても、味噌メーカーに対し「加賀百万石」と記載されたラベルを用いて本件商標の使用交渉をしていることは明らかであり、乙第4号証ないし乙第9号証の事実は、商標法第2条第3項第8号にいう商標の使用に当たる旨主張する。
確かに、乙第4号証ないし乙第8号証に乙第9号証を合わせみれば、少なくともヤマト醤油味噌社に乙第4号証ないし乙第8号証に示されたラベル案と同様のラベルデザインを提示して本件商品の製造委託交渉が進められていたことは推認できる。
しかしながら、前記3(2)のとおり、たとえ山愛フーズ社が交渉の過程でヤマト醤油味噌社に「加賀百万石味噌」の文字を表示した本件商品のラベルのデザイン案を提示していたとしても、本件商品は、製造に至らず、存在しなかったことからすれば、業として商品を生産等する者がその商品について使用をするものとは認められず、商標法第2条第3項第8号にいう標章の使用に当たるとは認められない。
(2)被請求人は、味噌の製造業者であるヤマト醤油味噌社が、本件商標の使用権者である山愛フーズ社にあてて出したその取引書類の一種である見積書(乙9)において、「加賀百万石味噌」と記したラベルを表示する行為は、その時点で石川県産の味噌が存在する以上、商標法第2条第3項第8号でいう「商品味噌に関する取引書類に標章を付して頒布した行為」に当たり、標章の使用に当たるものと認められるべきであり、見積書を提出した後に提携交渉又は製造委託交渉がたとえ成立しなくとも、標章の使用に該当することは明らかである旨主張する。
しかしながら、前記2(4)及び前記3(2)のとおり、本件見積書の作成者はヤマト醤油味噌社であるから、たとえそこに「加賀百万石味噌」と記載した商品ラベルのデザインが表示されていたとしても、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが使用したものとはいえず、ヤマト醤油味噌社が本件商標の使用権者であると認められる主張、立証もない。
また、提携交渉又は製造委託交渉が成立しなかったのであれば、本件商標を付した商品「石川県産のみそ」は存在しないことになるのであるから、本件見積書を取引書類の一種と捉えたとしても、その内容は、事業として行われていない開発中の商品に関するものにすぎない。そうすると、商標法第2条に照らせば、本件見積書における「加賀百万石味噌」と記したラベルの表示は、業として生産等されている商品について使用されているものではないから、そこに標章「加賀百万石味噌」が表示されているとしても、これを商標としての使用と解することはできない。
なお、被請求人のいう「その時点で石川県産の味噌が存在する以上、(・・・標章の使用に当たるものと認められるべき)」との主張の趣旨は判然としないものの、本件審判において被請求人が立証すべきは、請求に係る商品について本件商標を使用していることであるから、本件商標との具体的関係がなく一般に石川県産の味噌が存在するとしても、そのことをもって本件商標の使用が認められるものではなく、換言すれば、本件商標を使用した石川県産の味噌が存在することを要するものである。
(3)被請求人は、判決を示しつつ、本件のようなケースも商標法第2条第3項第8号の使用に含まれる旨主張する。
しかしながら、当該判決における事例は、当該登録商標と社会通念上同一の商標が記載された広告の役務を提供することを広告するチラシが3,000部作成され、頒布されたものであって、商標権者は当該チラシを見た者から広告依頼などがあれば業として広告の役務を提供する意思であったと認められるものであったこと、又は、請求に係る指定役務の範疇に属する業務を行っていた商標権者が、その業務の遂行の過程において当該登録商標と社会通念上同一の商標が記載された名刺及び封筒を使用したことが推認できたことにより、当該登録商標の使用が認められたものと解されるから、本件商品の製造に至らず通常使用権者等がその業務として本件商品の譲渡等を行うことが不可能であり広告を行ったことも認められない本件とは、事案を異にするものとみるのが相当であって、本件に係る前記判断を左右するものではない。
(4)以上のとおり、被請求人の主張は、いずれも採用することができない。
5 まとめ
以上のとおり、被請求人は、要証期間内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが請求に係る商品のいずれかについての本件商標の使用をしていることを証明したとはいえない。
また、当該使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしたともいえない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-300563